2025年4月2日水曜日

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使

まとめ
  • ロシアと米国がレアアース鉱床開発などの共同プロジェクト協議を開始し、ドミトリエフ特使が協力の重要性を強調、複数企業が関心を示している。
  • プーチン大統領が将来的な経済協力協定での米国参加の可能性に言及し、次回協議が4月中旬にサウジアラビアで予定されている。

ドミトリエフ特使

ロシアと米国は、ロシアのレアアース鉱床開発などの共同プロジェクトについて協議を開始した。ロシアのドミトリエフ特使は、レアアースが協力の重要分野であると述べ、すでに複数の企業が関心を示していると明かした。プーチン大統領は、将来の経済協力協定で米国が参加する可能性に言及。次回の米ロ協議は4月中旬にサウジアラビアで開催される可能性があり、そこでさらに議論が進むと見られている。

【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

まとめ
  • キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁で、プーチンの側近だ。米国での教育と金融経験を武器に、トランプの「ディール外交」に食い込み、米ロ経済協力を進める。
  • プーチンとの絆は強く、2016-2017年の「ロシアゲート」や2025年のウクライナ停戦交渉で暗躍。レアアースや北極圏エネルギー事業で米国企業を引き込む。
  • 2025年2月のリヤド会談で「3240億ドルの損失回復」を提案し、トランプ側を動かす。3月にはイーロン・マスクとの宇宙協力や制裁解除を視野に交渉を進める。
  • ロシアは黒海安全航行合意で制裁解除を要求。KGB流「ミラーリング」でトランプを取り込み、和平への道を模索するが、駆け引きは続く。
  • 2020年のコロナワクチン、スプートニクVで実績を上げ、2025年第2四半期に米国企業のロシア復帰を予言。制裁下でも柔軟に米ロ関係修復を目指す注目人物だ。

プーチン(右)とドミトリエフ

キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁だ。プーチン大統領の懐に深く食い込んだ側近として名を馳せている。

1975年、ウクライナで生まれ、スタンフォードとハーバードで頭を磨いた男だ。ゴールドマン・サックスで金融の荒波を泳ぎ、2011年にRDIFの舵取り役に抜擢される。ロシア経済を多角化する使命を背負った。

この男、プーチンとの絆は鉄壁だ。妻がプーチンの次女と同級生という縁が絡む。プーチンの経済戦略を現実のものに変える実行者だ。

特に米国との交渉では、まるで将棋の駒を動かすように立ち回る。2016年から2017年、トランプ政権のジャレッド・クシュナーやエリック・プリンスと密かに手を握ろうとした。「ロシアゲート」騒動で一気に名が売れた。米ロの裏のつながりを作ろうとした野心がそこにある。

2025年2月、サウジアラビアのリヤドで米ロ高官が顔を突き合わせた。ドミトリエフはウクライナ停戦の裏舞台で暗躍する。レアアース開発を切り札にプーチンの意志を押し通した。3月にはイーロン・マスクに目を付ける。スペースXとロスコスモスを結びつけ、プーチンの宇宙への夢を後押しした。

2025年初頭、トランプとプーチンの電話会談が失敗に終わったと騒がれたが、ドミトリエフの手腕が光る。経済協力の土台を固めたのだ。2月18日のリヤド会談では、「米国企業がロシアで3240億ドルの損失を取り戻せる」とぶち上げた。米国のマルコ・ルビオ国務長官が「歴史的なチャンスだ」と目を輝かせた。

マルコ・ルビオ国務長官

エネルギー分野の共同事業も提案し、トランプの特使スティーブ・ウィトコフが前のめりになったとCNNが報じた。3月にはレアアースの具体的な話が動き出し、米国企業が食いついたとロイターが伝える。プーチンとトランプの間を縫うドミトリエフの調整力が証明された瞬間だ。

この男、トランプの「ディール外交」にぴったりの交渉人だ。米国での学びと金融経験が武器だ。プーチンの後ろ盾を得て、トランプのビジネス魂に火をつける。

リヤド会談では「北極圏で年200億ドルの利益」と具体的な数字を叩きつけ、ウィトコフが「現実的だ」と唸ったとウォール・ストリート・ジャーナルが書いた。ロシアが狙うディールはでかい。レアアース、北極圏のエネルギー事業、そして経済制裁の解除だ。

イズベスチヤは3月に「レアアースが制裁緩和の第一歩」と叫び、ドミトリエフが米国企業に「制裁が解ければ5000億ドル超の投資が動く」と囁いたと報じた。北極圏の天然ガスでは、エクソンモービルとの再タッグを画策中だ。ブルームバーグがトランプ政権の前向きな反応を漏らした。これがドミトリエフの描く米ロ再構築の青写真だ。

3月25日、ウクライナとの黒海安全航行の合意が話題に上った。クレムリンサイトが条件を突きつける。①ロシア農業銀行の制裁解除とSWIFT復帰だ。②食料貿易のロシア船への制裁解除。③農業機械や食料生産品の供給制限解除だ。停戦への道で、ロシアは米国に制裁解除を迫る。

米シンクタンクCSISのマリア・スネゴワヤは言う。「ロシアのトランプへのアプローチは、KGBの『ミラーリング』そっくりだ」と。相手の言葉を真似て信頼を掴む手口だ。

プーチンは2020年の米大統領選でトランプの「勝利を盗まれた」という叫びを拾い、「それがなければ22年のウクライナ危機はなかった」と同調した。和平への道は険しい。だが、ロシアはトランプを取り込み、制裁解除を進めながら、紆余曲折を経て前進するだろう。3月のレアアース協議では米国が制裁緩和をチラつかせたが、ロシアの強硬姿勢で一時暗礁に乗り上げた。両国の駆け引きが続く。

1月25日のTBSの報道

ドミトリエフは、2020年、コロナ禍でスプートニクVワクチンを世界に売り込んだ。中東やインドとの契約をまとめ、ロシアの影響力を高めた。プーチンから「よくやった」と評価された。米国企業をロシアに引き戻す実利主義を貫き、2025年第2四半期には米国企業の復帰を予言する。

