2021年7月21日水曜日

中国共産党百周年祝賀行事で見せた中国の危険性―【私の論評】中国に迫る危機が透けて見えた習近平の演説(゚д゚)!

中国共産党百周年祝賀行事で見せた中国の危険性

岡崎研究所

 7月1日に天安門広場で中国共産党百周年の祝賀行事が行われ、習近平が演説した。その内容は既に多くの報道で取り上げられている通り、対外的に極めて強硬なことを言っている。


 習は、「中国人民は外国の勢力が我々をいじめ、抑圧、奴隷化することを決して許さない、その妄想を持つものは誰であれ、14億人の中国人の肉と血でできた鋼鉄の万里の長城でその頭を割り、血を流すだろう」と述べた他、Covid-19への対応、貧困問題、香港での反対派の弾圧についての外国からの問題提起に対し「我々はこれらの”教師”の傲慢な説教を決して受け入れない」と述べた。また、台湾問題につき「中国は平和的統一を望む。しかしその忍耐心は試みられてはならない。誰も中国人民の国家主権と領土一体性を守る決意、強固な意志、力強い能力を過小評価してはならない」と述べた。

 対外的に強硬な姿勢を打ち出した演説であり、中国と米国とその同盟国との対決の気運を強めるものであって、その緩和には役立たないだろう。しかし、そもそもこういう演説にそれを求めるのが無理であろう。7月1日付けのニューヨーク・タイムズ紙の解説記事は、「これは遊説演説のようなもので、少なくとも習があと10年は最高指導者、司令官で居残るべきであると主張したものだ」とするWo-Lap Lam(香港中文大学中国研究センター非常勤教授)の言葉を紹介している。その通りであろう。

 今回の演説の主眼が国内向けであるとしても、今後、共産党の学習会で繰り返し学習されることになり、その対外強硬姿勢が党員の頭に刷り込まれ、方針転換がしづらくなるというデメリットがある。

 中国共産党は1921年にコミンテルンの中国支部として上海のフランス租界で生まれた。習近平は今回の演説で「偉大で、栄光があり、正しい中国共産党 万歳」と叫んだが、かなり多くの過ちを犯した党である。1958年-62年の大躍進政策、1966年-76年の文化大革命では1000万人以上が死亡したと言われている。

 中国の経済発展が共産党によって遅らされたことは明らかである。鄧小平が改革開放を打ち出した以降、中国経済は急激に成長したが、それは西側諸国との協調があってこそのことではなかったかと思われる。日本は多額のODAを提供し、直接投資もしたし、中国製品を大量に輸入した。米国も同じようなことをした。西側は、中国が豊かになれば民主化につながり、世界はよりよくなると考えた。今から思えば幻想であったと言わざるを得ない。習近平は鄧小平の業績を引き継いだが、思想的な面は引き継いでおらず、対西側対決姿勢を打ち出している。それが中国経済に与える影響は今後よく見ていく必要があると思われる。

 中国の今後の政治については、習近平は、鄧小平が定めた最高指導者は2期10年とする制限を撤廃し、長期独裁政権を築こうとしているように見える。集団指導の原則もないがしろにする勢いである。鄧小平が行った政治改革を逆転させており、その結果がどうなるか、注意が必要だと思われる。独裁政権は安定しているようで、不安定であり、崩れる時には急に崩れるし、政策上の間違いも犯しがちである。

 中国は強大で、かつ危険な国になっていると思われる。「説教は拒否する」というのではなく、批判にも度量をもって、耳を傾け、民主主義国の意見との懸隔をできるだけ少なくする努力が中国に望まれる。他方、こちら側にも意見の懸隔を少なくする知恵がいる。

 日本としては、中国の危険性を認識し、経済関係の在り方をより制限的にすることや一層の防衛努力をすることなどが課題になるだろう。

【私の論評】中国に迫る危機が透けて見えた習近平の演説(゚д゚)!

現在「中華思想」丸出しの習近平政権ですが、ではその実力はといえば、核兵器、サイバー攻撃力のどちらにおいても米国の足元に及びません。 

2020年1月時点での各国の核戦力を比較してみます。世界の核兵器保有数は13,400ですが、そのうち、米国が5800、ロシアが6375で90%以上を占めます。 

中国は320で、フランスの290、英国の215と同程度です。また、インドが150、パキスタンが160保有しています。 


さらに、英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」が公表した15ヵ国のサイバー能力を分析した報告書で「第1級」のトップクラスとされたのは米国のみです。 

共産主義中国はオーストラリア、フランス、ロシア、英国などとともに「第2級」に分類され、米国との差は圧倒的です。

ちなみに、よくサイバー攻撃で話題になる北朝鮮は、日本、インド、インドネシア、イランなどと同じ「第3級」です。日本の現状は悲しい限りですが、中国や北朝鮮が実力以上の脅威ととらえられるのは、これらの国々の攻撃で先進国(企業)が被害にあった場合は情報がオープンにされメディアで報道されるからです。 

逆に、北朝鮮や中国がサイバー攻撃を受けても、何事も無かったように「だんまり」を決め込むから実態が知られないだけなのです。 

さらに、米国最大の石油パイプライン「コロニアル・パイプライン」がハッカー攻撃を受けて支払った身代金の大半が回収されました。FBIなどが作戦に関与したとされますが、米国の実力の一端を垣間見せる出来事です。 

もちろん、空母など通常兵器でも米国が圧倒的に優位に立っています。最近では、空母は実戦ではあまり役立たないどころか、ミサイルや魚雷の格好の目標となるとされていますが、それは中国も同じことです。

現代の海戦は潜水艦によって決まるといわれていますが、その潜水艦でも隻数では、中国が米国を上回るとはいえ、攻撃力では米国が圧倒的です。さらに、中国にとって悪いことに、米軍の対艦哨戒能力は世界一であるのに対して、中国のそれはかなり低いです。これが、海戦では米国を圧倒的に有利にしています。

さらに、日本の潜水艦の静寂性(ステルス性)は、世界トップ水準で、中国にはこれを発見できません。さらに、日本も対潜哨戒能力で中国をはるかに凌駕しており、現状では米国についで世界第二位といわれています。

これでは、中国は海戦で日米に勝てる見込みは全くありません。実際に海戦になれば、中国の艦艇のほとんどは戦う前に海の藻屑となるでしょう。

台湾に中国軍が上陸しようとしたとしても、日米の潜水艦隊に囲まれてしまえば、中国の航空機も、艦船も台湾に近づくことができません。近づけは、日本の潜水艦隊は、静寂性を活用して、中国側に発見されることなく、台湾海峡、東シナ海、黄海などを自由に潜航して、情報収集にあたるとともに、許されれば中国の艦艇に魚雷攻撃を加えることになるでしょう。

米国の攻撃型原潜は、水中に潜み、日本の潜水艦の情報を活用し、中国の航空機、艦船、中国国内の基地などを攻撃するでしょう。中国の空母は、軍港を出た途端に撃沈されることになるでしょう。

そうりゅう型潜水艦11番艦のSS511おうりゅう

この状況で「中華思想」に基づく外交を行うことは、国家の破滅さえ導きかねないです。「毛沢東2世」どころの話ではないのです。

共産主義中国建国から長年にわたって毛沢東が支配できたのは、それ以前の悲惨というか壊滅的な状況を国民が記憶していたからです。どれほどひどい政治であろうと外国による支配や戦乱よりはましというわけでした。 

しかし、習近平氏が統治しているのは「天国のようなバブル時代」と「わずかながらの自由」を経験した人民です。毛沢東流の統治が成功する見込みはありません。 

それに、過去の中国は鄧小平の開放政策により、急速に経済が発展しましたが、現在の中国は国民一人当たりの所得が100万円に近づきつつあり、以前のこのブログで述べたように、今後民主化、政治と経済、法治国家化を進めなければ、中所得国の罠(国民一人あたりの所得が100前んをなかなか超えない現象、發展途上国に一般的にみられる現象)にはまりこむのは必定とみられます。

過去においては、中国が経済発展をし、鄧小平が語った「富めるものから富め」といわるように、多くの富裕層を排出することができましたが、今後は中所得の罠にはまって、新たな富裕層が生まれることはなくなります。

既存の富裕層が利権を独占して、固定化することになります。経済が今以上に発展しないのですから、富裕層の中にも脱落するものも増えるでしょう。そうなると、中国の富裕層も共産党を支持しなくなる可能性がでてきます。

習近平が演説で繰り返し「人民」に触れざるを得なかったのは、人民の共産党離れを懸念したからでしょう。中国は高度成長が終わり、債務問題を抱えています。共産党は経済成長を統治の正統性に据えることができなくなったのです。

共産党の統治の正当性は、もはや軍事力しか無くなったと言っても過言ではありません。

また、毛沢東は8000万人もの人々を死に追いやったのですが、文革の時は富裕層や知識人であり、大躍進の際には特権階級を除く全国民が犠牲の対象でした。ウイグルなどもともとは外国であった地域のジェノサイドでは、海外からの風当たりが違うということもあります。 

そうして、毛沢東時代の共産主義中国はソ連という悪の帝国の陰に隠れていましたが、ソ連が崩壊した後のロシアは、軍事力な軍事技術が進んでおり侮れないとはいいつつ、現在のGDPは韓国なみの水準となり、大国とは程遠い状況にあります。


現在のロシアは、米国を除いた、NATOと戦っても勝利することはできません。軍事技術などがすぐれているので、初戦には勝つかもしれませんが、その後は、貧弱な兵站能力しかなく、補給などができず、戦線を維持できず、後退を余儀なくされることでしょう。

この兵站の貧弱さは、中国も同じです。昨年4海域で軍事訓練を行いないましたが、今年なりを潜めています。実施できるのは、台湾に航空機を派遣することぐらいのようです。航空機の派遣であれば、短時間で引き返して来るので、兵站のことをあまり考慮せずに派遣できます。

そうして、現代の中国は「悪の帝国の本尊」です。 結局、国際レベルでの政治的駆け引きが無い、ウイグルや武漢ウイルス研究所の問題における一本調子の対応(稚拙な外交)は自滅を招くのみです。これが、本当の中国の危機です。

それが、何ら具体的な戦略や政策などがみられない、今回の習近平の中国共産党百周年祝賀行事での演説に助けて見えたと思います。


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2021年7月20日火曜日

「科学」よりも「感情」が優先の社会 コロナへの恐怖で政権も動揺…ワクチンと時間が解決するか ―【私の論評】コロナ対策は「感染症専門家」ではなく、「リスク管理専門家」に任せるべきだった(゚д゚)!

