2024年3月12日火曜日

「中国軍は見掛け倒し」 不正横行、ずさんな兵器管理―インド軍元中将インタビュー―【私の論評】中国軍の実力不足が露呈、台湾侵攻は地理的に極めて難しい理由

「中国軍は見掛け倒し」 不正横行、ずさんな兵器管理―インド軍元中将インタビュー

まとめ
  • 中国は国防予算を7.2%増やし、軍拡を進めているが、実際の兵器は粗悪で不正や管理の不備が横行していると、ラビ・シャンカル元インド陸軍中将が指摘。
  • 大規模演習でのミサイルの誤作動や、中国製兵器の輸出先での不具合が問題視されている。
  • 多くの中国軍高官が昨夏以降、汚職により失脚し、後任の選定は政治的な要素が重視されている。
  • 中国軍は実戦経験が不足し、人事の選定が能力よりも政治的な要素を重視しているため、新しい兵器の運用に必要な知識と経験が不足している。
  • 中国軍は連鎖的な戦争に懸念を抱いており、特に米国と協力する形で、インドが国境地帯で軍事活動を開始すれば、中国は対処できない可能性があると述べられている。

インド陸軍中将時代のラビ・シャンカル氏

 中国軍の動向を研究してきたラビ・シャンカル元インド陸軍中将が時事通信のオンラインインタビューで述べたところによれば、習近平政権は今年の国防予算を前年比7.2%増の急増させ、軍拡を進めているが、その一方で不正や管理の不備が軍内に横行しており、兵器の品質が粗悪であるとの指摘がなされている。中国軍は外部に対しては力強く見えるが、実際はその実力に見合わないとの見解を示した。

 続けて、中国軍の兵器管理のずさんさが問題視され、昨年の大規模演習でのミサイルの誤作動や、中国製兵器が他国での運用においても問題が発生していることが挙げた。また、中国軍内では昨夏以降、多くの高官が汚職により失脚しており、彼らは核兵器を扱うなど経験豊富な人物であったが、後任の選定は習近平に対する忠誠心が重視され、能力よりも政治的な要素が優先されていると指摘した。

 さらに、中国軍の実戦経験が不足しており、人事の選定も能力よりも政治的な要素を重視していることから、新しい兵器の運用に必要な知識や経験豊富な人材が不足していると指摘。これまで中国軍は1979年以来、本格的な実戦を経験しておらず、戦意も乏しいとされ、習近平政権が台湾への侵攻を命じる可能性は低いと予測している。

 最後に、中国軍は連鎖的な戦争に懸念を抱いており、特に米国と協力する形で、インドが国境地帯で軍事活動を開始すれば、中国は対処できないだろうとの見方を示した。中国経済が停滞しており、台湾への侵攻が長期化すれば共産党体制に大きな打撃を与える可能性を指摘。習近平が侵攻を決断する可能性は低いとした。

 この記事は元記事の要約です。詳細は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中国軍の実力不足が露呈、台湾侵攻は地理的に極めて難しい理由

まとめ
  • 中国全人代で軍首脳が「偽の戦闘力」を取り締まると表明し、中国軍の実力不足を指摘しており、ラビ・シャンカル元インド陸軍中将の発言を裏付けている。
  • 能登半島の地理的制約から、緊急支援でのヘリコプターや空からの物資投下が困難であったように、台湾侵攻も地形的に極めて難しい。
  • 台湾東側は急峻な山地で上陸点がなく、西側も平地が狭く、都市部、河川、防衛施設が障害となる。
  • 台湾の地理と発達した防衛網は中国軍の侵攻を困難にし、「天然の要塞」と評価できる。
  • 中国の立場に立てば、台湾への本格侵攻は避けつつ、ミサイル攻撃、爆撃、小規模ゲリラ活動、「グレーゾーン戦略」「ハイブリッド戦略」による圧力行使をしつつ台湾を疲弊させ実効支配に結びつけるという方法が現実的である。
ラビ・シャンカル元インド陸軍中将の発言を裏付けるような事実は、ごく最近でもありました。それも、中国内部からの発信です。その内容を以下に簡単に掲載します。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、11日閉幕の中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、軍首脳が「偽の戦闘力」を取り締まると表明しました。不正により、中国軍の戦闘能力が目標とする水準に達していないことを問題視したとみられます。

