2020年7月8日水曜日

国際法秩序を無視した中国外交に歯止めを— 【私の論評】国際法を無視し、弁証法すら捨てた中共に未来なし!(◎_◎;)


岡崎研究所

6月19日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、「もし中国が米国と良い関係を持ちたいのなら、中国はもっと良い行動をしなければならない」と題する論説を寄せ、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪共産党政治局委員(外交統括)との会談の内容を紹介しつつ、それが実質的には物別れであったと論じている。一部その要旨を紹介する。


 ポンペオ国務長官は、楊潔篪と6月17日ハワイで会談と晩餐のため数時間会った。最近の米中関係で顕著となっている相互非難を抑制する方法を探すため、中国側から今回の会談を要請してきたと言われる。それまでは、習近平がトランプに電話をすれば良かったが、トランプは3月27日の電話会談後、習近平と話すことに興味はないと言っていた。

国務省の声明は、「2人の指導者は意見交換をし、ポンペオは商業、安保、外交の分野で中国が不公正な慣行をやめる必要があると強調した。また、進行中のCOVID-19パンデミックと戦い、将来の大発生の防止のためには完全な透明性と情報共有の必要性があると強調した」と述べている。一方、中国の外務省によると、楊はより良い関係を望んでいるとポンペオに言ったが、香港への国家安全法、台湾への威嚇、新疆でのウイグル人の強制収容などあらゆる争点について、中国の立場を擁護した。

北京のやり方のパターンはよく知られている。北京の悪い行為を批判する人を侮辱または攻撃する。その後、緊張の高い状態を非難し、通常の関係に戻ることを、行動を何一つ変えずに提案する。しかし、今回は通常の関係に戻ることはない。

ロウギンの論説は、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪政治局委員との会談がうまくいかなかったこと、現在の米中関係悪化の傾向に歯止めがかからなかったことを指摘している。

米中外相会談の成果は、今後も話し合おうという合意だけである。中国側はこれまでの行動を擁護し、行動を変えることを拒否したが、そういうことでは再度話し合っても何も出てこないことになろう。

香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではない。香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題である。ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということである。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実である。

中国が台湾は中国の一部と主張していることを理解し、尊重するということは、中国が台湾に武力行使をしていいことを意味しない。

そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多い。中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めない。

中国の緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるやり方は、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術であるが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになって来ている。

中国が行動を変えるべきであるとのロウギンの論説は、そういう状況の中で適切な論であると言える。

【私の論評】国際法を無視し、弁証法すら捨てた中共に未来なし!(◎_◎;)

国際関係で、中国の最大の問題は中国共産党の政治局常務委員に国際法を理解する者がいないことです。例えば南シナ海問題で中国が直面する国際司法環境の厳しさについて政治局常務委員に正しく伝えられたでしょうか。全く伝えられていないと思います。

中国の外交担当トップの「国務委員」は政治局委員どころか、さらに格が下の中央委員でしかありません。中国は、もともと他国のことは無視して、自国の都合で動く傾向のある国であることは、このブログでも何度が掲載したことがありす。それが、国の統治制度にも反映されているのです。

中国外交トップの楊潔チ・共産党政治局員

政策立案権限のない外務省は仲裁裁判所判断を「紙くず」と切り捨てました。担当する国際法に対し最低限の敬意すら払おうとしませんでした。

中共は現在の国際法が「西洋の産物」にすぎないと考えているのか。半世紀近くも国連に加盟し常任理事国の特権を享受しながら、常設仲裁裁判所の判断を否定する中国の態度は自己矛盾以外の何ものでもありません。国際法を完全無視するというのら、本来は国連から脱退すべきです。

そもそも中国には欧米型の「法の支配」という発想がありません。中国は全知全能の神と被造物である不完全な人間との契約(法)に基づく一神教の世界ではありません。日本にも、そのような考え方は、ありませんでしたが、明治以来それを理解しようと努めてきました。

これを日本では、「和魂洋才」として、とにかく西欧の考え方を学んだ上で、西欧列強に国際社会で伍していこうと努力しました。その努力は、最初は英国に認められ、日英同盟に結実しました。そうして、日本は名実ともに、国際社会の一員となりました。これは、後で述べ弁証法的な考え方に、基づいたものとも解釈できます。現在の中共にはそのようなことをするつもりは全くないです、本当に矛盾しています。

無論、様々な不幸な出来事があり、日本はその後、日英同盟も破棄し、大東亜戦争に月すすけわけですが、戦後には国際法を遵守し、国際社会に復帰しました。

その後の日本は、様々な矛盾を抱えつつも国際社会に貢献し、今日を迎えています。現状では、国内では様々な矛盾を抱え、憲法改正もできない有様です。しかし、そうは言っても、中国のように国際法を無視するようなことはありません。

中国の戦国時代に法家が説いた「法治」とは儒家の「徳治」に対する概念であり、法は権力者がつくるものです。被統治者は法の支配ではなく「立法者の支配」を受けて当然と考えます。

その意味で今2016年の中国の南シナ海実効支配に関する、国際司法判断は、人権や法の支配など欧米的概念と中華的法秩序との相克の新局面と見ることも可能です。

それと、今の中国政治指導者には共産主義者がよく用いていた弁証法的発展という考え方が身についていないようです。

弁証法とは、物の考え方の一つの型です。形式論理学では、「AはAである」という同一律を基本に置き、「AでありかつAでない」という矛盾が起こればそれは偽だとするのに対し、矛盾を偽だとは決めつけず、物の対立・矛盾を通して、その統一により一層高い境地に進むという、運動・発展の姿において考える見方です。

図式的に表せば、定立(「正」「自」とも言う)Aに対しその(自己)否定たる反立(「反」「アンチテーゼ」とも言う)非Aが起こり、この否定・矛盾を通して更に高い立場たる総合(「合」「ジンテーゼ」とも言う)に移る。この総合作用を「アウフヘーベン」(「止揚」「揚棄」と訳す)と言います。
弁証法の極めて理解しやすい事例

今の中国に見られる、ただ圧倒的に強い力関係にあるとき、単純に強行政策をとって力ずくで自らの意思を相手に押し付けるのはいかがなものでしょうか。弁証法的発展とは、自分たちの意思や行動に対する反作用の効能もよく計算に入れながら、その先に生まれる新しい関係性を戦略的に考える、いわゆる正→反→合という考え方です。

「一国二制度」をどのようにして香港住民も納得できる制度にすることができるのか。これを香港市民や当局者などを巻き込んで本格的に討議するならば、「弁証法的発展」の成果が出てくるかもしれないです。

米中対立はそもそもそれほどイデオロギー性の強いものではなく、超大国の座を目指すイニシアティブの争いの側面も強いです。したがってイデオロギー、政治・経済体制、陣営などで争った「米ソ冷戦」とは異なる面が多いです。

イニシアティブの調整さえうまくできれば、難しいことではありますが、米中共存は可能でしょう。そしてその道を探ることと香港「一国二制度」の再生は連動しています。香港に対する国家安全維持法が全人代で可決され、実施されました。

香港問題は米中新冷戦のフロントラインになりつつあります。香港に対する中国の過剰な強硬姿勢は、香港の良さを失わせる「愚策」以外の何ものでありません。

香港と中国との違いに基づき、香港社会にも受け入れ可能な香港政策を作り出す「弁証法的発展」の成果でもあった「一国二制度」は、返還から23年目で中国によって一方的に廃止されてしまいました。

中国の成長を支えた香港を強引に変化させることは、中国自身の「凋落の第一歩」を意味します。

中共は、本来であれば、西欧諸国が作った国際社会秩序を認めた上で、国際社会でビジネスをすべきでした。それと、国内が矛盾するなら、日本の「和魂洋才」ような、弁証法的な考え方で、矛盾を解消すべきでした。

下の写真は、平成11 8 23日発行の日本郵便の切手です。明治維新後、文明開化とともに外国から様々な文化がもたらされ、 当時のファッションもその影響をうけました。ハイカラとは、 当時大いに流行ったシャツの立て衿(ハイカラー)から来ており、 新しく小綺麗でしゃれた物事をハイカラと呼び、 また、そのような人をハイカラさんと呼びました。


これも、「和魂洋才」を示すエピソードの一つと言えます。とにかく当時の日本は、西欧の考え方を理解することが急務だったのです。

しかし、中共のやり方は、様々な矛盾を自国内を弁証法的に変えようとするのではなく、自国外を自国内部に合わせようとしています。その典型例が、最近の香港の「一国二制度」の破壊です。

先日もこのブログで述べたように、香港住民でない外国人までを「香港国家安全法」の適用対象とした習近平政権はもはや、世界の主人となって世界中の人々を支配てしまおうとするような狂気にとられているようです。

これは、とてつもないことです。個人でも、自分を変えずに、世界を変えることは困難です。それに比較して、まず自分を変えれば、世界が変わって見えてくるものであり、その世界で、自分の価値観を反映した何事かを実現することもできるようになります。

しかし、自分を全く変えないで、世界を変えようとだけすれば、ほとんどの場合失敗します。それどころか、どこまでもそれを推し進めようとすれば、精神に異常をきたしかねません。国も同じことです。

中国は、まさにその道を進んでいるようです。

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2020年7月7日火曜日

香港国安法 自民が非難決議案協議 習氏国賓中止 慎重な意見も香港国家安全法— 【私の論評】自民党は、中国の弱みを知り、中国と対峙することを最優先とする外交・軍事戦略に転じるべき!(◎_◎;)


香港の商業施設で抗議デモを行う人々=6日

 自民党は6日、中国による香港への統制強化を目的とした香港国家安全維持法の施行に関する外交部会などの会合を開いた。習近平国家主席の国賓来日を中止するよう政府に求める非難決議案について意見交換したが、中国との関係改善を重視するは二階俊博幹事長率いる二階派(志帥会)所属議員から文面の修正を求める意見が相次いだ。

 中山泰秀外交部会長は会合の冒頭「中国が治安維持法のようなものを制定・施行したことは看過できる問題ではない」と強調し、香港の自由と民主主義を守る必要性を訴えた。

 会合後、二階派の河村建夫元官房長官は記者団に「文書は修正すべきだ」と発言したことを明かした。二階氏周辺によると、同氏はこの会合について「日中関係を築いてきた先人の努力を水泡に帰すつもりか」と不快感を示したという。

 決議案は、中国側に「大国としての責任」の自覚を要求。習氏の国賓来日は中止するよう求め、香港情勢に関する5月の前回決議文の「再検討」から表現を強めている。菅義偉(すが・よしひで)官房長官は6日の記者会見で、習氏の国賓来日について「具体的な日程調整をする段階にないという政府の立場はこれまでも申し上げてきた通りだ」と説明した。

【私の論評】自民党は、中国の弱みを知り、中国と対峙することを最優先とする外交・軍事戦略に転じるべき!(◎_◎;)

