まとめ
- ドイツ軍の駐留開始:バルト3国のリトアニアで、ドイツ軍約5千人規模の常駐部隊の配備が始まり、これは第2次大戦後初のドイツの国外常駐。メルツ首相はNATOの防衛強化への責任を強調し、リトアニアの受け入れに謝意を表明。
- 背景と戦略的意義:ウクライナ侵攻やトランプ米政権の欧州安保への消極姿勢を受け、NATOは東部防衛を強化。リトアニアはロシアの飛び地カリーニングラードやベラルーシに隣接し、欧州安保における戦略的要衝として重要。
ウクライナ侵攻やトランプ米政権の欧州安保への消極姿勢を受け、欧州の安全保障と自国の防衛力強化を最優先に掲げる。リトアニアはロシアの飛び地カリーニングラードや同盟国ベラルーシに隣接し、戦略的に重要な位置にある。
【私の論評】ドイツの覚醒と日本の半覚醒:ロシアの誤算が変えた欧州とアジアの未来
まとめ
- ドイツの覚醒:ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)でシュルツ政権が「時代の転換点」を宣言。国防費をGDP2%超(560億ユーロ)に増額し、リトアニアに4800人規模のドイツ軍を常駐(2023年12月合意、2025年開始)。
- メルツの加速:メルツ政権はリトアニア駐留、タウルスミサイル供与検討(2025年2月)、EU・NATOリーダーシップ強化、AfD支持の移民法案(2025年1月)、対中「デリスキング」で戦略大国化を推進。
- ロシアの失敗:ウクライナ侵攻はドイツのエネルギー依存(2021年ロシア産ガス55%)を打破。2023年ガス輸入ゼロ、NATO・EU結束を強化し、プーチンの誤算でドイツを「欧州の牽引者」に変えた。
- 日本の半覚醒:2022年安保3文書改定で防衛費GDP2%(2027年11兆円)目指すも、憲法9条や世論(2024年増税反対56%)で遅延。中国・北朝鮮の脅威への対応は米国依存に偏る。
- 日本の課題:広島G7(2023年)でのウクライナ支援や日韓関係改善(2023年3月)は進むが、中国依存(2023年輸出19.7%)脱却は遅い。ドイツに倣い、憲法改正、自主防衛力強化で覚醒が必要。
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1939年のドイツ国防軍の勝利パレードの際に撮影された写真。 |
第二次世界大戦後、ナチス・ドイツの侵略責任から軍事行動を厳しく制限されてきたドイツ。基本法第87a条は軍の使用を防衛目的に限定し、議会承認を義務づけた。海外派兵は1999年のコソボや2001年のアフガニスタンでのNATO・国連の平和維持活動など、例外に限られた(SIPRIデータ)。この慎重姿勢は、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)で一変。シュルツ政権の「時代の転換点(Zeitenwende)」演説(2022年2月27日)は、国防費をGDP2%超(2022年560億ユーロ)に増額し、リトアニアへのドイツ軍常駐を決定。過去の欧州なら反対の声が上がっただろうが、今は誰も異を唱えない。プーチンの侵略が、ドイツを「眠れる巨人」から覚醒させたのだ。
2023年12月18日、ドイツとリトアニアの国防相は、4800人規模のドイツ軍常駐部隊をリトアニアに配備する合意に署名。2025~26年に大半が到着し、2027年に戦闘態勢が整う。NATO加盟国である両国は、ロシアの脅威に対抗し、東部国境の防衛を強化。既存のNATO多国籍部隊(約1000人)も統合される。リトアニアはGDPの0.3%を投じて、ドイツ軍のための住宅や訓練場を整備。この駐留は、ドイツの戦後初の恒久的海外派兵であり、歴史の転換点である。
メルツ政権の加速とプーチンの誤算
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メルツ首相 |
メルツ政権は、シュルツの「時代の転換点」を引き継ぎ、覚醒を加速させた。リトアニア駐留やタウルスミサイルのウクライナ供与検討(2025年2月キエフ訪問)は、ドイツの安全保障の新時代を示す。外交ではEUとNATOでのリーダーシップを強化し、フランスやポーランドとの協力を深化。移民問題では、2025年1月の厳格な法案(国境での即時送還)を保守派AfDの支持を得て可決し、国民の不安に応えた。経済では減税と対中「デリスキング」で競争力を取り戻す。メルツの改革は、メルケルやシュルツの消極姿勢を打ち破る。だが、AfDとの協力や債務ブレーキ改正(2025年3月提案)によるインフレ懸念は課題だ。トランプ政権の孤立主義やエネルギー危機も、ドイツの覚醒を試す。
ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツをエネルギー依存(2021年ロシア産ガス55%)と「平和ボケ」から目覚めさせた。2023年、ロシア産ガス輸入をゼロにし、NATOとEUの結束を高めた。ドイツは消極的な経済大国から、軍事・外交・経済で積極的な戦略大国へ変貌。リトアニア駐留やウクライナ支援は、ロシアの地政学的影響力を抑え、ドイツを「欧州の牽引者」に押し上げた。プーチンの最大の誤算は、ドイツの覚醒を呼び起こしたことである。この覚醒は、欧州安保の新時代を切り開く。
日本の半覚醒と必要な変革
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日本の海上自衛隊 |
一方、日本は「半覚醒」にとどまる。2022年12月の安保3文書改定で、防衛費を2027年までにGDP2%(11兆円)に増額し、反撃能力を決定。だが、憲法9条や世論の反対(2024年増税反対56%、NHK調査)で改革は遅い。中国の台湾海峡軍事演習(2023年4月常態化)や北朝鮮のミサイル発射(2023年30回以上、国連報告)はロシア並みの脅威だが、日本は米国依存が強く、ドイツのような地域リーダーシップは不十分。エネルギー輸入依存度88%(2022年、経産省)や中国への輸出依存(2023年19.7%、JETRO)も、ドイツのロシア依存脱却(2023年ゼロ)に比べ遅れる。
2023年5月の広島G7で、岸田首相はウクライナ支援(76億ドル)を表明したが、ドイツのタウルス供与検討に比べ軍事支援は控えめ。日韓関係改善(2023年3月)は進めるが、中国や北朝鮮への対応は日米中心。2024年10月の日中首脳会談は、軍事圧力への対抗より経済協力を優先。日本の外国人労働者200万人(2023年、厚労省)は増加するが、ドイツの移民法案のような大胆な対応はない。2022年8月の中国の台湾海峡演習は危機感を高めたが、防衛費増額は計画段階にとどまる。
ドイツのメルツ政権は、国民支持(2025年選挙CDU28.6%)と危機感で覚醒を加速。リトアニア駐留やエネルギー自立は、戦後ドイツの軍事抑制を覆した。日本は、ドイツに倣い、憲法改正、自主防衛力の強化、脱中国依存を急ぐべきだ。中国と北朝鮮の脅威は待ったなし。ドイツ並みの覚醒で、アジアの戦略大国として地域の安定を担う必要がある。この覚醒は、国民の危機意識と国際的期待に支えられ、決して後戻りしない変革となろう。
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