2018年7月10日火曜日

トランプ米大統領、最高裁判事に保守派のカバノー氏指名―【私の論評】実は平時に世界最弱の権力者米大統領の権限強化に動くトランプ大統領(゚д゚)!

トランプ米大統領、最高裁判事に保守派のカバノー氏指名

トランプ米大統領は9日、最高裁判事候補に保守派の連邦高裁判事、ブレット・カバノー氏を指名した。

トランプ米大統領は、最高裁判事候補に保守派の連邦高裁判事、ブレット・カバノー氏(左)を指名

6月27日に退任を表明したアンソニー・ケネディ判事の後任となる。ケネディ氏は7月31日付で引退する。

53歳のカバノー氏を指名することで、トランプ大統領は最高裁での保守派優位を長年にわたり守る狙いがあるとみられる。トランプ大統領による最高裁判事指名は2人目で、昨年には保守派のニール・ゴーサッチ氏を指名している。

カバノー氏は共和党のブッシュ(子)政権下のホワイトハウスで高官を務めた後、2003年に連邦高裁判事に指名された。ただ、党派色が強すぎるとの民主党の反発で、承認まで3年を要した。



トランプ大統領はカバノー氏について「法律家の間で判事の中の判事、思想的指導者とみられている」と述べ、議会上院では「速やかな承認と超党派の強い支持」を得るべきだとの考えを示した。

上院では共和党と民主党の議席が51対49と拮抗する。ただ、共和党から造反が出なければ、民主党が承認を阻止することは困難となる。

 【私の論評】実は平時に世界最弱の権力者米大統領の権限強化に動くトランプ大統領(゚д゚)!

米国のトランプ政権の連邦最高裁人事に注目が集まっています。というのも際どい判断の雌雄を決めていた中道派判事アンソニー・ケネディ氏が引退し、任命次第では過去50年間の様々な多文化的な政策が覆されていく流れが出てくるためです。

7月9日には首都ワシントン連邦巡回区控訴裁判所のブレット・カバノー判事を指名されましたが、この人事が承認されるかどうかで、アメリカ政治・社会が一変していく可能性があります。

米国最高裁

米国最高裁は、違憲か合憲かの判断を日本の最高裁よりも積極的に行い、国の政策や社会的に重要な争点に介入する傾向があります。このため最高裁判事は、米国の政策の方向性を左右し、実質的な政治のアクターとして重要な役割を担っています。

なぜアクターになりえるのかといえば、判事の政治的傾向が極めて明確であり、憲法に基づいた司法審査(judicial review、違憲審査)も頻繁に行うためです。

高度な政治的な判断を要する争点については、司法独自の判断を控える日本などの諸国と比較すると、アメリカの裁判所は「司法積極主義」であり、国の政策や社会的に重要な争点について積極的な裁定者となる傾向があります。

最高裁判事は長官を含めて9人。トランプ政権下では保守派4人、リベラル派4人、中道派が1人でした。アメリカである程度のレベルの大学生なら、この9人の名前だけでなく、イデオロギー的傾向も言い当てることができるほど、政治に深く関与しているのが米国の最高裁判事なのです。

例えばオバマケアをめぐる2012年の最高裁判決の際には保守派のロバーツ長官がオバマケアを擁護したこともあるように、保守派やリベラル派といっても判決は判事一人一人の裁量が基本だが、それでも明らかに判決に傾向があります。

というのも、そもそも任命された過程が政治的だからです。最高裁判事は大統領が任命した後、連邦議会上院が承認します(憲法上は「助言と同意」で決めます)。つまり、大統領府と議会のバランス関係で決まってくるのです。

米国の現在の最高裁判事のうち、リベラル派の4人はいずれも民主党政権(ブライヤー、ギンズバーグがクリントン政権、ソトマイヨール、ケーガンがオバマ政権)、保守派の4人はいずれも共和党政権(トーマスがG・H・Wブッシュ政権、アリトー、ロバーツがG・Wブッシュ政権、ゴーサッチがトランプ政権)のときにいずれも任命、承認されています。

中道派のケネディは共和党のレーガン政権の1988年に任命・承認されましたが、比較的自由に裁定をする傾向で知られています。例えば、同性婚の裁判など、世論を二分する「くさび争点(wedge issue)」ではケネディがスイングボートになってきました。

この中道派のケネディ判事が81歳という高齢を理由に退任を決めました。ケネディ判事の後任として今回、カバノー氏が指名されたことで、このバランスは一気に崩れるかもしれないです。

米国最高裁判事 クリックすると拡大します

カバノー氏が指名されたのには明らかな理由があります。カバノー氏は保守派として知られており、G・W・ブッシュ元大統領から高裁判事に指名される前は、同元大統領スタッフの事務方を務めたほか、人工妊娠中絶に否定的で、環境規制の緩和を支持してきたことでも知られています。

トランプ氏の支持母体であるキリスト教福音派は、最高裁がこれまで行ってきた同性婚、妊娠中絶などについてのリベラル的な判決に強い不満を表明してきました。それもあって2016年の大統領選の期間中から、減税などの政策以上に最高裁判事の任命人事は重要な争点でした。トランプ政権を生んだ原動力は国民の3割ともいわれるこの宗教保守の結束に他ならないのです。

前のオバマ政権下では保守派4人、リベラル派4人、中道派が1人でしたが、保守派のスカリア判事が2016年2月に死亡し、保守・リベラルのバランスが崩れていました。ただ、当時は、大統領は民主党だったのですが、上院は過半数が共和党であったという「ねじれ」があったため、オバマ氏が任命した判事は上院で承認されませんでした。

トランプ氏は大統領就任後、保守派のゴーサッチ氏を任命し、上院は僅差だったのですが、同氏を承認し、リベラルと保守のバランスを保ちました(ただ、その際、上院は慣例のフィリバスター制度=少数派が多数派を止めることができる制度=の適用を最高裁判事の人事を例外にしたというルールの変更もありました)。

特筆したいのは、上述のケネディ判事以降もトランプ大統領が行う可能性がある判事任命はこれだけで終わらない点です。85歳のギンズバーグ氏や、79歳のブライヤー氏など、リベラル派の立場をとる現在の判事には高齢者が多いです。健康問題も取りざたされています。いずれも「近いうちに引退するのでは」という話も出ています。

トランプ氏の大統領任期中、さらにリベラル派から保守派への転換があれば、長期的には最高裁の判決が一気に保守化していくのは火を見るよりも明らかです。

ウォーレンが最高裁長官を務めた1950年代から60年代のいわゆる「ウォーレン・コート」(1953-1969)や、バーガーが最高裁を勤めた「バーガーコート」(1969-1986)においては、最高裁の9人の裁判官の多くが政治的にはリベラル派であり、最高裁は様々な判決で連邦政府による積極的な社会改革を先導していきました。

南部諸州の人種分離法に違憲判決を下し、公民権法制定への起爆剤となった「ブラウン対教育委員会」判決(1954年)、被疑者の人権を確保する「ミランダ対アリゾナ判決」(1966年)、人工妊娠中絶を合法化させた「ロウ対ウェード」判決(1973年)など、枚挙にいとまがありません。

一方、1980年代後半から2005年まで最高裁長官を務めたレンキスト長官の時代(「レンキスト・コート」)、そして、2005年から現在までのロバーツ長官の時代(「ロバーツ・コート」)には、保守派の裁判官の数が次第に増え、リベラル派と保守派の裁判官の数が拮抗しながらも、比較的保守的な判決が増えるようになってきました。 トランプ政権が導入した複数のイスラム圏からの入国規制措置を支持する判決を6月末に下したのは象徴的です。

この延長線上に今後の司法があります。

最高裁判事で保守の勢力が強まれば、これまでのリベラルな政策が訴訟を通じて覆される可能性があります。具体的には、上述の「ロウ対ウェード」判決以来認められてきた妊娠中絶や、2015年の最高裁判決で合法化されている同性婚の容認、医療保険制度改革(オバマケア)などが争点になってくるでしょう。

妊娠中絶などの問題で女性の権利よりもキリスト教的な生命倫理を大切にすることを意味し、キリスト教的な倫理観の地域性を重視し、連邦政府ではなく州レベルの裁定を支持する「州権主義」も顕著になるとみられます。今後同性婚だけでなく、人工妊娠中絶が一部の州では非合法となる可能性すらことがかなり現実味を帯びてきました。

「小さな政府」を好む共和党の意向を受けて、政府の経済や社会活動に関する介入を控える動きが顕著になるとみられます。連邦から州への権限委譲や、企業に対して規制緩和を進める政策が認められることも考えられます。言葉を変えれば、規制緩和や小さな政府などの政策には追い風です。

アメリカの最高裁判事の場合、地位の安定の保障のために、引退や議会で罷免されない以外は「善い行いをしている間は職務につくことができます("shall hold their offices during good behavior")」。つまり、終身制です。日本のような国民審査もありません。一度就任した判事は30年以上勤める場合が多いです。トランプ大統領は45代だが、ロバーツ長官は17代です。

終身制のため、かなり長期的にアメリカ社会を変える可能性があります。これはトランプ大統領にとっては自分の政治的遺産を長く残すことができることを意味します。トランプ大統領にとっては、自分の任期を大きく超え、最高裁を通じた永続的な「保守革命」を達成できる機会でもあるのです。

これに対して、過去50年間の様々な多文化的な政策が覆されていくのは不可避であると憂慮するリベラル派も少なくないです。そもそも連邦政府を改革するために公民権運動に代表されるような市民運動などの政治活動の第一歩として、裁判闘争戦術が採用されてきたのですが、これも難しくなるでしょう。

それにしても、なぜトランプ大統領がこのような行動をとるのか、日本と米国では制度が異なるので、理解しにくい面があると思われますので、以下に簡単に解説します。

平時においては、極端に厳格な三権分立が障害となり、米国大統領にはほとんど権限がありません。それどころか、その結果として平時には司法が最も強力になるという歪な構造になっています。司法が強いというアメリカの特殊事情は、アメリカ映画などご覧になっていれば、いわゆる「司法取引」が頻繁に行われていて日本とは異なることでもお分かりになると思います。

