2019年5月23日木曜日

欧州議会選挙 きょう投票 EUに懐疑的勢力の議席焦点―【私の論評】欧州議会選挙より、EU理事会の動きに注目せよ(゚д゚)!




EU=ヨーロッパ連合の加盟国から議員を選ぶヨーロッパ議会選挙の投票が23日に始まります。選挙の結果は、EUの今後の重要政策を左右するだけに、支持を伸ばしているEUに懐疑的な勢力が、どこまで議席を増やすかが焦点です。

ヨーロッパ議会選挙の投票は23日に、イギリスとオランダで始まり、26日まで加盟国ごとに行われます。

選挙は5年に1度行われ、28の加盟国から合わせて751人の議員が選ばれます。

イギリスは、選挙までに離脱の手続きを終えることができず、参加することになりました。

今回の選挙は、EUが進めてきた統合の是非を域内およそ4億人の有権者に問う大きな節目となります。

ヨーロッパ議会は現在、EUの統合を支持する政党でつくる中道の2つの会派が401議席と、過半数を維持しているためEUは安定して政策を進めてきました。

しかし大手メディア「ポリティコ」の最新の世論調査によりますと、今回は315議席と、過半数に届かない見通しです。

一方、国の主権の回復などを目指すイタリアの右派やフランスの極右政党などEUに懐疑的な勢力は、各国で支持を伸ばしていて、最新の世論調査によりますと合わせて254議席と全議席の3分の1を獲得する勢いです。

こうした勢力が、EUの政策決定に大きな役割を担う議会で大幅に議席を伸ばせば、貿易や移民・難民をめぐる重要な政策などが停滞する可能性があるだけに、どこまで議席を増やすかが焦点です。

【私の論評】欧州議会選挙より、EU理事会の動きに注目せよ(゚д゚)!

EU加盟国では、移民排斥や国民主義を謳う極右政党が議席を増やしています。ドイツのための選択肢(独)、国民連合(仏)、同盟(伊)、国民党(デンマーク)、民主党(スウェーデン)など、その勢いは熱病のようにEU全域に広がっています。彼らは必ずしもEUからの離脱を目指しているわけではないですが、EUの現行制度に対する懐疑的な勢力として、各国で政権の座を争うまでに成長しています。

EU懐疑派が躍進している最大の理由は、2015年以降に急増した中東・アフリカからの難民問題です。100万人を越える難民が欧州に押し寄せ、治安の悪化や財政負担の増大が目立ち、人々の不満が爆発しました。加えて、債務危機の発生以降、EU各国で緊縮財政が続いていることも、人々の閉塞感につながっています。

そうした中、5年に一度の欧州議会選挙が5月23~26日に行われるのです。前回の選挙では極右・極左政党が議席を伸ばして衝撃を与えましたが、今回は前回をさらに上回る得票が見込まれており、結果次第ではEUの政治システムが大きく揺さぶられる事態も想定されます。

フランス、ストラスブールの欧州議会

EUの立法制度は、欧州議会、EU理事会、欧州委員会の3つの機関が重要な役割を果たしています。日本に例えるならば、それぞれ衆議院、参議院、内閣といったところでしょうか。

衆議院に当る欧州議会の議員は、EU圏5億人の市民から直接普通選挙によって選出される(定数751名)。議会では政治会派が結成されており、これまでは中道右派「欧州人民党(EPP)」と中道左派「社会民主進歩同盟(S&D)」の2大勢力が議席の過半数を握って、安定的に議会運営を行ってきました。

ところが最新の世論調査によれば、EU懐疑派が議席を伸ばすと予想されていて、EPPは最大会派を維持するものの、S&Dと合わせても過半数には届かない見通しです。そうなれば欧州議会の運営が滞り、ユーロの不安定化につながるのではないかと、つい先読みしたくなります。

しかし実際には、仮にEU懐疑派がEPPを凌ぐ最大勢力になったとしても、過半数に届かないのであれば混乱は限定的と思われます。まず、小数与党の立場になった彼らは、過半数を取るために他の会派と連立協議を行う必要があります。ところが、彼らは既成政党と激しく対立しており、議会内で孤立する可能性が高いです。

また、反EUを掲げて選出された議員と言えども主義主張は様々で、彼らが一枚岩になれる保証もないです。そう考えると、結果的に既成政党が大連立を組んで過半数を確保し、EU懐疑派が最大野党として対峙するシナリオが有力になります。

確かに、EU懐疑派の躍進は議会運営を複雑にするでしょう。しかし、彼らが野党に甘んじる限り、議会運営が直ちに停滞するわけではないです。

一方、参議院に相当するEU理事会は、加盟国の閣僚から構成されています。当然ながら政権が代わる度に閣僚も入れ替わるので、各国で行われる1つ1つの総選挙が理事会メンバーの改選時期ということになります。

ブリュッセルにあるEU理事会

今年はエストニア、フィンランド(ここまで実施済み)、スペイン、ベルギー、デンマーク、ポルトガル、ギリシャ、ポーランドで総選挙が行われます。EU懐疑派の目覚しい躍進を考えると、これらの国の中から新たな反EU政権が誕生する可能性は十分にあるでしょう。

私は、理事会メンバーに反EU派が増える方が、ユーロにとってリスクが高いと考えています。理事会は3つの機関の中で権限が最も大きく、内部分裂を起した場合、EUの求心力低下を招きかねないからです。

どれだけ反EU派が増えると、EU理事会は内部分裂してしまうのでしょうか。その警戒ラインを考える上で、理事会の意思決定プロセスが参考になります。

EU理事会では一部の重要案件を除き、ほとんどの案件が「特定多数決」という方式で決議されまか。これはリスボン条約で定められた方式で、28加盟国の55%に相当する16ヵ国以上が賛成し(加盟国基準)、かつ賛成国の人口の合計がEU全体の65%以上である(人口基準)、という2つの要件を満たす必要があります。

幸い、反EU政権と既に目されているイタリア、ギリシャ、デンマークの3ヵ国が反対に回ったとしても、現時点では加盟国基準で25ヵ国、人口基準で86.4%となり、特定多数決の要件を満たしています。しかし仮に、これから総選挙が行われる6ヵ国全てで反EU政権が誕生すると、人口基準が64.2%まで低下し、特定多数決の要件を満たさなくなります。

ただし、一般的な市民の極右政党に対する不信感や嫌悪感は根強く、理事会で決議できなくなるほど反EU政権が急拡大すると考えるのは、現実的ではないです。したがって、加盟国基準か人口基準のいずれかが未達にならない限り、ユーロ崩壊といった過度な悲観論は封印すべきものと思います。

反EU勢力の拡大や英国のEU離脱問題など、今のEUはいくつもの難題を抱えています。このようなときこそ、域内1位と2位の大国であるドイツとフランスの安定が何より重要なのですが、この両国も苦境に立たされています。

ドイツでは与党のキリスト教民主同盟(CDU)が昨年の州議会選挙で歴史的な大敗を喫し、メルケル首相は2021年までに首相職を辞すると発表しました。フランスではマクロン大統領の政策に抗議する「黄色いベスト運動」が、いまだ収束の兆しを見せていません。

メルケル首相

こうした状況で各国の不満を和らげるには、欧州中央銀行(ECB)の金融政策に頼らざるを得ないです。これは欧州債務危機のときに何度も繰り返された光景で、今回もドラギ総裁は年内の利上げを見送る考えを示し、新たな資金供給制度(TLTRO3)の導入も決定しました。

そのドラギ総裁も今年10月で任期満了を迎えます。今後のEU懐疑派の台頭によっては、ドラギマジックが消えた後の欧州が、再び市場のチャレンジを受ける展開を覚悟しなければないでしょう。

いずれにせよ、当面EUの動きは余程のことがない限り、欧州議会選挙よりも、EU理事会の動きに注目すべきでしょう。

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2019年5月22日水曜日

【国家の流儀】日本企業の多くが中国に買収され、中国人経営者のもとで日本人が働き… それでいいのか? 今こそデフレ脱却に全力を―【私の論評】過去20年にもわたって世界で日本だけが経済成長しなかったことに国民はもっと怒りを顕にすべき(゚д゚)!


安倍総理は消費税増税を強行するのか

「10月に予定されている消費税率引き上げを実施すれば、デフレ脱却が難しくなるだけでなく、日本発のリーマン・ショック級の危機誘発になりかねず、増税凍結が適切だ」

 国際金融の専門家である本田悦朗前スイス大使は16日、ロイターとのインタビューの中でこう述べた。

 たった2%でも消費税増税は、景気に大きなダメージを与える。

 日本自動車工業会の豊田章夫会長(トヨタ自動車社長)は昨年9月20日、「消費税を3%から5%に引き上げた際は国内需要が101万台ほど減り、二度とそれ以前のレベルに戻っていない」と指摘したうえで、今年の消費税増税によって30万台の需要減、経済効果マイナス2兆円、9万人の雇用減につながる可能性があると訴えた。

 買い物をするたびに“罰金”を科すような消費税という制度は、日本のGDP(国内総生産)の6割を占める個人消費を縮小させてきたのだ。しかも、この個人消費の縮小とデフレが地方の衰退を加速させてきた。

 2014年の時点で、国内の企業数は382万社を数えるが、大企業は1万1000社に過ぎない。これまで380万社に及ぶ中小企業が地方経済を支えてきたのだが、このままだと、その3分の1にあたる127万社が25年までに廃業し、約650万人の雇用と約22兆円のGDP(国内総生産)が失われると言われている。実に、就業者の10人に1人が失業する計算だ。

 そこで、政府も事業承継に伴う税負担の軽減など、中小企業対策に力を入れている。アベノミクスに伴う緩やかな景気回復とともに廃業率は低下する一方、開業率は上昇して17年には5・7%と、1992年以来、25年ぶりの高水準に達した(2019年度版『中小企業白書』)。

 ところが、ここで消費税増税に踏み切ると、再びデフレ、つまり「消費税増税→個人消費の縮小→売り上げ減少→雇用や設備投資の縮小と中小企業の減少→地方経済の衰退→失業率の上昇」という悪循環が再発することになりかねない。

 しかも、このデフレの再発は「日本没落への道」なのだ。

 民主党政権の末期の12年4月、日本経団連は「グローバルJAPAN~2050年 シミュレーションと総合戦略」という報告書を出した。この中で、日本経済が今後も低迷するならば、50年時点で「中国、米国、次いでインドが世界超大国の座につく一方で、日本のGDPは中国・米国の6分の1、インドの3分の1以下の規模となり、存在感は著しく低下する」と指摘した。

 日本がデフレ脱却に成功しなければ、いずれ中国の6分の1の経済規模になりかねない。それは「日本の香港化」、つまり日本企業の多くが中国に買収され、中国人経営者のもとで多くの日本人が働くようになることを意味する。

 果たしてそれでいいのか。いまはデフレ脱却に全力を傾けるべきである。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『天皇家 百五十年の戦い』(ビジネス社)など多数。

【私の論評】過去20年にもわたって世界で日本だけが経済成長しなかったことに国民はもっと怒りを顕にすべき(゚д゚)!

