2023年4月8日土曜日

習政権に致命傷、中国各地で頻発するデモ 引き金の「白紙革命」で失った市民の信頼 「共産党は下野しろ」さらなる不満爆発の可能性―【私の論評】白紙革命は、中共が体制を変えるまで続く可能性が(゚д゚)!

ニュース裏表


ツイッターに投稿された、中国湖北省武漢市で2月8日に起きた抗議デモの一場面とされる画像

 中国各地で市民によるデモが今年に入って頻発している。こうした動きについて、当局に統制されている中国メディアはほぼ報じない。だが、中国内にいる知人らから、デモを撮影した映像や画像が送られてくる。

 正確な件数は分からない。ただ、筆者が把握しているだけで、この3カ月間で内陸部の湖北、河南、四川などを中心に数十カ所で起きている。抗議の対象は、地元政府による医療保険制度の変更から、マンションの管理方法に至るまでさまざまだ。

 厳しい監視体制を敷いている中国でこれほどデモが起きるとは、筆者は想像できなかった。全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ。

 なぜ、鉄壁の監視体制にもかかわらず、デモが頻発しているのであろうか。

 今月3日に発売した共著『習近平・独裁者の決断』(ビジネス社)で、中国出身の評論家、石平氏と対談した。

 直接の引き金となったのは、昨年11月の「白紙運動」だったという見方で2人は一致した。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ」政策に反対する人々が、白紙を掲げて抗議したのだ。

 新疆ウイグル自治区ウルムチ市で火災が起きた際、ロックダウンの影響で消防車の到着が遅れて10人が死亡した事件がきっかけだった。上海市を皮切りに各地で「ゼロコロナ政策」への抗議運動が広がった。

 中には、「共産党は下野しろ」「習近平主席は退陣しろ」というプラカードを掲げる参加者もいた。これを受け、中国政府は「ゼロコロナ政策」を撤回に踏み切った。

 1989年の天安門事件に参加した石氏は、当時と比較した。

 「(天安門事件では)民主化を求めてはいても、共産党の統治そのものを否定する要求はなかった。共産党や習近平氏への批判が叫ばれた今回のデモは、まさに驚天動地だ。さらに、その後の『ゼロコロナ政策』の突然の撤回で感染拡大するなど、混乱をもたらしたことで『最後は政府が守ってくれる』という中国政府と国民との間で長い間かけて築き上げてきた信頼関係が崩れてしまった」

 筆者は「白紙革命」によって、政府が政策転換に追い込まれたことが重要だと考える。つまり、市民が今回のデモを通じて、「団結して声を上げれば、鉄のように固いと思っていた共産党を動かした」という成功体験を得たのだ。だからこそ、「中国内では今後、同様のデモが起きる」と予測していた。

 「ゼロコロナ政策」を長年続けたことで、ロックダウンやPCR検査費用の負担が増え、地方政府の財政は急速に悪化している。市民生活にもしわ寄せがきている。今後、政府への信頼を失った市民による不満がさらに爆発する可能性がある。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)

【私の論評】白紙革命は、中共が体制を変えるまで続く可能性が(゚д゚)!

「白紙デモ」については、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国「白紙革命」の行方―【私の論評】バラバラだった中国国民にはじめて共通の念が生まれた。それは、中共に対する恐怖と憎悪(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から長いですが、一部を引用します。
中国共産党が人間を家畜並に扱うとすれば、いずれ行き着く先は、鳥インフルエンザが発生した時に、これが蔓延しないように、鶏を殺処分するように、豚コロナが発生したときに、豚を殺処分するように共産党の都合で、人間も殺処分しかないという、恐怖を多くの国民が感じたことでしょう。

そのような懸念は、過去の毛沢東の大躍進政策や、ウイグル人を閉じ込め虐待して、挙句の果てに殺したり、臓器売買のために人を殺したりなどで、薄々多くの中国人も気づいていたのでしょうが、ただこれまでは、そのように殺戮される人たちは、少数民族であるとか、運の悪い人、異教徒などであり、自分とはあまり関係ないと、自らに言い聞かせ、そう信じ込もうとしてきたのでしょう。

ただ、その恐怖は潜在意識の中には埋め込まれていて、何かのきっかけで、顕在化する状態にあったものと思われます。

それが、今回のゼロコロナ政策によって、顕在化してきたのだと考えられます。今回の全国的なデモを単純なゼロコロナ政策への反対であるとみるべきではありません。

今回の「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えができあがりつつあります。

ただ、これを理念と呼ぶには、まだ次元の低いものです。恐怖・憎悪の念は一時的には、多くの人の共感を呼びますが、それだけでは、一時的にも恐怖や憎悪が収まれば、消えてしまいかねません。プーチンは、NATOに対する恐怖や憎悪の念で、国民をまとめ、高支持率を獲得しましたが、その目論見はウクライナ侵攻では、裏目にでています。

「理念」は「物事に対して“理想“とする”概念“」のことで、「こうあるべき」というベースの考え方を指すものです。 企業では、会社の方針や社員に求める行動指針などを表現する時によく使われます。

中国においても、この恐怖・憎悪の念がいずれ誰かによって昇華され、中国国民であれば、誰もが共感できる「理念」に変わっていくかもしれません。国民国家には、「こうあるべき」という規範が必要なのです。

その誰かは、まだ見えてきません。ただ、この共通の理念となるかもしれない中国共産党に対する多くの中国国民の恐怖・憎悪の念は、容易なことでは覆されることはないでしょう。なせせなら、これは従来とは異なり、立場や社会的地位を乗り越えてかなり多くの中国人に共有されることになったからです。

今回も中国共産党は、必要があれば、天安門事件のように弾圧して、情報統制をして、何もなかったかのように取り繕うでしょう。

しかし、今回の中国共産党に対する恐怖・憎悪の念は、これからも長くくすぶり続けるでしょう。そうして、いずれは、誰かが、新たな理念を生み出し、それによって新たな中国が生まれるかもしれません。

中国人とか中国という概念は、あくまで中国共産党中央政府が作り出した概念であって、 中国という国を、日本のように明確な1つの国と考えるのは間違いです。広大な国土に、14億人の人口を抱えており、90%以上を占める漢民族のほか、政府が公認しているだけで55の少数民族を持つ多民族国家だ。

しかも経済発展に関しては、高成長を享受した沿岸部と、成長から取り残された農村部などが混在し、「1つの国の中に、いくつかの国が存在する」と捉えたほうが事実を的確に言い当てているといえます。

さらに、にわかりにくいのは政治体制です。基本的には、1949年の中華人民共和国の成立後、共産党が一党独裁体制をとっています。中国は、現在でも共産主義の国でありながら、資本主義経済の象徴とも言うべき株式市場を持っています。

そのため、政治の教義は共産主義である一方、経済活動の多くは市場のメカニズムに依存する複雑な仕組みになっており、これは共産主義というより、国家資本主義とでも呼んだほうが良いです。中国共産党が運営する資本主義国家とでもいうのが相応しいかもしれません。

ただし、現在でも国有企業やかつての国有企業、さらには地方政府が、経済の多くの分野で重要な役割を果たしています。

さらに、中国は未だに日本を含む西側諸国では、当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていません。政治家は存在せず、よって国会なと存在せず、西側諸国でいうところの官僚ばかりの国ともいえます。

そうした事情がわからないと、中国のことを理解するのは難しいです。

中国は、1978年以降、当時の鄧小平が進めた改革開放路線によって、共産主義的な計画経済から次第に市場型経済へと移行しました。1989年の天安門事件の発生などによって、一時的に市場経済への歩みが止まることはあったものの、経済の効率化などもあり、中国経済は本格的な経済成長への道を歩み始めました。

日本の新幹線の乗った鄧小平

1990年代中盤以降は、“世界の工場”の地位を勝ち取り、今や世界第2位の経済大国へと上り詰めました。ところが、一人あたりのGDPということになると、1万ドルを多少超えた程度てあり、日本はもとより、韓国や台湾よりもはるかに低いです。中国を世界第二位の経済大国にしているのは、一重に14億人という人口の多さだけです。そのため、ほんの一人握りの国民が富裕層ですが、今で数億人の貧困層が存在します。

このような中国では、自らを中国人と考え、中国の一つの国と考えるのは、政府がそう仕向けてきたからですが、それでも、利害関係や立場は一様ではありません。無論、それは日本を含めていずれの国でも同じで多少の違いはありますが、中国ほどの違いはありません。

まずは、経済的には富裕層と貧困層で雲泥の差があり、とても互いに理解し合えるようなことはありません。先にあげたように民族の違いもあります。さらに、言語の違いもあります。宗族の違いもあります。

漢民族というと、古代から連綿と続いてきた概念であると思われがちですが、漢民族が自他ともに民族として認識されたのは日清戦争以後であり、中国国内の少数民族との相対において自覚されたのです。

したがって近代に形成された漢民族は、それ以前のおよそ3000年にわたる諸集団との融合によって形成されてきたといえます。言語の漢語は漢民族という概念の成立以後、北京(ペキン)官話を共通語として採用したものです。漢語はシナ・チベット語族に属し、多くの方言に分岐しています。

このように統一感がもともと希薄な漢人と、少数民族で構成される中国は政府により規定された、中国や中国人という概念を強制されてきたのですが、その本質は現在米国社会が分断されているなどといわれる以上に分断していたというのが実体です。

しかし、その中国人が「白紙革命」によって、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致したのです。そうして、中国共産党の「ゼロコロナ政策」変更させたのです。

上の記事では、"全土に約2億台の顔認証機能付きを含めて約20億台の監視カメラをいたるところに配備して、「天網システム」と呼ばれる監視システムを築いている。14億人の国民の居場所を1秒あまりで特定でき、デモを集うことは不可能だと思っていたからだ"とありますが、その本質は何かといえば、やはり中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致したことが大きいでしょう。

確かに、監視カメラやAIを用いた監視カメラが稼働していれば、仔細に国民の動きを把握することはできます。しかし、ある中国共産党への恐怖・憎悪で一致した国民が、全国的に同時多数でデモを起こせば、それを仔細に把握できたとして、それを弾圧する数に限りがある、武装警察や人民以下方軍を全部のデモに鎮圧に派遣できるかといえば、それは不可能です。