中国「香港国家安全維持法」に対し、もし日本の自民党は非難決議の一つも出せないなら「自民党」の党名をやめた方が良いかもしれません。「自由」と「民主」を看板にする資格などありません。

そもそも、「香港国家安全維持法」は全く異常というか、異様な法律です。

この法律の、36条~38条をみると、ウルトラ域外適用と言っても良いほどに、全世界を対象にしています。中国はまるで全宇宙を支配しようとしているようです。

なお、香港国家安全法全文和訳をした方が、ブログでそれを公開しています。そのリンクをいかに貼っておきます。

https://xiang-dian.hatenablog.com/entry/nsl

ただし、発言者27人中、決議に反対意見は5名、賛成意見は22名。出席者約50人のうち、原文に異論がなく発言しなかった人も考えると賛成が殆どではあります。

反対派の意見は、「隣国だから仲良くすべき」「先人の努力を台無しにする」でしたが、過去の日本がそれを続けてきた結果が今です。中国は「仲良く」を「弱さ」と見てつけ込みます。

過去の経験からも中国に対峙する覚悟がなければ中国との平和はなく、属国への道があるだけです。

媚び諂うだけの日中関係などいりません。自民党は、コロナ蔓延の初期に、中国からの入国禁止が遅れた際に支持率が急落したことを忘れるべきではありません。

二階派の反対で香港国安法非難と習近平国賓来日中止の決議一つできないなら自民党は終わるかもしれません。凄まじい人権弾圧と尖閣侵入等、世界が中国と闘う時に明確に中国側につく党を国民は2度と支持しないでしょう。各議員も中国への姿勢を明確にすべきです。

二階派の河村建夫元官房長官

これは、選挙の際の有権者の最大の判断材料となるでしょう。今こそ歴史の転換点なのです。覚悟のない議員は必要ありません。有権者は、これを落選させるべきです。

自民党は、この問題への対応を誤ると危険です。

この際自民党に問われるのは、力を背景に国際法を無視して現状を変更しようとする相手に対して、周辺国と国際社会を味方につける「外交力」と戦略的思考に基づく「情報発信力」でしょう。

中国は、最近の「マスク外交」に見られるように、あらゆる手段を使い、硬軟おりまぜて影響力を拡大させています。

また、尖閣諸島をめぐっても世界的に大規模な宣伝戦も繰り広げています。中国が発信する一方的な情報が世界に流布され、中国の影響下にある国々がそれを追認するという事態は避けなければならないのに、日本はこうした分野で中国に後れを取っていることは否めず、早急に取り組むべきべきです。

尖閣では、中国の攻勢に対して日本政府には、海上保安庁が現場で持ちこたえている間に外交による解決を目指すという「方針」はあるものの、日本全体としての長期的な戦略はみえません。それどころか、中国いどう対処するのかと言う戦略も明確ではありません。

世界で影響力を拡大し、独自の世界観と長期的な戦略で日本の主権を脅かし続ける隣国に対して、日本はどのように向き合っていくのか。この難問に答える新たな大戦略の構築が必要です。

参考になるのは、米国です。米国の戦略です。米国ではすでに中国と対峙するのは、当然の事となっていていますが、インド太平洋戦略や他の戦略や米国の行動を見ていると、米国は中国との対峙を最優先事項にしているようです。

他のことは、中国との対峙における制約要因とみているようです。数学的に言えば、中国が本命であり、他のことは従属関数か、定数のようにみなしているようです。

これに対して、中国は昨日も述べたように、ありとあらゆることを全て同時に同じく重きを置いて実行しようとしているようです。

これについては、軍事戦略でもその傾向が見られます。それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【新型コロナと米中新冷戦】中国共産党「全正面同時攻撃」の“粗雑” 『超限戦』著者は「米国に絞って対決せよ」と主張 — 【私の論評】コロナで変わった世界で、米中対立は短くて2年、長くて4年で決着がつく‼︎
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中国ではある将軍が、集中すべきことを提唱しています。

喬良・退役空軍少将
以下、一部を引用します。
     一方、『超限戦』の著者である喬良・退役空軍少将は、中国共産党とは違う主張をしている。
 例えば、喬氏は「主敵である米国に集中すべきだ」「ギャングの抗争においては、まず最も強い相手(ボス)を倒すことに集中するのが原則だ。ボスを倒してしまえば、雑魚は怖がる。まず、強敵に対処すべきで、その他の弱い相手にかまうべきではない。台湾が本当に独立の行動を起こさない限り、台湾を相手にすべきではない」「米国との力比べ(腕相撲)に集中すべきだ」「香港国家安全法は不可欠であり、香港問題はローカルな問題ではなく、米中対立の第一線だ。米国の抑圧をかわす重要な戦場だ」「中国が米国の包括的な抑圧に抵抗できれば、香港も抵抗できる。結局、香港問題は中米の競争問題なのだ」と主張している。
     つまり、喬氏の考えでは、現在、台湾よりも危険なのは香港であり、香港が米中対立の最前線になるという判断だ。
 軍事のセオリーでは、「全正面同時攻撃」は圧倒的な力がないと失敗に終わる。中国共産党が行っている「中国の意に沿わない国家・組織・個人をすべて攻撃する」やり方は粗雑だ。喬氏が主張する「米国に焦点を絞って対決せよ」は間違っていない。喬氏は手ごわい。
この記事では、喬氏は手ごわいなどとしていますが、 軍事でも、外交でも、企業における仕事でも同じことが言えます。どのような仕事でも、実務上では、優先順位をつけて実行しなければ、物事はうまくは進みません。なぜなら、実務に投入する資源は限られているからです。

これは、企業でまともに、マネジメントをした経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、これを骨身に染みているでしょう。しかし、中共はそうではありません。外交でも、軍事でも、とにかく集中することなく、ありとあらゆることを同時に実行しようとします。

これは、官僚の特性でもあります。中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚のようなものです。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

習近平は政治家ではなく、その本質は官僚

そのため、昨日もこのブログで掲載したように、アフリカをはじめEUなどでもマスク外交を実施し、南太平洋の島嶼国など世界中で外交を展開して、ロシアやインドその他の国々と長い国境線を接しているにも関わらず、尖閣、台湾、南シナ海、フィリピン、南太平洋全域などありとあらゆる方面に軍事力を展開しようとしています。

これが中国の弱みと言っても良いと思います。自民党もこれを知った上で、外交・安全保障では中国と対峙することを最優先として、戦略を構築していくべきです。このような戦略がないから、党内では意見がまとまらず、有権者からは、信頼を失う結果となってしまいがちなのです。

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2020年7月6日月曜日

コロナ禍でも着実にアフリカを従属させていく中国―【私の論評】中国は目の前の、ザンビアの債務問題と、人種差別問題の両方で、厳しい舵取りを迫られている(゚д゚)!


岡崎研究所

 6月11日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙のアフリカ担当編集委員のピリングが、米国がアフリカの実情を無視して、米中冷戦の観点からのみ対アフリカ政策を策定するのは誤りであると論じている。ピリングの論説の一部要旨を紹介する。


 武漢に始まる新型コロナウイルスの感染拡大が、アルジェリアからジンバブエに至るまでアフリカ経済を不況に陥らせ、結果、中国に対する巨大債務の問題が顕著になった。それは今やアフリカの債務全体の5分の1を占める。

 しかしながら、中国は、自国の評判を高めるためにパンデミックを利用してきた。欧米諸国が検査キットや防護具を買い占めたと非難された時期に、ジャック・マーはアフリカ54か国に莫大な寄贈を行った。米国がワクチンが開発された場合の知的所有権につきその立場をあいまいにしている間に、WHO総会で習近平は中国で開発されるワクチンは自動的にアフリカで利用可能となる旨述べた。米国は、ビル・ゲイツ財団などを通じ或いは政府間で、中国よりもはるかに多くの拠出をアフリカの保健分野に行い続けている。それでも、何故か、中国は中国の方がより多く貢献しているかのように見せている。

 中国がアフリカで地歩を固めつつあることの証拠はいくらでもある。中国の対アフリカ貿易は米国のそれの4倍以上に達し、アフリカ人留学生は米国よりも中国の方が多い。アフリカにおける通信分野においては、ファーウェイにまともな競争相手はいない。米国がアフリカで何をしようと十分とは言えない。

 上記のピリングの論説で挙げられているよりも以前から、実は、中国のアフリカにおけるプレゼンスは築かれてきた。古くは冷戦期から、AA(アジア、アフリカ)グループの一員として、また、1990年代以降からは、アフリカの資源開発等に中国は投資を始めた。今日では、巨大な市場をアフリカの一次産品に提供し、経済面での中国依存を深化させてきた。さらに、2001年の中国WTO(世界貿易機関)加入を契機に、消費財の輸入も中国に依存することになった。そして、習近平主席の登場による「一帯一路」構想によりインフラ整備の資金供給源としての中国の存在感はさらに高まった。

 そして、この新型コロナウィルス危機である。今後、感染拡大が予想され、医療体制が整わず医療機器も不足するアフリカ諸国にとっては中国の援助は有難いに違いない。債務問題についてもG20の債務モラトリアムの方針に中国も同調したと伝えられる。西側諸国は、今後必要になる債務削減に中国が参加するよう圧力をかけるべきであろう。

 アフリカ諸国にしてみれば、米中冷戦の観点からアフリカを巻き込まないでもらいたいということであり、少なくとも米国の対中国非難に同調することは期待できない。民主主義という点で米国に対する好感度もまだ残っている由であるので、米国はアフリカのニーズに直接に向き合い、アフリカの支援を考えるべきであろう。

 中国は、短期的には、新型コロナウイルス感染発生国としての責任回避や当初の隠蔽といった事実から目をそらさせるために、ことさら医療支援に力を入れている。長期的には、中国経済を支えるための国際的な経済流通圏を構成し、また、中国の意向に従わせることにより、台湾や尖閣諸島をめぐる有事の際の国際的な多数派工作の基盤を作ろうとしているのであろう。

 欧米メディアでは、中国批判を取り上げがちであるが、アフリカ等の現場では、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト主義」により米国は孤立し、中国との国際的な宣伝戦においても劣勢のように見える。米国にとり外交政策立て直しは急務であり、アフリカ政策も例外ではない。

【私の論評】中国は目の前の、ザンビアの債務問題と、人種差別問題の両方で、厳しい舵取りを迫られている(゚д゚)!

