2018年8月31日金曜日

米も知らなかった…日朝極秘接触 7月にベトナムで拉致問題全面解決に向け協議 日米連携に影落とす危険性も ―【私の論評】ワシントン・ポストでは相変わらずパンダハガーが勢いを維持している(゚д゚)!


北朝鮮交換と接触したとされる北村滋内閣情報官
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 日本と北朝鮮の情報当局高官が7月、ベトナムで極秘接触していた。日本人拉致被害者の全員救出を目指し、安倍晋三首相が信頼する内閣情報官が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の側近である、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長(統一戦線部長)に直結する女性幹部と非公式協議を行ったという。日朝首脳会談の可能性も探ったとみられる。ただ、ドナルド・トランプ米政権には事前に伝えておらず、今後の日米連携に暗い影を落とす可能性もある。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は28日、衝撃の「日朝極秘接触」のニュースを、関係者の話として伝えた。

 同紙によると、日本からは北村滋内閣情報官、北朝鮮からは南北関係を担当する統一戦線部の金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線策略室長が出席した。拉致被害者問題などについて協議したという。

金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線策略室長

 北村氏は警察庁出身で、第1次安倍政権では首相秘書官(事務担当)を務めた。民主党政権時代の2011年12月末に、内閣情報調査室(内調)を率いる内閣情報官となった。自民党の政権奪還後も留任し、「首相動静」の登場回数が断トツなど、安倍首相の信頼は絶大である。

 金聖恵氏は、金日成(キム・イルソン)総合大学出身とされるエリート官僚で、金英哲氏が5月、正恩氏の親書を持参して訪米した際に同行して注目された。統一戦線部は、CIA(中央情報局)とともに、6月の米朝首脳会談への事前交渉を主導した工作機関であり、金聖恵氏は実務責任者とみられている。

 トランプ大統領と正恩氏がシンガポールで行った米朝首脳会談で、正恩氏は「日本と対話する用意がある」と前向きに語ったとされる。拉致問題は、米国任せだけでは解決しない。そこで、北村氏と金聖恵氏による日朝極秘接触がセットされたようだ。

 官邸周辺は「正恩氏は昨年以降、米朝対話の総指揮を金英哲氏に一本化している。米国でいえば、金英哲氏は国務長官とCIA長官を兼ねているような存在で、北朝鮮の外交と諜報の両面で絶大な力を持つ。官邸とすれば、拉致問題の解決のためには、金英哲氏に絶対につながる金聖恵氏は、ノドから手が出るほど欲しいパイプだった。このため、本来は格が上の北村氏(=格的には金英哲氏と同等)を直々に接触させたと聞く」と語る。

金英哲氏

 この後、8月にも河野太郎外相が訪問先のシンガポールで、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相と短時間接触した。

 安倍首相にとって、拉致問題の全面解決は悲願である。

 拉致被害者家族会の結成20年にあたる昨年、安倍首相は夕刊フジの独占インタビューに応じ、次のように語った。

 「13歳の少女(横田めぐみさん)を含む、多くの日本人が拉致され、今も北朝鮮でとらわれたままだ。この問題を解決するのは、安倍政権にとって最重要課題だ」

 「正恩氏に対し、『拉致、核、ミサイルの諸問題を解決しない限り、北朝鮮は世界からますます孤立し、明るい未来を描くことはできない』と理解させなければならないと思っている」

 「拉致問題を解決するために、あらゆる選択肢を検討する用意はある。一方、『対話のための対話』では意味がない。私と正恩氏が握手するショーのための会談は、むしろ行うべきでないと思う」

 2002年の日朝首脳会談にも、官房副長官として出席した安倍首相は、北朝鮮の欺瞞(ぎまん)性を熟知している。北朝鮮が何度も日本や世界をだましてきたことも体験している。

 このため、安倍首相は6月、官邸で拉致被害者家族と面会した際、「拙速にはやらない。北朝鮮が被害者をすべて帰すといったら(北朝鮮に)行く」と、慎重に語った。

 「北朝鮮の非核化」をめぐる米朝協議が停滞・難航するなか、拉致問題をめぐる日朝協議の進展も簡単ではない。

 加えて、日朝極秘接触が事前に知らされなかったことに、米政府当局者らは不満を高めているという。

 前出のワシントン・ポストによると、複数の米政府高官は、北朝鮮政策について日本と日々情報を共有しているにもかかわらず、日本政府が接触の計画を事前に伝えなかったことに不快感を示したという。

 官邸周辺は「情報の出方を精査する必要があるが、今回の(ワシントン・ポストへの)リークは、北朝鮮問題をめぐる日米連携に暗い影を落とす危険性がある」と語っている。

【私の論評】ワシントン・ポストでは相変わらずパンダハガーが勢いを維持している(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事における、ワシントン・ポストの報道はすぐに真に受けない方が良いと思います。

ワシントン・ポストには「複数の米政府高官は、北朝鮮政策について日本と日々情報を共有しているにもかかわらず、日本政府が接触の計画を事前に伝えなかったことに不快感を示した」としていますが、これが具体的には誰なのかについては触れられていません。

当然のことながら、日本が北と接触することは、内密に行われていたことであり、米国には全く知らせないか、知らせたにしても、ごく一部にしか知らせない可能性もあります。

仮にワシントン・ポストが比較的下の職位の関係者に複数確認を入れたとしても、知らないのは当然なのかもしれません。

もし、複数の関係者の名称が具体的にあげられていたら、このワシントン・ポストの報道はかなり信憑性があると考えて間違いないです。日本側の関係者の実名もあげられていれば、さらに信憑性があるものといえます。

それに、そもそも独立国である日本が、米国に対して日本の高官が、北朝鮮の比較的低い職位の関係者に会ったことまで、何もかも報告する義務があるのでしょうか。

日米関係については、日本は何でも米国の言うとおりとする識者も結構いますが、それは、あのTPP交渉において、そうとばかりはいえないことがはっきりしました。TPP交渉反対派の人々は、TPP交渉をすれば日本は米国の良いようにされるといって大騒ぎしましたが、その懸念はトランプ大統領がTPPから離脱し、そうではなかったことがはつきりしました。

