2023年1月24日火曜日

日銀の「追加利上げ」見送りで思惑外れた債券村の自業自得 新体制では金融業者寄りに転向も―【私の論評】岸田政権が増税路線を貫き、4月からの日銀新総裁が金融引締派なら、今年中にGDPで独に追い越されかねない(゚д゚)!

日本の解き方
日銀の「追加利上げ」見送りで思惑外れた債券村の自業自得 新体制では金融業者寄りに転向も

日本銀行

 日銀は18日、黒田東彦(はるひこ)総裁体制で最後になるとみられる「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表した。4月以降の新体制での金融政策によってどのような変化が出る可能性があるだろうか。

 展望リポートでは「消費者物価の前年比は、現在、2%を上回って推移しているが、来年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していくと予想される。消費者物価の基調的な上昇率は、時間はかかるものの、マクロ的な需給ギャップの改善や、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率の高まりなどを背景に、『物価安定の目標』に向けて徐々に高まっていくと考えられる」としている。

 要するに、今の消費者物価指数は2%を超えているが、来年度半ばには2%を下回り、その後いずれ2%に盛り返すだろうという見方だ。

 来年度半ば以降の話は、日銀の政策努力を示したものとみられるので、そのシナリオを考えてみたい。

 今の消費者物価の上昇は、主に海外要因であるエネルギー価格と原材料価格の上昇によるものだ。これが価格転嫁できるかどうかは、国内需要が旺盛かどうかによる部分が大きい。

 一部品目では転嫁する動きがあるが、それが功を奏するかは今後の景気動向に依存する。つまり、価格を上げたものの、需要がついてこれず、引き下げになる企業もあり得るというのが筆者の見方だ。

 現状ではまだ相当のGDPギャップ(総需要と総供給の差)がある。全体としては需要不足なので、価格転嫁が全てでうまくいくとは思えない。その意味から、日銀のシナリオは、筆者のものと大差はない。

 需要不足が予想されるのは、岸田文雄政権の「反アベノミクス」の立場が、昨年末の「防衛増税」や、「日銀の事実上の利上げ」で明らかになったからだ。

 黒田日銀は昨年末、事実上の利上げを行い、岸田政権の意向に従った。市場関係者は、国債の償還期間と利回りを示すイールドカーブ(利回り曲線)で、10年物の利回りが落ち込んでいることを「ゆがみ」と称し、マクロ経済からの観点ではなく、金融業者の観点から、さらなる利上げを日銀に求めている。

 黒田日銀ではイールドカーブコントロール(長短金利操作)を導入したこともあり、債券業者は開店休業状態だった。ここにきて、にわかに利上げを催促しているが、日銀は応える必要はない。1月17、18日の金融政策決定会合ではさらなる「利上げ」を踏みとどまり、現状維持とした。当てが外れた業者もいるだろうが、自業自得だ。

 消費者物価の上昇が海外要因であること、本来のインフレ指標であるGDPデフレーターがまだマイナスというマクロ環境を考えると、昨年末の利上げもすべきでなく、今回も同様だ。

 黒田日銀は、3月10日が最後の決定会合だ。よほどのことがない限り、現状維持とみられる。ただし、次の体制は、これまでの岸田政権の人事からみて利上げ志向だろう。マクロ経済重視から、金融業者寄りの金融政策に転じる可能性がある。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】岸田政権が増税路線を貫き、4月からの日銀新総裁が金融引締派なら、今年中にGDPで独に追い越されかねない(゚д゚)!

上の記事にででくる債権村については、普通の人とは、利益相反の関係にあると言ってもよく、良く理解できないというのが普通だと思います。これについては、下の動画で、国債の空売りをして儲けようとする人たちのことです。

金融機関の中でも元々は特殊な人たちで、日本では不況が長く続いてきたために、存在感を増したところはありますが、本来なら片隅にいるような人たちです。


日銀の1月17、18日の金融政策決定会合ではさらなる「利上げ」を踏みとどまり、現状維持としたために、当てが外れた業者たちのことです。これについては、たしかに自業自得としかいいようがないです。


しかし、上の記事にもある通り、これまでの岸田政権の人事からみて次の日銀総裁は、利上げ志向の人物になる可能性が高いです。そうして、黒田総裁のように、マクロ経済重視から、金融業者寄りの金融政策に転じる可能性があります。

岸田政権下では、防衛増税等、増税の声も聞えています。日銀が、金融業者よりの金融政策に転じ、さらに増税も実行されることになれば、当然のことながら、現状ではまだ相当のGDPギャップ(総需要と総供給の差)があるため、消費は抑制され、景気は落ち込み、また日本はデフレの底に沈むことが予想されます。

その落ち込みは、どの程度のなるか、過去の経験からある程度の想像はつきますが、これに関しては、誰にでも理解しやすいショッキングな出来事が起こるでしょう。

それは、GDPで現在世界第三位の日本が、ドイツに追い越されることになることです。


米中に次ぎ世界第3位の日本の名目国内総生産(GDP)が、経済の長期停滞などを受けて早ければ2023年にもドイツに抜かれ、4位に転落する可能性が出てきたのです。

経済規模の国際比較に用いられる名目GDPは、国内で生産された財・サービスの付加価値の総額です。物価変動の影響を取り除いた実質GDPに比べて、より景気実感に近いとされます。

国際通貨基金(IMF)の経済見通しでは、22年の名目GDP(予測値)は3位の日本が4兆3006億ドル(約555兆円)なのに対し、4位のドイツは4兆311億ドルで、ドイツが約6・7%増えれば逆転することになります。

IMF予測では23~27年も辛うじて逆転を免れるものの、23年時点(予測値)でその差は約6・0%に縮小します。

日本の名目GDPは高度経済成長期の1968年に西ドイツを抜き、米国に次ぐ2位となりました。ところが、2010年には台頭する中国に抜かれて3位に転落し、40年近く維持したアジア首位の座を奪われました。

とはいえ国力の源泉である人口は、日本のおよそ1億2千万人に対しドイツは8千万人にとどまります。14億人を超える中国に抜かれたのは仕方ないとしても、なぜドイツに追い付かれたのでしょうか。

それは簡単なことです。日本は、平成年間の30年間のほとんどを、金融政策も財政政策も間違えたからです。それに対して、ドイツも日本と並び緊縮傾向が強いのですが、それでも日本のように度々消費税増税をするなどのことはせず、日本よりは緊縮の度合いは低いです。

さらに、金融政策は、ドイツ独自の政策はできず、EUの政策に従っているのですが、EUの金融政策も日銀のように、平成年間のほとんどを実体経済におかまいなしに、金融引締を実行したのとは対照的に、比較的まともな政策を行っています。

欧州中央銀行

このような違いの長い間の積み重ねが、今日、日本の低迷、ドイツの堅調な成長という状況につながっているのです。

これを生産性で説明しようと試みる人もいますが、これは大きな間違いです。考えてみてください、デフレの底に沈んでいるときに、生産性を高めたら、どうなりますか?

無論、デフレがますます深刻になるだけです。このあたりのこと理解できない人は、10円玉を生産性として、それに対応するお金を一円玉として、いくつか並べてみて下さい。

10円玉と1円玉を同数並べます。そこで、生産性を示す10円玉を増やしてみて下さい、そうなると、当然のことながら、10円玉に対応する1円玉を増やさなければ、最初の時と比較して、生産性に比してお金が少ないことになります。

このとき、中央銀行(日本の場合は日銀)が、生産性が向上した分に相応しいだけの、通貨を発行しなければ、これはデフレになります。実際日銀は、そのようなことを繰り返してきました。それどころか、リーマンショックのような危機に瀕してさえ、他国は大規模な金融緩和をしたのに日銀しませんでした。そのため、日本は深刻な円高とデフレに見舞われました。

日本の生産性が伸びてこなかったのは、このせいです。ものが売れなければ、生産性をあげてもしかたないわけで、輸出企業や、海外に投資できる企業だけが、なんとかまともに操業できたり生産性もあげることができました。一方、国内産業は活力を失い、挙げ句の果てに、国内産業が海外に出ていき、産業の空洞化が起こってしまったことが、日本の経済が伸びなかった大きな原因です。

これを理解せずに、現在のような状況で、単純に利上げをして、円高にすれば良いとか、生産性を上げるべきと語る人もいますが、それをしても、日銀が適正に対応しなければ、デフレが深化するだけです。大本の日銀が金融緩和を継続しなければ、デフレになります。さらに、増税はそれに拍車をかけるだけです。

今年の早い時期に、岸田政権が増税をすることを決めてしまえば、仮に増税そのものは、来年以降になったにしても、市場は冷え込み、消費マインドは冷え込みますし、それに4月からの日銀新総裁が、金融業者寄りの金融政策に転じることになれば、さらに冷え込み、今年中にドイツにGDPを追い越されることになりかねません。

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2023年1月23日月曜日

NATO事務総長が今月末にも来日へ…2017年以来、岸田首相との会談調整―【私の論評】日本からNATOへの働きかけを強め、主体的に日・NATO関係を強化してゆくべき(゚д゚)!

NATO事務総長が今月末にも来日へ…2017年以来、岸田首相との会談調整

北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長

 北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が今月末にも来日し、岸田首相との会談を調整していることが23日、分かった。複数のNATO関係者が明らかにした。インド太平洋を巡る安全保障の連携を強化する狙いがある。ストルテンベルグ氏は、日本政府が昨年末に改定した国家安全保障戦略への支持も打ち出す見込みだ。

 事務総長の来日は2017年以来となる。ストルテンベルグ氏は日本に先立って韓国を訪問し、 尹錫悦ユンソンニョル 大統領とも会談する予定だ。

 NATOは昨年6月に改定した戦略概念で、インド太平洋地域の安定に貢献する方針を鮮明にした。ウクライナ情勢が緊迫する中での訪問は、民主主義国家である日韓との連帯をアピールする狙いもある。

 岸田首相との会談は、31日を軸に調整が進んでいる。台湾有事などを見据え、軍事的な手段と非軍事的な手段を組み合わせる「ハイブリッド戦」への備えなどで連携強化を確認するとみられる。

 軍事力を増強する中国について、NATOは戦略概念で「挑戦」と新たに位置付けた。日本政府も国家安保戦略で「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と明記した。防衛費でも、日本はNATO加盟国の目標と足並みを合わせ、防衛費と関係費の合算を現在の国内総生産(GDP)比2%とする閣議決定をした。NATO内には「NATOと日本は進む方向は同じだ」との認識が深まっている。

【私の論評】日本からNATOへの働きかけを強め、主体的に日・NATO関係を強化してゆくべき(゚д゚)!

