2025年10月2日木曜日

本当に国際秩序を壊したのは誰か――トランプではなく中国だ

まとめ

  • トランプ批判は短期的混乱だけを根拠にした一面的評価であり、中国の長年の無法行為を背景に考える必要がある。
  • 中国はWTO加盟時の約束を守らず、市場閉鎖・為替操作・補助金政策・知財侵害を続け、日本の鉄鋼や太陽光産業に壊滅的打撃を与えてきた。
  • 中国の人権問題や南シナ海での国際法違反、「一帯一路」での債務外交は国際秩序への露骨な挑戦である。
  • 野口旭氏の指摘する「貯蓄過剰2.0」により世界は慢性的な需要不足に陥り、各国の金融緩和でも景気は加熱せず、緊縮策で失速する。これは現在の日本の姿とも重なる。
  • 中国の挑戦は日本にとっても他人事ではなく、経済・安全保障両面で覚悟を持ち、未来を選び取る必要がある。

1️⃣トランプ批判の一面的な見方
 
国連で演説するトランプ大統領

トランプ大統領の政策はしばしば「国際秩序を乱した失敗」と決めつけられる。防衛費負担をめぐる強硬な要求、中国への関税政策、ロシアや北朝鮮との対話路線。確かに短期的には混乱を招き、国内外で批判を浴びた。しかし、その評価はあまりにも一面的だ。

そもそも背景には、中国が長年繰り返してきた無法がある。国有企業への補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要、市場の閉鎖。2001年に米国の支援でWTOに加盟した際、中国は市場開放や公正取引の遵守を約束したが、その多くを守らず今日に至っている。米通商代表部(USTR)の年次報告でも、非市場的な政策と国有企業への過剰支援が透明性を欠くとして「約束不履行」が繰り返し指摘されている。金融、デジタル、エネルギー分野で外資を制限し、自国市場を閉ざしたまま欧米市場で活動を続ける不均衡な状態が続いている。

為替でも人民元は「完全固定」ではないにせよ、中国人民銀行が毎朝基準値を設定し、その±2%のバンドで動く管理フロート制を敷いており、国際市場の需給に委ねる体制からは大きく逸脱している。

日本の産業はこの不均衡の直撃を受けてきた。鉄鋼では中国の過剰生産とダンピングで価格が暴落し、国内メーカーは疲弊を余儀なくされた。2024年の普通鋼鋼材輸入量は505万トンに達し、前年から7.5%増、1997年以来の500万トン超えとなった(日本鉄鋼連盟)。太陽光パネルでも中国製が圧倒的シェアを占め、日本企業は次々と撤退。日本国内で使われる太陽光パネルは輸入依存が極端に高く、JPEAの統計では外国企業シェアが64%、国内生産はわずか5%に過ぎない。世界的には中国製が8割を超え、2025年には95%に達する見通しが示されている(JETRO/IEA)。北海道では安価な中国製パネルによる乱開発が進み、地域社会と自然環境を蝕んでいる。

さらに、中国の人権問題も看過できない。新疆ウイグル自治区での強制労働や収容所、人身売買や臓器売買の疑惑。南シナ海では国際仲裁裁判所が2016年に「中国の主張には法的根拠がない」と判定したにもかかわらず、人工島を造成し軍事拠点化を続けている。「一帯一路」では途上国に過大債務を負わせ、返済不能に陥った国の港湾や資源を接収している。これらは国際秩序への露骨な挑戦である。
 
2️⃣世界経済を歪めた「貯蓄過剰2.0」
 
中国の無法は安全保障にとどまらず、世界経済を根底から歪めてきた。経済学者の野口旭氏は、リーマン・ショック以降の先進国に共通する「低すぎるインフレ率」の背景に、中国を中心とする「世界的貯蓄過剰2.0」があると指摘している(野口旭「世界が反緊縮を必要とする理由」)。

中国の過剰生産は結果的に世界に貯蓄過剰をもたらした

中国は輸出主導で成長を遂げ、国内需要が供給に追いつかず余剰資金を海外に流出させた。これが世界の経常黒字を押し上げ、需要不足を固定化した。実際、世界の経常黒字のうち中国のシェアは2019年時点で約40%に達し、米国の経常赤字とほぼ表裏の関係をなしていた。2022年には中国の経常黒字が4,170億ドルに上り(IMF統計)、世界的な需給バランスを大きく歪めている。

供給は膨張しているのに、需要は足りない。インフレが起きにくく、金利も上がらない。各国が金融緩和をしても景気が加熱せず、逆に緊縮策を急げば、たちまち需要不足で経済が失速する。これはまさに現在の日本の姿でもある。長らく日銀は慎重すぎる金融政策でデフレを固定化し、景気を押し下げてきた。2013年に黒田総裁が「異次元緩和」で大胆に転換したが、十分なインフレ定着には至らなかった。2023年に植田総裁が就任すると、再び利上げ方向へと傾き、需要の弱さを抱えたまま経済が減速しかねない状況にある。