中国では、建国依頼毎年数万全国で暴動が起こっていたといわます。2010年あたりからは、毎年10万を超える暴動が起こっているとされています。この頃から政府は、暴動の件数などの統計を発表するのをやめています。

それだけ、暴動があったものの、個々の暴動は、互いに関連性は希薄で、互いに無関係に行われてきたのでしょう。そのため、弾圧は比較的簡単にできたものと考えられます。

しかし、「白紙革命」からはそうではなく、中国共産党への恐怖・憎悪という中国国民に共通の考えで一致した人たちが、互いに関連性を持って、全国一斉にデモを起こしたのでしょう。これでは、一部を鎮圧したとしても、全部は鎮圧できません。

香港中文大学で行われたウルムチの死者への追悼式で、白紙の紙を掲げる学生たち(2022/11/28)

この動きは最早止められません。今後「ゼロコロナ政策」以外の分野でも、全国民が一致してデモを起こすことでしょう。それに対して、政府はこれを鎮圧できずに、方針を変えるということもあり得ると思います。

これから何度もなされるようになれば、中共も体制を変えざるをえないようになるかもしれません。そうなれば、もはや中国の人々、中国共産党への恐怖・憎悪の念だけでは一致できなくなるでしょう。それでも、壊れた中共のかわりに新たな体制を築く必要があり、改革はすすめなければならなくなるでしょう。

そうなると、中国は共通の理念や利害で結集できる、いくつかの国に分裂して、新たな国を築くことになるかもしれません。すぐにそうなることはないでしょうが、数十年にわたって「白紙革命」は、この次元まで継続されることも十分ありえます。

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2023年4月7日金曜日

南西有事想定、地形把握図る必要 陸自ヘリ事故―【私の論評】ヘリ墜落は、中国の偵察気球やドローンに衝突したという可能性を未だ否定しきれない(゚д゚)!

南西有事想定、地形把握図る必要 陸自ヘリ事故


 沖縄県の宮古島付近で起きた陸上自衛隊のヘリコプター事故では、九州南部を管轄する第8師団の坂本雄一師団長が事故機に搭乗し、行方不明になった。約5千人の部隊を擁する第8師団は、南西諸島有事の際に沖縄方面へ機動展開する主要部隊と想定されており、今回の飛行は、いつ有事が起きても対応できるよう備える目的もあったとみられる。

 「機体に搭乗していた坂本陸将ほか9名について、現在も発見に至っておりません」。浜田靖一防衛相は7日朝の記者会見で、夜を徹した捜索活動でも乗員の発見に至らない状況を声を詰まらせながら説明した。

 陸自は戦闘部隊や後方支援部隊などで構成され、基本的な作戦部隊となる数千人規模の師団と、より小規模な旅団を15地域に置く。沖縄県を管轄する第15旅団以外は全て機動展開部隊で、とりわけ中国の軍事的圧力が強まる先島諸島での有事には、近接する第8師団から一定規模の部隊展開が見込まれる。

 宮古島を含む南西諸島に展開する部隊は艦艇や航空機で島に上陸するため、島内の平らな場所や海岸部分の地形をあらかじめ把握しておくことが求められる。陸自元幹部は「師団長であっても部隊とともに現場へ向かうことはある」と話す。

 今回の飛行計画は、偵察飛行の「訓練」として行われた。自衛隊では、上層部の作戦指示による「任務」でない行動を現場指揮官の判断で行う場合は「訓練」の形をとる。坂本氏は3月30日付で師団長に着任したばかりで南西地域での勤務歴が乏しかったといい、ただちに偵察訓練の実施を判断した可能性がある。

 政府は昨年改定した「安保3文書」で、南西諸島防衛の強化をさらに図る方針を打ち出した。ある自民防衛族議員は「事故が防衛力強化に水を差すことはない。むしろ安全装置を拡充するなど予算を増やすべきだ」と語った。

【私の論評】ヘリ墜落は、中国の偵察気球やドローンに衝突したという可能性を未だ否定しきれない(゚д゚)!

まずは、今回墜落したヘリに搭乗していた方々が、全員無事発見されることを願いたいです。

本日はPM9時に高橋洋一が、陸自ヘリ墜落に関して、「緊急生配信」をしていました。その動画を以下に掲載します。


詳細は、この動画をご覧いただものとして、この動画でも高橋洋一が語っていたように、自民党党国防部会(部会長・國場幸之助衆院議員)と安全保障調査会(会長・小野寺五典衆院議員)は4月7日、合同会議を開き、陸上自衛隊第8師団第8飛行隊のUH-60JAヘリコプターの航空事故について防衛省から報告を受けました。

同機は6日15時46分、沖縄県宮古島市にある宮古分屯基地を離陸。その10分後、宮古島の北北西海域にて航空自衛隊のレーダーから同機の航跡が消失しました。10人の隊員が搭乗していました。現在、自衛隊の艦艇や航空機、海上保安庁による周辺海域の捜索・救難活動が続けられています。現場海域を航行する船舶等への被害は確認されていません。

捜索において、当該機種のものとみられる油が海面に浮遊していることや、当該機種と製造番号が一致する部品が発見されました。10人の隊員はいまだ見つかっていません。

そうして、高橋洋一氏も動画で指摘していたとおり、注目すべきはこの合同会議の席においての報告では、「航空機事故」とは未だ断定していないとされていることです。

「航空機事故」でないとすると、撃墜されたのかということにもなりかねませんが、こちらの可能性は低いと思います。ミサイルなどでの撃墜ということになれば、それ以前にレーダーなどで、ミサイルの存在が発見されるでしょうし、墜落したとされるヘリコプター側でも、直前にそれを発見できるはずであり、「チャフ」や「フレア」を発射して回避行動をとるとか、少なくともミサイルで迎撃されそうな状態にあることを報告できたはずと考えられます。


航空機事故以外でもっともありそうなのは、高橋洋一も指摘していたように、ドローン等との衝突も考えられます。

実際中国の偵察気球問題を機に、防衛省が今年2月には、対領空侵犯措置に関する武器使用の基準緩和に踏み切っています。背景には気球だけでなく、南西諸島周辺に飛来する中国の無人機が領空侵犯した場合でも、排除しやすくする狙いがあります。対処基準を公表することで、挑発的な行動を抑止する意味合いも持ちます。

要件緩和により、無人機の領空侵犯に対しては、従来の正当防衛や緊急避難だけでなく、航空路の安全確保を目的とした武器使用が認められることになりました。

浜田靖一防衛相は記者会見で今回の緩和措置により「民間航空機の危険を排除することができる」と強調。気球以外の日本周辺に飛来する無人機への対応も「領空侵犯し、自衛隊が対処する場合には(緩和措置は)当てはまる」と明言しました。

防衛省によると、領空に接近する無人機に対し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)したケースは2013年以降で15件。今年1月にも中国軍の偵察型無人機が沖縄本島と宮古島間を相次いで飛行しました。

偵察目的とみられる中国の無人航空機が、沖縄県の尖閣諸島や宮古島付近に飛来する事例が相次いでいる。過去1年半で、領空侵犯の恐れがあるとして航空自衛隊の戦闘機が緊急発進したケースだけで12件に上りました。

政府筋は「台湾海峡の緊張が高まれば、日本の対応を試すために無人機による領空侵犯が起きてもおかしくない」と指摘する。「ウクライナ侵攻でも無人機が多用されており、気球問題が武器使用基準の緩和を後押しした」と指摘しました。

旅客機の巡航高度は1万メートル付近。無人機や気球はさらに高い高度を飛行しますが、情報収集のために高度を下げたり、制御不能になったりして民間航空路に進入する可能性もあります。

ジャーナリストの有森香氏は、偵察気球についての記事を書いています。その記事より一部を以下に抜粋します。
米国での「気球」事件の後、2月中旬から3月にかけ、わが国の日本海側に中国のものとみられる気球が多数飛来していた。当初、空自戦闘機が緊急発進(スクランブル)で監視したが、その後、数があまりにも多いことや、政治的影響に鑑み、日本当局は「対処しない」と決定した。
この多数の偵察気球は当然のことながら、宮古島を含む南西諸島にも到来していたとみられます。
 
なぜ、中国がこの海域にドローンを頻繁に飛ばして、偵察するかといえば、この地域は日本の対中国の防衛拠点だからです。中国としては、この地域を経由して南太平洋や西太平洋に行けば、最短距離でいけます。そのため、この地域の防衛拠点は、中国にとっては、かなりやっかいで、邪魔な存在なのです。

22年度内に石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が設置されました。19年の奄美大島や20年の宮古島に続いて地対艦ミサイル部隊が設置されました。地対空ミサイル部隊も設けて対空戦闘に備えます。

電磁波で敵の通信やレーダーを妨害する電子戦部隊を22年に南西諸島の3つの駐屯地・分屯地に設置しました。23年度には台湾に最も近い最西端の与那国島にも配置します。こうした南西諸島の防衛の強化については、以下の地図をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。


今回の陸自ヘリの墜落は、こうした中国の偵察気球やドローンに衝突したという事実は未だ発見はされていませんが、否定することもできない状況だといえます。今後の調査を待ちたいです。

いずれにしても、我々は今回のようなことが起こりかねないほど、南西諸島は緊迫していることを認識しなければなりません。

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2023年4月6日木曜日

少子化財源、社保料引き上げ軸 衆院選見据え「増税」慎重―政府・与党―【私の論評】子どもや若者の未来を明るく希望の持てる輝けるものにするため、岸田首相は正しい選択をし長期政権を築け(゚д゚)!

