2019年9月26日木曜日

中国でカリスマ経営者が次々に退いていく理由―【私の論評】中国経済の崩壊で、「黄金の令和時代」がやってくる(゚д゚)!

瀕死の中国経済、“ICU入り”で延命措置

アリババ創業20周年記念日の2019年9月10日、会長を退任したジャック・マー氏

(福島 香織:ジャーナリスト)

 9月10、アリババ創始者で会長だった馬雲(ジャック・マー)が予告どおり引退し、アリババ経営から完全に離れた。ちょうど55歳の誕生日であり、その前後には、中国メディアが彼の功績や評伝を書き立てた。また浙江省杭州から「功勲杭州人」という栄誉ある称号を送られたなど、ポジティブニュースとしてその引退が報じられている。

 だが、その10日後、杭州政府が100人の官僚を「政務事務代表」として、アリババやAI監視カメラメーカーのハイクビジョン(海康威視)、民族自動車企業の吉利など100の重点民営企業内に駐在させると発表した。口の悪いネット民たちは「地主を追い出して田畑を接収しようとしている」と噂した。

 その後、IT企業、テンセント(騰訊)創始者の馬化騰やレノボ(聯想集団)創始者の柳伝志が、馬雲のあとを追うように次々とビジネスの現場から去ることがあきらかになった。こうした“早期退職”は決して早々とセカンドライフを楽しみたいから、といった理由からではなさそうだ。民営企業からカリスマ創始者たちを追い出し、政府官僚による直接支配が始まりつつある。中国民営企業の大手術が始まっているのだ。

 だが、この大手術、失敗するのではないか。「中国経済のICU(集中治療室)入り」と言う人もいる。ICUに入ったまま脳死する可能性もあるかもしれない中国民営経済の危機的状況について、まとめておきたい。

テンセント、レノボの代表も退く

 テンセントの創始者で董事会主席、CEOの馬化騰は9月19日、テンセントの子会社で個人信用情報などを扱う騰訊征信の法定代表職から外れることになった。経営上の問題ではなく、社内の事情によるという。もちろん全面的な退職ではないが、馬雲引退の直後だけに、中共政治のサインと受け取られた。芝麻信用で知られるアントフィナンシャルの会長・井賢棟もこのタイミングで引退を表明した。

 続いてレノボ会長の柳伝志も聯想ホールディングス(天津)の法定代表、役員の職を辞任した。柳伝志は17企業の法定代表、7企業の株主、8企業の役員を務めていたが、そうした役職も大部分が取り消されたという。聯想側は、子会社については随時業務の進行に合わせて、調整、整理しており、今回の人事などは企業としての正常な業務措置だという。

柳伝志の後任は、深セン市瑞竜和実業有限公司の法人代表である張欣が務める。聯想ホールディングス(天津)は2011年11月に資本金50億人民元で登記され、聯想ホールディングス株式会社と深セン市瑞竜和実業有限公司が50%ずつ出資していた。

 ちなみにレノボグループの筆頭株主は聯想ホールディングス株式会社で25.81%の株を保有、この会社がグループのコアとして北京に登記されている。この北京の聯想ホールディングスの5大株主は中国科学院独資会社・中国科学院ホールディングス、北京聯持志遠管理コンサルティングセンター、中国泛海ホールディングス集団、北京聯恒永信投資センター、柳伝志個人で、合わせて76.81%の株を保有している。

中国共産党が民営企業の改造に着手

 こういった動きについて、チャイナウォッチャーたちの間では、中国共産党政権がいよいよ民営企業の改造に着手した、という見方が出ている。英国のフィナンシャル・タイムズによれば、アリババ傘下の芝麻信用と騰訊征信は、かつて中国政府に顧客ローンのデータを提供することを拒否しており、馬雲と馬化騰の一線からの撤退と関係あるとみられている。

 米国の政府系ラジオ局、ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、こうした動きは中国共産党政府がクレジットローンに関するすべての情報を独占して管理するためのもので、同時に当局が民営企業と工商界の企業に対する改造を行い、実質的にコントロールするためのものだ、という見方を紹介している。

 昨年(2018年)、中国政府はアリペイ(支付宝)に対して顧客勘定の100%の中銀準備預金を義務付けた。これは顧客保護の観点から必要という建前だが、実際はアリペイ口座の余剰資金運用によるアリババの儲けを政府に差し出せ、という意味でもあった。中国「証券時報」によれば、今年6月、7月に国有資産委員管理委員会書記の郝鵬が馬雲と馬化騰に直接、中央企業と民営企業の融合を命じ、中央企業+ネットの混合改造モデルを強化せよと通達したとか。

 ほぼ同じころ、民営企業が多い浙江省杭州市や山西省太原市、北京市などは、政府官僚や党委員会の民営企業に対する干渉を強化する政策を打ち出した。杭州市は、民営100企業内に市政府官僚駐在事務所を開設、太原市では財務管理部門をテスト的に接収するなどの方法で経営にコミットし始めた。北京では党委員会が民営企業内の「党建設工作」展開状況の調査を開始するという通達を出した。

こうした動きは、建前上は、民営企業の腐敗や野放図な経営を共産党が厳しく管理し、指導するというものだが、実質は、政治上は民営企業を絞め殺し、経済上は民営企業の私有財産を接収するということに他ならない。

計画経済に立ち戻る習近平政権

 習近平政権が経済政策の目玉として打ち出している国有企業改革は、いわゆる「混合企業改革」と言われるもので、汚職や不正経営、経営破たんを理由に民営企業の経営権を国有企業に接収させることで、国有企業を大規模化して市場独占化を進め、国有企業を通じて共産党が市場に対するコントロールを強化するものだ。

 これは改革開放期の「国退民進」(国有企業を民営企業に移行することで市場経済化を進める)とは真逆の方向性だとして「国進民退」政策だと言われた。あるいは50年代の「公私合営」政策への回帰とも言われた。この結果、民営企業家たちが委縮し、今の中国経済の急減速の主要な原因の1つになったというアナリストは少なくない。

 目下、米中貿易戦争の行方は中国にとって楽観的な観測を許さない。確実に中国経済にボディーブローのように効いており、経済統計上にもはっきりと予想以上の中国急減速がみてとれる。

 首相の李克強は9月16日、ロシア訪問前にロシアの国営通信社、イタルタス通信に対して、今年通年の中国経済成長が、全人代の政府活動報告で目標に掲げた6~6.5%を達成できずに6%を切る見通しであることを語っている。党中央内部ではその責任を習近平に求める声も強い。一方、習近平政権としては、この経済危機を“計画経済”に立ち戻ることで乗り越えようとしている。その表れが、今年に入っての民営企業のカリスマ創始者の現場からの排除や、党官僚の進駐や財務の接収などの動きだと見られている。

中国経済はすでに瀕死の状態?

 ラジオ・フリー・アジアのコラムニスト、梁京が書いた「中国経済がICU(集中治療室)に入った」というタイトルのコラムを読み、なるほど、と思った。ちょっと引用して紹介したい。

 「中国共産党70周年前夜、当局は大型民営企業の直接支配を急ぎ始めた。しかし、中央宣伝部はこういう重大事態の展開について、なんら発表していない。これは中国共産党が50年代に鳴り物入りで行った『公私合営』とはっきりした対比をなしている。つまり当局もわかっているのだ。国家が民営企業に進駐して干渉することが決してよいことではないということを」

 「・・・中国の民営企業の経営者たちは党に搾取されっぱなしでいることに甘んじてはいなかった。(元北京の政商であった)郭文貴は造反して米国タカ派の支持を得るようになったが、以降、大型民営企業の経営者の政治的不忠義は中国共産党の悩みの種となっていた」

 「現在、共産党が民営企業のコントロール強化を急いでいる背景には、米中貿易戦争が89年の天安門事件以来最悪の危機を中国経済にもたらしていることが大きい。豚肉価格が高騰し、食糧生産規模も年々縮小している。中国は悪性インフレに陥る可能性が高い。・・・中国経済はすでに瀕死に直面している」

 「では、かつてゴードン・チャン(2001年に「やがて中国の崩壊が始まる」を書いたエコノミスト)が予測したように、いよいよ中国経済は崩壊するのか?・・・中国経済が崩壊する可能性は実際に増大しているが、さらに大きな可能性は、中国経済がかつて前例のない実験を行う可能性だ。・・・私はそれを“ICU経済”と呼ぼう。つまり共産党による経済管制による延命だ」

 以前、中国の体制側アナリストと雑談をしたとき「バブル崩壊もミンスキー・モーメントも自由主義市場経済の体制で起こるもので、統制経済では起こりえない。だから習近平政権の党による市場コントロール強化政策は正しい」という見方を説明された。梁京の言う“ICU経済”はまさにこのアナリストの説明と同じで、経済を絶対安静にして、呼吸も心拍も中国共産党によって管理して延命しようということだろう。

中国のICUの入り口

 梁京は、この共産党による完全なる経済コントロール、“ICU経済”実験を継続するためには2つの条件が必要だという。ハイテク技術、デジタル貨幣などの技術。そして外部世界の中国経済が崩壊しないでほしいという強い願いである。つまりICUで、たとえ多臓器不全でも延命させるためには、それだけの先端医療技術とそれを強く願う周囲の意志が重要だ、ということである。

 だが、延命と回復は全く違う。国際社会の大勢が「中国経済が破たんすれば大変だ、破綻させてはならない」と思っており、中国はハイテク技術と極権体制を持っている。確かに延命は可能かもしれない。だが回復しない経済をただ維持するためだけに、いったい中国はどれだけの犠牲を払うことになるのか。

 今、中国は、老衰で死期間近い、中国の特色ある社会主義市場経済体に、西側グローバル市場で生き抜いてきた民営企業の臓器を移植して延命を図る大手術を行おうとしている、と例えることができる。本当に救わねばならないのは民営企業の方ではないか?

「もし中国人が、中共が自然死を迎える方策を探せないのなら、中国経済はある種の“ICU病室”で奇跡の“長寿”をかなえるかもしれないが、その“奇跡”はすべての人にとって巨大な厄災を意味する」(梁京)

 この厄災を防ぐためにどうするか。それが今考えるべきことではないか、と思う。

【私の論評】中国経済の崩壊で、「黄金の令和時代」がやってくる(゚д゚)!

