2021年3月17日水曜日

台湾TSMCを繋ぎ留めようと必死の米国―【私の論評】半導体の世界では、中国に対する反撃が日米台の連携によって進みつつある(゚д゚)!

台湾TSMCを繋ぎ留めようと必死の米国

岡崎研究所

 2月24日、バイデン大統領は重要部材のサプライチェーンの見直しを命ずる大統領令に署名した。100日以内に半導体、大容量バッテリー、医薬品、レアアースの重点4品目についての見直しを求めている。この作業は中国を標的にしたものでないと説明されているが、過度な中国依存を脱却し、緊急時にも耐え得る強靭なサプライチェーンを構築し、安全保障上の懸念を払拭することを目指していることは明らかである。その手法としては国内生産の増強、戦略備蓄、緊急時の生産拡大余剰能力の確保、同盟諸国との協力の組み合わせが考えられているようである。半導体について言えば、台湾や日本、韓国との連携が当然視野に入って来るであろう。



 これに関連して、2月26日の英フィナンシャル・タイムズ紙では、同紙イノベーション担当エディターのジョン・ソーンヒルが、台湾の半導体受託生産企業(ファウンダリー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.:台湾積体電路製造)の躍進振りを描写した上で、TSMCが米国か中国かを選択することを余儀なくされつつあると述べている。

 TSMCの半導体は、アップルのiPhone、医療器具、F-35戦闘機を動かし、世界の半導体売上高の55%を占めている。その先端技術は、他企業が追随することを今のところ許さない状況だ。

 この驚異的な企業であるTSMCをはじめとする半導体製造企業が民主主義の台湾で発展したことは祝福すべきことであり、米国はじめ西側諸国はこれを資産として守るという姿勢が必要である。フィナンシャル・タイムズ紙の論説はTSMCにとっての懸念は米国と中国の間の地政学的な緊張であるが、この両者の間でのTSMCのマヌーバーの余地は小さくなって来ていると書いている。実体的にどういうことがあるのか必ずしも分からないが、西側諸国がTSMCを失うことがあってはならない。最先端半導体の供給源を失うことは壊滅的影響を持ち得る。

 TSMCの問題もその関連で検討されねばならない。TSMCはトランプ政権の圧力もあって既にアリゾナ州に進出することを決定し、現在、工場建設を進めているが、TSMCを繋ぎ止めるためには、それがビジネスの観点から見ても合理的であるように工夫される必要があるのであろう。更には、TSMCという一企業にとどまらず、台湾全体を安定したサプライチェーンに組み込むとの観点に立ってTPPに米国が台湾とともに参加する可能性が探求されるべきではないかと思われる。

 日本との関連でいえば、TSMCは、茨城県つくば市に、日本企業と提携して研究開発の拠点を設立することを決めている。米国アリゾナ州の工場建設も考えると、今後、日台米の連携が、この地政学上の優位を決め得る半導体分野で行われることが予想される。

現代社会において「半導体」は必要不可欠な存在だ。日本は半導体市場におけるシェアは大きく落としてしまったが、半導体の製造に必要な機械や材料の分野では日本企業が今なお大きな影響力を持っている。

中国メディアの電子発焼友はこのほど、半導体製造装置や材料のうち「重要なものになればなるほど、米国や日本企業の独占状態にある」と論じる記事を掲載した。

現在、激化している米中摩擦において半導体や半導体の製造装置が大きな焦点となっている。記事は、中国の華為技術(ファーウェイ)は半導体メーカーに対して、米国企業の製造装置を使わない生産ラインを構築するよう要請したと伝えつつ、中国企業は米中摩擦によって半導体が入手できなくなったり、生産できなくなったりする事態が生じることを強く警戒していることを指摘した。

【私の論評】半導体の世界では、中国に対する反撃が日米台の連携によって進みつつある(゚д゚)!

