2020年8月16日日曜日

中国の小麦買付量が1000万トン減、習近平氏は食糧を浪費しないよう呼びかけ―仏メディア―【私の論評】中国が食料危機の可能性を公表しないのは、自らの無謬性を強調のため、危機を人民のせいにするための方便か(゚д゚)!


中国の家庭料理

2020年8月13日、仏RFIの中国語版サイトは、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が国民の食習慣における食糧の浪費に注目すると同時に食糧関係機関の責任者らが頻繁に打ち合わせをし、政府メディアも食糧の安全を重視するよう求め、国民に食糧を節約し、危機意識を持ち続けるよう呼びかけたと報じた。

中国農業科学院の統計によると、2015年の統計では毎年3500トンの食べ物が浪費されているという。

記事によると、中国国営新華社通信は次のように中国の人々に理解を求めた。食糧資源が豊富な国で産業チェーンが断絶する可能性がなくはない。サプライチェーンが断絶すると、恐慌のような購買が発生する。また、昨年末からこれまでの世界各地のバッタの大量発生や山火事、さらに新型コロナウイルス感染拡大により、物流が滞ったり輸出制限を受けたりして、世界の農産物供給の不確実性が増し、食糧市場が不安定になっている。

また、フランス通信社は「中国人は盛大な食文化から節約へと移行し、習近平の呼びかけに応えている」と報じ、北京市や武漢市、西安市など多くの都市の職業飲食協会が提唱し推進している「N-1」の飲食モデルに注目した。「N-1」とは、人数分の食事から一品減らすというもので、これにより品数は多様でありながら、食糧の節約ができ、浪費を防ぐという。同時に、中国の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」などは、プラットフォーム上のプログラムでの誇張した「大食い」を禁止すると発表したという。

記事によると、中国政府はこれまで、年間在庫は消費量に対し十分で、食糧供給に問題はないと度々強調してきた。国家食糧・物資備蓄局が今週発表したデータでは、河北省から江蘇省、山東省から河南省の多くの小麦主産地の買付量が前年同期比減となり、全体で938万トン以上減少した。だが、現在の小麦と米の在庫量は国民の1年間の総消費量に相当するという。また、米、小麦、トウモロコシの「中国三大食糧」の中国国内自給率は平均97%以上、2019年の中国の1人当たりの平均食糧占有量は470キロを超え、国際食糧安全基準より1人当たり400キロ多いという。データは、食糧の余裕への「十分な自信」を示したと記事は伝えた。(翻訳・編集/多部)

【私の論評】中国が食料危機の可能性を公表しないのは、自らの無謬性を強調のため、危機を人民のせいにするための方便か(゚д゚)!

中国の食糧事情の現状は、どうなのでしょうか。2020年8月14日、中国メディアの観察者網は、「食べ物を粗末にしないため」体重に応じたメニューを提案する湖南省長沙市内のある飲食店について伝えました。

4日、中国メディアの観察者網は、「食べ物を粗末にしないため」体重に
応じたメニューを提案する湖南省長沙市内のある飲食店について伝えた。

記事によると、この飲食店のシステムは、客が入店前に測定した体重に基づいて店がメニューを推薦し、客が注文するというもの。店は「これは客が適切な量の食事ができるように誘導するもので、浪費を根絶するためだ」としている。この店では客のために余った食事を持ち帰れるよう無料で容器を提供しているといいます。

同店の対応は、習近平(シー・ジンピン)国家主席が最近、「食べ物を粗末にしてはいけない」などとする「重要指示」を出したことと大きく関係しているとみられています。

共産党機関紙・人民日報は12日付と13日付の1面で、習氏が「飲食物の浪費は衝撃的で心が痛む」と語り、食料を無駄にしないための対策を取るように命じたと伝えました。中国都市部の外食産業で1年に出る残飯は1700万~1800万トンと推定され、3000万~5000万人分の1年間の食料に相当するといいます。

習氏は2013年から食べ残しをしないように求めています。習氏が改めて指示を出したのは、食料問題が切迫する可能性があると判断しているからです。習氏は「食料の安全確保について常に危機意識を持たないといけない。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大はわれわれに警鐘を鳴らしている」と述べました。

中国では今年、長江流域を中心に大雨による水害が起きています。食料の輸入先である米国との関係が極めて悪化していることも不安材料です。習氏は米国との対立が深まる中、「自力更生」「持久戦」を訴えてきました。今回の「食べ残し禁止」の呼び掛けも長期的な覚悟を国民に求めたものといえます。

中国の水害を伝えるテレビの画面

習氏の指示を受け、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、飲食の浪費を抑制するための法整備について検討を開始。国営中央テレビは、ネット上で人気となっている「大食い」を誇る動画を「食べ物を無駄にする極端な事例」と批判し、食料の節約を訴えました。

米ラジオ放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、7月に四川省成都市農業農村局が近日、成都市全市における果樹園や樹林園が水稲栽培に変更する状況を調査報告するように公文書を出しました。同公文書には、水稲栽培を促すために政府は田んぼに切り替えた農民には6.667アール(約666.7平方メートル)ごとに3千人民元(約4万6千円)もらえる保証すると書かれています。

現地の農民によると、当局がこれだけの補償を出してまで、水稲栽培に切り替わるように要求したのは中国の食糧貯蔵が厳しいことが垣間見えるそうです。

四川省だけでなく、湖北省孝感(こうかん)市の地方当局も田んぼ政策を促しているそうだ。田んぼ6.667アール(約666.7平方メートル)開墾ごとに150元(約2千円)の手当てを出すという。

また、6月からイナゴの大群が農業地区である広西チワン族自治区桂林市を襲いかかり、関連映像からは密集したイナゴによる農作物の被害状況が確認できます。ウエイボーでは全市が被害に遭ったといいます。

ここ2か月、中国各地は洪水やバッタ、ペストなど様々な災害に見舞われ、下半期の食糧危機の可能性が懸念されています。中共国家統計局も、今年の夏の穀物生産量は今年の洪水同様、過去最高を記録し、豊作であると発表しました。

中国メディアも種々様々な報道をしています。いずれも最終的に判で押したかのように、様々な統計値を出した上で、最後には「食糧危機は起きない」と報道しています。

ところが、7月15日付で米国農務省(USDA)は、7月14日に米国企業がトウモロコシ176万2000トンを中国へ輸出する契約に調印したと発表しました。 

これはトウモロコシの契約規模としては過去4番目に大きく、1日の取引量としては1994年以来最高の規模でした。これより4日前の7月10日には中国向けにトウモロコシ136万5000トンの輸出契約が締結されていました。

これら2つの契約は今年中に商品の納入を完了することが予定されています。 

今年1月に米中両国は貿易協議の第1段階として、「中国が米国産品の輸入を2年で2000億ドル(約21兆円)増やすのに対し、米国は中国製品にかけた追加関税を段階的に下げること」で合意しました。 

6月30日に香港で『香港国家安全維持法』が施行されたことにより米中関係は今まで以上に悪化しているというのに、中国が依然として米国産農産物を買い付けているのは第1段階の目標達成というよりも、中国国内の食糧危機を見越した「背に腹は代えられない」事情があると考えるのが筋でしょう。

中国当局は最近、米国だけからというわけではなく、大豆やトウモロコシの輸入そのものを増やしています。中国税関当局が26日に公表した統計では、6月にブラジルから大豆1051万トンを輸入しました。5月と比べて18.6%増で、前年同月比では91%増となりました。

また、米農務省(USDA)が毎週公開する統計によれば、7月9~16日までの1週間で、中国向けのトウモロコシ輸出量(196.7万トン)は、週間統計として過去最高となりました。中国は同週、米国から169.6万トンの大豆を購入した。2019年3月以来の高水準となりました。

8月10日に公表された中国の7月の食糧価格は、12カ月連続で2桁上昇となっています。8月に入るとさらに国内の穀物価格が上昇しています。

中国国内が未曾有の大災害に見舞われる中、習近平国家主席は7月22日、天変地異とは無関係の食糧の主要生産地である東北部の吉林省を視察し、「吉林省は食糧安全保障政策を最優先課題にすべきだ。戦争の際、東北部は非常に重要だ」と異例の発言を行いました。

こうした大災害の時にこそ、民衆の苦しみを少しでも和らげ、労わろうとするのが、本来の徳ある為政者の姿のように思いますが、習主席は「災害対策本部」のような組織もろくに立ち上げず、最前線へ出向いた中央政府の責任者は一人もいないとも言われています。

吉林省のとうもろこし畑を視察する集金兵

胡春華副首相は7月27日、国内の食糧生産に関する会議で、各省の幹部に対して「食糧の生産量を増加すべきである。けっして減らしてはならない。国の食糧安全保障にいかなる手違いも許されない」と厳命しました。

中国では近い将来、レストランで好きな料理を多めに注文すると「監視員」に止められたり、食べ残しを残して出ようとすれば拘束されてしまう、というよう信じられないような話が現実となってくるでしょう。食料危機への対処として、情報を開示して国民の協力を呼びかけるのでなく、習近平が人民の「食べる自由」まで奪おうとしているのでないでしょうか。。

これは、初期段階で武漢ウイルスの感染を隠していたことを彷彿とさせます。本当は、今後食料問題がこれから深刻になっていく可能性があるのに、それを公表して人民の協力を求めるのではなく、中共や自らのの無謬性を強調したいがために、そのようなことはせずに食糧不足やそれにともなう食料の高騰が起こった場合には、それを人民のせいにし、自らの責任を逃れるための方便とするのではないでしょうか。

それを実行すれば、中共はマスク外交で諸外国から信頼を失ったように、今度は国内で人民の憤怒のマグマを直接受けることになってしまいます。これに関して、さすがに米国や、日本のせいにすることはできません。

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2020年8月15日土曜日

終戦の日も侵入…中国の「尖閣暴挙」許すな! “開戦前夜”のようだった4年前の漁船団襲来 識者「領海に1隻も入れるべきでない」―【私の論評】中国の尖閣奪取は直近ではないが、中長期的には十分ありえる、日本はそれに備えよ(゚д゚)!

