2018年6月13日水曜日

明確な定義なく「煽る」だけ…非論理的な財政破綻論者 不要な緊縮招く危険な存在―【私の論評】不況時に増税をする等の緊縮財政は「狂気の沙汰」ということだけは覚えておこう(゚д゚)!

明確な定義なく「煽る」だけ…非論理的な財政破綻論者 不要な緊縮招く危険な存在

財政破綻を煽る記事 写真はブログ管理人挿入 以下同じ


 「日本が財政破綻する」「国債が暴落する」と煽(あお)る論者はいまだに少なくない。

 そもそも財政破綻などを煽る人は、なぜかその定義を明らかにしない。これまでの筆者の体験も次のようなものだった。

 その1。私「国債暴落の定義を言ってください。何カ月以内で何%とか。暴落はあるのですか」

 先方「暴落なき暴落が『あります』」(ありますを強調)

 私「暴落はないのですか」

 先方「暴落『なき』暴落があります」(なきを強調)

 その2。私「ハイパーインフレの定義は何ですか。ケーガン(経済学者)のもの? 国際会計基準?」

 先方「(一切答えず)ハイパーインフレになっていいんですか。日銀引受はハイパーインフレになるのです」

 私「日銀引受は毎年やっていますよ。私はその最高記録保持者ですが」

 先方「…」

 かつて役所内で議論した際にも、「財政破綻の定義は難しい」と言われ、定義することも避けられた。

 不良債権処理の専門書を書いたこともある筆者にとって、民間の破綻認定は簡単だった。債務の支払い能力がないというためには、基本的には貸借対照表(B/S)で債務超過を示せばいいからだ。

 政府の場合、徴税権(見えない資産)があるから債務超過でも即破綻ではないが、資産を考慮したネット債務残高がポイントだ。通貨発行権は統合政府のB/Sに出てくるので、ネット債務残高を見ればいい。ちなみにインフレ目標は、通貨発行権の乱用予防の役割もある。

 ネット債務残高というものの、その国の経済力との関係が問題になる。となれば、ネット債務残高対国内総生産(GDP)比が将来的に発散(ブログ管理人注:数列の極限値や積分の値などが有限値に定まらない、つまり無限大や不定になること。数学に詳しくない人は無限大になったとの理解で十分です)したら、破綻と言っていいだろう。

 こうした計量的に明確な定義もなく財政破綻を唱える人は、客観的に説明できずに煽るだけになる。日本の今の財政状況とは関係なく、実際に財政破綻した国で行政サービスが低下したことなど、国民生活面での不都合を強調しがちだ。または、B/Sの片方の借金だけを強調して「借金は避けるべきだ」「将来世代の負担になる」というが、見合い(ブログ管理人注:対応していること、釣り合っていること)の資産があると、こうした論法は馬脚をあらわす。

 正確に定義され計算された基礎的財政収支(プライマリーバランス)の動向は、ネット債務残高対GDP比の発散条件と密接に関わっている。通常、プライマリーバランスが赤字であっても改善傾向にあれば、ネット債務残高対GDP比はめったなことでは発散しない。プライマリーバランスが均衡化するに越したことはないが、改善さえすれば「財政破綻」を過度に心配する必要はない。

 財政破綻の定義を明確にせずに財政再建を語るのは、不必要な緊縮財政(増税、歳出カット)を招き、意図せざる失業者を発生させるので、経済にとって危険である。

 今の多くのマスコミ、学者や財界は財務省に洗脳され、財政再建を盲目的に追求し、緊縮財政そのものを目的化している。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】不況時に増税をする等の緊縮財政は「狂気の沙汰」ということだけは覚えておこう(゚д゚)!

何でも緊縮すれば良いと思い込む「緊縮脳」は始末に負えない

財政破綻論者のほとんどは当然のことながら、緊縮策の支持者です。

不況時に緊縮策をとれば景気はさらに冷え込み、その結果税収は落ち、財政状況はますます悪化する。このような事は経済学を学んだことがない人でも直感としてすぐにわかるはずだと言いたいところですが、日本のみならず、世界的に見ても不況時に緊縮こそが答えだと信じてしまう人のほうがむしろ多数派かもしれません。

さらには経済学を学んだことのある人どころか、権威あるとされる経済学者の中にも、依然としてこのような主張をする人までいます。古今東西の歴史を紐解けば緊縮策の結果として手痛い思いをした経験を持つ国は歴史的に数多くあり、その教訓を嫌というほど学んでいるはずなのに、なぜ緊縮策という「ゾンビ経済学」はこのように蘇ってくるのでしょうか。

ジョン・クギンのオーディオブック"ゾンビ経済"の表紙

日本でも、古くは江戸時代に徳川吉宗の緊縮策などを皮切りに、様々な緊縮策が何度も実行されましたが、長続きはしませんでした。さらに、戦前には日本が世界で一番はやく金融恐慌(日本では昭和恐慌)から脱却したのは、無論緊縮策ではなく、高橋是清による積極財政と金融緩和によるものでした。

こうした貴重な体験をした日本人が、過去の歴史を忘れて、緊縮策になびく人が多いというのは、全く理解に苦しむところです。しかし、世界恐慌の原因がデフレであったことが、わかったのはなんと1990年代の経済研究によるということを考えると無理もないのかもしれません。

高橋是清

それだけ、緊縮は多くの人々に支持される経済政策なのです。経済が悪い時に緊縮策が機能しないのははっきりと確かめられた事実です。緊縮策は倫理的な問題を別にしても、経済学的に不合理で誤った政策です。

経済的に正しいのは、不況の時は、財政政策と金融政策を二つとも発動せよ、です。

これはマクロ経済学を学んだ者にとっては当たり前の話です。通常の教科書モデルでも、変動相場制の国ではマンデル=フレミング効果が働いて、金融緩和の後ろ盾のない財政政策はあまり効果がありません。かといって、金融緩和だけでは、痛みの出ている箇所への集中投下ができないので即効性がなく、また大きな需給ギャップを埋めるには財政政策が不可欠になってきます。

さらに流動性の罠の下での財政出動は、クラウディングアウト(民間投資圧迫)も“後世へのツケ”も残すことはありません。

ノーベル賞受賞者でもあるアメリカの経済学者ジョセフ・スティグリッツも、不況の時の緊縮策は「自殺」への処方箋だとしています。同じくノーベル賞受賞者であるクルーグマンも、はっきり「狂気の沙汰」と言っています。過去おいては、欧州では緊縮財政で失敗しています。

日本も、安倍政権が誕生して、積極財政に踏み切るかとみられましたが、14年4月から、増税という緊縮策に踏み切ってしまいました。そのため、個人消費が低迷してしまい、今でもデフレに一歩手前の状況にあります。

ただし、金融緩和は政権発足当時が継続して行ってきたので、雇用は過去にない程良い状況になっています。

2012年に民主・自民・公明の三党合意で消費税増税法案が成立しました。そうして、14年4月から消費税が8%に増税されました。19年10月には、10%増税が予定されています。増税しないと日本が駄目になるというのですが、今の日本で緊縮財政を強行するのはデフレを長引かせるだけであり、まさに「狂気の沙汰」です。


緊縮策とは個人の行為でいえば、節約ですが、これが多くの人々の琴線に触れるのかもしれません。だれでも、贅沢三昧することよりは、節約のほうが、良いと考えるものですが、それを政府の支出にまで拡大して解釈し、緊縮こそ善であると思い込むのは完璧な「狂気沙汰」です。これは、社会の常識として多くの人々に認識していただきたいです。

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2018年6月12日火曜日

【日本の選択】朝鮮専門家の無見識バレた「米朝会談中止」報道―【私の論評】ドラゴンスレイヤー達の夢は実現するか?中朝首脳会談がすぐ開催されるか否かが今後の鍵(゚д゚)!

【日本の選択】朝鮮専門家の無見識バレた「米朝会談中止」報道

トランプ大統領(右端)をはじめ各国首脳が繰り広げる外交は駆け引きで成り立っている

 米朝首脳会談をめぐって、国内では一喜一憂したような報道が繰り返されている。いまだに実現されていない会談の結果を、あたかも知っているかのように論じる人たちもいるが、まことに滑稽である。

 先日の南北首脳会談で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が終始笑顔であったこと、その他の映像を見て、正恩氏が人格者で人情味のある指導者であるかのように論じる人がいる。一方で、安倍晋三首相率いる日本外交は「蚊帳の外」に置かれていると警鐘を乱打する人まで、多種多様だった。

 冷静に考えれば、親族まで平然と殺戮(さつりく)する人物が、人格者であるはずがない。ドナルド・トランプ米大統領と太いパイプを持つ安倍首相が、「蚊帳の外」に置かれているはずがない。

 しかしながら、冷静になって考え直すべきなのは、この会談の本質である。これは、「米朝友好」や、「東アジアの平和」「正恩体制の維持」などをめぐる各国間の駆け引きであり、その結果は誰にも分からない。話し合いをすれば必然的に友好が訪れるといった類の話では決してない。

 私が最も情けなく感じたのは、トランプ氏が5月24日、正恩氏に「米朝首脳会談を中止する」との書簡を送ったときだ。トランプ氏を不甲斐なく思ったのではない。「これで米朝首脳会談がなくなってしまった」と素直に信じ込む人々が日本ではあまりに多かった。

米朝首脳会談中止を伝えたテレビ報道

 私は注意を喚起すべく、25日のツイッターで次のように指摘した。

 《米朝首脳会議が開催されるといえば、はしゃぎ、中止されるといえば、周章狼狽(ろうばい)する。これでは話にならない。開催すると言ったときに中止の可能性を考え、中止といったときに開催の可能性を考えておくのが政治だろう。日本の朝鮮問題の専門家とやらは、全く見識がないことが白日の下に曝された》

 率直に言えば、私はこの報道に接した際、「これで米朝首脳会談は実現に近づくのではないか」と感じた。両者の真剣さを確認するためのブラフではないかと直感したためだ。

 今回の会談は、平和な時代における紳士と紳士の和やかな話し合いではない。米国大統領史上、相当型破りなトランプ氏と、現代における冷酷な僭主、正恩氏の駆け引きなのだ。首脳会談を開催する、しないをめぐって駆け引きが存在しないはずがない。

 日本にとって重要なのは、この米朝首脳会談に過度な期待をすることでも、過度な失望をすることでもない。日本の同盟国として米国は何をなし、そして何をなすことができないのかを、冷静に見極めることだ。

 すべてを米国に依存するのではなく、戦略的に米国と友好関係を維持するために、日本自身が何をなすべきなのかを、焦ることなく冷静に考え始めることが肝要だ。

 ■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。拓殖大学客員研究員等を経て、現在、大和大学政治経済学部政治行政学科専任講師。専攻は政治哲学。著書に『平和の敵 偽りの立憲主義』(並木書房)、『人種差別から読み解く大東亜戦争』(彩図社)、『「リベラル」という病』(同)など。

【私の論評】ドラゴンスレイヤー達の夢は実現するか?中朝首脳会談がすぐ開催されるか否かが今後の鍵(゚д゚)!

