2022年9月20日火曜日

ウクライナ戦争で起きたEU分断と力学変動―【私の論評】日本のエネルギー政策の転換は、世界でのロシアの影響力排除につながり、池田首相の「所得倍増計画」に匹敵する大偉業に(゚д゚)!

ウクライナ戦争で起きたEU分断と力学変動

岡崎研究所

 仏ル・モンド紙コラムニストのシルヴィ・カウフマンが、ロシアのウクライナ侵攻で、欧州連合(EU)内の力学が変化している旨を、2022年8月30日の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で書いている。


 ロシアのウクライナ侵攻の結果、EU内の力学は変わりつつある。ソ連の占領下にあった加盟国及びウクライナとロシアに地理的に近い加盟国の見解は、今日、従来以上に真剣に受け取られている。

 この傾向はロシア人に対する入国ビザの禁止を巡る議論に明瞭である。ポーランド、フィンランド、チェコおよびバルト三国は、禁止を支持した。ドイツはこの禁止に反対した。リトアニアは、合意が得られなければ、地域的な合意を作ると脅かし、結局、独仏両国は妥協に向けて動くこととなった。ポーランドとバルト三国は今やフィンランドやスウェーデンのような北欧諸国を当てにすることが可能で、独仏両国は守勢に回っている。

 今年になって、独仏首脳は共に厳しい批判に直面した。ドイツはウクライナへの武器送達を躊躇したこと、フランスはプーチンとの電話会談を続けることに固執したことである。両者とも、とりあえず、ウクライナを軍事的に支持するとのコミットメントを再確認する必要を感じた。

 しかし、EUがウクライナを含む新たな加盟国を統合するという仕事に取り組んでいる折、ドイツのショルツ首相は、プラハで、EUの多数決への「漸進的な移行」を呼び掛けた。独仏両首脳は、これに反対するポーランドに抵抗する十分な力はあると思っている。

 もう一つ潜在的な不確定要素がある。9月25日のイタリアの選挙で極右が勝てば、欧州の変動する力学は更なる変化を見ることとなろう。

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 8月31日にプラハで開催された非公式EU外相理事会は、ロシアとの間の2007年のビザ発給円滑化協定を停止することを決定した。ロシアのウクライナ侵攻以降、EUに流入したロシア人旅行者は100万人に達するが、大多数はフィンランド(33万3000人)、エストニア(23万4000人)、リトアニア(13万2000人)経由でEUに流入した。ロシアとの間の空路は閉ざされているとされているのも、その所以であろう。

 ウクライナ国民が苦境にある中で、ロシア人観光客の流入が通常通りであるべきではないとして、ポーランド、フィンランド、チェコおよびバルト三国は、EUが全面的なビザ発給禁止に踏み切ることを要求し、プーチン政権とロシア市民一般は区別すべきことを主張して全面的な禁止に反対する加盟国と対立した。ビザ発給円滑化協定の停止は、妥協の産物である。

 ただ、妥協ではあるが、これら諸国の勝利である。この結果、全面的な禁止ではないが、ロシア市民に対するビザ発給は困難を増し、時間を要し、発給件数は顕著に低下するとされている。EU加盟国が独自の制限措置を講ずる余地も排除されていない。
プーチンの揺さぶりにEUは耐えられるか

 このような事態は、ロシアのウクライナ侵攻の結果生じたEU内の力学の変動の象徴的な事例である。この他にも、ハンガリーのオルバン首相がプーチン大統領と近い関係を頑強に維持していることが、ヴィシェグラード・グループ(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア)を麻痺させ、ポーランドを含むその他EU加盟国との分断を招いた状況もある。

 このような力学の変動――それに加えて従来からの東西あるいは南北の潜在的な対立もある――が重要視されねばならないのは、ガス供給を絞り込んで揺さぶりをかけ、EUを分断と不決断の冬に追い込み、出来ればEUを破壊するのが、プーチンの戦略だと思われるからである。

 エネルギー価格の急騰、インフレの昂進、迫る不況が喫緊の問題に浮上し、加盟国は国内問題に注意を削がれ、それぞれの事情を抱えてEUとしての結束した行動の困難性が増しているように思われる。その困難性は、去る7月、ガス需要が高まる冬を前に、EUがガス消費の15%削減に合意するに至る過程で既に顕在化したところである。

 EUはロシアへの対抗とウクライナに対する支援、更にはプーチンの計略を挫くためのガスのロシア依存からの脱却について、その結束を引き続き試されることになろう。ウクライナ戦争は、EU内の力学を揺さぶり、仏独連携は挑戦を受けているようにこの論説は書いているが、EUを率いる力は依然としてドイツとフランスにあると言うべきであろう。

 望むならば、イタリアがドラギの路線を踏襲することであるが、予想される右派連立政権の外交政策あるいは財政政策は攪乱要因となる恐れがあろう。

【私の論評】日本のエネルギー政策の転換は、世界でのロシアの影響力排除につながり、池田首相の「所得倍増計画」に匹敵する大偉業に(゚д゚)!

実は、ロシアによる分断、正確にはソ連よる分断を防いだ国があります。それは他ならぬ日本です。

元々の自民党は、富の公正配分を実現する党でした。池田勇人が総理大臣だった頃、池田政権は、絶対に日本人を餓死させないようにするため、金持ちにはなれないかもしれないものの、真面目に働いてさえすれば失業することもなく、一生安泰でいられる社会を作りました。

池田政権が当時騒然とした世の中で解散総選挙で所得倍増計画などを訴えて、圧倒的多数を取って安定政権の基盤を作って高度経済成長を実現するとともに、所得倍増計画を実現しました。そうして、これこそが日本の安全保障の中核となりました。

池田勇人氏

高度経済成長によってソ連の影響下で日本で革命を起こそうなどと本気で考えていた人達は労働組合の運動に加わるよりも地道に働く方が、安定した生活ができることに気づき、ソ連の間接侵略の芽は潰えたのです。そうして、強い経済を実現した、池田政権は日本で、初めて米国以外の国とも良い関係を築くという、対米一辺倒でない政策を実現しました。

ちなみに、岸田総理が属している、派閥である宏池会は池田勇人が佐藤栄作と袂を分かって旗揚げしたのが始まりです。宏池会の大先輩は、このような素晴らしい政策を実現したのです。現在の宏池会もこうした大先輩の業績を思い起こすべきです。

池田政権の当時の政策は、現在のEUでも当てはまると思います。ただし、所得倍増計画以前の日本と現在のEUとでは、所得水準がかなり異なります。無論現在のEUのほうが、所得水準はかなり高いです。

ただし、現状のEUで、人々を一番不安に落としいれているのは、所得以前にエネルギーです。エネルギーの安定供給こそ、EUの分断を防ぐ特効薬になります。ただし、エネルギーの安定供給をせずに放置しておけば、所得も下がり、人々をさらに不安に陥れ、ロシアに付け入る大きな隙を与えることになります。

一方、アジアでも同じく、エネルギーの安定供給ができなければ、これもロシアに大きく付け入る隙きを与えることになります。

これに対して、日本ができることがあります。

まず第一に、日本では東日本大震災以来、原発の再稼働が遅々として進んでいませんが、仮に現在再稼働している11基の原発(22年度再稼働予定の1基を含む)に加え、新基準規制適合性審査を申請している残り16基の原発がすべて再稼働したとすると、日本のLNG輸入量を現状より1620万トン(220.3億㎥)も節約することができます(日本エネルギー経済研究所の試算による)。

先日もこのブログに掲載したように、検査中も含めた稼働予定の原発と廃炉予定の原発を除いて、現在日本には残りの16基の原発があり、トータル33基動かせる可能性がある原発があるのです。この33基を全部稼働させれば、日本のLNG輸入量を現状より1620万トン(220.3億㎥)も節約できるというのです。

これが輸入に依存する日本のエネルギー安全保障の強化と、電気料金の高騰抑制につながることは勿論ですが、原発活用による日本のLNG輸入削減量は、EUがロシア産から代替しようという天然ガス1550億㎥の約14%を賄うことができます。

つまり日本の原発再稼働は、日本のエネルギー安全保障の改善効果だけではなく、世界の天然ガス需給ひっ迫の緩和に貢献することで、EU、アジア諸国を含むガス価格高騰を抑制する効果も期待できるのです。

日本はウクライナ危機という非常事態の中、安全審査が完了した原発の再稼働を遅滞なく進めることで、ウクライナ危機後に待っている世界のエネルギー危機の緩和に貢献することが出来るのです。

二点目として、従来から化石燃料の輸入にエネルギー供給を依存してきた日本は、省エネ技術の開発・普及が進み、石油、天然ガス、石炭を含めた化石燃料の効率的な利用技術をもっています。

昨年末のCOP26では、パリ協定第6条に基づいた、技術移転による国家間の削減協力と排出削減量移転の国際ルールに合意しました。それを受けて日本政府は、従来から進めてきた2国間クレジット制度(JCM)により、国際的な削減技術移転を加速し、日本が掲げる2030年46%排出削減目標に達成に向けて、1億トンのJCMクレジットを獲得することを見込んでいます。

昨年末のCOP26で演説する岸田総理

勿論日本の進んだ省エネ技術によるこうした海外技術協力が、世界のCO2削減に貢献できることは、それ自体大いに結構なことですが、実はこうした技術には、高効率のコンバインドサイクル発電設備や廃熱回収技術、熱電併給技術など、より少ない化石燃料の使用で、最大限のエネルギーを有効に取り出す技術が多く含まれています。

こうした技術をJCM締約国のみならず、エネルギー需要が高まるアジア地域の新興・途上国に提供することで、そうした地域の天然ガスを含む化石燃料の使用量を抑制することが期待でき、それによって温暖化対策のみならず、天然ガス需要そのものの抑制による価格高騰抑制効果も期待できます。

