2017年5月28日日曜日

【世界ミニナビ】韓国でまもなく“徳政令”…借金帳消しは経済崩壊の序曲か―【私の論評】金融緩和、積極財政に思いが至らない韓国の悲劇(゚д゚)!


説文在寅大統領が23日午後、慶尚南道金海市進永邑烽下村で開かれた故盧武鉉
元大統領8周忌追悼式に参席し発言している。写真はブログ管理人挿入。以下同じ
 韓国で新大統領・文在寅(ムン・ジェイン)氏の選挙公約が実現に向け動き出した。そのひとつが借金棒引きの“徳政令” だ。100万円以下の借金を10年以上借り続ける人々を対象に、その借金と利息の全額を帳消しにするというもの。対象は43万7000人とされ、実現は簡単ではないが、実現した後にもいばらの道が待っていそうだ。(岡田敏彦)

   猶予から帳消しへ

 借金の全額帳消し計画を伝えたのは韓国紙・東亜日報(電子版)。現在、韓国には「国民幸せ基金」というものがある。かつての李明博(イ・ミョンバク)元大統領と朴槿恵(パク・クネ)前大統領の政権下で計画、実施されたもので、国民約280万人の債権を買い入れ、うち57万人の約6兆3000億ウォン(約6300億円)の元金と利子を減免するなど債務を調整する役割を担ってきた。

 平たく説明すれば、収入に対して支出が大きすぎ、恒常的に借金返済に追われる庶民を助けようという趣旨でできたシステムだ。

 しかし、新たに大統領になった文氏は、この救済策を上回る「全額帳消し」を公約として大統領選に当選した。10年以上にわたって1000万ウォン(100万円)以下の借金を抱え、返済のままならない人々の借金を全額、国が肩代わりするというプランだ。

故盧武鉉元大統領8周忌追悼式が開かれた23日午後、慶尚南道金海市進永邑烽下村で、文在寅大統領と
盧元大統領の息子のコンホ氏などが式場に向かうと市民が携帯電話を頭の上に持ち上げて撮影している
 東亜日報は、この公約実現に向けて「政府金融当局が本格的な検討に入った」と18日に報じた。

 同紙によると、文氏の選挙参謀の一人は「(こうした)債務者たちはこれまで十分に苦痛を受けてきたが、借金を返済する能力がないものと見なければならない。こうした人たちが再び経済活動ができるようにしなければならない」と理由を説明した。

 日本でいえば室町時代の徳政令のような債権免除にあたる。貧しい人を助ける、といえば聞こえはいいが、実際には効果に疑問符のつく施策だ。

   フェイクの失業率

 まず一つは、当然ながら対症療法でしかないこと。国の経済が上向き、失業率が減らなければ、目先の借金を消しても「同じ事の繰り返し」でしかない。家族を養えるだけの収入がなければ借金生活に逆戻りなのだから。

 現地紙・アジア経済(電子版)は、韓国の青年(15~29歳)失業率は4月基準で11・2%で過去最高と報じているが、韓国の統計は先進国とは違い、“操作”された数字が多いともいわれる。この青年失業率も諸外国は15~25歳が標準だ。「いつまでも夢を追ってニートではいられない」と、理想に遠い職でも妥協する20台後半までレンジを広げることで、失業率の数字を低くできる。

 この11・2%という数字すら額面通りには受け取れない。朝鮮日報(電子版)によると、大学などを卒業した後も、就職のため公務員試験などの試験勉強をしている、もしくはそうした“建前”を主張する人たちはこの11・2%には入っていない。同紙は「こうした人を含めると失業率は23・6%に達する」と指摘。実質的には若者の4人に1人が失業者と推定される。

 仕事がない若者があふれているというのに、約100万円を10年にわたって返済できなかった人の借金を消せば、その人たちは“家族を養える職”に就けるのだろうか。

   なぜ彼らだけが

 もうひとつ指摘されるのがモラルの低下だ。東亜日報は慶煕大学教授のコメントとして「大統領選挙ごとに債務の調整や借金の棒引きを繰り返し行っていれば、(債務者は)返さなくても最後には国が解決してくれるだろう-とする、モラルハザード(倫理観の欠如)が広がる」と指摘する。