現状のニュースを見る限り、北朝鮮には得るものが多かったようですが、日本にとっては北朝鮮に核兵器が長期間有効なまま残存し続ける可能性が大きく、また拉致問題については提起はあったものの今後の進展は不透明です。壮大な予告編を見せられた感覚を覚えました。そうして、これは予告にもならない可能性もあります。

おそらく、交渉の本当の行方は、今後開催されるであろうポンペオ氏やボルトン氏等が関わる米朝実務者協議で決まることでしょう。

トランプ米大統領に同行してシンガポールを訪問したポンペオ米国務長官は11日、ホワイトハウスを通じて声明を発表し、シンガポールで11日午前に行われた米朝首脳会談を巡る両政府間の実務者協議について、「中身のある詳細な議論を行った」と評価しました。

ポンペオ米国務長官

首脳会談で最大の焦点となる北朝鮮の非核化を巡り、前進があった可能性があります。

ポンペオ氏は「米国の立場は明確で不変だ」と述べ、12日の首脳会談で北朝鮮に、「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」を求める方針を示しました。「大統領と米国のチームはあす(12日)の会談を楽しみにしている」と期待感も示しました。

今後もこのような実務者協議を何度か重ね、具体的な核放棄の方法や検証の方法などを話し合うことになると考えられます。この段階で決裂するということは十分あり得ます。

今後の実務者協議の決め手になるのは、昨日もこのブログで掲載したように、米国の対中国戦略において金正恩が使い勝手の良い駒になるかどうかです。ポンペオやボルトンなどのドラゴンスレイヤー(対中国強硬派)たちは当然そのような見方をするはずです。

核兵器を確実に廃棄し、対中国の駒になる覚悟があれば、トランプ大統領は金正恩が米国の駒である限り、北の現体制の存続を認め、核兵器廃棄の後には実質的に米国の核の傘の下に入ることも認めるでしょう。

さらに、日米が北朝鮮に対して経済援助をすることも認めるかもしれません。その時が日本の拉致問題の解決の時です。拉致問題解決なくして、日米の援助なしという形をとることができれば、日本にとってはベストでしょう。

米国はすでにこれに関して、金正恩に踏み絵を用意している可能性があります。それは、今後金正恩が、米朝会談の直後(半年以内)に習近平を訪問して、中朝首脳会談を開催するか否かです。私は、トランプ大統領はこのことに関して、首脳会談中に金正恩に因果を含めたと思います。

中朝首脳会談がすぐ開催されれば北は米国から見放される

中朝首脳会談をすぐにでも実施すれば、米国は北の存続を認めない方向に大きく舵を切るでしょう。無論経済援助などしません。一方、すぐに開催しなければ、北の存続を認めるほうに大きく傾き、経済援助もする方向で検討に入ることでしょう。

半年以内に実際に、米朝首脳会談が開催されなければ、上で述べたことはかなりの確度をもって正しいことといえると思います。

そうして、核廃棄が終了した後には、北朝鮮が米国の対中国の最前線基地となり、将来的には米軍が駐留することもあり得るかもしれません。

米国のドラゴンスレイヤーたちはそのような日が来るのを夢見ているのかもしれません。

これは、私の想像ですが、ドラゴンスレイヤー達は、台湾と朝鮮半島の両方を中国に対抗するための最前線にすることを狙っているに違いないと思います。

米朝首脳会議が開催されるかされないかで一喜一憂するような人々は、このようなことは考えもつかないのだと思います。

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2018年6月11日月曜日

米朝首脳会談 中国の役割めぐる3つの疑問―【私の論評】正恩が中国に対抗する駒として機能するなら、トランプは条件付きで北の存続を認める(゚д゚)!


BBC News ジョン・サドワース記者 BBCニュース(北京)



ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が歴史的な首脳会談に臨もうとするなか、触れられていないものの誰もの念頭にあるのが中国だ。

中国は、北朝鮮にとって最も重要な長年にわたる同盟国なのと同時に、米国にとっては最も手ごわく、長期戦略上のライバルとなっている。

このため中国は、米朝首脳会談での合意が成功するかどうかの大きなかぎを握っている。

トランプ大統領と金委員長が脚光を浴びるなか、舞台の外で存在感を放つ影の主役をめぐる3つの疑問について考えてみる。
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中国が求めていることは?

一言で言えば安定だ。

言い換えれば、中国は国境の向こう側で核による瀬戸際政策がとられることを絶対に避けたいと考えている。

中国は、北朝鮮のパラノイアをいやというほど知っている。一方で、米国の気まぐれな大統領を信用していない。

そして、再び舌戦が始まり、軍事的な計算違いや緊張の高まりにつながるのを真剣に恐れている。

そうしたなかでは、外交と対話への復帰が中国の目的そのものになっているように思えることが時々あった。

しかし、北朝鮮に対する中国の堪忍袋の緒が切れそうになっているように近年見えるなかで、依然として北朝鮮は長年の同盟国で、米国は共通の戦略的なライバルだ。

金委員長が多大な犠牲を払って手に入れた核の抑止力を交渉によって一方的に放棄するような可能性があるのかどうか、中国はずっと現実的な考えを持っているだろう。

例えば朝鮮半島における米軍展開の変化といった何らかの妥協を、金委員長がトランプ大統領から得られたとしたら、中国にとってはもちろん好都合だ。

北朝鮮に対する中国の影響力はどの程度あるのか?

多少はある。

北朝鮮の貿易額の90%を対中国が占めている。

しかし、中国が北朝鮮を交渉の席に付かせたわけではない。

中国は隣国に対するこれまでになく厳しい制裁に同意したが、経済的に孤立化すればするほど北朝鮮は核抑止力の戦略に傾斜するだろうと、一理ある主張をしつつの同意だった。

金委員長は、自分自身の戦略的な理由から、自分自身で決めてシンガポールに向かった。

一方、中国が制裁を実施するのは主に、自国の目的に沿うからだ。

中国は協調的な姿勢によって、米国との地政学的競争という、より幅広い面で利点を得る。

さらに、中国の意向を完全には無視できないことを北朝鮮に思い出させる、限定的ながらも効果的な方法でもある。

制裁の効果はもちろん限られている。北朝鮮は、中国が恐れているのは核の現状よりも国境の向こう側で経済崩壊が起きることだと知っているからだ。

主客転倒の典型的な例だろう。

注目すべきことに、中国の習近平国家主席が金委員長と初めて会ったのは、わずか3カ月前。両首脳はその後、もう一度会談している。

一部のアナリストが言うように、一気に活発になった外交は中国が蚊帳の外に置かれるのを恐れたためだろうか。

急に制裁が少しだけ緩和されたと示唆する情報もある。

また、トランプ大統領は中国の介入を暗に指摘し、「少し失望しているとは言える。金正恩氏が習主席と会談したとき(中略)金正恩氏の態度に少し変化があったように思えるからだ。だからうれしくない」と語った。

米朝首脳会談が不調に終わったら中国はどうする?

中国にとっては、対話を続けさせるものなら、条約だろうと行程表だろうと友好的な握手とぼんやりした計画だろうと、何でも成功になる。

中国から見れば、北朝鮮の若き指導者に注目すべきなのは、曖昧な非核化に関する発言よりも、始まったばかりの国内経済の改革だ。

中国外務省によると、北朝鮮の高官らによる代表団が先月、「中国の国内経済開発の成果を学ぶため」北京を訪れたという。

それが中国が常に好んできたやり方だった。

中国からすれば、核兵器を限定的に保有する北朝鮮が終わりのない軍縮交渉を強いられるなかで、中国企業がインフラ建設や貿易拡大を進めるのは、それほどひどい状況とは言えないかもしれない。

「中国の夢」の輸出だ。繁栄による安定。もちろん相当程度の独裁も維持しつつ。

北京のカーネギー清華グローバル政策センターの北朝鮮専門家、ジャオ・トン氏は、「非核化について首脳会談でどれほど前進があるかにかかわらず、中国はより重要な長期的目標を持っている」と話した。

「それは、北朝鮮を経済成長させ、孤立したのけ者国家から、より普通で開放的な国に変化するのを助けるというものだ」

しかし、もし首脳会談がうまくいかず、米国が再び軍事攻撃を口にするようになったとき、中国はそれでも自分たちの計画を推し進めるかもしれない。

核爆弾を手に入れた北朝鮮は、今は明確に政治モードだ。

北朝鮮の「抑制的な」姿勢を評価する中国は、もし首脳会談が物別れになれば、責任はトランプ大統領にあると主張する可能性が高い。

ジャオ・トン氏は、「もし米国が首脳会談の席を立ち、最大限の圧力政策を復活させるなら、中国は外交の失敗の責任を米国に押し付けるだろう」と語った。

「もし米国が北朝鮮の非武装化に軍事攻撃をちらつかせるなら、米国に対する抑止力を示すため、中国が自国軍を動かそうとする可能性があると、私は考えている」

中国は舞台の袖で控えている。

シンガポールでの首脳会談はいずれにしろ、中国の影響力を高める可能性が高い。

(英語記事 Trump-Kim Summit: Three questions about China's role

【私の論評】金正恩が中国に対抗する駒として機能するなら、トランプは条件付きで北の存続を認める(゚д゚)!

