2024年7月3日水曜日

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相―【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相

まとめ
  • 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁によるキングメーカー争いの様相を呈している。
  • 菅氏は「非主流派」「脱派閥」の立場から、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を検討している。
  • 麻生氏は岸田政権の「主流派」として、岸田首相の再選を支持する可能性が高いが、状況次第で茂木敏充や河野太郎を推す可能性もある。
  • 今回は「派閥なき総裁選」となるため情勢が読みにくいが、菅氏と麻生氏が大きな影響力を持つと見られている。
  • 党内には、総裁選による政局イメージを懸念する声もある。


 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁という2人の元首相によるキングメーカー争いの様相を呈している。

 菅氏は「非主流派」の中核として反岸田の姿勢を鮮明にし、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を見定めている。菅氏は「非主流派」「脱派閥」を条件に候補者を検討しており、派閥パーティー収入不記載事件の責任を岸田首相に求めている。

 一方、麻生氏は岸田政権の「主流派」の要として、まず岸田首相の再選を支持する可能性が高い。ただし、麻生氏と岸田首相の関係にはすきま風も吹いており、岸田首相が出馬を断念した場合は茂木敏充幹事長や河野太郎デジタル相を推す可能性もある。

 今回の総裁選は「派閥なき総裁選」となるため情勢が読みにくいが、菅氏と麻生氏が大きな固まりを動かせる唯一の人物とされている。菅氏には無派閥議員を中心とした支持者がおり、麻生氏は麻生派の一定数を動かすことができる。

 この状況下で、党内からは政局に走る自民党のイメージを懸念する声も上がっている。

【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

まとめ
  • 菅氏は加藤勝信氏を、麻生氏は岸田首相を推す可能性が高い。
  • 岸田氏や加藤氏が総裁になっても、政治資金問題や現政権との連続性から支持率回復は難しい。
  • 高市早苗氏は総裁選に向けて活動を活発化させているが、「高市つぶし」を警戒している。
  • 高市氏が総裁になれば、保守層の支持回復や女性首相としての象徴性から支持率上昇の可能性がある。
  • 高市氏の総裁就任には麻生氏の支持が重要で、両者の政策スタンスの類似性から支持の可能性はなきにしもあらずと言う状況にあるといえる。


上の記事の中で、菅氏が次期総裁として検討しているとみられる人物のうち、石破茂氏は時々の政権をマスコミなどで批判し続けてきたため、多くの自民党議員から蛇蝎のごとく嫌われており、そもそも総裁選に必要な推薦人を集められない可能性が高いです。

小泉進次郎氏、自民党内ではその能力に疑問符をつけられることが多いこと、さらに父親の元首相小泉純一郎氏が息子の小泉進次郎氏に対して、50歳を過ぎてから首相を目指すよう助言していることから、進次郎氏は出馬しない可能性が高いです。

そのようなことから、菅氏が実際に推すのは、加藤勝信氏になるとみられます。

加藤勝信

麻生氏が検討しているとみられる人物は、岸田首相、茂木氏、河野太郎氏です。まず、茂木敏充氏は、写真的記憶力を持ち、政策通として高い能力を評価されています。しかし、党内での人望に課題があるとされ、その例として2022年の小渕優子氏の茂木派離脱が挙げられます。

「冷たい」「人間味に欠ける」といった評価もあり、これが党内での人間関係構築を難しくしているとされます。政策面での能力は高く評価されるものの、対人関係のスキルや党内での調整力、合意形成能力には批判的な見方が支配的です。

一方、麻生太郎氏が河野太郎氏を総裁候補として推す可能性は低いと考えられます。河野氏のファミリー企業の中国との関係や、内閣府のタスクフォースでの中国企業関連の資料問題は、安全保障や経済安全保障の観点から重大な懸念事項となっています。

麻生氏は対中政策に慎重な立場を取ることが多く、台湾有事は日本有事という発言もしています。これらの問題は河野氏の適性に疑問を投げかけるものです。また、麻生氏は岸田政権の「主流派」の要であり、現状の党内バランスを維持することを重視する可能性が高いです。

さらに、これらの中国関連の問題は政治的リスクが大きく、総裁選や将来の総選挙での攻撃材料となる可能性があります。これらの要因を考慮すると、麻生氏は河野氏を総裁候補として推すことを避ける可能性が高いと言えるでしょう。

