2023年12月31日日曜日

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信―【私の論評】忘れてはならない! 冷戦期の日本の対潜活動が、現代のインド太平洋の安全保障に与えた影響

NATO、スウェーデンが加盟すれば「ソ連の海」で優位…潜水艦隊に自信

まとめ
  • スウェーデンのNATO加盟により、欧州の安全保障は新たな時代を迎える。
  • バルト海は、NATO優位の構図が固まる。
  • スウェーデンの潜水艦隊は、バルト海で120年にわたる経験を有し、NATO加盟後は偵察・監視の役割を担う。
  • NATO軍は、スウェーデンの加盟により、北欧とバルト海全域をその防衛計画に組み込むことが可能になる。
  • ロシアにとって、バルト3国への軍事侵攻の難易度が飛躍的に高まる。


 スウェーデンが200年の中立・非同盟政策を転換し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟すれば、欧州の安全保障は新たな時代を迎える。スウェーデン海軍はかつて「ソ連の海」と呼ばれた、バルト海で120年以上にわたり潜水艦を運用してきた経験とデータを持っている。

 これらはNATO加盟後、ロシア海軍バルト海艦隊の動きを偵察・監視する役割を果たすことになる。スウェーデンの加盟により、NATO軍は北欧とバルト海全域を防衛計画に組み込むことが可能になり、特に旧ソ連バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が恩恵を受ける。

 有事の際、スウェーデン潜水艦はバルト3国沖合に潜み、ロシア軍艦船の接近を阻む任務につくと予想されている。これにより、ロシアから見れば、バルト3国への軍事侵攻の難易度が飛躍的に高まる。

 その結果、ロシアが侵攻を思いとどまるなら、NATO側の狙い通りとなります。スウェーデンがNATOに加わる意義を強調するワンレンブルグ司令官は、「高度な潜水艦は敵に頭痛の種を与え、抑止力を生む。それがNATO軍の潜水艦となればなおさらだ」と述べている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】忘れてはならない! 冷戦期の日本の対潜活動が、現代のインド太平洋の安全保障に与えた影響

まとめ
  • 冷戦期の日本の対潜活動は、ソ連の太平洋艦隊の封じ込めに貢献し、西側の安全保障に大きな役割を果たした。
  • 今日の日本の対潜水艦戦能力は世界トップクラスであり、アジアにおける中国やロシアの侵略を抑止するのに役立っている。
  • 日本の海軍力と経験は、アジアの平和と安定にとって重要であるにもかかわらず、過小評価されている。
  • もし冷戦期に日本が対潜能力や作戦を強化していなかったら、今日の世界は大きく異なっていたかもしれない。
  • 日本の貢献は、もっと評価されるべきである。

もう一つの「ソ連の海」があります。それは、オホーツク海です。冷戦時代にオホーツク海は、ソ連の原潜の聖域とされました。日本は米国の依頼により、対潜哨戒能力を高め、オホーツク海で対潜哨戒作戦にあたり、ソ連原潜の囲い込みに成功し西側諸国に貢献しました。

今日、この時の経験が積み重ねられ、日本の対潜水艦戦争(ASW)は米国と並び世界のトップクラスになっています。両国のASWは、他国をはるかに凌駕する水準にあります。

また、日本もこれを意識して高めてきました。今日日本は、20隻以上の高性能の潜水艦隊を擁するとともに、世界でも有数の海軍力を持つに至っています。そのため、今日中国ロシアからみれば、インド太平洋地域での軍事行動の難易度が飛躍的に高まる結果となっています。

日本のマスコミはこのことをほとんど伝えませんが、以上のことはもっと高く評価されて良いと思います。

日本は冷戦時代、ソ連の太平洋艦隊を封じ込めるのに必要不可欠な存在でした。オホーツク海での対潜哨戒と監視は、ソ連の潜水艦活動を制限する上で極めて重要でした。

ソ連はオホーツク海を原子力潜水艦の砦(聖域)と考えていたため、そこで潜水艦を封じ込めた日本の成功は、西側の安全保障上の利益を助ける大きな成果となりました。

旧ソ連のオスカー型原潜

今日、日本の海軍力、特に対潜水艦・対潜水艦戦能力は依然として世界トップクラスであり、アジアにおける中国やロシアの侵略を抑止するのに役立っています。

特に日本の潜水艦隊は、先進的なソナー、航空機、水上艦艇と相まって、この地域における中国やロシアの潜水艦作戦を非常に困難なものにしています。

このことは、中国やロシアがインド太平洋で力を行使しようとする計画を著しく複雑にします。日本の海軍力と経験は、アジアの平和と安定にとって重要であるにもかかわらす、過小評価されています。特に、マスコミはこれをほとんど報道しません。

日本は、中国やロシアに近接し、技術的・戦術的に優れているため、米国や他の同盟国が直接対処することが困難な脅威に対抗することができます。日本は、地域のライバルに対抗するために意図的に海軍力を鍛えてきたのであり、自由世界はその努力から利益を得ているのは間違いありません。

もし冷戦期に日本が対潜能力や作戦を強化していなかったら、今日の世界は大きく異なっていたかもしれないです。

ソ連の核ミサイル潜水艦の活動範囲が拡大していたでしょう。 東アジアにおいて、ソ連の核ミサイル潜水艦はより自由に活動できるようになっていたでしょう。これにより、ソ連はより攻撃的な行動に踏み切った可能性があり、第2撃能力が強固になることで冷戦全体で緊張が高まり、代理戦争が増加していたかもしれないです。

 日本が周辺海域の支配権を争わなければ、中国は潜水艦部隊と作戦の拡大に際してほとんど抵抗に遭わなかったでしょう。東シナ海・南シナ海の領土問題に大きな影響を与える可能性のある、地域レベルでの海軍覇権をすでに達成していたかもしれないです。

日本の対潜障壁は北朝鮮の潜水艦活動を抑え、弾道ミサイル搭載潜水艦の配備や隠密な挑発行為を制限してきました。日本海軍がいなければ、北朝鮮はより強力な海洋核抑止力を獲得していたかもしれないです。

米国は太平洋地域にさらなる軍事資源を投入することを余儀なくされていたでしょう。 日本との補完なしに、米国はヨーロッパにおけるNATOへの関与を弱め、全体として世界レベルでのアメリカの軍事プレゼンスを薄めることになったでしょう。中国やロシアの封じ込めのコストはより高くなっていたでしょう。

地域の安定と安全保障同盟が弱体化していたことでしょう。 中国やロシアといった、より強圧的で権威主義的な勢力に有利な方向で、インド太平洋地域の勢力均衡が崩れていたかもしれないです。米国のパートナーとしての日本の信頼も低下していたかもしれないです。

 日本の海上自衛隊は、ソナー、消音技術、水中センサーなどの分野で進歩を牽引しており、これらの技術は西側諸国の海軍にも波及していました。日本の対潜技術需要がなければ、今日の世界における西側諸国の対潜技術と潜水艦技術は、全体として今より洗練されていなかったかもしれないです。


このように、冷戦期の日本の対潜活動なしでは、今日の地政学的秩序ははるかに悪いものになっていた可能性は高いです。重要な敵対勢力に対抗し、地球上の重要な地域で安定を維持するという点で、日本の海軍力は過去も現在も極めて重要です。

当時の日本が哨戒・監視能力を強化する上で示した積極性は、今もなお世界に利益をもたらしています。戦略的に重大な意義を持った貢献の一つだと言えます。

日本の貢献は、もっと評価されるべきです。日本は、インド太平洋地域の安全保障と主権を脅かすような大国の野心を抑えるために、地理的な位置と海軍の技術を活用してきたのです。特に対潜水艦戦能力は、潜在的な敵対勢力に抑止力と困難をもたらすものであることついては、重ねて強調しておきたいです。

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2023年12月30日土曜日

中国、新国防相に海軍出身の董軍氏-米国との協議再開に向かうか―【私の論評】中国の軍事指導部変更と地政学的影響:軍事優先事項の変化と対抗策に迫る

中国、新国防相に海軍出身の董軍氏-米国との協議再開に向かうか

まとめ
  • 海軍出身の国防相は初、対米戦略で南シナ海が新たな優先分野か
  • 粛清に揺れる中国軍、ロケット軍や調達部門で調査継続

董軍氏

中国は、2023年12月29日、海軍出身の董軍氏を国防相に任命した。これは、中国史上初の海軍出身の国防相となる。

董氏は、1979年に中国人民解放軍に入隊し、海軍でキャリアを積んできた。東海艦隊副司令官や南部戦区副司令官を歴任し、2021年から海軍司令官を務めていた。

董氏の任命は、中国軍内部の粛清が続く中、注目を集めた。李尚福前国防相は、2023年10月に解任され、軍事調達部門やロケット軍の幹部らも相次いで粛清されている。

董氏の昇進は、中国が米国との地政学的争いの新たな優先分野として、南シナ海を重視していることの表れとみられる。董氏は、海軍司令官として、南シナ海での軍事力増強を推進してきた。

また、董氏の任命は、習近平総書記(国家主席)が、軍の政治的忠誠を重視していることの表れともいえる。董氏は、習政権の下で、海軍司令官として、習近平総書記の指示を忠実に実行してきた。

董氏の任命は、中国軍の今後の方向性を示すものとして、注目される。董氏は、海軍出身ということもあり、海軍の強化をさらに進め、南シナ海での軍事力増強を推進するとともに、軍の政治的忠誠を強めていくものとみられる。