この記事の見立てとは違い、私は、トランプ氏は当面中国の習近平皇帝に対する、盾となることを北朝鮮が認めれば、当面は北の体制を維持することにやぶさかではないのではないかと考えています。

そもそも、北朝鮮の独裁体制に関しては、かなり批判がありますが、中国とてさほど変わりありません。もともと、中国共産党一党独裁でしたが、最近では習近平が終身の主席になれるように、憲法も改正しています。習近平は、実質的に皇帝として中国を死ぬまで支配するつもりです。

北朝鮮も、中国ももうほとんど変わりがないような体制になってきました。両国とも、世界の他の先進国とは、価値観が全く異なります。そうして、これからもその価値観を変えることはないでしょう。しかも、中国のほうが、はるかに図体が大きいので、はるかにやっかいな存在です。

中国のICBM

これでは、経済力や軍事力ではるかに北朝鮮よりも大きな中国のほうが、はるかに危険です。中国はすでに米国に届くICBMを配備していますし、SLMB(潜水艦発射の核ミサイルょも配備しています。

ただし、SLMBは世界中から発射しても、米国に届く規模にはなっておらず、SLBMを米国に到達させようとすれば、SLBMを搭載した潜水艦を米国本土まで近づけそこから水中発射して米国に到達させることができます。

そうして、中国は中国付近の海底は、浅いため、すぐに潜水艦の動向が探られてしまうため、水深の深い南シナ海を中国のSLBM発射可能な戦略原潜の聖域にして、そこから西太平洋に潜水艦を発進させ、西太平洋のいずれかの地点で米国にSLBMを発射できるようにしようと目論んでいると考えられます。

だから、こそ中国はどこまでも、南シナ海にこだわるのです。現在では、そのようなことをしないとSLBMを米国に到達させることはできないのですが、いずれ時間がたてば、世界中のどこから発射しても米国に到達するSLMBを開発することでしょう。

中国のSLBMを搭載した潜水艦

たとえそうなったとしても、やはり南シナ海は中国にとって重要です。なぜなら、先程も述べたように、中国近海は水深が浅いのです、中国の戦略原潜の動向は、日米が逐一把握しています。不穏な動きがあれば、すぐに撃沈できます。

しかし、南シナ海の深海に中国の戦略原潜が深く潜行すれば、日米ともにこれをすぐに捕捉することは困難です。まさに、中国はこれを狙っているのです。

そうして、米国のトランプ政権はこれを何が何でも阻止しようとしているのです。中国が南シナ海で一線を超え、戦略原潜を派遣することになでなれば、米国はこれを絶対に許さないでしょう。

だからこそ、現在のトランプ政権には中国に対抗するため、ポンペオ氏やボルトン氏などのドラゴンスレイヤー(対中強硬派)らが跋扈しているのです。習近平が皇帝になることを宣言して以来、民主党の中にも中国に対する強硬派が目立つようになり、かつてのようなあからさまな擁護派、親中派、媚中派はいなくなりました。

そうして、トランプ大統領も、ドラゴンスレイヤーたちも、本当は北朝鮮をさほど重要視はしていません。ただし、オバマの戦略的忍耐により、北朝鮮に核開発をする余裕を与えてしまったため、オバマのこの負の遺産を払拭しようとしているだけであり、彼らの敵はあくまで中国です。

そうして、トランプ氏は金正恩をがんじがらめにして、習近平と会えない状況にしてしまいまいました。

これについては、以前このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
朝鮮半島の"再属国化"を狙う習近平の誤算―【私の論評】「習近平皇帝」を抑え込むためトランプは金正恩という駒を駆使している(゚д゚)!
正恩(左)率いる北朝鮮の属国化を目論む習近平(右)だが。5月に開かれた2度目の中朝首脳会談にて

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、“朝貢国”である北朝鮮の背後にいる“冊封国”中国にプレッシャーを与えること。これが、アメリカの本当の狙いです。

トランプ大統領にとっては、金正恩という駒を駆使して、中国にプレシャーをあたえることが、本当の狙いなのです。

以下にこの記事から、トランプが金正恩をがんじがらめにして、習近平に会えないようにした手法の部分のみを引用します。
トランプは、5月16日に北朝鮮が南北閣僚級会談をドタキャンしたり、「米朝首脳会談だって考え直さなければならない」などと「デカイ態度」を示し始めたことを、「金正恩が習近平と二度目の会談をしてからのことだ」と言い始め、5月7日と8日の大連会談に疑義を挟み始めました。 
そうして、トランプ大統領は5月16日以降の北朝鮮の態度の変化を「中国のせい」にしておいて、それもちらつかせながら米朝首脳会談を中止しました。 
これに対して、金正恩は、米朝首脳会談復活となれば、この段階でさらに習近平にSOSを出せぱ、きっとトランプがまた機嫌を悪くして「中止する」と言い出しかねないと考えたに違いありません。金正恩としては、腹の中ではどんなことをしてでも米朝首脳会談を成功させたいと考えているでしょうから、彼はもう訪中はできません。 
おまけに板門店とシンガポールの挟み撃ちで米朝実務者レベルの会談に急に追い込まれた状況で、習近平に会いに行くなどしたら、トランプの逆鱗に触れることになります。 
こうして金正恩をまず、「がんじがらめにして習近平に会わせないようにする」ことに、トランプは成功したのです。

 しかし「米朝は対話のテーブルに着け」と言い続けてきたのは中国です。今まさにそのテーブルに着こうとしているのですから、中国としては文句が言える筋合いではありません。こうしてトランプは、習近平の口をも閉ざさせてしまったのです。 
これが十分に練り上げた戦略として編み出されたものか、あるいはトランプのビジネスマンとしての「勘」が、結果的にここまで行ってしまったのかは、わからないです。いずれにしても、トランプの圧勝です。 
もしトランプが北朝鮮の「完全な非核化の程度」に満足して莫大な経済支援をしたとすれば、金正恩なら、「習近平からトランプに乗り換える」くらいのことは、やるかもしれないです。 
どんなに中朝軍事同盟があり、中朝蜜月を演じたとしても、それはアメリカへの威嚇であって、その威嚇が必要となくなれば、中国は「いざという時の後ろ盾」程度の位置づけになり、存在感を失うことになるでしょう。 
こうして、「中国の覇権」を抑え込むために、トランプは十分に金正恩という駒を駆使しているのかもしれないです。
私自身は、トランプ大統領は金正恩という駒を駆使しているのは間違いないと思います。この駒が駒として十二分に動く間は、トランプ大統領は核の完全即時廃棄、拉致問題の解決、その他人権問題での譲歩などがあれば、北の体制を許容する可能性があります。

もし、北がこれを断れば、さらに機雷封鎖なども含む制裁の最大限の強化をして、北朝鮮の社会の機能を奪い、自然崩壊するのを待つか、軍事オプションも行使することになるでしょう。

これについては、中国と本格的な対抗に備えて、あまり時間を費やすようなことはしないでしょう。今年中には間違いなく、少なくともこれからどのような方向に進んでいくか、誰の目にも明らかになると考えられます。

空母打撃群

北朝鮮問題が、ある程度収束すれば、次は台湾を巡って中国との対立が激化することでしょう。その口火は、米国が3つの空母打撃群を台湾に寄港させ、台湾海峡で本格的な軍事演習をすることなどから、本格的に口火が切られることでしょう。

このような演習は何度も行われ、日本やイギリス、フランス、オーストラリア、インドなども参考することになるでしょう。

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2018年6月9日土曜日

【日本の解き方】安倍政権批判とアベノミクス批判 区別できず墓穴を掘る人たち、筋違いの議論で笑われるだけ―【私の論評】アベノミクスは高校教科書掲載の当たり前のど真ん中の金融・財政政策(゚д゚)!

【日本の解き方】安倍政権批判とアベノミクス批判 区別できず墓穴を掘る人たち、筋違いの議論で笑われるだけ

米国訪問及びG7シャルルボワ・サミット出席についての会見

安倍晋三政権を批判する人は、とかく右派も左派もアベノミクスの柱である経済成長路線や金融緩和まで否定する向きがある。その理由や問題点について考えてみたい。

 アベノミクスと一般にいわれる政策群は、(1)金融政策(2)財政政策(3)成長戦略から成り立っている。(1)はデフレ脱却まで金融緩和(2)は機動的な財政政策の運営(3)は主に規制緩和を行う。

 (1)~(3)の政策メニューは、先進国ではどこでもある政策群なので、あえて名前を入れる必要もないものだが、政治的な考慮から、アベノミクスという名称が使われている。

 実は、多くの人は、政策の中身を考えないで、ネーミングで判断してしまう傾向がある。アベノミクスとネーミングされると、「安倍政権の経済政策」となり、政権批判の人にとってはまず否定すべき対象になってしまう。

 しばしばある政治手法なのだが、実際に経済政策が効果を上げているときには、政権側からネーミングに拘り、あえてネーミングを先行させる。成果を上げている経済政策を政権のおかげであると国民に強く訴えることができるからだ。同時に、政権批判者は政権の全ての政策を否定しがちなので、良好な経済環境を否定させ、批判者の政策遂行能力について国民が疑問を持つようにもできるのだ。

 筆者は別に安倍シンパではなく、20年近く前から、金融政策は雇用政策であると主張してきた。これは世界のマクロ経済学の常識だったからで、その事実を安倍首相のほかにも、自民党や民主党(当時)の幹部に何度も説明してきた。ただし、結果的に政策として実行したのは安倍首相だけだった。

 それにも関わらず、政権批判者の中には、筆者を「御用」と呼ぶ人もいる。もし民主党政権で金融政策をまともに行い雇用の実績を伸ばしたら、当然筆者は評価したはずだから、レッテル張りは間違いだ。

 あるテレビ番組で、筆者が就業者数の推移をグラフ化して、民主党政権の時には減少しているが、安倍政権になってから反転急増していると説明したら、当時の民主党議員から、グラフが間違っているとの指摘を受けたこともある。その筋違いにテレビ視聴者から失笑も出たが、この議員は安倍批判をしたいだけだったようだ。

 最近の雇用環境が良好なのは否定できない。しかし、安倍政権批判者は、雇用の良さですら否定したり、別の要因を求めたりして、墓穴を掘っている。

 安倍政権の経済政策にも弱点がある。2014年4月の消費増税は失敗だったし、19年10月にも再び増税をやろうとしている。批判者は、良いものは良いとして、こうした政策ミスを突けばいいものを、全て否定してしまう。

 そして経済政策での批判が無理となると、今度はモリカケのような無駄なことばかりやってしまう。批判者は建設的な議論ができず、典型的な悪循環に陥ってしまっているようだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】アベノミクスは高校教科書掲載の当たり前のど真ん中の金融・財政政策(゚д゚)!

