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2023年2月2日木曜日

チェコ下院議長、3月末に台湾訪問へ 呉外交部長、協力の推進に意欲―【私の論評】チェコがとうとう挙国一致で、台湾を応援できる日がきた(゚д゚)!

チェコ下院議長、3月末に台湾訪問へ 呉外交部長、協力の推進に意欲


呉釗燮(ごしょうしょう)外交部長(外相)は1日、チェコのマルケタ・ペカロワ・アダモワ下院議長とテレビ会談を行い、台湾とチェコの友好関係を確認した。外交部(外務省)によるとアダモワ氏は3月末に台湾を訪問する予定で、呉氏は歓迎の意を伝えたという。

外交部によれば、会談は約20分間行われ、国立故宮博物院とチェコ国立博物館との協力や産業面での連携、権威主義の脅威への対応など幅広い分野で意見交換した。呉氏はチェコが台湾と同じ価値観と理念を分かち合い、ウクライナを支持・支援していることに感謝を示し、台湾は今後も民主主義の価値を堅持するとした上で、チェコとの協力推進の継続に意欲を示した。

アダモワ氏は訪台について強い期待を表明した他、蔡英文(さいえいぶん)総統が先月30日、チェコ大統領選で当選したペトル・パベル元北大西洋条約機構(NATO)高官と電話会談したことに触れ、チェコの台湾に対する支持と民主主義陣営団結の力を際立たせたと強調。台湾との友好関係のさらなる推進と深化に期待を寄せ、ウクライナの戦後復興でも協力の機会などがあると信じると述べた。

【私の論評】チェコがとうとう挙国一致で、台湾を応援できる日がきた(゚д゚)!

上の記事にもあるように、チェコでは1月、現職のゼマン氏の任期満了に伴う大統領選挙が行われ、NATO=北大西洋条約機構の元高官のパベル氏が当選しました。

日本のメディアでは、この事実が淡々と報じられるだけで、この新大統領の登場が何を意味するのか、とりわけチェコと台湾に関係にとってどのような意味を持つのか報道されません。そのため、本日にこれに関して掲載します。

チェコ・台湾関係というと、コロナが猛威を振るっていた2020年8月にチェコは台湾に90人の代表団を送っています。これについては、このブログでもその内容を紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
チェコ上院議長が台湾到着 90人の代表団、中国の反発必至―【私の論評】チェコは国をあげて「全体主義の防波堤」を目指すべき(゚д゚)!

   台湾北部の桃園国際空港に到着したチェコのビストルチル上院議長(中央)と
   出迎えた呉●(=刊の干を金に)燮外交部長(右)=30日

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。

まずは、元記事から引用します。
 東欧チェコのビストルチル上院議長(ブログ管理人注:現在も現職)を団長とし、地方首長や企業家、メディア関係者ら約90人で構成される訪問団が30日、政府専用機で台湾に到着した。台湾と外交関係を持たないチェコが中国の反対を押し切り、準国家元首級の要人が率いる代表団を台湾に派遣したのは初めて。国際社会での存在感を高めたい台湾にとっては大きな外交上の勝利といえるが、中国が反発するのは必至だ。

 チェコ上院議長の訪台をめぐっては、ビストルチル氏の前任のクベラ氏が昨年に訪台を約束したが、中国大使館から脅迫され1月に急死した。ビストルチル氏は上院議長就任後、何度も「クベラ氏の遺志を引き継ぐ」と表明していた。
この記事の【私の論評】から引用します。

親中的な現職ゼマン大統領
チェコ側も2013年に親露的でもある、ゼマン氏が大統領に就任して以後、対中関係の強化を図ってきました。ゼマン氏は訪中を繰り返し、2015年に中国が戦争勝利70周年記念の軍事パレードを実施した際も、欧米諸国のほとんどが国家元首出席を見送る中、北京に赴いて、中国との親密ぶりをアピールしました。
簡単に言ってしまうと、元々はチェコ政府は、親中的だったのですが、中国に反対する勢力が増大し、2020年にはチェコの憲法で大統領に次ぐ地位とされる上院議長のビストルチル氏をはじめとするチェコの議員団が90人も台湾を訪問したわけです。

そうして、大統領が新台派のペトル氏に変わることが決まってから、今度は下院議長のアダモワ氏は3月末に台湾を訪問する意向を表明したのです。おそらく、20年当時のように、下院の議員団も訪問するのではないかと考えられます。

台湾総統府によりますと、パベル次期大統領と蔡総統が先月30日夜、電話会談を行いました。

蔡総統はパベル氏の当選を祝福したうえで「台湾は、半導体設計や先端科学技術の人材育成、世界的なサプライチェーンの再構築などの分野で、チェコと協力を深めたい」と述べたということです。

次期大統領ペトル・パベル元北大西洋条約機構(NATO)高官

パベル次期大統領は会談後、ツイッターに「台湾とチェコは自由と民主主義と人権の価値観を共有していることや、将来、蔡総統と対面する機会を持ちたいことを伝えた」と投稿しました。

チェコは中国と国交を結び、台湾とは外交関係がありません。

こうした国の次期大統領が台湾の総統と電話会談するのは異例です。

ヨーロッパでは、中国の人権問題に対する懸念や、当初期待したほどの投資効果が得られないことなどを理由に、中国と距離をとり、代わりに半導体など先端技術で存在感を増す台湾との関係を深める動きが出ています。EUでも西側の諸国では、はやくからそのような動きをしていましたが、チェコを含む東欧諸国が当初中国の一帯一路による投資を歓迎しましたが、ここ数年はこれに離反するようになりました。

大統領がペトル氏に変わることで、チェコは国をあげて台湾を応援する国になったといえます。2020年当時のこのブログで、私が主張した通りになったということで、本当に良かったです。

先日、このブログにも掲載したように、最近では中国の南太平洋における動きが活発になっています。

中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南アジアの島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

実は、中国はチェコも含む一帯一路による投資などで、東欧で似たよう動きをしていました。しかし、今では多くの国々が離反しています。

どうしてこのような動きになるかといえば、やはり経済に着目すべきと思います。特に一人あたりのGDPに着目すへきです。

上のグラフをご覧いただけると、2021年のチェコの一人あたりのGDPは2万ドル台です。これは、先進国から比較すれば、低いですが、それでも中国の1万2千ドルの倍以上です。

しかも、中国の経済統計はデタラメで、本当は1万ドル以下とみたほうが妥当です。このような国が、チェコなどに投資して成功する見込みはほとんどありません。

なぜなら、チェコ政府が中国の一帯一路などを当初歓迎したのは、それによって国民一人ひとりが豊になることを期待したのでしょうが、一人あたりGDPが低い中国には元々そのようなノウハウはありません。幹部とそれに連なる幹部が豊になるノウハウを持っているだけです。

チェコの一人あたりのGDPは2000年代頭までは、1万ドルを切っていましたが、現状では2万ドルを上回っています。1万ドルだった時代には、中国の投資は魅力的にみえたのでしょうが、自力で2万ドルを越してしまった後では、魅力も薄れたのでしょう。

それと第二次世界大戦前までは、チェコは議会制民主主義が機能しており、工業化も進んでおり、米国と並ぶくらい豊な国だったのが、英仏などが当時のナチス・ドイツに対して宥和政策を取ったがゆえに、ドイツに蹂躙され、占領され、戦後はソ連の衛星国となり、全体主義に翻弄された悲惨な経験があるということもあるでしょう。

一方、南太平洋の島嶼国は、未だ一人あたりのGDPが1万ドル以下の国が多く、中国の投資を魅力的に感じる国も多いことでしょう。東欧で一帯一路に失敗した中国は、ここしばらくは、軍事的にも重要な、南太平洋に注力することでしょう。

それにしても、今回チェコが挙国一致で、台湾を応援できる体制になったことは、まことに喜ばしい限りです。いずれ、チェコ大統領が台湾を訪問するというような、歴史の1ページを飾るようなイベントが催されるかもしれません。今から楽しみです。

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2023年10月25日水曜日

中国「一帯一路」の現状と今後 巨額な投融資の期待が縮小 債務返済で「あこぎな金融」の罠、世界の分断で見直しに拍車―【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

高橋洋一

まとめ
  • 一帯一路は当初の期待に沿った成果を上げていない。
  • 先進国からの参加は減少しており、中国からの投資も低下傾向にある。
  • 中国経済の失速や米中対立の激化なども、一帯一路の進展を阻む要因となっている。
  • 中国は債務返済が困難になった国の救済に消極的であり、一帯一路の評判は低下している。

一帯一路の国際フォーラムで演説をする鳩山元首相

 中国は10年前に提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」の10周年を記念して国際フォーラムを開いた。中国はこれまでの実績を強調したが、出席者は先進国の代表団が減少し、グローバルサウスが中心だった。

 また、中国は「一帯一路内の貿易額が増加している」と主張するが、実際には投資額はピーク時の2015年以降減少している。さらに、中国経済の失速や米中対立、中露接近も一帯一路への関与を冷え込ませている。

 特に、中国経済の失速と米中対立は、一帯一路の今後にとって大きなマイナス要因となると考えられる。

 中国は債務返済が困難になった国への救済にも消極的であり、スリランカは中国の「あこぎな金融」の罠にはまった例とされている。日本はスリランカ債務問題について中国抜きで協議を開始しており、中国の思惑どおりに進んでいないことは明白だ。

この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事を御覧ください。

【私の論評】一帯一路構想の失敗から学ぶべき教訓(゚д゚)!

