2021年4月13日火曜日

海洋放出決定たまり続ける「処理水」とは?―【私の論評】「汚染水」煽りができなくなったマスコミは「風評被害」煽りに切り替え、歴史の徒花になろうとしている(゚д゚)!

海洋放出決定たまり続ける「処理水」とは?

東京電力福島第1原発の敷地内に林立する貯蔵タンク

■全く違う「汚染水」と「処理水」

福島第一原発では放射性物質に汚染された水が現在も毎日約140トン出続けている。10年前に起きた事故で1~3号機の原子炉内にあった核燃料が溶け落ちて固まり、現在も熱を発している。これを放置すると、高濃度の放射性物質がさらに漏れ出すことになりかねない。そのため、水をかけ続けることで冷やしているが、溶け落ちた燃料に触れた水は放射性物質を含むようになる。さらに、建物に地下水や雨水が入り込むことで水の量が増えている。これが「汚染水」だ。

汚染水に含まれるほとんどの放射性物質は「ALPS(アルプス)」と呼ばれる装置で取り除くことができる。こうして浄化処理された後の水が「処理水」と呼ばれている。つまり、汚染水と処理水は全く異なるものだ。

これまでは処分方法が決まっていなかったので、年間約5~6万トンずつ増える処理水も保管し続けなければならなかった。福島第一原発の敷地内には、現在、1000基を超えるタンクがある。しかし、このタンクの容量も来年の秋以降、限界を超えるとされている。

政府は、処理水の処分方法について、事故直後から検討してきた。その結果、まず、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を徹底したうえで、最後まで残る「トリチウム」が基準値を下回るまで十分薄めてから海に放出することを決定した。

■処理水に含まれる「トリチウム」

それでは、処理水に残ってしまう放射性物質トリチウムとはどのような物質なのか。実はトリチウムは水素の仲間で、雨水や人体などにも微量ながら存在している。トリチウムは水と同じ性質を持つため、トリチウムだけを処理水から分離することが難しい。そのため、処理水を海水で100倍以上に薄め、国で定めている濃度限度の40分の1にして放出する方針だ。

これは、世界保健機関(WHO)で定める飲料水のガイドラインと比べても、7分の1にあたる。実は、日本を含めた世界の原子力施設でもトリチウムは発生しており、施設のメンテナンスの際などに薄めて海に放出されている。経産省によると、例えば、韓国の古里原発で液体として放出しているトリチウムの量は年間約55兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理工場では年間約1.4京ベクレルに上るという。福島第一原発でも事故前にはトリチウムを出していた。

今回決まった基本方針では、トリチウムの年間の放出量について福島第一原発が事故前に通常運転していた時に目安としていたのと同じ、「22兆ベクレルを下回る水準」とした。まずこの水準で放出を始め、量については定期的に見直すという。

■処理水放出に向けて

今後、処理水を海洋放出する前にトリチウムの濃度を薄める必要があるが、そのためには処理水と混ぜる海水を取り込むためのポンプなど、新たな設備が必要となる。また、浄化処理が途中のままタンクに保管されている汚染水は、ALPSでもう一度、処理をしてトリチウム以外の放射性物質が確実に基準を下回るまで取り除いておく必要がある。

そのため、実際に海洋放出が始まるまでには2年程度かかる見通しだ。そして、2年後に放出が始まったとしても、全ての処理水を放出し終えるには、約30年かかるという試算もある。

■漁業関係者の強い懸念

地元の反対は根強い。事故後、福島県では、安全性を確かめるため漁の回数を制限した形で操業してきた。今月からようやく事故前の水準に戻そうと移行し始めた矢先の決定に、漁業関係者は反発している。

そのため政府は今回、放出前後に漁場などでトリチウムの検査を行い、風評被害の対策を強化したうえで、それでも生じた風評被害には原発を持つ東京電力が賠償することを担保する方針だ。政府や東京電力は、処理水への理解を広げ、風評被害をできるだけ抑えることが必須の課題だ。

【私の論評】「汚染水」煽りができなくなったマスコミは「風評被害」煽りに切り替え、歴史の徒花になろうとしている(゚д゚)!

世界でも「処理水」の海洋への放水を実施しています。にもかかわらず、日本だけ風評被害が起こるというなら、それはマスコミ以外にありません。

2019年9月、大阪市の松井一郎市長は、記者会見で「メディアは汚染水という表現はやめた方がいい。あれは処理水」とした上で、一部メディアを名指しして批判しました。その上で、福島第1原発処理水の大阪湾放出に応じる意向を示し、話題を呼びました。

処理水を大阪湾に放出という松井市長の意見は決してとっぴではなく、世界中で行われているものです。あえて大阪湾といったのは、風評に科学が負けてはいけないという強い信念をわかりやすく言ったものでしょう。

クリックすると拡大します

菅政権としても、無害な処理水をいつまでも貯蔵しているつもりはありませんでした。当たり前のことを行うというのが、菅政権のモットーなので、処理水放出の決定は時間の問題でした。

しかし、一部マスコミは、原発「処理水」を「汚染水」と呼び続けてきました。一昨年の松井発言による問題提起から、見出しでは「処理水」という用語を使うようになったものの、記事では「汚染水」を使っているものもありました。見出しで「処理」としていても、文中では「処理済み汚染水」「汚染水」という言葉を使う報道もありました。現在でも「汚染処理水」としているところもまだあります。

こうした不正確な言葉を使い続けた一部マスコミの報道姿勢こそが、誤解と風評被害を拡散させてたのです。約2年前にニュースサイトで「科学を振りかざすな」と朝日新聞は発言しました。客観的な事実を無視して、感情であおってきたと自ら認めたようなものです。

米国務省プライス報道官は声明を発表し、処理水の海洋放水決定について「選択肢と効果を検討し透明性を保ち、世界的な原子力安全基準に従った方法を採用したようだ」として、認める考えを示しました。

日本の処理水海洋放水を認めた米プライス報道官

一方、韓国・ソウルの日本大使館前では市民団体が「海洋放出ではなくタンクを増設して長期間保管し代案を探すべきだ」などと主張しました。また、韓国政府は緊急会議を開き、「強い遺憾」を表明しました。

なにやら、この構図、「慰安婦問題」にも似ていまいます。慰安婦問題では、最初に朝日新聞が、当時の記者植村氏の書いた誤った記事を掲載し、それが発端となり、韓国で反日運動が、活発になりました。それまでは、韓国でも反日運動はありましたが、今日のような苛烈なものではありませんでした。

慰安婦問題などにみられるように、日本のメディアが煽り、韓国がそれを反日に利用するという一定の構造があるようです。まさに、マッチポンプそのものです。

しかし、今回はそうはならないでしょう。これ以上、マスコミが「汚染水」で煽り続ければ、国民はますます離反していくことになるでしょう。

それを敏感に察知したマスコミは、今度は「風評被害」で煽っています。「風評被害」があっても、「処理水」海洋放水を断行する政府というイメージを植え付けようと躍起になっています。

しかし、これに簡単に煽られるほど、無垢な人はそうはいないと思います。慰安婦問題、放射能問題それに続く汚染水問題、それだけでなく「もりかけ桜問題」やコロナ感染煽りでマッチポンプにさらされた多くの人々は、もういい加減にうんざりしていると思います。

この上マッチポンプに煽られるのは、毎日ワイドショーを視聴している一部の老人たちだけでしょう。

風評被害を煽るTVのニュース画面

このようなマスコミは、もういりません。このブログでも、マスコミの寿命あと10年であるとの根拠を掲載しましたが、もうその前に消えてほしいです。マスコミの消滅を危惧する人もいるようですが、私はそうは思いません。

現在のマスコミが消滅すれば、必ずそれを補完する集団がでてくるはずです。それも、日本を貶めたり、国民を互い反目させて分断させること、権力を悪と決めつけその悪と対峙することなどを使命とするのでなく、事実をなるべく客観的に伝えようとする真のジャーナリズムが興隆してくるはずです。無論全部がそうなるとは思いませんが、一部にはそのようなメディアがでてくるはずです。

その日が来るのが楽しみです。

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2021年4月12日月曜日

イランの主要核施設で爆発、「モサドのサイバー攻撃」か―【私の論評】日本は政府・個人レベルで、イランの例を他山の石とせよ(゚д゚)!

イランの主要核施設で爆発、「モサドのサイバー攻撃」か

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 イラン国営メディアなどによると、同国の核開発の中枢である中部ナタンズの核施設で11日、爆発があり、電力が全面的にダウンした。イラン原子力庁のサレヒ長官は「核テロ」と非難した。イスラエルの公共放送などは「イスラエルの対外特務機関モサドのサイバー攻撃」と伝えている。ウィーンのイラン核合意の米復帰協議にも影響を与えるのは必至だ。

10日、テヘランで行われた核開発に関するイベントに参加したロウハ二師

新型遠心分離機の稼働を標的


 ナタンズの核施設はこれまでにも、イスラエルによるものと見られる破壊工作を受けてきた。昨年7月にも施設が爆破、放火される事件が起こり、モサドの作戦とされてきた。今回の爆発について、イラン原子力庁は当初、事故で損害もなかったと発表していた。しかしその後、サレヒ長官は名指しを避けながらも「核テロ」と破壊工作によるものであることを明らかにした。

 長官は今回の事件が「イランの核開発や制裁解除の協議に反対する連中の敗北を示すもの」と指摘した。米ニューヨーク・タイムズが情報当局者の発言として報じるところによると、核施設は爆発により、地下に設置した遠心分離機に電力を供給するシステムが破壊されるという大きな損害を被り、復旧には「少なくとも9カ月は必要になる」という。

 イスラエルの公共放送KANは情報筋の話として、「モサドによるサイバー攻撃だった」と伝え、またニューヨーク・タイムズも情報当局者の発言として、イスラエルによる秘密作戦のようだと報じた。イスラエルのコチャビ参謀総長はナタンズの事件には直接言及しなかったものの「イスラエルの安全を守るために引き続き行動する」と決意を表明。ネタニヤフ首相は同夜、独立記念日前の演説で「イランやその代理人との戦いは重要な任務だ」と言明した。

 イランは爆発があった前日、この施設で改良型の遠心分離機「IR6型」を新たに稼働させたばかり。式典でロウハニ大統領はイランの核開発があくまでも平和目的であることを強調したが、モサドの作戦とすれば、彼らは最新型の遠心分離機が本格的に稼働したタイミングを狙って攻撃したことになる。

 今回の事件で注目すべき問題が3つある。1つ目はイスラエルの破壊工作だとして、イランが今後、報復に出るのかどうかだ。イランの最優先課題は米国による経済制裁の解除であり、これを困難にさせるような報復行動などには出ないとの見方が一般的だ。昨年11月にイランの核開発の父といわれる科学者ファクリザデ氏がモサドと見られる作戦で暗殺された時にも、報復行動は起こさなかった。

 2つ目はモサドの犯行として、米国に事前に通告があったのかどうかだ。イラン革命防衛隊の軍用船が紅海で先週、イスラエルによる攻撃を受けた際には、事前に米国にイスラエルから通告があった。今回、ナタンズの核施設で爆発があった11日には、オースチン米国防長官がバイデン政権の高官としては初めてイスラエルを訪問した日。事前通告があったかどうかは微妙なところだろう。