制裁の網に絡まり、ウクライナ侵攻への関与や倫理無視で叩かれたものの。その柔軟さと実行力はプーチン政権の停戦交渉の柱だ。国際金融の知恵と人脈をフル回転させ、米ロ関係の修復とロシアの地位向上に挑む。今後のロシアにとって、なくてはならない人物となるだろう。

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2025年4月1日火曜日

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏裁判所―【私の論評】フランス政界を揺るがすルペン氏と国民連合(RN)を襲う政治弾圧

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏裁判所

まとめ
  • パリ裁判所はマリーヌ・ルペン氏をEU公金不正流用で有罪とし、5年間の被選挙権停止を命じた。これにより、2027年の大統領選出馬が困難に。
  • ルペン氏は「政治的決定」と反発し、控訴意向を示す。禁錮4年(執行猶予2年)と罰金も科されたが、被選挙権停止は即時適用。
  • RNのバルデラ党首が次期候補となる可能性。欧州極右指導者から批判が上がり、フランス政治の勢力図変化が予想される。
パリ司法裁判所

 パリの裁判所は3月31日、極右政党「国民連合(RN)」の指導者マリーヌ・ルペン氏に対し、EUからの公金不正流用で有罪判決を下し、5年間の被選挙権停止を命じた。これにより、控訴審で勝訴しない限り、2027年の大統領選に出馬できなくなり、ルペン氏に大きな打撃となる。ルペン氏は「政治的決定だ」と反発し、出馬阻止が意図されたと主張。控訴する意向を示しつつ、政治からの引退は否定した。

 ルペン氏らは欧州議会の資金400万ユーロ超を不正に使用したとして訴えられ、判事は禁錮4年(執行猶予2年)と罰金10万ユーロを科した。控訴中は刑は執行されないが、被選挙権停止は即時適用される。RNのバルデラ党首は「民主主義が殺された」と非難し、次期大統領選の候補となる可能性が高い。

 欧州の極右指導者らは判決を司法権限の濫用と批判。政治アナリストは、フランス政治の勢力図に変化が生じると指摘。バルデラ氏がRNを率いる場合、広範な支持を得られるかは不透明だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】フランス政界を揺るがすルペン氏と国民連合(RN)を襲う政治弾圧

まとめ
  • マリーヌ・ルペン氏とRN幹部24人が、欧州議会の400万ユーロ超の資金を党職員の手当に流用したとして訴えられた。裁判所はこれを不正と断じ、ルペン氏を「黒幕」と決めつけた。
  • RNは「スタッフの仕事は議員支援。ルール内だ」と反論したが、裁判所は証拠を盾に退けた。過去にも類似の追及があり、RNへの攻撃が続いている。
  • ルペン氏はこの判決を「政治的意図で2027年の大統領選挙を阻む」ものと主張。右派への厳しさと左派への甘さから、司法の偏りが疑われる。
  • マクロンは2024年議会選挙で極左と組み、RNを封じ込めた。100議席以上を奪ったとされ、新参のRNを潰す策略が露骨だ。
  • ルペン氏の今後は不透明だが、RNの反移民・反EU・国家主義の信条は国民に支持され、特に若者に広がる。この声は無視できない。


マリーヌ・ルペン氏と彼女が率いるフランスの右派政党「国民連合(RN)」、そして同党の幹部24人が、欧州議会から支給された400万ユーロ(約433万ドル)以上の資金を巡って訴えられた。この金は、欧州議会の議員活動を支えるためのものだ。政策調査やスタッフの給料に使うのが当たり前とされている。

しかし、ルペン氏らがこれをフランス国内のRN党職員の手当や給与に使ったとして糾弾されたのだ。たとえば、欧州議会の記録によれば、RNが「議会アシスタント」として雇った人々が、パリや地方で党のために働いていたことが分かった。2015年から2017年の調査で、給与明細や書類が揃えられた。これを証拠だと持ち出された。

RN側は堂々と反論した。スタッフの仕事は議員を支えることだ。どこで何をしようが、その目的に沿っていれば問題ないと主張したのだ。ルペン氏の弁護団は「欧州議会のルールが曖昧すぎる。明確な線引きがない」と訴えた。RNの公式声明でも「我々はルールを破っていない。フランスで党務を進めるのも議員活動の一部だ」と胸を張った。

だが、裁判所は聞く耳を持たなかった。資金が議会と関係ないRNの運営に流れたと決めつけ、証拠が十分だと断じた。たとえば、ある幹部が欧州議会の金で給料をもらっていたのに、議会業務にほとんど関わっていなかったとされた。メールや出勤記録がその根拠だ。だが、これはRNの活動を貶めるためのこじつけにしか見えない。過去にも、2014年にルペン氏の父ジャン=マリー・ルペンが似た疑惑で追及されたことがある。RNに対する執拗な攻撃が続いているのだ。今回の裁判でも、判事はルペン氏を「事件の黒幕」と決めつけた。400万ユーロ超の不正が組織ぐるみだと結論づけた。あまりにも一方的な裁きだ。

この疑惑には、明らかに政治的な意図が透けて見える。ルペン氏は判決後、「裁判所は政治的な意図で動いた。2027年の選挙に出るのを邪魔する気だ」と声を上げた。その通りだろう。極右とみなされたRNへの司法の目は異様に厳しい。たとえば、左派の「不服従のフランス」のリーダー、ジャン=リュック・メランションは2018年に公金疑惑で調べられたが、被選挙権を奪われるような重い罰は受けていない。

この不公平さは何だ? 政治的な偏りを感じずにはいられない。欧州議会も、RNのような反EUの勢力を目の敵にしてきた。2016年には620万ユーロの返還をRNに迫った例がある。その後も追及が止まらない。ルペン氏を支えるイタリアのマッテオ・サルヴィーニ(副首相兼インフラ大臣)は「司法の暴走だ」と怒りをぶつけた。ハンガリーのオルバン首相も味方についている。保守へ抑圧だと多くの人が感じている。フランス国内ではRN支持者が「政治弾圧だ」とデモを起こした。