昨年6月26〜28日のG7首脳会合に引き続いて行われた29日からの北大西洋条約機構(NATO)首脳会合に、今回、初めて日本の総理大臣が参加したことは、日本のウクライナへの連帯を象徴するものとして、日本国内でも大きな注目を集めることになりました。


北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初めて出席した岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な動きを念頭に、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だと強調。従来の日米同盟に加えて、NATOと連帯を築いていく考えを示しました。その意思決定機関である北大西洋理事会に、日本などアジア太平洋のパートナー国の定期参加も提案しました。

首相は、「日・NATO関係を新たなレベルに引き上げることで一致した。歴史的な意義を有するものだ」と成果を誇示しました。


さて、今回のNATO事務総長の訪日は、こうした岸田首相の発言に基づき、より具体的な日とNATOとの関係を深めるためと考えられます。

昨年日本だけではなく、韓国、豪州、ニュージランドを初めてグローバルなパートナーとして招待したNATOにとって、脅威と価値観を共有する安全保障プラットフォームとしての課題は、地域の枠を超えて影響力を強める中国だけではありません。

そこでは、サイバー・宇宙空間、認知領域における安全保障上の公共財の安全確保、そして、気候変動の影響に対する協調的行動、更には、将来の装備体系に大きな影響を与える、人工知能(AI)、量子コンピューターなどの新興・破壊的技術の実装化など、パートナー国に対して、幅広い協力の可能性が数多く示されています。

今後、他のパートナー国と共に、日本にも、NATOとの協力拡大のためのロードマップが準備されると見られますし今回の事務総長の日本訪問はまさに、これに関するものと考えられます。

日本政府はどのような対応を行うのでしょうか。岸田政権は安全保障関連の三文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画)を年末に改定しました。

反撃能力保有や、5年間の防衛費総額を約43兆円とし、最終の令和9年度には防衛費と補完する関連予算を合わせ、今の国内総生産(GDP)比2%にすることが決まった。相手国の軍事的「能力」に備える防衛力整備という、現実路線への転換も明記しました。

平和を守る抑止力を格段に向上させる歴史的な決定を歓迎したいです。政府の最大の責務は国の独立と国民の生命を守り抜くことです。岸田首相が決断し、与党と協力して、安倍晋三政権でさえ実現できなかった防衛力の抜本的強化策を決めた点を高く評価します。だだし、防衛増税を言い出したことには、はっきり言って幻滅しました。


日本としては、新たな安全保障戦略の方向性を踏まえつつ、積極的かつ主導的に、NATOとの協力メカニズムを活性化するべきです。

インド太平洋地域には、NATOのような集団安全保障機構は存在しませんが、価値観を共有し、地域の枠を超えたパートナー国の関与を導くことによって、米国を中心とする二国間同盟のネットワークをより強化し得ることになります。

その一方で、NATOは、防衛的な組織であり、コンセンサスに基づく地域機構であるため、将来的にも、NATO側から、欧州域外に位置する日本に対して、より積極的なアプローチをかけてくることはないでしょう。

ここでは、日本からNATOへの働きかけを強め、インド太平洋地域におけるNATOの更なる関心や関与を引き出し、主体的に日・NATO関係を強化してゆくという能動的な姿勢が求めらています。

そのためには、日本の戦略的なメッセージのグローバルな発信が不可欠であり、改訂された三文書は、日本の安全保障面でのコミュニケーションの道具として、重要な役割を果たすことが期待されます。

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フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化―【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、フランスもこれに参戦(゚д゚)!


「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

2023年1月22日日曜日

フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化―【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、フランスもこれに参戦(゚д゚)!

フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化

フランスのマクロン大統領は20日、仏南西部モン・ド・マルサンの空軍基地で演説し、2024~30年の7年間で計4000億ユーロ(約55兆5000億円)を国防費に充てる方針を示した。19~25年の2950億ユーロ(約41兆円)と比べて、3割以上の増額となる。

20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)

 20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)=ロイター

 マクロン氏は演説で国防費増額の背景について、ロシアによるウクライナ侵略などを挙げ、「危機に見合ったものとなる。軍を変革する」と述べた。

 情報収集活動予算を6割増額するほか、核抑止力の強化や無人機(ドローン)の開発促進などに充てる。中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する。近く関連法案を議会に提出する予定だ。

 マクロン政権は現行計画で、25年までに、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に求める国内総生産(GDP)比2%の水準に国防費を引き上げる方針を示していた。

 マクロン氏は、昨年11月に発表した「国家戦略レビュー」で、「フランスの核戦力は欧州の安全保障に貢献している」として、核抑止力を重視するとともに、中国に対抗する姿勢を打ち出していた。

【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、仏もこれに参戦(゚д゚)!

上の記事で「中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する」という下りがありますが、これだけですませるというのが、さすが「読売クオリティー」というところであり、大手新聞だけを読んでいると、世界がわからなくなるということの典型例だと思います。

これについては、すでにこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を―【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!
日米豪などが参加する太平洋パートナシップ2022(PP22)で演説するソロモン副首相

これは12日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずは、元記事の結論部分を以下に掲載します。
 そのため(ブログ管理人注:中国に伍して、南太平洋の島嶼国の国々に対してこちらから付け入る余地は十分ある)には、同じ目線で相手の共感を得ることに加え、「こちら側」の陣容の拡充も必要ではないか。それはフランスとの一層の連携だ。仏領ポリネシアは南太平洋におけるフランスの拠点だ。
 元々PIF(太平洋諸国フォーラム:ブログ管理人注)とその前身はフランスの核実験などに反対して結成されたという歴史的経緯はあるが、今や仏領ポリネシアは準メンバーであるし、フランスもパートナー国になっている。我々にはあまり余裕はないはずだ。先の米・島嶼国サミットにもオブザーバーで豪・ニュージーランドは参加する一方、フランスが参加していない点が気になる。

 しかし、島嶼国との関係についても昔から努力しているのは日本だ。日本が太平洋・島サミット(PALM)を始めたのは1997年で、中国より10年近く早い。同じ目線で「共感」を得るアプローチは日本のお家芸だ。上記の論説で取り上げられている不発弾処理についても、既に日本は、ソロモン国家警察爆発物処理部隊に対する支援を開始している。今後これを日米豪(または日米豪仏)のプロジェクトとして進めると言うことも一案だろう。ちなみにPALMには仏領ポリネシアも入っている。
次にこの記事の【私の論評】の部分から引用します。
現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。
・・・・・・・・・〈一部略〉・・・・・・・・・
現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。

中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南太平洋の島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

南太平洋の島嶼国といっても、ニューカレドニアは仏領であり続けることを選びましたし、そもそも一人あたりのGDPは34,942ドルであり仏本国を若干下回る程度です。ただ、南太平洋の島嶼国のほとんどは一万ドルを下回る貧困国です。

現代的な軍隊を持った、台湾や日本、韓国、NATO加盟国などの領海近くを中国の空母が通ったにしても、それに対する対艦ミサイル、魚雷など対抗手段は十分にあるので、これを警戒はするものの、大きな脅威とはなりませんが、南太平洋の島嶼国は、貧乏で小さな国が多く、これは大きな脅威になります。

そのときに、日米豪などだけでもこれに対処はできるでしょうが、これに南太平洋に海軍基地を持つフランスもこれに対処できれば、それこそ百人力になります。

フランスとしては、こうした南太平洋の中国の脅威に自ら対抗し、さらに日米豪とも連携し強化するためにも、国防費を増やすのでしょう。

現状では、以下の表でもわかる通り、日本の軍事費はフランスよりも下です。


倍増なら防衛費は世界3位となります。ただ、対GDP比でみれば、また違った見方もできます。


フランスの軍事費は2020年時点ですでにGDP比で2%を超えています。ドイツも2%超を目指しています。日本としては、2%は当然ともいえるかもしれません。

ただ、防衛費増を増税で賄うという岸田政権の方針には、あきれてしまいます。フランスも防衛費を増税では賄うことはないのでしょう。もし、増税で賄うとすれば、多くのメディアはそれを報道するでしょう。フランス財務省としては、そのようなことは考えも及ばず、当然のことながら、長期国債でこれを賄うのでしょう。

これは、あまりにも当たり前のど真ん中で、ニュースバリューもなく、報道もされないのでしょう。もし増税ということになれば、とんでもないことになるでしょう。

フランス政府は最近年金の支給を開始する年齢を64歳に引き上げる年金制度改革案を示しています。これに反対するデモが各地で行われ、参加者は100万人を超えました。もし、増税で防衛費増を賄うなどとすれば、フランス各地で大暴動がおこり、それこそ、2018年から行われている、黄色いベスト運動が苛烈となり、マクロンの政治生命が危ぶまれることになるでしょう。

マクロンが防衛増税をすれば黄色いベスト運動は苛烈となり政治生命が危ぶまれることに(AI画像)

岸田政権も同じです。もし、増税を強行すれば、とんでもないことになるでしょうし、岸田政権は崩壊するでしょう。しかし、増税されれば、日本の財政基盤は脆弱となり、将来安定的に防衛費を賄うことはできなくなるでしょう。

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2023年1月21日土曜日

三浦瑠麗氏の夫が代表の投資&コンサル会社を東京地検特捜部が捜索 「私は夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」―【私の論評】三浦瑠璃氏の夫の背後には、巨悪が潜んでいるかもしれない(゚д゚)!