これは、以下の図をご覧いただければ、良くお分かりになると思います。

米国完璧な三権分立と、イギリス・日本の議院内閣制度の非核

米国ではがんじがらめの三権分立で大統領の権限を著しく弱めている

アメリカは、完全な三権分立となっており、日本のように議会と内閣が協力関係にはありせん。これが、平時のアメリカ大統領の権限を極端に弱くしています。これは日本ではなかなか理解しがたいところだと思います。なぜなら、多くの日本人には、戦中終戦直後の米国の強力な権限のある大統領のイメージがあるからです。

しかし、同じ大統領であっても、平時と戦争時において米国の大統領の権限は大きく異ることを理解しなければ、米国の大統領の権限について理解でないです。米国では、戦争権限法により議会が大統領の戦争遂行を認めると、大きな権限が大統領に集中するようになっています。

これに関しては、さらに以下の動画を参照していただれれば、良くご理解いただけるものと思います。この動画は2015/06/04 に公開されたものです。



もともと、このように平時では権限がかなり制限されているのが、米国大統領なのです。だからこそ、トランプ大統領はこれから先様々な課題に挑戦していく上でも、最高裁の保守化を何としてもすすめたいと考えているのです。

私自身は、米国の厳格な三権分立に基づいた、司法制度はいずれ改めるべきとは思いますが、それにしてもすぐには変えることはできませんから、トランプ大統領上記のような行動をとるのは当然のことと考えます。

特に中国との対決は、軍事にはよらず、貿易戦争や金融制裁によって行われることになるでしょう。米国ではドラゴンスレイヤー(対中強硬派)でさえも、中国と直接軍事対決することは現実的ではないとしています。

そうなると、トランプ政権が中国と対決する際に、最高裁が最大の障害となる可能性もあるわけてす。トランプ大統領としては、それだけは避けたいと考えているのだと思います。

アメリカの政治や社会を一変させる可能性がある最高裁判事人事は今後、どうなるのでしょうか。カバノー氏に続く、トランプ大統領の任命、さらには承認を進める上院の動きが大きく注目されます。

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2018年7月9日月曜日

中国の急所は人民元自由化 米制裁を無効化する通貨安、トランプ政権が追及するか―【私の論評】米国の対中貿易戦争は始まったばかり!今後金融制裁も含め長期間続くことに(゚д゚)!

中国の急所は人民元自由化 米制裁を無効化する通貨安、トランプ政権が追及するか


USDCNYのチャート

 米中貿易摩擦を背景に、人民元相場の下落が起きている。

 まず、基本的な数字を押さえておこう。2016年の米国の世界に対する輸出額は1兆4500億ドル(約160兆円)、世界からの輸入額は2兆2500億ドル(約250兆円)、貿易赤字8000億ドル(約90兆円)だ。中国向けは輸出のうち8%で、金額は1160億ドル(約13兆円)、輸入のうち21%で金額は4820億ドル(約53兆円)、貿易赤字は3660億ドル(約40兆円)だ。米国の貿易赤字のうち大半は中国である。ちなみに対日赤字は700億ドル(約8兆円)にすぎない。

 米国は、こうした状況に政治的な不満があり、中国の知的財産権侵害に対する制裁関税を発動する。具体的には、500億ドル(5・5兆円)のうち、まず340億ドル分の中国製品に25%の追加関税を課す。中国も同額の追加関税との報復関税で対抗する。

 両国は水面下では交渉しているとみられるが、どうやら中国は人民元の操作も行っているようだ。人民元レートは変動相場制ではなく、中国政府がコントロールしている管理相場だ。4月以降、徐々に下落して今では6%程度も安くなっている。

 米国では利上げをしており、変動相場であってもドル高に振れやすい。実際、中国以外の新興国でも為替はドル高に向かっているので、人民元安を中国当局が容認しているともいえる。

 米国が関税をかけて中国が人民元を安くすると、米国の購入者はどうなるか。米国では中国からの輸入分のうち1割程度に25%の関税がかかるが、全品目は6%安くなる。つまり、1割程度は20%程度価格が高くなるが、残り9割で6%安くなる。その結果、中国からの輸入がどうなるか。輸入品の価格弾力性、つまり価格に応じた輸入量の変動にもよるが、かえって増える可能性もある。短期的には米国の対中貿易赤字はさらに拡大する可能性もあるのだ。

 米国としては、中国が人民元を操作して元安になると、政治目的である対中貿易赤字の削減を達成できなくなる。となると、人民元操作をやめさせるような手段にでるかもしれない。それは、人民元の自由化である。

 国際金融のトリレンマ(三すくみ)として知られているが、「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができる。中国は、「自由な資本移動」は共産党一党独裁体制を揺るがすために選択できず、「固定相場制」と「独立した金融政策」の組み合わせだ。ここで、完全な人民元の自由化を求めることは、「自由な資本移動」と同じ意味になる。

 10年ほど前、人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできなかった。

 人民元の自由化は、中国にとっては触れられたくないところだ。しかも、それを誘発する人民元安は、中国にとっても資本流出の引き金になりかねない。トランプ政権が中国の弱点をついてくるのか、それとも、中国がその前に折れて、何らかの妥協策を打ち出すのか、なかなか興味深いところだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】米国の対中貿易戦争は始まったばかり!今後金融制裁も含め長期間続くことに(゚д゚)!

米中貿易戦争悪化に伴い人民元相場が急落しました。その原因は上の記事には掲載されていませんが、キャピタルフライトであると予想できます。これに対応する形で中国当局は国有銀行に通貨防衛のための為替介入をさせました。

現状度は、貿易戦争悪化し、そのために中国の輸出の冷え込み企業業績悪化、そのため株価下落し、海外投資家が離脱、そうして人民元売りドル買いという負の連鎖が起きているわけです。

また、これに連動する形での国内勢の動きもあると考えられます。中国政府は2015年の中国株式バブル崩壊以降、外貨規制を強化し、国内からのドルの持ち出しを厳しく規制していました。

個人の両替規制を年間5万元(83万円程度)に制限し、破ったものに対して制裁を課すようにしました。企業に対しても、基本届け出制にして、500万ドル以上の取引に関しては、より厳しい審査を課すことにしました。

中国の両替所

これにより、一旦は収まったかに見えた人民元に対する不安が、再び市場を襲っているののです。中国の対外債務は1兆7,106億ドル(2017年末)、それに対して外貨準備高が3兆1106億ドル(2018年5月末)です。

外貨準備とは、自国通貨売りなどに備え、外貨が不足したときに使う保険のようなもので、これがなくなると、通貨危機が発生しやすくなります。

そうして、この外貨準備は対外債務に合わせた額が必要とされます。中国の場合、表面的な数字だけを見れば、対外債務の2倍近い外貨準備があるので、全く問題がないように見えます。

しかし、実は中国の場合、外貨準備の内容がわからず、実際に使える額が全く見えません。日本の場合、外貨準備のほぼすべてが米国債で構成され、保有者は政府と日銀であるため、全額を為替介入などに利用することができます。

それに対して、中国の場合、米国債は1,2兆ドル程度しかなく、国有銀行保有分が含まれているのです。基本的に、外貨準備というのは外貨をいくら持っているかであり、それが借金であろうとも外貨である限り、外貨準備にカウントされます。

中国では、国有銀行保有分の多くが海外からの借り入れが原資であると思われ、信用不安の際には一気に失われる可能性があります。

ちなみに、中国の対外債務1兆7106億ドルの内、1兆ドル程度が短期の債務とされており、一気に返さなくてはいけなくなる可能性もあります。

そして、中国の外貨準備の内、米国債は1兆2000億ドル程度(米国財務省)しかなく、ドルだけで見ればその差額は2000億ドル程度しかないのである。実際には他国資産をドルに換えることができるので、それ以上の規模になるが、その中身が全くわからないのです。

そして、今回の通貨防衛の介入も非常にイレギュラーな形で行われました。これは中央銀行ではなく、国有銀行がNDF市場(ドル建てデリバティブ)でドル先物を買い、ほぼ同額を現物市場に流す形で行われたのです。

これは中央銀行が自由に使える外貨準備を持っていないことの証左であるといえます。そして、これを続ける限り、外貨準備が失われ続け、通貨危機のリスクは上がってゆくことになります。

為替介入でも、自国通貨売り外貨買いの介入(通貨安)であれば、自国通貨は自由に手に入るため、何の問題もないのですが、通貨防衛のための介入は、他国の通貨を必要とするため限界があります。

そして、この状況から抜け出すには、基礎的条件の改善(対米貿易の拡大など)や通貨スワップによる他国の通貨保証が必要になるわけですが、現在の米中の状況からすれば非常に厳しいといえるでしょう。

そして、それ以外の方法としては、やはり人民元を完全に自由化し、為替介入をせず、人民元を温存するという方法がありますが、この場合、人民元は暴落し、外貨建て債務を持つ企業などの破綻と輸入品の高騰によるインフレと国内の混乱が待っているでしょう。

このように考えると、中国が経済に対するダメージをなるべく軽くし、体制維持を最優先させようとすれば、貿易戦争は避けなければならないです。つまり、中国は市場を開放し、米国産業の「よいお客さん」になるのが最善策です。

しかし、国が破たんするよりはその方が痛みは少ないと考えられます。なぜなら、米中貿易戦争に中国が屈しなければ、次のステージは金融戦争であり、これは米国が圧倒的に有利な戦いだからです。

現在でも、世界の金融市場におけるアメリカの支配体制は続いています。今も世界の債権の約60%はドル建てであり、当たり前ですが、ドルで借りたものはドルで返さなければならないです。つまり、各国の金融機関にとって、ドルが手に入らなくなるということは破綻を意味するわけです。