半導体製造では分業化が進んできました。それに遅れたのが日本でした。半導体の設計ツールは米国勢、ファブレス企業(工場を持たない会社)は米国を中心に誕生し成長してきました。その流れは日本で拒否され、台湾、最近では中国へと流れていきましたが、日本ではファブレス企業は成長できませんでした。


日本の半導体企業は、設計から製造まで一貫して行うIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合のデバイスメーカー)にこだわり続け、ファブレスもファウンドリ(実際に半導体チップを生産する工場)もそれらのビジネスの本質を理解できないまま、衰退していきました。


今日残った売上額5,000億円以上の大手半導体メーカーは、東芝から独立したキオクシアとソニーセミコンダクタソリューションズ、そしてルネサスエレクトロニクスだけとなりました。この内キオクシアとソニーはそれぞれメモリとCMOSイメージセンサという大量生産品で昔ながらの大量生産工場を持つ会社です。需要が続く限り、大量生産品は成長できるが、需要が落ち込み始めると危うくなります。

日本が今でも得意な分野は、半導体を製造するための装置と材料です。最近では、フッカ水素が、有名になりましたが、これは他国でも製造できるものの日本以外のものを使うと、製造はできますか、歩留まり率がかなり低くなってしまいます。


日本では半導体を製造するメーカーが弱くなったために、その製造を支援する製造装置メーカーは海外企業に向けて出荷を続けています。売上額の海外比率は極めて高いです。半導体テスターのアドバンテスト社(旧タケダ理研工業)は、海外比率が95%くらいに達しています。半導体製造は今や、米国と台湾、韓国が大きな市場となっています。

またウェーハ完成後、チップに切り出してからパッケージングするまでの後工程では、OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)と呼ばれるパッケージ専門の請負業者がいます。ここでは、ウェーハからチップを切り出し、それをリードフレームと呼ばれるメタルの基板にチップを載せ、チップ上のパッドと呼ばれる電極部分とリードフレーム上の各配線端子との間をボンディングワイヤーでつぎます。最後に樹脂で固めて封止します。最後にICが正常に動作するかどうかのテストを行います。

後工程での製造装置も日本が得意です。ディスコ社はウェーハからチップを切り出すダイシング装置に強いです。新川、カイジョー(旧海上電気)など比較的中小のメーカーが多いです。プリント回路の実装に強かったヤマハ発動機がボンディング装置やマウンティング装置の新川と、モールディング装置のアピックヤマダを買収しました。産業再編も活発になっています。


世界の半導体製造装置市場において、半導体の生産に必要な製造装置と材料の分野においては日本企業が大きなシェアを獲得しています。半導体設計に関しては、米国が大きなシェアを獲得しており、日本企業の製造装置と材料を使わずに半導体を生産するのも非常に難しいです。台湾のTSMCも日米なしには、半導体を製造できません。

現在の半導体産業では結局日米企業が要所を押さえている状況にあり、中国の半導体製造装置・素材メーカー、ファブレス企業も発展しつつありますが、日米の企業と比べるとまだ大きな差があるのが現状です。米中摩擦がさらに激化すれば、半導体の材料や製造装置を舞台に激しい駆け引きが繰り広げられるであろうことになるでしょう。

そのときに、日米側にTSMCがついているということは、非常に重要なことです。半導体製造装置や材料のうち「重要なものになればなるほど、米国や日本企業の独占状態にある」ことから、TSMCも当然のことながら、日米を選ぶのが合理的な判断です。

この日米台の背景には、言うまでもなく、トランプ政権でのファーウェイ排除の動きがあります。トランプ政権がファーウェイを世界市場から締め出す動きを加速させてきたことは周知の事実です。

CPACで演説するトランプ氏

2020年5月15日、米国政府は、ファーウェイが設計した半導体の製造をファウンドリー(半導体を受注製造する企業)が受託した場合、米国の技術やソフトウェアを使用する際には、米国商務省の許可を義務づけました。

つまり、米国原産技術やソフトウェアを使って半導体をつくることを禁止したわけです。これにより、世界最大のファウンドリーである台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は、ファーウェイ向けの半導体製造が不可能になりました。

