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2020年2月18日火曜日

日本が犯した3度目の過ち、消費増税が経済に打撃―【私の論評】財務省の動きを封じなければ、安倍晋三氏は歴史に「消費税を2度あげた総理大臣」として名前を刻まれる(゚д゚)!

ウォール・ストリート・ジャーナル厳選記事



――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

***

 日本経済は2019年10~12月期に急激な落ち込みを演じた。実質国内総生産(GDP)は前期比年率換算で6.3%減少し、四半期の成長率としては過去10年で2番目に悪い数字となった。政策当局者が犯した3度目の間違いがその原因でなかったとすれば、まだしも受け入れやすかったかもしれない。


 日本政府は昨年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた。その結果、消費支出が大幅に落ち込み、家計支出は10~12月期に年率換算で11.5%減少した。

 1997年と2014年に消費税を引き上げた際も同じように経済が大きな打撃を被った。過去25年間に家計消費が最も大きく落ち込んだ3度の四半期は、いずれも消費税が引き上げられた時のことだ。

 幸いなことに、日本は今のところ、さらに消費税を引き上げる考えはなさそうだ。しかし、こうした破壊的な行動につながる考え方は異様なほど根強く残っている。増税が日本経済に与えたダメージが明確になっていた先週も、国際通貨基金(IMF)は今後10年間に税率をさらに15%に引き上げるべきだとの考えを表明している。

 それは比較的小さなものに聞こえるかもしれないが、日本の家計消費は過去10年間に実質ベースでわずか2.6%しか増加していない。こうした微々たる伸びは、消費者が家計の手取り収入やインフレ率が大きく上向くとは予想しておらず、支出も控えめに抑えるとの見通しを強めている。

 2012年末に安倍晋三氏が首相に返り咲いて以来、日本経済は見事な回復を遂げてきた。1990年代や2000年代のデフレは姿を消し、投資は著しい盛り上がりを見せた。失業率も数十年ぶりの水準に低下した。だが、家計消費は景気拡大に全く寄与していない。

 財政を再建する必要性に迫られているのであれば、増税に伴う経済的痛みも受け入れられやすい。だが、日本政府が抱える純債務の利払い負担は、主要7カ国(G7)の中で最も低い水準にある。

  日本政府が積み上げてきた政府債務の利払いは容易になっている。増税や支出抑制を主張してきた当局者は、その理由についてもっと明確な理由を示さなくてはならない。それらの政策は試されてきたが、日本の国民を裏切っている。

 しかも、日本はおそらく他のどの国よりも、財政政策との関係を見直す必要がある。米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年金利を引き下げ、欧州中央銀行(ECB)は独自の景気刺激策を拡大したが、日銀は何の手も講じていない。

 日本では、少なくとも現在の経済的枠組みの下では金融政策に関する選択肢がほぼ尽きているため、今後景気が悪化する場面があれば、財政政策が一段と大きな役割を担わなくてはならない。政策当局者はそうした場面が訪れる前に、財政政策を積極的に活用する術を身につけておく必要がある。

【私の論評】財務省の動きを封じなければ、安倍晋三氏は歴史に「消費税を2度あげた総理大臣」として名前を刻まれる(゚д゚)!

上の記事、ざっくり言ってしまうと、国民経済等は無視して省益優先で増税した財務省にWSJからも批判されたということです。

特に以下の下りは強烈です。
日本政府が積み上げてきた政府債務の利払いは容易になっている。増税や支出抑制を主張してきた当局者は、その理由についてもっと明確な理由を示さなくてはならない。それらの政策は試されてきたが、日本の国民を裏切っている。
ここでは、「当局者」としていますが、これは当然主に財務省のことを言っているのです。政府に主に大きな責任があると考えているなら「当局者」「政策当局者」などという書き方ではなく、「政府」と書くはずです。

これは、当然のことながら、財政をよく知っているはずの、財務省が、増税キャンペーンを繰り返し、足繁く政治家や、マスコミ等にも「ご説明資料」を持参し、丁寧にわかりやすく、増税の正当性を主張してきたからにほかなりません。

IMF(国際通貨基金)は、今後の日本経済について、高齢化に伴う費用を賄うためには消費税率を2030年までに15%に引き上げるべきだと提言しました。

来日した、IMF・ゲオルギエワ専務理事は、「徐々に消費税率を引き上げるのが有効というのがIMFの見解です」と述べました。

IMFは昨年の報告書で高齢化が進む日本について、働き手世代が減る一方で高齢者が増えるため、年金や医療費などが増え続けて国の財政運営が厳しくなると指摘しました。そのうえで、こうした費用を賄うには消費税率を2030年までに15%、さらに2050年までには20%まで段階的に引き上げるべきだと提言しています。また、日銀が掲げる物価上昇率2%の目標については「賃金が上がれば達成できる」という見解を示しました。

このような報道を読むと、消費税増税も仕方ないのかなと思う人が多いでしょう。IMFといえば、有名な国際機関で、英語で書かれたものに弱い日本人は多いです。

IMFのこうした報告書の作成は、各国政府との協議を経て行われます。IMFの他にも国際機関が日本に関する報告書を作成するときに、国際機関の報告書という体裁をとっているものの、実質的には日本政府の主張なのです。よくいえば、日本政府と国際機関の共同作業です。いずれにしても、日本政府の意向に反するものが書かれることはまずありません。

IMFについていえば、日本は第2位の出資国です。いうなれば大株主である日本政府を無視できるはずがありません。さらに、日本は大株主の力を背景にして、IMFのナンバー2である4人いる副専務理事ポストの一つを確保しています。

このポストは歴代財務省財務官の天下りポストなのです。そのほかにも、日本はIMFの理事ポストも持っており、これも財務省からの出向者です。理事を支えるスタッフとして理事室があるのですが、その職員も財務省からの出向者が多くいます。

消費税率15%は財務省の意図でもあります。東日本大震災直後に、不謹慎にもホップ、ステップ、ジャンプ増税計画がいわれていました。震災増税がホップ、社会保障増税がステップ、そして財政再建増税がジャンプです。

今、とうとうステップの直前まで来ています。ちなみに、民主党野田政権の時に、消費税増税を織り込んだ中期財政試算では、10%まで消費税増税しても2023年度においてもプライマリーバランス対GDP比は、▲0.9~▲2.7%とされていました。

この赤字を解消するためには、消費税増税を2~6%しなければいけないというのが、財務省の意向です。つまり消費税率は12~16%まで引き上げるということです。

IMFの年次審査報告書は財務省の息がかかっているとしても、IMF本体の理事会では、数名の理事が消費税増税が成長に悪影響があるかもしれないとの懸念を表明しています。これは、IMFが各国に緊縮財政を求めすぎたことへの反省でもあります。ただし、こうした報道はあまりありません。

IMFは先に述べたように、財務省出向職員が仕切っている側面もあり、単なる財務省の代弁としか言いようのないレポートもあるのですが、財務省の出向職員があまり手を出せないスタッフペーパーのなかには、良いものもあります。

たとえば、昨年10月公表された「IMF Fiscal Monitor, October 2018 Managing Public Wealth」(https://www.imf.org/en/Publications/FM/Issues/2018/10/04/fiscal-monitor-october-2018)です。

これは、各国の財政状況について、負債だけではなく資産にも注目して分析したものです。このレポート、海外メディアの注目度は高いです。(たとえば https://jp.reuters.com/article/imf-g20-breakingviews-idJPKCN1ML0NF)が、日本のメディアではさっぱり取り上げられません。

これについては、このブログでも取り上げました。その記事のリンクを掲載します。
コラム:日本の純資産はプラマイゼロ、IMFの新国富論―【私の論評】財務省は解体し複数の他官庁の下部組織として組み入れ、そのDNAを絶つべき(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、上のグラフでも理解できるように、日本政府の資産と負債を比較してみると、その額は同程度であり、相殺するとセロです。日本政府の借金がとてつもなく大きいというのは、一側面をみているだけです。100万の資産がある人が、100万円の借金を抱えているときに、100万の資産には目をつぶり、100万の借金ばかりを論じているようなものです。

これは、財務省が意図して意識して、日本政府を借金地獄であるかのように喧伝するのに、外国の機関である、IMFまで自分たちに都合の良いように利用しているという実体を示すものです。財務省の意向では、消費税は10%増税ではすみません、先にも述べたように、12~16%にするのです。

私自身は、増税したり、減税したりするのは当然のことと思います。ただ、財務省のように一方的に増税を続けるというのは完璧なあやまりです。

マクロ経済の標準的な教科書でも教えているとおり、その時々で、景気が良すぎれば、増税し、景気が悪ければ、減税すれば良いだけでなのです。これを格好の良い言い方をすれば、機動的財政政策です。この機動的財政政策が日本以外の国なら普通に行われて舞います。

なぜか、日本では、消費税は一度上げると、下げられないものという認識が一般的ですが、消費税などを含む、他の増税も景気が加熱すれば、実施し、経済が悪ければ、減税すべきなのです。

しかし、財務省は、景気におかまいなしに、一方的に増税を繰り返してきましたし、これからもそうしようとしています。

今回、実質国内総生産(GDP)は前期比年率換算で6.3%減少し、四半期の成長率としては過去10年で2番目に悪い数字となったとしても、財務省はこの方針を変えないでしょう。

今後、新型肺炎の蔓延がしばらくは続くことを考えれば、これも経済に甚大な影響を与えることは確実で、これから経済の悪化が沈静化する可能性はありません。さらには、アウトバウンド需要も期待できません。

私自身は、オリンピックの頃には、日本の夏の湿度の高さは、コロナウィルスの大敵であるので、新型肺炎も終息まではいかなくても、かなり罹患率など下がると思います。そのためオリンピックそのものは開催されるでしょうが、観光客は相当減るかもしれません。そうして、秋にはポイント還元がなくなります。

これから、悪くなる一方です。さらに、中国経済をはじめ、ブレグジットもあり、世界経済は悪化する懸念があります。このようなときに実行すべきは、減税です。消費税が8%になってこのかた、経済が大幅に伸びたことはなく、韓国以下の成長率しかないわけですから、いまできる最善の方法は、減税です。減税なら、何も特別なことをしなくて良いですから、すぐにでも実行すべきです。

しかし、これには、財務省は大反対でしょう。また、財務省の総力を結集して、大増税キャンペーンを実施し続けるでしょう。

それにしても、なぜ財務省はこのような行動をするのでしょうか。これについては、最近のこのプログで官僚の習性をあげたことがあります。

隠匿という点では、昔の官僚も現在の官僚も変わりません。現在の財務省の官僚は、物資を隠匿はしていませんが、様々な形で資金を隠匿しています。それこそ、いっとき盛んにいわれていた財務省の埋蔵金というものです。

