2022年1月22日土曜日

台湾の非対称戦力構築を後押しする法案 米議員が提出―【私の論評】米国は「台湾反浸透法」を成立させ、中国の不当な浸透があった場合には制裁を課せ(゚д゚)!

台湾の非対称戦力構築を後押しする法案 米議員が提出


マイク・ギャラガー米下院議員(共和党)は21日、台湾の非対称戦力構築の加速化などを促す「武装台湾法案」を提出した。

法案では、米国防長官に対し「台湾安全支援イニシアチブ」を策定することや、イニシアチブの遂行に向け2023~27会計年度に毎年30億米ドル(約3410億円)を拠出することを求める。台湾の非対称戦力の構築を加速させるとともに、中国の台湾侵攻を遅らせたり阻止したりする目的で、台湾への武器供与や訓練などに使われる。

ギャラガー氏は、同日付のリリースで、「アフガニスタンやウクライナ、イランで露呈したバイデン政権の弱腰ぶりを見て中国は侵略的になる一方だ」と指摘。その上で「議会は、手遅れになる前に抑止力を取り戻すための行動を起こす必要がある」と訴えた。

上院では昨年11月、同じく共和党のジョシュ・ホーリー議員も同様の法案を提出していた。

【私の論評】米国は「台湾反浸透法」を成立させ、中国の不当な浸透があった場合には制裁を課せ(゚д゚)!

台湾海峡の軍事バランスは急速に悪化しています。その結果、中国が2020年代後半までに台湾に侵攻し、その支配権を握ることができる、あるいは実際にできると結論づける懸念が高まっています。

わたし自身は、この説に与するものではありません。このブログでは、現在すぐに中国が台湾を武力侵攻する可能性は低いことを、根拠を指し示してこのブログで何度か掲載しています。

その根拠とは、中国軍の海上輸送力が貧弱であり、台湾を制圧するだけの兵力を一度で台湾に上陸させることができないということです。それでも、無理に台湾を併合しようとして、兵員を送り込めばどういうことなるかといえば、何回かにわけて兵力を送り込むことになり、一度に送り出せる兵力には限りがあり、それは台湾軍に個別撃破されることになってしまいます。

こうした「戦力の逐次投入」で日本もかつて大東亜戦争で失敗しています。現在の中国が台湾に武力で侵攻しようとした場合、こうした失敗を繰り返すことになります。

それに、中国が台湾に本当に武力侵攻した場合、米国は黙っていないでしょう。中国軍は米軍の応援にも対処しなければならなくなります。

中国の海上輸送力が向上するまでは、中国は台湾に武力侵攻できないという結論になります。これは、単純な計算で導き出すことができます。

ただ、このブログでは、それでも台湾が中国に併合される可能性があることを指摘しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策―【私の論評】中国は台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!


 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。
蔡英文総統の民主進歩党が政権の座についてから、台湾では中国の影響力はかなり低下しました。ただ、中国は台湾に対して浸透工作をこれからも強めるでしょう。それだけではなく、さらに中国は台湾を国際的に孤立させたり威信を低下させる挙にでるでしょう。経済的に不利益を被るように仕掛けるでしょう。

この浸透工作、台湾の国際的地位低下工作によって、台湾に親中政権ができたとしたら、どうなるでしょうか。しかも、その親中政権が中国の傀儡政権に近いものだった場合どうなるでしょう。

中国はある程度時間をかけて、少しずつ中国に人民解放軍を上陸させるでしょう。場合によっては、目立たないように、民間人を装って入国させるかもしれません。仮に30万人以上も上陸させてしまったとしたら、時すでに遅しです。台湾は事実上、中国領になってしまいます。それも、合法的にそうなるのです。

そうして、いずれ台湾は正式に中国の省になるか、あるいは対岸の福建省に取り込まれてしまうでしょう。

これを取り戻すには、米軍にとっても大変なことです。傀儡政権が出来上ってから、米国がこれに対応すれば、ベトナム戦争のように泥沼化する可能性もあります。

そうなる前に、対処すべきです。そのためには、今から「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきです。
現在台湾の蔡英文総統の率いる民主進歩党は、親中的でないですから、中国に与するようなことはしませんが、台湾政府が未来永劫、親中的にならないとはいえないです。さらには、政府が親中的ではないにしても、軍隊や産業界等が中国の工作にあって、親中的になる可能性は十分にあります。

そうなれば、上で示したように、中国が台湾にこっそりと、軍隊を送り込むということはありえます。そうなると、一度に軍隊を送る必要はなく、何度にも分けるとか、方法も空路、海路をもちいて複数の方法でできます。

あるいは、台湾に在住する中国出身者や、中国に親和性を持つ台湾人を中国側に導いた上で、密かに軍事訓練などをするという方法で、目立たない形で、台湾内に人民解放軍を組織するということもできるでしょう。

しかも、中国が得意なサラミ戦術で、毎年すこしずつ、何十年もかけてこのようなことをすれば、南シナ海で成功したように、台湾でも成功するかもしれません。

そうなれば、台湾は内部から崩壊して、中国の配下に収まるしかなくなります。こうした可能性は十分にあります。

こういうことをなくすためにも、米国は「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきと私は主張しているわけです。

中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏も、習近平がすぐにも台湾に侵攻することはないと主張しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

中国が崩壊するとすれば「戦争」、だから台湾武力攻撃はしない

遠藤氏は、"習近平は台湾の「武力統一」はしないつもりで、2035年まで待って台湾経済界を絡め取って「平和統一」に持って行くつもりだ"としています。

さらに、"2030年頃には、中国のGDPがアメリカを凌駕していて、2035年頃には少なくとも東アジア地域における米軍の軍事力は中国に勝てなくなっているだろう。だから2035年まで待つ。これが習近平の長期戦略だ"ともしています。

そうして、最後に以下のように締めくくっています。

"以上より、「中国は勝てない戦争は絶対にしない」と言うことができ、もし逆に中国共産党の一党支配体制を崩壊させたいのなら、「アメリカや台湾の方から中国に戦争を今すぐにでも仕掛けるといい」という、何とも皮肉な現実が厳然と横たわっている。

習近平にとって、何よりも重要なのは中国共産党による一党支配体制の維持なので、中国自らが率先して台湾を武力攻撃することはない。

これを勘違いすると、日本は「政冷経熱」を正当化して、経済における日中交流、日中友好ならば「安全だ」と勘違いし、その結果、習近平の思う壺にはまっていくという危険性を孕んでいる。"


私自身としては、現状の不動産バブル崩壊の深刻さやこのブログでも述べているように中国が中進国の罠にかかる可能性からみると、2030年頃に中国のGDPが米国を凌駕することはないとみていますし、2035年まで待って台湾経済界を絡め取って「平和統一」に持ってくことも難しいのではないかと思います。

ただ、"日本は「政冷経熱」を正当化して、経済における日中交流、日中友好ならば「安全だ」と勘違いし、その結果、習近平の思う壺にはまっていくという危険性を孕んでいる"というところは、私も同感です。

特に、経済界は、台湾政府が親中的になっても、大陸中国の国内産業の締め付けなどをみていれば、全部が親中的にはならないというか、なれないのではないかと思います。

そうすると、やはり上で述べたような、人民解放軍および武器を逐次台湾に上陸させるか、台湾人の親中国的な人々を人民解放軍に引き入れて、30万人以上も兵力を確保できる目処がたったときに、クーデター等にみせかけて、一気に制圧し、台湾を絡めとるのではないかと思います。

こういうことを考えると、台湾の非対称戦力構築の加速化も必要ですが、それ以外にも何らかの措置を講じておく必要があると思います。

そもそも、中国が台湾に対して何か非合法な動きすれば、それを封じる仕組みなどの構築が必要だと思います。

台湾の議会は2019年12月31日、中国から政治的影響が及ぶことを阻止するための「反浸透法案」を可決しました。

台北市内の立法院で、「反浸透法案」に反対し、本会議場で座り込む国民党の立法委員ら

国民党は、他国による浸透から台湾を守る対策は後押しするものの、民進党が支持率拡大のために法案可決を急いでおり、民主制度を脅かしていると非難。国民党の議員数人は採決中に抗議として議長壇の前で座り込みました。議会の外で抗議活動する親中派政党の支持者もいました。

法案は、中国による工作に対抗する数年来の努力の一環によるものです。台湾では、中国が政治家への不法献金やメディア、その他の不正手段で、台湾の政治や民主制度に影響を及ぼそうとしているとの見方が多いです。

反浸透法は、中国によるロビー活動や選挙運動などを含む資金提供を法的に防止する手段となります。違反した場合は最大7年間の服役が科されます。


米国はウイグル人権法の他、ウイグル輸入禁止法も成立させています。中国はこれを内政干渉として批判しています。このような法律を成立させたのですから、米国でも、「台湾反浸透法」を成立させて、台湾への中国の不当な浸透があった場合には、制裁を課すなどの措置をすべきでしょう。中国が台湾に人民解放軍を合法的にみせかけて送り込む等の挙に出た場合は、一定数以上の米軍を台湾に派遣する等の旨をはっきりさせるべきでしょう。

無論、これはバイデン大統領が主張するように、中国による現状変更を一切許さないという前提で行うべきでしょう。

そうして、ほかならぬ日本は台湾を見習い「反浸透法」を成立させるべきです。日本こそ、そのような法律が必要と思います。岸田政権には逆立ちしても、無理でしょうから、次の政権に期待したいところです。

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2022年1月21日金曜日

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仏下院「対中非難」採択…「ウイグル弾圧はジェノサイドに相当する」と明記 情けない日本の決議案


フランス下院(定数577)は20日、中国が新疆ウイグル自治区でジェノサイド(民族大量虐殺)を犯していると非難する決議を採択した。北京冬季五輪の開幕を前に、決議は少数民族ウイグル族に対するジェノサイドを政府が公式に認定し、非難するよう求めた。

決議は、新疆ウイグル自治区では強制労働が行われ、拷問、性的虐待についても証言があると指摘した。強制不妊政策でウイグル族の人口が抑制され、子供の連れ去りも横行していると批判。中国には「ウイグル族全体、またはその一部を抹殺しようとする意図がある」とし、ジェノサイドに相当すると明記した。

日本も2月1日に国会決議を採択する方向で調整しているが、決議案は自公間での修正協議で「人権侵害」が「人権状況」に変わり、「非難決議案」から「非難」の文字が削除され、「中国」という国名もない情けないものになっている。

【私の論評】「日米中正三角形」にさらに「楕円の理論」で磨きをかけようとする林外相は、ただ口が軽いだけ?(゚д゚)!