 米国とイスラエルは10年前のオバマ米政権当時、イランの核開発を妨害するため、共同で「スタックスネット」というウイルスを開発し、ナタンズの核施設をサイバー攻撃、一時的に遠心分離機の稼働を停止させたことがある。この作戦は「オリンピックゲーム」と名付けられていた。3つ目は現在ウィーンで行われているイラン核合意への米復帰協議にどのような影響が出るかだ。

バイデン政権のメッセージ

 イランのロウハニ政権はバイデン政権の直接対話の呼び掛けをいったんは拒絶して見せ、欧州連合(EU)の仲介による米国との間接交渉を受け入れた。これは政権の思惑通りの展開だった。「米国にすり寄るのか」という保守強硬派の非難をかわし、制裁解除に向けた方向に舵を進めることができたからだ。

 ナタンズに新型の遠心分離機を設置したのも今後の交渉で、欧米に対する「圧力という手札」を増やそうと考えたからだろう。それでなくてもイランの合意破りは加速し、昨年11月の時点で、低濃縮ウランの貯蔵量は合意で定められた上限の12倍の2.4トンにまで増加、核爆弾製造に近づく濃縮度20%のウラニウム量は55キロに達していた。

 しかし、その手札が今回の破壊工作で消失してしまったのはロウハニ政権にとっては計算外であり、交渉で譲歩を促進させる要素になり得るかもしれない。保守穏健派のロウハニ大統領の任期切れに伴う大統領選挙が6月18日に迫っており、それまでに制裁解除の道筋をある程度はっきりさせたいというのがロウハニ政権の本音だ。さもないと、保守強硬派候補の当選の可能性が高まってしまうからだ。

 反米の保守強硬派政権が誕生すれば、米国の核合意復帰と制裁解除はロウハニ政権下よりも相当難しくなるだろう。バイデン政権にとっても、イラク駐留軍の撤退などで中東のプレゼンスが低下しつつある中、イランにこれ以上の反米政権ができるのは回避したいところ。つまり、ロウハニ、バイデン両政権の思惑は今や、大きくかけ離れてはいない。ナタンズの爆破事件を契機に、イランと米国の間接交渉が進む可能性がある。

 これは核合意の米復帰に反対するイスラエルにとっては好ましくない展開だ。だが、バイデン政権はイランに核武装させない最善の道は当面、米国が核合意に復帰し、イランにその枠組みを順守させることだという考えを変えていない。その観点から言えば、新政権発足後、イスラエルを訪問する最初の高官が国務長官ではなく、オースチン国防長官だったのは意味がある。

 イスラエルの専門家はバイデン政権が「米国は安全保障問題ではイスラエルと協力するが、政治問題では慎重に対処する」というメッセージを送ったものではないか、と指摘している。要は「核合意の復帰協議には口出しするな」ということではないか。イラン核合意をめぐる交渉は米国とイラン、そしてイスラエルのそれぞれの思惑をはらみながら一段と複雑な様相を見せてきた。

【私の論評】日本は政府・個人レベルで、イランの例を他山の石とせよ(゚д゚)!

サイバー攻撃の問題は、今回のように、国が対外政策の一環として使いうることです。

世界の安全保障に大きなかかわりを持つ国々は、いずれもサイバー軍を持っています。米国では2005年3月に、サイバー戦争用の部隊であるアメリカサイバー軍を組織したことを公表しました。

ロシアではロシア連邦参謀本部情報総局(GRU)のほか、ロシア連邦保安庁(FSB)などがサイバー戦に従事していると見られています。中国については、2011年5月、国防省の報道官が、広東州広州軍区のサイバー軍の存在を認めています。

イスラエルでは、国防軍参謀本部諜報局傘下の8200部隊がサイバー戦の主力と言われています。今回のイランの主要核施設で爆発に関わっている可能性もあります。北朝鮮は約7000人規模のサイバー軍を持っていると推測されています。

イスラエルのサイバーセキュリティーを支える8200部隊

過去においては、国レベルのサイバー攻撃については、特定の政治的目的のため行われるケースが目立ちました。米国とイスラエルが2010年、Stuxnetと称する不正ソフトウェアでイランのウラン濃縮施設をサイバー攻撃し、遠心分離機を破壊したことが典型的な例です。

2016年の米大統領選挙に関し、ロシアが米民主党の全国委員会のシステムに侵入し、幹部の電子メールなど大量の重要情報を盗み出したことがロシアによる米大統領選挙への不正介入であるとして問題化しました。

2020年の大統領選挙でも、このようなことは、おそらくあったことでしょう。これについては、徐々に明らかにされていくことでしょう。

しかし、サイバー攻撃が、このような政治的目的に限られず、軍事目的のために使われる危険は常に存在します。実際今回のイスラエルによるサイバー攻撃は、それに類するものと言っても良いです。

電力、鉄道などのインフラが狙われる危険は夙(つと)に指摘されており、さらにサイバーが、従来の兵器と同様に軍事作戦の一環として使われる可能性は現実のものと考えられるようになっています。

米国では2011年に国防総省が「サイバー空間作戦戦略」を発表し、それに合わせて、サイバー兵器を武器弾薬のリストに加え、サイバー兵器を通常兵器と同様に扱うようになっています。

サイバーは目に見えない兵器であるとともに、誰が使用したかの特定が容易でないので、戦力の比較、戦闘の形態の予測などが困難です。サイバー攻撃に対する抑止が可能かという問題もあります。

日本のサイバー対策と言えば、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)と、自衛隊に設置されているサイバー防衛隊が海外でも知られています。しかしこの両者はまだ十分には連携がうまくできていません。

内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)と「ラブライブ!サンシャイン!!」Aqoursとの
コラボポスター

サイバー防衛隊は基本的に防衛省と自衛隊を守るものであり、「日本のサイバー政策の司令塔的存在」であるNISCと協力しながら、国家への脅威に直接対峙することはありません。日本では各省庁がそれぞれ独自のサイバー対策を行なっており、NISCがそれを取りまとめているのですが、NISCからすると、防衛省もそれらの省庁のひとつに過ぎないという解釈にもなります。

サイバー攻撃の危険が高まるにつれ、サイバーを含む武力紛争は、新しい戦略論を必要としています。経済産業省の有識者会議は17日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関などを狙ったサイバー攻撃が海外で頻発していることから、セキュリティー対策に万全を期すよう産業界に注意喚起を行っています。

さらに、国内の各企業では、テレワークを導入する動きが急速に進んでいます。これを狙ったサイバー攻撃も想定されることから、必要な対策を講じることを提起しました。

「産業サイバーセキュリティ研究会」(座長=村井純・慶応義塾大学教授)で、事務局が示しました。梶山弘志経産相は冒頭、防衛技術へのアクセスを狙ったサイバー攻撃が今年に入り相次いでいることに言及。海外では、新型ウイルスの感染者に対応する医療機関でも被害が発生しているとし、対策の必要性を訴えました。

経産省によると、スペインや英国、米国などではコンピューターのファイルが暗号化され、端末を使用できなくする「ランサムウエア」によるサイバー攻撃が増加。病院など医療関係機関が狙われ、ITインフラが使用できなくなったり、個人情報が盗み取られる被害が起きています。

日本で同様の事例はまだないものの、対策の必要性があると判断し、産業界向けのメッセージとして発出することを決めました。具体的には、新型ウイルスをかたる不正アプリや詐欺サイトなどへの注意をあらためて喚起。機器・システムに対し、アップデートなど基本的な対策を可能な限り講じるよう求めました。

また、テレワークでは企業の管理が及ばないため、ここを拠点に侵入被害が生じる恐れがあります。このため、情報資産やネットワークへのアクセスの継続的な監視・強化、システムの階層化、子会社・海外拠点を含めた体制の整備を促しました。

これからは、国境なきサイバー空間で起きる紛争や攻撃に対して、もう少し踏み込んだ連携を模索すべきです。

私自身の対策としては、インターネットに接続するときには、なるべくChromebookを用いるようにしています。実際、GoogleはChromebookのセキュリティの素晴らしさを大々的にアピールしています。

Chromebookが安全なのは事実です。Chrome OSは全てのアプリケーションを独自のサンドボックス環境で実行するため、システムの他の部分は変更されません。また、Chrome OSは.exeファイルを実行できないため、ほとんどのマルウェアはChromebookにインストールできないような仕組みになっています。このようなセキュリティ対策によりChromebookがウイルスに感染するのはほぼ不可能です。


ただ、Chromebookのユーザーはセキュリティの脅威から100%安全とはいえません。Chrome OSの端末自体はウイルスに感染しにくいのですが、Chromebookのユーザーでもスパイウェア、フィッシング詐欺、データ漏洩などからは身を守れません。サイバー犯罪者はクロームブックでも個人情報を危険にさらしたり、データを盗んだり、ネットのアカウントをハッキングしたりできるのです。

これらを防ぐためには、Chromebookでもウイルス対策ソフトは必須となります。ただ、普段から使っているサイトを使うだけであれば、他のOSなどと比較すれば、かなり安全であることは間違いないと思います。

最近小中学校などで、chromebookの導入がかなり増えていますが、これは安いだけではなく、こうした脅威に備えるという意味もあるのだと思います。

もう一つの方法としては、ブラウズするときには、BRAVE等のブラウザーを用いるという手もあります。これは、広告トラッカーをブロックすることで、最高のスピードとセキュリティを実現、プライバシーを保護します。

日本では、政府・個人レベルでも今回のイランの事件を他山の石として、将来のサイバー攻撃に備えるべきです。

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2021年4月11日日曜日

ケリー米環境特使、中国訪問か サミット協力取り付け 米紙―【私の論評】ケリー氏はバイデン政権の対中政策の試金石となる(゚д゚)!


インド財務省を出て手を合わせるケリー米大統領特使=6日、ニューデリー

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は10日、バイデン政権で気候変動問題を担当するケリー大統領特使が、近く中国・上海を訪問する見通しだと報じた。

  実現すれば、同政権閣僚級による訪中は初めてとなる。米国が22、23日に主催する気候変動の首脳会議(サミット)を控え、世界最大の温室効果ガス排出国である中国の協力を事前に取り付ける狙いがあるとみられる。

【私の論評】ケリー氏はバイデン政権の対中政策の試金石となる(゚д゚)!