政治アナリストのアルノー・ベネデッティ氏はRN関連の著書でこう言った。ルペン氏の5年間の被選挙権停止は、フランス政治の大きな転換点だ。「特に右派の勢力図がガラッと変わる」と見ている。ルペン氏はRNの魂であり、保守の希望として輝いてきた。彼女が2027年の大統領選に出られないとなれば、RNは新しいリーダーを立てざるを得ない。

党内の力や方針が揺らぐかもしれない。右派全体でも、RNの力が削がれれば、保守派や中道派が幅を利かせる隙が生まれる。後継候補と目されるジョルダン・バルデラが注目されているが、ルペン氏の輝きに匹敵するかは分からない。それでも、この変化は不当な弾圧の結果だ。

仏マクロン大統領

日本ではあまり知られていないが、フランスの大統領エマニュエル・マクロンはRNを潰すのに必死だ。党派や信条を捨て、新参のRNを叩き潰そうとした。その最たる例が、2024年6月の議会選挙で見られた動きだ。この選挙でRNは第1回投票で首位に立った。フランス全土で支持が広がり、議席を大幅に増やす勢いだった。ところが、マクロンはRNの勝利を阻止するため、極左の「新人民戦線」と手を組んだ。

具体的には、第2回投票前に両陣営が選挙区ごとに候補者を調整したのだ。RNに対抗するため、互いに候補を取り下げ、票を分散させない戦略を取った。たとえば、パリ近郊のセーヌ=サン=ドニ県では、RN候補が優勢だった選挙区で左派が候補を降ろし、マクロン派の候補を支援した。その結果、RNは議席を伸ばしたものの過半数には届かなかった。

フランス紙「ル・モンド」によると、この連携でRNが獲得できたはずの100議席以上が失われたと推計されている。マクロンは自らの進歩主義や中道の看板を捨て、極左との裏取引に走ったのだ。さらに、2022年の大統領選でも、マクロンはRNのルペン氏を「フランスの脅威」と呼び、メディアを総動員して反RNキャンペーンを展開した。

公共放送フランス2では、RNの政策を誇張して危険視する報道が連日流れた。これらは、RNを新参者として政界から締め出すための露骨な仕掛けである。マクロンにとってRNは、既存の秩序を乱す厄介者だ。その勢いを潰すことが何よりも大事だった。

これは日本でたとえれば、2025年夏の参議院選挙で石破自民党が野田立憲と手を組んで候補を調整し、国民民主を議席10くらいに抑えるようなものと考えれば、フランスの状況がスッと頭に入る。無論、RNは右派、国民民主党はそうではないという違いがあるが、これはアナロジーとしては十分成り立つ。


ルペン氏の今後は見えない。控訴審で被選挙権停止が覆るかどうかに全てがかかっている。だが、RNの政治信条は多くのフランス国民の心を掴んでいる。これを無視するのは許されない。RNの信条は潔い。反移民、反EU、国家主義がその柱だ。移民を締め出し、EUからフランスの誇りを取り戻し、「フランス第一」を貫く。

2022年の大統領選でルペン氏は決選投票で41.5%の票を得た。経済の不安や移民への怒りを抱える労働者や地方民が熱く支持した証だ。RNの支持率はぐんぐん上がり、特に若者に響いている。バルデラがSNSで若者を惹きつける姿がその証明だ。ルペン氏が不当にも舞台から引きずり下ろされても、RNの信条が響かせる国民の声は止まらない。この多くの国民の叫びがフランスを動かすだろう。

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2025年3月31日月曜日

<解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要性―【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

 <解説>ウクライナ戦争の停戦交渉が難しいのはなぜ?ベトナム戦争、朝鮮戦争の比較に見る「停戦メカニズム」の重要

岡崎研究所
まとめ
  • トランプ・プーチン会談と停戦の進展: 3月18日の電話会談で、プーチンがウクライナのエネルギーインフラに対する限定的停戦に同意したが、トランプの長期和平案には抵抗。トランプはロシアから初の譲歩を引き出したが、交渉は依然厳しい。
  • ゼレンスキーの反発とロシアの要求: ゼレンスキーはプーチンの無条件停戦拒否を批判し、ロシアの動員停止や武器供与中止要求を非難。クレムリンはウクライナのNATO排除や4州占領を条件に掲げ、キーウを交渉から外そうとしている。
  • トランプ仲介の問題: トランプのロシア寄り姿勢と公平性への疑問が浮上。米国が当事者を個別に調整する方式は誤解を招きやすく、停戦と中東情勢を絡めた交渉の可能性も懸念される。
  • ロシアの部分停戦戦略: ロシアは戦闘を部分的に停止し、優勢な戦線を維持する意図。完全停戦ではなく、自身に有利な形で戦争を展開しようとしている。
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では米軍撤退後に停戦が崩壊したが、朝鮮戦争では駐留で維持。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が示している。


 ウォールストリート・ジャーナル紙の3月18日付解説記事が、ウクライナ戦争の停戦交渉について、トランプ・プーチン電話会談までの進展を詳しく紹介しつつ、今後も厳しい交渉が続くとの見通しを示した。プーチン大統領は3月18日の電話会談で、ウクライナのエネルギーインフラに対する限定的な停戦に同意したが、トランプが推し進める長期的な和平計画には依然として抵抗を見せた。

 トランプはこれまでキーウ側に譲歩を迫ってきたが、今回はロシアから初めて具体的な譲歩を引き出した。クレムリンに対し、関係改善と孤立解消を説得材料に使ったのだ。ホワイトハウスは、停戦合意を拡大するため中東でさらなる協議を予定し、「エネルギーとインフラの停戦、黒海での海上停戦、そして完全停戦と恒久的平和に向けた技術的交渉から始めることで両首脳が合意した」と発表した。