無論、今でも日本は米国の大きな影響下にあることは否定しませんが、何もかも米国の言いなりというのは、正しくはないです。

なぜ、このようなことを言うかといえば先日も、ワシントン・ポスト氏はトランプ大統領に関して間違った報道をしていましたので、特に日米関係の報道は、信憑性が疑われるからです。

それについては、昨日のこのブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「真珠湾攻撃忘れないぞ」トランプ米大統領、安倍首相に圧力―【私の論評】日本のメディアは米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!
会談で握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=6月、ワシントンのホワイトハウス

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
米紙ワシントン・ポスト電子版は28日、トランプ大統領が6月にホワイトハウスで安倍晋三首相と会談した際「(第2次大戦の)真珠湾攻撃を忘れないぞ」と前置きした上で、難航している通商問題の協議を始めたと伝えた。異例の発言の背景には、対日貿易赤字の削減を目指し圧力を強める狙いがありそうだ。 
・・・・・〈中略〉・・・・・・・ 
一方多少まともに報道しているところもあります。これは、FNNの取材でわかったことですが、6月にアメリカで行われた日米首脳会談において、トランプ大統領は確かに「アメリカが日本の防衛費を負担して、対日貿易赤字も解消されなければ、ダブルパンチになる」と不満を表明しました。 
そのうえで、「真珠湾攻撃を忘れていない。日本も昔はもっと戦っていただろう。日本も周辺国ともっと戦うべきだ」と述べたのです。
この発言は、「日本が自国の防衛を強化して、アメリカの防衛費の負担を減らすべきだ」と、暗に求めたとみられます。 
関係筋などによると、この時トランプ大統領は、「日本はかつて真珠湾を攻撃したほどの軍事強国であったじゃないか」と言う意味で述べたもののようです。
日本は「防衛費をもっと増やすべきだ」という意味で発言したもので、通商問題で日本を非難する意味ではなかったとしています。
 また、トランプ大統領は、「パールハーバー」と発言したものの、「あのひきょうな攻撃を忘れないぞ」という批判的な意味、言い方はしていないとのことです。
外交上、際どい言葉は、異なる解釈を生み出すケースがあるため、そうした言葉が波紋を生んだケースだといえそうです。 
また、メディアとの関係もあります。トランプ大統領に対して批判的な米リベラル・メディアは、そういうふうに報道したというベースがあるとも忘れてはいけないです。
また、この記事では、 日本のパールハーバー攻撃を卑怯なだまし討とみるのではない見方もあることも掲載しました。米国では特に保守層では、真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものであるとして、日本を「侵略国」であると決めつけた「日本悪玉史観」は事実上、見直されているのです。

トランプ氏も保守派であることから、当然のことながら、こうした歴史観に立脚して「リメンバー・パール・ハーバー」という言葉を使っているとみるべきなのです。であれば、対日貿易赤字の削減を目指し圧力を強める狙いでこの言葉を使った事はありえないわけであり、ワシントン・ポスト紙によるトランプ大統領の「リメンバー・パールハーバー」報道はかなり偏向しているといわざるをえません。

ワシントン・ポスト紙は以前から、日本報道に関して、かなり偏向していました。たとえば、在米の複数の中華系団体は2016年8月15日付け付の米紙ワシントン・ポスト無料版に、日本最南端の東京都・沖ノ鳥島は「島ではない」と主張する意見広告を出しました。また、台湾が実効支配する南シナ海の太平島は「島」ではないとした7月の仲裁裁判所の判断は「不合理だ」と訴えました。

意見広告には台湾の大学の卒業生が組織したとみられる団体や、日本の戦争責任を追及する中華系の団体など台湾系を中心とするグループや個人が名を連ねました。仲裁判断への不満や、沖ノ鳥島を巡る異論を米国で認知させる狙いがあるとみらます。

このことから、ワシントン・ポストは、パンダハガー(親中派)が力を持った新聞であると考えれます。ちなみに、ワシントン・ポストは米国では発行部数が第5位です。

ルパート・マードック氏(左)と三番目元妻ウェンディ・トン氏(右)

一方米国で販売部数が第1位のウォール・ストリートはオーナーのルパート・マードック氏は三番目元妻ウェンディ・トン氏が、中国系であり、親中派であったとみられていますが、その後離婚しました。そのせいもあるのか、極端に親中的な報道をするということありませんでした。

そうして、今年の3月に、ウォール・ストリート紙は、ウェンディ・トン氏は「中国のスパイ」との疑惑を報じています。トン氏は米ドナルド・トランプ大統領の娘婿で、大統領上級顧問を務めるジャレット・クシュナー氏との親しい関係を利用して、トランプ政権内部の機密情報を入手し、中国共産党指導部に流しているというのです。

さらに、親中派の論客として知られ『鄧小平伝』も書いたデーヴィッド・シャンボー(ジョージワシントン大学教授)は大胆にも中国共産党の崩壊を予測し、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2015年3月10日)に寄稿していました。

これについては、詳細は、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国寄りの専門家さえついに唱えだした「中国大崩壊」の論拠―【私の論評】ニッポン人中国スパイ、親中派、媚中派は速やかに転向せよ、そうでないと飯のくいあげになるぞ(゚д゚)!
デビッド・シャンボー教授
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、これはタイトルの通り、中国共産党による支配が、今後〈終焉に向かうだろう〉ことを、理由を挙げながら指摘したウォルストリート紙のコラムで。

これが世界的な話題となった理由の一つは、チャイナハンド(*注)と考えられた人物が中国の崩壊に警鐘を鳴らしたからです。中国に対するスタンスは本人も認めているようで、天安門事件後に体制崩壊と衰退が不可避だと主張する中国ウォッチャーがいるなか、より慎重な立場をとってきたとしています。

【*注:中国の立場を理解する外交官、ジャーナリスト、学者の総称】

つまり衝撃の正体は「あの中国にやさしい専門家さえ『危ない』といっている」という点にあったのです。

以前からこのブログで指摘しているように、米国の新聞は、全部がリベラル系であり、日本でいえば産経新聞がないといっても良い状況ですが、その中でも老舗のウォール・ストリート・ジャーナルは比較的まともな報道をしているといえそうです。