終戦の日も侵入…中国の「尖閣暴挙」許すな! “開戦前夜”のようだった4年前の漁船団襲来 識者「領海に1隻も入れるべきでない」

日本の領土尖閣諸島

日本は15日、終戦から75年を迎えた。戦没者を追悼し、平和について静かに考える日だが、今年はいつもとは違う。中国発の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)は止まらず、沖縄県・尖閣諸島周辺海域には、連日のように中国海警局の武装公船などが侵入しているのだ。中国側が設定した休漁期間が終わる16日以降、中国漁船団が大挙して押し寄せる可能性も指摘されている。中国は2016年8月にも、尖閣周辺に200隻以上を送り込んできた。先人が残した日本固有の領土・領海を守り抜くには、口先の「遺憾砲」ではなく、そろそろ具体的行動が必要ではないのか。


「中国側は4年前、わがもの顔で尖閣の海を荒らした。中国側は、海上保安庁の巡視船の後方に自衛艦や米海軍が控えていると分かっていながら、強引に侵入した。日本には強烈なジャブになった」

海洋防衛に詳しい東海大学海洋学部の山田吉彦教授は、こう語った。

4年前の暴挙は後述するとして、中国海警局の公船4隻は、日本の「終戦の日」である15日朝も、尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域を航行しているという。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは4日連続。

第11管区海上保安本部(那覇)によると、領海に近づかないよう巡視船が警告した。中国に「鎮魂の祈り」は通じないのか。

こうしたなか、中国の休漁期間明けの来週16日以降、中国漁船が大量に尖閣周辺海域に押し寄せ、日本領海を侵犯する危険性が指摘されている。

日本政府は先月、外交ルートを通じて「中国漁船が大挙して尖閣周辺に来ると日中関係は壊れる」と警告したが、習近平国家主席率いる中国政府側は「(尖閣は)固有の領土だ」と反発したという。4年前の凶行を繰り返すのか。

海保などによると、中国は16年夏の休漁明けに約1000隻の漁船団を出漁させた。同年8月初旬には、日本の四国ほどの広さの尖閣周辺の海域に、うち200~300隻を送り込んできた。

周辺海域に殺到した中国漁船と公船=2016年8月6日(海上保安庁提供)

漁船団に続けて、中国海警局の公船も周辺海域に侵入してきた。中には機関砲を搭載した武装公船もいた。同年8月8日、公船15隻が尖閣周辺で確認され、一部が領海侵犯した。一度に15隻は過去最多だ。

海保関係者は「中国漁船が多く、中国公船と連動して、現場の緊迫度が一気に上がり、一触即発となった。こちらは違法操業を確認すれば退去警告を連発し、船と船の間に割って入るなどして、何とか尖閣諸島を守り抜いた」と振り返る。

当時は「漁船には中国軍で訓練を受け、武装した海上民兵が100人以上、乗り込んでいる」「8月15日に尖閣諸島・魚釣島に上陸するようだ」との報道もあった。日本政府が抗議しても、中国側は挑発を続けた。現場海域は“開戦前夜”のような状況だった。

尖閣諸島は、歴史的にも、国際法上も、日本固有の領土である。

福岡の商人、古賀辰四郎氏が1884(明治17)年、探検隊を派遣し、尖閣諸島を発見した。その後、日本政府が他の国の支配が及ぶ痕跡がないことを慎重に検討したうえで、95(同28)年1月に国際法上正当な手段で日本の領土に編入された。

日本の民間人が移住してからは、かつお節工場や羽毛の採集などは発展し、一時200人以上の住人が暮らし、税の徴収も行われていた。

1951(昭和26)年のサンフランシスコ平和条約でも「沖縄の一部」として米国の施政下におかれ、72(同47)年の沖縄返還協定でも一貫して日本の領土であり続けている。

新型コロナで世界を大混乱させた中国は「力による現状変更」を狙っているのだ。

前出の山田氏は「中国は最近、尖閣が自国の施政下にあるとの主張を強めている。今度は4年前を上回る大船団を、より綿密に計画立てて尖閣周辺に送り込んでくるのではないか。海保巡視船にぶつけてくる危険性もある。日本は4年前の教訓をもとにガードを固め、領海に1隻も入れるべきではない」と語っている。



【私の論評】中国の尖閣奪取は直近ではないが、中長期的には十分ありえる、日本はそれに備えよ(゚д゚)!

共同通信は、本日以下のような報道をしています。
尖閣30カイリへ進入禁止、中国 休漁明け漁船に、摩擦回避か
 沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で中国が設けた休漁期間が16日に明けるのを前に、東シナ海沿岸の福建、浙江両省の地元当局が漁民に対し「釣魚島(尖閣の中国名)周辺30カイリ(約56キロ)への進入禁止」など、尖閣への接近を禁じる指示をしていたことが15日分かった。漁民らが証言した。中国は尖閣の領有権の主張を強めているが、日本との過度な摩擦を避ける意向とみられる。  15日には日本の閣僚らが靖国神社に参拝しており、中国の反発は必至。指示が行き渡らない可能性もあり予断を許さない状況だ。  福建省石獅市の船長は「政治問題は分からない。当局には従う」と話した。
産経デジタル版でも以下のような報道をしています。
敏感な海域で漁労厳禁 中国当局が尖閣沖で漁船の管理強化 16日に漁解禁
   祥芝港(ブログ管理人注:中国福建省の漁港)を抱える石獅市当局は7月、「敏感な海域」に無断で入った漁船を厳罰に処すとの通達を出した。各漁船に対し中国独自の衛星利用測位システム「北斗」などに常時接続することも要求、漁船団の行動を綿密に把握する構えだ
 多くの漁業関係者は「敏感な海域」を台湾近海と認識しているが、実際は尖閣沖も含まれるもようだ。

一方、漁船乗組員の言(げん)さん(55)は「釣魚島は中国のものだ。今年も一部の船は行く。(接近禁止の)規制線は決められているが、こっそり規制線を越える船もある」と明かした。
 確かに、予断は許さないですが、ここ数日以内に中国漁船が退去して尖閣の水域にはいってくることはないのではないでしょうか。ただし、少数の漁船が入ってくる可能性は十分に予想されます。

そもそも、中国政府が日本政府に対し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での多数の漁船による領海侵入を予告するような主張とともに、日本側に航行制止を「要求する資格はない」と伝えてきたことをどう解釈すべきでしょうか。

沖縄県・尖閣諸島周辺海域には、確かに連日のように中国海警局の武装公船などが侵入しているという事実がありますが、もし本気で尖閣を奪取するつもりならそのようなことは全くせずに、黙って、駆逐艦や空母を派遣し、強襲揚陸艦なども派遣し兵員を輸送すればよいだけの話です。

もし、本気なら奪取の前に、わざわざ武装公船で挑発したり、ましてや大量の漁船の了解侵入の予告などするでしょうか。

そんなことは、おくびにもださず、何もせず、ある日突然上陸作戦を敢行するのではないでしょうか。第二次世界大戦中の連合軍によるノルマンディー上陸作戦もそうでした。

ノルマンディー上陸作戦

ノルマンディー上陸作戦に関しては、箝口令が敷かれ、カレーに上陸するように見せかける工作がなされました。

もし、中国が本気で尖閣を奪取しようとするなら、中国軍も日米にさとられないように、奇襲攻撃的に尖閣を奪取することを考えるのではないでしょうか。

ただし、中国という国は常識外れの国ですから、本当に「やるぞ、やるぞ」と言って実行してしまうかもしれないので、油断は禁物です。でも、その場合は犠牲が多くなるのは当然のことです。

犠牲を少なくして、奪取しようとするなら、隠密裏に行動して、いきなり奪取というのが一番です。

ただし、そのためには、直前の哨戒活動を行い、日本の航空機や艦艇や潜水艦の位置を確認して、奪取直前にあらかじめ上陸部隊に対する、攻撃を未然に防ぐべきです。

しかし、以前にも述べたように、中国の哨戒能力は日米よりも格段に劣っています。潜水艦のステルス性能は日米に比較して格段に劣っているので、中国の潜水艦や艦艇は日米に簡単に発見されてしまいます。これでは、中国側はどう考えてみても、隠密裏には行動できません。

このような軍事的背景があるのに加えて、こうした中国の動きに米国は強い警戒心を見せているということがあります。

米国は尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、日米安保条約第5条の適用範囲だとの認識を持っているからです。

直近では、2017年2月に訪日したジェームス・マティス国防長官(当時)がこの点を明確に再確認、中国を念頭に「米国は尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と強調しました。

中国の尖閣諸島への威嚇行動が続く最中、米有力シンクタンク「ナショナル・ビュロー・オブ・アジアン・リサーチ」(National Bureau of Asian Research=NBR、全米アジア研究所、ロイ・カムパウザン理事長)が尖閣諸島防衛のための「日米統合機動展開部隊」常設構想を打ち出しました。

日本国内には尖閣諸島防衛のための陸海空3自衛隊を統合した常設の機動展開部隊を創設し、同部隊と在沖海兵隊との連携強化する構想があります。

しかし、米国サイドが一気に「日米統合機動展開部隊」を常設を提案するのは初めて。画期的です。

中国側がさらに尖閣で行動を強めると、こうした動きを加速させることも考えられるので、中国側としては、いたしかゆしというところなのでしょう。

中国海軍のロードマップでは、今年の2020年までには、第2列島線まで確保することになっているのですが、現実には尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていません。この列島線なるものは、単なる妄想にすぎなかったようです。


このように書くと、私は尖閣諸島の中国による奪取は、ないと考えているように聞こえるでしょうが、そうではありません。ただ、マスコミが煽るように今日明日はおそらくないだろう言っているだけです。数年後にはあるかもしれません。

それに備えるためにも、日本としても、何かをする必要はあると思います。ただ、尖閣が仮に奪取されたとしても、たとえば、日米の潜水艦で尖閣諸島を包囲して、近づく艦艇や航空機を最終的には破壊するようにすれば、尖閣諸島に上陸した中国軍はすぐにお手上げになります。