 韓国の「家計債務」は過去最高の約135兆円に達しており、中央日報(電子版)によると、昨年12月末のデータで国民1人当たりの借金は2600万ウォン(約259万円)を超えた。

 同紙によると、韓国の処分可能所得(簡単に言えば給料の手取り分と貯蓄)に対する家計負債比率は169・0%。これは経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の平均の129・2%を40ポイント近く上回る高い数値だ。

 今回の“徳政令”が実現すれば、対象にならなかった中間層の借金世帯が「なぜ我々だけ真面目に借金を返さなければならないのか」と怒りの声を上げかねない。

 こうした経済低迷の根底には、内需が脆弱なため新たな雇用がうまれないという悪循環があるのだ。

   新たな雇用

 文氏はこれを解消するため、最下級の公務員(9級)を81万人も雇用するとの公約を掲げてきた。今月に入ってこの公約実現のため10兆ウォン(約1兆円)の追加補正予算の早期編成を進める方針が決まったという。

 81万人という数字は、韓国ではどんな重みを持つのか。その一例を見れば、韓国軍の現有兵力は徴兵込みで約63万5千人で、その3分の1を占めるとされる、徴兵された下級兵士の給料は月1万5千~1万8千円と、小遣い並。正規で公務員を雇えば、こんな給与額では済まない可能性が高い。

 「もうひとつの軍隊」を作れるほどの人数を公務員にする、そんな“公務員天国”を維持する税収をどこからひねり出すのか。文政権の行く先は、いばらの道が続きそうだ。

【私の論評】金融緩和、積極財政に思いが至らない韓国の悲劇(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事を読んで思ったのは新大統領・文在寅(ムン・ジェイン)氏は、朴槿恵もそうでしたが、とにかく酷い経済オンチだということです。

マクロ経済学の標準的なテキストには、雇用が悪化したり、景気が落ち込んだ際には、政府がとるマクロ的な手段としては、金融緩和と、積極財政であると掲載されています。それは、韓国も同じことです。

固定相場制ではない現在の韓国は、富んでいるいないなどの水準の違いはありますが、基本的に日本、米国、EUなどの経済と変わりはないです。そうして、韓国はEUなどの国々とは異なり、自国のみで自国の金融政策や、財政政策を自由に行うことができます。EUのように域内の他の国のことを考えなければならないということもありません。

雇用が悪化すれば、金融緩和すべきですし、国民の借金が増えるなどの状況では同時に積極財政も実行すべきです。

にもかかわらず、文在寅大統領が経済対策として行おうとしているのは、「100万円以下の借金を10年以上借り続ける人々を対象に、その借金と利息の全額を帳消しにする」と、「最下級の公務員(9級)を81万人も雇用するとの公約というもの」です。

これは、どう考えても借金の棒引きは単なる一時しのぎにすぎないですし、雇用に関しても、上の記事にはでていませんが、増税でまかなうということですから、雇用も根本的な解決にはなりません。

そもそも、最近の韓国経済には他国にはない、明確な特徴があります。これは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“黒田バズーカ3”韓国経済直撃 ウォン高加速で輸出悪化に拍車―【私の論評】先進国になりそこねた韓国はウリジナル・タンゴを踊るのか(゚д゚)!

この記事は、昨年の2月2日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、韓国経済の特徴はこの記事に掲載したものと、現在でも基本的には、今も同じです。以下に、韓国経済の特徴に関わる部分だけ引用します。
韓国経済は、日銀の今回のゼロ金利政策により、ウォン高がいっそう進んで、大変なことになりました。

何しろ、韓国のGDPに占める輸出の割合は、43.87%ですから、もろに直撃をうけるわけです。これは、中国の22.28%よりも高いですし、日本の15.24%や米国の9.32%よりはるかに高いです。

日本は、10数年前くらいまでは、8%程度でした。米国も最近は、9%台ですが、以前は7%ほどでした。米国や日本は、内需がかなり大きいため、あまり輸出をしなくても実体経済にはあまり大きな影響はありません。