しかし、ワシントン・ポストはあいかわらす、パンダハガー(親中派)の勢いが強いのでしょう。

これは、同時に中国の現状の大変さを物語っているとも受け取れます。日米が協同して、中国を叩くということになれば、中国には太刀打ちできません。

中国としては何とかして、日本を味方に引き入れ、日本を親中派政権にして米国の経済冷戦をかわしたいと考えているのかもしれません。だからこそ、ワシントン・ポストを利用して、日米が離反するように仕向けている可能性があります。しかし、次の総裁選では安倍総理が圧倒的に有利ですから、そのような目論見は成就することはないでしょう。

これは、しばらく趨勢をみてみないことには、まだなんとも言えませんが、ワシントン・ポストの報道にはこういう背景があるということを知った上で、報道を吟味すべきと思います。特にワシントン・ポストを鵜呑みにする日本の報道には、留意すべきです。

【私の論評】


2018年8月30日木曜日

「真珠湾攻撃忘れないぞ」トランプ米大統領、安倍首相に圧力―【私の論評】日本のメディアは米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!


会談で握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=6月、ワシントンのホワイトハウス

米紙ワシントン・ポスト電子版は28日、トランプ大統領が6月にホワイトハウスで安倍晋三首相と会談した際「(第2次大戦の)真珠湾攻撃を忘れないぞ」と前置きした上で、難航している通商問題の協議を始めたと伝えた。異例の発言の背景には、対日貿易赤字の削減を目指し圧力を強める狙いがありそうだ。

米国では真珠湾攻撃は「卑劣なだまし討ち」との見方が強い。日本側の弱みと見なしてトランプ氏が通商交渉で譲歩を引き出すために、あえて日米首脳会談で触れた可能性がある。

同紙によると、トランプ氏は真珠湾攻撃に言及した後、米国の対日貿易赤字について激しく非難し、安倍氏に対し牛肉や自動車の対日輸出で米国に有利になるような2国間貿易協定の交渉に応じるよう促した。

これに対し安倍氏は、トランプ氏の発言が終わるのを待った上で反論。日本政府当局者は「首相は大統領の主張を断定的に否定すれば、プライドを傷つけてしまうと分かっている」と説明した。(共同)

【私の論評】日本のメディアは、米国保守派の歴史観の変貌に無知(゚д゚)!

時事通信や共同通信、新聞各紙が、トランプ大統領が「真珠湾攻撃を忘れていないと発言し、通商交渉で厳しい姿勢を示した」とし、「揺らぐ日米蜜月」などと報じています。

この「パールハーバー発言」は、そもそもアメリカの新聞「ワシントン・ポスト」が、トランプ大統領が安倍首相に対して、「真珠湾攻撃はひきょうだった」と非難する、「アイ・リメンバー・パールハーバー」、つまり、「真珠湾攻撃を忘れないぞ」という言葉を使って、通商問題で譲歩を迫ったと報じたことが始まりでした。しかし、各紙はしっかりと総理周辺などに取材したのでしょうか。

日本軍による真珠湾攻撃

トランプ大統領は、真珠湾攻撃ではないものの先の大戦に関しこれまでも同様の発言を繰り返し、防衛費増について話を日本側に振っています。

すなわち防衛装備品の購入増につながるわけで、それをアメリカも狙っているわけですが、アメリカの新聞の引用ではなく、しっかりと取材をし記事を書いて欲しいものです。

一方多少まともに報道しているところもあります。これは、FNNの取材でわかったことですが、6月にアメリカで行われた日米首脳会談において、トランプ大統領は確かに「アメリカが日本の防衛費を負担して、対日貿易赤字も解消されなければ、ダブルパンチになる」と不満を表明しました。

そのうえで、「真珠湾攻撃を忘れていない。日本も昔はもっと戦っていただろう。日本も周辺国ともっと戦うべきだ」と述べたのです。

この発言は、「日本が自国の防衛を強化して、アメリカの防衛費の負担を減らすべきだ」と、暗に求めたとみられます。

関係筋などによると、この時トランプ大統領は、「日本はかつて真珠湾を攻撃したほどの軍事強国であったじゃないか」と言う意味で述べたもののようです。

日本は「防衛費をもっと増やすべきだ」という意味で発言したもので、通商問題で日本を非難する意味ではなかったとしています。

また、トランプ大統領は、「パールハーバー」と発言したものの、「あのひきょうな攻撃を忘れないぞ」という批判的な意味、言い方はしていないとのことです。

外交上、際どい言葉は、異なる解釈を生み出すケースがあるため、そうした言葉が波紋を生んだケースだといえそうです。

また、メディアとの関係もあります。トランプ大統領に対して批判的な米リベラル・メディアは、そういうふうに報道したというベースがあるとも忘れてはいけないです

このブログでも何度か述べたように、米国のメデイアはほとんどがリベラルです。その中で、特に大手新聞はすべてがリベラルです。米国のメディアのリベラル対保守を比率でいうと、代替9対1の割合です。

そのため、保守派が何かをいっても、ほとんどがリベラルメディアによってかき消されてしまうというのが現状です。そのため、私達日本人などは、リベラルメディアによる報道のみに接しているため、米国の半分のリベラルの見方や考え方にせっしているわけです。

ところが、トランプ大統領が誕生したことでもわかるように、実は米国にも当然のことながら、保守派も存在するわけです。少なくとも、米国の人口の半分くらいは存在するはずです。でなければ、トランプ大統領など誕生する余地もなかったはずです。

メディアを批判するトランプ大統領

結果として、私達日本人は米国のリベラルのことはみていても、後半分の保守層のことは全く見ていないということになります。

そうして、日本のメディアは米国のリベラルメデイアの報道する内容をそのまま報道することが多いので、いつまでたっても、日本ではアメリカの半分である保守の言っていることや考えていることがわからないままなのです。

だからこそ、ブログ冒頭の記事のような報道がなされてしまうことが良くあるのです。

そうして、このトランプ氏を含めた保守派の「真珠湾」という言葉の意味は、従来とは明らかに変わっています。それについては、以前このブログに掲載したことがあります。そのブログのリンクを以下に掲載します。
やはり「中国と対決」の道を選んだトランプ政権―【私の論評】背景には米国内での歴史の見直しが(゚д゚)!
米国のドナルド・トランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席(2017年11月9日)