 ゼレンスキー大統領は、プーチンが即時無条件停戦を拒否したことを非難し、ロシアがウクライナ南部と北部で新たな攻勢を準備していると警告。プーチンの要求する動員停止や西側の武器供与中止を「我々を弱体化させる狙いだ」と強く批判した。ロシアの譲歩は、米国の圧力でキーウが受け入れた完全停戦には程遠く、クレムリンは今後の交渉が厳しいと示唆。永続的平和には「根本原因」への対処が必要とし、ウクライナの4州占領やNATO排除を条件に挙げた。クレムリンは「ウクライナ問題」を米露二国間で処理し、キーウを交渉から排除したい考えを示したが、トランプがこれを受け入れるかは不明だ。

 トランプの仲介には問題が浮上している。公平性が疑われ、ロシア寄りの姿勢が目立つ。ゼレンスキーは抵抗するも、トランプから武器供与や情報共有の停止をちらつかせられ、譲歩を強いられている。トランプは「停戦合意」の形を急ぎ、プーチンの立場を有利にさせる懸念がある。さらに、米国が当事者間を個別に調整する方式は誤解や猜疑心を招きやすい。トランプはウクライナ問題だけでなく、中東情勢やイラン核問題をプーチンと話し合い、停戦と別のディールを絡める可能性もある。ロシアは部分停戦を積み重ね、優勢な戦線を維持する戦略を取っているようだ。

 歴史的に見ると、ベトナム戦争の休戦交渉が似ている。米国は北ベトナム軍の駐留を認め、南ベトナムに圧力をかけ合意させたが、米軍撤退後、北ベトナムが侵攻し統一が完成した。一方、朝鮮戦争では米軍が駐留を続け、北朝鮮の全面侵攻を防いだ。停戦には維持メカニズムが不可欠だと歴史が教えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ戦争停戦のカギを握る米国と日本:ルトワックが明かす勝利への道

まとめ
  • ルトワックの停戦提案: エドワード・ルトワックは、ウクライナ戦争を消耗戦とみなし、もはやロシアにもウクライナにも勝利はないとする。米国主導で住民投票による解決を提案。ゼレンスキーとプーチン双方に受け入れ可能な案とし、米軍やNATOの駐留を抑止力にすべきと提案
  • 歴史的教訓: ベトナム戦争では停戦後の米軍撤退で合意が崩壊し、南ベトナムが滅んだ。一方、朝鮮戦争では米軍駐留が休戦を維持。ルトワックは駐留の重要性を強調し、過去の失敗を繰り返すなと警告。
  • 米国の役割: ルトワックは、米国が500億ドル超の支援と外交力で停戦を主導すべきと主張。ロシアを抑えつつ中国との対決を優先し、最小限の駐留と制裁で効率的に安定を図るべきと主張。
  • 日本の支援の必要性: 日本は実質GDP世界3位の経済力を持ち、米国と協力してアジアの安定を支えるべき。過去のソ連対峙や2022年の対露制裁参加をなどから、ウクライナでの成功が東アジアの抑止につながるだろう。
  • 経済強化の戦略: 日本は大胆な積極財政と金融緩和で実質GDPを2位に押し上げ、抑止力を高めるべき。半導体製造装置や素材産業のリーダーシップを活かし、ロシアと中国を牽制し発言力を取り戻すべき。
エドワード・ルトワック

昨日もこのブログに登場したエドワード・ルトワックというアメリカの軍事戦略家が、ウクライナ戦争の停戦について熱く語っている。彼の言葉には、現実と地政学が絡み合い、聞く者を引き込む力がある。

ルトワックは言う。ウクライナ戦争は、ロシアもウクライナも決定的な勝利を手にできない消耗戦だ。2023年10月の『UnHerd』のインタビューで、彼は「もう膠着状態だ。完全勝利なんて夢物語にすぎない」と言い切った。戦争を終わらせるには、米国が動くしかない。

彼のアイデアはシンプルだ。ドネツクやルガンスク、クリミアといった紛争地域の未来を住民投票で決める。国連やOSCEが監視し、ゼレンスキーには民主的な正統性を、プーチンには面子を保つ出口を与える。「これならゼレンスキーも断りにくいし、プーチンも納得する」と彼は2023年の『The Telegraph』で力強く書いている。米国は、500億ドルを超える軍事支援と外交の力で、この流れを仕切るべきだと彼は睨んでいる。

歴史を振り返れば、ベトナム戦争の停戦交渉が頭に浮かぶ。1973年のパリ和平協定だ。米国はキッシンジャーの采配で、北ベトナム軍が南に居座る案を押し通した。南ベトナムのグエン・バン・チューは「裏切りだ」と叫んだが、米国は援助を切り上げるぞと脅し、合意を飲ませた。協定から2カ月で米軍は撤退。

当時のベトナム共和国大統領グエン・バン・チュー

だが、監視委員会は役に立たず、北ベトナムは軍を増強した。1975年4月、サイゴンが落ち、南は消えた。停戦を守る仕組みがなかったからだ。一方、朝鮮戦争はどうだ。1953年の休戦協定後、米軍は韓国に残った。今も28,500人が駐留し、有志国も当初は支えた。1954年、北朝鮮が仕掛けた小競り合いを米軍が叩き潰し、大事に至らなかった。70年以上、休戦が続いている。駐留の力がものを言ったのだ。

ルトワックは、停戦が紙切れにならないためには仕組みが必要だと声を大にする。住民投票だけでは足りない。2023年の『Foreign Policy』で彼は言い放った。「ロシアは隙を見れば埋める。抑止力がなければ終わりだ」。米軍やNATOの駐留が鍵だと彼は見ている。朝鮮戦争のやり方を参考にしろと言うわけだ。「ウクライナ東部に米軍やNATOが少しでもいれば、ロシアは手を出せない」と2023年のCSIS討論で断言している。べトナムのような失敗は繰り返すなと。