これは、いわゆる特別会計という複雑怪奇で一般の人にはなかなか理解できない、巨大な会計の中に隠蔽されていたりします。それは、戦時中の隠匿物資のように、一般人には見つからないように隠匿されています。



しかし、それは、終戦直後に大多数の国民が窮乏生活を送っていたときに、国富が70%もあったというのと同じく、現在でも統計資料を見ると理解できます。

先にもあげたように、日本政府には借金だけではなく、膨大な資産があるのです。この資産を財務省は、世間から隠しているのです。これは、終戦直前に軍部というか、陸軍省、海軍省の官僚らが、膨大な物資を隠匿していたのと似ています。

官僚というものは、どうやらきちんと監督していないと、とにかく金をためたがるようです。警察組織にも各地でプール金があったことが摘発されたこともありましす、財務省以外の省庁でもプール金が摘発されたことがあります。

なんのことはない、財務省は、特別会計などの手法等をもちいて、あちらこちらに合法的に資金をプールしているということで、従来の軍部の物資隠匿と同じことをしています。

そうして、財務省はこの隠匿を合法的に、しかもIFMを活用するなど、かなり洗練されたスタイルで行っています。

もう、安倍政権としても財務省のこの動きを封じるしか、道はないでしょう。財務省すら封じることができなければ、新型肺炎を封じることもできず、その結果支持率が落ち、念願の憲法改正は叶わぬ夢になることでしょう。

そうして、歴史には、「消費税を2度あげた総理大臣」として名前を刻まれることになるでしょう。

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2019年8月1日木曜日

韓国「ボイコットジャパン」はブーメラン…韓国側のLCCなど直撃! 日本経済への打撃は限定的か ―【私の論評】日本ボイコットで国民大挫折を招き政権支持率を劇的に下げる韓国(゚д゚)!


ソウルの日本大使館前で日本製品の不買運動をする韓国の高校生ら=7月26日

 日本政府の輸出管理強化を受けて、韓国では日本製品をボイコットしたり、日本行きの旅行をキャンセルしたりする動きが出ていると報じられている。日本に対する反撃として、どこまで有効なのだろうか。

 韓国のSNSで「ボイコットジャパン」がトレンドとなっている。ある調査によれば、半数近くの人が賛同しているという。これを高いとみるかどうかだ。

 SNSでは、日本製品の代替物として韓国製品のリストも出回っている。ただし、リストに出ている日本企業の売上高に占める韓国市場の比率は数%以下であり、不買運動の影響は限定的だろう。

 日本への旅行を控えるというボイコットもある。これは、実際に影響が出ているようだ。

 まず、基本的なデータを押さえておこう。2018年の韓国からの日本への訪問者は753・9万人と、中国からの838・0万人に次いで2位。3位は台湾からの475・7万人だ。しかし、18年の訪日外国人旅行消費額でみると、韓国は5881億円と、中国の1兆5450億円に次ぐ2位だが、3位の台湾の5817億円と大差ない。

 ちなみに、1人あたりの消費額でみると、中国18・4万円、台湾12・2万円なのに対し、韓国は7・8万円と低い。

 最近の状況は、韓国から日本への訪問者は減少している。昨年6月から今年5月までの毎月の訪問者数を対前年同月比で平均してみると、韓国は4・6%減だ。ただし、中国は10・2%増、台湾は0・3%減なので、韓国からの訪問者の減少は中国が補って余りがある。中国からの訪問者の消費単価は大きいので、全国平均であれば、韓国からの訪問者数減が日本の消費に与える影響は、あまり大きくないだろう。

 むしろ、韓国からの訪問者数の減少は、韓国の旅行業者やLCC(格安航空会社)事業者など韓国側の企業に悪影響が出ているというリポートもある。先行きの業績悪化を懸念して韓国LCC各社の株価も低迷している。

 韓国からの日本への訪問者は九州や関西など西日本地方が中心なので、地域によっては多少の影響はあるかもしれない。今後は韓国からの訪問者がさらに減少する可能性もあるので、注意は必要である。

 もっとも、過去にも竹島問題などで韓国はこうしたボイコット運動をしてきたが、長続きせず、効果はなかったという見方が多い。

 過去に日本製品を良いと判断して購入したはずで、その購買行動は習慣依存があるので、外部からのボイコットの刺激を受けても、抜本的に変えるのは難しい。日本製品の代替物としての韓国製品が本当に優位なら、とっくに日本製品は飽きられていたはずで、わざわざボイコットの対象にする必要はない。

 また、日本への訪問でも、日本の消費に影響を与える前に、韓国国内の旅行業者やLCC事業者のほうが先に悪影響を受けてしまうだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本ボイコットで国民大挫折を招き政権支持率を劇的に下げる韓国(゚д゚)!

上の記事では、韓国の最近の状況を述べていますが、もっと根本的な観点から韓国の日本に対するボイコットなどが限定的になることをあげてみます。

日本と韓国

まずは、韓国の国土面積は約10万200平方キロと、約37万8000平方キロの日本の3分の1以下です。そのうえ2016年の国内総生産(GDP)は韓国が1兆4110億ドル、日本が4兆9390億ドルでした。GDPでは規模でも1人あたりGDPでも日本のほうが韓国を上回っています。

韓国は香港やシンガポール、台湾と並んで「アジア四小龍」と呼ばれ、その経済力が評価されていますが、「小龍」が存在するということは「大龍」も存在するということです。小龍に日本が入っていないのは「日本は『小龍』ではないからです。日本と中国の経済力は「大龍」と呼ぶにふさわしいものだからです。

確かに、今では国全体では、日本のGDPは中国以下ですが、一人あたりのGDPということでは中国や、韓国よりもはるかに上です。

韓国のGDPは東京都のGDPと同次元という状況です。東京都が日本全体と争い、特に不買運動をしたとしても、どの程度の効果があるのか甚だ疑問です。

そもそも、製品やサービスのボイコットが効力を持つのは、経済規模が同程度かもしくは自国のほうが大きい場合に効果を出すことができるのであって、自国よりはるかに経済規模の大きい国に対して経済制裁などしても無意味です。

しかも、韓国と日本の場合産業構造が似通っており、日本の製造できないもので韓国が製造できるものはありません。であれば、韓国から輸入できなくても日本で製造を増加すれば良いだけです。

さらに韓国に輸出できなくなっても、もともと韓国のGDPが小さいことから、それによる不利益も少なく、現在経済のをかなり伸ばしつつあるベトナムやインドなどに振り向ければそれで良いです。

それに日本の場合デフレ続きで、さらに消費増税などするから、個人消費が減るのであって、今後減税などすれば、個人消費が上向き、経済規模の大きい日本なら、それだけで韓国への輸出よりはるかに大きな内需を見込むことができます。

高麗大学経済学科の教授は新聞社の取材で、不買運動の対象となっている消費財が日韓貿易に占める割合は15%しかなく、日本に影響に与えることはないと述べています。

さらに、日本はこれまでに自然科学分野でノーベル賞受賞者を数多く輩出し、米医学界最高の賞とされるラスカー賞の受賞者も日本は複数輩出しています。他にも日本は世界的権威のある賞の受賞者を多数輩出していますが、韓国には自然科学分野のノーベル賞受賞者はおらず、世界的権威のある賞の受賞者も日本人より圧倒的に少ないのが現状です。

韓国の自然科学分野でのノーベル賞受賞者は未だに0人

現状では、韓国の製造業はディスプレイパネルや半導体などの分野で日本を上回る競争力を持つのですが、これすらも日本の技術がなければ成り立たないことが最近あきらかになりました。国全体の国際競争力ではやはり日本のほうが韓国を上回わってています。

世界経済フォーラムが発表している「世界競争力報告」のデータによれば、年によって変動はあるものの日本のランキングは一桁台であるのに対し、韓国は20位台です。現状では、韓国と日本を比較すること自体が間違いであり、日韓の競争力は同じ次元にあるものではありません。



以上のようなデータからも韓国で日本製品やサービスのボイコット運動をしたとしても、日本への影響は限定的でしょう。

日本のビール会社の韓国でのもうけが減ろうと、トヨタ車が韓国で売れなくなろうと、韓国人観光客が減ろうと、日本政府が「安全保障に絡む国策」を変えることはありません。

だから不買運動の行きつく先は、国力大浪費の揚げ句の果てに“国民的大挫折”でしかないです。それは政権浮揚力の劇的低下に直結することになります。

そうした見通しが立つ中で、不買運動は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長阻止運動と結びつき、「トータルな反日運動」の色彩を強めつつあります。北朝鮮も「韓国はGSOMIAを破棄しろ」と“指令”しているようです。

従北ポピュリズム政権にとっては、「GSOMIAの自動延長を拒否して日本に大打撃を与えてやった」と喧伝することが唯一の逃げ道かもしれないです。しかし、それでも韓国にとって何のメリットもありません。結局のところ、韓国は「国民的大挫折」に向かってまっしぐらで、それはとりもなおさず、政権の支持率の劇的低下につながるのみです。

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2019年1月22日火曜日

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを ―【私の論評】日本は英国のTPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

混迷深める英国のEU離脱 「リーマン級」打撃に現実味…日本も政策総動員で備えを 
高橋洋一 日本の解き方

英メイ首相

英国議会で、欧州連合(EU)離脱案が大差で否決された。今後、どのような影響が出てくるだろうか。

 英国のEU離脱は2016年6月23日に国民投票が行われ、僅差で決まった。

 そもそも英国は、貿易取引ではEUに加盟して有利な条件を受ける一方、ユーロに加盟せずに独自通貨のポンドで金融政策の自由度を確保するという「究極のいいとこ取り」であった。このため、筆者はそもそもEU離脱には懐疑的だったが、もはや時間は戻せない。

 国民投票の結果、英国のEU離脱の期限は3月末となった。ただし、行政機関や企業などが混乱しないように20年12月末までは「移行期間」として現行の諸法制が適用されるとされていた。

 そのためには、英国とEU間で離脱条件などが合意される必要がある。EUとの合意を前提として英国に有利なソフト・ブレグジットか、EUに有利なハード・ブレグジットのどちらになるかが関心事であった。

 今回、英議会が離脱案を否決したので、英国とEU間の合意の可能性はかなり遠のいた。つまり、「合意なき離脱」ということになりそうだ。この「合意なき離脱」ということになると、英国には打撃が大きい。