中国の輸出攻勢は米国の製造業を空洞化させ、日本の鉄鋼や太陽光も壊滅的打撃を受けた。補助金漬けの国有企業、為替管理、低賃金労働。この体制が「貯蓄過剰2.0」を生み出し、世界全体の成長力を押し下げてきたのである。

こうした構造を放置すれば、各国は財政と金融で経済を支え続けるしかなく、支えを外せばすぐに失速する。だからこそ、トランプ政権の対中関税やサプライチェーン再編は、単なる「貿易戦争」ではなく、この不均衡に切り込む試みだった。短期的な痛みを覚悟してでも、世界経済を正す戦いだったのである。
 
3️⃣日本が問われる覚悟

当時、多くの反発があった。関税は物価を押し上げ、中国の報復で米農業は打撃を受けた。同盟国への防衛費要求は摩擦を強め、「孤立主義」との批判も高まった。だが、バイデン政権になっても対中強硬路線は継続され、米中デカップリングは超党派の合意となった。半導体やエネルギー分野では国内投資が拡大し、NATO諸国は防衛費を増額、日豪印との協力も強化された。当初「失敗」とされた政策が、結果として国際社会の対中包囲網を後押ししたのだ。

参院選での石破首相の応援演説 同盟国の首相としてはあり得ない発言

短期的な混乱だけを見てトランプを「秩序破壊者」と決めつけるのは誤りである。中国の壊してきた秩序を正すには犠牲も伴う。だが、直視しなければならない。中国を批判する者は自らも公正であるべきだ。トランプを批判するのであれば、中国を牽制する代替案を示すべきである。非難を繰り返すだけでは現実は変わらない。

そして、これはアメリカだけの問題ではない。我が国日本にとっても、中国の無法を放置すれば、経済と安全保障の両面で取り返しのつかない代償を払うことになる。鉄鋼や太陽光での被害は氷山の一角に過ぎない。中国の挑戦は我が国に突きつけられた現実だ。我々自身が覚悟を持ち、未来を選び取れるかどうか。その岐路に立っているのである。

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2025年10月1日水曜日

霊性を忘れた政治の末路──小泉進次郎ステマ疑惑が示す保守再生の道

 


まとめ

  • 自民リベラル派は財務省支配とグローバリズム依存により、増税と緊縮を優先し、産業空洞化や地域衰退を招いた。
  • 小泉進次郎のステマ疑惑は、単なる不祥事ではなく国民の潜在意識におけるリベラル派拒絶の象徴である。
  • 週刊文春第一報(9月18日発売)から総裁選告示(9月22日)、陣営認否(9月25日)、第二報(9月25日発売)、炎上、専門家批判、そして10月4日の投開票予定までを発売日順に整理した。
  • 国内のネット工作疑惑に加え、米国の「バイデンジャンプ」や「Twitter Files」は、民主主義の透明性危機が世界共通の課題であることを明らかにした。
  • 今後、小泉政権が成立しても短命に終わる可能性が高く、保守本流が台頭する。数年以内に自民党リベラル派は瓦解するという結論は、世界の潮流と日本固有の「霊性の文化」によって裏付けられる。

小泉進次郎のステマ疑惑は、一人の失策ではない。祖先と自然に根ざす日本の霊性を軽視してきた政治の終焉だ。国民の深層に息づく霊性が、保守本流の再生を呼び覚ましている。

1️⃣ステマ疑惑の発覚と党内規範の危機
 


自民党リベラル派は長年にわたり、まともな政策を示すことなく、実質的に財務省の支配下に置かれてきた。増税と緊縮を繰り返し、国民生活よりも財政均衡を優先してきた。その結果、国民の不満は積もり積もり、政治不信は深まった。

さらに彼らは、グローバリズムの波に無批判に乗った。産業は空洞化し、地域経済は衰退した。多国籍企業と金融資本ばかりが利益を得て、国民は非正規雇用と低賃金に苦しんだ。食料やエネルギーを外部依存に委ね、国益を損ねる政策を繰り返した。

その延長線上に現れたのが、小泉進次郎の「ステマ疑惑」である。これは単なる一陣営の不正ではない。財務省支配とグローバリズム依存の政治が、国民の深層心理で拒絶されつつある象徴的事件である。

時系列整理(ステマ疑惑関連)

日付 出来事・報道
2025年9月18日発売(9月25日号・週刊文春) 第一報。小泉陣営がニコニコ動画でポジティブコメント投稿を指示したと報道。24パターンの例文リストが示されていた。