冒頭の記事にあるように、中国経済は確かにかなり危機的な状況にあることは間違いないようです。

そうして、中国経済の崩壊は、世界中に災厄をもたらすと考える人が多いようです。しかし、それは本当でしょうか。確かに、短期的には災厄があるかもしれませんが、私は長期的には世界経済に良い結果をもたらすと思います。

ここしばらくの、世界経済の低迷の最大原因は、明らかに供給過剰です。簡単にいうと、世界中の国々が過剰生産のせいでデフレ傾向にあったり、このブログにも以前にも掲載したように、「貯蓄過剰」の状況にあることです。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのです。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しないことになります。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

今年上半期の中国全省の財政状況は赤字だった

そもそも、現在の世界経済における供給過剰はどのようにして生じたのでしょうか。

もちろん、製造技術、特に日本製をはじめとする工作機械の品質が格段に向上し、製造機械を設置さえすれば、どのような国で誰がやっても製品(特にコモディティ)を生産できるようになったことがあげられます。

例えば、農産物は現在基本的には生産過剰で、1次産品(コモディティー)をいくら頑張って生産しても、なかなか豊かにはなれないです。

農産物同様、家電や半導体などの工業製品もコモディティー化しています。日本で家電や半導体のビジネスが苦しんでいるのは、経営者の資質や従業員の働きぶりの問題ではなく、産業そのものがコモディティー化した必然的結果なのです。

本当は、コモディティー化したビジネスは、発展途上国に任せればいいのに、国民の血税まで投入して、それらの企業をゾンビ化するから余計問題が悪化するのです。

血のにじむような努力をして生産性をあげても、同業者も死に物狂いで同じ努力をしています。結果は、さらなる供給過剰と価格の下落(デフレ)です。

個々の企業にとっては正しいように見えても、市場全体としては泥沼にはまる典型です。

共産主義は、極めてシンプルに表現すればその実体は、「民主主義、自由主義への移行を拒絶し、かつての農奴制・専制君主制度に戻ろうとする思想」です。

共産主義の最も重要な思想の1つに「私有財産の否定」がありますが、これがまさに農奴制・奴隷制の象徴です。

奴隷や農奴は牛や豚と同じように私有財産を持ちませんでした。ご主人様の所有物であるからその持ち物はすべてご主人様の物であるということです。これは、共産主義国における人民が共産党の奴隷であることと同じことです。

「私有財産が不可侵」であるという原則が、民主主義の根幹をなすのであり、私有財産を否定する共産主義が「反民主主義」であるのはあるのは当然です。

そのような農奴制・奴隷制を基盤とした社会が、自由主義・民主主義国家のように発展するはずもなく、1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦崩壊へとつながったのです。

当時、ほとんどの人々が「共産主義は終わった」と思いました。しかし、実は共産主義諸国は、先進資本主義・自由主義諸国との貿易の門戸を開き、彼らに寄生するようになったのです。

当時、共産主義諸国の中で最も危機意識を持ったのは共産主義中国に違いないです。共産主義諸国の崩壊の足音が聞こえる中で、30年前の1989年6月4日に天安門事件が起こりました。そのため、中国は世界中から断絶されることになりました。

その欧米先進国との断絶の危機を乗り越えて、当時約10年を経てやっと軌道に乗りかけた「改革・開放」を成功に導いたのが鄧小平でした。1997年の鄧小平死後も、その路線は継承されました。

鄧小平の死後、2000年のWTO加盟が最も重要な出来事です。これにより、共産主義中国は、国内における「現代の農奴・奴隷制度」を維持しながら、WTO加盟による自由貿易の恩恵を得ることができるようになり、改革・開放を40年も続けることができたのです。

しかも、2009年からは共産主義中国に極めて「融和的」な民主党のオバマ氏が大統領をつとめました。まさに中国は「やり放題」であり、その間、先進資本主義諸国は、リーマン・ショックの後遺症と共産主義中国を原因とする不公正な取引による「供給過剰」というダブルパンチをくらいました。

トランプ大統領

そこに登場したのが「怒れる米国民」を代表するトランプ大統領です。

彼の第一の目的は、共産主義中国とずぶずぶの民主党政権時代に、ずたずたにされた米国の安全保障を立て直すことです。特にサイバー戦争では、米国がかなり不利な立場に追い込まれているので、ファーウェイをはじめとする中国フロント企業やその背後に控えているハッカー集団などが最大の攻撃ターゲットです。

もちろん、中国が不公正な貿易で巨額の利益を得ていることも阻止したいのです。軍事力の背景に経済力は欠かせないからです。

さらに、中国の供給過剰の実体が、明るみにでるにつれて、米国の中国に対する不信感は、トランプ政権だけではなく、議会では超党派の議員が共有するようになり、さらには司法もそれに追随するようになりました。

もはや、中国は米国にとってかつてのソ連のような敵国になったのです。

そのため、「米中貿易戦争」に交渉の余地などありません。北朝鮮の核問題と同様「要求を受け入れるか『死』か」という最後通牒を突き付けているのです。

このようなことは、中国が米国と並ぶ核大国になってしまった後では不可能ですから、今回がラストチャンスであり、米国は絶対に譲歩しないです。

中国が体制を変えるか、経済的に疲弊し、無意味な存在になるまで継続されるかのいずれかです。

そうなると、いずれ中国は体制を変えるか、崩壊するしかないです。崩壊まではかつてのソ連が崩壊するときがそうであったように、幾分時間がかかるかもしれません。

しかし、いすれにせよ、現在の中国は急激に変わるか、崩壊するしかないのであり、これはいずれの場合でも、現在の中国の共産党一党独裁の崩壊を意味します。

その後の世界はどうなるかといえば、短期的な混乱は別にして、コモディティーを際限なく世界にたれ流す中国が退場することは、世界経済にとってプラスです。

現状の中国は本来は世界の下請け工場の1つにしか過ぎないです。あるいは、安い労働力で部品を組み立てる受託会社です。

現在、徴用工問題に関する韓国への制裁措置の1つとして、工作機械などの禁輸が議論されていますが、中国のハイテクを含む製造業も、日本や米国のすぐれた「部品・ソフト」なしでは成り立たないです。

ZTEやファーウェイに対する「販売禁止措置」は決定的なダメージを与えことになります。

そして、米国の中国に対する関税で物価が上昇すれば、世界中のデフレがインフレへと好転することになります。しかも、関税そのものが米国の利益になります。

黒田日銀をはじめとする世界の中央銀行の、馬鹿の1つ覚えの低金利政策よりも、中国製品への関税の方が、インフレ喚起には効果的でしょう。

日本政府も、低金利政策だけでは無く、中国などの国々に高率の関税を課すべきです。少なくとも交渉の手ごまにすべきです。

そもそも、世界中でインフレが待望されているのですから、中国製品が市場から退場して製品価格が上昇するのは朗報です。

また、価格が上昇すれば、国内での生産も可能になり、死んだも同然の日本の家電や半導体産業に喜ばしい効果をもたらすかもしれないです。

これまでが異常だったのです。その本質は、共産主義中国などが、日本をはじめとする先進諸国の労働者が受けとるべきであった利益を横取りしていただけのことなのです。これにトランプ政権は反旗を翻したのです。

中国が世界市場から退場することはよい兆しなのです。実際、1989年のベルリンの壁崩壊までは、共産主義諸国が世界市場から切り離されていたことによって、先進資本主義諸国は繁栄を謳歌していました。

ちなみに、1989年まで我が世の春を謳歌していた日本のバブル崩壊は1990年の株式暴落がきっかけであり、その後の平成30年間は暗い時代でした。無論この間には、このブロクにも掲載したように、日銀や財務省の金融政策や財政政策の間違いがあり、本来はデフレになどならずともすんだ部分はあります。

しかし、その根底には、中国による過剰生産があったのは間違いないです。そうして、日銀や財務省が、政策を間違えた背景には、世界が中国の過剰生産によって、デフレ傾向であることを見逃し、従来の政策を取れば良いと考えたということもあります。

ただし、他国はリーマンショックの時などに、すみやかに金融緩和、財政拡大措置をとって、不況から立ち直ったにもかかわらず、日銀や財務省はそうしなかったため、日本が一人負けになったことを考えると、やはり日銀・財務省は愚かてあったと言わざるを得ないです。

それにしても、世界経済の最大のボトルネックである、中国の過剰生産という軛が外されれば、世界はまた活況を取り戻す可能性が高いです。

だから、中共の台頭と、マクロ経済政策の間違いによって、デフレの底に沈んた、平成時代の日本とは、対照的に、令和時代には、共産主義中国の崩壊によって「黄金の令和時代」がやってくるのではないかと、私は期期待しています。

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2019年9月25日水曜日

中国、崩壊への警戒感高まる…共産党独裁体制が“寿命”、米国を敵に回し経済停滞が鮮明―【私の論表】中国崩壊で、世界経済は良くなる可能性のほうが高い(゚д゚)!

中国、崩壊への警戒感高まる…共産党独裁体制が“寿命”、米国を敵に回し経済停滞が鮮明
文=相馬勝/ジャーナリスト

中国の習近平主席

 中国は10月1日、建国70周年記念日を迎え、大規模な軍事パレードが北京市の天安門広場を中心に行われ、習近平国家主席は中国の共産革命の偉大さを高らかに世界に宣言することになるのだが、実は、そのような中国共産党の一党独裁体制はここ数年のうちに大きな危機にさらされるとの見方が急浮上している。

 しかも、このような不気味な予言は、中国問題の国際的な権威であり碩学である米クレアモント・マッケナ大学ケック国際戦略研究所センター所長(教授)のミンシン・ペイ氏と、米ハーバード大学名誉教授のエズラ・ボーゲル氏の2人が提起している。両氏とも、その最大の原因として、習氏の独断的な政策運営や独裁体制構築、さらに米中貿易戦争などによる中国経済の疲弊を挙げている。

一党独裁時代の終焉

 ペイ教授は「中国共産党の一党独裁統治は終わりの始まりにさしかっている」と題する論文を香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストに寄稿。そのなかでペイ教授は、習氏が2012年の党総書記就任当初、「次の2つの100年」を目標に中国の国力を拡大し世界一の大国を目指すと宣言したが、1つ目の中国共産党創設100周年の2021年は極めて厳しい環境のなかで祝賀行事を行うことになると予言。その理由として、米中貿易戦争が激しさを増すことを根拠としている。

 そのうえで、ペイ教授は「2つ目の100年」である2049年の中国建国100周年には「(中国共産党による)一党独裁政権は生き残ることができないかもしれない」と大胆な予言を明らかにしている。

 ペイ教授は歴史的にもみても、一党独裁体制は「寿命に近づいている」と指摘。具体的な例として、74年にわたるソビエト連邦(1917~91年)の崩壊、73年にわたる中国国民党(27~49年の中国大陸での統治と49~2000年までの台湾での一党独裁体制)の統治が終わりを告げていること。さらに、メキシコの71年におよぶ革命政権(1929~2000年)である制度的革命党の一党独裁時代の終焉を挙げて、70年を迎える中国の一党独裁体制はすでに崩壊の兆しが見えていると分析する。

 ペイ教授は習指導部が米国を敵に回して、経済、軍事、安全保障、政治体制などの面で争っていることを問題視している。毛沢東時代の中国は米国を敵対視したものの、極力接触することを避け、直接的にやり合うことはほとんどなかった。その後のトウ小平時代において、中国は「才能を隠して、内に力を蓄える」という韜光養晦(とうこうようかい) 政策を堅持して、外交・安保政策では米国を敵対視することを極力回避した。

