2025年9月1日月曜日

天津SCOサミット──多極化の仮面をかぶった権威主義連合の“新世界秩序”を直視せよ


まとめ

  • 天津SCOサミットは非西側諸国の結束を誇示し、国連事務総長の参加は国連の権威低下を象徴した。
  • 中国経済は製造業PMI49.4で縮小、BRIは債務危機や計画中止が相次ぎ、影響力に陰りが見える。
  • SCO加盟国の多くは権威主義体制で、国際規範を弱体化し西側の秩序を脅かしている。
  • インドはSCO共同声明署名を拒否し、中国・パキスタン寄りの姿勢に異議を唱えたが、外交的立場は揺れている。
  • 天津サミットは新世界秩序を狙う権威主義連合の台頭を示し、西側諸国は自由と民主を守るため対抗戦略を急ぐ必要がある。

🔳SCOサミットの全貌と国連の権威低下
 

2025年8月31日から9月1日、中国・天津で第25回上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれた。習近平国家主席が議長を務め、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相ら20を超える国の首脳が集結し、西側主導の国際秩序に対する挑戦を鮮明に示した。

この会議は突発的なものではない。7月11日のデジタル経済フォーラムを皮切りに、外相理事会やシンクタンクサミット、農業大臣会議など複数の準備会合が重ねられた。8月28日には報道センターが設置され、世界中の注目が天津に集まった。

8月31日、習近平夫妻が赤絨毯で各国首脳を迎える姿は、中国が新秩序の中心を宣言する姿勢を象徴していた。その場に国連のグテーレス事務総長も姿を見せた。第二次世界大戦戦勝国の価値観を守るはずだった国連が、非西側主導の場に積極的に参加した事実は、国連の権威が失墜し、国際秩序の潮流が変わったことを示す象徴的な瞬間だった。グテーレス氏の「中国の役割は多国間主義の命綱」という発言は、国連が影響力を失い、非西側への迎合を余儀なくされている現実を突き付けている (Reuters)。

🔳中国経済の脆弱性とSCOの権威主義的本質

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天津サミットの華やかさの裏で、中国経済の失速は深刻だ。2025年8月の製造業PMIは49.4と5か月連続で縮小。地方政府の巨額債務、不動産市場の崩壊、銀行収益の悪化が経済を蝕む。フィッチは中国の外貨建て信用格付けを「A」に格下げした。さらに「一帯一路(BRI)」構想も停滞し、75か国が年間220億ドル超の対中債務に苦しみ、インフラ計画は遅延・中止の連鎖に陥っている。ベルリンのシンクタンクMERICSはBRIを「経済合理性より政治的影響力を優先した戦略」と断じており、中国の影響力の限界が浮き彫りになっている。


図表1:中国経済指標(2025年)

指標現状・数値
製造業PMI(2025年8月)49.4(5か月連続縮小)
外貨建て信用格付け(フィッチ)A(2025年4月、格下げ)
一帯一路関連債務年間220億ドル超(75か国)
都市部若年失業率約15%(非公式推計)


SCO加盟国の多くは中国、ロシア、イラン、ベラルーシなど権威主義体制を取る国々で、「権威主義国家のクラブ」と揶揄されることも多い (britannica.com)。この枠組みは、内政不干渉や主権尊重を盾に国際規範の弱体化を図り、民主主義陣営への対抗軸を構築している。中央アジアや中東での軍事演習や治安協力は既に実施され、西側の影響網を回避した「もう一つの国際秩序」が現実になりつつある。


図表2:SCOと西側の比較(2025年)

項目SCO加盟国西側(日米欧)
世界人口割合約40%約30%
世界GDP割合約25%約50%
資源支配率(石油)約30%約20%
政治体制傾向権威主義・非自由主義民主主義


🔳インド外交の揺れと西側への警告
 
31日、中国・天津市で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席

インドのモディ首相は、天津で「戦略的自律」を強調し、中国との協力強化を通じて地域安定を模索した。しかし、『Foreign Policy』誌はインドのこの姿勢を「米国や民主主義陣営との関係を危うくしかねない」と警告している (foreignpolicy.com)。

さらにインドはSCOの共同声明署名を拒否した。声明がテロ問題に対し中国・パキスタン寄りであることを理由としたもので、SCOが形成しようとする新秩序が西側価値を軽視していることを浮き彫りにした (economictimes.indiatimes.com)。

天津サミットは「権威主義国家連合」が世界秩序の書き換えを進める試みであり、これがもたらす未来は民主主義陣営にとって破滅的だ。西側が対抗戦略を持たずにいることは許されない。自由・法治・人権を基盤にした秩序を守る責務は、今この瞬間に突き付けられている。

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