マカオのバンコ・デルタ・アジアという銀行は、北朝鮮の資金洗浄に関与していることが発覚し、アメリカとの送金契約が消滅、破綻危機に陥り国有化されました。また、フランス最大の銀行であるBNPパリバは、アメリカの制裁対象国との取引を理由に、1兆円近い制裁金支払いと為替関連取引の1年間の禁止を命じられ、大打撃を受けました。

マカオのバンコ・デルタ・アジア

ドル支配体制においてドルが手に入らなければ、石油や天然ガスなど資源取引の決済もできなくなります。国によっては、国家破綻の危機に直面することにもなりかねないです。

世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。中国の食料自給率は85%以下といわれていますが、米国から穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

だからこそ、中国はドル支配体制からの脱却を目指し、人民元の国際化を進めていました。IMFの特別引出権(SDR)の構成通貨入りも、そういった流れの中で推し進められたものです。

2016年、人民元はSDRの5番目の構成通貨として採用されましたが、ドルは米国の通過であるため、人民元がSDR入りしていても、米国かドル決済を禁じれば中国経済は破綻に追い込まれることになります。

ドルで資源を買うことができなければ、軍艦を出動させることもできなくなり、これまでの「中国は今後も発展していく」という幻想は根底から覆されることになります。そして、その段階においても対立が融和しない場合、アメリカは金融制裁をさらに強めるだけでしょう。

現在、世界の銀行ランキング(資産額ベース)で中国の銀行が1位、2位、4位、5位を占めており、チャイナマネーは一見強大に見えます。しかし、思い出してほしい。かつて、バブル期には日本のメガバンクが世界を席巻し、そのほとんどが世界トップ10に入っていました。今は、ゆうちょ銀行が20位内と三菱東京UFJ銀行が4位に食い込むのみです。

世界のトップ銀行ランキング

いわゆるバブルマネーによって、中国経済は本来の実力以上に大きく見られてきましたが、バブルが崩壊し、同時にアメリカが前述のような金融制裁を強めたら、どうなるでしょうか。当然、一気にこれまでの体制が瓦解し、中国は奈落の底に落ちることになります。

そうした構造をよくわかっているため、中国はアメリカのドル支配から抜け出そうとしているわけです。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(BRICS銀行)の創設を主導し、さまざまな二国間投資を推進することによって、アメリカに頼らない体制をつくりたがっています。

そうして、その動きを必死に否定しているのが日米であり、同時にASEAN(東南アジア諸国連合)の各国も日米に連動するかたちで自国の権益を守ろうとしています。

そういった世界の流れを鑑みると、米中の軍事衝突で、軍事力はもとより、金融力からいっても中国に軍配があがることはありません。

ただし、米国ではドラゴンスレイヤー(対中強硬派)でさえも、中国と武力衝突するのはあまり現実的ではないとみているようですから、彼らは貿易戦争、そうして金融戦争により、中国の夢を砕くことになるでしょう。

彼らの最終目標は、現在の中国の体制を崩壊させ、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめさせることです。それは、中国の現在の共産党一党独裁、最近では習近平の独裁体制が崩壊することを意味います。いずれ中国はそのような道を辿らざるを得なくなるでしょう。

米国のドラゴンスレイヤーたちは、共和党の中にも民主党の中にも存在します。習近平が独裁政治を目指して体制を整えた現状では、パンダハガー(対中国融和派)の分はかなり悪いです。

米中貿易戦争は未だ始まったばかりですが、息の長い長期のものになることは確かです。習近平は、米国がオバマ大統領だったときに主席になっています。オバマ大統領のときには、オバマの戦略的忍耐で米国は中国が挑発しても、黙って見過ごしてきました。

しかし、トランプ以降の米国はそんなことはないでしょう。中国が自ら、体制を変え、米国が納得するまで長期わたって制裁が続くことになります。いずれ中国は南シナ海、尖閣どころではなくなるでしょう。

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2018年7月6日金曜日

中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!

中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明
いよいよ米国と真正面から激突へ



ドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席

 中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言した。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえる。

 習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道された。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したという。

 この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれていない。

 今回の会議には、中国共産党政治局常務委員7人の全員のほか、王岐山国家副主席や人民解放軍、党中央宣伝部、商務省の最高幹部らも出席した。出席者には中国の米国駐在大使も含まれており、超大国の米国を強く意識した会議であることをうかがわせる。

これまでよりも指導的な立場に立つと表明

 習主席はこの会議で「中国は今後グローバルな統治の刷新を主導する」と宣言し、「国際的な影響力をさらに増していく」とも明言した。中国独自の価値観やシステムに基づいて新たな国際秩序を築くと宣言している点が、これまでの発言よりもさらに積極的だった。

 習氏の演説の骨子は、以下のとおりである。

・中国はグローバルな統治を刷新するための道を指導していかねばならない。同時に、中国は全世界における影響力を増大する。

・中国は自国の主権、安全保障、発展利益を守り、現在よりもグローバルなパートナーシップ関係の良い輪を作っていく。

・中国は多くの開発途上国を同盟勢力とみなし、新時代の中国の特色ある社会主義外交思想を作り上げてきた。新たな国際秩序の構築のために、中国主導の巨大な経済圏構想「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」をさらに発展させる。

・中国主導の新しいスタイルの国際関係は、誰にとっても「ウィン・ウィン」であり、互恵でなければならない。

 習近平主席のこの新たな対外政策演説は、今後、中国がこれまでよりも指導的な立場に立って、新しい国際秩序を築いていくことの方針表明だといえる。具体的には「社会主義」という言葉を明確に打ち出しており、米国が主導して構築してきた現在の国際秩序とは異なる「グローバルな統治」を目指すことが明言されている。

 だが、中国が構築しようとしている新たな国際秩序には、従来の米国主導の国際秩序にみられるような人権、自由、法の統治という普遍的な価値は明記されていない。中国は「社会主義」という標語の導入で、独自の国際秩序システムを推進しようとしているのだ。

米国の指摘に「その通り」と応じた中国

 米国のトランプ政権の中国認識を改めて確認すると、明白な対決の構図が浮かび上がる。トランプ大統領自身が2017年12月18日に発表した「国家安全保障戦略」での中国に関する記述には、以下の内容があった。この国家安保戦略は、中国を米国主導の国際秩序への最大の挑戦者として特徴づけていた。

・中国はインド・太平洋地域で米国に取って代わることを意図して、自国の国家主導型経済モデルを国際的に拡大し、地域全体の秩序を中国の好む形に変革しようとしている。中国は自国の野望は他の諸国にも利益をもたらすと宣伝しているが、現実には、その動きはインド・太平洋地域の多くの国の主権を圧迫し、中国の覇権を広めることになる。

・ここ数十年にわたり、米国の対中政策は、中国が既成の国際秩序に参加することを支援すれば、中国を自由化できるという考え方に基礎をおいてきた。だが、この米国の期待とは正反対に、中国は他の諸国の主権を侵害する方法で自国のパワーを拡大してきた。中国は、標的とする他の諸国の情報をかつてない規模で取得し、悪用し、自国内の汚職や国民監視をも含む独裁支配システムの要素を国際的に拡散してきた。

・中国は米国に次ぐ強力で大規模な軍隊を築いている。その核戦力は拡張し、多様化している。中国の軍事近代化と経済拡張は、大きな部分が米国の軍事や経済からの収奪の結果である。中国の急速な軍事増強の主要な目的の1つは、米国のアジア地域へのアクセスを制限し、自国が行動の自由を獲得することである。

・中国は他の諸国を中国の政治や安保の政策に従わせるために、経済面での報酬や懲罰を使いわけ、秘密の影響力行使工作や軍事力の威嚇も行っている。インフラ投資や貿易戦略は地政学的な野望の手段となっている。南シナ海での拠点の建造とその軍事化は、他国の貿易のための自由航行に危険を及ぼし、主権を脅かし、地域の安定を侵害する。

 米国政府は中国に対してここまでの警戒や懸念を表明してきたのである。これまで習近平政権はその米国の態度に対して、正面から答えることがなかったが、今回の対外戦略の総括は、その初めての回答とも呼べそうだ。つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのである。米国と中国はますます対立を険しくしてきた。

【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!

上の記事を簡単にまとめると、中国は、米国の作った戦後秩序に対する挑戦をすると指摘しています。大筋で正しい見方であると思います。

安全保障関係については、中国の軍備増強、海洋進出に対抗し、抑止力等を強めることが重要で、習近平の演説などを特に気にすることはありません。

アジア・インフラ投資銀行については、中国は、IMF、世銀、アジア開発銀行の活動と競合しようとしていて、IMFの融資条件を無意味にしています。

アジア・インフラ投資銀行は、中国主導で、他の加盟国の投票権は決定的ではなくなるでしょうから、出資のみして、影響力を行使できません。だからこそ、日米は加入しません。本来、他の先進国も加入すべきでないです。

中国は、世界を階層的に捉え、そのトップにいたいと考えていることは上の習近平の演説に垣間見えますが、これは米国主導秩序の改革などよりはるかに大きな話です。

中国共産党、習近平が何をしようとしているのかは、よくわかりません。中国は、かつてのソ連のように共産主義を広めようとしているわけでもありませんし、民族主義で中国を豊かにかつ強くするという単純な目標を追求しているように思われます。ただ、中国は多民族国家で、漢民族主義だけでは諸問題が出てくるでしょう。

中華思想の概念図

中国が世界を支配するという中華思想は古代から存在していました。現代中国も、『民族の偉大なる復興』というスローガンを掲げて、現代中国の政治と外交はいまだ『中華思想』によって突き動かされているようです。

その証左として、習近平国家主席は2013年の就任以来真っ先に周辺国外交を重要視し、その理念として習主席自身の考えとして「親・誠・恵・容」の四文字を掲げています。

ここで「親」とは、周辺諸国に親しみ親切にしてあげるということ。「誠」とは周辺諸国に対して誠意を持って接するということです。

「恵」とは主に経済分野の話であり、周辺諸国に経済的な「恵」を与えることによってその発展と繁栄に貢献するということです。最後の「容」は、周辺諸国に対して寛容な態度で臨み、各国の立場を「包容」するということです。