2014年のクリミア併合後、監視が甘かったから今があると彼は振り返る。「駐留がなけりゃ、プーチンは合意をゴミ箱に捨てる」と警告する。ただ、彼は中国との対決を優先したい。2024年の講演で「ウクライナに全力を傾けるな。太平洋が本番だ」と言い切った。だから、駐留は最小限でいい。5,000人規模の米軍とNATO部隊で十分だと踏んでいる。監視団や経済制裁も絡めて、効率よく抑え込む。それが彼の絵だ。ボスニアのデイトン合意も引き合いに出す。1995年、NATOの部隊が駐留して和平が保たれた。あれをウクライナでもやれと。

米国はどう動くべきか。ルトワックは、ウクライナへの支援を続ける一方、戦争を早く終わらせろと迫る。F-16やATACMSを渡してる今、支援は盤石だ。バイデン政権がNATO加盟を急がないのは賢いと彼は2023年の『Wall Street Journal』で褒めた。だが、戦争を長引かせるな。ベトナムみたいに投げ出すな。朝鮮戦争みたいに守り抜け。中国を睨む大局を見据えながら、だ。住民投票を仕切り、米軍と有志国で抑え、監視と制裁で固める。それがルトワックの答えだ。歴史の教訓と現実が交錯する彼の言葉は、読む者を最後まで引きずり込む。

私はルトワックの案に賛成だ。なぜか。現実を見据えたこの策は、血を流し続ける戦争を終わらせ、未来を切り開く力がある。住民投票で決着をつけ、米軍と有志国が駐留して守る。歴史が証明しているではないか。ベトナムみたいに逃げれば崩壊だ。朝鮮みたいに踏ん張れば持つ。ロシアを抑え、中国に備える。米国が動けば世界が変わる。この案は、弱さじゃなく強さだ。迷うな。進め。そして守れ。それが勝利への道だ。

日本はこの方向で米国を支えるべきだ。なぜか。まずは日本の実質GDPは、2023年時点で約4.2兆ドルだ。インフレ調整後の数字で見れば、世界3位。米国、中国に次ぐ経済力であるという地事実がある。名目GDPではドイツに抜かれ4位と言われるが、それはドイツの物価高騰と円安のせいだ。

戦前、日本はソ連と対峙し、アジアの防波堤だった。1941年、日ソ中立条約を結んだが、ソ連は終戦間際に裏切り、満州と北朝鮮を押さえた。その結果、北朝鮮が誕生し、朝鮮戦争で米国を脅かした。今のロシアや中国の台頭も、その流れの果てだ。当時日本が米国と協力してソ連を抑えていれば、アジアは違う道を歩んでいたかもしれない。

ノモンハン事件

2025年の現在、日本は米軍と共同演習を重ね、F-35を配備し、中国の脅威に備えている。2022年、ロシアがウクライナに侵攻した時、日本は即座に経済制裁に加わり、G7の一角として米国を支えた。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジアだ」と喝破した。その通りだ。ウクライナでロシアを止めなければ、中国は台湾や尖閣に手を出すだろう。

過去の過ちを繰り返すな。日本が米国と組んで駐留を支え、監視を固めれば、ウクライナはもとよりアジアも守れる。日本も経済力を出し、技術も出し、自衛隊の力も活かすのだ。2023年の実質GDP成長率は1.68%。日本は半導体製造装置や素材産業などで世界をリードしてる。この力を米国と合わせれば、ロシアも中国も震え上がる。

さらに、大胆な積極財政と金融緩和策で実質GDPを再び世界2位に押し上げれば、それが最大の抑止力になる。国民も防衛力増強やウクラライナ支援などに反対することはなくなる。1990年代、日本は実質GDPで2位だった。それが中国に抜かれた。過去の緊縮策ではダメだ。失われた30年を完璧終わらせろ。金をばらまき、需要をぶち上げ、企業を動かせ。2位を取り戻せば、アジアでの発言力が増し、ロシアや中国への牽制が効く。

日本が動けば、アジアの未来が変わる。誰もが頷くだろ。これが日本の道だ。米国と共に進め。そして守れ。勝利はそこにある。

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2025年3月30日日曜日

「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来―【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価


まとめ
  • 世界秩序の崩壊と「弱肉強食」の台頭: トランプ再選後、アメリカが国際秩序維持を放棄し、「Gゼロの世界」が到来。世界は「弱肉強食の掟」が支配するジャングルとなり、アメリカが他国を「捕食」する構図が生まれた。
  • アメリカの捕食行為: トランプ氏はグリーンランド、カナダ、パナマ運河などを狙い、反発されてもディールで利益を強要。ロシアはウクライナを、中国は技術で他国を取り込む動きを見せる。
  • 中国と台湾情勢: 中国は経済低迷で台湾侵攻はすぐにはないが、再生可能エネルギー技術等を武器に影響力を拡大し、米中対立の受益者となる可能性がある。
  • テック企業の台頭: 秩序崩壊でテック企業が国家を超える力を持ち、AI開発などで世界を形成する未来が予想される。
  • 日本の選択: 日本はアメリカと中国の間で自主防衛力強化(核保有含む)か国際支援で味方を増やすかの選択を迫られ、危機感を持って対応する必要がある。