そうなると、岸田氏を再び推すということになる可能性があります。しかし、岸田氏ということになれば、全く新味もなく、支持率が低下し続けることが予想されます。

岸田氏と加藤氏のいずれが総裁になっても、自民党政権の支持率回復は難しい可能性があります。その主な理由として、政治資金問題による党全体の信頼低下が挙げられます。

また、両氏とも現政権との連続性が強く、抜本的な変革を期待することは難しいでしょう。経済政策や社会保障改革などの重要課題で目立った成果が上がっていないことも、支持率回復の障害となるでしょう。

さらに、有権者の間では政治の世代交代を求める声が強まっていますが、両氏は既存の政治体制の中核にいる人物であり、この期待に応えるのは難しいでしょう。複雑化する国際情勢への対応も課題です。これらの要因により、単なる総裁交代では支持率の大幅な回復は見込みにくいと考えられます。

岸田首相

一方高市早苗経済安全保障担当相は、9月の自民党総裁選に向けて活動を活発化させていますが、同時に「高市早苗つぶし」を強く意識しています。朝日新聞が高市氏の総裁選出馬の意向を報じたことに対し、高市氏は未だ総裁選出馬を正式には表明しておらず、X(旧ツイッター)で「『高市早苗つぶし』が目的」と猛反発しました。

これは、当然のことといえます。岸田首相の進退が決まらないと、その次のアクションは起こしにくい状況です。自民党には総理を支える立場にある現職閣僚と党役員は総裁選に出馬しないという不文律があり、これに反する行為は総裁選での自らの立場を危うくする可能性があるからです。

岸田首相が辞任を決めた場合、高市氏は現職のまま総裁選に出馬できる可能性が高まります。岸田首相が辞任しない場合で、高市氏が総裁選に出馬する意向ならば、総裁選の前に大臣を辞任することで、出馬の道が開けます。

高市氏が総裁になった場合、他の候補と比較して自民党の支持率上昇につながる可能性が高いと考えられます。高市氏の保守的な政策スタンスは、自民党が失った保守岩盤層の支持を取り戻す強力な武器となるでしょう。また、日本初の女性首相となる可能性は、新鮮さと象徴性をもたらし、幅広い層からの支持を集める可能性があります。

さらに、高市氏のマクロ経済への深い理解は、日本経済の回復を導く可能性があります。これは、経済政策の明確さと実効性という点で、他の候補との差別化につながるでしょう。高市氏の経済安全保障や外交政策での明確な立場と相まって、有権者の期待に応える可能性が高まります。

現政権との一定の距離感から、高市氏の総裁就任は政治の刷新を求める有権者の期待に応える可能性も高く、これらの要因が複合的に作用して、他の候補よりも効果的に自民党支持率の上昇につながると予想されます。特に、経済回復への期待が高まれば、より広範な支持を集める可能性があります。

高市氏が総裁になった場合、自民党の支持率上昇につながる可能性が他の候補と比較して高いと考えられます。高市氏の保守的な政策スタンスは、失われた保守岩盤層の支持回復に寄与するでしょう。また、日本初の女性首相となる可能性は、新鮮さと象徴性をもたらし、幅広い層からの支持を集める可能性があります。

高市氏のマクロ経済への深い理解は、日本経済の回復を導く可能性があり、これは経済政策の明確さと実効性という点で他の候補との差別化につながります。さらに、高市氏の経済安全保障や外交政策での明確な立場は、有権者の期待に応える可能性が高いでしょう。

高市早苗氏

特筆すべきは、高市氏が政局に走る自民党のイメージを払拭できる可能性が高いことです。高市氏の政策重視の姿勢と、経済回復や安全保障強化などの具体的な課題への取り組みは、党内外から政策本位の政治への回帰として評価される可能性があります。これにより、自民党が政局よりも国民生活の向上に注力しているという印象を強めることができるでしょう。

現政権との一定の距離感も相まって、高市氏の総裁就任は政治の刷新を求める有権者の期待に応える可能性が高く、これらの要因が複合的に作用して、他の候補よりも効果的に自民党支持率の上昇につながると予想されます。経済回復への期待と政策重視の姿勢が明確になれば、より広範な支持を集める可能性が高まるでしょう。