少子化財源、社保料引き上げ軸 衆院選見据え「増税」慎重―政府・与党

首相官邸に入る岸田首相

 政府・与党は「異次元の少子化対策」の財源について、公的医療保険など社会保険料の引き上げを軸に検討する方針だ。3月末に策定した対策の「たたき台」を全て実施すれば、数兆円規模の予算が必要となる。早期の衆院解散・総選挙が取り沙汰される中、国民の反発を懸念して増税は避けたい考えとみられる。

岸田首相、教育国債に慎重 性の多様性尊重「世界に示す」―参院決算委

 財源に関し、岸田文雄首相は3日の参院決算委員会で「各種の社会保険との関係、国と地方の役割など、社会全体でどのように安定的に支えていくか考える」と説明。自民党の茂木敏充幹事長は4日のBS日テレ番組で、現時点での増税や国債発行を否定しつつ、社会保険からの拠出に言及した。

 会社員の場合、公的年金、医療、介護保険の保険料は社員と企業で折半している。首相が議長を務め、7日にも初会合を開く「こども未来戦略会議」で各種保険料の上乗せ徴収についても議論。政府はこれを踏まえ、子ども・子育て予算の「倍増」に向けた大枠を6月に示す方針だ。
 ただ、経済界には企業の負担増を懸念する声があり、理解の取り付けは不可欠。子育てを終えた世代や独身者の負担も増えることになるため、「社会全体で支える」とのコンセプトの浸透が課題となりそうだ。

 政府は昨年末、防衛力強化の財源として法人税などの増税方針を決定。物価高騰が国民生活を直撃していることもあり、内閣支持率が低迷する一因となった。少子化対策で増税を回避する背景には、政権の「中間評価」が問われる衆参5補欠選挙の投開票が今月23日に控えていることもあるとみられる。

 少子化対策のたたき台は、児童手当の所得制限撤廃を打ち出し、出産費用の保険適用に向けた検討を明記。「社会全体で子育てを支える意識を醸成する必要がある」として、幅広い層に負担を求めることを念頭に置いている。

【私の論評】子どもや若者の未来を明るく希望の持てる輝けるものにするため、岸田首相は正しい選択をし長期政権を築け(゚д゚)!

少子化対策の財源に関して、高橋洋一氏は、背後に財務省の存在があり、財務省は最終的には消費増税にもっていきたいと以下の動画で主張しています。詳細については、以下の動画をご覧になってください。



この動画で、今回の少子化対策は数年前に小泉進次郎氏が主張していた「子ども保険」に似ていることを思い出すべきと主張しています。それに関しては、このブログでも解説したことがあります。そのブログのリンクを以下に掲載します。
自民・小泉進次郎衆院議員ら「こども保険」創設で幼児教育無償化の財源確保提言 「教育国債」は「未来へのつけ回し」と批判―【私の論評】麻生財務大臣と小泉進次郎氏は財務省の使い捨て人材(゚д゚)!

この記事は、2017年3月31日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして。元記事を引用します。
 小泉進次郎衆院議員ら自民党若手議員でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」は29日、新たに社会保険料を上乗せして徴収し、幼児教育無償化の財源を生み出す「こども保険」の創設を柱とする提言を発表した。30日に党「財政再建に関する特命委員会」に報告し、次期衆院選の公約への反映を目指す。

 こども保険は厚生年金の場合、平成29年度で15・275%の社会保険料について個人、事業者とも当面0・1%分を上乗せして徴収し、約3400億円の財源を捻出。将来的に0・5%分まで引き上げて約1・7兆円を確保し、幼児教育と保育を実質無償化する。

 小泉氏は記者会見で「世代間公平の観点からも、こども保険の導入は画期的なことだ」と語った。党内には教育無償化の財源として「教育国債」を発行する案もあるが、小泉氏は「未来への付け回しになるのではないか」と批判した。

この元記事に対する【私の論評】から一部を以下に引用します。

本当に、ものは言いようです。増税というと、多くの国民はかなり抵抗がありますが、こども保険というと、「子供のためならしかたないか」、という人も多いはずです。

そこに付け込んで、幼児教育から大学までの教育無償化の財源として、現在の年金に0.1%上乗せし、近い将来0.5%まで高めようというのが「こども保険」の本質です。これは、実質増税と同じことです。

自民党案である教育国債発行は、国の借金にすぎないということで、またもや財務省が難癖をつけ、小泉氏が財務省にうまく丸込まれたといった格好ではなかろうかと思います。

当時もそもそも保険というのが、理解できないという論議がありました。保険は被保険者(たとえば健康保険に加入し、病気やけがなどをしたときなどに必要な給付を受けることができる人のこと)というか、保険対象になる人がいますが、子ども自身か、そのもしくは子どもの親が被保険者ということになると考えられます。

子どもが成人した世代、もしくはそれ以上の世代が被保険者となるというのは明らかにおかしいです。このおかしいという感覚を利用し、財務省は保険料ではなく、消費税増税したかったとみえますが、これも含めて結局「子ども保険」に関しては、反対も多く実現することはありませんでした。

高橋洋一氏は、今回の「異次元の少子化対策」の財源に関しても、同じような経路を辿っているとみるべきと指摘しています。経団連は、社会保障に話を移し、それは「おかしい」という批判がまきおこるのを待って、今度は消費税増税に軸足を移すというパターンを踏襲しているとしています。

現状では、経団連は、戦略的に消費税の話題を落とすタイミングを計りつつ、各界からの批判を誘発しているとしています。そうして、頃合いを見計らって、日本商工会議所等による保険面での増税要求が予想されるとしています。

そうして、財務省はこうした動きを見計らい、さらなる消費税の増税を行うことを目指しているとしています。

少子化対策とは、企業でいえば、設備投資に近い投資といえます。多くの企業で、設備投資を営業利益で賄うということはありません。

一般的に、企業の設備投資には銀行融資を利用するのが普通です。営業利益だけで賄うとすれば、大規模で長期的な投資はできず、大きな機会を見逃すことになりかねないからです。

そうして、政府が国債を発行するということは、機関投資家等からおカネを借りることであり、企業が設備投資のために銀行からおカネを借りるのと同じようなものです。

そのことを創業者社長やベンチャーの経営者なら、十分理解しているでしょうが、経団連あたりの経営者は俗にいう「サラリーマン社長」であり、日本を含めた多くの国々で、保険料は結局のところ賃金から差し引いているものであるにもかかわらず、目先の保険料が高くなるのが嫌で、保険料に反対するわけです。それを利用して、世論を盛り上げて、あわよくば消費増税に結びつけたいとしているのが財務省です。

そうして国による教育投資などは企業による設備投資よりもさらに、かなりパフォーマンが良いことは、昔から知られていることです。これは、以前このブロクにも掲載したことがあります。

現在、日本でいわれている「奨学金」のほとんどは「教育ローン」です。これが、かなり混乱をきわめ、結局のところ外国人留学生には本来の奨学金が交付され、日本人学生のほとんどは「教育ローン」が課されているというおかしげな状況になっています。

これは、いわゆる「奨学金」という名の「教育ローン」で大学や大学院に進学した人なら良くわかっているでしょう。私自身も国立の大学・大学院を「奨学ローン」で卒業した人が、卒業して社会人になった途端に数百万円もローンを返さなければならない状況になっているのを聞いて驚いたことがあます。

とにかく、子ども支援や、中高等教育でも変えなくてはならないことが、日本ではかなりあります。そうして、これらは見返りが大きいので、増税ではなく国債で賄うべきなのです。

これや、少子化対策等を国債で実施するのは当然のことなのですが、これを実行できるのは、高橋洋一氏の動画でも語っているように、やはりトップである岸田首相の決断以外にありません。

高橋洋一氏も、岸田政権を潰しても、財務省は消費増税を実現するだろうと語っています。現状の日本で、消費増税をすれば、また経済は落ち込みデフレが進行し、失業率もあがり国民の不満は爆発し、支持率は低下し岸田政権は崩壊します。そのようなことは、おかまいなしで、財務省は消費税増税を虎視眈々と狙っているのです。

安全保障や、外交では覚醒したといわれる岸田首相、国内の特に財務省の問題を解消すれば、支持率もあがり、長期政権になり、その後は所得倍増計画などの岸田カラーも打ち出しやすくなります。

岸田首相には正しい選択をして、長期政権を築いていただきたものです。そうして、子どもや若者の未来を明るくて、希望の持てる輝けるものにしていただきたいです。

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2023年4月5日水曜日

トランプ氏、法廷で無罪主張 34の罪状も「違法なことは何もしていない」「犯罪者は大陪審の情報をリークした検事の方だ」―【私の論評】起訴でかなり有利になりつつあるトランプの大統領選戦(゚д゚)!

トランプ氏、法廷で無罪主張 34の罪状も「違法なことは何もしていない」「犯罪者は大陪審の情報をリークした検事の方だ」

4日、罪状認否のため、米ニューヨークの裁判所に出廷したトランプ前大統領

 米ニューヨーク州の大陪審に起訴されたトランプ前大統領(76)は4日午後(日本時間5日未明)、ニューヨーク市内の裁判所で罪状認否に臨んだ。ビジネス記録を改竄(かいざん)したなどとして34の罪状に問われたが全て無罪を主張した。トランプ氏はSNSで「違法なことは何もしていない」と主張した。

 トランプ氏は2016年大統領選の投票日の直前、一族企業の弁護士を通じて、不倫相手のポルノ女優に13万ドル(約1700万円)を支払ったとされる。起訴内容によると、自らの当選に不利になる情報を有権者に隠す目的で、一族企業の事業記録を繰り返し改竄したという。

 捜査責任者のブラッグ地方検事は記者会見で「16年大統領選の公正さを損なう行為だ」と述べた。ただ、ブラッグ氏は民主党候補として地方検事選に当選しており、トランプ氏は、検察の捜査は「政治的迫害だ」と訴えてきた。

 ロイターによると、罪状を合わせると100年を超える懲役刑となるが、有罪になっても実際の懲役刑ははるかに短くなる公算が大きい。また、有罪の場合も大統領選に出馬可能との見方も強い。

 政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、4日時点の共和党候補の各社世論調査の平均支持率は、トランプ氏が50・8%で2位のデサンティス氏(24・6%)を引き離している。

 罪状認否を終えたトランプ氏は、プライベートジェット機でフロリダ州の私邸マールアラーゴに戻って支持者らを前に演説した。トランプ氏は「犯罪者は大陪審の情報をリークした検事の方だ」「これは捜査ではなく迫害だ」と強調した。

【私の論評】起訴でかなり有利になりつつあるトランプの大統領選挙戦(゚д゚)!