 しかし、習氏はこれら2人の偉大なる先人とは違って、牙をむき出しにして、米政権と争う姿勢を露わにした。これによって、中国経済はいまや成長も低迷しつつあり、習氏の独裁的な政治体制もあって、民心も離れつつあるようだ。

民間企業の成長を阻害

 一方、ボーゲル教授は近著『リバランス』(聞き手:加藤嘉一、ダイヤモンド社刊)のなかで、習氏について「予想外の事態といえば、習近平の政策がここまで保守的で、社会全体をこれほど緊張させていることもそうだ」と指摘しているほどだ。そのうえで、「昨今の中国を襲う最大の問題」として、経済悪化と自由の制限を挙げる。まず、前者については「中国の既存の発展モデルは持続可能ではない」と断言している。

 ペイ教授も同様の指摘をしている。これまでの驚異的な中国の経済成長は、若くて安い労働力が豊富にあったことや、農村部の急速な都市化による広範なインフラ整備、大規模な市場原理の導入や経済の国際化などが要因として挙げられるが、いまやこれらは減退しており、いずれ消滅すると分析している。

 さらに、両氏ともに、今後も中国経済が発展するには、民間企業の成長が不可欠だが、習政権は逆に、国有企業の肥大化、権限集中に力を入れ、民間企業の活性化を妨げていると強調。これに加えて、米中貿易戦争の影響が、ボディブローのように徐々に大きなダメージを与えることになる。

 ところで、ボーゲル教授が掲げる2つ目の問題点である自由の制限には、知識人を中心に多くの人が不満を抱えているほか、習氏の独裁的な体制についても、「仮に、習近平がこれから数年内に政治的局面を緩和させられなければ、中国が“崩壊”する可能性も否定できなくなるだろう」と結論づけている。

 このような折も折、中国共産党の理論誌「求是」が最新号で、習氏が5年前に行った指導者層の任期制度を重視する演説を掲載。習指導部は昨年の憲法改正で、習氏の長期独裁政権に道を開いているだけに、まさにボーゲル教授が懸念するように、指導部内で習氏批判が高まっており、「中国が“崩壊”する可能性が否定できなく」なっていることを示しているようだ。

(文=相馬勝/ジャーナリスト)

【私の論評】中国崩壊で世界経済は良くなる(゚д゚)!

冒頭の記事では、中国問題の国際的な権威であり碩学である米クレアモント・マッケナ大学ケック国際戦略研究所センター所長(教授)のミンシン・ペイ氏と、米ハーバード大学名誉教授のエズラ・ボーゲル氏の2人が提起した中国共産党の一党独裁体制はここ数年のうちに大きな危機にさらされるとの見方を解決していますが、以下に彼の書籍や、著作物などからさらに詳細に二人の見方を掲載します。

米ソ冷戦と比較しながらの新冷戦の行方(ミンシン・ペイ)

ミンシン・ペイ氏

米ソ冷戦初期のころ、ソ連がやがて米国を追い越すことになると考えられていました。共産主義が欧州に浸透し、ソ連経済は今の中国のように年6%近い成長でした。ブレジネフ時代には550万人の通常兵力を持ち、核戦力で米国を追い抜き、ソ連から東欧向けの援助が3倍に増えました。
ところが、おごるソ連システムに腐食が進みました。一党独裁体制の秘密主義と権力闘争、経済統計の水増しなど現在の中国とよく似た体質です。やがてソ連崩壊への道に転げ落ちていきました。

ソ連共産党が91年に崩壊したとき、もっとも衝撃を受けたのが中国共産党でした。彼らはただちにソ連崩壊の理由を調べ、原因の多くをゴルバチョフ大統領の責任とみました。しかし、ペイ教授によれば、党指導部はそれだけでは不安が払拭できず、3つの重要な教訓を導き出しました。

中国はまず、ソ連が失敗した経済の弱点を洗い出し、経済力の強化を目標としました。中国共産党は過去の経済成長策によって、一人当たりの名目国内総生産(GDP)を91年の333ドルから2017年には7329ドルに急上昇させ「経済の奇跡」を成し遂げました。

他方で中国は、国有企業に手をつけず、債務水準が重圧となり、急速な高齢化が進んで先行きの不安が大きくなりました。これにトランプ政権との貿易戦争が重なって、成長の鈍化は避けられなくなりました。しかも、米国との軍拡競争に耐えるだけの持続可能な成長モデルに欠く、とペイ教授はいいます。

第2に、ソ連は高コストの紛争に巻き込まれ、軍事費の重圧に苦しみました。中国もまた、先軍主義の常として軍事費の伸びが成長率を上回っています。25年に米国の国防費を抜き、30年代にはGDPで米国を抜くとの予測まであります。ところが、軍備は増強されても、経済の体力が続いていません。新冷戦に突入すると、ソ連と同じ壊滅的な経済破綻に陥る可能性が否定できないのです。

第3に、ソ連は外国政権に資金と資源を過度に投入して経済運営に失敗しています。中国も弱小国を取り込むために、多額の資金をばらまいています。ソ連が東欧諸国の債務を抱え込んだように、習近平政権は巨大経済圏構想「一帯一路」拡大のために不良債権をため込んでいます

確かに、スリランカのハンバントタ港のように、戦略的な要衝を借金のカタとして分捕りましたが、同時に焦げ付き債務も背負うことになりました。これが増えれば、不良債権に苦しんだソ連と同じ道に踏み込みかねないです。

かくて、ペイ教授は「米中冷戦がはじまったばかりだが、中国はすでに敗北の軌道に乗っている」と断定しています。
中国は民主化に進むのか? (エズラ・ボーゲル)

エズラ・ボーゲル氏

中国は数年後には、中国には今より政治的に緩和された体制、具体的に言えば、上からの抑圧があまりにも厳しい現状よりは、いくらか多くの自由が許される体制になっているのではないでしょうか。

中国共産党が、米国人が納得するほどの自由を人々や社会に提供することはないでしょうか、それでも数年以内に少しばかりは緩和されるでしょう。私はこう考える根拠の一つを、歴史的な法則に見出しています。

1949年に新中国が建国されて今年(2019年)で70年になりますが、この間、中国の政治は緩和と緊張を繰り返してきました。昨今の状況はあからさまに緊張しすぎていて、上からの引き締めが極端なほどに強化されています。

歴史的な法則からすれば、これから発生し得るのは緩和の動きだと推測できます。中国問題を思考し議論する際は、歴史の法則を無視することがあってはならないです。

中国も、司法の独立や宗教、言論、結社、出版などにおいて一定の自由を享受し、形式的だとしても選挙を実施しているシンガポールのようなモデルや、制度と価値観として自由民主主義を築いている台湾のようなモデルを試しつつ、一部の養分を吸収するかもしれないです。

シンガポールも台湾も、同じように華人が統治しているのです。どうして中国に限って不可能だと言えるでしょうか。彼らの間には、文化的に共通する部分が少なくないです。もちろん、中国はより大きく、国内事情は複雑で、解決しなければならない課題も多いです。ただ不可能ではないはずです。

私は少し前に台湾、北京、中国の東北地方を訪れたのだが、やはり台湾の政治体制のバランスは良いと感じました。そこには中国の文化が根づいている一方で、人々は自由と安定した社会を享受できているからです。

昨今の香港は、北京による抑圧的な政策もあり、緊張しすぎています。北京の中央政府の対応に問題があると思います。習近平がみずからの意思と決定に依拠して、全体的な局面を少しでも緩和できるかどうか、私にはわからないです。

以前と比べて楽観視できなくなった、というのが正直なところです。ただここで強調したいのは、中国の歴史の法則に立ち返って考えたとき、不可能ではない、という点です。習近平が政治状況を緩和させ、政治社会や経済社会に対してより多くの自由を供給する可能性はあります。

習近平が国家主席に就任した2013年の頃、私は彼に改革を推し進める決意と用意があり、「反腐敗闘争」に関しても、まずは権力基盤を固め、そのうえで改革をダイナミックに推し進めるという手順を取るのだと推察していました。

習は「紅二代(毛沢東と革命に参加した党幹部の子弟)」とはいえ、江沢民や胡錦濤とは違い、トウ小平によって選抜されたわけではありません。そうした背景から、権力基盤を固めるのに一定の時間を要することはやむを得ず、自然の流れと見ていました。ただ現況を俯瞰してみると、当時の推察とはかなり異なるようです。

習近平は憲法改正を通じて、国家主席の任期を撤廃してしまいました。これは近代的な政治制度に背反する行為です。習近平も人間であるから、いつの日か何らかの形で最高指導者の地位から退くことになりますが、誰が彼の後を継ぐのでしょうか。習近平が長くやればやるほど、後継者問題は複雑かつ深刻になるでしょう。

私には、習近平が誰を後継者として考えているのかはわからないし、現段階でその人物を予測するという角度から中国政治を研究してもいません。

ただ、仮に習近平が二期10年以上やるとしたら、相当な反発が出ることは容易に想像できます。三期15年あるいはもっと長くやることで、逆にみずからの権力基盤が弱体化し、結果的に共産党の統治や求心力が失われるのであれば、習近平は二期10年で退き、福建省、浙江省、上海市から連れてきた“自分の人間”を後継者に据えることで「傀儡政権」を敷く選択をするかもしれないです。

いずれにせよ、習近平は後継者に自分が連れてきた人物を指名すべく動くでしょう。

一方で、習近平が頭脳明晰で、能力のある人間ならば、トップ交代に伴って混乱が生じるリスクに気づいていた場合、彼は二期目(2017~2022年)の任期中に政治状況を緩和させるでしょう。

もちろん、私には習近平が心のなかで実際に何を考えているのかはわかりません。薄熙来(1949~)事件(注:重慶市共産党委員会書記だった薄のスキャンダルや汚職疑惑などが噴出し失脚した事件)や多くの軍隊内部の案件を含め、かなり多くの役人や軍人が捕まってしまいました。このような状況下だからこそ、習近平は、事態を緩和させられないのかもしれないです。

習近平みずからだけでなく、能力のある同僚に頼りながら、全体的な政治環境を緩和させられるのかも、一つの注目点です。習近平に、果たしてそれができるかどうか。いずれにせよ、私がこのような点から、現状や先行きを懸念しているのは間違いないです。

仮に、習近平がこれから数年内に政治的局面を緩和させられなければ、中国が“崩壊”する可能性も否定できなくなります。

現在の中国の体制が崩壊すればどうなるか

中国の崩壊、あるいは中国共産党の崩壊に関して悲観的な予想をする人が多いです。私は、そうは思いません。現在の中国が崩壊すれば、世界経済は今よりは良くなると考えています。

その根拠となるのは、なんと言っても中国の過剰生産です。中国は国内でも過剰生産をしていますが、海外でも過剰生産を繰り返しています。それが、世界に及ぼす悪影響は計り知れません。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!