しかしこれらは、時代錯誤の、上から目線の外交的マスターベーションに過ぎません。そしてその外交理念は中国の伝統思想としての『中華思想」から来ていると考えられます。

上から目線の習近平

先の「中華思想の概念図」からもわかるように、中華思想では、世界の中心に文化的・道徳的優位性において世界の頂点に立つのが中華があり、これは「天子」と呼ばれる中国高弟の支配下の世界のことです。

そして中華の周囲にはいわゆる「東夷・西戎・南蛮・北狄」と呼ばれる未開の民が生息していて、彼らは中華文化からの影響を十分に受けていないがゆえにいまだに文明化されていない「化外の民」とされています。

そこで中華皇帝はまず「徳」をもって彼らに接し、中華の道徳倫理と礼儀規範を持って彼らを感化させ、やがて彼らが文明開化して中華世界の一員となっていくのです。

その際に徳を持って化外の民を感化し彼らを中華世界へと導くことは中華高弟の偉さの照明であり、感化される化外の民が多いほど中華皇帝は「真の天命」を受けた偉大なる皇帝として評価されることになります。

ところがこの中華秩序におけるその「支配」とは実は形式上のものでよく、諸国は中華王朝とその皇帝に対して「臣下」としての礼儀さえきちんと守っていれば良いという程度のものでした。

だから「臣下の礼」の最たるものとして諸国に求められたのは皇帝に対して定期的に貢物をもってご機嫌伺いに来ることで、いわゆるこれを「冊封体制」といいます。



そしてその形式さえとってくれれば皇帝は持ってきた貢物の何倍もの価値のあるものを与えるのであって、つまりは経済的合理性ではなく形式を整えることが大事だったのです。

その数が多ければ多いほど、皇帝の徳が証明され本物の天子として認められ、その権威が不動のものになるということで、そしてそれに逆らう国があれば、当然ほうっておくわけには行かず頑迷で野蛮な国は征伐をしなくてはなりません。
 
しかし力関係が逆転しているような国があれば、実際には無視したり逆に経済的に援助をして懐柔するといった行動をとるときもあります。つまりこのような「中華秩序」というのは、実態と虚構がないまぜになった、本音と建前が混合している奇妙な国際関係とも言えるのです。

中国の歴代王朝にはそうやって国力がまだ満ちてもいないのに周辺国を征伐に向かい国力を落として内乱で滅びたものがいくつもありました。結果として王朝を滅ぼしても守らなくてはならないしそうしなければ認められないのが中華秩序であり、今日の中国でもこの覇権主義的思想は忠実に受け継がれていると見るべきです。

アメリカはオバマ政権までは、中国の野望を聞き流してきましたが、そのためアジアの軍事バランスは大きく中国に傾いてきました。いわばアジアに局地的な冷戦秩序ができつつあるともいえます。

だから戦争のリスクがすぐ切迫しているとはいえないですが、北朝鮮の崩壊などでバランスが大きく崩れたときは危険です。日本の安全保障で重要なのは、このような軍事バランスを維持することです。

無論そのために、安倍総理は「安全保障のダイヤモンド」という構想を立案し、それに向けて外交努力を続けてきました。

今や中国は、「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」と臆面もなく主張し、これに応えるように、米国は中国に対して貿易戦争を仕掛け、それに対して中国も応酬しようとしています。

日本をはじめとした先進国は、様々な利害の衝突もありますが、それにしても中国による世界秩序に対して譲れない部分があるはずです。特に、民主化、経済と政治の分離、法治国家化という概念は、絶対に譲れないところでもあります。

そうして、この部分が何が何でも譲るべきではありません。中国が、チベット、ウイグル、内蒙古、満州などの本来の外国の領土であるところを除く自国の本土のみで、中国の価値観を実現するのはある程度許容できるところもあるかもしれません。

しかし、現在は19世紀ではなく、すでに21世紀です。現在に至るまで、古代の妄想を引き継いでいるのは、不合理だし、異様でもあります。

そうして一帯一路やAIIBにより、他国にまで中華思想を押し付けるようなことが絶対あってはなりません。さらに、中国人民も中国の体制に虐げられることは本来防がなければならないはずです。

やはり、先進国は、米国と協調して、中国の現体制を崩壊に向かわせるべく努力すべきです。特に、妄想ともいえる、中華思想は必ず打ち砕かなければなりません。

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2018年7月5日木曜日

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中国の横暴に甘い対応しかとらなかった日米欧 G7は保護主義中国に対して結束せよ

(注:この記事は6月15日のものです)

 今月8日から2日間、カナダで先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開かれる。鉄鋼・アルミなどの輸入制限を発動した米国に対して欧州が強く反発し、トランプ米大統領が孤立する情勢だが、仲間割れする場合ではない。

 正論は麻生太郎財務相の発言だ。麻生氏は先に開かれたG7財務相会議後の会見で、中国を名指しに「ルールを無視していろいろやっている」と批判、G7は協調して中国に対し国際ルールを守るよう促す必要があると指摘した上で、世界貿易機関(WTO)に違反するような米輸入制限はG7の団結を損ない、ルールを軽視する中国に有利に働くと説明した。

G7財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後、記者会見する
麻生財務相(左)と日銀黒田総裁=2日

 WTOについて自由貿易ルールの総本山と期待するのはかなり無理がある。麻生氏に限らず、経済産業省も外務省もWTO重視で、世耕弘成経済産業相も、米鉄鋼輸入制限をめぐるWTOへの提訴について「あらゆる可能性に備えて事務的作業を進めている」と述べているが、WTOに訴えると自由貿易体制が守られるとは甘すぎる。

 グラフは、WTOの貿易紛争処理パネルに提訴された国・地域別件数である。圧倒的に多いのは米国で、中国は米国の3分の1以下に過ぎない。提訴がルール違反容疑の目安とすれば、米国が「保護貿易国」であり、中国は「自由貿易国」だという、とんでもないレッテルが貼られかねない。事実、習近平国家主席はスイスの国際経済フォーラム(ダボス会議)や20カ国・地域(G20)首脳会議などの国際会議で臆面もなく自由貿易の旗手のごとく振る舞っている。


 実際には中国は「自由貿易ルール違反のデパート」である。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがない。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開ける。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに配分し、半導体、情報技術(IT)などを開発する。

 習政権が2049年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」は半導体などへの巨額の補助金プログラムだらけだ。

 一連の中国の横暴に対し、日米欧はとにかく甘い対応しかとらなかった。理由は、中国市場でのシェア欲しさによる。「中国製造2025」にしても、中国による半導体の国産化プロジェクトは巨大な半導体製造設備需要が生じると期待し、商機をつかもうと対中協力する西側企業が多い。

 ハイテク覇権をめざす習政権の野望を強く警戒するトランプ政権の強硬策は中国の脅威にさらされる日本にとっても大いに意味がある。G7サミットでは、日米が足並みをそろえて、欧州を説得し対中国で結束を図るべきだ。米国と対立して、保護主義中国に漁夫の利を提供するのはばかげている。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることに!虚勢を張れるのもいまのうちだけ?

7月6日に米国が通商法301条を発動し中国からの輸入340億ドル分に対し25%の関税をかけることがほぼ不可避となっています。中国もこれに対し直ぐ報復措置をとると言っています。

これまで米中はこと貿易に関する限り友好的な関係を長年、築き上げてきました。ところが、ブログ冒頭の記事にもあるように、中国はさまざまなルールを無視して、貿易によって漁夫の利を独り占めにしてきました。

ウォール街の関係者は7月6日が過ぎれば売られ過ぎになっている中国株は反発するだろうと考えているようです。

トランプ大統領は、ルールを破り続ける中国を許すことはできないです。さらに、米国のドラゴンスレイヤー(対中強硬派)たちは、米国を頂点とする先進国の価値観と、中国の価値観が真っ向から対決しており、それだけでなく中国が世界に自らの価値観を押し付け、挙句の果てに米国に挑戦しようとしていることに反発しています。

ただし、ドラゴンスレイヤーたちは、中国と直接戦争することは事実上不可能とみて、他の手段で中国の現体制を崩すべきと考えています。貿易戦争はそのための手段でもあります。

7月6日に中国からの輸入340億ドル分に対する2%の関税をかけたとして、これに対して中国が報復措置をとれば、米国はすぐさま報復措置として、中国からの輸入品すべてに関して25%の関税をかけるとしています。

これでも、中国が態度を変えない場合には、今度は金融制裁を強化していくことになるでしょう。さらに、米国はWTOから脱退するかもしれません。

いずれにせよ、7月6日以降も貿易戦争が鎮静化せず、関税競争がエスカレートした場合必ず中国が敗北します。その理由は、そもそも関税をかけられる対象が、中国の場合限られているからです。

下は両国の貿易を示したチャートです。中国は米国より3.9倍も多く相手国に対して輸出している関係であり、自ずと関税の対象に出来る品目には限りが出てしまいます。

さらに、米国は中国から輸入しなくても、他から輸入できるものがほとんどです。中国からでないと輸入できないような品目はありません。ところが、中国においては、米国から輸入できなると中国では製造できない集積回路や、あるいは他の国から輸入するとかなり割高になってしまう物品などが多いです。




両国の貿易収支を見るとアメリカは大きな赤字になっています。


これは何を意味するか? といえば「米国は中国にとって最上のお客さん」だということを意味します。

無論この貿易赤字を家計の赤字と同列にみなして、悪とみなすのは間違いです。通常景気が良いと輸入が増える傾向にあります。輸入が増えても、景気が良いという状況にあれば、特に問題はありません。