何やら、良く日本は、資源がないので、外国から資源を輸入して、それを加工して海外に輸出して成り立っている貿易立国であるというようなことをまことしやかに言う人もいますが、この数字を見ていればそんなことは全く出鱈目であるということが良くわかります。

そうして、上のようなことを語る人は、無条件で貿易立国は素晴らしい良いことであり、それによって国は栄えると無邪気に信じ込んでいる人が多いです。

しかし、これも全く間違いとまではいいませんが、程度問題です。GDPに占める個人消費の割合を比較してみると、韓国は50%台、中国は35%、日本は60%、米国70%台です。一国の経済を強くするには、なにをさておきまずは、当該国の内需を増やすことが前提条件であると思います。

この数値を比較しても、わかるように、韓国は輸出が多く、個人消費は少なめです。そうしてこれは当然のことです。先に、貿易立国を無邪気に良いことと信じている人の例を述べましたが、韓国はまさに、この人のように、貿易立国を現代風に言い直した「グローバル戦略」が良いことであると信じ、とにかく輸出を増やすことを奨励してきました。

とにかく、輸出拡大が韓国の生きる道ということで、企業はもとより、韓国政府もグローバル化一辺倒で経済政策を推進してきました。その結果が今日の悲惨な事態を招いてしまいました。 
輸出額が大きいということは、一見国際競争力があって良いようにもみえますが、逆の方向からみると、外国の影響を受けやすくなるということです。経済を良くするたには、ますば、米国のように自国の内需をできるだけ拡大すべきです。
2012年のグローバリゼーション・インデックス
韓国も、中国も日本より順位が上だが?
本来ならば、韓国はもっと内需を拡大すべきでした。本来もっと余裕のあるときに、金融緩和を行いつつも、グローバル戦略一辺倒ではなく、内需拡大策も実行すべきでした。
もともと、これだけ個人消費が少ないのと、雇用がかなり悪化しているというのなら、本来は早急に金融緩和を実施すべきだったのです。そうして、無論積極財政を実行してなるべくはやく、個人消費を上向かせ、雇用を改善すべきでした。そうすれば、今日韓国経済はまだましなものになっていたはずですし、将来に希望が持てるということで、今日のような混乱はなかったかもしれません。

しかし、 文在寅氏の経済対策はこれからかけ離れたものです。そうして、韓国の世論も、景気循環的対策である金融緩和や、積極財政に触れることはほとんどなく、もっぱら構造改革論議ばかりが行われています。

特に金融緩和に関しては、日本でもそのようなことを言う評論家も多いのですが、緩和すればキャピタルフライトを起こすということで、忌避すべきと考えている人が多いようです。

しかし、中国のような固定相場制の国では、キャピタルフライトは起こりやすいですが、韓国はそうではありませんし、さらにはかつてのアイスランドのように、天文学的な国の対外負債があれば、キャピタルフライトが起こることも考えられますが、韓国の国の対外負債はそのようなレベルにないので、金融緩和をしたからといって、キャピタルフライトがおこるなどということは考えられません。

それに関してはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【韓国新政権】文在寅政権の最重要課題は経済や外交 韓国メディア「対日政策、全般的に見直し」と展望―【私の論評】雇用を創出できない文在寅もスキャンダルに塗れて自滅する(゚д゚)!
朴元大統領
この記事では、韓国が金融緩和をしたからといって、キャピタルフライトが起こることはないことを詳細に説明しました。詳細は、この記事をご覧になって下さい。

文在寅大統領が、早期に金融緩和や、積極財政策をとらないかぎり、韓国経済はますます低迷することになります。

その場合、韓国国民も早々に、分在寅大統領に失望することになります。そうして、早期に退陣を迫られることになります。

それでも、その次の大統領が、景気循環的なマクロ経済対策を実行しない場合は、韓国の経済が立ち直ることもなく、このような状況を10年、20年と続けていれば、韓国経済は完璧に疲弊して、それこそ、現在のアルゼンチン(アルゼンチンは元は先進国でした)のように発展途上国になることは必定です。

文在寅大統領の後に、景気循環的なマクロ経済対策をまともに実行できる人が大統領にならない限り、韓国経済凋落は必定です。

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