野口旭氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より、野口旭氏の世界が反緊縮を必要とする理由について述べた部分を以下に一部引用します。
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
上の文書から中国に関する部分を抜書します。

『1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである』

中国の過剰生産は、国営・国有企業などによってもたらされています。これらの企業は、普通の国であれば、過剰生産でとうに倒産したような企業がほとんどです。しかし、国が強く関与しているため、倒産しません。倒産せずに、さらに過剰生産を継続するのです。

最近の中国は国内だけではなく、「一帯一路」などの名目で海外でも、過剰生産を繰り返す有様です。中国が崩壊しない限り、この過剰生産はなくなることはなく、多くの国々をデフレで苦しめることになるだけです。

中国の体制が変わり、国営・国有企業がなくなり、全部民間企業になれば、過剰生産すれば、倒産するだけなので、中国の過剰生産がなくなります。

現在では、旧共産圏や発展途上国(後進国)の大部分が供給過剰の原因になっていますが、その中でも最大の元凶は共産主義中国です。

WTOなどの自由貿易の恩恵を最大限に受けながら、自国内では、外国企業に対する恫喝を繰りかえす「ルール無用の悪党」が世界の市場から退場し、ルールを遵守するようになれば、世界の供給過剰=デフレは一気に好転し、日本や米国の経済は繁栄することになるでしょう。

無論一時的な混乱は避けられないかもしれませんが、長期的にみれば、このように考えられます。

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2019年9月24日火曜日

過去の石油危機に匹敵する原油生産停止・サウジ攻撃の本当の意味―【私の論評】石油危機+増税でも日本政府にはどうにでもできる夢のような大財源がある(゚д゚)!


小山 堅 (日本エネルギー経済研究所・首席研究員)

攻撃を受けたサウジアラビアの石油精製施設。20日公開された

9月14日、サウジアラビア東部のアブカイク及びクライスにある石油生産・出荷基地に対して、無人機(ドローン)攻撃が行われ、関連施設に重大な被害が発生した。イエメンの武装勢力フーシ派による攻撃とされるが、イランの関与も指摘され、詳細はいまだ不明である。

 この攻撃で、日量570万バレル(B/D)の生産が停止した。直近(8月)時点でのサウジアラビアの石油生産量の約6割に匹敵する供給が失われ、世界全体の石油生産の約6%の供給が停止したことになる。

石油生産の心臓部への攻撃

 攻撃を受けたアブカイク・クライス共に、サウジアラビアの石油生産にとって極めて重要であるが、特にアブカイクは世界最大の原油関連施設が集積しており、まさにサウジアラビアの石油生産の心臓部であるといってもよい。

 サウジアラビアの主要油田から集められた原油は、いわゆる「前処理」を行うことで成分・性状を調整し、原油精製設備で処理・精製できる品質に調整され、出荷される。その中心施設がアブカイクにあることから、同国の石油供給施設・インフラの中でも際立った重要性を有している。当然、その重要性から厳重な警備の下に置かれ、セキュリティが確保されてきた。

 攻撃直後に行われたフーシ派報道官の発表では、今回のドローン攻撃は2015年以来続くサウジアラビア等によるイエメン・フーシ派への攻撃に対する「反撃」として実施されたものであり、サウジアラビアの攻撃や包囲が続き限り、反撃も続くとされた。ただし、その後、フーシ派はサウジアラビアへの攻撃を停止する、と発表している。

 なお、フーシ派によるドローン攻撃は、8月にもサウジアラビアの主要油田、シュアイバ油田に対して行われ、イエメンからの長距離攻撃の実施で関係者の注目を集めていた。今回、厳重な警備をかい潜って、ドローンによる攻撃がサウジアラビアの石油生産の心臓部に打撃を与えたことで改めて世界に衝撃が走った。

 今回のサウジへの攻撃の詳細や背景等については、その後、情報収集や分析が進められ徐々に解明が進みつつあるが、未だ不明確な点も多々残っている。関連施設に重大な被害を与えた正確な攻撃は、ドローンだけでなく、巡航ミサイルによる攻撃もあった、との見方も示され、その「証拠」とされるミサイルやドローンの残骸などもサウジ側によって公開された。フーシ派が攻撃を実施したと自ら表明しているものの、攻撃を受けた方向等の分析などから、イランの関与を強く指摘する意見が米国やサウジアラビアから相次いで示されている。

 米国・ポンペオ国務長官は、攻撃の直後から「攻撃がイエメンから実行された証拠はない」と述べイランの関与を示唆した。その後も、米国・サウジアラビアから、イランが直接関与した、あるいは背後にいた、等のイラン関与説が繰り返し唱えられる状況となっている。ポンペオ国務長官はイランによる攻撃を指摘し、サウジアラビアに対する「戦争行為」であると非難した。

 トランプ大統領はイランとの戦争を望んでいないとの姿勢を崩していないが、同時に、20日にはサウジアラビアやUAEへの米軍の増派を決定し、イラン中央銀行に対する新たな経済制裁を発表した。

 イラン側は、自らの関与を真っ向から否定しているが、米国等による非難と厳しい姿勢の強化を受けて、もしイランに攻撃が行われれば、「全面戦争」になる、との強硬な姿勢も示している。こうして、今回の攻撃を受けて、中東情勢の流動化と混迷が更に進み、地政学リスクが大きく高まる状況となっている。

 今回の攻撃で、570万B/Dに達する石油供給が停止したが、発生した火災等は沈下し、事態は一応の安定を取り戻した。こうした中、世界の関心は生産・供給停止がどの程度続くのか、に向いている。

 17日には、サウジアラビアのアブドゥルアジズ・エネルギー大臣が、復旧作業を進めることで9月中には攻撃前の生産・出荷状況に戻る、との見通しを発表した。サウジアラビアの石油市場における重要性とレピュテーションを守るためにも必至の復旧作業が進められることになり、政府責任者が示した復旧の目途は市場を落ち着かせる点において重要な意味を持つ。

 ただし、被害の大きさと復旧作業の規模等から、実際に完全復旧が9月中に実現できるのかどうか、まだ予断は許されないとの見方も一部の市場関係者の間にはある。現時点では予断を持つことなく、復旧作業の進捗状況と、供給回復の推移を見守っていく必要があろう。

 なお、サウジアラビアでの大規模生産停止を受けて、その直後から市場安定化のために様々な動きや取り組みが始まった。サウジアラビア自身は、停止した生産・供給を補うため、復旧を急ぐとともに保有する在庫等を活用すると表明した。米国・トランプ大統領は、必要に応じて、戦略石油備蓄(SPR)の活用を考える姿勢を明らかにした。

 国際石油市場の安定に責務を有する国際エネルギー機関(IEA)も、今後の推移に留意する必要があることを示しつつ、現在の国際石油市場には十分な在庫・備蓄量があることを示唆し、冷静な対応の重要性を示している。

予断を許さない価格の動き

 サウジアラビアの重要石油施設への攻撃実施と、その結果として石油供給の大規模喪失の発生という事象は、国際石油市場にとって衝撃的な事象であった。サウジアラビアでの供給支障発生は週末14日に発生したが、週明け16日には欧米市場で原油価格が急騰した。欧州市場では、指標原油ブレントの価格は、前週末から一気に12ドル(19%)上昇し、一時は1バレル71.95ドルまで急騰した(終値:69.02ドル)。

 また、米国WTIも、同じく15%上昇し、一時63.38ドルとなった(終値:62.90ドル)。8月以降の原油市場を動かす主な材料は世界経済リスクであり、米中貿易戦争の帰趨であった。そのため上値は重く、ブレントで60ドル前後、WTIで54~55ドルを中心とした相場展開が続いてきたが、今回の供給停止とリスク感の高まりを受け、油価が一気に上昇したのである。

 しかし、9月末までの復旧の見通しが示されたことで市場は落ち着きを取り戻し、9月23日時点でブレントは64ドル台、WTIは58ドル台まで根戻ししている。

供給停止、3つのポイント

 今後を占うためにも、今回の供給停止がなぜ大きなインパクトを持ったのかを理解することが重要であり、それは以下の3つのポイントにまとめることが出来る。

 第1に、実際に供給支障が発生したという点が重要である。6月以降のホルムズ海峡近傍でのタンカー攻撃や、米国ドローン撃墜事件で地政学リスクは著しく高まったものの、石油供給への実際の影響は発生し無かった。今回は、地政学リスクが現実に、直接的に石油供給の支障をもたらした点を市場は見逃さないだろう。

 第2には、サウジアラビアという、世界の石油供給の中心地において、大規模な供給支障が発生した点である。サウジアラビアは世界最大の石油輸出国であり、まさに石油供給の重心である。石油供給を守るため、設備の警備やセキュリティ確保が最優先となっていたが、そのサウジで攻撃を受けて生産が停止した。しかも、その数量が570万B/Dと、かつての石油危機や湾岸戦争・イラク戦争で市場から失われた量と比較しても少なからぬ量であり、まさに大規模供給喪失といえる。

 第3には、やはり攻撃を受け、供給停止したのがサウジアラビアである点が重要である。サウジアラビアこそが、最も重要な供給「余力」を有する産油国で、市場安定化のための「ラストリゾート」ともいえる存在で、そこが襲われた点が大きい。他の産油国での生産が低下した時、サウジアラビアが頼みの綱となるが、サウジアラビアの生産が大規模に失われる場合、誰もそれをリプレースできない存在なのである。
復旧は計画通り進むのか?

 こうした点を考えると、今後の展開は、まず第1には、サウジアラビアが示した復旧計画が予定通り順調に進むかどうか、に左右される。復旧が順調に進み、市場への供給が予定通り9月中には元に戻ることになれば、原油価格は、攻撃前の水準に戻る可能性が高い。

 他方、何らかの理由で、復旧が予定より遅れる場合、その遅れの度合いによっては需給逼迫への懸念や先行きへの警戒から原油価格の変動帯が上振れする可能性も十分にありうる。9月末から10月頃にかけての復旧状況に世界の関係者が注目することになる。

 第2には、今回の事象を受けて、イランを巡る緊張がどのように展開するか、が最大の注目点となる。サウジアラビアの石油供給が実際に狙われ、供給支障が発生したという事態を受けて、今後の展開が次の石油供給支障を再び引き起こす可能性があるのか、に向くことになる。今回の事件で高まった緊張関係が新たな地政学リスクとして、中東の石油供給を不安定化させるかどうかが最大の注目点であり、その展開次第では国際石油市場が一気に不安定化する可能性も決して否定はできない。

 弊所の分析によれば、原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされる。日本のような石油輸入国にとって、国際石油市場の安定は、エネルギー安全保障及び経済運営全体にとって極めて大きな意味を持つ。そして、日本のみならず、世界全体にとって、エネルギー安定供給の意味は大きい。今後の中東情勢と原油価格の動向、国際エネルギー市場の安定の先行きを注視していく必要がある。

【私の論評】石油危機+増税でも日本政府にはどうにでもできる夢のような大財源がある(゚д゚)!