イアン・ブレマー氏

トランプ大統領の再選以降、世界は強者が弱者を飲み込む「捕食の世界」に変貌し、日本人だけがその危機に気づいていない可能性があると、'69年生まれ。ユーラシア・グループ代表。毎年発表する「世界の10大リスク」も注目を集める国際政治学者のイアン・ブレマー氏は警告する。以下は週刊現代の大野和基氏が、ブレマー氏に取材した内容を要約したものである。
トランプの派手な言動は2年後の中間選挙を意識した一時的なものではなく、第二次トランプ政権の誕生によって世界秩序は完全に崩壊し、もう元には戻らないと彼は断言する。
米コンサルティング会社ユーラシア・グループの代表であるブレマー氏は、15年前から「国際秩序を維持する意志や能力を持つ国家が不在の世界」=「Gゼロの世界」の到来を予見し、警鐘を鳴らしてきた。
昨年11月のトランプ再選後、アメリカがNATOのあり方の見直しを表明し、国際支援を次々と打ち切ることで、世界の秩序維持を放棄した結果、ブレマー氏の予言したGゼロが現実化したと分析する。
これにより、世界は「弱肉強食の掟」が支配するジャングルのような状態となり、食物連鎖のピラミッドの頂点にトランプ大統領率いるアメリカが立ち、それ以外の国々はすべてアメリカに「喰われる」敗者となる危険な構図が生まれた。
トランプ氏は就任早々、「グリーンランドを買いたい」「カナダを51番目の州にする」「パナマ運河を奪う」などの発言を行い、これらは単なる挑発ではなく、捕食の試みとして実行されている。
カナダやデンマークから反発があっても、「奪うのをやめる代わりに何をくれる?」とディールを提案し、アメリカの欲しいものを強要する形で搾取を進めている。
ロシアはこれに気づき、ウクライナを飲み込もうとしており、現在進む停戦協議でウクライナが領土を放棄すれば、第二次大戦後アメリカが築いた「武力による領土拡大を禁じる国際ルール」が消滅し、力を持つ国々が弱い国を捕食する動きが加速するだろう。
一方、台湾をめぐる情勢は複雑で、中国は経済低迷によりすぐには動かないが、再生可能エネルギー分野での技術優位を活かし、「中国に従えば技術を提供する」と他国を取り込む戦略を進める可能性がある。
これにより、米中対立が激化する中、逆説的に中国が受益者となる未来も考えられる。
また、秩序崩壊後、AI開発を進めるテック企業が国家に代わって世界を変革する力を持ち、倫理やモラルを無視した活動が加速し、国家を超える存在となる可能性もある。
日本は、アメリカの傍若無人な意向と中国の脅威に挟まれ、自主防衛力を強化するか(核保有の選択肢も含む)、アメリカが手を引いた国際支援を引き受けて味方を増やすかの二択を迫られる。
ブレマーは、日本人がこの「トランプ後の世界」のジャングルの掟にすぐ認識を改め、どの国よりも強い危機感を持って生き残り策を真剣に考えるべきだと強調する。
この記事は、2つの元記事を統合して、要約したものです。以下に元記事のURLをあげます。詳細を知りたい方は、これらの記事をご覧になって下さい。
「トランプ誕生で、世界は捕食者と喰われる者に二分割される」アメリカの知性が語るヤバすぎる未来
「台湾有事はすぐには起こらない。しかし中国は……」アメリカの頭脳が読み解くヤバすぎるトランプ後の世界
【私の論評】Gゼロ時代を生き抜け!ルトワックが日本に突きつけた冷徹戦略と安倍路線の真価
  • 「Gゼロの世界」の予見: アメリカが「世界の警察官」をやめるとの発言(ニクソン、オバマ、トランプなど)から、無秩序な「Gゼロ」の到来は予想されていた。歴史的反省と時代の流れが背景にある。
  • ルトワックの現実主義: エドワード・ルトワックは、Gゼロを生き抜くため「戦略的抑制」「地経学」「同盟強化」「情報収集」「内政安定」を提唱。日本には技術力と現実的な戦略を提言。
  • 具体例と助言: ベトナム戦争の失敗や米中貿易戦争を例に、日本に中国との対決回避、高い技術力の活用、クアッド強化、情報機関設立を助言。安倍政権のロシア外交を評価。
  • 安倍路線の継承: Gゼロ時代を生き抜くには、技術力、外交、情報、内政を組み合わせ、核シェアリングを含む安倍路線を強力に推進すべき。
  • 支持の理由: ルトワック流の見方は理想や理念を排し、現実と闘志で国を生き残らせると筆者が支持。冷徹な戦略が混沌の時代に必要だ。
アメリカは随分前から世界の警察官を自認しなくなっていた 画像はAI生成画像

イアン・ブレマー氏が叫ぶ「Gゼロの世界」なんて、ぶっちゃけ新鮮味はない。アメリカが「世界の警察官」をやめると言い出した瞬間から、こんな時代が来るのは目に見えていたのだ。誰が最初にその旗を振ったのか、はっきりした名前を挙げるのは難しい。だが、歴史をひも解けば、第二次大戦後のアメリカが超大国として君臨したことに嫌気がさした反省から、この考えは生まれた。

具体的なターニングポイントは、リチャード・ニクソンが1969年7月25日にぶち上げた「ニクソン・ドクトリン」だ。彼はグアムで演説し、ベトナム戦争のドロ沼に疲れ果てたアメリカが、もう直接首を突っ込むのはやめて、同盟国に自分で身を守れと突き放した。これが「警察官」役を縮める最初の火種だ。時は流れ、バラク・オバマは2010年代にその流れをはっきり口に出す。2016年、The Atlanticのインタビューで彼は言い切った。「アメリカはすべての争いに飛び込めないし、飛び込むべきでもない」。軍事でなんでも解決するなんて馬鹿げていると、慎重な顔を見せたのだ。

オバマはシリアで「米国は世界の警察官であってはならないと」発言

さらにドナルド・トランプが2018年12月、イラクで吠えた。「俺たちは世界の警察官じゃない」。彼は「アメリカ第一主義」を、国際的な責任なんて知ったこっちゃないとばかりに突き進めた。だが、こんな話は冷戦時代からチラホラあった。過剰な介入にうんざりした声は、ずっとくすぶっていたのだ。要するに、「誰が最初か」なんて詮索より、時代のうねりが複数の指導者に同じことを言わせてきたと見るべきだ。