COP26では石炭火力発電に対する風当たりが強く、公的資金供与の禁止や、民間ESG資金の石炭火力からの引上げが打ち出されていますが、その後のウクライナ危機を受けた世界のエネルギー需給のひっ迫への対策と温暖化対策の両立を目指すためには、天然ガスの効率的な利用のに注目が集まることになるでしょう。

さらに、日本の世界トップクラスの高効率を誇る石炭火力発電技術やアンモニア混焼技術などは、エネルギー需要が伸びるアジア諸国のエネルギーインフレを抑制する技術公共材として、エネルギー安全保障と安定供給確保の観点から期待が高まってくるのは間違いありません。

ウクライナ危機は世界にとってエネルギー危機でもあります。日本は既存の原発の最大限の活用と、保有する省エネ・高効率エネルギー技術を活用することで、その世界的な影響を緩和することができます。

ウクライナへの軍事的直接協力ができない日本ですが、自国の持つ技術を武器にエネルギー分野でこうした対策を打ち出すことで、自国のエネルギー安全保障の確保と同時に、世界のエネルギー危機の緩和に貢献できるのであれば、大いに進めるべきでしょう。

米国バイデン政権もこのような取り組みを行うべきです。そうでないと、エネルギー価格の高騰が続き、中間選挙において、敗北は濃厚になるでしょう。

自民党の党の政綱(綱領のこと)には次の項目があります。
平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う。
自民党は、結党の精神として、憲法改正をすることをあげているのです。

この結党の精神を忘れることなく、安倍元総理は憲法改正に邁進しました。存命中には憲法改正はできなかったものの、困難を極めた安保法制の改正に邁進し、部分的ではありながら、集団的自衛権行使ができる体制をつくりあげました。これがなければ、今日米国やその他の国々とも安全保障の枠組みを構築することもできず、日本は困難を極める状況に追い込まれていたことでしょう。

「今こそ憲法改正を!1万人大会」に安倍首相はビデオメッセージをよせた2015年11月10日午後、日本武道館

その他、安倍氏はアベノミックスで、特に金融緩和によって、雇用を劇的に改善したり、インド太平洋戦略やQUADなどの枠組みを構築し、インド太平洋地域の安定に寄与しました。

先程も述べたように、岸田首相の出身派閥である宏池会は池田勇人が佐藤栄作と袂を分かって旗揚げしたのが始まりです。その池田隼人氏は、総理大臣だったときに、ソ連の日本での影響力をなくすという偉業を達成しました。

岸田総理はこうした大先輩の偉業を、再び実現してロシアのエネルギー分野での台頭を防ぎ、世界のエネルギー危機の緩和に貢献すべきです。そのことが、日本に対するロシアの影響を再び防ぐという大偉業につながることになります。

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2022年9月19日月曜日

バイデン氏、米軍は台湾防衛と表明-「前例のない攻撃」あれば―【私の論評】安倍晋三氏の提唱した様々な原理原則を、私達は忘れてはならない(゚д゚)!

バイデン氏、米軍は台湾防衛と表明-「前例のない攻撃」あれば

CBS番組「60ミニッツ」で発言-台湾独立巡る質問には距離置く
ウクライナに「必要な期間」支援継続-「戦争には負けていない」

9月、台湾南部の屏東県で行われた実弾演習で、大砲を発射する戦車

  バイデン米大統領は、「前例のない攻撃」があれば米軍は台湾を防衛すると表明した。中国による圧力が強まる中で、台湾に対する米国のコミットメントを強調した。

  バイデン氏は18日放映のCBS番組「60ミニッツ」で、台湾は独立している、あるいは独立すべきかとの質問には距離を置きつつ、米軍が「台湾を防衛」するのかとの問いには「実際に前例のない攻撃があればイエスだ」と回答。CBSがトランスクリプトを提供した。一方で、米国の「一つの中国政策」は変わっていないともインタビューの前半で改めて指摘した。

  「われわれは以前に署名したことに同意する。そして一つの中国政策がある。台湾は独立に関して自ら判断する。われわれは独立を促してはいない」とし、「それは彼らの判断だ」と述べた。

米大統領、台湾防衛にイエス-「一つの中国」に同意は変わらず

  バイデン氏はこれまでにも類似の発言をしたことがある。5月の訪日時には、台湾の防衛に必要な場合には「軍事的に関与」する用意があるかとの質問に対し、「イエス」と答え、「それはわが国が行った約束だ」と語った。ホワイトハウスの当局者はその後、火消しに回ったが、中国側から強い反発を招いた経緯がある。

  米当局者は18日、バイデン大統領は以前と同じ点を指摘したとした上で、米国の政策は変わっていないと強調した。匿名を条件に今回のインタビューについて反応を示した。

  また、バイデン氏はウクライナに対する米国の財政面でのコミットメントを重ねて示し、「必要な期間にわたり」支援を続けると表明した。ウクライナが勝利しつつあるのかとの質問には、殺りくや破壊が起きており、「勝利として見なすことは難しい」としながらも「戦争に負けてはいない」と答えた。

原題:Biden Says US Would Defend Taiwan in ‘Unprecedented Attack’ (1)(抜粋)
(バイデン大統領の発言を追加し更新します)

【私の論評】安倍晋三氏の提唱した様々な原理原則を、私達は忘れてはならない(゚д゚)!

バイデン氏のこのような発言は、もう4回目なので失言扱いできないです。安倍元首相の言っていたように曖昧戦略がそろそろ転換したとみられます。

安倍元首相の発言に関しては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
習主席が墓穴!空母威嚇が裏目に バイデン大統領「台湾防衛」を明言 「『第2のウクライナにはさせない』決意の現れ」識者―【私の論評】バイデン大統領の意図的発言は、安倍論文にも配慮した可能性が高いことを報道しないあきれた日本メディア(゚д゚)!
安倍元首相

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
バイデン氏は、中国に対して融和的発言はできないのでしょう。米国内では、そうしてしまえば、共和党やトランプ元大統領から徹底的に批判されるでしょうし、それどころか党内からも突き上げを食うことになるのでしょう。

米国においては、もはや中国に対峙する姿勢は、上下左右から支持され、米国の意思となったといって過言ではありません。現在米国では中国に融和的発言をすれば、米国に対する裏切り行為だと指弾されかねません。

台湾を巡っても、中国に融和的な発言をすれば、ウクライナ侵攻直前にロシアのウクライナ侵攻に米軍を派遣することはないと名言したときのように、大反発をくらい、それこそ中間選挙では大敗確実になるのでしょう。

そうしてこれには、4月12日にチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」に安倍元総理が発表した、米国は台湾防衛に曖昧戦略はやめよと主張した英語論文の影響もあることでしょう。


同論文は瞬く間に反響を呼び、「ロサンゼルス・タイムズ」や仏紙「ルモンド」など、米国をはじめ30カ国・地域近くのメディアで掲載されました。

同論文では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を台湾有事と重ねたうえで、米国がこれまで続けてきた「曖昧戦略」を改め、中国が台湾を侵攻した場合に防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

1979年、米国は中国と国交を結んで台湾と断交し、台湾に防御兵器を提供することを定めた「台湾関係法」を制定しました。しかし、中国が台湾へ軍事侵攻した場合、米国が軍事介入するかどうかについては明らかになっていません。安倍氏は、この「曖昧戦略」を見直すべきだと主張しています。

安倍氏はかねてより「台湾有事は日本有事」だと主張してきました。

ロシアによるウクライナ侵攻において、バイデン米大統領は早い段階から「米軍は軍事介入しない」と明言しました。それがロシア軍の侵攻を加速させたことは間違いないです。台湾に関しても、米国が防衛の意思を明確にしなければ中国が実際に台湾へ侵攻することは容易に想像できます。
安倍晋三元首相が今年4月12日、世界の経済、政治、科学、文化に影響力のある有力者の論評・分析を配信するウェブサイト「プロジェクト・シンジケート」に投稿したこの論考は、世界中で話題となりました。投稿して2日余りで米国、フランス、ドイツ、ウクライナ、インド、香港…と30カ国・地域近くのメディアで掲載されたというのですから、反響の大きさがうかがえます。

安倍氏は論考で、ロシアの侵略を受けるウクライナを台湾に重ね、米国が長く台湾について取ってきた「曖昧戦略」を改め、台湾防衛の意思を明確にすべきだと主張しています。

米国は40年以上前の1979年の台湾関係法に基づき、台湾自衛に必要な武器供与などの支援を行う一方、台湾と中国が武力衝突した場合、軍事介入して台湾を防衛するかどうかは言及しない曖昧戦略をとってきました。安倍氏はこれにこう異を唱えたのです。

「時代は変化している。曖昧政策は、インド太平洋の不安要因になっている」

ロシアのウクライナ侵略をめぐっては、バイデン米政権が早々に軍事介入の選択肢を否定したことが、ロシア抑止の失敗を招いたと指摘される。台湾に関しても、米国が防衛意思をはっきりさせないと、中国が米国は介入しないとたかをくくって行動に移る危険があるということでしょう。

そしてその事態は、ほぼ確実に日本に飛び火します。

安倍氏は、ウクライナ侵略が起きる以前の昨年12月1日の台湾のシンクタンク主催のオンライン講演で、すでにこう訴えていました。

「(中国による)台湾への武力侵攻は、必ず日本の国土に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」

そして、同月19日の九州「正論」懇話会での講演ではこの発言の意図を説明しています。

「中国が台湾に侵攻すれば、日本の『存立危機事態』に発展する可能性がある。大変なことになるということを、あらかじめ明確に示しておく必要がある」

存立危機事態とは、安倍政権下の平成27年に成立した安全保障関連法が定めた日本が限定的に集団的自衛権を行使できる要件の一つである。密接な関係にある他国に対する武力攻撃により、日本の存立が脅かされる状態をいいますが、台湾有事もそうなりかねないです。