日本は国内産油量が殆ど存在しないため、海外からの原油調達に障害が発生すると、直ちにその影響を受けることになります。

2018年度のデータだと、日本の輸入している原油は88.3%が中東からきていますが、サウジアラビアが38.2%と圧倒的なシェアを有しています。次いでアラブ首長国連邦(UAE)の25.4%、カタールの8.0%などが続きますが、ほぼ全量を輸入に頼る原油の、最大調達先で大規模な供給障害が発生しているのです。


現時点では、原油が足りなくなるといった最悪の事態が想定されている訳ではありません。サウジアラビアは国内備蓄の出荷を進める予定であり、輸出障害は一時的との見方もあります。

また、仮に輸出障害が発生しても、石油輸出国機構(OPEC)の他加盟国やロシア、更には米国などの増産対応も可能な状態にあります。更には、日本も含む各国はこうした有事に備えて石油備蓄制度を採用しており、日本の場合だと国家備蓄と民間備蓄を合わせて消費量の230日分を超える備蓄が用意されています。

現状は、各国共に備蓄在庫の放出は必要ないと判断して、監視体制に留めていますが、サウジアラビアの供給障害が深刻化した場合には、国際エネルギー機関(IEA)主導で備蓄在庫の協調放出が行われる余地も残しています。

一方、より身近な影響は原油価格の高騰がガソリンや灯油価格の押し上げ要因につながる可能性があることです。レギュラーガソリン小売価格の全国平均は、昨年10月29日時点の1リットル=160.0円をピークに、直近の今年9月9日時点では143.0円まで値下がりしています。

世界経済の減速で原油調達コストが値下がりする中、秋の行楽シーズンには140円程度まで値下がりする可能性も浮上していましたが、逆に値上がりが警戒される状況になっています。

仮に、原油相場の急騰が一時的なものに留まれば、ガソリン価格には殆ど影響が生じない可能性もあります。ただ、原油高が数週間単位で続いた場合には、150円台まで値上がりが進む可能性があります。

灯油についても、店頭価格の全国平均は昨年10月29日時点の18リットル(ポリタンク1本)=1,797円が、直近の9月9日時点では1,619円まで値下がりし、今年の冬の暖房コストは抑制される見通しでした。しかし、こちらも1,600円台後半から1,700円水準まで値上がりする可能性が浮上しています。

また、ジェット燃料価格の値上がりが進めば航空機チケットのサーチャージ料金、重油価格の値上がりが進めばハウス栽培の野菜価格、更には電力料金などにも値上がり圧力が発生する可能性があります。日本経済に対するマイナスの影響も大きく、株価や円相場など資産価格への影響にも注目する必要があります。


こうした原油高に対する生活防衛策のツールは、必ずしも多くないです。世界経済も容易に対処できる問題ではなく、だからこそ世界は原油価格の高騰に慌てています。安全資産である金価格が瞬間的に急伸したのも、中東の地政学環境の不安定化を警戒しただけではなく、経済活動へのダメージを警戒した結果です。

長期的には、供給サイドに多くの不確実性を抱えた石油に依存しない生活が答えになりますが、脱石油化が簡単に実現しないことには、メリットを相殺するデメリットの存在があります。

例えば、電気自動車は航続可能距離や充電時間、価格などに多くの問題を抱えています。暖房用器具も、現状では石油と電気で同じ性能を確保することは難しいです。千葉県の大規模停電で露呈したように、石油から電気への依存が最適な答えなのかも分からないです。

天然ガスも石油を代替するのは容易ではないです。原油価格が急騰したから、慌てて対策を考えるような問題ではありません。

サウジアラビアの供給トラブルは、完全復旧までに数週間から数か月が見込まれるなど、まだ今後の復旧の目途もたっていない状況にあります。現状では、早急にサウジアラビアの原油供給体制が正常化することを期待する以外に、有効な生活防衛策はないのかもしれないです。

原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされることと、早急にサウジアラビアの原油供給体制が正常化することを期待する以外に、有効な生活防衛策がないということであれば、これは政府が何らかの対応をするしかないです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、高橋洋一氏がは、現状金利がマイナスの国債を大量に発行すべきことを主張している部分のみを以下に引用します。
「金利がゼロになるまで無制限に国債を発行し、何も事業をしない」というだけでもいいのだ。 
例えば、10年国債金利は▲0・3%程度だ。これは、100兆円発行すると、年間金利負担なしで、しかも103兆円の収入があることを意味する。マイナス金利というのは、毎年金利を払うのではなく「もらえる」わけで、0.3%の10年分の3兆円を発行者の国は「もらえる」のだ。 
ここで、「100兆円を国庫に入れて使わず、3兆円だけ使う」とすればいい。もちろん、国債を発行すれば若干金利も高くなり、このような「錬金術」が永遠に続けられるわけではないが、少なくとも金利がゼロになるまで、国としてコストゼロ、リスクゼロで財源作りができる。
10月から増税であり、しかもサウジアラビアの件があったわけですから、財務省は大量に国債を発行し、経済政策のための財源とすれば良いのです。

それにしても、本来このようなことは別に高橋氏でなくても、誰もが気づくはずの理屈です。これは、どういうことかといえば、たとえば銀行からお金を借りるときの金利がマイナスになれば、お金を借りれば、利子を払うのではなく、逆にマイナス分の金利でもうかるということです。国債も政府が政府以外からお金を借りる手段であり、同じことです。

そうなれば、普通なら、多くの人は何の躊躇もなく、銀行からお金を借りるのではないでしょうか。もしそうなら、私も相当銀行からお金を借りると思います。個人だけでなく、企業なども大量に借りることになるでしょう。これは、子供でもわかる簡単な理屈です。これを理解するのに、難しい経済理論など必要ありません。

そうして、何も事業をせずとも、元金だけ返せば、マイナス金利分が儲けになるということです。このような夢のような世界があるでしょうか。しかし、これは現実なのです。

このような状況であれば、本来は増税せずとも、大量に国債を発行すれば、政府は大儲けでき、その大儲けで豊富な財源を元手にして、社会福祉でも、国土強靭化でも何でもできるはずです。

この機会を逃さず、政府は大量に国債を発行して、原油価格の高騰等に備えていただきたいものです。何か悪影響がでれば、ただちに対策を打てるだけの財源は国債発行ですぐに確保できるはずです。

10月4日からの臨時国会では、やるべきことが山のようにあります。国際経済の不安定要因への対処として、大型の景気対策が避けられないでしょう。

さらに、昨今の自然災害が頻発する中、インフラの脆弱性が露見しています。現下のマイナス金利環境をインフラ投資のためにもに生かしてほしいものです。

国交省の内規では、インフラ投資のコスト・ベネフィット分析で将来割引率を4%にしています。ところが、これはマイナス金利時代には誤った値です。

市場金利を割引率に用いればほぼすべてのインフラ投資が採択可能になり、一方でマイナス金利環境では、建設国債の発行に制限を課す理由はないです。こうしてマイナス金利環境を活用すれば、いまは積年のインフラ投資不足を一気に挽回できるチャンスです。

同時に、軽減税率導入に伴う不合理は、長い目で見ても日本経済のためにならないです。すっきりと簡単な税制にすべきです。

現在消費増税を止めること(税法改正等)はもう出来ないですが、財政出動や減税等(消費税以外の税金の減税)により消費増税の悪影響を除くことは臨時国会でまだ出来るはずです。こうした点について、野党はしっかりと政府を追及すべきです。それができないようでは、野党に存在価値はないです。

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2019年9月23日月曜日

ユネスコ「世界の記憶」年内改革を断念 韓国反対、作業部会で結論出ず―【私の論評】ユネスコはとうに死んでいる、日本も脱退すべき(゚д゚)!

ユネスコ「世界の記憶」年内改革を断念 韓国反対、作業部会で結論出ず



国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「世界の記憶」(世界記憶遺産)改革で、目標だった「今年内の実現」を断念した。改革案を検討する作業部会で、日本の主張に沿った新制度の大枠が固まる一方、韓国の反対で最終結論に至らなかったため。審査が凍結された慰安婦関連資料をめぐる日韓の対立が背景にある。

 作業部会が今月まとめた報告書は「改革の核心」で答えが出なかったと明記した。問題となったのは、登録申請された後、「内容が史実と異なる」などとして加盟国から異議が出た案件への対応。関係者によると、対話で決着がつかない場合、日本は「審査継続は困難」との立場を示し、多くの国が賛同した。韓国は「審査対象から除外すべきではない」と主張した。

 韓国が登録を支援する慰安婦関連資料は2017年、日本の強い反対を受けて登録判断が見送られており、韓国は新制度の導入で「同資料が審査枠から外されるのを警戒した」(外交筋)とみられている。

 作業部会は昨年、設立された。世界の記憶審査の透明化に向け、加盟国が関与する制度のあり方を検討してきた。これまでの審査は専門家で作る諮問委員会が非公開で行い、加盟国が申請案件に疑義を抱いても発言の場がなかったため、「政治利用につながる」との批判があった。作業部会の報告を基に、ユネスコ運営を担う執行委員会(58カ国で構成)で来月、改革案がまとまる予定だった。 

 改革は15年、「南京大虐殺文書」の登録をきっかけに、日本が強く主張してきた。ユネスコのアズレ事務局長も改革を支持。作業部会の論議には最多で100カ国・地域が参加するほど、関心は高かった。

 作業部会では審査について、(1)申請案件には最長90日間、加盟国の異議申立期間を設ける(2)登録は、執行委員会が最終的に承認する-などと大筋合意した。来月の執行委員会はこの報告を踏まえ、18カ国程度の小グループによる協議を継続し、来年中の改革実現を目指す方針を決める予定。だが、ユネスコ筋は「日韓が対立し続ける限り、協議は結論に至らないだろう。改革実施のめどがつかない」と懸念を強めている。

 慰安婦関連では、日米の非政府組織(NGO)が「慰安婦は性奴隷でなかった」と示す別の文書を登録申請。ユネスコは「双方の対話」の可能性を探っているが、見通しは立っていない。


 【用語解説】世界の記憶 重要な歴史文書や映像フィルムの保存や開示を促すためにユネスコが登録する事業で、1992年に開始。フランスの「人権宣言」、ドイツの「ゲーテの直筆文学作品、日記、手紙等」、日本の「御堂(みどう)関白記」など400件以上が登録されている。

【私の論評】ユネスコはとうに死んでいる、日本も脱退すべき(゚д゚)!