 EUのユンケル欧州委員長は、「もうすぐ時間切れだ」とし、「無秩序な離脱のリスクが高まった」と述べ、英国国内での意見集約を促している。

 しかし、英国のメイ政権ではいかんともしがたい状況だ。英議会でEU離脱案が大差で否決されたので、コービン党首率いる労働党が提出した内閣不信任案は否決されたが、英国内の政治が混乱したまま時間が過ぎ、3月末の期限を迎える公算が高い。

英政府は、その場合、国内総生産(GDP)を8・0~10・7%押し下げるという予測を昨年11月に出した。イングランド銀行は3~8%、国際通貨基金(IMF)は5~8%のマイナス効果になるとみている。

 具体的には、製造業で欧州から受け入れてきた労働者が不足して生産不足に陥る可能性が高い。金融業でも、適用ルールの不明確さから企業活動に混乱が生じかねない。こうした「合意なき離脱」による経済活動への悪影響はいうまでもなく計り知れない。EU側で、離脱の期日延期が検討されていると報じられているのもこのためだろう。

 筆者は、かつての本コラムで、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があると書いている。その当時は「合意ある離脱」が前提であり、英国政府の予測ではGDPに与える悪影響は、3・6~6・0%であった。今は、「合意なき離脱」を覚悟せざるを得ない状態であり、そのインパクトは2倍程度だろう。であれば、まさに、リーマン・ショック級になるのは避けられない。

 日本として政策総動員を準備すべきだ。実際のリーマン・ショック時は、「ハチに刺された程度」と楽観視し適切な政策が打てずに、大混乱したことを忘れてはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は英TPP加入で窮状を救い、対中国包囲網を強化せよ(゚д゚)!

英国が欧州連合(EU)と合意したEU離脱案の採決は、保守党内から大量の造反者が出て、432対202という歴史的な大敗北となりました。

強硬離脱派も、残留派も反対し、労働党からは内閣不信任案が出されました(下院で否決)。EU側は当然ながら失望を表明し、メディアでは「合意なき離脱の可能性が高まる」との見出しが踊っています。

しかし、英ポンドはそれにも関わらず売られていません。「合意なき離脱」の可能性が高まっているのであれば、英ポンドはもっと売られていて良いはずです。つまり、表向きの混乱とは裏腹に「合意なき離脱」の可能性はやはり低いのです。そして今後ますますその可能性が低いことが明らかになっていくでしょう。

英ポンドは市場で売られていない

離脱案が否決されたので、メイ首相は3日以内(1月21日)に代替案を出すことになっているが、この代替案もどうなるかわからないです。

とはいえ、今後は野党の労働党との折衝が始まります。その中で、与野党の多くの議員はソフトな離脱案か再度の国民投票を希望しており、強硬離脱派はあくまで少数意見ということが明らかになってくるでしょう。

そして、万が一「合意なき離脱」の可能性が高まった場合、多くの議員は一致団結してそれを阻止するということがはっきりしてくるでしょう。

つまり、双方の多数派である労働党と保守党の穏健派が合意して超党派的な連合ができれば、簡単に終わる問題なのです。

ところが、そこに英国の政治事情が絡むので、スッキリとは進まないでしょう。メイ首相の頑な態度が、すんなりと合意に向かう道を閉ざしているとも言えるし、態度をはっきりさせないコービン党首が障害になっているとも言えます。

労働党は、結局どうしたいのか、はっきり態度を表明しなければならないです。ソフトな離脱案で行くのか、それとも再度の国民投票を行うのかです。それがはっきりすれば、超党派の連合も形成しやすくなるでしょう。

私は、ソフトな離脱案が結局成立する可能性が6、7割、再度の国民投票の可能性が3、4割と見たいです。個人的には「合意なき離脱」に至る確率は低いとみています。

現在、外国為替市場で少しずつ英ポンドが買われ始めているのは、結局「合意なき離脱」という選択肢が消えて、英ポンドが再評価され買い戻される、その動きを先取りしつつあるのでしょう。

英ポンドは極めて安い水準に放置されていたので、戻り始める(価値が上がる)とかなりのポテンシャルがあります。そして、「合意なき離脱」の選択肢が消えることは、この(2018~19)年末年始に不安定化していた市場に安心感を取り戻すことになるでしょう。

市場は過度な悲観にさらされていましたが、過度な悲観からの巻き戻しが今後、起こる可能性が高まっているのかもしれないです。

国旗を掲げながらブレグジットを支持するデモ隊

さらには、英国のTPP加入の可能性も高まっています。英国は、TPP参加を表明しています。英国のフォックス国際貿易相はロンドン市内で講演し、英国が欧州連合(EU)を離脱した後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を目指す意向を表明しました。

メイ首相はこれまで離脱後にEU以外の第三国との自由貿易協定(FTA)を締結する方針を示していましたがTPPは一国帯一国の交渉で決めるFTAではありません。TPPは貿易だけでなく投資や知的財産など多くの協定がすでに決まっていて加盟をすればTPPルールを守らなければならないです。

TPPの性質はFTAではなくEUに近いものです。FTAは相手国との貿易について自由に交渉できますがTPPはできないです。EUを離脱する英国がTPPに参加するというのは矛盾しているようにもみえます。

なぜ、EUを離脱する英国がTPPに参加しようとしているのでしょうか。それはEUとTPPは協定の性質が違うからです。

EUはEuropean Unionの略称であり、欧州連合のことです。2013年7月にクロアチアが加盟したことにより以下の28か国が欧州連合に加わっています。

IMFによると、2010年の欧州連合のGDPは16兆1068億ドル(約1300兆円)です。米国のGDPをやや上回っており、世界全体の約26%を占めています。

欧州連合には最高意思決定機関があります。全加盟国の政府の長と欧州委員会委員長、及び大統領にも相当するとされる常任議長による欧州理事会です。

欧州連合の市場は統合されています。外交・安全保障分野と司法・内務分野での枠組みが新たに設けられ、ユーロの導入によって通貨も統合されています。欧州議会の直接選挙が実施されたり、欧州連合基本権憲章が採択されています。

ただし、ブログ冒頭の高橋洋一の氏の記事にあるように、英国はこのユーロは用いていません。そのため英国独自で金融政策を行うことができます。

EU加入国(青)と加入する可能性がある国(緑)

第二次大戦後に急激に社会主義国家圏が拡大していきました。ヨーロッパの社会主義圏の拡大を防ぐためEUは資本主義経済圏の民主主義国家の連合を結成したのです。

1991年にソ連は崩壊し、強大な社会主義国家圏は消滅しました。EUを強固しなければならない根拠となっていた社会主義圏が消滅したためにEUの国家間の矛盾が表面化していきました。

政治は本質的にローカルであるグローバルではありません。国によって生活や経済の程度に差があります。GDPに差があるし国家予算にも差があります。どうしても政治的な対立は生じることになります。

ソ連が存在していた時は対立を我慢していたが、ソ連が崩壊すると対立にが表面化していったのです。この対立を調整するのがEUの課題となっていき、英国はEUを離脱を決意したのです。

英国のEU離脱と米国のトランプ大統領のアメリカファーストをきっかけに、米国や英国だけでなくヨーロッパの多くの国々で反グローバル化の動きが広がっているとマスコミや評論家が指摘しています。

政治はローカル=反グローバルであり、経済はグローバルです。政治と経済は密接に関係していますが、二つの本質的な性質の違いを区別しなければならないです。区別しないから反グローバルを安易に政治目的に使うようになってしまったのです。

格差や貧困が原因で国外に出た難民を受け入れるかどうかを決断するのは政治です。難民を受け入れるか否かを決めるのはそれぞれの国の経済力や国民性が左右するからです。それは政治であり、ローカルな問題なのです。

EUがソ連圏に対抗した政治優先の連合であるのに対して、TPP11は経済優先の連合です。それがEUとTPPの根本的な違いです。そもそも、EUはソ連が存在しなければ結成されなかったかもしれません。

1988年ソ連ではじめてミスコンが行われたときの写真

EUは社会主義国家と対峙した連合でしたから社会主義国家は参加できません。しかし、TPP11は違います。TPP11は社会主義国家であるベトナムが参加しています。このことからもEUとTPP11が性質の違う協定であることが分かります。TPP11は政治ではなく経済を中心とした協定なのです。

EUから離脱した英国がTPP11に参加するのはTPP11がEUのような政治協定ではなく経済協定だからです。

TPP11は政治的にはそれぞれの国が独立しています。EUで問題になっている難民受け入れはTPP11加盟国のそれぞれの国が自由に決めるのであってTPP11全体の問題にはなりません。

このように、TPP11は人類史上初めての新しい協定です。こういうと誇大な表現と思われるかもしれませんが、そうではありません。

EUも国際連合も政治を中心とした連合です。経済も問題にするが優先しているのは政治です。それに比べてTPP11は経済を中心にした連合です。このような連合は、過去にあってもよさそうですが、このような協定はありませんでした。

世界は第二次世界大戦までは戦争の連続であり、帝国主義の世界でした。戦後は議会制民主主義国家圏と社会主義国家圏の対立が続きました。まさに、世界の歴史は、政治対立の歴史であったのです。

ソ連が崩壊し、独裁国家も減り、議会制民主主義国家が増えていきました。政治対立、戦争が少なくなったアジア、環太平洋地域だからこそTPP11が誕生したのです。

英国がTPP参加を表明しましたが、TPPの正式名称は、環太平洋パートナーシップです。名称からすれば環太平洋の国ではない英国は参加できないことになります。しかし、英政府はTPPの参加条件に地理的な制約がないことを確認しています。

それに日本の茂木敏充経済再生担当相も、英国の参加が可能との見解を示しています。経済は政治と違い本質的にグローバルです。TPPには世界のどこからでも参加できるのです。

このTPP11実現をリードしてきたのが安倍政権です。経済政策を重視する安倍晋三首相は「保護主義からは何も生まれない」として、自由貿易体制の維持に取り組んでいます。それがTPP11の実現であり、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名です。

メイ首相はEUとの離脱交渉で、「EUの関税同盟と単一市場から英国を離脱させ人の移動の自由を終わらせる」、「モノに関しては自由貿易圏を創設する」などの条件を掲げています。これに対し、人、モノ、金、サービスの四つの移動の自由を基本理念に掲げるEUは、メイ政権の提示条件が妥協的であると批判し、交渉は膠着状態に陥っています。