ケリー氏については、その胡散臭さをこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ボトムアップのバイデン政権、「親中」否定の動きは歓迎も…気にかかるケリー特使の動向 下手をすると、中国に人権を売りかねない ―【私の論評】いざという場合には、QUAD諸国はケリー氏をペルソナ・ノン・グラータに指定してでも結束せよ(゚д゚)!
ケリー大統領特使(気候変動問題担当)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
ケリー当時国務長官は、ジョンズホプキンス大学のSAISで行った米中関係に関する演説において、米中関係の強化がリバランス戦略の鍵になる要素であることに疑いの余地は無いとして、「今日の世界において、最も重要なのは米中関係であるということだ。米中関係が21世紀の姿を決める大きな要因になる」と述べていました。

クリントン国務長官の退任以降、米国のアジア回帰が変質していることがしばしば指摘されていましたが、ケリーが演説(2013年1月24日、上院公聴会での演説のこと)で提示した4つの柱は、改めてそのことを示していました。
オバマ政権が、中国を刺激しないよう、事実上の「中国封じ込め」としてクリントンが提示したアジア回帰を変容させた、という分析は、その通りでしょう。当時のオバマ政権が言う「アジア重視」は、もはや「中国重視」であると言っても過言ではなかったように思います。ケリー氏が4つの柱の一つとして挙げている気候変動対策については、早速、11月の米中首脳会談で、両国の削減目標で合意に達し、世界の耳目を集めました。
結局アジア回帰と語ったオバマ政権が実際には中国重視の政策に転じたことの理論的背景をケリー氏が主張していたということです。これは、現在の我々からも見逃せない点です。

さらに、この記事では、現在のケリー氏によってバイデン政権が再度対中宥和政策に傾く可能性を指摘しました。その部分を以下に引用します。

"
いずれ、気候変動対策の大統領特使になった『親中派』のジョン・ケリー元国務長官が中心に出て、対中宥和を打ち出す可能性はかなり高いです。日本としてしては、要注意です。

昨日の記事では、温暖化について以下のように述べました。
温暖化は中国にとっての格好の隠れ蓑になるかもしれません。今の中国は昨日も述べたように失業者が2億人ともされています。そうなると、消費活動は停滞し、産業活動も停滞するはずです。にもかかわらず、中国は昨年の経済成長は2.3%であり、奇跡的なV字回復をしたことにしています。

経済が停滞した、中国では今後温暖化目標など、何もしなくても達成できる可能性が大きいです。しかし、習近平は中国の努力によって、達成したように見せかけるでしょう。

中国は、故がなく、経済成長2.3%の数字を出すはずはありません。習政権は、これを前面に打ち出し、中国が温暖化で大成功したように見せかけるつもりかもしれません。

この大成功をケリー氏が利用して、中国への宥和政策への転換をはかる可能性はかなり高いです。

"
もしこの筋書き通りになれば、日本やEUそうして、米国自体も温暖化目標達成に苦しみ、中国は難なくこれを達成し、しかもこの方面での存在感を増すことになります。さらに、バイデン政権もオバマ政権のように中国に対して融和的になれば、目も当てられない事態になります。

この記事には、ケリー氏の胡散臭さをあげましたが、もう一つ書き忘れていたことがありましたので、以下に掲載します。

2014年8月東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムなどに出席するためミャンマーの首都ネピドー(Naypyidaw)を訪れていた米国のジョン・ケリー(John Kerry)当時国務長官は、米国商務省資産管理局による制裁対象(Specially Designated Nationals:SDN)にリストアップされている人物がオーナーのホテルに宿泊したとして、欧米諸国で話題となっていました。

当時のテイン・セイン大統領が主導する政治改革に対し、米政府は長期にわたる制裁をほとんど解除しました。しかし、ミャンマーへの投資を約束した上で、一部の個人や企業に対しての制裁は残していました。

SDNリストに載る企業や個人は、かつての軍事政権との密接な関係により多額の利益を得ているとされ、米企業と事業を行うことを禁止されていました。実際のところ、ミャンマーの大手企業や有名企業の多くがSDNにリストアップされていました。

皮肉にも、当時のケリー国務長官が宿泊したのは高級ホテルであるレイク・ガーデンで、制裁リストに載るザウザウ氏(Zaw Zaw)が所有するマックス・ミャンマーが運営していたのです。

レイクガーデン ネピドー

ケリー国務長官はネピドーで、ミャンマーに対する米政府の制裁が残されていることの重要性を主張しました。しかし、皮肉にも自身がブラックリストに載るホテルに宿泊したことで、メッセージは何の意味も持たないものになってしまったのです。

当時の国務省報道官はケリー国務長官はいかなる規則にも違反していない旨を伝えていました。しかし、これは規則違反だけの問題だったのでしょうか。

さて、2021 年 2 月 1 日に発生したミャンマー国軍による政権掌握を受け、米国バイデン大統領は、即日、「同国の民主化進展の逆行 により、米国は直ちにわが国の制裁法を再検討の上、適切な措置を取らざるを得ない」との声明を出し、米国が 2016 年以降解除 していたミャンマー向け経済制裁を復活させるかどうか、注目されていました。

同年 2 月 10 日、バイデン大統領は、ミャンマー関連の制裁に関する大統領令 に署名し、同 11 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、大統領令に基づき、ミャンマー の軍事関係者や企業等を、資産凍結等の制裁対象となる個人や組織等のリスト(SDN リスト)に掲載しました。

また、同日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、ミャンマーの軍関係当 局に対する輸出、及び、ミャンマーが米国の友好国であることを理由に認められてきた機微度の高い貨物、ソフトウェア及び技術 のミャンマーへの輸出規制を強化することを公表しました 。

このSDNリストを過去に台無しにしかねなかった、ケリー氏です。その彼が、バイデン政権閣僚級による最初の訪中をするのです。

ケリーがとのような話をするのか、どのような約束をするのか、要注意です。

バイデン政権の対中国政策は、最近では「言葉」では中国に対して厳しいことを言っていますが、言葉では厳しいことはいえます、かつてのオバマ政権もアジアに回帰するとして、リバランス政策を実行すると言葉ではいいましたが、結局はそうはなりませんでした。

      2014年エアフォースワンに乗りこむオバマ大統領。この時の
      アジア歴訪は、「リバランス」への理解を求める旅だった

言葉だけで、行動が伴わなければ、その言葉はなかったのと同じです。バイデン政権の対中政策もどうなるのか、まだわかりません。

しかし、これを早めに知る方法があります。それは、ケリー氏の発言や行動に注視することです。

バイデン政権内でケリー氏が頭角を現し、中国に関連して様々な発言や行動をすれば、バイデン政権は中国に対して宥和的になるでしょうし、ケリー氏が凹んで、目立たない存在になれば、バイデン政権は中国に対して厳しく対応するようになるでしょう。

その意味で、ケリー氏はバイデン政権の対中政策の試金石になるとみるべき。


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2021年4月10日土曜日

【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も―【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も

習近平

 中国の習近平政権による経済圏構想「一帯一路」については、参加した途上国の債務が問題になっているほか、米国が対抗する方針を打ち出している

 中国経済は行き詰まりつつある。その根拠は1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを超えないという「中所得国の罠」だ。この壁を越えるためには、一部の産油国などを例外とすれば、一定の民主主義が必要だ。英エコノミスト誌の公表している民主主義指数でいえば、少なくとも香港と同程度の「6」以上を要するが、しかし、中国の民主主義指数は「2・3」程度しかない。

 中国が、非民主的な専制国家でありながら、1人当たりGDPが1万ドルを長期にわたって突破するのは、これまでの社会科学の理論からみると難しい。そこで、短期的には台湾侵攻など政治的な不満のはけ口を求める懸念もある。

 一方、産油国が中所得国の罠の例外になっているのは国内に莫大(ばくだい)な石油資源があるからだ。これと似たような環境としては、海外に中国依存の経済圏を作ることが考えられる。軍事的な侵攻ではなく、経済的に領土を拡大し、その富を中国に吸い上げるというものだ。もちろん中国が軍事的に優位な地域が条件となる。

 筆者は中国の一帯一路は、こうした戦略に基づいていると考えている。その結果、中国は世界の覇権を狙っているともいえる。

 しかし、一帯一路は、同様に中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないが、それらの国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さない。こうした形で覇権をうかがう中国に対抗するため、バイデン米政権はジョンソン英首相との会談で経済圏構想を提案した。

 中国は、以前からアジアや中東、アフリカの途上国に経済支援を行い、2014年に習氏が一帯一路構想を提唱する前から影響力を強めてきた。15年にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、金融面で一帯一路構想を後押しした。

 しかし、AIIBは、日米の参加が得られず、まだ十分に機能していない。19年末の融資残高は、約23億ドルしかなく、日米主導のアジア開発銀行(ADB)の約1100億ドルに見劣りしている。

 アジアや中東、アフリカの途上国では、インフラ整備が不十分なのは事実だ。日米は国内でのインフラ整備を進めるとともに、その力を海外にも活用すべきだ。日米で国内と世界のインフラ整備を提唱していくのがよく、そのための枠組み作りが必要だろう。

 中国が中所得国の罠に陥りながら、民主化せずに同じ環境の国を利用してそれを脱しようとすることがそもそも間違いだ。それでは、他の国にも希望はない。長期的な経済発展のためには民主化が必要なので、まずは中国自らが民主化してこの「罠」から脱すべきだ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

かつて欧米列強と言われていた国々(英米独仏露)の国々は、18世紀以降植民地を持っていました。そうして、本格植民地化によって、現地人を搾取して、利益を収奪したという一般的なイメージがありますが、植民地経営はそれほど簡単なものではなかったですし、収奪する程の利益など、植民地にはほとんどありませんでした。

海外を植民地化することは莫大な初期投資がかかり、費用対効果という観点からは、とても受け入れられるようなものではありません。常時、軍隊を駐屯させる費用、行政府の設置・運用とその人件費、各種インフラの整備、駐在員の医療ケアなど、莫大な費用がかかります。その上行政的手続きも極めて煩雑になってきます。

初期コストや投資金を無事に回収し、安定的に利益が出せるかどうかの保証などもありません。植民地ビジネスはリスクが大きく、割に合わないのです。「植民地=収奪」という根拠のない「つくられたイメージ」を一度、捨てるべきです。

教科書や概説書では、植民地経営の成功例ばかりが書かれています。例えば、オランダはインドネシアを支配し、藍やコーヒー、サトウキビなどの商品作物を現地のジャワの住民に作らせ(強制栽培制度)、大きな利益を上げていたというようなことです。

オランダ東インド株式会社に所属していたアムステルダム号

しかし、このような成功例はごく一部であって、ほとんどの場合、投資金を回収できず、損失が拡大するばかりでした。実際、19世紀、ヨーロッパのアフリカの植民地経営などはほとんど利益が上がりませんでした。

これは、当然といえば、当然です。今日の国際投資の常識は、「自国より成長率の高い国や地域に投資すれば利益をあげられる」と教えています。過去の植民で成功したのは、たまたま、投資した地域が、自国よりも経済成長をしていたか、多少投資することによって経済成長ができたからでしょう。それ以外の植民地は成功するはずもありませんでした。

では、なぜ、欧米は大きなリスクをとりながらも、植民地化に取り組んだのでしょうか。それは経済的な動機というよりも、思想的な動機が強くあったからでした。

近代ヨーロッパでは、啓蒙思想が普及しました。啓蒙とは「蒙を啓く」つまり無知蒙昧な野蛮状態から救い出す、という意味です。啓蒙は英語でEnlightenment、光を照らす、野蛮の闇に光を照らす、という訳になります。啓蒙思想に基づき、西洋文明を未開の野蛮な地域に導入し、文明化することこそ、ヨーロッパ人の使命とする考えがあったのです。

イギリスのセシル・ローズ(Cecil John Rhodes、1853年~1902年、は南アフリカのケープ植民地首相)などはこうした考え方を持っていた典型的な人物でした。

