2021年12月10日金曜日

安倍元首相「政治的メッセージ出すとき」 北京五輪外交的ボイコット、岸田政権に決断促す ウイグルの人権状況懸念で米・英が対中強硬姿勢強める―【私の論評】日本は、過去に瀕死の中共を2度助けたが、3度目はないという強力なメッセージに(゚д゚)!

安倍元首相「政治的メッセージ出すとき」 北京五輪外交的ボイコット、岸田政権に決断促す ウイグルの人権状況懸念で米・英が対中強硬姿勢強める

安倍元首相

 安倍晋三元首相が動いた。米国や英国などが、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧に抗議し、来年2月の北京冬季五輪に政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」を宣言するなか、岸田文雄政権に早期決断を促した。こうしたなか、米下院や英国の非政府組織は、対中強硬姿勢を強めている。


 「五輪はアスリートにとって夢の舞台。しっかり支援する立場には変わりない」

 安倍氏は9日、自身が率いる安倍派の会合でこう前置きして、同派所属の松野博一官房長官の前で、次のように続けた。

 「ウイグルでの人権状況について政治的な姿勢とメッセージを出すことがわが国には求められている」「日本の意思を示すときは近づいているのではないか」

 ジョー・バイデン米政権が宣言した「外交的ボイコット」に、オーストラリアや英国、カナダは賛同した。同盟国・日本の対応が注目されるなか、政界屈指の「親中派」である林芳正外相を起用した岸田首相は9日の衆院代表質問への答弁でも、「諸般の事情を総合的に勘案し、わが国の国益に照らして自ら判断したい」と述べるにとどめている。

 安倍氏は最近、岸田首相との距離が指摘される。ただ、6日の安倍派のパーティーで、安倍氏は「一致結束して岸田政権を支えていく」と語っており、抑えたトーンで早期の対応を求めたといえる。

 一方、米国や英国は、対中強硬姿勢を強めている。

 米下院本会議は8日、強制労働が疑われるとして、ウイグルからの物品輸入を原則禁止とする「ウイグル強制労働防止法案」を、超党派の賛成多数で可決した。さらに同日、安否が懸念される中国の女子テニス選手、彭帥(ほう・すい)への国際オリンピック委員会(IOC)の対応が、人権配慮の義務を怠っていると非難する決議を全会一致で可決した。

 弁護士や人権専門家らによる英国の非政府組織「ウイグル法廷」は9日、報告書を発表し、中国政府によるウイグルでの人権侵害を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定した。習近平国家主席や中国共産党の高官らが人権侵害に関して「主要な責任を負っていると確信している」とも強調した。

【私の論評】日本は、過去に瀕死の中共を2度助けたが、3度目はないという強力なメッセージに(゚д゚)!

中国が、東京で開かれた夏季オリンピックを取り上げ、日本が相互主義に基づき、北京冬季オリンピックの「外交的ボイコット」に参加しないことを促しました。米国の同盟国が外交的ボイコットを続々と表明している中で、日本がどのような決定を下すのか注目されます。

 中国外交部の汪文斌副報道局長は9日、定例会見で「中国は、全面的に日本の東京オリンピック開催を支持した」とし、「今は当然、日本の基本的な信義を見せる番」と述べました。 

東京五輪には、中国は最初は副首相が出席するという話でしたが、防衛白書での中国に関する記述に反発してこれを見送りました

最終的に五輪に来たのは、国家体育総局の苟仲文局長でした。中国共産党のなかの序列を見ると、上に政治局員が25人いて、これは日本の閣僚に相当すると思いますが、苟仲文氏はそれ以下の中央委員に属する普通の官僚です。

国家体育総局の苟仲文局長

中央委員は200人くらいますが、苟仲文の序列はそのうちの150~160番目くらいです。政治的には中立といっても良いでしょう。そのため日本では、誰も名前さえも知りませんでした。日本も北京五輪には、同ランクの人を送れば良いです。実務者として文科省の課長レベルの人十分でしょう。

 米国は去る6日、北京冬季オリンピックに対する外交的ボイコットを公式的に表明しました。

中国は東京五輪を支援し参加してきたのだから、日本が北京冬季五輪をボイコットするなどということはできないと思っているようです。

事実11月25日の外交部定例記者会見で趙立堅報道官は以下のように述べています。
中国と日本は、互いの五輪開催を支援するという重要なコンセンサスがある。 中国は、東京五輪の開催にあたり、既に日本側を全面的に支持してきた。日本側には基本的な信義があるべきだ。
「重要なコンセンサス」が出来上がっていたということは即ち、日本は「こっそり」=「水面下で」、「すでに中国と固く約束を交わしていた」ものと解釈することができます。趙立堅は意図的というか、上層部からの命令で公にしたのでしょう。ただ、東京大会開催時に日本は中国と水面下で「互いに協力し支持し合う」と約束していたのは確かでしょう。

だから中国は日本に「約束を守れ」と「信義」を要求しているのでしょう。ただし、「重要なコンセンサス」は、どの部分でなされていたのかという問題もあります。自民党としたものか、自民党とはいってもたとえば二階幹事長等と交わしたものなのか、それとも日本政府(当時は菅政権)としての約束なのか、それによって今後の岸田政権の対応は変わってくるでしょう。

それにしても、苟仲文・国家体育総局長を東京五輪に送ってきたのですから、これが「重要なコンセンサス」といえるほどのものだったといえるのでしょうか。防衛白書に何が書いてあろうと、そのことは批判しても、「重要」と考えるのであれば、もっと上の人物を送り込むべきでした。

また、尖閣付近に連日のように艦艇等を繰り出し、さらにはロシアととも、複数の軍艦で日本列島を一周したりしておいて、「約束」「信義」を持ち出すのは筋近いというものです。

ただ「重要なコンセンサス」があったことをわざわざ表に出したということは、「日本が約束を破って、外交的ボイコットをすること」は中国、もしくは習近平政権には大きな痛手になるのでしょう。おそらくは、後者でしょう。

岸田首相は去る7日、記者に向け「日本はオリンピックの意味、われわれ外交の意味などを総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断する」と述べました。岸田首相が言葉を濁すのは、「重要なコンセンサス」を意識してのことかもしれません。


米国の外交的ボイコットに続き、ニュージーランドとオーストラリアが後に続きました。続いて英国とカナダが参加しました。

これにより、米国、英国、オーストラリアの外交安全保障三者協議体であるオーカス(AUKUS)諸国すべてが、北京冬季オリンピックに外交使節団を派遣しないことになりました。

ここにカナダまで加わり、米国の安保同盟であるファイブアイズ(Five Eyes)も、やはり不参加になりました。 ヨーロッパ諸国の不参加についても、さらに後に続く可能性があります。欧州連合(EU)は声明を通じて「どんな形でもオリンピック参加については、個別加盟国の決定」と明らかにしました。

Five Eyesが外交的ボイコットをするであろうことは、習近平政権には織り込み済みなのでしょうが、日本にはよほど「外交的ボイコット」してもらいたくないようです。

政治的メッセージとは、はやい話がプロパガンダのことです。広く触れ知らせること。宣伝。多く思想や教義などの宣伝をいいます。ただ、プロパガンダにはマイナスのイメージがついてしまっているので、安倍元総理は「政治的メッセージ」と語ったのでしょう。

日本としては、先に述べたように、中国に対する東京五輪への返礼として、北京五輪には文科省の課長レベルを送り、はっきりと「外交的ボイコット」と表明するのが相応しい対応です。


間違っても、閣僚級などを送れば、中国に舐められるだけです。岸田政権が課長級を北京五輪に送り込むことにし、それだけでなく「外交的ボイコット」を表明すれば、習近平政権にとっては大きな打撃になります。

中国共産党の人権侵害は絶対に許さないという強いメーセージとなります。そうして、これは、日本は過去に瀕死の中国共産党を2度助けたが、中国が人権問題を解決しない限り3度目はないという強力なメッセージとなります。これが、安倍元首相が語る「政治的メッセージ出すとき」 という意味だと思います。

一度目は、日本が国民党軍と戦いこれを弱らせたことで結果として、中共軍を救いました。これは、毛沢東も認めました。二度目は、天安門事件後当時の日本政府が、天皇皇后両陛下を中国に訪問していただいてまで、中国が国際社会に復帰できるように助けました。

現在の米中冷戦においても、日本が何らかの形で中国に助けの手を延べることを期待しているのでしょうが、「外交ボイコット」とはそれはないことを伝えるメッセージとなります。

この「政治的メッセージ」は中国共産党だけではなく、広く多くの中国国民に伝わることでしょぅ。人権侵害を受けている多くの中国国民に対しての強力なメッセージになることでしょう。

もし、岸田総理が瀕死の中国をまた助けようと考えているのなら、問題外です。であれば、岸田総理は国賊です。そのような、政権は挙党一致で退陣に追い込むべきです。

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2021年12月9日木曜日

「ファクターX」判明か 新型コロナが欧米より少ないわけ 理研―【私の論評】この発見により、いずれ新型コロナを普通の風邪並に扱える日がくる(゚д゚)!