高市氏が総裁になれる可能性は、麻生氏もしくは菅氏の支持が重要な要素となります。両氏は自民党内で大きな影響力を持つ重要な政治家であり、その支持は高市氏の総裁選での立場を大きく強化する可能性があります。

特に、現状では麻生氏のほうが、高市氏を指示する可能性が高いと考えられます。両者は保守的な政策スタンス、特に経済政策や安全保障政策において類似した見解を持っており、これが支持の基盤となる可能性があります。

麻生氏は自民党内で大きな影響力を持つ重要な政治家であり、高市氏を支持することで現状の党内バランスを維持しつつ、自身の影響力を保持できる可能性があります。また、麻生氏は世代交代や党のイメージ刷新の必要性を感じており、高市氏の支持はこれらの課題に対応する手段となり得ます。

さらに、女性リーダーの登用が課題となっている中、高市氏への支持は党の多様性推進をアピールする機会にもなるでしょう。これらの要因が複合的に作用し、麻生氏が高市氏を支持する可能性は無きにしもあらずの状況だと思われます。

麻生太郎氏には、自民党の将来と日本の政治の方向性を見据えた賢明な判断を期待します。高市早苗氏への支持を検討する際には、党内の力学だけでなく、国民の期待や国際情勢も考慮に入れるべきです。

麻生氏の豊富な政治経験と先見性を活かし、自民党の刷新と国益に資する選択をすることが望まれます。この判断が、政治の信頼回復と日本の持続的な発展につながることを期待します。麻生氏の決断は、単なる党内の人事を超えて、日本の未来を左右する重要な意味を持つことを強調したいと思います。

【関連記事】

「ポスト岸田」世論調査で〝大異変〟高市氏が2位に急浮上 トップ石破氏「『女系天皇』検討発言」の波紋 菅氏は「新リーダー」に期待―【私の論評】自民党総裁選の行方: 石破茂氏と高市早苗氏の勝算を徹底分析 2024年6月25日

解散見送りで窮地の岸田首相〝一発逆転ホームラン〟時間稼ぎの策とは 会期大幅延長できなければ「総裁選」再選の目はほぼない―【私の論評】大胆な経済対策と官僚支配からの脱却が岸田政権の最大の起死回生策 2024年6月9日

2024年は世界的な「選挙イヤー」 各国で大型選挙が目白押し―【私の論評】世界各地で保守派の台頭が進む!日本でも「保守派の反乱」で高市自民総裁誕生か? 2024年1月5日

高市氏「勉強会」13人参加 異例...総裁選へ基盤作りか―【私の論評】保守派の新たな光明!高市氏の挑戦が期待感を掻き立てる(゚д゚)! 2023年11月16日

石破氏、自民党内でこれだけ嫌われるワケ 「後ろから鉄砲を撃つ」「裏切り者」「言行不一致」―【私の論評】石破氏だけは、絶対に日本の総理大臣にしてはいけないその理由(゚д゚)! 2020年9月1日


2024年7月2日火曜日

フィリピンの女性市長に「中国のスパイ」疑惑 指紋で別人と判明、中国人の可能性が高く―【私の論評】日本の国家安全保障危機:高市早苗氏の総裁選出が鍵となる理由と課題

フィリピンの女性市長に「中国のスパイ」疑惑 指紋で別人と判明、中国人の可能性が高く

まとめ
  • フィリピン北部バンバン市のアリス・グォ市長が「中国のスパイ」である疑惑が浮上し、捜査当局は市長が実際には中国人である可能性が高いと指摘している。
  • 市長の指紋が別の中国人女性のものと一致し、その女性は2003年にフィリピンに入国した1990年生まれの福建省出身者とされている。
  • バンバン市のカジノ賭博組織による女性の監禁が発覚し、市長は違法なオンライン賭博や人身売買への関与の疑いで告発され、職務停止命令を受けている。

フィリピン・バンバン市 アリス・グォ市長

 バンバン市のアリス・グォ市長が「中国のスパイ」である疑惑が浮上した。捜査当局は、グォ市長が実際には中国人である可能性が高いと指摘している。この疑惑は、市内のカジノ賭博場の摘発をきっかけに発生した。

 グォ市長は、父が中国人で母がフィリピン人メイドだったと主張し、非嫡出子として育てられたため証明書がないと釈明した。しかし、捜査当局は市長の指紋が別の中国人女性のものと一致したと発表。その女性は2003年にフィリピンに入国し、1990年に福建省で生まれたとされている。

