2025年9月23日火曜日

札幌デモが示した世界的潮流──鈴木知事批判は反グローバリズムの最前線

まとめ

  • 鈴木直道知事の辞任を求めるデモや署名運動は進んでいるが、解職請求には有権者の3分の1(約146万人)の署名が必要で、実現は極めて困難。政治的圧力としてどこまで効果が焦点
  • 鈴木知事は外資売却やインバウンド政策を進めてきたが、小野寺まさる氏らから「外資依存で地域を犠牲にしている」と批判され、論争は「短期的合理性か地域の存続か」に集中している。
  • 石破茂氏は防衛政策を国際規範に沿わせ、石丸慎二氏は外需依存の構想を掲げた。鈴木氏も同じ系譜に属し、三者ともグローバリスト的リーダー像を示したが、国民的支持は得られない。
  • 世界では米国の保護主義、EUの移民問題やBrexitなど、反グローバリズムの潮流が広がっており、日本国内の動きや北海道の批判もその一環といえる。
  • 中国はWTO加盟後に輸出大国として繁栄したが、市場自由化や補助金規制などの約束を守らず、世界の市場を歪めてきた

1️⃣北海道民の反発とリコールの高い壁
 
初の鈴木知事辞任要求デモ

北海道では鈴木直道知事の辞任を求める声が高まっている。札幌でデモが行われ、市民が「やめろ」と訴え、オンライン署名サイトでもリコールを求める運動が始まった。背景には、外国資本による土地買収、移民政策への不安、行政の透明性の不足に対する不信がある。主導しているのは市民有志や地域住民だが、既存の活動家団体が関与しているかどうかは不明である。

ただし、リコールは容易ではない。地方自治法により、解職請求には有権者の3分の1(約146万人)の署名を2か月以内に集めねばならず、その後の住民投票で過半数の賛成を得る必要がある。北海道規模でこれを達成するのは極めて困難だ。結局、今回の動きは現実の解職というより、政治的圧力としてどこまで効果を持つかが焦点となる。次の知事選は2027年4月22日であり、そこが正式な審判の場となる。
 
2️⃣グローバリズムの負の側面と鈴木知事批判
 
鈴木知事への不信感の根底には、彼が石破茂首相や石丸慎二元安芸高田市長と同様、グローバリスト的立場に立っているのではないかという疑念がある。グローバリズムは経済成長や国際交流を促進する利点を持つが、負の側面は深刻だ。地域資源が外国資本に握られる危険、移民受け入れによる社会不安、国際規範が国益を押しつぶす危険である。特に安全保障の観点は重大で、外国資本による土地取得が防衛拠点の脆弱化につながる懸念は現実味を帯びている。釧路湿原での再エネ開発、羊蹄山のリゾート開発、水資源や森林の買収など、危機はすでに進行している。

鈴木直道北海道知事

元北海道議会議員の小野寺まさる氏は、鈴木知事の政治姿勢を「外資依存と合理化に偏り、地域の公共性を犠牲にしている」と厳しく批判してきた。夕張市長時代の観光施設売却や鉄道廃線、知事就任後の再エネ推進、さらには「北海道開拓記念塔」破棄などがその象徴である。一方で鈴木知事は、財政再建や環境対応を理由に「やむを得ない決断だった」と反論している。ここに「短期的合理性か、地域の存続か」という論争の核心がある。

石破氏は「国際協調」を旗印に、防衛・安全保障政策でも国際規範を優先する姿勢を鮮明にしてきた。例えば、インドとの首脳会談では「海洋紛争はUNCLOS(国連海洋法条約)に基づいて解決すべきだ」と表明し、また国連のグテーレス事務総長との会談では「分断ではなく対話と協調が国際社会の利益だ」と語った。米国によるイラン攻撃をめぐっても「国際法に基づく評価」を重視すると述べ、日本の防衛政策を国際社会の規範に従わせる姿勢を明確にしている。

石丸氏は安芸高田市長としての実績は限られるが、その後の都知事選などで「地方の衰退を食い止める」ための方策として、外需やインバウンドを活用する構想を打ち出した。特に「外からの需要を取り込む」ことを強調し、地方創生を外資や外部リソースに依存する観点を示していた。これは大規模な政策実行には至らなかったが、その発想自体にグローバリズム的志向が表れている。

鈴木氏も夕張市での観光施設の外資売却、そして北海道知事としてインバウンド拡大を進め、国際市場との結び付きを優先させてきた。同じ系譜に連なるリーダー像がそこに見える。

しかし現実は、石破氏も石丸氏も選挙で敗退し、国民の支持を広く得られなかった。これは、グローバリズムに対する懐疑と反発が単なる一時的ムーブメントではなく、もはや国民の切実な願いであることを示している。
 
3️⃣ 国内外の潮流と中国という超受益者
 
この潮流は国内政治にとどまらない。米国ではトランプ政権が「アメリカ・ファースト」を掲げ、自由貿易と多国間主義に疑問を突き付けた。その後もバイデン政権下で保護主義的な通商政策は継続し、第二次トランプ政権ではさらに強化された。EUでも移民問題と経済停滞から懐疑論が強まった。英国のEU離脱(Brexit)はその象徴である。

トランプ大統領は「WHOは中国の操り人形」と批判

さらに注目すべきは、中国がグローバリズムの最大の受益者となった事実である。中国は2001年のWTO加盟以降、輸出拡大で世界最大の貿易大国へと躍進した。しかし、その過程で市場自由化や補助金規制など、加盟時に約束したWTOの規範を守らず、国家主導の産業政策や資源輸出制限を続けてきた。例えばレアアース輸出制限では日本や米欧との間で紛争となり、WTO違反が認定された。また、途上国待遇を利用し義務を軽減する一方で、先進国を圧迫する補助金政策を強化している。

この「果実は享受するが、約束は守らない」姿勢が、世界の産業を疲弊させ、WTO体制の信頼を大きく損ねてきた。結果として、米国は中国に対抗するために高関税や輸入規制、サプライチェーンの再構築、経済安全保障政策を打ち出すに至っている。

こうした国際的潮流と国内の動きは連動している。北海道での鈴木知事批判は、単なる地方の反発ではなく、世界的な反グローバリズムの流れの中で理解すべきものだ。将来的に北海道だけがこの例外となることは考えにくいし、またそうしてはならない。鈴木知事への批判は、地域の問題であると同時に、日本、さらには国際社会が直面している大きな選択――「グローバリズムか、それとも国益か」――を突き付けているのである。

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