21世紀の世界の牽引役として期待を集めているアフリカ、その中でも特に注目を浴びているのはナイジェリアです。

国土は日本のおよそ2.5倍、人口は1.9億人、GDPは世界31位となっています。国連の予測によると2020年以降人口増加率の上位10位はすべてアフリカ諸国で占められます。2050年にはナイジェリアの人口は世界第3位まで増加し、世界の黒人の7人にひとりはナイジェリア人となります。2030年の段階で世界の5人にひとりがアフリカ人となる計算です。


20世紀にはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の成長が注目されましたが、今注目されているのはMINT(メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコ)です。

ナイジェリアに限らず、アフリカの多くの国は人口の増加と経済発展を続けており、そこには中国の資本とメディアが入り込んでいます。世界におけるアフリカの重要性は増しており、中国はそれを見越して着々と準備を進めてきました。一帯一路もそのひとつです。

中国がアフリカで行っているのは「欧米とは違う新しい選択肢を提示」ということです。これは一見よいことのように聞こえますが、民主主義的価値観に照らすとそうではありません。

ひらたく言えば、「独立を維持しつつ経済発展を促進する」ことなのですが、中国のいう独立とは既存の権威主義(独裁や全体主義など)の維持に他なりません。表向きは民主的プロセス(投票など)を経るものの、内容はそうではありません。

欧米の援助あるいは経済関係において、民主主義的価値の尊重は重要であり、人権侵害などがあれば経済制裁を加えられることもあります。これに対して中国は民主主義的価値の尊重には重きを置かないどころか、むしろ尊重していない方が望ましいのです。そのためアフリカ諸国の多くは現状の政治体制を維持しつつ、経済発展を遂げることができるかもしれないのです。

これには欧米の苦い失敗も影響しています。かつてアフリカにおいて民主主義は混沌と破壊をもたらす劇薬でした。急に民主主義的プロセスだけを導入してもうまくいかないということが図らずも実証されてしまったのです。

アフリカ諸国は、いずれ中国に飲み込まれる可能性が十分ありました。冒頭の記事も、その懸念を表明しました。しかし、この状況は、コロナ禍で随分変わってしまいました。

中国のマクドナルドの店舗
広東省広州のマクドナルドの店舗は4月14日、入り口に「アフリカ人入店お断り」の貼り紙を貼りだしたが、その写真がSNSなどで拡散した結果、謝罪に追い込まれました。

これは氷山の一角に過ぎません。中国政府が3月半ば、「コロナのピークを過ぎた」と宣言するのと同時に「外国からコロナが持ち込まれる懸念がある」と述べたこともあり、医療体制がとりわけ貧弱なアフリカの出身者が、あたかもコロナの原因であるかのように白い目で見られているのです。

その結果、Twitterには住んでいた部屋をいきなりオーナーに追い出されてホームレスになったり、警官にいきなり拘束されたりするアフリカ人たちの姿が溢れています。

英BBCの取材に応えたシエラレオネ出身の女性は、「ピーク越え」が宣言された後もアフリカ人にはPCR検査を義務づけられ、自分は検査結果が2回とも陰性だったにもかかわらず隔離されていると証言しています。

アフリカ進出を加速させる中国は、人の交流を増やしてきました。そのため、中国には8万人ともいわれる留学生をはじめアフリカ人が数多く滞在しています。

こうした人の交流は従来、中国とアフリカの関係の強さの象徴でした。しかし、それは今や外交的な地雷にもなっているのです。

中国と異なりアフリカのほとんどの国では、国の体制は独裁であつたにしても、たとえ手順に問題があっても選挙が行われ、ネット空間も中国よりは自由です。そのため、中国でのアフリカ人差別に激高する世論に政府も反応せざるを得ないのです。

実際、中国に滞在するアフリカ各国の大使は連名で中国政府に状況の改善を要求しており、アフリカの大国ナイジェリアの外務大臣は「差別は受け入れられない」と非難しています。

これに関して、中国政府は「人種差別はない」と強調しています。また、ジンバブエやアルジェリアなど、とりわけ中国との関係を重視する国も「一部の問題を大げさに言うべきではない」と擁護しています。

その一方で中国政府は、外交問題にまで発展しつつある人種問題を覆い隠すように、アフリカに医療支援を増やしています。

中国は自国の「ピーク越え」宣言と並行して海外に向けて医療支援を始め、その相手は3月末までに世界全体で約90カ国にのぼりました。この段階ですでにアフリカ29カ国に中国政府は支援していたのですが、これに加えて3月25日には中国のネット通販大手アリババがエチオピアを経由してアフリカ54カ国に500台の人工呼吸器などの空輸を開始しました。

なぜ中国から直接各国に運ばず、一旦エチオピアを経由するかといえば、他のアフリカ各国は中国との航空路線をキャンセルしているからです。そのエチオピアには4月18日、中国の医療チームが支援に入っていました。

先進国の場合、相手国との関係次第で援助を減らすことは珍しくないです。これに対して、アフリカの警戒と批判に直面する中国は支援を減らして恫喝するのではなく、官民を挙げて支援を増やすことで懐柔しようとしているといえます。

中国が少なくとも公式にはアフリカへの不快感を示さず、むしろ友好関係をことさら強調することは、医療支援を通じてポスト・コロナ時代の主導権を握ることを目指す中国にとってアフリカへの支援に死活的な意味があるからとみてよいです。

アフリカは医療体制が貧弱で、このままではコロナ感染者が半年以内に1000万人にまで増加するとも試算されている。先進国が自国のことで手一杯のなか、ここで「成果」を残すことは、コロナ後の世界で「大国としての責任を果たした」とアピールしやすくなる。

もともと中国にとってアフリカは、冷戦時代から国際的な足場であり続けてきました。

それまで中華民国(台湾)がもっていた「中国政府」としての国連代表権が1971年に中華人民共和国に移った一因には、国連の大半を占める途上国の支持があったのですが、なかでも国連加盟国の約4分の1を占めるアフリカの支持は大きな力になったといわれています。

つまり、「世界最大の途上国」を自認する中国にとって、数の多いアフリカとの良好な関係は国連(その一部にはWHOも含まれる)などでの発言力を保つうえで欠かせないのです。だからこそ、中国はアフリカの不満を力ずくで抑えるより、歓心を買うことに傾いているのです。

この状況のもと、米国政府が4月24日、ケニアや南アフリカに医療支援を約束したことは、アフリカを「こちら側に」引き戻すための一手といえます。とはいえ、先進国からの援助は決して多くないため、アフリカ各国の政府にとって中国と対決姿勢を保つことは難しいです。

ただし、医療外交をテコに勢力の拡大を目指す中国にとって、最大のウィークポイントは人種差別にあります。

アフリカでは一般的に、中国との取り引きに利益を見込めるエリート層ほど中国に好意的で、ブラック企業さながらの中国企業に雇用される労働者や、中国企業の進出で経営が苦しくなった小規模自営業者ほど中国に批判的です。

そのため、海外で中国人が巻き込まれた暴行などの事件の約60%はアフリカで発生するなど、コロナ蔓延の前からアフリカでは「中国嫌い」が広がっていたのですが、中国における人種差別でこれは加速しています。例えば、ナイジェリアの医師会は中国の医療チームの入国に反対しました。

国によって温度差はあるものの、「中国嫌い」が加速するなかで中国が援助を加速させれば、人々の反感は各国の政府にも向かいかねないです。それによって反中的な政府が誕生したりすれば、中国にとって逆効果になるため、支援をひたすら増やすことも難しいです。

こうしてみたとき、中国で広がる人種差別は、まわりまわって中国外交の足かせにもなっているといえるでしょう。

地図の赤い部分がザンビア
こうした最中、最近中国がザンビアの「債務のわな」に捕らわれています。ザンビアは、中国国営銀行のほか国際通貨危機金(IMF)などの国際機関や、国際的な民間債権者が絡む、複雑な外貨建て債務の再編を進めようとしています。交渉結果は他のアフリカ諸国にとって重要な前例になるとともに、アフリカ大陸における中国の立場を再定義する可能性があります。

ザンビアは主に4種類の債務を抱えています。ユーロボンドの発行残高が30億ドル、民間銀行による融資が約20億ドル、IMFや世界銀行など国際機関による融資が約20億ドル、そして中国輸出入銀行や中国発展銀行など、中国国営機関を通じた対中債務が約30億ドルです。

手数料500万ドルで債務再編アドバイザーを務めることになったラザードの(世界トップクラスのファイナンシャル・アドバイザリーファーム)にとって、これは平常時でさえ骨が折れる仕事でしょぅ。その上、米中間の緊張が苦労を倍増させます。トランプ米大統領は中国債権者の負担が軽くなるのを望まないからです。

既に50%余りもの債権棒引きが視野に入った民間債権者も、間違いなくトランプ氏の味方をするでしょぅ。中国がザンビアに債務免除の割合を増やせば増やすほど、自分たちが引き受けなければいけない債務免除の割合が少なくてすむからです。

この結果、習近平国家主席が派遣する交渉団は、窮地に立たされるでしょう。いつものように秘密裏に事を進めることは期待できそうもないだけに、なおさらです。

過度に重い条件を要求すれば、銅輸出しか当てのないザンビア経済がしっかりと立ち直れる可能性は低くなり、結果的に債権者の資金回収が脅かされることになります。先にも述べたように、4月に広東省広州市でアフリカ出身の居住者を人種差別する事件が相次いだことで、アフリカの長きにわたる友達という中国のイメージは傷ついており、印象悪化に追い打ちをかけることにもなるでしょう。

しかし、ザンビアに甘くし過ぎると、中国として最終的に経済的な打撃を被りかねないです。米ジョンズ・ホプキンス大の研究者らによると、中国は2000年から17年にかけて、アフリカ諸国に1460億ドルを融資しました。規模は定かでないですが、この大半が未返済だと考えられます。

18年にエチオピアに対して行ったように、中国による債務免除はこれまで、低金利で返済期限を繰り延べる形が主体でした。しかし、新型コロナウイルス感染の世界的大流行によってザンビアの経済的苦境は増幅されており、そうした中国のやり方では、しのげない状況に至っている可能性があります。

新型コロナ危機により、債務免除という寛容さを示すことの倫理的意義も高まった。中国がどの道を選ぶか、同国から融資を受けている他のアフリカ諸国は、固唾(かたず)飲んで見守っている。

このように、中国は目の前の、ザンビアの債務問題と、人種差別問題の両方で、厳しい舵取りを迫られています。どちらも対応を誤れば、中国の今までの努力が水の泡となります。しかも、これをコロナ禍と、米国との厳しい対立の最中に行わなければ、なりません。

米中の外交を比較すると、米国はインド・太平洋地域になるべく多くの勢力をつぎ込もうとしています。そうして、当面の敵は中国であり、中東諸国、北朝鮮やロシアなど、他国は中国と対峙する上での、制約要因に過ぎないとみなしているようです。非常にシンプルです。

中国対応に優先順位をはっきりつけて、中国と対峙し、中国関連の決着がつけば、次の優先順位に大部分の勢力を費やすのでしょう。

しかし、中国は違います。世界中の様々なところで、攻勢に出ています。どれか、最優先なのか、良くわかりません。

個人も、企業も、そうして国でさえ、その中でも米国のような豊な国であってさえ、使える資源には限りがあります。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。
容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る(『経営者の条件』)
優先順位をしっかりつけて、優先すべきものを10個くらいに絞って仕事をしたことのある人ならわかると思います。

最優先事項を解決すると、不思議と二番目から、場合によっては4番目くらいまで、ほど自動的に解決してしまうことがほとんどです。

優先順位をつけず、いくつもの課題を同時に実行すると、時間や手間はかなりかかるものの、いつまでたっても何も成就しないことがほとんどです。

米国と中国を比較すると、明らかに米国は、優先順位をはっきりした、外交を展開しています。米中対決、この点からしても、米国にかなり有利です。

中国のアフリカ展開について、まだ新たなことが生じた場合、このブログでリポートしようと思います。

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2020年7月5日日曜日

迫る濁流、必死の避難 川には巨大石「ただごとではない」―【私の論評】コロナ禍の他、自然災害対策でも、財務省抜きの政府日銀連合軍で様々な対策を実行せよ(゚д゚)!