米国は昨年の場合は、景気は良いほうでしたので、特に中国からの輸入が増えても本来はさほど問題ではありません。

ただし、それは、中国が様々な自由貿易貿易ルールを守っていればの話です。しかし、ブログ冒頭の記事にもあるように、中国はそうではありません。

さらに、中国は米国とはじめとする先進国からすれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が進んでおらず、もともと自由貿易になじまないところがあります。たとえ中国が貿易ルールなど完璧に守った上で、貿易をしたとしても、それでも完璧な自由貿易にはならない可能性もあります。

1970年代から80年代にかけて、米国から貿易戦争を仕掛けられる立場にあったのは日本でした。日本政府は日米貿易戦争を良く戦ったと思います。でもそれは1年や2年で決着の付くゲームではなく、「これでもか、これでもか」というような延々と続くバトルでした。

実際、今回発動される通商法301条などの政策上のツールの大半は、忌まわしい日米貿易戦争時代に成立した法案です。

しかし、当時の日本は、米国と良い関係を保つために大変心を砕いていました。「ロンヤス」などという言葉が生まれた時でもあります。さらに、当時から日本はアメリカの同盟国であり、安全保障条約もあり、ソ連という仮想的に協同して対峙していました。

レーガン米大統領・中曽根康弘首相会談=1983年11月11日

ひるがえって今日の米中関係を見ると、政界レベルでも、冷え冷えとした関係になっています。南シナ海を実行支配し、米国の価値観に真っ向から挑戦する中国をドラゴンスレイヤーたちは許すことはありません。

上でみたようにそもそも米国は中国の最上の「お客さん」です。商売をやっている人なら理解できると思いますが、客を怒らせて得なことなど、なにもありません。

そうして、日本やEU諸国も米国ではないものの、中国から輸入をしています。その意味では、「お客さん」であることには変わりありません。自由貿易においては、互いが互いのお客でもあるのです。そのことを中国は忘れています。自分だけルールを守らないというのなら、爪弾きにされても仕方ありません。

だからこそ本来中国はトランプに対抗して貿易戦争エスカレートさせてはいけないのです。お客さんが、商売のルールを守れというのなら、守るのが筋なのです。

最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることになります。いままで中国まがりなりにもが豊かだったのは米国との関係によるものでしたが、トランプ政権で180度転換しました。対米貿易に依存してきた経済、米国のドルに依存してきた人民元は、米中貿易戦争で『突然死』となりかねないです。虚勢を張れるのも今のうちだけかもしれません。

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2018年7月4日水曜日

「トランプ氏の顔に泥」ポンペオ氏が正恩氏を“叱責”か 核・ミサイル温存の疑念―【私の論評】北の崩壊は、中国の崩壊も早める!ドラゴンスレイヤー(対中強硬派)達にとって最高のシナリオ(゚д゚)!

「トランプ氏の顔に泥」ポンペオ氏が正恩氏を“叱責”か 核・ミサイル温存の疑念

飛行機のタラップを降りるポンペオ長官 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 マイク・ポンペオ米国務長官は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談するため、5日に米国を出発する。米国メディアは最近、北朝鮮が「核・ミサイル」施設を温存・隠蔽しているとの報道を続けている。事実なら、6月の米朝首脳会談での「非核化合意」に反し、ドナルド・トランプ米大統領の顔に泥を塗る行為だ。ポンペオ氏が、正恩氏を厳しく叱責する場面もありそうだ。

 ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官は2日の記者会見で、ポンペオ氏が5~7日の日程で訪朝することを発表した。

サラ・サンダース報道官

 国務省によると、ポンペオ氏は訪朝後、東京を訪れ、日韓両国の高官と「北朝鮮の最終的かつ完全に検証可能な非核化」について話し合うという。

 米国メディアは最近、北朝鮮の「非核化」姿勢について、強い疑念を指摘する報道を続けている。

 米紙ワシントン・ポストは1日付で、北朝鮮の正恩体制に自国の核戦力を全面放棄する意思はなく、むしろ多数の核弾頭の隠蔽を画策しているのが実態である-と複数の米情報当局者が結論づけたと報じた。

 米CNNテレビ(日本語版)も2日、「北朝鮮、ミサイル製造の施設拡張か」「米専門家が衛星画像分析」というタイトルの記事を掲載した。北朝鮮北東部・咸興(ハムフン)市にある化学材料研究所での工事が完了したのが確認できたとし、北朝鮮の「核・ミサイル」開発の放棄に疑念を投げかけた。

 前出のサンダース氏は、北朝鮮の非核化について、核実験場の爆破などを例示して「進展している」と強調したが、甘い。北朝鮮はこれまで、非核化協定や合意を、ことごとく裏切ってきた前科がある。現に、多くの新聞やテレビが、米情報当局者の同様の分析を伝えている。

ジェームズ・マティス国防長官(手前)とジョン・ボルトン大統領補佐官(奥)

 トランプ政権では現在、ジェームズ・マティス国防長官とジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら対北強硬派と、ポンペオ氏ら対北融和派の間で、距離があるとされる。

 ポンペオ氏の今回の訪朝次第では、武力行使も辞さない、対北強硬派が再び力を取り戻すこともありそうだ。

【私の論評】北の崩壊は、中国の崩壊も早める!ドラゴンスレイヤー(対中強硬派)達にとって最高のシナリオ(゚д゚)!

米国の北朝鮮問題の専門家の多くは、「北朝鮮は非核化に努力していると見せかけるため、巧妙に成果を小出しにし、トランプ大統領の歓心を買おうとするのではないか」との疑念を表明。北朝鮮の非核化が進まない場合、制裁強化のほか軍事行動の検討が必要との意見を述べたとされています。

北朝鮮が国際社会を欺き続けてきた経緯を考えれば、こうした疑念が生じるのは当然のことです。

一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルは1日、衛星写真を専門家が分析した結果として、北朝鮮がミサイル製造工場の拡張を進めていると伝えました。同紙によると、シンガポールで6月12日に初の米朝首脳会談が行われた前後、北朝鮮の東海岸にある咸興(ハムン)で、ミサイル工場を拡張する動きが見られたといいます。咸興では、長距離弾道ミサイルの燃料を製造しているともされています。

ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された、北朝鮮の寧辺核研究所の一部で、6月21日に
Airbus Defense&Spaceが撮影した衛星画像
多くの人が、勘違いしていることがあうります。それは、金正恩氏が約束したのは「非核化」であり、「武装解除」ではないということです。

北朝鮮の通常戦力は、兵器の老朽化と兵站の混乱、そして部隊内での窃盗や性的虐待の横行など、軍紀びん乱ですっかり弱体化しています。金正恩としては、せめて一定の弾道ミサイル戦力を保持しなければ、国防そのものが危うくなってしまいます。

また、核兵器と同様、弾道ミサイルの開発にも相当な犠牲を払っていますし、金正恩氏は重要なミサイル試射がある度に現場で直接指揮を執り、それを国内メディアで大々的に発表しました。ときには金正恩氏の間近で、死亡事故が起きたケースもあったもようです。

弾道ミサイル開発の成功は核開発と並び、金正恩氏の貴重な「実績」です。その両方をいっぺんに「無」にしてしまう選択は、心理的に簡単ではないでしょう。

しかし、北朝鮮がこの点で不透明さを残せば、米国内では再度「軍事行動論」が頭をもたげることになります。北朝鮮情勢はまだまだ、前途多難です。

一方、2012年に始まった北朝鮮の経済改革は、2016年の朝鮮労働党第7回大会で本格化した。しかし、厳しい経済制裁が科せられているため、経済改革は前途多難です。

現在までのところ、経済制裁が北朝鮮経済に及ぼした影響はさほど大きくはないもようです。しかし、経済制裁の効果が現れるまで一定の時間が掛かることから、今後、影響が顕在化していくことなります。

北朝鮮の貿易は中国への依存度が非常に高いです。2017年の中朝貿易総額は前年比5.9%減の49億8,640万ドルになりました。中国政府が国連の北朝鮮制裁決議に基づいて制裁を科したことが中朝貿易の減少につながりました。

この経済を立て直すには、北朝鮮は米国などの経済支援が必要です。しかし、これについては、トランプ大統領は北朝鮮への経済支援について「日韓両国に用意がある。アメリカが支援する必要はない」と述べています。

これによって、北朝鮮は日本からの支援を受けるためには、「拉致問題」を解決しなければならなくなりました。

軍事的にも、経済的にも追い込まれた北朝鮮です。北朝鮮としては、中国と米国を手玉にとった二股外交をしてこの難局に対処しようとしているようです。

その兆候は、すでに見られています。金正恩はシンガポールでの米朝首脳会談に臨んだ後、北朝鮮の首都平城に帰る前に、中国に立ち寄り、習近平と三回目の中朝会談にのぞんでいます。

第三回中朝首脳会談

そこで、何と金正恩は、段階的核の放棄を主張をしていました。これは、米国からすればとんでもない裏切り行為です。

このブログでは、以前からトランプ大統領は、金正恩が米国の対中国戦略の駒として動くなら、北の存続を許容するだろうし、そうでなければ見限りであろうことを主張してきました。

これは、トランプ政権からみれば当然のことです。米国にとっての本命は中国であり、北朝鮮はその前哨戦に過ぎないからです。

さらに、金正恩が完璧に米国の対中戦略の駒になったとして、実際には、「どのように体制を保証するか」という点において大きな矛盾を抱えています。北朝鮮の独裁体制はアメリカが掲げる「自由と正義」とは正反対であり、さらに人権問題も抱えています。

現体制を保証するということは、自由主義の象徴であるアメリカのリーダーが北朝鮮の現状を容認することにもなってしまいます。

経済発展についても、南北交流が進めば国民の反乱などによって現体制が維持できなくなる可能性も生まれます。独裁者にとって民主主義は最大の敵ですが、経済発展および国際交流はその促進につながることになります。

さらにいえば、北朝鮮の敵は米国だけてはありません。中国やロシアとも敵対する部分があり、一部のミサイルは中国にも向いているといわれていました。そこでミサイルや核兵器を放棄するとなれば、中国の脅威にどう対処するかという問題も浮上します。