発言したのは、中央軍事委員会副主席の一人である何衛東氏。全人代期間中に開かれた軍代表団の会議で述べました。

何衛東氏

ラヴィ・シャンカル氏の、中国軍が汚職と不正経理により実際には弱体化しているという発言には、一定の根拠があります。しかし、この問題は複雑であり、両論あります。以下に、その主張を支持する事実と、反する事実の両方を示します。

主張を支持する事実:
1. 汚職スキャンダル: 過去にも、中国軍内部で多くの高位将校が汚職や不正経理で処分・解任されるなど、大がかりな汚職事件が発生しています。例えば2014年には、徐才厚や郭伯雄の元最高指導者らが習近平の反汚職キャンペーンで処分されました。

2. 品質への懸念: ステルス戦闘機J-20やミサイル駆逐艦タイプ055など、中国の一部の武器システムには、エンジン問題や輸入部品への依存など、品質と信頼性に対する懸念が指摘されています。

3. ロジスティクス(兵站)上の課題: 中国本土から遠く離れた地域で大規模作戦を維持する能力に、物流・補給面での弱点があるとの指摘があります。
主張に反する事実:
1. 急速な現代化: 課題はあれ、中国軍は近年、高度な兵器システム、サイバー能力、遠距離作戦能力など、大規模な現代化投資を行っています。 
2. 品質の向上: 一部に課題があるものの、中国はハイパーソニックミサイル、ステルス戦闘機、空母などの先進兵器開発で進展を見せ、技術力の向上が伺えます。 
3. 台湾侵攻のリスク: 台湾侵攻は大きなリスクとコストがありますが、中国はそうした作戦を実行できる能力を着実に高めているとの見方が多数あり、成功の見通しについては議論があります。
軍事力の評価は、主観的な側面があり、政治的背景や情報の制約などの影響を受ける可能性があります。中国軍の真の実力は、実際の戦闘で試される まで正確に知ることはできないかもしれません。その日が来ないことを願うばかりです。

ただし、台湾に侵攻することは、中国に限らずいずれの軍隊にとっても難しいです。その難しさは、最近の能登半島地震での自衛隊の支援活動をみてもわかります。
  • 能登半島は急峻な山地が海に突き出した地形で、以下のような理由から空からの支援は困難だったと考えられます。
  • 着陸場所の制約 急峻な山地が多く、ヘリコプターが着陸できる平坦地が少ない。展開に時間がかかる。
  • 風の影響 急峻な地形により上空で強い横風が吹くため、ヘリコプター操縦や物資投下が危険。
  • 地形の障害 尖った山々が障害物となり、低空飛行や投下はリスクが高い。
  • 目標地点への到達困難 急峻な山々に遮られ、被災現場までの到達が難しい場所も。
このように、能登半島特有の地形的制約があり、広範囲に被害が出た直後の緊急支援では、ヘリコプターによる被災地への物資搬入やパラシュートによる物資投下は現実的ではなかったと言えます。 より迅速な陸路からの進入や、小型船舶による沿岸部へのアクセスなどが適切だったといえます。

以上は、支援活動ですが、これは軍事活動でも同じようなことがいえます。

能登半島と台湾の地理的条件を比較すると、中国が台湾に軍事進攻を行うことの困難さがよくわかります。

まず地形の面では、能登半島ですら急峻な山地が支援活動の障害になったように、台湾はさらにその地形が極端です。東側は海岸線から急峻な山岳地帯が連なり、上陸に適した平地はなく、東側も上陸地点が制限されてしまいます。また、中央部の山岳地帯は戦車や重火力の機動を著しく阻害すると考えられます。