このアイディアは、以前このブログにも何度か提唱したことがあります。まともに、考えれば、こういう考え方になります。

なお、機雷というと、多くの方が、第二次世界大戦中の艦艇に接触して爆発する接触機雷を思い浮かべるでしょうが、現在は様々なタイプがあります。それについては、ここで説明していると長くなるので、他のメディアなどを参照していただきたいです。

ここで強調したいのは、海自の掃海能力(機雷を除去する能力)です。哨戒能力に関してはね、かつてはトップだったのですが、最近では米軍のほうが若干優れています。しかし、掃海の能力に関しては現在でも日本がトップです。

中国には掃海能力はありません。要するに、日本が機雷を敷設すれば、中国はそれを除去できません。これに対して、中国側が機雷を敷設した場合、日本はそれを除去できます。

おそらく中国はここ数年は、尖閣を奪取できないでしょう。ただし、何度も尖閣水域に侵入し、それを恒常化し、その次の段階では、実効支配を宣言するかもしれません。そうなってからでは、手遅れです。

日本としては、機雷敷設などのことも本気で視野にいれるべきです。機雷を敷設してしまえば、漁船はおろか、中国の駆逐艦や、武装公船も近づけなくなります。日本の海自の潜水艦や艦艇だけが近づけることになるでしょう。

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2020年8月14日金曜日

【有本香の以読制毒】安倍首相が李登輝元総統への弔問に森喜朗元首相を送った意味 始まりは2001年の「訪日問題」 中国に痛烈な一撃となったか―【私の論評】安倍総理の優れた人選と、その期待に100%以上のパフォーマンス応えた森氏に、中国はだんまり(゚д゚)!


台湾の李登輝元総統の遺影に花を手向ける森元首相=9日

8月9日、75年前のこの日は、長崎に原子爆弾が投下され、ソ連が日ソ不可侵条約を破って参戦した日だ。日本の敗戦が決定的となり、当時、1つの国だった日本と台湾が別れ別れになる、その運命が決まった日でもあった。

 75年後の同日、台湾・台北の午後の気温は33度。うだるような暑さの中を、黒い服に身を包んだ日本の男たちが集まった。先月30日に逝去した「民主台湾の父」李登輝元総統への弔問に、外国から一番乗りした日本の国会議員弔問団だった。団長は森喜朗元首相。先週の本コラムでも触れたが、森氏が団長を務めた理由や経緯を知らない人のために、いま一度、大事な逸話を書いておく。

 李氏と森氏の浅からぬ縁の1つの始まりは、2001年の「李登輝訪日問題」にある。1年ほど前に、総統を退いて、「私人」となっていた李氏が、心臓の持病治療を理由に訪日を希望したことがきっかけだった。

 この李氏訪日を阻止する方向で動いたのが、外務省のチャイナスクールであり、これに同調した当時の外相、河野洋平氏だった。

 対して、「李氏の入国を認めないことは人権問題だ」として、毅然(きぜん)と「ビザ発給」を決めたのが首相だった森氏であり、ともにビザ発給を強く主張したのが、官房副長官だった現在の安倍晋三首相である。この時の様子を、森氏は台北での記者会見で、次のように述懐した。

 「中国・北京の方から働きかけがあったといいましょうか、(外務省から)『台湾の政治指導者は日本に入れないんだ』という話がありました。『日本政府はビザの発給について慎重であれ』というのが、ずっと懸案事項となっていました。結論から言えば、私が総理の時に『(李氏が)日本にお帰りになることは人道上正しいことだ』と判断し、ビザの発給を認めたということです」

 現下の国際情勢にあって、日本の元首相が、かくも赤裸々に「中国の浸透」を公言したことは大きなニュースであろう。だが、この台北での森発言を大きく報じた日本の大メディアはなかった。蔡英文総統との会談の席で森氏はさらに言った。

 「安倍総理から電話があり、『体のことがあるので森先生には頼みにくいが、誰に弔問に行ってもらうか悩んでいる』とおっしゃった。『あ、これは私に行けということだな』と思って引き受けました。しかも、私がちゃんと務めを果たすか、弟(=安倍首相の実弟、岸信夫衆院議員)に監視させて(笑)」

 森氏の弔問が安倍首相の意向によるもの、「事実上の首相特使」だと明言したのである。だが、この発言もほとんど報じられなかった。

安倍晋三氏と握手を交わす李登輝氏 2010年台北

 森氏率いる日本の弔問団が台北を去ったのと入れ替わりに、米国のアレックス・アザー厚生長官が台北に到着。海外メディアは「(米台)断交以来、最高位の訪問」と劇的に報じた。日米相次いでの大物弔問の様子は、台北での発言も含め、北京にとって、さぞ忌々(いまいま)しいものとなったにちがいない。

 がんの加療中、人工透析も受けている森氏は、台北賓館の入り口で一瞬、足元おぼつかない様子を見せた。しかし、その後の弔辞、記者会見、蔡英文総統との会談では、一貫して堂々と和やか、時折ユーモアまで交えた見事な弁舌で、「横綱相撲」の貫禄を見せつけた。

 感謝を伝えたく思い、帰国後の森氏に電話した。

 「日本と台湾が最も互いを必要としている今、命懸けで台湾へ行ってくださり有難うございます」

 すると、森氏はこう答えた。

 「口幅(くちはば)ったく聞こえるかもしれないが、私が総理の時に入国をお認めした方です。それから幾度も来日されるようになり、日本人に多くのことを教えてくださった。その方への最期のお別れは、私がするのが務めと思ってね」

 首相を退いて20年近くがたってなお、ザ・政治家。見事、国際政治のひのき舞台のど真ん中に立って、北京に痛烈な一矢を放った森氏に、最高の敬意と感謝の拍手を送りたい。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】安倍総理の優れた人選と、その期待に100%以上のパフォーマンス応えた森氏に、中国はだんまり(゚д゚)!

今回の森元首相の台湾弔問は、米国に対しても、台湾に対しても日本には、二階氏のような親中派の政治家だけではないことを強く印象づけることになったと思います。その意味では本当に良かったと思います。

李登輝氏遺影

森元首相は日本と台湾のメディアを前に、李登輝氏の日本に対する貢献と感謝について語りました。以下にそのときの森元首相のお言葉の要旨を掲載させていただきます。
 日本の国会議員団は、党を超えて李登輝先生のお話を聞くことに大変関心を持っている。それは日本人が知らなかったことをむしろよく知っておられたからだ。 
日本が敗戦の中でどちらかというと自虐的になり、自分たちの国の責任と言うことにあまりに思いを強くしたために、日本に対する自信を持っていなかった。 
李登輝先生は勇気をもって、日本人がもっと自分たちの国に誇りを持つべきだよと強くおっしゃっておられ、もっともっと日本人が日本人として国際的な貢献ができるように努力をしろと、そういう李登輝先生の教えだった。 
 日本に対し自信を持ちなさいと言って、敗戦国の日本が今日まで頑張り抜いてこられたのは李登輝先生の教えによるものが大きかった
 このように、森元首相は、李登輝氏の「日本は自信・誇りをもつべきだ」、「日本として積極的に国際貢献すべきだ」とのメッセージが日本にとって重要だったと指摘しましした。 
また、森元首相は自らの首相在任時に、李登輝氏が学生時代に学んだ日本を訪問したいという希望を、中国の反対を押し切って実現させた際のことについて語りました。 
 李登輝閣下が総統も終えられた後に、昔自分が学ばれた日本に行って体の治療、健康のこともあるので日本に入りたいと希望があった。 その時に中国・北京の方からも働きかけがあったというか、台湾の政治指導者は日本には入れないという話があった。
色々複雑なものがあった。日本政府はビザの発給について慎重であれと言うことが懸案事項になっていた。 私が総理の時に、日本にお帰りになることは健康上の問題、人道上の問題として正しいと判断しビザの発給を認めた。今も、遺族から感謝しているという話をいただいた。
そして、森元首相は弔辞の中で、日本と台湾の関係について「台湾はあなた(李登輝元総統)が理想とした民主化を成し遂げ、台湾と日本は普遍的な価値を共有する素晴らしい友好関係を築き上げた」と強調し、李登輝氏の功績を讃えました。

弔問団には、自民党の古屋元国家公安委員長、安倍首相の実弟である岸信夫元外務副大臣、 立憲民主党の中川元文科相ら与野党の政治家が参加し、李登輝氏への弔意を表しました。

団員は弔問前に蔡英文総統とも会談。安倍晋三首相の事実上の名代として訪台したことを打ち明けた森氏に対し、蔡氏は感謝の意を伝えています。

森・蔡英文会談

中国は今のところ、森氏の台湾弔問に対して、表立った批判はしていません。というより、できないのでしょう。これは、民間人の森氏が実質上の団長としての弔問であり、これに対して中国が批判しても日本はそれに反応のしようがないわけで、批判をしても何の反応も期待できず、面子が潰れるだけだからです。

似たようなケースの場合では、みてみぬふりをするのが外交の常識ですが、今回はさすがに中国くも常識に従わざるを得なかつたのでしょう。

森氏を選んだ安倍総理も素晴らしいですし、その期待に応えて100%以上のパフォーマンスを発揮した森氏も素晴らしいです。

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2020年8月13日木曜日

「沖縄独立」に中国暗躍! 外交、偽情報、投資で工作…米有力シンクタンク“衝撃”報告書の中身―【私の論評】国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に!親中派議員と官僚を成敗せよ(゚д゚)!