 さらに、バンバン市のカジノ賭博組織が数百人の女性を監禁していたことも発覚。大統領府直轄の組織犯罪対策委員会は、市長らが違法なオンライン賭博や人身売買に関与した疑いがあるとして告発した。グォ市長は現在、職務停止命令を受けている。

 この事件は、南シナ海の領有権問題で中国と対立を深めるフィリピンの政治的緊張の中で起きており、国家安全保障の観点からも注目されている。

【私の論評】日本の国家安全保障危機:高市早苗氏の総裁選出が鍵となる理由と課題

まとめ
  • フィリピンと中国の対立は南シナ海の領有権と海洋権益をめぐる争いが主因であり、中国の軍事拠点化や威圧的行動が緊張を高めている。その最中におきたスパイ疑惑事件は、安保の観点から多くの懸念をひきおこしている。
  • 日本の国家安全保障は中国、ロシア、北朝鮮、イランなどからの深刻な脅威に直面しており、これまでの個人の権利重視の姿勢が国家の安全を脆弱にしている。
  • 高市早苗氏は日本の安全保障強化に向けた包括的な対策を主張しており、スパイ防止法の制定や外国の影響力排除のための法整備、国民の安全保障意識向上を推進している。
  • 現行のセキュリティ・クリアランス制度には適用範囲の限定や性行動規定の欠如、定期的再審査の不十分さなどの欠点があり、これらは日本の安全保障に対する認識の甘さから生じている。
  • 今秋の自民党総裁選は日本の安全保障政策の分岐点となる可能性が高く、高市氏の選出が日本の独立国家としての地位回復と国際的発言力強化につながる可能性がある。

フィリピンと中国の対立は主に南シナ海における領有権と海洋権益の争いに起因しています。中国が南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張し、フィリピンの排他的経済水域も含む広範な海域を自国の勢力圏としようとしていることが、対立の核心です。

この海域には豊かな漁場があり、石油や天然ガスなどの資源も存在する可能性があるため、両国の利害が衝突しています。さらに、中国が島々や岩礁を軍事拠点化していることや、フィリピン船に対する威圧的な行動を取っていることも、緊張を高めています。

フィリピンは国際法に基づいて自国の権利を主張していますが、中国はこれを無視する姿勢を示しており、両国の対立は深刻化しています。

こうした中で、発生したこの事件は、国家安全保障の観点から複数の懸念を引き起こしています。フィリピンの地方政治への外国の影響力浸透、機密情報の流出リスク、そして組織犯罪との関連など、国家の意思決定や治安に対する重大な脅威となり得ます。

多くの民主国家がスパイ対策を強化していますが、その効果は一様ではありません。例えば、オーストラリアは2018年に外国干渉透明性スキーム法(FITS)を制定し、外国の影響力活動に対する透明性を高めようとしました。この法律では、外国政府や政治組織のために活動する個人や団体に登録を義務付け、その活動を公開することを求めています。

しかし、最近の議会審査によると、FITSは「意図した目的を達成できなかった」と結論づけられています。登録サイトへのアクセスは少なく、多くのオーストラリア人がその存在を知らないという問題があります。さらに、複雑な登録要件が言論の自由を抑制し、通常の国際交流を妨げる可能性も指摘されています。

一方で、FITSとは別に、オーストラリアが2020年に設立した国家情報局(ONI)は、情報機関間の連携強化に一定の成果を上げています。ONIは、複数の情報源からの情報を統合し、より包括的な脅威評価を可能にしています。これにより、外国の影響力活動をより効果的に特定し、対応する能力が向上したと言えます。

このように、スパイ対策の強化は複雑な課題であり、単一の法律や機関で完全に解決することは困難です。オーストラリアの経験は、透明性を高めるだけでなく、情報機関の能力強化や、国民の認識向上など、多面的なアプローチの必要性を示唆しています。フィリピンを含む他の国々も、これらの教訓を踏まえつつ、自国の状況に適した対策を検討する必要があるでしょう。