セシル・ローズ

ローズは、アングロ・サクソン民族こそが最も優れた人種であり、アングロ・サクソンによって、世界が支配されることが人類の幸福に繋がると考えていました。この独善的考えが、植民地の人々に嫌われたという面は否めないです。

開明化された地域が資本主義市場の一部に組み込まれれば、利益をもたらすという狙いも最終的にはあったかもしれないですが、「文明化への使命」という考え方が割に合わない植民地経営のリスク負担を補っていたのです。

当時のヨーロッパ人は、今日の我々が考える以上に非合理的であり、昔ながらの精神主義に拘泥していたと言ってよいです。

実は、日本の植民地政策にも、このような啓蒙思想を背景とする思想的動機が強くありました。韓国や台湾を植民地化しても、当時の日本に利益など全くありませんでした。元々、極貧状態であった現地に、日本は道路・鉄道・学校・病院・下水道などを建設し、支出が超過するばかりでした。それでも、日本はインフラを整備し、現地を近代化させることを使命と感じていました。

特に、プサンやソウルでは、衛生状態が劣悪で、様々な感染症が蔓延していたため、日本の統治行政は病院の建設など、医療体制の整備に最も力を入れたのです。

李王朝末期頃の韓国

日本人はヨーロッパ流の啓蒙思想をいち早く取り入れ、近代化に成功し、今から考えると、何の儲けにもならないことのために、植民地の近代化を前提として、植民地政策を展開しました。

「植民地=収奪」というのはつくられたイメージと言わざるを得ないです。植民地支配によって、我が国は「多大の損害と苦痛」を「与えた」のではなく、「被った」のです。特に経済的にはそうでした。日本の植民は期間も短く、儲けにまでいたったものはありません。

このような経験をしているからこそ、現在ではかつての西洋列強も我が国も、植民地など持とうとしません。そうして、投資するにしても、儲けるためであれば、自国より経済成長している国や地域に投資するのです。

日本では、デフレが酷くて経済が停滞していた頃から、民間企業が米国やEUなどにかなり海外に投資していました。これは合理的な判断です。これはまだ名残があり、昨年5月末に財務省から公表された「本邦対外資産負債残高の状況(2019年末時点)」によれば、日本の対外純資産残高は前年比23兆円増の364兆5250億円と2年連続で増加し、29年連続で世界最大の対外債権国の座を維持する結果となりました。金額的には5年ぶりに過去最高を更新しました。

しかし、植民地経営というネガティブな経験をしたことのない中国は、かつての西洋列強などと同じ間違いをしようとしています。

一帯一路は、中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないのですが、それらに投資しても儲かることはありません。少なくとも、中国より経済発展している国や地域に投資すれば良いのでしょうが、そもそもそのような国や地域は中国の助けをあまり必要としません。

仮に、中所得国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さないようにしたとしても、元々富がないのですから、そこから簒奪できる利益はわずかです。これは、どう考えても成功しようにありません。

ただ、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できません。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあります。

そのため、米国が対抗する方針を打ち出しているのは良いことです。無論米国は、これで儲けるのではなく、中国の影響力を排除するのが狙いです。いくらバイデンであっても、習近平ほど愚かではありません。

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2021年4月9日金曜日

米中対立下の世界で「いいとこどり」はできない―【私の論評】米中冷戦は、米ソ冷戦と同じく、イデオロギー対立、大国間の勢力争いという2つの要素で戦われいずれ決着する(゚д゚)!

米中対立下の世界で「いいとこどり」はできない

岡崎研究所

 中国政府は、3月11日に閉幕した全人代で、香港の立法委員選挙の制度を変えることを打ち出し、香港の一国二制度をほぼ完全に葬り去ろうとしている。直接選挙される立法委員を50%から22%まで減らす。従来は行政長官を選んでいた選挙委員会の権限を拡大し、立法会の議員の一部も選ぶようにする。資格審査委員会を設置し、候補者が「愛国主義」であるかどうかなどの審査を受けるように求める。などといった内容である。これは、中国による自由主義の価値への重大な挑戦の最新の例の一つである。


 こうした香港情勢をとらえて、エコノミスト誌3月20日号は‘How to deal with China’と題する社説を掲載し、これから中国に見られる専制と自由の価値を擁護する勢力間の長い闘争が行われていくという情勢判断をしている。香港の自治と民主政が中国に踏みにじられていったこと、中国の政治の在り方を見て、こういう判断に行きついたということだろう。3月下旬のアンカレッジでの米中会談を見ても、この情勢判断は正しいと思われる。

 日本は、米中対立の時代が来ていることを明確に理解し、その価値観からして米国の側に立つというのが基本である。安全保障は米国に依存するが、中国との関係も特に経済面では重視するというような姿勢をとれるような生易しい状況ではない。

 この米中対立については、イデオロギー対立なのか、経済・技術の主導権争いなのか、あるいは大国間の勢力争いなのか、いろいろな説明があるが、これらの対立が複合的に重なり合ったものであると考えるべきだろう。米ソ冷戦時代はソ連の経済力は弱く、対立はイデオロギー対立と軍事対立を中心に行われたが、今度の米中対立は、中国が強い経済力を持つ中で、経済技術面での競争がかなりの比重を占めることになるだろう。これが物事を複雑化する。

 短期的には、もし選択を迫られれば多くの国は西側より中国を選ぶ可能性もある。中国は64か国にとり最大の商品貿易パートナーであるが、米国は38か国にとりそうであるに過ぎないからだ。長期的には、国の大きさ、多様性、革新性により、中国は外部圧力に適応できる能力を備えているかもしれない。香港での民主主義の後退は香港のドル決済や株式市場の繁栄に影響を与えていないし、中国本土への投資も盛んであるという。レーニンは「資本家というものは自分を縛り首にする縄さえ利潤のためには売るものである」といったことがあるが、大企業も徐々に中国への投資などを考え直すべきであろう。

 上記社説は、厳しい米中対立を予測しつつも、対応策として対中国「関与」が唯一賢明な道であるというが、これには必ずしも賛成できない。「関与」は何を意味しているのか、分からないが、中国の国際法違反を看過して普通の対話をするということならば、賛成しがたい。ダメなものはダメとし、それなりのコストを課していくべきであろう。

 より長期的には、中国の勢いはそれほど続かないと思われる。人口の少子高齢化はすでに始まっており、一人っ子政策のマイナスは大きくなっている。特に若年層での男女の比率の不均衡は、さらなる少子化につながる。環境面での制約、水不足や大気汚染はいまそこにある危機である。さらに言うと、専制体制は政治の不安定化の危険と隣り合わせである。国民の負託を受けているとの正統性がない政権には脆弱性がついて回るものである。

【私の論評】米中冷戦は、米ソ冷戦と同じく、イデオロギー対立、大国間の勢力争いという2つの要素で戦われ、いずれ決着する(゚д゚)!

上の記事では、米中のイデオロギー対立なのか、経済・技術の主導権争いなのか、あるいは大国間の勢力争いなのか、いろいろな説明があるが、これらの対立が複合的に重なり合ったものであると考えるべきだろうとしています。

そうして、米ソ冷戦時代はソ連の経済力は弱く、対立はイデオロギー対立と軍事対立を中心に行われたが、今度の米中対立は、中国が強い経済力を持つ中で、経済技術面での競争がかなりの比重を占めることになるだろうとしています。

しかし、私はそうは思いません。特に経済についてはそうです。以前このブログでは中国経済について分析しました。その記事のリンクを掲載します。
中国経済、本当に崩壊危機の様相…失業者2億人、企業債務がGDPの2倍、デフォルト多発―【私の論評】中国には雇用が劣悪化しても改善できない構造的理由があり、いまのままではいずれ隠蔽できなくなる(゚д゚)!
中国・人民大会堂(「Wikipedia」より)

この記事で、中国の経済統計はそもそもフェイクであり、フェイクであることを前提とすれば、中国が経済発展して、米国経済を追い抜くなどという考えはファンタジーに過ぎないことを解説しました。以下に、この記事より引用します。
中国が発表した昨年(2020年)の四半期ごとのGDP成長率は、前年同期比で1-3月期がマイナス6.8%、4-6月期がプラス3.2%、7-9月期がプラス4.9%、10-12月期がプラス6.5%です。この数字を前期比に変えると、年率換算で1-3月期がマイナス37%、4-6月期がプラス60%、7-9月期がプラス13%、10-12月期がプラス12%です。

1-3月期のマイナス37%は随分大きなマイナスに見えるかもしれないですが、英国の4-6月期のマイナス60%と比べると遥かに軽いことになります。

確かにコロナ禍は英国に大きな打撃を与えました。コロナ禍前のイギリスの完全失業率は4.0%でしたが、コロナ禍発生後に最大で5.1%にまで上昇しました。失業率が1.1%も上昇し、それが一時的にはGDPマイナス60%という大きなブレーキにつながったのです。

中国政府が発表する失業率統計はGDP同様全くあてにならないことで有名であり、これをそのまま真に受けるわけにはいきません。では、他の機関はどのような数値を出しているのみてみます。

アジア開発銀行は6290万人から9520万人が新たに失業したのではないかと推計しました。「スイス銀行」の俗称で知られるUBSは7000万人から8000万人が新たに失業したのではないかと推計しました。中国の有名エコノミスト、李迅雷氏も、新たな失業者は7000万人を超えるとし、これによって失業率が20.5%まで高まったのではないかと述べています。
更に引用します。
中国のスマホの国内出荷台数は2016年に5.6億台だったのが、2017年に4.9億台、2018年に4.1億台、2019年に3.9億台、2020年に3.1億台と、年々縮小し続けています。スマホは2〜3年もすればバッテリーのもちが悪くなって買い替えたくなるものだが、買い替え需要があまり発生していません。スマホは中国でも、多くの人の必需品になったようですが、それにしても横ばいではなく、年々下がっているのです。

中国の乗用車の販売台数の推移はどうかといえば、2017年に2376万台だったのが、2018年に2235万台、2019年に2070万台、2020年に1929万台と、やはり年々落ちています。これを見ると富裕層の消費も伸びているとは考えにくいです。

これでは、毎年6%以上の経済成長を続けてきたという話自体がフェイクだと考えないと辻褄が合わないです。

以上で示したように、中国の経済統計はそもそも出鱈目です。これは信用するわけにはいきません。

さらに、このブログでも 何度か掲載してきたように、中国経済には2つの構造的な大問題があります。一つ目は中進国の罠であり、2つ目は国際金融のトリレンマです。

一つ目の中進国の罠は、一種の経験則であすが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。10000ドルというと日本円でいえば、100万円くらいです。

確かに、日本ではパートやアルバイト等でない限り、普通に働いている人で、年収が100万という人はいないです。

中国に関しては、現在年収を平均すると、10000ドル前後になっています。そうなると、中進国の罠にはまる可能性が高まっているわけです。

どうして、中進国の罠があるかといえば、以下に私の仮説を掲載します。結局中進国では、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が十分になされないので、ある一定程度まで経済が発展しても、その後は発展しないというものです。

かつての先進国のように、これらがなされれば、多数の中間層が輩出されて、それらが自由に社会経済活動を行い、その結果として経済発展するのです。その過程においては、社会のあらゆる層や、地域でイノベーションが起こります。