さて、安倍氏のこの論文、以下に英語の本文と、それを翻訳したものを掲載します。

なぜ、このようなことをするかといえば、最近元TBS記者の山口敬之氏が「NHKの方針は、安倍晋三氏の発言をこの世から消すこと」と発言していたことです。

それが事実なのかいなかは、確認のしようもありませんが、上で述べたように、生前の発言でも、多くのマスコミが無視したのですから、この発言はまったく故のないものとは、いえないと思います。

私は、このブログで、良く経営学の大家である、ドラッカー氏のマネジメントの原理・原則を掲載することがあります。それは、ドラッカー氏のマネジメントに関する原理・原則は、原理原則であるがゆえに、ドラッカー氏が2005年になくなった後でも、今でもあらゆる組織にあてはまります。

多くの人は、職場や組織の中で、マネジメン上の困難をかかえています。悩みに悩んだ末に、時には正しい判断を、時には間違った判断をします。

しかし、これらのほとんどの問題はすでに、ドラッカー氏がマネジメンと原理原則としてまとめており、その解決の緒についても、様々なな示唆をしているものです。

ドラッカー氏 クリックすると拡大します

今日の私達のほとんどは何らかの組織の中で働き、日々マネジメント上の問題を抱えています。そうして、ドラッカー氏のマネジメントに関わる原理原則を知れば、それを知らないよりは、はるかに迅速で確かな意思決定ができます。

無論、原理原則という性質上、たとえばノウハウ本のように、すぐに効果がもたらされることはありません。しかし、様々な問題を根本から正しく考えるためには非常に役立ちます。これは、自分で実際に経験した上で、多くの人に知ってもらいたいと願うからこそ、折に触れてこのブログにも掲載しています。

そのドラッカーのマネジメントの原理原則は、現在米国ではほとんど顧みられていないといいます。その原因は、最近の米国の経営学会においては、因果関係ばかりが重んじられていて、ドラッカー氏のマネジメント上の原理原則はほとんど顧みられないからということが原因のようです。

これは、非常に残念なことです。私は、米国人が、もっとドラッカー流のマネジメントを学べば、そうしないよりは、はるかに良い社会を構築できると思います。そうして、原理原則という性質上これからかなり長い期間その原理原則は現実に適用できると思います。

私は、安倍元総理の、経済、外交、安全保証などに関する原理原則もドラッカー氏の原理原則と同じように長きにわたって、現実に適用できるものであると信じます。

こうした、安倍氏の原理原則が、米国でドラッカー氏のマネジメントの原理原則が顧みられなくなくなったのと同じく、日本で顧みられなくなることは残念至極といわざるをえません。

そのようなことがないように、このブログでは、安倍晋三氏の原理原則について、折をみて掲載し続けます。まずは、下に安倍氏の写真と、英語の論文とその翻訳を掲載します。

故郷の山口へ墓参りに帰った安倍氏 クリックすると拡大します


US Strategic Ambiguity Over Taiwan Must End
Apr 12, 2022
ABE SHINZŌ

For 40 years, the United States has made a point of not saying whether it would defend Taiwan against a Chinese invasion, an approach that proved effective in deterring rash action by China and by pro-independence Taiwanese. But now that circumstances have changed, so, too, must America's strategy.

TOKYO – Russia’s invasion of Ukraine has reminded many people of the fraught relationship between China and Taiwan. But while there are three similarities between the situation in Ukraine and Taiwan, there are also significant differences.

The first similarity is that there is a very large military power gap between Taiwan and China, just as there was between Ukraine and Russia. Moreover, that gap is growing larger every year.

Second, neither Ukraine nor Taiwan has formal military allies. Both countries are forced to confront threats or attacks alone.

Third, because both Russia and China are permanent, veto-wielding members of the United Nations Security Council, the UN’s mediation function cannot be relied upon for conflicts in which they are involved. This has been the case with the current Russian attack on Ukraine, and it would also be the case in any crisis over Taiwan.

But the situation surrounding Taiwan is even more uneasy. While Taiwan has no allies, it does have the Taiwan Relations Act, a 1979 US law requiring the United States to provide Taiwan with the military equipment and supplies “necessary to enable Taiwan to maintain a sufficient self-defense capacity.” This law has functioned as a form of compensation for America’s unwillingness to say explicitly that it will “defend Taiwan” should it be attacked. This arrangement should now change.

In response to Russia’s aggression against Ukraine, the US stated early on that it would not deploy its troops in Ukraine’s defense. But when it comes to Taiwan, the US has adopted a policy of strategic ambiguity. This is the second point of difference: it remains unclear whether the US would intervene by force in a crisis involving Taiwan.

Don't miss what David Miliband, Laura Chinchilla, Bill McKibben, Mohamed Nasheed, and more had to say at our latest virtual event, Forsaken Futures.

Because the US prefers to leave undefined its position on how it would respond to an assault on Taiwan, China has (at least up to now) been discouraged from military adventurism. This is so because China’s rulers must account for the possibility that the US would indeed intervene militarily. At the same time, US ambiguity has forced Taiwan to consider the possibility that the US will not intervene militarily, and this has deterred radical pro-independence groups on the island.

The US has maintained its Janus-faced policy for decades. But the third, most important difference between Ukraine and Taiwan suggests strongly that it is time for the US to reconsider its approach. Simply put, whereas Ukraine is an independent state beyond any doubt, Taiwan is not.

Russia’s invasion is not only an armed violation of Ukraine’s territorial sovereignty, but also an attempt to overthrow the government of a sovereign state with missiles and shells. On this point, there is no controversy in the international community over the interpretation of international law and the UN Charter. While the extent to which countries participate in sanctions against Russia has differed, no country has claimed that Russia is not in serious violation of international law.

By contrast, China claims that Taiwan is “part of its own country,” and the US and Japanese position is to respect this claim. Neither Japan nor the US has official diplomatic relations with Taiwan, and most countries around the world do not recognize Taiwan as a sovereign state. Unlike in Ukraine, Chinese leaders could claim that any invasion of Taiwan that China launches is necessary to suppress anti-government activities in one of its own regions, and that such acts therefore would not violate international law.

When Russia annexed Crimea, the international community ultimately acquiesced, even though Russia had violated Ukrainian sovereignty. Given this precedent, it is not surprising that Chinese leaders may very well expect the world to be more tolerant should they, too, adopt the logic of “regional” – rather than national – subjugation.

This logic has made strategic ambiguity untenable. The policy of ambiguity worked extremely well as long as the US was strong enough to maintain it, and as long as China was far inferior to the US in military power. But those days are over. The US policy of ambiguity toward Taiwan is now fostering instability in the Indo-Pacific region, by encouraging China to underestimate US resolve, while making the government in Taipei unnecessarily anxious.

Given the change in circumstances since the policy of strategic ambiguity was adopted, the US should issue a statement that is not open to misinterpretation or multiple interpretations. The time has come for the US to make clear that it will defend Taiwan against any attempted Chinese invasion.

Whenever I met President Xi Jinping during my time as prime minister, I always made it a rule to convey clearly to him that he should not misjudge Japan’s intention to defend the Senkaku Islands, and that Japan’s intentions were unwavering. The human tragedy that has befallen Ukraine has taught us a bitter lesson. There must no longer be any room for doubt in our resolve concerning Taiwan, and in our determination to defend freedom, democracy, human rights, and the rule of law.



台湾をめぐる米国の戦略的曖昧さは解消されなければならない

米国は40年来、中国の侵攻に対して台湾を防衛するかどうかを明言せず、中国や台湾独立派の軽率な行動を抑止するのに有効な方法をとってきた。しかし、状況が変わった今、アメリカの戦略もまた変化しなければならない。

東京 - ロシアのウクライナ侵攻は、多くの人々に中国と台湾の不安定な関係を思い起こさせている。しかし、ウクライナと台湾の状況には3つの類似点がある一方で、大きな相違点もある。

第一の共通点は、ウクライナとロシアがそうであったように、台湾と中国の間には非常に大きな軍事力の差があることである。しかも、その差は年々大きくなっている。

第二に、ウクライナも台湾も正式な軍事同盟を結んでいない。両国とも単独で脅威や攻撃に立ち向かわざるを得ない。

第三に、ロシアも中国も国連安保理の常任理事国であり、拒否権を持っているため、両者が関与する紛争では国連の調停機能が頼りにならない。今回のロシアのウクライナ攻撃もそうだったし、台湾をめぐる危機もそうだろう。

しかし、台湾をめぐる状況はさらに不安である。台湾には同盟国はないが、台湾関係法という1979年に米国が制定した法律があり、「台湾が十分な自衛能力を維持するために必要な」軍備や物資を台湾に提供することを義務付けている。この法律は、台湾が攻撃された場合、アメリカが「台湾を守る」と明言しないことに対する補償として機能してきた。今こそ、この仕組みを変えるべきだろう。

ロシアのウクライナ侵略に対して、アメリカは早くから「ウクライナ防衛のために軍隊を派遣しない」と表明してきた。しかし、台湾に関しては、米国は戦略的曖昧さの政策をとっている。これが第二の相違点であり、米国が台湾の危機に武力介入するかどうかは依然として不明である。

米国は台湾への攻撃にどう対応するかという立場を未確定にしたがるので、中国は(少なくともこれまでは)軍事的冒険主義を思いとどまることができた。これは、中国の統治者が、米国が本当に軍事介入してくる可能性を考慮しなければならないからである。一方、台湾は米国の曖昧さによって、米国が軍事介入しない可能性を考慮せざるを得なくなり、台湾の過激な独立派を抑止することができた。

米国は何十年もの間、ヤヌス顔負けの政策を維持してきた。しかし、ウクライナと台湾の第三の、最も重要な違いは、米国がそのアプローチを再考する時期に来ていることを強く示唆している。簡単に言えば、ウクライナは疑いようのない独立国家であるのに対し、台湾はそうではないのだ。