まとめ
  • 一帯一路構想は、開発経済学的に見て、無理がある。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、貧しい国々を豊かにするノウハウがない。
  • AIIBの融資金利が高い。
  • 中国は、国内の投資案件が減少したことで、海外への投資を拡大しようとした。
  • 中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付けるべき。

一帯一路構想は一見壮大なものだかその現実は・・・・

高橋洋一氏は、一帯一路構想が公表された直後、そのバスは「オンボロ」「高利貸」なのでやめた方がいいと語っていました。私も当時そう思いました。その理由は主に以下の二つの理由からでした。

まず第一に、開発経済学的に見て、無理があるというものでした。

開発経済学においては、自国より経済成長率が高い国に対する投資は、経済の拡大によって新たな需要が生まれるため、投資の機会が多く、利益率も高くなると考えられています。しかし、自国より経済成長率が低い国への投資は、利益率が低くなるというものです。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 経済成長率が高い国は、国内の需要が拡大するため、企業の売上や利益が増加する。
  • 経済成長率が高い国は、労働力や資源などの生産要素が不足するため、投資によって生産性の向上を図ることができる。
  • 経済成長率が高い国は、政治や社会の安定性が高く、投資リスクが低い。
もちろん、必ずしも自国より経済成長が高い国に投資すれば利益が上がるわけではありません。投資先の国やプロジェクトの選定は慎重に行う必要があります。

以下に、投資先の国やプロジェクトの選定において考慮すべき点をいくつか挙げます。
  • 経済成長率の見通し
  • 政治・社会の安定性
  • 法制度の整備状況
  • インフラの整備状況
  • 人材の質
  • リスクの大きさ
また、投資先の国やプロジェクトの選定にあたっては、専門家のアドバイスを参考にすることも重要です。しかし中国は過去に植民地経営をした経験はなく、海外に投資した経験も少ないですから、海外投資の専門家はいないと言っても良い状況でした。

中国政府は、一帯一路の推進にあたり、海外投資の専門家を育成するための取り組みを行ってきました。しかし、それらの取り組みが十分に成果を上げていないことも、一帯一路の失敗の一因と考えられます。

海外投資の専門家は、投資先の国やプロジェクトの選定において、経済成長率の見通し、政治・社会の安定性、法制度の整備状況、インフラの整備状況、人材の質、リスクの大きさなどの要素を総合的に判断する能力が必要です。また、投資先の国やプロジェクトの現地事情をよく理解し、リスクを回避するための対策を講じる能力も求められます。

中国が、一帯一路の成功を収めるためには、海外投資の専門家をさらに育成し、彼らの能力を最大限に活用することが重要なはずでした。

具体的には、以下の取り組みが必要でした。
  • 海外投資の専門家を育成するための教育・研修の充実
  • 海外投資の専門家が活躍できる環境の整備
  • 海外投資の専門家と政府や企業との連携の強化
これらの取り組みが十分になされていれば、中国は海外投資の経験とノウハウを蓄積し、一帯一路の成功につなげることができたかもしれませが、それを怠って失敗したのが中国です。

そもそも、一帯一路のほとんどのプロジェクトは、もし中国で海外投資の専門家が十分に養成されていれば、その専門家は実施すべきではないと判定していたでしょう。

年々参加者数が減る一帯一路国際フォーラム

第二には、中国は世界第二の経済大国といわれながらも、一人あたりのGDPは一万ドルを少し超えた程度であり、これは日本など世界の他の先進国や、韓国、台湾よりもかなり低いし、貧しいといわれる中東欧諸国のほんどの国よりも低いです。

そのような国が、貧しい国に投資して、プロジェクトを起こしたにしても、中国には元々貧しい国の人々を豊かにするノウハウはないので、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられたからです。

中国の一人あたりのGDPは、2023年時点で約12,500ドルです。これは、日本の一人あたりのGDP(約40,000ドル)の約3分の1、韓国の一人あたりのGDP(約35,000ドル)の約4分の1、台湾の一人あたりのGDP(約30,000ドル)の約4分の3に過ぎません。また、貧しいといわれる中東欧諸国の平均的な一人あたりのGDP(約15,000ドル)よりも低い水準です。

このような状況で、中国が貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、中国自身が貧しい国の人々を豊かにするノウハウを持っていないことから、一帯一路がうまくいく可能性は低いと考えられます。

具体的には、以下の理由が挙げられます。
  • 中国は、まだ発展途上国であり、自国内でも貧困や格差の問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのノウハウが十分に確立されていない可能性があります。
  • 中国は、政治体制が独裁制であり、民主主義体制の国とは価値観や考え方が大きく異なります。このような国が、民主主義体制の国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが現地のニーズに応えられない場合もあります。
  • 中国は、債務漬けの問題を抱えています。そのような国が、貧しい国に投資してプロジェクトを起こしても、そのプロジェクトが債務の負担となり、現地の経済を悪化させる可能性があります。
もちろん、中国が一帯一路を通じて、貧しい国の人々の生活を改善する取り組みを行っていることは事実です。しかし、中国自身が抱える課題や、一帯一路に対する批判などから、一帯一路が今後も成功を収めることは難しいです。

以下に、中国の経済状況と一帯一路の課題に関する数字的な根拠をいくつか挙げます。
  • 中国の一人あたりのGDPは、2010年から2023年の間に約2倍に増加しました。しかし、依然として世界平均の約半分に過ぎません。
  • 中国の外貨準備は、2010年から2023年の間に約3倍に増加しました。しかし、債務の増加に伴い、対外負債の割合も拡大しています。
  • 一帯一路の参加国は、2013年から2023年の間に約70カ国から約140カ国に増加しました。しかし、そのうちの多くの国は、中国の債務の罠にはまっているとの指摘があります。
中国が、一帯一路を通じて世界経済に貢献し、貧しい国の人々の生活を改善するためには、まずは、自国の課題を克服し、一帯一路の取り組みを改善していくべきです。

この二つについては、中国自身もよく理解していたと思われます。

そうして、一帯一路を支えるAIIBにも最初から問題がありました。AIIBとは中国の主導によって設立された国際金融機関のことで、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)と呼ばれる、アジア向けの国際開発金融機関です。

複数の国によって設立され、アジアの開発を目的として融資や専門的な助言を行う機関の一種で、米国主導のIMF(国際通貨基金)や、日米主導のADB(アジア開発銀行)のような機関です。これは一帯一路のプロジェクトを推進することも目的に創設されたものです。

プロジェクトの種類や融資額などによって異なりますが、一般的には、ADBの融資金利よりも0.5~1%程度高いと言われています。例えば、AIIBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)に上乗せした5.5~6.5%程度となっています。一方、ADBの融資金利は、インフラ整備プロジェクトの場合、LIBORに上乗せした4.5~5.5%程度となっています。


AIIBの融資金利が高い理由は、AIIBの資金調達コストを賄うためです。AIIBは、中国が主導して設立された機関ですが、出資国は中国以外の国も多く、その出資比率は中国が30%程度に過ぎません。しかも、致命的なのは、日米が参加していません。そのため、AIIBは、国際市場からの資金調達に依存しており、その資金調達コストを賄うために、融資金利を高く設定せざるを得ないのです。

それでも、中国が強引に一帯一路をすすめたのは、中国は、2000年代以降、急速な経済成長を遂げ、国内の投資案件が減少してきましたため、中国政府は、海外への投資を拡大することで、経済成長を維持しようとからだと考えられます。

一帯一路構想は、中国の海外への投資を促進するためのものであり、中国政府は、この構想を通じて、海外のインフラ整備や資源開発に投資し、中国企業の海外進出を支援してきました。

中国は、一帯一路構想を通じて、貧しい国々の経済発展にも貢献しようと考えていました。しかし、その一方で、中国の経済的利益を追求することも、一帯一路構想の重要な目的であったことは否定できません。

中国は、一帯一路構想を通じて、海外への投資を拡大し、経済成長を維持しようとしていますが、その取り組みは、必ずしも成功しているとは言えません。

先進国からの参加が減少し、中国からの投資も低下傾向にあることに加え、債務問題や環境問題など、一帯一路構想に対する批判も高まっています。

中国が、一帯一路構想を通じて、経済成長を維持し、政治的・経済的影響力を拡大するためには、これらの課題を克服していく必要があります。

以上、長くなってしまいましたが、これが現時点での、最新の一帯一路のまとめです。

中国は、当面海外投資から手を引き、まずは国内問題を片付ける必要があります。その上で、個人消費を高める政策をとるべきですが、そのためには、経済的中間層を増やし、これらが自由に経済活動ができる体制を整えるべきです。