昨日もこのブログで述べたとおり、欧州の中国に対する見方は近年厳しくなる一方です。

昨日のブログでも述べたように、フランスのルドリアン外相とインドネシアのルトノ外相は昨年11月24日、インドネシアの首都ジャカルタで会談し、両国の防衛協力の強化に向け22年に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を始めることで合意しました。フランスは22年上半期にEU議長国として「インド太平洋地域との関係強化が優先事項になる」(ルドリアン氏)との立場も表明しました。フランス下院は昨年11月29日、世界保健機関(WHO)など国際機関への台湾の参加を支持する決議を採択しました。

フランスのルドリアン外相

そうして、上の記事にもあるように、20日仏下院「対中非難」を採択したのです。

フランスだけをみていても、このように中国に対してはどんどん厳しくなっています。他の国々も例外ではありません。

欧州というと、わずか数年前では、現在の日本の岸田政権のように中国に配慮する国が多かったと記憶しています。

特に2020年欧州における対中認識、姿勢の変化は、中国の行動に起因しています。トランプ政権が、EU自体を含む欧州の重視する国際枠組みに軒並み対決姿勢を示したことは、中国にとっては欧州・中国関係を改善する絶好の機会だったはずですが、中国それを完全に棒に振りました。

米欧対立の深まる4年間を経て、より多くの欧州人が中国を「体制上のライバル」とみなすようになったことは、衝撃的です。しかもそれは、トランプ政権による説得の結果ではありません。

香港における法の支配への挑戦をはじめとする中国自身の強硬な行動や不器用な外交の結果です。新疆ウイグル自治区における少数民族に対する迫害への関心も欧州で上昇しています。また、新型コロナウイルス感染症の発祥地などに関する強硬な「戦狼外交」やディスインフォメーション(偽情報の意図的な流布)は、完全に逆効果に終わりました。

欧州連合(EU)の欧州議会は20日、香港での人権状況の悪化を理由に、EUや加盟国に対し、北京冬季五輪へ外交団を派遣しないよう求める決議を採択しました。欧州議会は昨年7月にも、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害を理由に、北京五輪の外交ボイコットを求める決議を採択しています。

欧州議会は決議で、中国政府が選挙制度を変更し、民主派勢力の排除を進めたことや、メディア関係者など反体制派の逮捕が相次いでいる点を指摘し、「表現や報道の自由の厳しい制限など、香港での人権の悪化を最も強い言葉で非難する」としました。EUや加盟国による北京五輪の「外交的ボイコット」や、人権侵害に関わる中国・香港の当局者、関係企業に対する制裁措置を求めました。決議に拘束力はありません。

同時に欧州議会は、香港の人権状況を非難し、政府トップの林鄭月娥行政長官を含む複数の高官に対して、渡航制限や資金凍結などの制裁を科すよう加盟国などに求める決議を賛成多数で採択しました。決議に法的拘束力はなく、実現の見通しも不透明ですが、EUと中国の関係はさらに悪化しそうです。

結局香港に対する中国の振る舞いほど、欧州人を激怒させたものはないようです。香港問題がなければ、まだ中国に配慮する欧州人もいたかもしれません。しかし、これが決定的に欧州人の中国に対する見方をかえさせたようです。

香港

習近平国家主席が、中国は多国間協力におけるパートナーだと売り込んでも、香港問題以降信じる欧州人はほとんどいません。EUのボレル外相(外交安全保障上級代表)は、中国の姿勢は「自らの好きな部分だけの選択的多国間主義であり、それは国際秩序に関する異なる理解に依拠している」と述べています。

60年までのカーボンニュートラルの目標や、新型コロナのワクチンを共同購入する国際的枠組みであるCOVAX(コバックス)への参加は、外交上も得点を稼ぐものですが、欧州における中国に対する懐疑的見方は根強いです。

他方で、米新政権の下、欧州での対米イメージは大きく改善するでしょう。バイデン氏は、対中政策に関しても欧州と協力するとみられます。世界貿易機関(WTO)の活用や、気候変動に関するパリ協定や世界保健機関(WHO)への復帰も含まれます。そうした中で、気候変動に関する中国の目標達成やワクチンを外交ツールとして使わないことを監視できます。

ドイツも欧州も、米国の進める中国との「デカップリング(分断)」には反対してきました。それでも、ドイツでは、経済関係を多角化することで、中国への依存度を軽減し、リバランスをはかる必要があるとの意識が広がっています。

20年9月にドイツ政府が発表した「インド太平洋指針」の背景にも、効果的な中国政策を展開するには、中国以外の諸国との協力が不可欠だとの認識が存在しています。価値を共有する諸国と経済・政治関係を強化することも、その一環です。

1997年、香港がイギリスから中国に返還されて以来、一つの国に二つの政治制度、しかも資本主義と一党独裁社会主義が並立するという世界史初の壮大な実験は、2021年に失敗に終わりました。

2021年3月11日、中国人民代表大会(全人代)が香港の民主化に歯止めをかける選挙制度改変を決めました。賛成2895票、反対0、棄権1という、習近平体制の一枚岩を誇示する採決結果でした。

その後、全人代常務委員会などで詳細が詰められ、香港の議会にあたる立法会で条例が改められることになったのです。

改変の目的は、国家安全維持法などで一度でも罪に問われた人は「愛国者ではない」と新設の委員会から認定され、香港議会に立候補すらできないという仕組みの確立でした。香港の自治や北京中央政府に対する「異論」はすべて封じられることになりました。

これは、契約や国際法なども重んじる欧州人からみれば、法の支配へのあからさまな挑戦であり、挑戦言語道断の措置であり、欧州人のほとんどは、中国は全く信用ならないという観念を植え付け、固定化させたといえます。そうして、それは、当然のことながら、議会の立法や政府の政策にも反映されます。

だから、欧州が中国に対して厳しくなるのは当然なのです。

同じことをみても、なお中国に配慮しようとする愚かな人たちがいます。それが岸田政権です。無論政権のなかには、岸防衛大臣含め、そうではない人もいるのですが、首相、外務大臣、幹事長がそういう人たちなのですから、目もあてられません。

林芳正外相は13日、日本記者クラブで会見した。外交方針について、所属する派閥・宏池会(岸田派)の先輩、大平正芳・元首相が唱えた「楕円(だえん)の理論」を引き合いに、「なんとかひとつの楕円にする努力をやらなければならない」と語っています。米中による覇権争いのなか、日本としてバランスをとる重要性を強調しました。

大平元首相は、調和を探る「楕円の理論」を説きました。林氏は「外交はほとんどの場合、相矛盾するような課題が出てくる」と述べた上で、「大平総理は、両立の難しいことを二つの円にたとえ、一つの楕円にする努力というものをやらなければならない、と。好きな言葉だが、外務省に来て、言葉の重みをかみしめている」と語りました。

大平元首相

一昨日は、このブログで、「日米中正三角形」論について述べましたが、「楕円の理論」でさらに、日中友好に磨きをかけたようです。これを、現状に当てはめれば、2つの円が「米国と中国」を指すのは明らかです。楕円にするとは「米国と中国の対立をなんとか丸く収める」という意味でしょう。そのために、林氏は暗に「日本が仲介努力をする」と語ったともいえます。

この林外務大臣は13日の日本記者クラブ主催の記者会見で「秋の中国共産党大会で、おそらく習近平総書記の3期目の続投が決まる」と述べています。昨年11月には中国共産党第19期中央委員会第6回総会が習氏の功績を称(たた)える決議を採択して習氏の3期目突入が確実となっており、こうした情勢を踏まえた発言とみられます。

ただ、外務大臣という立場で、このような発言をするのは、他国の内政に干渉することになります。まだ習近平総書記長の続投が決まっていないわけで、これでは口が軽すぎると言わざるを得ません。これは、辞任に発展してもおかしくない案件だと思います。

林外大臣は、着任そうそうテレビ番組の中で、「中国から招待を受けた」旨を公表しています。これは、外交儀礼上あり得ない行為です。

林外務大臣は口が軽すぎです。この有様では、今後日本は外交上で大きな不利益を被ることになりかねません。岸田首相とバイデン米大統領は日本時間21日夜、初めてオンライン形式で会談することになっていますが、オンラインでの会談は異例ですし、それに会談の予定が決まるまでにかなりの時間を要しました。これには、林外務大臣の口が災いしている可能性が大きいです。

林外務大臣はこれからも、軽口を叩く可能性が大きいです。もう一度重大案件で軽口を叩けば、岸田首相は林外務大臣を辞任させるべきでしょう。

そうして、それを皮切りに、安倍・菅政権の路線を継承し、両政権でなしえなかった懸案事項などを成し遂げ、その後に岸田カラーを出しても遅くはないです。このくらいの大きな転換をしないと、岸田政権は短命で終わると思います。しかし、現状の岸田内閣をみていると、岸田暫定内閣で終わった方が、岸田氏にとっても自民党にとっても有権者にとっても良いようも思います。

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2022年1月20日木曜日

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欧州議会の議員41名がEUに中国の脅迫に抵抗するリトアニア支持呼びかけ、外交部が感謝 


フォーカス台湾 日本語版

「対中政策に関する列国議会連盟(Inter-Parliamentary Alliance on China, IPAC)」のMiriam Lexmann共同代表による発起で、欧州議会の議員41名が17日、欧州理事会のシャルル・ミシェル(Charles Michel)議長、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長、ジョセップ・ボレル(Josep Borrell)副委員長兼外務・安全保障政策上級代表、ヴァルディス・ドムブロフスキス(Valdis Dombrovskis)執行副委員長兼通商担当、ティエリー・ブルトン(Thierry Breton)委員(域内市場担当)に連名書簡を送り、中華人民共和国のリトアニアに対する政治・経済面での脅迫を非難、欧州連合(EU)の指導者がリトアニアを明確に支持し、全ての必要なサポートを提供することを求めた。

中華民国外交部(日本の外務省に相当)はこれを受けて19日にプレスリリースを発表した。以下、内容の要約。

★★★★★

欧州議会の議員たちが再び党派を超えて、中国の圧力に抵抗するリトアニアにエールを送ったことに対し、中華民国外交部は心からの謝意を表明する。欧州議会の議員たちは昨年9月3日にもリトアニア政府上層部に宛てた連名書簡でリトアニア支持と中国の「脅迫外交」への反対を表明している。

この連名書簡で議員たちは、中国の政府関係者がリトアニア製及びリトアニアの原材料を含む製品に対して実際の制裁行動をとったことは極めて悪辣であり、これは世界貿易機関(WTO)のルールと国際貿易秩序に違反するのみならず、EUを単一の市場とする根本的な原則に直接背くものだと指摘している。書簡ではまた、中国のEU加盟国に対する脅迫行為は初めてのことではなく、チェコのミロシュ・ビストルチル(Miloš Vystrčil)上院議長が台湾を訪問したことで大きな圧力を受けたことやその他多くの事例が中国の不当な圧力を証明していると説明した。連署した議員たちは、EU加盟国は国家利益ならびに共有する民主・人権の価値に基づき台湾との関係発展を決定しているのであり、それによって他国から脅迫されるべきではないと主張。議員たちはまた、リトアニアと台湾が先ごろ代表処の相互設置を決めたことは「一つの中国」政策に挑戦するものではなく、それは欧州議会が昨年10月21日に可決した「EUと台湾の政治関係と協力(EU-Taiwan Political Relations and Cooperation)」のレポートで確認済みのことだと指摘した。

この連名書簡が欧州議会における五大主流会派、18の加盟国の大物議員の賛同を得ていることは、中国の横暴な圧力への抵抗はヨーロッパにおいて国籍や党派を超えたコンセンサスになっていることを示す。台湾はリトアニアと理念で結び付く友好的なパートナーとして、引き続き双方の実質的な連携を深めていく。我が国はEUをはじめとする理念の近い世界のパートナーたちに対し、具体的な行動でリトアニアを支持し、サプライチェーンの安全と自由で民主的な市場経済メカニズムを守り、一丸となって全世界の民主主義陣営の守る核心的な価値をより強固にしていくよう呼びかける。

【私の論評】米国、欧州の現状を把握できない、頭が30年前のままの岸田政権につける薬はない(゚д゚)!