多くの中進国で、経済発展がとまってしまうのは、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされず、その結果として多数の中間層が輩出されることもなく、これらが自由に社会経済活動をすることもできません。

このような社会で、現在の中国のように、政府が号令をかけて、多くの資金を提供してイノベーションをしたとしても、社会の多くの層や地域でイノベーションが起こることはなく、遅れた社会が温存され、結局のところ経済成長が止まってしまうです。

これは、現在まさに中国ははまり込んでいる罠であり、今後中国は経済発展することはないでしよう。

さらに、もう一つの構造的な問題は、国際金融のトリレンマにはまってしまい、中国は経済政策の一環として、独立した金融政策を実施できいないということがあります。これも先のリンクの記事から引用します。

 先進国が採用するマクロ経済政策の基本モデルとして、マンデルフレミング理論というものがある。これはざっくり言うと、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先するほうが効果的だという理論だ。

 この理論の発展として、国際金融のトリレンマという命題がある。これも簡単に言うと(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べない、というものだ。
 先進国の経済において、(1)は不可欠である。したがって(2)固定相場制を放棄した日本や米国のようなモデル、圏内では統一通貨を使用するユーロ圏のようなモデルの2択となる。もっとも、ユーロ圏は対外的に変動相場制であるが。

 共産党独裁体制の中国は、完全に自由な資本移動を認めることはできない。外資は中国国内に完全な自己資本の民間会社を持てない。中国へ出資しても、政府の息のかかった国内企業との合弁経営までで、外資が会社の支配権を持つことはない。

 ただ、世界第2位の経済大国へと成長した現在、自由な資本移動も他国から求められ、実質的に3兎を追うような形になっている。現時点で変動相場制は導入されていないので、結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているのだ。

中国では、雇用がかなり悪化していますが、これを是正するには、大規模な金融緩和をすることが必要不可欠なのですが、それを中国共産党はできないのです。

これは、中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家化の実施、変動相場制に移行しなけばは、これからも中進国の罠にはまりつづけ、独立した金融緩和が実施できないことを意味します。

であれば、中国がこれから過去のように経済発展する見込みはないということです。ここで、元の議論に戻ります。

1988年ソ連ではじめて行われたミスコンの様子


現在の米中の対立は、イデオロギー対立、経済・技術の主導権争い、大国間の勢力争いが複合的に重なり合ったものでしたが、今後中国は経済発展できないので、いずれ、イデオロギー対立、大国間の勢力争いという2つの要素で戦われることになるでしょう。

米ソ冷戦時代と同じく、いずれ決着がつくことになるでしょう。私は、おそらく10年くらいで決着がつくと考えています。

その時には、中国共産党は崩壊し、ある程度の民主的な国家がいくつかできるか、あるいは緩い連合体を形成するなどの形になると思います。

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2021年4月8日木曜日

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太陽光発電業界の中国強制労働への依存がバイデンのクリーンエネルギー経済を脅かす

太陽光パネルの上で寝そべる助成 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

<引用元:ワシントン・フリービーコン 2021.4.7
共和党、民主党、そして労働組合幹部というのはありそうもない組み合わせが連立して、太陽光発電産業が中国の強制労働収容所とつながりのある製品に依存していることを懸念している。ジョー・バイデン大統領のクリーンエネルギー経済推進を脅かす動きだ。

中国西部の新疆地域―中国が100万人以上のウイグル人に厳しい強制労働体制を強いている場所―は、太陽光発電部門のサプライチェーンを支配している。太陽電池の製造に欠かせない原材料であるポリシリコンは世界の半分近くが新疆製だ。その経済的依存は、太陽光発電産業と現代の奴隷制度を結び付ける信頼性のある報道に言及する、議員と組合幹部の超党派グループの注目を集めている。

最初に声を上げたのは米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)のリチャード・トラムカ議長だった。2020年に民主党支持に何百万ドルも費やした組合のトラムカは、5月の書簡で「組織的な強制労働の説得力がある証拠」を理由に、新疆から輸入される太陽光発電製品をブロックするようホワイトハウスに求めた。数週間後、8人の共和党上院議員のグループはKeep China Out of Solar Energy Act(太陽光エネルギー中国排除法案)を発表した。「共産主義中国で製造または組み立てられた」太陽電池パネル購入に連邦資金を使用することを禁止するものだ。

議会民主党もその動きに参加している。ジェフ・マークレー(民主、オレゴン州)上院議員は3月に太陽エネルギー工業会に対して、特定の新疆製品を禁止することで「気づかないうちに外国での人権侵害に貢献することから消費者を保護する」よう強く求めた。全国貿易協会は1,000以上の太陽光発電企業の代表として、会員に「6月までに新疆地区から完全に撤退」するよう求めたと述べて答えた。

米国の太陽光発電を新疆のジェノサイドから遠ざけようという広範な取り組みは、バイデン政権の「クリーンエネルギー経済」が直面する課題を明らかにしている。ホワイトハウスの気候担当高官は、太陽光発電分野がとりわけ追いやられた化石燃料労働者に対して「組合の高賃金の仕事」を提供することができると豪語していた。だが中国が業界を完全に支配しているということは、米国のほとんどの太陽光発電関連業務は単に中国製の部品を設置することを伴うことを意味する。バイデン政権の環境保護庁の長官は、最近の承認公聴会で「我々が設置したいと考えるほとんどの部品は中国製だ」と述べてその力関係を認めた

ハートランド・インスティテュートのジェームズ・テイラー所長は、中国製品なしにバイデンが提案している規模で風力・太陽光発電を増やすことは「全く不可能」であると本紙に述べた。またバイデンが約束した「高賃金の仕事」は「米国ではできない」と主張した。

「従来型の発電所はこの米国に建設される。この米国で生産される材料で建設される。この米国で運営され維持される。そして永久にこの米国で従業員を雇う。比較すると、風力・太陽光の材料はおもに海外で採掘・生産され、設備はおもに海外で製造され、創出される雇用は・・・どちかかといえば一時的なものだ」とテイラーは述べた。

ホワイトハウスはコメントの要求に回答しなかった。

新疆の別名である東トルキスタンの亡命政府のサリー・フーダイヤ―(Salih Hudayar)首相は、2016年以前には新疆では世界の太陽光発電製品の9パーセントにあたる原材料しか生産していなかったと述べた。中国政府はその年再教育収容所の開設に着手した。現在その数字は400パーセント増加した。ワシントンに拠点を構えるコンサルティング会社であるHorizon Advisoryの報告によると、急激な生産能力の拡大は強制労働を利用したことが原因となっている可能性が高い。
  東トルキスタンの亡命政府のサリー・フーダイヤ―(Salih Hudayar)首相

西側の企業は新疆製のポリシリコンを輸入することで「中国にへつらっている」とフーダイヤ―は述べた。「彼らはただ中国で取引できるようになるために自分たちの道徳的、倫理的、西洋の価値観を売り渡している」と彼は語った。

太陽光発電産業だけが新疆とのつながりで非難を受けている産業ではない。世界の衣服の約5分の1は、新疆で生産された綿を使用している可能性がある。その多くはウイグル人強制労働者が生産したものだ。H&Mやナイキのような西側のアパレル企業が2020年に新疆製の綿を避けるという誓約書に署名した一方で、中国の国家主義者たちが全ての腹立たしい西側企業の全国的なボイコットを支持すると一部の企業は立場を変えた。

ウイグル系米国人であるハドソン研究所のヌリー・ターケル上級研究員によると、中国政府が新疆での残虐行為を断固として認めないために―そしてそれを認める西側の国を罰することを厭わないことから―バイデン政権が苦境に立たされている。バイデンは概して中国に対する対立的なアプローチを支持しているが、気候変動の課題については独裁国家と協力することを希望している。

だがその協力は、ウイグル人を犠牲にしたものとなるべきではないとターケルは述べた。

「気候変動を意識している米国人が望んでもいないのに継続中の現代の奴隷制に加担することになるのは良心に照らして受け入れ難い」とターケルは述べた。
(訳者注:原文ではgreen energyという言葉が混在していたが、全てclean energyとして翻訳した。)

【私の論評】日米ともに太陽光発電は、エネルギー政策でも、安全保障上も下策中の下策(゚д゚)!

日本では、太陽光発電が大きな問題になっています。現在問題となっているのはメガソーラー。大規模太陽光発電です。先月8日(2021/3/8)奈良県平群町でメガソーラーの建設差し止めを求め地元住民が提訴しました。

甲子園球場およそ12個分の面積にソーラーパネルを敷き詰めるため、大規模な森林を伐採するという計画に対して、土砂災害の発生の恐れがあり、生態系破壊に繋がるなどと反対の声が上がっています。

そうして、このようなトラブルが全国各地で起きています。さらに、問題は建設時だけではありません。寿命を迎えた大量のソーラーパネルの処分問題も浮上しているのです。

20年後には80万トンものパネルが廃棄され、産業廃棄物処理場がひっ迫する可能性も懸念されています。

クリーンなイメージのソーラー発電ですが、その本質を正しく理解しないと環境だけではなく、日本経済にも悪影響を与えかねません。

先にも述べたように、先月8日、奈良県平群町で大規模太陽光発電(メガソーラー)の建設を巡り、地元住民ら約1000人が工事の差止を求め奈良地裁に提訴しました。

建設計画は、約48ヘクタールの土地(甲子園球場12個分)の森林を伐採。ソーラーパネル、約5万3000枚を敷き詰める。これににより生態系がすでに破壊されていますし、景観も悪化します。

しかも建設予定地は土砂災害警戒区域で、土砂災害の恐れがあります。住民は「自然破壊によって得られるエネルギーはクリーンとは言えない」としています。

自宅に設置するくらいなら問題は、ほとんどないでしょうが、計画性のないメガソーラー設置に対する反対運動がこれから頻発していくことになるでしょう。

ソーラーパネルは、身近なものにたとえると、テレビのディスプレイみたいなものです。中に金属の板が入っていて、ガラスがあって、鉄骨があって、それに電子部品も入り、これを支えるコンクリートがあります。メガスケールで敷き詰めるわけです。

であれば、それに対応して、公害対策や土砂崩れの対策もすべきです。でもあれだけのスケールの開発をやるのに、問題が起きないようによく確かめてやるべきだったにもかかわらず、拙速に全国各地にメガソーラを設置してしまったのです。。

現状のままだと、2040年には、ソーラーパネル破棄問題が必ず起こります。現状設置されているパネルが一斉に寿命を迎えるため、廃棄されることになりますが、その廃棄量は80万トンといわれています。当然のことながら、今のままだと処分場ひっ迫するのは目に見えています。


廃棄された太陽光パネル

資源エネルギー庁の調査によりますと、破棄を想定して費用を確保していない事業者は74パーセントといわれています。ではどうするのでしょうか。放置するのでしょうか。あるいは、不法投棄するのでしょうか。後々問題になるのは明らかです。