「ファクターX」判明か 新型コロナが欧米より少ないわけ 理研

 日本の新型コロナウイルスの感染者数が欧米と比べて少ないとされる要因「ファクターX」について、HLAと呼ばれる細胞の表面にある物質の種類が関係しているのではないかという研究結果を理研(理化学研究所)の研究チームがまとめました。


 人間には様々な種類の免疫機能があり、ウイルスが感染した細胞を殺傷する白血球の一種「キラーT細胞」もその一つです。キラーT細胞は「エピトープ」と呼ばれるウイルスの特定の部分に反応して「敵」であると認識し、ウイルスを攻撃します。同時にウイルスを記憶して次に同じウイルスがやってきたときに、速やかに反応します。

 理研で「風邪を引き起こす従来のコロナウイルス」と「新型コロナウイルス」のエピトープを調べたところ、「極めてよく似たエピトープ」があることがわかりました。さらに、そのエピトープは日本人の6割近くが持つといわれるHLA-A24型によく結合することもわかりました。HLAは細胞の表面にあって、様々な種類があり、免疫に深く関わっている物質です。このためHLA-A24型を持っている人は、新型コロナの抗体を持っていなくても、従来のコロナウイルスの記憶を持つキラーT細胞が速やかに活性化して新型コロナウイルスを攻撃するため、感染や重症化が防げたのではないかと理研では見ています。ちなみに欧米ではHLA-A24型を持っている人は1割から2割だということです。

 研究チームの藤井眞一郎リーダーは研究の成果について、「日本の感染が少ない『ファクターX』の一部であるのは間違いないと考えている」「今後、新たな変異株にも有効なワクチン開発などにつながる可能性がある」と話しています。

【私の論評】この発見により、いずれ新型コロナを普通の風邪並に扱える日がくる(゚д゚)!

ファクターXについて、理研の研究を一言でまとめると、「日本人に多い特定の免疫タイプの影響」ということです。これは、かなり有力だと思います。要因の一部がどの程度のものであったのか、もし70%以上であった場合、「ファクターX」はこれが主要因としても良いと思います。

この研究の詳細については、以下の動画をご覧になってください。非常にわかりやすく解説しています。


「ファクターX」については、以前から様々なことが言われてきました。コロナ感染がはじまってから数ヶ月した6月あたりには、「ファクターX」について報道されるようになりました。下の表は、昨年6月11日の中日新聞から引用したものです。


どれも、あまり信憑性がありそうにもないものばかりです。唯一「遺伝的要因」というのは近いかもしれません。「日本人に多い特定の免疫タイプ」はほぼ遺伝で決まると考えられるからです。HLAの型は、親から子へ遺伝するからです。


日本医事新報社のサイトを検索してみたところ、「ファクターX」については、以下の3つの記事が掲載されていました。
【識者の眼】「日本人の協調性こそファクターX」神野正博|Web医事新報
【識者の眼】「ファクターXは実在しない」岩田健太郎|Web医事新報
新型コロナ禍で日本の医療崩壊を防いだファクターXは 民間病院の存在であった[炉辺閑話]

 「日本人に多い特定の免疫タイプ」=「ファクターX」ということになれば、これらの説はことごとく間違いということになるでしょう。

上の記事の「新型コロナの抗体を持っていなくても、従来のコロナウイルスの記憶を持つキラーT細胞が速やかに活性化して新型コロナウイルスを攻撃する」というくだりでは、「はたらく細胞」というアニメのキャラクターを思い出してしまいました。


「ファクターX」の解明にかなり大きな一歩を踏み出した理研の快挙です。日本人が欧米人に比べ武漢コロナの死者と重傷者が極端に少ない理由を解明し。日本人の遺伝子にその秘密があったことを明らかにしました。この研究により、従来の感染者は勿論、オミクロン株や基礎疾患等でワクチンが効かない感染者の治療薬開発も可能と期待されています。

この発見により、いずれ日本でも、そうし世界中で新型コロナも普通の風邪並に扱える日がくるのが、かなり早まったといえます。そうなれば、過度に恐れる人もいなくなると思います。

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2021年12月8日水曜日

自民に“財政”2組織が発足 財政再建派と積極財政派が攻防―【私の論評】「○○主義」で財政を考えるなどという愚かなことはやめるべき(゚д゚)!

自民に“財政”2組織が発足 財政再建派と積極財政派が攻防

財政政策検討本部役員会で発言する安倍晋三元首相=1日午後、東京・永田町の自民党本部

 自民党内に財政をめぐる2つの組織が、ほぼ同時に立ち上がりました。財政再建派と積極財政派の攻防が始まっています。

 きょう、初めて役員会を開いた自民党の「財政健全化推進本部」。先月立ち上がった、岸田総理直轄の組織です。

岸田首相
 「財政健全化について考えていく。責任政党であります自民党にとっても大切な使命だと考えています」

 岸田総理は新型コロナ対応のための財政出動と、中長期的な財政健全化は決して矛盾しないとの考えを強調しました。今後、財政政策についての提言をまとめる方針です。

 一方、自民党内では、安倍元総理など財政支出に積極的なメンバーが参加する「財政政策検討本部」という別の組織も立ち上がったばかりです。

安倍晋三 元首相
 「失業率2.8%、先進国の中でも最もしっかりと守っている。それはやはり、今まで積極的な財政出動を行い、その成果でもあるのではないかと」

 こちらの本部でも、今後、望ましい財政政策を検討するとしていますが、結論は積極財政派に配慮したものになるとの見方が大勢です。党内では新型コロナ対策もあって、積極財政派の存在感が増しているといいます。

財政再建派の閣僚経験者
 「それは大盤振る舞いを続けた方が楽だからな。党内の財政再建派は息苦しい」

 関係者は議論の行方を注視しています。

【私の論評】「○○主義」で財政を考えるなどという愚かなことはやめるべき(゚д゚)!

「財政再建派と積極財政派の攻防」とは一体どういうことなのかと考えてしまいます。財政再建派といわれる人々は、どんな時でも財政再建を主張するのでしょうか。そうして、積極再生派の人々はどんなときでも積極財政をするというのでしょうか。

現状の財政が危機なのか、そうでないのか、あるいは現状は積極財政すべきなのかという「事実判断」をまず検討すべきです。それから再建すべきなのか、積極でいけるかのがわかるはずです。「主義」として議論する人は最初から間違えています。

デフレになっても、それでも財政再建ばかりしていれば、いずれさらに酷いデフレになるのは必定です。平成年間のほとんどの期間にわたり、このようなことを実施し続けたのと日銀が金融引締を続けたので、現在の日本はデフレ傾向にが続いています。積極財政主義にも確かに問題があります。積極財政を主義としていつまでも行いつづければ、いつかは超インフレになってしまいます。

日本は、財政再建主義を長い間続けてきた結果平成年間のほとんどの期間がデフレだったという、大失敗をやらかしたのですから、いい加減「主義」で財政を考えるという愚かな、馬鹿真似はやめるべきです。必要なのは、実体経済を分析した上で、積極財政すべきときは、積極財政をして、緊縮財政すべきときは積極財政をするという柔軟な姿勢てす。

安倍氏や高市氏などこのようなことは、重々承知なのでしょうが、岸田政権の枠組みの中で、このような二つの組織ができているので、「財政政策検討本部」の中で財政を検討するよりないのでしょう。

これを前提として、直近の経済を振り返ります。


総務省が7日発表した10月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は28万1996円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比0.6%減りました。前年同月を下回るのは3カ月連続。新型コロナウイルスの感染拡大で発令されていた緊急事態宣言が9月末に解除されましたが、飲食店の営業時間短縮や人数制限が続いた影響で伸び悩みました。

前月比(季節調整済み)では実質3.4%増でした。新型コロナの新規感染者の減少や行動制限の緩和により、前年同月比のマイナス幅は8月(3.0%減)や9月(1.9%減)に比べて縮小しました。

品目別にみると「食料」は前年同月比0.9%減でした。10月下旬まで飲食店の時短や酒類提供の制限が残っていたため外食が減りました。

宿泊料などを含む「教養娯楽」は5.4%減少しました。旅行需要は回復しつつありますが、政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」が適用されていた20年10月の支出には及ばず、宿泊料や国内パック旅行費が減りました。

「交通・通信」は10.9%増でした。緊急事態宣言の解除で外出機会が増えて交通機関を利用する人が多くなり、鉄道運賃や航空運賃が伸びました。

コロナ感染拡大前の19年10月と比べると、飲酒代(57.3%減)や航空運賃(55.2%減)、婦人服(20.2%減)などコロナ前の水準に戻っていない品目も多いです。

足元では外出関連の消費が回復しつつあるが、先行きについて総務省の担当者は「新たにオミクロン型が出てくるなどコロナ感染で不透明な状況もある」と説明しました。

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この状況ではどう考えても、財政再建よりも積極財政をすべきでしょう。

さて、オミクロン株が話題ですが、この感染者は南アフリカがいちばん多いです。南アフリカの8割以上がデルタ株からオミクロン株に変わっています。南アフリカの新規感染者数は急増しています。

感染力はグラフの傾きでわかるのです。従来に比べて傾きが大きいので、間違いなく感染力は高いということができます。

一方死者数のデータを見ると、増えていません。逆に下がっています。死者数のデータは感染者数のデータは少しあとに出て来てきますが、11月の頭からのデータを見ると、感染者数に比べて死者数が低いので、「毒性が低い」ということが推測できます。

現段階でこういうことを言うと「時期尚早」と言われかもしれませんが、あと1~2週間もすれば、「オミクロン株の毒性の強さ」についてはデータに基づきはっきり言えるようになるでしょう。

米政府の首席医療顧問を務めているファウチ氏は、「断定するのは時期尚早だが、これまでの重症化の度合いは高くないようだ」とCNNのインタビューで答えています。

データをみるとそのようなことがいえます。11月初旬からアフリカで感染が始まったことがわかっています。そこから40日くらい経っていますので、確定的ではないもののある程度の特性は言えると思います。