「科学」よりも「感情」が優先の社会 コロナへの恐怖で政権も動揺…ワクチンと時間が解決するか 

高橋洋一 日本の解き方

ワクチン接種はすすみつつあるが・・・・

 東京都で4回目の緊急事態宣言が発令され、五輪も大半が無観客開催となった。ワクチン接種についても順調な進捗(しんちょく)よりも供給遅ればかりが強調されて報じられている。一方で、酒類を提供する店への締め付けについては国による法的根拠が乏しい要請が問題になった。科学や事実、法律よりも感情優先の決定がなされる背景は何だろうか。

 新型コロナウイルスをめぐる分析は、筆者からみて当初の段階から科学的とはいえなかった。一例として、数理モデルによる推計で「何の対策も講じなければ42万人死亡する」という試算があった。もちろん初期段階ではパラメーターの設定でいろいろな推計ができるが、事後に推計結果が現実と違っていれば、どのパラメーターがどの程度想定と異なっていたかを説明しなければいけない。しかし、そうした科学的検証も行われず、専門家としての権威を大きく失った。それ以降、あおるだけあおって科学的な事後検証のない試算値が各方面から出ており、言いたい放題になった。

 規制の根拠となるエビデンスも可能な限り示さなければいけないが、「Go To トラベル」の中止や飲食業の規制において、それらの根拠が明確に示されたとは言い難い。

 科学的分析の第一歩である国際比較について、日本の現状を各国と客観的に比較することさえ、筆者の「さざ波」発言のように社会的に批判されるという情けない状況だ。

 こうしたことの裏には、一部勢力が声高に東京五輪中止を今でも叫んでいることもある。それが政治的な動きになって、一部野党も後押ししている。

 一方、小池百合子都知事も自らの政治プレゼンスをそれらに乗じて高めようとし、政治的な老獪(ろうかい)さを発揮している。そうした中で、菅義偉政権も浮足立ち、冒頭述べたような基本的な行政判断も間違うようになってしまった。

 さらに、一部のマスコミがコロナをあおる報道を繰り返し、この異常な動きを加速している。筆者は、こうした各方面の動きの相乗作用によって、事実や科学、法律を無視するというあり得ない事態が生じているように思える。

 こうした動きのさらなる背景として、新型コロナへの恐怖が人々の正常な判断を阻害しているように思えてならない。

 人は誰しも弱いものなので、未知のものに対する恐怖心がある。筆者の知人にも少なくないが、新型コロナという目に見えないものを冷静に判断できず、感情で反応するのは分からなくもない。

 100年ほど前のスペイン風邪のときも、根拠のない流言飛語が飛び交い、冷静な判断を妨げたという。今回、感情的な判断ばかりなのも、新型コロナがもたらした心理的な要因が根本にあるのだろう。

 欧米の例をみていても、ワクチン接種が進めば、新型コロナの社会的な影響は徐々になくなっていくのではないだろうか。時間だけが確実な解決策である。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】コロナ対策は「感染症専門家」ではなく、「リスク管理専門家」に任せるべきだった(゚д゚)!

コロナ禍でのマスコミの煽りに関しては、良いことではないですが、マスコミにありがちなことです。昔からいわれているように「犬が人を噛むのはニュースにはならいが、人が犬を噛むのはニュースになる」という具合に、マスコミがある程度煽るのは、致し方ないところもあると思います。

ただ、正直言って「感染症専門家」に関しては、ほんとうにがっかりしたというのが正直な感想です。コロナが心配だから、五輪開催はしないほうが好ましいとか、開催するなら無観客で実施したほうが良いということは、誰にでも理解できることだと思います。これは、小学生でもわかります。

政府や東京都など、責任のある立場の人たちが知りたいのは、コロナ禍にあっても、どのくらいのリスクをとりつつ、それに対処して、五輪を有観客で開催できるかということだったと思います。

緊急事態宣言も同じことです。現在コロナ患者数が増えているから、緊急事態宣言をしたほうが望ましいということくらい、感染症に関するまっさらの素人でもわかります。そうでなくて、どのようなリスクをとりながらも、それに対処しつつ、緊急事態宣言を出すのか、出さないのかを決めるべきなのです。

企業経営に直接かかわる経営者なら、これは理解できると思います。リスクがあるからといって、最初から企業活動を放棄していては、会社が潰れてしまいます。かといって、リスクを無視して企業活動を続ければ、これも危険です。事前にどのようなリスクがあり、そのリスクをできるだけ低減しつつ企業活動をなるべく制限しないで続ける方策を見つけたいと思うでしょう。

ふりかえってみると、東大日本大震災のときの原発事故による放射能に関する問題でも、同じようにいわゆる専門家といわれる人々にも似たような傾向がみられたと思います。

今回のコロナ禍では、いわゆる専門家という人たちは、こうした要請には答えられなかったことが明らかになりました。

しかし、やはりコロナ禍や放射能等の不安に対処するには、特に政府や、自治体が対応するためには、それなりの専門家が必要であると思います。無論、感染症や、放射能医学の専門家も必要ではありますが、私はこれをメインにするのではなく、「危機管理(Crisis Managment )」と「リスク管理(Risk Management)」の専門家をメインにすべきと思います。


「リスク管理」(Risk Management)の基本は、想定されるリスクが“起こらないように”、そのリスクの原因となる事象の防止策を検討し、実行に移すことです。リスク管理では、想定されるあらゆるリスクを徹底的に洗い出し、そのリスクが発生したらどのような影響があるかを分析します。

そして、それぞれのリスクについて発生を抑止するための方策を検討し、影響度の大きさに従ってプライオリティをつけて、リスク防止策を実行します。つまり、究極のリスク管理は、想定されるリスクを予め抑え込んでしまうことと言えます。

一方、「危機管理」(Crisis Management)は、危機が発生した場合に、その負の影響を最小限にするとともに、いち早く危機状態からの脱出・回復を図ることが基本となります。もちろん、防げる危機であればその発生を防ぐことが望ましいのですが、自然災害や外部要因による人的災害や事故などの中には、自助努力で防ぎえないものも多くあります。

危機管理においても、リスク管理と同様に、起こりうる危機やそれに伴うリスクをリストアップすることが必須となります。しかし、危機管理の大きな特徴は、危機が発生したときに何をすればその災害や影響を最小化できるか(減災)、危機からの早期回復のためには何をすればよいかということが、検討の中心になるということです。

つまり、危機は「いつか必ず起きる」という大前提に立って検討を進めることが、危機管理の第一歩なのです。

リスク管理と危機管理、2つの管理活動は内容こそ違うものの、まったく別の管理活動と考えるのではなく、現在では一体型のリスクマネジメントとして取り組むことが重要です。

細かい不確定事象をリスク管理で回避し、大規模な自然災害やサイバーテロを危機管理で乗り切り、といったように単純な線引きはできませんが、国や自治体のリスク管理と危機管理の管理範囲を明確にすることで、双方の管理組織がそれぞれの責任を果たしながら相互に連携することで、より高度なリスクマネジメントを実施できるでしょう。

最近は暑い日が続いています、2m以内に人がいない屋外ではマスクを外すことを専門家もアドバイスしています。これはリスク管理の観点からも正しい判断だと思います

さらに、現代の組織に重要だと考えらえているのが「能動的リスクマネジメント」です。能動的リスクとは「自らが覚悟して取るリスク」のことです。ちなみにその反対となる、「自然と起こったリスク」を受動的リスクと呼びます。能動的リスクと受動的リスク、組織にとって管理しやすいのは間違いなく能動的リスクです。

自らが覚悟してリスクを取るため、そのリスクについて対応策を十分に考えた上で行動できます。事業活動の中には回避できないリスクも存在します。その際に、複数のリスクの中から影響度が少なくかつコントロールの利くリスクを取捨選択することで、重大なリスクを回避しつつ、リスクにより発生する影響を最小限にとどめられます。これを、能動的リスクマネジメントと呼びます。

リスク(Risk)は「絶壁の間を船で行く」を語源としています。要するに、危険を覚悟して突き進むという意味です。昨今ではリスクを単なる不確定事象と考えていますが、「組織が覚悟して冒す危険」と視点を変えてみるだけで、既存のリスク管理とはまったく違った管理活動が実施できるはずです。

この能動的リスクマネジメントこそ、昨今発生し続ける感染症や放射能から戦争などの不測の事態から国民をまもるリスクマネジメントなのです。

能動的リスクマネジメントを実施するにあたり、まず大切なことは「リスクごとに優先度を付ける」ということです。リスクによって発生する確率と、発生した際の影響度は違います。すべてのリスクを管理しようとなると、かなりの工数により膨大な投資と労力が必要です。そこで、効率良く能動的リスクマネジメントを実施するために、リスクごとに優先度をつけるのです。


上表は、リスクの発生確率と影響度から各リスクを評価するための一例です。発生確率と影響度を7段階で表し、2つの掛け合わせた数値からリスクを評価します。リスクは25段階の数値で評価され、数値は1.0に近いほど対応優先度の高いリスクということになります。

こうしたリスクを評価し、優先度をつけると早急に対応すべきリスクが明確になり、リスクマネジメントを効率良く行えます。さらに、リスクが避けられない場合は同種のリスクの中から最も危険性の低いリスクを選択することができ、能動的リスクマネジメントを実現するキーポイントにもなります。

このような能動的リスク管理ができれば、五輪の「有観客」開催もできた可能性があったのではないかと思います。

今後、感染症や放射能、戦争への脅威や、その他の社会に大きな悪影響をあたえる災厄がありそうな場合や、不幸にも起こってしまった場合は、リスク管理、危機感の専門家を中心とした専門家会議を開催するようにし、感染症、放射能のようなその分野の専門家は、その専門会議の中に一部として加わるか、別の専門家会議を開催して、危機管理の専門家会議にアドバイスをするなどのことをすべきと思います。

あまり良いたとえとも思えませんが、たとえば戦争のリスクが発生したときに、軍事専門家や平和研究の専門家をメインとした会議を開催したとしても、うまくいくはずがありません。やはり、リスク管理、危機管理の専門家に議論させ、その議論をたたき台としつつも、最後は政府や自治体が意思決定すべきと思います。

意外と「いじめ」の問題などでも、いわゆる教育専門家などよりもリスク管理・危機管理の観点から考えたほうが、打開策を見いだせるかもしれません。

今後も感染症、放射能、自然災害など未曾有の危機が起こる可能性は十分にあります。社会に甚大な影響を及ぼすリスクに関しては、リスク管理・危機管理の専門家に対応策を検討させる体制を整えるべきです。

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2021年7月19日月曜日

小山田圭吾さんが五輪開会式の楽曲制作辞任へ―【私の論評】世の中には、残念ながら鬼畜が存在する。OSINT(オシント)を活用すべき(゚д゚)!

小山田圭吾さんが五輪開会式の楽曲制作辞任へ

小山田圭吾

23日に行われる東京五輪開会式で楽曲制作を担当するミュージシャンの小山田圭吾さんが辞任する見通しとなったことが19日、大会関係者への取材で分かった。過去に雑誌のインタビューで学生時代のいじめを告白していたことが問題となっていた。

小山田さんは同日、自身の「ツイッター」で、「依頼をお受けしたことは、さまざまな方への配慮に欠けていたと痛感しております」とし、大会組織委員会に辞任の申し出をしたことを明かした。

小山田さんは平成6年1月発行の「ロッキング・オン・ジャパン」(ロッキング・オン)などで同級生を箱に閉じ込めたり、障害のある生徒をからかったりしたことを語っていた。

【私の論評】世の中には、残念ながら鬼畜が存在する。OSINT(オシント)を活用すべき(゚д゚)!