【私の論評】中国の軍事指導部変更と地政学的影響:軍事優先事項の変化と対抗策に迫る

まとめ
  • ロケット軍指導者の代表職解任が発表され、汚職疑惑が背景にある可能性が指摘されている。
  • 中国は、地政学的状況や脅威への認識により、軍の優先事項や指導力が変化している可能性があり、南シナ海や技術分野での重点が明らかになっている。
  • 習近平は権力を強化し、イデオロギーに忠実な軍隊を望んでおり、政治的忠誠心が専門知識よりも重要視される傾向がある。
  • 中国の台頭に対抗するために、軍事同盟の強化、新技術への投資、領土拡張への対応策、経済制裁、技術移転制限など、多角的な対応策が必要。
  • 中国との戦略的競争に勝つためには、強硬な対応と同時に開かれたコミュニケーションと抑止力を組み合わせたバランスが重要。
先の薫氏の国防大臣就任の一方、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は29日、中国人民解放軍で核兵器やミサイルの運用を担当するロケット軍の前司令官、李玉超氏と元司令官、周亜寧氏の全人代の代表職を解く決定が行われたと発表しました。国営新華社通信が伝えました。

李玉超

理由については説明していません。ロケット軍を巡っては汚職疑惑が伝えられており、それと関係している可能性があります。ロケット軍のほか、中央軍事委員会装備発展部の元幹部らも代表職を解かれました。

李氏は今夏、ロケット軍司令官を退任したことが判明。香港紙は、李氏ら3人が汚職で調査対象になっているとする軍関係者の情報を伝えていました。

中国軍指導部内で大きな揺り戻しが起きているのは確かなようです。これは日米にとって好機かもしれません。共産主義の中国政府は冷酷で腐敗しているため、上層部の不安定さや権力闘争の兆候は利用すべきです。

習近平は権力と忠誠心を固め、自分の言いなりになる人物を問答無用で登用しているようです。この新しい海軍大臣、董は、南シナ海における中国の軍事的プレゼンスを積極的に拡大する構えのようです。

ただ、これを習近平の権力闘争の一環だけであると見るのは、実像を見失う恐れもあります。こうした動きの背後には、地政学的状況の変化と脅威の認識が、中国の軍事的優先順位と指導力の変化を促している可能性もあります。

習近平

地政学的状況の変化としては、貿易、技術、地域安全保障などさまざまな領域で米中間の対立が激化しているため、中国はア米国のパワーと影響力に対抗できる軍事力を優先するようになったと考えられます。これには、米国の地域紛争への潜在的な介入を抑止するための先端兵器の開発とともに、南シナ海とそれ以外での優位性を主張するための海軍と海上部隊の強化が含まれる可能性があります。

脅威の認識に関しては以下のようなことが考えられます。

 社会不安、経済減速、環境問題などの国内的な課題によって、国内の安定を維持するために軍がより重要な役割を果たす必要が生じる可能性があります。そのため、国内治安部隊や群衆統制・監視能力に重点が移される可能性があります。

朝鮮半島や台湾など近隣地域での紛争や不確実性は、こうした差し迫った脅威に対処するため、軍事的優先順位の調整を必要とする可能性があります。そのためには、地域配備の強化や迅速な対応能力への投資が必要になるかもしれないです。

南シナ海や東シナ海におけるさまざまな国との領土紛争は、中国にとって継続的な安全保障上の懸念となっています。このため、紛争地域を確保するために、海軍の近代化、水陸両用上陸能力、防空システムに重点が置かれる可能性があります。

中国は、アジア太平洋地域における米国の同盟とパートナーシップによって包囲される可能性があると認識しています。この懸念は、潜在的な軍事介入を抑止するための長距離攻撃能力、対衛星技術、対スパイ活動への投資拡大につながる可能性があります。

中国は、極超音速兵器や人工知能など、特定の軍事分野において米国の技術的優位性を認めています。このため、この差を縮め、長期的に中国の軍事的競争力を確保するための研究開発努力が活発化する可能性があります。

中国の軍事的優先順位と指導力の変化については、以下のような事が考えられます。

 習近平が権力を強化し、軍を一元管理することに重点を置いているのは、習近平の戦略的ビジョンに沿った、より規律正しくイデオロギーに沿った軍隊を持ちたいという願望を反映しています。これは、たとえ実力に基づく昇進を犠牲にしてでも、忠実で従順な将校を要職に任命することにつながる可能性があります。

軍内の専門知識と政治的忠誠心のバランスは、現指導部のもとでは後者にシフトするかもしれないです。このことは、戦略的意思決定や、複雑で進化する安全保障上の課題に対する軍の適応性に懸念を生じさせる可能性があります。

変化する地政学的状況と認識される脅威が、中国の軍事的優先順位と指導者の決断を形作っていると思われる。具体的な詳細はまだ掴みどころがないですが、中国がその戦略的地位を高め、利益を確保し、複雑で競争の激しいグローバル環境において認識されている脅威に対抗するために、軍事態勢を適応させようとしているのは確かなようです。

中国の軍再編が、習近平の支配欲と、米国への対抗、領土の確保、脅威への対処といった地政学的要因によって進められているのは明らかなようです。これに対して、日米とその同盟国は、次のことをしなければならないです。


1. アジアにおける軍事同盟とパートナーシップを強化する。インド、ベトナム、フィリピン、台湾との協力を強化する。合同演習、武器売却、情報共有は中国を抑止することができます。

2.中国の進歩に対抗するため、新しい軍事技術に投資する。これには極超音速兵器、宇宙、サイバー能力、人工知能、自律システムなどが含まれます。わたしたちは優位性を維持しなければならないのです。

3.中国の領土拡張に対抗する。南シナ海での海軍のパトロールを増やし、日本と台湾に多くの軍隊を派遣し、インドやベトナムの領土への侵略に対して中国に警告すべきです。同盟国を守る姿勢を示すのです。

4.必要に応じて、中国に的を絞った経済制裁を行う。中国が台湾を脅かしたり、香港の自由を取り締まったりする場合、制裁措置は、明白な戦争のリスクを冒すことなく、結果を示すことができます。わたしたちには経済的影響力があります。

5.戦略的産業への中国の投資を制限し、技術移転を制限する。わたしたちは技術革新における優位性を守り、中国の技術・軍事的野心を許さないようにしなければならないです。ある程度の「デカップリング」は賢明でといえます。

6.中国のプロパガンダと偽情報キャンペーンに対抗する。中国の人権侵害、帝国主義、世界の民主主義を弱体化させる悪質な行動を暴露すべきです。世界的な思想の戦いに勝利すべきです。

7.オープンなコミュニケーションラインを維持する。中国と日米とその同盟国が競争し、衝突しているときでも、指導者同士が直接話し合うことは、致命的な誤算を防ぐために重要です。わたしたちは、強者の立場から関与しなければならないです。つまり、中国の野心を牽制するためには、軍事、経済、外交的圧力の協調戦略が必要なのです。

しかし、抑止力と開かれたコミュニケーションを通じて、直接的な戦争は避けなければならないです。民主的同盟の精神を新たにすれば、米国と日本のようなパートナーは、習近平の権威主義的な中国との戦略的競争に勝つことができます。

私たちはまずは、勝つ意志を持たなければならないのです。強硬でありながらも、現実的なスタンスを取るべきなのです。

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2023年12月29日金曜日

世界が揺れた2023年への5つの希望―【私の論評】日米の「縮み志向」:文化、地政学、そして来年への展望

世界が揺れた2023年への5つの希望

岡崎研究所

まとめ
  • ウォルトの論説の要点は以下、大国間の戦争は回避された、米国は地政学的および経済的に恵まれている、人道活動家たちの努力に感謝する、リベラルな民主主義にとって希望の光が見える、表現の自由が守られている。
  • ウォルトは、暗いニュースが多い中にも、感謝すべき事柄はたくさんあると主張している。しかし、同時に、これらの事柄の中には、逆に深刻な課題が透けて見えるものもあることもある。

スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

 2023年11月23日付Foreign Policy誌は、スティーヴン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)による「2023年に感謝を捧げるべき世界における5つの事柄」と題する論説を掲載している。
  1. 大国間の戦争がなかったこと:大国間の全面戦争は弱小国間の紛争よりも多くの人的損害をもたらすため、その回避は感謝すべき事柄である。しかし、大国間の戦争がないことは、大国から小国への武力行使が行われやすくなる可能性を示唆している。
  2. 地政学上および経済面での幸運:米国は地政学的に恵まれており、外国の侵略の脅威にさらされていない。また、世界で最も豊かな社会である。しかし、米国が国内の問題が増え、国外への視線が向きにくくなる兆候があるという事実は、日本にとって危険信号である。
  3. 人道活動家、平和に向けて努力する人たち、正義に向けて抗議する人たちの存在:彼らは世界の困難に対抗し、重荷を軽くし、苦しみを軽減し、分断を橋渡しするために毎日努力を払っている。彼らの存在は、世界がもっと悲惨な場所となることを防いでいる。
  4. 希望の光:暗い年の中でも、良い判断が恐れや疑いを煽る勢力に打ち勝つ瞬間がある。例えば、ポーランドの総選挙で「法と正義」党が敗北したことは、民主主義に前向きな一歩である。しかし、各国の選挙では、「非リベラルな民主主義」を志向する党の勝利の方が上回っているのが現状である。
  5. 表現の自由:学術における自由は攻撃にさらされているが、依然として自由に考え、執筆することができる。しかし、表現の自由が脅かされつつあることは、来年の大統領選挙の結果次第で、その状況がさらに悪化する可能性を示している。
 これらの事柄は、ウォルトが感謝の対象として挙げているものですが、それぞれには逆に深刻な課題が透けて見える。これらの懸念は、ますます危険な状況となりつつある世界において、日本にとって小さくない影響を及ぼす可能性がある。