迫る濁流、必死の避難 川には巨大石「ただごとではない」



    闇の中、荒れ狂う川からあふれ出した濁流が静かな日常をのみ込んだ。3日から4日にかけて、熊本県南部で大きな被害をもたらした豪雨。住宅街には泥水や土砂が流れ込み、電気などのライフラインも一部断たれた。住民らは恐怖や不安に押しつぶされそうになりながら、力を合わせて懸命に避難した。

    球磨川の雨量は、3日深夜から4日未明にかけて急増。県内の広範囲で氾濫した。

    川沿いにある球磨村の集落は、波立つ濁流にのみ込まれた。14人が心肺停止で見つかった特別養護老人ホーム「千寿園(せんじゅえん)」では、ヘリコプターを使って救助活動が行われた。

    隣接する八代(やつしろ)市では、坂本町で複数の住民が孤立。祖父母らと4人で暮らす専門学校生、松村拓海さん(20)は4日早朝、家族全員で自宅2階に「垂直避難」し、難を逃れたが、濁流は階段の途中にまで迫ってきたといい、「死ぬかと思った」と振り返った。

    近くの橋が流された商店店主の男性(83)は「夜中に停電し、妻と自宅2階に逃げた。朝になると(1階の)商品は泥まみれで水浸しだった」という。「何もかも泥だらけ。何から手をつけたらいいのか」と言葉を失った。

    同市海士江(あまがえ)町の自営業男性(50)は高齢の両親と妹とともに車に乗り、近くの商業施設の立体駐車場に逃げた。「父親は介護が必要で体も弱く、新型コロナウイルスも怖いので避難所には行けなかった」と声を震わせた。

    球磨川でのラフティングツアーを開催するラフティングストーンズ(人吉市)の大石権太郎代表(50)は市の要請で、浸水した市街地にボートを出した。屋根に取り残された被災者らを救出。「こんな時だからこそ協力しようと思った。ほかのラフティング会社の多くはボートが流されたようだ」と話した。

     芦北(あしきた)町では、旅行業を営む佐藤圭吾さん(62)の自宅兼事務所の1階部分が水浸しになった。

    「午前3時ごろに(大雨の)緊急メールを受けたときは、まだ大丈夫だろうと思っていた」というが、4日明け方には周辺は冠水。近くの知り合いと同じボートに乗り、1人暮らしのお年寄りらの救出に向かった。

    「雨が上がって周辺の水は引いたが、電気や水道は使えず通信障害も起きている」と佐藤さん。「自宅の片づけもしないといけない」とこぼした。

     同町田川地区では大規模な土砂崩れが発生。民家が流失し、複数人と連絡が取れていない。現場では地域住民らが、不安そうな様子で捜索を見守った。

     土砂崩れで心肺停止状態の住民が見つかった津奈木(つなぎ)町では、自営業女性(60)が4日未明、自宅に隣接する川で巨大な岩が流されるのを目撃。「ただごとではない」と直感した。

    自宅は周囲より少し高い場所にあるため、被災は免れた。女性は「避難所に向かう高齢者が『新型コロナが怖い』と話していた。雨は上がったが気は抜けない」と語った。

【私の論評】コロナ禍の他、自然災害対策でも、財務省抜きの政府日銀連合軍で様々な対策を実行せよ(゚д゚)!

下の写真は、球磨川上流の支流・川辺川の、ダムで水没する予定だった地域です。ダム建設は反対運動で中止されました。これが水の中に埋もれるのはとても惜しいです。しかし、今日のような洪水の被害は本当に恐ろしいです。美しい景観を守るためなら、洪水の犠牲はやむを得ないのでしょうか。皆さんは、どう思われますか。


民主党政権は八ッ場ダムと川辺川ダムの建設中止を掲げ、思考停止したマスメディアはこれに一斉に同調し、両ダムの建設を悪魔化しました。八ッ場ダムは何とか建設されて昨年の豪雨で機能しましたが、球磨川上流の川辺川ダムは中止のまま。セキュリティホールが突かれた形になりました。

降水量の空間分布を見ると川辺川ダムの集水域に豪雨が集中しています。「コンクリートより人」の美辞麗句は災害のリスク対応には無力です。また、素人が声高に叫ぶ「森林の保水力」も豪雨の前には無力であることが、当該地域で実施された国交省の調査によって立証されています。



これについては、さらに詳しく分析している方がいらっしゃいました。その方のブログの記事のリンクを以下に掲載します。
川辺ダムがあったら球磨川は氾濫しなかったか?
事前に貯水率3割程度に減らしておけば、人吉市内※7/5コメント追記の球磨川の防げるだろう。 
去年の台風19号の時に「台風19号で八ッ場ダムが普通に稼働していたとして役に立ったか?」で計算してみたが、この時は理論上は役に立つという結果だったが、今回は実用でも役に立つだろう結果だった。 
今回の被害額は知りませんが、費用対効果もダムを作る時の判断に加えるべきことを最後に書いておきます。 
※2020/7/5追記 人吉水位観測所での氾濫が抑えられることが想定されるのであって、それより下流や上流で堤防が低い箇所では発生した可能性あり。
この分析、私は大学生のときに、あるシンクタンクで、都市計画の積算業務のアルバイトをした経験があるので、その内容は理解できました。
2008年12月20日 朝日新聞夕刊より転載
「川辺川・大戸川ダム事業休止 財務省原案で事業費カット」(朝日新聞) 
 20日に各省庁に内示された09年度政府予算の財務省原案で、流域の知事らが反対を表明している国土交通省の大戸川(だいどがわ)ダム(滋賀県)、川辺川(かわべがわ)ダム(熊本県)両計画はいずれもダム本体の建設を前提とした事業費が一切盛り込まれず、同年度の事業は休止することになった。今後、知事らの反対姿勢が覆らない限り予算措置されない見込みで、両計画は中止となる公算が大きくなった。
 
 国土交通省は大戸川ダムで10億円、川辺川ダムで34億円を概算要求していた。財務省原案では、水没予定地の住民に対する生活再建費や現地の工事事務所の維持費、継続的なデータ収集が必要な水位・流量観測費、道路の保全費のみ認められた。 
 大戸川は5億円で主に工事事務所の維持・管理費。川辺川は21億円で、事務所費のほか、水没予定地住民の移転先などへの付け替え道路の整備費などの生活再建費となっている。国交省と地元の協議が整えば執行に移る。ダム湖予定地を挟んで分かれた移転先を結ぶ付け替え道路などに関する費用は、事業の中止が正式に決まればダム予算そのものがなくなるため、別途、補助事業とするなどの手当てが必要になる。
 
 両計画とも、概算要求にはダム建設を前提に環境調査費や地質調査費などが盛り込まれていた。しかし、「知事らが明確に反対を表明している中、事業を強行できないのは明らかで、着工を前提とした予算は認められない」(財務省)と判断され、建設につながる部分はすべて削られた。 
 国交省の担当幹部は「現時点で先がどうなるかわからないダム本体の建設にかかわる部分は、認められなくても仕方がない。この先の県側との協議の行方や知事意見の正式表明の中身次第で今後の着工の是非を判断することになる」としている。 
 大戸川ダム建設は11月に大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事が共同意見として反対を表明した。年内にも正式な知事意見が出される見込み。
 
 川辺川ダムは熊本県の球磨川水系に計画。前知事の任期満了に伴う3月の知事選で「是非を半年で判断する」と公約した蒲島郁夫知事が9月に反対を表明していた。 
 知事らの反対は環境への負荷や財政負担の大きさなどを理由とするもので、地元知事の反対表明をきっかけに、ダム計画が大詰めを迎えた段階で事業が休止となるのは初めて。国交省は今後、どの段階で正式に中止とするのか判断を迫られる。その場合、ダムなしでの新たな治水対策という課題も浮上する。(松川敦志)
当時は、民主党政権でしたが、民主党はいわゆる政権交代選挙の時に、「コンクリートから人へ」などを標語としたいくつかの公約を掲げ、選挙に大勝して政権与党となりました。

元々緊縮財政大好きな、財務省はこの標語通り、喜び勇んで緊縮財政路線を実行しました。民主党と当時の野党谷垣総裁率いる自民党の協力の下で、消費減税増税に道筋をつけました。自民党巨大なダムや堤防のプロジェクトは、予算をつけずに、廃止に追い込みました。その他の公共工事も、予算を削減したので、多くの施設が放置されることになりました。さらに、防衛費も教育費も削減しました。

そのため、今日あらゆる施設が老朽化しています。格好の事例は、首都高です。首都高は前回の東京オリンピックを目指して設置されましたが、その後目だった改修もされずに、老朽化しています。

当時は、民主党が政権与党でしたが、その当時の野党も似たり寄ったりでした。今日その痕跡をサイトの記事で見ることができます。その記事のリンクを以下に掲載します。
【02.12.11】川辺川ダムに予算をつけるな、計画を中止せよ!
今日、日本国中で洪水などの自然災害の被害が起こっていますが、私は、この原因は温暖化や、気象変動だけが原因ではなく、財務省の緊縮にも原因があると思います。

昨年千葉で災害の後で、かなり間停電が続いたのは、結局のところ緊縮財政も大きな原因の一つだけだとされています。長い間電柱が放置されていたため、老朽化して、強風で多くの電柱がなぎ倒されたというのです。

痛ましい犠牲の球磨川大洪水とは、対照的に昨年の関東大水害で八ツ場ダムが下流域を守るため威力を発揮しました。感情論でなく本当に建設中止が原因だったのか徹底検証すべきです。スーパーコンピューター富岳を用いて、今回の線条降水帯の雨量等全てのデータを解析して、ダムが建設されていた場合と現状の比較計算すべきです。未来の世代の為に是非実施していただきたいと思います。

ただし、いくらスーパーコンピュータを用いて、解析をしたとしても、財務省が緊縮をしていては、どうしようもありません。

日本緊縮教団教祖? 岡本氏

コロナ禍と、昨年の消費税増税で景気はかなり落ち込んでいます。このような時には、積極財政をすべきなのです。

財源は国債を刷れば良いのです。そうして、日銀が国債を買い取れば良いです。現在デフレ気味なのですから、なおさらこれを実行すべきなのです。これを将来世代に負担になるという意見の人が、ジャーナリストや、いわゆる識者と言われる人々も中にもいますが、これは全くの出鱈目です。日銀買取国債について利払費は納付金で政府に戻り、元金も日銀引受できるので元利償還負担などありません。

この制度を知らないまま発言すると恥かくだけです。ただ、財務省も多くの政治家もそうなのですが、恥をかいているという認識も無いようなので、本当に困ってしまいます。こういう嘘がまことしやかに出てきて、コロナ禍対策が難航するのを見越して政府と日銀は財務省を外して連合軍を作ったことは以前のこのブログでも述べました。

コロナ禍の他、自然災害対策も、財務省を加えず、政府日銀連合軍で、様々な対策を実施していただきたいです。そうして、これによって、日本でもまともな財政政策ができるように道ずけをしていただきたいものです。

【私の論評】

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ―【私の論評】令和年間は緊縮財政を捨て、公共投資に力を入れよ、現状ではそれが国富を高めることになる(゚д゚)!