リトアニアは昨年5月、中国と中・東欧17カ国間の首脳会議「17+1」を離脱。これを機に中国との関係が緊迫し始めました。その後、台湾への代表機関設置を発表。台湾も同7月20日、リトアニアへの代表機関設置を発表し、中国の反発を招きました。

中国は同8月、駐リトアニア大使の召還を決め、同11月に台湾の代表機関「駐リトアニア台湾代表処」がリトアニアの首都ビリニュスに設置されると、リトアニアの外交関係を「代理大使級」に格下げしました。

また、リトアニア製の商品が中国の通関で足止めするなど、経済的圧力を強めています。たとえばリトアニアのビールメーカー、ヴォルファスエンゲルマンは昨年秋、中国からの注文を全てキャンセルされました。

リトアニアのビールメーカー、ヴォルファスエンゲルマンのCEO、Marius Horbačauskas氏

一方で、昨年の台湾市場の販売量は前年比23倍に達し、急成長を遂げました。同社の責任者は中央社の取材に対し、「愛は相互的でなければならない」と話し、台湾からの愛がより多いのであれば「そこになぜ注力しないのか」と台湾市場に力を入れる姿勢を示しました。

このブログにも掲載したように、台湾煙酒は3日、中国の港で足止めされて行き場を失っていたリトアニア産のラム酒約2万400本を買い取ったと発表し、台湾の消費者に対し、リトアニアへの応援を呼び掛けるという出来事がありました。

これ以前にも、オーストラリア産ワインに不当廉売があったとして難癖をつけ、2021年から懲罰的な関税の上乗せを行っています。

何というか、中国はこのような姑息な真似をしていますが、このような行為はますます世界から反発を招いているようです。

米国は以前から、議会が超党派で中国に対しては厳しい態度をとるようになり、それに引っ張られる形でバイデン政権も厳しい態度をとっていることは昨日もこのブログで述べたばかりです。

欧州でも似たような動きがあります。昨年11月25~26日にオンライン形式で開いたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議で、EU首脳は自由や人権など基本的な価値を共有する民主主義の国と協力を深める方針を表明しました。一部の国は台湾との関係強化に動いており、中国も敏感になっています。

「多くのアジアのパートナーが我々の見方を共有しているのを知っている」。EUのミシェル大統領は同月25日、オンラインでの演説で普遍的な民主的権利や基本的な自由に基づいて協力を深めようと呼びかけました。インフラ支援での「透明性」やルールに基づく国際秩序の重視を訴え、名指しはしなかったものの、強権的な対応や従来のルールを軽視した動きが目立つ中国をけん制しました。

経済関係を柱に密接な関係を築いてきた中国と欧州の関係が揺らぎ始めたのは、中国の強権的な対応が目立ち始めてからです。香港では自治や表現の自由などが強く制限され、中国・新疆ウイグル自治区での人権問題が浮かび上がりました。

昨年3月には少数民族ウイグル族の不当な扱いが人権侵害に当たるとして約30年ぶりの対中制裁に踏み切りました。最早中国の振る舞いに目をそらして経済的な利益を追い求めるわけにはいかないのでしょう。

EUの欧州委員会が11月23日公表した報告書によりますと、2020年の中国によるEU企業のM&A(合併・買収)件数は前年に比べ63%落ち込みました。欧州委は新型コロナウイルス禍に加え、EUと加盟国が買収規制を強化したためとみています。


EU加盟国は東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどとの関係を深める方向に傾いています。フランスのルドリアン外相とインドネシアのルトノ外相は24日、インドネシアの首都ジャカルタで会談し、両国の防衛協力の強化に向け22年に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を始めることで合意しました。フランスは22年上半期にEU議長国として「インド太平洋地域との関係強化が優先事項になる」(ルドリアン氏)との立場も表明しました。

EUはインドとの自由貿易協定(FTA)交渉を年内にも再開したい一方、大筋合意した中国との投資協定案の批准手続きを事実上棚上げしました。加えて安全保障・経済両面から台湾との関係強化に動いています。ロイター通信によると、台湾高官は11月25日、チェコなど東欧3カ国と半導体での協力を検討していると明らかにしました。フランス下院は11月29日、世界保健機関(WHO)など国際機関への台湾の参加を支持する決議を採択しました。

欧州議会の議員41名がEUに中国の脅迫に抵抗するリトアニア支持呼びかけは、上記のような背景のもとに行われたものです。

今後、人権や自由を基調とし、自由に伴う責任を重視する欧州では、最早中国の振る舞いに目をそらして経済的な利益を追い求めることが許されることはないでしょう。中国共産党の無責任な自由を許容しないでしょう。

台湾は中国から一方的に攻撃を受けているわけではありません。半導体の分野では、反撃に転じつつあります。世界のファウンドリー(実際に半導体チップを生産する工場)業界では、TSMCが54%、韓国のサムスン電子が17%程度のシェアを持っています。

バイデン政権は、台湾当局や半導体ファウンドリー(受託製造企業)最大手であるTSMC(台湾積体電路製造)との関係強化に動き始めました。また、同政権は半導体製造機械と、半導体素材てはトップシェアである、わが国の半導体産業へも秋波を送っているといわれています。

半導体の確保に向けてバイデン政権が、ファウンドリー事業の強化に取り組む韓国のサムスン電子を無視して、台湾のTSMCを重視する背景には、北朝鮮などに関する文氏の政策への不安や中国との関係に疑念を抱いているからでしょう。

半導体設計に優れた米国が、半導体製造機械、半導体素材、半導体ファンドリーを押さえてしまえば、中国が現在の最高品質の半導体や次世代の半導体を使えなくすることができます。米国は、中国が人権侵害を継続たり、台湾や香港に対する態度を変えなかったり、WTO規約を今後も無視し続ける場合、中国に対する半導体禁輸に踏み切るでしょう。

現在では、ありとあらゆる機器、機械、車両などに半導体が用いられています。新しい半導体を内製できない中国が新しい、性能の良い半導体を手に入れることができなければ、中国の産業競争力は地に落ちることになります。岸田政権がそのときにも中国に配慮をみせるようなことをすれば、バイデンは日本を制裁対象にするかもしれません。

そうして、基軸通貨であるドルを自国通貨とし、米国は、実質的に世界金融を牛耳っています。軍事力でも、金融と半導体でも負ける中国は、どう考えても新冷戦に勝つことはできません。

そもそも、中国が米国に新冷戦に向かわせるように結果として仕向けたことが間違いです。仮に現在の中共の立場にたったとしても、中国にとって都合の良い世界秩序を樹立しようとするなら、現体制は維持しつつも後20年くらいは大人しくして日米や欧州に歩調をあわせるようにして、産業力、軍事力をつけ国力を増し、その後に世界秩序の改変に臨むべきでした。そうすれば、チャンスがあったかもしれません。しかし、現状ではもう手遅れです。

世界中が中国のその魂胆を見透かし、それにブレーキをかけようとしています。特に、中国のような暗黒社会になることを嫌がる西欧諸国や他の台湾を含めた民主国はそうです。

このような状況のなか、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権侵害行為を非難する国会決議について、自民党は2月1日にも採択する方向で各党と調整に入りました。決議は昨年、複数の超党派国会議員連盟が各党に働きかけたのですが、自民、公明両党が難色を示し、2度も採択が見送られました。北京冬季五輪(2月4日開幕)前に、意思表示できるのかどうかさえ疑わしいです。

自民幹部は19日、国会内で立憲民主党、日本維新の会の幹部らと面会し、決議案文を示したうえで採択の日程などについても協議しました。早期決議を求める声は与野党にあり、今国会の焦点の1つとなっています。

決議案は昨年末の自公間での修正協議で、当初案にあった「人権侵害」が「人権状況」に変わり、「非難決議案」から「非難」の2文字が削除されました。「中国」という国名もなく、対中非難としては不十分です。
このような状況の中、中国との関係を配慮する姿勢を見せ続ける岸田政権につける薬はないかもしれません。岸田首相や、主な閣僚、とりまきたちの頭の中は30年前のままなのでしょう。


30年前から変わっていないのは、日本人の賃金だけです。30年前の頭と同じ岸田政権が、そのことに気づけば良いですが、そのことには気づいていないようです。それ以外は、世界情勢も何もかも随分変わっています。それに気づけない政権が長続きしてはいけないです。

岸田暫定政権として、安倍・菅両政権の政策をそのまま継続し、短期でそのまま大人しく終えてくれれば、それで良いです。何か岸田カラーを出そうとすれば、日本だけではなく自民党を毀損することになると思います。

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2022年1月19日水曜日

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日本の解き方


岸田首相

 岸田文雄政権は、新型コロナウイルスの感染者の濃厚接触者について、待機期間を短縮するなど「柔軟な対応」を強調している。一方でワクチンの3回目接種は進まず、米軍基地の感染でも米国との交渉は遅きに失したとの見方もある。政府のオミクロン株対策は十分なのだろうか。

 新型コロナの感染症法上の分類を「2類相当」から「5類」に引き下げることについて、岸田首相は、「感染急拡大している状況で変更するのは現実的ではない。2類から5類にいったん変更し、その後、変異が生じた場合、大きな問題を引き起こす」と消極的だ。

 このような変更の決定は、新型コロナの感染者数が極めて少なかった昨年10~11月にやっておくべきだった。ワクチンの3回目接種も在庫があったにもかかわらず、やらなかった。そのため、沖縄県では医療従事者が感染し医療にも支障が出ているという。分類変更もそれとも同じで、波が静かなときに何も準備しなかったことが問題だ。今さら手遅れで、手順が前後していると言わざるを得ない。

 今後変異があるから変更すると大問題を起こすので対応できないというロジックもおかしい。これは、やらないことを正当化する「官僚答弁」である。

 一般論であるが、ウイルスは変異するたびに感染力は強くなるが弱毒化していく傾向がある。当てはまらない場合も少ない確率であり得るが、そのときには再び分類を変更すればいい。「柔軟に対応」と岸田首相は言うが、こうした柔軟性をもってもいいだろう。変異があるからこそ迅速に対応すべきだ。

 こうしてみると、岸田政権と菅義偉政権の差が著しい。菅前首相は昨年、厚生労働省に任せていたらワクチン接種は11月までかかるといわれたので、河野太郎氏をワクチン担当相に任命し、実務主体を厚労省だけではなく総務省を加えて地方自治体が動きやすいように工夫したという。その結果、驚異的なスピードでワクチン接種が可能になった。

 ワクチンの調達でも、菅前首相は、バイデン米大統領と西側諸国で初の対面での首脳会談を行った。合わせてファイザー社のCEOとも会談し、日本にとって有利なワクチン調達に成功した。