 この論説は、米国の「縮み志向」を示しているとも解釈できる。ウォルトの論説は、暗いニュースが多い中にも明るい要素を見いだそうとしたが、その中には深刻な課題が透けて見えるという視点から、現代の国際情勢を独自の視点で捉えている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日米の「縮み志向」:文化、地政学、そして来年への展望

まとめ
  • 「縮み志向」は日本文化の特性を理解する視点で、日本人が小さいものに美を認め、あらゆるものを「縮める」という特性を指摘している。
  • 「縮み志向」にはマイナスの面もあり、自粛文化、国際社会との協調性の欠如、健康不安などが挙げられ。
  • スティーブン・ウォルト氏は現在の米国人が「縮み志向」にあると指摘し、トランプ大統領が登場すれば、その傾向が強まると懸念しているようだ。
  • しかし、保守派の視点からは、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は米国の利益を優先させるものであり、孤立主義や「縮小」を意味するものではない。
  • 日米両国とその同盟国は、共通の利益と価値観に対する脅威に直面したとき、「縮み志向」ではなく、強固な決意を固めることでのみ利益を得て、前に進むことができる。
上のスティーヴン・ウォルト氏の論説は、リベラル派の視点です。この見方には保守派は賛同できません。

上の記事にでてくる岡崎研究所による「日本人の縮み志向」とは、韓国の文芸評論家である李御寧氏が提唱した日本人論の一つです。彼は、日本人が小さいものに美を認め、あらゆるものを「縮める」ところに日本文化の特徴があると述べています。



例えば、世界中に送り出された扇子やエレクトロニクスの先駆けとなったトランジスタなどは、この「縮み志向」が創り出したオリジナル商品であるとされています。

また、入れ子型、折詰め弁当型、能面型など「縮み」の類型に拠って日本文化の特質を分析し、その結果をもとに「日本人論中の最高傑作」とも評される著書「縮み志向の日本人」を発表しました¹²。このように、「日本人の縮み志向」は日本文化と日本人の特性を理解するための一つの視点となっています。

「縮み志向」にはマイナスの面も存在します。以下にいくつかの例を挙げます。
  1. 自粛文化: 「縮み志向」は日本社会の様々な面に現れ、その典型が“自粛文化”であり、「臭い物には蓋をする」もその一例とされています。これは、問題を解決するために直接対処するのではなく、問題を隠蔽しようとする傾向を指します。
  2. 国際社会との協調性: 「縮み志向」の日本人は「拡がり」に弱いとされ、国際社会という外の社会の中で協調、共存しながら生きていくには「縮み」志向の限界をよく認識し対応していかなければならないと指摘されています。
  3.  健康不安: 世界一の長寿国でありながら、健康不安が高い日本人に対して、健康診断の厳しすぎる基準値によって「病人」に仕分けられる人が多いという問題も指摘されています。
スティーブン・ウォルト氏は現在米国人はマイナスの「縮み志向」にあり、来年トランプ大統領が登場すれば、米国人の「縮み志向」がますます強まるように懸念していると岡崎研究所は分析してますが、私はそれは逆ではないかと思っています。

そうではなくて、民主党政権こそがポリティカル・コレクトネス、キャンセル・カルチャーなどで「縮み志向」にあり、トランプ氏は、この「縮み志向」をただそうとしているのです。


トランプ氏

われわれ保守派は、ウォルト教授とは少し違った世界を見ています。トランプ政権下の米国の「縮み志向」については、ウォルト教授の懸念には同意できないです。トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、単に米国の利益をグローバリズムよりも優先させるということであり、米国が孤立主義になるとか、世界の舞台から「縮小」するということではありません。

そのことはトランプ政権下で実証されたと思います。当時、米国は支配的な超大国としての地位を再確立しようとし、中国、ロシア、イランの脅威に対抗し、悪い貿易協定を再交渉し、同盟国が相互防衛に公平に貢献するようにしようとしたのです。トランプ氏は、米国が世界的な挑戦に直面して受け身でいる余裕はなく、自信と強さを誇示しなければならないことを理解していました。米国が表に出ず、後ろからリードする時代は終わったのです。

日本にとっても、強くて自信に満ちた米国は、安全保障と貿易で日本に依存している同盟国にとっても好都合です。日本の「縮み志向」は、文化的な文脈では役に立つかもしれないですが、地政学においては、各国が自国の利益のために立ち上がることが不可欠です。無論、自由で公正・公平な自由貿易などを目指すのは当然のこととして、危険な時代には、グローバリズム礼賛は強さではなく弱さを示すことになります。


全体として、ウォルト教授の分析には説得力がありません。保守派として私たちは、平和は希望的観測ではなく、強さによってもたらされると認識しています。そして、自国を第一に考えることは美徳であり、これは恥ずべきことでも、謝罪すべきことでもありません。むしろ、他国の利益を第一に考えるなどと語る政府や指導者は、偽善者であるとの誹りを受けても仕方ないです。

各国とも、自国の利益を第一に考えた上で、外交、安全保証をすすめるべきですが、それだけでは、他国との摩擦も増えるので、互いに譲れるとことは譲り、譲れないところは譲らないということで、秩序が形成されていくのです。その中にあってある国の政府や指導者が、自国をないがしろにしてまで、他国の利益を優先するなどということなどあり得ないです。

それでは、強い国だけが、栄えることになるではないかと考えるのも間違いです。弱い国を強い国が蔑ろにすれば、他の強い国はそれに危機を抱いて、弱い国を助けようとします。そのようなことで、秩序が形成されていきますし、さらに現在では国際法が戦争のありかたや、戦争行為のあるべき姿を示し、国際関係がカオス状態にならないように存在しているのです。

日米両国とその同盟国は、共通の利益と価値観に対する脅威に直面したとき、「縮み志向」ではなく、強固な決意を固めることでのみ利益を得て、前に進むことができます。そうでなければ、後退するだけです。これは、来年ますます明らかになっていくことでしよう。

皆様今年は、大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。

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2023年12月28日木曜日

イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告―【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦とその対抗策

イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告

まとめ
  • イスラエルのガラント国防相は、イスラエルが「多方面で戦争状態にある」と認識を示し、イランを含む敵対するものは誰であろうと標的になると警告した。
  • イスラエルを敵視するイランが武装組織などを支援し、「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを築いている。これにより、イスラエルや中東の駐留米軍を標的にした攻撃が繰り返されている。
  • レバノンのヒズボラとイエメンのフーシ派がイスラエルを攻撃し、イスラエルは報復攻撃を行っている。これにより、中東の緊張が高まる恐れがある。
  • ガザ地区での戦闘は続いており、イスラエル軍はハマスの部隊の破壊に近づいていると述べ、戦闘がさらに数カ月続くとの見通しを示した。
  • 世界保健機関(WHO)は、空爆で約100人の死傷者が病院に搬送されたと報告。

イスラエルのガラント国防相

 イスラエルのガラント国防相は、イスラエルが「多方面で戦争状態にある」と認識を示した。これは、イスラエルが現在、ガザ地区、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランの7カ所で攻撃を受けていることを指している。これらの攻撃は、イスラエルを敵視するイランやその支援を受ける武装組織によるもので、中東各国で「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを形成している。

 26日には、レバノンのヒズボラがイスラエル北部の教会を砲撃し、民間人1人とイスラエル兵9人が負傷した。また、イエメンのフーシ派も同日、紅海を航行中の民間の商船やイスラエル南部を標的にミサイルやドローンによる攻撃を実施した。これらの攻撃は、イスラエルと中東の駐留米軍を標的にしたもので、中東地域全体の緊張を高めている。

 イスラエルはこれらの攻撃に対して報復措置を取っている。ヒズボラの拠点に対する報復攻撃を続けており、25日にはシリアでイラン革命防衛隊幹部を空爆で殺害したとされている。これらの攻撃が拡大し、イスラエルが報復を激化させれば、「抵抗の枢軸」が活発化し、中東の緊張がさらに高まる恐れがある。

 ガザ地区での戦闘は、北部から中部や南部に焦点が移っており、戦闘が「さらに数カ月続く」との見通しを示している。一方、世界保健機関(WHO)は、24日に中部マガジ難民キャンプで起きた空爆で約100人の死傷者が近くの病院に搬送されたと明らかにした。また、パレスチナ赤新月社は26日、ハンユニスで赤新月社の本部が砲撃され、建物内には数千人が避難しており、負傷者も出たと発表した。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦へとその対抗策

まとめ

  • 「抵抗の枢軸」は、イラン、シリア(アサド政権下)、レバノンのヒズボラ、ガザのハマスを含む。
  • イランは「抵抗の枢軸」の主要な支援者であり、ヒズボラやハマスのようなグループに資金、武器、訓練を提供し、不安定を広め、イスラエルを脅かしながら、イランの革命を推進している。
  • 「抵抗の枢軸」は、サウジアラビアの石油施設への攻撃、シリアやイラクでの紛争への関与、レバノン、クウェート、アルゼンチンでの爆弾テロ、ハマスによるイスラエルへのロケット攻撃など、世界各地で民間人を標的にしている。
  • 「抵抗の枢軸」は、中東の平和、民主主義、安定に対する直接的な脅威であり、文明世界に存在するイデオロギーを欠いている。
  • 欧米諸国がイランと抵抗勢力に対抗するためには、厳しい制裁措置の発動、同盟国への防衛システム支援、主要指導者の標的化、代理グループへの武器流入の制限などがある。

赤い部分がイスラエル

上の文章にでてくる「抵抗の枢軸」は、イラン、シリア、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなど、中東におけるならず者国家とテロリスト集団の反欧米同盟を指します。これらの過激勢力はイスラエルと米国に反対し、過激なシーア派イスラム主義イデオロギーを広めようとしています。

イランはこの邪悪な同盟の主要な支援者です。専制的なイラン政権は、ヒズボラやハマスのようなグループに資金、武器、訓練を提供し、地域を不安定化させ、イスラエルを脅かし、イランの革命を広めています。

イランの傀儡であるシリアのアサド政権は、イランが悪意ある影響力を行使するための領土と資源を提供しています。

ヒズボラはレバノン南部を支配し、イランのテロリストの代理人として活動しています。彼らは何百人もの米国人やイスラエル人を殺害し、レバノンの主権を脅かしています。

ガザを支配するイスラム過激派組織ハマスもまた、イランのロケット弾と資金を受け取り、イスラエルの民間人を攻撃しています。

これらの抑圧と恐怖の勢力が「抵抗の枢軸」を構成しています。彼らは中東の平和と民主主義に対する重大な脅威であり、彼らの過激なイデオロギーは文明世界には存在しません。

「抵抗の枢軸」はイスラエルだけでなく、彼らの過激な主張を邪魔をする者すべてを標的にしています。最近の例をいくつか挙げます。

イランとその代理勢力は、過去1年間に何度もサウジの石油施設を攻撃し、世界の石油供給を混乱させています。イランは、サウジアラビアを自らの地域的野望の障害とみなしています。

ヒズボラはシリアでアサド政権を支えるために戦い、その過程で何千人もの罪のないシリア人を殺害しています。ヒズボラ勢力は米軍とも衝突しており、昨年のバグダッドのアメリカ大使館襲撃の背後にいた可能性が高いです。

人民動員軍として知られるイラクのイラン支援民兵組織は、米軍基地へのミサイル攻撃を含め、イラクの米軍と連合軍を何度も攻撃してきました。彼らは米国をイラクから追い出し、イラクをイランに依存する国家にしようとしています。

ヒズボラは、レバノン、クウェート、アルゼンチンでの爆弾テロなど、世界中で民間人に対するテロ攻撃を行っています。彼らは、自分たちの過激な思想に反対する者は誰でも標的だと考えています。

ハマスはパレスチナ自治政府からガザを暴力的に掌握し、何千発ものロケット弾をイスラエルに打ち込み、民間人を標的にしています。ハマスは、ガザ内の反対派や異論を取り締まり、仲間のパレスチナ人を殺害したり拷問したりさえしています。

ガザを行進するハマスの民兵

イランの同盟国であるシリアのアサド大統領は、民間人に化学兵器を使用し、何十万人もの自国民を虐殺し、何百万人もの人々を亡命に追いやりました。シリアでの流血は、「抵抗の枢軸」が反対意見を粉砕するためにどこまでやるかを示しています。この地域における暴力、テロリズム、抑圧の数々は、抵抗枢軸がイスラエルだけでなく、あらゆる場所の安定、民主主義、人間生活に対する脅威であることを証明している。彼らを阻止しなければならないです。

紅海とインド洋で最近起きた商業船への攻撃は、イランとその抵抗勢力によるものである可能性が高いです。イランには、圧力をかけ支配を拡大するために、この地域の航路や石油供給を脅かしてきた歴史があります。

イランはこの種の代理攻撃や船舶拿捕を利用して、不安定を煽り、石油貿易ルートを狭め、サウジアラビアや欧米のような敵対国に経済的ダメージを与え、戦略的水路の支配を拡大しようとしています。

「抵抗の枢軸」によって、イランはこの「ゲリラ的な海上戦」を、自らの関係性を否定しつつ行うことができます。しかし、国際社会は、このような無謀な行動に対して強い態度で臨まなければならないです。最大限の圧力こそが、イランの地域支配の野望を阻止する唯一の手段といえます。

イスラム革命防衛隊

イランと抵抗勢力に対抗するために、西側諸国がとるべき具体的な手段は以下の通りです。
  • イランの石油、銀行、海運部門に壊滅的な制裁を課す。イランの経済的ライフラインと代理人への資金供給能力を断つ。イランと取引のある企業に対する二次的制裁を実施する。
  • サウジアラビアのような湾岸諸国の同盟国に対し、イランの攻撃から自国を守るための高度なミサイルシステムと軍事力を提供する。同盟国の国境、海岸線、重要インフラの安全確保を支援する。特殊部隊を提供し、パートナーを訓練する。
  • イランの兵器施設、ミサイル基地、海運を脅かすイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍のような海軍部隊に対して、秘密裏に破壊工作やサイバー作戦を行う。
  • イランの代理人を武装・配備する能力を妨害する。
  • 制裁、渡航禁止、逮捕、無人爆撃機による攻撃で、イランの主要指導者や代理司令官を標的にする。残虐行為や攻撃の責任者を排除する。個人的な代償を払わせる。
  • テロの資金源となる武器や石油の流入を阻止するため、イランに関連する海運を取り締まり、検査する。
  • フーシ派とヒズボラへの武器輸送に対する国連の制限を実施する。船舶に乗り込み、不法な貨物を没収する。
  • イランの人権侵害、検閲、抑圧、テロ支援を機会あるごとに訴えること。イランの悪質な活動に光を当て、世論の法廷で責任を追及する。
  •  ペルシャ湾に空母打撃群、駆逐艦、ミサイル防衛を駐留させ、同盟国に海上パトロールに参加するよう働きかける。水路とエネルギー資源の流れを守る決意を示す。海軍の優位性を維持する。
  • イランの反体制派に通信と後方支援を提供する。イラン国内の過激主義に対抗しようとする反対派、抗議者、改革派に力を与える。反対派の情報源から情報を収集する。
  • イランが代理戦争、テロ資金、核の拡大、人権侵害をやめるまで、交渉や制裁緩和を拒否すること。無条件で最大限の圧力をかけること。宥和してはならない。
  • 米国の要員や同盟国を攻撃した直接の原因であるイランの軍や代理勢力に対する限定的な攻撃の実施を検討する。イランの行動には結果が伴うことを示すことで、今後の攻撃を抑止する。
しかし、全面戦争は避けるべきです。西側諸国には、イランに対抗するための多くの選択肢があり、全面的な軍事衝突には至らないでしょう。しかし、「抵抗の枢軸」のような断固とした敵に対抗できるのは、断固として妥協のない行動だけです。中途半端な手段では、彼らの邪悪な野望を変えることはできないです。今こそ行動の時なのです。

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2023年12月27日水曜日

シンガポール、インドネシアで政権交代へ  変革と混乱【2024年を占う!】国際:東南アジア―【私の論評】日米の中国対策と東南アジアの政治改革:安倍首相の遺産と日本の戦略的役割

シンガポール、インドネシアで政権交代へ  変革と混乱【2024年を占う!】国際:東南アジア

まとめ
  • シンガポール、インドネシアで政権交代へ。ベトナムの経済成長見通しは下方修正。
  • 南シナ海での各国と中国との領有権争い続く。米の関与で中国の行動に影響か。
  • ミャンマーで少数民族武装勢力と民主派組織が共闘し大規模反攻。国軍最高司令官の中国亡命の可能性も。

2024年の東南アジアは、大きく次の3つのトピックで動きを見せると考えられます。

1.政治的な変革

シンガポールでは、リー・シェンロン首相が20年近くにわたる長期政権を終え、後継者のローレンス・ウォン副首相が政権を担います。インドネシアでは、2期10年務めたジョコ・ウィドド大統領の後任を決める大統領選挙が行われ、プラボウォ・スビアント氏が優勢に立っています。ミャンマーでは、国軍によるクーデターから2年が経過し、反政府勢力による大規模な反撃が始まり、国軍側が窮地に追い込まれています。

2.経済の不確実性

世界的にインフレや金利上昇が進む中、東南アジアの経済もその影響を受けています。アジア開発銀行(ADB)は、ベトナムの2024年のGDP成長率を6%と予想していますが、これは2023年の5.2%から下方修正されたものです。また、エルニーニョの天候パターンやロシア・ウクライナ戦争による供給障害も、東南アジア経済にマイナスの影響を与える可能性があります。

3.南シナ海の緊張

中国が南シナ海の90%を自国の領海と主張する中、フィリピンやベトナムなど周辺国との間で領有権をめぐる緊張が高まっています。2023年には、中国海警局の船がフィリピンの船に放水銃で攻撃するなど、両国間の衝突も発生しています。2024年も、南シナ海は各国の思惑が入り乱れる海域となりそうです。

以上のトピックを踏まえると、2024年の東南アジアは、変革と混乱の年になると予想されます。政治的な変革の行方、経済の不確実性、南シナ海の緊張など、今後の動向に注目が集まります。