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2020年7月4日土曜日

82日連続!中国尖閣侵入で暴挙続く 分散行動や追い回しなど“新たな手口”も 一色正春氏「このままでは日本はやられ放題」―【私の論評】尖閣での中国の暴挙は、未だ第一列島線すら確保できない焦りか!(◎_◎;)

82日連続!中国尖閣侵入で暴挙続く 分散行動や追い回しなど“新たな手口”も 一色正春氏「このままでは日本はやられ放題」

中国武装公船

 沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で、中国の武装公船による暴挙が続いている。領海侵犯や接続水域への侵入を連日繰り返すだけでなく、日本漁船を追い回したり、複数艦船による「分散行動」といった“新たな手口”で、海上保安庁による警備態勢をすり抜けようとしているのだ。4日午前も、中国公船2隻が領海侵犯を行った。日本政府には「遺憾砲」以外に、中国側を阻止する方法はないのか。元海上保安官の一色正春氏が読み解いた。

 「東京と北京双方の外交ルートで、(中国側に)厳重に抗議している」「(接近の)動きを直ちにやめ、速やかに領海から退去するよう強く求めている」「引き続き、冷静に毅然(きぜん)として対応していきたい」

 菅義偉官房長官は3日の記者会見で、こう語った。

 海上保安庁によると、4日朝の時点で、尖閣周辺で中国公船4隻が確認できるといい、うち2隻が領海内に入ったため、退去を命じたという。尖閣周辺での領海侵入は3日連続となり、今年で15日目。尖閣周辺への侵入も82日連続となる。

 民主党の野田佳彦政権が2012年9月、十分な配慮もなく尖閣諸島を国有化して以降、同海域の緊張は日に日にエスカレートしている。

 関係者によると、中国側は日本側を上回る軍艦並みの「大型船」を続々と就役させているうえ、公船4隻が2隻ずつに分かれて航行する「分散行動」を繰り返しているという。

 第11管区海上保安本部(那覇)は「(中国公船が)まとまっていても、分散していても、こちらは必要な隻数を配備して対応している」と語るが、現場の負担が増えるのは間違いない。

 前出の一色氏は「中国側が、尖閣周辺海域での行動を増やせば練度は上がる。分散行動をとれば、海上保安庁は基本的に警戒に当たることは難しくなり、より高度な守備を求められる」と解説した。

 日本政府は対抗策として、中国公船が日本漁船を追い回した卑劣な映像の公開を検討している。衛藤晟一領土問題担当相は「尖閣諸島をめぐる情勢の情報発信をより一層、効果的に行っていかなければならない」と語ったが、外務省などが慎重姿勢を崩していないという。

 尖閣沖中国漁船衝突事件(10年9月)後、当時の民主党政権が公開を渋るなか、一色氏は動画サイト「ユーチューブ」に映像を流出させ、国民に「中国の脅威」を伝えた。

 日本政府の対応について、一色氏は「このままでは具体的に止める手段もなく、日本はやられ放題になりかねない」と警鐘を鳴らした。

【私の論評】尖閣での中国の暴挙は、未だ第一列島線すら確保できない焦りか!(◎_◎;)

かつて当時の石原慎太郎・東京都知事が主導して魚釣島などを東京都が購入して恒久施設を建造しようとしました。すなわち「誰の目にも明らかな形で」日本の領有権を示そうとしたのです。

沖ノ鳥島に上陸した石原都知事(当時)

その際には、日本政府は慌てて尖閣諸島を国有化して、東京都の企てを阻止しました。 その後も日本政府は、「誰の目にも明らかな形で」日本の領有権を示すような努力をしていません。そうして、海上保安庁巡視船による尖閣周辺海域のパトロールを強化して、日本国民による魚釣島への上陸を禁止し、接近すら制限している状態が続いていました。 米国政府も日本政府が中国側を刺激するような行動をとらないことを暗に支持している状態が続いていました。

たとえば米海軍は、沖縄返還(1972年5月15日)以前より、尖閣諸島の黄尾嶼(こうびしょ)と赤尾嶼(せきびしょ)を射爆撃場に指定し、かつては砲爆撃訓練などに使用していました。沖縄返還後、日中間での尖閣諸島をめぐる紛争が表面化したものの、1978年8月12日に日中平和友好条約が締結されると、米国政府も尖閣諸島での砲爆撃訓練を実施することによって中国側を刺激することを差し控える方針に転換しました。

そのため日中平和友好条約が締結される前後から今日に至るまで、黄尾嶼と赤尾嶼の射爆撃場は全く使用されていません。 そして過去10年来、中国の海洋戦力が飛躍的に強化されてきたのに対抗して、日米海洋戦力の結束をアピールするために、尖閣諸島周辺海域での日米合同軍事訓練を実施すべきであるという声が、米海兵隊や米海軍の対中強硬派から上がることが少なくありませんでした。ところが、米国政府はそのような中国側を刺激する行動を許可することがない状態が続いていました。

米国政府がそのような立場を取っている理由は推測可能です。尖閣問題の一方当事者が同盟国の日本であるとはいえ、第三国間の領域紛争に巻き込まれたくないからです。米国の伝統的外交方針の一つが、第三国間の領域紛争には中立を保つことを鉄則としている以上、当然といえました。

実際に米国政府は、これまで尖閣諸島が日本領であると明言していません。ただし、日米安全保障条約が存在しているため、尖閣諸島に対して全く言及しないわけにもいきませんでした。。そこで歴代の米政府高官たちは、「アメリカ政府は尖閣諸島に対して日本の施政権が及んでいるとの認識を持っている。そして、施政権を日本が保持している以上は、尖閣諸島も日米安保条約がカバーしていると解釈している」と語るのが常となっていました。

ところが、最近風向きが変わってきました。「日本の尖閣諸島への中国の領有権を認めてはならない」「中国の尖閣海域への侵入には制裁を加えるべきだ」このような強硬な見解が米国議会で超党派の主張として改めて注目され始めたのです。

先にも述べたように、尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関して、これまで米国政府は「領有権の争いには中立を保つ」という立場を保ってきました。ところが、中国が米国にとって最大の脅威となったことで、東シナ海での膨張も米国は阻止すべきだとする意見が米国議会で広まってきたのです。しかも、その意見が上下両院での具体的な法案として打ち出されています。

中国の尖閣諸島領有の主張に対する明確な反対は、6月中旬にワシントンで公表された連邦議会下院の共和党議員13人による政策提言報告書で改めて強調されました。 13人の議員は「下院共和党研究委員会・国家安全保障と外交問題に関する作業グループ」を形成し、「アメリカを強化してグローバルな脅威に対抗する」という報告書を作成しました。この報告書は、米国主導の既存の国際秩序を侵食し破壊しようとする脅威として中国、ロシア、イランなどの動向を分析しています。

120ページほどの報告書のなかで、最も多くの部分は中国の脅威について記されていました。南シナ海と東シナ海における中国の軍事志向の膨張は、国際合意にも、地域の安定にも、米国やその同盟諸国の国益にも反する危険な動きであると断じています。そうして、日本が領有権を宣言し施政権を保有する尖閣諸島に対する中国の攻勢についても、「平和と安定を脅かす」として反対を表明し、中国の領有権主張を否定する立場を明確にしました。 また同報告書で注目されるのは、「南シナ海・東シナ海制裁法案」への支持を打ち出していることです。

2019年5月に、ミット・ロムニー(共和党)、マルコ・ルビオ(共和党)、ティム・ケイン(民主党)、ベン・カーディン(民主党)など超党派の14議員が「南シナ海・東シナ海制裁法案」を上院に提出しました。6月には、下院のマイク・ギャラガー議員(共和党)とジミー・パネッタ議員(民主党)が同じ法案を下院本会議に提出ました。

ミット・ロムニー(共和党)議員
今回の下院共和党研究委員会の報告書は、その法案に米国議会の立場が表明されているとして、法案への支持を明確にしました。

なお上院でも下院でも法案は関連の委員会に付託されましたが、まだ本格的な審議は始まっていません。今回、下院共和党研究委員会は改めてこの法案の重要性を提起して、その趣旨への賛同と同法案の可決を促したのです。

今回、新たな光を浴びた「南シナ海・東シナ海制裁法案」の骨子は以下のとおりです。
 ・中国の南シナ海と東シナ海での軍事攻勢と膨張は、国際的な合意や規範に違反する不当な行動であり、関係諸国を軍事的、経済的、政治的に威嚇している。
・中国は、日本が施政権を保持する尖閣諸島への領有権を主張して、軍事がらみの侵略的な侵入を続けている。この動きは東シナ海の平和と安定を崩す行動であり、米国は反対する。
 ・米国政府は、南シナ海、東シナ海でのこうした不当な活動に加わる中国側の組織や個人に制裁を科す。その制裁は、それら組織や個人の米国内での資産の没収や凍結、さらには米国への入国の禁止を主体とする。
同法案は、中国に対する経済制裁措置の実行を米国政府に義務付けようとしています。つまり、米国は尖閣諸島に対する中国の領有権も施政権も否定するということです。米国政府は、中国当局の東シナ海での行動は、米国の規準でも国際的な基準でも不当だとする見解をとり、従来の「他の諸外国の領有権紛争には立場をとらない」という方針を変更することになります。

最近の、82日連続の中国尖閣侵入で暴挙は、このような米国の動きへの反発もあると思います。さらには、最近日本では、中国の潜水艦が日本近海を潜航しているのを日本に発見され、それを河野防衛大臣に公表されてしまったこととも関係していると思います。

河野太郎防衛相は23日の記者会見で、18日に鹿児島・奄美大島沖の接続水域内を潜ったまま西進した外国潜水艦について、「中国のものだと推定している」と述べました。潜水艦の国籍や種類の情報は自衛隊の把握能力(対潜水艦哨戒能力等)に関わるため、公表は異例です。