ロシアの侵攻は、ウクライナの領土主権に対する武力侵害であるだけでなく、ミサイルと砲弾で主権国家の政府を転覆させようとするものである。この点については、国際法や国連憲章の解釈をめぐって、国際社会で論争が起こることはない。ロシアに対する制裁に参加する国の程度は異なるが、ロシアが重大な国際法違反をしていないと主張する国はない。

これに対し、中国は台湾を「自国の一部」と主張し、日米はこれを尊重する立場である。日本も米国も台湾と正式な外交関係を結んでおらず、世界のほとんどの国が台湾を主権国家として認めていない。ウクライナと異なり、中国が台湾に侵攻しても、自国の一地域の反政府活動を抑えるために必要なことであり、国際法には違反しないと主張することも可能である。

ロシアがクリミアを併合したとき、国際社会は結局、ロシアがウクライナの主権を侵害しているにもかかわらず、これを容認してしまった。このような前例がある以上、中国の指導者たちが、自分たちも国家ではなく「地域」を従属させる論理を採用すれば、世界がもっと寛容になってくれると期待してもおかしくはないだろう。

この論理によって、戦略的な曖昧さは通用しなくなった。米国がそれを維持するだけの力を持ち、中国が軍事力で米国にはるかに劣る間は、曖昧さの政策は非常にうまく機能していた。しかし、そのような時代は終わったのである。米国の台湾に対する曖昧さ政策は、中国に米国の決意を過小評価させ、台北政府を不必要に不安にさせることによって、インド太平洋地域の不安定さを助長しているのである。

戦略的曖昧さ政策が採用された後の状況の変化を考慮し、米国は誤解や複数の解釈ができないような声明を出すべきである。米国は、中国によるいかなる侵略の試みに対しても、台湾を防衛することを明確にする時が来たのである。

私は首相時代に習近平国家主席に会うたびに、尖閣諸島を守るという日本の意思を見誤ってはいけない、日本の意思は揺るがないということを明確に伝えるようにしてきた。ウクライナに降りかかった人間の悲劇は、私たちに苦い教訓を与えてくれた。台湾に関する我々の決意、そして自由、民主主義、人権、法の支配を守るという我々の決意に、もはや疑いの余地はないはずである。

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2022年9月18日日曜日

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通―【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

ポーランド、ロシア領迂回の運河開通

ポーランドのグダニスクから見たバルト海

 ポーランドは17日、バルト海(Baltic Sea)から同国北部のエルブロンク(Elblag)港まで、ロシアの領海を迂回(うかい)して入港できる運河を開通させた。

 エルブロンクは、地峡と呼ばれる細長い陸地によってバルト海と隔てられている。これまではロシアのカリーニングラード湾(Kaliningrad Bay)にあるバルティスク(Baltiisk)の近くを航行するほかなく、ロシア当局の許可を要した。新たな運河は、ポーランドの町クリニツァモルスカ(Krynica Morska)の西方約5キロの同国領内を通っている。

   17日の開通式に出席したアンジェイ・ドゥダ(Andrzej Duda)大統領は「わが国に対して友好的でない国の認可をこれ以上求めずに済むよう、このルートを開通させたかった」と述べた。

 当面、新運河を航行できるのは小型船のみだが、ポーランド当局によると来年9月までに全長100メートル、幅20メートルまでの船舶の航行を可能にするため引き続き、総額20億ズロチ(約610億円)規模の工事が行われている。

 一方、環境保護活動家などからは、運河の建設によってビスラニー湾(Wislany Bay)の塩分濃度が変化し、生態系が脅かされるとの批判が上がっている。

【私の論評】NATO艦隊がヴィスワ潟湖を利用できれば、ロシアとしては心穏やかではない(゚д゚)!

上の記事では、地図がないので、何を言っているのかよくわからない人も多かったのではないかと思います。下に掲載した地図をご覧いただければ、良くご理解いただけるのではないかと思います。


従来の航路では、ポーランドの船は、ロシアの飛び地であるカリーニングラードの領海および内水の通過航行許可を取得してポーランドのエルブ ロング港まで航行しなければならなかったが、ヴィスワ砂州横断運河が完成し、ロシア領海および内水の通 過航行許可は必要なくなるということです。

ヴィスワ砂州横断運河建設計画では、35,000DWT級貨物船(最大載貨重量35,000t)、許容喫水12m、最大全長200mの船舶が航行できるようになります。完成すると大型船舶の航行が可能になり、エルブロンクの港湾・コンテナターミナル整備による物流活性化、グダンスク、グディニャ、ソポットの港湾の混雑緩和、エルブロンクの観光業振興、NATOの軍事面での東方防衛強化が図れると期待されています。

下は、ヴィスワ砂州横断運河の予想図です。予想図の奥がバルト海、手前がヴィスワ潟湖。2つの旋回橋で交通が制御、水門で水位が調整さ れます。


バルト海からポーランド領域内でのヴィスワ潟湖へのアクセスを実現するプランは、第二次世界大戦後の早い時期から存在していました。1945年には、戦前に商工省大臣、副首相兼財務大臣を歴任しグディニャ港の建設を主導したエウゲニウシュ・クファトコフスキがヴィスワ砂州横断運河建設を計画したが、実現には至りませんでした。

現在でも、この計画には、バルト海からヴィスワ潟湖への唯一の海峡を有しその航行の既得権を持つロシア側からの強い反発があります。また、ヴィスワ潟湖の生態系を破壊し、自然環境が悪化するという内外の反発も強いです。

世界で唯一のエロブロンク運河の水陸両用挺

しかしながら、ポーランド政府は、2022年頃の完成を目指して、着々と準備を進めてきました。ヴィスワ砂州横断運河が完成し、エルブロンク港が整備されたとして、それが経済的にどのくらい波及効果を持つかという問題もありますが、少なくとも、ポーランドとロシア(カリーニングラード)をまたぐ潟湖へのバルト海からの進入のコントロール権は、ロシアの独占が崩れることになります。特に、NATOの艦隊がここを利用できることになれば、ロシアとしては心穏やかでなないでしょう。

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2022年9月17日土曜日

比の潜水艦導入に仏が前向き―【私の論評】国軍近代化を目指している、フィリピンのマルコス政権に日本も協力すべき(゚д゚)!

比の潜水艦導入に仏が前向き

フランスとスペインが共同開発したスコルペヌ型潜水艦


【まとめ】

・フィリピンがフランスから潜水艦2隻を導入することについて、両国政府間で協議が開始。

・米がフィリピンへの通常型潜水艦供与に乗り出せば、フランスはまたもや米との潜水艦導入競争に直面する可能性も。

・南シナ海の海洋権益を主張してフィリピンと領有権問題が生じている中国からは、潜水艦導入への猛反発が予想される。

 フィリピン海軍の長年の夢である潜水艦の保有に関してフランスが前向きであることが明らかになった。東南アジアではインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ミャンマーの5カ国が潜水艦を導入し実際に運用している。

 このように東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国のうちすでに半数の国が潜水艦を導入しており、フィリピンはかねてから潜水艦取得に意欲をみせていたが、なかなか実現していなかった。

 9月13日にフランスは「フィリピン海軍の潜水艦を艦隊に含めた近代化計画に関してフィリピンを支援しかつ協力する準備が整っている」と前向きの姿勢を示し、フランスからの潜水艦導入が本格的に動き出す可能性が出てきた。

 フィリピンは南シナ海で中国との間で領有権問題を抱え、中国海軍艦艇や海警局船舶などによる領海侵犯や排他的経済水域(EEZ)内での違法操業などに長年悩まされているという問題がある。

 またフランス側にも2021年9月16日にオーストラリアがすでにフランスと契約していた潜水艦12隻の導入計画を破棄した。

 この時フランス政府は「我々は裏切られた」と怒りを爆発させた経緯がある。オーストラリアはその後米に原子力潜水艦を発注する事態に直面し、フランスとしては新たな契約先を模索しているという事情があり、フランスとフィリピン双方の思惑が一致した結果となったとの見方が有力だ。

★在比フランス大使が言及

 フィリピンの現地報道などによると、9月13日に在フィリピン・フランス大使館のミシェル・ボッゴズ大使がフィリピン海軍記念日の記念式典後の記者会見で「フランスはフィリピンと緊密に協力して戦略的な関係を構築することにコミットしているので準備はできている」として両国政府間ですでに潜水艦2隻の導入に関して協議を始めていることを明らかにした。

 具体的にはフランスの造船会社「ネイバル・グループ」との間で潜水艦とその関連施設を設計・建造することで協議が進んでいるという。

 さらにフランス側は「要員を派遣して潜水艦乗組員の教育、訓練、技術移転をすることも検討している」として全面的に支援する姿勢を示している。

 フィリピン政府はまだ潜水艦導入に関してフランス政府となんら合意、調印、契約には至っていないが、フランス側の積極的な「売り込み」に具体的な検討に着手する可能性が高いとみられている。

 フィリピンは2018年にロシアとの間で潜水艦導入を検討したことがあり2021年にも韓国との間で検討されたものの、いずれも正式な契約には至らなかった経緯があるという。

★米と競争か フランスの通常型潜水艦

 フランスがオーストラリアに総額500億ドルともいわれる潜水艦12隻の導入計画をキャンセルされた背景には、フランスの潜水艦は通常型潜水艦で原潜に比較すると潜水時間が限定的で長期間の潜航はできないことがあるのは間違いない。

 さらに米英豪による軍事同盟である「AUKUS」が2021年9月15日に設立が発表され、その直後にオーストラリアはフランスとの契約を破棄し、その後米原潜の導入を決めた。

 これは、南シナ海や太平洋での潜水艦作戦には長期潜航可能な原潜が必要との判断によるものとされている。

 もっともその理由以外に、遥か彼方のフランスより太平洋や南シナ海で共同訓練や作戦行動を共にする米海軍との関係を重視した結果の選択といわれている。

 フィリピン海軍が原潜を運用することはかなり非現実的だが、今後の進展次第では米がフィリピン海軍の近代化を含めて通常型潜水艦供与に乗り出してくる可能性も否定できず、フランスはオーストラリアに続いてフィリピンでも米との潜水艦導入競争に直面する可能性も予想されている。

★ASEANの潜水艦事情

 ASEAN各国ではシンガポールが6隻のスウェーデン製潜水艦を有用しているほか、インドネシアが韓国、西ドイツ、自国製の5隻を保有、マレーシアがフランスから2隻を導入、ベトナムは6隻をロシアから導入しているとされ、ミャンマーも2021年に中国製1隻を導入したとされている。

 このようにASEAN各国海軍の潜水艦戦力はその多くが旧式の通常型潜水艦とはいえ一定の能力を維持している。

 今後フィリピンがフランスから潜水艦を導入すればASEANでは最新鋭の潜水艦となる可能性が高く、南シナ海で一方的に広大な海域での海洋権益を主張してベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンとの間で領有権問題が生じ、一部の島嶼や環礁に港湾施設や空港、レーダーサイトなどの軍事施設を建設している中国が、フィリピンの潜水艦導入計画に対して猛反発してくることが予想されている。

【私の論評】国軍近代化を目指している、フィリピンのマルコス政権に日本も協力すべき(゚д゚)!