以下に検察に出頭したトランプ前大統領の演説を同時通訳付きノーカットで掲載します。同時通訳つきです。


トランプ前大統領の起訴は、前代未聞の出来事です。ニューヨーク州の大陪審がトランプ前大統領を起訴したのです。アメリカの歴史上、大統領経験者が起訴されるのは初めてです。

マンハッタンにある司法当局の前には多くのメディアが駆け付けました。米メディアだけでなく、世界各国のメディアが詰め掛けました。

マンハッタン地区検察は2016年の大統領選に絡み、トランプ前大統領の捜査を続けてきました。不倫関係にあったと主張する元ポルノ女優に対する口止め料の支払いと、そのもみ消しを図った疑惑の捜査です。

トランプ前大統領は大統領選の直前、不倫関係が明らかになることを懸念し、ダニエルズさんに13万ドル、日本円にしておよそ1700万円を支払った疑いが掛けられています。大陪審の決定を受け、トランプ前大統領は声明を出しました。

 トランプ前大統領の声明:「これは歴史上、最大レベルの政治的迫害と選挙妨害だ」

一方、米・メディアによると、ニューヨーク市警はすべての警察官に対し「制服着用のうえ、31日の午前7時に出勤するよう」命じました。

ニューヨーク市警が警戒するのは、トランプ支持者による連邦議会襲撃の再来です。トランプ前大統領の別荘近くには支持者らが集まっていました。

 トランプ支持者:「こんな告発が本当にまかり通ると思うの?本当に年を取った馬面の嘘で、トランプ氏を大統領選から排除できると思うの?ほんの一瞬でも信じられません」

支持者が発した馬面という言葉。トランプ前大統領が不倫相手とされる女性を揶揄(やゆ)した表現です。

 トランプ前大統領:「馬面を好きになったことなどない。ひどいってほどじゃないが、そんなことはありえない。我々には素晴らしいファーストレディーがいる」

起訴を歓迎する声も聞かれました。

人類史上、経験がないので今後どう展開するかは、まるでシナリオのないドラマです。劇場型の政治の幕がトランプ氏ではなく、民主党側から切って落とされたという状況といえると思います。ドナルド・トランプ前米大統領は4日、ニューヨーク・マンハッタン地区の刑事裁判所で罪状認否に臨み、無罪を主張しました。

その直後に公開された起訴状によると、トランプは3人の女性との不倫関係を隠すために行った一連の口止め料支払いをめぐり、重罪となる第一級ビジネス記録改ざん34件の罪に問われています。

捜査を指揮したNY州のマンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は2021年初めの選挙でマンハッタン地区の主任検事に選ばれましたが、選挙戦では一貫して「自分が検察官になれば必ずドナルド・トランプを有罪にする」と宣言していました。

NY州のマンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事

犯罪の裏付けの前に、まず特定人物への法的懲罰を公約にしていたのです。またブラッグ氏が選挙戦に際して、トランプ攻撃で知られる大富豪のジョージ・ソロス氏が100万ドルを寄付したリベラル派政治団体から42万ドルの献金を受けていたことも、共和党側からの非難の対象となっていました。

 実はスキャンダルの口止め料を払っただけでは違法にはならいため、この案件はブラッグ氏の前任の検事が捜査をしたものの途中で放棄しています。また7年前の口止め料の支払いは、たとえ違法部分を含んでいても時効となる可能性も高いです。 

ブラッグ検事は、おそらくトランプ氏側が口止め料支払いに伴い、選挙活動やビジネスの資金の流れの記録を改ざんしたことや、真実を述べないことなどを「重罪」扱いする見通しが強いですが、共和党側からすればこれは列記とした政治的捜査となります。

トランプ前大統領は来年の大統領選への出馬を表明していますが。こうした問題を逆手に取って自分の支持者、共和党の支持者たちをも巻き込んで熱狂を巻き起こして、さらに寄付金も豊富に集めて、今後の大統領選挙の勢いにこれを変えていこうとしています。

実際、イーロン・マスク氏は以下のようにツイートしていました。


マスク氏は、トランプ前大統領が逮捕された場合、彼は「地滑り的に再選されるだろう」と予測しているのです。

トランプ前大統領が起訴されることで、選挙戦が有利になると考える人は、以下のようなことを論拠としているとみられます。

彼の支持層を結集させることができる: トランプ氏の支持者の中には、起訴を政治的動機に基づく攻撃とみなし、選挙戦でトランプ氏を支持する気運が高まる可能性があります。また、支持者の中には、起訴を政治的な意図による攻撃とみなし、選挙戦での支持を強める可能性があります。

他の問題から目をそらす可能性: トランプ氏が起訴されれば、メディアや世間は法的手続きに集中し、他の候補者が掲げている問題には目を向けなくなるかもしれません。これにより、他の候補者から注目を集めることで、トランプ氏が有利になる可能性があります。

彼を被害者として見せることができる: トランプ氏はこれまで、自らを魔女狩りの被害者として描いてきましたが、起訴されれば、このイメージをさらに強めることができます。トランプ氏は、自らを魔女狩りの被害者として描いており、起訴されれば、このイメージをさらに強めることができるでしょう。

このような傾向は、すでにみられています。

たとえば、上の記事にもある通り、政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、4日時点の共和党候補の各社世論調査の平均支持率は、トランプ氏が50.8%で2位のデサンティス氏(24.6%)を引き離しています。

起訴が決まる前の米クイニピアック大学の世論調査によれば、共和党の指名争いではトランプがデサンティスを46%対32%でリードしていました。トランプ起訴によって、その差がさらに広まりました。

デサンテスの支持率が低いのは、ウクライナ戦争の見方によるものとみられています。デサンティス・フロリダ州知事のウクライナ戦争についての発言が物議を醸していました。米ワシントンポスト紙コラムニストのヘンリー・オルセンは、3月16日付の論説‘Ron DeSantis’s stance on Ukraine is a serious political blunder’で、「ウクライナ戦争でウクライナを支援してロシアに対抗することは米国の国家利益ではない」とするデサンティスの立場は政治的失策である、と論じています。

実際、このような考え方が、共和党の大勢を占めていた時期もあります。しかし、ウクライナ戦争が長引いた最近ではそれも変わっています。

トランプ氏は、このような問題に関しては、柔軟に対応できますし、過去にもそうしてきました。たとえば、選挙戦においては「アメリカ・ファースト」などといい、米国が世界から孤立する道を選ぶのではないかと危惧されながら、実際に蓋をあけてみると、かなりまともな外交を実践していました。

共和党内で、有利に選挙戦をすすめてきた、トランプ氏は今回の起訴で、さらに民主党に対しても有利になるとみられます。

日本のマスメディアはなぜか反トランプ報道一色ですが、それが一方に偏した魔女狩り的なものになっているかもしれないとの視点を、持つべきです。

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2023年4月4日火曜日

「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍―【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)!

「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍

台湾南部・嘉義基地で行われた台湾軍の演習=1月6日

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・李先念元国家主席の娘婿である劉亜洲上将が「執行猶予付き死刑判決」を受けるだろうと報じられた。

・劉は、重大な金融腐敗に関与した疑いがあるという。

・「台湾侵攻」について書いた論文が習主席の逆鱗に触れた可能性がある。

 

 最近、李先念・元国家主席の娘婿、劉亜洲上将(70歳)が「執行猶予付き死刑判決」を受けるだろうと香港メディアが報じた(a)。

 2021年12月下旬以降、劉は姿を消していたが、重大な金融腐敗財団や協会の名義で巨額の富を蓄財―に関与した疑いがあるという。

 劉亜洲は1968年に人民解放軍に入隊し、1997年から北京軍区空軍政治部主任、成都軍区空軍政治委員、空軍副政治委員兼規律委員会書記等を歴任した。 2009年12月に国防大学政治委員となり、2017年に軍を退役している。

 劉は、江沢民・胡錦濤時代に、時事問題をテーマにした記事を書き、「国と人民を憂う」人物として、知識人界では好感を持たれていた

 まもなく劉亜洲が「執行猶予付き死刑判決」を受けた事が確認(b)された。劉亜洲は経済汚職に手を染めたとされるが、これは“政治問題”を“経済問題”として扱う共産党の“定石”である。

 習近平主席が劉亜洲に対し激怒したというが、その理由は劉の論文「金門戦役の検討」の中身である。中国共産党が台湾との平和的統一の希望を失い、台湾への武力攻撃のタイムテーブルが提出された昨今、この軍事研究論文の重要性は言い尽くせないだろう。

ただ、その研究結果は「台湾解放」を目指す習主席に冷水を浴びせるモノだった。そのため、主席の逆鱗に触れた

「金門戦役の検討」(c)は以下の通りである。

 ―今日、台湾軍はかつての蔣介石軍と同じではないし、台湾島は金門と同じでもない。しかも、天険(自然の地勢が険しい)が横たわっている。台湾海峡での戦いは、金門戦役の1万倍も困難なものになるだろう。また、目下、台湾を守るのは台湾自らだけではなく、西側諸国全体である。

 ―ある者はこう言った。「(台湾と)戦え!できるだけ早く!」と。また、ある者は、「台湾軍は我々(人民解放軍)の一撃に耐えられない。我が軍は朝攻めて夕方には勝つ」と主張した。

 ―昨年、私(劉亜洲)は台湾との戦闘が議論された会議に出席して質問した。「頭上には衛星があり、下にはレーダーのある今、丸見えの状態でどのように軍を福建省に部隊へ輸送できるのか?」

 ある男性は「簡単だよ!長期休暇があるだろう。その長期休暇に兵士を私服へ着替えさせ、列車で福建省に向かえばいいんだ。」私が最後に呟いたのは、「最大の敵は自分自身だ」だった。

 実際、劉亜洲将軍は、「台湾侵攻」の難しさを軍事的、国際政治的観点から分析し、「台湾侵攻」に対する自身の認識を幾つもの角度から検証(d)している。

(一)台湾の地形分析:台湾は海峡の片側(西側)に近く、上陸に適した海岸が少ない。 海岸線から10kmも離れていない山林には、長年にわたって築かれた要塞がある。仮に、中国軍が上陸できたとしても、遠くの高台からの火力兵器で簡単に制圧でき、上陸地点は屠殺場と化すだろう。

(二)台湾東部軍事空港は洞窟の中に構築され、海に面した外部滑走路はわずか100m~200m、加速滑走路の約1000mは洞窟の中にある。そこから出撃した航空機に、ミサイル攻撃しても無駄である。台湾空軍は強力で、パイロットは皆、米国で高度な訓練を受け、陸上・海上での飛行と空母離着陸の経験は中国空軍に劣らない。

