まとめ
- ウクライナ戦争は「砲弾の量」だけでなく「発電量」で勝敗が左右されることを証明した。停電は鉄道を止め、工場を止め、国家機能そのものを止める。戦争の帰趨は前線だけで決まらないという現実を、具体例で示している。
- ロシアが4年戦えている理由もエネルギーにある。輸出収入だけでなく、国内の安定した電力供給が軍需生産を支えている。一方で、エネルギー依存こそがロシア経済の弱点でもあることを構造的に解き明かす。
- 台湾有事が長期化した場合、我が国は耐えられるのか。再エネ、大型原発、そしてSMRの役割を安全保障の視点から再整理し、「国家存続の電源とは何か」という核心に迫る。読めば、エネルギー政策の見え方が変わる。
1️⃣電力を制する者が戦争を制する
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| ミサイルで破壊されたウクライナの火力発電所 |
電力が止まれば鉄道が止まる。鉄道が止まれば兵站が止まる。兵站が止まれば軍需工場も動かない。通信、病院、水道、暖房、すべてが揺らぐ。実際に大規模停電が発生し、産業活動は落ち込み、冬季の都市機能は深刻な影響を受けた。
ロシア軍もウクライナ軍も鉄道兵站への依存度が高い。ロシア軍は鉄道中心の補給体系を持ち、ウクライナ側も西側から供与される兵器の輸送に鉄道を活用している。ウクライナ鉄道は路線の約半分が電化区間である。停電はそのまま輸送能力の低下を意味する。電力網攻撃は兵站攻撃である。
決定的なのは、ウクライナが再生可能エネルギー依存国ではなかったという事実だ。戦前の発電の中心は原子力であり、火力と水力が支えていた。再生可能エネルギーの比率は全体の1割程度であった。もし発電の大半を天候依存型電源に委ねていたなら、送電網破壊と冬季需要増大が重なった局面で、停電はさらに長期化していた可能性が高い。戦争継続能力は大きく削がれていたであろう。
ウクライナが国家機能を維持できているのは、軍事支援だけではない。電力供給を守り抜いているからである。戦争の帰趨は、発電量と送電能力にも左右される。
2️⃣ロシアを支えるもの、そしてロシアの弱点
ロシアが戦争を継続できている背景にも、エネルギーがある。ロシアは世界有数の石油・天然ガス輸出国であり、エネルギー輸出は国家歳入の柱である。欧州向け輸出が減少しても、中国やインドへの販売を拡大し、外貨を確保している。
同時に、ロシア国内の電力供給は安定している。豊富な天然ガス資源と発電能力により、軍需工場を動かす電力を確保できている。砲弾や兵器を生産し続けられるのは、後方のエネルギー基盤が崩れていないからである。
しかし、そこに弱点もある。ロシア経済はエネルギー輸出への依存度が高い。原油価格が下落すれば財政は直撃を受ける。さらに高度製造分野では輸入依存が大きく、制裁はその部分に効いている。
最大の弱点は、エネルギー国家であることそのものだ。精製施設、発電所、鉄道網。これらが損傷すれば、輸出収入と軍需生産が同時に削られる。重要なのは、ロシアにエネルギーを売らせないことだけではない。ロシアがエネルギーを使えない状況を作ることである。軍需工場を動かす電力を削れば、戦争継続能力は直接的に落ちる。
戦争は前線だけで決まらない。発電所と工場で決まるのである。
3️⃣我が国の選択 ― 大型原発の限界とSMR
既存の大型原発は高出力で安定した電源である。しかし巨大集中型であるため、攻撃目標として明確であり、機能停止の影響は広域に及ぶ。外部電源や冷却系への依存も大きい。平時には効率的だが、戦時には集中リスクを抱える。
再生可能エネルギーは分散性を持つが、出力は天候に左右される。国家の命運を託す基幹電源にはなり得ない。さらに、太陽光、風力を活用するがゆえに、これも外部に露出せざるを得ず、攻撃目標になりやすい。
ここで小型モジュール炉、SMRである。出力は小さいが分散配置が可能であり、地下設置により攻撃耐性を高められる。単一拠点の破壊が国家全体の電力供給を揺るがす構造を避けられる。
しかも、SMRは未知の技術ではない。小型原子炉はすでに半世紀以上にわたり原子力潜水艦や原子力空母で運用されてきた。米国海軍は1950年代から原子力推進艦を実戦配備し、数十年にわたり安定運用している。小型炉が長期間連続運転に耐え、過酷な環境下でも機能することは、軍事分野で実証済みである。SMRは理論ではなく、実績の延長線上にある技術である。
電力は環境政策ではない。国家の神経系であり、軍事と経済の前提である。
ロシアが戦争を継続できるのは、電力とエネルギーが安定しているからである。ウクライナが持ちこたえているのも、電力を守り抜いているからである。
問いは一つである。我が国は停電せずに長期戦を耐えられる国家か。
SMRは脱炭素のためではない。国家存続のためである。
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