この種データは長ければ長いほど理解しやすいのですが。ただ、いまのところの重症化率や死者の出方から見ると、毒性は強くなさそうです。これはウイルス学の基本ですが、「感染力が強いと毒性が下がる」という傾向があります。変異するとそうなる傾向があります。ただ、オミクロン株については、現状では断定まではできません。

政府としては、1〜2週間して、オミクロン株の毒性が低いということがはっきりすれば、すぐにも大型の対策を打つべきでしょう。無論、財政再建など二の次にして、積極財政に打ってでるべきです。

南アフリカ・ケープタウン在住 岩瀬早織さん

しかし、先にもあげたように、「財政健全化推進本部」と「財政政策検討本部」の二つの組織を立ち上げる岸田政権ではまともな経済対策は期待できないです。

岸田氏としては、財政健全化主義者の組織と、財政政策を検討する組織の二つの組織の意見を聴いたうえで、財政政策を実施することになるのでしょう。これは、どちらがわの意見も聴いたということをアピールするためとしか考えられません。

このようなことを実施すれば、財政政策としては、両者の意見を折衷したものとなり、不十分なものしかできないでしょう。無論先日もこのブログで述べたような米国における「高圧経済」など望むべくもないでしょう。

「高圧経済論」とは潜在成長率を超える経済成長や完全雇用を下回る失業率といった経済の過熱状態を暫く容認することで、格差問題の改善も含めて量・質ともに雇用の本格改善を目指すというものです。

これによって、コロナで落ち込んだ経済を素早く回復させることができます。岸田政権下では、これは望むべくもないので、来年にかけて景気は落ち込み、失業率もあがり、岸田内閣への風当たりが強くなり、参議院選挙でボロ負けして、その後岸田総理は引責辞任ということになるでしょう。

その後に、総裁選で経済対策では一番まともなことを言っていた高市氏が総裁になるか、安倍総理の経済政策を引き継ぎ、それを高市氏が補佐するような形にでもならない限り、日本での「高圧経済」は難しいでしょう。一番良いのは、安倍氏がまた総理大臣になることだと思います。

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2021年12月7日火曜日

トランプ減税が富裕層より労働者層を助けたことがIRSデータで証明されたと新聞論説―【私の論評】トランプ減税が花咲いた米国、日本には花さか爺はいないのか(゚д゚)!

トランプ減税が富裕層より労働者層を助けたことがIRSデータで証明されたと新聞論説

ドナルド・トランプ前大統領

<引用元:JustTheNews 2021.12.5

ヒル紙に先週出た論説は、ドナルド・トランプ前大統領が2017年に実施した減税が富裕層よりも労働者―そして中間層に利益をもたらしたことが、IRSのデータから明らかだと認定した。
「IRSの発表した所得データは、共和党による税制改革法によって平均してすべての所得階層が大幅に利益を受け、中でも最大の受益者は、非常に多くの民主党が主張しているように上位1パーセントではなく、労働者・中間所得層であったことを明らかに示している」と、保守派シンクタンク・ハートランドインスティテュートの社会主義研究センター所長である著者のジャスティン・ハスキンズは書いた。

ハスキンズはIRSデータを分析して、納税者に以下のような利益があったことがわかったと述べた。
  • 1万5千ドルから5万ドルの所得層では、法成立後でIRSの全データが得られる最初の年である2018年に、16パーセントから26パーセントの減税となった。
  • 5万ドルから10万ドルでは、平均で15パーセントから17パーセントの減税。
  • 10万ドルから50万ドルでは、11パーセントから13パーセントの個人所得税の減税。
  • 50万ドル以上では、平均9パーセント以上の減税となり、100万ドル以上では平均で6パーセント未満の減税となった。
「実際のところ、共和党による2017年の税制改革法は、約束されたとおりのことを実現した。つまりすべての所得グループの税金を引き下げ、中間所得世帯に最大の利益をもたらし、経済成長に拍車をかけたことで貧困を減らし豊かさを増すのに役立った」とハスキンズは書いた。

訳注:記事の引用元と思われる論説

【私の論評】トランプ減税が花咲いた米国、日本には花さか爺はいないのか(゚д゚)!

トランプ減税により、米国の財政赤字は10年間で1兆ドル強増える見込みで、中期的に米長期金利の上昇要因となり、結局富裕層だけが恩恵を受けるなどとされました。しかし、上の記事ではそうではなかったことが明らかにされました。

これについては、トランプ減税が導入された直後の2018年でも、明らかになっていました。

2018年日経新聞(1月18日電子版)に掲載された表

2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の財政収支そのものは、1132億ドルの赤字となっていました。この数字は、6年ぶりの水準でした。

しかし、それが「トランプ減税」に結び付けられて日米のメディア報じられたのは、強引に過ぎました。なぜなら、税収を主とする歳入そのものは、減税が実施される2017会計年度よりも増えていたからです(923億ドル増)。

財政赤字が膨らんだ主因は、それ以上に歳出が増えたことによるものでした(1270億ドル増)。

歳出がかさんだ要因として最も大きかったのは、公的債務への「利払い」が増えたこと(620億ドル増)。背景には、米連邦準備理事会(FRB)が引き締め政策として、政策金利を引き上げたことがありました。

そうして「利払い」に次ぐ歳出拡大要因は「国防費」です(333億ドル増)。これも、中国の覇権拡大に対抗するためのものでした。軍事費を減らし続けたオバマ政権のツケであり、未来の平和維持のためのコストです。

つまり、財政赤字拡大の"主因"はどちらも、減税したこととは別の話だったのです。

こうした事実を前提にすると、当時の報道の、「減税が財政赤字拡大の主因」という書き方はあまりにもミスリーディングだったと言わざるを得ません。


むしろ注目すべきだったのは、「減税したにもかかわらず、歳入が増えたこと」です。連邦法人税率を10%以上も引き下げ、個人所得税も下げるというのは、かなり大胆な減税でした。

さすがに法人税収入は大幅に落ち込みました(923億ドル減)。しかしそれを上回って、個人所得税が増え、減税分を帳消しにしていたのだ(964億ドル)。その背景は、減税や規制緩和による歴史的な好景気でした。そうなると「減税が赤字の主因」という論は、ますます苦しく見えまました。

「税率を下げ、税収が増える」という現象が起きていたのです。

大幅な歳出拡大の影で起きている、この重要なパラドックスにこそ注目すべきだったのです。なぜ報道はそれを黙殺したのでしょうか。

トランプ景気については日米メディアともに「副作用がある」「脆弱だ」などと議論していました。しかし少なくとも新聞は、まずは目の前の現象を素直に報じるべきでした。

以下に、世界各国の名目GDP成長率(1980年を1.0とする)を掲載します。


明らかに、日本だけが伸び率が低いです。これは、過去に、特に平成年間【明仁(第125代天皇)の在位期間ある1989平成)1月8日から2019平成31)4月30日まで】のほとんどの期間を、日銀は金融引締をし、財務省は緊縮財政を主導して、消費税を何度もあげ、その他の緊縮財政を実施してきたからにほかなりません。

トランプ減税では、富裕層よりも労働者―そして中間層に利益をもたらしたことがはっきりしました。日本でも、減税をすれば、このような成果が期待できます。消費税の減税が法的に難しいというのなら、所得税でも、その他でも様々な減税ができるはずです。

是非実行して、していただきたいものです。岸田政権では絶対に無理でしょうから、ポスト岸田に期待したいものです。

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〈独自〉大企業は賞与含む継続雇用者の給与総額4%以上で最大30%控除、賃上げ税制概要判明―【私の論評】岸田政権に望む経済政策は、これ以上日本経済を毀損しないでいただくことのみ(゚д゚)!


2021年12月6日月曜日

〈独自〉大企業は賞与含む継続雇用者の給与総額4%以上で最大30%控除、賃上げ税制概要判明―【私の論評】岸田政権に望む経済政策は、これ以上日本経済を毀損しないでいただくことのみ(゚д゚)!

〈独自〉大企業は賞与含む継続雇用者の給与総額4%以上で最大30%控除、賃上げ税制概要判明

臨時国会の衆院本会議で所信表明演説に臨む岸田文雄首相=6日午後、衆院本会議場

 令和4年度税制改正で最大の焦点となっている、賃上げを行った企業を優遇する「賃上げ税制」見直しの概要が6日、分かった。大企業では法人税額から差し引くことができる控除(減税)率の最大値を20%から30%に引き上げ、賞与などを含む継続雇用者の給与総額を前年度比で4%増やせば対象となる。また、中小企業では最大値を25%から40%に引き上げ、総従業員の給与総額を2・5%増やせば優遇を受けられる制度にする方向だ。

 岸田文雄首相は6日の衆院本会議での所信演説で、「賃上げに向け全力で取り組む」と表明しており、賃上げした企業の減税率を大幅に増やすことで企業の賃上げを促す考えだ。政府・与党で適用条件などの詳細を詰めた上で、10日にもまとめる与党税制改正大綱に明記する方針だ。

 現行制度では、大企業は新たに雇用した従業員の給与総額を前年度より2%以上増やした場合、支給額の15%分を法人税から差し引ける。中小企業は全雇用者の給与総額が1・5%以上増えた場合、増加額の15%分を控除できる。さらに従業員の教育訓練費を一定額以上増やすと大企業は5%、中小企業は10%それぞれ控除率が上乗せされる。

 4年度税制改正でも、企業が最大の控除率を受けたい場合、投資や教育訓練費を前年度に比べて増額することが条件になる方向だ。

 一方、赤字の中小企業は法人税を納める必要がないため、賃上げをしても優遇税制の恩恵がない。このため、補助金を活用して賃上げを促す特別枠を設ける。中小企業を対象に設備投資額の50%を補助している制度を見直し、赤字の中小企業が従業員の給与総額を前年度比で1・5%以上増やすことを条件に、補助率を3分の2に引き上げる案が検討されている。

【私の論評】岸田政権に望む経済政策は、これ以上日本経済を毀損しないでいただくことのみ(゚д゚)!