この記事は、2017年12月27日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事には動画が掲載してあり、その動画ではトランプ大統領のいう「真珠湾忘れるな」の意味について説明しています。

以下にその動画と、記事の一部を引用します。




この動画では、米国では多様な歴史の見方があることを語っています。たとえば、日本のパールハーバー攻撃を卑怯なだまし討とみるのではない見方もあることを語っています。 
1941年12月7日(現地時間)、日本軍が真珠湾攻撃をした当時、アメリカのルーズヴェルト民主党政権は「卑怯な騙し討ち」と非難しました。日米両国が懸命な戦争を避けるための外交交渉をしていたのに、日本がいきなり真珠湾を攻撃してきたという見方です。 
しかし、日米交渉の経緯について知られるようになるにつれ、日米交渉を潰したのは、ルーズヴェルト民主党政権側であったことが知られるようになっていきました。 
先の戦争は決して日本の侵略戦争などではなかったにもかかわらず、アメリカのトルーマン民主党政権は東京裁判を行い、日本の指導者を侵略者として処刑しました。このことは、公正と正義を重んじたアメリカ建国の祖、ワシントンやリンカーンの精神を裏切る行為です。 
これまで戦争責任といえば、必ず日本の戦争責任を追及することでした。過去の問題で批判されるのは常に日本であって、過去の日本の行動を非難することがあたかも正義であるかのような観念に大半の日本人が支配されてしまっています。しかし、どうして戦争責任を追及されるのは常に日本側なのでしょうか。 
敗戦後の日本人が、「戦争に負けたのだから」と連合国側による裁きを甘受したのは仕方のないことだったかもしれません。しかし、歴史の真実は勝者の言い分にのみ存するのではないはずです。 
上の動画をみてもわかるように、米国では真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものであるとして、日本を「侵略国」であると決めつけた「日本悪玉史観」は事実上、見直されているのです。

この「日本悪玉観」を見直しているのは、あくまで米国の保守派であって、リベラル派の多くは未だに「日本悪玉観」で歴史をみています。

米国のリベラル派は、おそらく米国の人口の半分はいるとみられる保守層の「歴史観」の変貌にきづいているでしょう。かなりの脅威を感じているに違いありません。

トランプ氏の歴史観も当然ながら、「日本悪玉観」ではないので、当然のことながら、安倍総理に「真珠湾を忘れない」と語ったのも、 無論「卑怯な騙し討ち」を意味するものではないのです。

このような事実を知っていれば、日本の新聞も誤った報道をしないですんだかもしれません。

その意味では、今回の出来事は、日本のマスコミが米国の主に保守派においては、歴史観が変わって単純な「日本安悪玉観」は通用しなくなっていることに関して無知であることを露呈したともいえると思います。

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2018年8月29日水曜日

金融緩和政策を止めるな! 平成の30年はデフレの時代…原因は不要な「バブル潰し」―【私の論評】「世界的貯蓄過剰2.0」に気づかなければ、日本は平成の終わりとともに「失われた100年」を迎える(゚д゚)!


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2019年4月30日をもって、「平成」の世は終わりを迎える。一体、平成時代とは日本にとってどんな時代だったのだろうか。新しい時代を迎えるにあたって、一体何が変わり、何が変わらないのだろうか。

 思えば平成は「バブル経済」で始まった。現在、一般的にバブルは“浮かれたカネの亡者による狂宴”のように思われている。しかし、果たして本当にそうなのだろうか。その功罪は、きちんと検証されているのだろうか。

 一向に景気が上向かなかった時期を経て、日本経済はITバブルや、筆者も期せずして当事者となった小泉改革、そして民主党政権、東日本大震災、アベノミクスへと移り変わっていった。この“失われた20年”、厳しくいえば、“失われた30年”から学ぶべきことは少なくない。

 あるテレビ番組で、デフレはいつから始まったのかという質問があった。

 デフレの国際的な定義は「2期連続での物価下落」と定められている。ここでいう物価とは、一国経済の話なので、消費者物価と企業物価を合わせたGDPデフレーターでみるのが普通だ。それによると、デフレは1995(平成7)年からと判断できる。となると、平成のかなりの期間はデフレだったといえるだろう。

 その原因は、「バブル」ではなく、「バブル潰し」だった。バブルには原因がある。当時、価格が高騰していたのは株と土地だけだった。筆者のみたところでは、これは株式に関する税制上の抜け穴が主要因で、それを利用した証券会社や金融機関の「財テク」商品が開発され、株と土地のバブルを形成していた。

 株と土地だけの話なので、証券会社の「財テク商品」(当時「営業特金」といわれた)と金融機関の不動産融資を規制すればよかった。当時、役人であった筆者は証券会社の規制を担当した。その規制は89年12月に出され、金融機関規制も90年3月に出た。それで終わりのはずだった。

 ところが、「平成の鬼平」と持ち上げられた日銀の三重野康総裁は、バブル潰しのために金融引き締めを行った。当時のインフレ率は3%以下だったので、もしいまのインフレ目標(2%)が導入されていたとしても、過度な引き締めは不必要と判断されるべき状況だった。

 この件について、筆者は経済学者のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)元議長に聞いたことがある。彼の答えは、「株などの資産価格だけが上昇しているときに必要なのは資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価に影響のある金融政策の出番ではない」というものだった。そもそも一般物価に資産価格は含まれていないので、バブル退治に金融政策を使うのはお門違いだった。

 しかも、日銀官僚の「無謬(むびゅう)性」(間違いはないとの過信)から、バブル後の金融引き締めが正しいと思い込んだので、その後もデフレ不況が継続した。

 アベノミクスの金融緩和で、ようやく平成のデフレから脱出しかけている。あと一歩のところだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「世界的貯蓄過剰2.0」に気づかなければ、日本は平成の世の終わりとともに「失われた100年」を迎えることになる(゚д゚)!