【私の論評】日米の中国対策と東南アジアの政治改革:安倍首相の遺産と日本の戦略的役割

まとめ

  •  日米両国は中国の領土的野心に対抗するために、南シナ海での同盟国との合同軍事演習を増やし、東南アジアの同盟国に対する軍事援助と訓練を提供し、中国が好戦的な行動を続けるなら経済制裁や関税を通じて圧力をかけるべき。
  • 地域の民主改革と政治的安定を支援し、中国が近隣諸国を利用する不公正な貿易取引を再交渉で是正すべき。
  •  東南アジアでは、シンガポールとインドネシアにおける政権移譲が安定と中道主義を望んでいることを示し、ミャンマーの軍事クーデターが権威主義的であることなど、安定と伝統への流れが見られが、地域は政治的に分断され、中国の権威主義と民主改革との間で引き裂かれている。
  • 日本は東南アジアとの経済的・安全保障的結びつきを強化し、中国の野心に対抗しつつ直接対決を避けつつ、安倍首相が築き上げた信頼の遺産を存続させるべき。
  • 日本は民主的改革を支持することと、この地域のガバナンスの多様性を尊重することのバランスを見つけるべき。強引な価値観の押し付けは、この地域の欧米の植民地政策を想起させることにつながりかねない。
日米両国は中国の侵略に断固とした態度で対抗すべきです。中国の領土的野心を前にして、弱さを見せるわけにはいきません。

 1. 南シナ海でのフィリピンやベトナムなどの同盟国との合同軍事演習を増やすこと。中国を抑止するためには、力の誇示が重要です。

2. 東南アジアの同盟国に対し、防衛力を高めるための追加的な軍事援助と訓練を提供すべきです。中国の脅威を止める唯一の方法は力です。

3. 中国が好戦的な行動を続けるなら、経済制裁や関税を通じて外交的圧力をかけるべきです。我々は中国の2倍のパンチを返す必要があります。

4. 地域の民主改革と政治的安定を支援すべきです。中国が代理人や政治的混乱を通じて悪質な影響力を拡大するのを放置することはできません。民主主義と自由が勝利しなければならないです。

5. 中国が近隣諸国を利用することを許してきた不公正な貿易取引を再交渉で是正すべきです。東南アジアと、米国と同盟国の両方に利益をもたらす公正な貿易を優先すべきです。

要するに、力による平和の戦略を採用する必要があります。アジアの自由と主権を守るためには、中国の野心を封じ込めることが最も重要です。弱さは侵略を招くことになるのです。日米両国は、この地域で共有する民主的価値を高めるために、中国に対抗するリーダーシップを発揮しなければならないです。これは、譲ることのできない前提条件です。

2021年米国はカナダ、ドイツ、オーストラリア海軍と日本沖で演習を実施

この地域でもう一つ注目すべきは、政治改革です。これは、EUや米国にみられる保守主義の拡大とリベラリズムの後退の潮流と共通する部分はあるのでしょうか。また、こうした政治的変革は、東南アジア全体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

私は、西洋における保守主義の台頭と類似している部分もありますが、東南アジアの状況は独特だと思います。重要なポイントをいくつか挙げます。

 1. シンガポールとインドネシアにおける政権移譲は、急進的な変化よりも安定と中道主義を望んでいることを示唆している。これは保守的な価値観と一致する。しかし、新指導者たちは必ずしも右派ではなく、継続性を重視しているようです。

2. ミャンマーの軍事クーデターは、伝統的な保守主義よりも権威主義的である。彼らは「ナショナリスト」の価値観を支持すると主張しているが、彼らの行動は欧米の保守派が一般的に支持する自由と民主主義の原則を損なっています。

3. 特にミャンマーにおける中国の影響力の拡大は、これらの国々の主権と独立に対する脅威である。このことは、イデオロギーの違いにかかわらず、自由を重視するすべての人々にとって懸念すべきことです。

東南アジアの一部では安定と伝統への流れが見られますが、そこで起きている出来事を形成している力は複雑です。この地域は政治的に分断され、中国の権威主義と民主改革との間で引き裂かれたままでしょう。

米国とその同盟国は、中国の野心に対抗し、民主主義と主権を奨励する一方で、各国の独自の政治的発展を尊重するよう努めなければならないでしょう。欧米の保守派は、自分たちの理想を東南アジアに投影せず、中国のような悪質な影響力に対抗することに共通の大義を見出すのが賢明でしょう。

真の民主的改革の広がりは遅いかもしれないですが、米国のリーダーシップがあれば、力、外交、民主的価値観の共有を通じて、時間をかけて着実に前進することができます。これが東南アジアにとって最善の道でしょう。ただ、米国が表に出て東南アジア地域で主体的に動くには難があります。この地域での米国嫌いは、日本人が想像するよりもはるかに大きいです。

大東亜戦争直前のアジアの地図

そこで、昔から東南アジアと関係を強化してきた日本、特に安倍元総理が果たしてきた役割は大きく、そのような日本には、日本独自の役割があると考えられます。

 1. 日本は、貿易から海洋安全保障に至るまで、東南アジアに大きな経済的・戦略的利益をもたらしています。このことは、単純なイデオロギー的関心を超えて、この地域と密接に関わるための特別な動機を与えています。

2. 日本と中国の関係は複雑です。中国の侵略を懸念する一方で、経済的には中国に依存しているところがあります。このバランスから、中国に対抗するためには、紛争を引き起こさない現実的なアプローチが必要です。

3. この地域における日本の欧米による植民地支配の排除の歴史は、シンガポールやインドネシアのような国々との関係にいまだに色濃く反映されています。日本の動きは、こうした欧米による歴史的背景を和らげる効果を発揮することでしょう。これは、日本ではマスコミがほとんど報道しないので、日本人にはあまり知られていませんが、安倍元首相はこれを強く意識していたと考えられます。

4. 安倍首相は東南アジア諸国、特にベトナムやフィリピンのような中国を懸念する国々の指導者たちと緊密な個人的関係を築いてきました。しかし、こうした結びつきは安倍首相の後継者たちとはそれほど強固なものにはならないかもしれず、その維持には努力が必要です。


日本と安倍首相は東南アジアの民主主義と主権を強化するために努力はしてきましたが、その動機は政治的イデオロギーだけに基づくものではなく、より複雑で戦略的なものでした。




安倍首相の退任、死去に伴い、日本は以下のことをすべきです。

1. 影響力を維持するために、東南アジアとの経済的・安全保障的結びつきを強化すべきです。

2. 中国の野心に対抗し続けるが、経済関係を危うくしかねない直接対決は避けるべきです。

3. 安倍首相が築き上げた親善の遺産を存続させるため、将来の指導者に東南アジア諸国との緊密な関わりを持たせるべきです。

4. 民主的改革を支持することと、この地域のガバナンスの多様性を尊重することのバランスを見つけるべきです。強引な価値観の押し付けは、この地域の欧米の植民地政策を想起させることにつながりかねません。

東南アジアにおける日本の前途は微妙ですが、安倍首相の現実的かつ個人的な関与へのアプローチを継続し、安倍首相が残したリーダーシップの空白を埋めることで、日本はこの地域のバランスと民主主義にプラスの影響を与え続けることができますし、米国の戦略などを橋渡しすることもできます。

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2023年12月26日火曜日

マイナス金利は早期解除へ 欧米と異なる「金融正常化」 政治情勢ガタガタ〝火事場泥棒〟避けた? 来年1月にも決断する公算―【私の論評】金融引き締めでデフレ再来?日本はマイナス金利解除に慎重に

まとめ
  • インフレ目標政策では、インフレ率が2%でも4%でも社会的コストはあまり変わらない。
  • 金融引き締めは、インフレ率が4%程度を超えるような状況になってから行うべきである。
  • 今のマクロ経済環境では、インフレ率が4%程度を超える可能性は極めて小さい。
  • マイナス金利の早期解除は、景気への悪影響や金融機関の収益悪化につながる可能性がある。
  • 日銀は、来年1月の金融政策決定会合でマイナス金利の解除を検討するとみられる。

日銀植田総裁

 日銀は12月18、19日の金融政策決定会合で、マイナス金利の解除を見送った。

 インフレ目標政策では、目標の数値プラスマイナス1ポイントは許容範囲である。その上で、金融引き締めは遅れて行うべきである。

 その理由は、インフレ率が2%でも4%でも社会的コストはあまり変わらないが、金融引き締めを急いだ場合、景気への悪影響、とりわけ失業率上昇の社会的コストが大きいからである。

 要するに、インフレ目標が2%なら、今の金融政策を継続することで近い将来にインフレ率が4%程度を超えるような状況でなければ、金融引き締めをしてはいけない。これが基本である。

 一方、日本で「金融正常化」という人は、こうしたマクロ経済環境を考えずに、今の状態が「異常」なので、できるだけ早く直すべきだ、という価値観が含まれていることに留意すべきである。

 今のマクロ経済環境をみると、インフレ率が近い将来4%程度より高くなる可能性は極めて小さい。にもかかわらず、金融緩和を解除したらどうなるのか。目先は金融業界に好影響だろうが、前述したようにマクロ金融政策としてはまずい。

 今回、日銀がマイナス金利の解除を見送ったのは、こうしたインフレ目標の基本に忠実に、また、政治情勢や金融機関の収益状況などを考慮したためと考えられる。

 しかし、筆者は、マイナス金利を早期に解除すべきではないと考えている。

 今後のマイナス金利の解除時期については、来年1月の金融政策決定会合で解除される可能性が高いとみられる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】金融引き締めでデフレ再来?日本はマイナス金利解除に慎重に