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」改革案を検討する作業部会では、「政治利用の阻止」を掲げる日本を中国やロシアなど多数が支持し、「韓国は孤立する場面が目立った」(外交筋)といいます。ユネスコは改革のため2年間、新規申請を受理しておらず、制度再開の遅れに不満を示す国も出てきました。

世界の記憶改革は冒頭の記事にもあるように、2015年、中国の「南京大虐殺文書」が登録されたのを機に日本が主張してきました。専門家で作る諮問委員会が非公開で行う従来の審査方法では、登録という「お墨付き」で文書内容を正当化しようとする「政治化」が防げないためです。ところが、作業部会で中国は日本に同調し、加盟国の審査参加で、制度を透明化すべきだという方針を支持しました。

なぜ中国が支持したかといえば、やはり「韓国の書院」世界遺産登録を巡って韓国に不満があったからだと考えられます。

国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)が、李氏朝鮮時代に建立された「韓国の書院」を世界文化遺産に登録したことについて、中国から「書院は中国の文化」「また中国の歴史遺産が韓国に奪われた」と反発が出ています。

世界遺産をめぐる中韓の対立はこれが初めてではありません。「文化とナショナリズム」の問題は、日本も無関係とはいえないテーマです。

「韓国の書院」は16世紀に建てられた白雲洞書院など9か所で構成されます。儒教が盛んだった当時の朝鮮で、官製の学校と異なり、地域社会が設立した私設学校です。



一般的に、教育機関としての書院は7世紀の中国・唐の時代に始まり、16世紀に朝鮮半島へ伝わったといわれています。先代の賢人を祭る祠堂(しどう)と、儒学を学ぶ書斎を兼ね備えるのが基本的構造で、朝鮮半島の書院もこれにならっています。

中国書院学会副会長の鄭洪波(Zheng Hongbo)氏は「李氏朝鮮の書院は、中国の書院制度を受け入れたことで発展を遂げており、その影響は実に大きい」と指摘。「朝鮮独自の部分もあるので世界遺産登録に反対はしないが、韓国の書院がアジア全体の書院文化を体現することはできない」とくぎを刺しました。

インターネット上の意見は、もっと激しいです。

2005年に韓国が申請した「江陵端午祭」が無形文化遺産に登録された際、中国メディアやネット上で「中国発祥の文化・端午節が韓国に奪われた」と批判が起きました。それだけにネットでは「今度は書院文化まで乗っ取られた」「本家である中国の書院はまだ世界遺産になっていないのに」という意見が相次ぎました。

中国の書院については、白鹿洞書院を含んだ廬山国立公園や、嵩陽書院を含んだ鄭州の歴史建築群が世界遺産に指定されています。ところが、「中国の書院」という形では登録されていません。

世界遺産は1か国につき一度に2件しか申請できず、2件を申請する場合も1件は自然遺産の申請が求められています。文化遺産の候補は、申請段階で「順番待ち」を余儀なくされるのです。

韓国からの反論もあります。「文化の起源論争をすれば、きりがない。仏教関係の遺産はインド以外、申請できなくなるではないか」

その理屈でいえば、中国で仏教彫刻の石窟として名高い「龍門洞窟」や、チベット仏教の聖地・ラサのポタラ宮の歴史的遺跡群などが世界遺産に登録されたことはどうなのか、と議論することも不可能ではありません。そして中国人の多くは「外来文化を独自に発展させたのだ」と反論するでしょう。

日本の政治家や文化人が中国を訪れ、日中友好イベントに参加すると、「日本と中国はともに漢字を使っている民族。同じ文化を共有する間柄として仲良くしていきましょう」とあいさつすることをよく見かけます。

こういう時、中国人は内心、「同じ漢字って…。中国人が発明した漢字を日本人が使っているんでしょう?」と思っており、親しい日本人に実際にそう打ち明けます。

日本の幕末から明治期において、福沢諭吉や西周(にしあまね)ら日本の知識人が西洋の政治制度や文化を吸収・翻訳し、「自由」「哲学」「主観、客観」などの言葉を考案し、東アジアに広まっていきました。

現在中国で用いられている、政治・学術や産業の専門用語は、このときに日本から移入されたものです。共産主義ということばもその時に移入されたものです。

優れた文化は各地に広がり、そして発展を遂げて帰ってくるものです。文化をナショナリズムの道具とみなすか、国境や民族を超えて、手を結びあえるインターナショナルなツールとするべきなのか、それは一人一人の考えに委ねられています。

国際組織の多くは、問題を抱えていますが、ユネスコも例外ではありません。国際的な枠組みからの離脱を相次いで表明している米トランプ政権は昨年12月31日付で国連教育科学文化機関(ユネスコ)からも脱退しました。

ユネスコの姿勢が反イスラエル的だとして2017年10月に脱退を通知しており、18年末が脱退時期でした。その後はオブザーバーとして参加していますが、ユネスコ内で中国などの影響力が増すとの懸念は広がっていました。

米国脱退は、ユネスコが17年7月に、パレスチナ自治区のヘブロン旧市街を世界遺産に登録したことがきっかけとなり、イスラエルも続いて脱退を表明。ただ、ユネスコがパレスチナ自治政府の正式加盟を認めた11年以降、米国は分担金の支払いを停止しています。

深刻な資金難に加え、ユネスコをめぐっては、中国が世界記憶遺産に申請していた「南京大虐殺文書」の登録を決めるなど政治的な偏向が問題視されています。アズレ氏は「政治化阻止」の組織改革に取り組んでいますが、米国が脱退し中国の勢いが増す中、実現性は不安視されています。

ユネスコの創設趣旨は、人の心の中に平和のとりでを作ることです。当然公正でなければならない筈なのに、日本の反対を押し切って、中国が主張する歴史問題にお墨付きを与えてしまったのはとうてい日本としては許容できるものではありません。これでは国や人々の対立を深めるだけで、まさにユネスコは死んだ、としか私には思えません。



南京事件については、様々な意見に分かれています。日本国内の学者間でも意見の相違は大きいです。今後もしっかりした検証が求められますが、そういう状況の中で中国だけの言い分に沿って「記録遺産」に登録させることは断じて許すべきではありません。

韓国も今政府の支援で元慰安婦の支援団体が登録を目指しています。ここで放置すれば同じことが繰り返されることは必定です。

重ねて政府の断固たる姿勢を促したいです。日米が抜ければ、ユネスコは形骸化して骨抜きになります。

「南京大虐殺文書」の登録当時、日本政府はユネスコへの拠出金の停止や減額を検討

そんなところに莫大な負担金など払うべきでないです。日本政府は駆け引きではなく、本気で直ちに分担金停止を通告すべきです。

ユネスコなど潰して、新たな国際組織をつくるべきです。

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2019年9月22日日曜日

韓国・文政権「通貨スワップ」を日本に哀願 背景にウォンの脆弱さ…専門家「日本なら締結して当然と思っているのかもしれない」―【私の論評】本当は、韓国に対して生 殺 与 奪の権を持つ日本(゚д゚)!


17年8月に「通貨スワップ」に関して発言した麻生財務大臣

戦後最悪ともいわれる日韓関係のなか、文在寅(ムン・ジェイン)政権から日本との「通貨交換(スワップ)協定」の再開を渇望する声が出ている。「反日」に走り、日本製品や日本への旅行の「ボイコット」を放置しているというのに、なぜ厚かましくも日本とのスワップ再開にこだわるのか。専門家は、通貨ウォンの脆弱(ぜいじゃく)さという切迫した事情が背景にあると指摘する。

 韓国のCBSは12日、殷成洙(ウン・ソンス)金融委員長が、日本との通貨スワップ再開を希望する意思を明らかにしたと報じた。金融危機が発生した場合に外貨の流動性が保障されるほか、国家の信頼度が向上の狙いとして、人事聴聞会で「日本と新たに締結したほうがいい」と発言したという。

 通貨スワップ協定は、貿易決済や為替介入などに必要な外貨が不足した場合、外貨と自国通貨を交換し合う仕組み。経済危機の際の外貨不足に対応できる。

 1990年代後半に韓国が国際通貨基金(IMF)に救済されるなどアジア通貨危機が起きたことから、日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓が参加する「チェンマイ・イニシアチブ」を主導。2001年に韓国との通貨スワップを締結した。

 11年に700億ドル(約7兆5000億円)規模まで融通枠を拡大したが12年に李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)が島根県・竹島に上陸するなど日韓関係の悪化を受けて規模が縮小。朴槿恵(パク・クネ)政権当時の15年、日本側の忠告にもかかわらず韓国側が一方的に破棄した。16年にいったん協議再開が決まったが、同年末に釜山(プサン)の日本総領事館前に設置された慰安婦像を韓国が撤去できず、協議は中断した。

 その後も韓国側からは何度も“ラブコール”が送られている。韓国の経済団体「全国経済人連合会(全経連)」の代表団が18年に訪日した際、自民党の二階俊博幹事長らを表敬訪問し、通貨スワップの再開をもちかけた。延世大のキム・ジョンシク教授は、今年3月の中央日報に「日本との通貨スワップを拡大することも検討する必要がある」と述べている。

 韓国が日本との通貨スワップ再開を熱望する理由について、ジャーナリストの須田慎一郎氏は「韓国の場合、ウォン建ての国債を発行してもリスクがあるため、投資家に信用されていない。急激なウォン安に備えてドル資金を確保するためにも通貨スワップ協定を結んでおきたい」と解説する。

 韓国銀行(中央銀行)の発表によれば、8月末時点での外貨準備高は約4014億ドル(約43兆4000億円)ある。リスクに備えているようにもみえるが、須田氏は「いったんウォンの買い支えを行えば外貨準備は急激に減少し、通貨危機ともなれば“瞬間蒸発”する恐れがある」と指摘する。

 日本側にとっては、韓国を助ける要素が強い通貨スワップだが、逆ギレして協定を打ち切った韓国から、勝手に再開をもちかけられている形だ。

 麻生太郎副総理兼財務相は17年8月の時点で、韓国との通貨スワップ協定について「信頼関係で成り立ってますので、約束した話を守られないと貸した金も返ってこない可能性もある」と突き放している。

徴用工裁判の原告

 現状もいうまでもなく、いわゆる「元徴用工」訴訟で国際法を無視した異常判決や軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄など問題山積で、通貨スワップ協定を再び締結できる状態にはほど遠い。

 米国との通貨スワップ協定も終了しており、再契約の見通しは立っていない状態だ。前出の須田氏はこう語った。

 「日本なら締結して当然と厚かましく思っているのかもしれない。通貨スワップは韓国への救済に等しいが、まるで韓国は『デフォルト(債務不履行)になってもいいのか?』と自らを人質に取り、日本の道連れも辞さずと脅しているようだ」

【私の論評】本当は、韓国に対して生 殺 与 奪の権を持つ日本(゚д゚)!

