2024年3月30日土曜日

フィリピンの先例警戒、中国が電力支配 40%株式保有、送電止める危険 米軍基地抱える日本も〝脅威〟再エネに中国の影・第5弾―【私の論評】エネルギー武器化の脅威:ドイツのノルドストリーム問題と中国のフィリピン電力網支配

 ニュース裏表

フィリピンの先例警戒、中国が電力支配 40%株式保有、送電止める危険 米軍基地抱える日本も〝脅威〟再エネに中国の影・第5弾

まとめ
  • 内閣府の再生可能エネルギー規制見直しタスクフォースに中国の国営電力会社のロゴ入り資料提出問題が発生
  • 議会や第三者機関の調査が必要性が議論される
  • パワーポイントの事務ミスとされた説明に疑問が浮上
  • 中国国営電力会社がフィリピンの電力網に関与し、国家の安全保障にリスクをもたらす可能性が指摘されている
  • 事務的ミスだけでなく、地政学リスクも含めた原因究明が必要との主張
フィリピンのアヨロ元大統領

 内閣府の再生可能エネルギー規制見直しのタスクフォースで、民間構成員が提出した資料の一部に中国国営電力会社「国家電網公司」のロゴマークが入っていたことが発覚した問題が収まらない。

 エネルギー政策は国家の存立に関わる重要課題であり、他国の干渉は決して許されない。林芳正官房長官は内閣府による調査を言明したが、議会や第三者機関による調査の必要性も指摘される。

 内閣府は、過去のシンポジウム資料を編集ソフトで引用する際に誤ってロゴが残ったと説明し「事務ミス」と釈明した。しかし、使用ソフトの食い違いなど内閣府説明に矛盾が見られ、調査が不十分との指摘がある。

 キーポイントは、国家電網公司がフィリピンの送電網の40%の株式を保有し、フィリピン議会が同社の関与を「国家安全保障上のリスク」と警告していることである。有事の際、中国がフィリピンの電力を遮断し、米国の同盟国に影響を及ぼす可能性がある。

 日本も米国の同盟国であり、国家電網公司を介した同様の電力遮断リスクを無視できない。経済安全保障推進法で電力は「特定社会基盤事業」と位置付けられており、内閣府は国家安全保障の観点から徹底した原因究明が求められる。単なる「事務ミス」では済まされない重大問題と考えられる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】エネルギー武器化の脅威:ドイツのノルドストリーム問題と中国のフィリピン電力網支配

まとめ
  • ドイツがロシアからの天然ガス輸入に過度に依存し、ノルドストリームパイプラインを建設したことでロシアにエネルギーを武器化される結果となった。
  • トランプ大統領はかねてからドイツのロシア依存を警告していたが、ドイツはその警告を無視した。
  • ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアはノルドストリームの供給を止め、ドイツにエネルギー危機をもたらした。
  • 中国の国営電力会社が、フィリピンの送電網の40%を支配下に置いており、有事の際の電力遮断が危惧されている。
  • ポンペオ元国務長官の提唱した「エネルギードミナンス」の理念に反するものであり、日本を含む同盟国はエネルギー安全保障を重視すべきである。
今回の問題は、ドイツのノルドストリームの問題を想起させるものです。

ノルドストリームは、ロシアからドイツへの天然ガス輸送路でした。ドイツはエネルギー安全保障上の懸念があったものの、ロシアとの経済的つながりを重視し、パイプライン建設を進めました。

ノルドストリーム


しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアはノルドストリームの供給を実質的に止め、ドイツにエネルギー危機をもたらしました。結果的に、ロシアはエネルギーインフラを武器化し、ドイツを脅かすカードを手に入れたことになります。

2018年6月、国連での演説でトランプ大統領は、ドイツがロシアからの天然ガス輸入に過度に依存していることを批判しました。「ドイツはロシアに捕らわれている」と厳しい言葉を投げかけました。しかし当時、ドイツ側はこの批判を一蹴するようなスタンスでした。国連での当時のドイツの代表団はトランプ大統領の批判に対して嘲笑していました。(下の動画はそのときのもの)