(三)台湾はほぼ「国民皆兵制」を採用し、200万人以上の予備役兵士は、毎年集中訓練を行っている。戦争になれば、24時間以内に募集・編成され、特に訓練しなくても、そのまま戦闘に入ることが可能である。

 しかも、台湾はすでに先進的防衛兵器を大量に購入し、米国から訓練を受けており、最近ではMQ9ドローンやハープーン対艦ミサイルを購入し、中国軍の上陸作戦にも十分に対応できる。

 したがって、米軍や周辺国が戦闘に参加せず、台湾が自国軍隊だけで戦っても、中国軍は、1、2の上陸地点確保のために多大な犠牲を払うだろう。たとえ、陸海空軍にロケット部隊を加えたとしても、台湾全土の「解放」はおろか、戦闘にも勝利できないかもしれない

(四)国際情勢の分析:米韓は共同防衛条約を、日米は安全保障条約を結んでいる。ひとたび有事が起これば、米国が介入し、日米、米韓の条約は自動的に発効し、共同戦線に参加することになるだろう。

 日韓はアジアの経済大国、かつ、空海軍の強国である。韓国の海軍・空軍力は、中国と互角に戦える。また、日本の自衛隊は中国軍より数では劣るが、その実力や戦闘力は間違いなく中国に劣らない。

((d)『毎日文摘』(解放台湾,谈何容易!刘亚洲泼冷水)の引用ここまで)

〔注〕

(a)『聯合早報』

「中国軍作家・劉亜洲が重大な汚職に関与し、『執行猶予付きの死刑判決』が下される可能性」

(2023年3月25日付)

https://www.kzaobao.com/shiju/20230325/135817.html)。

(b)『中国瞭望』

「『金門戦役の検討』が習近平の逆鱗に触れて、怒りの劉亜洲切り」

(2023年3月28日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/03/28/2592122.html)。

(c)『禁聞網』

「劉亜洲:金門戦役の検討(2004年4月14日)」

(2023年1月23日付)

(https://www.bannedbook.org/bnews/wp-content/plugins/down-as-pdf/generate.php?id=1609505)。

(d)『毎日文摘』

「台湾解放は言うは易く行うは難し! 劉亜洲が冷水を浴びせる」

(2023年3月30日付)。

解放台湾,谈何容易!刘亚洲泼冷水)。

【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)!


劉亜州は、人民解放軍(PLA)国防大学の政治委員を務めた中国の退役上級将校です。1951年、中国陝西省に生まれました。劉亜州は、中国で著名な軍人であり、中国共産党(CCP)内の「改革派」とも評されています。

劉亜州は1969年に中国共産党に入隊し、軍人としてのキャリアをスタートさせました。2007年に上級大将に昇進しました。軍歴の中で、彼はPLA空軍の副政治委員や成都軍区の政治委員など、いくつかの重要な役職を歴任しています。

劉亜州は多作な作家でもあり、軍事戦略や政治理論に関する論文や書籍を数多く出版しています。中国共産党に対する批判的な見解で知られ、中国における政治改革を提唱しています。著作では、三権分立、司法の独立、表現の自由の拡大などを訴えています。

中国共産党に批判的な意見を持ちながらも、劉亜州は胡錦濤前国家主席の信頼できるアドバイザーとして中国共産党中央委員会の委員を務めました。中国共産党では習近平総書記を筆頭にした太子党の主要人物とみなされています。父である劉保恒は、軍の上級司令官であり、中華人民共和国の創設者の一人です。

退役後、劉亜州は中国政界で著名な人物であり続け、政治改革を提唱してきました。また、汚職や環境汚染などの問題に対する中国政府の対応に批判的です。また、近年は、世界舞台で自己主張を強める中国に懸念を示し、他国との協力関係を強化するよう求めています。

このような経歴を持つ人物ですから、劉亜州が「執行猶予付き死刑判決」を受けるのもむりからぬところもあります。

2004年5月20の台湾・陳水扁総統の二期目の就任演説をはさみ、中国は前回2000年よりさらに激烈な文攻(文章・言論による攻撃)を繰り出していました。なかでも、当の中国の幹部らをも驚かせたのが当時の最高幹部の一人、劉亜州・副政治委員(中将、五十一歳)が明かした江沢民の「中台戦争不可避論」でした。江発言の真意はなにか、なぜ劉はあの時期に発表したのかをめぐり、さまざまな憶測が飛び交っていました。

結局のところ、当時から20年近くたっても、中国による台湾侵攻はありません。劉亜洲氏が指摘するように、確かに中国による台湾侵攻は難しいのは事実だと思います。このブログでも同様の分析をしています。ただ、中国が台湾に侵攻するのは、難しいですが、中国が台湾を破壊するのは簡単です。そうして、破壊することも戦争の一形態ですから、台中が戦争になる可能性はあります。

侵攻するのと、破壊するだけというのは、雲泥の差があります。破壊するだけなら物理的にはさほど難しいことでありません。中国から台湾にミサイルを発射したり、航空機で爆撃したり、艦砲射撃をするなどでかなり破壊できます。そうして台湾に深刻な被害をもたらすことになります。

ただ、侵攻するとなると、これは別問題です。中国は台湾に大部隊を送り込み、台湾軍を制圧しなければなりません。制圧した後は、統治しなければなりません。このことの難しさは、ウクライナでも実証されています。ロシアはウクライナの都市を多数破壊し尽くしましたが、それでも未だに制圧できているのは、東部の数州の一部です。それもこれからどうなるかは、わかりません。

ロシア軍に破壊されたバフムト

陸続きのウクライナですら、ロシアは攻めあぐねているわけですから、中国が海を隔てた台湾に侵攻するのはかなり難しいと考えるのは当然だと思います。両方とも特にネックになるのは、兵站です。

ロシア軍の兵站は鉄道輸送に頼るところが大きく、そのため国境付近ではロシア軍本来のパフォーマンスを発揮できるのですが、奥に進むにつれて、兵站がネックになり本来のパフォーマンスを発揮しにくくなります。

中国が台湾を侵攻するには、大部隊を運ばなければなりませんが、現在運べるのは一回に十数万程度と見積もられ、今後一般商船を用いることも含めて改善を試みているようですが、根本的な解決には至っていません。

それに、台湾軍は開戦当初のウクライナ軍よりは現代的で精強であり、対艦ミサイルの多数配備しており、多くの艦艇は撃沈されることになります。地対空、空対空、長距離ミサイルまで多数備えています。そのため、兵員輸送や兵站が途切れることが予想されます。

以上のようなことを考えれば、劉亜洲将軍の「台湾侵攻」の難しさは、習近平は全く否定することはできないはずです。

一方、米国では軍は、様々な場合を想定して、ある特定の場合には米軍は中国軍に負けることが予想されるという報告書を頻繁に出しています。これをもって、メディアなどは、米中が戦えば、米国が負けるなどと報道していますが、そうではありません。局所的には負けることも多いにありますが、全体的にいえば中国は未だ米国の敵ではありません。

米軍は、世界最強といえる軍備を持っていても、十分に至らないところを中国に突かれれば、大損害を被ることを想定し、それを防ぐ方法とともに、政府に報告し予算を得てそれを改善しているのです。

私が一番不思議に思ったのは、過去の台湾有事のシミレーションなどでは攻撃型原潜、特に大型のものは当然出動させるべきなのですが、なぜか一回も出てこなかったことです。さすがに、昨年末のシミレーションでは登場していました。その結果、台湾有事では、日米は大損害を受けるがそれでも中国は台湾に侵攻できないというものでした。

攻撃型原潜が出動すれば、戦況は米軍にかなり有利になるはすですが、登場させなければ、米軍にかなり不利になります。ただし、そうしたことも想定されるわけで、それでも十分に対応できるように、米軍は軍備を整えたか、あるい整えつつあるのだと思います。

確かに、米軍が必ず勝てる条件のみで、シミレーションをしていれば、安心かもしれませんが、それでは想定外のことが起こったときに対処できなくなります。だから、米国のやり方は正しいのかもしれません。米国の原潜も数に限りがあります。特定の海域では、攻撃型原潜なしで戦わなければならない場合も想定しうると思います。

そういう場合も想定したのか、たとえば哨戒機P-8Aとコンビを組む無人航空機として、ノースロップ・グラマンのMQ-4C「トライトン」を採用しています。米軍は、有人哨戒機に比べて連続作戦時間が長い「トライトン」で洋上を監視し、「トライトン」が不審な目標を発見したらP-8Aが急行して対処するという運用方法を構想しています。こうした着想がでてきたのも、米軍の様々なシミレーションの結果だと思います。

哨戒活動をしているMQ-4C「トライトン」

劉亜洲の「台湾侵攻の難しさ」の指摘も、米軍による「台湾有事」のシミレーションに相通じるところがあります。

同じような指摘について、米国は改善・改革をし、中国はその指摘をした人物に対して「執行猶予付き死刑判決」をしたのです。どちらが、軍隊を強くするかといえば、無論米国だと思います。

ただ、米国にはこのようなことをする余裕がありますが、中国にはそのような余裕はないのかもしれません。弱い部分を指摘されても、それを克服する方法はすぐには見つからないのかもしれません。だからこそ、習近平は激怒したのでしょう。

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2023年4月3日月曜日

プーチン大統領が国内に缶詰状態…ICCの逮捕状で同盟国まで「入国すれば逮捕」と警告する事態に―【私の論評】過去には、スペイン、台湾も中国高官に逮捕状を出し、台湾では実際に拘束された事例も(゚д゚)!


ロシアの同盟国のアルメニアが、プーチン大統領に「逮捕せざるを得なくなるから来ないよう」警告していたことが分かり、同大統領はロシア国外には出られない缶詰状態になっているようだ。

「プーチン逮捕を警告」記事を掲載した「モスクワ・タイムズ」

ロシアの日刊紙「モスクワ・タイムズ」電子版は29日「アルメニア与党、ハーグからの令状でプーチン逮捕を警告」という見出しの記事をアルメニア国民議会のカギク・メルコニアン副議長の大きな写真とともに掲載した。

それによると、同副議長は地元メディアとのインタビューで「もしプーチンがアルメニアへ来れば彼は逮捕されなければならない」と語ったという。

アルメニアは昨年12月に国際刑事裁判所(ICC)への加入のための批准法案をまとめICC入りを目指しており、加入すればICCから逮捕状が出ているプーチン大統領がアルメニアが拘束する義務を負うことになる。

「もし我々がICCに加盟すれば、その義務を果たさなければならないことになる。ロシアの問題はウクライナと解決すればよい」

メルコニアン副議長はこうとも語っている。

同盟国もロシアの侵攻に疑問?