そのためには、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は避けて通れません。

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2021年12月28日火曜日

ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ

ソロモン諸島の海岸

 南太平洋の島嶼国ソロモン諸島は28日までに治安維持能力の向上のために中国から警察関係者の受け入れを決めた。国内ではソガバレ首相が2019年に台湾と断交し中国と国交を樹立したことなどに不満が高まり、今年11月に暴動が発生していた。今回の決定はソガバレ氏の親中姿勢が変わっていないことを裏付けており、反発の高まりが予想されている。

 ソロモン諸島政府は23日の声明で、「将来の騒乱への対応能力を強化することが急務だ」と述べ、中国から警察関係者6人の派遣を受けると発表した。警察官の訓練などを担当するという。ヘルメットや警棒など装備の提供も受ける。

 ソロモン諸島の首都ホニアラでは11月、ソガバレ氏の退陣を求める反政府デモが暴徒化し、中華街で略奪や放火が相次ぎました。

 デモ参加者の多くは、ホニアラがあるガダルカナル島と長年対立するマライタ島出身者だった。マライタ島は親台湾派住民が多く、ソガバレ氏が中国と国交を結んだことに反発が強まっている。地元マライタ州政府は中央政府の親中的な政策に反発し、中国企業の島内での活動を禁止する措置を取っている。

 また、ソガバレ政権はデモ隊を沈静化させるために近隣国オーストラリアに支援を要請し、兵士や警察官約100人の派遣を受けていた。中国がソロモン諸島の警察力向上を支援することに対し、豪州が警戒を強めそうだ。

(シンガポール支局 森浩)

【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大しています。恐らく中国はこうした重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのでしょう。いずれ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になることも考えられます。

太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的な存在感を確立している地域です。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。

12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」にはフィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ等の島嶼国が招請されたことが注目されました。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようです。


日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要です。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言われています。地政学の舞台は益々大陸から大洋の開かれた地域に拡大しています。

ソロモン諸島では、反政府抗議行動が暴動に転じ、4人の犠牲者が出たことを受けて、オーストラリアは治安維持を支援するため警察・兵士を派遣するに至りました。

前週、3日にわたって続いた暴動では、抗議参加者による建物への放火や店舗での略奪が見られた。目撃者は、抗議者の怒りの矛先は高失業率や住宅難といった問題に向けられていたと話しています。

だがこの暴動に先立ち、ソロモン諸島で最も人口の多いマライタ州では、ソガバレ首相の率いる現政権が2019年に台湾と断交して中国を公式に承認したことに対する住民の抗議行動がありました。

ソガバレ首相

中国との外交関係樹立という決定は、マライタ州とソロモン諸島政府との緊張を招くだけでは終わらなかったのです。人口65万人のソロモン諸島は、大国間の地政学的な対立に巻き込まれてしまったのです。

中国と台湾はここ数十年、南太平洋を巡るライバル関係にあります。この地域の島しょ国の中には、一方から他方へと関係を乗り換える動きもあり、中台双方が影響力を高めるために援助やインフラの提供を競い合っているという指摘も表面化しています。

台湾と公式の外交関係を維持している国は15カ国。台湾と断交し、中国に乗り換えた最も最近の2例が、2019年9月のソロモン諸島とキリバスです。

ところがソロモン諸島マライタ州のダニエル・スイダニ州首相は、州内から中国企業を追放し、米国からの開発援助を受け入れたのです。

スイダニ州首相は5月に治療を受けるために台北を訪問し、ソロモン諸島の中央政府および駐ホニアラ中国大使館から抗議を受ける事態となりました。

担当医師らは、スイダニ州首相には脳腫瘍の疑いがあり、外国の病院での治療を推奨していたと話しています。州首相の帰国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連で数回にわたり延期されいましたが、10月にはマライタ州に戻っています。

首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争しているという状況にあります。

ソロモン諸島の首都ホニアラの中国系住民が多い地区で起きた火災(先月25日、交流サイトの動画から)


ただ、中台問題だけが暴動の要因ではなく、そこには経済的な問題もあります。フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張しています。

豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べています(11月26日付ローウィ研究所サイト)。

IMF2021年10月13日の資料によれば、ソロモン諸島の一人あたりのGDPは、2,281ドル(世界140位)、中国は10,511ドル(世界84位))、台湾は28,358ドルです。これだと、ソロモン諸島そのものが貧困であるのは確かです。この貧困が対立の根本的要因になっていることは十分に考えられます。

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベースではこの程度です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

結局のところ、為政者の考え一つで大きく変わりますが、忘れてはならないのは、ソロモン諸島では大陸中国で行われていない選挙制度があり、有権者が将来を決めることができるということです。

米国や日本、台湾、それに太平洋に領土を持つフランスやイギリスなど、当然のことながら、ソロモン諸島が中国の覇権の及ぶところにはなってもらいたくないでしょうから、やはりソロモン諸島の住民に対して啓蒙活動や、一人ひとりの住民が豊かになり、自らの力で持続的に繁栄できるように支援をすべきでしょう。そのための、ノウハウなら中国にはありませんが、先進国ならあります。

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2019年3月29日金曜日

【主張】欧州の対中戦略 結束乱れる危うさ認識を―【私の論評】日欧ともに最早お人好しであってはならない(゚д゚)!

【主張】欧州の対中戦略 結束乱れる危うさ認識を

     欧州で自らの勢力圏拡大を図ろうとする中国にどう対応するか。欧州の対中戦略は世界の経済や安全保障にも影響する重要な意味を持つ。

 だが、中国の習近平国家主席による訪欧で明確になったのは、対中国で足並みをそろえられない欧州の現実である。

対中接近をはかる中・東欧諸国(16カ国)

 欧州連合(EU)の欧州委員会は、中国を貿易や技術開発の「競争相手」とする見解をまとめ、中国への警戒感をあらわにした。実際、フランスやドイツではそうした見方が多い。ところがイタリアや中・東欧諸国は、むしろ対中接近を図っている。

 EUの結束どころか、分断が深まるようでは危うい。経済、軍事上の覇権を追求する中国が、EU各国を切り崩しながら膨張主義を強めることに懸念を覚える。

 欧州に求めたいのは、目先の経済利益に踊らされず、日米と連携して中国に厳しく対処する姿勢である。その認識を共有し、結束を取り戻せるかが問われよう。

 マクロン仏大統領は習氏に「EUの結束を尊重するよう望む」と求めた。イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に協力する覚書を結んだためである。EU内の旧共産圏諸国なども覚書を結んでいるが、先進7カ国(G7)ではイタリアだけだ。対米関係で苦境に立つ中国には成果である。

 問題は、これを機に一帯一路が再び勢いづきかねないことだ。一帯一路は、相手国を借金で縛る手法への批判が世界中で相次いでいる。欧州でも中国の手に落ちたギリシャ港湾などが軍事利用されることに警戒がある。そうした懸念が強まることにならないか。

 反EU機運が高まる中、イタリアのように経済が停滞する国が中国に傾斜する流れが強まれば、EUの求心力は一段と弱まることにもつながりかねない。

 域内では第5世代(5G)移動通信システムでも対応に温度差があり、欧州委員会は米国が求める中国の華為技術(ファーウェイ)の一律排除を見送った。それが米欧の溝を際立たせてもいる。

 留意すべきは、EU域内のみならず、日米欧がばらばらに動けばどこを利するかである。日本は一帯一路に前のめりとなる一方、ファーウェイ製品の政府調達を事実上排除した。国ごとの違いを乗り越え対中戦略でどう連携できるか。G7の場で深めるべき重要なテーマだと認識しておきたい。

【私の論評】日欧ともに最早お人好しであってはならない(゚д゚)!

上の記事では、「日本は一帯一路に前のめりとなる一方、ファーウェイ製品の政府調達を事実上排除した」としています。しかし、「一帯一路にまえのめり」は事実ではないと思います。特に日本政府、安倍首相はそうではありません。それについては、以前このブグにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安倍首相、中国の一帯一路協力に4つの条件 「全面賛成ではない」―【私の論評】日本には中国および習近平政権の今後の行方を左右するほどの潜在能力がある(゚д゚)!