韓国への対応策として、「通貨スワップ」の交渉をしないというのは、かなり効き目のある対応策です。これに限らず、金融に関しては、韓国と日本との間では、信用力に雲泥の差がありますし、日本が韓国の命運を握っているといっても過言ではありません。

上の記事で、隅田氏は「韓国の場合、ウォン建ての国債を発行してもリスクがあるため、投資家に信用されていない。急激なウォン安に備えてドル資金を確保するためにも通貨スワップ協定を結んでおきたい」と解説しています。

これは、どういうことかとえば、そもそも韓国の通貨ウォンは国際通貨(ハードカレンシー)ではないし、韓国の政府系銀行は財務状況も健全ではなく、信用度は低いということです。

ウォンはドルや円とは異なり、国際通貨ではない

そこで、日本は韓国の銀行が発行する『信用状』(=貿易用の小切手)を日本の銀行が保証する枠を与え、間接的に支援しています。もし、こうした支援を打ち切ることになれば、韓国はとんでもないことになります。

貿易をしても、その決済ができないということになります。あくまで、韓国への「優遇措置」を取り消すだけでそうなります。

韓国ウォンは国際通貨ではないので、日米などのハードカレンシー国と為替取引ができなくなれば、そもそも、貿易ができなくなります。

昨年、米国は北朝鮮絡みで韓国の銀行に警告、ドルの直接送金ができなくなりました。日本のメガバンクが金融保証をやめれば、韓国は貿易ができなくなります。

それどころか、日本の大物政治家が一言「韓国向けの債券には注視することが必要だ」と口先介入するだけでも、韓国側はドルの調達ができにくくなるでしょう。

輸出依存度(GDPの40%近くを占める)が高い国だけに、輸出も簡単ではなくなり、貿易赤字は増え、通貨ウォンは売られて、価値が下落することになります。

これが現実となれば、韓国の金融面でのリスクは高まりかねないです。1997年の「アジア通貨危機」の再現も考えられます。このときに、通貨スワップは韓国にとって、強力な助っ人となるでしょうが、日本としては、再度締結することはないでしょう。

韓国に対しては、対韓輸出管理体制の強化のようなモノよりカネのほうが韓国への打撃が大きく、日本国内関係者への誤爆が少ないです。日本政府は韓国に対して、まだ強力な金融のカードを温存していると言って良い状況です。

日韓関係は、韓国が派手大騒ぎをして、いかにも主導権を握っているように見せかけたいのでしょうが、実際には主導権は日本にあるのです。このようなことを文在寅は、知った上でもなお、日本に対していちゃもんをつけ続けているわけです。日本もなめられたものです。

文在寅

しかし、日本政府は100件余りの報復カードを準備したともいわれています。現在は、やっとその1つを、しかもかなり軽いものを出しているに過ぎません。今後、段階的なカードがまだまだ準備されているということです。

 この金融カードは、かなり強力なものですが、それ以外にも日本は韓国に対して、通商農・水産物の輸入制限(農林水産省)、戦略物資の輸出制限(防衛省)、短期就職ビザの制限(法務省)、送金制限(財務省)があります。

他にも、韓国のカントリーリスクを高めるという方法もありました。これは、以前このブログで説明したので、ここでは述べません。

韓国政府の対応によっては、日本政府は、強力な経済報復に出ることが可能です。

いつまで、韓国が反日で騒ぎ回って、何も具体的な行動をしなでいられるか、見ものです。

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文在寅の報復は「日本に影響ナシ」どころか「韓国に大打撃」の可能性―【私の論評】断交前に韓国のカントリーリスクを高める価値は十分ある(゚д゚)!

2019年9月21日土曜日

【田村秀男のお金は知っている】政治も「ガチョウの沈黙」に便乗!? 消費税が「悪魔の税制」といえるワケ―【私の論評】国民はもっと怒れ! 本当は増税率25%の大インパクト(゚д゚)!



 日本の法人税率は29・74%という建前だが、ソフトバンクグループは税引前純利益1624億2200万円もあるのに、納税額は500万円、税負担率0・003%。日本製鉄はそれぞれ1109億2200万円、16億1500万円、1・46%。これは、元国税マンで税制研究の大家、富岡幸雄・中央大学名誉教授が近著『消費税が国を滅ぼす』(文春新書)で明らかにした。

 大企業がまともに納税すれば約9兆円の税増収となり、消費税増税は不要どころか、消費税減税が可能になるという。消費税率を下げれば、家計の消費は上向き、内需は拡大、20年以上もの間、日本経済を停滞させてきたデフレ圧力は解消、日本再生の見通しが立つ。消費税増税による日本経済破壊ぶりを論じてきた拙論にとって、まさに正鵠(せいこく)を射た思いだ。消費税というのはつくづく「悪魔の税制」だと思う。

 消費税を世界で初めて導入したのは第二次世界大戦後のフランスだが、その基本的な考え方は17世紀、ルイ14世の財務総監、ジャン・バティスト・コルベールの「徴税の極意」に由来する。

 吉田寛・千葉商科大学教授の近著、『市場と会計』〔春秋社〕によると、コルベールは、生きているガチョウを騒がせずに、その羽をできるだけ多くむしり採ることだ、とうそぶいた。騒ぐとやっかいな貴族や僧職には課税せず、宮廷に出入りすることのない平民を徴税の対象とした。

 日本でも消費税が1989年に導入されて以来、財務官僚は何かとうるさい財界には法人税率を引き下げる一方、収入をむしり取られてもおとなしい家計に対しては消費税率アップで臨む。そればかりか、法定税率はあくまでもみかけだけで、内実は企業規模が大きくなればなるほど実際の税負担率は下がっている。忠実に税を納めているのは主に中堅規模の企業だという。

 日本国の国土、文化・伝統や国民の献身などあらゆる資源を最大限利用しているソフトバンク、日本製鉄のような超大企業が巨大な利益を稼いでいるのに税負担が小さくても、お上からとがめ立てられることはない。

 政治の方も、「ガチョウの沈黙」に便乗している。安倍晋三政権は消費税率を2014年度にそれまでの5%から8%に引き上げたばかりか、今年10月には10%とするのだが、安倍政権は消費税増税にもほとんど影響されずに安定した世論の支持率を保っている。

 このままだとどうなるか。家計なるガチョウは1997年度の消費税増税以来の慢性デフレにさいなまれている。子育てや教育にカネのかかる30歳から50歳未満の世代の2018年の給与は01年よりも少ない。


 グラフは家計消費と消費税、法人税、所得税など一般会計税収総額の推移である。税収増減額はほぼぴったりと家計消費増減額に連動している。政府税収は消費税率を上げない限り増えない。法人税は上記のような不公正ぶりだ。

 ガチョウを太らすことを考えないどころか、やせ細ろうとも、気にしない。そして平然と毛をむしり取る。(産経新聞特別記者)

【私の論評】国民はもっと怒れ!  本当は増税率25%の大インパクト(゚д゚)!

日本経済を旅客機にたとえると、増税で超低空飛行することに・・・・・・

今回の、消費税を「2パーセント」の増税と軽く考えている人もいますが、本当はそうではありません。「買った物の値段の8パーセント」の税が「10パーセント」に増えるので、税金としては「25パーセント増税」です。率でみれぱ、25%の増税率なのです。
計算式にすると10-8=2  2÷8=0.25  0.25×100=25(%)
すでに数十数パーセントのものを、2%だけあげるというのとは全く異なります。

400万の年収が500万になったら、年収は25%アップと同じ考え方です。おそらくほとんどの人が、年収が25%もアップすれば、かなり年収のアップを実感できると思います。

消費税の場合も、それと同じで。頭の中で2%と大勢の人が思っていても、実際に増税されれば、増税率は25%ということがすぐに実体験として感じ取られることになります。

それに、10%というと切りがよく、誰でも計算できるので、さらに始末が悪いです。10万のモノを買えば、 1万、1千万のモノを買えば、100万です。

因みに消費税3%の時から計算すると10%増税は、330%の増税率ということになります。これでは、消費が減るのも無理はないです。

そうして、これでは景気が良くならないのも無理はないです。個人消費支出は、景気を左右する最も大きな要素です。

日本経済を巨大な旅客機とたとえると、国内総生産(GDP)はその高度にたとえられます。これが増えていれば、経済成長率がプラスとなって好景気、反対に減少していれば、経済成長率がマイナスで、不景気となります。

旅客機を飛ばしているエンジンに相当するのが、①個人消費支出、②設備投資、③輸出入、④政府支出、の4項目で、この合計がGDPとなります。

この中でも、個人消費支出と設備投資は、「景気の両輪」と呼ばれることもあるメインエンジンです。ところが、設備投資がGDP全体の15%程度を占めるのに対して、個人消費支出は、全体の60%程度を占める圧倒的な規模を持つのです。

最近は個人消費は減っているか、12年頃までは60%程度を占めていた

したがって、設備投資が2%増えても、経済成長率は0.3%しか増えないのですが、個人消費支出が2%増えると、経済成長率は1.1%も増えることになります。
こうしたことから、「機長」である政府にとって、旅客機の高度を上げて景気を良くするためには、個人消費支出を増やすことが、最も効率的ということになります。それでは、個人消費支出を増やすための政策には何があるのでしょうか。

私たちが消費を増やすのは、収入が増えた場合です。したがって、「機長」である政府は、税率というレバーを操作して減税を実施、所得を増やすことで消費拡大を実現しようとするのが常道です。

反対に、消費が増えすぎ、インフレなどの弊害が発生している場合には、増税をして、エンジンの過熱を抑えるべきなのです。

しかし、減税が個人消費支出の増加に直結するわけでありません。実際バブル崩壊後の深刻な不況期、政府は度重なる財政出動(総額100兆円)を行ったのですが効果は無く、個人消費支出は一向に増えませんでした。

ちょうどこのあたりに、日銀は株価、土地価格等の資産価格が上昇していたものの、一般物価はほとんど上昇していなかったにもかかわらず、金融引き締めに転じてしまいました。これが大失敗でした。

将来に不安を感じていた人々は、財政出動分の大部分を貯蓄に回し、消費の拡大には消極的になりました。この結果、個人消費支出は増えずに景気は低迷、日本経済という旅客機の飛行状況は、さらに悪化してしまったのです。

日本経済のメインエンジンである個人消費支出は、景気の動きを大きく左右する最も重要なものです。しかし、その動きは中央銀行(日本では日銀)の金融政策に大きく左右され、「減税すれば消費は増える」という単純な図式は成立しません。

このメインエンジンをいかにコントロールするかは、日本経済という旅客機の安定的な飛行に直結するものであり、機長である政府(財務省)の手腕と、日銀の金融政策の手腕が問われるのです。

さて、財政政策については、ブログ冒頭の記事のような状況です。減税どころか、増税するという有様です。

では、日銀の金融政策はどうかといえば、インフレ目標は達成目前だったのですが、8%への消費増税で台無しになってしまいました。今では、「2%」の目標ははるか遠いものになってしまいました。

黒田バズーカのキモは国債を買いまくることに尽きるのですが、最近は日銀も手を緩めています。

2016年9月から、名目金利に着目する「イールドカーブ・コントロール」という新方式に変更した結果、国債の購入ペースは年間80兆円から年間30兆円に減額しているのです。



国債購入ペースが落ちている以上、予想インフレ率も、実際のインフレ率も芳しくないのは当然のことです。

日銀が国債購入額を減額したのは、市中の国債の品不足が理由だとしています。

ところが、'19年6月末の国債発行残高は980兆円もあります。日銀の保有国債は46%の454兆円です。

「コップに水がまだ半分も入っていない」と考えれば、526兆円もの国債が市中には残っているのです。インフレ目標達成を第一に掲げるなら、日銀は国債購入ペースを落とす必要はなかったのです。

日銀が、この状況にある現時点で、2%増税をすると、個人消費が確実に低下して、日本経済という旅客機はエンジンを減速せざるをえず、低空飛行余儀なくされることになります。

このような実体を知って、国民はもっと怒るべきです。おとなしくしていては、ますます、毛をむしり取られ「やせ細ったガチョウ」に成り果てることになります。

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2019年9月20日金曜日

ロシア統一地方選の結果をいかに見るべきか―【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!