 岸田政権では、堀内詔子ワクチン担当相の存在感が小さく、実務対応力はかなり貧弱になっている。岸田首相はいまだに対面での日米首脳会談が開催できない異常事態だ。ファイザー社を含めてワクチン調達では対面のトップ会談が行えていないので、スムーズな関係とはとても言えない。現場の医療関係者からも、菅政権のときのほうがやりやすかったという声もある。

 岸田政権は、先手、先手と口では言うが、先を読まずに、場当たり対応しているだけのようにみえる。しかも、本コラムで書いたように、官僚を後ろから撃つようなこともしているので、ますます官僚の初動が鈍くなっている。国民に対して仕事するという観点からみれば、岸田政権は菅政権と比較して仕事をしていない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】岸田政権は「日米中の正三角形政策」を捨て去り、「日米中二等辺三角形政策」を志向すべき(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事では、岸田首相のオミクロンへの対応の貧弱さを語っていますし、それについては上の記事で十分に語り尽くされているので、以下では主に岸田政権の外交の貧弱さについて述べようと思います。

岸田首相は12月6日召集予定の臨時国会前に訪米し、バイデン大統領との首脳会談を調整していました。しかし、訪米は先送りになりました。米国内の事情があるにせよ、対中外交での歩調が日米間で合わなかったことが不安視されたことも仕切り直しの理由と言われています。

林外相は「米中両方とも話ができるのが日本の強み」と語っていましたが、この発想は鳩山政権時代の「日米中正三角形」論を思い出させるものです。


日米中が「正三角形」に近づいていくということは、日米同盟の距離を広げ、日中関係の距離を縮めるということです。

産経新聞は「日米中正三角形論は、中国の覇権主義戦略であり「日米分断の論理」だと論じています(2006年7月5日)。

正三角形論の歴史は古いです。1982年に中国の趙紫陽首相(当時)が打ち出した新外交路線に端を発するものです。当時は中ソ関係が 悪化しており、趙氏は「中米日の3国は互いに親密な三角形であるべきだ」と述べ、ソ連を牽制したのです。

この論は、冷戦が崩壊した90年代初めに脚光を浴び、その後、影を潜めたものの、その後左翼・リベラル系学者や評論家にもてはやされるようになった時期がありました。

しかし、正三角形論は、中国の一貫した外交方針であり、日米分断の論理に過ぎません。そして、このような虚構の論理を説く政治家は、党利党略に目がくらみ国家的立場を見失ったか、
北京と特殊の関係ができたか、と勘ぐらざるを得ないです。

そもそも、これまでの「日米中二等辺三角形論」は、
(1)自由主義陣営vs共産主義陣営という政治体制の違い、
(2)中国の覇権主義(急激な軍拡)に対して、日米軍事同盟によって防波堤を築く、
(3)全体主義国家、一党独裁国家、周辺国への侵略と弾圧・虐殺、人権蹂躙国家に対する牽制という意味合いがありました。
この三つの意味合いは、現在でも全く変わっていません。

自民党政権の対米関係を批判した鳩山政権はアジア外交強化を唱え、民主党の小沢一郎幹事長や山岡賢次国対委員長らが日米中3カ国を等距離とするスタンスをとったことがあります。小沢氏率いる総勢約500人の大訪中団は中国で厚遇されましたが、鳩山首相の対米外交はギクシャクし、米軍普天間飛行場移設問題で迷走の末に辞任を余儀なくされました。

当時「正三角形論」を説いた小沢幹事長は、「党利党略に目がくらみ国家的立場を見失ったか、北京と特殊の関係ができたか」という両者が的中していると言わざるを得ません。その小沢氏はどうなったかといえば、昨年の衆院選において岩手3区で、無敗を誇ってきた立憲民主党の大ベテランであるにもかかわらず落選しました。

岩手政に絶大な影響力を持ち、「小沢王国」に君臨してきた「帝王」の選挙区敗北は、最早小沢氏は過去の人になったという象徴でもあると思います。

鳩山政権の外交を岸田首相や林外相も批判していたはずですが、 岸田、林両氏は自民党内のリベラル派、ハト派(穏健派)を代表する宏池会に所属しています。そもそも「日米中正三角形」論は宏池会の先輩も語っていたことであり、その考えは骨の髄まで2人に染みついているのでしょう。

岸田氏の近著『岸田ビジョン 分断から協調へ』には、宮澤喜一元首相ともう一人、宏池会(現・岸田派)の会長を務めた人物が取り上げられています。それは加藤紘一元幹事長であり、彼こそが「日米中正三角形」論を元々主張していました。

岸田氏の近著『岸田ビジョン』

岸田氏は9月の記者会見で「権威主義的・独裁主義的体制が拡大している」と中国を批判し、「言うべきことは言う」とも強調してきました。自民党総裁選で掲げた公約通り、人権問題を担当する首相補佐官を新設し、人権問題をめぐり制裁を科せるようにする「日本版マグニツキ―法」(人権侵害制裁法)などの必要性を訴えてきた中谷元衆院議員を起用しました。

ところが、その中谷氏は11月24日のBS番組で「制裁を伴ってどういうことが起こるか、しっかりと検証しないといけない」などと慎重な姿勢に変わり、岸田政権は同法制定を見送る方針とも報じられました。

近著で「外交・安全保障の分野では、私以上に経験豊かな政治家はあまり見当たらないと自負しています」とつづっている岸田首相のスタンスが中谷氏を抑えているのは明らかでしょう。

米国や英国は来年2月の北京冬季五輪への政府高官派遣を行わない「外交ボイコット」を早々ときめましたが、岸田首相は「それぞれの国において、それぞれの立場があり、考えがあると思う。日本は日本の立場で物事を考えていきたい」と曖昧な言葉に終始していました。

それでも岸田文雄首相は先月24日、来年2月の北京冬季五輪・パラリンピックに、閣僚や政府高官ら政府関係者を派遣しない方針を正式に表明しました。日本オリンピック委員会の山下泰裕会長と参院議員で東京大会組織委員会の橋本聖子会長は、現地で開かれる国際オリンピック委員会の総会に合わせて出席するとしました。

ただ岸田首相をはしめ岸田政権の閣僚ぱ、「外交的ボイコット」と名言していません。それに、現職議員でもある橋本聖子JOC会長の出席を認めています。マスコミなどは、「実質的な外交的ボイコット」などと報道しています。

今年迎える日中国交正常化50周年を前に日中間で摩擦が生じることは避けたいとの思惑も透けて見えました。欧米と足並みをそろえられずに孤立していくとの不安は消えないです。

それでも、米ホワイトハウスは16日、岸田文雄首相とバイデン大統領が今月21日にオンライン形式で協議すると発表しました。16日の声明で、日米同盟を強化する方針を確認し「自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョンを推進する」と記しました。中国の脅威を念頭に抑止力を高める安全保障協力も話し合う見通しです。

岸田政権も総選挙で勝利したものの、これから新型コロナウイルスの感染拡大が再び始まれば、オミクロン株への対応、外交、経済なとでお粗末な対応をこれからも継続していけば、支持率が徐々に削られていくことになるでしょう。

自民党総裁選の決選投票では支持してくれたとはいえ、安倍晋三元首相がどこまで岸田首相を支えるのかも定かではありません。今年夏には参院選も控えています。自民党は16年夏の参院選で大勝しており、来夏の参院選での議席維持のハードルは高いです。

参院選で敗北すれば、政権が一気に傾く可能性もあります。こうした不安が一層、貧弱ぶりに拍車をかけているのかもしれません。「何とか、経済でも、コロナ対策でも、外交でも強い岸田政権をアピールしなければ」という焦りにが、岸田政権の貧弱ぶりに繋がっているのかもしれません。

こういうときには、菅前首相のように、腹をくくって安倍政権を継承したように、岸田政権も安倍・菅路線を継承し、その上で両政権の懸案事項でありながら、できなかったことを実施し、その後に岸田カラーを打ち出すのが政権を安定させるためには、最も良い行き方ではないかと思います。

特に中国政策ではそうです。岸田氏と比較するとバイデン米大統領は、対照的です。中国に対して、厳しいという点では、バイデン大統領は、トランプ政権を継承しています。

これは、もちろんすでに米国議会が超党派で、中国に対して厳しいからでしょう。バイデン政権が、中国に厳しい議会に引っ張られていく流れは続くでしょう。特に今年は議会の中間選挙があります。議会の誰もが、中国に甘いと思われたくないでしょう。そうしてバイデン政権が議会を怒らせるリスクを冒すとは思えません。

中国に対して厳しい姿勢を堅持するバイデン米大統領

トランプ大統領やポンペオ国務長官らが次々と厳しい姿勢を打ち出していった前政権と比べるとバイデン政権の「顔」は見えにくいところがあります。しかしバイデン政権の米国はワシントン全体の空気を反映しながら、徐々に中国への圧力を強めています。いまのところこの流れを変える要素は出てきていません。

にもかかわらず中国に配慮をみせる岸田首相に、バイデン大統領が距離を置くのは当然です。せっかく厳しい対中政策を打ち出しているのに、岸田氏と親しい関係を構築すれば、議会やマスコミなどからも批判される隙を与え、中間選挙に悪影響を与えかねません。

米国のピューリサーチセンターの調査では、日米とも中国に対して負の感情を持っている人が圧倒的に多いことが指摘されています。

岸田政権は「日米中の正三角形」を捨て去り、「日米中二等辺三角形」を志向すべきでしょう。そうしなければ、岸田政権は国内保守派からも、バイデン政権や米議会からも、国民からも見放され、鳩山政権のように徐々に弱体化していくだけになるでしょう。

そうして、民主党が政権交代をしたときには、こぞって民主党を応援したマスコミやリベラル左派も、さすがに末期の鳩山政権は批判したように、いまのところ表立って岸田政権を批判しないマスコミも、いずれ批判攻勢に転じることになるでしょう。

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2022年1月18日火曜日

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策―【私の論評】中国は台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策

岡崎研究所

 リチャード・ハース米外交問題評議会会長及びデイヴィッド・サックス同研究フェローが連名で、2021年12月13日付のフォーリン・アフェアーズ誌に、台湾に対する米国の戦略的曖昧さはその使命を終えたとして戦略的明快さに転換すべきことを論じている。


 この長文の論文を読むと論点は言い尽くされている。このまま戦略的曖昧政策を継続することは中国の計算違いを招く可能性があるという意味で危険であり、米国は戦略的明快さに転換すべきものと思う。

 その政策は台湾に対する直接的な侵略およびその他海上封鎖のような間接的な侵略に対して米国が台湾を防衛するとの意思を明確にすることを必要とする。もとより、張子の虎であることは許されず、台湾防衛を最重要課題と位置付ける米国の軍事力強化が必要であることは論を俟たない。

 問題は、戦略的明快さの政策自体の問題と言うよりは、むしろ政策転換のプロセスの管理の問題にあるのではないかと思われる。即ち、この政策転換が中国に対して挑発的と映ることは出来る限り避けるべきことである。挑発的と映れば、台湾とその周辺の情勢の不安定性を増幅する恐れがあるであろう。