参院予算委員会で答弁を行う安倍晋三首相。右は麻生太郎副総理兼財務相、
左奥は根本匠厚生労働相=25日午後

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、安倍晋三首相が25日の参院予算委員会で、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に日本が協力するには、適正融資による対象国の財政健全性やプロジェクトの開放性、透明性、経済性の4条件を満たす必要があるとの認識を示した。「(4条件を)取り入れているのであれば、協力していこうということだ。全面的に賛成ではない」と述べたことを掲載しました。

そうして、安倍総理は「一帯一路」に対して両手をあげて賛成しているどころか、牽制しているという趣旨の主張をしました。それに関する部分を以下に引用します。
安倍総理が、条件づきで一帯一路への協力の可能性を述べたのは、何も今に始まったことではありません。以前から何度か述べています。
たとえば2017年都内で行われた国際交流会議の席上、安倍総理は中国の経済構想「一帯一路」に初めて協力の意向を表明しています。これを受け一部メディアはあたかも日本が中国に屈したかのように報じるなど、「中国の優位性」が強調され始めました。
安倍首相は同年6月5日に国際交流会議「アジアの未来」の夕食会で講演し、中国の経済圏構想「一帯一路」について、「(同構想が)国際社会の共通の考え方を十分に取り入れることで、環太平洋の自由で公正な経済圏に良質な形で融合し、地域と世界の平和と繁栄に貢献していくことを期待する。日本は、こうした観点からの協力をしたい」と述べました。
新聞各紙は、初めて安倍首相が「一帯一路」への協力を口にしたということをポイントとして強調しています。これだけ見ると、いよいよ日本も「一帯一路」に参加するかのような印象を与えました。
当時は、米国のTPP離脱で窮した安倍政権が、「一帯一路」に尻尾を振り始めたと見る向きもありました。しかし、その後日本は自らTPPの旗振り役となり、米国を除いた11カ国で昨年末に発効しています。
ただし、産経新聞は「安倍晋三首相、中国の『一帯一路』協力に透明性、公正性などが『条件』」という見出しで、中国が支援する国の返済能力を度外視して、インフラ整備のために巨費を投じることが問題化しつつあることを踏まえた発言だという内容となっています。むしろ中国を牽制する狙いがあるという論調です。私もそう思います。

本日の安倍総理による4条件①対象国の財政健全性、②プロジェクトの開放性、③透明性、④経済性も同じことであり、これは中国を牽制する狙いをより明確にしたものです。
安倍総理の対中戦略は一貫したものであり、要するに中国がまともになれば、協力することもあり得るが、そうはなりそうもないので、当面は協力はあり得ないということを表明しているのです。

中国の習近平国家主席は27日、イタリア、モナコ、フランスの欧州3カ国への歴訪を終えて帰国しました。巨大経済圏構想「一帯一路」についてイタリアと先進7カ国(G7)で初となる覚書を交わすなど、習指導部は「中欧関係の発展に新たな推進力を注入した」(耿爽外務省報道官)と成果をアピールしています。ただイタリアの対中傾斜で欧州連合(EU)内部の警戒感はさらに高まり、人権問題をめぐる溝も埋まっていません。

米国との貿易摩擦が長期化する中、習指導部は巨額投資と巨大市場の開放をテコにEUとの関係強化を図っていますが、期待したほど一帯一路への支持は拡大できていないのが現状です。

中国共産党は27日、収賄容疑で調査していた国際刑事警察機構(ICPO、本部・仏リヨン)前総裁の孟宏偉前公安省次官を党籍剥奪処分にしたと発表しました。同事件をめぐってはフランスにとどまる孟氏の妻がマクロン仏大統領に、中仏首脳会談で待遇改善を提起するよう求める書簡を送付。訪仏後まで処分の発表を遅らせたのは、事件に注目が集まるのを避ける狙いがあったようです。

中国外務省は習氏が外遊に出発した21日、EUの駐中国大使らに新疆ウイグル自治区へのツアーを提案しました。100万人以上のウイグル族らを強制収容しているとの批判に反論するのが狙いとみられますが、EU側は「準備が必要」だとして拒否しました。中国側の政治的主張に利用される懸念があったとみられます。

EU首脳会議後の会見で笑顔を見せるユンケル欧州委員長=22日、ブリュッセル

陸のシルクロードと呼ばれる「一帯一路」では、中国は欧州において、すでに旧共産圏16カ国との間で協力の枠組み「16プラス1」を持っています。バルト3国、旧東欧諸国、バルカン半島の国々が参加し、大規模なインフラ整備事業ではこれらの国々の対中依存度は高まりつつあります。

問題は、このうちポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、バルト3国など11カ国がEU加盟国であることです。これに加えて、中伊の急速な接近に対し、フランスのマクロン大統領やEU執行機関・欧州委員会のユンカー委員長らが強く反応したのも無理はないです。

マクロン氏は22日にブリュッセルで行われたEU首脳会議の場で記者団に、「中国に関して欧州がお人好しでいる時代は終わった。長い間、われわれは対中政策で共同歩調を取らず、中国は欧州の分断から利益を吸いあげてきた」と警戒感を直截に表現した。ユンカー氏の中国に関する発言は「トランプ米大統領並みだった」との報道もあります。

EU首脳らは会議で、欧州委員会による対中戦略の見直し計画を承認しました。この文書は中国について「全体的なライバルである」と明記し、気候変動対策や核不拡散問題では従来型の協調維持を掲げつつも、「お人好し」一辺倒の路線とは明確に決別するトーンで貫かれている点が目新しいです。

中国の対欧投資を規制することや、中国に市場開放をより厳しく求めること、中国が積極的に輸出する次世代通信5Gの通信網整備については安全保障上の脅威の有無について検討すべきことなども盛り込んでいます。

ある欧州外交官は「中国による分断工作をはねつけるための対策だ」と語っています。首脳会議では、サイバー分野についてはコンテ伊首相も「懸念を共有する」と述べ、この分野で中国と協力する場合には、透明な形でEUに情報提供すると約束しました。EU内で高まる懸念に一定の配慮を示さざるを得なかったのです。

マクロン仏大統領

マクロン氏は26日、習氏が国賓として滞在中だったパリにユンカー氏とメルケル独首相を呼び、4者会談を行いました。EUの中軸をなす独仏と欧州委員会の共同歩調をアピールするために設定したものです。この場でもマクロン氏は「中国はEUの一体性と価値観を尊重しなければならない」と述べ、カネにものを言わせて欧州の分断を図る試みを率直に批判したのである。

問題の一因は、EU加盟国が自国の国家安全保障政策に関する主権をまだEUに移譲していない制度にもあるでしょう。例えば、中国の通信大手「華為技術(ファーウェイ)」を5G通信網整備に関与させるか否かについての最終的な判断は、EUではなく、加盟国が下すのです。

安保政策の「統合不足」は、中国による分断工作を許す弱点でしょう。マクロン氏が中国に注文をつける一方で、300機のエアバス機売却について習氏の同意を得たことが示すように、対中関係は是々非々のバランスも難しいです。

マクロン氏はさる3月5日、EU加盟国の28のメディアに寄稿し、「欧州の再生」を呼びかけました。ドイツを怒らせるユーロ圏の共通予算構想など従来の主張は封印し、米国が強く求める国防費の増額をEUが義務化することや、内実の伴う共同防衛計画の策定、EUから離脱するであろう英国を取り込んだ「欧州安全保障理事会」の創設、相互防衛条約の締結をなど提唱しました。

通商政策では、租税、データ保護、環境などのEU基準や戦略的利益を無視した商取引を禁じることや、米中並みの産業・調達政策を導入すべきことも主張しました。

EUが今後、マクロン氏の問題提起をどこまで議論するかは不透明です。28カ国の総意で重要案件を決めていくEUの意思決定は確かに時間がかかります。しかし、こうした大手術が必要であることは間違いないです。

第2次大戦後の欧州は「平和構築」「繁栄の共有」「民主制度の改革」という発展指向の試みによって運命共同体を築きました。その欧州はいま、文明を共有する一体的な空間の「防衛」、つまり自らの浮沈をかけた闘いに直面しているのです。

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2021年11月25日木曜日

「民主主義サミット」米が台湾招待、事実上の“国家承認”か 中国は反発「火遊びすれば、自ら身を滅ぼす」 識者「岸田政権はあらゆる対策を」―【私の論評】サミットに台湾を招いても何もできない中国の実体を国内外に見せつけるバイデンの腹の中(゚д゚)!