私自身も、高校生のときに財政政策や金融政策のあらましを習い、財政政策の具体例や、金融政策では売りオペ、買いオペなる言葉を覚え、そのときは厨二病が抜けていなかったせいか、自分は国家レベルの金融政策や財政政策が理解でき、簡単だと思いました。

自分が、政治家や財務官僚や日銀官僚になれば、すぐにでも財政政策や金融政策を実行して、日本経済がたとえ悪くなっても、すぐに立て直すことができると思い、何やらワクワクしたのを覚えています。

高校の政治経済の教科書の表紙

そんな気持ちのままで大学に入り、大学時代は、理系だったので、経済のことなどはすつかり忘れ、社会人になってからも経済のことなどあまり考えなかったのですが、あるとき新聞の経済欄を読んでいて、本当に日本経済が全くわからなくなっている自分に気づきました。

その頃といえば、日本経済といえば、高校生のときに習った金融政策や、財政政策などとは程遠いことが話題となっていました。たとえば、「流動性の罠」とか、「構造改革」とか「生産性」とか、とにかく理解しがたいことばかりでした。


新聞を読んでも、テレビをみても、そのような話題ばかりで、自分がかつて高校時代に習った、もっと単純て明快なものとは似ても似つかないものになりました。とにかく、新聞で経済欄を読めば読むほど、テレビで経済の論議を聴けば聴くほど、本当に経済がわからなくなるという状態が続きました。自分は所詮経済が専門ではないので、わからないのは仕方ないことなのかもしれないと諦めていました。

高校時代にまともに政治経済を勉強した人なら、誰でも私と同じような思いを抱いたのでないでしょうか。私の場合は、政治経済で大学受験をしたので、比較的まともに勉強したと思います。

そうこうするうちに、最初は財政政策について述べる評論家などがでてきて、なんとなく納得はできるものの、それでもなにやら消化不良をおこしたような感覚がしたのを覚えています。今から考えると、彼らは、金融政策のことは何もいわず、財政政策のみで経済を立て直せると主張していました。

そうこうしているうちに、いわゆる金融政策を語る評論家などがでてきて、それを聴いていると財政政策だけよりは理解しやすいものの、それでも何やら少し消化不良気味でした。

そうして、あるとき、高橋洋一氏など、金融政策と財政政策の両方ですみやかにデフレ状況から脱却すべきという主張をする人たちが出てきて、というよりは、たまたま目にともり、それらの人たちを「リフレ派」と呼ばれていることがわかりました。

そうして、この「リフレ派」という人たちの主張こそ、私が高校生のときに初めて財政政策と金融政策を習ったときの当たり前のど真ん中の主張をしていました。

そうこうするうちに、安倍晋三氏がこの当たり前のど真ん中の主張をはじめ、2012 年の選挙に勝利し当たり前のど真ん中の政策をはじめました。すると、反アベノミクスの人々が、すぐに猛反対をしました。しかし、それらの批判はほとんど杞憂というものばかりでした。

ところが、なぜが2014年には8%増税という、当たり前のど真ん中とは反対の政策をはじめたら、経済が落ちた込みました。しかし、金融政策は当たり前のど真ん中の政策を実行したので、雇用に関しては良い状況が続き、今春の大卒の就職率は最高水準になりました。

安倍総理であろうと、なかろうと、政府が高校の政治経済で習った通りの、景気が悪ければ、金融緩和策と積極財政、景気が良ければ、金融引締めと緊縮財政をすれば良いだけの話なのです。無論どの程度の金融緩和と積極財政をするべきかという計量的なことをいえば、高校の政治経済レベルの話ではなくなります。

しかし、大まかに景気が良いとき、悪いときにはどのような金融政策、財政政策をすればよいのかということは、高校の政治経済レベルで十分に判断がつきます。さらに、デフレのとき、インフレのときということになれば、どのような経済対策をすれば良いのかは、高校レベルの政治経済の知識があれば、十分すぎるほどです。

自民党内にもアベノミクスという名の当たり前の
ど真ん中の金融・財政政策に異議を唱える人が・・・・

こんな簡単な高校の教科書に掲載されているような当たり前のど真ん中の政策すら、いったんアベノミクスというレッテルが貼られてしまうと、反対する人もいるというのは残念なことです。

経済に関しては、日本も高校の政治経済で教えられる、金融政策、財政政策が当たり前のど真ん中という当たり前の世の中にはやくなっていただきたいものです。

それにしても、高校の政治経済の教科書に出ているレベルの財政政策や、金融政策について理解しない、あるいは理解できない、政治家やマスコミなど一体どうなっているのかと、本当に不思議でしょうがありません。

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2018年6月7日木曜日

「関与してたら辞める」を歪曲する常軌を逸したマスコミのロジックと財務省の歪んだエリート意識―【私の論評】本当は低学歴で非常識な財務官僚!その弱みにつけ込み真の政治システム改革を(゚д゚)!

「関与してたら辞める」を歪曲する常軌を逸したマスコミのロジックと財務省の歪んだエリート意識

田中秀臣 
財務省

森友学園に関する財務省の文書改ざんについての報告書が、6月4日に明らかになって、またマスコミや野党の政権批判が加速している。

この報告書を読むと、

https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20180604chousahoukoku.pdf
1)森友学園問題についての改ざん前文書などを参照にすると安倍首相も首相夫人も一切関係がない、 
2)文書改ざん・交渉記録の廃棄は財務省理財局と近畿財務局を中心に行われた。そして佐川宣寿前国税庁長官が方向性を決定付けた。その動機は、国会での問題の紛糾を回避するためだった、 
3)近畿財務局は本省理財局に抵抗する職員たちもいた

 などが注目ポイントだろう。

 財務省が国民の信頼を喪失させた責任は重大であり、今回の職員20人への処罰だけで終わることなく、同省の体質を含めて監視し、改革を求めていくものだと思う。ところがマスコミや野党は相変わらず政権批判に力を入れているだけだ。

 麻生財務大臣の責任は大きい。麻生大臣の進退については評価が分かれるだろう。私見では、単に文書管理の見直しや綱紀粛正程度では、麻生大臣はなんのために在任するのか皆目わからない。大胆な財務省改革でもしなければいてもいなくても構わない。安倍首相もこの機会に財務省改革と同時に、財務省の生命線ともいえる消費増税路線を終焉させるぐらいの大胆さがほしい。というか、(14年の増税以降)消費が低迷して日本経済を不十分な成長に押さえつけている状況を考えれば、財務省の権力の基盤ともいえる増税路線を廃止することこそ、国民にとって利益になる。財務省への忖度はいいかげんにやめよ。

 他方で、マスコミや野党は、財務省改革などはどうでもいいようだ。麻生大臣の進退も単に安倍政権への痛撃を狙うものにすぎない。野党はまだわかるが、「麻生氏、なぜ辞めぬ」と題した記事を書く毎日新聞などのマスコミはかなり政治的色彩に偏っている。麻生氏の監督責任があるにせよ、さすがに報告書を読めば財務省理財局と近畿財務局がまったく大臣の知らないところで勝手に改ざん・廃棄をすすめている。麻生氏がすべてを監視する目でももっていれば責任は重大だが、これでは予防のしようもない。むしろ監督責任よりも、麻生氏の財務省改革の姿勢のあるなしについて厳しく追求すべきではないか?

 問題は、財務省の役人たちが、まるで国会を仕切るかのように、国会審議でさらなる質問がでないようにすることが文書改ざん・廃棄の目的であったことだ。国会は国会議員が議論リードするべきところであり、財務省の役人が仕切る場ではない。ここに財務省の醜く歪んだエリート根性を見出すのはたやすい。財務省の歪み肥大化したプライドを傷つけることが今の日本には必要だ。その権限を分割・廃止し、さらに他省庁の下部組織にするぐらいの意識を政治家や国民がもつことが必要だ。90年代のような大蔵省改革がいかに無駄だったのかが今回明らかになった。財務省の歪んだプライドと権限の肥大化を正すべきだ。それには繰り返すが、消費増税を核にした「財政再建」を粉砕すべきである。

 いま財務省や国税庁は、小学校などの教育現場で、税や財政についての理解を促す教育プログラムを行っている。厳しい表現を使えば、これは一種の“消費増税のための洗脳教育”の可能性がある。検索すれば、国税庁などのホームページでも事例を確認できる。ただ筆者がみた事例だと、小学生たちは消費税について圧倒的に反対なようで心強い。財務省や国税庁の狙い(?)通りにはいっていないようだ。だが、財務省の増税への執念は“草の根”まで巻き込む悪質さがある。「悪質」と書いたが、それは現状の日本では財政危機の懸念はなく、むしろ上記した増税による経済低迷の方が懸念されるからだ。今の経済を悪くすることは、将来の子供たちの未来を危うくする。それなのに財務省とその周辺の増税政治家、増税マスコミたちの野望は潰えない。文書改ざん問題でも懲りることはないだろう。

 だが、マスコミや野党の多くは、報告書にはまったく書かれていない安倍首相に文書改ざんの責任を結びつけようと必死であるようだ。例の首相と首相夫人が森友学園に関与したら首相の職をやめるとする国会での発言が、文書改ざんの引き金になったというロジックである。

 だが報告書を読めば、そんな経緯はまったく書かれていない。むしろ森友学園に野党議員たちが押し寄せた出来事(テレビ向けのパフォーマンスの類)が大きなきっかけだった。そんな事実はマスコミや野党は無視である。当たり前だ。森友学園問題を無理やり、首相と首相夫人に結びつけようと派手なパフォーマンスをした野党、それを大々的にとりあげたマスコミ自体にいくばくかの批判の目がいくのを避けたいのかもしれない。もちろんそんな見え見えのパフォーマンスや報道姿勢であっても、財務省が文書改ざんや廃棄をした事実を弁護する材料にはひとつもならない。

 ちなみに首相の答弁自体は、森友学園の土地取引や価格交渉に首相と首相夫人が関与していれば辞めるという、当たり前の限定条件がついている。だがマスコミではなんの形であれ関与したらやめるとでもいった形で無限定に報道されている。悪質である。政治を常に距離を置き、その活動を批判的にみるのはジャーナリズムのひとつの在り方だ。だが、今回の麻生大臣の辞任要求とでもいうべき報道姿勢、また安倍首相の「関与」答弁への強引な関連づけなど、マスコミはこの一年以上そうであり続けたように常軌を逸していると思う。

田中秀臣氏

経済評論家 / 上武大学ビジネス情報学部教授

田中秀臣


上武大学ビジネス情報学部教授。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。国土交通省社会資本整備審議会委員、内閣府経済社会総合研究所客員研究員など歴任。 著作『日本経済は復活するか』(編著 藤原書店)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『デフレ不況』(朝日新聞出版)など多数。毎週火曜午前6時から文化放送『おはよう寺ちゃん活動中』レギュラーコメンテーターとして出演中。
https://twitter.com/hidetomitanaka

【私の論評】本当は低学歴で非常識な財務官僚!その弱みにつけ込み真の政治システム改革を(゚д゚)!