 1947年3月、トルーマン大統領が議会で演説して、ギリシャとトルコを共産主義の脅威から守るために両国の経済と軍に対する支援を表明したが、台湾を巡る情勢が現在よりも更に切迫し一刻の猶予も許さない状況となれば、このトルーマン・ドクトリン演説の例に倣うことも考えられようが、そういう事態ではない――ということは戦略的明快さへの最適の転換時期如何という別の論点を提起するかも知れないが。従って、何等かの工夫が必要ではないかと思われる。

 挑発的であることを避けるという意味では、この論文にも言及があるが、中国に一定の保証を与えることは考慮の必要があろう。しかし、「台湾の独立を支持しない」という言い方には疑問がある――いわゆる「一つの中国」政策を誓約した米中の共同コミュニケの文言を繰り返し「両岸問題の平和的解決を促す」(4月16日の日米首脳共同声明)ことにとどめるべきものと思われる。

日本は米国の軍事オプションへの留意を

 工夫としてどういうことがあり得るか分からないが、例えば、議会で大統領に台湾有事の際の軍事力行使の権限を与える超党派の法案を成立せしめ、その機会を捉え、大統領が戦略的明快さを内容とする声明を発出することも検討に値しよう。

 この政策転換の反対論として説得的な議論を目にしないが、台湾の政策・行動がどうであれ無条件に安全保障のコミットメントを提供することを疑問視する見解がある。しかし、それは戦略的明快さの内容次第であり、一切の政策判断を排除する必要はないように思われる。

 バイデン政権が戦略的明快さを追求すると否とにかかわらず、台湾侵略に対し、米国がこれに対抗することに失敗すれば、この地域の秩序は修復不能なまでに損なわれるであろう。この論文はその末段で、米国の軍事オプションを可能とする前提条件は地域の諸国に米国と共に中国の侵略に抵抗する用意があることにあると指摘しているが、それが厳然たる実態であり、そのことに日本は留意せねばならない。

【私の論評】中国には台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!

昨年4月15-18日当時の菅総理訪米の際に、4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と、台湾という語が明記されました。


これは、日米首脳の共同声明としては、1969年の佐藤・ニクソン会談以来のことであり、日本国内では大きく報じられました。この他にもバイデン政権は、4月9日に国務省が、米台当局者の接触についてのガイドラインを改定し、台湾との接触の制限を緩和することを明らかにするなど、トランプ政権の路線を変えず台湾支援を強化しています。

「戦略的曖昧さ」とは、台湾が中国に武力攻撃を受けた際に、米国がこれにどう対応するか明言しないでおくという政策です。中国を挑発せず、他方で、台湾が独立を宣言し、中国の台湾進攻につながることを避けることを意図しています。

3月9日には、インド太平洋軍のデイビッドソン司令官(当時)が、上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると指摘したうえで、「戦略的曖昧さ」を見直すよう明言した。

一方米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は3日、中国が台湾を侵攻する可能性は当面は低いとの考えを改めて示しました。米シンクタンク、アスペン研究所のフォーラムで「中国は近い将来、台湾へ行動を起こそうと準備しているか」と問われ「私の分析によれば半年や1、2年という近い将来に起こり得るとは思わない」と否定しました。

このブログでも、中国による台湾侵攻は、海上輸送力の脆弱さによる不可能であることを何度か掲載しています。それに中国が台湾に侵攻するとすれば、台湾を併合するためであり、台湾を破壊することが目的ではありません。併合するのは、実はかなり難しいです。

台湾を破壊することだけが目的であれば、台湾に核ミサイルを数発発射するだけでよいですが、武力で侵攻して併合するとなると、そのような単純なことではすみません。攻撃して撃破して、捕虜を捉えて、拘禁し、さらに大兵力を進駐させて、台湾を統治しなくてはならなくなります。

昔から知られている軍事法則の中に、攻撃三倍の法則があります。戦闘において有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要となる、とする考え方です。攻者が勝利すると言われる攻者と防者の兵力比率が三対一であるために、三対一の法則とも言われます。

ただ、この考えは、現在は当てはまらない場合も多いとはされていますが、それにしても台湾は島嶼であり、西側に平野が広がり、東側は山岳地帯です。上陸の主力部隊は西側から上陸するでしょう。台湾は東側にはあまり力を割くこと無く西側に集中できます。

台湾地図

それに、台湾は攻撃力の高い、対艦ミサイルも装備しています。無論、対空ミサイルも、中長距離ミサイルも装備しています。これらにより、中国の艦艇、航空機等が破壊されるでしょうし、場合によっては本土も攻撃にさらされることになります。これらを考慮に入れると、やはり三対一の法則に近いことになりそうです。

台湾陸軍は10万人ですから、中国軍が確実に勝利するためには、陸上兵力を30万人は送り込まなければならないことになります。しかし、中国人民解放軍がいくら精強な着上陸部隊を整備しても、上陸地点まで輸送する手段がなければ意味がありません。中国海軍の近代化の過程で、揚陸艦は最優先の整備対象ではなく、輸送能力は現在のところ台湾本土への侵攻には不十分とされています。

中国研究誌「中共研究」の14年5月の論文は、中国の揚陸艦艇を約230隻と推計し、約2万6000人と戦闘車両1530両が輸送可能としています。現在は、さらに増強されたと仮定して、2倍の輸送力になっていたとしても、これでは30万人は到底不可能です。この状況では、中国による台湾武力侵攻はないとみるのが、普通だと思います。

このようなことを述べると、空挺部隊やフェリーなども使えば良いではないかという人もいるかもしれません。しかし、中国の空挺部隊に所属するのは30,000人です。フェリーなどは、補助的に使えるかもしれませんが、軍事作戦には向きません。

そうなると、中国による台湾武力侵攻はあり得ないので、これでめでたしということで、戦略的曖昧政策で良いということになるでしょうか。

私は、そうは思いません。中国による台湾による武力侵攻がないからこそ、「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきなのです。

私が懸念するのは、中国による台湾への武力侵攻ではありません。中国による台湾への武力以外による浸透です。

最近報道されたように、中国共産党による、英国内での工作活動の一端が明らかになっています。英メディアによると、外国スパイの摘発や、国家機密の漏洩(ろうえい)阻止などの防諜活動を行う情報機関「情報局保安部(MI5)」は、中国共産党の女性工作員が、英議員らに献金を通じて「政治的な介入」を行っていると、議会に異例の警告を発したといいます。専門家は、日本国内でも同様の工作活動が広がっている危険性を指摘しました。

MI5によると、クリスティン・チン・クイ・リーという名の女性が中国共産党のために、現職の英下院議員と下院議員を目指す人との「つながりを確立」していたという。

蔡英文総統の民主進歩党が政権の座についてから、台湾では中国の影響力はかなり低下しました。ただ、中国は台湾に対して浸透工作をこれからも強めるでしょう。それだけではなく、さらに中国は台湾を国際的に孤立させたり威信を低下させる挙にでるでしょう。経済的に不利益を被るように仕掛けるでしょう。

この浸透工作、台湾の国際的地位低下工作によって、台湾に親中政権ができたとしたら、どうなるでしょうか。しかも、その親中政権が中国の傀儡政権に近いものだった場合どうなるでしょう。

中国はある程度時間をかけて、少しずつ中国に人民解放軍を上陸させるでしょう。場合によっては、目立たないように、民間人を装って入国させるかもしれません。仮に30万人以上も上陸させてしまったとしたら、時すでに遅しです。台湾は事実上、中国領になってしまいます。それも、合法的にそうなるのです。

そうして、いずれ台湾は正式に中国の省になるか、あるいは対岸の福建省に取り込まれてしまうでしょう。

これを取り戻すには、米軍にとっても大変なことです。傀儡政権が出来上ってから、米国がこれに対応すれば、ベトナム戦争のように泥沼化する可能性もあります。

そうなる前に、対処すべきです。そのためには、今から「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきです。

そうして、中国が非合法なやりかたで、台湾の政治などに介入した場合は、制裁を加えるべきでしょう。さらに、非合法な手段で傀儡政権を樹立して、軍隊を派遣しようとしたときには、これを阻止する構えをみせるべきでしょう。

日本も、昨年4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とあるのですから、積極的な役割を果たすべきです。

日本は冷戦期にソ連SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)封じ込めに極めて重要な役割を果たしていました。特に対潜哨戒により、結果としてソ連原潜の行動を封じ込めたことで、多大な成果をあげました。この日本の貢献は、西側全体にとっても対ソ戦略上極めて重要な価値を有していました。

特に、日本が対潜哨戒機を多数導入して、オホーツク海において大々的な対潜哨戒活動に踏み切ったことは特筆に値します。これには、軍事費を膨大に投じる必要もありましたし、要員の訓練に時間を要します。これを最初に提案した米国の官僚は後に「まさか、日本がこの要求を飲むとは思わなかった」と述懐しています。

オホーツク海上を哨戒飛行するP3C

このときの、経験がもとになり、日本の対潜哨戒能力は世界のトップクラスになりました。日本は、冷戦期において米国をはじめとする西側諸国に対して、大きな貢献をしたのです。

その後冷戦は、西側諸国が勝利して、日本は冷戦勝利国になりました。日本ではあまり意識されていませんが、日本は冷戦戦勝国であり、しかも巷でいわれているように、基地を米国に提供しただけではなく、積極的にソ連の原潜の行動を把握し、その情報を米国などの西側諸国と共有することによって、結果としてソ連原潜の封じ込めに成功し、大きな貢献をしたのです。

だからこそ、安倍元総理大臣が、「インド太平洋戦略」や「QUAD」を提案して、米国などの西側諸国等に受け入れられたのです。

今回との中国との新冷戦でも、日本は冷戦時と同じような貢献ができるはずです。日本には、現在でも世界トップクラスの対潜哨戒能力を有しており、さらにステルス性の高い通常型潜水艦を有しています。そうして、潜水艦22隻体制がまもなく達成できます。(本当はできていたが、昨年の事故で1隻が就航不能になっています)

これを有効に用いて、新冷戦でも冷戦時と同等もしくはそれ以上の貢献ができます。昨年7月中国が台湾に侵攻した場合の対応について、麻生副総理兼財務大臣は、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる要件の「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。

これをさらに一歩すすめて、中国が台湾に軍隊を送る場合は、戦争であろうとなかろうと「存立危機事態」とみなすと台湾とともに宣言すれば良いのです。日本も曖昧なことをいうのをやめて、戦略的明快さに転換すべきなのです。

それとともに、冷戦時のように東シナ海、台湾海峡においても無論台湾の許可を得た形で、哨戒活動にあたり、結果としてしてかつて日本が、ソ連の潜水艦を封じ込めたように、中国海軍を封じ込めれば良いのです。

岸田政権には、このようなことは考えも及びつかないようです。そもそも、日本は冷戦戦勝国であり、中露北朝鮮は敗戦国だという認識もないようです。米国にはこれを見透かされ、日米首脳会談すらまだ開催されていません。これは異例中の異例です。

日本の安全保障に関しては、岸防衛大臣が頑張っています。しかし、それにも限界があるでしょう。自民党は岸田政権は短期で終わらせて、新たな総裁がのもとで、安全保障を見直すべきです。軍事侵攻ではなくても、台湾が中国の手のうちにおちれば、日本は根底から戦略を見直さなければならなくなります。

人材がいないというのであれば、短期的でも良いので、安倍元総理大臣に返り咲いていただき、道筋をつけてもらうというのもありだと思います。

日本が新冷戦に勝利した暁には、国外では日本の貢献は冷戦時から十分認識されていますから、国内で国民に対して広くこの意味合いを啓蒙すべきでしょう。そうして、今度こそ安倍元総理が語っていたように「戦後レジームからの脱却」を果たすべきです。

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2022年1月17日月曜日

もう手遅れ!岸田政権の「オミクロン対策」と「増税論」は根本的に間違っている―【私の論評】岸政権のお粗末ぶりが、誰にでもわかるように顕在化してからではすべてが手遅れに(゚д゚)!