 「民主主義サミット」米が台湾招待、事実上の“国家承認”か 中国は反発「火遊びすれば、自ら身を滅ぼす」 識者「岸田政権はあらゆる対策を」


 ジョー・バイデン米政権が12月9、10日、民主主義国の首脳らを集めてオンライン形式で開催する「民主主義サミット」に、蔡英文総統=顔写真=率いる台湾が招待された。米国としては、台湾が「自由」「民主」「人権」「法の支配」など、共通の価値観を持つ自由主義陣営の一員だと世界に示し、中国などの専制主義勢力に対峙(たいじ)する姿勢を明確にする。事実上、「台湾の国家承認の場」となるという見方もある。

 民主主義サミットは、バイデン大統領が2月初め、就任後初となる外交政策演説で明言していた。国務省によると、(1)権威主義からの防衛(2)腐敗との闘い(3)人権の尊重-をテーマに議論を深め合うという。

 国務省が23日までに公表した招待リストには、計約110の国・地域の名前が並んだ。日本と欧州地域の同盟・友邦諸国、オーストラリア、インド、台湾は入っていたが、中国やロシアは招かれなかった。

 これを受け、台湾総統府は24日、サミットに台北駐米経済文化代表処の蕭美琴代表(駐米大使に相当)と、デジタル担当政務委員(閣僚)のオードリー・タン(唐鳳)氏が出席すると発表した。

 総統府の張惇涵報道官は「台湾での民主主義の成功経験を共有し、自由と民主主義の価値観を守っていきたい」と強調した。

 これに対し、中国は反発してきた。

 中国外務省の趙立堅副報道局長は24日の記者会見で、「米国が台湾独立勢力と一緒に火遊びすれば、自ら身を滅ぼすだろう」と述べ、米国を牽制(けんせい)した。

 来年2月の北京冬季五輪を見据えて、自由主義陣営は、習近平国家主席率いる中国共産党政権と向き合うことになる。

 拓殖大学海外事情研究所の川上高司教授は「民主主義サミットは事実上、台湾を『国家として承認する場』になりそうだ。中国が台湾侵攻を見据えた軍事的圧力を強めるなか、米国が堂々と向かい合ったことで、一触即発の危機が増した。『台湾有事』は『沖縄有事』『日本有事』に直結する。岸田文雄政権は台湾有事に備えて『日米同盟を強化』するとともに、『邦人退避の計画・準備』『南西諸島の離島防衛の強化』『中国のミサイル攻撃を想定した避難訓練の実施』など、考え得るあらゆる対策を、本気になり、覚悟を持って講じるべきだ」と語っている。

【私の論評】サミットに台湾を招いても何もできない中国の実体を国内外に見せつけるバイデンの腹の中(゚д゚)!

民主主義サミットについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
民主主義サミットに向けてバイデンが抱えるジレンマ―【私の論評】バイデンは「民主化」こそ、経済発展して国の富を増やし、先進国になる唯一の道であることを示すべき(゚д゚)!

詳細は、この記事を是非ご覧になってください。この記事は、11月10日のものです。この時点では、このサミットは「権威主義からの防衛」「汚職との戦い」「人権尊重の推進」の3つをテーマに、各国が民主主義を活性化させる具体的な方策を協議するとされていました。

そうして、参加国の中には、ボーランド、メキシコ、フィリピンなどの民主的とは言いきれない、国も招待されているとされていました。

これでは、ピンポケしたサミットになるのではないかとも思いました。そのため、一人あたりのGDPで比較すれば、民主化されている国のほうが、経済発展していると言う事実を根拠に、バイデンは「民主化」こそ、経済発展して国の富を増やし、先進国になる唯一の道であることを示すべきであると主張しました。

なぜなら、これを主張することによって、民主化されていない国々がこのサミットに参加することの意味や意義がでてくると考えたからです。

ただ、このサミットに台湾を招待するということになれば、話が違ってきます。民主化された台湾を参加させることにより、このサミットは大きな意味を持つことになります。

昨日もこのブログで示したように、2018年時点で世界第2位の経済大国とれさる中国は一人あたりのGDPでは約9,600ドルで世界第72位に過ぎません。台湾の一人当たりGDPは、同年25,026ドルを記録しました。以下に台湾の一人あたりGDPの推移を示すグラフを掲載します。


中国のGDP統計は、全くのデタラメなので、掲載しませんが、公表されているデタラメのGDPですら2018年時点では、9,600ドルです。やはり、明らかに民主台湾は大陸中国よりも一人あたりのGDPではまさっています。

無論経済だけが、国民一人ひとりの幸福に直接つながるわけではありませんが、経済は健全で豊かな社会を築く大きな要素であることは間違いありません。

昨日のブログにも掲載しましたが、そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

このことは、台湾と中国の間でもあてはまります。民主主義サミットでは、これを強調すべきです。これで、この民主主義サミットは大きな意義をもつことになるでしょう。

上の記事では、もう一つ気になることがあります。上の記事の結論部分には「中国が台湾侵攻を見据えた軍事的圧力を強めるなか、米国が堂々と向かい合ったことで、一触即発の危機が増した」とあります。

しかし、私はバイデンは一触即発の危機などないし、中国が台湾に侵攻することなどありえないし、あれば中国が惨敗するだろうとみているからこそ、台湾を民主主義サミットに招くのだと思います。

平和ボケが続いた日本では、台湾侵攻がいかに困難なことであるかについて認識する人は少ないです。これについては、たとえば下の記事が参考になります。
【兵力想定】中国最大の「台湾上陸作戦」
台湾の海軍兵

この記事は4月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の出だしの部分を引用します。
2021年1月に米バイデン政権が発足して3カ月、米中対立はますます激化し、今や「新冷戦」と呼ばれるほどになっている。この余波というべきか、中国が悲願の国家統一を果たそうと近々台湾に一大上陸侵攻作戦を展開するのでは、との観測がにわかに高まっている。しかし、それが成功する可能性はほぼゼロ。理由は簡単、今の中国軍の実力では無理なのだ。

さらに、以下に一部を引用します。

中国軍の上陸作戦能力を分析すると、揚陸艦艇の総数は約370隻で、うち上陸部隊を満載し130~180kmの台湾海峡をムリなく渡航できる艦艇(大体満載排水量500トン以上)は70隻程度、輸送可能兵員数は2万数千人。これに民間フェリーの徴用やヘリコプター、落下傘降下で展開できる兵員数千人を加え、上陸作戦第1陣の投入兵力はざっと3万人程度だろう。

だが実際は待ち構える台湾軍が雨あられのごとく銃弾と砲爆撃を浴びせるなかでの強行上陸となるので、最低でも全体の20~30%が死傷、実働戦力は2万人前半レベルまで落ちると考えるべきだろう。

片や台湾軍の動員兵力は約180万人。上陸が予想される西海岸(台湾海峡を臨み上陸作戦に最適な遠浅海岸のため地理的にここ以外ありえない)を、例えば「北・中・南」の3戦域に分け各戦域に50万人ずつ配置(残り30万人は他地域の防備や予備部隊)したとすれば、上陸地点における中国軍上陸部隊と台湾守備部隊の兵力差は「3(実質2)対50」となる。これでは中国軍側が一方的に大打撃を被るだけで短期間のうちに全滅または全面降伏するしかない。
それでもなお楽観的な観測で、中国軍は数十万人規模の上陸を成功させ、いよいよ台湾全土の完全占領に臨むとしても、今度は3000m級の山岳地帯と周辺に広がる密林地帯。さらには2400万人の台湾市民が待ち構えている。

占領作戦は敵地の制圧よりもその地の治安を確保・維持するほうがはるかに大変で、日中戦争で中国大陸に進出した日本軍や、イラク戦争、アフガン戦争(2001年~)のアメリカ軍、アフガン紛争(1978年~)の旧ソ連軍など過去に苦戦した例は枚挙にいとまがない。いずれも占領軍はテロ・ゲリラ活動で出血を強いられ、敵が誰だかわからない状況で占領軍将兵のモチベーションは大きく低下、犠牲や戦費も膨大となりやがて国家財政にとっても重圧になってくる。

そうして、この記事には、このブログでは頻繁に述べている対潜戦闘力(ASW)に優れた日米の潜水艦隊のことが一切触れられていません。ASWでは日米にはるかに遅れをとっていることがね中国の台湾侵攻をためらわせる大きな原因の一つになっています。

米国が攻撃力では空母に匹敵する巨大攻撃型原潜を三隻も台湾海域に派遣して、台湾を包囲してしまえば、中国にはこの包囲網をかいくぐることはできません。

なぜなら、中国は対潜哨戒力では米国に及ばず、米国は中国の潜水艦を含め多くの艦艇を、中国に妨害されることなく撃沈できるからです。攻撃力にすぐれた米潜水艦は、初戦で中国のレーダー基地や、監視衛星の地上施設等をことごとく破壊し、中国海軍の目を塞ぐことでしょう。その後に中国の潜水艦、その後に他の揚陸艦などの艦艇を撃沈することでしょう。

日本も同じく、中国には日本の潜水艦隊の位置を捉えることができないので、日本は中国の潜水艦や他の艦艇を中国に妨害されることなく撃沈できます。また、静寂性(ステルス性)利用して、台湾近海を中国に妨害されることなく潜航し、情報収集できます。

日米が台湾に加勢した場合、中国の大半の艦艇は台湾に到達することなく撃沈され、残りはいのちからがら母港に引き上げることになります。

運良く人民解放軍が台湾に上陸したとしても、米軍や日本の、あるいは両方の潜水艦隊に台湾を包囲されてしまえば、補給が途絶えて上陸部隊はお手上げになってしまいます。

こういうことをいうと、ドローンがどうのこうのとか、核兵器や宇宙兵器や超音速ミサイルががどうのこうのという人もいますが、そういう人には良く考えていただきたいです。そもそも、発見できない敵に対しては、何をもってしても攻撃はできないのです。