論評の前に、まずは上の記事にもでてきたGDPデフレーターの解説をします。GDPといっても、「名目」と「実質」があります。簡単にいってしまえば、「名目GDP」は物価変動の影響を受けた表面上の値、「実質GDP」は物価変動の影響を除いて計算された内情的な値です。

例えば第一次大戦後のドイツにおけるインフレはよく知られていますが、あのインフレ(インフレーション:物価上昇、通貨価値の下落)で上昇した同国の名目GDPをそのまま経年比較に用いると、「あの時のドイツは物凄い経済成長を果たした」となってしまいます(もっとも為替レートもそれに伴い急変しているので、他国との比較ではそこまで酷い話にはならない)。かといつて、実質GDPを用いれば、そのような奇妙な結果は出てこないです。

見方を変えると、名目GDPと実質GDPが均衡していれば物価も均衡、名目GDPが実質GDPを上回れば物価は上昇、下回れば物価は下落となります。

これを分かりやすくするために設けられた指標が「GDPデフレーター」という指標です。これは「名目GDP÷実質GDP」で算出されるものです。

実際には名目GDPから実質GDPを算出するための指標であり、実質GDPが最初から計上されているわけではありません。名目GDPが物価の影響を受けているもの、実質GDPが受けていないものであることから、GDPデフレーターは物価変動の度合いを示す物価指数でもあります。

よって、GDPデフレーターの動きを見て、増加しているようならばインフレーションが、減少しているならばデフレーションが生じていると判断できます。

次に示すのは日米中3か国のGDPデフレーターの前年比です。この値がプラスならばインフレーション、マイナスならばデフレーションが生じていることになります。また、この値をインフレ率とも呼んでいます(マイナス値ならばマイナスのインフレ、つまりデフレが生じています)。



アメリカ合衆国はきれいな形でインフレーションが生じており、1980年代後半以降は年2-3%程度のインフレが確認できます。他方中国は(統計上の精度の問題もあるのでしょうが)大きな上下を繰り返しており、20%を超えるインフレが生じた年もありますが、大よそはインフレを継続。2012年以降はアメリカ合衆国同様に年数%のインフレに留まっています。

日本はといえば元々インフレ率は低迷していて、1990年代後半に至ると失速し、以後は大よそマイナス圏、つまりデフレーションが生じる形となっています。2014年にようやく出れフーションから脱したものの、インフレ率は米中と比べるとまだ低迷状態にあることは否めないです。

GDPデフレーターの前年比推移のうち日本のみを抽出したのが次のグラフです。


バブル経済が崩壊して間もなくのタイミングの1997年あたりで、GDPデフレーター前年比はマイナスに落ち込み、デフレーション状態となっています。プラスに復帰するのは2014年に入ってからなので、言葉通り「失われた20年間」が生じたことになります。いわゆる「ロスジェネ」が発生したのもこの時期に一致しており、「ロスジェネ」が発生したのは、このデフレによるものであることは言うまでもありません。

デフレーション状態が続くと「政府の債務実質負担が増加する」「企業債務の実質的な負担が一層重たくなるので、債務を有する企業の活動が鈍くなる」「物価は下落するが名目賃金、名目金利がさほど下がらないと、実質賃金、実質金利が上昇するため、企業収益を圧迫」することになります。

「消費者は手持ち資産の購入力が増すために消費が増大する」ように見えますが、「実質的な効果はさほど大きくない」です。「住宅ローンを抱えている世帯が多く、その世帯の家計への負担が大きくなる」「物価下落に対する先行き不透明感や『待ちのお得さ』心理から買い控えが起きる」などの弊害が生じます。

多かれ少なかれ、これは多くの人々経験したことがあり、なるほど感を覚えるものがあります。バブル崩壊後から続く日本の長期景気低迷感は、デフレ状態が原因なのです。

デフレーションにもよい面はあり「デフレ期は名目賃金は下がるがそれ以上に物価も下がっているので実質的な賃金は上昇し、国民の生活は豊かになる」どと主張する人もいますが、それは大きな勘違いです。

実際は私達が実際に過去に見てきたとおり、デフレ期には実質賃金が下がっており、逆にインフレ期にこそ実質賃金が上昇しています。デフレで良い事など一つもありません。だからこそ、デフレは経済の癌などといわれて恐れられてきたてのです。

金融政策などによる明確なインフレへのかじ取りは、色々な意味でこの先数十年の日本の流れかを変えていくことになるでしょう。今後の動向にも大いに注目したいところです。

ブログ冒頭の高橋洋一氏記事では、平成におけるデフレのきっかけは、「株などの資産価格だけが上昇しているときに必要なのは資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価に影響のある金融政策の出番ではない」にもかかわらず、バブル退治に金融引き締めをしてしまったことにあるとしています。

まさに、その通りです。確かにあの時に、金融引締めをしないでいれば、デフレは生じていなかったはずてす。官僚の誤謬は本当に恐ろしいです。

さて、平成の世があと少しで終わり、元号が何になるのか今はわかりませんが、元号が新しくなるとともに、日本はデフレからきっぱりと決別して、緩やかなインフレの時代に移行していただきたいものです。

ただし、新しい元号になってからも、官僚の誤謬による間違った金融政策が実施され、とんでもないことになり、失われた30年どころか、失われた40年を迎える可能性は否定しきれません。

そのもっともありそうなシナリオは、ここしばらく日本がデフレスパラルの底に沈んていた間に、世界は完璧に変わってしまったことを官僚が認識できずに、再び金融引締めをするというものです。

これについては、このブログでも以前紹介した野口旭氏の記事が参考になります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!

野口旭氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に従来とは明らかに変わった世界について関連する部分を引用します。
1960年代末から始まったアメリカの高インフレや、1970年代初頭の日本の「狂乱物価」が示すように、金融緩和や財政拡張の行き過ぎによる経済的混乱は、少なくとも1980年代前半までは、先進諸国においても決して珍しいものではなかった。つまり、その時代には確かに「財政と金融の健全な運営」がマクロ経済政策における正しい指針だったのである。 
ところが、近年の世界経済においては、状況はまったく異なる。「景気過熱による高インフレ」なるものは、少なくとも先進諸国の間では、1990年代以降はほぼ存在していない。リマーン・ショック以降は逆に、日本のようなデフレにはならないにしても、多くの国が「低すぎるインフレ率」に悩まされるようになった。また、異例の金融緩和を実行しても景気が過熱する徴候はまったく現れず、逆に早まった財政緊縮は必ず深刻な経済低迷というしっぺ返しをもたらした。世界経済にはこの間、いったい何が起こったのであろうか。 
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。 
この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
学問的にはそのようなことは明確にはいえませんが、それを裏付ける現象は多数存在しており、もう世界は、すでに「世界的貯蓄過剰2.0」の時代に入ったとみるべきなのです。この世界では、積極財政や金融緩和の支えがない限り、十分な経済成長を維持することすらできないのです。

ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥るのです。それが、需要が旺盛で、供給がそれになかなか追いつかなかった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなるようになり、現在では経済を維持するために金融緩和、積極財政を継続して行うことこそ、正しい選択なのです。

古い時代と現在とでは何が違うかといえば、その最たるものは、大きな戦争がなくなったということかもしれません。世界各地て、大きな戦争があれば、供給能力が大幅に削減され、すぐに需要を満たすことができなくなり、貯蓄が積み上がることもなくなって、しまうことなどが起こっていたのです。

しかし、今の世界には大きな戦争はないし、これからも起きそうにありません。実際、世界の唯一の超大国も、中国に武力を直接行使することなく、貿易戦争、経済戦争を挑んでいます。それは、現在では多数の核兵器が存在していて、大規模な武力行使をすれば、それはやがて核戦争に発展し、敵国を滅ぼすにとどまらず、自らも含む全世界を滅ぼすことにつながりかねないからです。

さらに、良い悪いは別にして、近代の西欧のライフスタイルは、世界中に広まりましたが。その後の世界は、科学技術は發展しましたが、これを変えるような動きはあまりありません。ポストモダニズムも、思ったほどには影響力がありませんでした。これまでにない、全く新たなライフスタイルやものの考え方がでてきて、これが世界を席巻するようなことでもあれば経済はたちまち供給不足となるのでしょうが、そのような動きは今のところみられません。

世界がこのように変わってしまったことに、気付かず日銀官僚が、金融緩和をしても、なかなか物価が上がらないから緩和をやめてしまうとか、財務官僚もこれに気付かず、もっともらしい理由をつけて、緊縮財政ばかり続けるようなことがあれば、日本はすぐにもデフレに舞い戻ることになるでしょう。そうして、今度は「失われた30年」などという生易しいものではなく、「失われた100年」を迎えることになるでしょう。

そのような官僚に、だまされることなく、政治家がまともな政策を打ち出せば良いのですが、自民党のポスト安倍の面子をみてもあまり期待できそうにもありません。野党は、問題外です。マスコミは圏外です。

このようなことになるか、それとも、「世界的貯蓄過剰2.0」に気づき、当面積極財政、金融緩和を続けるかにより、ここ数十年先の日本の趨勢が決まることでしょう。

日本が、これから再び深刻なデフレスパイラルに落ち込むことなく、まともに成長していくには、まずは私達が、世界が変わったことを理解しなければなりません。

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2018年8月28日火曜日

米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ―【私の論評】日本は米中新冷戦の影響なし!だが間抜け官僚の誤謬で甚大被害も(゚д゚)!

米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ


激しさを増している貿易戦争が、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。だが、注意すべきは事態がトランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化している点だ。

米中関係は貿易戦争から経済冷戦へ

米中の関税の応酬による貿易戦争は第2幕を迎えた。8月23日に双方が160億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を発動した。9月にはさらに米国は2000億ドル相当、中国は600億ドル相当の輸入品に追加関税を課す構えだ。

 貿易戦争は激しさを増しており、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。

進展がなかった、事務レベル協議の裏側

 8月22日、ワシントンで行われた事務レベル協議も何ら進展がないまま終わった。これは協議前から当然予想されていた結果だ。元々、この協議は中国商務次官が米国の財務次官と協議を行うという変則の形となった。中国側の発表では「米国の要請で訪米する」とのことだったが、これは中国特有のメンツを守るための発表で、実情は違う。米中双方の思惑はこうだ。
<米国側>  トランプ大統領としては中間選挙まではこの対中強硬姿勢を続けている方が国内的に支持される。今、何ら譲歩に動く必要がない。しかも、米国は戦後最長の景気拡大で、余裕綽々で強気に出られる。
<中国側>  習近平政権としては、対米強硬路線が招いた今日の結果に国内から批判の声も出始めており、それが政権基盤の揺らぎにつながることは避けたい。対米交渉の努力を続けている姿勢は国内の批判を抑えるためにも必要だろう。
また、貿易戦争による米国経済へのマイナス影響で米国国内から批判が出て来るのを待ちたいものの、時間がかかりそうだ。しかも、中国経済の減速は明確で、人民元安、株安が懸念される。金融緩和、インフラ投資での景気てこ入れも必要になっている。米中貿易摩擦の経済への悪影響はできれば避けたい。

 このように、事態打開へ動く動機は米国にはなく、中国にある。

 ただし、そこに中国のメンツという要素を考えると、取りあえず次官級で落としどころに向けての探りを入れるというのが今回の目的だ。

 トランプ政権としては、この時点で本気で協議を進展させるつもりは毛頭ない。本来の交渉者である米通商代表部(USTR)はメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)協議のヤマ場でそれどころではない。所管外でも対中強硬論者の財務次官に、人民元問題も持ち出すことを口実に、協議の相手をさせた、というのが実態だ。

「11月、APEC(アジア太平洋経済協力)、G20(20カ国・地域)の際、米中首脳会談か」といった米紙報道も、そうした一環の中国側の観測気球だろう。

 中国としては落としどころへの瀬踏みをしていき、ある程度見通しが立った段階で、切り札の王岐山副主席が事態収拾に乗り出す、とのシナリオを描きたいのが本音だろう。

米議会主導の「国防権限法2019」に透ける対中警戒の高まり

 ただし、こうした米中双方の追加関税の応酬という貿易戦争にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会が主導する、対中警戒を反映した動きにも注目すべきだ。

 8月13日にトランプ大統領が署名した「国防権限法2019」がそれだ。

 かつて私は、「米国」という主語をトランプ氏とワシントンの政策コミュニティを分けて考えるべきで、後者が“経済冷戦”へと突き進んでいることを指摘した。(参照:関税合戦は序の口、深刻度増す“米中経済戦争”)。