方法論として考えられるのは絶対王政から立憲君主制への移行であり、その場合は戦後の日本がモデルケースとなるかもしれません。その上で、安全保障条約を締結して北朝鮮の安全をアメリカが保証するというパターンがあります。

ただし、これに対しては、これまで北朝鮮の後ろ盾であった中国やロシアが反発する可能性も高く、トランプ大統領が言及した将来的な在韓米軍の縮小および撤収とともに、今後の焦点のひとつとなるでしょう。

現実には、北朝鮮の非核化には、このような大きな壁が立ちふさがってるのです。

米国にとっては、中国と本格的に戦争をするのは、あまり現実的ではないということから、トランプ政権は、戦争の代替として、貿易戦争や金融制裁などを本格化させることでしょう。

しかし北朝鮮はといえば、小国であり、軍事オプションを選択しうる対象です。北朝鮮が今後煮え切らない態度をとり、ポンペオ長官がこれを変えることができなければ、軍事行動に打ってでる可能性は十分にあります。

これは、北朝鮮がどうのこうのというのではなく、中国への見せしめとして、大いにあり得るシナリオだと思います。

これは、中国にとってはかなりの脅威となると思われます。現在の中国は習近平の独裁体制が整いつつあり、北と本質的に変わらなくなりつつあります。そのため米国のパンダハガー(対中穏健派)の声は小さくなりました。変わったところがあるとすれば、中国のほうがはるかに国土も広く、人口も多く、経済も軍事力が大きいということだけです。

北が姿を消せば、このインパクトはかなり大きいです。制裁と軍事攻撃で、北が崩壊して、新たな体制が繁栄すれば、これは中国にも多大な影響を与えます。

中国では2010年あたりから毎年10万件以上の暴動が発生しているといわれています。更に、経済は相当低迷しています。次の富の源泉とみられていた、一帯一路はどうみても失敗です。

北の崩壊は、中国崩壊もはやめるということで、実はトランプ政権のドラゴンスレイヤー(対中強硬派)にとっては、最高のシナリオかもしれません。

無論、中国崩壊とは、中国という国そのものが崩壊するという意味ではなく、中国の現体制(中国共産党一党支配)が崩壊するということです。ドラゴンスレイヤー達にとっては、価値観が真っ向から対立し、米国を頂点とする世界秩序に挑戦する中国の体制はこの世にあってはならない存在なのです。

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2018年7月3日火曜日

もはや国民はだまされない「増税で財政再建」という虚構―【私の論評】2014年前後の経済記事を読めば、誰が正しかったかは一目瞭然(゚д゚)!

もはや国民はだまされない「増税で財政再建」という虚構


 2017年度の一般会計税収が、当初見込みを約1兆円上回ると報じられている。だが、メディアの報道は「国債依存は変わらない」「財政再建は厳しい」といった論調に終始している。

 税収が増えた理由は単純で、経済成長したからだ。2017年度の名目国内総生産(GDP)成長率は2次速報値で1・7%だった。

 この名目成長率に対して、税収がどの程度伸びるかを税収弾性値という。財政当局は、この値を「1・1」と見積もっているが、実際の数字は「3」程度である。今回も税収は5%程度も伸びており、やはり財政当局の数字は過小だったことがわかってしまった。

 経済の伸び以上に税収が伸びるのはなぜか。一つは所得税が累進税率であるためだが、もう一つは、それまで赤字で法人税を払っていなかった企業が払うようになるからだ。

 これは、財務省で税務の執行を経験した人なら誰でも知っていることなのだが、税収弾性値の議論となると、かたくなに低めに設定しており、意図的だといわれても仕方ないだろう。

 税収弾性値を低めに見積もるのは、「経済成長しても財政再建はできないので増税が必要だ」とのメッセージだといえる。これに国民は納得しているのだろうか。マスコミをだませたとしても、そのマスコミを信じない人が多くなりつつある。いつまでこの虚構がもつだろうか。

 ほとんどのマスコミは財務省が取材のネタ元なので、はっきりいえば財務省の言いなりである。マスコミとの財務省の関係をみるうえで、今回の報道では別の問題も抱えている。

 16年度の税収は昨年7月5日に発表された。それが17年度の税収見込みは多くのマスコミで6月26日に報じられた。これは、財務省からのリークの可能性がある。

 筆者がその意図を邪推すると、「ちょっと早めに教えるけど、『財政再建はやはり必要だ』と書いてほしい」ということではないだろうか。

 本コラムのように、財政状況について中央銀行を含む統合政府のネット債務残高対GDP比でみるという世界標準のまともな報道は、今の日本のマスコミではほとんどない。

 統合政府のネット債務残高は実質的にほぼゼロであるが、一部の政府関係者は「日銀の日銀券などは債務なので、ネット債務額は450兆円程度あり、筆者の意見が間違っている」と主張しているようだ。

図表、写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 日銀券などは確かに形式的には債務である。しかし、本来無利息、無償還のものであるので、経済的にみて債務にカウントする必要はない。ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授は「日銀の国債保有分は、政府の国債が無効化されている」と表現している。

 そういえば、このスティグリッツ教授の意見もマスコミはほとんど取り上げない。財政当局に対して軽減税率導入などをめぐる恩義や思惑があるのかと勘ぐられることのないように、国民に正しい情報を伝えてほしい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】2014年前後の経済記事を読めば、誰の説が正しかったかは一目瞭然(゚д゚)!

ブログ冒頭の高橋洋一氏の税収に関する話を整理します。昨年度の国の税収は当初の見込みから1兆円ほど上振れし、58兆円台後半となったということですから、一昨年度の税収が55兆円台だったことからすれば、前年比+5%以上の増加ということになります。

一方で、昨年度の名目経済成長率は+1.7%でしたから、政府が1強程度としている税収弾性値は、昨年度は3を超えたことになります。

昨年度の名目経済成長率が政府見通し(+2.0%)を下振れたのに、税収が見通しを上振れたのには、こうした背景があります。

税収弾性値に関しては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】経済成長なくして財政再建なし 歳出カットのみ主張なら財務省の術中―【私の論評】財務省・内閣府の嘘吐き官僚には、徹底した報復人事を行い、政治主導を達成せよ(゚д゚)!
この記事は2015年5月9日のものです。この記事から税収弾性値に関わる部分のみ以下に引用します。
上の記事で、税収弾性値については非常に重要です。これを良く理解していれば、昨年4月の8%増税など全く必要なく、百害あって一利なしであったということが良く理解できたと思います。 
まずは、税収=名目GDP✕税率✕税収弾性値ということを念頭においていただき、時を金融緩和を実施しはじめた2013年に戻して、考えてみます。 
この時点で平成14年4月から増税など決定せずに、増税をせずに現在まで金融緩和のみを続けていれば、2年連続、毎年名目5%程度の経済成長は十分あり得ました。ここで仮に税収弾性値を3(倍)とすれば毎年歳入の15%、6〜7兆円の増収が見込まれ、二年で消費税5%相当の約12兆円となり今頃増税自体不要になっていたはずです。 
下のグラフ2012年のG7諸国の名目GDP成長率の平均値です。ここからデフレ日本を除いた6カ国平均値は3.3%です。日本もデフレを脱却すれば、当時の△0.6%から3.3%程度の名目成長率は十分可能であったはずです。 
この名目GDP平均値と、税収弾性値として3を用いると、上記で掲載したような名目5%成長前提ほどではないですが、それでも毎年歳入の約10%、4兆円で、二年で8兆円程度の増収が見込めたはずです。これでも、昨年4月の増税など全く必要がありませんでした。

各国の名目GDP成長率 (1997-2012)
出所:IMF WEO Apr 2013 縦軸:パーセント

税収弾性率を低く見積もれば、当然このようなことは考えられないということになります。しかし、現実にはブログ冒頭の高橋洋一氏景気の回復局面では税収弾性値は3~4程度になって、景気が巡航速度に達するにつれて低下し、1・1程度に近くなるとしているように、昨年や今年あたり増税さえしていなければ、少なくとも3くらいにはなっていたはずです。
しかし、財務省も内閣府も弾性値を1.1で計算して、それをもとにして、増税やむなしとし、大増税キャンペーンを繰り返し、政治家からマスコミ、識者まで巻き込んでとうとう、一昨年には昨年4月の増税が決められ、そうして本当に増税され、多くの人々が消費税増税の影響は軽微などとしていたにもかかわらず、昨年はマイナス成長となりました。
財務省は、2014年4月の消費税増税のときも、税収弾性値によるトリックにより、増税しなかった場合の税収を低く見積もり、消費税増税の正当化をはかるということをしていました。

今回も、全く同じような論拠で、10%増税の正当化をしようとしているとしか思えません。

しかし、この税収弾性値によるトリックを論拠の一つとして、実行された8%増税はすでに財務省によって、実行され大失敗したことが明らかになったものです。

野口悠紀雄氏

「消費増税の影響は軽微」と言い募ってきた財務省や御用エコノミストや、野口悠紀雄氏のように「1ドル=120円で日本経済は危険水準」と断言した経済学者は無責任といわざるをえないです。いっさい謝罪も釈明もせず、執筆や講演を続けること自体、私には全く理解不能です。

2014年前後のいわゆる識者という人たちの経済記事など今でも読むことができるものがかなりあります。誰の説が正しかったか、間違っていたか、一目瞭然です。

書籍を購入するのは、経済的負担が多いと思いますし、そもそもトンデモ経済論の書籍など誰も購入したくはないと思いますので、是非とも、グーグルなどで、人名で検索して読むことをおすすめします。トンデモ経済論に関しては、まともに読めば時間の無駄でもありますので、立ち読みで結論部分を読むか、流し読みで十分だと思います。

このような事実を目の前にして、まだ税収弾性値の罠にひっかかる、マスコミは愚かですし、その罠にのりかかって再びトンデモ経済論を語る識者は、何らかの悪意があるとしか思えません。

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2018年7月2日月曜日

朝日新聞の信頼度は日本の有力紙の中で最下位 英調査―【私の論評】「体系的廃棄」ができなかった企業として歴史に名を刻むことになる朝日新聞(゚д゚)!