アルメニアは旧ソ連の構成国の一つ。現在もロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国で国内にロシア軍の基地もある。ロシアの軍事同盟国であるわけだが、隣国アゼルバイジャンとの抗争をめぐって戦争犯罪を追及する目的でICCへの加盟に踏み切ったとされる。

一方プーチン大統領は、ウクライナ侵攻でウクライナの子供たちを不法に拉致した戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)から3月17日逮捕状が出されたが、米国や中国はICCに加盟しておらず主に西欧の123の加盟国を避けて通れば逮捕は免れるので実質的な拘束力はないだろうという見方が有力だった。

しかし、アルメニアはロシアが再三警告したにも関わらずICC加盟を強行したわけで、プーチン大統領自身の威信を損ねることになっただけでなく、大統領の行動範囲を著しく制限することにもなった。

さらにアルメニアの決断はロシアの同盟国の間で、今回のウクライナ侵攻をめぐって疑問が生じていることを物語っていると注目されている。

気になる南アフリカの対応

今のところ、アイルランド、クロアチア、オーストリア、ドイツなどがプーチン大統領が入国すれば直ちにICCの逮捕状を執行することを公言しているが、今注目されるのが南アフリカだ。

南アフリカでは8月後半にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興経済5大国)首脳会談がダーウィンで開催が予定されている。プーチン大統領は2013年の第6回会議以来参加しており、今回は特にウクライナ侵攻問題が主要議題になると考えられるので出席を希望しているはずだ。

しかし南アフリカはICCの加盟国であり、ICCの逮捕状対象者が入国すれば身柄の拘束に協力する義務が生じる。このため、南アフリカ政府は専門家に対応策を検討させているが今のところプーチン大統領に出席を断念させる以外に手立てはないようだ。

プーチン大統領がロシアに心情的に近い指導者とのこの会議さえも出席できないとなると、その打撃は計り知れない。

形式だけと思われていたICCの逮捕状は、プーチン大統領を国内に缶詰状態にしてその権威を失墜させるという意味では大きな役割を果たしているようだ。 

【私の論評】過去には、スペイン、台湾も中国高官に逮捕状を出し、台湾では実際に拘束された事例も(゚д゚)!

プーチンの逮捕は、ICC加盟国に行けば現実にあり得ることですが、実はこれと似たようなことは以前もありました。それについてはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、チベット問題に異常な怯え 江沢民氏への逮捕状に過剰反応―【私の論評】中国高官が実際に台湾で逮捕されたこともあるし、中国5人の要人はずっと前から告発されていた!日本でも告訴せよ!これが馬鹿につける最高の良薬かもしれない(゚д゚)!
この記事は、2013年11月22日のものです。詳細は、粉の記事をご覧いただくものとして。この記事の元記事より一部を引用します。
スペインの裁判所がチベット族の虐殺に関与した疑いで、中国の江沢民元国家主席(87)ら元幹部5人に出した逮捕状が波紋を呼んでいる。中国政府はかつての国家元首に下された異例のジャッジに「強烈な不満と断固たる反対を表明する」と猛反発。ヒステリックな反応をみせる背景には「世界的な支持を得ているチベット独立運動への強い警戒感がある」(専門家)という。今後、世界中で中国共産党の横暴を告発する動きが広がる可能性もあり、不穏な空気が漂っている。

中国の最高権力者が「お尋ね者」になった。
スペインの国家裁判所に、ジェノサイドと拷問の罪で刑事告訴された江沢民・元国家主席を含む5人の中共高官
スペインの全国管区裁判所から逮捕状が出されたのは、江氏のほかに胡錦濤前主席(70)や李鵬元首相(85)ら5人。2006年、スペイン国籍を持つ亡命チベット人とともに同国の人権団体が、1980~90年代にチベット族に対して「ジェノサイド(大虐殺)や拷問などが行われた」として、当時の党指導部の責任を追及する訴えを起こしていた。

告発は、なぜ遠く離れた欧州の地で行われたのか。「スペインでは、人道に対する罪に関しては国外の事件であっても同国の裁判所に管轄権がある。98年にはチリで独裁体制を築いたピノチェト元大統領に、今回と同様に逮捕状が出され、スペイン側の要請で英国で身柄が勾留されたこともある」(外交筋)

ただ、法的拘束力は、スペインと犯罪人引き渡し条約を結ぶ国に限定されるため、実際に江氏らが逮捕される事態は考えにくい。

それでも、習近平国家主席体制下の中国はこの決定に敏感に反応し、裁判を起こしたチベット独立勢力を激しく非難。スペイン側の対応を「関係を損ねるようなことをしないよう」と強く牽制した。

2021年9月現在、スペインは世界約100カ国と犯罪人引き渡し条約を結んでいます。つまり、これらの国のいずれかで犯罪に問われた人がスペインに逃亡した場合、スペイン当局は一定の条件のもと、その国に引き渡しをして裁判を受けさせることができます。

その逆に、スペインがこれらの国に犯罪人引渡しを求め、スペイン国内で裁判を受けさせることもできます。100カ国にものぼるわけですから、これは結構厳しいともいえます。

さらに、習近平等の中国の幹部が訪米すると逮捕されるのではないかという懸念を抱いていたことが、あのwikileaksに掲載されていたことも明らかになっています。これもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

<Wikileaks公電流出>習近平次期主席、「訪米で恐れるのは、法輪功に刑事告訴されること」―【私の論評】Wilileaksなどによる暴露などたいしたことではないが、日本でも、中国要人は全員告訴せよ!!

 この記事より一部を引用します。

習近平氏による「自分を含めて中国の高官らが訪米で最も恐れているのは、法輪功学習者に刑事告訴されることだ」という発言に関しても、さほど驚くようなことでもないし、Wikileaksで外電として出さなくても、中国に関する日本の報道のみでなくて、海外に目を通している人ならば、何を今更という程度のものです。

 2013年2月13日から17日まで中国の習近平国家副主席(当時)は、米国での正式訪問を無事終え、「私は自信を持って自らの訪米が大成功だったと言える」 との言葉を残して満足げに米国を去ったとされています。

同年秋に次期国家主席として中国の新リーダーとなった習副主席の訪米は、胡錦濤国家主席の副主席時代の訪米とは、全く異なる印象を米国民に与え、さらに、昨年の胡錦濤国家主席の訪米とも異なる様相を見せ、中国の対米外交が対等を前提とした新たな段階に入ったと言っていいだろとされていたのですが、この時習近平は逮捕されるかもしれないという疑念を拭いきれずに、訪問したようです。しかし、逮捕はされませんでした。

このときに本当に逮捕して、裁判などしていれば、良かったかもしれません。

なぜ、習近平がこのような懸念を抱くようになったかといえば、台湾では実際に中国高官が逮捕、拘束されたという事件があったからです。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

【日本で報道されない激レアニュース】台湾訪問中の中共高官2人、相次ぎ刑事告訴される―【私の論評】及び腰日本はなぜこのようなことをしないのか?
これは、2010年9月20日の記事です。この記事より、一部を引用します。
中国宗教事務局の王作安・局長は、先週15日に台湾を訪問した際、台湾法輪大法学会に、法輪功への集団弾圧を陣頭指揮した罪で告訴された。前日の14日、台湾を訪問中の陝西省趙正永・代理省長が同団体に刑事告訴されたばかり。
王作安
台湾法輪大法学会は、台湾の高等裁判所の検察署にジェノサイドと民権公約違反の罪状で二人をそれぞれ刑事告訴し、身柄拘束を要求した。同検察署は訴状を受理した。

原告側弁護団の朱婉琪・弁護士は検察署に対し、被告人の法輪功弾圧を陣頭指揮した事実をそれぞれ陳述した。それによると、王作安・局長は国内では宗教界、教育界、メディアを通して、法輪功に犯罪の濡れ衣を着せて、悪魔に仕立てる詐欺宣伝を繰り広げ、国民に法輪功への怨恨感情を煽ぎたてたこと、国外では米国や他国との宗教交流活動を通して、同様な宣伝を行ってきたという。
実際に、これら中共高官2人は、拘束され取り調べを受けましたが、結局は解放されています。それでも、これは中国高官の権威を失墜させ、台湾に二度と来れないようできたという点では、一定効果があったものとみられます。

台湾の例も、スペインの例も国内法に基づくものですから、当該国や当該国と罪人引き渡し条約を結んでに赴かない限り、逮捕や拘束されることはないですが、それにしても、心理的負担はかなり大きなものだったでしょう。

習近平も初渡米では、かなり肝を冷やしていたのではないでしょうか。

今回のプーチンへの逮捕状は、ICCによるものですから、その効力は複数の国々に及びます。ローマ規定の締約国がそれにあたります。

国際刑事裁判所ローマ規程の締約国は、国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程)を批准し、またはその他の方法により同規程に加盟した国家のことです。

  締約国   未批准の署名国   後に脱退した締約国   後に署名を撤回した署名国   非加盟国

ローマ規程は、締約国の国民によって、あるいは締約国の領域内で犯された、集団殺害犯罪や人道に対する犯罪、戦争犯罪を含む一定の国際犯罪について管轄権を有する国際裁判所である国際刑事裁判所(ICC)を設立するための条約です。

締約国は、同裁判所から要請された際には、訴追された者の逮捕および引渡しや、証拠や証人を利用できるようにするといった協力を行うことが、法的に義務づけられています。

締約国は、同裁判所の運営主体である締約国会議に参加し、議事において投票する権利を有しています。

かかる議事には、裁判官や検察官といった構成員の選挙、同裁判所の予算の承認およびローマ規程の改正条項の採択が含まれます。

日本をプーチンが訪問した場合、日本もプーチンを逮捕して、ICCに引き渡す義務を負うことになります。

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2023年4月2日日曜日

中国外相、半導体規制に反発 台湾問題「介入許さない」―【私の論評】林外相は日本人男性の早期解放を要求し、それが見込めない場合訪問を取りやめるという選択肢もあった(゚д゚)!