しかし、EUの本音は別のところにあるようです。

実はEUは、域内2位の経済力と最大の軍事力を誇る英国の離脱と、英国に追随する他国の動きを警戒し、英国を牽制しているのです。その顕著な例が、メイ政権のモノの移動の自由に関する条件を逆手にとり、アイルランド国境管理問題を持ち出し、北アイルランドがEUとの関税同盟に残留せざるをえないよう仕向けています。

つまり、北アイルランドに経済的国境を作るという圧力をかけ英国の提示条件を拒絶しているのです。ちなみに、英国とEUは2017年12月、地続きであるアイルランドと英領北アイルランドの物理的な国境管理(税関、検問所)を離脱後も復活させないことで基本合意した。

これに対し、メイ首相はEUに「合意なき離脱」という脅しをかけ、自らの離脱計画案の再考をEU側に求めています。仮にメイ首相の案をEUが飲んでも、あるいは合意なき離脱となった場合でも、英国国会で批准されるかどうかは不透明で、メイ政権は厳しい舵取りを余儀なくされています。

もともと英国はEU加盟に積極的ではありませんでした。EUの前々身であるEECにはフランス主導であることを理由に加盟を拒否し、EU加盟時には共通通貨のユーロを使わなかったことなどの事例がそれを物語っています。

自国に対するプライドもあるし、EU経済圏に入ることのメリットも少ないと考えていたようです。ただ、ヨーロッパ全体が一つの経済圏としての機能を持ち始めたため貿易の面で加入せざるを得ない事情があったようです。

しかも、英国はEUの盟主であるのなら離脱はなかったと思われますが、英国がEUの大統領を輩出しているわけでもないし、フランス、ドイツなどにリーダーシップを握られていることが面白くなかったわけです。

英国がリーダーシップを取れなかった理由は国内経済の低迷にあります。英国は国家の伝統ばかりを後生大事に抱えていてイノベーションができていなかったことに起因します。

英国国内の一部には離脱以降、世界経済の中で英国が新たな立ち位置を築くことができるのではないかとの期待もあります。しかし、その一方で、メイ首相の構想ではEUの規制から逃れられず、世界各国と自由にFTAを結ぶことができなくなると危惧する意見が出るほど国論が混乱しています。

いずれにせよ英国が歴史的な変化の前に苦悩していることだけは間違いありません。

先日の英経済紙フィナンシャルの一面に「英国のTPP加盟を歓迎する」との安倍首相のインタビュー記事が掲載されました。内容は「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する。英国は合意なきEUを回避するため妥協してほしい」「英国のEU離脱による、日本のビジネスを含むグローバル経済に対するネガティブなインパクトが最小化されることを心底願っている」というものでした。

「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する」という安倍総理の
インタビューを掲載したフィナンシャルの記事を報道する日本のテレビより

実際、英国の窮状を救うことができるのは日本だけかもしれません。TPP交渉で米国の離脱後も粘り強く推進してきた日本が、英国をTPPの枠組みに入れることでEU離脱後の英国経済の破綻を防ぐことができるものと考えられます。

さらに、TPPのもう一つの本質的な機能は中国包囲網の形成にあります。

TPPへの英国の加盟は、海洋国家の日米英の連携が一層強まり、中国政府と中国海軍による違法行為の封じ込めに役立つものとなります。英国は、インド太平洋地域にも英領西インド諸島を領土として持ち、ヨーロッパでも英国の領海、領有は広く、軍事戦略上きわめて有効です。

英国のTPP加盟はEU離脱後の英国経済のマイナス面を補うだけでありません。日本は積極的に英国支援に向かうべきです。そうして、英国のEU離脱によるリーマンショック級の悪影響が出ることを未然に防ぎ、今後も日英同盟を強化していくべきです。

ただし、英国のEU離脱は、世界経済にリーマン・ショック級の影響を与える可能性があるのは事実であり、日本もそれに備えるべきです。米国が対中国冷戦を実行し、英国がEU離脱し、世界経済に悪影響を与えるかもしれない今日、わざわざ消費増税などすべきではありません。財務省は、このような世界情勢を理解できないのでしょうか。だとすれば、大虚け者(おおうつけもの=虚けとはもともと、からっぽという意味であり、転じて虚け者とは、ぼんやりとした人物や暗愚な人物、常識にはずれた人物をさす)と呼ぶ以外にありません。

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2018年8月18日土曜日

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃―【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃

トルコ エルドアン大統領

 トルコの通貨リラが暴落したことで、一時、ユーロが売られたり株式市場が急落したりする場面があった。

 トルコは経済協力開発機構(OECD)加盟国であるが、インフレ率はその中でも一番高い。ここ10年間で、トルコの平均消費者物価上昇率は8・4%であり、OECD平均の1・8%を大きく上回っている。ちなみに、トルコはインフレ目標を採用しているが、その目標水準は5プラスマイナス2%としており、インフレ率は常時上限を超えている状態だ。

 これは、インフレ目標を上回るくらいの金融緩和をしているわけで、マネー増加率も常に2桁とOECDの中でも高い伸びになっている。このため、トルコリラは継続的に割安状態だ。

 長期的な為替は、ソロスチャートを持ちだすまでもなく、国際金融の基本理論から、2国間の通貨量の比率でだいたい決まる。これをトルコリラと米ドルで当てはめてみると、2007~16年では、通貨量の比率とリラ・ドル相場の相関係数は96%とほぼ予想された動きとなっている。

 しかし、17年に入ると、この理論で予想された為替動向とは乖離(かいり)するようになった。16年7月のトルコ国内でのクーデター未遂事件が関係しているようだ。

 この乖離はここ数カ月ではさらに大きくなっている。一時、1ドル=7リラ程度となっており、これは理論値の2倍以上のリラ安である。理論値とかけ離れている理由は政治的なものであろう。

 まず、インフレ率が目標以上に高いにもかかわらず金融引き締めを行わないことが主因であるが、それを中央銀行ではなく、エルドアン大統領が指導している。しかも、これは、中銀が「手段」の独立性を持つという先進国のスタイルとは異なり、この意味で政治的な問題だ。

 もっとも、この政治スタイルは今に始まったことではないので、これだけであれば、理論通りにリラ安になるだけだろう。しかし、今や米国とトルコは政治的な対立をしており、それがリラ安に拍車をかけている。

 トルコは、2年前のクーデター事件に関係したとする米国人牧師を拘束している。それに対して、米国はトルコ閣僚の資産凍結を決めた。さらに、リラ安に伴い、トルコから輸入する鉄鋼などの関税を引き上げることも表明した。

 米国の対トルコ投資・与信はそれほど多くない。欧州の対トルコのほうがはるかに大きいので、米国はリラ安の影響を受けにくく、トルコ問題は欧州への打撃が大きいのが実情だ。この意味では、新興国とはいえ世界経済への影響を過小に評価することはできないだろう。

 トルコは北大西洋条約機構(NATO)国でもあり、米軍はトルコ国内のインジルリク空軍基地を使用している。安全保障体制そのものではなく米国人牧師の解放というトランプ流の政治的な揺さぶりであるが、仕掛けられたトルコは思わぬ苦境になっている。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

米連邦準備理事会(FRB)が基軸通貨でもあドル引き締めを継続している以上、遅かれ早かれ「新興国市場からの資本流出」自体は起こるべくして起こることだったということで、たまたま直近の要因でトルコが一番先だったといえるかもしれません。

そうして、「あとはきっかけ待ち」という状況にあったところ、今回のトルコリラ・ショックが起きたということでしょう。これを機に新興国市場からの資金流出が続く展開になると考えられます。

もともとトルコリラ安の底流には、ブログ冒頭の高橋洋一の記事にもあるように、中央銀行への政策介入をするエルドアン大統領の経済政策という内政要因がありましたが、対米関係の悪化という外交要因もありました。

とりわけクーデター容疑でトルコ当局に拘束されている米国人牧師を巡って問題がこじれた結果、「鉄鋼・アルミニウムに係る追加関税率を倍に引き上げる」という米政府の決定につながり、これによりトルコにも追加関税をかけることになり、トルコリラ急落のトリガーを引くに至っています。

トルコ・イズミルで、私服警官らによって自宅へと移送された
米国人牧師、アンドルー・ブランソン氏(2018年7月25日)

こうした状況下、トルコが現状を打開するために必要な選択肢は、1)緊急利上げに踏み切る、2)米国人牧師を解放する、3)資本規制の強化、4)国際金融(IMF)支援の要請です。

もっとも、「利下げをすればインフレ状況も落ち着く」という奇異な主張の持ち主であるエルドアン大統領は8月12日の演説で、1番目の選択肢については「自分が生きている限り、金利のわなには落ちない」と一蹴しており、その上で2番目にも応じない姿勢を明確にしています。

また、4番目の選択肢についても「政治的主権を放棄しろというのか」と述べ、これも退けたというか、元々IMFは米国が単独拒否権を保有しており、米国の合意なしでは利用できません。

今のところトルコは、3番目の選択肢を取っています。8月13日早朝、トルコ銀行調整監視機構は、国内銀行による海外投資家とのスワップ、スポット、フォワード取引を銀行資本の50%以内に制限すると発表し、投機的なリラ売りの抑制に踏み出しています。

しかし、投機のリラ売りを抑制しても同国が経常赤字国であるという事実は変わらないので実需のリラ売りは残ります。資本規制を強化するほど、トルコへの投資は敬遠されるはずですし、経常赤字のファイナンスは難しくなります。新興国が危機に陥る際の典型的な構図が見て取れます。

そのほか、8月に入って以降は、中銀が設定する各種準備率を調節することで市中への流動性供給を増やすという措置も取っています。それらの措置が市場の緊張緩和に寄与するには違いないでしょうが、利上げによる通貨防衛を期待する市場参加者にとって迂遠(うえん)な一手と言わざるを得ないでしょう。言い換えれると、政策金利の調整を決断できない「中銀の独立性の無さ」を逆に誇張しているようにすら見えてしまいます。

トルコ・ショックはどれほどの震度を持つと考えるべきなのでしょうか。トルコの国内銀行が外国銀行に対して持つ対外債務の約6割がスペイン・フランス・イタリアによって占められていることから、市場が「トルコ発、スペイン・フランス・イタリア経由、ユーロ圏行き」といった危機の波及経路を心配することも一理あります。

とはいえ、トルコにとって欧州が重要な債権者であるからと言って、欧州にとってトルコが同じくらい重要な債務者であるとは限らないです。例えば、国際与信残高(国外向けの与信残高)を見ると、スペインは約1.8兆ドル、フランスは約3.8兆ドル、イタリアは0.9兆ドルです。ちなみに、ドイツは約2兆ドルです。