財務省の官僚は、実は低学歴である。などというと、皆さんは驚かれるかもしれません。しかし、これは世界水準の見方をするとこういう見方もできるのです。

財務省のホームページに公開されている「採用昇任等基本方針に基づく任用の状況(平成24年度)」という資料には、キャリアおよびノンキャリアの官僚の出身大学と学部の情報が掲載されています。この資料をまとめると次のような恐ろしい事実が判明します。

まずはキャリア官僚の出身大学および学部を見てみましょう(図表5)。

 [図表5 財務省キャリア官僚の出身大学ならびに出身学部]
  〈大学・学部〉        〈人数〉
  東京大学法学部         11
  東京大学経済学部         4
  京都大学経済学部         1
  慶応義塾大学経済学部       1
  慶応義塾大学大学院経済学研究科  1
  信州大学経済学部         1
  名古屋大学経済学部        1
  北海道大学経済学部        1
  早稲田大学政治経済学部      1
  東京大学大学院公共政策学教育部  1
  早稲田大学大学院公共経営研究科  1
  早稲田大学商学部         1
  東京大学文学部          1
  同志社大学文学部         1
  京都大学法学部          1
  慶応義塾大学大学院法務研究科   1
  千葉大学法経学部         1
  東京大学大学院法学政治学研究科  1
  一橋大学法学部          1
  北海道大学大学院法学研究科    1
  明治大学法学部          1
  早稲田大学法学部         1
  東京大学大学院工学系研究科    1
  〈合計〉            36

次に、大学の壁を取り払って学部別の人数を集計してみましょう(図表6)。ここにも驚くべき事実あります。

 [図表6 財務省キャリア官僚の出身学部]
  〈学部〉 〈人数〉〈割合〉
  法学部   20   55.6%
  経済学部  11   30.6%
  その他    5   13.9%

圧倒的に法学部が優位です。経済を取り扱う官庁なのに、大学時代に経済学を学んだ人が3割しかいません。ただし、財務省側の立場にたって、この現状を説明すると、定められた財政を実行するためには、法律に基づいて実施しなければならず、そのためには法学が必要とされているようです。

そしてもう一つ注目しなければならないのは、彼らの学歴です。学歴というのは出身大学という意味ではなく、大学卒の学士なのか、大学院卒の修士なのかという点です。

ちなみに、日本は学歴社会ではなく、大学格差社会ともいえるような状況です。欧米というか、世界では、大卒は学歴あるものとはみなされません。たとえ、どのような名門大学を卒業していようと、大卒は大卒という扱いで、大学院を出ていなければ学歴があるものとはみなされません。日本でいえば、高卒のような扱いです。

日本の場合は、学歴などといっていますが、その実どこの大学を出たかということが、重要視されるので、これは学歴社会ではなく、大学格差社会というべきだと思います。

そうして、世界標準という立場から見直してみると、先ほどの表で数えてみると、大学院卒の修士は7名で、全体の2割しかいません。言い方は良くないのですが、意外にも低学歴です。他の先進国であれば、財務省や中央銀行の官僚のトップや幹部はまずは大学院卒です。

では、次に財務官僚のトップである財務事務次官の出身大学と学部について、前職の佐藤慎一氏から20年ぐらい遡って確認してみましょう。
佐藤慎一 東大経済学部卒
福田淳一 東大法学部卒
田中一穂 東京大学法学部卒業
香川俊介 東京大学法学部卒業
木下康司 東京大学法学部卒業
真砂 靖 東京大学法学部卒業
勝栄二郎 早稲田大学法学部卒業、東京大学法学部学士入学卒業
丹呉泰健 東京大学法学部卒業
杉本和行 東京大学法学部卒業
津田廣喜 東京大学法学部卒業
藤井秀人 京都大学法学部卒業
細川興一 東京大学法学部卒業
林 正和 東京大学法学部卒業
武藤敏郎 東京大学法学j部卒業
薄井信明 東京大学経済学部卒業
田波耕治 東京大学法学部卒業
小村 武 東京大学法学部卒業
小川 是 東京大学法学部卒業
篠沢恭助 東京大学法学部卒業
例外は勝氏、藤井氏、薄井氏ですが、勝氏は学士入学で東大法学部に入り直して卒業しています。80%以上の確率で東大法学部の出身者が財務省のトップになるというシステムであることは明らかなようです。

ちなみに、前職の佐藤慎一氏は珍しく東大経済学部出身です。増税推進派だった佐藤氏は信念を曲げて増税延期を進める官邸にお願いしたといいますから、経済学の知識だけでなく腹芸も達者なようです。

さて、経済の司令塔として財政政策を取り仕切る財務官僚ですが、経済のプロフェッショナルに見えるでしょうか。

法学部出身の新卒プロパー職員が、基本的に内部の研修と職務経験だけで昇進し、最後に事務次官にまで上り詰めるのです。これが日本の経済の司令塔となる人を育てるプログラムということになります。こんなことで良いのでしょうか。

財務省の本来の役割とは、政府の財政方針と目標に従い、専門家の立場から、それを実現するための方策を選んで実行することです。専門家的立場から、方法を選ぶということになれば、やはり大学院卒のほうが望ましいのかもしれません。

しかし、ここにも問題があります。財務省の官僚の出身大学のほとんどが東大です。その東大のいわゆる日本の主流の経済学者のほとんどは増税派だからです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「2%インフレ目標未達」の批判は誤解で的外れ―【私の論評】復興を税で賄おうとか、8%増税の失敗を認めたくない輩の多いこの国で、いつまともな経済論議ができるようになるのか?間違いを認める潔さのない人々のリストはこれだ(゚д゚)!
日銀黒田総裁

この記事は、2015年3月19日のものです。この時期には、2%の物価目標がなかなか達成できないのは、日銀の責任ではなく、8%増税に原因があるとされていた時期です。

このブログには、高橋洋一氏が復興税を支持した、日本の主流派経済学者のリストが掲載されています。これらのリストに掲載されている人々はすべて増税推進派です。

そうして、このリストをみるとやはり東大が多いです。東大の経済学者らは、ほとんどが増税推進派です。

ということは、もし財務省が経済大学院卒を多めに採用するようにしたとしても、増税派の東大大学院の卒業生が多く入ってくることになり、何も変わりないといことになるということです。

結局東大を頂点とする日本の主流の経済学者も財務省の増税キャンペーンに協力しているのです。

これでは、どうにもなりません。しかし、財務官僚は西欧基準では低学歴だということがある意味では突破口になるかもしれません。

財務官僚は省益を優先するため、省益に物事を考えますから、国民のことなどはなおざりで、本当は日本経済そのものや、マクロ経済学には疎いのだと思います。本当は、省益など二の次、三の次にすれば、本当の日本の経済や社会の姿が見えるはずなのです。

それが見えたなら、日本経済のために、日本国民のために何をすればよいのかなどということは高度な経済知識がなくても、常識でわかるはずです。特に現状を見た場合増税などできるはずないと、普通の常識のある人なら理解できるはずです。

政府や政治家は、財務官僚が低学歴であること、それと常識に欠けることを逆手にとり、まずは財政の方針は政府が定めようにもっていくべきです。目標については、最初は実質財務省に定めさせるようにしても良いですが、いずれそれも財務省からとりあげるようにします。

財務官僚が何をいおうと、増税はしない、積極財政に踏み切るなどの方針を定めて、官僚に従わせるのです。もし、従わなければ、財務省の権限を分割・廃止し、さらに他省庁の下部組織にするぐらいの組織変革を行うのです。財務省は、財政の実行部分を担うだけにし、それでも企画と実行部門は別組織にします。

さらに、実行と統治の部分は完璧に分離し、政府が統治の部分を完璧に担うようにするのです。

その後というか、その過程におて、やはり以前このブログにも掲載したように、本格的な政治システム改革が必要になると思います。これについては、以下の記事をご覧になってください。
妄想丸出しで安倍政権の足引っ張るだけの政治家は市民活動家に戻れ ―【私の論評】本当に必要なのは財務省解体からはじまる政治システム改革だ(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただものとして、この記事では、財務省を解体した後に、政党の近代化を図るべきことを掲載しました。

この2つは、日本の政治システムの近代化には必要不可欠であると私は思っています。

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マスコミ洗脳し財政危機煽る…財務省の災いは日本の好機だ 脱緊縮政策が経済に福となる―【私の論評】財務省は、現在の大企業に比較しても格段に遅れた時代遅れの組織(゚д゚)!

2018年6月6日水曜日

【高論卓説】信用不安が広がるドイツ銀行 共存の大株主・中国企業も経営危機 ―【私の論評】ドイツ銀行の中国へのデリバティブ残高は7000兆円、破綻すればリーマンショック級の危機に(゚д゚)!