上の記事を読んでいると、全く意味がわかりません。税制で本当に賃金が挙げられるのでしょうか。まともに考えれば、あげられるはずかないという結論に至るはずです。

税制では、一部の人の賃金を上げられるかもしれないですが、日本国民の全体の賃金を上げるのは不可能です。そもそも、税金で賃金を上げるというのは、全体では貨幣の量が変わらないで、一部の人の賃金を上げるだけに終わるということです。

賃金を上げるというのなら、まずは金融緩和です。無論日銀は金融緩和を継続はしているのですが、それにしても物価目標2%すら達成できていません。このような状況で全体の賃金をあげられるはずもありません。

賃金については、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!
この記事の元記事の高橋洋一氏の記事の結論部分を以下に引用します。
1990年までは日本のマネーの伸び率は先進国の中でも平均的だったが、バブル潰しのために90年に入ってから日銀は引き締めた。その引き締めをその後30年近く、基本的に継続しているのだ。

 「非正規雇用の多さ」という議論は、非正規雇用が総じて低賃金だからという発想であろうが、国際比較すると日本だけが特別に多いわけではないので、必ずしも日本の賃金の低さを説明できない。

 「企業の内部留保の大きさ」というのは、企業が内部留保を吐き出さないので低賃金になっているとの主張だが、30年間常に日本企業の内部留保が大きかったわけではないので、30年間の現象をよく説明できない。

 マネーの伸び率を高めるために有効な政策は、インフレ目標の数字を引き上げることだ。筆者はすでに、インフレ目標を現状の2%から4%に引き上げれば、所得倍増を12~13年で達成できることを指摘している。 
結局、日本の賃金の全体の底上げをするには、まずインフレ率は2%以上にしなければ、ありえないということです。そうして、2%を達成したとしても、その状態をただ継続するというのでれば、賃金が倍増するまでに30年くらいもかかってしまうということです。

それは、70歳以上の方なら実生活でも体験されていたのではないでしょうか。2%くらいの緩やかなインフレが続いている状況では、物価も上がりますが、賃金もあがります。

1年くらいでは、賃金があがったなどという感覚はなく、誤差くらいのものですが、それが20年〜30年くらいたつと物価も1.5倍くらいあがりますが、賃金も2倍となっているので、相対的には20年前と比較すると賃金そのものも上がっているというのが普通でした。

しかも、これは、同じ会社にいて、同じ職位でそうなるわけですから、職位があがればもっと賃金があがるわけです。あるいは、転職がうまくいけば、賃金が上がるわけです。

特に70歳以上の方であれば、若い時分は、そのように思われていたでしょう。そういう意味では誰もが将来に希望を持てたわけです。今は貧乏でも、20年、30年と努力を続けていれば、かならず賃金があがり、生活がよくなることを期待できたわけです。

ただ、現状のように日本人の賃金が30年間も上がらない状態が続いたのですから、それを短期であげるためには、インフレ率を当面4%にすべきというのが、高橋洋一氏の主張です。ただ、仮に4%の物価目標を達成したにしても、賃金を倍にするには、12〜13年かかるということです。

ただ、これが本当に実行すれば、5年くらいで倍にはならないものの、ある程度目に見えるように賃金が上がることになります。そうなれば、多くの人が将来に希望を持てるようになります。そうして、これこそが全体の賃金の底上げをはかることです。

私は、終戦後の日本人は現在と比較すると、かなり貧乏でしたが、賃金があがると期待できたために、将来に希望が持てて、今よりも幸福だったのではないかと思います。


高いインフレ率を許容し、日銀が量的緩和を拡大し、さらに政府もこれに呼応して積極財政を実施すれば、日本人の賃金はよりはやく上昇し、経済も良くなります。

これを「高圧経済論」ともいいます。「高圧経済論」とは潜在成長率を超える経済成長や完全雇用を下回る失業率といった経済の過熱状態を暫く容認することで、格差問題の改善も含めて量・質ともに雇用の本格改善を目指すというものです。

以下では、就職氷河期時代の日本の状況や、元FRB長官イエレン氏のとった経済政策などを振り返りながら、2つのキーワードを解説します。

まず「(負の)履歴効果」とは、端的に言えば「一時的な経済ショックが長期にわたってマイナスの影響を与える」ことです。

何らかの理由で経済活動が急激に縮小すると、危機が終わっても経済活動のレベルがすぐに元の状態に戻らない傾向にあります。危機時に本来使うべきおカネが削られてしまうことで成長の種が撒かれず、低成長が長期化してしまうことが一因です。

ここで言う「本来使うべきおカネ」とは、雇用や設備投資、すなわち労働者育成や最新設備導入、研究開発費など成長に必要なおカネです。そうした支出が過度に抑制されると危機が過ぎ去った後に、熟練労働者の不足に直面したり、新製品の開発が進まず技術革新が滞ったりすることで低成長が長期化してしまいます。

日本では1990年代前半のバブル崩壊から2000年代前半(ITバブル崩壊や金融システム不安)までの不況の影響で「就職氷河期」と呼ばれる極端な新卒採用の抑制が長期化し、その結果、人的資本の蓄積が進まず、長期停滞の一因になりました。

ちなみに「就職氷河期世代」とは1993年から2005年までに新卒就職活動に差し掛かった年代を指すことが多いです。


またこの間、企業の設備投資や研究開発費が抑制されたことも大きいです。1990年代まで高い国際競争力を有していた電気機器セクター(家電、半導体)において韓国、中国勢の追随を許しシェア低下につながったのも、この履歴効果で一部説明できます。

こうした過去の教訓を踏まえると、コロナ禍における日銀の責務は「履歴効果」を回避することにあるでしょう。政府は長期にわたって国債を発行し続け、日銀をそれを買い取るというきと継続することにコミットし、金融緩和が続く安心感を醸成する必要があります。

この方式は、安倍元総理が「政府日銀連合軍」と呼んだ方式ですが、これは米国やEUなどでも普通を行われているごく常識的な方式です。このブロクでは過去に何度か説明したように、このような方式をとっても、5%や6%を超えるようなインフレにでもならない限り、何も悪いことはおこりません。4%くらいなら十分許容できますし、無論将来世代へのつけになることもありません。

そうして、「負の履歴効果」を回避するにはどうしたから良いか、それが先に述べた「高圧経済」です。

高圧経済と言えば、米財務長官のイエレン氏が象徴的な人物です。2016年、当時FRB議長だったイエレン氏は「負の履歴効果が存在するならば、政策によって総需要を長期間刺激し続ける『高圧経済』を維持していけば、逆に、正の履歴効果が起きる可能性もある」と発言しています。

これはどういうことかといえば、景気が十分に回復した後も景気刺激策を講じ続けることで雇用や設備投資を力強く促していくという政策態度です。経済ショックに見舞われた後は、高圧経済の実現によって人々の苦い記憶を払拭し、前向きな支出を促す必要があるという考え方です。

その点、米国の経済対策は「高圧経済」の実現という政策理念があるように思えます。コロナ禍における米国の景気対策は1年半でマネーストック(民間非金融部門にあるおカネ)が3割強も増加する極めて巨額な規模で、マクロの家計所得は劇的に増加しました。こうした「やり過ぎ」とも言える経済対策は負の履歴効果の回避に大きく貢献したと考えられます。

日本国民全体の賃金の底上げを行うには、いまこそ「高圧経済」により、「負の履歴効果」を消し去り「正の履歴効果」を生み出すべきなのです。

そのようなことをせずに、税制を変えることによって賃金を上げることなどできません。

先にリンクを掲載した記事の「私の論評」の結論部分を以下にあげます。
日銀がさらなる量的金融緩和に踏み切らない限り、名目GDPも名目賃金も上がることはありません。これだけは、勘違いするべきではないです。

勘違いすれば、とんでもないことになります。たとえば、お隣韓国では、雇用状況がわるいというのに、あまり金融緩和をしないで最低賃金を機械的にあげましたが、どうなったでしょうか。雇用が激減してとんでもないことになりました。今日もテレビで、韓国の悲惨な現状が報道されていました。

日銀が大規模な金融緩和をしないうちに、「非正規雇用」が多いからなどとして、非正規雇用を機械的に減らしてみたり、「企業の内部留保」を機械的に減らすようなことをすれば、がん患者に、突然激しい運動をさせてみたり、厳しいダイエットをするようなものであり、無論賃金が上がるということもなく、韓国のようにとんでもないことになります。

立憲民主党のように「分配なくして成長なし」というのも、これと同じようにとんでもないことになります。成長する前に分配をしてしまえば、韓国のように雇用が激減するだけになります。

考えてみれば、「失われた30年」は、日銀による実体経済にお構いなしに、金融引締を実施し続けたことによるデフレ、政府によるこれも実体経済にお構いなしに増税など緊縮財政を長い間にわたって続けてデフレに拍車をかけてきたことが原因です。

もう、いい加減このような愚かな政策はやめるべきです。

岸田政権による税制の変更では、日本人の賃金の底上げがおこるようなことはありません。効果がないからといって、機会的に最低賃金をあげるようなことをすれば、韓国のように雇用が激減してとんでもないことになるだけです。

冒頭の記事など読んでいると、岸田政権には経済対策など期待できないようです。ただ、岸田首相が、経済政策で税制の改定などの無意味なことをするのはまだ許容できますが、消費税増税や、コロナ復興税などを実施して日本経済を毀損するのだけはやめてほしいです。

そうなったら、自民党内の反対派もちろん、野党も含めて、岸田おろしをしていただき、自民党は次にはまともな「総裁」を選んでいただきたいです。

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2021年12月5日日曜日

米紙“ロシアがウクライナ侵攻を計画”―【私の論評】兵站に欠陥のあるロシアはウクライナ全土は併合できない!できるのは最大でいくつかの州のみ(゚д゚)!