 三浦瑠麗氏の夫が代表の投資&コンサル会社を東京地検特捜部が捜索 「私は夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」

三浦夫妻 三浦瑠麗氏(左) 三浦清志氏(右)

 再生可能エネルギーに関する投資やコンサルタントを手がける東京都千代田区の会社の代表が詐欺容疑で告訴され、東京地検特捜部がこの会社を家宅捜索していたことが20日、関係者への取材で分かった。国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫が同社の代表を務めている。

 関係者によると、捜索を受けたのは2014年7月に設立された「トライベイキャピタル」で、太陽光発電事業でトラブルを抱えていたとされる。同社を巡る訴訟の資料によると、東京都港区の投資会社側から19年6月に10億円の出資を受け、太陽光発電事業を共同で手がけたが、想定通りに進まなかったという。

 三浦氏は自身が代表のシンクタンク「山猫総合研究所」のホームページで「私としてはまったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」とのコメントを発表した。その上で「捜査に全面的に協力する所存です。夫を支えながら推移を見守りたい」としている。

【私の論評】三浦瑠璃氏の夫の背後には、巨悪が潜んでいるかもしれない(゚д゚)!

この出来事に関しては、かなり多くのメディアが報道しています。代表的なものは、以下の岩田温氏の動画です。客観的に論評されています、興味のある方は是非ご覧になって下さい。

既に、メディアが報道しているものに関しては、そちらをご覧になって下さい。

手短に知りたい人は、下のサイトをご覧になってください。ただし、信ぴょう性等は保証の限りではありませんが、網羅性はあります。

三浦瑠麗の疑惑をまとめたページ
このブログでは、現在までに報道されているものは掲載しません。それについては、他のメディアを参考になさってください。

一般に公開されている情報からでも三浦氏の行動には、疑問符がつくものがあります。たとえば、内閣官房主催の「成長戦略会議」にもそれが伺えます。

この要旨から一部を以下に引用します。

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成長戦略会議の開催要領すべてを斜め読みしてみたところ、 太陽光発電事業の規制緩和・推進の発言しているのはほぼすべてが三浦瑠麗氏でした。これでは、利益相反を疑われても仕方ないのではないでしょうか。

今後三浦氏がすぐに、様々な番組から降ろされれば、さほど問題はないと思いますが、あまり降ろされなかつた場合は、システムが出来上がっており、すでに太陽光パネル事業においても、日本固有の鉄のトライアングルが出来上がっている可能性があります。今後、どうなるか注目です。

鉄のトライアングルに関しては、以前このブログで説明したことがあります。その記事を以下に引用します。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】菅首相1年間の大きな功績 懸案を次々処理した「仕事師内閣」、対韓国でも厳しい姿勢貫く―【私の論評】新政権は、雇用の維持、迅速な鉄の三角形対策ができる体制を整えれば、長期安定政権となる(゚д゚)!


この記事より以下に一部を引用します。
日本には様々なルールや規制があります。それに守られ、いわゆる“既得権益”を受けている人たちがいます。農業の分野で言えば、日本は零細農家を守るため、株式会社は農地を持つことができません。

当初は意味のある制度だったのでしょうが、農業が国際化されてきた今日日本は世界的にみても良い作物を作れるのですから、株式会社に農業にも参入してもらい、生産性を上げ、輸出もしたほうが良いはずです。

ところが“入ってはいけない”という人たち、そこに結びついた政治家たち=族議員、そして業界の既得権益を持った人をつなぐ役割を担っている官僚がいます。この三角形がスクラムを組み、新しいことをやろうとするときに妨害するのです。こうした三角形はどこの国にもありますが、日本の場合はそれを取り持つ官僚組織がかなり強い状態で維持されています。
それは、医療の世界にも厳然として存在します。医師会、族議員、厚生官僚による三角形(医療ムラ )は厳然として存在してるのです。これは、ある意味「加計問題」と本質は同じです。

1年以上も前から、コロナ病床は、かなり増床すべきことはわかっていました。そうして、昨年の補正予算でも、それに関する予算は潤沢につけられていたにもかかわらず、この医療ムラの猛反撃にあい、現在に至るまで大きく増床されることはありませんでした。感染症対策分科会も、こうした医療ムラの圧力に対抗できなかったのか、結局対策といえば、病床の増床ではなく、人流抑制ばかりを提言していました。
尾身会長
そのため、コロナ感染者数が増えるたびに、野党・マスコミは、医療ムラを批判するのではなく、菅政権を批判しました。尾身会長は、マスコミに利用された形になったといえます。これは、間違いなく菅政権を追い詰めていきました。特に、マスコミは感染者数が増えるたびに、不安を煽り、様々な印象操作で菅政権を追い詰めました。

特に日本では、まだまだマスコミの報道を信じる人が多いので、強力な医療ムラを崩壊させるには、仕事人内閣の菅内閣ですら、時間と労力がかかることは無視して、菅内閣を責め立てました。野党もその尻馬にのり、菅内閣を糾弾しました。
さて、この鉄のトライアングルについては、colabo問題の本質もそうなのではないかという記事を掲載したことがあります。

ただ、本質的には同じかもしれませんが、鉄のトライアングルも業界によって、様々なパリエーションがあり一つとして同じものはないのだと思いますし、さらに時間とともに変化し、アメーバのように様々な団体や個人とついたり離れたりしているのだと思います。

国会議員、関係省庁、業界団体のいずれかが強いとか、絡み合い方が、どれ一つとして同じものは無いのだと思います。

だから、同じ鉄のトライアングルという共通点がありながらも、この事実を解明したり、違法性を追求したりするにしても、自ずとやり方は変わってくるのだと思います。

今回は、東京地検特捜部が「トライベイキャピタル」を家宅捜査をしたというのですから、これはこの会社の単独の犯罪だけではなく、政治家や官僚が絡んでいる可能性もあります。三浦瑠璃氏の夫の背後には、巨悪が潜んでいるかもしれません。

特捜部は「特別捜査部」の略称です。検察庁の中の1つの部署ですが、全国で東京、大阪、名古屋の3つの地方検察庁にしか設置されていません。

東京地検特捜部は、この3つの中の1つということになります。


東京地検は霞が関の法務省の隣にありますが、東京地検特捜部は霞が関ではななく、千代田区九段の合同庁舎内にあります。

1947年に、戦時中の供出物資や軍需物資を政治家が隠匿した事件を捜査する隠退蔵事件捜査部として結成された歴史があります。現在は、部長・40人程度の検事・副検事・検察事務官で構成されています。

東京地検特捜部は、汚職事件、脱税事件・経済事件などを担当します。

公正取引委員会・証券取引等監視委員会・国税局などが法令に基づき告発をした事件に関しても独自の捜査を行います。

具体的には、贈収賄事件、企業の粉飾決算事件や大型詐欺、業務上横領、不正競争防止法違反、インサイダー取引、独占禁止法違反、投資詐欺などの被害が甚大で世間に大きな影響を与える事件を担当しています。

今後の展開がどうなっていくか、注目です。


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2023年1月20日金曜日

中国で1000万人超失業の報道…ゼロコロナが残した医療崩壊、財政難、大失業―【私の論評】中国の現状の失業率の高さは、ゼロコロナ政策以前からある構造的問題が原因(゚д゚)!

中国で1000万人超失業の報道…ゼロコロナが残した医療崩壊、財政難、大失業

2019年の上海。中国は果たしてコロナ前に戻れるのか

 中国のゼロコロナ政策の終了は、巨大化したゼロコロナ産業の消失を意味する。この政策で、中国全土で新たな産業や新たな雇用をもたらしたが、180度の転換で中国の国民経済は大混乱だ。感染拡大とロックダウンのダメージはもとより、ゼロコロナ政策による“失われた3年”、そして突如もたらされた失業と空手形・・・、そのインパクトはあまりにも大きい。(ジャーナリスト 姫田小夏)

● 「ゼロコロナ産業」の終了で1000万人超が失業

 中国でゼロコロナ政策が解除されたのは12月7日のことだった。その後、わずか数日のうちに、上海では感染が拡大し、外出も外食もしない高齢の李さん(仮名)までをも直撃した。「まさか自分が陽性者になるとは……」と突然の政策転換にうろたえる李さんだが、中国には今、二つの声が存在すると明かしてくれた。

 「中国では『ゼロコロナ政策をやめてよかった』と政策転換を支持する声は大きいですが、『ゼロコロナ政策をただちに復活させよ』という要求もあるのです」――という。

 新型コロナウイルスで命を落とした人もいれば、後遺症に悩む人もいる。基礎疾患を持つ人々にとって“ロックダウン”は安全性の担保だったのかもしれない。その一方で、ゼロコロナ政策の復活を希望する声が示すのは、“ゼロコロナ産業”に生活を依存する人々が少なくなかったという側面だ。

 中国では、この3年でゼロコロナ産業が一大産業に成長した。これを象徴するのが、1月7日に重慶市の工場で起こった抗議活動だ。コロナの抗原検査キット工場で、数万人の従業員が警察と衝突し、激しい抗議活動が行われたという。複数のメディアは原因について、「ゼロコロナ政策の転換により、注文が入らなくなった工場側が1万人以上をリストラしようとしたため」と報じている。

 住民の恨みを買いながら“大活躍”した白い防護服の防疫要員たちも、今では無用の人材になってしまった。この突然の失業に面食らった防疫要員たちが、各地で抗議の声を上げている。表向きは「ボランティア」とされている彼らには手当が出たが、未払い問題が顕在化しているためだ。

 10兆元(約200兆円)規模ともいわれる中国のゼロコロナ産業だが、米ラジオフリーアジアは「ゼロコロナ産業の終了で1000万人超が失業する」と伝えている。

● ついに「広州市の財政が底をついた」?

 ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策へ――という大転換は、確かに中国の若者の抗議活動が後押しした部分もあった。しかし、「この3年間で中国政府は金を使い果たしている。ゼロコロナ政策も3年が限度だった」(中国東北部の地方政府関係者)とするコメントからも、もはや資金も底をつき、続けるに続けられなくなった窮状がうかがえる。

 そもそも、ゼロコロナ政策を維持するには、巨額の資金が必要だった。検査場の設営費用やPCR検査キットはもちろん、そこに配置する防疫要員や防疫服、隔離専門病棟の建設と患者に与える無料の弁当、ロックダウン中に各家庭に無償で配る食料品や薬の数々……。これだけでも相当な費用がつぎ込まれている。

 中国では「広州市の財政が底をついた」という“うわさ”がある。コロナ禍の地方財政について「すべてが借用書、すべてが赤字」だと告白する広州市珠海区の公務員の発言をベースに書かれた文章が、インターネット上で出回っているのだ。仮に中国経済の成長のエンジンである広東省広州市がこうした状況であれば、他の地方政府の財政事情はもっと悲惨だと推測できよう。

 昨年12月、米ブルームバーグは、「2022年1~11月における中国の財政赤字は7兆7500億元(約155兆円)と、前年同期の2倍余りに拡大し2020年を超える水準に膨らんだ」とし、中国財政部のデータに基づく算出を公表した。要因として、大規模な新型コロナウイルス対策と長引く住宅市場の低迷を挙げている。

 コロナ対策のための財政支出の一部については、「48時間ごとのPCR検査を人口の7割に対して行った場合、年間の費用は2.5兆元(約50兆円)になる」とする米ゴールドマンサックスの試算もある。

● 医療基盤が崩壊、多くの病院が倒産した

 ゼロコロナ政策は、中国の医療機関の数を減らすという災いも生んだ。中国病院協会は「コロナ禍で2000を超える私立病院が倒産した」と公表したのである。

 中国では、限られた数の公立病院を補うために私立病院の役割が期待されているのだが、2019年末時点では黒字だった私立病院の業績も、2020年以降のコロナ禍で支出が急増し、大幅な赤字に転落した。こうしたことを背景に、中国では医療従事者の賃金未払いを訴える抗議活動が頻発している。

 振り返れば、2022年に上海で行われたロックダウンでは、4月上旬時点で26の総合病院が外来・救急・新規入院などの業務を停止させられたが、これは医療を必要とする患者に大きな影響を与えただけでなく、病院の収入源を失うことにもつながった。

 同じようなことが上海以外でも起きている。安徽省宿州市の公立病院では、地元政府の要求に従い、従来入院していた患者を退院させてコロナ感染者を収容した結果、財源を失い、従業員の雇用の維持が困難になった。

 四川省楽山市では、公立病院が閉鎖された。慢性的な赤字を負っていたこの公立病院は、以前から製薬会社などへの支払いが滞っていたが、そこにコロナが襲い経営不能に陥った。

 もとより、中国の医療基盤は脆弱(ぜいじゃく)だった。コロナ禍以前から、上海などの一級都市ですら、公立病院には朝から長蛇の列ができ、順番を取り、診察を終えるには実に1日がかりという状況が当たり前だった。

 中国政府は医療崩壊を予見し、人口に対して少ないと言われる病床確保の目的で厳しいゼロコロナ政策を課したとしている。しかし、上からの通達による一刀両断の措置は、結果として医療機関の収入の低下を招き、地元医療の基盤喪失を招いた。ゼロコロナ政策は、こうしたところでも裏目に出てしまったのである。

● 賃金未払いが中国の国民を直撃

 割を食うのは国民だ。医療従事者の中には、自分が感染してもなお長時間労働を強いられ、現場から逃亡を企てる者もいた。劣悪な条件で働き詰めにさせられ、しかも賃金は未払いという絶望の中で憤死した医療従事者もいた。隔離専門病棟に無料の弁当を運び入れた業者でさえも、「未払い状態」に泣き寝入りだ。

 毎年春節シーズンを迎えると、中国では建設現場などで出稼ぎ労働者を中心に未払い賃金をめぐって、一騒動あるのが通例だが、今年は年末年始にかけてインターネット上で数々の“騒動”が取り上げられた。

 湖北省では不動産大手・恒大集団の下請け業者が未払いの賃金を要求する集団抗議に出た。河南省の鄭州大学では、大学従業員が横断幕を掲げ3カ月の未払いの賃金請求を行った。同じ河南省鄭州市では、昨年末、賃金の未払いにキレた男性が掘削機を使って多くの車両をひっくり返す暴挙に出、直後、警察によって射殺されるという事件が起こった。

 春節前といえば、稼いだお金で故郷の家族とだんらんするのを心待ちにする時期だが、ゼロコロナ政策のツケともいえる“白条”(回収不能の借用書)を手に、やりきれない日々を送る人々も少なくない。「白紙抗議の次は白条抗議か」と、新たな抗議活動の可能性をほのめかすツイートもある。

● 若者の政権離れで、習近平も「火消し」

 昨年12月31日、習近平国家主席は、国営のCCTV(中国中央テレビ)とインターネットを通して2023年の賀詞を国民に贈った。前回とは異なり「台湾統一」を呼びかける声は消え、「中国の発展は若者にかかっている」とする激励のメッセージが加えられた。

 それは、昨年11月末に中国各地で行われた若者の抗議活動に対する“消火活動”のようでもあり、また20%近い失業率に直面する若い世代の不満を和らげる“鎮静剤”のようでもあった。

 中国の若手小売業者のひとりが自分の出店する客もまばらなショッピングモールを撮影し、「中国の専門家のいうリベンジ消費などどこにあるのか」と不満をぶちまけ、動画サイトに投稿した。日本の大学院に進学した留学生は「この3年間で私たちは政府への信頼も失った」と話す。

 中国国家統計局は1月17日、2022年の国内総生産(GDP)について、目標の前年比5.5%を大きく下回る3.0%増だと発表した。民心が離れつつある中で、習指導部が望む“団結”による経済回復を遂げるか否かは、2023年の見どころとなるだろう。

姫田小夏

【私の論評】中国の現状の失業率の高さは、ゼロコロナ政策以前からある構造的問題が原因(゚д゚)!

上の記事、現在の中国がどのような状況におかれているのか、それを見るには良い記事であると思いますが、経済に関しては、あまりに皮相的です。ゼロコロナ政策が突然変換したから、失業が増えたという見方はあまりに非現実的です。

政府が金がなくなったというのなら、政府は金を刷れば良いはずです。しかし、そうはしないのにはそれなりに理由があるのでしょう。というより、できない理由があるとみるべきでしょう。

日本では、どのような政策をしてきたかといえば、このブログに何度か掲載してきました。コロナがまだ深刻な状況だった、安倍・菅両政権において、両首相とも増税をしないことを政治決断して、両政権で合わせて100兆円の補正予算を組みました。安倍政権下では、60兆円、菅政権下では、40兆円の補正予算を組みました。

そうして、この100兆円には根拠がありました。コロナ禍が深刻だったこの時期には、GDPギャップが100兆円あるとされ、まずはこれを埋める政策が必要だったのです。

共に大快挙を成し遂げた菅義偉氏(右)安倍晋三氏(2020年9月14日)

財源は、政府が長期国債を発行して、日銀がそれを買い取るという形で調達しました。これを安倍元総理の言葉を借りると「政府日銀連合軍」で調達したのです。それで、ワクチン接種や、コロナ病床の確保、雇用対策などの対策を実行しました。

金融緩和そのものが、雇用対策になるのですが、これだけだと効果を出すのに時間がかかります。特に雇用対策においては、雇用調整助成金という制度を活用しつつ、対策を行ったため、両政権において失業率は2%台で推移するという大快挙を成し遂げたのです。これは、他国においては、コロナ禍期間中には、失業率が跳ね上がったのとは対照的です。

失業率は、典型的な遅行指標であり、現在行っている失業対策の結果が出るのは、半年後であり、現在の失業率は、半年前に打った雇用政策の結果であるといえます。

岸田政権においては、政権発足してからしばらくの間は、菅政権の雇用対策の恩恵を受けていたといえます。岸田政権においても、発足してから現在に至るまで、失業率は2%台で推移していました。

さて、日本では、雇用に関しては、中国のようなひどい状況になっていません。にもかかわらず、なぜ中国は現状のようにひどい状況になっているのでしょうか。

上の記事では、ゼロコロナ政策をなんの準備もせずに、実施したということだけが原因のように語られていますが、本当にそうでしょうか。

上の記事では、「広州市の財政が底をついた」という記述もみられますが、これは、金融緩和をしていないというかできない状況にあるとみるべきでしょう。

先あげた、「政府日銀連合軍」による資金調達も、これは金融緩和の一種であることには変わりありません。これは、緊急時などの金融緩和の一方策ともいえるものです。

中国も日本のように金融緩和をすれば、今頃なんの問題もなかったと思います。日本が、安倍・菅両政権で100兆円の対策を行ったのですから、人口が10倍超の中国は1000兆円の対策を行っても良いはずです。

このくらいの、大規模な金融緩和策を行っても良いはずですし、行っていれば、中国の雇用は今ほどの落ち込みを見せてはいないはずです。

ところが、中国政府はこのようなことを実行していないばかりか、「2022年1~11月における中国の財政赤字は7兆7500億元(約155兆円)と、前年同期の2倍余りに拡大し2020年を超える水準に膨らんだ」というのですから、これは異常事態です。

しかし、10年以上前の中国なら、雇用が悪化すれば、すぐに効き目が期待できる、財政出動を行い、徐々に効き目がでてくる、金融緩和も大々的に行い、すぐに雇用の悪化を防いでいました。

その頃の中国の経済対策は単純なものでした、景気が悪くなれば、すみやかに積極財政、金融緩和を行い、その結果経済が回復し、加熱してくると、今度は緊縮財政、金融引締をするという具合に繰り返し、経済を安定させてきました。この時期の中国は、緊縮財政、金融引締を繰り返す日本とは対照的でした。

その頃までは、中国では、今では忘れさられた「保8」という言葉も生きていました。これは、中国は発展途上国なので、経済発展が8%以上ないと、雇用を確保できないので、8%の成長率を維持するいう政府の約束です。この「保8」も10年くらい前から、実現されたことはありません。

中国の経済統計はそもそもデタラメであるということは、知られていますが、それにしても今回、中国の失業率の上昇は、もはや中国ではこのような対策はできないことを反映シたものなのだと思います。