もう手遅れ!岸田政権の「オミクロン対策」と「増税論」は根本的に間違っている

「場当たり対応」でどこまで持つのか

なぜ10~11月に手を打たなかったのか

 岸田政権がオミクロン対策で苦慮している。濃厚接触者の待機期間を短縮するなど「柔軟な対応」を強調しているが、一方でワクチンの3回目接種は進まず、米軍基地での感染拡大問題でも米国との交渉は遅きに失したとの見方もある。政府の対策が十分なのか。

 新型コロナの感染症法上の分類について、安倍元首相や維新の松井大阪市長、さらには小池都知事からも2類相当から5類への引き下げする案が出ている。しかし岸田文雄首相は、「感染急拡大している状況で変更するのは現実的ではない。2類から5類に一旦変更し、その後、変異が生じた場合、大きな問題を引き起こす」と消極的だ。

  5類への引き下げ決定は、新型コロナの感染者数が極めて少なかった昨年10~11月にやっておくべきだった。ワクチンの3回目接種は、在庫があったその時期に手を打たなかった。そのため沖縄では医療従事者が感染し医療にも支障が出ているという。分類変更もそれとも同じで、波静かなときに何も準備しなかったことが問題だ。今さら手遅れだが、手順を間違えたと言わざるを得ない。

  筆者の見立てでは、第6波では一日あたりの感染者数はこれまで最高になるだろうが、死亡率は第5波より小さくなるとみている。せいぜい0.2%程度であり、ひょっとしたらインフレエンザ並み(0.1%程度)になる可能性もある。

岸田政権の「場当たり対応」の罪

 また、岸田首相の「今後変異があるから、変更すると大問題を起こすので対応できない」というロジックもおかしい。これはやらないことをいう「官僚答弁」である。

  一般論として、ウイルスは変異するたびに感染力は強くなるが弱毒化していく傾向がある。もちろんその一般論に当てはまらないことも少ない確率であり得るが、そのときには再び分類を変更すればいい。「柔軟に対応する」と岸田首相は言うが、こうした柔軟性こそ持つべきだ。変異があるからこそ、迅速に対応すべきなのだ。

  こうしてみると、菅政権時代との差は著しい。菅前首相は、厚労省に任せていたところ「ワクチン接種は11月までかかる」と言われたので、河野太郎氏をワクチン接種担当大臣に任命し、実務主体に厚労省だけではなく総務省を加えて地方自治体が動きやすいように工夫したという。その結果、1日100万本という、メディアからは無謀と言われた目標を驚異的なスピードでクリアし、ワクチン接種は先進国でトップレベルになった。

菅前総理

  ワクチンの調達に関しても、菅前首相は、バイデン大統領と西側諸国ではじめての対面での首脳会談を行い、それと合わせてファイザー社社長とも交渉し、日本として有利なワクチン調達を行った。

  ひるがえって岸田政権では、堀内ワクチン接種担当大臣の存在感もなく、実務対応力はかなり貧弱になっている。ワクチンの3回目接種は先進国間で比べれば信じられないくらいにスピードが遅い。岸田首相は未だに日米首脳会談も開催できていないため、ファイザー社を含めてワクチン調達でトップ会談が行えていない。現場の医療関係者からも、「菅政権のときのほうがやりやすかったと」いう声が挙がる。

  岸田政権は「先手、先手」と口では言うが、実際は、先を読まずに、場当たり対応しているだけだ。しかも、本コラムで書いたように、官僚を後ろから撃つようなこともしているので、ますます官僚の初動が鈍くなっている。「国民に対して仕事をする」という観点から見れば、岸田政権は菅政権と比較して仕事をしていないのだ。

相変わらずPBに固執して「増税」へ

 その一方で、増税への布石は着々と進んでいるようだ。1月14日、今年最初の経済財政諮問会議を開催し、岸田首相は、国と地方合わせた基礎的財政収支(PB)を2025年度に黒字化する目標を維持する考え方を示した。諮問会議で示された中期財政試算を容認した形だ。

  筆者は、1月3日付本コラム『「日本は借金で破綻する」は本当か? 財務官僚の大嘘を暴く グロス債務だけ見るのは笑止千万』において、「今の片手落ちのPB目標による経済運営」は、基本的に政府のグロス債務残高をコントロールするための指標なので不十分と断言し、統合政府でのネット債務残高を財政健全化に使うべきとしている。

  しかし、政府では相変わらずPBに固執している。先日のコラムで数式を出さなかったが、以下のとおりだ。


  要するに、PB対GDP比とともに、マネタリーベース増対GDP比も加味して見なければ、本当の財政健全化の指標になり得ない。

財政健全化にもつながらない

 政府のPBは地方政府も含んでいるが、国だけとしても2020年度PB対GDP比は▲9.3%と大きい。それを2025年度に黒字化しようとするのは、大増税を唱えているのに等しい。

  しかし、本当の財政状況である統合政府のネット債務対GDP比はほぼゼロである。しかも、2020年度のPB対GDP比▲9.3%としても、マネタリーベース増対GDP比は19.6%だったので、これらを合計すれば10.3%(前期債務残高対GDP比、前期マネタリーベース対GDP比、成長率、金利も影響があるが、今の時点でこれらの影響は少ないので無視)。これは実質的なPBは実は黒字化していることを意味している。そのため、統合政府ベースのネット債務残高は減少し、ほぼゼロになっているのだ。

財務省

  PB対GDP比が▲9.3%で黒字化するなら大変だろうが、実は+10.3%ならもっと赤字でもいいことになる。

  そもそも政府のグロス財務残高に着目するのは会計的にも誤りだし、その間違ったPB黒字化に向けて増税することは、かえって政府全体の財政健全化にならない。

  今国会が今日1月17日から始まるが、国会で財政健全化議論をしっかりやってほしい。特に、グロス債務残高だけで議論する財務省やマスコミの欺瞞を糺すべきだ。そのグロス債務残高から出てくるのが、PB黒字化だ。

  はっきり言おう。政府のPB黒字化目標は、会計的にもファイナンス論からも、完全な誤りである。

【私の論評】岸政権のお粗末ぶりが、誰にでもわかるように顕在化してからではすべてが手遅れに(゚д゚)!

上の記事をみていると、岸政権のお粗末ぶりが誰にでもわかるようにはっきり健在化してからでは、すべてが手遅れになりそうです。

岸田政権には、外交・安保も経済も、何も期待できないようです。

まずは外交面では、岸田首相は昨年12月24日、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を受けて、やっと北京冬季五輪への政府代表の派遣見送りを表明しました。

ジョー・バイデン米大統領が「外交的ボイコット」を明言したのは同6日でした。それから、岸田首相は「適切な時期に」「わが国の国益に照らして」などと、のらりくらりを繰り返ました。

では、逆に「我が国は閣僚を北京五輪に覇権する」といえるだけの、胆力や、国民の理解をえられるだけの理念でもあるのかといえば、そのようなこともないようです。


「人権」は、人類にとって普遍的価値であるはずです。岸田首相は何を伝えたいのか、まったく理解に苦しむ対応であり、結果として中国を利しただけです。

一部では、岸田首相とバイデン大統領の、初の対面での日米首脳会談がセットされないのは、米国が「岸田政権の対中姿勢」に不信感を持っているためと伝えられています。

日本の外相は「政界屈指の親中派」とされる林芳正氏です。この人は、過去には年に中国に7回も行ったことがあるそうです。しかも、外務大臣になったとたんに、中国からの招待があったことを明かすなど、外交儀礼も知らないような振る舞いをみせました。

バイデン政権が、この人事に不信感を持つのは当然といえます。「外交的ボイコット」をめぐる対応も加えて、米国の怒りを買った可能性が十分あります。

この人に期待しても無理なのかもしれませんが、日本は外交面で、明確な立場を表明すべきです。

明確な立場とは、外交・安全保障分野では、日本が東アジアにおけるリーダーシップを発揮することです。日本と米国、日米豪印による戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の関係強化や、自衛隊と欧米各国の軍との共同訓練の増加など、着実に進めるべきです。

2022年度の予算案で防衛費は前年度比1・1%増の5兆4005億ですが、1%程度の増加では米国は「誤差の範囲」としか評価しないでしょう。憲法改正のための具体的な議論の進展も米国は注視しています。


経済もほとんど期待できないようです。先進各国でCPI(消費者物価)が大きく上昇するなかで、日本のエネルギー除いたベースのCPIコアは前年比-0.6%(2021年11月)です。携帯電話料金の引き下げで押し下げられているので、これを除けばエネルギー除くCPIコアはプラスにはなりますが、それでも1%未満あたりでしょう。

米国とは異なり、日本ではインフレ率が依然として低すぎるので、今後の政策対応次第ではデフレに陥るリスクを回避する必要があります。そのため、必要な政策対応も米国とは大きく異なでしょう。

 2021年の米国で見られたように、効果的で十分な財政政策がしっかりと実現されていれば、日本でも経済成長が上振れ同時に2%に近づくインフレ上昇が起きていた可能性もあったかもしれません。

実際には2021年1-3月からは経済成長が止まり、ほぼゼロ成長で停滞したことで、CPIはわずかなプラスにとどまったのです。最大の要因は、米欧対比では規模が小さいコロナ感染拡大に対して、医療資源が早々に逼迫したことにあります。 

このため、緊急事態宣言が長きにわたり発動され、民間の経済活動が抑制されてしまいました。医療機関に対して危機時のガバナンスが行われた米欧のように医療資源が機能していれば、2021年に日本でも経済成長率は上振れになった可能性があります。 

その上で米国同様に、経済成長押し上げに直結する大規模な給付金などで家計の支出が刺激されれば、米国と同程度の高成長が起きたに違いありません。そうなれば、日本で最大の問題であった低インフレから脱却して、米欧と肩を並べるようなインフレ率の大幅な上昇の可能性があったのではないかと思います。

2022年早々に日本でもオミクロン変異株の広がりで感染者は増えていますが、治療効果が高い経口薬が広がれば、新型コロナの状況は大きく変わる可能性があります。新型コロナが経済成長を抑制しなければ、日銀の金融緩和政策の効果が強まり、米欧に追いつく格好で日本のインフレ率も2%に近づくシナリオにも期待できるでしょう。 

このブログにも掲載したように、11月の企業物価指数は前年同月比9・0%上昇の108・7で、伸び率は比較可能な1981年1月以降で最大、指数は85年12月以来、約35年11カ月ぶりの高い水準となっています。ここで岸田政権が、積極財政を打ち出していれば、物価目標を達成できる可能性もでてきます。