米紙“ロシアがウクライナ侵攻を計画”


ロシアが来年早々にも最大17万5000人規模の部隊で、ウクライナへの軍事侵攻を計画していると、アメリカの有力紙、ワシントンポストが報じました。

ワシントンポストは、アメリカの情報機関の分析として、ロシア軍が現在ウクライナ国境地帯に展開している部隊を増強し、最大17万5000人規模で、来年早々にも侵攻を計画している、と伝えています。

ロシア軍は国境の4か所に集結していて、軍事侵攻は多正面作戦になるとしています。アメリカのバイデン大統領は3日、ロシアのウクライナ侵攻を阻止するための対応策を準備していると述べました。

バイデン大統領「プーチン大統領が実行に移すのを阻止する包括的で意義ある取り組みになる」

ブリンケン国務長官も2日、ロシアのラブロフ外相との会談で、ウクライナへ侵攻すれば「深刻な結果を招く」「同盟国とともに大きな代償を与える」などと強く警告していました。

一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は、米露首脳によるオンライン会談が、今月7日に行われると明らかにしました。

【私の論評】兵站に欠陥のあるロシアはウクライナ全土は併合できない!できるのは最大でいくつかの州のみ(゚д゚)!

ロシアの軍事力は、米国についで2位とされてはいますが、その実体はどうかといえば、兵站においては劣っており、現状では米国を除くNATOとでも本格的に戦えば負けます。

米軍抜きのNATOと戦えば、初戦においては現在でも軍事技術に優れたロシア軍は、一時目覚ましい戦果を挙げられるかもしれませんが、後続きせずに、NATO軍に打ち負かされるのは必定です。

なぜ、そのようなことを自信を持っていえるかといえば、現状のロシアのGDPは、韓国なみであり、世界10位にも入っていないという現実があるからです。

ですから、ロシアはNATOと本格的に対峙することは避けるでしょう。それを考えると、今後ロシア軍は国境付近に軍隊を配置するだけで終わるかもしれませんし、国境を超えたとしても、最大でも数十キロくらいで、そこに橋頭堡をつくる程度でしょう。

それは何のための橋頭堡かといえば、ドネツク州のようなロシア語を母語とする多い、州などをロシアに併合するための橋頭堡です。

ロシア語を母語とする人口の割合

未来永劫絶対にありえないのは、ウクライナ全土をロシアに併合することです。そうしてしまえば、NATOも何らかの手段を講じるでしょう。それに対峙できる力は現在のロシアにはありません。ドネツク州併合くらいなら、クリミアを併合したように、併合できる可能性はあります。それも、無論軍事力だけではなく、ハイブリッド戦も駆使してということになるでしょう。

なぜそのようなことがいえるかといえば、先日も中国が台湾に侵攻できない大きな一つの理由として、兵站、特に輸送力の限界を指摘しましたが、ロシアにもそのような限界があるからです。まず、先に上げたようにロシアの経済力は今や韓国を若干下回ります。これでは、大規模な戦線を長期にわたって維持することはできません。

それにロシア軍も兵站力では西側諸国に比較して、劣るという重大な欠陥があります。詳細は、以下の記事をご覧ください。
FEEDING THE BEAR: A CLOSER LOOK AT RUSSIAN ARMY LOGISTICS AND THE FAIT ACCOMPLI(クマに餌をやる:ロシア軍の兵站学と既成事実を詳しく見る)
詳細は、この記事をご覧いただくものとして。以下に一部を引用します。
ロシア軍の兵站部隊は、鉄道から離れた場所で大規模な地上攻撃を行うようには設計されていない。

ロシア軍は各統合軍に十分な持続旅団(彼らが言うところの物的技術支援旅団)を持っていない。

ロシア軍の切り札は10個の鉄道旅団で、これは西洋にはないものだ。鉄道旅団は、鉄道の警備、建設、修理を専門としており、鉄道車両は国営企業が提供している。

ロシア軍の装甲列車
ロシアが鉄道旅団を持つユニークな国である理由は、物流的に、ロシア軍が工場から陸軍基地、統合軍、そして可能であれば師団・旅団レベルまで鉄道と結びついているからだ。ヨーロッパの他の国では、ロシア軍ほど鉄道を利用している国はない。その理由の1つは、ロシアが端から端まで6,000マイル以上という非常に広大な地域であるからだ。
ロシア軍をロシアの鉄道網を超えて補給しようとすると、鉄道部隊が鉄道を再構成/修理するか、新しい鉄道を建設するまで、トラック部隊に頼らざるを得なくなる。
ロシアの兵站は、鉄道に大きく依存しており、大規模砲兵隊を持つが故に大量のトラック輸送が必要になるため、今の補給部隊の編成性質と許容量では、国境沿いで高い戦闘力を発揮できるが、長距離地上進撃の際にそれを維持できない。
結局のところ、ロシア軍はウクライナの奥地までは、侵攻できないのです。さらに、鉄道が主な輸送手段ということは、鉄道が破壊されてしまえば、補給は途絶えるということになります。

鉄道線路の破壊などは、極端なことをいえば、手榴弾でもできます。NATO側が、ロシアの鉄道網を破壊してまえば、ロシア軍はお手上げになってしまいます。それに、ウクライナは内陸なので、船による輸送もできません。

ロシアの目論見が、ウクライナを破壊することであれば、ロシア国内から核兵ミサイルを数発でも打てば、それで終わりになります。そこまでしなくても、航空機で爆撃したり、通常のミサイルを多数打ち込めば良いです。しかし、それでは意味がありません。

あくまで、ロシアの狙いはウクライナもしくはその一部を統治することですから、これはほとんど不可能です。ウクライナ全土を統合するということになれば、そこに多くの軍隊を派遣して、それらに食料(一日3000kカロリー/人)・弾薬などの物資を長期間にわたって補給しつづけなければなりません。しかも、NATOと対峙しなければなりません。これは、現在のロシアの経済力からしても無理があります。

そのため、ロシアの目論見は、国境沿いのウクライナ領内に、橋頭堡を築き、将来そこを拠点にドネツク州などのロシア人の多い地域の一部もくしは、全部をロシアに組み入れることでしょう。

マスコミの報道を見て、ロシアがすぐにもウクライナ全土を併合すると思い込むのは明らかな間違いです。

ウクライナ軍女性兵士

もう一つの可能性としては、ロシア領内のウクライナ国境沿いに軍隊を配置し、西側諸国に対して「ロシアへの制裁を解かないと、侵攻するぞ」という政治的メッセージを伝えることでしょう。こうすれば、少なくとも話し合いの緒はつかめるかもしれません。

実際、バイデン米大統領は7日、ロシアのプーチン大統領とのオンライン会談でウクライナの主権を米国として支持する姿勢を改めて表明すると、ホワイトハウスが発表しています。

つい最近、アフガンの撤退で大失敗したバイデンです。プーチンとの話あいで、譲歩するのではないかという不安もありますが、それにしても、ロシアの兵站の脆弱性が変わるわけではないので、バイデンもしなくても良い譲歩はしないでしょう。

できれば、経済的に低迷するロシアが、ロシア軍をウクライナ領内に侵攻させるなど分不相応な愚かな真似をしないように、プーチンを説得してもらいたいものです。

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2021年12月4日土曜日

中国、独自の「民主」強調 白書公表、米けん制―【私の論評】人民ではない国民に対するさまざまな弾圧や抑圧が、法律上正当化されている中国は断じて民主国家ではない(゚д゚)!

中国、独自の「民主」強調 白書公表、米けん制


 中国政府は4日、「中国の民主」と題した白書を公表した。共産党主導の「中国式民主主義」の特色と成果を強調する内容で、米国主催で近く開かれる「民主主義サミット」を意識したとみられる。
 白書は2万字超から成り、「民主主義は全人類共通の価値観で、党と国民が一貫して守ってきた重要な概念だ」と主張。民主主義には国の歴史・文化に根差したさまざまな形態があるとした上で、党の指導による民主主義追求の歴史や、人民代表大会制度の有効性などを説明している。

【私の論評】人民ではない国民に対するさまざまな弾圧や抑圧が、法律上正当化されている中国は断じて民主国家ではない(゚д゚)!