ここで、それらユーロ圏4大国の国際与信残高合計に占めるトルコ向け与信残高の割合を計算してみると、2%にも満たないことが分かります。国別に見てもスペインの4.5%が最大であり、トルコ・ショックがそのまま欧州金融システムを揺るがすような話になるとは考えにくいです。

それでは、全く問題がないのかといえば、そうではありません。というのも、欧州連合(EU)はトルコに対して大きな借りがあるからです。2015年に勃発し「債務危機を超える危機」とも言われる欧州難民危機は今も根本的な解決には至っておらず、正確には解決のめどすら立っていません。しかし、その一方で大きな混乱も招いていません。

シリア難民のEUへのルートは主に3つだが、そのうち2つはトルコを経由している

これはなぜなのかといえば、ひとえにEUとの合意に従ってトルコが難民をせき止めているからです。EUに流入する難民の多くは内戦激化により祖国を飛び出したシリア人であり、トルコ経由でギリシャにこぎ着けてEUに入るというバルカン半島を経るルートを利用していました。そのため、EUとしては何とか経由地であるトルコの協力を得て流入をせき止める必要がありました。

2016年3月18日、ドイツが主導する格好でトルコとの間で成立した「EU・トルコ合意」は非常にラフに言えば、「カネをやるから難民を引き取ってくれ」という趣旨の危うい合意ですが、効果はてきめんでした。少なくとも、その合意がEU(とりわけドイツ)に余裕を与えているのは紛れもない事実です。

なぜこのような条件をトルコがのんだかといえば、日本では意外に知られていないのですが、トルコはEU加盟候補国でもあるからです。


これは裏を返せば、難民危機はトルコひいてはエルドアン政権次第ということです。ここに至るまでの大統領の言動を見る限り、今後、意図的に難民管理をずさんなものにするリスクはないとは言えないでしょう。

いや、故意ではなくともトルコの政治・経済自体が混乱を極めれば難民を管理しきれないという過失も考えられます。どちらにせよトルコがいつまでも欧州のために難民をせき止めてくれる保証はないのです。

率直に言って、EU域内に難民流入が再開するのは非常にまずいことです。そうなった場合、難民流入に不平不満を抱えるイタリアのポピュリスト政権が勢いづくことになるでしょう。ただでさえ、それを切り札として欧州委員会と交渉する雰囲気があるのですから、事態はより複雑になるはずです。

また、10月にバイエルン州選挙を控えるメルケル独政権も難渋することでしょう。難民受け入れのあり方を巡って長年の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)がメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と仲たがいを起こしたことが6月に話題になったばかりです。ここで状況が悪化したら余計に両者の溝が埋め難くなることでしょう。

さらに2019年5月には欧州議会選挙もあります。EU懐疑的な会派をこれ以上躍進させないためにも難民を巡る状況はやはり悪化させるわけにはいかないでしょう。

金融市場ではトルコの国内金融システム混乱がユーロ圏に波及する経路が不安視されていますが、現実的にはエルドアン政権が欧州難民危機ひいてはEU政治安定の生殺与奪を握っている事実の方がより大きな脅威であるようです。

こちらのほうが本質であり、難民危機が再びユーロ圏内を襲えば、そちらのほうがはるかに世界経済に悪影響を及ぼすことになりそうです。

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2017年3月25日土曜日

【トランプ政権】オバマケア代替法案を撤回 最重要公約、政権に大打撃―【私の論評】元々米国では大統領が思うがままに政権を運営できるわけではない(゚д゚)!


オバマケア代替法案の撤回を受けホワイトハウスで対応するトランプ米大統領
写真はブログ管理人挿入 以下同じ
ライアン米下院議長は24日、本会議での採決を予定していた医療保険制度改革(オバマケア)の改廃法案を撤回すると発表した。可決に必要な賛成票を固められなかったためで、オバマケアは当面存続する。オバマケア改廃は大統領選挙での最重要公約だっただけに、就任早々に大打撃を受けた形だ。

 ライアン氏は24日、記者会見で「残念な日になった」と述べて失望を表明。オバマケアの制度が一部で維持されることに不満を示してきた党内強硬派から十分な賛成を引き出せなかったことを認め、「近い将来はオバマケアは存続する」と述べた。

 一方、トランプ氏もホワイトハウスで記者会見し、保険料が上昇傾向にあるオバマケアは「自壊させておけばいい」と述べ、その責任は民主党にあると強調した。また今後は「税制改革に向かうだろう」とした。

 トランプ氏は選挙戦でオバマケア改廃を最重要公約とし、ビジネスで培った「交渉術」で実現させると宣言。改廃法案発表後はライアン氏のほか、下院議員の経験が長いペンス副大統領やプライス厚生長官らも総動員して票固めに躍起となった。しかし賛成票は可決に必要な216人に10人程度届かなかった模様で、共和党議員237人から多くの造反者が出たようだ。

 改廃法案撤回は就任後に目立った成果を残せていないトランプ氏にとって手痛い失敗。さらに共和党もホワイトハウスと上下両院を握りながら悲願のオバマケア改廃を実現できず、統治能力不足を露呈する結果になった。トランプ氏が思うままに政権を運営できるわけではないことが明らかになった形で、今後、支持層のトランプ離れが進む恐れがある。

【私の論評】元々米国では大統領が思うがままに政権を運営できるわけではない(゚д゚)!

オバマケア代替法案は撤回される運びとなりました。オバマケア改廃に関しては、日本ではトランプ大統領が最重要公約としたことと、議会では共和党が僅差とはいえ多数派となっていることから、日本では議会を通るだろうし、通らなければトランプ大統領にとっては、大きな失点でブログ冒頭の記事にもあるとおり、支持層のトランプ離れが進むことを予期した人も多いのではないかと思います。


しかし、私はこれは完璧に間違いであると思っています。まずは、改廃法案の撤回直後の現状はどうなっているのか見てみましょう。

以下にロイターの記事を引用します。
オバマケア代替法案撤回:識者はこうみる
 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
●減税など実行可能な案件に着手可能
<ウェルズ・ファーゴ・アセット・マネジメント(ボストン)のシニアポートフォリオマネジャー、マーガレット・パテル氏>
市場ではトランプ政権が医療保健問題に完全に手足を縛られ、身動きできなくなるのではないかとの懸念が出ていた。医療保健問題がこうした形でクリアされたことで、規制改革や減税などそれほど複雑ではなく実行可能な案件に着手できると、市場では楽観的な見方が出ているのではないか。
これほど複雑で大きな費用が絡む案件が棚上げにされたことはプラス方向の動きのように見える。今後、減税のようにそれほど難しくない案件に歩を進めることができる。 
●議会はトランプ氏の思い通りには動かず
<DRWトレーディングの市場ストラテジスト、ルー・ブライアン氏>
最も重要なのは、トランプ米大統領と議会の関係に関する見方を変えるという点だ。過去数カ月は、議会はトランプ大統領が求めることは何でもやるといった印象があった。しかし、明らかにこうした状況ではなくなるだろう。
以下は、項目だけあげておきます。 
●株価への影響は限定的に

●次の焦点は税制改革、市場は前進好感

●市場反応前向き、道筋明確化に期待
今回の件は、市場関係者らはあまり大きな影響があるとは思っていないようです。しかし、どうしてこのようなことが言えるのでしょうか。それは、市場関係者などなら当然知っているというか常識的なことで、日本では意外と知られいないことがあります。本日はそれについて掲載します。

まずは第一点目として、アメリカの政治は二大政党制であり、今回のように政権交代があったとき、前政権と現政権の政治があまりにも異なった場合、とてつもなく混乱することになります。そのような混乱を避けるため、アメリカの政治では継続性の原則が貫かれています。


継続性の原則とは、たとえ政権交代したとしても、現政権は前政権の政策を6割〜7割は引き継ぎ、後の4割から3割で、新政権の色を出すというような政治手法のことをいいます。

この継続性の原則から、オバマケアはオバマ政権の最重要政策であり、これが政治の継続性の原則から、たとえ政権交代したとても、そのまま引き継がれるのは、不自然なことではありません。むしろ、オバマケアに賛成した人々も多数存在したことから、政権交代したからといつて、すぐに廃止されたのでは、いたずらに混乱を助長することになったかもしれません。

当面は、オバマケアを実施し、はっきりと不都合なことが起こった場合、再度国民に十分に説明をしてコンセンサスを得た上で、オバマケアの改廃案を議会に諮るというというようにしたほうが、混乱を避けることができると思います。

第二点目としては、米大統領は平時には、世界最弱の権力者であるという事実です。この事実は以前から米国内では周知の事実であり、そのため今回のように議会の反対にあって、欠局オバマケア代替法案を撤回せざるをえなくなっても、それですぐに、支持者から統治能力不足などと認識されるわけではありません。

米国の大統領は平時には、世界最弱の権力者であることについては以前このブログでも何度か掲載しました。その記事の一つのリンクを以下に掲載します。
米国議会で高まってきた「日本は憲法改正せよ」の声―【私の論評】米国大統領は平時には世界“最弱”の権力者である理由とは?
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
では米国の大統領は、あらゆる権力を行使できる万能のリーダーなのかというとそうではありません。米国は、厳格な三権分立制度を採用しており、行政、立法、司法の権限が完全に分離しています。行政府の長である大統領は選挙によって国民から選ばれますから、議会に対して責任を負うことなく大統領としての職務を遂行できます。しかし、立法に関する権限は一切持っておらず、大統領は議会が作った法律に従って行政権を行使するしかありません(拒否権を発動することは可能)。 
これに対して日本や英国は議院内閣制を採用しており、首相は国会議員の中から選ばれ、内閣は国会に対して責任を負っています。日本の場合には毎年の予算について、行政府が予算案を提出し、議会はそれを審議するという立場ですが、米国の場合、行政府に予算の提出権はありません。大統領は予算教書という形で要望を議会に告げるだけで、実際の予算に関する権限は議会が握っています。 
また、戦争を遂行する権利も実は大統領は保有していません。米国の大統領は軍隊の最高指揮官ですが、宣戦布告を行う権利は議会に付与されており、大統領が戦争を遂行するには、議会からの「授権」が必要です。このように米国では、三権分立が明確になされてまいす。 
残念なことに、我が国では小学校から大学まで、三権分立が近代法治国家に共通する普遍的な憲法上の原理」であるかのように教えています。それは間違った常識です。
三権分立とは、モンテスキューというフランスの哲学者が、ジョージ3世(在位1760~1820年)時代のイギリスを「おお、三権分立だ、すばらしい!」と勘違いして発明してしまった概念です。
モンテスキュー
本人は「発見」したと思い込んでいましたが、それはモンテスキューの頭の中で作り上げられた妄想に過ぎませんでした。 
三権分立をまともに実行してしまっている国は、世界の文明国の中でアメリカ合衆国ただ1国です。そうして、いつまでたってもモンテスキューの母国でもあるフランスを含む、他の文明国がアメリカの真似をしないのは、三権分立が欠陥制度だからです。 
そうして、アメリカ大統領は「世界“最弱”の権力者」とも言われています。アメリカ大統領が最弱、特に平時には最弱であることは世界の比較憲法学の常識です。ただし、議会が戦争をすることを受け入れた場合には、戦争を遂行するために権限が大統領に集中するようになっています。 
そのため、日本などでは多くの人が戦争時の米国大統領のように、平時でも大統領に強力な権限が集中していると考えるのだと思います。でも現実は違います。米国大統領は、平時には世界で最弱の権力者なのです。ただし、これは米国自体の国力などとは別問題です。あくまで、米国の大統領は、他国と権力者と比較すれば、相対的に権力が弱いということです。
以上のように、モンテスキューの妄想である、三権分立を現在でも信奉してその通りにしている米国では大統領は平時においては、世界最弱権力者なのです。そうして、このような米国でも、平時において最も権力が強いのは司法だといわれています。このような仕組みは、一見良いことばかりのように見えますが、その実平時における変革期などには、足かせになることも多いです。

