2025年8月12日火曜日

景気を殺して国が守れるか──日銀の愚策を許すな


まとめ

  • 斎藤経済政策担当副委員長の「性急な利上げ回避」発言は国際標準のマクロ経済学的にみても妥当であり、政治介入ではない。
  • 白川総裁時代までの日銀は教条的に利上げを繰り返しデフレを長期化させ、黒川総裁時代は一時改善されたものの、昨年(2024年)も短期金利・長期金利上限を引き上げる政策ミスを犯した。
  • コアコアCPIは2%前後で、その多くが外的要因によるため、インフレ率2%での即利上げは不要。高圧経済の観点からは4%程度までは容認し、雇用や賃金動向を見極めるべきである。
  • 条件付きの追加緩和で労働市場を加熱させ、デフレマインドを完全に払拭することが経済安定に不可欠である。
  • 米中対立や台湾有事リスクなど地政学的リスク下で景気を冷やせば防衛力・経済安全保障が弱体化するため、金融政策は国際情勢も踏まえて運営すべきである。
最近、金融政策を巡る論争が政界・日銀双方で再び熱を帯びている。米国の関税政策や世界的なインフレの動きが日本経済に波及する中、利上げの是非をめぐる意見が交錯している。しかし、この議論には本質的な視点が欠けている。それは、我が国の金融政策が過去に何度も犯してきた「教条的で理由なき利上げ」の誤りを繰り返してはならないという一点だ。本稿では、国際標準のマクロ経済学の立場から、なぜ今の日本が利上げをすべき局面ではないのかを、経済と地政学の両面から論じる。
 
🔳教条的利上げの歴史と昨年の誤り
 
斎藤経済政策担当副委員長

自民党の斎藤経済政策担当副委員長は、ロイターへのインタビュー(2025年8月6日配信)で「米国の関税が日本経済に与える影響を踏まえ、性急な利上げは避けるべきだ」と明言した。このような発言を「政治介入」と批判する声もあるが、国際標準のマクロ経済学的観点から見れば、むしろ極めて正当な見解である。

本来、矛先を向けるべきはこうした慎重論ではなく、日銀が歴史的に繰り返してきた教条的で理由なき利上げの姿勢だ。白川総裁時代までは景気や雇用の実態を顧みず、引き締めを優先した結果、デフレを長期化させた。黒田総裁による異次元緩和でようやく正常な政策が導入されたが、現植田日銀総裁は、昨年(2024年)には短期金利をマイナス0.1%からゼロ%へ、長期金利の上限も0.5%から1%へと引き上げた。これは供給ショックによる一時的な物価上昇を景気過熱と誤認したものであり、明らかな政策ミスである。

🔳 利上げ不要の経済的根拠と高圧経済の必要性
 
植田日銀総裁

足元のコアコアCPI(生鮮食品・エネルギー除く)は前年比でおおむね2%前後を推移している。その大半は輸入エネルギーや食料品の価格上昇といった外的要因に起因し、国内需要の過熱とは性質が異なる。こうした供給サイド要因に対しては、金利引き上げではなく財政出動や規制緩和で対応するのが筋である。

米FRBのブレナード元副議長は、供給ショックによる一時的インフレに過剰反応せず、雇用と成長を優先すべきだと繰り返し説いた。日銀の昨年の利上げは、この教訓を無視した拙速な判断だった。

さらに、高圧経済の観点から言えば、インフレ率が2%に達したからといって即座に引き締めるべきではない。4%程度まで容認し、雇用統計や賃金上昇の持続性を見極めながら利上げ時期を判断すべきである。この間に条件付きの追加緩和を実施し、労働市場を加熱させて長年染み付いたデフレマインドを完全に払拭する必要がある。
 
🔳地政学的リスクと金融政策の戦略的運営
 
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世界は今、米中対立、台湾有事の危機、ウクライナ戦争、中東情勢の不安定化など、多重の地政学的リスクに覆われている。これらは日本のエネルギー供給や貿易を直撃し、経済・安全保障両面の脆弱性を高める。こうした状況で国内経済を冷やす利上げを行えば、税収基盤は縮小し、防衛力強化や経済安全保障政策の遂行が困難になる。

経済力は国防力の基礎である。景気をいたずらに冷やせば、我が国は国際競争力と安全保障の両方を失いかねない。金融政策は物価や金利だけでなく、国際情勢と実体経済を総合的に踏まえて運営されるべきだ。

現在の日本は、利上げが不要どころか、条件付きの追加緩和を検討すべき局面にある。供給ショック(原油高や食料価格高騰など、供給側の制約で物価が上がる現象)は、金利を上げても解決しない。むしろ利上げで景気を冷やすだけで、副作用が大きい。こうした場合は、政府が財政出動(補助金や減税)や規制緩和で直接コストを下げる政策を行うべきだ。また、為替の急変動は金融政策ではなく、為替介入や通貨スワップなど財務省の権限で対処すべき領域である。

供給ショックや為替変動を理由に日銀が利上げに動くのは、本来の役割を逸脱した誤りだ。日銀は、過去の教条的誤りを繰り返すのではなく、経済成長と防衛力強化を同時に実現する戦略的金融運営へ舵を切らなければならない。それが、我が国の未来を守る唯一の道である。

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