河野氏は「尖閣諸島をはじめ、さまざまな情勢に鑑みて、潜水艦の国籍を公表すべきと判断した」と強調。接続水域の潜航自体に問題はないとの認識を示すとともに、「外務省から中国に対して『関心表明』は行っている。中国の意図を明確に推し量っていく必要がある」と指摘しました。

私自身は、日本側は潜水艦の音紋などを取得しているため、この潜水艦の型名も分かっていたと思います。ただ、さすがにそこまでは公表しなかったのでしょう。なぜなら、そこまですれば、中国の恥の上塗りをすることになるからです。

そもそも潜水艦は中国の潜水艦はもとより、世界中のいかなる国の潜水艦も隠密行動をするのが常です。敵はもとより、味方にも動向を探られることがあってはなりません。だから、日米の潜水艦などは、東シナ海や南シナ海や、もしかすると黄海など中国の領海なども潜航しているかもしれませんが、一度も中国側に探知され、中国のメディアで報道されたことはありません。無論、日米メディアにもその動向は知られていません。

ところが、中国の潜水艦は日本側に易々と発見され、しかも日本のメディアで報道されているのです。これは、中国の対潜水艦哨戒能力が日本に比較して遥かに劣っていることを示しています。

さらに、中国の潜水艦が日本側に発見されるということは、中国の潜水艦いまだに、ステルス性において性能が低く、日本側に簡単に発見されてしまうということを意味しています。

中国海軍には、明確なロードマップがあります。それは以下のようなものです。
  • 「再建期」 1982-2000年 中国沿岸海域の完全な防備態勢を整備 ほぼ達成済み
  • 「躍進前期」 2000-2010年 第一列島線内部(近海)の制海権確保。
  • 「躍進後期」 2010-2020年 第二列島線内部の制海権確保。航空母艦建造
  • 「完成期」 2020-2040年 アメリカ海軍による太平洋、インド洋の独占的支配を阻止
  • 2040年 アメリカ海軍と対等な海軍建設

ロードマップによれば、2020年に「躍進後期」であり第二列島線まで、確保することになっていますが、現在の中国はそれどころか、尖閣を含む第一列島線すら確保できていません。

そこにきて、米国による南シナ海、東シナ海での中国に対する対抗の表明と、自国の最新鋭潜水艦が日本にいまだに簡単に発見されてしまうという事実を見せつけられ、中国海軍としてはかなり焦っていると思います。

その焦りの現れが、82日連続中国尖閣侵入と暴挙なのではないでしょうか。中国としては。何とかして、第一列島線をわがものにしたいので、艦艇を分散したり、漁船を追い回したりしているのでしょうが、彼らも命がけでしょう。

何しろ、日米の潜水艦がどこに潜んでいるのか、彼らには発見できないのですが、中国の潜水艦はすぐに日米に発見されてしまうのですから、味方の潜水艦はいざというときには、ほとんど用を為しません。

自分たちが、暴挙を繰り返せば、日米の潜水艦に撃沈される恐れもあるのです。ただ上層部からは、日本がどの程度まで暴挙に耐えるのかを確認するように、命令されているのだと思います。

ただし、私自身は、このような状況にあるから中国の暴挙を放置しておけというつもりは全くありません。

日本としては、せっかく米国が、中国の領有権主張を否定する立場を明確にしたわけですから、米軍に黄尾嶼と赤尾嶼の射爆撃場の使用を再開してもらうとか、尖閣諸島に日米のブイなどを設置するなどのことをしたり、あるいは日米合同で、尖閣諸島そのものを用いて、尖閣奪還作戦の訓練をすることなどが考えられます。

そのような訓練をすれば、当然のことながら、中国潜水艦やその他の艦艇や航空機を派遣するなどして、その訓練を監視するでしょうが、彼らの目の前で、模擬の中国侵略軍の艦艇を撃沈するところを見せたりすれば、かなり効果的でしょう。

何しろ、彼らは、いずれの航空機か、艦艇なのかも全く発見できないにも関わらず、模擬の中国の艦艇が次々と撃沈されていくの見て、恐怖に駆られることになるでしょう。次は、自分の番かもしれないと恐怖に慄くかもしれません。

それでも、中国が諦めなければ、彼らが発見できない潜水艦からソナーを発信して、すぐに離脱して姿をくらますようなことをするとか、模擬魚雷を発射したり、本物の魚雷を故意に艦艇の近くで爆発させるとか、やり方はいくらでもあります。それも、一隻二隻ではなく、複数の潜水艦で実施するとか、本当にやり方は、無尽蔵にあると言っても過言ではありません。

ただ、米国が覚悟を決めた現在、日本が覚悟を決めず、いつまでもグズグズしていれば、米国から見放されることもあり得ます。そうなると、ますます中国は増長して、最終的には尖閣を奪取してしまうかもしれません。私としては、そちらのほうが不安です。

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2020年7月3日金曜日

専門家会議廃止めぐる「誤解」…助言の役割無視する報道も 政権の重い責任は変わらず ―【私の論評】意思決定等の基本原則を知らずにモノを考えるのは、時間の無駄、人生の無駄(゚д゚)!

高橋洋一 日本の解き方

西村経済再生相

西村康稔経済再生相が、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」)を廃止し、新たな組織に衣替えすると発表した。その背景や力学は何か、今後のコロナ対策に影響が出る可能性はどうか。

 政府の新型インフルエンザ等対策会議には、特別措置法に基づく新型コロナウイルス感染症対策本部が1月30日に設置された。本部長は総理大臣、副本部長は官房長官、厚生労働大臣、措置法事務担当大臣(西村大臣)、本部員はその他の国務大臣だ。ここがコロナ対策の意思決定機関だ。

 専門家会議は、新型コロナウイルス感染症対策本部の下、医学的な見地から対策本部に助言するために、2月14日に設置された。構成員については、座長は脇田隆字・国立感染症研究所所長、副座長は尾身茂・独立行政法人地域医療機能推進機構理事長、その他構成員は医学関係者が10人ほどいる。

 構成員は一応決まっているが、座長は、必要に応じその他関係者の出席を求めることができるので、メンバー限定というわけではない。この専門家会議の役割はあくまで本部に助言することであり、意思決定機関ではない。

 一部のマスコミ報道は、対策本部が意思決定機関、専門家会議は助言機関という役割分担を明確に書かずに、専門家会議があたかも意思決定機関であるかのように書いてきた。「専門家会議は議事録で発言者が特定されていない」「対策本部は専門家会議の助言内容そのままでなく、一部書き換えている」などと批判しているのもその証拠だ。

 助言機関では、発言者の特定はそれほど意味はない。むしろ特定の発言者が個別業種の休業を助言した場合、関係業界から突き上げをくらうなどの不利益を被ることもある。マスコミは取材したいからといって、発言者が特定されていないことを一方的に批判するのは筋違いだ。

コロナ対策専門家会議
また、専門家会議は助言機関に過ぎないので、対策本部の決定事項と一言一句同じになるはずがない。極端に言えば、意思決定権者は助言を無視しても構わない。ただし、意思決定にはそれなりの責任が伴うだけだ。

 一部マスコミが専門家会議をあたかも意思決定機関のように報道し、その誤解の上で、コロナ対策を一部野党が批判するという「共同作業」のやり口も見え透いている。

 そもそも専門家会議は、メンバー限定ではないので、廃止し衣替えとせずに、メンバーを適宜入れ替えて運営する手もあったはずだ。

 西村経済再生相は専門家会議を「廃止」と言わずに、もう少し狡猾(こうかつ)に対応するべきだった。専門家会議の位置づけは、対策本部の一存でどうにでもできるので、廃止という手順が間違っているとは思わないが、一部マスコミの術中にはまった感がある。

 そもそも助言者を選ぶのは、意思決定権者なので、衣替えがあっても今後のコロナ対策に影響があるとも思えない。安倍晋三政権のコロナ対策の責任が大きいことにも変わりはない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】意思決定等の基本原則を知らずにモノを考えるのは、時間の無駄、人生の無駄(゚д゚)!

ドラッカー氏の意思決定に関する原則に関しては、このブログにも何度か掲載してきました。この意思決定の原則を知らない人は、専門家会議の意味や意義などについて何も理解していないのかもしれません。

経営学の大家ドラッカーは意思決定について以下のように語っています。
成果をあげる者は、意図的に意見の不一致をつくりあげる。そのようにして、もっともらしいが間違っている意見や、不完全な意見によってだまされることを防ぐ。(ドラッカー名著集(1)『経営者の条件』)
ドラッカーは、意思決定の過程では意見の不一致が必要だといいます。理由は三つあります。
ドラッカーの意思決定に関する原理・原則のマインド・マップです
クリックすると拡大してします

第一に、組織の囚人になることを防ぐためです。組織では、あらゆる者が、あらゆる決定から何かを得ようとします。特別のものを欲し、善意の下に、都合のよい決定を得ようとするのです。

そのようなことでは、小さな利害だけで決定が行なわれることになります。問題の理解抜きでのそのような決定の仕方は、きわめて危険です。

政権の幹部が政局などだけを中心に、コロナ対策を考えていては大変なことになります。だから、そのようなことにならないために、経験内で多くの人がコロナ対策に関与するのです。それだけでも、偏ることがあるので、専門家会議を設けて、これも異なる見方をする専門家複数で協議をしてもらい、政局などの利害だけで決定が行われることを防ぐのです。

感染症の専門家が同時に意思決定を行うのも間違いです。これは、会社などの組織を例にとってみればわかります。普通の会社では、財務部長や経理部長が、営業部長が意思決定を行うということはありません。会社の最高意思決定機関は、取締役会です。

専門家会議がコロナ対策の意思決定を行うということは、会社で言えば、財務部長や経理部長、営業部長が会社の意思決定を行うのに等しいです。部長クラスは、決められた会社の方針に従い、それぞれ専門の立場から、専門分野に関係する部分を専門家の分野から方法を選ぶことくらいです。会社の方針は定められません。

しかし、これと同じようなことをして大失敗したのが、財務省であり日銀です。財務も金融政策も本来は政府がその方針を定め、その方針に従い、財務省や日銀が専門家的な立場から、方法を選ぶというのが、正しいあり方です。

財務省は国税庁という実動部隊等と、企画をする部隊が一体となっている、不思議な組織です。会社で言えば営業部と、財務部が一緒になったような異様な組織です。企業ではありえない組織です。このまま、この組織を放置しておけば、さらに腐敗するのは目に見えています。