ミュージシャンのコーネリアスこと、小山田圭吾氏が学生時代に行った何らかの障害を有する方に行ったいじめのインタビュー内容です。

雑誌「ロッキンオン・ジャパン(1994年1月号)」のインタービューによりますと、小山田圭吾氏は、和光大学付属の小・中・高校時代に、いじめる側の生徒でした。

以下、小山田圭吾氏への2万字インタビューで語られていた内容です。


■沢田さん(仮名)のこと

沢田って奴がいて。こいつはかなりエポック・メーキングな男で、転向してきたんですよ、小学校二年生ぐらいの時に。それはもう、学校中に衝撃が走って(笑)。だって、転校してきて自己紹介とかするじゃないですか、もういきなり(言語障害っぽい口調で)「サワダです」とか言ってさ、「うわ、すごい!」ってなるじゃないですか。で、転校してきた初日に、ウンコしたんだ。なんか学校でウンコするとかいうのは小学生にとっては重罪だってのはあるじゃないですか?
だから、何かほら、「ロボコン」でいう「ロボパー」が転校してきたようなもんですよ。(笑)。で、みんなとかやっぱ、そういうの慣れてないから、かなりびっくりするじゃないですか。で、名前はもう一瞬にして知れ渡って、凄い奴が来たって(笑)、ある意味、スターですよ。

段ボール箱とかがあって、そん中に沢田を入れて、全部グルグルにガムテープで縛って、空気穴みたいなの開けて(笑)、「おい、沢田、大丈夫か?」とか言うと、「ダイジョブ…」とか言ってんの(笑)そこに黒板消しとかで、「毒ガス攻撃だ!」ってパタパタやって、しばらく放っといたりして、時間経ってくると、何にも反応しなくなったりとかして、「ヤバいね」「どうしようか」とか言って、「じゃ、ここでガムテープだけ外して、部屋の側から見ていよう」って外して見てたら、いきなりバリバリ出てきて、何て言ったのかな…?何かすごく面白いこと言ったんですよ。……超ワケ分かんない、「おかあさ〜ん」とかなんか、そんなこと言ったんですよ(笑)それでみんな大爆笑とかしたりして。

ソースはこちら⇒https://koritsumuen.hatenablog.com/entry/20061115/p1
■高校時代

ジャージになると、みんな脱がしてさ、でも、チンポ出すことなんて、別にこいつにとって何でもないことだからさ、チンポ出したままウロウロしているんだけど。だけど、こいつチンポがデッカくてさ、小学校の時からそうなんだけど、高校ぐらいになるともう、さらにデカさが増しててさ(笑)女の子とか反応するじゃないですか。だから、みんなわざと脱がしてさ、廊下とか歩かせたりして。

こういう障害がある人とかって言うのは、なぜか図書室にたまるんですよ。図書室っていうのが、もう一大テーマパークって感じで(笑)しかもウチの学年だけじゃなくて、全学年のそういう奴のなぜか、拠り所になってて、きっと逃げ場所なんだけど、そん中での社会っていうのがまたあって、さっき言った長谷川君っていう超ハードコアなおかしい人が、一コ上で一番凄いから、イニシアチブを取ってね、みんなそいつのことをちょっと恐れてる。そいつには相棒がいて。耳が聞こえない奴で、すっごい背がちっちゃいのね。何か南米人とハーフみたいな顔をしてて、色が真っ黒で、そいつら二人でコンビなのね。ウチの学年のそういう奴にも威張ってたりとかするの。

何かたまに、そういうのを「みんなで見に行こう」「休み時間は何やってるのか?」とか言ってさ。そういうのを好きなのは、僕とかを含めて三、四人ぐらいだったけど、見に行ったりすると、そいつらの間で相撲が流行っててさ(笑)。図書館の前に、土俵みたいなのがあって、相撲してるのね。

太鼓クラブとかは、もうそうだったのね。体育倉庫みたいなことろでやってたの、クラブ自体が。だから、いろんなものが置いてあるんですよ、使えるものが。だから、マットレス巻きにして殺しちゃった事件とかあったじゃないですか、そんなことやってたし、跳び箱の中に入れたりとか。小道具には事欠かなくて、マットの上からジャンピング・ニーパットやったりとかさー。あれはヤバイよね、きっとね(笑)

ソースはこちら⇒https://koritsumuen.hatenablog.com/entry/20061115/p1

ひろゆき氏は小山田氏について以下のようにツイートしています。
「1回でもいじめをやった人は永遠に表に出てくるべきではないとしてしまうのもどうか」「あやまちに気づいた加害者が許されるチャンスは本当にないのか。東京オリンピックが直前に迫っている今、試されているのは人間同士の絆なのかもしれない」
これは、批判が殺到したのでしょうか、現在では消去されています。当然といえば、当然だと思います。

この問題には、他にも異様なコメントが続出しています。なぜことのようなことになるかといえば、「いじめ」という言葉を使うからでしょう。小山田の所業は障害者虐待であり、重大な人権侵害であり、文明社会においては明らかに犯罪です。

いわゆる「いじめ」については、以前はこのブログでも随分前はとりあげたことがありましたが、ここしばらくは、とりあげていませんでした。その一番最新のもののリンクを以下に掲載します。
中国ライバル視を顕著にしたEU委員長会見 — 【私の論評】到来する新世界秩序において、日本がリーダー的地位獲得するため安倍総理は党内の雑音を取り除き正しい道を進むべき!(◎_◎;)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この中より、「いじめ」に関する部分を少し長いですが引用させていただきます。
EUと、中国とでは、全く価値観が合わないでしょう。そもそも、EUというか、ヨーロッパの国々は、現在の自由と民主主義、法の支配、人権など西欧的価値の生みの親であり、特に第二次世界大戦では、ドイツ第三帝国の全体主義により、直接大きな被害を被っています。
ドイツ第三帝国を統治したヒトラー
そのためでしょうか、EUの価値観は日米とも異なるところがあります。例えば、いじめの問題があります。米国人に日本のいじめの問題を話すと、大抵の人は一定の理解を示していただけるのですが、EUの人々には、なかなか理解してもらえません。
理解していないどころか、国を問わず、彼らと話しているとそもそも「いじめ」に関する日本人や米国人の考え方そのものが、間違いではないかと思えてくるのです。
それに関しては、このブログにも何度か掲載したことがあります。私は、英国人、ドイツ人、フランス人あるいは他のEUの国の人たちに、「いじめとは何か」という質問を受けたことが何度かあります。
私が、説明をし始めると、彼ら全員が、個々人の表現は違っていたにしてもとにかく、私の説明には納得がいかないようで、「それは犯罪です」というのです。
何度もこのようなことを繰り返すうちに、日本人米国人とEUの人々の間には、価値観が異なるところがあることに気づきました
それは、私達日本人や、米国人が学校という空間を、何やら治外法権のような、そこまでは行かなくとも特殊な空間だと見做しているのに対して、EUの人たちは、そうではなく、学校だろうが、職場だろうが、病院の病室などの特殊な空間も含めて、全く分けることなく、同じ価値観や、法律などによって規制されるべきことを当然のことと思っていると感じたのです。
それに比較して、陰湿ないじめも多い日本人や、日本などよりもはるかに苛烈な暴力による「いじめ」が頻繁にある米国などでは、何やら学校には、学校の価値観があったり、そもそもそれぞれの学校で異なる価値観があることを暗に認め、その結果として、不思議な法律や価値観が異なる閉鎖空間のような、治外法権の空間を生み出しているように感じられるようになりました。
最初は、EUの人たちの方が変わっていると思っていたのですが、彼らの話を聞いているうちに、自分の方がおかしいのではないか思うようになってきたのです。
確かに、自由とかそれに伴う責任とか、民主主義、法の支配、人権などの価値観が組織が変われば、変わるとみなすのは、おかしなことです。もし、そのようなことをしてしまえば、そもそも価値観なるものも、法の精神も成り立たないことになります。
よく考えてみれば、当然のことなのですが、多くの日本人は、学校という組織や空間を無意識に他の社会とは異なるものと考えがちです。今では、数が少なくなりつつあるブラック企業内では、社会常識など無視して、独自の価値で運営されています。
無論、EU諸国に日本でいわれる「いじめ」が存在しないとはいいません。それに、とてつもない鬼畜のような人間や、冷徹な人間が存在することも確かです。

ただ、EUの人々の中には、いわゆる日本でいうところの「いじめ」は、犯罪であるという普遍的な意識が定借しているのではないかと思います。

このあたりがしっかりしていなければ、日本でも陰湿な「いじめ」が起こり続けることもないのではないかと思います。

小山田氏の件は、成人した後に繰り返しその様子をわざわざ笑い話にしたことも含めて、本当に異常です。ただ、このような鬼畜はどこの世界にも一定数いるのですが、今回の件で深刻な点は彼を檜舞台にキャスティングしたことでしょう。

しかも、東京五輪という数十年に一度あるかないかの檜舞台に、なぜよりによってそうしてしまったのでしょうか。

私は会社で人事を担当していたことがありますが、誰かを雇う場合かならず裏取りをしました。いくつかの方法を用いるのですが、その中で必ず用いていたのが、ネットです。

当時はTwitterやフェイスブックなどはありませんでしたが、MixiなどSNSやブログ、掲示板などがありましたから、それを些細に調べれば、様々なことがわかりました。それで、確かな裏付けを持った上で、相手も納得させ内定を取り消したこともありました。いまから考えると、OSINTのようなことをしていました。

オシントとは、オープン・ソース・インテリジェンス(英: open-source intelligence)の略であり、諜報・諜報活動の分野のひとつで、他の HUMINT(ヒューミント)や SIGINT(シギント)と呼ばれる分野が主として「秘密の情報を違法行為を厭わずに得る」ことを旨とするのに対し、公開されている情報を情報源とすることが特徴です。


どうしてそのようなことをしたかといえば、やはり人事としての仕事の性格上思い責任を感じていたからです。間違って、反社的人間、左翼活動家などを正式に採用してしまった場合、重大な責任問題になるからです。

だからでしょうか、小山田圭吾を選んでしまった、大会組織委員会の人選を非常に疑問に感じてしまいます。小山田の「いじめ」関連の記事など、すぐに探すことができたはずです。

今回の件は、人選と「いじめ」について、考える良い機会になったと思います。世の中には、残念ながら、さほど数は多くはないと思いますが、鬼畜は存在します。鬼畜に足元を救われないように注意しましょう。

それしもて、大会組織委員会、どうなっているのでしょうか。私が、大会委員会の関係者であれば、それこそOSINTを駆使して、東京五輪の「有観客」開催を、様々な客観的エビデンスから主張すると思うのですが、なせそうしないのでしょうか、本当に不思議です。

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2021年7月18日日曜日

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五輪無観客とアスリート。吉田麻也が伝えたかったこと

吉田麻也選手


真剣に再検討を願う理由

「サッカーに限らず、オリンピックの舞台は毎日命かけて人生かけて戦っているからこそこの場に立てている選手たちばかり。マイナー競技でオリンピックに人生を懸けている選手たちは山ほどいる。なんとかもう一度考えて欲しい、真剣に検討してほしい」(吉田麻也)

 17日に行われた東京五輪男子サッカー日本代表と同スペイン代表のキリンチャレンジカップ。五輪前最後の準備試合となるこの一戦を終えて、テレビの前で吉田麻也主将が沈痛な雰囲気で繰り出した言葉は「(五輪の)無観客は残念ですね」というものだった。おそらく放送枠の都合でその言葉は途中で切られてしまう形となったので、あらためて試合後の取材で本人にその“続き”について聞いてみたところ、出てきたのが冒頭の言葉である。

 以前から吉田は無観客試合について無念の思いをにじませていた。「ウインブルドンでもEUROでも(観客が)入っている」とこぼしたこともあったので、あらためて観客の前でプレーする最後の機会で「なぜ日本だけダメなのか?」という思いを繰り出した形だろう。もちろん、これまで繰り返し医療現場で戦う人々への敬意を示し、そこへの感謝を口にしてきた吉田である。「(コロナ禍に対して)陰で戦っている人たちがいるのは重々理解しているし、オリンピックがやれるということだけでも感謝しなければいけない立場にあることは理解しています」と強調したように、それを忘れたわけでは決してない。

 それゆえに、アスリートのこうした主張を快く思わない人がいることも承知している。「実際、いまはどっちのコメントをしても叩かれるような状況だと思う。ただ、それは個人的に間違っていると思っている」とまで言うが、しかしそれでも伝えたい思いがあった。

「JOCの山下泰裕会長もオンライン壮行会のときにおっしゃっていましたけど、自分がちっちゃいときに観たオリンピックから影響を受けたし、ものすごく感動した。僕たちがやっぱり子どもたちにできることということは、家の中に閉じ込めて友達とも会わず、ことが過ぎるのを待つだけじゃないと思う。もっともっとできることたくさんあると思うし、僕にも娘がいるし、まだ4歳で、僕のプレーしているところを覚えていられないとは思う。そういう子どもたちに絶対いろいろなモノを与えられると思います。時差がなく、オンタイムで試合を観られるというのは、僕が2002年W杯のときにそうだったように、やっぱり物凄い感動と衝撃を受けると思うし、そのためにこそオリンピックを招致したのではなかったのかと個人的には思っている」

 せめて家族だけでも観に来られないのかというのは他のアスリートから聞かれた言葉だったが、吉田も選手の家族たちのことについてあらためて言及した。

 「じいちゃんばあちゃん、孫がオリンピックに出るところを観たいと言う人はたくさんいるだろうし。家族も、僕なんかもそうですけど、いろいろなモノを我慢して犠牲にしながら、ヨーロッパで戦う僕をサポートしてくれています。僕だけじゃなくて家族も戦っている一員なので、それが観られないというのは、誰のための何のための戦いなんだろう。そこはクエスチョンです」