世界は過去20年で平均2.4倍の経済成長をしています。その中で20年以上全く経済成長をしなかった唯一の国が日本です。その結果、日本は世界の中で著しく存在感を低下させました。他国と比して国力を維持して行くためには、他国並みの経済成長は絶対に必要です。日本人は国力と経済成長の関係を軽視しているのではないでしょうか。以下国力と経済成長の関係を考えてゆくことにします。

国力とは

国力とは国際関係において、その国が持つ様々な要素を総合したものをいいます。要素として考えられるものは、自然、国民、軍事力、経済力、技術力等であると、ジョージタウン大学のレイ・クライン教授は次のような式を提唱しています。
国力=[(人口、領土)+(経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)]
これら諸要素の中で経済力が最も重要であると私は思います。なぜなら軍事力の内訳を見ると軍の戦闘能力(兵員数、兵器の性能、兵站基盤等)は経済力と不可分です。最近、チャイナが軍事大国になっていますが、それはチャイナのGDPが急速に拡大し、その経済力が強大な軍事力を生み出していることからも分かります。

技術力について見ると、日本は従来から技術大国でしたが、これを支えていたのは経済力でした。20年間経済成長をしなかった日本は急速に技術力を低下させています。一例を挙げれば各大学への基礎研究費は文科省が決めるのですが、日本が20年間経済成長をしなかったため、その間日本の各大学の基礎研究費は増えることなくむしろ減少しています。

研究開発費の推移 国際比較

上のグラフは「主要国の研究開発費総額の推移:名目額(OECD 購買力平価換算)」を示しています。1996年から2016年までの推移を見ると、米国は35兆円から50兆円と約1.4倍、チャイナは3兆円から45兆円と実に15倍です。EU、ドイツ、フランス、イギリスも着実に増やしています。その中で日本のみが15兆円で殆ど増えていません。10年前の2006年と比べると減少していることがわかります。

この結果、基礎的な研究、例えば、国際的な論文数、特許件数等、国際的技術力評価で日本は劣勢となっています。


分かり易いのが上の表です。引用される頻度の高い論文数の推移ですが、2002年ごろまで日本は世界第4位であったのが、10年後チャイナだけでなくイタリアやスペインにまで抜かれ10位に転落しています。おそらく最近はもっと順位を落としているのではないかと、情けない気分になります。

論文の数に代表される日本の基礎的な技術力は急速に落ちているようです。精神力だけではどうにもならないのです。世界は平均で約2.4倍の経済成長をしており、各国の研究費は数倍に増えている。日本も他国並みに経済成長をして研究費を増やしていかなければ、早晩技術力を失い、先進国から脱落することになるでしょう。

国力とは経済力

誤解を恐れずに言えば、技術力の例でも分かるように、国力=経済力と言っても間違いはないと思います。政治力、外交力、軍事力、技術力、文化力もその根底には経済力があるのです。

つまり国力の最も基盤のところにあるのが経済力なのです。その大事な経済力が日本の場合、20年以上にわたり停滞していたのです。この責任は政治にあるのは当然ですが、一方で国民にもその責任があるのではないかと思います。

日本は民主主義国です。国民に主権があるのだから、政治が間違っていれば国民が声を上げそれを正さねばならないです。経済の本質を国民が理解していれば政府・財務省・日銀や誤れる経済学者らの誤りに気付いて、これを正すことが出来た筈です。

無論、一部の人たちは、これに対して意見を述べたり、抗議をしていました。私はそれを否定するつもりはありません。しかし多くの国民は20年以上声を上げませんでした。国民も経済の本質が分かっていなかったようです。それこそが本当の問題なのでしょう。

豊かさを取り戻そう

経済の目的は経世済民、即ち国民を豊かに幸せにすることです。憲法第13条にすべての国民は幸福追求の権利があり、政治はこれを最大限尊重すべしとあります。その観点から過去20年間の日本の政治を見ると、完全に失敗だったと言えます。

20年間経済成長をしなかったと言うことは、20年間日本国民の所得が増えなかったと言うことなのです。安倍政権になり多少持ち直していますが、それでもピークの時より国民の所得は減少しています。言い換えれば国民は貧乏になっているのです。このことを指摘する識者は少ないです。

国民が幸せに感じるのは、今日より明日、明日より明後日、所得が増えることで実感するのです。日本の政治は20年間、国民からこの豊かさを奪ってきたのです。今からでもよいプライマリーバランスの達成・緊縮財政などと言うインフレ対策をやめ日銀がさらなる金融緩和を実施し、財務省が財政支出を増やし需要を喚起するという正しいデフレ対策を実行すべきなのです。

今年の10月に増税などやっている場合ではありません。そうしてデフレを脱却すれば他国並みに経済成長が可能となります。国力の元は経済力、経済力の指標は経済成長・GDPの増加であることを認識し、財務省や経済学者のいう「国の財政赤字で財政破綻」という大嘘に騙されることなく、正しいデフレ対策を早く実施すべきなのです。一日も早く政治家は勿論のこと国民が目を覚ますことを願ってやまないです。

以下のグラフは世界主要国が過去20年間にどれだけ経済成長をしたか示したものです。チャイナは13倍、インドは5.7倍、イタリア、ドイツは1.4倍、日本は1.0倍であることが分かります。日本だけ全く成長していないのです。このグラフを見て怒りを感じない日本人が多いのには驚きです。



この期に及んで、未だに増税しようなどと言っている政治家や官僚に対して私達はもっと怒るべきなのです。多くの人々が、幸福をなかなか実感できないとすれば、そのほとんどは自己責任ではなく、実はデータが示すように、少なくとも過去20年間については、大部分が政府の責任なのです。日本人は奥ゆかしいところがあり、なかなかそのようなことはいいませんが、現実はそうなのです。

それは以下のグラフ自殺者数の推移からみてもうかがえます。


最近は、安倍政権が成立してから、自殺者数は2万人台ですが、デフレが深刻だった時期は、毎年の自殺者数のが3万人台で推移していました。

経済政策のまずさは、科学技術の発展を遅らせるだけではなく、人の命まで奪うです。これについては、以前このブログにも詳細に掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“安倍辞めろ”の先にある「失われた20年」とデフレの再来 雇用悪化で社会不安も高まる―【私の論評】安倍首相が辞めたら、あなたは自ら死を選ぶことになるかも(゚д゚)!
自民党候補の応援演説を行った安倍晋三首相=17年7月1日午後
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、ソ連崩壊後のロシア政府の経済政策がまずすぎて、いっとき男性の平均寿命が、57.6歳にまで落ち込んだことがあります。これは、自殺者やアルコール依存症が増えたためです。経済政策のまずさは、人を殺すこともあるのです。

先に、国力=経済力と言っても間違いはないと書きましたが、経済はいっとき悪くなったにしても、極端に悪くならなければ、優秀な人が存在すれば、いずれ復活することはできます。しかし、人がいなくなれば、それもかないません。

ちなみに、冒頭の記事の江崎氏は、日本経済が今後も低迷するならば、50年時点で「中国、米国、次いでインドが世界超大国の座につく一方で、日本のGDPは中国・米国の6分の1、インドの3分の1以下の規模となり、存在感は著しく低下する」という事実をしてきしています。

この中にロシアはでてきません。どうしてかといえば、現在のロシアの経済規模は、かなり縮小して、GDPは日本の東京都を若干下回っているからです。これは、韓国を下回る水準です。このロシアが今後日本をしのぐような経済大国になることはないです。

やはり、人を大事にしなかったつけがまわって来たのではないかと思います。人を大事にするためにも、経済を落ち込ませせるとか、デフレにしてはいけないのです。

なにやら、日本では、デフレが当たり前になってしまっていますが、日本が過去にデフレでさえなけば、日本も他の国々の平均くらいの成長ができたはずなのです。デフレは、通常の経済循環を逸脱した経済の病です。

通常の経済循環では、良い時と悪い時が交互に訪れます。常時良い状態を保つことはできません。しかし、デフレは悪い状態ではなく、明らかに異常な状態なのです。デフレになっても、物価が下がるのは緩慢なので、多くの人々はなかなか気づきませんが、これは人間の病気でいえば癌のようようなものです。放置しておば、徐々に病気が進行して、取り返しがつかないことになります。

放置することは許されません。しかし、過去には放置するどころか、増税したり、金融引き締めをするというとんでもない対処法してきたのです。これは、病人や老人に対して、休みを与えないどころか、過度な運動を続けさせるようなものです。

こんなことをすれば、経済が伸びることはありません。もし少なくとも、日本が他国のような政策をとらなくても、増税や、金融引き締めなどの余計なことをせずに何もしなければ、日本はまだまだ成長していたはずです。日本はデフレから脱却さえできれば、これからかなり伸びるのは確実です。

これらのデータをみれば、これだけ、日本では過去の経済政策の失敗が明々白々なのに、また増税などと誤った政策を実行すれば、日本はまたデフレから脱却できず、同じことの繰り返しになってしまうことは明らかです。そのようなことをさせて良いはずはありません。

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2019年5月21日火曜日

追い詰められるファーウェイ Googleの対中措置から見える背景―【私の論評】トランプ政権が中国「サイバー主権」の尖兵ファーウェイに厳しい措置をとるのは当然(゚д゚)!


[山田敏弘ITmedia]



中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の任正非・最高経営責任者(CEO)は2019年1月20日、中国中央テレビ(CCTV)のインタビューで、ファーウェイ排除の動きを強めている米国に対し、こんな発言をしている。

 「買わないなら向こうが損するだけだ」

 ファーウェイの騒動が18年に大きく動いてから、任正非CEOやファーウェイは強気の姿勢を崩していない。

 ただその一方で、ファーウェイはこんな「顔」ものぞかせている。実は最近、同社はメディアに対する「怪しい」PR活動をしていることが暴露されているのだ。

追い詰められたファーウェイの今後は……

 米ワシントン・ポスト紙は3月12日、「ファーウェイ、“お色気攻勢”も意味ないよ」という記事を掲載。この記事の筆者であるコラムニストが、「これまで聞いたこともないようなPR企業から、広東省深セン市にあるファーウェイ本社のツアーの招待を受けた」と書いている。

 さらにコラムニストは、「この申し出によれば、私が同社を訪問し、幹部らと面会し、『同社が米国で直面しているさまざまな課題についてオフレコ(秘密)の議論』をする機会があるという。ファーウェイはこの視察旅行で全ての費用を支払うつもりだとし、さらにこの提案を公にはしないよう求めてきた」と書く。「そこで私は全てのやりとりと、申し出を却下する旨をTwitterで公開した」

 これは、米国のジャーナリストの感覚では買収工作にも近い。またワシントン支局に属するロイター通信の記者のところにも同様の招待が届いていたことが明らかになっている。そちらは、なぜか中国大使館からの申し出だったという。

 ちなみに、ファーウェイは騒動後も、中国政府との密な関係を否定している。それにもかかわらず、大使館が関わっているというのは奇妙である。

 こうした一連の動きを見ていると、ファーウェイが表の発言とは裏腹に、やはり焦りがあったのだと感じる。そして、そんなファーウェイが今度こそ、絶体絶命の状況に陥っている。

 5月15日、ドナルド・トランプ大統領が、「大統領令13873」に署名。これは、「インフォメーションやコミュニケーションのテクノロジーとサービスのサプライチェーンを安全にするための大統領令」であり、サイバー空間などで国家安全保障にリスクがあるとみられる企業の通信機器を米国内の企業が使うことを禁じる。ファーウェイはここでは名指しされていないが、明らかに同社を対象にした措置である。