 【高論卓説】信用不安が広がるドイツ銀行 共存の大株主・中国企業も経営危機 

ドイツ銀行

 ドイツ銀行への信用不安が広がっている。米国の連邦預金保険公社が米国のドイツ銀の子会社を「存続が脅かされるほどに財務に弱さがある銀行」のリストに加え、昨年、米連邦準備制度理事会(FRB)も同様の判断をしたと報じられたからである。また、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ドイツ銀の格付けを「BBB+」に引き下げた。この2つの要因からドイツ銀行の株が売られ、株価が過去最安値を記録したのである。

 ドイツ銀危機の背景には、ヨーロッパの金融機関が抱える構造的な問題が潜んでいる。リーマン・ショック直後の2008年10月、ヨーロッパの金融機関は会計基準の変更を行った。保有する債権を「満期目的」と「その他」に再分類し、「満期目的」については所得原価をベースに資産計上ができるようにした。ドイツ銀は約8億4500万ユーロに上る評価損を約8億2500万ユーロの黒字(08年第3四半期の税引き前)に転換させた。この会計のマジックによって黒字化したドイツ銀は経営を大きく誤ってしまったのである。

 リーマン・ショック後、英米の金融機関は経営危機対応と金融当局の指導により、積極的な資産の売却とハイリスク部門からの撤退を進めた。これを買い進め、投資銀行部門を拡大させたのがドイツ銀だった。その後、欧州でもギリシャ危機などソブリンショックが発生、15年に中国の株価が暴落したことで、この問題が表面化してしまったのである。

 ドイツ銀は欧州ソブリンショック後の資本増強を「CoCo債」という一種の転換社債で行った。この債券は経営が健全な際は、一般の債券よりも高い金利が得られるが、自己資本が危機的状況になった場合、自動的に株式に転換される社債である。つまり、借金が自己資本に変わるという非常に便利な債券であるが、これにも大きな問題がある。それは転換されることによって株式が希薄化し、株価暴落の要因になることだ。

 16年、ドイツ銀はこの問題に大きく揺れた。この問題に関しては、積極的な資産の売却などにより何とかごまかすことができたが、本質的な収益の改善には程遠く、赤字決算が続く中で、今回の危機が起きた。

中国の海航集団

 また、この問題の背景には中国との問題も絡んでいる。実はドイツ銀の筆頭株主は中国の海航集団であり、海航集団も経営危機に陥っており大規模な業務再編の最中にある。つまり、共依存の関係にあるともいえるのだ。どちらかが破綻すればそれが連鎖する可能性もある。ドイツ銀は排ガス問題を抱えるフォルクスワーゲン(VW)グループと世界最大の自動車部品、素材メーカーであるボッシュのメインバンクであり、このどちらもが中国が最大の顧客なのである。つまり、中国の製造業の要の一つでもあるのだ。

 そして、ドイツ政府としては、自国の産業基盤の破壊ともいえるドイツ銀の破綻を許すわけにもいかず、非常時には国有化を含む資本注入を含めた対応を行うものと思われる。トランプ米大統領はこれをドイツと中国との貿易戦争の交渉カードに利用する可能性もある。


【プロフィル】渡辺哲也

 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。48歳。愛知県出身。

【私の論評】ドイツ銀行の中国へのデリバティブ残高は7000兆円、破綻すればリーマンショック級の危機に陥る可能性も(゚д゚)!

中国にのめり込み、筆頭株主が中国の企業となっていたドイツ銀行が信用不安に揺れています。ドイツ銀行はサブプライムローンで経営危機に落ち、2015年の中国株暴落でも損失を食らって瀕死の状態でした。中国にのめり込んだドイツは、そのツケを払うことになるでしょう。

ドイツ銀行の中国へのデリバティブ残高が、ユーロ圏GDPの9倍の64兆ドル(約7000兆円)に達しています。これは、チャイナが経済破綻かドイツ銀行デフォルトの危機です。

この危機的な状況以下のグラフをご覧いただければ、わかります。まずは、ドイツ銀行の信用危機を示すグラフです。2016年の時点で161を超えています。この状況現在も悪化しつつあります。


次に、ドイツ銀行の中国へのデリバティブ残高を示すグラフです。ユーロ圏全体のGDPの9倍のお64兆ドル(約7000兆円)に達しています。

以下はリーマンショックのときのリーマン・ブラザースの株価とドイツ銀行の株価の推移を比較したものです。


ドイツ銀行あともう少しで、破綻したリーマン・ブラザーズと同水準まできています。

さて、紛らわしいですが、ドイツ銀行(Deutsche Bank)は日銀のような中央銀行ではなく、ドイツ最大ではありますが単なる商業・投資銀行です。日本で言えば東京三菱UFJ銀行や三井住友銀行みたいなものです。

日銀に相当するドイツの中央銀行はドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)で、ユーロ導入以降は欧州中央銀行のドイツ支店のような機能を果たしています。ドイツ連銀は、ドイツマルクの現金の保管もしており、今でもそこに行けばドイツマルク紙幣をユーロに両替してくれます。

米連邦準備理事会(FRB)が昨年、ドイツ銀行(DBKGn.DE)の米国内事業を「問題のある状態」と判定していたことが、31日付の米紙報道で明らかになった。自国ではなく米国の監督当局からこのような警告を受けたことで、ゼービング最高経営責任者(CEO)の事業縮小計画は一段と切迫感を増してきました。

米当局は何年も前からドイツ銀の米国事業に懸念を抱いてきました。2013年にはニューヨーク連銀がドイツ銀の報告体制を批判。16年のFRBのストレステスト(健全性審査)では、リスク管理に欠陥があるとして米子会社が不合格となっています。

こうした経緯を踏まえても「問題のある」との認定は警戒レベルがさらに引き上げられたことを示しており、リスク管理の強化などにつながる可能性があります。機密情報が漏れたことは、監督当局との関係が緊迫化していることの証左でもあります。ドイツ銀の株価がこの日7%も下げ、25年ぶりの安値となったのも無理はないです。

ゼービングCEOは最近、米国での貸し出しと、ヘッジファンドを相手にするプライムブローカレッジ部門のレバレッジ縮小を決めています。FRBの判定は、さらに事業縮小を進める十分な誘因となります。株主からは、米国事業からの完全撤退を望む声さえ出ています。つまり20年前のバンカース・トラスト買収から始まった、米投資銀行と張り合う路線を巻き戻すということです。

ドイツ銀行ゼービングCEO

もっとも、撤退が望ましいことなのか、あるいは実現可能かどうかは、まったく定かではありません。欧州の顧客に集中するというドイツ銀の目標を満たすには、米資本市場へのアクセスが必要となります。しかも米国での新規事業を中止しても、既存投資の管理コストは背負わなければならないのです。ドイツ銀の米持ち株会社の資産は昨年末時点で1480億ドル。これらを処分することは、さらに大きなリスクを伴うことでしょう。

とはいえ、FRBの警告によりゼービング氏の選択肢が狭まったのは確かです。警告対象から外れるには長い時間とコストを要しそうですが、差し当たってはウォール街からの撤退スピードを速める以外に道はないでしょう。

それにしても、このようなことでは、先の中国への天文学的デリバティブ残高を解消するにはいたらないでしょう。一体どうするのでしょうか。

ドイツ銀行が破たんすると、世界経済への影響があまりに大きすぎる為、国有化以外ないと思われます。 この場合、他国がいろいろと条件を付けると思われるわけです。特にサブプライムでドイツにいじめられた英国は、ブレグジットでの条件闘争のカードに利用するでしょう。

ドイツ銀行危機のお陰で、英国の金融センターシティは安泰になる可能性が高くなったといえるでしょう。 ユーロの為替拠点を金融が危機的状態にある国には移せないわけで、今まで通りになる可能性が高まったわけです。

ドイツ銀行の大株主は、先にも述べたように、中国の海航集団です。そうして、海航集団は習近平の右腕でもある、王岐山中国共産党副主席が後ろ盾になっています。フォルクスワーゲンVW、そしてVWの排ガス規制回避不正プログラムを作った世界最大の自動車部品会社ボッシュのメインバンクはドイツ銀行です。中国とドイツは軍事産業でも一蓮托生の関係です。 中国に対抗することを決めた、トランプ大統領がこれを見逃すはずがありません。

王岐山(左)と習近平(右)
  
ドイツ銀行が危機的な状況になり、米国が中国の1300品目に制裁関税をかけると報じられています。トランプ大統領はドイツ銀行の実体を理解すれば、これを狙い撃ちすることにより、中国に大きな打撃を与えることも十分考えらます。

ドイツ銀行の破綻があれば中国への飛び火は必然です。そうなると、リーマンショック級の経済危機が世界を襲うことも十分に可能性があります。安倍総理は昨年10月22日夜、民放のテレビ番組に出演し、2019年10月に予定している消費税率の10%への引き上げについて「すでに法律で決まっていること」と述べていました。そのうえで「リーマン・ショック級の危機がないかぎり予定通り行う」との考えを改めて述べていました。

だとすると、延期というシナリオも十分ありえるということになります。いずれにしても、もしこれがリーマン・ショック級の危機となれば、増税は絶対駄目ですし、むしろ減税し、他国が量的金融緩和を行うなら、日銀もさらなる量的緩和を行うべきです。

リーマン・ショック時は他国が大規模な金融緩和を行っているにもかかわらず、日銀は実施せず、そのため他国は危機からはやめに脱出したにもかかわらず。日本だけが一人負けの状態に陥ってしまいました。ドイツ銀行の破綻の際には、その二の舞いを舞うことはだけは避けるべきです。

【私の論評】

2018年6月5日火曜日

経済合理性はない消費増税 撤回のチャンス乏しいが…延期する政治判断が正解だ ―【私の論評】消費税を5%に戻せば、日本は再び世界第二の経済大国に返り咲き安倍政権は長期政権に(゚д゚)!

経済合理性はない消費増税 撤回のチャンス乏しいが…延期する政治判断が正解だ 

安倍晋三首相

2019年10月の消費税増税に備え、安倍晋三首相は19、20年度の当初予算を大型にする意向を示し、6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太方針」に景気対策の必要性を明記すると報じられている。消費増税を止めることはもうできないのか、一時的な景気対策で増税の悪影響を食い止めることは可能なのか。

本コラムで何回も指摘してきたように、統合政府のバランスシート(貸借対照表)を見れば、ネット債務残高はほぼゼロである。すでに財政再建をする必要は乏しいので、経済政策としてみれば、あえて消費増税を実行する必要はない。

それでも、政治的な理由で実施するというのであれば、そのときの対応策は増税効果を打ち消すような理論的な最善策に可能な限り近づけるべきだ。

最善策とは、8%から10%への消費増税を行うと同時に、全品目を8%の軽減税率の対象として適用することだ。笑い話のようだが、理論的に考えるとこうなる。筆者は、実際にこの話を国会で参考人として答弁したことがある。

これができない場合、何にも増して、景気を過熱させておくことが必要だ。そのために即効的な対策は、有効需要を高める減税を含む意味での財政出動である。一度きりの補正予算より恒久的な本予算でやるほうがいいが、少なくとも複数年度は必要である。手法としては広い範囲で財政出動をしたほうがいい。所得税減税と給付金の組み合わせであれば、全品目軽減税率適用に近い経済効果になる。

規模としては、恒久的な措置であれば増税額に見合う数兆円規模でもいいが、一時的な措置であれば10兆円以上を行って景気を過熱させることが必要になる。現在の需給ギャップなどから、こうした規模の財政出動であれば、景気は過熱するであろうから、増税によって冷や水をかけてもいいだろう。

そこまでして消費増税を行う経済政策上の合理性はない。消費増税が政治的に撤回できないので、増税分も政治的に使ってしまうというもので、あくまでも経済政策としての判断というより、政治的な判断だといえる。

政治的な判断というのなら、いっそのこと、財務省の公文書改竄(かいざん)などの不祥事から政局になりかかっていることもふまえて、国民の行政に対する信頼が回復するまで、当分の間、消費増税を延期するというのが、国民生活をかんがみても正解ではないだろうか。

もっとも、実際の政治スケジュールをみると、今年は大きな国政選挙が行われない可能性が高く、その場合には、消費増税の撤回を政治的な争点にする機会がなくなり、既に法律で決まったものとして、増税が実施されてしまう。

秋に予定されている自民党総裁選で消費増税の是非でも争点になれば、撤回のチャンスも出てくるが、そうならない場合、客観的にみて今の政治スケジュールでは苦しいところだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】消費税を5%に戻せば、日本は再び世界第二の経済大国に返り咲く(゚д゚)!