「Gゼロ」の足音は、冷戦後のアメリカ一極支配が崩れ、多極化の波が押し寄せる中で、みんなが薄々感じていた転換点だ。こんな無秩序な世の中を、アメリカの戦略家エドワード・ルトワックは冷徹に見つめる。軍事戦略や地経学の達人として、『戦略:戦争と平和の論理』で彼は喝破する。混沌を生き抜く知恵を、国家に叩き込もうとしたのだ。

ルトワックはまず、無駄な動きをせず資源を賢く使う「戦略的抑制」を掲げる。ベトナム戦争でアメリカが突っ込みすぎて大損した失敗を引き合いに出し、Gゼロでは大事なものだけ守れと迫る。日本には、中国と正面切ってぶつかるな、技術力と同盟で抑え込めと助言する。軍事より経済がものを言う「地経学」も彼の肝だ。2018年の米中貿易戦争で、アメリカがファーウェイを締め上げたのを褒めちぎり、日本には高い技術力を武器に世界と渡り合えと焚きつける。

同盟の絆も欠かせない。安倍政権がロシアと腹を割って話したのを「賢い」と褒め、インドやオーストラリアとのクアッドを固めろと後押しする。情報だって命綱だ。湾岸戦争の勝ちとベトナムの負けを比べ、日本にはもっと現場の耳目を磨けと迫る。そして、内政がぐらついたら終わりだ。コロナ禍でEUがバラバラになったのを笑いものにし、日本にはグローバル化の夢を捨て、自国第一で団結しろと喝を入れる。防衛力と経済の足腰を鍛えろと、尻を叩くのだ。

エドワード・ルトワック

ルトワックはGゼロをただの混乱とは見ない。戦略を立て直すチャンスだと肯定的に捉える。歴史の教訓と今の動きを絡め、彼は日本に道を示す。技術力、柔軟な外交、情報収集、内政の強さ。この四つを勢いで組み上げろと叫ぶ。もっともだ。

そして外交と安保では、安倍路線をガッチリ継承しろ。核シェアリングも視野に入れ、揺るぎない国を守る覚悟を決めろ。それが、この荒々しい時代を生き抜く唯一の道だ。このルトワック流の見方は、甘っちょろい理想や理念をぶっ飛ばし、現実を直視する力強さがある。私はこれを支持する。なぜなら、国を生き残らせるには、綺麗事より冷たい頭脳と熱い闘志が必要だからだ。

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2025年3月29日土曜日

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 左派色強く 減税打ち出せず―【私の論評】石破政権崩壊カウントダウン!財務省の犬か、玉木政権への道か?

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 左派色強く 減税打ち出せず

まとめ
  • 石破政権の商品券問題と支持率急落: 石破首相が新人議員に10万円の商品券を配布し、予算成立後の政策ミス(高額療養費凍結表明)で支持率が急落。立憲民主党の野田代表は説明を求めるが、退陣要求は慎重。
  • 立民の対応と政権延命への関与: 立民は予算成立に協力し、石破政権の延命を助けていると批判され、国民民主の対決姿勢とは対照的。野田代表の財務省寄り姿勢も影響。
  • 立民の支持率伸び悩みの要因: 左派色の強い政策(選択的夫婦別姓、ジェンダー平等)や増税路線が現実的でなく、支持率向上につながらない。
国民民主党代表玉木氏

 立憲民主党の野田佳彦代表は16日、石破首相が自民党新人議員との会食で10万円の商品券を配った問題について、「徹底して説明を求めるが、内閣不信任決議案提出や退陣要求は簡単にしない」と述べ、対応と支持率低迷の要因を考えたいとした。

 石破政権は2月25日の自民・公明・維新の3党合意で2025年度予算を修正した時期が絶頂期だったが、3月3日、首相公邸で新人15人に商品券を配り、翌4日に予算が衆院通過。おそらく少数与党でも通過できた高揚感と油断があったのだろう。林芳正官房長官も同席し「前夜祭」ムードだったが、3月7日に高額療養費引き上げ凍結を表明し、参院での予算再修正が不可避に。

 17日の世論調査で商品券問題が響き支持率急落。立民は予算成立に協力し、石破政権延命に手を貸していると見られ、財務省寄りとの評価も。対照的に、国民民主は年収の壁問題で妥協せず支持率上昇。立民は選択的夫婦別姓やジェンダー平等など左派色が強く、野田代表や小川幹事長の増税路線が現実的でなく、支持率が伸び悩む一因に。

(たかはし・よういち=嘉悦大教授)

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】石破政権崩壊カウントダウン!財務省の犬か、玉木政権への道か?