中国で民主主義が実践されているとは、誰も思っていないでしょう。中国国内でもそうは思わない人が多いと思います。無論、それを公言できないでしょうが、それをもってしても民主主義とはいえないです。

民主化というと、すぐに思い出すのが下の高橋洋一氏のグラフです。そのグラフを掲載したこのブログの記事のリンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
開発経済学では「中所得国の罠」というのがしばしば話題になる。一種の経験則であるが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。
これをG20諸国の時系列データで見てみよう。1980年以降、一人あたりGDPがほぼ1万ドルを超えているのは、G7(日、米、加、英、独、仏、伊)とオーストラリアだけだ。 
以上のG20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。

民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。 
中所得国の罠をクリアするためには、民主主義の度合を高めないといけない。それと同時に、各種の経済構造の転換が必要だといわれる。

その一例として、国有企業改革や対外取引自由化などが必要だが、本コラムで再三強調してきたとおり、一党独裁の共産主義国の中国はそれらができない。
共産主義国家では、資本主義国家とは異なり生産手段の国有が国家運営の大原則であるからだ。アリババへの中国政府の統制をみると、やはりだ。

こう考えると、中国が民主化をしないままでは、中所得国の罠にはまり、これから経済発展する可能性は少ないと筆者は見ている。一時的に1万ドルを突破しても跳ね返され、長期的に1万ドル以上にならない。10年程度で行き詰まりが見えてくるのではないだろうか。

中国はどの程度の民主化をすればいいかというと、民主主義指数6程度の香港並みをせめてやるべきであった。しかし、逆に香港を中国本土並みにしたので、香港の没落も確実だし、中国もダメだろう。

中国は国全体としては、 世界第二の経済大国になったのですが、一人あたりのGDP(2018年)では、約9,600ドルで第72位に過ぎません。さらには、この統計自体の信憑性は全く明らかではありません。

全く信用できない中国のGDP統計

やはり、民主化されないと、経済も伸び悩むのです。なぜそのようなことになるかといえば、民主化、経済と政治の分離、法治国家化が実施されていれば、そこには多くの中間層が生まれ、それらが自由に社会・経済活動を行うことができて経済発展するのですが、そうでないと経済発展には限界がしまうのです。それが中所得国の罠です。

それら中間層が、あらゆる階層、あらゆる地域、あらゆる段階別で社会を変革するイノベーションを行うことができるからです。

あらゆる段階別という言い方には少し説明を要するかもしれません。貧困層が住む地域にいきなり水道や電気を設置しても、貧困層は貧困であるがゆえに、電気料や水道料が支払えず無意味です。

しかし、そういう地域にも、井戸を掘ったり、水を楽に手に入れる手段を導入すれば、経済的に余裕ができます。その余裕が蓄積すれば、次の段階では、電気料や水道料が支払えるようになり、今度はそれを導入できるようになります。

電気や水道が存在する現在であっても、貧困層である人々は、ある一定の過程を経ないと、これを使用できないのです。これを私は段階別のイノベーションと呼んだのです。そうして、無論その他のあらゆる階層の人たちにも段階的に段階別に沿ったイノベーションが発生します。

適当な言葉が見つからなかったので、この言葉にしましたが、どなたかふさわしい言葉をご存知野方がいらっしゃれば、教えていただきたいです。

電気料や水道料が支払えるようになれば、従来貧困層だった人はもはや貧困層とはいえなくなり、そこからまた中間層が出て、地域に密着したイノベーションを行うようになります。彼らは、従来は中間層以上の人々が用いたモノやサービスを提供するようになるでしょう。

このようなイノベーションがあらゆる階層・地域に段階的に爆発して、社会が無理なく豊かになり、特にお金持ちではない、多くの人々が一昔前の王侯貴族のような生活(たとえば、レジャーなど)ができるようになったのが現在の先進国なのです。

私はいくら中国が「民主化」されているなどと言ってみても、政治と経済の分離、法治国家まで行われていなければ、それは言葉の遊びにすぎず、真に民主化されているとは言えないと思います。

無論「政治と経済の分離」とはいっても、規制は必要ですし、マクロ経済的には、政府には金融・財政政策を通じて、国民経済を正常に保つ責任はありますし、ミクロ経済的にも自由競争を促すために独占等を規制をする責任もあります。しかし、政府が直接民間の経済活動に介入すべきではないです。

民主化というだけでは非常に漠然としているので、政治と経済が分離されていて、中所得国に罠から逃れて国民一人あたりの所得が100ドルを超えているとか、法治国家化がされていることを条件とすれば、中国はとても民主化されているとはいえません。

中国共産党と経済は不可分に結びついていて、中国共産党は経済が落ち込みそうだと、株式市場にまで直接介入します。さらに、憲法は中国共産党の下に位置します。

憲法が中国共産党の下にある中国は断じて法治国家ではない

このような状態では、とても中国が民主化されているなどとはいえません。そうして、今後中国は中進国の罠から逃れられず、経済的に伸び悩むことになるでしょう。そうして、「中国の民主」は間違いであっことが明らかになるでしょう。

それに、民主国家では国民という言葉をつかっていますが、中国で人民という言葉使われていて、国民と人民は明確に区別されています。国民と人民は異なるものであり、国籍を持つ国民全員が人民であるというわけではありません。人民は中国共産党の掲げる思想や政策を支持する国民の一部の人たちであり、それを支持しないで批判や反対する国民は人民ではないのです。

そればかりか人民に属さない国民は、人民の敵であり、人民が持つ権利は行使できないですが、法律を守るなどの義務を負うというのです。

半世紀以上も前に形作られた毛沢東や周恩来の考えは、今日も生きていて、残念ながら現行憲法を見る限り、国民と人民を区別する考え方は明らかに継承されています。さらに中国の憲法には「いかなる組織ないし個人も社会主義体制を破壊することを禁止する」とも記されています。

つまり人民ではない国民に対するさまざまな弾圧や抑圧が法律上、正当化されているのです。そもそも、国名が「中華人民共和国」です。そのような中国が断じて民主国家ではありません。

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2021年12月3日金曜日

ドタバタ岸田内閣…国際線予約停止を撤回、醜態さらす ネット上では「はっきりいって素人内閣」の声 識者「朝令暮改、行政全体が見えていない」―【私の論評】岸田総理は国民を納得させよ、財務省・中国を納得させる政策をとれば、そっぽをむかれる(゚д゚)!

ドタバタ岸田内閣…国際線予約停止を撤回、醜態さらす ネット上では「はっきりいって素人内閣」の声 識者「朝令暮改、行政全体が見えていない」

林外務大臣(左)と岸田総理大臣(右)

 岸田文雄政権が醜態をさらした。新型コロナウイルスの「オミクロン株」拡大を受けた水際対策で、国交省が日本に到着する国際線の新規予約停止を航空会社に要請しながら、「日本人を見捨てるのか」などと批判されて撤回したのだ。岸田政権はこれまでも、事実上の移民解禁との見方もある「外国人労働者拡大」の動きが突然報道されるなど、数々の疑問が指摘されてきた。大丈夫なのか。

 「一部の方に混乱を招いてしまった」

 岸田首相は2日、官邸でこう陳謝した。

 オミクロン株対策で 国交省は11月29日、独自の判断で、日本人も対象にした国際線の新規予約停止を航空各社に要請した。

 「感染防止の緊急避難的な予防措置」とはいえ、国家の最大の責務は「国民の生命と財産を守り抜く」ことだ。日本人の帰国ができないとなると、邦人保護の観点から問題となる。憲法22条が保証する「移動の自由」を妨げることにもつながりかねない。

 しかも、国交省は1日に官邸に事後報告したといい、岸田首相は同日夜、慌てた様子で邦人の帰国には適切に対応するように指示を出した。

 ネット上では、《はっきりいって素人内閣》《邦人保護の責任放棄》《何も考えず、人に言われるままにやるからこうなった》などと厳しい批判が噴出している。

 第2次岸田政権は発足から1カ月もたたないが、内政も外交も「不可解な政策・報道」が立て続けに指摘されている。

 一連の岸田政権の対応をどうみるか。

政治ジャーナリストの安積明子氏は「岸田首相は政権基盤を固めるのに必死なあまり、行政全体が見えていないようだ。国際線予約停止でも、批判を受けて朝令暮改で撤回した。政策遂行での環境づくり(=根回し)ができていない。もともと、国民の人気は高くはないが、さらに行政運営で疑問符が付けば、『岸田政権では日本は危ない』と国民に飽きられるだろう」と語っている。

◆第2次岸田政権による主な「不可解な政策・報道」

 日本到着便予約停止と撤回 (産経新聞など、12月2日)

 中国念頭「日本版マグニツキー法」の見送り報道 (共同通信、11月16日)

 外国人労働者の在留期限をなくす方向で検討報道 (日経新聞、11月18日)

 「親中派」の林芳正外相起用と、訪中調整示唆 (BS朝日など、11月21日)

 住宅ローン減税の控除率の縮小を検討 (産経新聞、11月19日)

 金融所得課税の強化検討 (共同通信、11月18日)

 「炭素税」検討の方向 (日経新聞、11月20日)

【私の論評】岸田総理は国民を納得させよ、財務省・中国を納得させる政策をとれば、そっぽをむかれる(゚д゚)!