 もちろん、「苦しいときにファンの助けは本当に大きい」と語ったように、パフォーマンス面でのメリットもあるだろうが、そこにとどまる話ではあるまい。スポーツの価値自体が毀損されてきたコロナ禍の中で、東京五輪が非科学的で感情的な攻撃の対象になり、政治的な闘争の具材にされてしまった現状に対する一人のアスリートの意思表明だった。

「もう一度検討していただきたいなと心から願っています」

 吉田はその言葉を残し、会見場を後にした。その言葉が届かないであろうことは百も承知。それでも、スポーツの価値を信じる人々に伝えておきたい言葉があった。

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上の記事を読んでいると、吉田麻也選手の気持ちかひしひしと伝わってきます。東京五輪は、制限付きで良いから、「有観客」で実施すべきと私は思います。

世界中がコロナ禍にあるものの、各国の主要なスポーツイベントは「有観客」に舵を切っています。大谷翔平が出場した米国メジャーリーグのオールスター(7月13日)は約5万人が観戦。テレビ映像などを観る限り、マスクをしていた人はごくわずかでした。英国でも、オーストラリアでも、その他の先進国等では同じよう状況です。

大谷翔平選手

では、日本国内のスポーツイベントはどうなのといえば、非常事態宣言下では、プロ野球、Jリーグ、陸上競技などの大規模イベントは、「人数上限5000人かつ収容率50%の制限」で行われています。現在開催中である甲子園の東東京大会と西東京大会もメガホンなど鳴り物の持ち込みを禁じているが有観客で行われています。

では、なぜ東京五輪だけが「無観客」なのでしょうか。 東京都では7月12日に4度目となる「緊急事態宣言」が発出された。東京五輪の無観客開催について、小池百合子都知事は、「都民の命と健康を守り、安全を重視した大会とするため」と説明している。
無観客となった理由のひとつに、英国や米国のようにワクチン接種が進んでいないことが挙げられます。「Our World in Data」の集計によると、ワクチン接種の完了率は、英国が51.8%(7月13日時点)、米国が49.7%(7月14日時点)。一方の日本は19.8%(7月14日時点)です。

確かにワクチン接種率の低さが目立ちます。英国は昨夏から法改正を進めて、摂取会場も確保。昨年12月からワクチン接種を開始しました。日本は、医療従事者への先行接種が始まったのが今年2月17日です。

ただ、日本と米英などの他国とは、明らかに異なる背景があります。それは、100万人あたりの感染者数が二桁以下だったということです。死者の数も桁違いに低いものでした。

感染症学の常識というか、世間一般常からいっても、感染症の酷い国や地域から、ワクチン接種を開始するのは当然のことであり、最近では接種速度もあがっており、五輪開催国としての日本がワクチン接種で後れを取ったという批判は一見もっともらしいですが、正しいとはいえません。

もし日本が、財力でワクチンを早めに獲得し、米英などと同じ時期に接種をはじめた結果、米英の接種が遅れたということにでもなれば、相当批判を受けたと考えられます。その意味では、日本のワクチン接種の時期は、まともだったといえます。

前安倍政権は、昨年には大規模なコロナ対策補正予算を組み、5月頃からワクチン確保や一日100万程度接種できるように、冷蔵庫を用意するなどの前準備を進めていました。安倍政権を引き継いだ菅政権が一日100万接種を目指すといったのは、このような背景があったからです。

このブログでも以前掲載したように、最近では高齢者のワクチン接種がかなりすすみ、高齢者の感染は減っています。確かに最近では若者の感染者数は増えていますが、死者ということでみれば、交通事故による死者よりははるかに低いのです。

昨年はわからなかったコロナ感染症の特徴も明らかになっています。若者は感染しても無自覚か、継承で済む場合がほとんどです。一方、高齢者は感染すると重症化する割合も高く、死亡率も高いです。ところが、その高齢者のワクチン接種がすすみ、感染率が劇的に減少しているのです。

この状況だと、同じ感染者数であっても、昨年から今年の2月〜3月の状況とはかなり変わっており、感染者数そのものの増加は以前ほど不安要因ではなくなりました。そもそも、若い世代から高齢者まで、重症化する比率がかなり低まり、同じ感染者数であっても、従来ほど医療崩壊になりえる確率は随分減ったといえます。 


そのさなかで、なぜか東京五輪がスケープゴートにされたのか、非常に気になります。他のスポーツイベントは緊急事態宣言下でも「人数上限5000人かつ収容率50%の制限」という条件で有観客開催が認められているのです。東京五輪だけ“特別”になる合理的な理由は見当たりません。 

一番問題だったのは、大手紙やテレビ局を筆頭とするメディアの姿勢です。東京五輪の開催について多くのメディアが「開催」に関してネガティブなトーンだった一方で、「観客を入れて開催できる」といったポジティブな意見はほとんど報道しませんでした。 

そうしたメディアの影響もあり、世間も「コロナ禍で東京五輪なんてとんでもない」という雰囲気を醸成してしまったのではないでしょうか。そのため、アスリートやスポーツ団体は「有観客で開催してほしい」という声を出しににくい状況になっていました。

出せば、叩かれるのは目に見えているからでした。実際、そのように主張した選手はSNSで、かなり叩かれていました し、そうした主張をしてもいなかった池江璃花子選手が叩かれていたのは本当に痛々しく、残念でなりませんでした。アスリートたちは世間から厳しい目を向けられているようです。自分の意見を言えない世の中は“正常”とはいえません。

本来ならば、政府を追求する野党から「有観客」を主張する声があがっても良いような気もしますが、「五輪開催」そのものに反対してきた野党にはそれはできないのでしょう。というより、今更「有観客」を主張してしまえば、矛盾すると糾弾されるでしょうし、「コロナ禍で東京五輪なんてとんでもない」という雰囲気を醸成されしまった現状では、とてもできないのでしょう。

元々は「有観客開催」を考えいていた与党の政治家からそのような声が起こっても良いと思うのですが、そうした声もありません。

まさに、吉田麻也選手、言いにくいことをよくぞ言ってくれたと思います。これは、本来は政治家が言うべきことです。日本国内にいるチケットを持っている人のうち、ワクチン接種済みプラス 検査陰性 の条件付きでも良いから、観客入れるべきです。その他の制限があっても良いかもしれません、ただ「無観客」だけは避けるべきでした。

当然のことながら、無観客開催になれば、不要になるものが出てきます。まずはハード面。観客入りを想定して造られた仮設スタンドはほとんど使われることなく撤去されることになります。結果として無駄な経費になります。

それからチケット収入で計上していた約900億円が消滅。赤字分は都や国が税金から補塡(ほてん)することになります。選手の立場はどうなのでしょうか。試合に向かうモチベーション自体は変わらないとはいえ、声援の有無はパフォーマンスに影響するでしょう。

実際、観客に応援されることで選手の運動量が約20%アップしたという調査も報告されています。特に沿道で行われるマラソンは観衆との距離が近いこともあり、声援が耳に届きます。それがエネルギーになるだけに、今回は“孤独な戦い”になるかもしれないです。 

また、集まる人数が多いほど熱狂の渦も大きくなる。「火事場の馬鹿力」のような驚異的なパフォーマンスは非日常の雰囲気から生まれるものです。無観客ではそういうシーンが観られる機会が激減するでしょう。これでは、ホームアドバンテージが無くなってしまいます。

無観客になると、東京五輪2020のレガシー(遺産)を次世代に引き継ぐことも難しいです。選手、ボランティア、大会関係者以外は、東京五輪を“体感”することができないからです。 

サッカー、野球、テニス、ゴルフなど一部の種目を除けば、オリンピックがその競技種目にとって真のナンバー1を決める最高の舞台になります。多くの種目(団体)はオリンピックで競技の魅力を観客にPRしたいと考えていたはずですが、その願いはかなわないのです。

東京五輪を生観戦できないことは、今後のスポーツ界にも大きな影響が出るでしょう。 また無観客になることで、10万人に依頼していたボランティアの一部は出番がなくなってしまいます。SNSの発展で情報を共有できても、体験をシェアすることはできないのです。

東京五輪の無観客は一般の方々が一生に一度できるかどうかという貴重な体験の場が奪われたことになります。 

人間が生きていくためには、安全安心に命を守る環境も大事だが、それと同様に精神的満足・充実を得ることも必要です。東京五輪を観戦したい、と熱望している人は少なくありませんでした。 

そもそも東京(日本)が開催地に立候補したわけで、世界中から開催を押し付けられたわけではないです。「お・も・て・な・し」という言葉で誘致に成功したはずですが、その精神はどこかに消えてしまったようです。 

東京五輪・パラリンピックの出陣式で、気勢をあげる(前列左から)JOCの竹田恒和会長、猪瀬直樹都知事、安倍晋三首相、森喜朗元首相(肩書はいずれも当時)=2013年8月23日、都庁

菅義偉首相は東京五輪に関して、「全人類の努力と英知で難局を乗り越えていけることを東京から発信したい。安心安全な大会を成功させ、歴史に残る大会を実現したい」と話しています。  
はたして東京五輪を無観客にすることで歴史に残る大会になるのでしょうか。無論、「無観客」という異常事態そのものは歴史に残るかもしれません。

しかし、大きな長い苦しみの果にとうとう最初に五輪が開催される場が日本になったということは、本来名誉なことであり、これをたとえ制限つきでも「有観客」で成功させれば、人々の間に長く記憶に残る祭典になったはずです。まさに、私達日本人が、人類がパンデミックに打ち勝てることを示す新たな世界史の1ページを綴ることになったはずです。

この大きな機会を日本は自ら逃したのです。しかも、このような機会は今後100年間は訪れないかもしれないのにです・・・・。目の前の安心安全にばかり執着して、大切なことを失ったことに気づかない人があまり多いのではないでしょうか。

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2021年7月17日土曜日

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【日本の解き方】「政府日銀連合軍」安倍氏の発言、大型財政措置の断行を後押し 衆院選への危機感と打開策に


安倍晋三元首相


 前回の本コラムでも取り上げたが、安倍晋三前首相が「政府と日銀の連合軍による経済対策の必要性」について発言した。あらためて「連合軍」の意味を解説したい。

 新潟県三条市で10日に行われた講演で、安倍氏は以下のように発言した。

 「昨年いわゆる金融政策も含めた形でコロナ対策に挑んだ。政府と日本銀行が連合軍で200兆円という対策をとった。このうち100兆円くらいはしっかり財政措置をした。『子供たちの世代につけを回すな』との批判がある。ずっとこの批判は安倍政権に対してあった。でも必ずしもその批判は正しくない。なぜかというと、今回のコロナ対策においては、政府と日本銀行が連合でやっているから、政府が発行する国債は日本銀行がほぼ全部買い取ってくれている」

 続けて「皆さん、どうやって日本銀行は政府の出す巨額な国債を買うと思いますか。どこからかお金を借りてくるか、持ってくるのか。それは違う。それは紙とインクでお札を刷る。20円で1万円札ができるから。つまり、それは新しいお金が誕生して世の中に出ていくから、それはデフレの圧力に対抗する力にもなる。日本銀行というのは、政府の言ってみれば子会社の関係にある。連結決算上、実はこれは政府の債務にもならない。ですから、『孫、子の代につけを回すな』というが、これは正しくない」と説明する。

 さらに「ただ、1つだけというか2つだけ副作用がある。それはインフレがどんどん進んでいくという問題。もう一点は円の価値がどんどん暴落していくという問題。でも、皆さん、そんなことになっていますか。まったくなっていない。私は今の状況であれば、もう1回、もう2回でもいい。こうした大きなショットを出して、国民の生活を支えていく、大きな対策が必要であり、スピードアップして、足の速い対策を打っていかなければならない」と述べた。

 これらの説明は「完璧」だ。

 実際に安倍政権と菅義偉政権とで、昨年3回の補正予算を計上した。その総事業費はおおむね200兆円で、真水の財政措置は約100兆円だ。この両者はマスコミ報道でも混同されているが、安倍氏はきちんと使い分けている。

 日銀が政府が発行した国債を買い取るという本質論も正しい。本コラムの読者であれば、昨年5月の麻生太郎財務相と黒田東彦(はるひこ)日銀総裁による記者会見で明らかにされたことをご存じだろうが、マスコミはあまり報道していない。

 副作用が2つという整理も正確だ。通貨が物に対して多くなるのがインフレで、他の通貨に対して多くなるのが円の価値下落だからだ。

 今の時期に安倍氏がこの発言をしたのは、東京都議選や緊急事態宣言、東京五輪の「無観客」などで自民党への逆風を感じ、このままでは秋の衆院選で勝てないという危機意識によるものではないか。実際、内閣支持率は低下し、飲食業者の締め付け問題で政権運営も危うくなっている。その打開策が党内から上がっているのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅総理は、マクロ経済音痴・親中派政治屋のきな臭い蠢きを断って、政治の表舞台に立てないようにせよ(゚д゚)!