その後、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアはノルドストリーム1号線の供給を停止。さらに9月にはノルドストリーム1号線の送管施設が破壊される事態となりました。一方で、ノルドストリーム2号線は未稼働でした。

結果としてドイツはロシア天然ガスへの依存からの脱却を余儀なくされ、代替調達などで一定の対応はとれたものの、深刻なエネルギー危機に見舞われることになりました。

つまり、トランプ大統領が4年前に警告していた、ロシアへの過度な依存がドイツのエネルギー安全保障を脅かすリスクが、現実のものとなりました。

同盟国からの警告を蹴り続け、結果としてロシアの人質になってしまったドイツの姿勢は、強く糾弾に値します。エネルギー政策が国家安全保障上の重大な影響を及ぼし得ることは、この事態で裏付けられた。トランプ大統領の発言は完全に正しかったと言えます。

ドイツのようないい加減な態度は許されないです。エネルギーを切り口とした経済安全保障は、国家存亡の問題に直結します。日本を含む同盟国は、このドイツの過ちを肝に銘じ、エネルギー安全保障を何より優先すべきです。

今回の問題でも、中国の国営電力会社「国家電網公司」がフィリピンの送電網の40%の株式を保有していることが分かりました。フィリピン議会は、この中国企業の関与を「国家安全保障上の重大なリスク」と指摘しています。

つまり、有事の際に中国が国家電網公司を介してフィリピン全土での電力供給を遮断する可能性があり、米国の同盟国であるフィリピンを事実上「人質」に取れる状況になっているのです。

さらに、日本も米国の同盟国であり、今後、中国が同様の電力インフラ支配を試みるリスクは決して無視できません。経済安全保障推進法で電力は「特定重要インフラ」に指定されていますから、内閣府はこの問題の重大性を認識し、徹底した原因究明と再発防止策を講じる必要があります。

エネルギーインフラを外国資本に支配された結果、相手国に武器化される恐れがあるという点で、ノルドストリームと本件には強い類似性があります。日本を含む同盟国はこの教訓を肝に銘じ、エネルギー安全保障を重視すべきだという指摘です。単なる「ミス」で済ますにはリスクが大き過ぎます。

前米国務大臣ポンペオ氏

トランプ政権時代の国務長官だったポンペオ氏は、エネルギー資源をめぐる覇権争いが今後も激しくなると見て、同盟国と連携しつつエネルギー供給網を確保する「エネルギードミナンス」戦略を推進しました。その核心には、エネルギーを武器化せず、相互に共有し合う考え方があります。

具体的には、シェール革命で増えた米国の化石燃料を活用し、ロシアや中東、中国への過度な依存を避ける多角的なエネルギー供給網の構築が目指されました。エネルギー獲得競争で中露などに主導権を渡さず、同盟国と協調してエネルギーセキュリティーを確保するという発想です。

一方の中国は、国家主導でエネルギー資源の確保に注力してきました。「一帯一路」構想の下、世界各地の発電・送電インフラに進出し、エネルギー供給網の支配を企てています。今回のフィリピン送電網支配はその一環と見られています。

エネルギードミナンスの理念に従えば、このような一国による供給網支配は許されません。エネルギーを武器化して同盟国を従わせるような行為は、グローバルなエネルギーセキュリティーを著しく揺るがすものです。

つまり、中国が国家電網公司を介してフィリピンの電力網を事実上支配下に置いた今回の事態は、エネルギードミナンス理念に真っ向から反するものです。有事の際に中国がフィリピンの電力を遮断すれば、米国の同盟国であるフィリピンは瞬時に麻痺してしまいます。このようにエネルギーを武器化する行為は、許容できる範疇を超えています。

したがって内閣府は、単なる「ミス」では済まされません。国家の存亡に関わるエネルギー安全保障の視点から、今回の問題の実態と国家電網公司の関与の有無を徹底的に調査し、再発防止に全力を注ぐべきなのです。

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