このような対策ができなくなったみられたのは、何も最近のことではありません。この記事にも以前掲載したことがあります。
中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味―【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事である高橋洋一氏の記事から以下に一部を引用します。 

 では、量的緩和や引き締めといった金融政策に中国政府が言及しなかったのはなぜか。これは、中国の政治経済の基本的な構造が関係している

 先進国が採用するマクロ経済政策の基本モデルとして、マンデルフレミング理論というものがある。これはざっくり言うと、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先するほうが効果的だという理論だ。

 この理論の発展として、国際金融のトリレンマという命題がある。これも簡単に言うと(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べない、というものだ
 先進国の経済において、(1)は不可欠である。したがって(2)固定相場制を放棄した日本や米国のようなモデル、圏内では統一通貨を使用するユーロ圏のようなモデルの2択となる。もっとも、ユーロ圏は対外的に変動相場制であるが。

 共産党独裁体制の中国は、完全に自由な資本移動を認めることはできない。外資は中国国内に完全な自己資本の民間会社を持てない。中国へ出資しても、政府の息のかかった国内企業との合弁経営までで、外資が会社の支配権を持つことはない。

 ただ、世界第2位の経済大国へと成長した現在、自由な資本移動も他国から求められ、実質的に3兎を追うような形になっている。現時点で変動相場制は導入されていないので、結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているのだ。
結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているとは、どういう意味かといえば、今回のような未曾有のコロナ禍にあたって、経済や雇用を支えるには、大規模金融緩和が必要なのですが、それができないということです。

それを行ってしまえば、何かの不都合が起こり、その不都合に対策すると何か別の問題が起こり、もぐらたたきのようになってしまうのでしょう。

中国政府としてはこのことは、前から理解していて、ゼロコロナ政策を継続したかったのでしょうが、それを実行するためには、金融緩和によって資金を調達する必要があるのですが、それが何らかの理由でできない状況になっており、結局ゼロコロナ政策をやめて、放置することにしたとみられます。

先にあげた記事の【私の論評】では、中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせいなどとしましたが、たしかに当時はそうだったのかもしれませんが、より根本的には中国経済が国際金融のトリレンマにはまってしまい、独立した金融政策ができなくなっていることが原因です。

中国は、ゾンビ企業問題を解消しても、今度は資本の国外逃避が起こる、あるいはインフレになるなどの問題が生じるのでしょう。

中国が、固定相場制をやめて変動相場制に移行するなどの根本的な解決は未だ実施されていません。

AI画像

こうした根本的な問題が放置されたままになっているところに、コロナ禍が起こったたため、ゼロコロナ政策に踏み切ったのでしょうが、この政策を維持するにも莫大な資金が必要です。それには、本来は金融緩和をした上で、資金を調達すれば良いのですが、それを大々的にやってしまうと、資本の海外逃避や、インフレに見舞われることになるので、ゼロコロナ政策をやめることにしたのでしょう。

中国が自由な資本移動を認めるか、変動相場制に移行するなどの大胆な改革を行わない限り、経済の低迷や高い失業率の問題は解決されないでしょう。

それこそ、サマーズ氏が予想していたように、春頃までには、中国は世界第2の経済大国になると思われていた国とはとても思えないような国になっていることでしょう。

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2023年1月19日木曜日

ロシア、ウクライナ侵攻の短期決着になぜ失敗?アメリカが明かした「宇宙」の攻防―【私の論評】陸だけでなく、宇宙・海洋の戦いでも、ますますズタボロになるロシアの現実(゚д゚)!

ロシア、ウクライナ侵攻の短期決着になぜ失敗?アメリカが明かした「宇宙」の攻防

ロシアはすで宇宙大国ではない AI画像

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年近くが経つ。海外の研究機関によれば、ロシアは当初侵攻から10日で決着をつける計画だった。なぜ、決着をつけられなかったのか。宇宙での「戦い」に敗れ去ったからだ。(牧野愛博)

ロシア軍は2022年2月、ウクライナに対し、南北と東から侵攻した。部隊の一つは首都キーウ(キエフ)を目指し、特殊部隊がキーウに侵入したという報道もあった。当時、ロシア軍が投入した兵力は最大19万人とされ、日本の約1.6倍あるウクライナ全土を占領するためには少なすぎるという評価もあった。

ところが、ウクライナは緒戦の1カ月で、ロシア軍の戦車400両以上、軍用機100機以上を破壊した。ロシアは2022年4月初めまでにキーウ周辺から完全撤退し、作戦の練り直しを迫られた。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)は2022年11月末、ロシアはウクライナを占領するまでに必要な作戦期間を10日間と見積もっていたとする報告書を発表した。11月に『ウクライナ戦争の教訓と日本の安全保障』(東信堂)を共著で出版した松村五郎元陸将は次のように語る。

「ロシアは、2014年のクリミア併合と同じようなハイブリッド戦争で、激しい戦闘を避けながらウクライナの属国化を達成しようと考えたと思います。作戦を2、3日から長くとも1週間で完了するつもりだったと思います。戦力を分散して多数の正面から侵攻したこと、ベラルーシからキーウに突進した部隊の戦闘準備が不十分だったことは、軍事力をもっぱら威嚇のために使用するという狙いだったからでしょう」

ロシアは2022年1月、ウクライナの政府機関や金融機関などにサイバー攻撃をかけた。侵攻前日の2月23日になると、電磁波に攻撃をかけてウクライナの衛星通信網を無力化し、軍の通信や民間のインターネットを使えないようにした。

特殊工作要員をキーウ市内などに潜入させ、彼らは侵攻が始まった後にやってくるロシア軍空挺部隊が襲撃すべきポイントをマーキングして回った。

なぜ、ロシアのハイブリッド戦争が敗れ去ったのか。米国の政府や国防産業関係者、専門家らは2022年5月、ワシントンを訪れた自民党訪米団に対し、ウクライナが勝利した背景の一端を明らかにした。

米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、2014年にロシアがクリミア半島を強制併合した事実を深刻に受け止めていた。特に、ロシアがその際に使ったハイブリッド戦争に注目。米国はロシアによるウクライナ侵攻の兆候が出始めた2021年夏ごろから、特殊部隊要員をウクライナに派遣し、ハイブリッド戦争への対応策について教えていた。そのなかで、力を入れた戦術の一つが「宇宙での戦い」だったという。

米国は湾岸戦争(1990年)やイラク戦争(2003年)などで宇宙を独占して勝利した。湾岸戦争で、衛星情報などを使ってイラクの軍事目標を正確に破壊していく米国の戦いは、「初めての宇宙戦争」と言われた。

この動きをみていたのが、中国やロシアだった。中国は2007年1月、自国の衛星を標的にした衛星破壊実験を実施した。ロシアも2021年11月に同様の実験を行っている。元自衛隊幹部は「米国は2007年の中国による衛星破壊実験をみて、宇宙が自分の独占物ではないことに気がついた」と語る。米国は2019年12月、米国の6番目の軍種として宇宙軍を創設した。

米国は、ロシアがハイブリッド戦争を挑み、ウクライナのインターネットや衛星通信などを無力化するだろうと予測した。

日本など世界では、ウクライナの通信インフラを支えたのが、米スペースX社の衛星インターネットサービス「スターリンク」だとされている。米国が仲介し、ウクライナの通信網のバックアップとしてスターリンクのサービスを提供したのは事実で、ウクライナ侵攻は「初めての民間参入宇宙戦争」とも呼ばれる。

しかし、米側は自民党訪米団に対して「スターリンクはあくまでも一部に過ぎない」と説明したという。自民党関係者は「米国の動きをカムフラージュするため、わざとスターリンクの存在を内外メディアにアピールしたようだ」と語る。

米国の国防産業はすでに十数年前、各国が宇宙で使用している様々なシステムをリンクするシステムの開発に成功していた。ウクライナの衛星通信網を米国のシステムに連結することはもちろん、ドローン(無人航空機)などの地上偵察網や戦車、戦闘機などの攻撃システムにも連動させた。

米側の説明によれば、ロシア軍は確かに、ウクライナの衛星通信網の無力化に成功した。ところが、ウクライナ軍は米国の通信網に完全にリンクしていた。インターネットの利用はおろか、接近してくるロシア軍の戦車や装甲車、ドローンなども映像を通して、リアルタイムで把握できたという。ウクライナ軍は、米軍から教えられたロシア軍戦車などの急所を正確に攻撃し、次々に撃破していったという。

政府が12月16日に閣議決定した新たな国家安全保障戦略は、「宇宙の安全保障の分野での対応能力を強化する」とうたった。国家防衛戦略は「日米共同による宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦を円滑に実施するための協力及び相互運用性を高めるための取組を一層深化させる」と宣言した。

今月11日に開かれた日米安全保障協議委員会(2+2)も共同発表で「閣僚は、とりわけ陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波領域及びその他の領域を統合した領 域横断的な能力の強化が死活的に重要であることを強調した」とうたった。現実は「宇宙を制する者はすべてを制する」という時代になっている。

自民党関係者の一人は「これからは、陸海空だけでなく、宇宙もサイバーも電磁波も一体化しないと戦争には勝てない。宇宙はそのカギになる場所だ」と指摘した上で、こう危機感をあらわにした。「もう、米国の51番目の州にならない限り、この国を守れない」

朝日新聞社

【私の論評】陸だけでなく、宇宙・海洋の戦いでも、ますますズタボロになるロシアの現実(゚д゚)!