まとめ
  • 日本は、米国やEUに比較すれば、物価の上昇はさほどではない。
  • コアコアCPIは、2023年には2.3%、2024年には2.0%になると予想されてい。
  • このようなときには、推移を見守り、金融政策は変えるべきではない。
  • 1月にマイナス金利の解除をしてしまえば、さらに物価が下がり、デフレ傾向になるだろう。
  • 日銀が来年早々にゼロ金利を解除し、その後利上げして、金融引き締めに走ってしまえば、また日本はデフレにまい戻り、雇用が悪化し賃金も上がらず、再び失われた30年を繰り返すことになる。
金融引き締めを急いだ場合、企業の投資や設備投資が減り、雇用が減少する可能性があります。また、消費者の購買意欲も低下し、景気後退につながる恐れもあります。

実際、欧米では、2022年から金融引き締めを進めていますが、その結果、景気減速や失業率上昇の懸念が高まっています。

例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)は、2022年から政策金利の引き上げを開始し、2023年には0.75%の大幅な利上げを実施しました。その結果、米国内では、景気減速や失業率上昇の懸念が高まっています。


実際に、住宅市場の冷え込み、消費者の購買意欲の低下、企業の投資意欲の低下が起こっています。現在はまだ顕著ではありませんが、来年はその悪影響が色濃くででくることが懸念されます。

また、2023年7月21日の金融政策決定会合で、ECBは政策金利を0.25%引き上げ、0.75%にすることを決定しました。これは、ECBが2011年以来、約12年ぶりに実施した政策金利の引き上げとなります。

023年9月8日の金融政策決定会合で、政策金利を0.25%引き上げ、1.00%にすることを決定しました。これは、ECBが2023年7月に0.25%引き上げを行って以来、2回連続の利上げとなります。

ただし、ECBは、今後の利上げ幅については、経済状況を慎重に判断していく方針を示しています。ECBは、ロシアのウクライナ侵攻や中国の景気減速などの不確実性により、景気後退のリスクが高まっていると懸念しています。そのため、利上げを急ぐと、景気後退を招く可能性があるため、慎重な姿勢をとっています。

ECBの利上げにより、EUでも住宅市場の冷え込み、消費者の購買意欲の低下、企業の投資意欲の低下がみられます。

そうして、これは特にドイツでは顕著です。ドイツでは元々緊縮財政が行われ、原発を廃止、さらに利上げによる悪影響がかさなり、とんてもないことになっています。これについては、以下の記事をごらんいただければ、ご理解いただけるものと思います。
なぜ“強いドイツ”は「劣化」したのか?動かぬ鉄道、学力低下、荒れる国土…かつての勇姿は見る影もなし
日本のマスコミでは、名目GDPで日本がドイツに抜かれ、3位から4位に転落する見通しとなったことなどが報じられていますが。これは、円安の影響でドルベースで目減りしたことやドイツの高い物価上昇(インフレ)が主な要因です。円安の現在、ドルベースで比較すれば、当然そのようなことになります。決してドイツの実体経済が良いということではありません。それどころか、ドイツは世界では「欧州の病人」とまで言われています。



来年は、エネルギー・資源価格の価格高騰が、沈静化し下がる傾向にあります。これは、常識的に考えても理解できます。エネルギーや資源は、多くの国々が生産しているので、資源価格が上がれは、増産するなどのことをします。そうなると、価格が安定し、落ち着くのが普通です。資源価格も同じことがいえます。

無論、中東情勢の悪化などもあり、依然として上がる要素はありますが、それでも大勢としては、下がる傾向にあります。

そのようなときに、利上げをすれば、景気が落ち込むのは明らかです。特に、長い間デフレが続いてきた日本は、元々デフレではなかった米国やEUに比較すれば、物価の上昇はさほどでもありません。以下に、日本、米国、EUのコアコアCPI(食料及びエネルギーを除いた物価指数)の推移の比較の表を掲載します。(ブログ管理人 作成)

日本米国EU
2022年2.70%6.10%5.30%
2023年2.30%4.10%4.30%
2024年(予測)2.00%3.00%3.70%
この表をご覧いただければ、髙橋洋一氏の主張はもっともであるとご理解いただけるものと思います。米国やEUは、コアコアCPI6%、5%で利上げをしています。この水準でようやっと、利上げをしたのは、やはり経済の悪化をおもんばかったからでしょう。正しい判断です。

日本は、2022年には、2.7%に過ぎません。来年は、2.0%になることが予想されています。無論、この予想は、日銀の金融政策が現状のままだと想定したものです。このようなときには、推移を見守り、金融政策は変えるべきではありません。

1月にマイナス金利の解除をしてしまえば、さらに物価が下がり、デフレ傾向になるでしょう。そのようなことをする必要性は全くありません。早急にゼロ金利政策を排除し、利上げすべきなどと言う人は、こうした数字をみていないのではいなかと思います。

ただし、予想できない何かが起こる可能性は否定できません。しかし、その時にも、すぐにゼロ金利解除とか、利上げなどに走るべきではありません。あくまで、コアコアCPIが4%を超えるなどの事態でも無い限り、ゼロ金利解除や、利上げなどするべきでありません。

こうしたことを無視して、日銀が来年早々にゼロ金利を解除し、利上げして、金融引き締めに走ってしまえば、また日本は、デフレにまい戻り、雇用がかなり悪化し、賃金も上がらず、それに政府が増税などの緊縮路線に走れば、日本は再びデフレの底に沈み、日本人の賃金は上がることなく、また失われた30年を繰り返すことになるでしょう。そうなれば、日本の実体経済は、現状のドイツのように酷いものになるかもしれません。

そうして、デフレが亢進すれば、先日もこのブログで述べたように、今度は日本だけではなく、世界が悪影響を受けることになりかねません。

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2023年12月25日月曜日

フーシ派はなぜ、紅海での船舶攻撃を続けるのか―【私の論評】バイデン政権のフーシ派外し決定が招く中東危機:弱さから生まれた新たな脅威

フーシ派はなぜ、紅海での船舶攻撃を続けるのか

岡崎研究所

まとめ
  • 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はバイデン政権がフーシ派をテロリストから除外したことは戦略的失敗としている。
  • バイデン政権は、フーシ派のようなイラン代理勢力に対して十分な強い姿勢をとっていない。
  • イランの支援を受けたフーシ派が紅海で商船を攻撃し、米海軍が介入した。
  • バイデン氏のイランとその代理勢力に対する宥和政策は、彼らを勇気づけた。
  • この抑止力の欠如は、さらなるエスカレーションと米国の利益への損害につながるだろう。
BP(旧ブリテッシュペトロリアム)の石油タンカー

 ウォールストリート・ジャーナル』紙の12月3日付社説は、バイデン政権がフーシ派を外国テロ組織リストから外したことを取り上げた。この動きは、イランとの関係改善を促進する試みの一環である。しかし、社説はこの決定を、フーシ派による最近の商船と米艦船への攻撃と結びつけて強く批判した。社説によれば、この攻撃は中東におけるイランの代理勢力を抑止するための政権の戦略の失敗を意味する。

 フーシ派はイランから武器と訓練の支援を受けており、紅海で商船への攻撃を行ったとされる。この侵略行為は、イランの革命防衛隊による制裁の一環であると考えられ、この地域における米国の軍事的利益と同盟国を標的にしたパターンの一部と見られている。

 社説は、バイデン政権が中東での紛争激化を懸念して、このような挑発行為に断固として対応しようとしないのは、その抑止アプローチの重大な失敗を意味すると主張している。警告を発し、フーシ派をテロ組織として再登録することを検討したにもかかわらず、攻撃は続いた。

 社説は、イランとその代理勢力に対するより強固な態度がなければ、挑発的な行動はさらにエスカレートし、米国の利益に大きな損害をもたらす可能性があることを強調し、米国がより毅然とした態度をとるよう求めている。さらに、シリアとイラクにおける米軍の交戦規定による制約を指摘し、米側に死傷者が出ない限り、報復攻撃は制限される可能性があることを示唆している。

 フーシ派の後ろ盾のイランのこの過去の行動を考えると、イスラエルの船に紅海を利用させないと言いつつ、フーシ派の真の狙いは、やはり、国際社会に圧力を掛けて、彼等がイスラエルに圧力を掛け、イスラエルのハマス攻撃を止めさせることにあるのではないだろうか。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】バイデン政権のフーシ派外し決定が招く中東危機:弱さから生まれた新たな脅威

まとめ
  • バイデン政権はイエメンの悲惨な人道危機を救うため、2021年2月にフーシ派をテロリストから除外した。
  • この措置にもかかわらず、イエメンの危機は避難民、飢餓、必需品へのアクセスの制限などを伴っていまでも続いている。
  • 結局バイデンの弱腰なアプローチがイランとフーシ派を大胆にしている。
  • バイデンは、即刻フーシ派を再指定し、積極的に行動すべきだ。
  • そうしなければ、既存の危機がさらに悪化し、米国とその同盟国を危険にさらすことになる。

バイデン政権は、2021年2月16日にフーシ派を外国テロ組織リストから外しました。この決定は、人道的な影響を考慮したもので、特にイエメンの深刻な人道危機に対応するためのものでした。