核攻撃をすれば良いなどという人もいるかもしれませんが、台湾を核攻撃しても無意味です。なぜなら、中国の最終目的は台湾を併合することであって、台湾を破滅させることではないからです。

そうして、どこにいるかもわからない海域の潜水艦に向けて核兵器を打ち放つことも無意味です。そもそも、深海に潜んでいれば、破壊できるかどうかも覚束ないですし、仮に破壊できたとしても、その確認すらできないのです。まさか、関連する全海域に同時に核兵器を放つことなどとうていできないです。

台湾を武力侵攻するのはこれだけ困難なことなのです。であれば、中国は台湾を併合するにしても、武力以外の方法でやろうとすると見るべきです。

バイデンとしては、このようなことは知り抜いた上で、中国が台湾を侵攻すれば、中国海軍を破滅させ、中国を追い込むでしょう。そうなれば、習近平の権威は雲散霧消し、バイデンの国内での支持率は上向くことになります。しかしその可能性は低いでしょう。

もう一つの可能性としては、民主主義サミットに台湾を招けば、中国は猛烈に抗議することでしょう。しかし、台湾には侵攻できません。結局軍事的には何もできない中国の実体を国内外に見せつけることにより、米国の威信をたかめ、国内では支持率向上が期待できます。

岸田政権にも、以上のようなことを理解して、今後の中国対応を見直す機会とすべきです。

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2022年2月23日水曜日

旧ソ連時代の共産党による「犯罪」を正当化するプーチン氏 ロシアが再び中・東欧諸国を脅かし始めた今、日本も対峙すべき―【私の論評】日本はプーチンの価値観を絶対に受け入れられない(゚д゚)!

国家の流儀


赤軍に捕虜にされたポーランド軍将兵 多くがカティンの森事件で殺害された

 ウクライナ危機に際して、「ロシアの立場も理解すべきだ」と語る政治家や識者がいる。

 確かに、ロシアの言い分を正確に理解すべきだ。だが、ロシア側の言い分を正当化すべきではない。それは、旧ソ連、共産党一党独裁時代の人権弾圧、全体主義による「犯罪」を擁護することになるからだ。

 第二次世界大戦後、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中・東欧諸国はソ連の影響下に組みこまれ、バルト三国は併合された。これらの国々は50年近く共産党と秘密警察による人権弾圧と貧困に苦しめられてきた。

 意外かもしれないが、そうした中・東欧の「悲劇」が広く知られるようになったのは、1991年にソ連邦が解体した後のことだ。日本でも戦後長らく、ソ連を始めとする共産主義体制は「労働者の楽園」であり、ソ連による人権弾圧の実態は隠蔽されてきた。

 ソ連解体後、ソ連の影響下から脱し、自由を取り戻した中・東欧諸国は、ソ連時代の人権弾圧の記録をコツコツと集めるだけでなく、戦争博物館などを建設して、積極的にその記録を公開するようになった。

 そこで、私は2017年から19年にかけて、バルト三国やチェコ、ハンガリー、オーストリア、ポーランドを訪れて、各国の戦争博物館を取材した。それらの博物館には、ソ連と各国の共産党によって、いかに占領・支配されたか、秘密警察によってどれほどの人が拷問され、殺されたのか、詳細に展示している。

リトアニア KGBジェノサイド博物館(江崎道朗氏撮影)

 旧ソ連時代の共産党一党独裁の全体主義がいかに危険であり、「自由と独立」を守るため全体主義の脅威に立ち向かわなければならない。中・東欧諸国は、このことを自国民に懸命に伝えようとしているわけだ。

 それは、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの指導者たちが再び、中・東欧諸国を脅かすようになってきているからだ。プーチン氏らは、旧ソ連時代の「犯罪」を「正当化」し、ウクライナを含む旧ソ連邦諸国を、再び自らの影響下に置こうとしている。

 この動きに反発した欧州議会は、例えば19年9月19日、「欧州の未来に向けた欧州の記憶の重要性に関する決議」を採択している。この決議では、いまなお「ロシアの政治的エリートたちが、歴史的事実をゆがめて共産主義者の犯罪を糊塗(こと=一時しのぎにごまかすこと)し、ソ連の全体主義的体制を称賛し続け」ていることを非難し、「ロシアが悲劇的な過去を受け入れるよう求め」ている。

 日本固有の領土である北方領土を「不法占拠」され、シベリア抑留に代表される「人権侵害」を受けてきた日本もまた欧州議会と連携し、ソ連・共産党時代の「犯罪」を正当化するプーチンらと対峙(たいじ)すべきなのだ。

江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や国会議員政策スタッフなどを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究などに従事。「江崎塾」を主宰。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞、19年はフジサンケイグループの正論新風賞を受賞した。著書に『日本人が知らない近現代史の虚妄』(SB新書)、『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(扶桑社)など多数。

【私の論評】日本はプーチンの価値観を絶対に受け入れられない(゚д゚)!

プーチンがなぜこれほどまでに、ウクライナに拘泥するのか、ほとんどのメディアはその本質を報道しません。

プーチンにとっては、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物なのですです。元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。

専門家が注目したのは、昨年7月にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が発表した論文です。プーチンは「ロシアとウクライナは同一民族だ」と主張、1000年の歴史を強調しています。ウクライナの首都キエフは、ロシアにとって父祖の地。日本人にとっては、熱田神宮や愛知県が韓国にあるようなものと言いたいのでしょうか。 なぜこの時期にプーチンがと考えるより、常に考えていたと解釈すべきです。

ソ連崩壊後、ロシアのボリス・エリツィン大統領を、米国のビル・クリントン大統領はあざ笑い続けました。’90年代を通じたバルカン紛争の末に、エリツィンは傘下のセルビアを守り切れませんでした。

他のバルカン諸国は米欧の軍事同盟であるNATO入り、ロシアの束縛から離れ、米国の庇護下に入りました。そしてNATOは東方拡大しました。こうした旧ソ連からみれば屈辱的な状態を背景に、ロシアの独裁者となったのがプーチンなのです。

プーチンは’08年北京五輪の時も、西側陣営に馳せ参じたグルジアに侵攻。領土を掠め取りました。これに米国抜きのヨーロッパは、なすすべがありませんでした。隙あらばと、プーチンは’14年には、ウクライナからクリミア半島を奪いとりました。

我々にとっては「侵攻」であっても、プーチンにすれば「失地回復」以外の何物でもないのです。

ウクライナを狙うのは、彼が旧ソ連を取り戻そうとする行為の一環なのです。プーチンは故郷であるソ連邦の歴史を不意にしたくないし、ソ連の崩壊が米ソ冷戦の敗北だったとは決して認めたくないのです。

例えばプーチンは、ガスプロムという天然ガスの企業を用いて、ロシア人から搾取を続けています。かつてイギリスが東インド会社でやっていたような植民地化を自国で行っているのです。この事実だけから見ても、彼がロシアの愛国者ではなく、ソ連への忠誠心が高いことがわかります。

現代ロシアを理解するうえで重要なことは、ロシアとソ連は別物ということです。ロシアを乗っ取ってできた国がソ連ですから、両者を同一視するべきではありません。現在ではほとんど評価されず、単なる酔っぱらいとみられているエリツィンは間違いなくロシアの愛国者ではあったのですが、そのエリツィンから大統領の地位を禅譲されたプーチンがやっていることは、ソ連邦の復活であり、ロシアに対する独裁です。

2002年にアレクサンダー・レベジというロシアの政治家がなくなりました。彼はロシアの自由化を進め、チェチェン紛争の凍結にも尽力した人物です。NATOや日米同盟にも融和的でした。何より、近代文明とは何かを理解しつつ政策を実行しようとしました。

アレクサンダー・レベジ

彼は、このブログにも述べたとおり、ロシア史のなかでも、一番のまともな人物と言って良い存在です。しかし、彼の末路はヘリコプター事故死でした。ロシアではなぜか、プーチンの政敵が謎の事故死を繰り返します。このレベジについてなんら言及せず、プーチンは親日家だからなどと平気で言っているような輩は救いようのない大馬鹿者か、ロシア工作員です。

ロシアを支配しているのは、徹底した「力の論理」です。自分より強い相手とはケンカをせず、また、自分より弱い相手の話は聞かないのです。今回のウクライナ問題でもはっきりしたように、日本が北方領土などで話を進める気のない相手に交渉を持ち込んだところで、条件を吊り上げられるだけです。

そもそも、かつて丸山穂高氏が語ったように、戦争で取られたものは戦争で取り返すしかない、というのが国際社会の常識です。力の裏づけもないまま、話し合いで返してもらおうなどと考えている時点で、日本はあまりに甘すぎるのです。