ロシアに関しては、宇宙大国というイメージがありますが、宇宙大国であれば、ウクライナ軍は米国の通信網に完全にリンクしていたとしても、何とでもできたはずです。にもかかわらず、どうしてそうはならかったのでしょうか。

それは簡単に理解できます。ロシアは、すでにかなり以前から宇宙大国ではないのです。

2019年にプーチン大統領は演説で、ロシアの宇宙開発について「衛星通信システムなどは、品質、信頼性などで競合相手より劣る」「機器や電子部品の大部分をグレードアップする必要がある」などと指摘しました。

ロシアの宇宙開発は、技術力でも、資金力でも、もはや欧米や中国にかなわないのです。その存在感はどんどん薄くなっていました。であれば恫喝で世界を攪乱し、自らの存在感をアピールし、重要な国だと思わせようと、ロシアのロケットで打ち上げる予定だった欧州の衛星を事実上拒否したり、ロシアも含めて15カ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)での任務放棄やISS落下をほのめかしたり、ロシアは宇宙の国際交渉で、事あるごとにこういう「正攻法」ではないやり方をしてきました。

しかし、このやり方が成功するには、「ロシアがいなくなると、宇宙開発が止まってしまう」という状況でなければなりませんが、もうそのようなことはないのです。

モスクワの全ロシア博覧センターに展示されているロケット「ボストーク」

ロシアの宇宙開発の力が落ちたのは、1991年のソ連崩壊後です。予算が激減し、新たな技術開発ができず、技術者や技術が海外へ流出しました。

米国は安全保障上の懸念から、米欧日などの西側諸国で進めていた宇宙ステーションに、ロシアを参加させ流出を抑えようとしました。ロシアもそれを受け入れました。

ところが、ロシア国内に残った技術者の士気は薄れ、質も劣化していきました。2000年代のロシアで、ロケットや衛星の単純なミスや技術不備による失敗が続いたのも、そうしたことが影響したと見られています

そんな中、思わぬ「敵失」がロシアの窮地を救いました。2003年に米スペースシャトルの空中分解事故が起き、乗っていた宇宙飛行士全員が亡くなってしまいました。米国は11年にシャトルを退役させることになりました。

シャトルがなくなると、ISSへ人を運ぶ手段はロシアのロケットと宇宙船だけです。ロシアの影響力は俄然大きくなります。米国の足元を見透かして、飛行士をISSまで運ぶ「座席料金」を引き上げるなど、やりたい放題でした。

ところが、2020年に再び状況が変わりました。米スペースX社が宇宙船で人を宇宙へ運ぶことに成功し、米国は独自の輸送手段を獲得しました。ロシアのロケットと宇宙船も引き続き使われてはいますが、以後、宇宙でのロシアの力は再び弱まっていきます。

プーチン大統領は、ロシアの宇宙開発がここまで弱体化したのは、国が崩壊しばらばらになったためだと考えているかもしれません。

現在のロシアの宇宙施設やロケットは、旧ソ連圏の国々や欧州などとの微妙な力関係の上に成り立っています。バイコヌール宇宙基地は、カザフスタンにあり、ロシアはカザフスタンに借料を払わねばならないのです。

ロシアのロケットは、ウクライナ製の部品やシステムなどの外国技術に依存したり、他国との合弁事業だったりするなど、ロシアだけでは自由にできない状況が長く続いてきました。

ロシア製部品への切り替えなどの対策を講じてきましたが、旧ソ連圏をロシア中心でまとめ直そうとしているプーチン大統領にとって、ロシアの技術だけの純国産ロケットを作り、ロシアが自由に使える宇宙基地から打ち上げることが悲願になっていました。

このため、新ロケット「アンガラ」の開発や、新たな宇宙基地の建設を進めたのですが、どちらもまだ本格的な活用までは至っていません。新基地建設をめぐっては大規模汚職が問題になるなど、負の側面も目立ちました。

このままいけば、ロシアの宇宙開発は国際社会から締め出される可能性がある。昨年3月17日に欧州宇宙機関(ESA)が、ロシアと共同で今年打ち上げる予定だった火星探査機の計画を中断すると発表したように、すでにその兆しが見えていました。

国際社会から締め出さされた時、ロシアは中国との連携を深めるでしょう。

今、米国が主導して国際協力で月面に有人基地を造る「アルテミス」計画が進められています。しかし、ロシアはこれに参加せず、中国と月面基地の建設で協力する政府間合意を交わしており、この計画を進めています。一方、中国は独自の宇宙ステーションを完成させています。ここにロシアが加わることも考えられます。

世界の宇宙開発は二極に分断される恐れがある。双方が目指す月までは、広い宇宙空間が広がる。国際ルールや規範を顧みない中国とロシアがこの広大な宇宙空間でどのようにふるまうか、リスクが高まっているともいえます。

ただ、宇宙開発に必須ともいわれる最新型の半導体ですが、中露とも米国の制裁によって、輸入も製造もできない状態になっています。

このような状況で、中国は最新型の半導体は製造できず、輸入もできず、中国は少し前の技術によって、宇宙開発をせざるを得なくなりました。それでもある程度のことはできるかもしれません。

ただ、最新型の半導体の輸入も、製造もできないロシアには難しいでしょう。ただ、一縷の望みは、中国から最新型ではない半導体を入手できる可能性です。

しかし、これも困難になりそうです。これについては、以前このブログでも述べたばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
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30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事と関連付けて述べると、中国は米国の制裁をかなり恐れているようです。

現状では、中国では米国の制裁により、軍事転用などもできる最新型の半導体は、製造も輸入もできない状況になっていますが、一世代前のものであれば、製造も輸入もできます。これに対して、ロシアは半導体そのものが、輸入も製造もできない状況です。

中国の場合は、通信でいえば、G5関連の半導体は、製造も輸入もできませんが、G4であれば、できるようです。開発がすすみ、米国でG6が主流になれば、G5は輸入も製造もできるようになるかもしれません。

ただし、中国がロシアとの関係を強めていけば、米国の制裁はさらに厳しくなり、中国もロシアのように半導体そのものが輸入も製造もできなくなるかもしれません。

そうなれば、中国も宇宙開発どころではありません。こういうこともあり、習近平政権は、ロシアを見限ったとみられます。

そうであれば、ロシアが宇宙で覇権を握るなどのことは不可能です。「宇宙での戦い」で優位性を発揮することもないでしょう。

上の記事では、最後に「朝日新聞」の記事らしく、以下のようなことが述べられています。

自民党関係者の一人は「これからは、陸海空だけでなく、宇宙もサイバーも電磁波も一体化しないと戦争には勝てない。宇宙はそのカギになる場所だ」と指摘した上で、こう危機感をあらわにした。「もう、米国の51番目の州にならない限り、この国を守れない」

この自民党関係者の一人の方とは、誰かは知りませんが、この人、もしくは朝日新聞は重要なことを忘れているようです。

それは、監視衛星からは、水中の潜水艦を発見できないという事実です。現代の監視衛星は、宇宙から陸上の戦車などを仔細に監視することはできますし、水上に浮かんでいる艦艇を監視することはできますが、水中に潜っている潜水艦を監視することはできません。

現代海戦においては、水上艦艇は監視衛星や、比較的近いところからならレーダーで監視することができます。しかし、水中に潜る潜水艦はこれでは発見できません。

よって、水上艦艇は巨大空母であろうが、イージス艦であろうが、ミサイルの標的に過ぎませんが、潜水艦はそうではありません。

だからこそ、対潜哨戒能力や潜水艦の能力、敵潜水艦を攻撃する力、これらを総称する対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Wafare)が重要であり、ASWのが強いほうが、海戦を制するのです。

現在の海戦はASWが強いほうが勝つのです。そうして、日米は世界のなかでASWではトップクラスであると言われています。無論、日本は中露のASW能力をはるかに凌いでいます。

海を四方に囲まれた、海洋国日本がASWに力をいれるのは当然のことですし、いままでは予算が少なかった自衛隊が、ASWを世界トップクラスにすることに努力を傾注し、宇宙分野は後回しにしたということは、必然的な流れであり、正しい判断だったいえます。

ただ、日本もこれからは、宇宙の分野にも力をいれていくべきでしょう。日本には、それができる技術力は十分にあります。私は、これからでも力をいれていけば、やがて日本はASWだけではなく、宇宙分野でも米国に並ぶ存在になれると思います。

今後、半導体も満足に入手できないロシアは、陸上の戦いでも、宇宙でもASWでも、さらに劣勢になっていくことでしょう。残るのは、核兵器や化学兵器くらいのものです。ただし、これらを使えば、ロシアに未来はなくなります。

GDPでは、すでにインドを下回り、韓国をも若干下回る規模になったロシア、軍事でも没落は目に見えています。プーチンはそろそろ大国幻想を捨てざるを得なくなるでしょう。

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2023年1月18日水曜日

対中国 P1哨戒機訓練をテレビ初撮影 潜水艦への魚雷攻撃も―【私の論評】実はかなり強力な日本のASW(対潜水艦戦)能力(゚д゚)!

対中国 P1哨戒機訓練をテレビ初撮影 潜水艦への魚雷攻撃も

P1哨戒機

 2022年12月、中国とロシアの軍艦・戦闘機が合同で軍事演習を行った。2023年1月には中国の偵察無人機が東シナ海と太平洋を往復。自衛隊は2日連続での飛行にスクランブル発進で対応した。 

 中国船は東シナ海のみならず、太平洋上にも進出。それが常態化していて、近年ますます活動が活発化している。

  自衛隊は脅かされている日本の海上を守れるのか? テレビ朝日政治部の安西陽太記者は旧帝国海軍の特攻隊でも知られる鹿児島県鹿屋基地を密着取材。防衛の鍵を握るP1哨戒機の訓練を撮影した。

 鹿屋基地は海洋進出を強める中国などを念頭に警戒監視部隊が配備されている国防の要所だ。

  P1哨戒機は、海上自衛隊の最新鋭国産機で、主な任務は日本周辺の不審船や外国艦船、さらに海中の潜水艦を発見することである。

  機内には11人が乗員。パイロット2人と機上整備員、戦術・捜索を指揮する戦術航空士と補佐、レーダー・センサー担当のミッションクルー4人、魚雷などの装備品やシステム管理をする隊員2人がその任についている。 

 海上における警戒監視訓練に続いて高まる緊張感のなか行われたのは潜水艦捜索訓練。この訓練にテレビカメラが入るのは前例がないという。  訓練では、海に潜った潜水艦をレーダーやセンサーを使って発見し位置を細かく特定。P1哨戒機に搭載された魚雷で潜水艦への攻撃も行う。

 鹿屋基地P1哨戒機部隊の津田怜男2佐は中国などと日々対峙する国防の最前線での訓練について、「当然相手がミサイルを発射してくる可能性もありますので、緊張感があります。ミスが許されない」と語り、他の隊員も「任務をやっている中でも身に感じて海洋進出が多くなっているというのは日々感じ取っています」「テレビで見ていた尖閣諸島に近い基地ということで業務量は多いですが、日々やりがいを感じています」などと話した。 

 鹿屋基地P1哨戒部隊を指揮する岩政秀委1佐は緊張が高まる中国などの動向について、「脅威というのはいきなり起きるわけではありません。少しずつ何かしらの兆候が見えてきます。それは毎日の哨戒活動によって一つひとつ見ていかないと変化に気づけないと思います」と力強く語った。 (ABEMA NEWSより)

【私の論評】実はかなり強力な日本のASW(対潜水艦戦)能力(゚д゚)!