「沖縄独立」に中国暗躍! 外交、偽情報、投資で工作…米有力シンクタンク“衝撃”報告書の中身

「日本における中国の影響」の表紙

 沖縄県・尖閣諸島周辺海域に、中国の休漁期間明けの来週16日以降、中国漁船が大量に押し寄せ、日本領海を侵犯する危険性が指摘されている。日本政府は先月、外交ルートを通じて「日中関係は壊れる」と警告したが、中国政府側は「(尖閣は)固有の領土」と反発したという。こうしたなか、米国の有力シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が発表した調査報告書「日本における中国の影響」にある「中国の沖縄工作」が注目されている。新型コロナウイルスの大流行を引き起こしながら、覇権拡大を強める中国の浸透工作とは。ジャーナリストで、日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏が緊急寄稿した。


 注目の報告書は、2018年から2年間かけて、約40人の専門家にインタビューするなどしてまとめられた。約50ページの中では、「中国の沖縄工作」にも多くの文字数を割いている。

 日本の安全保障上の重要懸念の1つとして、沖縄の人々が日本政府や米国への不満を理由に「独立を宣言」する可能性を指摘している。中国の最重要ターゲットも、米軍基地が多い沖縄であり、「外交」や「偽情報」「投資」を通じて、この目的(=沖縄独立)を後押ししているという。

 報告書では、「日本の公安調査庁は、2015年と17年の年次報告(=『内外情勢の回顧と展望』)で、中国の影響力により沖縄の世論を分断する可能性の問題を取り上げた」と続く。

 この公安調査庁の『内外情勢の回顧と展望』には、《「琉球帰属未定論」を提起し、沖縄での世論形成を図る中国》というコラムがあり、次のように報告されている。

 《既に、中国国内では、「琉球帰属未定論」に関心を持つ大学やシンクタンクが中心となって、「琉球独立」を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている。こうした交流の背後には、沖縄で、中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいるものとみられ、今後の沖縄に対する中国の動向には注意を要する》

 CSISの報告書は、慶應義塾大学教授の言葉を借りて、「中国は日本に影響を与えるために間接的な方法を使用している。資金調達を通じて沖縄の動きに影響を与え、沖縄の新聞に影響を与えて沖縄の独立を推進し、そこに米軍を排除するなどの隠れたルートがある」とまとめている。

 現在、日本の対中国の安全保障課題としては、沖縄県・尖閣諸島周辺海域に、中国海警局の武装公船などが連日のように侵入していることが報じられている。だが、「中国主導の琉球独立工作」「沖縄と日本政府の分断工作」も真剣に警戒せざるを得ない。

 中国については16日の休漁期間終了後、尖閣諸島領海に多数の中国漁船を送り込んでくる可能性が指摘されている。海上保安庁と沖縄県警、自衛隊は、尖閣諸島で起きるさまざまな事態を想定して、対処方法を検討し、訓練を続けているとみられる。

 だが、中国による尖閣・沖縄侵略に対峙(たいじ)する「図上演習」は、これだけでは不十分といえる。

玉城デニー知事

 例えば、中国が日本政府を飛び越して、沖縄県と直接、「尖閣諸島と東シナ海の共同開発」を提案し、玉城デニー知事がこれを受け入れた場合、どうなるだろうか?

 常識的には、外交権は日本政府に属する。沖縄県には外交権がないから不可能だ。

 しかし、国連では、沖縄の人々を先住民族として、その権利を保護すべきとの勧告が2008年以来、5回も出ている。琉球独立派は、国連人権理事会などに「琉球の自己決定権がないがしろにされた」「中国と沖縄の外交を認めよ」と訴えかねない。国連も「琉球・沖縄の権利を保護せよ」と、日本政府に勧告を出す危険性がある。

 万が一、日本政府が妥協して、沖縄が中国と独自外交を展開することになった場合、その先がどうなるかは語るまでもないだろう。中国の思惑通りではないか。

 沖縄のマスコミや政治を見る限り、中国の工作活動の影響が広がっているとしか思えない。CSISの報告書が危惧するように、中国は尖閣関連の混乱に乗じて、あらゆる手を使って沖縄を日米から引き剥がしに動いてくるだろう。

 ぜひとも、尖閣有事の図上演習には、沖縄の政治や経済、マスコミ、国連の各組織の動向も、「要素・要因」として組み込んでほしい。それをしっかり米軍と共有して対処することこそ、「中国の野望」を打ち下す最善の策といえる。

 ■仲村覚(なかむら・さとる) ジャーナリスト、日本沖縄政策研究フォーラム理事長。1964年、那覇市生まれ。79年 陸上自衛隊少年工科学校(横須賀)入校、卒業後、陸自航空部隊に配属。91年に退官。企業勤務を経て、2004年にITソリューション会社を設立するとともに、沖縄の基地問題や尖閣問題、防衛問題の取材・執筆活動を続けている。著書に『これだけは知っておきたい沖縄の真実』(明成社)、『沖縄はいつから日本なのか』(ハート出版)など。

【私の論評】国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に!親中派議員と官僚を成敗せよ(゚д゚)!

この報告書は、米国で作成されたものであり、日本国内で作成されたものよりは、第三者的な立場から書かれ客観的な内容になっていると思います。まだ読まれていない方は、ぜひとも原点にあたるべきと思います。以下にこの報告書の入手先のリンクを掲載させていただきます。


上の記事では、紙幅の都合があるためか、中国の脅威のみが掲載されていますが、報告書にはこれに対する日本の防護壁についても記載されています。
日本は、中国に対して世界で最もネガティブな考えを持つ国として際立っている。2019年ピュー・リサーチの世論調査によると、日本人の中国に対する否定的な見方は、調査対象となった34カ国の中で最も高く、85%の否定的な見方を示した。 
歴史的な背景からも、長らく中国の権力を警戒してきた日本は、西洋諸国のような競争力ある民主主義国に比べて、中国の浸透工作が効果を出していない。日本は超党派的な中国への警戒心と中国の歴史や文化への親近感から、今日の共産党政権による悪質な活動に危機感を持っている。 
自民党よりもずっと親中とされる民主党政権でさえ、尖閣諸島の領有権では強硬姿勢を見せている。
中国が日本に影響を与えることができないのは、特に2000年代に領土問題が表面化して以来、中国の自称『平和的』な台頭に対する懐疑的な見方を含む、ネガティブな世論によるものである。これは、800万人もの中国人観光客が来て経済効果をもたらしているにも関わらず、好転しなかったことからも伺える。
この厚い壁があるからこそ、中国の浸透工作は日本ではなかなか成功しない部分もあるようです。

       国道246号線と山手通りがぶつかる交差点付近に建造された、
       首都高速道路の大橋ジャンクション「目黒天空庭園」の大壁

一方心配なこともあります。中国は日中関係の融和的な関係構築のために、政治家や大手企業幹部、退役将校などを招いた日中フォーラム「東京・北京フォーラム」を利用していると明かしています。

CSISの報告は、中国との結びつきや思想的背景から、日本の仏教団体である創価学会とその関連政党・公明党が、彼らの提唱する平和主義的な思想から、中国に同調的であると指摘する。

日中関係の回復と改善に向けて、公明党の竹入善勝党首は1971年6月に訪中しました。公表された記録によれば、竹入氏は周恩来首相との会談で、中国共産党側の意向を汲み取り、日中国交正常化の共同声明に反映させました。

メモによれば、声明には日米安保条約や日華(日蒋)条項に触れないと話していました。また、会談では、70年代は日中ともに尖閣諸島領有権をめぐる話題は重視していませんでした。さらに、中国は、日本に戦争賠償を求めておらず、戦後対応には漠然ではあるものの満足していたといいます。

公明党のウェブサイトによれば、1964年の党創立以来、「日中関係の正常化の推進」が優先事項だと主張しています。報告書のCSISの関係者インタビューによると、中国共産党は、創価学会を日本の憲法9条維持のため、政権与党に影響を与えるための「味方」とみていますが、宗教団体であることから距離を置いているといいます。

2018 年9月、公明党の山口那津男現党首は、周恩来氏の母校である天津の南開大学を訪問しました。同月、中国共産党が後援する中国人民対外友好協会は、池田氏の中日関係への貢献を評価して表彰しまし。2016年8月、南シナを巡って日中関係が悪化した際には、中国国営テレビCCTVの子会社ケーブルテレビ番組で、周恩来と池田大作の友好関係についてのドキュメンタリーを放映しました。

思想的に対中融和を促す人物として、CSISの報告は鳩山由紀夫氏を名指しています。贈収賄の記録はないにもかかわらず、鳩山氏は、日米同盟に疑問を投げかけたり、中国主導のアジア国際開発銀行(AIIB)の国際諮問委員会に参加するなどして一帯一路の日本参加を促しています。

いっぽう、CSIS研究員でジョージタウン大学のマイク・グリーン氏は、インタビューに対して、鳩山氏が2009年首相在任中に提案した「東アジア共同体」設立は、中国の情報機関が鳩山氏を通じた対日影響工作だったが、日本の情報機関がその試みを阻止したと語っています。

以上のようなことは、心配な事柄ではあるのですが、ほぼ日本国内では、しかし一番心配なのは、報告書では「安倍晋三首相がコロナウイルス対策で当初、中国に遠慮したのは中国共産党の最も効果的な対日影響力行使の結果かもしれない」としていることです。

報告書では、「日本に影響を及ぼす中国の戦術」という章で今年1月からのコロナウイルスの中国から日本への伝染を取りあげています。

その章では「中国のコロナウイルス利用の試み」という項目で中国当局がコロナウイルス感染を利用して日本側での中国への反応を融和的かつ友好的にしようと努めた実例として鳩山由紀夫元首相が南京の虐殺記念館にマスク1千枚を贈ったことを人民日報などが大々的に報じ、「日中友好」を改めて強調したことが記されています。