そうして、西側諸国も一枚岩ではありません。米英仏独といった西側の大国は、必ずしもNATOの拡大を望んでいません。ソ連や帝政ロシアに苦しめられた東欧諸国はNATOに入りたいでしょうが、ロシアとの対峙は欧米にとっては迷惑な話でもあるのです。

だから、本当はロシアの隣国のウクライナは、NATOにいれるのではなく緩衝地帯として使いたいのです。  

現在世界唯一の超大国である米国は、中国の台頭を脅威に感じています。ヨーロッパの問題など、本当は英仏独に任せておきたいのです。中国との対峙に専念したいのです。

そのため、中東にも不用意な手出しはしないし、アフガニスタンからも引きあげました。そうしたこの米国の心理を、プーチンは突いたのです。

10万を超えるロシアの地上軍が、ウクライナに集結している。これでは、ウクライナ全土を占拠するには到底足りないですが、それでも経済的に小国になってしまったロシアにとっては、かつてない大規模な動員です。

戦になるか否か、本気度は地上軍を動員するか否かが最大の指標です。今回のプーチンは、明らかな本気を見せています。ただ、できるのは、このブログでも以前述べたように、ウクライナのいくつかの州、もしくは州の一部止まりです。それ以上は兵站が持ちません。それでも、ロシアにとっては、できる限りの兵力の結集です。

これに対し、バイデン米大統領は1月24日(現地時間)、フランス・ドイツなど欧州の同盟の首脳らと80分間ほどオンライン形式で会談し、ロシアのウクライナ攻撃阻止および攻撃時の対応策について議論しました。

こうした外交努力とは別に、米海軍のニミッツ級原子力空母「ハリー・トルーマン」などがこの日、NATO(北大西洋条約機構)の指揮の下、地中海一帯でロシアのウクライナ侵攻に対応した大規模な海上訓練に入りました。

米空母「ハリー・トルーマン」

ホワイトハウスとNATOは米空母打撃群が冷戦後初めてNATOの指揮・統制下で訓練を始めたと明らかにしました。米国防総省は米軍8500人に対し、有事の際、欧州のNATO即応部隊(NRF)に直ちに合流できるよう非常待機命令を出しました。

ロシアを地中海に絶対に出さない、との姿勢です。1万人に満たない数の小出しながら、陸軍の動員も決めました。遅まきながら、バイデンも舐められまいと身構えたのです。

米欧は、ウクライナを本気で守る以外のあらゆる方法で支援するでしょう。金を出し、兵站を整え、兵器を渡し、戦い方を教える、国境の外に軍隊を集結させる、等々です。

中国は、グルジア侵攻の時と同じくオリンピック最中だったこともあり、その後も安全地帯で、一の子分のプーチンが米欧を翻弄するのを睥睨しているだけで良いです。

ましてや、米欧がロシアに拘泥しているので、笑いが止まらないでしょう。中国の狙いは台湾。米欧が束になってロシアの侵攻を止められないとなると、台湾への野心をむき出しにするでしょう。

中国は、現状では台湾に侵攻するだけの海上輸送力がなく、まともに台湾に侵攻はできませんが、ロシアがこれからもウクライナの奥地に侵攻すれば、それを参考にするかもしれません。

ウイグルや香港など、中国共産党からみれば彼らの私有物なのです。助ける方法などありません。むしろ今の中国は他人の持ち物を奪おうとしているのです。

欧米と中露の根本的な違いは何でしょうか。「人を殺してはならない」との価値観が通じる国と通じない国です。日本は明らかに「人を殺してはならない」との価値観の国々と生きるしかありません。そうして、同盟の最低条件は「自分の身を自分で守る力があること」です。

国際社会では軍事力がなければ何も言えないのです。ようやく「防衛費GDP2%」が話題になりましたが、それで間に合うのでしょうか。 いきなり核武装しろとまでは言いませんが、国際社会での発言力は軍事力に比例します。金を出さなければ何もできないです。

このブログでのべてきたように、ロシアの現状のGDPは、韓国より若干下回る規模です。一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回ります。

にもかかわらず、ロシアが世界で存在感を保てるのは、まずはロシアは旧ソ連の核や軍事技術を継承する国であること。さらに、軍事力では未だに世界第二位の地位にあることです。

コロナ収束はもちろん、景気回復もさっさと成し遂げ、軍事費を増やさないと何もできないです。それとも、このブログにも掲載したように、日本は冷戦の最中に、ソ連の潜水艦をオホーツク海に封じ込めるなどの貢献をしたにもかかわらず、今までのようにすべての周辺諸国の靴の裏を舐め、「殴らないでください」とわびながら生きるとでもいうのでしょうか。

現在の中露やイランの暗躍は、すでに新たな冷戦といって良いレベルに達しています。この新冷戦においても、日本は勝利に貢献する可能性も大きいです。それでも、まだ周辺諸国の靴の裏を舐めながら生きるというのでしょうか。これは、自分自身の生き方の問題です。

先に述べたように現在のロシアは経済的には取るに足らない小国に成り果てています。なぜ、そうなったかといえば、冷戦に負けたからです。

中国も冷戦に負けたのですが、当時の中国は経済的にも、軍事的にも取るに足りない国でした。しかも冷戦中に米国がソ連に対峙ということで、仲間に引き入れ、そこから日本や米国、EUなどの支援により、経済を伸ばし、今日のような姿になっています。ただ、今でも一人あたりのGDPはロシア並で、人口はロシアが1億4千万人に対して、中国は14億人であり、10倍です。

だからこそ、国全体ではGDPは今やロシアの10倍です。世界第二位です。だから、冷戦敗戦国という意識はあまりないようです。

世界は、そうして日本は、一人あたりのGDPでは遥かに劣る冷戦敗戦国「必要なら人を殺しても構わない」という価値観の中露にこれからも、振り回され続けるわけにはいきません。

米国としては、昨日も述べたように、シェール・ガス・オイルを増産して、産油国・ガス供給国としてのロシア経済の息の根を止めることが最優先課題だと思います。これは、バイデン政権には期待できないようですが、今年の中間選挙後には、共和党が多数派になり、実現できるかもしれません。

日本とEUは今まで以上に米国に協力して、軍事的にも経済的にも両国を追い詰めるべきです。私達は、「必要なら人殺しをしても良い」という価値観は絶対に受け入れられないし、そのような社会に住みたくないし、自分たちの子孫もそのような社会で生活させたくないはずです。

私自身は、このブログで何度か述べているように、日本が新冷戦に勝利すれば、北方領土は戻ってくる可能性は高くなるとは思いますが、それにしても、現状のように軍事費をおさえて、憲法や法律でがんじがらめにしているようでは、戻ってこない可能性もあると思います。

いくら経済安全保障で徹底的にロシアを追い詰めたとしても、最後には軍事力が物を言います。日本も軍事力と経済力の両方のパフォーマンスを発揮すれば、現在の韓国なみのGDPのロシアを凌駕できます。そうなれば、インド太平洋地域における軍事バランスは崩れ、日本が圧倒的に有利になります。

実は、冷戦で日本が勝利したときは、ロシアに対して北方領土を返還させる絶好の機会でした。しかし、当時の日本はいまよりも軍事費は小さく、しかも、憲法や法律のくびきも現在よりも強く、その機会を徒にふいにしてしまいました。新冷戦勝利のあかつきには、過去の愚を繰り返すべきではありません。

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2015年11月25日水曜日

中国、今後5年間に1兆ドル超の対外投資へ=李首相―【私の論評】国際監視団を送り込め!経済制裁を発動せよ!中国は、人民を犠牲にさえすれば何でもできることを忘れるな(゚д゚)!

中国、今後5年間に1兆ドル超の対外投資へ=李首相

李克強
中国の李克強首相は、今後5年間に1兆ドルを超す対外投資を行い、コモディティ(商品)を10兆ドル以上輸入するとの見込みを示した。政府系メディアのチャイナ・デーリーが伝えた。

それによると、李首相は24日、蘇州で開催されている中国・中東欧諸国首脳会議で、中国製の機器・製品を使用することを条件に、中東欧諸国のインフラ(社会資本)整備向けの資金調達条件をより柔軟にする方向で協力する可能性も示した。

この会議で首相は、中国経済が、今年の成長目標7%前後を達成する軌道上にあるとし、経済は妥当な中・長期成長を維持するため調整過程にあるとの認識を示した。

【私の論評】国際監視団を送り込め!経済制裁を発動せよ!中国は、人民を犠牲にさえすれば何でもできることを忘れるな(゚д゚)!