 さらに同じタイミングで、米商務省もファーウェイと関連企業70社を「エンティティーリスト」という“ブラックリスト”に追加すると発表した。これにより、ファーウェイは米政府の許可を得ることなく米企業から部品などを購入することが禁止になった。

 つまり、このままではファーウェイは米国企業とのビジネスを遮断され、身動きが取れなくなる。米国はファーウェイ、つまり中国に対して、「最後通告」ともとれる措置を行い、その力を見せつけたのだ。

 この騒動、一体どこに向かうのだろうか。そして、米国の措置はどこまで広がるのか。

政府の方針を受けて、米企業も対応を迫られている

 まず大統領令と商務省のブラックリスト入りしたことにより、ファーウェイ製品は使えなくなるのか。特にスマートフォンなどファーウェイ製品のユーザーは日本でも少なくないため、気になっている人も多いだろう。

 現時点で明確なことは、Googleの声明にある。Googleは5月20日、Twitterで「私たちのサービスを利用しているユーザーは、Google Playや、セキュリティサービスであるGoogle Play プロテクトを既存のファーウェイ機器で引き続き使える」との声明を発表している。

Googleのアプリにアクセスできなくなる可能性も

 だが、ロイター通信の取材に応じたGoogleの広報担当者らによれば、ここ数日、国外のネット上で浮上していた同社のスマートフォン用OS「Android」や「Gmail」「YouTube」などへのアクセス禁止も現実味を帯びてきているという。

 同記事で広報担当者は、「私たちは(政府の)措置を順守するし、その影響を慎重に調査している」とも語っている。つまり、現時点ではまだ全ては「確定」しておらず、Googleも詳細を社内で検討しているという。

 また記事にコメントした関係筋は、「ファーウェイはAndroidの公開バージョンのみ利用することができ、Googleが特許権を持つアプリやサービスへのアクセスが不可能になる」と語っているという。つまり、Androidの今後のアップデートが利用できなくなる可能性がある。

 ただ世界的に使われている米国製ソフトウェアは何もGoogleだけではない。マイクロソフトのWindowsなど、数多くの米国製ソフトウェアが存在する。それらはどこまでファーウェイとの取引を続けるのか。今後の動きが注目されている。

 筆者はこれまで、Androidの使用も禁じられるところまではいかないのではないかと思っていた。もちろん、米政府の措置では、そこまで規制を広げることは可能であるが、ファーウェイのスマホやタブレットなどの既存ユーザーが多いことからも、そこまでやってしまえば、Androidの信用、また米企業の信用そのものにも関わるのではないかと考えていた。よって、米政府もさじ加減で、そこまではやらないのではないかと考えていたのである。

 だが現実に、Androidまで禁じる可能性が高まっている。ファーウェイも頭を抱えているに違いない。とはいえ、ファーウェイは、Googleが使えなくなったときのために、独自のOSを開発しているとメディアに語っていたこともある。そのファーウェイOSが実際に開発されているにしても、ユーザーを満足させられるものなのかはまったくの未知数である。

“妥協”して制裁解除したZTEのケース

 この動きを見ていて思い出すのが、中国通信機器大手である中興通訊(ZTE)に起きたケースだ。米政府は18年、ZTEを米国内で活動禁止にしてから、禁止解除の条件としてかなりの妥協を引き出した経緯がある。

 現在のファーウェイ問題の顛末(てんまつ)がどうなるのかを予測する際には、このケースがヒントとなりそうだ。

 17年、米政府はZTEが対イラン・北朝鮮制裁に違反して米国製品を輸出し、米政府に対しても虚偽説明をしたとして米国市場から7年間締め出す制裁措置を発表した。

 これにより、スマホを製造する際の半導体といった基幹部品などを米企業に依存していたZTEは、事実上ビジネスを続けられなくなった。だが、当時話を聞いた米政府関係者はこう語っていた。「結局、ZTEは習近平国家主席に泣きつき、その後、習近平はトランプ大統領にこの措置を緩めるようお願いをした。そこでトランプは、非常に厳しい条件を提示して、制裁を解除したのです。まさにトランプによる『ディール』ですね。これはトランプの手腕としてもっと評価されてもいい」

 米政府は習国家主席の要請に応じ、ZTEへの制裁措置を10年間先延ばしにすることにした。その条件として、ZTEは10億ドルの罰金を支払い、エスクロー口座(第三者預託口座)に4億ドルを預託、さらには、米商務省が指名した監視チームを10年にわたって受け入れることにも合意させられている。

 今回のファーウェイへの強硬措置もこの流れがある。

 つまり、ファーウェイはこれと同レベルまたはそれ以上の妥協をしない限り、今後米企業とビジネスを続けることはできなくなるのではないだろうか。また、中国政府が製造業で世界的な覇権を手にすべく15年に発表した「中国製造2025」の実現のために重要な企業の一つとして、ファーウェイを位置付けてきた中国も、おそらく現在関税合戦で全面衝突の様相にある米中貿易交渉で妥協を強いられることになるだろう。

Googleの言動に感じる、中国への“報復”

 ちなみに、「情報戦争を制するものは世界を制する」という旗印のもと、5G(第5世代移動通信システム)時代の通信機器シェアを広げようとしてきた中国は、ファーウェイに1000億ドルともいわれる莫大な補助金などを与えて育ててきた経緯がある。CIA(米中央情報局)の元幹部は筆者の取材に、「ファーウェイが、中国政府、つまり中国共産党と人民解放軍とつながっていないと考えるのはあまりにナイーブである」と語っている。別の元CIA関係者も「共産主義国家が自国の産業界をスパイ工作に使わないのではないかと思っている記者がいるとすれば、その人は記者失格である」とまで、筆者に述べている。

 米中貿易交渉では、米国は中国に対して、主に次のようなことを求めている。「対米貿易赤字を縮小」「米国からの輸出品への制限の緩和」「中国市場に進出する外国企業に要求しているテクノロジーの技術移転の中止」などだ。またファーウェイやZTEなど中国通信会社に対しては、中国政府のスパイ工作に手を貸すのはやめるようプレッシャーを与えている。

 こうなると、米政府の要求を飲まなければ、ファーウェイは完全に追い詰められ、今後のビジネスもままならなくなるだろう。ここまでくれば、トランプは「ディール」を結ぶまで、引き下がらないかもしれない。

米政府の要求を飲まなければ、今後のビジネスに大きな打撃を受けるかもしれない

 もう1点、この騒動から感じられるのは、Googleも対ファーウェイ、すなわち対中国の措置に協力的であるかのようにすら見えることだ。というのも、Googleにしてみれば、やっと中国に対して「報復」できる時が来た、ということになるからだろう。

 どういうことか。事は2010年にさかのぼる。

 Googleは同年、人民解放軍につながりのある中国系ハッカーによる激しいサイバー攻撃に見舞われていると公表した。そしてそれを理由に、当時ビジネスをしていた中国市場から撤退する可能性があると発表して大きなニュースになった。このサイバー攻撃は米政府関係者の間では「オーロラ工作」と呼ばれている。

 Googleによれば、この攻撃によって同社はハッキング被害にあい、中国に内部システムへ侵入されてしまったという。

ハッキングによって、何が起きたのか

 結局、何が起きたのか。米NSA(国家安全保障局)の元幹部であるジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に対して、検索エンジン技術の「ソースコードが中国に盗まれてしまった」と語っている。また米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジン、百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。

 この「オーロラ工作」では、Google以外にも、金融機関のモルガン・スタンレー、IT企業のシマンテックやアドビ、軍事企業のノースロップ・グラマンなど数多くの企業が中国側からの侵入を許したと報じられている。

 Googleはその後、中国本土から撤退し、香港に移動した。この因縁が今も尾を引いているのである。今回の米政府の措置で、Googleが前のめりに見えるのはそういう背景もありそうだ。

 そもそも大手SNSのFacebookやTwitterなども、中国国内では禁止されており、事実上締め出されている。要は、どちらの国もやっていることは同じなのである。

 冒頭のコラムニストは、こう記事を締めくくっている。

 「ファーウェイが、安全保障を守るという理由だけで米政府によって不公平に標的にされていると非難するのはばかげている。中国の共産党が産業政策を武器化している方針こそが非難されるべきだ。米国は単純に現実と向き合い、自国を守っているだけだ。他の国も、後に続いたほうが賢明だ」

 G20(金融・世界経済に関する首脳会合)大阪サミットでこの問題が話題になることは間違いない。日本にとっては、この騒動が、ひょっとすると消費増税の延期を左右する「リーマンショック級」の出来事という認識になる可能性もある。今後の動きから目が離せない。

【私の論評】トランプ政権が中国「サイバー主権」の尖兵ファーウェイに厳しい措置をとるのは当然(゚д゚)!

米国トランプ政権はファーウェイに対してなぜここまで過酷ともいえるような措置をとるのでしょうか。それは、以前もこのブログに掲載したように、本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎず、ファーウェイはこの小道具の開発や運用を担う中国共産党「サイバー主権」の尖兵だからです。

中国の「サイバー主権」を知れば、なぜ米国トランプ政権がこのような措置をとるのか理解できると思います。

「サイバー主権」については以前もこの記事に掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

この記事から「サイバー主権」に関わる部分のみを引用します。
中国は「サイバー主権」という概念を唱え、それを促進するため、国連に対するロビー活動を行ってきました。インターネット規制を国家に限定すべきだと主張する一方、業界や市民社会を脇役に押しやりました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。 
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
具体的には情報ネットワークの運営者に対して利用者の実名登録を求めているほか、公安機関や国家安全機関に技術協力を行う義務も明記。「重大な突発事件」が発生した際、特定地域の通信を制限する臨時措置も認めています。

こうした規制強化について、中国は「サイバー空間主権」なる概念を打ち出して正当化しています。2016年12月に国家インターネット情報弁公室が公表した「国家サイバー空間安全戦略」は、IT革命によってサイバー空間が陸地や海洋、空などと並ぶ人類活動の新領域となり、「国家主権の重要な構成部分」だと主張。インターネットを利用した他国への内政干渉や社会動乱の扇動などに危機感を示し、「テロやスパイ、機密窃取に対抗する能力」を強化すると宣言しました。 
また同弁公室は今年3月に発表した「サイバー空間国際協力戦略」でも「国連憲章が確立した主権平等の原則はサイバー空間にも適用されるべきだ」と主張。「サイバー空間主権」の擁護に向けて「軍隊に重要な役割を発揮させる」とも言及しました。

そもそも「サイバーセキュリティ」とは何でしょうか。サイバー空間に対する立ち位置は各国によって千差万別ですが、その概念は大きく二つに分かれます。

一つは、通信・金融・エネルギーなどを始めとする「国民の社会生活や経済活動の基盤となっている国家重要インフラに対するサイバー攻撃」を脅威とみなし、その保護を目指すものです。前提としては、サイバー空間を自由なものとしてとらえており、米国・欧州諸国・日本はこの理念をかまえています。

もう一つは、国家重要インフラへの脅威だけでなく「国内体制を不安定にする情報」も脅威とみなす考え方です。サイバー空間を政府がコントロールすべきとしてとらえ、「その情報が脅威にあたいするかどうか」を決めるのは当該政府であり、その恣意性のもとに「サイバーセキュリティ」が運用されます。中国とロシアはこの理念を国家戦略として明確にかまえており、アラブ諸国・アフリカ諸国もこれに近いスタンスを取っています。