TSMCの主要顧客には、アップルやクアルコム、エヌビディアといった世界的な企業が名を連ねています。TSMC時価総額は約39兆円で、同20兆円であるトヨタの2倍の規模を誇り、半導体業界では世界1位です。半導体の世界では、TSMCなしにグローバル・サプライチェーンはつくれない状況になっているのです。

そして、このTSMCの上客だったのがファーウェイです。ファーウェイはTSMCに自社開発の半導体チップの生産を委託してきました。米国政府の決定は、事実上、これを禁止するものでした。


今後日米台による半導体による、経済安全保障体制を強化していくことは、中国に対する大きな牽制となります。

今後、世界の半導体サプライチェーンは大きく変化する可能性があります。一つのシナリオは、日・米・台を軸に、世界の半導体供給網が再整備される展開です。 

先にもあげたように半導体の設計・開発と生産の分離が進む中、米国は、最先端の製造技術や設計・開発に関するソフトウエア(知的財産)の強化に取り組むでしょう。米国が中国の人権弾圧にIT先端技術が使われていることを問題視し、半導体製造技術などの流出を食い止めるために制裁を強化する可能性もあります。 

台湾では、TSMCが微細化や後工程への取り組みを強化している。 また、わが国は旧世代の生産ラインを用いた半導体の供給や、高付加価値の関連部材、製造装置などの供給者としての役割を発揮しつつあります。 

それは半導体産業を強化したいEUにとっても重要です。車載半導体を手掛ける欧州の半導体企業は、生産をTSMCなどに委託しています。最先端の半導体生産に用いられる極紫外線(EUV)露光装置に関して、唯一の供給者であるオランダのASMLは米国の知的財産などに頼っています。 

半導体業界における日米台の連携は、EU各国企業にも大きく影響します。国際社会と世界経済の安定に、半導体サプライチェーンが与える影響は増すでしょう。 

日米台の連携は様々な分野で進んでいる

このように考えたとき、韓国政府とサムスン電子などの企業が、半導体業界の変化にどう対応するかが不透明です。 

TSMCは2021年内に回路線幅3ナノメートルの半導体の生産を開始すると、見込まれています。ファウンドリー分野でTSMCとサムスン電子とのシェアや技術面での格差は、今後拡大していく可能性が高いです。 

他方で、メモリ半導体や家電などの分野において、韓国の企業は、中国企業に追い上げられています。文政権の政策は、国際社会における韓国の立場と、韓国企業の変化への対応力にマイナスの影響を与える恐れがあります。

半導体の世界では、中国に対する反撃が日米台の連携によって進みつつあります。欧米のテクノロジーの盗窃により急進してきたのが中国の半導体です。それを断ち切ろうというのがトランプ政権の対中政策でした。

半導体を制する者が、次のテクノロジーを制し、それは経済、軍事における覇権を握ることになります。トランプ政権は終わりましたが、日米台の連携は始まったばかりです。これが今後の中国覇権とアジアの行方を左右する要素になると思われます。

これは、時がたつにつれて、ボディーブローのように中国に効いていくものと、思われます。1976年9月6函館に旧ソ連のミグ25が緊急着陸してベレンコ中尉が米国に亡命しました。そのときに、技術者がソ連の当時の最新鋭機ミグ25を調査して驚いたことがあります。

なんと、電子部品の一部に真空管が使われていたというのです。当時は、半導体はあまり用いられてはいませんでしたが、トランジスターは用いられていました。現在の中国も当時のソ連のようになりかねません。最新型の半導体を使えないことは、当時よりも現在のほうが圧倒的に不利です。


それを阻止するために、中国は台湾を奪取して、TSMCを傘下に収めようとするかもしれまません。しかし、それを実行したとすれば、習近平は愚かです。なぜなら、日米あってのTSMCなのですから、日米から分離したTSMCは、現在までの最新型の半導体は、部品・材料の備蓄の範囲内では製造できるでしょうが、その後はできなくなります。

無論、日米は中国が台湾を奪取することを許すべきではありません。そうして、それは日米が協同すれば、このブログにも過去に述べてきたように、十分に可能です。

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