2025年9月22日 自民党総裁選告示。
2025年9月25日 陣営側が事実関係を概ね認める。小林史明氏が記者団に説明。
2025年9月25日発売(10月2日号・週刊文春) 第二報。「証拠メール入手」を見出しに、具体的文面を掲載。
2025年9月26日 SNSで批判が拡大。「総裁選辞退」を求める声が高まる。
9月27日以降 藤井聡・京大教授がテレビで小泉氏の責任を追及。ジャーナリスト青山和弘氏が「総裁選の流れを変える可能性」を指摘。文春編集部は「立候補取り消しレベル」と強調。SNSでは「辞退要求」がトレンド入り。
2025年10月4日 自民党総裁選投開票予定。

第一報は「疑惑の提示」に過ぎなかった。だが第二報では「証拠メール」が公開され、疑惑は「伝聞」から「事実」へと変わった。火花が燃え広がる前段階にとどまった第一報に対し、第二報は燃料を注いで炎上を不可避にした。

総裁選は公職選挙法の適用外である。しかし党内規程には「公正な選挙活動」「党の信用を損なう行為の禁止」が明記されている。今回の行為はその規範に真っ向から抵触する。もはや「違法ではない」で済む問題ではない。自民党自身の統治能力が問われているのである。
 
2️⃣国内外の比較から見える危機
 
日本政治で世論操作疑惑は過去にもあった。民主党政権下では「ネット工作部隊」の存在が取り沙汰され、自民党の一部議員もSNS運用を外部業者に委託していたと報じられた。しかし、今回のように「コメント例文リスト」という露骨な証拠が出た例はほとんどない。ネット時代特有の新しい政治スキャンダルである。

海外に目を向ければ、同様の事例はいくつもある。2020年の米国大統領選挙では郵便投票の集計が進むにつれバイデン票が急増する「バイデンジャンプ」が起き、共和党支持層を中心に強い不信を招いた。結果は公式に認定されたものの、正統性への疑念は残り続けた。

twitter filesとはイーロン・マスクによるtwitter買収を契機に世論操作の実態が明らかになった事件

さらに、2022年から公開が始まった「Twitter Files」は衝撃を与えた。そこには米民主党政権や民主党政権下のFBIがTwitterによる圧力をかけ、特定の情報を抑圧し、世論形成に影響を与えていた実態が記録されていた。SNSが政治に介入する構造が米国でも露骨に現れ、国民の信頼を大きく損なった。このような事例は、米国だけではなく他の国々も見られる。

つまり、日本の今回の疑惑は決して孤立した現象ではない。ネット時代の民主主義に共通する「透明性の危機」が、日本でもついに噴出したのだ。

3️⃣政局の行方と日本の霊性文化
 
アメリカではバイデン政権が成立したが、正統性への疑念は拭えず、早々に政権は揺らいだ。そして次の選挙でトランプが返り咲いた。

日本でも同じ轍を踏む危険がある。仮に小泉進次郎が総裁選を勝ち抜き首相になっても、「ネット世論操作」の烙印を背負い、政権は短命に終わるだろう。反動として保守本流を掲げる勢力が浮上する可能性が高い。

このステマ疑惑は一人のスキャンダルにとどまらない。政党のガバナンス、民主主義の信頼性、政権の命運を左右する分水嶺である。

本願寺国府別院の親鸞聖人像

結論を明確にする。どのシナリオをたどろうとも、数年以内に自民党リベラル派は瓦解する。それは、自民党の実質的瓦解を含むかもしれない。世界の潮流が国益・供給網・国防・移民管理・エネルギー安全保障へと傾く中で、理念先行のリベラル・グローバリズムはもはや持続できない。欧米で進む選挙地図の再編、新興国の産業国家化、経済安全保障の常態化――すべてが現実主義の「保守本流」への転換を促している。日本も例外ではない。

この結論は、日本固有の「霊性の文化」から見ても妥当である。霊性の文化とは、自然や祖先、共同体との結びつきを重んじ、目に見えないものに意味を見いだす日本人独特の精神土壌である。「霊性の文化」に基づく政治とは、わかりやすく言えば地域社会を重視する政治と言えるだろう。リベラル派はこの文化を軽視してきた。しかし多くの国民の潜在意識には霊性が息づいている。表立って声を上げなくとも、その違和感は選挙行動に表れた。それが近年の衆院選、都議選、参院選の結果である。

この国民の深層意識に根ざす霊性の文化は、数字や世論調査だけでは測れないところがある。しかし確実に政治を動かす。未来を切り開くのは、この文化に応える保守本流の道である。日本の政局の行方はそこに懸かっている。

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