両者の隔たりは大きく、大まかには、米国主導のサイバー空間管理に中国とロシアが共闘して対抗する構図にあります。

たとえば、サイバー犯罪を規制するための国際条約「サイバー犯罪条約」においては、2014年7月の発効から米国・欧州諸国・日本など主要国が相次いで締約するなか、中国・ロシア・アラブ首長国連邦などは継続して反対運動を展開しています。

あるいは、欧米各国が1998年に「ITセキュリティ分野における国際相互承認に関するアレンジメント」を締結し、IT製品のリスク管理を相互に承認するなか、中国とロシアは国内IT事業者の優遇政策を進めており、その主眼は安全保障にあると推測されています。

とりわけ中国においては、2014年12月以降、IT製品業者に対してプログラム設計図の提出、強制監査の受け入れ、「バックドア」の設置義務などの規制が設けられており、外国企業の参入がいちじるしく阻害されています。

この「バックドア」とは、正規には公開されないシステムの「裏口」を指し、対象のシステムを第三者がハッキングしたり盗み見したりする際に使われます。この設置が義務付けられることは、機密保持における大きな懸念となることは言うまでもないです。

 総じて、中国セイバーセキュリティ法を考えるにあたっても、「日本や欧米とはサイバーセキュリティの考え方が、まったく異なる」ことに留意する必要があります。

このサイバーセキュリティ法と時同じくして「ネットニュース情報サービス許可管理実施ガイドライン」「ネット情報内容管理行政執法プロセス規定」なども施行されました。これは微博や微信を使ったニューメディアに対する規制管理強化であり、微信などでメディアアカウントが当局の許可を得ずに、ニュース情報を提供してはならない、ということを規定しています。2017年1月に出されたVPN規制の通達とセットとなって、ネットユーザー、公民がアクセスする情報のコントロール強化に拍車がかかっています。

2020年にはネット人口9億人が予測されている世界最大の中国ネット市場です。中国がこのように、インターネット規制・コントロールに力を入れているのは「サイバー主権」という概念を打ち出しているからです。

つまり、海洋や領土、領空の主権のように、ネットでも中国の主権を主張する、ということなのです。だから、中国でネットを使いたかったら、中国の法律、ルール、価値観に従え、ということです。領域を広げ、主権を主張することが、覇権につながります。それは海洋、宇宙、海底、通貨への覇権拡大の発想とも共通しています。

そうして恐ろしいことには、この中国のネット主権の考え方に、中東諸国など結構賛同する国もあったりします。米国が生み出し米国が支配していたネット世界ですが、中国が世界最大規模の市場を武器に「サイバー主権」を唱え始めたことで、ネット世界全体の形が変わろうとしているのです。

民主と自由を建前にする米国が生み出したネット世界は、国境のない自由な世界という理念を打ち出していました。ところが、中国はこれを真向から否定してネットをむしろ社会のコントロール、管理のためのツールであるとし、実際に信じられないような厳格なネットコントロールを実施しています。

これに対し、米国ネット企業までが、批判するどころか、中国のネットルールに従ってもいいからその巨大市場に進出したいという態度を隠さなくなってきていました。

そう考えると、このサイバーセキュリティ法は、単に中国の不自由なネット環境が一層不自由になった、という意味以上の影響力があります。中国が世界のネット覇権をとるや否や、中国は世界のネットでも「サイバー主権」を主張することになるでしょう。

人民解放軍全面協力で制作された中国のドラマ「熱血尖兵」より

そうして、ファーウェイはこの中国の「サイバー主権」を5Gという小道具を用いて、世界に敷衍(ふえん)するための尖兵なのです。

この脅威を察知したからこそ、トランプ政権はファーウェイに対して厳しい措置をとっているのです。

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習近平氏、窮地! トランプ氏、ファーウェイ“完全排除”大統領令に署名 「共産党独裁国家の覇権許さず」鮮明に―【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!

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2019年5月20日月曜日

米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」―【私の論評】中国崩壊に対して日本はどのように対処すべきか(゚д゚)!

米中貿易戦争 検証して分かった「いまのところアメリカのボロ勝ち」

そして、その先にあるものは…

ついにばれてしまった中国の手口

先週13日に発表された3月の景気動向指数は、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」であった。GDPと景気動向指数はかなりの相関があるので、本日月曜日に発表される1-3月期のGDP速報もマイナスになっている可能性がある。

政府与党は「雇用や所得など内需を支えるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はしっかりしている」、「内需、設備投資はいい傾向が出ている」として防衛線を張っているが、雇用、設備投資、所得などは「遅行指数」といわれ、景気の後からやってくるものだ。これらがいいといっても、既に景気の下降局面であることは否定できないのだ。

国内の景気が良くないうえ、これからは海外要因も日本の景気への足かせになるだろう。米中貿易戦争は当面の出口が見えず激化の一途をたどっているし、欧州のブレグジットでも当面の混乱は避けられない。

筆者はこれまで米中貿易戦争について数々の書物を書いてきたが、例えば『米中貿易戦争で日本は果実を得る』では、米中貿易戦争は結果的に中国経済への打撃が大きく、アメリカへの影響は軽微であると分析している。そのうえで、もちろん日本への影響もあるが、上手く振る舞えば漁夫の利もありえるとしてきた。

これは、IMFレポートなどで書かれている国際経済の分析フレームワークを使えば、当然に出てくる答えであるが、最近の情勢を踏まえて、さらに先を読んでみよう。

目先の関心は、いつ頃米中貿易戦争が終息するかにあるだろうが、結論からいえば、当分の間、米中が互いに譲歩することはなかなか考えにくい。

これは、本稿コラムで再三指摘してきたが、米中貿易戦争は貿易赤字減らしという単なる経済問題ではなく、背景には米中の覇権争いがあり、それは、古い言葉で言えば、資本主義対共産主義の「体制間競争」まで遡るものだからだ。

この体制間競争は、旧ソ連の崩壊で決着がついたが、中国は旧ソ連の体制をバージョンアップさせて、再びアメリカに挑んできたともいえる。

たしかに中国はしたたかで、トランプ大統領率いるアメリカは昨今いろいろな国と摩擦を生み出している。アメリカが孤立し、結果として中国が中心に新たな国際社会が成る、という見方もある。

しかし、ここで思い出すのが、フリードマンの『資本主義と自由』だ。同書の第1章「経済的自由と政治的自由」で、フリードマンは経済的自由と政治的自由は密接な関係だとし、経済的自由のためには資本主義の市場が必要だと説いている。

この観点から言えば、政治的自由のない中国では経済的自由にも制約があり、そうである限りは本格的な資本主義を指向できない。結局、政治的自由がないのは経済には致命的な欠陥なのである。それでもこれまで中国は、擬似的な資本主義で西側諸国にキャッチアップしてきたが、トランプ大統領は中国の「窃盗」を見逃さなかった。

つまり、資本主義国に追いつくために、中国はこれまで知的所有権・技術の「窃盗」を行ってきたことがバレたのだ。

勝ち目はないようにみえるが…

米国議会報告書等が、その手口を明かしている。典型的なのは、まず中国への輸出品について、中国当局が輸入を制限する。それとともに、輸出企業に対して「中国進出しないか」と持ちかける。

ただし中国進出といっても、中国企業を買収し、100%子会社にするのではなく、中国企業との合弁会社を持ちかけるのだ。その場合、外国資本の支配権はないようにしておく。そして、立ち上げた合弁企業から技術を盗みだし、中国国内で新たな企業を創設して、その技術の独占を主張するといった具合だ。

このような事例は、決して珍しいわけではないし、また中国が他の先進国に直接投資し子会社を設立してから、投資国の企業や大学などから企業秘密や技術を盗むこともしばしば報告されている。

筆者が「中国の共産主義は旧ソ連のバージョンアップ版である」というのは、中国はソ連のような体制内のブロック・閉鎖経済を志向するのではなく、貿易については世界各国と取引しているからだ。貿易で対外開放しているかのように見せかけたうえ、中国内への投資も自由なように見せかけているのは、旧ソ連とは明らかに異なる。

共産主義の本質は「生産手段の国有化」であるので、完全には対内投資を自由にできない。そこで、中国は実質的に支配する合弁会社を利用するという手段で、見かけ上は中国への対内投資が自由にできるようにしているのだが、これがソ連のバージョンアップ、というわけだ。そしてその隠れ蓑のなかで外国の技術を盗み出すわけでだからなかなか巧妙である。

しかし、アメリカは、中国による知的所有権・技術の「窃盗」を見逃さず、それを梃子にして中国を攻めている。それが、アメリカの対中関税の引き上げにつながっているわけだ。

もちろんそれに対し、中国も報復関税をアメリカに対して課している。しかしながら中国のアメリカからの輸入額が1300億ドル、アメリカの中国からの輸入額は5390億ドルなので、報復関税をやりあっても、中国のほうが先に弾が切れてしまう。このことだけをみても中国には勝ち目はないように見える。

もっとも、報復関税に関して本当に勝敗がつくのは、関税によって自国の輸入製品の価格が上昇するときだ。実は、どのくらい関税をかけられるかではなく、関税の結果、価格が上昇するかしないか、が勝負の本質なのである。

物価指数をみれば一目瞭然

この観点からいえば、アメリカの勝ちは明白だ。というのも、米中貿易戦争以降も、アメリカの物価はまったく上がっていないからだ。インフレ目標2%に範囲内に見事におさまっている。


これは何を意味するのか。アメリカが中国からの輸入品に関税を課したら、関税分の10~25%程度は価格に転嫁されて、結果、価格上昇があっても不思議ではない。しかし、それでも物価が上がっていないということは、関税分の価格転嫁ができていないのだ。それは、中国からの輸入品が、他国製品によって代替できているということだ。価格転嫁ができなければ、輸出側の中国企業が関税上乗せ分の損をまるまる被ることになる(一方アメリカ政府は、まるまる関税分が政府収入増になる)。

中国の物価はどうか。中国では、食品を中心として物価が上がっている。つまり、価格転嫁が進んでいるのだ。



これで、(現時点では)貿易戦争はアメリカの勝ち、中国の負けということになる。

もっとも、中国がアメリカからの輸入品(農産物)に関税をかけ続ければ、そのうちアメリカの輸出農家も影響を受けるだろうともいわれる。しかし、その場合には、アメリカ政府は輸出農家に何らかの形で補助金を出せばいい。なにしろ関税収入があるので、補助金対策の財源には困らないからだ。

崩壊、が見えたワケ

それでも、中国は負けを認めるわけにはいかないから、「wait and see」(当面注視)と言い続けざるを得ない。この「wait and see」は、トランプ大統領が好む言葉で、これを中国は負け惜しみで使っているが、持久戦になれば中国にとって不利であるのは間違いない。

これをやや長期的な視点で見ると、前述の体制競争論にあるように「自由のない共産主義体制下においては、経済成長は難しい」という結論が導き出される(再確認される)ことになるだろう。

さらに中期的にみても、脱工業化に達する前に消費経済に移行した国は、一人あたりの所得が低いうちには高い成長率になるものの、結局先進国の壁を越えられない......という「開発経済の限界」が中国にも当てはまることになるかもしれない。これが中国にもあてはまるならば、次の10年スパンで中国の成長が行き詰まる可能性が高いだろう。