そのうえで同報告書はその時期の日本側の対応として以下の諸点を述べていました
・日本政府のコロナウイルスへの初期の対応は控え目だった。その原因は中国に対する畏敬の念だと思われた。日本政府が中国の武漢のある湖北省からの来訪者の入国の規制を始めたのは2020年2月1日だった。 
・その時点ではアメリカ政府は中国からのすべての外国人来訪者の入国を禁じていた。しかし日本には湖北省以外の中国全土からの直行便多数が平常のまま旅客を満載して到着していた。 
・安倍晋三首相はこの危機に対してこの時点では前面に出ず、厚生労働大臣にリーダーシップを委ねるという姿勢だった。
同報告書は以上のような背景を述べたうえで、安倍首相自身の動きについて次のように述べていました。
・安倍首相は4月に予定されていた中国の習近平国家主席への日本への国賓としての来訪計画を前にして中国に不快感を与えることを避けたため、コロナ対策の前面に出ず、中国からの日本入国者の停止の措置をとらなかったといわれる。 
・この解釈が正しければ、この安倍首相の対応は中国共産党の日本に対する影響力行使活動でも近年では最大の効果をあげた結果の一つとなるかもしれない。
同報告書はその「中国の対日影響力行使」の実態として以下のように説明していました。
・日本の時事通信は2月19日の報道で「日本政府関係者によると、中国政府は日本側に『習近平国家主席の国賓を控えて、コロナウイルス感染を大ごとにしないでほしい』と要望してきた」と伝えた。この中国の要望のための日本側の遠慮が日本のコロナウイルスに対する対応を遅すぎるものにしたのだ。
同報告書は以上のような記述を続け、中国側からの習近平主席国賓来訪に関する要請がまさに中国の対日影響力行使の実例であり、安倍首相がその点に配慮し入国者の規制を先延ばしにしたことはその影響力行使工作の「近年では最大の効果をあげた」実例だとの見解を明示したということです

同報告書が引用した時事通信の記事は「中国側からの『大ごとにしないでほしい』という要諦が日本のウイルス対応が後手に回った要因となった」とか「首相側近は『1月時点で中国人すべての入国を止めるしかなかったが、もう遅い』と頭を抱えた」とも報道していました。
習近平

このように、報告書では習近平国賓招聘を重んじたためにコロナの初期対応を誤ったのではないかという点を指摘していることが注目されます。

このブログでは、以前にも掲載させていただいたように、安倍政権の政策に関しては、是々非々でみており、安倍政権のこの路線を批判しましたが、これは米国にとっても好ましいことではないことを示しています。

日本の政府関係者は、この事実を真剣に受け止めるべきです。今のまま日本の政界内特に与党内の親中派を野放しにしておけば、いずれ親中派の与党議員の中にも米国から直接、米国内の個人資産の凍結や、米国内への渡航禁止の措置が取られることになるかもしれません。

いや、それどころか、親中派与党大物議員におもねる親中派企業も制裁の対象となるかもしれません。

安倍政権としては、親中派の議員を党内政治や調整のために無下にできない部分はあるとは思いますが、それにしても今日の時局をわきまえれば、党内の親中派は、排除するか、排除しないまでも、大きな声をださせないようにするべきです。

先にも掲載したとおり、"日本人の中国に対する否定的な見方は、調査対象となった34カ国の中で最も高く、85%の否定的な見方を示し"ていますし、コロナ後には、これが好転するわけもなく、親中派の議員がいまのまま、親中的な行動すれば、安倍政権は多くの日本人から支持を失うことにもなりかねないです。

国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に至るのは当然の成り行きです。まさに、安倍総理にとっては正念場です。

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2020年8月12日水曜日

“EU合衆国”の第一歩か 92兆円のコロナ復興基金で合意 経済ブロック化に備え日本は米英と連携強化を―【私の論評】経常収支や経済ブロック化などの言葉に踊らされるな!日本経済は他国と比較すれば健闘している(゚д゚)!

“EU合衆国”の第一歩か 92兆円のコロナ復興基金で合意 経済ブロック化に備え日本は米英と連携強化を


復興基金案を協議するメルケル独首相(右から2人目)

仏大統領「欧州にとって歴史的な日」


[ロンドン発]欧州連合(EU)の首脳会議は5日目の協議に入った21日未明、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済を立て直す復興基金案で合意しました。返済不要な補助金3900億ユーロ、返済しなければならない融資3600億ユーロのパッケージです。

欧州委員会が債券を発行して市場から総額7500億ユーロ(約92兆円)を調達。借り入れは遅くとも2026年末には終了します。EUが大規模な債務の共通化に踏み出すのは初めて。エマニュエル・マクロン仏大統領は「欧州にとって歴史的な日だ」と宣言しました。

シャルル・ミシェルEU大統領(首脳会議常任議長)も記者会見で「われわれは成し遂げた。欧州は強い。欧州は結束している。欧州にとって適切な合意だ。この合意は欧州の旅にとって転換点とみなされると信じている」と述べ、欧州の歴史の新しいページが開かれたと指摘しました。

欧州の債務危機や難民危機でも債務の共通化には慎重な姿勢を貫いたドイツのアンゲラ・メルケル首相はパンデミックによるEU分断を避けるため、これまでの方針を180度転換。輪番制の議長国として復興基金案を独仏で主導しました。

EU首脳会議としては2000年12月、EU拡大に向け特定多数決持ち票、欧州議会議席数の配分などの機構改革を協議するため、ニースで開かれた首脳会議を抜く90時間以上の最長会議。メルケル首相も「安堵した。最後に欧州は団結した」と胸をなでおろしました。

コロナ流行が欧州に広がってから、初めて首脳が実際に集まって会議を開きました。

「倹約4カ国」とフィンランドの反対で減額
100年に1度のパンデミックによる経済の落ち込みを立て直すため、債務国の「南」と債権国の「北」、自由と民主主義、法の支配を錦の御旗にする「西」と権威主義の傾向が強まるハンガリー、ポーランドの「東」がなんとか違いを乗り越えて結束しました。

しかし「倹約4カ国」のオーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデンにフィンランドを加えた5カ国の反対で、補助金は独仏が唱えた5000億ユーロから3900億ユーロに減額され、デンマーク、ドイツ、オランダ、オーストリア、スウェーデンの予算払戻金が拡大されました。

オランダのマルク・ルッテ首相の要求で、加盟国が取り組みの約束を守らなかった場合、EUが復興資金の支給を一時停止する枠組みも設けられました。復興基金を除いた次期7年間(2021~27年)のEU予算も1兆740ユーロ(約132兆円)で合意しました。

EU域内のコロナの死者数は約13万5000人。欧州委員会の欧州経済予測では今年の経済見通しはEU域内マイナス8.3%、ユーロ圏マイナス8.7%。ドイツがマイナス6.3%、フランスはマイナス10.6%、イタリアはマイナス11.2%、スペインはマイナス10.9%と焼け野原状態です。

このため、欧州中央銀行(ECB)は16日、主要政策金利を0%に据え置き、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の規模も1兆3500億ユーロ(約166兆円)を維持。債券・国債の購入プログラム(APP)も月額200億ユーロ(約2兆4600億円)のペースで継続されます。

しかし、おカネが円滑に失業者や生活困窮者の手元に回らなければ、コロナで大きな被害を出したイタリア(死者約3万5000人)、フランス(約3万人)、スペイン(約2万8000人)などで暴動や略奪が起きる恐れも膨らみます。

イタリアの組織犯罪集団マフィアは高利貸しビジネスを拡大し、借金のカタにレストランや商店を不正に手に入れる事件も相次いでいます。EUやECBの緊急経済対策にはスピードが求められています。

EUのハミルトン・モーメント

アメリカ独立戦争で総司令官ジョージ・ワシントンの副官を務め、初代財務長官に就任したアレクサンダー・ハミルトン(1755~1804年)を主人公にしたミュージカル『ハミルトン』が映画製作会社ウォルト・ディズニー・ピクチャーズによって映画化され、話題になっています。

非白人のアフリカ系、アジア系、ラテン系、ミックスの若者が演じているため、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイド氏暴行死事件に端を発する黒人差別撤廃運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」でさらに注目を集めています。

さて、ハミルトンはアメリカ合衆国建国のため各州の債務共通化を主導した「建国の父」の一人です。コロナ危機からEU加盟国を救済するための債務の共通化が「EU合衆国」の道につながるかどうかは分かりません。しかし、その最初の一歩になる可能性はあると思います。

「第二次大戦以来、最大の危機。EUの歴史で最も深刻な危機には、それにふさわしい答えが必要だ」というメルケル首相はマクロン大統領とともに復興基金案を推進しました。しかし倹約4カ国プラス、フィンランドだけでなくドイツ国内にも債務の共通化には根強い反対があります。

世界金融危機に続く欧州債務危機、難民危機でも白日の下にさらされたEU最大の弱点は予算が域内GDPの1%にも満たないことです。しかも共通農業政策など予算の使い途はすでに決まっています。加盟27カ国の政府や中央銀行の利害調整が難しいため、意思決定に時間がかかります。

危機に弱いというより、肝心な時に国家エゴの醜悪さを一段とさらけ出す構造的な欠陥があります。今回もパンデミックの巨大津波にのみ込まれてしまったイタリアに助けの手を差し伸べるのではなく、感染防止用防護具の輸出禁止、国境封鎖に走る加盟国のエゴが露呈しました。

ドイツ出身のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は欧州議会で「イタリアが助けを求めている時に十分なことができなかった。どの国もパンデミックへの備えが十分ではなく、自国の対応に精一杯だった。欧州は心から謝罪する」と表明しなければなりませんでした。

経済のブロック化を懸念

イギリスがEUから離脱した今、未曾有のコロナ危機に際し、南北と東西に走るEUの断層を接着する手段として、これまで封印してきた債務の共通化にメルケル首相も踏み出さざるを得ませんでした。イタリア、スペイン、フランスの経済が落ち込めばドイツ経済の回復も遅れます。域内の資金循環をよくすることがEUの復興には不可欠です。

筆者はコロナ危機で経済のブロック化がさらに進むことを懸念します。EUは復興を優先させるため慎重に中国やロシアとの経済関係を促進していく可能性があります。一方、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアのアングロサクソン連合は中国との対決姿勢を鮮明にしています。

それでは日本はどうすれば良いのでしょう。貿易協定は安全保障の基盤をなします。経済規模で見た場合、EUと中国、ロシアを合わせると世界全体の36%。アングロサクソン連合と日本を加えると37%。どちらが成長力のあるインドを取り込むかがカギとなります。