日本の国家安全保障は今、極めて深刻な危機に直面しています。中国、ロシア、北朝鮮、イランなどの敵対的国家からの脅威は、もはや看過できないレベルに達しています。これまで日本は、個人の権利や報道の自由を過度に重視するあまり、国家の存続と国民の安全を軽視してきました。この結果、我が国は外国のスパイ活動や影響力行使に対して極めて脆弱な状態に陥っています。

日本の国家安全保障は、実際には深刻な脅威に直面しています。蓮舫氏の事例は氷山の一角に過ぎず、政治家の二重国籍問題は、外国の影響力が日本の政策決定に直接介入する経路となり得ます。

蓮舫氏

帰化した政治家も、長期的な忠誠心を保証することは難しく、外国政府の影響下で重要な意思決定に関与する危険性があります。

さらに、外国資本や影響力がメディアに浸透することで、世論操作や情報操作のリスクが高まっています。地方自治体は中央政府ほどの厳格なセキュリティ対策を取れていないため、外国の影響力が浸透しやすい弱点となっています。

また、政府機関や重要インフラのデジタル化が進む中、外国籍者や二重国籍者がこれらのシステムにアクセスできる立場にいる場合、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが著しく高まります。

これらの問題は日本の国家安全保障に対する深刻な脅威となっており、現状の法制度や管理体制では十分に対応できていない可能性が高いため、スパイ防止法を制定するなどの早急な対策が必要です。

このような危機的状況を打開し、日本の安全保障を抜本的に強化できる政治家は、現在の総裁候補と目される人の中では高市早苗氏しかいないと言えます。高市氏は、国家安全保障を最優先課題として位置づけ、包括的かつ厳格なスパイ防止法の制定、外国の影響力排除のための強力な法整備、そして国民の安全保障意識の向上を強く主張しています。

特筆すべきは、高市氏が本年導入が決まったセキュリティ・クリアランス制度の実現に尽力したことです。この制度は、機密情報にアクセスする人物の背景チェックを強化し、政府機関や重要インフラにおける人員の信頼性確認に大きく寄与しています。

ただ、現行のセキュリティ・クリアランス制度には重要な欠点があります。適用範囲が政府機関の一部と防衛産業に限定されており、重要インフラや地方自治体、メディアなどが含まれていません。

また、性行動に関する規定が欠如しており、「ハニートラップ」などのスパイ活動に対して脆弱です。さらに、定期的な再審査の仕組みも不十分です。これらの欠点が見逃された背景には、日本の安全保障に対する認識の甘さがあります。

これに関しては、岸田内閣の閣僚の一人でもある高市氏としては岸田首相や他の閣僚などの考えを無視するわけにもいかず、いかんともしがたかったのでしょう。長年、深刻な脅威に直面してこなかったという誤った認識や、プライバシーへの過度な配慮、組織文化などが影響しています。

高市早苗氏

しかし、元々日本には存在しなかった制度ができたということでは、間違いなく一歩前進です。その面では、高市氏を評価することができるでしょう。

高市氏が総裁に選出されれば、これらの欠点を早期に解消し、より包括的で実効性の高い制度を構築する可能性が高いと期待されます。これは日本の国家安全保障の強化につながるでしょう。

今秋の自民党総裁選は、日本の安全保障政策の分岐点となる可能性が極めて高いです。高市氏が総裁に選出されれば、日本は真に独立国家としての地位を取り戻し、国際社会における発言力を強化できる可能性があります。一方、他の候補者が選出された場合、これまでの脆弱な安全保障体制が継続し、日本の主権と安全が著しく損なわれる危険性が高まります。

国家の存続と国民の安全を守るため、今こそ高市氏のような強い意志と実績を持つリーダーが必要不可欠です。今秋の総裁選の結果が、日本の未来を大きく左右することは間違いありません。

【関連記事】

「ポスト岸田」世論調査で〝大異変〟高市氏が2位に急浮上 トップ石破氏「『女系天皇』検討発言」の波紋 菅氏は「新リーダー」に期待―【私の論評】自民党総裁選の行方: 石破茂氏と高市早苗氏の勝算を徹底分析 2024年6月25日

解散見送りで窮地の岸田首相〝一発逆転ホームラン〟時間稼ぎの策とは 会期大幅延長できなければ「総裁選」再選の目はほぼない―【私の論評】大胆な経済対策と官僚支配からの脱却が岸田政権の最大の起死回生策 2024年6月9日