かつてレーガン米大統領は、1980年代初頭に「力による平和」を旧ソ連に仕掛け、それがきっかけになり、旧ソ連の経済破綻、旧ソ連の崩壊を10年で引き起こした。

筆者には、トランプ大統領の対中強硬姿勢が、かつてのレーガン大統領の対旧ソ連への強硬姿勢にダブって見えるのだ。

トランプ大統領は、中国の知的所有権収奪と国家による補助金を問題にしている。もちろん、中国はこれらを拒否しているが、それも当然。なぜならこれを拒否しなければ、中国の社会主義体制が維持できないからだ。中国の一党独裁体制の下で進められた政策を放棄すれば、それは体制否定にも成りかねない。

つまり、この貿易戦争は、中国国内の政治構造にも大きく影響を与えるだろう。中国は広大な国土をもつ国なので、日本では想像ができないくらいに中央と地方の関係は複雑である。

そのなかで、これまで経済発展のためには、ある程度地方分権を容認せざるを得なかったが、習近平体制になってから、逆に中央集権化の流れを加速している。そして知的所有権収奪と国家補助金については、中央政府とともに地方政府もこれまで推進してきたが、それを「アメリカの追及が厳しいから、もうやめよう」と習主席が認めると、地方政府からの突き上げをくらう可能性が高い。だから、習主席としては絶対に認められないのだ。

ということは、米中貿易戦争はしばらく続くことになるが、続けば続くほど、中国にとっては不利で、結局、習近平体制の基盤を揺るがすことにもつながるかもしれない。こうしてみると、ひょっとしたらトランプ大統領は中国の現体制の崩壊まで、この貿易戦争を続けるつもりなのかもしれない。

【私の論評】中国崩壊に対して日本はどのように対処すべきか(゚д゚)!

上の記事などを読むと、中国が崩壊するのは今後10年から20年とみて、日本などそれに対する準備をすべきと思います。

中国の過去の帝国が崩壊したときには、国内が、血で血を洗う内戦に突入しました。中華皇帝が倒れると中国は何時もとんでもない内戦になり人口が激減しました。

今回は、単に中国が歴史を繰り返すというわけにはいかないでしょう。何しろ現在の中国は核を保有しています。

通常想定されている核戦争は、双方に核を持っている者同士の戦いです。中国の過去の内戦は、核のない時代でも、多数の人間が死ぬ戦争ものでした。それも、人民を多数巻き込んだものでした。

もし、仮に現在の中国で内戦状態になったとき、核戦争にならない保証はありません。核抑止とは、国対国において成り立つことで、現在の中国が内戦状態になったときには、に通用するとは限らないです。

もともと中国でいう国とは、都市部のことで農村のことではありません。国という漢字を見るとわかるように壁に囲まれた都市の中に玉があります。これが、中華の国の概念です。過去においては、都市を殲滅できないから、外で戦っていました。

しかし現代は、ロケット戦争の時代です。外で殺し合いをしなくてもボタンを押すだけで都市を破壊できます。
現代の中国は、米国のように敵の居場所を特定する手段を持っています。独裁国家は、頭を倒せば崩壊します。これほどわかりやすい体制はないですし、これほど分かりやすい標的はないです。

日本には、毎年中国から大量の黄砂がやってきます。現在でも、PM2.5を含む黄砂のせぃで、体調不良を訴える人が大勢います。さらに、最近では黄砂がなくても、PM2.5が中国から到達していることもわかっています。もし中国が最悪の事態になったとしたら、協力な放射性物質が日本に襲ってくることにもなりかねません。



さらに、もっとも警戒しなければならなのは難民でしょう。無論中国が内覧状態になった場合当初は、中国から北朝鮮やロシアに大勢の難民が押し寄せるでしょう。しかし、北朝鮮やロシアは最初は多少は受け入れても、後には軍事力でこの難民の流入を防ぐでしょう。

その頃韓国が経済的に疲弊していれば、多数の韓国人難民や中国人難民が入り乱れて、日本に押し寄せてくる可能性もあります。そうなると、日本も対岸の火事どころではなくなります。

中国が緩やかな連邦国家等に移行できるのなら、分裂した多くの中国が存在した地域の国々と日本は、国交を結ぶことが出来るかもしれません。多くの民族が、独自に国の色を出す世界ができれば、中国は大繁栄するでしょう。

しかし、そのような簡単なことではすまないでしょう。中国には中華思想などという厄介なものがあります。新たな指導者はまた、習近平のように皇帝を目指すでしょう。

そうなれば、人が入れ替わるだけであり、何も変わらないことになります。放置しておけば、中国は必ずそのような道を歩むことになるでしょう。

それを防ぐために、米国などが直接介入しても、困難でしょう。しかし、それを防ぐ方法はあります。それは先日このブログでも掲載したように、中国内のいくつかの地域を互いに競わせるようにすることです。

競わせるとはいっても、無秩序に競わせるのではなく、かつて西欧列挙が歩んできたように、民主化、政治と経済の分離、法治国家を実現して国を富ませ、その結果国力を強化できたような形で競わせるのです。そうして、互いに拮抗した新たな秩序を形成するのです。

この考えの詳細については、ここで再び掲載すると長くなってしまいますのて、当該記事のリンクを以下に掲載します。
天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ―【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!
紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像
米国や他の先進国がこのようなことを実施して、現在の中国に民主的な国家が成立する可能性はあると思います。しかし、それ以前に現中国が崩壊するときには、とんでもないことになることが予想されます。

もし、中国が崩壊するような事態になると、今の体制に肩入れしている人間は、全員、標的になります。日本の政権与党がタイミング悪く、中国に肩入れしていたとしたら、日本も標的にされかねません。

中国が崩壊ということになれば、当然のことながら、中露対立が再燃するでしょうし、インドとも対立が激しくなるでしょう。ベトナムや北朝鮮も行動を起こすかもしれません。

中国には中東のような宗教という支えがないです。結局は、俺が、俺がの世界です。過去においては、中華皇帝が入れ替わるとき、前の皇族は一族郎党が殺されました。さらに、民族浄化も起きたこともあります。それらを一挙にかたずける方法が現代にはあります。とにかく、現中国が崩壊すれば、周辺国に大迷惑を掛けることになることは大いにありそうです。

これにどのように日本は対処すべきなのでしょうか。どうすれば、最悪の事態を避けられるか今から真剣に考えておくべきです。

2019年5月19日日曜日

「丸山が電話に出ない。孤立させるのではなく、再生のチャンスを」丸山穂高議員への辞職勧告に元経産官僚が涙の訴え―【私の論評】辞任勧告決議はどう考えても行き過ぎ(゚д゚)!

「丸山が電話に出ない。孤立させるのではなく、再生のチャンスを」丸山穂高議員への辞職勧告に元経産官僚が涙の訴え


17日、日本維新の会、立憲民主党、国民民主党、共産党、社会保障を立て直す国民会議、社民党が丸山穂高議員に対する辞職勧告決議案を国会に提出した。丸山議員を除名処分とし、辞職を促してきた維新の協力要請に応じた形だ。一方、共同提案を持ちかけていた与党側は慎重な姿勢で、態度を保留した。

その丸山議員に対し、同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』で「まず、一緒に診断を受けてみよう。一人じゃない。アルコールの問題を抱えている人は日本に何百万人といる。そういう仲間と一緒に道を歩んでみないか」と涙を浮かべて呼びかけたのが、元経産官僚の宇佐美典也氏だ。宇佐美氏は丸山議員と同じく東京大学経済学部に学び、経済産業省でも1年先輩に当たる。


今回の決議案の内容について宇佐美氏は「これまでの辞職勧告決議は、違法行為や不正行為が伴っていた。しかし今回は言論に対してのもの。もちろん戦争発言は憲法の趣旨に反しているが、単に糾弾するだけの決議案なら、言論の自由を保障した憲法の趣旨に反していると思う。私は彼に責任を取らせないといけないと思うし、辞職すべきだとも思っている。ただ、辞職した後の道が見えなければ辞職はできない。そして、彼の問題発言の背景には、お酒の問題があったことは間違いない。そこも含め、"あなたの将来のためにも議員を辞めたほうが良い"というメッセージを伴った決議案にすべきだった」と指摘する。

「今まで週刊誌に報じられたものもあるが、周りが隠してきたものもある。お酒を飲むと強気になってトラブルを起こすというようなことは学生時代から聞いていたし、経産省に入ってからもお酒絡みのトラブルで2か月間くらい普通の仕事をしていない時期もあった。経産省を辞めた原因の一つだと思う。2016年に禁酒宣言をしたのでやめたと思ったわけだが、今回のことで飲んでいたことが期せずして分かった。彼がアルコール依存症かどうか、医師の診断もないので現時点ではわからないが、飲み始めると止まらない"ビンジドリンカー"であることは間違いないと思う。本人は反省していると言っているが、本当に覚えているかどうかは疑問だ。"いつでもやめられるんだ"と言って、自分が依存症であることを否認するケースは多い。だから映像や音声が残っていたのは、彼にとっては良いことだと思う。プロが介入し、治療や回復に向けて説得するチャンスだ。ここで孤立させてしませば、その働きかけが困難になってしまう。少なくとも、医師の診断を受けかせてから除名処分にするべきだったと思う」。


経産省を退職後、ギャンブル依存症問題もコミットしてきた宇佐美氏。自身もギャンブル依存症に悩んだ経験を明かし、涙を堪えながら、次のように訴えた。

「私は大学4年生の時にパチンコにハマってしまい、経産省の内定をもらっていたのに留年してしまった。それでも経産省は"働きながらでいいから残りの単位を取れ。仕事で返してくれればそれでいい"とチャンスを与えてくれた。だから僕なりに克服し、どこまで仕事で返せたかは分からないが、一生懸命に働いた。そして、それが今に繋がっている。依存症の人というのは、周りに相談しても、大抵の場合"お前がしっかりしないから"と言われてしまう。でも、そんなことは本人が一番よく分かっているし、後悔もしている。だからこそ、蜘蛛の糸を垂らすことが組織として大事だと思う。やはり依存症の人が希望を断ち切られたら、依存していた対象に戻るしかない。日本維新の会は今まで"ちゃんと依存症対策をやるからカジノを作っても大丈夫"と言い続けた党。大嘘じゃないかと思う。身内の中にそういう疑いのある人が出てきたの場合どう対応すればいいのか、という模範を示し、社会の理解を深めるべきだ。それなのに維新は真逆のことをやっている。除名し、批判し、辞職勧告した。彼を排除し、どんどん孤立に追い込んでいる。今、丸山に電話しても通じない、出ない。どうしろというのか。もう酒を飲むか死ぬかしか道がないかもしれない。それは自民党も同様だ。あるいは、ギャンブル依存症を根拠に、国会でさんざんカジノに反対してきたは野党はどうなのか。かつて堀江メール問題で辞職した永田寿康という議員がいた。彼もそういうチャンスが与えられず、精神病になって最終的には自殺してしまった。彼は民主党の議員だった。立憲民主党の人たちは、あのときに何も学ばなかったのか。責任と向き合わせると同時に再生のチャンスを与えるということが依存症対策で最も大事なこと。やはりここは維新が中心となって、辞職勧告決議案を修正するなりして、ちゃんと責任をもって対応してほしい」。