中印国境紛争で中印関係が急激に悪化する中、インドは旧宗主国イギリスを通じてアングロサクソン連合に寄ってくる可能性は十分にあると思います。日本は日米同盟を軸に、環太平洋経済連携協定(TPP11)を通じてアングロサクソン連合との連携を深めていく必要があります。
【私の論評】経常収支や経済ブロック化などの言葉に踊らされるな!日本経済は他国と比較すれば健闘している(゚д゚)!
EUでは4~6月のGDPの落ち込みはなんと、四割減です。これは、EU始まって以来の、未曾有の落ち込みです。こんなときこそ、これまで封印してきた債務の共通化にメルケル首相も踏み出すのも当然です。そうしなければ、なんのために通貨統合までしているのか、存在意義を失うことになります。

日米の経済はどうなのでしょうか。日本マスコミなどでは、他国と比較することもなく、日本が危機的状況にあることを煽ってばかりいます。中でも、顕著なのは、経常収支の赤字などを見て、大変だと騒いでいます。全く情けないです。

財務省は8月11日、2020年上半期の国際収支統計の速報値を発表しました。日本と海外との物やサービスの取引、投資収益の状況を示す経常収支の黒字は、前年の同時期と比べ31.4%減少、7兆3069億円となりました。これは新型コロナウイルスの影響というような解説記事もありますが、実体はどうなのでしょうか。

これを理解するためには、まずは経常収支について理解する必要があります。マスコミの解説などでは、黒字が絶対に良くて、赤字は駄目とする傾向が強いです。しかし、このブログでも過去に述べてきたように、経常収支と経済は全く何の関係もありません。

経常収支は輸出入の差額です。世界の他の国々ではどうなっているかといえば、半分は黒字、半分は赤字というところです。経常収支が赤字と黒字ということと、経済成長率には、直接関係はありません。

輸出が減って輸入があまり変わらないと、現在の日本のような経常収支になります。輸出が減っているということは、世界経済が落ち込んでいることの反映です。輸入は海外の製品を買ったかどうかであり、国内の経済を反映しています。


輸入があまり減っていないということは、日本経済も落ちていますが、世界の他の国ほどは落ちていないという解釈ができます。黒字が減少したので大変と言うわけではなく、減少したのですが、輸入があまり減っていないので、日本は世界と比べて健闘しているという言い方ができると思います。

マスコミなどで騒がれているのとは、逆ということになります。このようなこともあるため、経済学では赤字、黒字という言い方はしません。「差額」と言います。

輸出超過か、輸入超過か、経常収支が赤字か黒字かということになれば、まるで家計のように考えて、黒字が良いとか、赤字は駄目という考え方に引きずられてしまいます。経常収支には、損得は関係ありません。収支という言葉をつかうので、あたかも利益のように感じてしまいますが利益とは関係ないので、このあたりは米国トランプ大統領あたりにもきっちり理解していただきたいものです。

実際不景気のどん底で喘いでいた2009年から2010年あたりには、経常収支も黒字で、貿易収支も黒字でした。あの頃は、日本国内の経済悪いから輸入が減って、海外の経済ははそこそこだったので、輸出額が伸びていたというだけのことです。ちょうど今と逆の状態であったということができます。

経常収支の内訳を見てみると、自動車などの部品の輸出はふるいませんでしたし、サービス収支もマイナスでした。

サービス収支は旅行客の増減と考えるとわかりやすいです。旅行客が減るとサービス収支が悪くなります。そのなかの減少を見ると旅行、国際経済が大変で、日本も大変ですが、様々な財政出動しているから海外に比較すると、そんなに悪くもないのです。

例えばGDPを見ると、4~6月のGDPは米国が32%減で3割減、ユーロ圏が4割減、日本は25%減くらいです。日本も悪いですが、相対的にみれば、他よりは良いのです。日本のGDPがEU並に落ち込んでいたとしたら、今頃とんでもないことになっていたはずです。特に30万円の所得制限つきの給付金を実行したり、このブログでも何度か掲載させていただいたように、日銀と政府の連合軍が創設されることなく、財務省主導で、経済対策を実施したりしていたら、目もあてられない状況になっていたかもしれません。

現状の日本は、輸入の落ち込みは大したことがなく、輸出の落ち込みがひどくなるので、経常収支の黒字が減ったように見えるだけなのです。先の財務省の発表は、赤字が増えて大変なようにみせかける単なる印象操作とみて良いでしょう。

EUでは経済の落ち込みがあまりに酷いので、過去には禁じ手であった債務の共通化をせざるを得ない状況に追い込まれたということです。日本は、EU-ほど経済の落ち込みは酷くなく、またEUのように複数の国々が集まって通貨統合をしているわけではありません。

EUが債務の共通化に走ったらかといって、経済のブロック化を懸念する必要はないでしょう。経済のブロック化といえば、一番起きそうなのは、中国、北朝鮮などの国々です。

中国は現在米国に経済冷戦を挑まれ、一部の共産党幹部は、米国内の資産を凍結されたりしています。この凍結は、中国が全体主義である共産党一党独裁体制を変えない限り継続され、それでも中国が体制を変えなければ、米国はさらに金融制裁を拡大していくでしょう。

行き着く先は、「ドル元」交換禁止や、中国の所有する米国債の無効化でしょう。これを実行されると、中国は米国は無論、世界中の国々と貿易ができなくなります。そうなると、中国はやむなく、元を基軸通貨とした、経済圏を作り出す可能性があります。

この経済圏には、中国、北朝鮮やもしかするとイランも入るかもしれませんが、ロシアは入らないでしょう。

中国は、人口の多い国なので、内需拡大策に真剣に取り組めば、GDPをある程度維持したり、拡大することも可能かもしれません。しかし、「ドル元交換」停止で、貿易ができなくなるので、当然のことながら、半導体や日本からは「工作機械」などが輸入できなくなるので、ハイテク製品は製造できなくなります。

そうなると、農林水産業やローテクの製品による経済ということになりますので、今後の発展性は限られることになります。

経済圏の内側に籠もり続けるか、一党独裁をやめて、体制を転換して、また米国はをはじめとする国々と貿易をはじめるかのいずれを選ばざるを得なくなります。

中国を中心とした経済圏が作られたにしても、かなり脆弱なものになるでしょうし、それ世界の国々は、自由貿易の良さを知ってしまったので、これを全く捨て去ることなどはできず、経済ブロック化で自由貿易を自ら制限することなど考えられません。

ただし、あまりにグローバル化が進んだので、最近その悪いところばかりが目立つようになったので、極端なグローバル化は忌み嫌われるようになりましたが、未だに主権国家を単位として考えなければならない世界は、ナショナリズムに復帰しつつも、自由貿易を公正なルールに基づいて実行していくことでしょう。

経済のブロック化をいたずらに心配するのではなく、自由貿易をさらに透明化、普遍化、自由化していくことがこれからの世界に求めらていることです。

それと、経済ブロック化などとは関係なく、日本は米英豪と連携強化すべきことは、当然のこととして、このブログでも過去に主張してきたことです。

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2020年8月11日火曜日

対中政策は「国際法の順守」をキャッチ・フレーズに―【私の論評】元々外交の劣等生だった中国は、外交を重視し国際法の歴史から学ぶべき(゚д゚)!

対中政策は「国際法の順守」をキャッチ・フレーズに

岡崎研究所

7月28日、米国務省にて、米豪二国間の外交・防衛担当閣僚協議(「2+2」)が開催された。米国からはポンぺオ国務長官とエスパー国防長官が、豪州からはペイン外相とレイノルズ国防相が参加した。


 これに先立ち、ジョン・リー(ハドソン研究所上級フェロー、元豪外相国家安全保障補佐官)は、7月27日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「豪州は中国をチェックする努力を倍加している。トランプは同盟国に協力を求め、豪州は勇気と決意を持ってそうしている」との論説を寄せ、対中関係での米豪協力強化を歓迎している。この論説は、米豪の「2+2」会合が終わる前に掲載されたものではあるが、豪州の考え方がよくわかる論説である。

 7月27-28日の米豪会合の結果として共同声明が発表されたが、中国の南シナ海の領有権主張は「国際法上無効」と改めて指摘し、中国の覇権的行動に対抗していく立場を打ち出した。また、2016年のハーグの仲裁裁判所の判断を支持することを表明し、香港での国家安全法の施行、ウイグル族の人権抑圧への「深刻な懸念」も表明した。

 ポンぺオ国務長官は終了後の記者会見で中国への対応に関して、日本、インドなどとも連携していくと述べたが、日本としても、南シナ海の9段線主張は全く受け入れられないことであるので、米豪と同じく、中国の南シナ海領有権主張は国際法上違法であり、無効と言う声明を出してもよいのではないかと思われる。

 今の米中の争いは、冷戦の定義にもよるが、冷戦と呼ぶにふさわしいと判断している。

 先の米ソ冷戦では、キャッチ・フレーズは「封じ込め」であった。「封じ込め」は時折誤解されているが、ソ連が共産主義体制を今そうでない国にも違法な手段を用いて確立し、拡大していくことを抑え込んでいくことを目的とする政策であって、当時ダレス長官などのいっていた「巻き返し」よりも穏健な政策であった。

 今後の対中政策について、どういうキャッチ・フレーズがいいか、よく考える必要があるが、「国際法の順守」をキャッチ・フレーズにしたらどうだろうか。一国二制度を50年間約束した英中共同声明のような条約の順守、南シナ海での根拠のない領有権主張の撤回などを中国に求め、それに応じない場合にはそれなりの不利益を与えていくということであろう。条約や国際法を順守しない国とは安定した関係など作りようもない。

 中国の政治体制そのものの変更は中国国内での諸事情の発展に委ねるしかないし、それを問題にしてもうまくいかないと思われる。

 また、覇権的行動は定義が難しいが、日中友好条約に覇権反対条項があるので、それをベースに中国側に申し入れをすることもありうるだろう。

 米中冷戦は日本にとってはそれほど悪い話ではないと思っている。東アジアで米中が結託して、米中共同支配になるのよりずっと良い。米中冷戦は米国にとっても中国にとっても日本の価値の上昇につながるだろう。いずれかを選ばざるを得なくなると言う人がいるが、そういう時には躊躇なく同盟国米国を選べばよい。日本の領土をとろうとしている国とそうはさせじとしている国のいずれをとるか、明らかで、議論の必要もない。

【私の論評】元々外交の劣等生だった中国は、外交を重視し国際法の歴史から学ぶべき(゚д゚)!