2019年10月に予定される税率10%への消費増税をめぐり、自民党の若手議員らが11日、増税凍結と、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)黒字化目標の撤回を求める提言を発表しまた。首相官邸の後押しを受けたもので、消費増税をすでに2度延期している安倍晋三首相の政策判断や、秋の自民党総裁選に影響をログイン前の続き与える可能性があります。

提言をまとめたのは「日本の未来を考える勉強会」(呼びかけ人代表・安藤裕衆院議員)。増税凍結などの理由として、前回14年の増税(5%→8%)の影響が残り、「再デフレ化の危機に直面している」と主張。全派閥の衆院1~3期生と参院1期生、前職の計39人が賛同の署名をしました。

以下に彼らの提言の内容を示す動画を掲載します。動画のタイトルは、「デフレ不況から完全に脱却し、日本経済を成長路線に乗せると同時に、財政再建を果たすために必要な財政政策に関する提言(Ver.2)」記者会見です。 平成30年5月11日にYouTubeに掲載されたものです。



提言は近く、首相と二階俊博幹事長に申し入れるますが、提言には首相の意向が働いています。首相は今年2月、公邸で若手議員と会食。その際、参加者がPB黒字化への異論を唱えると、首相は理解を示し、「党の方でどんどん議論を盛り上げてよ」と応じたといいます。

また、提言の文案は当初、増税「凍結」を「必須」としていましたが、官邸幹部と調整し、「当面の『凍結』を検討」という表現に落ち着いた経緯もあります。勉強会メンバーの一人は「官邸がOKと言わない提言は出せない」と話したそうです。安藤氏は提言発表の記者会見で、「大きな政策変更だ」と述べ、総裁選の争点になるとの認識を示しました。

この動きからすると、自民党総裁選で消費増税の是非が争点になる可能性はあると考えられます。

安倍首相はこの動きだけではなく、党内で様々な「増税見送り」の動きを期待しているでしょうし、実際にそのような動きをする人々を支援するのではないでしょうか。

2018年9月の自民党総裁選で誰が勝者となるのか。安倍晋三総裁の対抗馬として誰が立候補するかもまだ明白にはなっていない状況ですが、私は、安倍氏と岸田文雄政調会長の一騎打ちになる可能性が高いと予想しています。

岸田氏

そうして、こと日本経済にとっては、安倍氏の勝利が望ましいです。

岸田氏が勝って岸田政権が誕生すれば、消費税の8%から10%への引き上げが2019年10月から予定通りに行なわれるはずです。その結果は、火を見るより明らかです。前回の消費税率引き上げ後と同様に、日本の景気が大きく失速することは間違いないです。10%増税ともなれば、切りがよくて計算しやすく、8%増税のときよりもさらに個人消費が落ち込むことが考えられます。

一方、安倍氏が勝てば、少なくとも消費税が上がることはないと考えられます。安倍氏はおそらく、自民党総裁選前に再び消費税の凍結、あるいは引き下げを表明すると、私は見ています。なぜなら、内閣支持率の急落という逆境から一発逆転勝利を狙う最後の切り札は、それしかないと思われるからだ。

日本経済にとって最良のシナリオは、安倍氏が消費税率の引き下げを総裁選の争点にして勝利することです。その結果、たとえば消費税が5%に引き下げられれば、日本の株価も一気に上がるはずです。

そうして、実は上記の「日本の未来を考える勉強会」も過去に同じような提言をしています。8%増税で大失敗したのですから、その失敗を取り返すには消費税を5%に戻すというのは自然な流れです。しかし、そうなると決まって出てくるのが、財源の問題です。

しかし、財源はすでに潤沢にあります。消費税を5%に引き下げても、通貨発行益を財源として利用すれば、財源的には何の問題もないはずです。日銀は量的金融緩和で国債を大量に買い増し続けていますが、日銀が保有する国債は、元利の返済が実質不要です。

日銀が国債を買い入れるということは、国債を日銀が供給するお金にすり替えることを意味します。日銀券は元本返済も利払いも不要なので、日銀保有の国債は借金にカウントする必要がないです。それが通貨発行益です。

2017年度ベースの日銀の国債買い入れ額は、約31兆円に上りました。ということは、通貨発行益が2017年度ベースで約31兆円出たということです。一方、2017年度のプライマリーバランスの赤字額は約19兆円なので、2017年度の日本の財政は実質的に約12兆円の黒字だったのです。

それに対して、消費税を5%に引き下げるために必要な財源は約8兆円なので、問題なく可能なのです。これについては、このブログでも政府の日銀の統合政府ベースではすでに、財政は黒字であることを何度かとりあげてきました。


これを語ると、反アベノミクスの方々は、そんなのインチキだと言うのですが、彼らの頭の中は静的で、動的な金融政策を無視しています。景気が悪ければ、日銀が市場(銀行など金融金)から国債を買い取って、市場に大量の銀行券を流通させることによって景気は良くなります。

このままであれば、景気は加熱しっぱなしなりますが、景気が過熱すれば、今度は日銀が市場(銀行などの金融機関)に国債を売り、市場から銀行券(お金)を吸い上げて、景気の行き過ぎを抑制します。これが、中央銀行のオープンマーケットオペレーションというものです。

このようなダイナミックな動きをする機動的金融政策を実施することを前提とすれば、大量の国債を日銀がいつまでもため込んで離さないということではないので、何の不都合も生じません。

反アベノミクスの方々は、過去の日銀が動的に引き締めや緩和政策をその時々実行するという動的な金融政策をとらず金融引締めばかり実行してきたので、日銀風の静的金融緩和(引き締めたら引きしめぱなし)という金融政策を前提でものごとを考えるようになってしまったのかもしれません。そもそも、なぜ日銀が買いオペをしなければならないのかといえば、過去の日銀が頑なに金融引締めばかりを実施してきたからに他なりません。

確かに、日銀が国債をいつまでも市場から国債を買い取る(買いオペ)ばかりをしていれば、いずれ市場にお金が溢れ、ハイパーインフレになることになります。そうなる前に、今度は日銀は市場で国債を売って、市場からお金を引き上げれば良いのです。これが売りオペです。過去の日銀は、このダイナミックな動きをしなかったので、金融政策に失敗し続けてきたのです。

話を元に戻します。もし安倍氏が総裁選に勝って消費税率が8%に据え置かれた場合でも、岸田氏が勝って消費税率が10%になった場合を比べれば、日経平均株価は5000~6000円の差、あるいはそれ以上の差が出ることになるでしょう。一般の個人投資家にとっても、安倍氏の勝利が望ましいです。市場は間違いなく、安倍総裁再選を歓迎しています。


ところで、2108年1~3月期の実質GDPは、2年3か月ぶりのマイナス成長となっています。「リーマン・ショック並みの経済危機がくれば、消費税凍結を考える」と総選挙で発言した安倍総理が、消費税の凍結あるいは引き下げを断行する環境は整ってきています。

安倍総理が3選され、安倍総理が10%増税延期するどころ、消費税を5%に戻すようなことになれば、財政政策は金融政策よりは即効性があるので、あっと言う間に景気が回復して、物価目標も達成され、日本経済は盤石となり、数年後には低迷している中国の経済を追い越し、再び世界第二位の経済大国になることも夢ではありません。それだけ、日本の経済の潜在能力は高いのです。

そうして、無論安倍政権が長期政権になるのも確実です。

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2018年6月4日月曜日

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文在寅大統領誕生に歓喜した韓国の若者、日本へ出稼ぎを検討

南北首脳会談(5月26日)

 ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との橋渡しの役割ばかりが最近、目立つ文在寅・韓国大統領。大統領選挙のときに掲げた十大政策ひとつめは、雇用革命により、雇用率を70%にあげ、非正規職を現在の半分にすることだった。韓国の若者の多くが彼を支持したのには、自分たちの苦しい境遇を終わらせる期待が大きかったと言われている。ところが、大統領就任後の文氏がもっとも夢中なのは、北朝鮮問題だ。ライターの森鷹久氏が、裏切られた韓国の若者たちの行き場のない思いをレポートする。

 * * *

 「日本は本当に仕事があるのか? 真剣に日本行きを検討している」

 東京・文京区にある外資系企業で働くミニョンさん(27)の元に、地元である韓国・慶州市に住む友人からメールが届いた。友人といっても高校時代のクラスメイトで、ミニョンさんが大学進学をきっかけに来日して以降は年に一度会うか会わないかという関係。それでも、週に数度はメールのやり取りで、お互いの近況報告を行っている。

 「これまでも、韓国国内の格差や若者の失業率について報じるニュースはたくさんありましたよね。若者と私の故郷に住むような田舎の人たちは、仕事もなく本当に苦しい。でも、大手企業や公務員は優遇されていて、結局は喫緊の問題として深刻に議論される事は少なかったのです」(ミニョンさん)

 2017年の韓国大統領選挙では、親北朝鮮とされる革新派の文・現韓国大統領が選出され、韓国国内には「何かが変わる」という機運が漂った。ミニョンさんの友人も、週末にソウルで行われていた朴槿恵・前韓国大統領や当時政権だった保守派政党に対する反対デモに参加し、文大統領の誕生を心から願い、当選の際には涙を流して歓喜した。もちろん、文候補(当時)は、若者の失業対策にもしっかり取り組んでくれるだろう、という希望的な観測があったからだ。