そもそもソーラーパネルは構成材料が多いですし、全国各地に作ったパネルの撤去作業は困難だといわれています。こういう問題が2040年以降に一斉に噴出してくるのです。

ある程度規模の大きな会社なら社会的責任も問われるので、撤去して処分するでしょう。しかし、小さな業者も多数このメガソーラ設置に参加しています。そうなると、2040年には会社によっては倒産したり、メガソーラ事業を廃止しているかもしれません。そうなると、2040年以降には、全国至るところで、メガソーラが打ち捨てられる状況になるのです。

太陽光発電は、エネルギー問題で国政の中でも重要な問題でいろいろと議論もありますが、一番重要なのは発電能力です。太陽光パネルを東京の山手線内全体に敷き詰めても原発の半分以下しか発電できないのです。

太陽光発電、要はエネルギー効率が極端に低いのです。低いからこそ、メガソーラーのように、広い面積が必要になるわけです。

しかし、石炭等は、最近イメージが悪くなり嫌われていますが、実はあれこそ究極の自然エネルギーであり、そもそもあれは化石です。恐竜がいた頃に木がいっぱい生えていて、それが化石になって大量に溜まっていて、それを採掘すればすぐに燃料になります。

ですから、石炭の火力発電所で発電すれば、メガソーラーよりも、圧倒的に少ない面積で済みます。同じ電力なら、石炭による火力発電のほうが、メガソーラのように、大量の森林を伐採しなくても、建設できます。

石炭による火力発電というと、大気汚染などのマイナスイメージを抱きがちですが、最近の火力発電所はそうではありません。石炭が燃焼するとSOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)、ばいじん(すすや燃えカス)が発生します。日本は高度成長時代には大気汚染が深刻な問題でしたが、過去40年以上にわたり環境対策技術や効率的な燃焼方法を開発するなど環境負荷を低減する努力を行ってきた結果、世界の石炭火力を牽引する存在となりました。

このようなことを考えると、どっちらが自然でクリーンかといえば、石炭による火力発電です。

今日、石炭火力の煙はきちんとした浄化処理を行ったうえで大気中に放出されています。つまり“黒い煙”どころか、ほとんど何が出ているか見えない状態なのです。

実はクリーンな日本の石炭による火力発電

そんなことはわかりきっているのに、FIT(固定価格買い取り)制度が状況を悪くしていまいました。

これは、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取ることを国が約束した制度です。

2012年より開始され、20年間継続されます。これは、2012年7月1日民主党政権下でスタートしています。今年の2022年で終了します。詳しくは、以下のサイトを御覧ください。


これは、日本のエネルギー自給率向上が目的で、再生可能エネルギーの普及促進を目指したものです。そのため東日本大震災の後、原発での発電が中止され、エネルギー問題をどうすべきかという問題に直面し、一躍メガソーラなどが脚光を浴びたのです。

皆さんも、これに類した広告をご覧になったことがあると思います。「今こそソーラー発電に投資を!」「エコで儲かる!」「頭金ゼロで毎月○万円の収入」「20年にわたって国が保障してくれる!」

ただし、エネルギー効率が極端に低いソーラー発電で儲かる人はほんの一部です。たとえば、かなり大きな家を持っている人や、それから地主です。こういう人たち土地を貸してメガソーラーを設置すれば儲かるでしょう。それからそこへ投資する投資家も儲かります。それからそこで建設を請け負った事業者も儲かります。しかし、どうして儲かるかというとそれを払う人がいるからです。

再生可能エネルギー(ソーラー発電など)で発電した事業者や個人は、電力会社にそれを売ります。それも、固定価格で買い取ります。そうして、電気利用者にそれを供給します。そして、我々は電気料金の再エネ賦課金で払っているのです。これは、FIT制度が今年で終了するので、すぐにでも終了させるべきです。

これは、平均的な家庭で年に2万円程度の負担になっています。現在のシステムではソーラー発電が増えると国民の負担も増えることになるのです。そうして、電気代が上がることは日本経済全体にとって損失ということになります。

本来なら、もっと厳しく入札条件などを設定し電気を安く買い取るようにすべきでした。しかし、今から考えると、政府は凄い高い値段で政府が買い取ることになってしまいました。

そもそも、太陽光発電の電気は、元々使いものにならないものです。晴れてないと使えないし、昼間しか使えません。今日は曇っているから新幹線を止めるというわけにはいきません。ですから結局、太陽光発電所を作っても火力発電所は必要なのです。

そのため、メガソーラーがあっても火力発電所が必要で現在でも稼働しているのです。これは、本当に無駄です。メガソーラー発電所の価値など本当はないにもかかわらず、本当の価値の2倍とか5倍とかで政府が買い取って、それを国民が負担しているというのが実態なのです。

メガソーラーが設置された東北地方の山(Google Earth)

そうして、私自身はトランプ氏と同じく地球温暖化には懐疑的です。地球温暖化(説)はフェイクだらけです。例えば地球温暖化説の信奉者は、台風が増えていると、強くなっていいますが、統計を見ると増えていないし、雨量も何も変わっていないです。

地球温暖化で猛暑なっているなどと言われていますが、私自身は猛暑は地球温暖化のせいだとは思っていません。地球温暖化といっても江戸時代から比べて0.7度しか上がっていないですし、30年前から比べると0.2度ぐらいです。それに太古には、温暖化で南極大陸の氷が溶けて、地表が見えていた時期もあったことが確認されています。私自身は、地球温暖化説は、説にすぎないものであると考えています。

ソーラー発電の最大の問題は、その覇権を握るのは中国だということもあります。以下に、太陽光パネルのシェアランキング(2019年)をあげておきます。
1位、ジンコソーラー(中国)
2位、JAコソーラー(中国)
3位、リナソーラー(中国)
4位、カナディアンソーラー(カナダ)→製造は中国
5位、ロンジコソーラー(中国)
なんと5位までが、中国です。世界が太陽光発電をやればやるほど中国が儲かるようにできているのです。

中国は世界一の石油輸入国、米国は世界一の産油国です。石油からソーラーへの流れが主流になれば、中国に利があるのは当然のことです。

去年、習近平国家主席は「2060年までにCO2の排出量をゼロに!再生可能エネルギーを全電力の8割に拡大する!?」と言ってます。

ソーラーパネルの中にはシリコンが入っていますが、これがパネルの心臓部です。これを中国が製造していますが、そののシェアが世界の8割を占めています。さらにその内6割がウイグルで作成されています。世界の半分は新疆ウイグル自治区で作成されているのです。

なぜそこで作っているかというと、中国は今でも石炭による火力発電で発電していて、低コストで豊富な電力を使えるからです。実は、シリコンを製造するには、豊富な電力が必要だからです。

それに、中国では環境規制があまいですから、公害対策をほとんどしなくても良いので、さらに安く作れます。さらに、ウイグル人を強制労働させて、安くしているのです。太陽光パネルのシェアランキングでほとんど中国製が占めているのはそのせいです。他の国々では、どうしてもコスト高となり、中国勢には勝てません。

このようなからくりがあるからこそ、ジョー・バイデン大統領のクリーンエネルギー経済推進は、中国の強制労働に依存することになるのです。

それに以前このブログでも指摘したとおり、温暖化は中国に利益をもたらすかもしれません。
温暖化は中国にとっての格好の隠れ蓑になるかもしれません。今の中国は昨日も述べたように失業者が2億人ともされています。そうなると、消費活動は停滞し、産業活動も停滞するはずです。にもかかわらず、中国は昨年の経済成長は2.3%であり、奇跡的なV字回復をしたことにしています。

経済が停滞した、中国では今後温暖化目標など、何もしなくても達成できる可能性が大きいです。しかし、習近平は中国の努力によって、達成したように見せかけるでしょう。

問題は、中国が温暖化目標を達成したと公表した場合、バイデン政権が中国に対して宥和的になる可能性です。それだけは、絶対避けるべきでしょう。 

さらなる脅威もあります。サイバーテロという言葉を皆さんは、ご存知だと思います。最近、ある国が他の国にサイバー攻撃で発電所を止めるってことをしています。

実際ロシアはウクライナの発電所をそれで2016年に止めて大停電にしました。イランも止められています。英国では電気事業を民営化のため民間企業に売ったのですが、それが転売されてしまい、3分の1ぐらい中国に握られてしまいました。

現在中国から指令を出すとロンドン大停電を起こせるようになっているかもしれません。昨年夏、中国とインドの軍隊が人里離れたガルワン渓谷の国境地帯で突如衝突し、石やこん棒を使った戦闘で互いに死者を出しました。

その4カ月後、約2400キロメートル以上離れたインドの2000万人都市ムンバイで大規模停電が発生。鉄道は停止し、株式市場も閉鎖。新型コロナウイルスのパンデミックが最悪の状況を迎えていたさなかに、病院までもが人工呼吸器を動かし続けるため非常用発電に切り替えなければならなくなりました。

これら2つの出来事には関連性があるとみられていましたが、新たな調査によって、その正しさが一段と裏付けられました。ムンバイの大停電は中国のサイバー攻撃だった、という見方です。

日本も現在、中国制のソーラーパネルが至るところで設置されています。この設置には、中国系の事業者が関わっているものも多いです。そうすると、ソーラー・バネルによって、中国に繋がている可能性もあります。ソーラー・パネルは安全保障上でも問題があるといえます。

日本でも、これだけ太陽光パネルに関する問題があるのですから、当然米国でも問題があるでしょう。ただ、米国は日本より国土が格段に広いので、あまり目立たないだけでしょう。しかし、実際に仔細に調べていけば多くの問題があるでしょう。

日米でも国土や環境が違うにしても、ソーラーパネルの発電効率がかなり低いこと、さらに、ソーラーパネルのシェアのほとんどが中国が占めているという事実、その背景はウイグル人に対する強制労働があることには違いありません。バイデン政権は、かつての日本の民主党のように悪乗りしてバカマネをすべきではありません。

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2021年4月7日水曜日

北京冬季五輪、不参加 「ジェノサイド」言及の米が同盟国と「共同ボイコット」検討 英やカナダも追随か 中国に「悪夢の到来」―【私の論評】北京はボイコット、東京五輪は部分的にも開催するのが、民主主義国のベストシナリオ(゚д゚)!