国際法という観点からみると、たしかに中国が次々と国際法違反をしています。南シナ海は誰の目からみても、明らかですが、中国が内政問題とするもののなかにも明らかな国際法違反があります。

香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではありません。香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題であす。

ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということです。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実です。さらに言えば、ウイグルはもともと外国であったものを中国が武力で併合したものです。

そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多いです。中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めないです。

国際関係においては、中国は自ら緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるというやり方を踏襲しています。これは、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術ですが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになりました。
やはり、中国はまずは国際法に目覚めるべきなのです。中国は国際法の歴史的背景から学び直すべきです。

そもそも、中国は国際関係を無視して、国内の都合で動くことはやめるべきです。そもそも、中国では外交が重視されていません。日本では、外務大臣とみなされている楊潔篪外交部長は、一政治局員であり、中共中央政治局委員(25名)の一政治局員であり、中共中央政治局常務委員会委員(7名。チャイナ・セブン)には含まれていません。

中共中央政治局常務委員会は、中国共産党の最高意思決定機関です。憲法に於いて「中国共産党が国家を領導する」と規定されている中華人民共和国の政治構造において、事実上国家の最高指導部でもあります。以下に、中共中央政治局常務委員会の現在の名簿を掲載します。


この名簿をご覧いただいてもおわかりになるように、主要役職の欄をみると、外交とか、国際等の言葉が見当たりません。これだけみると、まるで世界は中国一国で成り立っているかのようです。

日本で言えば、中共中央政治局常務委員会委員こそが、閣僚クラス(とするには明らかに人数が少なすぎるとは思うのですが、それはおいておき)といって良いと思うのですが、この常務委員会には、伝統的に外交の専門家は含まれていません。これをみても、明らかに中国では外交の位置付けが低いのです。

おそらく、一政治局では、複雑で幅も奥行きもかなり深い、外交問題にとてもまともに意思決定などできないでしょう。

だからこそ、中国の外交に関する意思決定は粗雑なものが多いのです。最近だとさすがに、言う人はいなくなりましたが、十数年前までは、単に粗雑な外交を「したたかな外交」などと、褒めそやす輩が左右・上下にかかわらず、存在しました。このブログでは、十数年前から、中国のことを「外交の劣等生」と評してきました。その見方は、今日正しかったということが示されたと思います。

中国は、まずは外交をもっと重視するように体制を整えていく必要があると思います。たとえば、中共中央政治局常務委員の中に外交を担当するものを加えるなどのことをすべきと思います。

それとともに、中国は国際法を、その歴史から振り返って学習し直すべきと思います。現在の国際法の基本は、ウエストファリア条約にまでさかのぼります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“帝国主義的覇権国家”の異常ぶり…中国とまともに付き合うのは限界だ! 日本は欧米諸国と安保・経済の連携を— 【私の論評】世界の中国の全体主義との戦いの終わりに、日本は新世界秩序の理念を提唱せよ!(◎_◎;)
ミュンスター条約(ウェストファリア条約)締結の図
ウエストファリァ体制とは、1648年のウェストファリア会議で成立した世界最初の近代的な国際条約とされている、三十年戦争の講和条約による体制です。66か国がこの条約に署名し、署名までに4年の歳月を費やしています。 
この体制によって、プロテスタントとローマ・カトリック教会が世俗的には対等の立場となり、カルヴァン派が公認され、政治的にはローマ・カトリック教会によって権威付けられた神聖ローマ帝国の各領邦に主権が認められたことで、中世以来の超領域的な存在としての神聖ローマ帝国の影響力は薄れたました。 
スイス、オランダの正式な帝国離脱が認められ、フランスはアルザス地方を獲得しました。 
現代の世界を見渡せば「ウェストファリア体制」がどれぐらい残っているでしょうか。 
主権国家の並立体制は、建前上は残っています。その意味でいえば、世界はいまだに「ウェストファリア体制」と言えます。 
「ウェストファリア体制」とは、煎じ詰めると以下の3点です。
一 心の中では何を考えてもよい 
二 人を殺してはならない 
三 お互いの存在を認めあおう
という三要素です。
そして、これらは最も確立された国際法であり、法則なので否定のしようがありません。 
この三要素が当然だという価値観を持った国はどれぐらいあるのでしょうか。日米、そのた西欧先進国は、全てこの価値観を持っている言って良いでしょう。

ところが中国もロシアも、そうして無論北朝鮮もこのような価値観は持っていません。習近平、プーチン、金正恩共通しているのは、自分が殺されなければ、やっていいと考えるところです。むしろ、すでにバンバンやっています。

どっちつかずなのが韓国です。無論、韓国では中国やロシアのように人を殺すことはありませんが、それにしても、歴代の元大統領の多くは、無残な死に方をしています。

日本としては、明治以来西欧的価値観を受け入れ、全体主義的に陥ったこともなく(大東亜戦争中の日本の体制をナチズムと似たような全体主義というのは歴史を真摯に学んだことのないものの妄想です)、どちらかといえば、米国の方に与し易いのは事実です。
 上の三要素のなかで、現在ではあまりに当たり前になりすぎていて、理解し難いのが「心の中では何を考えてもよい」だと思います。これは、当時ローマ・カトリック教会が人々の精神まで縛っていたことから脱却しようというものです。

これは、自由主義国の人々にはもう当たり前過ぎですが、中国では、今でも中国共産党が人々の精神を縛っています。

他の二要素「人を殺してはならない」「お互いの存在を認めあおう」というのも今日自由主義国では当たり前です。そもそも、この二要素がなければ、国際関係など成り立ちません。

このウェストファリア体制より以降、欧州では「国際法」という考え方が芽生え、その後様々な法体系がつくられ、今日に至っています。 ただ、この体制は、西欧諸国のものであり、他の文化圏には当てはまらないものとの暗黙の了解があり、その後西欧諸国は植民地を求め、帝国主義的な行動をとるようになりました。

日本はウイルソン米大統領が第一次大戦後のパリ講和条約で国際連盟設立を提案をしたとき、日本が提唱した人種差別撤廃条約に即座に反対し却下しました。

国際連盟設立委員会で「人種差別撤廃」を提案した牧野伸顕

しかし、第二次世界大戦後は、人種差別撤廃がなされました。これには、様々な理由がありますが、私自身は日本が戦争に負けつつも、人種差別撤廃も大義として戦いアジアの植民地諸国に独立の機運を盛り上げたこと、さらに植民地経営が植民地獲得競争の当初に思われいたほど、宗主国に利益をもたらさなかったことなどが原因だと思います。

このようなことを真摯に学んでいないからこそ、中国は「一帯一路」などで、覇権主義の道を歩もうとしていると思います。国際関係に疎いために、国際投資の常識も知らないようで、中国は投資効率の低い投資も盛んに行い、世界各地で大失敗しています。先進国がなぜ、中国のように海外に投資しないのか、その理由を知らないようです。

今日の事態を回避するためにも、中国は「国際法」とその歴史を学ぶべきと思います。そうして、西欧諸国や日本など、民主的な国家がなぜ現在も「国際法」を重視するのかを知るべきと思います。

中国が今後も現在のやりかたを改めず、外交を軽視し、国際法を無視して、現在の体制を維持し続けるなら、西欧諸国や日本のような民主的な国家は、中国と通商などできません。

そもそも、国際関係にも通商にも、一定のルールがあります。そのルールを守れば、国際関係も円滑にすすみますが、そうでなければ、中国が他国の利益を不当に貪るだけになります。

無論、中国にも国際法や通商ルールには不満なところもあるかもしれません。しかし、それは、それこそ日本が第一次世界大戦後にパリ講和条約で人種差別撤廃を提唱したように、国際社会においてどうどうと主張すべきと思います。今日の世界は、第一次世界大戦後とは異なり、中国が主張した内容を国際社会が吟味し、その言い分が正しいのであれば、それを受け入れる度量はあります。

しかし、そうした主張をして受け入れられるためにも、まずは外交を重視し、国際関係や通商で、国際法等を遵守する姿勢をみせる必要があります。実際に、西欧諸国でない国でも、そのようにして国際社会に受け入れられ、通商も継続している国は多いです。日本はその典型かもしれません。そうして、従来のように姿勢を見せるだけではなく、遵守すべきです。

ご近所付き合いにも、一定のルールがあります。これを守らなければ、まともにご近所付き合いもできないのは当然です。今のままでは、中国は民主主義体制の国家とは、別枠の経済圏をつくりその中で生きていくしかなくなります。

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2020年8月10日月曜日

【国家の流儀】中国の“人権侵害”に加担していいのか? 政府は日本企業に注意喚起を促すべき―【私の論評】中共幹部が、米国の「関与」に甘い期待を抱いているとすれば、それは完璧な間違い(゚д゚)!