台湾の東海岸


次に海洋条件では、台湾の西側は南シナ海に面し、水深が浅いため、中国の潜水艦が有利に活動できる海域ではありません。東側は太平洋に面し、海流や潮流が複雑で危険も多いでしょう。

西側は、比較的平坦なので、上陸しやすくも見えますが、そうではありません。

台湾の西側から上陸する場合の制約について、以下の点が挙げられます。

地形的制約 :西側の平野部は比較的狭く、上陸に適した砂浜が限られている。後背地付近は直ちに丘陵地帯となり、台湾の東側ほど急峻ではないものの機動の障害になる。
河川の障害: 中央山脈から複数の大きな河川が西側に注ぎ、上陸後の橋渡りが必要になる。河川は障害物となり機動を阻害する。
都市部の障害:台北などの大都市部が西側の平野部に位置し、市街地戦となれば中国軍は過酷な状況に直面する。これは、最近のウクライナでの都市部の戦闘や、ガザ地区の戦闘などが参考になる。
防衛施設の集中:西側平野部には空軍基地や防衛施設が多数配置されており、対空・対艦防衛網が精強である。
海岸線の複雑さ:西側海岸線は湾入部が多く入り組んでおり、大規模上陸に適した砂浜が少ない。よって、台湾軍による待ち伏せなどが可能。

このように、台湾西側は地理的に狭く、都市部や防衛施設の集中、複雑な海岸線といった理由から、中国による大規模上陸に適した場所は限られている と考えられています。東側と同様に、侵攻は極めて困難と言えるでしょう。さらに、台湾の防空・防衛網は高度に発達しており、米国から最新鋭の武器も提供されているため、中国軍の空からの攻撃を難しくしています。

以上のように、台湾の地理的条件と防衛力の高さは、中国にとって多大な制約となり、軍事進攻のリスクは極めて高いと言えます。

能登半島での自衛隊の支援活動の苦労に比べれば、台湾での作戦は格段に困難になると考えられます。つまり、台湾は中国からすれば、攻略が極めて難しい「天然の要塞」と評価できるでしょう。

能登半島地震に際して、徒歩で物資を運ぶ自衛隊員

中国が台湾にすぐに簡単に侵攻できると考える人は、上の事実を無視していると考えられます。しかし、だからといって、中国の軍事活動を軽視しろと言っているわけではありません。

中国は台湾の本格的に侵攻することはないかもしれませんが、ミサイルや航空機を用いて、台湾を破壊することはできます。また、本格的に侵攻しなくても、小数の部隊を上陸させて、破壊活動をしてすぐ引き上げるなど、ゲリラ活動をするなどのことはロジスティクス(兵站)を考慮する必要はなく比較的簡単にできます。

このようなことは、十分に考えられます。しかし、これは侵攻と呼べるような代物ではありません。侵攻となると、大部隊を上陸させて、台湾軍を打ち負かし、まずは台湾全土を占拠しなければなりません。これは、破壊やゲリラ活動から比較すると一挙にハードルがかなりあがることになります。このことを理解せずに、「侵攻」と簡単に言ってしまう人が多すぎだと思います。

しかし、破壊やゲリラ活動等もこれは台湾にとって、大きな脅威であることにかわりありません。

それに、破壊やゲリラ活動にあわせて「グレーゾーン戦略」や「ハイブリッド戦略」で徐々に台湾を疲弊させるということも考えられます。中国が得意のサラミ戦術です。これによって時間をかけてでも、台湾を最終的に実効支配するという手段のほうがより現実的です。

だからこそ、台湾政府は中国に対する警戒を強めているのです。台湾侵攻という言葉は刺激的で強烈ですが、何年たっても侵攻が現実のものとならなければ、人々の関心は徐々に薄れていくでしょう。そうして、ある日気がついてみたら、台湾が南シナ海のように中国に実効支配されているという事態になりかねません。私は、こちらの脅威のほうがより現実的であり、いまから備えなければならない真の脅威であると考えます。

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