具体的には、トランプ前政権が政権交代直前の1月にフーシ派をテロ組織に指定したことが、停戦を遠のかせ、状況を悪化させるとの懸念が出ていました。そのため、バイデン政権はこの決定を反転させることを決定しました。

また、バイデン大統領は、イエメン内戦に介入を続けるサウジアラビア主導の軍事作戦への支援を停止するとも発表しました。これらの決定は、「世界最悪の人道危機」とされるイエメンの状況を改善するための一環として行われました。

しかし、イエメンの人道危機は依然として深刻で、改善の兆しは見られません。以下に具体的な状況をいくつか示します。

人々の犠牲は拡大する一方で、今年の9月以降、首都サナアの東に位置する都市マアリブでは推定40,000人、西部の紅海沿岸に位置する都市ホデイダでは10,000人以上が安全を求めて故郷を離れることを余儀なくされています。

水や食料、医療、教育などの必要不可欠なサービスへのアクセスも困難になっています。2021年時点で、人口の66%にあたる2,070万人が支援を必要としており、そのうち54%が18歳未満の子どもです。

人口の半数に当たる1,400万人が「過去100年間で世界最悪の飢饉」とされる危機に直面しています。6年間の長期にわたる紛争により、推定23万3,000人が死亡し、そのうち13万1,000人は、医療サービスやインフラ、食料の不足などの間接的な原因で死亡しました。

これらの情報から、イエメンの人道危機は依然として深刻であり、改善の兆しは見られません。国際社会の継続的な支援と関心が必要とされています。


現在の紅海の危機は、バイデン政権の外交政策の失敗を物語っています。フーシ派をテロリストリストから外したのは、悪党どもを増長させただけです。

イランとその代理勢力はあまりにも長い間、中東の安定を脅かしており、バイデンの弱いリーダーシップはさらなる侵略を招いているといえます。こうした脅威に対処する唯一の方法は強さと強い意思以外にありません。

バイデンのイランへの屈服は弱さを映し出し、今やフーシ派は報復されることなしに、自由に攻撃できると考えているようです。とても残念なことです。バイデンの失策が新たな危機を生み出しているのです。

フーシ派、ハマス、イラン......彼らはみな同じ穴のムジナに過ぎません。宥和政策は決してうまくいきません。バイデンは敵を挑発するのを恐れるのではなく、気骨を見せ、今すぐフーシ派を直ちにリストに戻すべきです。それは自らの過ちを認めることになりますが、それを恐れていては、テロリストによる犠牲者をますます増やし、米国やその同盟国にとっても脅威が増すばかりです。

フーシ派

そして、もし彼らが挑発を続けるのであれば、徹底的に叩く必要があります。それが彼らに理解できる唯一の言葉です。中途半端なことをすれば、さらなる危機を招くだけです。現在の世界秩序は良くも悪くも、米国を頂点として形成されており、米国が強ければ、世界はより安全になり、米国が弱ければ、悪政は強化されることになります。

今や強さによる平和の時代が懐かしいです。バイデンの招いた危機は、彼がそれに気づくまで、さらに制御不能に陥ることになるでしょう。それは、惨めなアフガン撤退、ウクライナにかかわるロシアに対する弱気な態度でも示されました。手遅れになる前に、米国民が目を覚まし、何が本当に起こっているのかを認識すべきです。日本を含む、米国の同盟国の国民もそうすべきです。

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2023年12月24日日曜日

保守主義の拡大とリベラリズムの後退【2024年を占う!】国際情勢―【私の論評】2024年の日本! 国際情勢の潮流の変化が日本政界の転換を促すか

保守主義の拡大とリベラリズムの後退【2024年を占う!】国際情勢

まとめ
  • 新年の国際情勢は保守派の台頭が著しく、国益重視と軍事力強化が主流となるだろう。
  • アルゼンチンやオランダで保守派指導者の勢いが増し、世界的な保守化が進展している。
  • 保守派は軍事力を重視し、グローバリズムの後退に伴い、自国主権の重要性を強調している。
  • この国際潮流の中で、各国が自らの動向を見直すことが求められている。
  • リベラル路線に対する批判が高まりつつある中、来年は保守勢力の影響力が拡大することになるだろう。



 新年の国際情勢は、保守主義とリベラリズムの対立が重要な焦点となっている。これらの思想は国家運営や国際政治における根源的な価値観とアプローチの相違を表しており、その定義や実践の違いは議論の的となっている。アメリカ流の区分いう保守主義は、国家の利益を中心に据え、自国の経済的、政治的、軍事的な利益を最優先に考える。政府の規制を緩和し、軍事力を重視する傾向がある。一方のリベラリズムは、国際的な協力や連携を重視し、個々の自由や権利を守ることに注力する。政府の規制を強化し、軍事力よりも外交や協力関係を重要視する。

 これらのイデオロギーの違いを明確にするために、アメリカの政治情勢や指導者の対比を見ることが有益だ。特にトランプ前大統領とバイデン現大統領の政策やアプローチの対比は、保守とリベラルの違いを示す良い例だ。バイデン政権下での国際安全保障の課題や不法移民問題が、リベラリズムの限界を浮き彫りにし、保守主義の勢いを後押ししている。この傾向はアメリカだけでなく、世界各国で見られるものであり、国際的な政治的パラダイムの変化を予示している。

 同時に、軍事力や国家の主権重視の動きも顕著だ。グローバリズムの後退や、各国が自らの主張や利益を強く主張する傾向が見られる。これが2024年においても継続し、国際関係や政策形成に影響を及ぼす可能性がある。このような国際情勢の変化の中で、日本を含む各国は自らの進むべき道筋を慎重に考える必要があある。国際政治の舞台では、保守主義とリベラリズムの対立が一層際立ち、それぞれの思想が政策決定に及ぼす影響が深刻化する可能性がある。そのため、各国は外交政策や国内政策を検討し、安全保障や国益の観点から進むべき方向を模索していく必要がある。

 2024年に予想されるこの国際潮流のなかで、わが日本がどう動くべきか。その進むべき方向は自然と明確になってくるといえよう。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】2024年の日本! 国際情勢の潮流の変化が日本政界の転換を促すか

まとめ
  • 2024年についての予測記事が少ない。株価予想はあるが、政治や世界情勢に関する予測は少ない。
  • 中国とロシアが国際秩序の再編や力による現状変更を目指している。新型コロナ感染症の拡大は国際協力を難しくし、各国が自国の利益を優先し保守的傾向が強まっている。
  • 岸田政権の支持率低下と、政治資金不記載問題で政局が揺れており、次期自民党総裁は世襲や派閥に属さない総裁候補が有利になるだろう。
  • 高市氏は安倍氏の保守的な政策を受け継ぎつつ、新しい視点を持ち、リーダーシップを示すことができる人物である。
  • 高市氏の総裁に就任するかしないかが日本の安定や安全、繁栄の未来に重要な影響を与えることになり、その結果自民党や日本の姿勢や方向性が決まるだろう。

最近、2024年はどのような年になるのか、ネットで検索してみても、あまりそのようなものはみあたりません。来年の株価を占うようなものはありましたが、政治や政局、経済、世界情勢がらみのものはありませんでした。きっと来年の頭にはでてくると思います。

例年だと、そのような内容の記事が今の時期ならある程度はでているのですが、今年は違います。それだけ、来年については予想が難しいのだと思います。

そうした中で、上の記事は、珍しく来年の予想をしていたので取り上げさせていただきました。そうして、本日は、以下で、私なりの来年の予想したいと思います。

中国は、経済力と軍事力を背景に、国際秩序の再編を図る動きを強めています。ロシアは、ウクライナ侵攻によって、力による現状変更を図る姿勢を見せました。新型コロナウイルス感染症の拡大は、国際協力の難しさを露呈し、各国が自国の利益を優先する傾向を強めました。

ロシア軍のウクライナ侵攻

それが2024年の保守主義の拡大とリベラリズムの後退という世界の潮流につながったみられます。そうして、日本ではこの潮流に先駆けて行動していたのが、安倍元首相です。彼の政策は、日本の国益を最優先とし、国家安全保障を強化するという観点から、多くの人々に支持されていました。しかし、残念ながら、安倍晋三氏は昨年暗殺され、その死は日本だけでなく、国際社会にも大きな衝撃を与えました。

来年からの新たな保守主義の拡大という潮流を考えた場合、安倍氏の死後、彼の遺志を引き継ぐ政治家こそが、最も次の日本のリーダーとして相応しいとの意見が広がっています。特に、最近の政治資金不記載問題があることから、派閥に属さない、世襲ではない議員が次の自民党総裁に選ばれる可能性が高いと考えらます。


この観点からすると、小石河(小泉、石破、河野)連合や茂木、上川外相などは論外ということになります。これらの政治家は、派閥政治や世襲の象徴と見なされており、新たなリーダーシップを求める声には応えられないでしょう。彼らのうち誰が総裁になっても、日本はリベラル化をすすめることになるでしょう。

その道を塞ぎ、保守派としての道を歩むのは本来、安倍派の議員だったはずなのですが、政治資金不記載の問題で、自民党派閥5人衆というか、安倍派の議員が総裁となる道もなくなったとみるべきです。

石破氏は派閥政治とは無縁とみられがちですが、かつて自らの派閥を率いていたことがあります。それに、現在派閥に属していないのは、派閥を形成するための仲間が集められないだけです。なぜそうなったかといえば、石破氏は自民党内にあって度々野党のように、その時々の政権を批判してきたため、多くの自民党議員から蛇蝎の如く嫌われていからです。