さらに第三点目としては、米国では大統領選挙の公約をそれも重点公約を全部実行しなくても、さほど避難されることもないという事実があるからです。

たとえば、TPPですが、トランプ氏はTPPを離脱することを公約にあげました。そうして、それを実行しました。しかし、たとえこれを実行しなかったとしても、あまり問題にはならなかったたでしょう。

なぜなら、過去に大統領選においてFTAやEPAに関して、大統領選のときには反対の意思を表明しておきながら、大統領になったらこれを批准した大統領などいくらでも存在するからです。実際、アメリカの大統領選挙の公約は守られないことが、しばしばありますし。だからといって、大きな問題になったこともありません。

以上の三点から、もともと米国では政権交代をしたからといって、極端に変わるということはないのです。もし、政権交代するたびに極端に変わってしまったら、確かに国内は混乱してしまうでしょう。

今回オバマケア代替法案は撤回されましたが、もともと米国では大統領が思うがままに政権を運営できるわけではないので、これだけをもって、トランプ大統領の統治能力が低いとみなすことはできません。また、これは多くの米国民が知っていることです。

そうして、今後はどうなるかといえば、外交や安全保証については、オバマ氏が大統領就任中には、失敗に失敗を重ねてきたことはあまりに明白なので、議会側もあの大失敗を繰り返さないためにも、トランプ大統領に賛成する率が高いです。

オバマ氏の八年間の変化
さらに、オバマの経済対策については、確かに金融政策は成功しましたが、それでも国民の不満はつのり、これは最悪期からの回復が均等に起こらなかったことと関係ありそうです。暴落した株式や不動産の急回復で富裕層の資産価値や所得は大きく好転しました。半面、多数の一般の人々は、V字回復から取り残されました。求職活動そのものをあきらめてしまった人、二度と持ち家に住めなくなった人も少なくありません。

オバマ氏自身、さよなら演説で認めたように、回復から取り残された人々は、政府は強者しか相手にしない、と不信感を募らせたのでしょう。

そのため、議会も経済面においてもトランプ大統領に期待するところが大きいと思います。特に減税には、大きな期待を寄せているようですから、きっとこの政策には賛同すると思います。

以上から考えれば、オバマケア代替法案の撤回をもって、トランプ大統領の統治能力不足を懸念するには、全くあたらないと思います。もっと長い目で見る必要があります。

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2016年7月22日金曜日

日本経済に打撃を与えた日銀「ダメな会議」 首相は10年前に“目撃“していた―【私の論評】政策決定会合に馬鹿な会議をやらせないために、日銀法を改正せよ(゚д゚)!

日本経済に打撃を与えた日銀「ダメな会議」 首相は10年前に“目撃“していた

量的緩和政策を解除した金融政策決定会合後、記者会見する福井俊彦・日銀総裁 (2006年3月9日)
 日銀は2006年3月8、9日の金融政策決定会合で量的緩和政策を解除した。性急にマネタリーベース(日銀が供給する通貨)を減少させた結果、リーマン・ショックを迎える前の段階で、日本経済は伸びなくなっていた。

 この失敗は、海外の中央銀行ではよく研究されている。06年1~6月の決定会合の全発言を記録した議事録が公表されたことで、その失敗がどのように決定されたがわかる。

 量的緩和を解除するかどうかの大きな判断材料となったのが、総務省が所掌する消費者物価統計(全国、除く生鮮食品)だが、06年1月の数字は3月の政策決定会合の前に公表され、前年同月比0・5%だった。問題はこれを、解除の条件となる「安定的にゼロ%以上」とみるかどうかだった。

 筆者は当時、総務大臣補佐官を務めていた。消費者物価統計は5年ごとに改定されるが、その年の夏には改訂作業を行う予定だった。この改訂作業は、各品目のウエートを消費家計調査などから見直すというものだ。

 その夏に行う作業の大半は3月時点で分かっているので、改訂の結果、1月の0・5%がどのように見直されるかは予測ができた。筆者の見立ては、改訂によって0・4~0・5%程度下がるというものだった。

 これがいわゆる物価の「上方バイアス」である。価格の高いモノは消費が抑制されるが、物価統計では過去の高いウエートで計算されるので、見かけの物価が高く算出される。

 筆者は、1月に0・5%といっても安定的にゼロ以上とはいえないと当時の竹中平蔵総務相に訴えた。竹中氏は量的緩和解除に反対し、中川秀直自民党幹事長も反対だった。当時の小泉純一郎政権内では、与謝野馨経済財政相が賛成だった。

 結果として、日銀は量的緩和を解除した。その様子を見ていたのが、当時の安倍晋三官房長官だった。後日、安倍氏は「高橋さんたちが正しかったね」と話していた。

 ちなみに、消費者物価は、その夏に改定され、1月の数字はプラス0・5%からマイナス0・1%になった。

 筆者は、06年3月の政策決定会合の様子について、政府内にいたので知っていたが、正式な議事録が公表されていなかったので言及できなかった。今回、議事録が公表されたので、はっきり言うことができる。当時の決定会合では、消費者物価の1月の数字について、誰も疑問を呈していなかったのだ。これは「ダメな会議」の典型である。

 筆者は当時、1月の数字がプラスとはいえないことを竹中総務相を通じるなど、あらゆるチャンネルで政府内はもちろん日銀にも伝えた。消費者物価統計を所管する立場であれば当然のことだ。しかし、はじめに結論ありきだったのだろうか、ことごとく無視されていたことが、議事録で確認できる。

 議事録では、早川英男調査統計局長が「しばらく前に私どもは今回基準改定の影響は0・1%~0・2%であろうと申し上げた」とあるが、結果として的外れだった。

 この失敗は日本経済に打撃を与えたが、安倍首相が何が正しかったのかを知るよい教訓となったことが救いだった。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政策決定会合に馬鹿な会議をやらせないために、日銀法を改正せよ(゚д゚)!