本来の正しいあり方から逸脱したため、日本経済の実情とは関係なし、財務省は緊縮財政を、日銀は金融引き締めを繰り返し、平成年間のほとんどの期間日本はデフレでした。

コロナ対策も、専門家会議が意思決定するか実質それに近いことをしていたら、とんでもないことになったかもしれません。

第二に、選択肢、つまり代案を得るためです。決定には、常に間違う危険が伴います。

最初から間違っていることもあれば、状況の変化によって間違うこともあります。決定のプロセスにおいて他の選択肢を考えてあれば、次に頼るべきものとして、十分に考えたもの、検討ずみのもの、理解ずみのものを持つことができます。

逆に、全員一致で決めていたのでは、その決められたものしか案がないことになります。時の政権が決めたとすれば、そうなりがちです。それ以外にも代替案を得るためにも、専門家会議が必要なのです。専門家会議があるからこそ、政府は常に複数代替案を持ちながら、ことにあたることができたのです。

逆に、専門家会議と、政府の意見が何から何まで、同じであれば、専門家会議を設置した意味はありません。

第三に、想像力を刺激するためです。理論づけられ、検討し尽くされ、かつ裏づけられている反対意見こそ、想像力にとって最も効果的な刺激剤となります。すばらしい案も生まれます。

明らかに間違った結論に達している者は、自分とは違う現実を見て、違う問題に気づいているに違いないと考えなければなりません。

もし、彼の意見が知的かつ合理的であるとするならば、彼はどのような現実を見ているのかを考えなければならないです。意見の不一致こそが宝の山です。意見の不一致が問題への理解をもたらしてくれます。

いかなる問題であれ、意見の不一致が皆無などということは、奇跡です。いわんや、四六時中奇跡を起こしているなどありえないと心得るべきです。それでは、社長が一人いればよいことになります。政府なら、総理大臣が一人いればよいことになります。

後で不祥事となった行動の多くが、ろくに議論もされずに決められていることは偶然ではないのです。
成果をあげる者は、何よりも問題の理解に関心をもつ。(『経営者の条件)
問題の理解をするためにも、専門家会議は必要だったのです。そうして、専門家会議があるからこそ、政府も刺激を受け、様々な案を考えることができたのです。

そうして、結果が全てです。米国は、本日は1日で50万人を超える感染者を出しています。これには、米国の特殊事情もあるでしょうが、どう考えてみても、米国の対策は失敗したとしか言えません。 日本は、成功したと言って良いです。

そうして、専門家会議は、責任負う組織ではありません。日本のコロナ感染対策が成功しようが、失敗しようが、専門家会議自体は責任を持つものではありません。責任はあくまで政府にあります。

新型コロナウイルス対策を話し合う政府の専門家会議について、西村経済再生担当大臣は記者会見で、廃止したうえで、メンバーを拡充するなどして、政府内に「新型コロナウイルス感染症対策分科会」として改めて設置する考えを明らかにしています。

この分科会も、従来の専門家会議と同じ役割を果たすのです。第二波、第三波の到来を恐る人もいるようですが、第一波の到来により、かなりの新たな知見が得られています。油断してはいけないですが、それにしても、私自身は第二波、三波が、第一波をおおきく上回ることはないと思います。

このような意思決定の本質を知っていれば、上の記事で高橋洋一が語っているように、「安倍晋三政権のコロナ対策の責任が大きいことにも変わりはない」ことなど理解できそうですが、マスコミなどは違うようです。

安倍総理は、今ままでもこれからも、日本政府のコロナ対策の最高責任者
とにかく、物を知らなさ過ぎです。意思決定でも、コミュニケーションにもマネジメントには、原則があります、それもあらゆる組織に当てはまる基本原則があります。日本の政治家や、ジャーナリストには、この原則を知らずに、その時々の目の前のことを浅く、軽く考えて、直感的に判断をする人があまり多いようです。これは、はっきり言います。時間と、人生の無駄です。

マネジメントや、経済、軍事に関しても、先達は様々なこと考え、その上で原理・原則としてまとめています。そうして、社会に起きているほとんどの現象が、その原理・原則に当てはまるものです。当てはまらないものは、ほんのわずかです。それも知らずに、何でも最初から自分で考え、原理・原則から離れた、自分だけの考えで、人に意見したりするのは、本人にとっても、意見された人にとっても、時間と人生の無駄です。

原理原則に当てはまらないことを見出した人で、自分の頭で考えて、それを解決できれば、それは、おそらくノーベル賞を受賞できるかもしれません。そこまでいかなくても、本格的な研究の端緒となり、新たな学問や、科学の誕生になるかもしれません。ある事象や、出来事について、自分の頭だけで考えるということはそういうことです。

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2020年7月2日木曜日

【有本香の以読制毒】「千万人と雖も吾往かん」 高須院長の愛知県・大村知事リコール運動、成立すれば日本の戦後政治に風穴を開ける一大事―【私の論評】この戦いまだ、始まってもいない、戦いの火蓋は8月1日に切っておとされる(゚д゚)!

【有本香の以読制毒】「千万人と雖も吾往かん」 高須院長の愛知県・大村知事リコール運動、成立すれば日本の戦後政治に風穴を開ける一大事

    高須院長(左)と、名古屋市の河村たかし市長は繁華街で「知事リコール」を
    呼びかけた=6月28日、名古屋市中区

 始まりは6月1日(月曜日)の夕方近く、一本の電話からだった。着信画面を見ると作家の百田尚樹さんだ。

 「急な話なんやけど、明日の午後、高須先生が名古屋で大村知事リコールの記者会見するんやて。有本さん、現地、行かれへんよな」

 夕刊フジでもおなじみの高須克弥院長(=連載『Yes!高須のこれはNo!だぜ』)が、昨年夏の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」の件で、愛知県の大村秀章知事に怒り心頭、リコール(解職請求)を考えておられることは、院長のツイートなどから察していた。

 それにしても急な展開だ。今日の明日。少し調整の時間を…と答えようとすると、それを見透かしたように受話器の向こうから、「(評論家の)竹田恒泰さんは『行く』と即答してくれたで」

 と百田さんが一言。思わず、「わかりました。『私も参ります』と高須先生にお伝えください」と答えていた。

 翌日、会見場に着いてみると、科学者の武田邦彦氏もおられた。高須院長の応援団として、インターネット番組「真相深入り 虎ノ門ニュース」のレギュラー出演者が期せずして顔をそろえた。

 私は会見を取材するつもりで出かけたのだったが、その場の雰囲気に圧され、高須院長と並んでメディアの質問を受ける側に座ることになってしまった。

 会見の様子と、その後1カ月間の高須院長の見事な闘いぶりは夕刊フジでも折に触れ報じられているので、ここではなぞらない。ただ、肝心ないくつかのみ、あえて強調しておきたい。

 まず、都道府県知事のリコールは、過去に例がない。数百万の有権者に「イエス・ノー」を問う知事のリコールは、その運動が惹起(じゃっき)されたことすら例がないのだ。もし成立すれば、史上初、日本の戦後政治に風穴を開ける一大事である。が、その重大性にメディアの皆さまが、いまひとつピンときておられないように見える。

 第2のポイントは、今回の「争点」だ。

 高須院長や私たちが問題視しているのは、端的に言えば、極めて不適切な公共事業であり、税金の使途である。前代未聞のとんでもない公共事業をゴリ押しした大村知事の行政手法を「許せん」と、高須院長は一貫して主張している。

 ところがこれを、あたかも「表現の自由」を認めない偏狭な考えの人々が騒いでいるかのようにミスリードするメディアがあるのは甚だ残念である。

 日本国憲法第一条で、「日本国と日本国民統合の象徴」とされている天皇陛下であられた昭和天皇の写真をバーナーで燃やし、灰を足で踏みつける。良識のある日本国民なら正視に耐えないこの表現でも、私的に行う分には強制的にやめさせることはできない。

 しかし、公金を注ぎ込む公共の場に展示するものとして、ふさわしいと言えるのか。それを改めて愛知県民に問おうというわけだ。

 加えて、昨年10月3日発行の本コラムで書いたとおり、この企画展のプロセスには重大な疑惑がつきまとっている。慰安婦像など、不適切とされそうな作品の存在を「隠して」文化庁に補助金申請したのではないかとの疑惑が完全に払拭されたとは言い難い。一部関係者の証言どおりなら、補助金詐取かとも思えてしまう。

 ところで、高須院長はがんの闘病中でもある。その体でまさか、蒸し暑い名古屋の街頭に自ら立ってハガキ配りまでするとは思わなかった。文字通り命を削って、「日本のため」「郷土・愛知県の尊厳のために」闘っているのだが、院長に悲壮感はない。

 「戦いの火蓋は8月1日に切っておとされます。(中略)(署名受任者のハガキに署名して)身内となった皆さん、僕の総攻撃の合図を待ってください。僕は一瞬でリコールを成立させ、勝負をつけるつもりです。歴史に残ります」

 院長のこのツイートにしびれたのは私だけではないだろう。風は少しずつ、しかし着実に変わってきている。

 高須院長は2日、県議会での陳述に立つ。まさに「千万人と雖(いえど)も吾(われ)往かん」の気概を示されるに違いない。とかく群れるのが好きな永田町の皆さまよ、よく目を開いて高須院長の闘いぶりをご覧あれ。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】この戦いまだ、始まってもいない、戦いの火蓋は8月1日に切っておとされる(゚д゚)!

本日、愛知県議会の委員会で、大村知事の「不信任決議」をするよう、議員に直接訴えました。それについては、朝日デジタルが以下のように伝えていました。
「すごく悲しい」高須院長が議員に直接訴えるも…愛知県知事のトリエンナーレ巡る不信任決議求める請願は“不採択”
高須氏、2日、愛知県議会の委員会にて
愛知県の大村知事に対するリコール運動を進めている高須クリニックの高須院長。2日、愛知県議会の委員会で、大村知事の「不信任決議」をするよう、議員に直接訴えました。
高須院長はあいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」の内容や運営を巡り、大村知事の対応に問題があったとして6月、「不信任決議」を求める請願を県議会に提出していました。
2日開かれた議会運営委員会ではその請願が取り扱われ、高須院長は「大村知事はあいちトリエンナーレの開催で日本を愛する人々を深く傷つけた」として、不信任決議をするよう求めました。
これに対し出席した議員からは、「トリエンナーレには多くの問題があったが、この案件だけで信任・不信任を決めるべきではない」という意見が出され、全員一致で請願は不採択となりました。
高須院長:「初めからこういう結果になるだろうということは思っていたんですけど、活発な討論が少しは行われるかと思ったら全くなしで。これが民主主義かなと思うとすごく悲しい」
何やら、この記事を読んでいると、尻切れとんぼで、あたかも高須院長のリコール運動そのものが終わってしまったかの印象を受けます。そうではありません。高須氏は委員会終了後、報道陣に「悲しい思いになった。(県議会も)一緒にリコールを働きかけようかな」と話したことが他のメディアで報道されています。

県議会が不採択をしたという 事実が報道されたということは、 テレビ局の思惑はどうあれ、 県議会のスタンスを世に、特に愛知県民に広めてくれたと思います。 リコールが成功すれば、 県議会のスタンスが正しいのかどうかも 問われる事になるでしょう。 新知事の脇を固める県会議員の準備は すでに始まっているのかもしれません。