上の記事には掲載されていませんが、岸田内閣の不安は他にもあります。2021年度補正予算案で約22兆円の国債を発行することで、財政悪化を懸念する報道もありますが、岸田氏がこれを真に受けて東日本大震災時の菅内閣による復興増税のようにコロナ増税が実施されるのではという懸念です。

こうした懸念を抱かざるを得ないのにはそれなりの理由がありすま。それは明らかに財務省が岸田政権に強い影響力を与えているからです。実際、東日本大震災後、財務省には、ホップ(復興増税)、ステップ(消費増税第1弾)、ジャンプ(消費増税第2弾)という考えがあったようです。

野田佳彦氏

ポップは菅直人政権、ステップとジャンプは野田佳彦政権という財務省にとって「いいなり」ともいえる政権で実行されました。大規模自然災害への復興などは、古今東西増税で実施されたことは、それまで一度もありません。これは、本当です疑念を感じた方は調べてみてください。しかし、唯一の例となったのが、復興税です。

その後の安倍晋三政権おいては、既に決められたステップとジャンプが実行され、今後10年間は再増税しないとの意向も出されたものの、財務省は常時増税の機会を狙っているのは間違いないでしょう。

今の岸田文雄政権は、財務省の言いなりだった民主党の野田政権に似ています。野田政権については、かつての「みんなの党」の代表であった、渡辺喜美氏が興味深いことを語っています。これは、民主党政権の最後の、2012年の野田総理による衆院解散に関するものです。


この動画の7:30あたりのところから、渡辺氏が記者になぜこのタイミングでの解散になったのか、問われて以下のように話しています。
「これは、財務省の路線そのものなのであって、とにかく新政権で、予算編成をしたいと・・・。旧政権でつくった予算をグタグタにされるのは困るという財務省の路線が、そっくりそのまま、野田総理を動かしたというだけのことですね。 
党首会談をやったときに、もう自分は財務省に見放されているということを、はっきりと言っていました。その見放された総理が、最後まで財務省路線に乗っからざるをえないと、まあー、非常に情けない内閣ですね」。
後は、ご存知のように野田佳彦氏は財務省の意向を反映した自民党が提案した消費税増税を法定化して民主党政権が壊滅する道を突き進みました。これは、本当に理解に苦しみます。民主党は政権交代直前の選挙の公約では「民主党が政権の座についている間は増税しない」としていました。

岸田政権が野田政権になるかもしれない根拠は他にもあります。それは矢野康治財務次官が月刊「文芸春秋」11月号に書いた記事てす。このブロクでも以前指摘したように、矢野氏は、財政が危機であるとして「ワニの口」と称する一般会計収支の不均衡と債務残高の大きさだけを示したグラフでした。それだけを根拠に衆院選や自民党総裁選を巡る経済対策を巡る議論を「バラマキ合戦」と指摘。

このデータは、会社でいえば一部門の収支と、バランスシート(貸借対照表)の右側にある一部門の負債だけで、財政破綻を主張する全く筋違いというか、幼稚きまりないものでした。これと同じような主張をまともな企業の取締役会などで主張すれば「馬鹿」といわれるくらいのレベルです。矢野氏は会計を全く理解していません。

BSで財務を語れない幼稚な矢野次官

今回の補正予算でもグロス負債(正味債務残高)だけしか見ていないと、国債22兆円増が単なる借金としかみられなくなります。

これに比較すると、安倍・菅義偉政権で行った累次の補正予算では国債100兆円増ですが、それらはほぼ全て日銀が最終的には購入したので、政府と日銀を含む連結されたバランスシートでは負債100兆円増ですが、資産も100兆円増となり、ネット負債は増加していません。このため財政悪化にはならずに、増税という対策も不要でした。

あのタイミングで愚かな危機を煽った矢野氏は本来ならば、更迭されてしかるべきです。安倍・菅政権下で矢野氏があのようなことをすれば、更迭されていたことでしょう。しかし、岸総理は、「いろんな議論があっていい」と言及し矢野次官の処分は「全く考えていません」と明言しました。

これでは、岸田内角は野田内閣の復興税と同じように、コロナ復興税を推進する可能性は否定できません。

もう一つの心配としては、岸田政権が中国にとって都合の良い政権になることです。これは、上の記事でも一部指摘されています。

そもそも茂木さんが幹事長になって、林芳正さんが外務大臣という人事を岸田総理は実行してしまいました。この二人は比較的中国に近いということで有名です。林氏は日中議連の会長です。

茂木幹事長
人事とは、人事権者の価値観を表すメッセージという側面もありますから、中国側は期待しているかもしれません。しかもそのメッセージは中国に対してだけではなく、全世界的に発信されることを考えると、西側に対して誤ったメッセージになりかねません。
通常はバランスをとって、一方で中国に近い人をつければ、片方は厳しい人を選ぶでしょう。そのため茂木氏が幹事長になったときに、外務大臣は例えば小野寺さんなどにするというのが王道なのでしょうが、岸田総理はそうしませんでした。

そこで、バランスを取るという意味あいでも、安倍晋三氏がマレーシア特使として、マレーシアを訪問した後で、台湾を訪問するということもありえます。特に、安倍氏は現在は、議員という立場ですから、十分あり得ます。

国民からすると、無論増税は反対でしょうし、中国に期待されるような政策には反対でしよう。国民の嫌がることをする政権の支持率は、下がることはあっても上がることはないです。

政権支持率が下がり続ければ、来年の参院選を戦えぬという声があがり、再度総裁選ということにもなりかねません。

そんなことにならないためにも、岸田総理はまともな経済政策、対中政策を実施して国民を納得させるべきです。財務省や中国が納得するような政策をとれば、党内はもとより多くの国民から糾弾されることになります。

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2021年12月2日木曜日

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ウイグル弾圧、習主席らの関与示す「新疆文書」が流出


習近平と李克強

習近平国家主席をはじめとする中国の指導者たちが、同国の少数民族ウイグル族の弾圧に関与していることを示す文書の写しが、このほど新たに公表された。

 この文書は、ウイグル族に対する人権侵害を調べているイギリスの独立民衆法廷「ウイグル法廷」に9月に提出されたもの。これまで一部が明らかになっていたが、今回のリークで今まで確認されていなかった情報が表面化した。 複数のアナリストは、この文書の中に中国政府高官がウイグル族の大量収容や強制労働につながる措置を求めたことを証明する発言記録が含まれていると指摘する。

 中国はウイグル族に対するジェノサイド(集団虐殺)を一貫して否定している。 ウイグル法廷はウイグル問題が専門の学者3人、エイドリアン・ゼンツ博士、デイヴィッド・トビン博士、ジェイムズ・ルワード博士に対し、文書が本物であるか確認するよう依頼した。

このニュースの詳細は以下のリンクからご覧になってください。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6b116ad23fcbd15ecab628287747bb20d7e39937

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この記事を見たときに、最初に「新疆文書」という文言が目に入り、7月ごろの出来事を思いまだしました。

それは、何かというと、バイデン米政権は7月13日、産業界に対し、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害に関与しないよう警告する文書を発表したという報道です。この文書のことを一部の報道機関は、「新疆文書」と報じていました。以下にこれに関する動画を掲載します。


米政府の諮問機関は文書で、ウイグルのサプライチェーン(供給網)に関わると「米国の法律に違反する高いリスク」を伴うと指摘しました。人権侵害に加担した企業だけでなく、融資した金融機関も制裁対象になり得ると強調しました。

ウイグル供給網を関係省庁横断で調査する諮問機関はバイデン政権で初めて警告文書を発表し、「中国はジェノサイド(集団虐殺)と人道に対する罪を犯している」と明記。問題のある中国企業との直接取引に加え、製造段階での強制労働や、民族監視に使われるIT機器の提供など「間接的な取引」を含めて即時停止を求めた。対中投資や金融支援を制限する措置を「厳しく適用する」としました。

今回のBBCによる「新疆文書」はこれとは違い、習近平国家主席をはじめとする中国の指導者たちが、同国の少数民族ウイグル族の弾圧に関与していることを示す文書の写しです。

しかし、今回の「新疆文書」はバイデン政権のそれのうち、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害に関して明確にその事実があることと、それに習近平など中国の指導者が絡んでいることまで明らかにするもののようです。

現在その真偽が明らかにされようとしているそうですが、はやくして欲しいものです。

米国は、従来から中国の人権侵害を非難してきましたが、米国の情報収集能力はかなり高いですから、故なく中国を批判することはないでしょうに、それに対して中国はことごとく反論してきました。

しかし、今回の「新疆文書」のような証拠がこれからも次から次へと表に出てきて、中国は言い訳をすればするほど国際社会から非難され続けることになるでしょう。中国がいつまでも人権侵害をやめなければ、世界は中国を経済的にも政治的にも遮断して、中国は孤立することになるでしょう。

その中国を日本は二度も救っています。

ベルリンの壁が崩壊した後、東側諸国が次々とソ連の軛から解かれ、ソ連共産党の一党独裁が終焉を迎えてから今年で30年たちました。

天安門事件を引き金として中国共産党による一党独裁体制が崩れていたとしても、何の不思議もなかったはずです。ところが、そのような瀕死の状態であった中国共産党を救ったのが、日本でした。当時の日本政府は、天皇陛下に中国を訪問していただき、さらに世界に先駆けて、経済支援を再開しました。

天皇皇后両陛下(現上皇皇后陛下)の中国訪問を伝える中国の雑誌の日本語版

この日本の経済支援をきっかけにして、米国やEUなどの国々も支援を再開し始めました。このときは、中国共産党を崩壊させるのにはまたとない好機だった思いますが、日本はそのチャンスを自ら棒に振るどころか、中国共産党を支援したのです。

これは、このブログにも以前掲載しましたが、日本は戦時中も中国共産党を救っています。

1994年に中央文献出版社&世界知識出版社から出版された『毛沢東外交文選』によれば、
毛沢東は1960年6月21日に日本の左派文学者・野間宏らに会った時、日本の皇軍に感謝する話をしました(省略)。


1964年7月10日に、日本の社会党の佐々木らと会った時も、佐々木が謝罪するので「謝罪などする必要はありませんよ。もし日本の皇軍が中国の大半を占領していなかったら、われわれは政権を奪取することはできませんでした」「皇軍が来たからこそ、われわれは国共合作をすることができて、だからこそ2万5千まで減っていた(中共の)軍隊は、8年間の抗日戦争の間に、なんと120万人の軍隊に発展することができたのです。皇軍に感謝しないでいいと思いますか?」などと回答しています。