まとめ
  • 石破政権の支持率急落と失策: 支持率が共同通信(3月27日)で27%、日本経済新聞(3月24日)で35%と低迷。「10万円商品券問題」や高額療養費見送り(3月7日)が国民の信頼を失わせ、矢田稚子補佐官クビ(3月31日)で政権がグチャグチャだ。
  • 財務省の影響と減税回避: 石破が財務省に操られ、減税をケチり2万円時限措置に留まる。玉木の「10万円減税」提案(3月16日)とは対照的で、国民の怒りとXでの「財務省の犬」批判を招く。
  • ダブル選挙の可能性: 石破が「予算否決なら解散も」(日本経済新聞、2024年12月28日)と発言。産経新聞(3月27日)は4月に「石破おろし」が加速と予測。自公過半数割れで自民が弱体化し、2009年の麻生政権崩壊の再現が囁かれる。
  • 国民民主党と玉木の台頭: 若者支持率トップ(産経新聞、3月29日)、地方選挙勝利(熊本県知事選、2024年11月)。玉木は「自民の腐った体質」(FNN、3月24日)と批判し、現実的政策で支持拡大。東洋経済(3月24日)は「玉木首相が現実味」と分析。
  • 政権交代への期待: 石破の失態と財務省支配で国民が離反。Xで「自民終わり」(3月29日)、「玉木なら救う」(3月28日)と声が上がり、野党連合の首相指名で玉木が浮上。4月以降が勝負だ。
商品券問題では当初は記者に逆質問をするなど強気の石破総理だったが・・・・・
石破政権はスタートから支持率がガタ落ちだ。共同通信(3月27日)では27%、日本経済新聞(3月24日)では35%と低空飛行だ。原因はバレバレだ。「10万円商品券問題」や物価高対策のグダグダさだ。減税を避ける姿勢が国民をブチ切れさせてる。財務省がガッチリ首根っこを押さえ、「減税なんて許さん」と石破を締め上げている。例えば、玉木は3月16日の「日曜報道THEPRIME」で「10万円減税で物価高をぶっ潰せ」と吠えた。
だが石破は2万円のショボい時限措置で済ませ、財務省に尻尾を振る。Xでは「石破は財務省の犬」と罵声が飛び交う。さらに3月7日、高額療養費の負担上限引き上げを見送り、参院で予算を無理やり修正だ。毎日新聞(3月8日)は「国民に何も説明できず、信頼をぶち壊した」とぶった切った。追い打ちで、読売新聞(3月28日)は国民民主党出身の矢田稚子補佐官を3月31日でクビにすると報じた。自民と国民民主の絆がズタズタだ。
昔、野田佳彦が2012年に消費増税で国民を裏切り、支持を失った。あの時と同じだ。財務省は今も「増税以外認めねえ」と石破を操り、減税をケチらして延命に走らせてる。石破が追い詰められてダブル選挙に突っ走る可能性は大きい。2024年12月28日の日本経済新聞で「予算や法案がコケたら解散も同日選もあり」と言い放った。産経新聞(3月27日)は予算成立後の4月初旬に「石破おろし」が火を噴くと睨んでる。
2012年消費税増税法案に向けての決意を語る野田首相
プレジデントオンライン(1月10日)は「衆参同日選なんて言ってるのは自信過剰か、政治センスゼロか」と石破をコケにした。財務省は裏で「予算を通せば石破を延命させられる」と画策し、朝日新聞(3月16日)は「財務省前で抗議デモが拡大」と報じた。大平正芳は1980年にダブル選挙で自民を勝たせたが、今の石破は少数与党だ。自公で衆院過半数すら割ってる。朝日新聞(3月15日)は「派閥再編も失敗、石破派すらバラバラ」と突き離した。

Xでは3月29日に「石破でダブル選挙なら自民は終わり」と叫び声が響く。「高市早苗が後継でも勝てねえ」と悲鳴もある。2009年、麻生太郎が衆院選でボロ負けして民主党に政権を渡した。あの再現だ。高額療養費のグダグダ、矢田のクビ、財務省の鉄拳で石破の足元はグラグラだ。
国民民主党は若者(18~40代)で支持率トップだ(産経新聞、3月29日)。地方選挙でもバンバン勝っている。玉木は3月24日のFNN取材で「商品券問題は自民の腐った体質そのもの」とぶちかまし、石破に政治倫理審査会での説明を突きつけた。減税と物価高対策をズバッと掲げ、石破との差を見せつけた。3月13日の衆院予算委では、石破が「高額療養費のミス」と頭下げたが、玉木は「国民の生活が第一だ」と喝を入れ、支持をガッチリ掴んだ。
東洋経済(3月24日)は「玉木首相が現実味を帯びてきた」とぶち上げた。石破政権がボロボロで、野党連合に期待が集まる。2024年11月の熊本県知事選じゃ、国民民主の推した候補が勝ち抜き、玉木の地方での力が証明された。Xでは3月28日に「玉木なら現実的な政策で日本を救う」と声が上がる。自民がダブル選挙でコケたら、野党が首相を指名する。立憲の野田が大連立を蹴った(1月4日、毎日新聞)中、国民民主が主導権を握る可能性が高い。
時事通信(3月20日)は「国民民主が野党の現実派の要」と持ち上げた。財務省の締め付けに縛られず、玉木の現実的な政策と若者人気は野党の柱になる力だ。FNN世論調査(3月24日)で石破支持率は30.4%まで落ちた。朝日新聞(3月17日)は「商品券問題で国民がキレてる」と突き放した。一方、国民民主は40代以下でトップを走り、玉木への期待は、大きい。

新川浩嗣財務次官


石破が新人15人に10万円商品券をバラまいた(読売新聞、3月14日)ことは「石破、お前もか」と国民を呆れさせた。自民内部でも批判が爆発だ。玉木は「国民のための政治」で対抗し、支持を掴む。毎日新聞(3月16日)は「自民の倫理観がボロクソ」と斬った。3月7日の高額療養費見送りで参院予算修正、矢田の3月31日クビは政権のグチャグチャを象徴する。財務省は「財政健全化」と称して国民を締め上げ、Xでは「財務省解体」とハッシュタグが飛び交う。
2024年10月の党大会で玉木は「国民目線の経済政策」をぶち上げ、支持率を跳ね上げた。東洋経済(3月24日)は「石破の弱さが玉木総理を呼ぶ」と分析だ。4月に党内抗争や不信任案でダブル選挙が火を噴く可能性が高い。2009年の民主党政権誕生は、自民の失態と野党の結束が鍵だった。今も同じだ。Xでは2024年10月30日に「自民が玉木を担ぐ裏技も」と囁かれた。玉木が野党の現実派リーダーとして立つシナリオがガチで現実味を帯びる。
石破が減税をケチり、財務省の言いなりで高額療養費見送りや矢田クビに走った。ダブル選挙に突っ込めば、自民はボロ負けだ。国民民主党の支持率急上昇と玉木の政策が、野党連合の首相候補として飛び出す可能性が大きい。商品券の失態、予算の混乱、連立の崩壊、若者支持、地方の実績が「玉木政権」を現実にする。財務省の暗い影が石破を縛る中、玉木が国民の声でぶち破る。だが、野党の結束や自民の逆襲が勝負を分ける。4月以降の動きに注目だ。かつて民主党は政権交代したが、長持ちしなかった理由は経済だ。玉木政権が経済を好転させれば、長続きするであろう。

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