 まさに後者の動きがこれだ。

 これは米国議会の超党派によるコンセンサスで、現在のワシントンの深刻な対中警戒感の高まりを反映したものだ。トランプ大統領は短期で「ディール(取引)」をするために、その手段として追加関税という「こん棒」を振りかざすが、それとは持つ意味が違う。

 中国の構造的懸念を念頭に、貿易以外の分野も広く規制する。昨年12月に発表された「国家安全保障戦略」で明らかになった、現在の米国の対中観を政策に落とし込んだものだ。

 議会の原案に対してトランプ政権はむしろ緩和のための調整を行って、大統領署名に至った。

 メディアで特に報道されているのは、そのうちの対米投資規制の部分で、中国を念頭に置いて、対米外国投資委員会(CFIUS)による外資の対米投資を厳格化する。先端技術が海外、とりわけ中国に流出することを防ぐためだ。

 このCFIUSによる対米投資の審査は、既に2年前から権限強化を議会の諮問機関から提言されている。実態的にもトランプ政権になってからこれまでに11件の対米投資が認められなかったが、そのうち9件が中国企業によるものであった。これをきちっと制度化するものだ。

 そのほかこの法案には、中国の通信大手ZTEとファーウェイのサービス・機器を米国の行政機関とその取引企業が使用することを禁止する内容も入っている。

 また国防分野では、国防予算の総額を過去9年間で最大規模の79兆円にする、環太平洋合同演習(リムパック)への中国の参加を認めない、台湾への武器供与の増加などの方針が示された。

 ここまでは日本のメディアでも報道されているが、今後日本企業にも直接的に影響する大事な問題を見逃している。それが対中輸出管理の強化だ。
メディアが見落とす「対中輸出管理の強化」

 輸出管理については、これまで国際的には多国間のレジーム(枠組み・取り決め)があった。これに参加する先進諸国は、大量破壊兵器や通常兵器に使われる可能性のあるハイテク製品の輸出については規制品目を決めて各国が審査する仕組みだ。こうしたこれまでの仕組みが中国の懸念に十分対応できていないというのだ。

 キーワードが「エマージング・テクノロジー」である。

 「事業化されていない技術」という意味であろう。例えば、AI(人工知能)や量子コンピューターなどの技術がそうだ。

 こうした技術は未だ製品として事業化されていないので、現状では規制対象にはなっていない。しかし、そういう段階から規制しなければ、将来、中国に押さえられて、軍事力の高度化につながるとの警戒感から、規制対象にしようというものだ。今後、具体的にどういう技術を規制すべきか、商務省、国防省などで特定化されることになっている。

 問題はこの規制が米国だけにとどまらないということだ。

 当初、米国は独自にこの規制を実施する。しかし米国だけでは効果がない。そこで、本来ならば国際レジームで提案して合意すべきではあるが、それは困難で時間がかかる。そこで当面、有志国と連携して実施すべきだとしている。その有志国には当然、日本も入るのだ。

 今後、日米欧の政府間で水面下での調整がなされるだろうが、日本企業にも当然影響することを頭に置いておく必要がある。

 またこの法案とは別に、商務省は中国の人民解放軍系の国有企業の系列会社44社をリストアップして、ハイテク技術の輸出管理を厳しく運用しようとしている。中国の巨大企業のトップ10には、この人民解放軍系の国有企業である「11大軍工集団」が占めており、民間ビジネスを広範に展開している。米国の目が厳しくなっていることも念頭に、日本企業も軍事用途に使われることのないよう、取引には慎重に対応したい。

 かつて東西冷戦の時代には「対共産圏輸出統制委員会」による輸出管理(ココム規制)があった。一部に「対中ココム」と称する人もいるが、そこまで言うのは明らかに言い過ぎであることは指摘したとおりだ(ちなみに、かつてあった「対中ココム」とは、共産圏のうち、中国に対してだけ緩和するための制度である。従って「対中ココムの復活」というのは明らかに間違い)。

 ただ一歩ずつそうした「冷戦」の色合いが濃くなっているのは確かである。「冷戦」とは長期にわたる持久戦の世界である。目先の動きだけを追い求めていてはいけない。

日本が向き合うべき本質がそこにある

 こうした対中警戒感は、ワシントンの政策コミュニティの間ではトランプ政権以前からあった根深い懸念であった。しかし、習近平政権が打ち出した「中国製造2025」が「軍民融合」を公然とうたって、軍事力の高度化に直結する懸念がより高まったのだ。従って、こうした動きは、追加関税のような中国と「取引」をするような短期的なものではなく、構造的なものだと言える。

 トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている。

個別事件に引き続き要注意

 最後に、前出の7月11日のコラムにおいて、「今後、個別事件に要注意」と指摘したところ、その後、FBI(米連邦捜査局)による摘発が相次いでいる。7月中旬には元アップルの中国人エンジニアが自動運転に関する企業機密を中国に持ち出そうとした事件、8月初旬には元ゼネラル・エレクトリック(GE)の中国国籍のエンジニアが発電タービンに関する企業秘密を窃取した事件などだ。

 悪い予想が的中して複雑な気持ちではあるが、ハイテクの世界では、ある意味、日常的に起こっていてもおかしくない。それを捜査当局が摘発するモードになってきていることは今後も要注意だ。

 トランプ氏の言動にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会、情報機関、捜査機関など、「オール・アメリカ」の動きが重要になってくる。それが米国だ。

【私の論評】日本は米中新冷戦の影響なし!だが間抜け官僚の誤謬で甚大被害も(゚д゚)!