岡崎研究所

 9月8日、ロシアでは、州知事や共和国の首長などを選出する統一地方選挙が実施された。このところ、モスクワでのデモ、地方での環境保護を求める抗議活動といった、プーチンの人気に陰りが出ていることを示す出来事が目に付くようになってきていたため、それなりに注目されたが、結果は、モスクワ市議会選挙などごく一部を除き、プーチンの与党の圧勝であった。モスクワ市議会選挙では共産党が勝利した。


 モスクワでは、今回の統一地方選挙に向けて野党系の候補者をプーチン政権側が不当に排除したのではないかということで、真の自由選挙を求めるデモが毎週行われていた。一方、地方では、モスクワその他の都市からのゴミの大きな埋め立て地を田舎に作る計画に対し、多くの抗議活動が行われている。そのほか、不満の源には、インフレ、停滞する生活水準 、定年延長、長距離トラックへの新しい通行料、ソーシャルメディア規制などがある。

 モスクワでのデモのインパクトが限定的であるのは、環境悪化や生活コストなどについてのロシア社会の不満を取り込むことに失敗しているためである。真に競争的選挙を呼びかけるというのは価値のあることではあるが、少し理念的に過ぎ、大衆の生々しい不満を反映する幅広いアピールに欠けている。他方、地方での抗議活動は生活に根差した不満の反映ではあるが、そこまで深刻なものではないということであろう。

昨年5月にも大統領就任式を前に各地で大規模な抗議デモが
 ロシアにおける抗議活動はプーチンの人気が下り坂にあることを示しているものの、今回の統一地方選挙の結果からも、プーチンが2024年までの任期を全うすることに問題を投げかけられているような状況にはないと言える。モスクワのデモも、市議会選挙で共産党(選挙から排除された野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイが支持を呼び掛けていた)が勝利したこともあり、次第に収束していくのではないか。

 ただ、プーチン流の強権的なシステムが長期的に続くかどうかは、慎重な検討が必要であろう。フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのTony Barberは、8月26日付け同紙に‘After two decades in power, Putin should heed the warning signs’と題する論説を掲載、今後のロシアについて展望を示している。Barberは、以下のような点を指摘している。

・プーチンは2000年から2008年にかけて、エリツィン時代の社会混乱を克服し、石油価格上昇を通じて所得増を実現し、人気のある指導者であった。

・最近では、経済的不満、環境についての懸念、権力濫用への不平が、ロシア国民に対するプーチンの立場を悪くしているが、プーチンの権力掌握は弱くない。彼は反対を打ち砕く圧倒的な力を持っており、取り巻きは富と生き残りのために彼に依存している。

・しかし、時の経過とともに、ポスト共産主義の初期の経済・社会の崩壊を覚えている世代は消え去っており、プーチン以外の指導者を知らない若いロシア人が出てきている。少なくとも彼らの一部は変化を強く望んでいる。

・ロシア史を振り返ると、こうした時代は過去にもあった。ニコライI 世の長く専制的な支配が終わった 1850年代、 1953年のスターリン死後、ブレジネフの「停滞の時代」が終わった 1980年代である。 ピョートル大帝以来、ロシアでは、改革と反動が交代してきた。

・モスクワでのデモや環境についての抗議活動に次の自由化のサイクルを見るのは時期尚早であるが、何事も永遠ということはない。

 このBarberの論説は、ロシア史を踏まえて書かれた良い論説である。ロシア史は、スラブ主義者と欧化主義者が交代して指導者になってきた歴史であると考えてよい。Barberは改革と反動の交代と言っているが、そうも言えるだろう。

 プーチン後は、欧米諸国との関係を重視する政権がすぐにではないにしても、出てくる必然性が高いように思われる。どれくらいのスピードでそうなるかは分からないが、一旦変化が生じると加速度がついて、行き過ぎたりするようなところがロシア人にはある。

 それから、プーチンが任期満了後にすんなりと退任するのかという問題がある。つまり、鄧小平やカザフスタンのナザルバエフのような最高指導者を目指す可能性はないのかということである。これについては、ロシアには「院政」の伝統はないと思われるので、可能性はあまり高くないのではないだろうか。

【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!

9月5日にウラジオストクで行われた安倍晋三首相とプーチン・ロシア大統領の通算27回目の首脳会談は、平和条約交渉で一切進展がなく、暗礁に乗り上げた形でした。ロシア側は「2島」すら引き渡さない方針を固めており、安倍首相の「独り相撲」(朝日新聞と産経新聞の社説)が鮮明になりました。安倍外交は対露戦略の総括と見直しが急務です。

第27回日露首脳会談

日露両国は昨年11月のシンガポールでの首脳会談で、歯舞、色丹2島引き渡しをうたった1956年日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意し、今年から本格交渉に入ったのですが、ロシア側は一転して高飛車に出ました。国是の「4島返還」から「2島」へ譲歩することで妥結は可能とみなした安倍首相の判断は裏目に出ました。

産経新聞(9月3日)は、ロシアが1月の国家安全保障会議で、「交渉を急がず、日本側のペースで進めない」「第2次大戦の結果、4島がロシア領となったことを日本が認める」などの交渉方針を決めたと報じました。事実なら、対日強硬路線を機関決定したことになり、プーチン大統領やラブロフ外相の一連の強硬発言もこれによって説明がつきます。

その背景として、大統領の支持率低下や民族愛国主義など国内要因が指摘されますが、むしろこの1年の米中露3国関係の構図の変化がロシア外交に与えた衝撃が大きいようです。

米露関係は、米国が対露制裁を強化し、国防予算を拡大して新型兵器開発を進めるに及んで、ロシアにとってはオバマ時代よりも悪化しました。ロシアは中国一辺倒外交に傾斜し、米中貿易戦争の長期化で、中国もロシアの利用価値を重視するようになりました。
こうして「米国対中露」の対立構図が深まり、ロシアは日米同盟を問題視するようになりました。ロシアにとって日本の重要性は以前より低下し、北方領土問題は米中露3国関係の新展開の中に埋没したということでしょう。

今後、プーチン政権と交渉を続けても、領土問題は低調な議論が続くだけでしょう。「私とウラジーミルの手で必ず領土問題に終止符を打つ」という首相得意のフレーズは色あせ、これを信じる国民はもはやいないです。むしろプーチン政権の存在自体が領土交渉の足かせになっているとの認識を持つ必要があります。

交渉が事実上破綻した今、安倍首相はこれまで秘匿してきた大統領との交渉内容を部分的にでも国民に開示し、領土政策を「4島」から「2島」に転換した真意を説明すべきでしょう。

対露支援8項目協力など経済協力を優先し、国家主権意識や安全保障観の希薄な経済産業省主導外交が通用しなかったことも、この際総括する必要があります。

大都市の若者が毎週末に行う反プーチン・デモが示すように、ロシアの若い世代には長期政権への閉塞感や国際的孤立への不満が強い。ポスト・プーチン時代を見越した長期的な対露戦略の再構築を図るべきです。

さらには、このブログでも過去に主張してきたように、現在の米中冷戦は、これからも長く続くことになること、中国が弱体化したときに、かつての中ソ対立が激化したときのように、中露対立が激化することも計算入れ、対露戦略を考えていく必要があります。

中露対決が激化したとき、ロシアは最大の危機を迎えます。現在のロシアのGDPは東京都や韓国なみです。日本の1/3規模です。そのロシアがクリミア占領や、中東に軍隊を派遣したりしているのです。

現状では、かつてのソ連のように、米国と制裁合戦をする余力もなく、米国から一方的に制裁をされるだけの状態です。かつてのソ連なら、米国から制裁をされたら、何らかの方法でそれに対して必ず報復したものです。やはり、経済が日本の1/3の国にできることは限られています。現状では米国抜きのNATOに対してもまともに対峙することは不可能です。

無論ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を引き継いでいますから、軍事的には侮ることはできませんが、経済的には日本と比較すれば、小国と言っても良いくらい規模です。世の中には、未だロシアを超大国とみなし、北方領土の返還など、ありえないとする人もいますが、そんなことはありません。

やりかたを間違えなければ、帰ってくる可能性は、十分にあります。

ポストプーチンでロシア国内の求心力が弱まり、中露対立がかなり高まったときこそが、日本にとっての最大のチャンスです。

現状では、中露の経済力の差はとてもなく大きく、さらにロシアの人口が1億4千万であるのに比して、中国は13億人以上です。

これでは、現在のロシアは、どうみても中国に対抗できるわけもありません。しかし、米国による対中国冷戦で中国経済は弱体化しつつあります。更に弱れば、ロシアは積年の恨みつらみから、ロシアの中国に対する不満はいずれ大爆発します。

その時には、中露対立が顕になり、国境紛争も再度勃発することになるでしょう。現状の、中露の協調関係など、上辺だけのものに過ぎません。これは、元々はいつ破綻してもおかしくない関係なのです。

1969年3月2日中ソ国境紛争

その時こそ、日本の北方領土返還交渉のやり時なのです。安倍総理は、完璧に時期を間違えたと思います。

4島返還を本気で狙うなら、今から戦略を立てるべきです。当面は、ロシアには目もくれず、とにかく中国弱体化に勤しむべきなのです。

本来は、そのような時にいくら麻生氏が政権運用に不可欠とはいいながら、財務省の馬鹿共の策略にひっかりり増税などしている場合ではないのです。

国力を増す北方領土交渉を有利にするためにも、今は経済を良くするため、デフレからの完全脱却のために、増税などすべきではないのです。

安倍総理は、今のままだと、憲法改正はできず、北方領土交渉にも緒すらつけられず、政治生命を終えることになりかねません。

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