岸田政権がしっかりとコロナ対応を繰り出し、成長を高める経済政策を行う可能性は低いようです。むしろ、アベノミクス路線からの転換につながりそうな、「新しい資本主義構想」が具体化する中で、脱デフレの前に経済成長を抑制する可能性が高いと思います。 

「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズを打ち出し増税政策に邁進して、官僚に金融政策を任せた、かつての民主党政権の失敗を繰り返す可能性すらあります。 

民主党が支持率の高い人気政党だった頃に東京の地下鉄で掲載された広告

また、2021年の日本の経済成長を抑えた医療体制逼迫に関して、これを回避する十分な対応ができていない可能性があります。外国での先例からすれば、オミクロン株の感染者は、昨年半ばのデルタ株感染者拡大時よりも大きく増える可能性が高いです。

感染者が増えても弱毒化したと見られる変異株に応じた適切な対応が行われれば良いですが、今後もコロナは2類感染症として原則対応されるのですから、感染者数が増えれば病床使用率も上昇するでしょう。 

岸田政権は、病床確保のための「見える化」のシステム整備を行っていますが、病院間の情報共有が進んでいない事例がみられます。また、病床と医療人材の双方を増やすインセンティブを高める充分な予算措置、そして医療機関へのガバナンスを効かせる法的措置が行われていません。

実際岸田政権は病床確保強化のための感染症法改正案について国会への提出を見送っています。先日もこのブログで示したように、次の国会で岸田政権が提出する法案はほとんどないようです。夏場の参議院選挙を控えて、資源を選挙に回すために危機に備えた対応強化を控えたいのでしょうか。 

また、諸外国ではブースターワクチンの接種が相当に進んでいますが、日本でのブースター摂取率は1月7日時点で75万人と、諸外国対比で圧倒的に低いです。オミクロン変異株の重症化を防ぐためにワクチン接種は必要だろうが、ブースター接種の遅れも、事態が流動的に動く中で日本の保健行政が依然として十分機能してない可能性を示してます。 

2021年同様に米欧対比で少ない感染拡大であっても病床使用率が上昇すれば、再び経済活動自粛が強要されます。日本は、ゼロコロナを目指して厳しい経済統制が行われる中国とは異なりますが、強い同調圧力によって似たような経済停滞が起きてしまう可能性があります。デフレ克服の機会を、2022年も再度逸することになりそうです。

私は、安倍政権だったときも、菅政権だったときも、是々非々で批判すべきところは、批判し、評価すべきところは評価してきました。菅政権は、コロナが収束していない状況では、そのまま継続すべきとこのブログで主張しました。しかし、岸田政権になってからは、批判ばかりです。菅政権が今も継続されていたとすれば、現在の岸田政権よりは、はるかにマシだったと思います。

甘利氏が幹事長から外れたにしても、岸田政権の体たらくは酷いものです。このままだと、民主党政権とあまり変わらないようになってしまうかもしれません。

岸田首相はこのまま夏の参院選まで、明確な立場を示さないつもりかもしれないです。それでは、岸田政権に期待することも、支持することもできないです。これほど酷いとは、誰も思っていないかったのではないでしょうか。

今後岸田政権が、良い法に方向転換することは期待できないようです。であれば、自民党としては新たな総裁のもとで、やりなおされた方が良いのではないでしょうか。

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2022年1月16日日曜日

トンガ噴火で気候変動に懸念 SNSで「令和の米騒動」不安視する声―【私の論評】本当の大問題は、中国経済の低迷とトンガ噴火による寒冷化の悪影響が重なるかもしれないこと(゚д゚)!

トンガ噴火で気候変動に懸念 SNSで「令和の米騒動」不安視する声

トンガ沖海底火山噴火の様子

 南太平洋のトンガ沖で発生した海底火山噴火で、気候変動や穀物生産への影響を心配する声がSNS(ネット交流サービス)上で相次いでいる。1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火が原因になった日本のコメ大凶作「平成の米騒動」を引き合いに、「令和の米騒動」が起きるかもしれないと不安視する声もあり、懸念が広がっている。


 <平成の米騒動って、覚えていますか(略)あの時、初めてタイ米食べたわ 今回はそれ以上の、世界的な気候変動がありそう>  ツイッターに投稿された「平成の米騒動」を引き合いに出すこの投稿は、16日正午現在で1万3000件以上リツイートされている。

  平成の米騒動は、93年に起きた深刻なコメ不足だ。80年ぶりとなる記録的な冷夏で日本全国のコメが不作に。コメの全国作況指数は74と戦後最悪で、国の備蓄も底を突いた。国はタイ米を緊急輸入し、コメを販売する店には長蛇の列ができるなど、大騒ぎになった。

  この原因になったのが、20世紀最大級とされる91年のピナツボ火山の巨大噴火だ。噴出物が成層圏に大量に放出され、地球全体の平均気温が最大約0・5度下がるなど、世界の気候に影響を及ぼした。 

 今回のトンガ噴火も、噴火の規模がピナツボ火山と同程度の可能性がある。ツイッター上では、ピナツボ火山と同様、気候変動や穀物生産への影響を懸念する声が相次いでいる。<噴火の粒子で日光が遮られて農作物生産に影響でたら目も当てられないんだけど、どうなるか……>

  中には、平成の米騒動にちなんだ「令和の米騒動」という言葉をツイートする投稿も。<さて…今年は冷夏と厳しい冬になりそうですね……令和の米騒動にならなきゃ良いけど><トンガの大噴火で令和の米騒動が起こりうるのか……津波だけの問題じゃないし対岸の火事でもない>

  一方で、<当時とは気候も栽培環境も違っている。同じ事が起こるとは思えない>、など、大規模な影響を否定する意見もあった。【山下智恵/デジタル報道センター】

【私の論評】本当の大問題は、中国経済の低迷とトンガ噴火による寒冷化の悪影響が重なるかもしれないこと(゚д゚)!

大規模な海底火山噴火から30時間以上が経過したトンガの詳しい情報は依然分かっていません。一方、津波は南北アメリカ大陸にも到達しています。

 ニュージーランドのアーダーン首相は、

 「沿岸部では商店などの建物に被害があり、大がかりな撤去作業が必要です。首都ヌクアロファは厚い火山灰に覆われているが状況は安定しています」

こう述べたうえで17日に軍の偵察機を派遣するとしています。被害が最小限に留められることを祈るばかりです。日本も、トンガに対してできるだけの支援をすべきと思います。

これだけ大きな噴火となると、日本にも何らかの形で大きな影響がでるかもしれません。

確かに、上の記事でも指摘されているように、日照不足で冷夏だった1993年は東北や関東の太平洋側を中心にコメを中心に農業被害が相次ぎ、タイや米国などからコメを輸入して「平成の米騒動」ともいわれました。

私は、この頃には函館に転勤になったばかりの頃でした。確か8月になっても、18度くらいの天候が続き、涼しいというより寒いという感じでした。セブンイレブンの前に、たたずむライダーが厚手の革ジャンをまとったままだったのを記憶しています。


今回のトンガ噴火では、コメ不足への不安はさほど深刻にはならないように思います。それにはいくつかの理由があります。

1つが品種改良の進歩です。当時、冷害の被害が特に大きかった品種が宮城県を中心に栽培されていた「ササニシキ」でした。「コシヒカリ」に次ぐ、全国2位の作付面積を誇ったほどの銘柄米だったのですが、寒さには弱かったのです。ササニシキを中心に作付けしていた宮城県では、93年の水稲の収穫量が19万1100トンと前の年に比べ62%も減ったほどでした。

これを機会にササニシキは急速に作付面積を減らしていきましたた。代わりに伸びたのが、ササニシキより寒冷地に強い品種として作られた「ひとめぼれ」でした。ひとめぼれの全国の作付面積に対する割合は18年産で9.2%とコシヒカリの35%に次ぐ2位になっています。

寒冷地に強いコメ作りが進んだ結果、産地がさらに北に進んだというのが2つ目の理由です。亜熱帯が原産のイネですが、今では北海道が日本で第2位の大産地となっています。けん引役となっているのが全国5位の作付面積を誇る「ななつぼし」です。

ひとめぼれ系列の品種に、耐冷性に優れた品種を掛け合わせており、いっそう寒さに強いです。梅雨のない北海道のなかでも温暖とされる道央の日本海側を主な産地としており、冷夏の原因とされるオホーツク海高気圧の影響は比較的受けにくい地域とされます。

日本では、米の作付けが始まるまでには、まだ間があります。冷夏が予想される場合は、冷夏に強い米の作付けが強化される可能性もあります。

さらに日本人の食生活の変化も見逃せないです。農林水産省によるとコメの総需要量は93年度の971万トンから17年度には824万トンと15%減りました。家庭におけるコメの購入量はパンや麺類の購入に比べても減少のペースが大きいです。「コメがなければパンを食べればいい」。そんな実態に日本人の食生活が近づいているといえます。

ただ、今回のトンガ沖の海底火山の大爆発は、南半球で発生しており、南半球のブラジルやオーストラリアの秋小麦の収穫が噴煙で大被害を受ける可能性があります。大豆、とうもろこし、小麦、それを餌とする畜産物含め輸入食糧価格が高騰するおそれもあります。現在の日本は、こちらのほうが脅威かもしれません。

さらに、その後も噴煙が漂い続け、北半球にも悪影響を及ぼし続ける可能性もあります。そうなると、全世界的に経済か落ち込む可能性もあります。

年明けに、このブログではユーラシアグルーブによる、今年の10大リスクを掲載しました。最大のリスクは中国のゼロコロナ政策の失敗です。さらに、4位には「中国の内政」が上げられていました。習政権に対するチェック機能が働かず、中国経済の停滞など政策を誤るや恐れが指摘されていました。

私自身は、オミクロン株が流行仕出してから、コロナの脅威はかなり減り、全世界的に収束にむかいつつあることから、習近平政権は、結局コロナ対策を間違えたにしても、強権政策で乗り切り結局は中国でも近日中にはコロナは収束に向かうのではないかと考えています。

それよりも、中国経済が停滞するのは間違いないと思います。それについては、先日もこのブログに掲載しましたので、その記事を参照していただきたいと思います。


問題は、中国経済の低迷の悪影響と、トンガの海底沖火山の噴火による寒冷化の影響が重なるかもしれないということです。

この両方は、今後少なくと2年くらいは続きそうです。このダブルパンチにより、世界経済は悪影響を受ける可能性があります。

これについては、ある程度はっきりするのは1〜2ヶ月後になると思われます。その後も岸田政権がもたついて、これに対する対策として、積極財政や量的金融緩和を迅速にしなければ、政権支持率が落ちることが考えられます。

元岸田政権の現在のグタグタぶりは、以下の動画をご覧いただければ、おわかりいただけるものと思います。


岸田政権にとっては、トンガ噴火で夏の参院選に向けて、大きな不確定要素を抱えることになるでしょう。ただ、反応の鈍い岸田政権では、大きな不確定要素を抱えていることも気づかないかもしれません。

なぜなら、立憲民主党をはじめ、最近では全部の野党がグタグタ感を醸し出しているからです。これについては、長くなってしまうので、また別の記事にまとめようと思います。

そのため、岸田政権は参院選でも圧倒的勝利というわけにはいなかいまでも、なんとか体面を保つ程度には勝利できるかもしれません。

しかし、中国経済の低迷と、トンガの海底沖火山の噴火による寒冷化の影響が今後2年くらい続くとなると、岸田政権の経済政策では、乗り切るのが難しくなる可能性が高くなります。