内閣府の再エネタスクフォース資料に中国企業の透かし 河野太郎氏「チェック体制の不備」―【私の論評】再エネタスクフォースにおける中国企業関与の問題:情報漏洩の深刻なリスクと政府のすべき対応 2024年3月24日

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ―【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響 2024年5月11日

「X国の独裁者の親族」米国防総省、30代女性を「機密」資格で失格に 金正恩氏と血縁か―【私の論評】日本で早急にセキュリティークリアランス制度を導入すべき理由 2024年5月6日


2024年7月1日月曜日

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府―【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

実質GDP、年2.9%減に下方修正 1~3月期、基礎統計の訂正で 内閣府


 内閣府は1日、2024年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)を下方修正し、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.7%減(従来0.5%減)、この成長が1年続いた場合の年率換算で2.9%減(同1.8%減)と発表した。  GDPの基礎統計である「建設総合統計」を国土交通省が訂正したことを反映した。

  修正の結果、公共投資は前期比1.9%減(同3.0%増)の下落。住宅投資は2.9%減(同2.5%減)となった。 

【私の論評】2024年日本経済の岐路:高圧経済とNAIRUから見る積極的財政・金融緩和政策の必要性

まとめ
  • 2024年1~3月期のGDPマイナス成長は金融政策の後退と財政政策の緊縮化が主因
  • 安倍・菅政権時の100兆円規模の財政出動(国債発行と日銀引受)により日本経済はコロナ禍でも毀損されなかった。
  • しかし、岸田政権下での財政緊縮化が経済成長を妨げている
  • 積極的な金融緩和と財政出動の継続が経済改善に必要不可欠
  • 次期自民党総裁選は日本の経済政策の方向性を決める重要な分岐点となる

2024年1~3月期のGDPマイナス成長の主な原因は、金融政策の後退と財政政策の緊縮化によるものといえます。
安倍政権と菅政権時代に実施された大規模な財政出動、特に100兆円規模の補正予算は、リフレ派から高く評価されています。この100兆円の内訳は、安倍政権下で60兆円、菅政権下で40兆円となっています。この大規模な財政出動の特筆すべき点は、その財源として増税ではなく、国債発行を選択したことです。さらに、発行された国債を日本銀行が引き受けるという形で実施されました。これは、金融政策と財政政策の協調を体現した大胆な政治決断でした。

この政策は、経済に対して即効性のある刺激を与え、デフレマインドの払拭に貢献したといえます。特に、コロナ禍による経済的打撃を緩和し、雇用の維持や企業の存続を支援する上で重要な役割を果たしました。また、この大規模な財政出動は、単なる景気対策にとどまらず、将来の経済成長の基盤を整備する投資的な側面も持っていたといえます。
岸田政権下では財政政策の方向性が変化し、緊縮的な姿勢が強まりました。公共投資の減少や増税への懸念が、経済成長を妨げる要因となっています。ただし、岸田政権の初期には、先の100兆円の補正予算の効果が継続していたため、経済は悪化していなかったものが、その効果はなくなり、最近では経済が悪化したといえます。
現在の経済状況を改善するために、積極的な金融緩和の継続と拡大、大規模な財政出動、特に公共投資の増加、増税ではなく経済成長による税収増加を目指す政策、規制緩和や成長戦略の加速をすべきです。これらの政策を通じてデフレマインドを払拭し、企業や個人の期待を改善することで、経済成長を促進できるでしょう。

これは、高橋洋一氏かよく用いる、マクロ政策・フィリップス曲線を用いて分析するとより良く理解できます。フィリップス曲線とは、インフレ率と失業率の間の逆相関関係を示す経済理論です。適度なインフレーションは、雇用を増加させ、経済成長を促進します。



NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要です。一般的に、インフレ率と失業率は逆相関であり、NAIRUを達成する最小のインフレ率をインフレ目標に設定するからだ。ここから導かれる金融政策は、失業率がNAIRUに達するほど低くない場合、インフレ率もインフレ目標に達しないので金融緩和、失業率がNAIRUに達すると、その後はインフレ率がインフレ目標よりも高くなれば金融引き締めというのが基本動作といえます。

現在、インフレ目標物価より物価高ではあるものの、その原因は海外由来のエネルギー価格や資源価格の高騰によるものです。直近の2024年5月のコアCPIは前年比+2.5%、電気代などが押し上げているものとされています。コアコアCPIの数値だけをみれば、インフレ目標は達成しているようにもみえます。しかし、ここでこの数値だけでは、金融政策をどうするのか判断するのは難しいです。