日銀と政府の連合軍に関しては、昨年このブログにも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

麻生氏の「豹変」が象徴する政府と日銀の“対コロナ連合軍” 相変わらずのマスコミ報道には笑ってしまう ―【私の論評】ピント外れのマスコミには理解できない日本国債の真実(゚д゚)!

麻生財務大臣

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事の高橋洋一氏の記事から一部を引用します。
政府と日銀との連合軍では、政府が大量の国債発行によって財源調達を行うが、その一方で、日銀がその国債の買い入れを行う。これによって政府が巨額の有効需要を創出でき、不況の下支えをする。まさに大恐慌スタイルの経済政策だ。

この政策のリスクは、インフレ率が高まることだ。しかし、コロナ・ショックは基本的に需要蒸発した需要ショックなので、当面はインフレというよりデフレを心配すべきときだ。

ご存知のように、日本ではコロナ・ショック以前からデフレ気味でした、それに輪をかけて、コロナショックで、需要ショックが起こったわけで、現状ではインフレの心配など全くする必要はなく、それよりもデフレを心配すべきなのです。

いまこそ、日銀政府連合軍で政府が空前絶後の大量の国債を発行し、日銀がそれを引き受け、現在の需要不足30兆〜40兆円を埋めるべく、財政出動をすべきときなのです。いまやらずしていつやるのかという次元なのです。

この方向で、具体的に、どのくらいの対策をどの程度実行するかについては、様々な論議があるでしょうが、これに対して、日銀政府連合軍方式の調達そのものに対して様々な屁理屈を言って反対する人たちは、すべて間違えています。なぜなら、この方式は欧米では常識といっても良い方式だからです。

さて、なぜこのようなことを安倍元総理がいいだしたかといえば、やはり東京都議選や緊急事態宣言、東京五輪の「無観客」などで自民党への逆風を感じ、このままでは秋の衆院選で勝てないという危機意識によるものであると考えられます。

新型コロナウイルスをめぐっては、東京都で緊急事態宣言を発令して五輪を無観客とするか、蔓延防止等重点措置として一定の観客を入れるかという二択でした。当初、菅義偉政権は一定の観客を入れる方針でしたが、結局、大半の会場で無観客にせざるを得ませんせんでした。

東京で新規感染者が増加していることが宣言の根拠ですが、今回の感染者増は過去と比べて顕著な差があります。それは、ワクチン効果により高齢者の感染が大きく減少していることです。さらに、若者の感染者数が増えたといっても、交通事故の死者よりはかなり低いです。

政府は宣言発令について「先手を打った」といいますが、それは現状を説明できないことを白状してしまったようなものです。

では、なぜこのような非合理的な決定をしてしまつたのでょうか。この背景には、小池百合子都知事の影があるようです。小池氏は、都議選の自軍の「勝利」後の5日、自民党の二階俊博幹事長、公明党の山口那津男代表とそれぞれ面会し、五輪無観客の流れを作ったようです。7日には政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長とも2時間近く会談しています。

五輪や緊急事態宣言に関して都は当事者であるので小池氏が表に出てもいいはずですが、あえて水面下で行い、決して過度に露出しませんでした。この政治的老獪さは驚くばかりです。

こうした小池氏の戦略はまんまと当たり、今回の緊急事態宣言・五輪無観客についても、世間は菅政権が決めたことと思い込んだようです。そうして菅政権が各方面から批判を受けています。

自民への逆風をはね返すのは容易なことではないようです。このブログでも当初、五輪・パラリンピック直後の9月上旬に臨時国会召集、大型対策を含む補正予算を通してから、9月下旬に衆院解散、10月上旬に衆院選の投開票というスケジュールを想定していましたが、ここにきて10月解散、11月投開票の可能性も出てきたと思います。

幸いにもワクチン接種は順調に進んでいるので、その効果が十分に出てから、衆院の任期満了直前に解散、その後総選挙という荒業もありそうな気配になってきました。

ただ、その前に、菅政権は臨時国会を開催して、真水の30兆円〜40兆円のコロナ対策補正予算を組み、潤沢な資金を得て、飲食業への手厚い保護等の対策を行うべきです。

11月選挙となると、小池知事の策謀も間が空きすぎて、コロナの収束も目処が立ち効力を失う可能性が大きいです。それでも、選挙には勝つでしょうが、大きな話題になることはないかもしれません。さらに、最近の二階氏、小沢氏のきな臭い動きも封じることができるかもしれません。

安倍総理が議員に初当選したのは1993年の衆議院選挙で、自民党が初めて野党に転落した時です。この選挙で自民党は過半数を失ったのですがそれでも第一党でした。他の政党と連立を組めば野党には転落しませんでした。しかし小沢一郎氏がいち早く日本新党の細川護熙を担いで8党派をまとめ上げ自民党は野党に転落しました。

二階幹事長の初当選はそれより10年前、小沢一郎氏の後輩議員として自民党田中派に所属しました。政治改革を巡って自民党が分裂した時、二階氏は小沢氏に付いて自民党を離党、安倍総理が初当選した93年には運輸政務次官に就任しました。その後、小沢側近となり新進党、自由党の結成に加わりました。

小池都知事は細川護熙氏が日本新党を作った1992年に参議院議員に初当選、翌93年の衆議院選挙で衆議院に鞍替えしました。彼女も小沢側近として新進党、自由党結成に加わりました。

街頭演説する小沢一郎新生党代表幹事(当時)。右は小池百合子氏(1994年撮影)


安倍元総理と小沢氏にも因縁があります。安倍総理の父親である安倍晋太郎氏は小沢氏を高く評価し、息子の後見役に考えていました。衆議院議員に初当選した時、母親の洋子さんが小沢氏に頼みに行ったことがあると野上忠興著『沈黙の仮面』(小学館)は書いています。

いずれにしても二階氏も小池氏もその後小沢氏と袂を分かち、安倍総理を含め3人とも今では小沢氏と対立関係にあります。一方でこの3人は小泉純一郎氏から引き立てられ現在の地位を築いた。その小泉氏と小沢氏はこのところ反原発などで近い関係にあります。

二階氏や小池氏が保守党から自民党に入ったのは小泉政権時代です。入党するとすぐに小池氏は環境大臣として初入閣し、夏の軽装「クール・ビズ」の旗振り役となりました。二階氏は小泉総理から郵政民営化法案を審議する特別委員長を任され、郵政選挙では自民党の選挙責任者として自民党圧勝の功労者となりました。

安倍氏、小池氏、二階氏、小沢氏にはこのような因縁があります。ただ、大きな違いは、安倍氏が先にあげたように、「政府日銀連合軍」に関して説明するなど、マクロ経済を熟知していようですが、他の3人はそうではない事が挙げられます。

小池、二階、小沢は、政治的には「老獪」なのですが、マクロ経済政策などには全く無頓着なようで、マクロ経済政策などにそもそも関心がなく、単なる政争・派閥争いの道具であるかのように考えているようです。

実際彼らからは、政局に対応して、減税とか積極財政などの話などを聞いたことはありますが、上述の安倍総理の「政府日銀連合軍」の説明ように、まともで具体的なマクロ経済政策の話を聞いたことがありません。彼らにとっては、国民経済・都民経済などどうでも良いのでしょう、経済対策等はその時々の政局の道具でしかないようです。

もう一つの大きな違いは、安倍総理は、自他共認める反中派ですが、小池、二階、小沢は親中派・媚中派です。二階、小沢については説明の必要がないほどの、根っからの親中派です。彼らの頭の中は、田中角栄氏が存命だった頃からほとんど進歩していないようです。

小池氏はどうなのかといえば、最近でも以下ようなことがありました。

新型コロナショックが起きて間も無くの昨年、まだ日本ではマスクや防護服の必要性が希薄だった頃に、親中派二階幹事長の要請を受けて、小池知事は備蓄している防護服220 万着の内、33万6000着を中国に送りました。報道では10万着とか14万着とも言われていましたが、どうやら33万6000着のようです。

時系列で見ますと、以下の通りです。
1/28、武漢から日本人を国内に引き上げる際の往路便に、日本から中国への支援として、2万1000着の防護服を東京都の判断で送付。

2/7、自民党、二階幹事長からの要請で、10万着を中国が用意したチャーター機で送付。

2/13、武漢から日本人を国内に引き上げる際の往路便に、外務省からの要請で5000着送付。

2/14、北京の清華大学からの依頼で1万着送付。

2/18、3回に分けて北京に20万着送付。
これらの合計が33万6000着という事です。

新型コロナ感染対応でドタバタしている最中に、都民の税金で備蓄された防護服を、当時尖閣諸島への連続45日間に及ぶ領海侵犯を繰り返す中国に贈呈したのです。

4月14日に、大阪市の松井一郎市長は、大阪府内の医療現場で防護服が不足していると訴え、「使用していない雨合羽があれば、ぜひ大阪府・市に連絡してほしい」と提供を呼びかけるほど、大阪の医療現場の物資不足は切羽詰まっていました。

日本国内でそれ程の厳しい状況に陥る可能性を未然に予見できたにも拘らず、上述しました様に、2月の段階で、小池知事は何故か二階幹事長の要請に従って大変貴重な防護服を33万6000着も中国に送ったのです。

この事実をみても、小池氏は自ら親中派であるか、あるいはそれよりも始末の悪い、政局のためには何でもやる政治屋なのかもしれません。

小池、二階、小沢の頭の中は、おそらく政局だけなのでしょう、いかに派閥争いや権力闘争で勝ち抜くか、そうして小池氏の頭の中には、日本初の女性総理大臣になることしかないのでしょう。

昨年の都知事選の各候補の公約


安倍氏と、小池、二階、小沢とを比較すれば、いずれが政治家にふさわしいのか、特に有権者からみて、誰がふさわしいのか明らかだと思います。

安倍元総理は、現在は菅政権が継続することを前提としているようです。それはまともな政治家なら、現在のようなコロナがまだ完璧に収束していないような時期であれば、政権が継続するのが望ましいと考えるのが当然だからだと思います。

この時期に政権交代を望むような連中は、本当はコロナなどたいしたことがないと思っているか、あるいは国民のことなど二の次で政局しか頭にないのだと思います。

9月末には、総裁任期切れに伴う党総裁選が行われます。安倍元総理は、当然のことながら、安倍政権を継承する菅総理を応援することになるでしょう。

菅総理には衆院選前に、大型補正予算を成立させ、それをもって様々な財政政策を実施して、その後に衆院選に挑み、大勝利していただきたいです。

そうして、その後小池、二階、小沢のマクロ経済音痴、親中派政治屋のきな臭い蠢きを断って、二度と政治の表舞台に立てないようにしていただきたいものです。

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2021年7月16日金曜日

日本の防災対策を進める方法 公共事業実施の基準見直せば「2倍以上の規模」が達成可能だ ―【私の論評】B/C基準の割引率を放置し、インフラの老朽化を招くのは本当に罪深い(゚д゚)!