その一方で、菅前首相と高市早苗氏も、世襲議員ではないし、派閥にも属していないので、次期の有力な総裁候補にあげられると思います。菅前首相は、安倍氏の政策を引き継ぎつつも、よりリベラルな政策を掲げています。しかし、彼は次期の自民党総裁選に出馬するのではなく、リベラル派河野太郎氏を担ぐとみられています。

そうなると、最も相応しいのは高市氏とみられます。彼女は、安倍氏の保守的な価値観を継承しつつ、新たな視点を持ち込むことができる政治家です。彼女のリーダーシップは、日本が世界に示すべき道を示し、国際社会においても誇りをもって存在することを証明するでしょう。

安倍晋三氏の暗殺は、日本と国際社会に衝撃を与えました。彼は日本の先進的な指導者であり、彼の死は彼のリーダーシップや国益を最優先とする姿勢を尊敬する多くの人々に悲しみをもたらしました。彼の保守的な遺産を引き継ぎ、間違った方向に進むことのないような後継者を見つけることが、日本にとって極めて重要です。

その中で、高市氏は日本の国益を重視し、国家安全保障を強化するという安倍氏の遺志を継ぐことができる人物です。

私は、高市氏は、安倍氏の後継としてふさわしだけではなく、彼女のリーダーシップが、日本が世界に示すべき道を示し、国際社会においても日本が誇りをもって存在することを証明することになるだろうと期待しています。高市氏の選出は、日本が安定し、安全で繁栄する未来を築くための重要な一歩となるでしょう。

来年の日本の課題は、高市氏を自民党総裁にできるか、できないかということが最も重要になることでしょう。これにより、日本の中国やロシアに対する姿勢、安全保証、経済、社会のあり方が保守的になるかリベラル化がさらに進むかが決まってしまうからです。

自民党にとっても、安倍派にとっても、次期の展開を狙えるかどうかは、自民党高市総裁が誕生するか否かにかかっているといえます。

もし高市総裁が誕生しなければ、自民党はリさらにリベラル化し、保守岩盤層の支持はますます離れ、誰が総裁になっても、凋落しつづけ最終的に政権交代前の麻生政権のようになり、最終的に下野することになるでしょう。

安倍派は分裂して、他の派閥に吸収されるか、無所属議員となり、今後日の目をみることはないでしょう。

いずれの道を選ぶかは、自民党の所属議員自身です。こればかりは、なんともできません。国民ができることは、選挙で候補者を選ぶことだけです。高市総裁になれば、自民党に投票する保守岩盤層も増えるでしょうが、そうでなければ凋落するだけです。

高市総裁にならなければ、無党派層が増えたり、日本保守政党などの保守勢力が伸びることになるでしょう。今は、まだ混乱状態でそれが見えにくい状態ですが、世界で保守主義の拡大とリベラリズムの後退が顕著になる来年はそれがはっきり見えてくることになるでしょう。

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2023年12月23日土曜日

台湾 記者が総統選の偽の世調記事を報じた疑い 中国から指示か―【私の論評】台湾のマクロ経済はコントロール可能な状態であり、それが中国につけ入る隙を与えなくしている

台湾 記者が総統選の偽の世調記事を報じた疑い 中国から指示か

まとめ
  • 台湾の記者が中国共産党からの指示で偽の世論調査記事を報じ、総統選挙に介入した疑いが強まった。
  • 記者は実際の調査を行わず、支持率を捏造した。
  • 検察は中国当局からの指示を受けて特定候補者の選挙結果を操作した疑いを調査している。
  • 台湾の情報機関は中国からの干渉に警戒し、資金流入にも注視している。
  • この事件は台湾政府の中国からの情報操作への警戒を高め、選挙の信頼性を強調している。

 台湾の記者が、中国共産党の指示を受けて、1月に行われる台湾総統選挙についての偽の世論調査記事を、複数のネットメディアで報じた疑いで、台湾の検察が身柄を拘束しました。

 この記者は、2023年10月以降、台湾北部、中部、南部で、それぞれ300人以上の有権者を対象とした世論調査の結果だとする記事を報じていました。しかし、実際には調査は行われず、候補者の支持率などをねつ造していたということです。

 検察は、この記者が中国・福建省の共産党委員会の当局者から指示を受け、特定の候補者を当選または落選させる意図で、うその情報を流布した疑いが強まったとしています。

 台湾の情報機関である国家安全局のトップは、11月、台湾の世論調査機関の専門家や責任者が中国当局の招待で現地を訪問した事例があると明らかにしていました。また、こうした機関に中国から資金が流れていないかどうか注視していることも明らかにしていました。

 今回の事件は、中国が台湾の選挙に介入する新たな手段として、偽の世論調査を活用しようとした可能性があると指摘されています。

 この記事は元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】台湾のマクロ経済はコントロール可能な状態、中国がつけ込む隙なし

まとめ
  • 台湾の次期総統選挙は、統一の是非ではなく、経済や社会政策などを中心に争われる。
  • 台湾の経済は、中国依存の課題を抱えているが、マクロ経済政策はコントロール可能の状態にあり、それが中国が台湾につけ込む隙を与えていない。

台湾総統選候補者 左から頼清徳氏、侯友宜氏、柯文哲氏

台湾の次期総統選挙は2024年1月13日に実施されます。現在の候補者は以下の通りです。
  • 与党・民主進歩党(民進党)からは、蔡英文総統の後継として路線を引き継ぐ頼清徳氏
  • 最大野党・国民党からは侯友宜氏(新北市長)
  •  第3政党「台湾民衆党」からは柯文哲氏(党主席)
各候補者は、中国との対話を掲げていますが、その前提や実現可能性に違いがあります。また、いずれの候補も独立や統一を追求するわけではなく、現状維持を主張しています。

最新の世論調査では、頼清徳氏が36.5%、柯文哲氏が29.1%、侯友宜氏が20.4%の支持率を得ています。これらの数値は選挙戦が進行するにつれて変動する可能性があります。選挙の争点は統一の是非ではなく、むしろ経済や社会政策などにあり、台湾の約4割を占める無党派層の支持の獲得が勝敗を分けると考えられています。

台湾の経済問題と社会問題とは、以下のようなものです。

経済問題
  • 台湾の経済は、製造業を中心に上昇の一途を辿っています。特に半導体産業が世界一の強みとなっています。しかし、台湾経済の最重要な問題は、中国依存です。台湾と中国は政治的な関係がよくありません。もし何かあれば、中国から経済的な制裁を受けることもあります。
  • 台湾の経済成長率はおよそ3%前後を推移しています。しかし、市民の間では不満が高まっているようです。
社会問題
  • 台湾と中国の関係は、近年緊張が高まっています。中国の習近平国家主席は台湾「統一」は「必ず果たさなくてはならない」とし、そのための武力行使の可能性を排除していません。
  • 台湾の国防部は中国との関係はこの40年間で最悪だとしています。台湾は自衛できるのかという問題もあります。

台湾の債務残高については、現時点では深刻な問題はないといえます。債務残高対GDP比は2022年12月現在、約29.7%で、国際平均の約60%や自主規制の50%を大幅に下回っています。

中央政府の債務が 債務総額の大部分を占め、2022年にはGDPの約26%です。

政府と中央銀行を含む 統合政府の債務総額はGDPの40%に近い可能性があると考えられています。

台湾の全体的な債務状況は短期的に管理可能です。

CBT(台湾中央銀行)はインフレ上昇に対抗するため、2022年3月から政策金利を徐々に引き上げてきました。しかし、2023年3月以降はインフレと経済成長鈍化への懸念のバランスを取りながら、政策金利を据え置いています。

台湾中央銀行

インフレ率は2023年初頭に約3.6%でピークに達しましたが、それでも他国と比較すれば、元々低い水準です。6月には約2%まで徐々に冷え込んでおり、今後も低下すると予想されます。失業率は3.5%前後と引き続き低い状況にあります。台湾の金融政策も特に問題はなく、今後何か起こったにしても、コントロール可能の状態にあるといえます。

台湾政府のマクロ経済政策がコントロール可能ということは、重要です。マクロ経済に大きな問題、特に大きな債務問題などがあると、中国はここにつけ込む隙を見出すでしょう。

これは、非常に重要なことで、戦後日本が高度成長をはじめた頃から、日本ではそれまで色濃かったソ連の影響がなくなったとされています。経済が不安定だと、それを不満に感じる人が増え、それが敵対勢力などに利用されやすくなります。これは、世界中で普通にみられる現象です。

しかし、台湾の現状は経済的にはあまり問題はなく、それが中国につけ込む隙を与えにくいようにしています。それどころか、現在の大陸中国の経済はコントロール不能の状態に入りつつあります。だからこそ、上の記事のように中国が台湾でフェイクニュースを流そうとするのでしょう。

 フェイクニュースの見極め方(クリックすると拡大します)

経済が悪くなれば、中国やロシアなどにつけ込む隙を与えてしまうというのは、無論日本も例外ではありません。現在の日本は、政治資金不記載問題で揺れていますが、不明瞭な慣行は正すべきですが、これ一色になり、経済がなおざりにされてしまえば、経済が悪化して、中国やロシアにつけ込む隙を与えかねません。

そのようなことにならないように、有権者は政府を監視し、政治家は、政局などに惑わされたり扇動されたりして道を誤らないようにしていただきたいものです。

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