であれば、ここでは失業率に着目すべきでしょう。労働力調査(詳細集計)2024年(令和6年)1~3月期平均 日本全国での就業者数が前年同期に比べて38万人増加し、6723万人となりました。 一方で完全失業者数は175万人と前年同期から2万人減少し、完全失業率は2.5%と0.1ポイントの低下を見せています。現在2%半ばの水準を保っているわけですが、ここで緊縮財政や金融引き締めをすれば、失業率が上がる懸念があるのです。

そのため、積極的な財政・金融政策を継続すべき状況にあるといえます。インフレ率が高めでも、雇用が安定していれば、このような政策をとることを経済理論では「高圧経済」と呼びます。いまはまさに、高圧経済を実施すべきといえます。現時点で、インフレ率が2.5%だから、すぐに金融引き締めということになれば、失業率があがることになるでしょう。インフレ率が4%を超え、失業率が上がり始めた場合は、金融引き締めのサインとみなすべきでしょう。

ただし、円安で輸出産業は業績が良く、輸出産業は優良大企業が多いため、円安で国全体では、経済が成長することになります。ただし、国内産業、輸入産業は苦戦をしいられている状況です。であれば、積極財政として国内・輸入産業を支援する政策や、消費税減税を含む減税や、物価高対策などをすべきです。

安倍・菅政権のときのように財政赤字を恐れずに積極的な経済政策を展開することが、国民生活の豊かさと税収の増加、さらには科学技術や教育、国防、福祉国家の強化・発展につながることになります。このような政策転換によって、日本経済が再び成長軌道に乗り、国民所得の増加や完全雇用の達成が可能になります。

また、経済政策を歴史から学ぶことも重要です。過去の成功事例や失敗事例を分析し、現在の経済状況に適用することで、より効果的な政策立案が可能です。過去には、現状のように需給ギャップが存在し、需要が低迷しているときに、金融引き締めや緊縮財政をして成功した事例はありません。あれば、財務省はこれを華々しく喧伝し、緊縮財政すべきことの根拠としていることでしょう。このような歴史的視点も含め、現在の経済政策の転換をすべきなのです。

上で述べたようなことを理解しているのは、現在総裁候補者といわれる政治家の中では高市早苗氏くらいです。高市氏は、大規模な金融緩和や積極的な財政政策、さらには「高圧経済」の考え方などを支持しています。


次の自民党総裁選は、このような経済政策の方向性を決める上で極めて重要な意味を持ちます。金融政策の方向性、財政政策の規模、構造改革の推進、インフレ目標の扱い、NAIRUに基づく政策運営など、多くの重要な経済課題が争点となる可能性があります。

高市氏のような政治家が総裁に選出されれば、積極的な経済政策が継続される可能性が高くなります。一方、異なる経済観を持つ政治家が選出された場合、政策の方向性が大きく変わる可能性があります。

このように、次の総裁選の結果は、日本の経済政策の方向性を決定し、ひいては日本経済の将来に大きな影響を与えることになります。したがって、この総裁選は単なる政治的イベントではなく、日本の経済の行く末を左右する重要な分岐点となります。

【関連記事】

「ポスト岸田」世論調査で〝大異変〟高市氏が2位に急浮上 トップ石破氏「『女系天皇』検討発言」の波紋 菅氏は「新リーダー」に期待―【私の論評】自民党総裁選の行方: 石破茂氏と高市早苗氏の勝算を徹底分析 2024年6月25日

「リパトリ減税」効果は期待薄 円安対策として注目も…「30万円還元」や「消費税ゼロ」など本格対策からの目くらましだ―【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は? 2024年5月14日

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相―【私の論評】高市早苗氏の可能性と麻生太郎氏の影響力 - 党支持率回復への道

菅前首相と麻生副総裁、自民総裁選は首相経験者2人によるキングメーカー争いの様相 まとめ 9月の自民党総裁選は、菅義偉前首相と麻生太郎副総裁によるキングメーカー争いの様相を呈している。 菅氏は「非主流派」「脱派閥」の立場から、石破茂、加藤勝信、小泉進次郎らの中から次期総裁候補を検討...