フィリピンは群島国家であり同時に海洋国家であり、特に南シナ海では中国との間で領有権を巡る争いを抱えており、海軍力の近代化、整備がドゥテルテ政権の喫緊の課題となっていました。

ドゥテルテ・フィリピン大統領と安倍総理

2018年にはフィリピンの国防相が「ロシアあるいは韓国」を念頭にして潜水艦導入計画があることを示唆したものの、その後計画は一向に具体化していませんでした。今回フランス製潜水艦導入が実現すればフィリピン海軍としては史上初の潜水艦保有となります。

フィリピンやインドネシアという群島国家、さらにマレー半島とボルネオ島に領土を持つマレーシア、南シナ海に面したベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国には海洋権益保護や海上警戒警備のために海軍力の整備近代化、多角的な運用が求められている国が存在します。

しかし潜水艦となるとシンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムがそれぞれ新造艦や中古艦を保有しているものの、フィリピンはこれまで保有していなかったという経緯があります。

ASEANの潜水艦保有国の中でシンガポール以外のマレーシア、ベトナムは南シナ海で中国と直接領有権問題を抱え、インドネシアは南シナ海南端のインドネシア領ナツナ諸島の北方海域に広がる排他的経済水域(EEZ)への中国漁船の侵入、不法操業という問題に直面しています。

こうしたことから東で太平洋に面し、西で南シナ海に面しながら唯一潜水艦を持たないフィリピン政府や海軍にとって「潜水艦保有」は長年の宿願でした。

2018年6月にはフィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防相が潜水艦導入計画で「ロシアと韓国を視野に入れている」と発言したことが地元紙に報じられました。

ロレンザーナ国防相は「海軍近代化プログラムの中で潜水艦を導入する方針を決めた」と改めて強調し「ロシア、韓国そしてそれ以外の国も視野に入れている。潜水艦の建造には5~8年かかるため、なるべく早く発注したい」との意向を明らかにしました。

この時もロレンザーナ国防相は「隣国であるマレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムは潜水艦を保有しているのに、フィリピンだけが持っていない。フィリピンの安全保障のためにも潜水艦は必要だ」として、潜水艦保有への熱い思いを語っていました。

フランスの造船会社「ネイバル・グループ」関係者は潜水艦導入計画が今後具体化すれば「乗組員の教育訓練に加えて潜水艦の運用、修理点検整備など全ての面でフィリピン海軍と協力関係を築くことができる」として全面的にサポートする姿勢を強調していました。

ただ、ドゥテルテ政権は他の主要ASEAN加盟国と同様に深刻なコロナ禍とそれに伴う経済不況に直面していました。新型コロナウイルスの感染者数、感染死者数ではフィリピンは域内でインドネシアに次ぐワースト2を記録し続けていました。

こうした未曾有の事態で一般国民がコロナ感染とそれに伴う失業や生活困窮などに喘ぐなか「いくら国防のためとはいえ潜水艦導入を今積極的に進める必要が本当にあるのか」との意見も根強く、結局はドゥテルテ政権では実現しませんでした。

自国の防衛力強化に関して、新マルコス政権は、ラモス政権期に制定されながら予算不足により空文化していた国軍近代化法を更新、空軍力と海軍力の強化に力点を置いた国軍近代化を目指すことになりました。

この海軍力の強化の一環として行われるのが、今回のフィリピンにおける潜水艦導入のフランスとの協議ということができます。


フィリピンの安全保証は、我が国にとっても重要です。日本のシーレンはフィリピンと台湾の間に位置します。日本では、台湾有事は日本の有事ということがいわれていますが、フィリピン有事も我が国に深刻な悪影響を及ぼすのは確実です。

そのため、フィリピンが潜水艦を保有するということは、我が国の安全保証にも寄与することとなり、我が国にとっても歓迎すべきことです。

フィリピと日本との間でも安全保障協力を進めています。2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説は、海洋における法の支配を強調する内容であり、中国を名指しこそしないものの、南シナ海における中国の行動に焦点を当てる内容であり、当時のアキノ政権の立場と共鳴するものでありました。

2014年のシャングリラ・ダイアログにおける当時の安倍首相の演説

これ以降は、海上法執行機関に対する巡視船供与や専門家派遣に加え、防衛装備品移転や輸出が実現するなど、日比間の安全保障協力が強化されてきました。また、2012年の巨大台風ハイエンからの復興支援においては、自衛隊の艦艇が、第二次世界大戦の激戦地レイテに寄港し、復興支援に従事するなど、災害援助においても自衛隊の役割が拡大したといえます。

そうして、今年4月には、日本とフィリピンの初めての「2プラス2」が開催されました。日本側から林外務大臣と岸防衛大臣が、フィリピン側からロクシン外相とロレンザーナ国防相が出席し、東京都内で行われました。

冒頭、林大臣は「中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは東シナ海や南シナ海でも継続しており、われわれは国際秩序に対する多くの挑戦に直面している」と述べました。

協議で取りまとめられた共同声明では、海洋進出を強める中国を念頭に、東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明し、緊張を高める行為に強く反対しました。

そして、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、悲惨な人道上の影響が出ていると非難するとともに、こうした侵攻は、力による一方的な現状変更を認めない国際秩序の根幹を危うくし、ヨーロッパにとどまらずアジアにも影響を及ぼすという認識を共有しました。

また、日本・フィリピン両国の間で防衛装備品や技術の移転を進めるとともに、自衛隊とフィリピン軍との間で物品などの相互提供を円滑にするための枠組みについて検討を始めるなど、防衛協力を強化していくことで一致しました。

日本は、今後もフィリピンのマルコス政権と安全保障面で協力し、 インド太平洋地域の安定に寄与していくべきです。

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2022年9月16日金曜日

同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判―【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)!

同盟国のカザフスタン元首相がプーチン政権を批判

カザフスタンのアケジャン・カジェゲリディン元首相

 ロシアのウクライナ侵攻を巡り、ロシアの同盟国である中央アジアのカザフスタンの元首相がプーチン政権を批判し、ソ連崩壊を繰り返すことになると警告しました。

 カザフスタンのアケジャン・カジェゲリディン元首相は、ドイツメディアのインタビューに答え、ロシアのウクライナ侵攻を巡るロシア側の主張を「理解できない要求」だと批判しました。

 また、ロシア国内で中央政府に対する地方の不満が高まっていて、ソ連邦崩壊時と同じ状況に陥っているとし、ロシアが連邦制を維持できず政治的に分裂する可能性があると指摘しました。

 カザフスタンは、石油や天然ガスなど豊富な資源を有していて、ロシアにとって重要な同盟国です。

 先月には、カザフスタンだけでなくキルギス、タジキスタンもアメリカなどと共同軍事演習をするなど、中央アジアの国々のロシア離れが進んでいます。

【私の論評】米中露の中央アジアでの覇権争いを理解しなければ、中央アジアの動きや、ウクライナとの関連を理解できない(゚д゚)!

カザフスタンについては、今年の1月トカエフ大統領は11日、抗議デモを鎮圧するため先週派遣を要請したロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が2日後に撤退を開始すると表明したことをこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!
カザフスタン トカエフ大統領

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より結論部分を引用します。
中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。
カザフスタン情勢は、プーチンや習近平にとって、鬼門ともいって良いような、恐るべき地政学上の脅威です。
バイデン氏が副大統領だった2013年11月、ウクライナのヤヌコーヴィチ大統領が率いる親露政権を転覆させようと、当時のバイデン副大統領やヌーランド国務次官補などマイダン革命を起こし、遂にヤヌコーヴィチをウクライナから追い出すことに成功しました。

こうして2014年6月に、バイデン氏は、米国の傀儡政権であるようなポロシェンコ政権を樹立させました。ただ、米国も予想していなかったようですが、ポロシェンコ政権はあまりに腐敗が酷すぎ、結局その後コメディアンであるゼレンスキーにとって変わられたのです。

ウクライナ大統領選におけるポロシェンコ(左)とゼレンスキー(右)

そうして、バイデンの画策というか、大括りでいえばオバマ政権の画策は、実はこれに留まりませんでした。その中の一つに、2015年11月に設立された「C5+1」があります。

これは米国が、プーチンが自らの「縄張り」と考える「中央アジア5ヵ国」に入り込んで、「5ヵ国」に支援をして、米国寄りにしていこうという目論見に基づき設立されたもので、「中央アジア5ヵ国+米国」外相会談を意味します。

バイデンとしてはウクライナをコントロールできるようにしたことだけでは不安を感じたのでしょう。プーチンの周りにはCSTOという軍事同盟もあるので、「中央アジア5ヵ国」を切り崩しておかないと不安だという思いがあったにちがいないです。