朝日新聞の信頼度は日本の有力紙の中で最下位 英調査

信頼度ランキングの衝撃

〈朝日新聞の信頼度は日本の有力紙の中で最下位〉という衝撃的な調査が発表された。英国オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が毎年行なっている国際的なメディア調査レポートの最新版『Digital NEWS REPORT 2018』によると、日本の新聞で読者の信頼度が高いのは1位が日経新聞、2位地方紙、3位読売新聞で、朝日新聞は産経新聞(4位)や毎日新聞(5位)より下の6位(最下位)となった。“日本で一番信頼できない新聞”という評価だ。

 同レポートでは、日本部門の調査の解説を担当した澤康臣・共同通信記者が原因をこう分析している。

 〈近年、リベラルな高級紙(朝日)は保守派の与党・自民党と右寄りメディアの両方からの批判にさらされてきた。安倍晋三首相は朝日の誤報問題(森友学園報道の検証記事)に対してフェイスブックに『哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした』と書き込んだ。また、保守系議員の足立康史氏は、『朝日新聞は万死に値する』とツイートし、右寄りの雑誌は『朝日を廃刊に追い込む必要がある』といった見出しを掲げている〉(原文は英文。カッコ内は本誌が補足。以下同)

 そしてこう続く。〈さらなる分析から、朝日の信頼度が低いのは、部分的に、こうした右派からの声高で党派的な批判から来る高いレベルの不信の結果だとわかっている〉

 この調査は今年1~2月にネットによるアンケート方式(日本のサンプル数は2023人)で行なわれ、新聞、テレビ、週刊誌などの媒体ごとに信頼度を「0(全く信頼しない)」から「10(完全に信頼がおける)」までの11段階で評価したものだ(朝日は5.35ポイント)。

朝日新聞社は「調査の結果について特にコメントはないが、読者に信頼していただけるよう努めていく」(広報部)とするのみだが、調査対象が日常利用するニュースメディアは新聞では朝日が最も多く、朝日読者も含めた調査だとわかる。

 ◆世論が動かなくなった

 その昔、朝日新聞は高学歴のエリート層が読む「日本のクオリティペーパー(高級紙)」と呼ばれ、政治報道でも時の政権を揺るがすスクープを連発してきた歴史を持つ。田中角栄元首相を失脚させたロッキード事件をはじめ、竹下内閣を退陣に追い込んだリクルート事件、自民党分裂につながった東京佐川急便事件など大型疑獄事件はいずれも第一報は朝日のスクープだった。

 朝日が権力を監視する「第4の権力」として世論に大きな影響力を持っていたことは間違いない。ところが、今や朝日が報じても世論は動かない。森友・加計問題報道がそれを証明した。

 朝日は森友学園に対する国有地格安売却の事実をいち早く報じ、加計学園問題では、「首相のご意向」文書をスッパ抜き、さらに財務省の森友文書改竄を掘り起こした。だが国会は紛糾こそすれど、安倍政権は権力の座についたままだ。

 新聞がいくら政治の腐敗をスクープしても、媒体が国民に信頼されていなければ世論を動かせない。そう見切ったのが麻生太郎・副総理兼財務相だ。「安倍政権への審判」が問われた新潟県知事選に勝利すると、新聞の世論調査で「辞任勧告」を突きつけられていた麻生氏はうっぷんを晴らすようにこう言い放った。

 「自民支持が高いのは10~30代の一番新聞を読まない世代だ。新聞読まない人は、全部自民党(の支持者)なんだ」(6月24日、麻生派議員の政治資金パーティにて)

東京新聞 2017年12月15日朝刊の記事

 麻生氏はこれまでも「新聞読む人の気が知れない」「新聞は努めて読まないようにしている」と公言して“新聞を読むヤツはバカだ”という哲学を披瀝してきた。

 もちろん「失言王」「漢字読めない政治家」の異名を持つ麻生氏の言動を見れば、新聞は読んでおいたほうがいいように思えてならないのだが、情けないのはそこまで言われて反論できない新聞記者の側だろう。

 ※週刊ポスト2018年7月13日号

【私の論評】「体系的廃棄」ができなかった企業として歴史に名を刻むことになる朝日新聞(゚д゚)!

上の記事では、朝日新聞の信頼度は日本の有力紙の中で最下位ということが、いかにも衝撃的であるかのように報道されていますが、これは本当でしょうか。私は、そうではないと思います。

特に、ニュースソースが新聞ではなく、ネットである人の多くが、当然の結果であると受け止めたのではないでしょうか。

安倍首相は、今年の2月自身に関する朝日新聞の記事に対して、FBのコメントで批判を続けていました。森友学園疑惑に関連した同紙の記事には間違いがあり、またその件についての朝日側の説明は、「哀れ」で「惨めな言い訳」だというのです。

近年、新聞に対する批判の中でも目立つのが、「誤報」や「偏向」にまつわるものです。
「特定のイデオロギーに肩入れしすぎた新聞は読者に見放される」

こんな見立ても少なくないです。

しかし、まったく別の視点から、このままでは新聞社が立ち行かなくなる、と指摘しているのが、畑尾一知氏です。畑尾氏は、朝日新聞の販売局に長年勤務し、2003年には販売管理部長を務めた人物です。

販売という側面から新聞社というビジネスモデルの未来を展望した新著『新聞社崩壊』を上梓したばかりです。以下、同書をもとに販売のプロが見た、新聞業界慄然のシナリオを見てみます(引用は、同書より)。



畑尾氏は、独自の推計により、2005年~15年の10年間で新聞の読者は25%、約1300万人減っており、さらに今から10年後には最低でも30%減る、と見ています。

その根拠としているデータの一つはNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」。各世代が何に時間を費やしているのかを調べたもので、この中には「新聞(を読む時間)」も含まれています。ここから、新聞を読む人の割合がわかります。

これを見ると全世代で新聞を読む人の率が2005年には44%だったのが、2015年には33%になっているのがわかります。

調査対象は10歳以上からなので、その人口にこの%をかけあわせると、たった10年間で新聞を読む人は「実に1300万人、約25%も減ったことになる」というのです。

ではこの先はどうなるのか。10年後、各年齢層が10歳年を取った場合を畑尾氏がシミュレートした結果、2025年の読者数は約2600万人。

2005年のそれが約5000万人、2015年が約3700万人なので、たった10年で30%も減るというのが、同書での予想です。

ここで新聞関係者からは反論が寄せられるかもしれないです。というのも日本新聞協会の年鑑によれば、2005年から2015年までの新聞の総発行部数は5260万部から4420万部へと減ってはいるものの、上の予想とはかなり乖離があるからです。

ちなみに以下は、主要全国紙の朝刊販売数の推移を示したグラフです。これは、畑尾氏のデータではなく、各新聞社が公表ているものから作成したものです。


これだけだと、確認しにくい部分もあるために、以下に前半年期比の推移を示します。


上のグラフは、産経新聞が特異な動きをしているため、他紙の動きが理解しずらくなっているため、以下に産経新聞を除いたグラフを掲載します。


以上のグラフより、以下のようなことがいえます。
・読売新聞…健闘はしていたが1000万部割れの2011年前半期以降失速へ。特に2014年に生じた下落ぶりが著しい。 
・朝日新聞…2010年から下落加速化。2014年後期から2015年前期は前例の無い下げ幅で、その後も前半期比マイナス2%内外の低迷は続く。 
・毎日新聞…2008年以降は下落。2010年前半期の下げが一つのピーク。最近は下げ幅縮小だったが、2015年後期から下げ幅が拡大。やや戻す機会があるも底深い低迷感は否めず。 
・日経新聞…2011年前半期に一時持ち直すも再びマイナス圏に。2013年が下げ幅ピークで最近は持ち直しを見せる。ここ2年ほどはぎりぎりマイナスという程度で、有料電子版も考慮すれば大健闘。ただし直近半期の下落は2013年後期同様の大きなもので、注目に値する。 
・産経新聞…押し紙制度廃止の影響(?)が極めて大きい。その後は復調・横ばい。ここ1、2年は部数上乗せの機会もしばしば見られる。
さて、畑尾氏の分析に戻ります。

彼によれば、2005年の読者数が約5000万人、2015年読者数が約3700万人であり、25%減っているはずなのに、部数は16%減にとどまっているのです。つまり総部数は減っているのですが、1読者あたりの新聞発行部数が増えたことになってしまいます。

その理由を畑尾氏はこう見ています。

「この10年間で複数の新聞を読む人が増えたとは、とても考えられない。発行部数の大部分は新聞販売店経由で宅配されていることを考えると、2005年から2015年にかけて販売店に滞留する新聞(死蔵在庫)が増えたことが、その理由だろう」

販売店に滞留する新聞のことを、新聞業界では「残紙」と呼ぶ。週刊誌などが「押し紙」と呼ぶものと同じようなものだといいます。残紙は新聞本社と販売店との間のトラブルの一因となっており、昨年、共産党議員は国会で朝日、毎日、読売の残紙を問題として取り上げたこともあるほどです。

新聞に限らず記者にとって、スクープは常に狙うべきものであり、勲章でもあるようです。しかし、販売面を見た場合、スクープの恩恵はない、というのが畑尾氏の見解です。ただし、誤報や不祥事の影響はあるといいます。

「最近では、朝日の慰安婦報道に関わる一連の問題、読売が前川喜平前文部科学事務次官が『出会い系バー』に通っていたことを記事にしたことが、少なくない読者の反感を買った。そういう時は、“即止め”といって、翌日から新聞の配達を断られることもあるそうです。