ブログ冒頭の記事の有本氏のいうとおり、現在まで都道府県知事のリコールは、過去に例がありません。ただし、市町村長のリコールなら過去に何度かあります。

特に、鹿児島県阿久根市のリコール運動については、覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。

2008年8月31日、竹原氏が阿久根市議会議員を辞職して、阿久根市長選挙に立候補し、初当選。

2009年2月6日、阿久根市議会が市長不信任決議案を全会一致で可決し、同月10日、竹原は市議会を解散しました。2009年4月17日、出直し市議会議員選挙後初めての市議会臨時会において、再び市長不信任決議案が提出され、賛成11、反対5の賛成多数で可決し、失職しました。これに伴い、同年5月31日に投開票が行われた出直し市長選挙に出馬し、再選を果たしました。

2010年には、阿久根市で養鶏業を営む西平良将ら、「反竹原」を掲げる市民グループにより市長解職請求が行われ、2010年12月5日に投開票が行われた解職の是非を問う住民投票において、解職賛成票が過半数を占めたため、市長を再度失職。復職を狙い、2011年1月16日執行の出直し市長選挙に立候補したが、約850票差で西平良将に敗北しました。

失職した竹原氏
2008年に竹原氏が市長に当選して以来、迷走を続けていた阿久根市議会にとって大きな転機となる出来事でした。

同年もう一つの顕著な例が名古屋市でした。名古屋市でもリコール、住民投票、再選という同様のサイクルが繰り返さました。ただし、こちらの場合、河村たかし市長は、議論を呼んでいる自らの政策について住民の意思を問うため辞任し、2011年初めに70%という圧倒的得票率で再選を果たしました。

当時の河村市長

また、同日行われた市議会解散の是非を問う住民投票では、賛成が過半数に達し、解散が決定しました。出直し選は3月13日に行われました。河村市長が議会と対立する原因となった主な政策は、市民税の10%削減と市議報酬の800万円への半減案でした。

河村氏と共に勝利を祝ったのが、同日行われた任期満了に伴う愛知県知事選で、やはり住民税減税を公約に掲げて当選を果たした大村秀章氏でした。両氏の勝利は、当時米国の茶会党に似た、既存体制を敬遠する新たな地域政党の台頭を示すものとされました。

元民主党議員の河村氏は、昨年4月、太平洋の向こう側で興隆していた茶会党の動きに呼応するかのように、自ら地域政党「減税日本」を立ち上げ、選挙に臨みました。元自民党議員の大村氏も、選挙にあたって自らの政党「日本一愛知の会」を結成しました。

このような、河村氏と、大村氏ですが、今回はリコールする側の河村氏と、リコールされる側の大村氏ということで、なんとも皮肉な話です。

それにしても、元々は国会議員だった二人ですが、片方はリコールを受けても、再当選し、市民から愛される市長になり、片方は、とんでもない知事になってしまいました。

この戦いまだ、始まってもいません。戦いの火蓋は8月1日に切っておとされるのです。

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2020年7月1日水曜日

香港「一国二制度」崩壊! 中国の横暴に日米英は批判強める 習氏「国賓」来日は中止が決定的に…日程再調整の機運なし— 【私の論評】これで今生天皇陛下の中国訪問は、中共がこの世から消えるまでなくなった!(◎_◎;)

香港「一国二制度」崩壊! 中国の横暴に日米英は批判強める 習氏「国賓」来日は中止が決定的に…日程再調整の機運なし 
第2の天安門に!?香港デモ

28日、「香港国家安全維持法」案を審議する中国全人代常務委員会の分科会=北京

 中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は6月30日、「香港国家安全維持法」を可決・成立させ、香港政府は即日、同法を施行した。習近平国家主席率いる中国政府による統制強化は確実で、香港市民が死守しようとした「一国二制度」は事実上崩壊した。広がる共産党独裁への恐怖。自由主義国である米国や英国、日本などから批判が広がっており、習氏の「国賓」来日も中止決定となりそうだ。

 「この重要な法律を徹底的に遂行する」

 習主席の最側近、中国共産党序列3位の栗戦書・全人代常務委員長(国会議長)は会議閉幕に際し、こう強調した。

 同法によると、国家分裂や政権転覆、外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えるといった行為が処罰対象となる。最高刑は無期懲役。中国本土と同様、共産党や政府に批判的な言動も犯罪として取り締まられる懸念がある。

 「自由・民主」「基本的人権」が奪われる暗黒時代の到来に、民主派団体は震えているようだ。

 2014年の香港大規模民主化デモ「雨傘運動」を率いた政治団体「香港衆志(デモシスト)」は同日、SNSで解散を宣言した。「民主の女神」と呼ばれた周庭(アグネス・チョウ)氏(23)らも脱退を表明した。

 中国の横暴に、自由主義諸国は批判を強めている。

 ドナルド・トランプ米政権は、新たな制裁を検討している。国家安全保障会議(NSC)の報道官は6月30日の声明で、「中国が香港を『一国一制度』として扱うなら、米国も同様の対応を取る」と強い対抗策を示唆し、中国政府に姿勢を改めるよう求めた。

 香港の旧宗主国である英国のドミニク・ラーブ外相は「中国は香港市民との約束を破り、国際社会への義務に反した」とツイッターで批判した。

 日本政府も強い姿勢を示した。

 茂木敏充外相は同日夜、「国際社会は『一国二制度』の原則に対する信頼に基づき香港との関係を構築してきており、法律の制定はこのような信頼を損ねるものだ」と、中国を批判する談話を発表した。

 「ポスト安倍」の河野太郎防衛相も記者会見で、正式発表に先立ち可決を伝えた香港メディアの報道を踏まえて、「事実なら、習主席の『国賓』来日に重大な影響を及ぼすと言わざるを得ない」と言い切った。

 習氏の「国賓」来日は、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受けて、年内の実施見送りが固まっていた。香港への統制強化も加わり、日本国民が習氏を温かく迎える状況にはない。日本政府としても日程を再調整する機運はなくなったといえる。

【私の論評】これで今生天皇陛下の中国訪問は、中共がこの世から消えるまでなくなった!(◎_◎;)

香港民主派が望んでいた国際社会からの助けはとうとう来ませんでした。中国で国家安全法が成立した今、身の危険もある彼らは民主化団体を脱退して身を隠しました。

     香港民主派チョウ(左)とウォンを見殺しにしたのか(写真は2019年8月、
     デモ扇動の疑いで逮捕され、釈放された2人)
この法律は全6章66条からなります。国家分裂、政権転覆、テロ活動、海外勢力と結託して国家安全に危害を加える罪には、最高で無期懲役を科すと定めました。

香港政府の行政機関への攻撃や破壊は政権転覆罪にあたるほか、交通網の破壊はテロ活動罪に相当する。香港では昨年、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模デモが起き、地下鉄施設や政府機関が“標的”となりました。中国当局はこれらを念頭に条文を作成したとみられます。

同法の要旨を以下にまとめます。

*国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託の4種類の活動を犯罪行為と定め、最大で終身刑を科す。

*香港国家安全維持法に違反する企業やグループに罰金を科す。操業や活動停止が命令される可能性もある。

*輸送機器などの損傷はテロリスト行為と見なされる。

*香港国家安全維持法違反者は香港におけるいかなる選挙にも立候補できない。

*中国が香港に新設する「国家安全維持公署」、および同署の職員は香港政府の管轄外に置かれる。

*当局は、国家安全を危険にさらす疑いが持たれる人物の監視、電話盗聴を行うことができる。

*香港国家安全維持法は香港の永住者、非永住者の双方に適用。

*香港国家安全維持法の下で外国の非政府組織(NGO)と報道機関の管理が強化される。

香港住民でない外国人までを「香港国家安全法」の適用対象とした習近平政権はもはや、世界の主人となって世界中の人々を支配てしまおうとするような狂気にとられているようです。しかしそれでは彼ら自身はもはや人類共通の敵、習近平政権こそはこの地球の癌ということになってしまいます。

習近平
香港国家安全維持法は、6月30日午後11時(日本時間7月1日午前0時)に施行されました。5月下旬の全国人民代表大会(全人代)で国家安全法制の香港への導入が決められており、それから約1カ月での異例のスピード施行とななりました。

日本を含む27か国は6月30日、香港で施行された国家安全維持法は同市の自由を「害する」として、中国に対し再検討を求める共同声明を発表しました。

27か国はまた、中国西部・新疆ウイグル自治区へのミチェル・バチェレ人権高等弁務官の「有意義な立ち入り」を許可するよう中国に求めました。

ミチェル・バチェレ人権高等弁務官

日本のほか英、仏、独などが署名した声明は、スイス・ジュネーブの国連人権理事会で、英国のジュリアン・ブレイスウェイト在ジュネーブ国連大使が各国を代表し読み上げました。同理事会で中国が口頭で非難されるのは異例です。

27か国は声明で、香港国家安全維持法が香港市民の人権に明確な影響を及ぼすとして、「深く、高まる懸念」を表明。香港の住民や立法・司法組織の直接的な介入なしに同法を成立させたことは、「一国二制度」が保障する高度な自治と権利、自由を「害する」ものだと主張しました。

声明はまた、「この声明に署名した複数の国が、新疆ウイグル自治区でのウイグル人など少数民族の恣意(しい)的な拘束、広範囲にわたる監視や制限をめぐり、懸念を表明する書簡を昨年提出した」と指摘。「これらの深い懸念は、このたび公になった追加情報により高まった」と述べました。

新疆ウイグル自治区をめぐっては6月29日、中国当局が人口抑制策としてウイグル人など少数民族の女性に対し不妊手術を強制しているとするドイツ人研究者による報告書が発表されています。

これで、習近平と中国は世界の敵になりました。中国と世界の関係は、天安門事件直後の関係に戻ることでしょう。天安門事件の時には、現在の上皇陛下が天皇陛下であったときに、中国に訪問され、結果として、中国は国際社会に復帰することができました。

しかし、尖閣問題などで、中国にしばしば掌返しをされてきた日本は、習近平の国賓待遇での来日は無論ありませんし、今生天皇が中国を訪問することもないでしょう。

あるとすれば、中国の体制が変わって、共産党が崩壊し、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を前提とする民主中国が出来上がった時です。それ以外はありません。さようなら、中共。

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井俣憲治町長によるハラスメント事案について―【私の論評】自治労の影響力低下と保守化の潮流:日本の政治に与える影響と自民党の凋落

井俣憲治町長によるハラスメント事案について 井俣憲治町長 町長によるパワハラ・セクハラの被害を受けた、または目撃したとする町職員によるアンケート調査結果を重く受け止め、事案の全容解明のため、町および町長から独立した第三者委員会を設置し、調査を進める。 10月下旬に職員がアンケー...