上の記事で、2006年当時の状況ならびに、馬鹿な会議と高橋洋一氏が呼んでいるその内容議事録を掲載します。
日銀は2016年7月15日、2006年1月から6月に開かれた金融政策決定会合の議事録を公表しました。当時は物価がマイナス圏からプラスに浮上し、株価も上昇、2001年に始めた量的緩和政策をいつやめるかが焦点でした。 
米国経済の減速懸念などもあるなか、政府からは当時の安倍晋三官房長官を中心に早期終了を強くけん制する声が出ていましたが、福井俊彦総裁らが早期終了にまい進する姿が浮き彫りになりました。 
当時の日銀は現在と同様、金利ではなく日銀のバランスシートを増減する量的緩和政策を行っていました。現在と異なり満期の短い金融資産の買い入れが主体だったのですが、政府の為替介入と平そくを合わせたことで円安・株高を演出する効果が評価されていました。 
もっとも、2004年の追加緩和で目標額を30兆─35兆円に引き上げた後は、追加緩和の限界も意識され、政策の方向転換が時間の問題となっていました。 
当時も政策運営の目安であった消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は2005年2月に前年比0.4%のマイナスまで落ち込んでいたのですが、05年10月以降ゼロ%近辺で安定し始めていました。物価のプラス転換も量的緩和解除の議論を勢いづかせていました。 
<海外からの円安けん制、福井総裁が指摘> 
1月の会合で福井俊彦総裁が「国際会議に出ていて感じることは、円の為替相場が安くなり過ぎると、これを単純にエンジョイするのかというような感覚は、そこはかとなく共通の認識となっている」と発言していました。 
量的緩和は円安誘導策との批判が海外で出ていることを暗に伝えているような発言がありました。円安を背景としたキャリートレードに関し、高金利国から「迷惑がかっている」と言われていたことも指摘しています。 
もっとも株式市場では1月、証券取引法違反容疑で、東京地検特捜部がライブドア本社などに強制捜査に入ったことを受けて株価が暴落。政府側は拙速な量的緩和終了をけん制していました。 
量的緩和終了に踏み切った3月の会合で、政府側出席者の赤羽一嘉・財務副大臣は「デフレに逆戻りすることがないよう責任を持って、金融面から経済を支えていただきたい」とクギを刺しています。 
ただ、日銀の福井総裁は「株がおかしくなりそうだから、量の調節を手加減するという概念はないのではないか」と強気の姿勢を示しました。 
もっとも政策委員の中でも「日銀は元々余裕を持って対応すると言ってきたのに、なぜそんなにここにきて急ぐのかという声があるのは事実。市場との対話が必ずしも円滑に進められてきたとは言い難い」(中原真委員)と、緩和解除は時期尚早との異論も出ました。 
<解除で非難浴びる覚悟必要━福井総裁> 
日銀が苦慮したのが、市場との対話でした。市場が4月末会合での量的緩和解除を織り込む中、福井総裁らは2月会合で、3月終了を織り込ませようと苦慮していました。「市場の期待形成に気になる点がある」「少なくとも4月まで解除はないと取られるような発言は、慎むべきである」(須田美矢子委員)との声が出ていました。 
福井総裁は「マーケットで予断をもって臨んだ人が損をした結果、我々に非難を浴びせるが、そのコストは我々が被るという覚悟は、ある程度必要でないだろうか」(2月会合)と述べ、リスクを伴う決断に踏み切る姿勢をにじませていました。 
<インフレ目標導入圧力に苦慮> 
日銀は3月会合で量的緩和解除と同時に、その後の政策運営の指針として望ましい物価の水準を「中長期的な物価安定の理解」として公表しました。
現在の黒田日銀が掲げる物価安定目標の遠い祖先です。当時の日銀関係者の多くは一度掲げると政策運営を自動的に縛るとして警戒。妥協策として「理解」が誕生する様子が浮かび上がります。 
委員らの間では、量的緩和終了後の金利形成に指針を与えるために「望ましいインフレ率について、事実上ある種のコンセンサスが必要」(中原真委員)との意見が増えました。 
しかし、須田委員は、物価目標を掲げても金融政策は最終的に総合判断が必要と強くけん制。「増税や歳出削減が難しいとなると、政治的なそれをインフレタックスに求めがちである。そうすると政治サイドから出てくる物価目標は、自ずと高いものになりがち」(2月会合)と、物価目標の提示と政治サイドからの「情報発信」による複雑な現象を分析するような発言もありました。 
<妥協の産物『物価安定の理解』に異論百出> 
委員らの間で望ましい物価水準が異なることも、議論を複雑にしました。西村清彦委員は0.8%プラスマイナス0.5、岩田一政副総裁が1─2%、水野温氏委員が0.5%ぐらい、中原真委員が1─2%ただし当面スタートとしては0.5─1%ぐらいを挙げました。須田美矢子委員は「中長期的に見て物価が安定していると理解する物価上昇率の中心値はゼロに近いプラス」としていました。 
福井総裁も「数値というのはなかなか皆さん幅があって、一文では表しがたいところがある。ゼロ─2%ということであれば、各委員のご理解の範囲と非常に大きく離れているということはない」としたうえで「わたしはやはりゼロ─2%。少し絞れば0.5%─1.5%。中心値は1%以下である」。武藤敏郎副総裁は「私自身はゼロ─2%といっても、ゼロと2%を含まないイメージ」「1%前後で分散しているぐらいは言わないと、せっかくやるにしてはあまりに透明性が低過ぎないか」と総括しました。 
「物価安定の理解」との表現をめぐっても、異論が百出しました。福井総裁は「これはターゲットではないし、ルール・ベースのマネタリー・ポリシーをやる訳でもなく、新しいものだということを伝えなければならない」と力説しました。 
だが、「理解という名前、少しわかりにくい。できれば『望ましい物価上昇率』という言葉が使えればよい」(春英彦委員)、「『理解』という言葉の意味が、そうでなくとも分かりにくい。せっかく公表したものの、持つ意味がかえって市場等に混乱をもたらしてしまうのを避けなければならない」(須田美矢子委員)など異論が飛びかいました。 
<きっとうまくやれる─福井総裁> 
量的緩和解除で警戒された金融市場の大きな混乱は回避されたものの、その後の市場の関心は、ゼロ金利解除のタイミングと利上げペースに集中しました。景気が日銀の見通しに沿って回復を続ける中、日銀が「極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持できる」と強調しているにもかかわらず、市場の思惑は広がっていきました。 
早くも06年度内に複数回の利上げを織り込むなど、中期ゾーンまでの金利が不安定化し、長期金利も上昇。量的緩和解除後で初めてとなった4月10、11日の会合では「やや過剰な織り込みだ。今後の市場との対話によって、場合によっては修正する、あるいはそもそも対話の姿勢を極めて慎重なものとする必要がある」(中原委員)など市場とのコミュニケーションに苦慮する委員の様子がうかがえました。 
こうした議論を踏まえ福井総裁は「きっとわれわれは、うまくやっていける」と述べました。 
その後は、日銀による慎重な情報発信の徹底が奏功し、市場の過度な織り込みは沈静化に向かいました。 
一方で景気回復が続き、当座預金の超過準備の縮減が順調に進む中、ゼロ金利解除を意識した発言も出始めました。 
5月18、19日の会合で、須田委員は「展望レポートのシナリオから下振れているということでなければ、その時にはすぐにゼロ金利を解除するのが望ましい」と言及。 
次の6月14、15日の会合で、水野委員は「経済のファンダメンタルズからみれば、7月を待たずに今回の決定会合でゼロ金利を直ちに解除できる要件は整っているように思う」と発言。0.25%の利上げに踏み切る7月会合に向けて、環境が整備されていきました。
結局のところ、ブログ冒頭の高橋洋一の記事にもあるように、 物価の「上方バイアス」を無視した結果、当時の日銀政策決定会合では、消費者物価の1月の数字について、誰も疑問を呈していなかったのです。これは本当に「ダメな会議」の典型です。

そうして、以上からわかるように、福井総裁は量的緩和解除に邁進していたことが良くわかります。

そうして、日銀は日本経済がまだ、完璧にデフレから脱却していないにもかかわらず、デフレから脱却したものと判断して、金融緩和を打ち切りとんでもないことになりました。

福井総裁の後は、ご存知のように白川氏が、日銀総裁となりましたが、白川も福井総裁とかわらずどころか、量的緩和解除どころか、何が何でも、金融引き締めをするという方針を貫き通しました。

そのおかげて、日本経済はせっかく2006年当初には、景気が良くなりかけていたにもかかわらず、デフレスパイラルの泥沼に陥り、国内でモノは売れず、国外では超円高で、輸出企業が大変目にあいました。

そうして、2008年にはあのリーマン・ショックを迎えることになります。リーマン・ブラザーズの破綻により、アメリカやEUなどは景気が停滞しました。しかし、これらの国々では、中央銀行がこれに対処するため、徹底した金融緩和策を実行しました。

そのため、米国はリーマン・ブラザーズの破綻による影響を直接蒙り、EUも米国のサブプライムローンなどかなり取引をしていたので、かなりの悪影響を受けにもかかわらず、徹底した金融緩和のおかげて、比較的早く立ち直ることができました。


しかし、他国が量的緩和をするなか、日銀は量的緩和解除の姿勢を変えることなく、何もしなかったため、さらにデフレ・円高が進行し、日本経済はとんでもない状況に陥り、他国にはない和製英語であるリーマン・ショックという言葉が用いられることになりしまた。世界の中で、このショックから一番遅く立ち直ったのは、日本という有様でした。

日本では、当時証券会社などで、サブプライムローンなど扱うような余裕もないくらいだったので、本当は一番影響が少ないはずでした。にもかかわらず、リーマン・ショックという和製英語がつくられくらい、その悪影響をもろに被りとんでもないことになりました。

もし、リーマン・ブラザーズが破綻した直後に、他の国々が金融緩和に走る中、日銀も大規模な金融緩和を実行していれば、多少経済が停滞したにしても、リーマン・ショックと呼ばれる程の痛手を被らなくてもすんだと思います。

そのため、私はリーマン・ショックという言葉を用いるのは適当ではないと考えたため、このブログでは、リーマン・ショックではなく日銀ショックと呼ぶことにしています。このことについては、以前のこのブログに掲載したことがあります。

2008年リーマン・ブラザーズ破綻 取り外された看板
私自身は、確かに2006年当時の日銀金融政策決定会議は、ブログ冒頭の記事で高橋洋一氏が述べているように馬鹿な会議だと思います。

とはいいながら、人間とは間違うこともあるものです。しかし、2006年で判断ミスをしたとしても、2008年にサブプライムローンの破綻によるリーマン・ブラザースの破綻の直後他国が気合を入れて、金融緩和に走った後まで、大規模な金融緩和に踏み切らなかったことは本当に愚かだと思います。

そうして、そのような決定をさせなかったのは、無論当時の日銀政策決定会議の結論です。これこそ、本当に大馬鹿会議です。

このようなことは二度と繰り返すべきではありせん。そもそも、日本では、日銀法が改悪され、日本の金融政策の目標が大馬鹿会議であった日銀政策決定委員会という会議で決定されるというのが異常です。

どんな時でも、金融引き締めの姿勢を崩さなかった白川前日銀総裁
これは、あくまで政府が決定するべきです。実際、他国では中央銀行や中央銀行の委員会で自国の金融政策の目標を定めることはありません。目標を定めるのは、あくまで政府であり、中央銀行はその目標を実現するため、専門家の立場から、方法を自由選べるというのが、標準です。

そうして、他国では、中央銀行が専門家的立場から、政府が決定した金融政策の目標を実現するために、自由に方法を選ぶことができるというのを、中央銀行の独立性としています。

しかし、日本では、なぜか日銀が日本国の金融政策の目標を定めることになっています。これは、異常です。

今後、これを改め、日本国の金融政策の目標は、あくまで国民によって選ばれた、議員による政府が定めるようにすべきです。

そうでなければ、馬鹿な会議をした過去の政策決会合のように、また馬鹿な会議をして、愚かな決定をすることもあり得ます。

それだけは、絶対に避けるべきです。そのために、日銀法を一日も早く改正すべきです。

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2014年10月24日金曜日

女性閣僚ダブル辞任と政権の行方 打撃大きいが遠い「危険ライン」 ―【私の論評】女性閣僚辞任で、増税10%はさすがにやばいと感じ始めた、自民党増税推進派? 怖いのは下野することだけ?自己判断できないあまりの情けのなさに泣けてくる(゚д゚)!


辞任を表明した小渕優子経産相


小渕優子経済産業相と松島みどり法相が20日、ダブル辞任した。後任はそれぞれ宮沢洋一氏と上川陽子氏となった。これまで閣僚辞任はなかった第2次安倍晋三政権にとって、大きな打撃であることは間違いない。

思い起こすと、8年前にスタートした第1次安倍政権では、閣僚の辞任が相次いだ。

松岡農水相の時は、辞任が遅れた結果として自殺に追い込まれたからか、その後は問題が少しでも出ると辞任というパターンだったようだ。

今回は、看板女性閣僚のダブル辞任なので、政党支持率は10ポイント程度落ちるかもしれない。現在50%台の内閣支持率なので、40%台になる可能性は大きい。だが、直ちに政権の危険水域というわけでもない。特に、野党支持率が低いので、自民党支持率はあまり低下しない可能性もある。

そうなってくると、「青木(幹雄元参院議員)の法則」として有名な「内閣支持率+与党第1党の政党支持率」は今の90%台から70%台になるかもしれないが、まだ危険ラインの50%まで、のりしろがある状態だ。

一方、後任人事では、宮沢氏に注目だ。筆者は旧大蔵省時代に同じ局で仕事をしたこともあり、個人的によく知っている。華麗な閨閥(けいばつ)の人だ。岸田文雄外相はいとこ。

当然のことながら、宮沢洋一氏は「ミスター財務省」とも言うべき存在で、増税派の急先鋒(せんぽう)だ。「この宮沢氏を閣僚にしたのだから、安倍首相は消費再増税に進む」という見方があるが、どうだろうか。

筆者は、谷垣禎一氏の幹事長就任について、消費税は「予定通り増税」と「増税延期」の二股の両面作戦だとみた。今回の宮沢氏起用も、谷垣幹事長と全く同じ構図だと思う。予定通り増税であれば、谷垣氏と宮沢氏にそのまま仕事をさせて、みていればいいし、もし増税延期に舵を切ったとき、反対勢力が身近にいれば抑えが利くので対応が簡単になる。

さらに、法人税減税についても、党税調や財務省の抵抗があるが、宮沢氏であれば、党税調のインナーであったし財務省の説得も容易になるという短期的なメリットもある。

政治とカネの問題になると、政策が止まるために国民としてロスにもなるが、安倍政権は転んでもただで起きずに、次の手を打っているようだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

この記事は要約記事です。詳細はこちらから(゚д゚)!