中国外相、半導体規制に反発 台湾問題「介入許さない」

中国の秦剛国務委員兼外相(右)と会談する林外相=2日、北京の釣魚台迎賓館

 中国外務省によると、中国の秦剛(しんごう)国務委員兼外相は2日、林芳正外相との会談で、米国が主導する対中半導体規制を念頭に「封鎖は、中国の自立自強の決意をさらに呼び起こすだけだ」と述べ、日本に米国と連携しないよう求めた。

 秦氏は「日本はG7(先進7カ国)のメンバーであり、加えてアジアの一員でもある。会議の基調と方向性を正しく導き、地域の平和と安定に有益なことをすべきだ」と呼び掛けた。G7議長国を務める日本にクギを刺した。

 秦氏は「矛盾や不一致に対し、徒党を組んで圧力を加えることは問題解決の助けにはならず、お互いの隔たりを深めるだけだ」と発言。米中対立を背景に、G7メンバー国などが対中圧力を深めていることを暗に批判した。

 秦氏は、台湾問題について「中国の核心的利益の核心だ」と改めて主張。台湾との台湾との連携を進めている日本に対し、「台湾問題への介入は許されず、どのような形であれ中国の主権を損なってはならない」と警告した。

 日本政府が春以降の開始を見込む東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出については、秦氏は「人類の健康、安全にかかわる重大な問題で、日本は責任ある態度で処理すべきだ」と注文を付けた。

 日本の製薬大手・アステラス製薬の現地法人幹部男性の拘束については、「中国は法に照らして処理する」と主張した。また、秦氏は日本側に「実務協力を推進し、人文交流を増進することを望む」などと発言した。

 中国外務省によると、会談では日中韓協力や朝鮮半島情勢、国連安全保障理事会改革などについても意見交換を行った。

【私の論評】林外相は日本人男性の早期解放を要求し、それが見込めない場合訪問を取りやめるという選択肢もあった(゚д゚)!

中国を訪問中の林芳正外相は2日、秦剛政治局員(外交担当)と会談し、アステラス製薬の社員が拘束されたことに抗議し、早期解放を強く求めるとともに、日本周辺で中国の軍事活動が活発化していることについて懸念を伝えました。一方、首脳レベルをはじめ韓国を含めた3カ国の協議の枠組みを再開することで一致しました。


林外相と泰剛泰剛中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任が対面で向かい合うのは初です。ただし、林氏は会談後、記者団に対し「邦人拘束について抗議し、早期の開放を含む日本の厳正な立場を強く申し入れた」とした上で、「中国において当面予見可能な公平なビジネス環境が確保されること、安全面とともに正当な経済活動が保証されることを強く求める」と伝えたことを明らかにしました。

秦剛主任は法律に基づいて対処すると強調したのは、ようはゼロ回答です。これに対して林外相は「安全面とともに正当な経済活動が保証されない限り、日本企業の中国進出には安全が保障できないと、日本政府として警告する」等というべきでした。
中国当局は先月、日本人男性をスパイ活動に関与した疑いがあるとして拘束。アステラス製薬の広報は、同社の社員だと明らかにしている。共同通信によると、中国では2015年以降、これ以外に少なくとも16人の日本人がスパイ活動の疑いで拘束されています。

日本の外相が訪中するのは3年3カ月ぶり。このあと中国共産党の最高指導部の1人、李強首相とも会談しました。

以前もこのブログで語ったことがありますが、中国と日本とでは、政治体制や組織が異なるので、日本の序列の感覚からいうと、中央外事工作委員会弁公室主任の秦剛氏を外相とするのは間違いです。それは、中国共産党の組織図を見ればすぐわかります。この組織図は古いです。この組織図では、楊潔篪の後釜に秦剛氏がなったということです。


外務省の部長クラスとみるのが正しいです。現在の王毅氏は、政治局員であり次官クラスとみるのが正しいでと思われます。ただ、これが正しいかどうかは、意見が分かれるところだと思います。そもそも、中国では外交はあまり重視されていないようで、日本でいう外交を担当する外務大臣のような閣僚のポストはありません。

中国には選挙が存在せず、その意味では日本でいうところの政治家は存在せず、官僚ばかりと言っても良いような体制で、日本とはあまりに違いすぎるので、日本の閣僚と中国共産党のポストは単純には比較できませんが、日本の閣僚(内閣府大臣など除く)に相当するのは、中国では俗にチャイナセブンと呼ばれる、党常務委員会に属する7人のメンバーといえるでしょう。

このメンバーの中には、外交を専門とする人はいません。それだけ、中国は外交を重視していないということです。

日本のマスコミがなぜ、外交担当中央委員を外相とするのか、全く意味不明です。それに、人民大会を「日本の国会にあたる」などと報道する報道機関もありますが、これも全く間違いです。

選挙がなく、よって選挙で選ばれだ国会議員も存在しない中国に「国会」などありようもありません。中国人民大会は、日本でいえば、官僚の集会にすぎません。一応合議制のようにみせかけていますが、常務委員や常務委員の指示に従って政治局員などが決めた事柄を、追認する機関にすぎません。

首相李強氏は、さすがに日本でいっても少なくとも閣僚以上には相当するので、中国側としても、日本の閣僚としての林外相に、秦剛政治局員だけを面談させるわけにもいかず、李強氏と政治局委員の王毅氏も面談という運びになったのでしょう。

今回の林氏の訪中は、昨年11月の岸田文雄首相と習近平国家主席による日中首脳会談で合意したハイレベル往来の再開に基づくものです。

日中双方の政府関係者によると、中国側はいったん昨年12月27~28日の日程を打診したのですが、中国国内で新型コロナ感染が急拡大したことや、日本側が求めた習氏との面会に中国側が難色を示したことなどから先延ばしにされていました。

林氏と習氏の面会について、日本政府関係者は「中国外相の訪日時には首相が会ってきた。習氏個人への権力集中が進む中、直接対話の機会を確保したい意味もある」と理由を語りました。

これに対し、中国外交筋は「国家元首である習氏と日本の外相では格が違いすぎる。中国側も首相が対応してきた」と反論しました。

こうした状況を受けて、日本側は2月に離任した孔鉉佑・前駐日大使の岸田首相へのあいさつを拒否。双方の思惑がすれ違う展開が続いていました。

今回も林氏と習氏の面会は見送られ、中国側は李強(リーチアン)首相が面会に応じました。それでも日本側が訪中に踏み切ったのは、3月下旬にアステラス製薬の男性社員が拘束されたことが大きいです。

社員が拘束されたのは3月20日ごろとみられます。中国外務省は「刑法と反スパイ法違反の疑いで拘束した」と認めていますが、具体的な容疑事実は明らかにしていません。中国でスパイを取り締まる国家安全省は今後、正式な逮捕や起訴に踏み切る可能性が高いです。そのため日本側は外交を通じた早期の問題解決へ動いた形です。

過去には、2019年9月に刑法と反スパイ法違反で北京で拘束された北海道大学教授が、約2カ月後に解放された事例もあります。当時、中国外務省は「教授が容疑を認め、反省の意思を表明する手続きに応じたことから保釈した」と説明しましたが、中国外交筋は「翌年に習氏の国賓訪日が予定される中で、日本の対中感情悪化を回避するための政治判断でした。最後は習氏が決めた」と認めました。

2019年、拘束の日本人が解放されたことを発表した菅官房長官(当時)

以上を勘案すると、林外相の今回の訪中は、プラスマイナス・ゼロか若干のマイナスというところでしょうか。こうなることは、分かりきっていました。

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は2月3日、中国の偵察用気球とみられるものが米本土の機密施設の上空を飛行しているのが確認されたことについて、「容認できない無責任な」行為だと述べました。さらにブリンケン氏は翌週に予定していた中国訪問を急遽取りやめた。

林外相は今回は、アステラス製薬の男性社員の解放を強く要求して、早期解放が見込めない場合には、訪問を取りやめるという選択肢もありました。ただし、早期解放の折衝などは、外務省が継続的に行うなどのこともできたはずです。そのほうが、中国に対する牽制になったと思われます。

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2023年4月1日土曜日

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日本の解き方


 ロシアのプーチン大統領が、隣国でウクライナにも接するベラルーシに戦術核を配備する方針を表明した。実際に使用する恐れは高まるのか。

 表向きの口実は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコが、米国との核共有という考え方で、核兵器を配備していることと同じだとしている。NATOの核共有と同様に、ロシアやベラルーシが加入する核拡散防止条約(NPT)にも反しないとしている。

 1994年のブダペスト覚書では、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンがNPTに加盟したことで、米国、英国、ロシアがこの3カ国の安全を保障するとした。その結果、3カ国の核兵器はロシアに移転した。

 ところが、ロシアはこれを踏みにじってウクライナに侵攻し、核で脅した。それでも足りずに、今後はベラルーシに核を戻して(形式的には核はロシアのもの)、ロシアとベラルーシの両国でウクライナを脅すというおぞましい光景になっている。

 NPTに反しないというロシアの言い分は怪しい。NATOの核共有では保有国の軍の管理が必須だが、ベラルーシがどこまで管理できるのか疑問だ。

 それだけではない。ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表した。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とある。

 1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席したが、五輪直後にウクライナ侵攻をした。これで中国のメンツは傷つけられたはずだが、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごとするようなことをプーチン大統領は行った。はたして中国はどのような対応をするのだろうか。

 ここは冷静に考えてみよう。ロシアによるベラルーシへの戦術核配備といっても、配備しなくても、ロシアは自国内から発射できるので、戦力バランスを大きく変更するものではない。

 ロシアはウクライナに手を焼いているようなので、ベラルーシを使って恫喝(どうかつ)しているように見える。ベラルーシとしても、ロシアの手下のままでは居心地がいいはずはない。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は、配備されればベラルーシに新たな制裁を科す可能性に言及した。この方向は正しい選択だ。

 さらに、中国に対して、メンツを失ったままでいいのかという圧力をかけるべきだ。例えば、中露首脳会談で提示された「和平」は「ニセの和平」であることが、岸田文雄首相のウクライナ訪問で世界に明らかになったので、日本としてもその点をついて「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するのがいい。中露共同声明を1週間でほごにするプーチン大統領が評価するような「和平」ではダメだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】岸田首相、G7広島サミットで「真の和平」を訴え、外交で成果をあげるとともに政敵を葬るか(゚д゚)!