上の記事、中国の経済は完璧にバブルが崩壊して、このブログでも掲載したように、金融は空洞化し、さらにマネーが逃避を続ける中国が何を言っているのかという感じがしました。

ましてや、このデタラメ発言がかつて、「中国の統計はデタラメ」と語った李克強のものというのが何とも皮肉なものです。

ただし、デタラメについては少し解説しなければならないと思います。李克強はブログ冒頭の記事で、デタラメを言っていることと思います。ひよっとしたら、10兆ドル以上の輸入は本当にするかもしれません。

しかし、本当はそんなことはできない状況にあるのが、金融が空洞化した中国です。しかし最近では、中国の経済についての神話もメッキがはげて、多くの人が中国経済実体本来の姿を知るようになりました。

これはすでに2013年くらいからそうだったのですが、ごく最近でも中国の経済がまともにない状況にあることが、伝わってきています。その典型的なものを以下に掲載します。
「中国売り」「韓国売り」が止まらない 欧米大手金融が撤退の動きを急加速
人民元の国際化を目論む中国だが、欧米金融機関は
撤退の動きをみせる。韓国への視線も厳しい
 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、欧米の大手金融機関が、中国と韓国から撤退や規模縮小の動きを加速させていることを掲載しています。その内容を以下に掲載します。
かつての勢いの良い中国の経済成長が止まり、期待外れとなった金融機関が投資を引き揚げているのです。さらに米国の年内利上げ観測が広がったことで、新興国から投資マネーの流出も止まらず、海外の機関投資家も一斉に「中国売り」「韓国売り」に走っています。 
中韓ともに経済の低迷から抜け出す気配はまだ見えないなか、米国の利上げが、欧米の金融機関や投資家にとっての中韓との「縁の切れ目」となるかもしれません。
さらにもう一つ、今度は中国国内のニュースがあります。
【真・人民日報】すさまじく上下動する中国株 背景に「妖怪株」の存在 富坂聰氏
一時の大暴落から落ち着きを取り戻した中国・
上海株式市場。不安定な値動きの背景に何があるのか 
これも詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では一時の大暴落から落ち着きを取り戻したように見える中国・上海株式市場ですが、その不安定な値動きの背景に何があるのかを解説しています。その部分のみ以下に掲載させていただきます。
 中国市場における株価の動きはめまぐるしい。 
 例えば暴落前の急騰局面では、少子化の影響で子供の教育に金を惜しまない社会を反映して学習塾の「全通教育」の株が大化けするなどの動きが見られた。回復基調になってからも、中国が一人っ子政策を撤廃したというニュースを受けて乳製品の大手国有企業「中国蒙牛乳業」の株価が急上昇するなどといった連動をするのだが、一方では理由もなくすさまじい株価上昇によって市場全体を引き上げる役割を果たす「妖股(妖怪株)」と呼ばれる銘柄もある。 
 特殊鋼メーカー大手の「撫順特鋼」などがその典型とされるのだが、こうした「妖股」の裏側では、常にインサイダーの疑いが絶えないのだ。事実、今回の株価乱高下の騒動後には、多くの関係者が処分をされている。 
 日本のバブル前とは違い、中国株式市場は中国経済の好調とは裏腹に、ずっと株価の低迷が続いていた。 
 それが、外国からの投資に門戸を開いたり信用取引の枠を拡大するなどの改革のなかで、突如として急騰し、急落したということなのだ。 
 不動産市場の低迷と炭鉱業の落ち込みを受けて地下マネーが流入したという要素もあるだろう。 
 背景にあるのは、中国がいよいよ金融の世界にも“外の風”を入れなければならなくなっているということだ。 
 過保護にしてきた中国の金融を外にさらすとなれば混乱は不可避だ。それは今後もしばらく変わらない傾向だろう。
先の記事では、国外では中国売が止まらないというのに、この記事では中国国内では株価が落ち着きを取り戻し、さらにすさまじく上昇する「妖怪株」の存在が指摘されています。

このような馬鹿なこと、私達のようにある程度まともな資本主義経済の中で生活しているものにはなかなか理解できません。

しかし、こんなことは簡単に理解できます。なぜなら、このブログに過去に何度も掲載したように、中国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が先進国などと比較すればほとんどなされていないからです。

特に、経済面では、政治と経済の分離がなされていないということが大きいです。中国の今の体制は、無論共産主義ではありませんが、国家資本主義とも呼ぶべきとんでもない体制にあります。

政治と経済が不可分に結びついているとんでもない状況です。だから、政府が経済のあらゆる場面にしゃしゃり出て、先進国では考えられないとんでもない酷いことを平気で行います。

たとえば、上の記事で指摘されている妖股ですが、妖股でも政府以外の、個人や企業がこれを実施すれば、上の記事にもあるように、多数の関係者が処分されますが、政府主導で行う妖股は犯罪ともみなされず、政府の好き勝手に実行できます。

妖股を揶揄する中国の漫画
政府が株価を制御するのは、当然のこととして行われています。政府が株価を下げてはならないと考える銘柄については、政府が介入して、酷い場合には、勝手にいくつかの銘柄の取引を禁止にしたりします。実際上海株式市場が低迷したときに、そのような措置を政府がとりました。

取引を停止してしまえば、それ以上株価が下がることもないわけで、取引停止の間に、いろいろ政府が手を打てば、それらの株がまた値上がりするということになります。とは、いいながら、株価というものは、いくら中国の株式市場がデタラメだとはいいながら中国にも多くの投資家が存在しますし、海外の投資家も存在しますから、実体経済を反映する部分もあり、これに関してはさすがに政府も、どこまでもコントロールするというわけにはいきません。

だから、株価が他国の株式市場と比較すると、比較の対象とならないくらいの、乱高下するというわけです。

多くの人は、さすがにこんなことは、長く続かないと思うことでしょう。しかし、それは中国以外の他国を標準に考えるからであって、中国ではしばらくの間は無理やり続けることができます。

なぜなら、中国は国家資本主義の国であり、さらに共産党一党独裁の国でもあるからです。極端なことをいえば、滅茶苦茶な経済政策を実行して、人民が多数死亡したとしても、そんなことはおかまいなしに中国政府は存続できるからです。

ですから、無茶苦茶なことをやって、最初は自治区の人口が半分になっても、お構いなしに無茶苦茶な経済政策を存続するものと思います。自治区の人口が半分になっても、まだ経済の低迷が収まらない場合は、こんどは中国の多くの省の人口が多少減ってもやりぬくことでしょう。

そうして、中国の国家統計はもともとデタラメですから、滅茶苦茶な経済運営をしても、あたかもまともに運営しているように、表には公表することでしょう。しかし、これをたとえると、真夜中にサイドミラーもついていないような車で、メーター類はほとんどあてにならず、あちこち故障だらけでも、それを確認するすべを持たないドライバーが数百キロで走っているようなものです。これはいずれ大惨事につながります。これに似たようなことは以前にもありました。

それは、大躍進です。大躍進政策(だいやくしんせいさく、繁体字:大躍進、簡体字:大跃进、拼音: dàyuèjìn、英: Great Leap Forward)は、1958年から1961年までの間、中華人民共和国が施行した農業・工業の大増産政策のことです。

毛沢東は数年間で経済的にアメリカ合衆国・イギリスを追い越すことを夢見て実施しました。しかし結果は、中国経済の大混乱と、推計2,000万人から5,000万人の餓死者を出す大失敗に終わり、毛沢東は生涯でただ一度の自己批判を行って、国家主席を辞任しました。なお、大躍進でこれほどの被害者が出たことが公にされ海外にも知れ渡るようになったのは随分あとからのことです。

大躍進政策で苦しんだ中国人民

その後は中国共産党中央委員会主席毛沢東に代わって劉少奇・鄧小平などが修正主義的路線による経済再建を目指しますが、権力奪還を企図する毛沢東の動きがこの後の文化大革命を引き起こすことになりました。ご存知のように、文化大革命でも多数の死者を出しました。

ブログ冒頭の記事など見ていると、中国は金融が空洞化しているにもかかわらず、1兆ドルを超す対外投資を行うことを企図しているようですが、この無謀ぶりは、本当に毛沢東の大躍進を想起させます。今度は、農業政策ではなく無茶苦茶な経済対策を行い、人民を途端の苦しみに苛ませることになります。

それでも、大躍進のように、中国政府はさもうまくいっているように装うことでしょう。その兆候はすでにみられます。他国の中国の経済の専門家が口を揃えて、中国の6.5%成長は全くデタラメで、現実にはマイナス成長ということも考えられるとしているにもかかわらず、中国は億面もなく、6.5%成長を掲げています。

こんな馬鹿なことは絶対に繰り返させるべきではありません。中国が本格的に無茶苦茶なことをやりはじめる前に、国際社会はこれを防ぐべきです。まずは、これを防ぐために、国際監視団を送り込むべきでしょう。

これを受け入れないというのなら、経済制裁を課するべきです。

ソ連は崩壊する最後の最後まで、まともに情報を公開しませんでした。ソ連崩壊後にロシアが公開したソ連の文書などによって、末期の経済状況はとんでもないことになっていたことがわかります。中国の場合も同じで、もうすでに経済・社会はとんでもない状況になっていますが、中国政府はそれを隠蔽し続けています。

こうした中国が崩壊するときには、おそらくソ連以上にあっという間に坂道を転げ落ちるように、崩壊することでしょう。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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