【私の論評】女性2閣僚辞任で、増税10%はさすがにやばいと感じ始めた、自民党増税推進派? 怖いのは下野することだけ?自己判断できないあまりの情けのなさに泣けてくる(゚д゚)!

再増税に関しては、再増税推進だったのが、最近は風向きが変わってきました。上の記事で高橋氏が主張しているように、安倍政権は、転んでもただで起きずに、次の手を打っているのかもしれません。

増税の風向き変化については、やはりアメリカのルー財務長官の発言が影響しているのは間違いないと思います。それについては、このブログでも、以前掲載したことなので、その記事のURLを以下に掲載します。
消費増税 米もダメ出し 財務長官が「失望」表明―【私の論評】日本のマスコミが伝えない真実!ルー米財務長官吠える!日本の増税DQNどもをそのまま放置するな(゚д゚)!
日本の経済政策に失望を表明したルー米財務長官

詳細は、この記事を読んでいただくものとして、日本の世界における最大のパートナーであるアメリカの財務長官がこのような発言をしているわけですから、さすがに増税派も「国際公約がー」などとは言えなくなったのだと思います。

これは、間違いなく麻生財務相にも影響を及ぼしています。

麻生氏、国際舞台でも、「再増税は国際公約」とは、言わなくなりました。それに関しては、このブログにも掲載したことがあるので、その記事のURLを以下に掲載します。
日銀総裁「経済状況反映した円安はプラス」、財務相は為替に沈黙―【私の論評】今の水準で"円安ガー"、"円安でも輸出ガー"と叫ぶ人は現実を見ていないただの馬鹿か、あるいはスパイかのいずれかである(゚д゚)!
日銀黒田総裁
これも詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の一部分のみ以下にコピペさせていたたぎます。

麻生太郎財務相と黒田東彦日銀総裁は10日、ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後に記者会見した。麻生財務相は為替についてはコメントを避け、沈黙した。
一方、黒田日銀総裁はファンダメンタルズを反映した円安はプラスとの見解を示した上で、日銀と政府の間に円安の影響について温度差はないことを強調した。
黒田総裁は、世界景気の停滞感やさまざまな要因で原油価格など国際商品が下落傾向にあるなか、「日本は巨額の石油輸入国であり、原油価格の下落は日本経済にとってプラス」との認識を示した。
ただ、今回のG20では米国のルー財務長官が日本について「日銀がデフレサイクルを解消しつつあり、日本は慎重に財政健全化のペースを調整する必要がある」との見解を表明。これに対し麻生財務相は「金融政策だけではデフレを脱却できない。財政刺激も必要というのは日本は経験済み」と述べた。
ルー財務長官の、日本の再増税に関する失望表明があったばかりなので、さすがに麻生氏も、日本の再増税は「国際公約」などと大見栄は切れなかったのだと思います。

そうして、これに引き続く麻生総理の最近の発言を以下に掲載します。麻生財務相は、2人の女性閣僚が辞任したことが、消費税増税にも影響を与えるかもしれないという懸念を表明しています。

以前の麻生財務相なら、「女性閣僚のあいつぐ辞任があっても、増税はすでに決まったことなので、必ず実行する」という旨をはっきりと発言したでしょうが。そうではありませんでした。

財政運営に万全期していきたい=麻生財務相
麻生太郎財務相は21日、閣議後の会見で、第2次安倍改造内閣が発足してから2カ月足らずの間に2人の閣僚が辞任したことについて、本当に残念だと述べ、経済財政運営に万全を期していきたいと語った。 
「政治とカネ」の問題で相次ぐ閣僚の辞任は安倍政権にとって大き打撃とみられる。政治への信頼がなければ、消費税率引き上げなど、国民が痛みを伴う負担増への理解も得にくい。 
年末に迫る消費税率再引き上げ判断への影響について、麻生財務相は「基本的には12月に経済指標を勘案して考える」と繰り返し、「今回のことがどういう形で消費に影響するか、いろいろな形で影響する面は出てくる可能性はある。そうしたものを勘案しながら、判断していく」と述べた。 
中国・北京で21日から開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)財務相会合では、アベノミクスの進ちょく状況などについて説明すると語った。中国要人との会談については「今、決まったものはない」とした。
さらに、以下のツイートにもみられるように、あの東京新聞ですら、再増税に対する懸念を表明しています。

この東京新聞の記事は、ウェブ版でも掲載されましたので、その記事のURLを以下に掲載します。
消費税再増税反対72% 「12月の判断先送りを」

本社加盟の日本世論調査会が九月二十七、二十八日に実施した全国面接世論調査で、来年十月に予定されている消費税率10%への再増税に反対する人が72%に上り、賛成の25%を大きく上回ったことが分かった。安倍晋三首相は予定通り再増税するかどうかをことし十二月に決めるが、景気に配慮して判断時期を先送りするよう求める声も出ている。

四月に税率が8%に上がった後、家計のやりくりが厳しくなったと感じている人は「ある程度感じている」を含めて82%に達した。財政再建の必要性に一定の理解を示す意見もあるが、再増税でさらに負担が増すことへの懸念が強い。

税率8%への増税が決まる直前の昨年九月に実施した共同通信社の電話世論調査では、賛否がほぼ並んでいた。これと比べて再増税への反対論は広がっており、消費低迷も続く中、首相は難しい判断を迫られている。

再増税に反対するのは、男性が68%だったのに対し女性は77%で、主婦などが家計の厳しさをより強く感じているようだ。大都市よりも小都市や郡部で反対が多いとの傾向も出ている。

反対する理由は「低所得者の負担が重くなり過ぎる」が49%で最も多く、「景気に悪影響を与える」が19%で続いた。賛成する理由は「年金・医療などの社会保障制度を維持するため」が52%と最も多かった。

反対した人に政府がどうするべきか聞くと「十二月には判断せず、景気動向を見極める」が46%で最多だった。一方「再増税は実施しない」は26%にとどまり、将来的な再増税の必要性を感じている人も多いようだ。

四月の増税前と比べて「消費を控えている」と答えた人は41%だった。再増税時の負担軽減策では、生活必需品の消費税率を低くする「軽減税率」の導入が60%でトップだった。

日本経済の先行きに対する不安を「大いに感じている」「ある程度感じている」とした人は計89%に上る。その理由は「少子化と人口減少が進む」が53%を占めた。

原発の再稼働に関しては賛成が34%、反対は61%だった。環太平洋連携協定(TPP)交渉で政府が年内の大筋合意を目指していることに対しては、「妥当」との見方と「急ぎ過ぎ」との意見が拮抗(きっこう)している。
さて、上の東京新聞の記事において、再増税に関するアンケートの中でも賛成の理由として、最も多かったのは、 「年金・医療などの社会保障制度を維持するため」というもので、52%を占めたとしています。

しかし、これは、財務省キャンペーンにより、世論が操作されたことの結果であると思います。これに関しは、高橋洋一氏が以下のようなツイートをしています。
さらに、高橋氏は以下のような記事も掲載しています。
上の高橋洋一氏のツイートの記事など、読まれていない方は、リンクが掲載されているので、是非ご覧になって下さい。

それにしても、麻生財務相などの発言など上の記事などを参照した上で、良く考えてみると以下のようなことが考えられます。

いわゆる自民党内の増税推進派など、結局、国民のためを考えてというより、まずは、アメリカ側からの再増税に対する失望の表明があったこと、さらには、女性閣僚の相次ぐ辞任で、自民党政権への支持率が減ることなどのことから、もし今回増税すれば、支持率が格段に減って、場合によっては、自民党が下野することにもなり得るという恐怖感から増税は不味いかもしれないと考え始めているのではないかと推測できます。


しかし、こんなことはでは、本当に情けないです。上の記事をみると、財務省は、消費税の再増税をしないとまずい事がおこるぞと恫喝しています。

このブログでは、最近、財務省は、殺人・詐欺マシーンに成り果てたと酷評しました。この高橋氏による恫喝という表現も加えると、最早財務省はまともな官庁ではなく、殺人・詐欺・恫喝マシーンと成り果てたということです。

2008年11月05日 トリンプ・インターナショナル・ジャパンが発表した
「裁判員制度ブラ」(非売品)。ブラはてんびんとしても使用することができる
今、自民党の再増税推進は、殺人・詐欺・恫喝マシーンの再増税すべきという言い分と、再増税すれば下野することになるかもしれないという恐怖とを両天秤にかけています。

どちらの、ほうに天秤が傾くかは、今では判然とはしませんでしたが、少し前までなら、ためらわず、再増税のほうに傾いたことでしょう。

殺人・詐欺・恫喝マシーンも不味いですが、それに影響され、国民生活など二の次になってしまう、自民党の増税推進派も、困りものです。この程度の判断もつかないようなら、政治家をやめて永久に下野しろといいたいです。

これでは、あまりにも反応遅すぎるし、自己判断できない情けのなさに泣けてきます。まずは、国民のこと日本社会のことを考えるのが国会議員というものてはなかったのですか?

それにしても、安倍総理はこういうこともしたたかに利用しようとしているのかもしれません。女性閣僚の相次ぐ辞任と、再増税で経済がガタガタになれば、下野もありうるという恐怖を徹底的に煽って、財務省の再増税キャンペーンを打ち砕く腹ではないかと思います。

本当、下野してしまえば、利権もなにもほとんどなくなりますから、これは政治屋にとっては本当に怖いことです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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