テレビ朝日政治部デスクの足立直紀氏は「国会議員というのは有権者に与えられた身分なので、まずは自分で律しなさいというのが与野党問わず基本。だからこそ維新も除名にした段階で一段落、"あとは自分で辞めろよ"ということだと思っていた。ところが批判が止まなかったことから、都構想実現への流れを断ち切られたくないという考えがあったと思う。松井一郎代表に"何とかならないか"と言われた遠藤国対委員長が動き出し、立憲に相談が行き、立憲が野党に持ちかけるという形でトントン拍子で決まっていった。果たして野党の中で、議員の身分を奪うという重要性について、どれだけどこまで吟味したのかというのは甚だ疑問に感じているし、維新としても除名したから関係ないではなく、ちゃんと責任を取るところまで面倒を見なければいけないと思う」と話す。

その上で与野党の温度差について「今までに辞職勧告決議案が可決された議員は4人いるが、いずれも辞めなかった。丸山議員も辞めないとなると、国会の権威にも関わる。また、自民党が慎重なのは、国会議員の身分が憲法でも保障されている以上、それを奪うということは非常に重いという認識があり、これまで刑事事件に発展するようなケースでしか提出していない。丸山議員は小選挙区で6万人以上の有権者に選ばれた国会議員。発言自体は問題だが、辞職勧告にまで持っていくのは違うだろうという考えだ。もしそれが乱発されるようなら、今後も失言やスキャンダルで出すことになってしまう。与党であれば、野党の議員に対し"あいつ辞めさせたいから出しちゃえ"ということも可能になる。だから自民党としては慎重なスタンスだ」と説明した。


 作家の乙武洋匡氏は「国会議員であるべきはないとしっかりと意思表示をし、彼にも理解させ、私人に戻ったところで、"ただ、お前の人生、このままほっとくわけにはいかない。党職員という立場でやり直さないか"というのが然るべき順序なのではないか。それをせずに、いきなりなんとかしようというのは、有権者の理解も得られないのではないか」と話していた。

決議案の扱いは、週明けの21日に議院運営委員会で協議される見通しとなっている。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

【私の論評】辞任勧告決議は、どう考えても行き過ぎ(゚д゚)!

丸山議員の北方領土発言についてロシア側が怒っているというが、9年前、当時のメドベージェフ・ロシア大統領が「敗戦国のくせに領土を返せという国がある。戦争で捕ったものは戦争でしか解決しない」と言っています。ロシアはそれを十分分かっていてて丸山発言を非難しています。ロシアとはそういう国なのです。

日本のマスコミや、識者などは、このことはすっかり忘れているようだし、いかに丸山氏の発言の場がまずいとはいえ、ロシアの大統領が同じような発言をしてもあまり騒がなかったにもかかわらず、丸山議員が似たような発言をすれば、大騒ぎというのは、本当に典型的な二重基準だと思います。

ただ、お花畑の人々が多い日本では良く理解されていないようですが、丸山議員も、メドベージェフ大統領も実は国際法上の常識を語っただけなのです。

武力で奪われた領土や自国民を武力で取り返す事は国際法上認められています。しかし、これは、裏返せば「戦争で奪われた領土は、戦争で奪い返すしかない」ということです。

丸山議員は、この当たり前のど真ん中を言いたかったのかもしれません。ただし、報道されている内容をみるとたしかに不適切なところもあったことがうかがえます。

以下に発言の経緯を北海道 NEWS WEBから引用します。
【「戦争」発言の経緯】
日本維新の会の丸山穂高議員は衆議院の沖縄・北方問題特別委員会の委員で、「ビザなし交流」の訪問団の顧問として今回、北方領土を初めて訪問しました。 
丸山氏は今月11日午後4時すぎから国後島の古釜布でロシア人の家庭を訪問して食事しながら交流を深める「ホームビジット」に参加しました。 
この際、丸山氏は「たくさん酒を飲んだ」と13日の記者会見で説明しています。 
丸山氏は午後7時ごろ宿泊施設に戻ったあと、施設にある食堂で団員と話をしていたということです。 
訪問団の同行記者によりますと、午後8時ごろ、国後島出身で訪問団の団長を務める大塚小彌太さんに2人の記者が取材していたところ丸山氏が割って入り、記者の質問をたびたび遮ることがあったということです。 
そして丸山氏は、大塚さんに「戦争で島を取り返すことには賛成か反対か」「戦争しないとどうしようもなくないか」と、大きな声でただしたということです。 
これを受けて、12日昼、宿泊施設の食堂に団員が集まり、参加者の1人が「大きな声を出したり、話を遮るという行為はビザなし訪問という活動以前に社会的に許されないことだ」と指摘し、丸山氏に対し謝罪を求めました。 
これに対し丸山氏は「かなり酒が入っていて大きな声を出したり、話を妨げたりしてしまった。ご迷惑をおかけしたことをおわびします」と述べ陳謝しました。 
丸山氏は根室港に戻ったあと、13日、記者会見で、戦争で島を取り返すことの是非などを尋ねた発言について「団員にタブーなく考えを聞く中で、団長にも聞いたが、それが最善とは思っていない。交渉の中で国益を勝ち取るのが当然の話で、真意が伝わらなかった」などと述べました。 
その後、13日夜、東京都内で記者団に対し、発言をした際、酒を飲んでいたことを認めた上で、「誤解を与えてしまうような極めて不適切な発言で、特に元島民の方に対し、非常に配慮を欠いた形だった。一般論として話を聞いたつもりだったが、私自身がそう考えていると誤解を与えてしまうような状況だった」と述べました。
その上で、丸山氏は、「私の発言で、国益を損ねかねない状況になれば、真意ではない。 
心から、今回の発言を謝罪し、撤回させて頂く」と述べました。
以下に丸山議員の問題発言の録音を含む動画掲載します。



いずれにしても、場所柄をわきまえてはいなかったと思います。これが、国会の中での議論であったり、少なくともビザなし交流の場でなければ、私としては何の問題もなかったと思います。

動画で、発言内容を聞いた限りでは、丸山議員は「北方領土を取り返すために戦争すべきである」と直接言っているわけではないことがわかります。それに、酔っていたこともあって、話が途中で終わっているのか、それても途中までしか録音されていなのかはをかりませんが、丸山議員が単純に、戦争をして北方領土を奪い返すと思っているとは到底思えません。

当然言いたいことは他にあったと思います。私としては、おそらく私が以前このブログ記事に掲載したように、中国が新冷戦で弱体化したときには、かつての中ソ対立のように、中露対立が再燃し、中露国境紛争が再燃する可能性があり、そうなると当然のことながら、ロシアは弱体化するはずであり、そのときこそが、北方領土交渉の好機であるというものに近いことを考えているのではないかと思います。

ここでは、詳細はに述べません。興味のあるかたは、以下に当該記事のリンクを貼っておきますので、そちらをご覧になってください。
対ロ交渉、長期化色濃く=北方領土の溝埋まらず―【私の論評】北方領土は今は、返ってこなくても良い(゚д゚)!
    河野太郎外相は16日(日本時間17日)、ロシアのラブロフ外相と、
    平和条約交渉の責任者に就いてから2度目となる会談に臨んだ。

丸山議員には、本当は何を言いたかったのかを明らかにするための説明責任があると思います。

以上のような経緯から、私自身は、日本維新の会から除名処分を受けたこと自体は致しかたないとこがあるとは、思いますが、議員辞職決議までもっていくのは非常に問題だと思います。

自民党が丸山氏への議員辞職勧告に慎重なのは、氏の発言を擁護してのものではないです。罪を犯したわけでもないのに、簡単に議員辞職勧告が出されるようになれば、将来への禍根を残す可能性があるからです。

自民党が決議案に賛成して可決されると、今後は決議案が失言をした閣僚らに対する野党の追及材料になりかねないです。一方、野党も安易に考え過ぎです。今回決議案が通って、実際に丸山議員に勧告が出されば野党側にも将来不都合なことが起こりえます。

たとえば、野党議員が不適切な発言を行えば、今度は与党側から、辞任勧告決議案が出され野党議員に辞任勧告が出されることになる可能性もでてきます。この場合、与党は多数派ですから、確実に勧告が出されることになります。野党議員は、この危険性に気づいていないようです。日本の将来を考えない無責任な態度は、政治家としての資質を疑われても仕方ないです。

これにより、何度も辞任勧告を出された議員は、それこそ議員をやめなくても、レイムダックになってしまうということも十分に起こりえます。政敵を倒すために、政権与党がこの手を頻繁に使うようになれは、野党自体が最初から無力になってしまう危険性もあります。このような危険性に気づかない野党は非常に問題だと思います。

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2019年5月18日土曜日

天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ―【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!

天安門事件30年で中国は毛沢東時代に逆戻りする予感アリ

北朝鮮よりも悲惨だった時代に…









改革開放の行き着いた果て

2018年末で、改革開放40周年を迎えたことを共産主義中国は喧伝しているが、6月4日に30周年を迎える天安門事件については、沈黙を通すどころか、積極的な言論統制を行うであろう。インターネット上の関連記事も、削除されたり、嫌がらせを受けたりするはずだ。

何しろ「クマのプーさん」の関連記事を徹底的に検閲する国である。習近平氏がプーさんに似ていることから、「隠語」として使われていたらしい。

改革開放40年、天安門事件30年、どちらもこれからの中国に大いに影響を与える重要な歴史的事実だが、まず改革・開放がようやく軌道に乗り始めたばかりの時期に、天安門事件という先進諸国を敵に回すような「大問題」を引き起こしてしまった原因について考える。

なぜ天安門事件が起こったのか?

意外に意識されていないことだが、ロシア革命は、1917年に2回起きており、最初の2月革命は、自由主義者が中心の「民主国家」を目指すもので、ブルジョア革命とみなされていた。この革命が成功していれば、ロシア(ソ連邦)は、もしかしたら先進資本主義・自由国家の一員となっていたかもしれない。

ロシア2月革命 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

ところが、この臨時(革命)政府に内紛が勃発し、同じ年の「10月革命」によってソヴィエトの権力が支配的となり、世界初の社会主義(共産主義)政権が樹立されたのである。当時のロシア人民は、先進資本主義や民主主義よりも、皇帝支配下の農奴制への回帰とも言える共産主義(社会主義)を選択した。

そのソヴィエトの強い影響下で1949年10月1日に成立した共産主義中国(中華人民共和国)において、資本主義が激しい攻撃を受けて、党幹部などの「走資派」と指さされた人々が紅衛兵などにリンチを受けるシーンを見たことがある読者も多いだろう。

いうまでもなく、中華人民共和国は、日本が1945年に受け入れたポツダム宣言の相手国、中華民国(現・台湾、民主主義中国)とは別の国である。

実はこの毛沢東が行った「文化大革命」と呼ばれる集団リンチ・暴行・処刑運動が、鄧小平をはじめとする「八大元老」と称される人々の脳裏に「恐怖体験」のトラウマとなって焼き付いたことが、後の天安門事件の大きな原因になった。

文革開始時に政府や党の要職にあった彼らは失脚し、毛沢東が動員した若者たちによって激しく糾弾された。例えば鄧小平は共産党総書記を解任されて労働者として地方に送られ、学生だったその息子は取り調べ中の「事故」で身体障碍者となる。

また、紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像は世界に衝撃を与え、習近平現国家主席の父親である習仲勲は、長期の監禁生活を送った。