以下にどのようなテレビ報道がなされたのか、以下にその動画を掲載します。


海上自衛隊のP-1哨戒機は哨戒(パトロール)が主任務ながらも、多くの武装を搭載でき万一の場合には攻撃もできる航空機です。その特徴は旧海軍が運用した、九六式陸上攻撃機や一式陸上攻撃機などに通ずるものがあります。

毎年1度、防衛省によって発行される「防衛白書」によれば、2020年現在、海上自衛隊は新型で配備が進む国産のP-1を19機、退役が進んでいるP-3Cを55機の、合計74機の「哨戒機」を保有しているとされています。哨戒機は艦艇の10倍にも及ぶスピードを有し、広大な洋上を監視する上で欠かせない航空機です。

哨戒機の名称の頭文字「P」は「Patrol(パトロール)」から取られていますが、攻撃機でもあります。特に対水上戦(潜水艦ではない艦艇との戦闘)におけるその役割は、旧日本海軍が保有した九六式陸上攻撃機一式陸上攻撃機の両「陸攻」と非常によく似ています。

マレー沖海戦に出撃する一式陸攻

九六式、一式は極めて長大な航続距離を有し、兵装を搭載しない状態であれば最大で6000kmを飛行可能でした。この航続距離を活かして洋上を長時間、遠方まで敵艦を索敵し、発見した場合は兵装を搭載した機体が長駆進出し対艦攻撃を加えます。最も有名な成功例は1941(昭和16)年12月10日のマレー沖海戦であり、両陸攻は当時不沈艦といわれは、英軍の戦艦2隻を撃沈しました。

P-1は機体外部のハードポイント(兵装類を吊り下げ搭載する部分)8か所と、さらに胴体部の爆弾倉(ボムベイ)に、レーダー誘導型空対艦ミサイルAGM-84「ハープーン」または国産の91式空対艦誘導弾(ASM-1C)を搭載できます。2020年に入り陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾を原型とした新型対艦ミサイルの搭載試験と思われるP-1の姿が目撃されており、近い将来実用化されるでしょう。

現代の水上艦およびこれが搭載する艦対空ミサイルは非常に優れているため、航空機が接近するとまず撃ち落とされてしまい、また単に水上艦へ対しミサイルを発射しても迎撃されてしまいます。

したがって水上艦を攻撃するには、たくさん対艦ミサイルを搭載する能力が大きな利点となります。つまり目標の艦はもちろん、周囲の護衛艦や戦闘機などと共同で迎撃できないほどの大量の空対艦ミサイルを、同時かつ長距離から撃ち込むのです。

航空自衛隊のF-2戦闘機は、P-1とほぼ同等の空対艦ミサイルを4発、携行できます。戦闘機には戦闘機の利点もあるので単純に比較はできないにせよ、P-1はF-2の、2機分以上の攻撃力を有しているといえます。

そのため、敵国からしてみれば「大量の空対艦ミサイルを持っているかもしれないP-1がどこかで滞空している(飛んでいる)かもしれない」という脅威を受け続けることになり、平時においては抑止力となりえます。

P-1が搭載できるもうひとつの空対艦ミサイルに、AGM-65「マーベリック」があります。こちらは画像認識誘導型で射程と威力は比較的低く、本格的な水上艦以外の目標への攻撃に適しています。

AGM-65は、実戦での戦果において右に出るものがない傑作ミサイルです。これまで他国軍において様々なタイプが合計5000発以上発射され、おもに対戦車ミサイルとして使われました。ターゲットが船舶でも戦車でも射撃前に映像で捕捉し射撃する手順は変わらないので、ある意味ではP-1は地上攻撃能力もあるといえます。

九六式、一式陸攻は爆弾や魚雷も搭載可能でした。これらはおもに水上艦艇への対処に使用されましたが、P-1も対潜(対潜水艦)用途ではありますがどちらも装備可能です。

1999(平成11)年の能登半島沖不審船事件では「海上警備行動」が発令され、警告のためP-3Cから「150kg対潜爆弾」が投下されています。対潜爆弾は無誘導なので、やはり主力は誘導装置を持った「短魚雷」です。

P-1が搭載する「短魚雷」にも種類があり、アメリカ製のMk46、太平洋など深海における能力を改善した97式魚雷、東シナ海など比較的浅い海での能力を改善した12式魚雷があります。

これらの短魚雷は、敵潜水艦の発する音を探知するパッシブソナー、または音波を発信し物体に跳ね返ってきた信号を探知するアクティブソナーを持ち、たとえば潜水艦上空から発射され着水すると、円を描くように潜っていき敵潜水艦を探します。

P-1のコクピット

80年前と現在では社会情勢こそ大きく変わりましたが、日本という国が四方を海に囲まれ海運に依存する地勢的状況は変化していません。九六式、一式陸攻を現代のテクノロジーによって再設計したようなP-1哨戒機ですが、こうした種類の飛行機がいまも重要であり続けることは、必然であるといえるのかもしれません。

2013年のP-1の就役により、海上自衛隊の対潜・対海巡視能力が大幅に引き上げられました。中国は潜水艦の実力強化を急いでおり、総規模が70隻に達しています。

P-1はP-3C(米国制の哨戒機)が捕捉できない音響を捕捉できます。例えば魚雷発射管を開く音、舵を切る音などを捕捉でき、さらにより広範囲な周波数の雑音を処理できます。P-1哨戒機等により、日本は中国の多くの艦艇の音紋を把握しているといわれます。

P-1を含め、日本の対潜水艦戦争(ASW:Anti Submarine Warfare)の能力は、中国を圧倒しており、海戦能力においては、日本のほうが中国を圧倒しています。

日米ともに、ASWは中国を圧倒しており、現代海戦においては、ASWの強いほうが、有利です。今回、その一端でもある、P1哨戒機の訓練の様子が、テレビ初撮影されたのですから、日本のASWに関する情報公開もようやっと進みつつあるようです。

潜水艦の行動や、ASWの能力については、昔から極秘注の秘とされていて、表にはなかなか出てこないのが普通でした。ただし、能力があるにもかかわらず、それを全く公表しないというのも考えものです。

全く公表しなければ、日本のASWは全く脆弱で、中国で海で戦えば、あっという間にやられてしまうと、考える人も多いようです。それは、間違いであり、中国海軍が日本に対して攻撃を加えれば、中国海軍は甚大な被害を被ることになります。

もし、中国のASWが日米を上回っていたら、中国はもっと大胆な行動をしているでしょう。台湾などとっくに侵攻しているでしょう。尖閣諸島もとうの昔に占領されて、前哨基地を設置され、今頃は沖縄侵攻作戦を企図していることでしょう。

中国にそれだけの能力があれば、今頃ハワイ侵攻作戦も企図していたかもしれません。

ただ、あまりにも公開しすぎると、秘密を公開するようなものなので、公開しすぎは禁物です。バランスをとることが欠かせません。しかし、今回はじめてP1哨戒機訓練をテレビ初公開したことは、評価できます。これで、日本でも多くの国民に、日本のASWの一端を知ってもらうことができると思います。

海上自衛隊厚木航空基地(神奈川県大和市、綾瀬市)で11日、第4航空群による今年初の訓練飛行が行われました。

訓練では、P1哨戒機が同基地を出発し、富士山を周回。約1時間半飛行して同基地へ戻ってきました。普段は海上での訓練や任務が主で陸の上を飛ぶことはほとんどないのですが、毎年の初訓練飛行では富士山周辺を飛ぶのが恒例になっているといいます。

今年の初訓練に臨む海自のP1哨戒機(11日午前10時33分、海自機から)

飛行の前には、第4航空群司令の金山哲治海将補が約200人の隊員に対して年頭訓示を行いました。金山海将補はロシアによるウクライナ侵略や周辺国の軍備増強、頻発する自然災害などを挙げ、「いつでも国民の負託に応えられるよう、日々精進し備えなければならない」と呼びかけました。

このような訓練も、国民に自衛隊の守備能力を示すものともなり、良いことだと思います。

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2023年1月17日火曜日

「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換



 

 昨年12月30日に中国の外交部長(外相)に任命された秦剛氏は年明けてから早速、活発な外交活動をスタートした。1月11日からアフリカ諸国への外遊を始めたのと同時に、アメリカ・ロシア・パキスタン・韓国の4カ国の外相とも電話会談を行い、外相としてのデビューを飾った。

秦剛氏

 一連の電話会談のうち、秦外相が最初に行ったのは米国のブリンケン国務長官との会談である。1月1日の元旦、外相に任命されてからわずか2日後、秦外相はプリンケン長官と通話し、新年の挨拶を交わした上で「米中関係の改善と発展」を語り期待を寄せた。

 外相に任命される直前まで、秦氏は駐米大使を務めていたから、外相になって初めての電話会談相手が米国務長官であることは自然の成り行きとは言えるが、最大の友好国家であるロシア外相との電話会談をその後に回したことはやはり違和感を感じさせる。中国の外交姿勢に何かの変化が起きているのではないかと思いたくなるのである。