北京冬季五輪、不参加 「ジェノサイド」言及の米が同盟国と「共同ボイコット」検討 英やカナダも追随か 中国に「悪夢の到来」


 来年2月に開幕する北京冬季五輪だが、そこに自由主義陣営の姿はないかもしれない。米国務省のネッド・プライス報道官は6日、中国の人権侵害や新疆ウイグル自治区での「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を批判したうえで、同盟・友好国との「共同ボイコット」も選択肢という認識を示したのだ。北京五輪への懸念は他の自由主義国でも浮上しており、米国が決断すれば大きな流れになりそうだ。

 「北京五輪は私たちが協議し続ける分野だ」「協調した取り組みが、米国の利益だけでなく、同盟・友好国の利益にもなる」

 プライス氏は、記者会見で共同ボイコットの可能性を問われ、こう語り、同盟・友好国と協議する方針を明らかにした。

 ただ、「(北京五輪は)まだしばらく先だ」と述べ、米政府として決定はしていないと説明した。

 北京五輪ボイコットについては、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官が2月25日、「最終決定していない」と語っていたが、やや進展した印象を受ける。共和党議員からも同時期、ボイコットや開催地変更を求める声が上がっていると、ロイターが報じている。

 ジョー・バイデン大統領は3月25日に行った就任後初の公式記者会見で、今後の世界情勢を「民主主義勢力と専制主義勢力の戦い」といい、中国による人権侵害の責任を追及していくと強調していた。 米国務省が同月30日に発表した国別人権報告書では、ウイグルで「市民100万人以上が恣意(しい)的な収監や、その他の手段で身体的な自由が奪われている」などと非難し、証拠も十分にあると指摘していた。

 他の自由主義国も厳しい姿勢を示している。

 英国のドミニク・ラーブ外相は昨年10月、北京五輪をボイコットする可能性を議会で示唆した。カナダ下院は2月22日、中国の人権侵害を非難する決議を圧倒的多数で採択した。決議には、カナダ政府が開催地の変更を国際オリンピック委員会(IOC)に働き掛けるべきとの要求も盛り込まれた。

 評論家の石平氏は「米国は、ウイグルの実態を調べ上げており、ジェノサイドとの認識は変わらない。米国が、北京五輪ボイコットを決断すれば、他の自由主義諸国も追随する可能性は高い。中国にとって『悪夢の到来』といえる。習近平政権は威信をかけて五輪を成功に導こうとしている最中であり、対抗するカードは持っていない」と指摘した。

【私の論評】北京はボイコット、東京五輪は部分的にも開催するのが、民主主義国のベストシナリオ(゚д゚)!

ブリンケン米国務長官が中国政府による新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒少数民族の弾圧を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定したことに続き、カナダ下院も2月22日、中国新疆ウイグル自治区で行われているイスラム教徒のウイグル族らへの人権侵害は「ジェノサイドだ」と非難する決議を採択した。

東京オリンピックより、北京オリンピックの方が開催できないか、開催しても無意味な大会になる可能性が非常に高くなってきました。ジェノサイドは、平和の祭典であるオリンピックとは真逆です。これでは本当に厳しいです。


米国は、政府がジェノサイド認定をして、カナダは、議会がジェノサイド認定をしました。この動きは当然のことながら、ヨーロッパに広がります。

すでにヨーロッパでは、100以上の団体が、「ボイコットすべき」と主張しています。ヨーロッパと北米が参加しなかったら、冬季オリンピックは成り立ちません。

参加国はロシアと中国と韓国と日本くらいしかいなくなってしまうでしょう。そうなれば、オリンピックではなく、アジア大会だと言われてしまうことになります。

この人権問題はかなり重要なことです。これに対して、日本政府がどのように対応するのかというところは興味深いです。外務省の人が意味不明な発言をしています。 「ジェノサイド条約に日本は加盟していない」と語っていました。 

外務省は几帳面で、国内法の整備を理由にしているのでしょうが、ジェノサイドなどいけないに決まっています。必要であれば、国内法を整備すればいいし、国際協定にはいろいろな抜け穴がありますから、それを利用して加盟してしまうという手もあります。

だから、国内法未整備が、ジェノサイド認定をできないことの理由にするのは相当無理があります。現在日本政府はこれをどうするか検討しているところでしょう。 

外務省の課長レベルが、「日本はジェノサイド認定しません」ということを言ってしまったのですが、それは政府の見解とは違います。これからどうすべきか、ヨーロッパの動きを見ながら検討すべきです。日本がもし認定してしまったら、北京オリンピック開催は相当難しくなるでしょう。

ジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)では他国に武力介入してでも集団殺害を防止すべきことになっていますが、現行の憲法ではこの行為はできません。また、この条約では実行者だけでなく扇動したものも処罰の対象ですが、これも現国内法ではできないのです。故に批准できないのでしょう。批准するには憲法の改正と刑法に扇動の罪を追加する必要があります。

       緑はジェノサイド条約調印と批准国 黒緑は加盟もしくは継承国

ただ、限定されているとはいいながら、集団的安全保障が法改正でできるようになった仁保です。ジェノサイド条約には、国連加盟国の3分の2以上、152ヵ国が批准しているといます。日本も批准すべきです。これには、様々な条項があり、いまのままでも私はできると思いますが、それでも難しいのであれば、国内法を整備すれば良いと思います。

北京オリンピックボイコットの背景はそれだけではありません。東京オリンピックの開催は正念場を迎えています。そうして、開催したとしても現在の状況だと観戦客等がいない限定された形で行われる可能性が高いです。

これに対して、一党独裁体制下の中国は、中央の意向が末端まで強制的にに届けられます。陽性者の隔離から事業所の操業停止まで、中国共産党が必要と判断すれば強制的に人権など無視した、対処が可能です。

事実中国は早い段階で感染抑制に成功したとしています。打撃を受けた経済も世界に先駆けて立て直したとしています。ただ、これらは両方とも信用できません。かりに感染抑制に成功したとしても、非人道的な方策でそれを成し遂げた可能性が高いです。さらに、昨年の3.2%の経済成長はこのブログでもそのからくりを述べたように、全くのファンタジーです。

ただ、国家プロジェクトの履行という面でみれば、非人権的な強制力を持つ中国の優位は動かない。22年の冬季五輪にも、万全の感染対策を講じて臨むつもりでしょう。

ただし、中国は、先にも述べたように、香港の統制強化、ウイグル族弾圧、南シナ海への強引な進出などで国際社会から厳しい批判を受けています。

国際秩序を揺るがしている中国が、五輪を国威発揚に利用するようなシナリオは避けるべきです。これを考えると、『コロナ克服五輪』を 東京で開く意味は大きいです。

昨年9月25日の国連総会でビデオ放映された菅首相の演説(国連ウェブTVから)

「スポーツと政治は別」という建前はありますが、パンデミック(世界的流行)を経ての最初の五輪開催地が民主主義国なのか、全体主義国中国なのか、は現行の世界秩序維持を目指す側と、これに挑戦する側の、どちらが力を持つのかという問題に直結します。

首相は2月19日の先進7カ国(G7)首脳によるテレビ会議でも、東京五輪への協力を要請、各国の支持を得ました。

五輪の実現は感染防止対策、観客制限、世論の喚起など、山積する課題に日本側が答えを出していくことが前提ですが、民主主義国陣営の後押しも、カギを握っているといえます。

北京はボイコット、東京五輪は部分的にも開催するというのが、民主主義国のベストシナリオといえるでしょう。

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2021年4月6日火曜日

台湾めぐり白熱する米中の応酬 迫る有事の危機―【私の論評】中国が台湾に侵攻しようとすれば、大陸中国国内もかなりの危険に晒される(゚д゚)!


 3月26日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に、戦闘機10機、爆撃機4機を含む中国軍機合計20機が侵入した。昨年夏以来、ADIZへの侵入は度々あったが、今回の21機は最多となった。


 これに先立つ丁度1週間前の3月19日付のTaipei Times社説は、中国の習近平共産党総書記のレトリックから窺える中国の台湾に対する軍事的脅威の深刻さを指摘し、台湾政府は国民にそのことを明確に伝えるべきだ、と警告していた。

 この社説は、中国の台湾への軍事的侵攻の可能性はますます高まりつつあり、それに対処するため、台湾当局は一層の警戒心と危機意識を持ち対抗策を講じなければならない、と警鐘を鳴らすものとなっている。

 たしかに、最近、習近平は軍に対し、「戦争準備をおさおさ怠るな」との呼びかけを頻発しており、それが、台湾への攻撃を意図したものか否か必ずしも明白ではないが、本社説の言うように台湾侵攻を意味していると見ても必ずしも間違いではないだろう。

 本社説によれば、ここ1年の間に少なくとも4回、習近平は「いかなる時においても、戦闘行為をとれるよう万全の準備を行え」と指示したという。特に、その内の1回(昨年5月)では、全人代出席の人民解放軍司令官たちに対して、「台湾独立諸勢力(Taiwan Independence Forces)」を名指しして、これらに対し軍事闘争の準備を強化せよ、と命令したという。

 興味深い指摘は、習近平がこれらの指示を出した時、中国の人民解放軍の中には「平和ボケ(peace disease:平和病)」が広がっている、と習が繰り返し発言した点である。最近の中印国境紛争も解放軍兵士たちに戦闘経験をもたせるためではなかったか、との本社説の指摘はやや穿ち過ぎの観があるが、実際に中国軍が本格的な戦争体験をしたのは1979年の中越戦争が最後である。

 バイデン政権発足以降も、中国は台湾に対し軍事的、外交的圧力を強めており、台湾海峡上空に軍用機を出動させ、また、南シナ海など台湾海峡近辺でも軍事演習を繰り返している。最近は台湾の主要農産物であるパイナップルを禁輸するなど、経済面で新たに制裁を科した。

 中国にとって台湾はあくまでも、中国自身がいう「核心的利益」の筆頭に位置しているが、蔡英文政権が主張するように、2300万人を擁する自由で民主主義の「中華民国(台湾)」は中華人民共和国の施政下に入ったことはかつてない。蔡は、台湾は主権が確立した独立国である、との立場を堅持し、中国との間で対話を通じ、現状を維持しようとしている。

 「台湾関係法」によって台湾に防御用の兵器を売却することにコミットしている米国にとっては、バイデン政権下においても台湾の重要性が全く変わらないことは、先般のブリンケン=楊潔篪のアラスカ会談からも明白である。その際、楊潔篪は、台湾を含むいくつかの問題は純粋な「内政問題」であり、中国にとって妥協の余地は全くないと言い放った。

 台湾の軍関係者たちの中には、中国がもし台湾に対し軍事攻勢をしかけるとしたら、まずは南シナ海にある台湾の実効支配する東沙諸島や太平島のような離島ではないか、そして国際社会の反応を試そうとするのではないか、という見方をする人たちが少なくない。

 なお、最近、米上院の公聴会において、米インド太平洋軍司令官に指名されたアキリーノは「中国による台湾侵攻の脅威は深刻であり、多くの人が理解しているよりも差し迫っている」との考えを示している。将来、台湾周辺海域や台湾において、軍事的に一旦「有事」が発生し、米軍(主として在日駐留米軍)が台湾防衛のために出動するという事態になったとき、日本としても米軍の行動を支援するために自衛隊を出動させるという事態になるであろうことは、岸防衛大臣がオースティン国防長官に述べたと報道されているところである。

 蔡英文政権は、かかる米国、日本の動きを歓迎しているが、今後は日米台の三者間で如何なる事態に対し、如何に協力し合うか、という類の協議をおこなうべきことが急務の課題となるものと考えられる。

【私の論評】中国が台湾に侵攻しようとすれば、大陸中国国内もかなりの危険に晒される(゚д゚)!