紅衛兵に髪を掴まれて引き回される彭真の画像

改革派と学生運動が連携して保守派に牙を剥いたときの恐怖を考えると、長老たちが天安門で起こったデモに過剰反応して大事件となったことも、ある程度、納得できる。

鄧小平が、ようやく軌道に乗り始めた改革開放政策を危機に陥れ、諸外国から絶縁されるリスクを冒してまで、天安門広場で数千人(西側推定)もの中国人民を戦車などでひき殺して虐殺した過剰反応は、このようなトラウマに原因がある。

そうして、もう1つ言えることは、一党独裁の共産主義中国では「党の存続・繁栄」が中国人民の幸福よりもはるかに重要であるということである。

絶対王政における王家が、国民の幸福よりも王家の存続・繁栄を気にかけるのと同じだ。改革・解放の立役者である鄧小平もその点は意見を同じくする。彼は決して民主主義者でも、自由主義者でもない。

改革・解放によって「共産党一党独裁」が脅かされるのならば、「改革・解放などやめてしまえ!」というのが中国共産党の基本方針であり、毛沢東暗黒時代への回帰を目指す習近平氏の政策がまさにその典型である。

鄧小平だけが可能だった改革開放

まず、共産主義一党独裁のままでの「市場経済の導入」は、鄧小平という超人だからできたことである。この点については当サイト1月9日の記事「客家・鄧小平の遺産を失った中国共産党の『哀しき運命』を読む」を参照いただきたい。

我々は、すでに40年にわたる改革・解放の成果を目の当たりにしているから、当然のように思われているが、改革開放が始まった40年前は東西冷戦の真っ最中で、共産主義国家が資本種後の象徴とも言える「自由市場」政策を取り入れるなどということはまったく考えられなかった。

今では、そのあまりの非効率さのゆえに「絶滅危惧種」となっている5ヵ年計画などの「計画経済」が当時の共産主義国家の基本理念であり、党が「指導する」という共産主義思想にも合致していた。

その中で鄧小平が、毛沢東に蹂躙され、現在の北朝鮮よりもひどい状態であった中国を復活させる起死回生の手段として採用したのが「改革開放」である。

1978年12月に開催された中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議で提出されたのが始まりだが、その後しばらくの間、中国の国民は冷ややかな目で見ていた。

なぜなら毛沢東時代の1956年から57年に共産主義中国で行われた政治運動「百花斉放、百家争鳴」の結末を知っていたからである。

当初、「共産党に関する自由な意見を募集中」ということで始まったこの運動に賛同し、大学教授をはじめとする多くの国民が意見を述べた。ところが、後に方針が転換され、この時の共産党に対する批判を理由に多くの国民が粛正された。

最初、中国人民が「共産党の指導など気にせずに、自由に商売をやってください」と言われたときに「例の反体制派あぶり出し作戦だな」と思ったのも無理は無い。

その後、鄧小平の懸命な努力で徐々に改革開放政策が浸透したのだが、その過程で不平等や腐敗の蔓延などの問題も生じてきた。その時に起こったのが、1989年の天安門事件である。

鄧小平

これは、鄧小平が主導する改革開放に対する痛手であったが、共産主義中国の人権問題に対する非難は「反日政策の強化」で欧米の目をそらした。さらには、1992年に行われた「南巡講話」で中国国民に再度呼びかけたことが効を奏し、その後の爆発的な経済成長を生み出した。

そもそも、北朝鮮よりも貧しい(改革開放初期と同時期の北朝鮮は、地下資源などで意外に潤っていた)状態からスタートしたのだから、その成長ぶりは天文学的である。

ただ、同じことを北朝鮮に期待している欧米の投資家は良い結果を得ないだろう。金正恩氏とトランプ氏の交渉がうまく決着し、北朝鮮版・改革開放が始まったとしても、「共産主義一党独裁と自由市場」という相反するものを鄧小平のようにうまく操れるはずが無く、結局とん挫するはずである。

また、習近平氏以前は一応、鄧小平路線を保っていたので、1997年の鄧小平没後も経済は順調に拡大し、2008年の北京オリンピックで頂点に達した。

共産党のための中国が鮮明になった

しかし、習近平氏の時代に入り、輝かしい鄧小平の遺産は次々と破壊され、毛沢東暗黒時代への回帰色が鮮明になった。

ここで長い歴史を振り返れば、中華世界(中国大陸)では反乱・革命や異民族の征服によって200~300年ごとに王朝の交代を繰り返しているが、各地の統治機構はずっと継承されて中央と人民の橋渡し役となってきた。

中国がモンゴルの植民地であった「元」の時代にも、統治機構はあくまで中華世界の伝統的なものであった。

士大夫が支える地方の社会機構こそ共産主義革命を経ても続く伝統であり、過去の戦乱を乗り越えて社会を維持してきた根幹といえる。

革命を完遂するには、社会の隅々に残るこれら伝統を根こそぎ破壊する必要があり、そのためには、良識や教養と呼ばれているものすら邪魔になる。

そこで文化大革命の革命の初期に標的とされたのはまさに旧思想、旧文化、旧伝統、旧習慣と名指しされた中国社会の支柱そのものであった。

実利主義によって経済の建て直しを行う組織や人々(走資派と呼ばれた)、伝統的な価値観や文化を継承して社会の安定を図る人々は、全て社会主義革命を後退させる敵であり打倒すべき階級と認識しなければならないというわけだ。そうした人々は「牛鬼蛇神」という庶民にわかりやすい悪役のイメージで糾弾された。

しかし、そのように、かつて毛沢東暗黒時代に走資派と呼ばれた人々や、中華社会の伝統的価値観を持つ人々こそが「改革開放」において重要な役割を果たした。市場経済を立ち上げたり、世界中に広がる華僑ネットワークをフルに活用したのも彼らだ。

               1984年10月1日に中国建国35周年のイベントで「こんにち、
                小平さん」の横断幕を掲げ、鄧小平が主導する改革開放を
                 歓迎する意を表した群衆。
 

その鄧小平をはじめとする中国繁栄の恩人たちをないがしろにし、毛沢東暗黒時代に回帰しようとする習近平氏は、共産主義中国をかつての北朝鮮並みの「暗黒時代」に引き戻そうとしているといえる。

習近平氏が愚かなのも原因の1つかもしれないが、より根本的には、「中国の経済的繁栄よりも共産党一党独裁の方が重要である」ということだ。

筆者は、アリババの創業者、ジャック・マー氏の突然の引退がその路線転換の象徴だと考えている。

<主要参考文献>人間経済科学研究所HP・藤原相禅研究レポート「六四天安門事件30周年を前に文革の意義を考えてみる」

【私の論評】毛沢東時代に逆戻りした中国はどうすべきなのかを考えてみた(゚д゚)!

ブログ冒頭の大原の記事には、以下のようなくだりがありました。
ロシア革命は、1917年に2回起きており、最初の2月革命は、自由主義者が中心の「民主国家」を目指すもので、ブルジョア革命とみなされていた。この革命が成功していれば、ロシア(ソ連邦)は、もしかしたら先進資本主義・自由国家の一員となっていたかもしれない。
私もそう思います。現在の先進国は、フランスのような過激であったか、英国のようにもっと穏健であったにしても、ある程度犠牲をはらって民主化するという道をたどり、さらに様々な経緯を経て現在に至っています。

その過程において、先進国は民主化だけではなく、政治と経済の分離、法治国家化を実現し社会構造変革を行い今日に至っています。日本も、明治維新後に急速にこれを実施し、世界の列強に仲間入りました。

まさに、今日「民主国家」といわれている国々と、中国・ロシアや他の発展途上国とはここに大きな差があります。

今日「民主国家」と呼ばれる国々は、どうして民主化、政治と経済、法治国家化の道をすすめたかといえば、個々の事情は各国で違うところがありますが、当時のヨーロッパでは、強国がいくつかあり、それらの国々が富国強兵策をとっており、他国に国力で劣ってしまっては、他国に征服されるという危機感があったからだと思います。

軍事力も国の富が土台になっています。経済がある程度は良くないと強い軍隊は持てません。国を富ますためには、一部の富裕層だけや政府が努力したとしても限界があります。

国を富ますことは、多数の中間層が、自由に活発に社会経済活動を行える体制を整えてはじめてできるものです。

だからこそ、先進国は先進国になる前に、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を行い、社会構造変革をなしとげ多数の中間層を輩出し、これらが自由活発に社会経済活動を行える体制を整えたのです。そうして、経済を富ませて、軍事力を強化したのです。無論、西欧では、民主化とはいっても、白人だけのものでしたが、それでも国力を増すことはできました。

日本も明治維新をなしとげ、当時の西欧なみに、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を成し遂げたからこそ、今日先進国の一端を担うことができているのです。

ロシアや中国はこのプロセスを欠いて、経済だけ発展させることに成功しました。ロシアは、ソ連時代に敗戦国ドイツからの科学技術を導入したこと等により、発展することができました。

中国は、主に海外からの巨額な投資を得て、発展することができました。しかし、両国とも西欧や日本にみられるような、社会構造改革は行われませんでした。そのため、今でも両国は遅れた社会構造がそのまま温存されています。

       中国には選挙制度はないが現在のロシアにはそれがある。
       ところがロシアはとても民主国家と呼べる状況ではない


ソ連は、結局社会構造改革をしないまま、冷戦による疲弊も手伝い崩壊しました。ロシアがその後を引き継ぎましたが、軍事的には侮れないですが、今日その経済規模は、韓国を若干下回るほどの規模しかありません。

先進国は、中国が経済的に豊かになれば、先進国が過去に行ったような、社会構造改革を実行して、先進国のような体制になると信じて、中国の動向を見守りましたが、結局それはなされずに今日に至っています。

そうして、現在は中国もソ連のように、社会構造変革ができないまま、経済は衰退しつつあるところに、米国から貿易戦争を挑まれています。

このブログでも過去に何度か述べてきたように、この貿易戦争はやがて、本格的な冷戦にまで発展し、中国が体制を変えるか、経済的に他国に影響を及ぼせないくらい経済が衰退するまで、続けられることになります。

ブログ冒頭の記事で、大原氏が語っているように、「中国の経済的繁栄よりも共産党一党独裁の方が重要である」という理念を変えることはないでしょから、中国は他国に影響を及ぼせないくらい経済が弱体化するしかないようです。

私は、経済が弱体化した後の中国は「図体だけが大きい、アジアの凡庸な独裁国家になり果てる」と過去の記事で何度か主張してきましたが、これがまさしく、冒頭の記事で大原氏が語っている「毛沢東時代に逆戻り」ということだと思います。

もし中国がそのような状態となった場合、どうすれば良いのかという問題があります。先進国も中国には経済発展してもらいたいとは思っているのでしょうが、その結果過去の中国がどのようになったかを考えれば、単純に経済支援や技術協力などできないと思います。

私は、現在の中国の版図がいくつかの国に別れて、かつて西欧諸国が富国強兵のために、互いに競い合っていた時代のような環境ができれば良いと思っています。

互いに競い合い、分裂した国々が、富国強兵でしのぎを削るのです。相手をしのぐため、民主化と、政治と経済の分離、民主化を成し遂げ、社会構造改革を実現して、中間層を多数輩出させ、彼らが自由に社会経済活動ができるようにして、各々の国が自国を富ませるように仕向けるのです。

これにより、中国ははじめて民主的国家もしくは国家群になることができるかもしれません。そうして、この競争にロシアも加わるべきだと思います。

このような競争を経れば、ユーラシア大陸の中国とロシアと大きな領域が、民主主義国家に生まれ変わるかもしれません。それには最低でも数十年という年月が必要かもしれません。しかし、それを待つ価値は十分にあると思います。

経済が衰弱し、他国に影響力を及ぼせないまで疲弊した中国やロシアよりは、世界にとってもこのほうが良いのではないかと思います。

米国は、たとえ冷戦で中国に勝利したとしても、その後に何をどうするのかを今から考えておくべきです。そのまま放置しておけば、中国は疲弊したままで、世界経済にも良いことは一つもありません。

ただし、米国が直接干渉することは、良い結果を招くことはないと思います。しかし、互いに競争させるように仕向けることはできると思います。そうして、日本をはじめとする他の先進国もそのように仕向けることに協力すれば、意外とうまくいくかもしれません。

そうして、そう仕向けることが、ソ連に返り咲こうとするロシアを強く牽制することになると思います。

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習近平氏、窮地! トランプ氏、ファーウェイ“完全排除”大統領令に署名 「共産党独裁国家の覇権許さず」鮮明に―【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!