日本の防災対策を進める方法 公共事業実施の基準見直せば「2倍以上の規模」が達成可能だ 

高橋洋一 日本の解き方


 今年の梅雨も各地で記録的な豪雨があり、静岡県熱海市では土石流も発生した。このところ毎年のように大規模な水害が起きているが、防災対策として何を優先すべきなのか。

 筆者は毎週大阪で仕事があるので、東海道新幹線を利用している。熱海市の土石流は、新幹線のところまで来ていたので、そのあたりでは速度を落として通過している。たまたま車窓から土石流の跡を見ることができたが、想像以上のひどさだった。ネットでは別のところの土石流の映像もあり、被害のすさまじさがわかる。

 原因については、上流にあった盛り土によるものかどうかなどさまざまな究明が待たれるところだ。

 まずは、そうして解明された原因の除去が必要だ。これは、各種の規制・届け出などを改善することによって行われる。その上で、防災対策としての公共事業が切り札になる。

 地域ごとに災害予測ができればそこに重点的な防災対策ができるが、現状では不可能だ。なので、毎年一定の公共事業予算をつけて、計画的に防災対策をせざるを得ない。

 ここ3年ほどで、当初予算と補正予算を合わせた公共事業関係費は8兆5000億円程度だ。公共事業では社会ベネフィット(便益)がコスト(費用)を上回っているという採択基準がある。その基準を満たしている公共事業は建設国債を発行して実施可能だ。この意味で、国債発行額が予算制約になるのではなく、採択基準が公共事業の規模を決定する。

 その採択基準において、ベネフィットもコストも将来見通しを現在価値化するために割引率を使うが、現時点では4%だ。ベネフィットは将来にわたって長く継続し、コストは遠い将来にはあまりないので、割引率が高いほどベネフィットに不利になり、採択しにくくなる。

 割引率は15年ほど前に設定されたままとなっているが、本来は金利と同水準であることを考えてもあまりに異常である。

 国土交通省関係者も、財務省に忖度(そんたく)しているのか、15年も放置しているが、インフラ整備への熱意があるのか、疑問を感じざるを得ない。

 本来の割引率は期間に応じた市場金利であるが、海外では市場金利の変動に応じて、ほぼ毎年見直すのが当たり前だ。

 これを現在の低金利環境を踏まえて機械的に見直すだけで、4%から1%程度以下になるはずで、となると公共投資予算について、これまでの倍増以上の大幅増が達成可能だ。

 なお、ちなみにこの話は、予算事務の話なので、最近はやりのMMT(現代貨幣理論)とは無関係だ。この割引率4%問題を直さずにMMT思想に走るのは、本質をずらしているといわざるを得ない。

 MMT思想をいくら主張しても、実際の予算実務で割引率を是正しないと、公共事業を行うことはできない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】B/C基準の割引率を放置し、インフラの老朽化を招くのは本当に罪深い(゚д゚)!

熱海の土石流と工事が関係あるかどうかは、未だ明らかにはなっていませんが、公共インフラの老朽化が全国で深刻な事態になっているのは明らかです。1960~70年代の高度成長期までに建設された多くの道路や橋、上下水道、建築物(公共施設)などが、いま一斉に更新の時期を迎えており、地震などがきっかけで危険視される市庁舎や橋が使用停止になる事例が多発しています。

公共事業には、様々なものがあります。具体的なイメージを思い浮かべていただくために、ここでは橋を例にとります。

日本では1950年代に大量の建設ラッシュが始まり(表1参照)、ピークの60~70年代には年間1万本近い橋を建設しました。第2次世界大戦後の復興から高度成長期に向かう時期であり、社会経済活動の基盤として次々と整備されたのです。この公共投資はわが国の高度成長の源になり、大きな意義があったと思います。

表1: 米国・日本の年次別橋りょう建設数の推移

しかし現在、これらの橋が老朽化しています。老朽化すると、使用停止や通行規制になる橋が増えます。2013年のデータでは、全国で使用停止が232本、通行規制が1149本あります。このままでは、崩壊に近づいていきます。高度成長期に集中投資した結果、老朽化も集中して起きているのです。

米国では日本より30~40年早い1930年代に橋の大量建設が始まりました。世界恐慌で落ち込んだ経済と雇用を下支えするため、ニューディール政策の一環として大量のインフラを建設したのです。80年代になると一斉に老朽化し、あちこちで事故が起きました。それと同じ状況が30~40年遅れて今日本で起きているのです。

日本全土に73万本の橋がありますが、日常的に管理されているのは比較的大規模な少数の橋だけです。予算がないために実態調査ができず、実態が把握できないために更新や維持補修の予算要求ができない、という悪循環に陥っています。

老朽化自体は当然起きることなので仕方ありません。問題は、むしろ老朽化を放置せざるを得ない、つまり十分な対策を取るための財源を用意しない、あらかじめ準備していなかったという点が問題なのです。

橋以外でも、建築物(公共施設)の破損や上下水道に起因する道路の陥没などが問題です。建築物の事例としては、病院や学校、図書館などでコンクリートが剥げ落ちる事故が起きています。内部の鉄筋がさびて膨張する爆裂現象が主な原因です。

2016年の熊本地震では、宇土市役所が崩壊寸前となり、東日本大震災では震度6以下だった福島県庁や水戸市役所、郡山市役所などの庁舎が使用停止になりました。地震がきっかけでしたが、根本的な原因は老朽化にあります。


1981年の建築基準法改正で震度7での耐震性が求められるようになりましたので、多くの施設は耐震補強されましたが、耐震補強だけでは寿命が延びるわけではありません。大規模改修や更新をしなければ安全性を維持できないということです。

建築物の老朽化は首都圏と近畿圏で特に顕著です。東京五輪(1964年)や大阪万博(1970年)など、公共投資を集中的に実施するタイミングが、他地域より早かったためと考えられます。

下水道管の損傷に起因する道路の陥没は現在、全国で年間3000件以上起きています。上水道管は水圧がかかっているので管に若干の亀裂が生じただけで破裂し、地面から噴き出します。下水道管は、圧力はかかっていませんが、一度穴が開くと下水がじわじわ流出して空洞を広げ、道路の陥没を引き起こします。

2016年の博多駅前の大陥没

2017年3月時点で「個別積み上げ方式」により、公共インフラの種類別(建築物、道路、橋、上下水道管、浄水場、下水処理場、空港、港湾、病院、ごみ処理場、機器類)の物理量にそれぞれの更新単価をかけて算出した金額によれば、最も金額が大きい建築物は年額4.63兆円、道路1.32兆円、橋0.42兆円、上下水道3.03兆円で、その合計が9.17兆円です。放置しておけば、これが永遠に続きます。50年間であれば459兆円となります。9兆円は毎年の国家予算の約1割にも相当する大きな金額です。もしインフラの補修や更新が行われなかった場合どういうことになるでしょうか。

予想されるのはインフラの故障や使用停止です。橋やトンネルは崩壊の危険が高まって通行禁止になり、交通や物流がマヒします。庁舎や公民館、ホールなど多くの公共施設も使えなくなり、住民サービスは機能不全に陥ります。いたるところで赤さびた歩道橋、でこぼこの道路といった光景を目にすることになります。上下水道や公共施設の使用料は大幅に値上げされるでしょう。

こんなふうに都市機能が損なわれると、日本の最大のセールスポイントである「安全」が脅かされます。海外からの観光客は激減し、外資系企業などが日本から撤退する事態も起こりかねません。

冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり、公共事業採択基準であるB/C(ベネフィット/コスト)の算出で重要な割引率がここ15年間4%とあまりに高すぎます。これで公共投資は本来の半分以下の過小投資になってきたのです。これを見直すべきなのです。

公共投資を適正に行うために、先進国ではB/C(ベネフィト・コスト比)基準が導入されています。これが1以上ならいい公共投資、1未満なら悪い公共投資と、定量的判断ができます。

B/C基準の割引率が採択基準に影響を及ぼすのです。この割引率とは、金利のような計算がそのなかに入っています。金利と置き換えても良いです、国交省では「金利で4%」という基準で判断しているのです。

このような基準は、本来「市場金利を見ながら毎年変わる」というのが当たり前なのです。それを普通に計算すると、いまは0.5とか1なのです。採択基準を変えるだけで公共事業が2倍〜3倍くらいになりますし、そうすべきなのです。

そもそも、4%の利回りを市中で求めたたとしても、多くの人がご存知のように、現在の低金利時代にそれを求める事自体が奇異と受け取られるでしょう。

この4%の割引率で考えると、よほど利益が上がるような仕事ではない限り、公共事業はできないということになります。これは逆に言うと、「やるべき公共事業を抑えているように見えますよ」といえます。

4%もの利回りが見込めるなら、公共事業でやらなくても民間が率先してやるはずです。そもそも、基準がずれすぎているのです。毎年金利が変わるのですから、この手の話は毎年割引率変えるのが当たり前です。

まともな国では、長期金利から機械的に計算するのが普通です。そのために財源として、建設国債などもあるわけであり、本当B/C基準と連動しているべきなのです。いくら何でも15年も据え置きというのはないだろうというレベルの話です。

金利と連動していれば、その時々で適正な公共工事などが実施でき、現在のようなすさまじいインフラの老朽化も防げたかもしれません。さらに、国債を大量発行したとしても、それで財政破綻することはないことをこのブログでも何度か掲載してきました。そのあたりは、ここで掲載すると長くなるので、他の記事に譲ることとします。

何かといえば、「財源がー」と叫び、インフラの老朽化を結果として放置するのは本当に罪深いことです。このようなことは、すぐにやめるべきです。


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2021年7月15日木曜日

『防衛白書』の台湾めぐる記述に中国政府「断固として反対」―【私の論評】中国の台湾統一の最大の障害は、日本の潜水艦隊(゚д゚)!

『防衛白書』の台湾めぐる記述に中国政府「断固として反対」



 日本政府が13日に公開した「防衛白書」に台湾情勢をめぐって日本の安全保障に重要だと初めて明記されたことを受け、中国政府は「断固として反対する」と強く反発しました。

 2021年版の「防衛白書」では台湾情勢について、「わが国の安全保障や国際社会の安定に重要」と初めて明記。急速な軍拡を進める中国を地域と国際社会の「安全保障上の強い懸念」と位置づけていますが、中国政府は反発しています。

 「これは極めて間違った無責任なことだ。中国は強烈な不満を表し、断固として反対する」(中国外務省 趙立堅報道官)

 会見で中国外務省の趙立堅報道官は「台湾は中国の領土で、中国は必ず統一する」と改めて主張しました。

 また防衛白書で、尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国当局の船の活動について「国際法違反」などと指摘されていることについては、「正当で合法」だと強調しました。

【私の論評】中国の台湾統一の最大の障害は、日本の潜水艦隊(゚д゚)!