【国家の流儀】中国の“人権侵害”に加担していいのか? 政府は日本企業に注意喚起を促すべき

習主席率いる中国人民解放軍は、新疆ウイグル自治区でも軍事訓練を続けている

 国際社会では、企業の社会的責任(CSR)が叫ばれるようになって久しい。企業は自らの社会的影響力を踏まえ、法令順守、消費者保護、環境の重視、人権擁護などに取り組むべきだ-という考え方だ。

 このCSRと中国の人権問題を結び付けているのが、ドナルド・トランプ米政権だ。

 トランプ政権は5月下旬、中国に対する総合戦略をまとめた報告書「中国に対する米国の戦略的アプローチ」において、中国の人権侵害についてこう厳しく批判している。

 ◇2017年以降、中国当局は100万人以上のウイグル人やその他の少数民族・宗教団体のメンバーを再教育収容所に収容した。

 ◇キリスト教徒、チベット仏教徒、イスラム教徒、法輪功のメンバーに対する宗教的迫害は、礼拝所の破壊や冒涜(ぼうとく)、平和的な信者の逮捕、強制的な信仰の放棄などを含めて広範囲に渡って行われている。

 トランプ政権のすごいところは、こうした批判が単なる口先だけで終わらないことだ。報告書はさらに続ける。

 ◇19年9月の国連総会において、米国とパートナー国は共同声明を発表し、中国において抑圧と迫害に直面しているウイグルを始めとするトルコ系イスラム教徒、チベット仏教徒、キリスト教徒、法輪功信奉者の権利を尊重するよう中国政府に呼びかけた。

 こうやって中国の人権侵害について国際社会に訴えるとともに、その人権侵害を阻止するために民間企業がなすべきことがあるとして、次のように指摘している。

 ◇米国は、新疆(ウイグル)の人権侵害に加担した中国政府機関や監視技術企業への米国の輸出を停止した。また、新疆で強制労働を用いて生産された中国製品の輸入を阻止する行動を開始している。
◇米国やその他の外国企業は、中国の軍民融合戦略のために、知らず知らずのうちに中国の軍事研究開発に自らの技術を提供しており、国内の反対勢力を弾圧し、米国の同盟国などを脅迫する中国の強圧的な能力を強化している。

 日本を含む自由主義陣営の民間企業の皆さん、中国による人権弾圧に加担したくないのであるならば、人権弾圧に加担している中国企業への輸出の停止、製品輸入の中止、技術提携の中止に踏み切るべきではないか、とトランプ政権は訴えているのだ。

 米国政府がこうした報告書を出すと、CSRを重視する米国では当然、株主やマスコミから「御社は、中国の人権侵害に関与する企業と取引はありますか。あったとするならば今後はどうしますか」と追及されることになる。その矛先は当然、日本企業にも向けられることになる。

 日本政府も、自由と人権を尊重するつもりがあるのならば、首相・官房長官の名前で、日本企業に対してはっきりと注意喚起を促すべきだ。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。自著・共著に『危うい国・日本』(ワック)、『インテリジェンスと保守自由主義-新型コロナに見る日本の動向』(青林堂)など多数。

【私の論評】中共幹部が、米国の「関与」に甘い期待を抱いているとすれば、それは完璧な間違い(゚д゚)!

日本政府もこのことをまず理解すべきです。

5月20日に発表された「中国に対する戦略的アプローチ報告書(以下、報告)」中の中国の脅威と米国の対抗策の部分の概要を以下に示します。

3つの挑戦と4つの対抗戦略

「報告」では,中国が経済,価値,安全保障の3分野で米国に挑戦し脅威となっていると述べています。

①経済
技術移転強制、米企業へのサイバー攻撃など略奪的経済慣行、模倣品による合法的なビジネスの数千億ドルの被害、一帯一路による不透明な融資と受入国の財政悪化などを指摘しています。
②価値
一党独裁制、国家主導経済、個人の権利を抑圧する中国のシステムが西側先進国のシステムに勝ると主張し,米国の価値への挑戦を中国はグローバル規模で行っていると分析している。③安全保障では,東シナ海,南シナ海,台湾海峡などでの中国の行動,軍事民間融合による最新技術を開発し獲得している民間組織への自由なアクセスなどを批判している。
中国の挑戦に対して米国は,2017年国家安全保障戦略の4つの柱で対応しています。す

①米国の国民、国土と生活様式を守る
経済スパイの摘発、外国投資リスク審査現代化法の強化、輸出管理規制の強化
②米国の繁栄の推進
強制的技術移転と知的財産侵害に対する制裁関税、第1段階の経済貿易協定合意で中国が2000億ドルの米国産品を今後2年間で輸入することなどがあげられています
③力を通じての平和の維持
三元戦略核戦力の現代化を進めること、航行の自由作戦、台湾への100億ドルを超える武器売却,
④米国の影響力の向上
宗教的自由を進める閣僚会議の開催、国際宗教自由連盟の発足、香港の高度の自治、法の支配、民主的自由の維持の要求などがあげられています。
これだけ読むと「報告」は中国を批判し、対決策を提示する文書と思われますが、「報告」の意義は米中関係を「大国間競争」と位置づけ、「長期的戦略的競争」にあると認識したことです。

中国を自由でルールに基づく国際秩序に受け入れ、自国市場を開放し企業を進出させ中国の発展を支援すれば、中国は民主化し自国市場を開放しルールを守る国になるだろうという「関与」アプローチは失敗したという過去40年の対中政策の総括に基づいた戦略の転換です。

ピルズベリーのChina 2049』(日経BP社、327頁)の言葉を借りれば、中国を生活保護受給者ではなく競争相手であると認めたのです。



大国間競争という世界認識は、2017年国家安全保障戦略(NSS)に基づきます。NSSは、「競争する世界」というタイトルで中国とロシアが米国のパワー、影響、国益に挑戦しており,自由で公正な経済に反対し、情報を管理し、社会を抑圧し、自国の影響を強めようとしていると分析しています。

競争相手を国際制度とグローバルな貿易に包含すれば、善意の信頼できるパートナーになるという前提は誤っており、そうした前提に基づく政策は再考しなければならないと論じています。

留意する必要があるのは、競争は対決や敵視だけではないことです。「報告」では、競争アプローチは対立あるいは紛争を導くものではないとし、中国の発展の封じ込めを求めないと述べています。

関与と協力も強調されている。競争は中国への関与を含み,米国の関与は選択的,結果志向であり,両国の国益を前進させると説明しています。中国への関与については、2019年10月にペンス副大統領がウイルソンセンターで「中国への建設的な関与を望んでいる」と演説しており、一貫しています。

2019年10月にウイルソンセンターで演説するペンス副大統領

従来型の関与とは当然内容は異なってきており、競争的関与あるいは競争と関与の両面政策というべきものです。意思疎通と協力も重視されており、危機を管理し、紛争へのエスカレーションの防止とともに利益が共有できる分野での協力を進めると述べています。

米国の対中戦略は対立強化と敵視という一面的な見方でなく、関与も求めているという複眼的な見方が必要です。

この「報告」の詳細については、ぜひ下のリンクから原点にあたってください。


米国の国務省も年次の「国別人権報告書」が出されていて、言論の自由、信教の自由など人権に関して多くの報告がなされています。

2018年版は、昨年3月13日に公表されており、マイク・ポンペオ国務長官は人権状況が悪化しているとして、中国、イラン、南スーダン、ニカラグアを名指しして批判した。特に中国については「人権侵害はケタ外れ」と指摘しました。

新疆ウイグル自治区では100万人以上のウイグル人が強制収容され、虐待や拷問によって「中国化への再教育」が進められているといいます。一方、中国政府の新疆ウイグル自治区をめぐる「白書」によると、ウイグル族が不当に拘束されているという外国からの指摘に対して、テロを予防するための職業訓練が目的だ、として事実上拘束を正当化しています。

香港も含め、中国では反政府的とされるジャーナリスト、弁護士、ブロガー、請願デモをした人たちに対して、超法規的な殺害、拉致、厳しい環境下への拘束、拷問が行われています。ネットの検閲やブロッキング、集会、結社の自由の侵害など枚挙にいとまがないです。

現在、中国の決済は顔認証になっていますが、そのデータは共産党政権に渡さなくてはならず、集会を開いた場合、誰がいるかということが瞬時にわかってしまいます。

また、「信教の自由」もありません。共産党という宗教を信じなさい、と言っているだけです。さらに「三権分立」も機能していません。捜査、逮捕、判決まで全部、共産党政権がコントロールしています。それが中国の現実です。

このような中国から、輸入をするということは、ブラック企業から商品を購入しているのとかわりありません。ブラック企業に関しては、景気を良くすれば、特に雇用をかなり良くすれば、誰もブラック企業に務めなくなり、勤めている人も、良い条件の企業に転職しますので、いずれ消えます。

中国ブラック企業のペナティー。湖の周辺を四つん這いで、一周させるというもの

しかし、国はそういうわけにはいきません。政府の体制が全体主義的であれば、一部の特殊な人を除いて、多くの国民は、一生国内で迫害を受け続けなければならないどころか、子孫もそのような目にあうことになるのです。

現在の中国の体制は変えなければなりません。特に中国共産党は、崩壊してもらなわなればなりません。上の「報告書」には"競争的関与あるいは競争と関与の両面政策"についても記載されていますが、ここでいう「関与」とは、中国共産党が崩壊したあとの新しい体制の中国に「関与」することを言っているのであり、現中国共産党に関与するという意味ではありません。

実際、「報告書」では、中国を(ここでは暗に、中国共産党のことと解釈すべき)自由でルールに基づく国際秩序に受け入れ、自国市場を開放し企業を進出させ中国の発展を支援すれば、中国は民主化し自国市場を開放しルールを守る国になるだろうという「関与」アプローチは失敗したと述べています。

2019年10月にペンス副大統領がウイルソンセンターで「中国への建設的な関与を望んでいる」と演説していますが、これも当然のことながら、中国というよりは、中共が崩壊した後の新体制の中国であると解釈すべきです。

中共に懲りた米国は、二度と中共に関与する政策はとらないでしょう。新しい体制ができあがっても、その体制が本質的に人が入れ替わっただけで、現体制と変わらなかったり、あるい一見変わったようにみえても、全体主義を目指すものであった場合も、関与しないでしょう。

これは様々な報告書や、トランプ政権の要人たち、米国議会、米国司法関係者などの発言や行動から明らかです。

中共の幹部たちや習近平が、米国の「関与」に甘い期待を抱いているとすれば、それは完璧な間違いです。たとえば、仮に大統領がバイデンになったとしても、これは変わりません。米国は、中国共産党が崩壊するまで、制裁を継続するでしょう。

日本政府もこのことをまず理解すべきです。

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