米中貿易戦争「中国のボロ負け」が必至だと判断できる根拠を示そう―【私の論評】中国は米国にとってかつてのソ連のような敵国となった(゚д゚)!

2019年5月17日金曜日

習近平氏、窮地! トランプ氏、ファーウェイ“完全排除”大統領令に署名 「共産党独裁国家の覇権許さず」鮮明に―【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!


トランプ大統領

米国が警戒する背景には、次世代通信規格「5G」の到来がある。

 5Gは、現在の4Gの100倍とも言われる速度での通信を可能にし、あらゆるものがインターネットにつながる。共産党独裁国家である中国が5Gを「支配」すれば、安全保障への影響ははかりしれない。トランプ政権は、同盟国にも「ファーウェイ排除」を要請している。

 こうした、トランプ氏の対中強硬姿勢には、党派を超えて支持が広がっている。

 米民主党の大物、チャック・シューマー上院院内総務はツイッターで、「中国にタフな姿勢を貫け」と投稿し、トランプ氏の決断に賛同した。米世論調査会社ギャラップが4月下旬に実施した世論調査で、トランプ政権の支持率は過去最高の46%を記録した。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「米中貿易戦争は、世界制覇をめぐる権力闘争といえる。習近平国家主席が提唱した『中国製造2025』が実現すれば、欧米や日本のハイテク産業は壊滅し、世界経済の覇権は完全に中国共産党に握られる。自由も人権も、法の下の平等もなくなる。トランプ政権は『断固戦う』との国家意思を示した。今回の大統領令署名は、同盟国にも強いメッセージを発した形になった」と語った。

 米国が警戒する背景には、次世代通信規格「5G」の到来がある。

 5Gは、現在の4Gの100倍とも言われる速度での通信を可能にし、あらゆるものがインターネットにつながる。共産党独裁国家である中国が5Gを「支配」すれば、安全保障への影響ははかりしれない。トランプ政権は、同盟国にも「ファーウェイ排除」を要請している。

 こうした、トランプ氏の対中強硬姿勢には、党派を超えて支持が広がっている。

 米民主党の大物、チャック・シューマー上院院内総務はツイッターで、「中国にタフな姿勢を貫け」と投稿し、トランプ氏の決断に賛同した。米世論調査会社ギャラップが4月下旬に実施した世論調査で、トランプ政権の支持率は過去最高の46%を記録した。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「米中貿易戦争は、世界制覇をめぐる権力闘争といえる。習近平国家主席が提唱した『中国製造2025』が実現すれば、欧米や日本のハイテク産業は壊滅し、世界経済の覇権は完全に中国共産党に握られる。自由も人権も、法の下の平等もなくなる。トランプ政権は『断固戦う』との国家意思を示した。今回の大統領令署名は、同盟国にも強いメッセージを発した形になった」と語った。

【私の論評】本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎない(゚д゚)!

トランプ米大統領は15日、安全保障上の脅威があると判断した外国の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名しました。次世代通信規格「5G」ネットワークの主導権を米国と争う中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)排除が念頭にあり、米商務省は同日、ファーウェイに対して米製品を許可なく販売することを禁じる措置を発表しました。

このブログでは、以前も5Gについて掲載しました。その記事の中では、5G問題の本質は、
"中国の「サイバー主権」を囲い込むこと"であると掲載しました。

このことは、多くの識者がそのようにとらえているようです。そうして、冒頭の記事の藤井厳喜氏も、それに近いようなことは述べています。しかしなぜか「中国のサイバー主権」については直接は述べていません。他の識者も中国の「サイバー主権」については5Gの問題について直接関連付けて述べる人はいないようです。

このことが、多くの人々のこの問題に関する認識を若干弱めているのではと思います。当該記事のリンクを以下に掲載します。
いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

この記事から「サイバー主権」に関わる部分のみを引用します。

中国は「サイバー主権」という概念を唱え、それを促進するため、国連に対するロビー活動を行ってきました。インターネット規制を国家に限定すべきだと主張する一方、業界や市民社会を脇役に押しやりました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。 
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。
同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。 
具体的には情報ネットワークの運営者に対して利用者の実名登録を求めているほか、公安機関や国家安全機関に技術協力を行う義務も明記。「重大な突発事件」が発生した際、特定地域の通信を制限する臨時措置も認めています。

こうした規制強化について、中国は「サイバー空間主権」なる概念を打ち出して正当化しています。2016年12月に国家インターネット情報弁公室が公表した「国家サイバー空間安全戦略」は、IT革命によってサイバー空間が陸地や海洋、空などと並ぶ人類活動の新領域となり、「国家主権の重要な構成部分」だと主張。インターネットを利用した他国への内政干渉や社会動乱の扇動などに危機感を示し、「テロやスパイ、機密窃取に対抗する能力」を強化すると宣言しました。 
また同弁公室は今年3月に発表した「サイバー空間国際協力戦略」でも「国連憲章が確立した主権平等の原則はサイバー空間にも適用されるべきだ」と主張。「サイバー空間主権」の擁護に向けて「軍隊に重要な役割を発揮させる」とも言及しました。
そもそも、インターネットを構築したのは米国であり、その影響は避けられないです。中国のネット検閲技術も米国企業が協力したとされています。中国当局にはインターネットの情報を完全にコントロールできないことへのいらだちがあるようです。サイバー空間主権を掲げることで、領土内の決定権は中国にあると強調したいのでしょう。

そうして、「サイバー主権」は2017年に発表されたことと、5G問題は2018年あたりから、表面化したため、両者は互いに関連付けられることはあまりありせんが、これは不可分に結びついています。

というより、本質は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその道具に過ぎないともいえます。

この記事より、5G問題に関する部分を以下に引用します。
今後世界は5Gを中心として、オープンモデルの世界と、クローズドモデルの世界に分断されていく可能性が大です。クローズドモデルは闇の世界となることでしょう。 
私自身は5Gの問題の本質はここにあると思います。日米などの先進国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進することによって、中間層を多数輩出させ、彼らに自由な経済・社会活動を保証することにより、国富を蓄積して国力を増強しました。このようなことを実現した先進国では、インターネットは当然オープンなものと受け止められているのです。
しかし、中国にとっては5Gは、まず自国内での「サイバー主権」を確実に実行するための道具なのです。そうして、中国は次の段階では、世界の通信秩序をつくりかえようとしているのです。

もともと、米国がつくりだしたインターネットは、軍事的なものでした。当時はあり得ることと認識されていた、世界中が核兵器で破壊されても、通信インフラが多少でも残っていれば、世界中と連絡がとれるということが、当初の目的でした。

しかしこれが、軍事目的のほかに、学術面で使用されるようになりました。このオープンなシステムを用いて、従来では考えられなかった用途が考え出されました。

たとえば、学術誌で有名だったケミカル・アブストラクトがインターネットを介して、情報を提供するようになりました。

ケミカル・アブストラクトは、最新の化学物質の組成や性質を掲載したものですが、当初は冊子体は非常に大きく(1年で厚さ数メートルとなる)なるものでした。

ケミカル・アブストラクツ(冊子)の表紙

多くの化学者は、新たな化学物質を合成した場合、この冊子を検索して、自分の開発した物質が、本当に新しいものであるかどうかを確かめました。しかし、このような冊子であることから、更新に時間がかかり、たとえその冊子に掲載されていなくても、他の学者がすでに開発していたなどということもしばしばありました。

多くの化学者が自分では、ノーベル賞級の発見をしたつもりでも、たまたま冊子に掲載されていなかっただけで、実は他の学者がとっくに発見していたということもありました。

しかし、これが現在では、すべてデータベース化されていて、インターネットで検索できるようになっていて、オンラインで申請し要件を満たしていれば、すぐに新たな発見がデーターベースに掲載されるようになりました。

現在の化学者は、日々このデーターベースで検索していて、自分の発見が本当に新しいものであるか、そうではないかを検索することができます。これは、インターネットが普及するまでは考えられないことでした。

このように、インターネットの学術利用が普及していきました。そうして、次の段階では、一般の人もつかえるように、インターネットの商用利用がはじまり、今日に至っています。

このような歴史をたどった、インターネットは今日でも、基本的にオープンな仕様になっています。

しかし、中国はこのオープンなインターネットを「サイバー主権」なる主張をもとに、自分たちに都合の良いものに作り変えようとしているのです。その尖兵が5Gなのです。

こう考えると、5G問題は、単に技術上の問題であるとか、米国と中国の覇権争いなどという単純なものではないと理解できると思います。

基本的に、自由でオープンなインターネットを自分たちの都合の良いように作り変え、中国共産党の統治の正当性をより確かなものにしようとすることを許さない米国との対立というのが、5G問題の本質なのです。

もともと米国で開発されたインターネットは、当初は軍事目的だったものの、今日では自由でオープンな特性を活かし、社会の重要なインフラとなっています。

しかし、中国はこれをつくりかえ、まずは自国内で情報を政府が一元的に管理可能なものにつくりかえようとしています。さらに、中国の覇権の及ぶ他国においもその国の政府がインターネットを一元的に管理できるようにすることを目指していることでしょう。さらに、将来は、世界の情報を一元的に管理しようとの目論見も当然あることでしょう。

これからの世界は、中国の通信モデルと既存のモデルのせめぎあいになることが考えられます。ここは、なんとしても米国に勝利してもらい、通信インフラの世界を中国の都合のようにつくりかえることを防ぐべきです。

インターネットが中国の都合の良いようにつくりかえられてしまえば、世界は暗黒の闇になります。世界中がジョージ・オーウェルが描いた世界「1984」になってしまうかもしれません。これだけは、米国の覇権がどうのこうのという前に、絶対に避けるべきなのです。

この問題は、トランプ大統領からすれば、米国の信じる理念と、中国の信じる理念との対決なのです。

トランプ大統領がファーウェイ“完全排除”大統領令に署名したのは、背後にこのようなことがあることを理解すべきでしょう。本当の脅威は中国の「サイバー主権」であって、5Gはその小道具に過ぎないのです。単なる技術上の問題とか、米国と中国の覇権争いだけのようにみてしまうと、本質がみえなくなります。

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