日本政府の発行する「防衛白書」に台湾情勢をめぐって日本の安全保障に重要だということが、明記されたことになぜ、中国が神経を尖らせるのでしょうか。

その答えは簡単です。日本の潜水艦隊(数年前の防衛白書に掲載されている22隻体制をすでに整えている)が怖いのです。それはなぜかといえば、このブログに何度も掲載したように、中国の対潜哨戒能力(潜水艦を探知する能力)は、日米に比較するとかなり低いからです。そうして、日本の潜水艦はステルス性(静寂性)においては、世界トップクラスです。

本当は、世界トツプといいたいところですが、潜水艦情報は各国が隠すので、世界一とはっきり言い切るには、情報がかなり少ないからです。おそらく、日本の通常型潜水艦のステルス性はぼ世界一と言って良いでしょう。

特に最新型でリチウムイオンバッテリーを動力に用いた潜水艦は、無音といっても良いくらいの静寂性であり、これは中国海軍には発見できません。そうなると、日中が台湾を巡って武力衝突した場合、中国海軍は日本の潜水艦隊を発見できません。

呉基地に出撃待機する日本の潜水艦隊

その結果何が起こるかは亜からかです。台湾に近づく中国の艦艇は、ステルス性に劣る潜水艦から、イージス艦から空母に至るまで、ことごとく撃沈されることになります。

日本は戦略兵器を持っていませんが、潜水艦は唯一、戦略兵器に近い性格の装備です。潜水艦は実は最強の海軍兵器で、究極のステルス艦です。特に日本の潜水艦の探知は難しく、魚雷一発で空母、揚陸艦などのハイバリューユニットを無能化できます。

そのため中国艦隊はその海域に潜水艦が一隻でもいると入って来れません。その海域にいるかいないかをあやふやにするのが、海自潜水艦部隊のコンセプトなのです。

さらに、中国側にとっては恐ろしいことに、日本の潜水艦隊が米国の強力な攻撃型原潜と協同すれば、日本の潜水艦は、静寂性を活用し、中国海軍に発見されずに、台湾付近から黄海や中国の軍港の中まで入り込んで、情報収集ができます。

その情報をもとに米国の攻撃型原潜が攻撃をすれば、効率的に攻撃ができます。魚雷だけではなく、対空ミサイルや巡航ミサイルなどで、効率的で正確な攻撃ができます。。

米軍原潜はステルス性に劣りますが、台湾近海などの要所要所に予め潜み動かなければ中国に発見されることはありません。

このようなことを実施されると、中国軍は台湾に上陸できません。上陸する前に撃沈されることになります。たとえ上陸したとしても、日米の潜水艦隊に台湾を包囲されれば、中国の上陸舞台は補給が絶たれることになります。

以上のようなことが、想定されるため、中国が神経を尖らせるのです。台湾有事に日本が参戦することになれば、中国にとっては、台湾奪取はほぼ絶望的です。

このようなこと、ほとんど日本の軍事評論家など述べないので、軍事評論などが意味不明になることも多いようです。その事例を以下にあげておきます。
台湾の旧式潜水艦をなぜか怖がる中国軍
これは、JBプレスに掲載されていた記事ですが、潜水艦に関して記載された部分のみを以下に引用します。
 最も頻繁に接近飛行した空軍機は、4隻の台湾潜水艦を追う対潜哨戒機だ。

  台湾に接近した中国空軍機の機種は、対潜哨戒機、情報収集機、電子戦機、早期警戒管制機、爆撃機および戦闘機の6機種だ。

  これらの機種で最も活動日数が多かったのは、対潜哨戒機で、123日だった。台湾の潜水艦は、1945年と1985年前後に建造された旧式の潜水艦の4隻と100トンクラスの特殊潜航艇2隻だけだ。

  中国海軍は、たった6隻の潜水艦・艇の情報を収集するために、最も頻繁に活動している。中国軍は、台湾の潜水艦の動きに、かなり神経質になっていることが分かる。

  2021年5月20日の飛行航跡を見てのとおり、対潜哨戒機が台湾の周辺を飛行している。台湾を不安にさせる軍事的な威嚇そのものである。


中国の対潜哨戒機


1988
年以降現在に至るまで、台湾海軍は4隻の潜水艦を保有しています。そのうち2隻は、第2次世界大戦中にアメリカが建造したグッピー級潜水艦の「海獅」(44年起工)と「海豹」(43年起工)で、骨董品と言ってもよい代物です。


残る2隻はオランダのズヴァールトフィス級潜水艦を基にしてオランダで建造された「海龍」(82年起工、87年就役)と「海虎」(82年起工、88年就役)です。後者の海龍級潜水艦といえども40年以上前の設計構想(同レベルの潜水艦で、海上自衛隊が使用していた「うずしお」型潜水艦は、96年までに全て退役した)で、すでにかなり時代遅れの潜水艦となっています。


台湾海軍潜水艦「海獅」


このような骨董品ともいえるような台湾の潜水艦に、中国が神経を尖らすでしょうか。確かに、中国の対潜哨戒能力はかなり低いですから、台湾の旧式潜水艦でも脅威なのかもしれません。


ただ、よく考えてみれば、これは、日米等の潜水艦に対する牽制のつもりなのかもしれません。日米の潜水艦は、台湾付近はもとより、南シナ海へも巡航しています。


中国が台湾統一の強力なメッセージを発すれば、当然のことながら、日米の潜水艦は、台湾付近に潜み、人民解放軍の潜水艦の動きなどを監視しているはずです。というより、日米、それにロシアや他国の潜水艦など、台湾付近や南シナ海などに潜んでいるのは常態です。


潜水艦の情報などは、昔から発表しないのが普通であり、一般に知られていないのが普通です。そのため、中国としてもその動向、特に日米の動向を探るために、対潜哨戒機を派遣していると考えられます。


ただし、彼らが対潜哨戒機を台湾付近の海域に派遣したとしても、日本の潜水艦は彼らには発見できません。米国の原潜は、動き回れば、発見できる可能性があります。ただし、航行せずに潜んでいれば、発見できません。


ちなみに、原潜は乗組員の水や食料が尽きるまでは潜りつつけることができます。燃料は原子力ですから、無尽蔵と言ってもよく、酸素も作り出すことができます。ただ、原子力潜水艦は構造上どうしても騒音が出るのて、動いていれば、中国側も発見できる可能性があります。中国側はこれを狙っているのかもしれません。


中国軍は、日本の潜水艦隊が台湾を包囲してしまえば、自国軍の艦艇は台湾に近づくことができず、台湾統一は絶望的になります。だから、台湾有事に日本が参戦したり情報収集をすることを極度に恐れているのです。


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2021年7月14日水曜日

キューバの政府批判の大規模抗議デモ 米バイデン政権が支持―【私の論評】キューバ政府が民主的にデモを収拾できなければ、米・キューバ関係は改善されない(゚д゚)!

キューバの政府批判の大規模抗議デモ 米バイデン政権が支持


カリブ海の社会主義国、キューバで、経済の悪化などを背景に、政府に対する大規模な抗議デモが行われたことについて、アメリカのバイデン政権は支持を表明するとともに、多くの市民が不当に拘束されたとして、キューバ政府を非難しました。

キューバでは、経済の悪化に伴い食料不足や物価の高騰が問題となっていて、11日に各地で数千人が参加して、政府に対する抗議デモが行われました。

社会主義国のキューバで政府を批判するデモは異例で、現地の日本大使館によりますと、12日以降、首都ハバナ市内ではデモは行われていないものの、警察による警備が厳しくなり、国営の通信会社のインターネットもつながりにくくなっているということです。

抗議デモについて、アメリカのバイデン大統領は12日に「キューバ国民が普遍的な権利を主張することを強く支持する」と述べて、支持を表明しました。

また、アメリカ国務省のプライス報道官は13日に「キューバ政府は国民の声を封じ込めるためインターネットを遮断し、恣意的(しいてき)に多くのデモ参加者や活動家などを拘束した」と述べて、キューバ政府を非難しました。

一方、キューバのディアスカネル大統領は12日に、国民に向けたテレビ演説の中で「経済の悪化はアメリカの経済制裁によるものだ」と述べて、反発しています。

アメリカは2015年のオバマ政権時代に、キューバと54年ぶりに国交を回復しましたが、現在も経済制裁を続けています。

【私の論評】キューバ政府が民主的にデモを収拾できなければ、米・キューバ関係は改善されない(゚д゚)!

ドナルド・トランプ前大統領は12日にキューバのデモ抗議者に支持を表し、「彼らは恐れていない!」と声明で述べました。

「キューバとマイアミで共産主義キューバ政府に抗議する大きなデモが起こっている(現在キューバではデモ抗議者はゼロだという―それがどういう意味か分かるだろうが!)」とトランプは書きました。


第45代大統領は、キューバの人々の「自由のための戦いを100パーセント」支持すると続けました。

「政府は彼らに発言させ、自由にしなければならない!ジョー・バイデンは共産主義政権に立ち向かわなければならない―さもなければ歴史が記憶するだろう。キューバの人々は自由と人権を得てしかるべきだ!彼らは恐れていない!」

トランプはバラク・オバマ元大統領のことも追及し、カストロ家は「キューバの人々を投獄し、殴り、殺した」のにオバマは彼らと野球の試合に参加したと述べました。オバマは、キューバで行われた、キューバ代表チームとタンパベイ・レイズの間のMLB公開試合で、独裁者のラウル・カストロの隣に座りました。

トランプは、ジョー・バイデン大統領と民主党が自身の「キューバに対するとても厳しい姿勢」を覆す運動をしていたとも主張しました。

何千人ものデモ抗議者が12日にキューバ各地で行進し、同国の共産主義政権に対する不満と、基本的な必需品が得られないことへの不満を訴えました。キューバ人は報道によると32以上の都市でデモを行い、「自由!」「共産主義を倒せ!」また「祖国と生活(Patria y Vida)」と唱えました。




デモ抗議者は報道によると、食料、薬、ワクチンの提供と共産主義の終結を要求しました。

米国務省西半球局のジュリー・チャン次官補代理は、「自由」が叫ばれているにもかかわらず、デモはCOVID-19による感染と死亡に対するものだと主張しました。ロイターによると、以前キューバ市民は、4月のキューバ共産党議会の4日間の議会中にインターネット接続を遮断し、外出を禁止したとして共産党を非難しました。

報道によると、キューバのミゲル・ディアスカネル大統領はデモは米国のせいだと述べました。同大統領は、軍事介入を正当化するために「暴動を誘発」させようとして米国が意図的にキューバが生活必需品を得られないように制限したと主張した、とマイアミ・ヘラルドは報じました。

バイデン政権の対中南米政策で注目される国がキューバです。半世紀にわたる確執の後、バラク・オバマ政権はキューバとの外交関係を再開し、経済制裁を一部緩和するなど、両国の関係は雪解けを迎えたかにみえました。

2015年、米国とキューバは(キューバ革命後の)1961年以降断絶されていた外交関係を再開し、米国は対キューバ経済政策を一部緩和、2016年にはオバマ大統領がキューバを訪問して関係改善は大いに進んだのですが、トランプ政権はオバマ政権下の緩和措置を取り消し、キューバ軍関連企業との取引禁止、テロ支援国家の再指定等、制裁を強化して両国関係は一機に冷え込みました。

バイデン大統領は大統領選挙戦中からトランプ政権の対キューバ政策を撤回すると述べ、キューバもディアスカネル大統領が米国との建設的な関係への期待をツイートするなど関係改善が期待されていたましたが、バイデン政権発足後には米政府当局者が「対キューバ政策は最優先事項ではない」と述べる中、キューバの出方が注目される中4月には共産党大会が開催されました。

13年ぶりに開催された共産党大会

今次共産党大会の諸文書や演説では対米批判に多くが割かれました。ラウル第一書記の中央報告では33ページのうち7ページ強が対米批判に充てられ、ディアスカネル新第一書記は、米国の制裁が「人道に対する罪」であり「冷酷なジェノサイド政策」とまで評しています。

同時に「米国との間では、キューバが革命や社会主義の原則を放棄したり、主権と独立に反する譲歩をすることなく、、、相互に敬意を持った対話を進め、新しい関係を築きたい」(ラウル第一書記中央報告)として、関係改善には期待を表明しています。

対米批判と関係改善への期待という一見相反するメッセージは、キューバの発信手法としては珍しいことではありません。今回の共産党大会でも、キューバの体制や政策は変えるつもりはないが、米国からの「一方的な」歩み寄りを期待しているという趣旨でしょう。

共産党の世代交代とトップの禅譲という機微な事項を扱う党大会で、対米強硬姿勢を見せたのは当然とも言えるでしょう。

現在、トランプ政権下の制裁強化策は維持されたままです。その背景とされるのは米国内政事情です。2020年11月の選挙では最大のスイングステートであるフロリダ州において、キューバ系の反カストロ勢力が共和党躍進に一役買ったとされます。