その反面、スクープ記事が出たからといって、『あの報道が素晴らしかったから、おたくの新聞を取ろう』と購読を申し込んでくる人はまずいません。

日夜スクープ合戦に飛び回っている記者からすると、認めたくないかもしれないが、これが現実です。

2017年には、森友学園や加計学園にまつわる報道で朝日が独自記事を連発したが、それによって新規に朝日を読みたいと申し込んでくる人は、あっても稀です。

第一、「モリカケ問題」報道が朝日の独壇場であったことを知っている人は、ほとんどいないのが現実である」

いずれにしても、畑尾氏の分析「2005年~15年の10年間で新聞の読者は25%、約1300万人減っており、さらに今から10年後には最低でも30%減る」ということでは、当然のことながら倒産する新聞社も多く出ることが予想されます。

朝日新聞に関しては、経済評論家の上念司氏が、詳細を分析しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
そうだったのか! 朝日新聞 財務諸表徹底分析
これによれば、朝日新聞は不動産業も営んでおり、業績も良いので安泰などとはいえないことがわかります。そもそも、不動産事業の規模がさほど大きくはなく、当面これが主力事業になり、新聞部門を救済するほどの力はない。仮にできるとしたら、新聞部門を閉鎖して社員のごく一部を受け入れるぐらいでしょう。

営業キャッシュフローは、未だ潤沢なようではありますが、それでも上記のように部数が減少していくと、今後10年間で、新聞部門を閉鎖ということになる可能性は十分にあります。

もう今の紙の形の新聞メデイアは、斜陽産業といって良いです。その状況で、「日本で一番信頼できない新聞」ということなのですから、もう先が見えたといって良いでしょう。

本来朝日がやるべきは、「もりかけ」のスクープなどではなく、抜本的な体質改善なのでしょうが、右でも左でも、上でも下でもない朝日新聞の経営陣や社員の本質は、守旧派なので、それは無理でしょう。

彼らには、経営学の大家ドラッカーのいう「体系的廃棄」などできないでしょう。

これについて、ドラッカー氏は以下のように語っています。
長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』)

スクリューとシャフト、ラダーに付着したフジツボなどの貝など。シーズンオフの半年でこのありさま。

あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければならないのです。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言います。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかありません。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いです。

体系的に廃棄しない限り、組織は次から次へと仕事に追われる、行っていてはならないことに資源を浪費する、とくに有能な人材が不足することになるのです。

朝日新聞は、まさにこの状況です。安全保障に関しても、経済報道に関してもまともに報道できていません。挙句の果てに「もりとも」では捏造や、印象操作です。このような新聞を購読している人は何を考えているのか、私は理解できません。

成長の基盤は変化すま。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。
乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
朝日新聞は、いずれ「体系的破棄」ができなかった企業として歴史に名を刻むことになるでしょう。

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2018年7月1日日曜日

雇用指標、5月は一段と改善 失業率は25年7カ月ぶり2.2%―【私の論評】出口論者に煽られるな!日銀の金融緩和は未だ道半ばであったことが明らかに(゚д゚)!


総務省が29日発表した5月の完全失業率(季節調整値)は2.2%と前月(2.5%)から低下し、1992年10月以来となる25年7カ月ぶりの低水準となった。厚生労働省が発表した同月の有効求人倍率(同)も1.60倍に上昇。1974年1月以来、44年4カ月ぶりの高水準となり、雇用情勢は一段と改善が進んでいる。

マイナビの合同企業説明会にて

完全失業率はロイターの事前予測調査で2.5%と予想されていた。

季節調整値でみた5月の就業者数は前月比20万人減の6673万人、完全失業者数は同21万人減の151万人となった。非労働力人口は同35万人増の4270万人だった。この結果、完全失業率は2.2%と4カ月ぶりに低下した。

原数値でみた就業者数は6698万人、15─64歳の就業率が77.0%といずれも過去最高を更新。景気拡大を背景とした企業の求人増に伴って5月は幅広い年齢層で就業者が増加しており、総務省は「雇用情勢は着実に改善している」と判断している。

有効求人倍率は、ロイターの事前予測調査で1.59倍が見込まれていたが、結果はこれを上回った。有効求人数は前月比1.1%増、有効求職者数は同0.5%増だった。

新規求人倍率は2.34倍と前月から低下した。

【私の論評】出口論者に煽られるな!日銀の金融緩和は未だ道半ばにあったことが明らかに(゚д゚)!

5月の雇用指数は確かにかなり良くなっています。これについて、高橋洋一氏は以下のようなツイートをしています。

確かに、この状況では、日銀の過去のUV分析は明らかに間違っていたということがいえます。そうして、日銀の金融緩和は失業率の加減が2.2%かもしれないという可能性もあることから、未だ道半ばであったことも明らかになったといえます。

日銀の分析もそうですが、以前ある経済評論家がUV分析のグラフを示しつつ、バブル崩壊後に構造失業率が上昇したと説明していました。しかし、失業率と欠員率で示される点が、横軸に沿って動いている、縦軸に沿って動くようになったと怪しい説明を行っていました。変化したのは図表に太線で書かれているUV曲線なのですが、良く分かっていないようでした。

短期的には失業率が高いと欠員率が低く、失業率が低いと欠員率が高くなるものです。この関係を示したのがUV曲線で、理論的には強い裏づけは無いものの、失業率と欠員率が等しくなる点を構造失業率と見なしています。転職期間が長い世界では構造失業率が高く、短い世界では低くなる傾向があります。

このように日本語で説明しても良いのですが、数式を用いた方が、特に理系の方々には、理解しやすいと思いますので、山上(2010)の説明を見つつ背景を確認していきます。

失業者数をU、欠員数をV、新規雇用者数をMと置くと、これらの関係は以下のようになります。
Mは凹関数としておきます。失業者数が増えても、そうは新規雇用者数は増えません。この世界で欠員が充当される確率mは以下のようになります。

where

失業状態から脱出できる確率は以下のようになります。


生産性ショックの到来確率(=雇用喪失率)をqと置けば、失業者数の変化は以下のようになる。Lは労働人口で、L-Uが雇用者数、q(L-U)が失業する人数になり、θm(θ)Uが新規雇用者数になる事に注意。


失業率の変動は以下のようになる。
where

定常状態はになるため、短期の均衡条件は以下のようになります。


図を描いてみましょう。m(θ)はθの減少関数ですが凹関数なので、θm(θ)は増加関数になり、原点に凸の曲線が描かれます。


均衡点は雇用逼迫率、もしくは有効求人倍率θに依存するわけですが、θが定常になるときが構造失業率となります。山上(2010)ではサーチ理論から定常点を議論していますが、内閣府の推定などでは便宜的にθ=1と置いています。

景気悪化したときはθが減少して(1/θが増加して)均衡点が上方に移動し、構造変化が起きたときはUV曲線自体が右上もしくは左下へ移動します。



以上がUV曲線です。理系以外の方で、上記が理解しずらい方は、グラフを理解されれば、UV分析については、十分だと思います。このグラフを理解していると、失業率に関する頓珍漢な理論に煽られることはありません。

これぐらい知っておくと、問題の経済評論家の解釈のどこがおかしいかが分かります。つまり、失業率と欠員率ではなく、UV曲線がどう移動したかで議論すべきだったのです。なお、引用されていたグラフは以下で、年代ごとのUV曲線が明確に書かれています(西川(2010))。




日銀はUV分析が正しく実行できればそれにこしたことはありませんが、一度構造的失業率(失業率の下限と考えられる失業率)3.0%と分析したにしたとしても、その状態がしばらく続いても実質賃金等が上がらない状態が続けば、再度分析するとか、あるいは実験的にさらに量的緩和を強化するなどの措置をとるべきだったでしょう。

日銀は、構造的失業率が3%は間違いであろうことを高橋洋一氏はすでに、昨年の4月あたりに指摘していました。日銀は、このあたりで構造的失業率の値を見直すべきでした。そうして、さらなる量的緩和に踏み切るべきでした。

この頃といえば、UV分析はさることながら、私自身は過去の失業率などからみて、やはり日本の構造的失業率はどうみても、3%台ではなく、2.5%くらいであろうと考えていていて、このブログにもそのように掲載しました。

私のような素人ですら、このように考えるのですから、日銀はさらなる量的緩和をすべきだったでしょう。

さらに、この頃私は日銀が量的緩和をするには当時から国債が品薄状態でしたから、政府は国債の刷り増しもすべきであると主張していました。いまそれらが正しいことが証明されたと思います。

昨年あたりから、日銀の金融緩和の出口論を語る頓馬な人たちがいましたが、彼らは一体何を見ているのかと思ってしまいます。というより、彼らの目は節穴です。彼らに幻惑されるべきではありません。

高橋洋一氏は、完全失業率2.2%が三ヶ月も続けば、再考するとしていますが、その時には日銀にも金融政策を再考していただきいたものです。

日銀や政府(財務省)も、様々な分析や、理論を発表するのは悪いことではない(明らかに悪質と思われるものもありますが、それは例外として)とは思いますが、直近の統計数値にあわせて、機動的な金融政策、財政政策を行うべきです。

ちなみに、野口氏と田中氏の共著『構造改革論の誤解』(2001年)には構造失業率を2.4パーセントぐらいとした上で、構造的だと思われていた雇用の状況が変化してさらに下がる仮説を提示してます。

この仮設は常識的に考えてみてもわかります。失業率が下がりつつある段階では、失業率が高いので、従来は全く就業を諦めていた人が、就業機会が増えたので、それが動機づけとなり、就業に踏み切るという構図は多いに考えられることです。

現状をみると、どうやらこの仮説は正しそうです。であれば、構造失業率がどの水準かと議論すること自体には、あまり意義を見いだせません。これだけ失業率が下がっても、急激な賃金上昇圧力が起きないという事は、まだまだ金融緩和と財政出動ということを意味しているかもしれないです。

構造失業率ばかりに注目するのではなく、インフレ率の加速に注目し、やはり機動的な金融政策を実施すべきなのです。ただし、構造失業率の数値自体にはあまり意味はないですが、結果としての失業率については多いに神経をつかうべきでしょう。

そもそも、経済対策としては、他が悪くても、失業率が低ければ、まずまずといえるからです。雇用こそ最も重要だからです。

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