米シンクタンク、戦争研究所は今月15日の戦況分析で、ロシアがウクライナ侵攻に伴い旧ソ連諸国の基地に駐留する部隊を動員したことで、同諸国でロシアの影響力が弱まり、地域情勢が不安定化している可能性を指摘しました。

ウクライナ侵攻後に中央アジアのタジキスタンとキルギスの国境での軍事衝突や、アルメニアとアゼルバイジャンとの間で係争地ナゴルノカラバフを巡る争いが再燃しています。

戦争研究所は欧米メディアを引用し、タジキスタンのロシア軍基地からは約1500人がウクライナに派遣され、さらに600人が動員される予定としました。

米中露は、元々中央アジアで熾烈な争いをしていたのです。そうして、カザフスタンは中央アジアでは人口は最大であり、経済も一人あたりGDPでは1万ドルを少し超えたロシアよりは、低い9千ドル台にすぎないのですが、それにしても国全体では中央アジアで一番経済規模が大きいです。この国の動きは、中央アジア諸国に大きな影響を与えることになります。

現状では、プーチンはウクライナ戦争で手一杯ですし、ウクライナ戦争の本当の相手は、米国であることは十分に承知しているでしょう。最近もこのブログで示したように、こうした米国の存在がなければ、プーチンと習近平は、ユーラシア大陸の覇権を巡って戦うことになるでしょうが、今はそれどころではありません。

プーチンは、中央アジア5ヵ国の心が「バイデン」になびきさえしなければ、習近平にどんなことでも譲歩しようと考えているに違いありません。

日本では、米国の野心である、中央アジアでの「C5+1」のことがあまり報道されておらず、中央アジアの今日の動きや、ウクライナとの関連がが理解されていないようです。

これを理解しないと中央アジアの国々のロシア離れがなぜ進んでいるのか、その本質は理解できないです。なんの背景も説明せずに、カザフスタンの元首相がプーチン批判をしたことや、旧ソ連諸国の基地に駐留する部隊を動員したことで、同諸国でロシアの影響力が弱まり、地域情勢が不安定化ことだけを個別に報道したとしても、ほとんど無意味です。

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2022年9月15日木曜日

日米で「エネルギー・ドミナンス」確立せよ かじ切らなければ中国に打倒される 石炭生産で日本の2倍、原発の発電能力で米仏を追い抜く規模に―【私の論評】小粒な岸田・林には無理だが、安倍元総理なら、ポンペオ氏を凌駕する新概念を打ち出したかも(゚д゚)!

官製エネルギー危機

マイク・ポンペオ氏

 ドナルド・トランプ前米政権の国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏が「ウクライナの戦争は、なぜ世界が米国の『エネルギー・ドミナンス(優勢)』を必要とするのかを明らかにした」という論説を発表した。これは米国共和党の考えをよく要約している。

 《バイデン米政権は、米国の石油、天然ガス、石炭、原子力を敵視してきた。これがなければ、米国も欧州も戦略的にはるかに有利な立場にあり、プーチンのウクライナでの戦争を抑止できた》《欧州はロシアのエネルギー供給に依存して脆弱(ぜいじゃく)性をつくり出してきた。だが、本来は、そのエネルギーは米国が供給すべきものだったのだ》

 《われわれは、米国のエネルギーの力を解き放たねばならない。天然ガスやクリーンコールなどのクリーンエネルギーを、欧州やインド太平洋地域の同盟国に輸出する努力を倍加させねばならない》《われわれ共和党は秋の中間選挙で大勝し、民主党の環境に固執したエネルギー政策を覆し、米国のエネルギー・ドミナンスを取り戻す》

 何と力強い言であろうか。

 これから秋の中間選挙、そして次の大統領選挙を経て、米国共和党が世界を変えてゆく可能性はかなり高い。日本は、そのときの対米関係まで予想して、バイデン政権下での「再エネ・EV一本やりの空想的なグリーンエネルギー政策」とは距離を置くべきだ。

 具体的にはどうするか。

 日本は資源に乏しいので単独ではエネルギー・ドミナンスを達成することはできない。だが、米国とともにアジア太平洋におけるエネルギー・ドミナンスを達成することはできる。それは、ポンペオ氏が指摘しているように、天然ガス、石炭火力、原子力などを国内で最大限活用すること、そして、友好国の資源開発および発電事業に協力することだ。

 いま日米が「エネルギー・ドミナンス」にかじを切らなければ、中国に打倒されるだろう。

 ウクライナ戦争後のエネルギー危機を受けて、中国は年間3億トンの石炭生産能力を増強することを決定した。これだけで日本の年間石炭消費量の2倍近くだ。また中国は25年に原発の発電能力を7000万キロワットまで増やす計画で、30年には1億2000万キロワットから1億5000万キロワットを視野に建設認可を進めている。これはフランスと米国を追い抜く規模である。

 安価で安定した電力供給を中国が確立する一方で、「脱炭素」で高コスト化し脆弱(ぜいじゃく)な電力しか日米になければ、われわれは戦えるだろうか?

■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな』(かや書房)など。

【私の論評】小粒な岸田・林には無理だが、安倍元総理なら、ポンペオ氏を凌駕する新概念を打ち出したかも(゚д゚)!

英語の dominanceとは、「支配的な立場」ということです。日米がこれを取らなければ、中国に負けてしまうというのです。これは、確かにそうです。私達は、未だ空想科学小説の域を出ない、再生可能エネルギーなどに頼ることはできません。

ポンペオ氏の英語の論文は以下のリンクからご覧になれます。
War in Ukraine Shows Why World Needs US Energy Dominance
以下にこの論文のポイントを掲載します。
・ロシアのウクライナ戦争が激化する中、バイデン政権は混乱と弱腰で対応し続けている。この危機の最中もそれ以前も、バイデン大統領の失敗の中心は、同政権が米国のエネルギーを敵視してきたことだ。

・トランプ政権では、同盟国がロシアのエネルギーに依存しないようにしてきた。 パイプライン「ノルドストリーム2」の完成を制裁して阻止し、米国のエネルギーの独立性と優位性を確立することで、世界で最もクリーンな化石燃料を安価かつ効率的にパートナーに輸送することができた。

・我々は米国エネルギー産業の能力を解き放った。エネルギーの優位性は米国に大きな外交力を与えた。

・バイデン大統領がこの政策を放棄したことで、プーチンは欧州で即座に力を持ち、影響力を持つようになった。 ロシアの石油、天然ガス、石炭の流れは、プーチンの周りを潤し、国内権力を強固にする一方で、消費国、特にドイツに対して直接的な影響力を与え、最悪の場合、戦争への準備資金を調達することになった。

・これは、十分に回避できた状況だった。例えば、欧州諸国は石炭をロシアに依存しており、ロシアは石炭生産量の3分の1以上をEUに出荷してきた。本来、米国はこのような重要なニーズを満たさねばならない。だがバイデン政権は、なおも空疎なグリーンディールのレトリックを続け、国内の石炭産業を潰し続けるのか?

・気候変動について金切り声を上げる進歩的な活動家に後押しされ、バイデン大統領の政権はアメリカの石油、天然ガス、石炭、原子力を敵対視してきた。 もし、これらの経済の重要な部門を妨げるような政策が実施されていなければ、米国も欧州も戦略的にはるかに有利な立場にあり、プーチンのウクライナでの違法な戦争を抑止できたかもしれない。

・アメリカ人がクリーンエネルギーを懸念していることは理解しており、だからこそ、人類のための電力という新しい国策の重要な要素として、自然エネルギーと原子力を支持し続ける必要がある。だが一方で、

・アメリカの石油と天然ガスは短期的にも、長期的にも答えとなるものだ。

・バイデン政権の歪んだ現実観は、アメリカ経済や安全保障ではなく、気候変動を最優先事項としており、これは悲しいかな変わりそうもない。

・われわれは、米国のエネルギーの力を解き放たなければならない。液化天然ガスやクリーンコールなどのクリーンエネルギーを、欧州やインド太平洋地域の同盟国に輸出する努力を倍加させなければならない。

・もしバイデン大統領がこれを実行する気がなく、現在ホワイトハウスの失敗した政策を動かしている一点集中型の気候変動活動家の言うことばかりを聞いて、国を真にリードする気がないのであれば、我々はそれを共和党の識見によって方向転換させねばならない。それは、我々が次の中間選挙で大勝し、彼の環境に固執したエネルギー政策を覆し、米国のエネルギー・ドミナンスを取り戻すことによって達成される。
そうして、日本はどうすべきかということは、上の記事に掲載されています。
日本は資源に乏しいので単独ではエネルギー・ドミナンスを達成することはできない。だが、米国とともにアジア太平洋におけるエネルギー・ドミナンスを達成することはできる。それは、ポンペオ氏が指摘しているように、天然ガス、石炭火力、原子力などを国内で最大限活用すること、そして、友好国の資源開発および発電事業に協力することだ。

発展途上国においては、ウクライナ戦争以前からエネルギー問題に直面していました。それについては、このブログでも以前解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

破産宣言のスリランカ 債務再編主導を日本に依頼へ―【私の論評】スリランカは、日本に開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させ、その開発・利用への支援を再開して欲しいと願っている(゚д゚)!