 ロシア外相との会談が実現されたのは1月9日、米中外相電話会談から8日後のことだ。同じ9日に秦外相がパキスタン、韓国外相とも電話会談を行ったから、ロシアとの関係を「特別視しない」という中国側の姿勢はそこからも伺える。

 そして中国外務省の公式発表では、秦外相は「予約(要請)に応じて」、ロシアのラブロフ外相との電話会談に臨んだという。それは要するに、「向こうからの要請がなかったら電話会談をやっていないかもしれない」ということを暗に示唆しているような表現であるが、わざと「要請されての電話会談」を強調するのにはやはり、ロシアとの距離感を示す狙いがあるのであろう。その一方、米国務長官との会談に関しては、中国側は「要請されて」との表現を使わなかった。

「3つのしない」とは

 肝心の中露外相会談の中身となると、中国外務省の公式発表では、秦外相は電話の中で「中露関係の高レベルの発展」に意欲を示しておきながらも、「中露関係の成り立つ基礎」として、「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」という「3つのしない」方針を提示したという。

 この「3つのしない」方針の意味合いを1つずつ考えてみると、「第3国をターゲットとしない」とは当然、アメリカ・EUの存在を強く意識したものであろう。つまり中国の新外相はここで、中露関係は決して欧米と対抗するための関係ではないことを、むしろ欧米に向かって表明したのである。

 もう1つ、秦外相はロシアに対して「対抗しない」との方針を示したことも大変興味深い。本来、「対抗しない」云々というのは、対抗している国同士間で関係の改善を図る時に発する言葉であって、友好国家の間でこのような表現を使われることはまずない。

 例えば日本の外相はあえて、米国国務長官や英国外相やフランス外相に向かって「対抗しない」と語るようなことは考えられない。親密関係の友好国同士の間に、「対抗する」ことは最初から想定されていないからである。

 しかし中国の秦外相は、本来なら一番の友好国であるロシアの外相に対して「対抗しない」という言葉を何気なく使った。捉えるようによってそれは、ロシアとの今までの親密関係を頭から否定するような発言でもあれば、「中露は互いに対抗しなければこれで良い」という、中露観の親密さを打ち消すような「冷たい」言い方にもなっているのである。

 そして「3つのしない」の一番目の「同盟しない」となると、要するに中国側は明確に、ロシアと同盟関係を結ぶ可能性を否定した訳である。

それまでは「無制限の関係強化」だった

 しかし、秦外相が示した中国の対露外交の「3つのしない」方針は実は、2021年以来の習政権の進む対露外交方針からの大転換である。

 それまでに、中国の外相や外交関係者は中露関係についてどう語ってきたのか。いくつかの実例をあげてみよう。

 例えば2021年1月2日、王毅外相(当時)は人民日報からのインタビュー取材において、「中露間の戦略的協力は無止境、無禁区、無上限である」と述べ、中国はロシアとの間で軍事協力の強化や同盟関係の締結を含めた、全く無制限の関係強化に対して意欲を強く示した。

 2020年10月23日、中国外務省趙立堅報道官(当時)は記者会見で、王外相と同じ表現を使って「中露協力は無止境、無禁区である」と語った。そして2022年10月4日、王外相は新華社通信のインタビュ取材で再び、「中露関係は無止境、無禁区、無上限」と強調した。

 しかし、去年の年末に王外相が退任して前述の秦剛氏は新外相に就任した。そして、ロシア外相の初電話会談ではこの新外相の発する言葉から上述の「3つの無」は完全に消えた。その代わりに、秦外相はロシア側に提示したのは前述の「3つのしない」方針であるが、それはどう考えても、これまでの「3つの無」方針に対する明確な否定であって、習政権による対露外交方針の180度の大転換であると言っても過言ではない。

 「3つの無」の「無止境・無禁区・無上限」が明らかに、軍事同盟を含めた同盟関係結成の可能性を強く示唆した表現であるのに対し、秦外相の「3つのしない」方針は真っ先に、ロシアと同盟する可能性を明確に否定した訳である。

「戦狼」報道官更迭もその一環

 そしてその意味するところすなわち、習政権は今までの数年間の「連露抗米」戦略を放棄し、米国との関係改善を図る一方、ロシアとの親密関係を根本的に見なおす方針に転じたことである。

 そう考えると、前駐米大使の秦剛氏を新外相に任命したのもまさにこのような外交方針転換の一環であって、そして秦氏は就任早々、一連の電話会談をもってこの新方針を実施に移し始めたと見て良い。

 その一方、今までに中国の「戦狼外交」の顔一つとして傲慢姿勢を貫き、欧米では受けの悪い趙立堅報道官は、秦外相の就任直後に表舞台から異動させられたこともまた、こうした外交方針の転換の現れであると理解できよう。

 このようにして中国の習政権は、対ウクライナ戦争で「負け馬」となって「世界の大国」の地位から転落したプーチンのロシアに見切りをつける一方、経済の立て直しのためには欧米との関係改善を図ろうとしていることは分かる。

 欧米との関係改善は中国の思惑通りになるとは限らないが、中露関係は新しい局面を迎えようとしていることは確実であろう。

石 平(評論家)

【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

昨年の暮には、このブログでは、中露の結びつきが強くなるかもしれないことを懸念しました。その記事のリンクを掲載します。
プーチンが「戦争」を初めて認めた理由―【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

この記事は、昨年12月30日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

プーチンと 習近平は30日、オンライン形式で会談しました。露大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭、習氏に訪露を招請し、来春のモスクワ訪問に向けて準備していることを明らかにしました。ウクライナ侵略後の米欧からの圧力に対し、中露の軍事協力の拡大で対抗する姿勢も強調しました。

さらにこの記事から引用します。

来年の4月頃には、このブログにも以前掲載したとおり、サマーズ氏が予告したように、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっているでしょう。その頃には、中国の最大の課題はコロナ禍からの回復に絞られているはずです。 
プーチンはこのことも理解していると思われます。にもかかわらす、来春に習の訪露を招請するのでしょうか。 
コロナで弱りきった中国は、西側諸国のように同盟国は存在せず、しかも現状では西側諸国と対立しており、コロナ復興は自力で行わなければなりません。コロナ前の中国なら、先あげた二番目のシナリオで、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持をする公算が高かったと考えられます。 
しかし、弱りきった中国なら、ロシアにかなり接近してくる可能性は高まるでしょう。特に、エネルギーや食料に関しては、中国はロシアにかなり頼れそうです。ロシア側とすれば、中国に武器に関しては頼れそうです。両者の利益が合致して、なりふり構わず、両者のパートナーシップは強まり、同盟関係に近くなるかもしれません。
結局、習近平はこうしたプーチンの意図を読み解いた上で、これは得策ではないと判断したのでしょう。

現状で中国が最も欲しいのは、半導体です。このブログでも以前掲載したように、バイデン政権は昨年もさらに中国に対して半導体規制を行っており、もはや中国では、新型の半導体は製造できず、輸入もできない状態になっています。

しかし、ロシアにはこれを中国に提供できる程の半導体技術はありません。半導体製造機械も、日米蘭の独壇場で、これも無論提供できません。

それでも中国は健在の段階だと、新型ではない半導体は、自らも製造できますし、輸入もできます。たとえば、現状ではスマホでいうと、5G関連半導体は輸入も、製造もできません。しかし、4G関連なら輸入、製造ともできます。

現状のロシアは、半導体そのものが製造も輸入もできない状態にあります。ロシアとして、古いタイプの中国の半導体でも入手したいと考えていることでしょう。

中露関係が緊密になれば、当然ロシアはこれを中国に要求することでしょう。そうなれば、どうなるかと、習近平は考えたのでしょう。もし、中国が一世代前の半導体でも提供するということになれば、米国はさらに中国に対する制裁を厳しくするだろうと、考えたのだと思います。

苦悩する習近平 AI画像

現状だと、たとえば、5Gが古くなり、6Gが新しいものになった場合、6G対応の半導体は、中国が輸入したり、製造できるようになる可能性はあります。

ただ、中露が接近して、同盟関係に近くなれば、米国は制裁をさらに強めて、半導体そのものを輸入も製造もできなくする可能性があります。

そうなれば、中国も現在のロシアと同じような状況になります。それでも、中露は抜け道を探すでしょうが、それでも入手できる半導体には限りがあり、兵器の製造そのものにかなり支障が出ることになります。

習近平としては、このような最悪な事態は避けたかったのでしょう。今回、中国がこのような態度にでたことで、ロシアは徹底的に追い込まれことになるでしょう。

ウクライナは半導体を入手できるでしょうから、これからも独自の兵器開発ができます。ちなみに、ウクライナは中国の軍事技術の基礎を築いた実績があります。今はまだ、余裕もないですが、いずれ独自の兵器の開発もする可能性は十分あります。

ロシアに対する半導体の輸出・販売禁止はウクライナ戦争が始まってからすぐに実行されています。

半導体などを外国から調達するのが困難となったため「ウラルワゴンザボード」と「チェリャビンスクトラクター工場」というロシア軍の戦車を生産する2大拠点が操業停止に追い込まれたとされています。

ロシアの戦車工場

ロシア軍は戦車などの兵器に外国産の半導体を多く使用していて、特に台湾の大手TSMCに依存していたと言われています。

そのためTSMCが米国などの意向を受けてロシアでの販売停止を決めたことが、大きな打撃になっています。

ただロシア軍は軍事用の半導体が入手できないことから、家電などで使われている民間の半導体を転用しているという指摘があります。

米国議会の公聴会の場でレモンド商務長官は、ウクライナ側からロシア軍の兵器には皿洗い機や冷蔵庫から取り出した半導体が搭載されていたと報告を受けたと発言していました。

現状は、ウクライナもロシアも弾薬が不足気味のようで、戦線は膠着していますが、中国がロシアに対して、見切り外交に舵を切ったことから、今後はウクライナのほうが圧倒的に有利になる可能性がでてきました。

今春に習近平はロシアを訪問するのでしょうか、私は訪問しない可能性も出てきたと思います。訪問したとしても、型通りの話ししかなく、形式的なものになる可能性が高まってきたものと思います。

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