そのときに岸田政権がどのような行動をするか、もっと大きなくくりで自民党がどのような動きをするかによって、大きな政局含みの展開となるかもしれません。

最後に、トンガは2011年の東日本大震災の時、「トンガより愛を込めて」のメッセージとともに里芋などを日本に届けた親日国であるとともに、複数のラグビー日本代表選手の母国でもあることを述べてきおきます。

トンガは、ラグビーがさかんで、日本代表のバル・アサエリ愛、中島イシレリの両選手らの母国です。トンガ代表が試合前に披露する戦いの踊り「シピタウ」も有名です。

トンガ代表が試合前に披露する戦いの踊り「シピタウ」

1人当たりの国民総所得(GNI)は日本の4万1500ドルに対し、トンガは4300ドル(19年)。主にマグロやカボチャを日本に輸出しています。輸出額は約3800万円(20年度)です。

日本は「草の根・人間の安全保障無償協力」を通じ、学校や診療所の建設、給水施設の整備などを支援しています。青年海外協力隊による日本語、そろばん教育も20年以上続いています。

南太平洋唯一の王国として知られるトンガの王室は長年、日本の皇室と親密な交流を重ねています。東日本大震災の際は、義援金20万パアンガ(約900万円)を寄せ、11年4月には里芋などを届けてくれました。

外務省ウェブサイトには、この時、里芋生産者の代表が「トンガと日本の人々の愛であふれた里芋は、被災者にとってどのような味がするでしょうか。被災者が一日も早く元気を取り戻すことを願っています」と述べたことが掲載されています。

トンガの被災者が一日でも早く元気を取りどすことを願います。

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2022年1月15日土曜日

令和4年度物価上昇率見通し1%台に上げか 日銀、17日から決定会合―【私の論評】実は、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしい(゚д゚)!

令和4年度物価上昇率見通し1%台に上げか 日銀、17日から決定会合

日銀黒田総裁

 日本銀行は17、18日に金融政策決定会合を開き、四半期に一度公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、令和4年度の消費者物価上昇率の見通しを引き上げる方向で検討する。昨年10月の前回リポートで示した0・9%から1%台前半にするとの見方が有力だ。原材料価格の高騰などを受け値上げの動きが出ているためだが、日銀が目標とする物価上昇率2%を達成する状況ではなく、大規模な金融緩和策は維持される方向だ。

 背景にあるのが原油高や円安の進行などによる企業の輸入コストの上昇だ。企業同士の取引価格を示す国内企業物価指数は昨年11月に前年同月比の伸び率が比較可能な昭和56年以降で最大の9・2%を記録し、12月も8・5%(速報)で過去2番目の大きさだった。

 こうした輸入コスト高を販売価格に反映する動きが食品業界などで相次いでおり、12月の日銀企業短期経済観測調査(短観)では、販売価格が「上昇」したと答えた割合から「下落」の割合を差し引いた指数が大企業の製造業でプラス16と6ポイント上昇、非製造業でプラス10と4ポイント上昇した。

 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は今月12日の支店長会議で、物価の先行きに関して「徐々に上昇率を高めていく」との見通しを示した。日銀はこれまでの展望リポートで物価動向について「下振れリスクが大きい」と評価してきたが、今回の会合では今後の物価上昇を見据え表現を改める可能性がある。

 ただ、岸田文雄政権が求める企業の賃上げが進まなければ値上げの動きも広がりを欠き、市場では物価上昇率が2%になる状況には当面ならないとの見方が強い。このため、日銀は短期金利をマイナス0・1%とし、長期金利を0%程度に誘導する金融緩和政策を維持する見通し。

【私の論評】実は、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしい(゚д゚)!

日銀は5日、2021年末の国債保有残高が20年末と比べて約14兆円少ない約521兆円だったと発表しました。前年末比で国債の保有残高が減少するのは、08年以来13年ぶりです。日銀は2%の物価上昇目標の達成に向けて大規模な金融緩和を続ける姿勢を崩していないが、金融市場では「事実上の量的緩和の縮小」(エコノミスト)との受け止めもあります。

日銀は13~20年の8年間で国債保有を421兆円増やし、全体の国債発行額に占める保有比率は4割を超えた。日銀は20年の新型コロナウイルス禍など非常時には購入量を増やす一方、平時は購入を減らしてきました。


21年3月には日本株に連動する上場投資信託(ETF)の購入方針も市場が動揺したときに大規模に買う方向へと改めました。21年末の残高(購入簿価)は36兆3400億円で、前年からの増加額は1兆400億円となり、20年の年間増加額(7兆500億円)から急減しました。

この状況は、白川日銀前総裁以来です。白川氏といえば、日銀はインフレをコンロールできないという、「日銀理論」の論者で、インフレ目標に頑強に反対してきました。

過去の日銀の金融政策の間違いは、まずは06年3月の福井俊彦元総裁時代に株価・地下は上がってはいたものの、一般物価は量的緩和停止を実施したことにはじまりました。

それに続き白川日銀時代には、日銀が保有する長期国債の残高を銀行券の発行残高の範囲内とする「銀行券ルール」に縛られ、結果として国債購入ができず、マネタリーベース(銀行券+当座預金)の拡大をしなかったことです。

2014年に黒田氏が日銀総裁になってから、2016年までの日銀は異次元の緩和を実施していましたがが2016年にイールドカープ・コントロールを導入して以来中途半端な緩和に転じてしまいました。

13年4月から16年9月までのマネタリーベース対前年同月比の平均は37%増ですですが、それ以降は11%増にとどまっています。直近の状態は10%にも達していないです。

「銀行券ルール」で縛られた白川日銀は、マネタリーベースを増加させるために、国債購入ではなく金融機関への貸出増加を行いました。ピーク時には、貸出のマネタリーベースに占める割合は4割程度でしたが、十分なマネタリーベース増はありませんでした。

黒田日銀は、国債増によってマネタリーベース増を行ったので、貸出はマネタリーベースの1割程度と安定していました。しかし、20年のコロナ危機以降、貸出は増加し、今や2割程度まで上昇しています。

政府の国債発行量が多くないので、マネタリーベース増を維持するために、コロナ危機を契機に貸出増となった事情もあるとは思います。

黒田総裁が大規模な金融緩和を始めてから9年近くとなりますが、早期達成するとしていた2%の物価目標はいまも「相当遠い」(黒田総裁)状況が続いています。この状況なら、本来ならさらに量的・質的金融緩和を拡大して継続すべきです。

政府が国債発行量をさらに少なくして、日銀がさらに量的緩和の縮小をするようなことにでもなれば、また日本は深刻なデフレに見舞われなかねません。

過去の深刻なデフレの期間に何が起こっていたかといえば、自殺者の増加です。これについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【正論】「欲ない、夢ない、やる気ない」……現代日本の最大の危機はこの「3Y」にある 作家・堺屋太一―【私の論評】団塊の世代以上の世代には想像もつかない現代の若者の窮状(゚д゚)!
堺屋太一氏

堺屋太一氏は、2019年に他界されましたが、この記事は2016年のもので、まだご存命のときです。この当時は、日銀は異次元の緩和から、イールドカーブ・コントロールで緩和を手控える直前でした。異次元の緩和で、雇用情勢が劇的に変わっている最中でしたが、それにしても、酷いデフレと、就職氷河期の記憶が生々しく残っている時期でした。

この記事は、結果として堺屋氏を批判することにもなっていますが、その批判の矛先は、主に過去の政府や日銀による政策に向けられたものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
自殺者数と景気は相関が高いことが知られていますが、この数年間の経済状況の改善と、さらに自殺対策にここ数年経費を増加させていく方針を採用していることもあり最近は自殺者数が減っています。類似の事例はホームレス対策にもいえ、ホームレス数は景気要因に関わらず対策費の増加に合わせて減少しています。

自殺者数の減少については、マクロ(景気)とミクロ(自殺対策関連予算の増加スタンス)の両方が功を奏していると考えられます。

自殺対策関連予算の推移はまとまったデータがないので拾い集めてみると

平成19年 247億円 平成20年 144億円 平成21年 136億 平成22年 140億 平成23年 150億 平成24年 326億 平成25年 340億 平成26年 361億 となってます。

以下に、失業率と自殺者数の推移のグラフを掲載しておきます。
日本がデフレに突入した、97年あたりからそれまで、2万台であった自殺者数が、一挙に3万人台になっています。このグラフをみただけでも、経済政策の失敗は自殺者数を増やすということがいえそうです。
経済政策の失敗は自殺者を増やすであろうことは、容易に想像できます。私は、2000年代に会社で人事を担当していたことがありましたが、そのあたりに採用した新人から、様々な話をきき、その当時の若者はとてつもない状況におかれていたことを肌身で感じたことがあります。

とくにかく、就職が悪夢のようになかなか決まらないこと、国立大学を卒業しやはり国立の大学院に行った女性の新人が卒業と同時に奨学金などの名目で数百万円の借金を抱えていることや、その当時の学生たちの極めて質素な生活ぶりなどを聞き、これはただ事ではないと、ひしひしと感じていました。

だからこそ、自殺者の推移に関しても、他人事ではなく、身近に感じられたのだと思います。

ただ、当然のことながら、採用は極めてやりやすく、逆に不気味さを感じたことを覚えています。その当時は、多くの企業が採用を手控え、採用するにしても能力などは二の次にして、いわゆるコミュニケーション能力を重視していました。

ただ、このコミュニケーションという言葉が曲者で、要するに「調整型」の人材を採用したいのですが、「調整型」というのでは、格好が悪いので「コミュニケーション」という言葉を用いていたようです。

実際、当時「コミュニケーション能力重視」というキャッコピーを用いていた企業の採用担当者に「御社におけるコミュニケーション能力」とは何かという質問をしてみたところ、「報・連・相」重視などと答え、コミュニケーションの本質に迫るような答をした人はいませんでした。

そうして、この記事では、『経済政策で人は死ぬか』という書籍を紹介していますが、この書籍でははソ連が崩壊した直後のロシアで男性の平均寿命が自殺や病気で60歳未満になった事例などを丹念に分析し、経済政策のまずさが自殺者を増やす可能性がかなり高いことを示しています。

経済政策が極端にまずく、特に失業者が増えるような政策をしてしまえば、自殺者が増えるのは当然のことだと思います。それに、若者のやる気を削ぐことにもつなかります。これに思いが至らないひとは、想像力が欠如しているのではないかと思います。

現状では、オミクロン株の脅威がメディアで盛んに喧伝されていますが、感染者は増えたものの、死者はほとんど出ていません。

私は、経済政策の不味さが、自殺者を増やす可能性が高いことを考えると、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしいと思います。白川貧乏神のように、日銀が金融引締に転ずることがあれば、景気が悪くなり、失業者が増え、自殺者が増加する悪夢が再燃しかねません。

企業の採用で再び「コミュニケーション重視」という空疎なキャッチフレーズが目立ってくれば、悪夢の再来かもしれません。

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