スリランカの最大都市コロンボで最近みられる、ガソリンスタンドでたくさんの車やバイクが行列ぎょうれつをつくる光景

ご存知のようにスリランカは財政破綻しましたが、その背景にはエネルギー危機がありました。そうしては、これはスリランカに限らず多くの途上国でみられることです。この記事より、これに関わる部分を引用します。

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いまの開発途上国でのエネルギー危機は、単にウクライナの戦争のせいではありません。近年になって、欧米の圧力によって化石燃料事業への投資が停滞していたことが積み重なって、今日の破滅的な状態を招いているのです。

インド人の研究者である米国ブレークスルー研究所のビジャヤ・ラマチャンドランは科学雑誌Natureに書いています。
「近代的なインフラを最も必要とし、世界の気候変動問題への責任が最も軽い国々に制限を課すことは、気候変動の不公正の極みである」。
ラマチャンドランは、国際援助において、気候変動緩和をすべての融資の中心に据えるという近年の方針について、偽善であり、二枚舌だとして、猛烈に抗議しています。
「それは、経済開発に使える資源を必然的に減らすことになり、しかも地球環境にはほとんど貢献しない。・・なぜそのような努力をするのか。世界銀行とIMFの主要株主である富裕国は、これまでのところ、エビデンスや合理的なトレードオフに基づく気候変動政策の策定にはほとんど関心を示していない。 
それどころか、天然ガスを含む化石燃料への融資を制限し、自国では思いもよらないような制限を世界の最貧国に対して課すことを、自画自賛しているのである。その規制の中には、化石燃料への開発金融をほぼ全面的に禁止することも含まれている。 
世界銀行は、気候変動緩和政策と貧困削減の間の急激なトレードオフを最もよく理解しているはずである。しかし、国内の環境保護団体を喜ばせたい資金提供者が課した条件には従うしかなかったようだ。・・欧州連合は、自分たちはクリーンエネルギーの原子力発電所を停止し、天然ガスの輸出入を増やし、国内の石炭発電所を新たに稼働させる一方で、開発金融機関に対しては、貧困国でのすべての化石燃料プロジェクトを直ちに排除するよう主張している。」
「さらに悪いことに、EUの官僚たちは現在、『何がクリーンエネルギーか』をめぐって一進一退の攻防を繰り広げている。燃料不足に直面する加盟国から、原子力や天然ガスまで定義(タクソノミー)を拡大するよう圧力がかかっている。その一方でEUの広報担当者は、“EUの柔軟な分類法は、開発政策に反映されることはない”と明言した。つまり天然ガスはヨーロッパ人にとってはグリーンだが、アジアやアフリカの人々にとっては事実上禁止されるということだ。」
何十億人の人々が、先進国のエリートたちによって、化石燃料のない、貧困に満ちた未来へと組織的に強制されているのです。気候危機説を信奉する指導者たちが、開発途上国の化石燃料使用を抑圧しているからです。哲学者のオルフェミ・O・タイウォは、この現象を「気候植民地主義」と呼んでいます。
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さらに中国に関わる部分を引用します。
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他方で、能力を有する諸国は、エネルギー増産に励んでいます。国際価格が暴騰したのだから、当然の行動です。

中でも、すでに世界最大の石炭消費国である中国は、エネルギー不足を食い止めるため、生産量の増加に躍起になっています。昨年は世界最多の41億トンの石炭を生産していたのですが、2022年には更に3億トンの生産を追加する計画です。

2021年7月から10月にかけては、年間2億7000万トンの生産能力を追加しており、これは南アフリカの全年間生産量(年間約2億4000万トン)を上回ります。

また、中国には新たな炭鉱計画があり、今後数年間でさらに年間5億5900万トンの生産能力を追加する予定である。これは、世界第3位の石炭生産国であるインドネシアの年間生産量(年間5億6400万トン)よりも多いです。

中国は資金も技術もあるので増産できます。ところが殆どの開発途上国は資金も技術も欠いていて、たとえ資源を有していても、エネルギー不足と価格高騰の窮状にあえいでいまう。これを助けないならば、一体何のための国際支援なのでしょうか。

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発展途上国の成長を妨げる、エネルギー問題に終止符を打つためにも、日米で「エネルギー・ドミナンス」確立するという考え方は、有効です。

日米は、発展途上国に中露よりも優れたエネルギー生産技術や省エネ技術を提供することにより、特に日本はエネルギーを確保するとともに、米国とともに「エネルギー・ドミナンス」を確立することができます。

特に日本は、世界一クリーンといわれる石炭火力発電技術、その他にも高度な化石燃料の掘削技術もあります。 CO2の排出を抑える技術もあります。

この技術を提供して、発展途上国のエネルギー産業の振興に努め、日本はそれらの国々からエネルギー資源を獲得するという双方にとって良い関係を築くことができます。

日本もその方向に舵を切るべきです。まずは、原発の再稼働です。それに関しては、高橋洋一の以下の動画をご覧いただければ、御理解いただけるものと思います。


高橋洋一氏によれば、検査中も含めた稼働予定の原発と廃炉予定の原発を除いて、現在日本には残りの16基の原発があり、トータル33基動かせる可能性がある原発があるということです。

岸田首相は、この残り16基の原発には触れずじまいで、新たな原発の建造等について語っているわけです。現状では新原発建造にはかなりの年月を要します。既存の原発はすべて数十年を費やしています。

無論、最近は小型原発も開発されており、それが使えるようになれば、かなり建造期間は短くなりますが、それはあくまで将来の話しです。現状では未だかなり時間がかかると見て良いです。

やはり、現状のエネルギー危機に対応するには、既存の16基も稼働できるものは稼働すべきです。

このことに触れない、岸田総理はやはりエネルギー問題に関しては、疎いとしか言いようがありません。そうして、これに触れないマスコミも小鳥脳と謗られても反論できないと思います。ポンペオ氏とは対照的です。

安倍元総理が存命であれば、ポンペオ氏の「エネルギー・ドミナンス」の論文の発表があれば、それに呼応するか、いや、それに先立って発展途上国のエネルギー危機についても、考慮して、先進国だけではなく発展途上国も含めた「世界エネルギー安全保証」等の新概念を打ち出したかもしれません。


それを、かつて安倍氏が総理大臣に就任したばかりのときに、安全保証のダイヤモンドを投降したProject Syndicateに公表し、もし総理大臣であれば、それに基づき行動し、世界に新たな秩序をもたらしたかもしれません。

それによって、インド太平洋戦略が、世界を変えたように、世界を変えたかもしれません。省エネ技術、化石燃料関連技術も優れた日本ならば、それができた可能性があります。

岸総理、林外務大臣にはそれは無理でしょうが、それでも、ポンペオ氏の「エネルギー・ドミナンス」に呼応して、日本のエネルギー政策を見直し、日米や他の先進国とも協同して、中露の「エネルギー・ドミナンス」に対抗して、エネルギー安全保証に貢献することはできるはずです。

是非その方向に舵を切っていただきたいもてのず。

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2022年9月14日水曜日

トラス英首相の積極財政路線 日本との経済面では緊密関係 安全保障でも対中包囲網の強化を―【私の論評】本格的な「地政学的戦争」の先駆者英国と日本は、これからも協力関係を深めていくべき(゚д゚)!

日本の解き方


リズ・トラスト英首相

 英国でリズ・トラス首相が誕生したが、中国やロシア、欧州連合(EU)などとの関係は変わるのか。日本はどのように連携すべきか。

 就任したばかりのトラス氏は、早速1500億ポンド(約25兆円)規模のエネルギー費対策を発表した。

 トラス氏は保守党の党首争いで、リシ・スナク前財務相と争ったが、スナク氏が財務相経験者らしく緊縮路線だったので、党首争いの流れのまま、積極財政路線を貫いたのだろう。

 具体的には、家計のエネルギー料金の上限を2年間、年2500ポンド(約42万円)程度に抑える計画を発表した。

 家計の年間エネルギー代の平均は4月に54%値上がりして1971ポンド(約33万円)となり、10月には80%上昇して3549ポンド(約59万円)に達する見通しだった。今回の措置は4月よりは高いが、当初予定より引き下げる形になっている。

 英国では、インフレがひどい状況になっている。インフレ率は7月時点で10・1%と1982年2月以来の高水準だ。ロシアによるウクライナ侵攻が主原因であるが、英国がEUを離脱したため、安価な労働力が利用できなくなって、供給サイドの拡大もままならないことも背景にある。

 イングランド銀行(英中央銀行)は10月のインフレ率が13%を超えると予想している。政府は今回の措置がインフレ率を最大5ポイント押し下げると期待する。

 大規模財政出動を懸念する声もあるが、家計や企業が直面している問題の解決には財政出動は大きくないといけない。トラス氏は正しい方向の経済政策を実行しようとしている。

 経済面でいえば、EU離脱後の英国が各国との経済連携を模索する中、日本と経済連携協定(EPA)を締結した。当時の担当大臣はトラス氏だった。このため、経済関係では日本にとってなじみが深い。

 さらに、英国は日本主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも参加の意向を示している。これらの英国の取り組みは、日英にとって好ましいもので、経済関係ではかなり緊密になっているといえるだろう。

 筆者は、日英関係を経済だけに限らず、安全保障まで広げたらいいと思っている。

 もともと経済圏と安全保障圏は、EUと北大西洋条約機構(NATO)との関係を見ればわかるように、かなりオーバーラップしている。経済関係と安全保障関係は互いに補完的であるので当然のことだ。

 であれば、日英が安全保障関係でも連携するのは自然だ。日米安保の関係は揺るぎないが、日本としては英国との関係があってもいい。かつて、日英同盟があり、当時の日本は輝いていた。いま第2の日英同盟があれば、対中包囲網がより強化されるだろう。これをオーストラリアやニュージーランド、さらにはインドまで広げると、対中戦略はかなり万全になるはずだ。

 日本の周辺には、中国、ロシア、北朝鮮と3つも専制国家があり、世界の危険地帯だ。日本の安全保障のためには、民主主義の同盟国が多いほどいい。そのカギを英国は持っている。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】本格的な「地政学的戦争」の先駆者英国と日本は、これからも協力関係を深めていくべき(゚д゚)!