中国というと、現在林外務大臣が訪れています。林外務大臣が、上の記事で高橋洋一氏が語っているように「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張できれば良いのですが、それには疑問符がつきます。

日本では以下のような報道がなされています。
 中国政府は、林外務大臣が来月1日から2日間の日程で中国を訪問すると正式に発表しました。

中国外務省は31日、「秦剛外相の招きに応じて日本の林外務大臣が来月1日から2日の日程で中国を訪問する」と発表しました。

 秦剛外相との会談については、「両国の関係に加え、ともに関心を持つ国際問題や地域問題について深く意見交換する」と説明しました。

 また、外相会談とは別に林大臣が「中国の指導者」と面会することも明らかにしていて、外交トップの王毅氏などと会う可能性があります。

ただ、この報道はかなり誤解を招きやすいです。そもそも、泰剛氏は日本でいうところの外相ではありません。外相といえば、日本では閣僚であり、外交トップです。

 泰剛氏は、第12代外交部長ではありますが、中国において外交部長はそもそも幹部ではありません。日本でいえば、外務省の部長といっても良いほどの位置づけです。

中国で幹部といえば、中国共産党中央政治局常務委員会の7人のメンバーです。王毅氏も現在外交トップではありますが、この7人のメンバーには入っていません。現状では、序列24位です。

この7人の誰かと林外務大臣が会談できれば、中国は林氏を重要視しているとみても差し支えないと考えられますが、秦剛氏との会談だけであれば、全く重要視されていないとみて良いでしょう。

王毅氏と会談できても、中国は林氏を重要視はしていないとみて良いです。

中国共産党が重要視をしていない林氏が、幹部でもない秦剛氏、王毅氏に対して「ホンモノの和平」を主張してみたところで、それはほとんど意味を持ちません。

林芳正外相は秦剛国務委員と会談し、東・南シナ海での中国の軍事的覇権拡大への懸念を伝えるとともに、中国当局に拘束された大手製薬会社「アステラス製薬」の中国現地法人幹部の早期解放を求める方針のようです。日本政府は、外相の訪中直前、先端半導体分野の23品目について、輸出規制強化策を公表しました。中国の「名指し」は避けましたが、これは明らかに米国と事実上歩調を合わせた対中牽制です。

「中国とは多くの課題や懸案がある。主張すべきは主張し、建設的かつ安定的な日中関係構築に向け、突っ込んだ意見交換をする」

林氏は3月31日の記者会見で、こう語りました。

秦氏とは2日に会談する予定で、中国外交担当トップ(日本閣僚クラスではない)の王毅共産党政治局員との会談も調整しています。3月に就任した李強首相に、日本の閣僚として初めて面会するかも焦点です。

中国で拘束されたアステラス製薬幹部の早期解放を要求するほか、ロシアのウクライナ侵攻をめぐって責任ある行動を求める。沖縄県・尖閣諸島を含む、東シナ海情勢も議論する見通しです。

「政界屈指の親中派」とされる林氏だけに、中国が仕掛ける「罠」を警戒する声があるなか、経産省は3月31日、「半導体装置の輸出管理強化」を発表しました。

もし、林外務大臣が李強首相と会談できれば、中国は林外務大臣を重要視しており、日本の中国に対する牽制なども、林外務大臣を通じて、中国に伝わる可能性もあります。ただ、その可能性は低いようです。

なぜなら、日本はすでに、習近平訪露中の岸田首相キーウ電撃訪問で、日中関係は構造変化を起こし、もとに戻る可能性はかなり低くなっているからです。

岸田文雄首相は27日午前の参院本会議で林芳正外相の訪中について「中国側から改めて招待があったところであり、引き続き具体的な時期を調整する」と述べました。日中関係については「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含めて対話をしっかりと重ねる」とした上で「共通の課題は協力する、建設的で安定的な関係を構築する」と強調しました。

岸田首相は、習近平訪露中のキーウ電撃訪問でも「ホンモノの和平」を主張しましたが、「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するでしょう。そうして、その晴れ舞台は広島G7サミットになることでしょう。

これによって、林外務大臣の訪中など、すっかり霞むことになります。これによって、岸田首相による外交の成果は頂点に達し、林外務大臣の位打ちは、最終段階を迎えることになります。

ちなみに、岸田首相による林外務大臣の位打ちについては、以前このブログで述べたことがあります。
G7サミット・広島開催、中露に忠告する絶好の場所 日清戦争の「軍事拠点」「臨時首都」岸田首相、スピーチすれば歴史に残る!?―【私の論評】岸田首相は、令和の後白河法皇になるか(゚д゚)!


この記事は、3月5日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
林氏と岸田氏同じ出身派閥(宏池会)であり、岸田氏は総理大臣になってからも、この派閥を抜けていません。岸田氏も林氏も宏池会の中では、有力な政治家であり、岸田氏としては、林氏を入閣させて、側においておくことで、派閥内での勢力拡大を抑止しているものとみられます。これも、一つの「策士」ぶりの発露なのだと思います。
これは、林氏への「位打ち」といえると思います。最近岸田首相は、この位打ちさらなる策士ぶりを発揮しています。それは、林外務大臣に対する位打ちともみられるやり方です。
位打ちとは、昔から日本で用いられてきた手法で、時の権力者が、敵対する新興勢力を自滅させるために、その人物にふさわしくない位階を次々と与えることによって、人格的な平衡感覚を失わせ、自滅させていく手法です。
 この「位打ち」の使い手として有名なのが平安時代末期の後白河法皇で、その対象となった代表格は、平清盛であり源義経です。
天子摂関御影』より「後白河院」藤原為信 画

 

岸田首相は、林外務大臣がG20に出席しないことを決めたときには、本来尻を叩いてでも無理にでもいかせるべきだったと思われるのですが、意図的にそうはしなかったのでしょう。これによって、林外相の評判は、自民党内外で地に落ちました。もし、岸田首相が何をさておいても行くべきだと諭していれば、林外務大臣はG20に出席したと思われます。

岸田首相は、この直後に習近平が訪露中に、キーウを電撃訪問しました。一方林外務大臣はこのときに、クック諸島を訪問していました。この一連の出来事で、中露首脳会談は霞んだとともに、国内では林外務大臣の外交も霞んでしまいました。

もともと、林外務大臣は保守派議員からは親中派として嫌われていましたが、一連の出来事で、他の議員からも外務大臣としての能力も本格的に疑問視されるようになったと思います。

今回の林大臣中国訪問は、もし本人が辞退すれば、岸田首相もそれを追認したと思います。この時期にそのような判断ができれば、外務大臣として位負けしていなかったという評価もされたかもしれません。

しかし、あくまで親中派の林外務大臣は、中国を訪問することを決定し、岸田首相はそれを追認したのでしょう。

まさに、ここが林芳正氏に対する岸田首相の位打ちが、功を奏する所以ともいえます。現状では、林氏が中国を訪問したとしても、成果があげられる見込みはほとんどありません。

それどころか、中国の方から無理難題を押し付けられ、マイナスになることも十分予想されます。

一方、岸田首相は林外務大臣が、中国を訪問しても、成果はプラスマイナス0もしくは、若干のマイナスになるだろうと見込んでいると思います。

たとえ若干のマイナスになったとしても、G7広島サミットで、それは十分に取り返せると見込んでいるのだと思います。

中国に対して、ここぞとばかり、G7の国々も巻き込んで、メンツを失ったままでいいのかという圧力をかけ「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するに違いありません。

これで、岸田首相は林芳正氏への位打ちの最終ステージに一気に近づき、これによって、林氏の総理大臣の芽は積まれてしまうことでしょう。一方、岸田首相はG7における外交で、支持率をあげ、さらに国際的な評価も高めることに成功するでしょう。

場合よっては、この勢いに乗って、解散総選挙をするかもしれません。そうなったとして、林氏への位打ちについては、選挙後の組閣でどうなったか見えてくるでしょう。

そもそも、入閣しなければ、林氏は宏池会の中でも、力を失ったとみるべきです。外務大臣ではないものの、何らかの形で入閣すれば、外務大臣としてはその能力が疑われることになっても、まだ宏池会の中での勢力は衰えていないとみるべきでしょう。そうして、岸田首相の林氏への位打ちは継続されるとみるべきでしょう。

以上からもおわかりいただけると思いますが、岸田氏は一般に思われている以上に、策士の面があります。物腰の柔らかさなどから、「お公家様」とも揶揄されていた岸田氏ですが、後白河法皇のように、武力のなかった公家には公家の戦い方がありました。岸田氏には、岸田氏なりの戦い方があるのです。そうして、極端なことや法に触れることがなければ、政治においてはどのような戦い方も許容されるべきと思います。

岸田氏が、財務省が岸田政権の安定長期化に障害になると気がつけば、林芳正氏に対する位打ちのような、誰も思いつかないような妙策で緊縮財政や増税に走る財務省の力を削ぐ挙にでるかもしれません。

しかし林芳正氏への位打ちを兼ねた岸田首相の一連の外交は、それだけが主目的ではなかったものの、安倍元首相の逝去にともないう日本の外交の停滞のおそれを見事に払拭させてくれました。これは、日本にとって良いことです。

同じく、もし岸田総理が自らの政権の安定長期化を目指すために、財務省の力を削ぐ挙にでれば、それも日本にとって良いことです。

ただ、一つ忘れてはならないのは、権謀術数だけで、他のことを顧みなければ足元をすくわれ場合もあるということです。


とくに、国民経済は重要です。経済その中で特に雇用が悪くなれば、国民の不満は一気に高まります。第一次安倍政権以降、民主党政権も含めてすべての政権短期政権になったのは、まともな経済対策が打てずに、雇用や経済が悪くなったからです、それを正した、特に雇用を劇的に改善した、第二次安倍政権が第一次、第二次通算で、憲政史上最長の政権になったことを忘れるべきではありません。

それを忘れれば、岸田首相も足元をすくわれることになるでしょう。

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