連邦上院に議席を持つ3名のキューバ系議員は、共和党のルビオ、クルスのみならず、民主党のメネンデス上院外交委員長でさえ社会主義キューバに厳しい立場である等、2022年の中間選挙を控えるバイデン政権にとって、キューバとの関係改善は早急な成果が期待し難く内政上のコストが高い案件なのです。キューバも米国に対する歩み寄りの国内政治上のハードルは低くありません。

一方で、米国内にはリーヒー上院議員(民主党)を筆頭としてキューバとの関係改善を求めるグループもあり、キューバ系米国人の中にもキューバに残った親類を気遣う人も多いです。

何よりトランプ政権の対キューバ政策見直しはバイデン大統領の選挙公約です。キューバ側にしても、頼みの綱のベネズエラは依然混迷を続け、世銀もIMFも米州開発銀行(IDB)も支援が期待できず(キューバは加盟国ではない)、オバマ時代の関係改善によって観光増大、送金増加、諸外国からの投資機運の盛り上がり等で経済が上向いたことを覚えています。

双方とも、大きな国内の反発を呼ばないシナリオで、かつ適切なタイミングで関係改善に向けて歩を進めようとしていたようです。

第一歩を踏み出し易いのは、権力基盤の固まっていないキューバの新政権ではなく、米国側でした。タイミングの判断は難しいですが、人道的な措置、キューバの民主化に貢献する措置、技術的・事務的に対処できる措置は反発が少ないでしょう。

例えばキューバ系米国人からキューバの親類への送金制限撤廃、商業便の再開による親族訪問、オバマ時代に開始した政府間諸対話の再開、臨時代理大使に替えて本任大使の任命、さらに2万人/年の移住査証供与の再開等です。

一方キューバ側から米国に提供できる事は少ないですが、政治犯の釈放、革命時の接収資産補償交渉の開始等は、比較的ハードルが低いと思われます。とは言え、その第一歩の後も、キューバ側に抜本的な変革がない限り、関係改善は相当時間のかかるプロセスとなるとみられていました。

そうして、今回のデモ騒ぎです。バイデンとしては、国内の反キューバ派を意識して、バイデン政権はデモの支持を表明するとともに、多くの市民が不当に拘束されたとして、キューバ政府を非難せざるを得なかったのでしょう。

今後、キューバ政府が米国を納得させる形で、デモを収拾することができなければ、米・キューバ関係が改善されることはないでしょう。

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2021年7月13日火曜日

<社説>那覇市議選野党躍進 基盤揺らぐ「オール沖縄」―【私の論評】単純に米軍基地反対だけを唱えていれば、確実に「オール沖縄」は崩壊する(゚д゚)!

<社説>那覇市議選野党躍進 基盤揺らぐ「オール沖縄」

琉球新報

当選確実の報道を受け、支持者らと万歳三唱で喜ぶ外間有里氏(前列左から4人目)
=11日午後11時42分、那覇市安里の選挙事務所


 11日投開票の那覇市議選で、城間幹子那覇市長を支持する市政与党は現有より1議席減らした。一方の野党は5議席を増やし、躍進した。

 県都・那覇の市議会与野党構成は、県内の政治勢力の優劣を測る指標となる。今回の選挙は、秋の衆院選、特に那覇市を含む沖縄1区の情勢に与える影響は大きい。天王山に位置付けられる来年の知事選の行方を占う意味でも重要だ。このため各党・各派は前哨戦として、しのぎを削った。

 城間市長や支持勢力は名護市辺野古の新基地建設反対を一致点に結集する「オール沖縄」勢力の一角だ。「オール沖縄」にとって今回の結果は今後の選挙に向け、厳しいかじ取りが迫られる。一方、躍進した野党の自民・公明勢力にとっては弾みとなった。

 「オール沖縄」を率いる玉城デニー知事は選挙後、記者団に対し野党の躍進について野党系候補者数が多かったことを一因に挙げた。ただ「オール沖縄」勢力は候補者数に占める当選の割合も野党に劣る。現有議席を一つ減らした結果を真摯に受け止めるべきだ。次期衆院選に向けては、沖縄1区現職で共産党の赤嶺政賢氏を支援する同党の現職2人を落としたのは痛手だ。支持基盤が揺らぎかねない。

 議席を増やした自公勢力にも課題がある。沖縄1区では、自民党の現職国場幸之助氏と無所属現職の下地幹郎氏による保守分裂選挙になる可能性がある。下地氏側は自民党への復党を目指しているが、めどは立っていない。今回、下地氏が支援した立候補者5人のうち3人が当選し一定の勢力を保った。保守系同士の候補者調整の可否が情勢を左右しそうだ。

 市議選では20~40代の比較的若い候補が目立った。しかし投票率は50%を切り、46.4%と過去最低を更新した。新型コロナ感染症防止のための行動自粛が響いた面もあるだろう。ただ市長選や知事選、県議選などの各種選挙でも那覇市の投票率は軒並み下がり続け、低下に歯止めが掛からない。背景に政治不信があるとみられる。その払拭(ふっしょく)は与野党共通の大きな課題だ。

 一方、定数40のうち女性議員が9人から13人に増え、3割を超えたことは大きい。しかし社会の男女構成比と照らすとまだ少ない。男性議員も一緒になって男女平等社会の実現に取り組んでほしい。

 早稲田大マニフェスト研究所による2018年度議会改革調査で、回答した全国1447議会のうち那覇市議会は県内過去最高位の20位だった。情報公開や傍聴のしやすさ、議会基本条例制定などが評価された。当選した市議らはさらなる改革に挑み、市民の政治参加を促してほしい。

 秋の衆院選から来年にかけて注目選挙が続く。コロナ禍の出口が見えない中、有権者は、選挙での選択は私たちの暮らしや経済に直結することを再認識し、政治の場に意思を反映させたい。

【私の論評】単純に米軍基地反対だけを唱えていれば、確実に「オール沖縄」は崩壊する(゚д゚)!

那覇市議選の結果をメディアは殆ど報じません。上の記事も、沖縄地元紙「琉球新報」の記事です。これは、菅政権支持率低下という大手メディアの望む展開に水を差すからでしょう。

しかし、このようなことは本来大手メディアのやる事ではありません。沖縄の反日勢力が惨敗し野党が躍進するのは当然です。沖縄は中国の脅威を本土より強く認識できるからです。多くの沖縄県民が、不安を抱えていることでしょう。公明党には問題がありますが、与党は間違いなく玉城知事を追いつめているのです。

沖縄県では長きにわたり米軍基地を容認するか否かを軸に保守・革新が対立してきました。その沖縄県内で保革対立を乗り越えた枠組みをうたい、普天間飛行場の名護市辺野古への基地移設反対を旗印に、各種選挙で圧倒的な存在感を発揮してきたのが政治勢力「オール沖縄」です。

革新系や一部の保守系らが結集してきたが、近年、その支持層の柱となってきた県内経済界の重要人物が相次いで「オール沖縄」からの離脱を表明するなど、距離を置く動きを見せています。一体何が起こっているのでしょうか。


「オール沖縄」というキーワードは、2012年の米軍の新型輸送機オスプレイの沖縄配備や、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古移設に反対する保革を超えた政治勢力を指して使われてきました。その流れをつくり出したのは、翁長雄志・前沖縄県知事(故人)でした。

翁長氏自身は保守系の二世政治家で、自民党の那覇市議、沖縄県議、那覇市長(2000~14年。4期目途中で知事選に出馬し、知事に転身)を歴任しました。日米安保体制を支持する立場を取り、県議時代には普天間飛行場の辺野古移設推進を主張。当時の大田昌秀知事(故人)と激しく対立しました。

若くして自民党沖縄県連幹事長も務めるなど頭角を現し、県内保守政界の“エース”と目されました。 

大票田の那覇市での得票が結果を大きく左右する国政選挙や県知事選では、自民党から出馬する候補の選挙対策本部長を必ずと言っていいほど務めるなど、“キングメーカー”としても力を発揮しました。 

その翁長氏が、県内世論に耳を傾けずオスプレイ配備が強行されたことなどをきっかけに「イデオロギーよりアイデンティティ」を訴え始めたのです。 

この動きに県内の革新勢力のみならず、那覇市長時代から翁長氏を支えた一部保守系や経済界の重鎮らが呼応。14年の知事選では、前回知事選で自らが選対本部長を務め、再選した仲井眞弘多知事の対抗馬として出馬し圧勝しました。

その後、翁長氏を支えた勢力が「オール沖縄」として団結し、知事選挙や国政選挙で「辺野古移設反対」を訴える候補を擁立し、多くの選挙で圧勝し、現在にいたります。

翁長前沖縄致死

とはいえ、異なる勢力が結集しているゆえ、基地問題に関する反対の立場で一つになれても、それ以外で「オール沖縄」が統一的な政策を掲げているわけではありません。特定政党の主義主張が頭をもたげることもあり、それが亀裂を生じさせ、2018年ごろから表面化しました。

きっかけは、けん引役となってきた地元の著名な経済人が、翁長知事の支持団体「オール沖縄会議」から相次いで「離脱」すると表明したことです。 

その1人が、県内でスーパーや建設業などを展開する「金秀グループ」の呉屋守将(もりまさ)会長。翁長氏を全面的に支援する考えを打ち出し、県内の選挙にも積極的に関与してきました。

ところが、18年2月の名護市長選で、「オール沖縄」が支援した現職が政府与党の強力なバックアップを受けた新人に敗れたことを理由に、呉屋会長は「オール沖縄会議」の共同代表を辞任すると表明(18年3月)。辞任に際し、オール沖縄は「政党色が強くなりすぎた」と語りました。


「金秀グループ」の呉屋守将(もりまさ)会長

「オール沖縄」の退潮を印象づけたもう一つの出来事が、県内ホテル大手「かりゆしグループ」のオール沖縄会議からの脱会(18年4月)でした。オーナーの平良朝敬会長もまた、翁長氏を支援してきた代表的な沖縄の経済人。

「オール沖縄」を保守側から支えるシンボルだった呉屋、平良の両氏が距離を置いたことで、「オール沖縄」の革新色は強まったことは否めないです。対立してきた自民党内からは「オール沖縄にもはや実態はなく、共産党や社民党などでつくる革新共闘に過ぎない」(自民県議)とやゆする見方があります。

急逝した翁長氏の後を継いだ玉城デニー氏は18年9月の県知事選で、普天間飛行場がある宜野湾市長で、辺野古移設を容認した 佐喜眞淳氏に大勝。

また、「オール沖縄」の立場を掲げる国政野党の議員が多く当選していることからも分かるように、選挙における「オール沖縄」の影響力は健在です。県議会でもかろうじてですが、玉城知事を支える県政与党議員が多数を占める構成となっています。

沖縄県内の選挙は「自民・公明VSオール沖縄」の対決構図が定着し、米軍基地問題を背景に「政府VS沖縄県政」の代理戦争の様相を呈しています。この流れは当面続く見通しです。 

沖縄県内11市の首長選挙でも「オール沖縄」の影響力は地元メディアで盛んに取り上げられてはいます。21年2月の浦添市長選では「オール沖縄」を掲げる新人候補が大敗を喫し、三選を果たした現職を支援した自公を勢いづかせました。

ただその一方で、ここ3~4年の間、11市のうち9市を占めていた自公系の首長は21年5月現在6市に減り、「オール沖縄」の威勢が衰えたわけではないようてす。 

玉城知事の任期は折り返しを過ぎ、22年秋には県内政界の天王山たる知事選が予定されています。それまでの間、21年内に必ずある衆院選から22年1月の名護市長選をはじめとする県内の各市長選、次期参院選(22年7月)など、沖縄県内は選挙ラッシュとなります。単純に、米軍基地反対を唱えているだけでは、「オール沖縄」はいずれ崩壊するでしょう。

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