岡崎研究所
政権発足前には、米国民の新型コロナウイルス感染への対応、米経済活動の再開と雇用の創出、国民の分断と対立の解消など国内政策に集中すると思われたが、予想以上に外交に注力している。トランプ前大統領の4年間で混乱し脆弱化した、リベラルな国際秩序を重視する国々には好感すべき滑り出しだ。
ワシントン・ポスト紙に寄せられた論説では、日米豪印の首脳が連名でインド太平洋地域にクワッドとして取り組む宣言を行った。クワッドによる 1)民主主義的価値を基盤とした協働、2)新型コロナウイルスと気候変動への取り組み、3)インド太平洋地域の平和と繁栄の促進、4)東南アジア諸国、太平洋島嶼国、インド洋地域との連携が柱である。
米国がクワッドを主導して、これまで概念的だった「自由で開かれたインド太平洋構想」に、具体的に四カ国が共有する行動指針を国際社会に示した意義は大きい。さらに、年内にはオンライン形式ではなく、実際に首脳が集ってクワッド首脳会合を目指すとしており、喫緊の課題に迅速に対応するという決意も伝わってくる。
ワシントン・ポスト紙の論説は、スマトラ沖地震、新型コロナウイルス感染、気候変動など、インド太平洋全域に共通の危機への対応をクワッドの出発点、そして存在意義として打ち出している。共通の危機に対する含意の背景には中国の国内外における行動への強い警戒感があるが、中国を名指しすることはせず、中国も協力しやすい人道援助や災害救済を柱として書いている。中国と米国のどちらかを選択することを回避したい地域諸国、中でも東南アジア諸国への配慮が示されているのだろう。バイデン政権ではキャンベル・インド太平洋調整官が論説の作成に関与していると言われるが、北東アジア政策に加えて東南アジア政策も意識してきた人物であり、クワッドの鍵を握る存在なのだろう。
ただ、政策の構築と遂行は全く別である。クワッドはインド太平洋全域の平和と繁栄のために協働することを宣言したが、「悪魔は細部に宿る」の通りで、新型コロナウイルスのワクチンで成果を出せるか、中国に対して東南アジア諸国も抱き込みながら対応できるかが、四カ国首脳に問われている。日本には、菅首相の4月の訪米でバイデン大統領と共に「インド太平洋構想」の強いメッセージを打ち出すことが期待されている。日米同盟を基軸に、この地域に具体的にどのような貢献ができるのか、域内諸国も注視する日米首脳会談となろう。
QUADは12日(現地時間)、初の首脳会議をオンラインで行った。 シドニーから 参加するオーストラリアのスコット・モリソン首相(左)。 |
この地域の平和と安定を維持する上で依然として最も重要なのは、抑止力と対処力を兼ね備えた日米同盟です。バイデン政権はこうした考えを明らかにするため、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官の初の外遊先として東京を選びました。
日米2+2での最大の注目点は、中国を名指しして批判したことです。前回2+2では「地政学的競争及び威圧的試み」といった表現が用いられました。これはもちろん中国を念頭に置いてのことですが、中国に対する姿勢を硬化させていたトランプ政権下での開催だったにもかかわらず、中国の名指しは回避されました。今回の言及で、バイデン政権の中国に対する強い危機感が反映された格好です。
日米豪印サミット、米韓2+2では中国への直接の言及が避けられたことから、対中脅威認識を日本が米国と高度に共有していることが示されました。尖閣諸島での領海侵入や海警法制定をはじめ、政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を引き起こしているのは中国であり、日本は自らの戦略上の判断として名指しでの中国批判に踏み切ったのです。
加えて台湾海峡の平和と安定の重要性が盛り込まれました。これは、6年以内の台湾侵攻の可能性という、インド太平洋軍のデービッドソン司令官による連邦議会上院軍事委員会での証言と軌を一にしているといえます。
インド太平洋軍のデービッドソン司令官 |
そうして日本の報道などでは見落とされがちですが、重要な意味を帯びたのがオースティン国防長官のインド訪問でした。インドは日、豪、韓国とは異なり、米国の条約上の同盟国ではありません。
インド太平洋の重要な同盟国及びパートナーとの連携を深化させた上で、バイデン政権が臨んだのが中国との協議でした。この協議が行われたアラスカ州アンカレッジで、ブリンケン長官にサリヴァン大統領補佐官が合流したのですが、米中会談の幕開けは大荒れでした。
会議中に楊潔篪中国共産党政治局委員がふるった長広舌は異常だったと言わざるを得ないです。そしてアラスカから帰国した王毅外交部長は、広西桂林でラブロフ外相を迎え、中露の結束と米国への対抗を鮮明にしました。
一連の外交日程は、菅義偉総理のアメリカ訪問で山場を迎えることになります。菅総理はバイデン大統領と対面で会談する最初の外国首脳となり、日米同盟の重要性が改めて示されることとなるでしょう。
大いに議論を深めるべきは、日米同盟の将来像についてです。それは駐留経費負担といった同盟管理の文脈を越え、中国の脅威を見据えながらインド太平洋及び世界全体を視野に入れたものでなければならないです。
一方でプレスの前での緊迫した応酬にもかかわらず、バイデン政権は気候変動での米中協力を引き続き模索しています。もそも、中国では温暖化などの前に、人権が侵害されているのは明らかであり、人権侵害をしたまま、温暖化に取りくんだとしても、無意味です。
毒リンゴを食べたら死んでしまいます。同じように“毒薬条項”とは、その条項を発動すれば、契約そのものをご破算にすることが出来るというものです。主に企業の敵対的な買収を防ぐための対抗策などにも使われてきた言葉です。
米国は、NAFTA=北米自由貿易協定の見直しを求めて交渉した結果、2018年10月までにメキシコやカナダと新たな合意を結びました。米国通商代表部が公表したその条文案の中に、以下のような文言が盛り込まれていました。
そうした厳しい事態に追い込まれないためにも、“悪魔は細部に宿る”そう地米国の格言に言うとおり、その後の日米交渉には、細心の注意が必要となるといわれていました。
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