1972年に日本の首相・田中角栄がやって来たときにも、毛沢東は「日本が中共を助けてくれたことを感謝します。もし抗日戦争がなかったら、中共は政権を掌握することはできませんでした」と語っています。


中国を訪問した田中角栄(右)と毛沢東(左)

日本が、中国の満州等に軍隊を派遣する真の目的は、当時のソ連と対峙するためでした。中国の国民党軍と戦ったのは、本来はこの目的を完遂するためでした。ところが、日本軍は本来の目的を忘れ、国民党軍との戦いを本格化し、泥沼にはまり込んでしまいました。

国民党軍との戦いなどは、ほどほどにしておき、ソ連との対峙に主に専念していれば、当時の国際社会も日本を理解したかもしません。日本は、ソ連の防波堤としての評価を受けたかもしれません。しかし、中国大陸の広い地域に戦線を拡大して、結局中国共産党に塩を送ったのです。

さて、現在に話を戻すと、新型コロナウイルスによって世界は一変したのですが、中国・武漢で最初の感染爆発が起きた際、中国共産党当局による情報隠蔽が、パンデミックの引き金になったことを忘れるべきではありません。

さらに中国共産党は、すべての個人情報を国家が管理し、自由を求める人たちを「危険人物」として容赦なく監獄や収容所にぶち込み、チベットやウイグルでの弾圧が、香港でも公然と行われ一国二制度を自ら潰したにもかかわらず、現実から日本政府も国会も目を背けているようです。岸田政権になってから、その傾向がさらに強くなったようにみえます。

昨日も述べたように、台湾侵攻を諦めざるをおえない中国共産党は西側諸国の「反中同盟」を切り崩そうと日本を懐柔しようとしています。手始めが、習近平国家主席の国賓来日実現です。これが実現すれば、日本はまた過去の二度の過ちを繰り返すことになります。ただ、過去とは違い、国際社会は日本のこの動き同調することはないでしょう。日本は中国とともに世界から孤立する道を選ぶことになりかねません。これを未だ林外務大臣ははっきりと否定していません。

日本は、瀕死の中国共産党を2度助けました。3度目は、絶対にあってはならないです。いまはなりを潜めているようですが、今後習近平来日に賛成する政治家や官僚が、識者、マスコミ関係者等がいれば、それはまさしく「国賊」以外の何者でもありません。

私自身としては、台湾有事などよりも、こちらのほうが余程心配です。

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2021年12月1日水曜日

安倍元首相、台湾のTPP参加を支持 中国へは自制ある行動呼び掛け―【私の論評】中国が台湾に侵攻すると考える人は、兵站のことを考えていない(゚д゚)!

安倍元首相、台湾のTPP参加を支持 中国へは自制ある行動呼び掛け

安倍元総理

(台北中央社)安倍晋三元首相は1日、台北市内で開催されたフォーラムにリモートで登壇し、「台湾のTPP(環太平洋経済連携協定)参加を支持します」と語った。中国との関係については「習近平主席と中国共産党のリーダーたちに、繰り返し、誤った道に踏み込むなと訴え続ける必要がある」との認識を示した。

フォーラムは台湾の民間研究機関、国策研究院文教基金会が主催。安倍氏は「新時代の台日関係」と題した講演を行った。台北の会場には鄭文燦(ていぶんさん)桃園市長や林智堅(りんちけん)新竹市長などが出席した。

安倍氏は「日本と台湾がこれから直面する環境は、緊張をはらんだものとなる」と指摘。「自由で開かれた、民主主義の枠組みに、自分たちをしっかりと結び付ける努力を続けることが肝心」との考えを示した。

TPPの参加については、「台湾には参加資格が十二分に備わっている」と強調。「WHO(世界保健機関)のオブザーバー資格など、可能な分野からふさわしい発言権を手にしていくべき」とした上で、「実現に向け、支援を惜しまぬつもり」と述べた。

一方で中国との関係については「自由と民主主義、人権、法の支配という普遍的価値の旗を高く掲げて世界中の人から見えるよう、その旗をはためかせる必要がある」と語った。

また台湾の有事は日本の有事だとし、「日米同盟の有事でもある」と主張。中国に対して「自国の国益を第一に考えるなら、両岸(台湾と中国)関係には、平和しかないということを、繰り返し説いていかねばならない」とした。

安倍氏は、「普遍的価値を重視する私たちにとって台湾こそはキーストーンである」と強調。「まずはWHOへの参加など、台湾の国際的地位を、一歩一歩、向上させるお手伝いをしたい」と述べ、「自由で、人々に人権を保障する台湾は、日本の利益」とし、「世界全体の利益でもある」と語気を強めた。


【私の論評】中国が台湾に侵攻すると考える人は、兵站のことを考えていない(゚д゚)!

安倍総理は、中国に対して以下のような警告もしていました。

「軍事的冒険は経済的自殺への道でもある」と述べ、「中国が台湾に侵攻した場合、世界経済に重大な影響を及ぼし中国が深手を負うことになる」とも指摘したのです。

これについては、このブログで何度か述べてきたようなことを意味しているものと思います。そうです、中国の台湾侵攻は軍事力的にいって無理なのです。侵攻すれば、中国海軍は崩壊し、地上部隊は補給がされなくなりお手上げ状況になるだけです。そうして、大きな損害を蒙るだけではなく、諸外国から経済的にも政治的にも切り離されことになります。

中国側にはおびただしい数の死傷者がでることになります。無論、台湾側にもそれなりの犠牲者がでるでしょうが、それにしても中国側と比較すれば、かなり少ないでしょう。特に中国海軍の犠牲はおびただしいでしょう。

中国海軍は、日米英などの海軍から比較すれば、海戦能力に著しく劣りますが、それでもある程度の時間をかけて養成してきたものが、灰燼に帰し、再建するには途方もない時間と経費を必要とすることになるでしょう。

軍事アナリストの小川和久氏も、中国による台湾侵攻は無理であると断じています。その根拠については、以下のように述べています。
 台湾有事論の高まりを前に、1970年代後半の北方脅威論の時代を思い出している。

 激しさを増す米ソ冷戦のさなか、日本国内では何十個師団ものソ連軍が北海道に上陸侵攻してくるとの危機感が高まり、マスコミでもそれをあおるような報道が相次いだ。

 しかし、現実には海上輸送能力の限界から、北海道に投入できるのは3個自動車化狙撃師団(機械化歩兵師団)、1個空挺(くうてい)師団、1個海軍歩兵旅団、1個空中機動旅団にすぎず、全滅を覚悟しない限り、作戦が発動される可能性はなかった。

 意外かもしれないが、そういう角度から軍事を科学的にとらえることを教えてくれたのは、1等陸佐になったばかりのころの、防衛大学校1期生たちだった。

 つまるところ、このときの騒ぎはワシントン発、そして永田町発の政治的な北方脅威論にすぎなかった。空騒ぎからさめたあと、国民の防衛意識が高まるには長い年月を必要とした。今回の台湾有事論の高まりには同じ側面がある。

当時のソ連軍と同じような輸送力の限界は現代の中国にもあります。 これについては、以前このブログでも述べました。その記事から引用します。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻するのは無理ということになります。輸送力に欠ける中国は、戦力を小出しにせざるを得なく、台湾に兵を送れば、小出しの兵力ではすぐに台湾軍に撃破されてしまいます。

いくら、中国軍が相対的に巨大であるからといって、小出しにしか兵を送れないなら、台湾軍のほうが数的にも圧倒的に有利になり、個別撃破されるだけになります。

しかも、米国は当然のことながら、台湾を攻撃型原潜で包囲するでしょうから、そうなるとただでさえ少ない輸送力が、さらに破壊され小さくなってしまいます。これでは、十分な人員も武器弾薬も送れず、小出しに展開した兵は、逐次台湾軍に個別撃破されることになります。

それに潜水艦で包囲されてしまえば、中国側はこの包囲網を破ることはできません。それでも、強行突破しようとすれば、多くの艦艇は海の藻屑と消えることになります。

以上に関して、詳細については下の【関連記事】のところに、リンクを掲載しておきますので、そちらをご覧になってください。

戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っています。

マーチン・ファン・クレフェルト

実は第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったのです。極限すれば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきました。そう同著は伝えています。

エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎません。

現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行きません。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちているのです。

史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘しています。

そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にします。

米陸軍の「寒冷地用」戦闘糧食 

中国は何のために、台湾に侵攻するかといえば、台湾を中国に併合して、台湾を中国の省とするか、対岸の福建省に組み入れることです。台湾を中国の一部として、統治するのが目的です。

台湾を破壊するだけでは意味がないのです。破壊するだけなら、艦艇や航空機を派遣して、攻撃して引き上げれば良いだけです。あるいは、中国本土からミサイルを撃ちまくれば良いです。破壊が足りなければ、何度でも繰り返せば良いだけです。最も簡単な方法は、核ミサイルを数発打ち込めば良いです。しかし、それでは統治はできません。

しかも台湾人は中国に統治されることを拒否していますし、さらには、優れた対艦ミサイルも備えた軍隊を有しています。その他様々な兵器も有しています。このような軍隊に対して、小出しの展開しかできなければ、負けるに決まっています。

中国が勝つと考える人は、兵站のこと、特に陸続きではない海洋を隔てた戦闘地域に対するそれが頭にないのではないかと思います。兵站に考えがいたらない人は、軍事を語るべきではありません。

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