 「文大統領は北との会談など、歴史的なことをしっかりやってくれています。でも、若者の雇用状況は全く改善されるどころか悪化の一方。選挙の時はお祭り騒ぎでしたが、その後は北の問題でまた国じゅうがお祭りに。結局今も昔も経済についての具体的な話はなされないし、お祭り騒ぎに酔いしれているだけ。その繰り返しなんじゃないか」(ミニョンさん)

 誰もが国の経済を、そして自分の生活を不安視していた。しかし、選挙や南北会談といった熱狂の中でそうしたネガティブなことを言い出せる状況ではなかったのかもしれない。たとえ重要な事実であっても熱狂する人たちの勢いを弱めるようなことは言ってはならない、そういった文化が母国にはあると話すミニョンさん。

 とはいえ、韓国の高級紙である朝鮮日報も今年に入ってから、南北会談などを大きく取り上げる一方で、こっそり「不況・廃業により三か月で32万人が職を失った」「韓国国民がついに経済を心配しだした」などと報じ始めている。大卒者の就職率は依然として7割を切り、全体の失業者数も増えている。仕事があったとしても低賃金重労働。日本でいうところのブラック企業が増加し、国民の不満が溜まらないほうがおかしい状況が長らく続いている。

 思えばこの二~三年、平昌冬季五輪や大統領選挙、そして南北会談と国民にとってのお祭りがずっと続いてきた。そうした熱狂に「水を差すな」という暗黙の了解というか、無言の圧力は我が国にも存在する文化ではある。だが、歴史的な善きことがおこなわれるのだから、苦しい思いを我慢して当然という無言の圧力だけでなく、韓国国民が現実を直視したくない、もしくはすべきではないという雰囲気を、これらの「お祭り」が後押ししたような格好にさえ見える。

 「そもそも日本で仕事をする、日本に行きたい、ということをあまり声高に表明できない。田舎に行くほどそう感じます。(かつて韓国を蹂躙した)日本で稼ぎたいなんて何事か、というわけです。でも若い人たちはみな、韓国に限界を感じている。日本行きを検討している友人は一人ではありません」

 冬季五輪の成功も、南北会談の開催も確かに「歴史的」であり、韓国国民の力を世界に見せつける偉業であったことは事実だ。しかしながら、韓国が「歴史的」で、かつ絶望的な経済状況に追い込まれていることもまた事実ではないのか。お祭りの雰囲気に「騙されるな」とまでは言えないが、誰にも本音を漏らすことなく、熱狂に沸く母国をひっそりあとにしようとする韓国の若者の気持ちが、あまりに軽視されすぎているような気がしてならない。

【私の論評】枝野理論では駄目!韓国がすぐにやるべきは量的金融緩和!これに尽きる(゚д゚)!

上の記事では、文政権の雇用政策などについて何も掲載していないので、以下に簡単にまとめます。

文政権は「所得主導型成長の促進」をスローガンに、「所得の再分配」に主眼をおいた経済政策を行っています。

具体的にいえば、

1)福祉・雇用に財政支出を傾斜配分(2018年度予算15兆ウォンのうち4割程度を配分)
2)公務員数の増加(5年で81万人の雇用増が目標)
3)最低賃金の引き上げ(2020年までに1万ウォンまで引き上げる)

というものです。ここには、先進国で雇用対策といった場合必須ともいわれる、金融緩和策はでてきません。さらには、財政政策もありません。

ところで、前述の所得再分配政策のメニュー(1~3)は全くの間違いです。そして、(2)の公務員数の増加を除けば、日本でも同じような政策が、主に『リベラル』といわれる人たちから提案されています。
ところが、韓国におけるこの政策の影響はかなりネガティブなものです。。
第一点は、公共投資の激減です。
韓国の場合、財政状況はかなり良いです(2017年の財政収支はGDP比で+2.8%、総国家債務残高もGDP比で39.8%)。そのため、景気後退局面には、公的部門の建設投資(公共投資)が景下支えのために発動されてきました。
ところが、文政権の財政政策では、雇用・福祉関連支出への配分が大幅に拡大されたため、公共投資の景気下支え機能の多くが失われつつあります。また、個人消費は安定しているものの、その伸び率はリーマンショックを契機に低下したままであり、改善の兆しはまだみえていません。つまり、公共投資の減少分を消費増が相殺するという状況にはなっていません。
第二点は、雇用環境(特に若年層)のさらなる悪化です。
経済協力開発機構(OECD)が発表した最新のデータとして、2017年第3四半期における韓国の青年(15−24歳)の失業率が10.2%に達したと紹介しています。5年前の12年第3四半期に比べて1.2ポイント上昇し、OECD加盟国ではトルコ、ノルウェー、チリに続いて4番目に高い失業率の上昇ペースとなったとしました。

一方で、同時期におけるOECD加盟国平均の青年失業率は16.2%から12.1%へと低下したと指摘。日本も7.9%から4.9%、米国も16.2%から9.0%へと減ったほか、ドイツや英国もそれぞれ失業率が改善しています。

韓国の若者

このように、韓国の現状の雇用情勢は最悪と言っても良い状況です。それについては、以前もこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
なぜかマスコミが報じない「大卒就職率過去最高」のワケ―【私の論評】金融緩和策が雇用対策であると理解しない方々に悲報!お隣韓国では、緩和せずに最低賃金だけあげ雇用が激減し大失敗(゚д゚)!

日本の大卒就職率は過去最高! 韓国に比較すると天国のようだ。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずは韓国の雇用の現状を示した部分のみを以下に引用します。
最低賃金引き上げの影響を大きく受けると認識される業種の雇用が2カ月間で26万件も消えた。就業者数の増加幅は2年連続で10万人台にとどまり、失業率は3月基準で17年ぶりの最高水準となった。 
統計庁が11日に発表した2018年3月の雇用動向によると、先月の卸・小売業と飲食および宿泊業の就業者数は372万3000人と、前年同月比でそれぞれ9万6000人減、2万人減となった。これら業種はアパート警備員などが含まれる事業施設管理・事業支援および賃貸サービス業と共に最低賃金引き上げの影響を大きく受けると認識されている業種だ。
これら3業種は2月にも就業者数が前年同月比で14万5000人減少した。2カ月間でこれら業種の26万人の雇用が消えたということだ。最低賃金の急激な引き上げが雇用に悪影響を及ぼしていると考えられる。
この失敗の原因ははっきりしています。金融緩和をして雇用情勢を良くすることもなく、最低賃金だけ機械的にあげたのが、この大失敗の原因です。

金融緩和をすれば、雇用が良くなることについては、この記事などを参照してください。ここでは、詳細は解説しません。

最低賃金をあげるというなら、まずは金融緩和をして、雇用が創設され、人手不足な状況にすれば、企業が人を確保するために、賃金をあげます。各企業の賃金があがった状況をみはからって、それにあわせて最低賃金をあげるというのがまともなやり方です。

しかし、韓国はこの逆をやって大失敗したわけです。しかし、これは当然といえば、当然です。景気が悪く、雇用情勢も悪いときに、最低賃金だけ上げれば、企業はさらに採用を控えるようになります。そうなると、さらに雇用が悪化するのは当然のなりゆきです。

別に高度な経済や雇用の知識がなくても、常識を働かせれば、そんなことはすぐに理解できます。

しかし、韓国のこの有様、どこかで聴いたことがあるような気がします。そうです。いわゆ、金融緩和に大反対する反アベノミクスというやつです。金融緩和すると、ハイパーインフレになるとか、国債が大暴落するとか、何も変わらないなどという識者が大勢いたことを思い出してしまいます。

このようなおどろおどろしい広告などがみられたが、
結局は国債は暴落しなかったどころか、金利は下がった

日本国内では、安倍政権になってから、2013年4月日銀が量的金融緩和に転じてから、今年で6年目に入りました。しかし、ハイパーインフレにもならず、国債も暴落することもなく、何が変わったことがあったかといえば、先に述べたように雇用が劇的に改善したということです。

その成果は今年も続き、今春の大卒の就職率は98.1%と、日本で記録をとりはじめてから、史上最高という結果になりました。これだけでも、金融緩和に反対する反アベノミクスは間違いだったことが、わかります。

そうして、韓国の現在の有様からも、反アベノミクスは明らかに間違いであることがわかります。しかし、なぜかマスコミはこの事実を報道しません。

日本でも、韓国のように金融緩和をせずに、最低賃金をあげれば、雇用を改善できると語っている人も結構いました。特にリベラル系の人にそのような人が多いです。
立憲民主党代表枝野幸男氏

その代表格は立憲民主党代表の枝野氏かもしれません。枝野幸男代表は、安倍晋三政権に対抗する経済政策を訴えていました。安倍政権のキャッチフレーズ「成長なくして分配なし」を逆転させ、低所得者層への再分配を主張し、法人税率の引き上げにも言及していました。

枝野氏は昨年ロイター通信のインタビューでも、「分配なくして成長なし。内需の拡大のためには適正な分配が先行しなければならない」といい、次のように主張しました。

 「(自民党の)所得税の改革は、本当の富裕層の増税にならず、中間層の増税になっている。何より、企業の内部留保を吐き出させなければだめ。単純に法人税を大幅に増税すればいい」

枝野氏には金融緩和という考えは全くありません。金融緩和をせずに、分配を増やすというのはどういうことかといえば、結局のところ韓国の実施した「金融緩和をせずに最低賃金」をあげるというのと何も変わりません。

枝野氏をはじめとするリベラルの雇用政策は韓国で実行され、大失敗したということです。

ブログ冒頭の韓国の若者の悲惨な状況を改善し、日本のように大卒の就職率を良くするには、分配や最低賃金を最初にあげるのではなく、まずは量的金融緩和を実施すべきです。

韓国にも、大学に経済学部はあるでしようし、まともなマクロ経済を教えている教授もいるはずです。また、韓国の若者の中には、海外に留学して経済を学んでいる人もいることでしょう。彼らが、文在寅の経済政策に異議を唱え、量的金融緩和をするように抗議をしないのはなぜなのでしょうか。本当に不思議です。

とはいえ、かつての日本もそうでした。いや、今でも金融政策と雇用が密接に結びついていることを理解しない人は、リベラルのみならず、保守系の人にも結構います。そういう人が、権力を握ると今の韓国のようになってしまうということです。

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