かつて台湾は、大陸中国と戦ったことがあります。そうして、その戦いで、台湾自体が中国に侵入されることはありませんでした。大きなものではまずは、第一次台湾海峡危機(1954年 - 1955年)です。

国共内戦の結果、1949年に中国国民党率いる中華民国政府は中国大陸での統治権を喪失し、台湾に移転したのですが、中国西南部の山岳地帯及び東南沿岸部の島嶼一帯では中国共産党に対する軍事作戦を継続していました。

しかし1950年になると、舟山群島海南島が中国共産党の人民解放軍に奪取され、また西南部でも人民解放軍がミャンマー国境地帯に進攻したため、国民党は台湾及び福建省や浙江省沿岸の一部島嶼(金門島、大陳島、一江山島)のみを維持するに留まり、東シナ海沿岸での海上ゲリラ戦術で共産党に対抗していました。

朝鮮戦争の影響で沿岸部における侵攻作戦が休止しはじめ、中国の視線が徐々に朝鮮半島へ移転するのを機に国民党は反撃を幾度か試みたものの(南日島戦役東山島戦役)戦果が期待したものとはほど遠く大陸反攻への足がかりを築くことができませんでした。そして、朝鮮戦争が収束するにつれ共産党の視線は再び沿岸部へ向きはじめるようになりました。

この間人民解放軍はソ連から魚雷艇やジェット戦闘機を入手して現代的な軍としての体制を整えつつありましたた。

1954年5月、中国人民解放軍は海軍や空軍の支援の下大陳島及び一江山島周辺の島々を占領し、10月までに砲兵陣地と魚雷艇基地を設置した。9月3日から金門島の守備に当たっていた中華民国国軍に対し砲撃を行いました(93砲戦)。

11月14日に一江山島沖で人民解放軍の魚雷艇が国民党軍海軍の護衛駆逐艦『太平』(旧アメリカ海軍デッカー (護衛駆逐艦))を撃沈すると周辺の制海権を掌握しました。 1955年1月18日には解放軍華東軍区部隊が軍区参謀長張愛萍の指揮の下、一江山島を攻撃、陸海空の共同作戦により午後5時30分に一江山島は解放軍により占拠され、台湾軍の指揮官である王生明は手榴弾により自決しています。

一江山島を失った台湾側は付近の大陳島の防衛は困難と判断、2月8日から2月11日にかけて米海軍と中華民国海軍の共同作戦により大陳島撤退作戦が実施され、浙江省の拠点を放棄したことで事態は収束を迎えました。

  中国人民革命軍事博物館(北京)に展示されている旧日本軍の97式戦車。
  戦後の国共内戦で中国共産党に鹵獲されて使用された「功臣号」の塗装。

次は、第二次台湾海峡危機(1958年)でした。

1958年8月23日、中国人民解放軍は台湾の金門守備隊に対し砲撃を開始、44日間に50万発もの砲撃を加え、金門防衛部副司令官である吉星文趙家驤章傑などがこの砲撃で戦死しています。

この砲撃に対し台湾側は9月11日に中国との空中戦に勝利し、廈門駅を破壊するなどの反撃を行こないました。この武力衝突で米国は台湾の支持を表明、アイゼンハワー大統領は「中国はまぎれもなく台湾侵略」を企図しているとし、また中国をナチスになぞらえましたた。

9月22日にはアメリカが提供した8インチ砲により台湾は中国側への砲撃を開始、また金門への補給作戦を実施し、中国による金門の海上封鎖は失敗、台湾は金門地区の防衛に成功しました。9月29日、蔣介石は金門島の危機に際してはアメリカの支援なくとも中国と戦闘態勢に入ることを述べました。

10月中旬、ダレス国務長官は台湾を訪れ、台湾に対してアメと鞭の態度で臨むことを伝えた。つまり蔣介石が金門・馬祖島まで撤収することを条件に、援助をすると伝えました。蔣介石は10月21日からの三日間の会談で米国の提案を受け入れるが、大陸反撃を放棄しない旨も米国へ伝えました。

10月6日には中国が「人道的配慮」から金門・馬祖島の封鎖を解除し、一週間の一方的休戦を宣言し、米国との全面戦争を避けました。

翌1959年(昭和34年)9月、健康上の理由で首相を辞職した石橋湛山は回復後、私人として中華人民共和国を訪問し、9月17日周恩来首相との会談を行い、冷戦構造を打ち破る日中米ソ平和同盟を主張。

この主張はまだ国連の代表権を持たない共産党政権にとって国際社会への足がかりになるものとして魅力的であり、周はこの提案に同意。周は台湾(中華民国)に武力行使をしないと石橋に約束しました(石橋・周共同声明)。のちの日中共同声明に繋がったともいわれるこの声明および石橋の個人的ともいえる外交活動が、当面の危機を回避することに貢献しました。

先に、この砲撃に対し台湾側は1958年9月11日に中国との空中戦に勝利と掲載しましたが、意外かもしれませんが63年前の1958(昭和33)年9月24日、はじめて実戦で空対空ミサイルを射撃したのは台湾空軍でした。この空中戦は台湾では、「9・24温州湾空戦」と呼ば38機の台湾空軍F-86F「セイバー」と、53機の中国空軍MiG-17が激突する台湾海峡危機における史上最大の空中戦となりました。

台湾空軍のF-86F「セイバー」

そしてこの日、台湾空軍のF-86Fの一部には米海兵隊から供与された秘密兵器、のちにAIM-9B「サイドワインダー」と呼ばれる赤外線誘導型空対空ミサイルがはじめて搭載され、6発発射し実に4機のMiG-17を撃墜するという大戦果をあげました。

このAIM-9Bは現在のAIM-9X-2へと至るサイドワインダー・シリーズ最初の実用型ではありますが、実はこのAIM-9B、現代では想像もつかないほど性能の低いミサイルでした。

どのくらい性能が低かったのかというと、ミサイル先端部の赤外線検知器(シーカー)の感度が悪く、強い近赤外線を発するエンジンノズルしか捕捉できないため敵機の背後に遷移することが必須だった上に、照準可能な射角は中心線からわずか3.5度。さらに発射時は2G以上の旋回を行ってはならず、敵機は回避せず水平飛行していないと命中せず、射程は2kmしかありませんでした。

  最初期型のAIM-9B「サイドワインダー」(一番下)。傑作ミサイルとして
  ソ連にさえコピーされ世界中で使用された

それにしても、従来は戦闘機対戦闘機の戦闘においては、機銃掃射等でしか撃墜するしか術がなかった戦闘機をミサイルで撃ち落とすことができるようになったのですから、これは当時としては、軍事上の大イノベーションであると世界に受け止められました。

そのようなAIM-9Bがなぜ6発中4発も命中したのかというと、中国空軍側のMiG-17が背後の敵機に気付かず水平飛行していたからでした。しかし、それでもAIM-9Bが空中戦の歴史に与えた衝撃はすさまじいものがあり、世界中で機関砲軽視・空対空ミサイル重視のブームが発生し、機関砲を搭載しない戦闘機が多数開発されます。

最後は、第三次台湾海峡危機です。これは、1995年7月21日から1996年3月23日まで台湾海峡を含む中華民国(台湾)周辺海域で中華人民共和国(中国)が行った一連のミサイル実験により発生した軍事的危機。1950-60年代の危機と区別して「台湾海峡ミサイル危機」とも言います。

1995年半ばから後半にかけて発射された最初のミサイルは、中国の外交政策と対決すると予測されていた李登輝政権下の台湾政府に強力なシグナルを送ろうとしたものと見られた。第2波のミサイルは1996年初めに発射され、1996年中華民国総統選挙への準備段階にあった台湾に対する脅迫の意図があると見られました(ただし非公式の事前通告があったことが後に判明しています)。

これに対し、米軍はベトナム戦争以来最大級の軍事力を動員して反応しました。1996年3月にクリントン大統領はこの地域に向けて艦艇の増強を命じました。当時この地域には、空母ニミッツインディペンデンス(「独立」の意)を中心とした2つの空母打撃群がいました。そしてニミッツ打撃群は台湾海峡を通過しました。

この危機に対して、中国の首脳部は1996年に、米軍が台湾の援助に来航することを阻止できないと認めざるを得ませんでした。そうして危機はさりました。

当時の、中国軍は米軍の空母打撃群に対して対抗する術はなく、このときの悔しさから、後に空母建造や強力な空軍、ミサイルの開発へとつながったとされています。

第三次台湾危機においては、米空母打撃群がその終息の決めてになりましたが、第二次台湾海峡危機においては、台湾軍も相当活躍しています。そうして、後の航空機の戦術を変えた「サイドワインダー」のように、現在の台湾軍も隠し玉を持っています。それは以前のこのブログにも掲載したことがあります。そのブログのリンクを以下に掲載します。
中国爆撃機など20機、台湾の防空識別圏進入 米が英に「一帯一路」対抗策を提案 識者「中国軍が強行上陸の可能性も」―【私の論評】中国が台湾に侵攻すれば、台湾は三峡ダムをミサイルで破壊し報復する(゚д゚)!
台湾の防空識別圏に飛来したH6K爆撃機の同型機(上)。下は台湾のF-16戦闘機

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
台湾は、長年かけて自主開発した中距離巡航ミサイル「雲峰」の量産を2019年から開始しています。アナリストによると、雲峰の飛行距離は2000キロで、台湾南部の高雄から北京を納める距離です。
消息筋によると、現状でも、台湾側は中近距離ミサイルによって、中国本土の三峡ダムを破壊することを含め、抑止体制を十分に整え終わっているとされています。
「雲峰」の射程距離は2000キロというのですから、北京は無論のこと三峡ダムをはじめとして、中国のかなりの部分をカバーしています。上の地図をみてもわかるように、中国の2/3
程度をカバーしています。

台湾国営NCSISTは4月15日に雲峰 (Yun Feng) LACMの発射試験を行っています。雲峰はラムジェット推進でマッハ3で飛翔し、射程は1,500~2,000kmと言われている。

しかも、これは配備計画ではなく、すでに2019年から量産体制に入っているというのですから、現在でも少なくとも数十発、もしかすると数百発を配備しているかもしれません。これは、中国にとっては脅威でしょう。しかも、それが台湾独自によって開発されたものというのですから、これも中国にとっては驚きだったでしょう。

数十発のミサイルが、三峡ダムに打ち込まれた場合、これを中国が阻止するのはほとんど不可能です。三峡ダムが破壊された場合、中国の国土の4/3が浸水するといわれており、そうなってしまえば、中国は台湾侵攻どころではなくなります。

当然のことながら、このミサイルは三峡ダムだけではなく、中国のありとあらゆる軍事基地を狙っているでしょう。空軍基地は無論のこと、軍港や、あるいは原発、その他インフラなど、爆撃すれば効果的なところはいくらでもあります。

さらに、台湾は雲峰のほかにも長距離ミサイルを開発中です。さらに、台湾は、ミサイルだけではなく、最新鋭の通常型潜水艦を建造中であり、これと最新の対潜哨戒能力をつければ台湾の守りは完璧になります。

特に潜水艦の建造に成功すれば、台湾は今後数十年は中国に侵攻されることはないと米国の専門家は指摘しています。これについては、このブログにも掲載していますので、興味のある方は是非ご覧になってください。ただし、これは建造を開始したのが、昨年ですから、完成するのは数年後のことになります。

現状でも、中国が台湾に侵攻しようとした場合、台湾単独で中国と戦ったとしても、中国も無傷ですむということはなく、大きな犠牲が出るということです。

台湾に日米やQUADなどが加勢すれば、ほとんど不可能でしょう。たとえ侵攻しても、このブログでも何度か述べているように、中国は台湾に上陸した陸上部隊を維持することは不可能です。

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