実は、日英には大きな共通点があります。それについては、あまり語られることもないのですが、本当に重要な共通点があります。それについては、以前このブログでも述べたこがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米空母カールビンソン、ベトナム・ダナンに寄港 戦争終結後初 BBC―【私の論評】新たな日米英同盟が、中国の覇権主義を阻む(゚д゚)!
この記事は、2018年のものです。詳細は、この記事ご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
日本と英国といえば、昨年は事実上の日英同盟の復活がありました。2017年8月30日、英国のテリーザ・メイ首相が日本を訪問しました。アジア諸国の歴訪でもなく、メイ首相はただ日本の安倍晋三首相らと会談するためにだけに、日本にまで出向いて来たのです。その目的は、英国と日本の安全保障協力を新たな段階に押し上げることにありました。
日本を訪問した英メイ首相と安倍首相
英国は1968年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明しました。以来、英国はグローバルパワー(世界国家)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきました。ところが、その英国は今、EUからの離脱を決め、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指しています。

そして、そのために欠かせないのが、アジアのパートナー、日本の存在です。日本と英国は第二次世界大戦前後の不幸な時期を除いて、日本の明治維新から現代に至るまで最も親しい関係を続けてきました。

日本の安倍首相とメイ首相は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、その中で、「日英間の安全保障協力の包括的な強化を通じ、われわれのグローバルな安全保障上のパートナーシップを次の段階へと引き上げる……」と述べ、日英関係をパートナーの段階から同盟の関係に発展させることを宣言しました。

そして、「日本の国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の政策と英国の『グローバルな英国』というビジョンにより」と述べ、英国がグローバルパワーとして、日本との同盟関係を活用して、インド太平洋地域の安定に関与していく方針を明確にしました。

この突然ともいえる、日英同盟の復活ですが、これにはそれなりの背景があります。日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っているといえます。
ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本
日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

そうして日英同盟は結局、日英米の三国による同盟関係の追求に発展することでしょう。それは覇権の三国同盟ではなく、新しい安全保障の枠組みとしての「平和と安定の正三角形」になることでしょう。そうして、それこそ、新日英同盟の本当の意味があり、それが実現すれば、日本の国際的地位と外交力は飛躍的に向上することになるでしょう。

昨日は、このブログでユーラシア大陸の中国とロシアについて述べました。 これも以下に引用します。

NATOには、ベルギーに欧州連合軍最高司令部という司令部があります。しかし、両国にはこれに相当するような両国統一の司令部がないですから、一緒に戦えるとは考えられませんし、戦おうともしていないと考えられます。
欧州連合軍最高司令部
 
両国による合同軍事演習や訓練は、政治的なデモンストレーションに過ぎないと考えられます。もちろん政治的な意味はありますし、それを無視するべきでもありませんが。しかし、彼らの動きは極めて戦術的で便宜的な部分が多いと考えられます。ただ、これからロシアや中国を追い込めば追い込むほど、お互いの絆は強まることにはなるでしょう。

しかし、仮にロシアが米国との関係を改善できるのなら、中国そっちのけで米国に専念することになるでしょう。中国も同じでしょう。現在は、米国と対立しているから互いに相手を利用しようとしているだけです。

9月15日からウズベキスタンで習主席とプーチン大統領の会談が行われることになっていますが、これは、どちらから声を掛けたかはわかりませんが、習近平がプーチンに会いたくて会いに行くというわけではないでしょう。

むしろ中国としては、ここまで来てしまった以上、ロシアをある程度は支援せざるを得ないのですが、米国との関係もあり、ロシアを支援しすぎると米国との関係がこじれるので、それ以上リスクを取ってまでロシアにのめり込むことはしないでしょう。

ただ、習近平は、北京オリンピックの直前に、北京でプーチンと首脳会談をし、そうして共同声明を出し、「中国とロシアの友情にリミットはない」と発言してしまいました。

当初はもっと早くロシアのウクライナ侵攻はは、終わると考えていたのでしょう。しかし、これだけ戦争が長続きしてロシアに対する反発が高まれば、当然、ロシアに関与しているとみられる中国に対する批判が激しくなることになります。

中国はそのことにやっと気が付いたようで、ずいぶん軌道修正をしました。それ以来、中国はロシアに対して必ずしも完全に支持しているわけではありません。急に状況が変わったとは考えられず、ロシアとはつかず離れずになると思います。

ただ、ロシアを完璧に切るわけにはいかないでしょう。そうすれば、米国が中国に強く出る可能性もあるので、ロシアに頑張ってもらわないといけないです。でも、中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはないでしょう。

何しろ、中露はかつて中ソ国境紛争で戦った仲です。現状では、戦術的には結びついてはいますが、元々はユーラシア大陸で覇権を争う、隣国同士です。現状では、人口でも経済でも、中国がロシアを圧倒しているということと、米国との関係が、両国とも悪くなっているので、今は結びついていますが、いずれかが米国との関係さえ良くなれば、米国側に近づくことが戦術ということになります。

今は、影を潜めていますが、根の部分では敵対していると見るのが、正しい見方であると考えられます。両国とも米国との関係が改善されなくても、中国の経済がかなり悪くなれば、その根の部分が表に出てきて、両国関係は悪化することになるでしょう。
中国とロシアは、根底ではユーラシア大陸の覇権をめぐり互いに争う、覇権国家ですが、現在では、ロシアのGDPは韓国より若干下回る程度です。中露ともに一人あたりのGDPは1万度を若干上回る程度に過ぎませんが、ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口は14億人であり、経済では中国が、ちょうどロシアの十倍程度の規模です。

この状態では、中露が現状で対峙することは得策ではないことが明らかであり、そのため中露は戦術的に結びついています。

そうして、中露はいずれもランドパワーの国であり、中露ともに海軍を有していますが、その実力はやはり未だランドパワーの国の海軍であり、いまでも日英におよばないです。

特に、日英には強力な潜水艦隊が存在しています。日本は、通常動力のステルス性に優れた22隻の潜水艦艦隊を持ち、これは対潜哨戒能力が未だ低い、中露を脅かしています。英国はアスチュート級を7隻建造する計画で、2007(平成19)年6月に1番艦「アスチュート」が進水、2010(平成22)年8月に就役して以降、これまでに4番艦「オーディシャス」までが同海軍に引き渡されていました。

さらに、今年就役した「アンソン」は2011(平成23)年10月13日に起工。約10年後工期を経て2021年に進水し、今年8月31日に就役し海上公試に入りました。

水中排水量は約7700トン、全長97m、全幅11.3m。乗員数は約100名(最大109名)で、ロールス・ロイス製の加圧水型原子炉「PWR2」を1基搭載し、速力は30ノット(約55.6km/h)。533mm魚雷発射管を6門備え、国産の「スピアフィッシュ」魚雷のほか、アメリカ製の「トマホーク」巡航ミサイルなどを装備しています。

これらは、攻撃型原潜であり、現在の攻撃型原潜として最新型であるとともに、かなりの攻撃力があります。米国にも攻撃型原潜が多数あるのですが、旧式化しつつあるため、今後の製造計画から、一時的に攻撃型原潜の数が減るこどか予想され、まさにそれを補うのが英国の攻撃型原潜であるといえます。

英国はいわゆる「グローバル・ブリテン」を標榜していますが、現在では空母「クイーン・エリザベス」による空母打撃群だけでは、役不足であり、この裏付けとなるのが、まさにアスチュート型攻撃型原潜であるといえます。

日英は、対潜哨戒能力でも中露を大幅に上回る能力を有しており、そのため対潜戦闘力はかなり強いです。実際に日英・中露が海戦ということになれば、中露はかなり不利です。中国は艦艇数は多いですが、対潜哨戒力が劣っており、実際に海戦ということになれば、かなり苦しい戦いを余儀なくされることになります。ロシアも同じです。

これに、シーパワーの雄である、米国が加わり、日米英で、中露と対峙ということになれば、中露としては絶望的です。中国海軍のロードマップによれば、2020年には第二列島線を確保することになっていましたが、それどころか、2022年の今年になってすら、台湾や尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていないという現実が、それを如実に示しています。

ランドバワー国が、シーパワー国になるのは、そう簡単なことではないのです。ランドパワー国が、多数の艦艇を建造して、海洋に乗り出したからと言ってそれで、すぐにシーパワー国になれるわけではありません。そうして、ランドパワーの国と、シーパワーの国が海で戦えば、ランドパワー国にはほとんど勝ち目はないのです。

現在の中国は鄧小平が劉華清(中国海軍の父)を登用し、海洋進出を目指した時から両生国家の道を歩み始めました。そして今、それは習近平に引き継がれ、陸海併せ持つ一帯一路戦略として提示されるに至っています。しかしこれは、マハンの「両生国家は成り立たない」とするテーゼに抵触し、失敗に終わるでしょう。

劉華清(中国海軍の父)

事実、両生国家が成功裏に終わった例はありません。海洋国家たる大日本帝国は、大陸に侵攻し両生国家になったため滅亡しました。大陸国家たるドイツも海洋進出を目指したため2度にわたる世界大戦で滅亡しました(ドイツ第2、第3帝国の崩壊)。ソビエト帝国の場合も同じです。よもや、中国のみがそれを免れることはないでしょう。一帯一路を進めれば進めるほど、地政学的ジレンマに陥り、崩壊への道を早めてゆくことになります。

そうして、もう一つ忘れてはならないことがあります。英国は、地政学的戦いの先駆者であるという事実です。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

米中の争いも、軍事的なもので本格的に対峙すれば、互いに核保有国であり、最終的には核ミサイルの打ち合いになりかねません。そのため、軍拡競争的なことはするでしょうが、互いに真正面から軍事衝突することはしないとみられます。そうなると、米中の本格的な争いの領域は「地政学的」なものにならざるをえません。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。これは、かつての英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

そうして、英国は本格的な「地政学的戦争」における、先駆者であるのです。香港を中国に蹂躙された英国としては、その憤りをいずれ何らかの形で晴らそうとするのは当然であり、その意味でも日英は手を携えるべきです。

日本にとっては、これから中国と対峙していく上で、英国は強力な助っ人となるのは確かであり、EUを脱退した英国としてもTPP加入は、念願であり、日英の協力関係は、今後ますます強めていくべきです。

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