私は、ブログ冒頭の記事で、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化しているという点は、ほぼ賛成です。

なぜ「ほぼ」かといえば、「深刻化」というキーワードからもうかがえるように、何やら米国の中国に対する制裁が、悪いことのような響きがあるからです。

しかし、日本にとっては、中国は尖閣諸島付近で挑発を繰り返し、多数の核兵器を所有し、それらが今も日本の主要都市に狙いをつけていますし、それに、中共の統治の正当性が脆弱であるがゆえに、日本を悪魔化することによりこれを強化するため、歴史を修正するなどして、日本を貶めるような行動を繰り返しています。いわば、日本にとっては敵です。

さらに、中国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もされておらず、日米のみではなく、世界の主要先進国とも全く価値観が異なります。

その敵が経済的に弱まることは日本の安全保障にとっては良いことです。たとえ、それが日本の経済に多少悪影響があったにしても、それで中国の経済が弱体化するなら日本にとって良いことです。

さらに、米国大統領の任期は8年と憲法で定められており、トランプ政権が10年以上も続く長期政権になることはないので、ポストトランプでたとえ中国に親和的な大統領になったとしても米国議会により中国に対する制裁が長期間にわたって続くことは日本にとって望ましいことだからです。

今後米国は、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」に移行していくという見方そのものは正しいと思いますし、私としては望ましいことだと思います。

今後米国は、トランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」に移行していく

そうして、この新冷戦により、かつてソ連が冷戦で崩壊したように、中国の現体制が崩壊すれば、それこそ日本だけではなく、世界にとって良いことだと思います。なぜなら、ソ連や中国のような体制が世界に敷衍されるととんでもないことになるからです。

その他、上の記事では、「トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている」としていて、それへの対応法としては、個別事件について引き続き要注意すべきであることが掲載されていますが、肝心なことが述べられてないように思います。

それは、主に2つあります。

まず一つ目は、現在の世界は供給過多となっており、であればたとえ中国が崩壊したとしても世界経済にはほとんど影響がないという可能性が高いということです。

それについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中貿易戦争 衝撃分析! 貿易戦争で「中国崩壊」でも心配無用? 世界経済はむしろ好転か…―【私の論評】中国崩壊の影響は軽微。それより日銀・財務官僚の誤謬のほうが脅威(゚д゚)!
中国経済が変調すれば、習近平主席の地位も危うくなるが、他国にとっては歓迎すべき事態か

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
相対的にモノが不足していた、旧来の世界とは異なり、現代の世界は貯蓄が過剰であり、その結果供給が過剰なのです。 
このような世界ではよほど世界需要が急激に拡大しない限り、供給の天井には達しない(ブログ管理人注:要するに、需要が高まり、供給能力が追いつかなるようなことはない)のです。その結果として、高インフレや高金利が近年の先進国では生じなくなったのです。
このような世界においては、確かに中国が崩壊したとしても、日本や米国のようにGDPに占める内需の割合が多い国では、ほとんど影響を受けないでしょうし、輸出などの外需の多い国々では、たとえ中国向け輸出が減ったにしても、中国になりかわり、中国が輸出して国々に輸出できるチャンスが増えるということもあり、長期的にはあまり影響を受けないことが十分にあり得ます。
要するに、中国が崩壊しても、供給過多の現在の世界ではほとんど影響がないということです。そうして、この記事でも強調したのですが、日本では、中国が崩壊することよりも、日本の官僚の誤謬のほうがよほど大きな脅威です。

何しろ、大蔵・財務官僚は過去においては、財務的には、BS(貸借対照表)レベルでは元々日本は全く何の心配ないにもかかわらず、財政破綻するなどといいふらし、過去に消費増税を推し進めた結果、日本経済は現状でもデフレすれすれの状況にあります。現在不況に陥っている韓国よりGDPの伸び率は低いです。

彼らは、あの8%増税がはっきりと大失敗だったとわかった現在でも、日銀と政府を一つにまとめた統合政府ベース(民間企業では連結決算に相当)ではすでに昨年時点で財政再建は終わっているにもかかわらず、無意味な消費増税をしなければならないと政治家やマスコミを煽っている始末です。

日銀官僚も、2013年4月より前までは、何かといえば、金融引締めを繰り返しました。特に、リーマンショックは日本にはほとんど関係なかったにもかかわらず、リーマン破綻後、他国が一斉に大規模な金融緩和をはじめたにもかかわらず、金融引締め基調を崩さなかったため、震源地の米国やEUなどの諸国がショックから立ち直ったあとも、長い間日本だけが一人負け状態デフレと超円高に苦しみました。

私は、個人的にはリーマンショックとは呼称せずに、日銀ショックとこのブログに記載しているくらいです。このようなことから、日本では中国が崩壊したり、米国による制裁よりも官僚の誤謬のほうが、はるかに脅威です。

二つ目は日本の産業構造そのものがここ数十年で変わってしまったため、日本の産業が米議会によりやり玉にあげられる可能性はかなり低下したことです。
【瀕死の習中国】中国国有企業の「負債はケタ違い」 衝撃の欧米リポート―【私の論評】米中貿易戦争にほとんど悪影響を受けない現在の日本の構造上の強み(゚д゚)!
トヨタの米国ケンタッキー工場
これも詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部分のみ引用します。
円高下で実現した日本のグローバル・サプライチェーンにより、日本は海外で著しく雇用を生む国になっており、それが所得収支の大幅黒字に現れています。故に日本はもはや貿易摩擦の対象にはなりえない国といえます。日本が貿易摩擦フリー化、為替変動フリー化していることがうかがえます。 
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・ 
では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば、それはハイテク分野の周辺と基盤の分野です。 
デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。 
また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤で見事に生きのびています。 
要するに、日本産業は超円高下で実現したグローバル・サプライチェーンにより、海外で著しく雇用を生む国になったので、米国の経済制裁の対象にはなりにくいということです。

さらに、日本の産業構造は、ハイテクを支える、素材、部品、装置などの基盤や周辺部分で必要不可欠とされる部分に特化しているため、米国の経済制裁の対象とはなりにくい体質になっているのです。

わかりやすく言うと、たとえばアップルがこれから、奇抜でみたこともないような、ガジェットを生み出そうとした場合、日本の素材、部品、装置などが必要不可欠であるということです。

もう一度簡単にまとめると、供給過剰の現在の世界はたとえ中国が崩壊したとしても、ほとんと影響なく、さらに日本の産業構造は米国の経済対象の対象とはなりにくい体質になっているというとです。

ということは、今後の日本は米中経済戦争には全く影響されることなく、繁栄の道を歩むことになるということです。ただし、唯一の脅威は、間抜け官僚の誤謬だということです。

いくら、産業構造が米中経済冷戦の影響を受けないからといって、日本の輸出がGDPに占める割合はたかだか10%台にすぎません、個人消費が60%台を占めているのです。

官僚の誤謬でマクロ経済政策である金融・財政政策を間違えれば、この60%がかなり減少して、とんでもないことになります。

日本では、米中新冷戦が苛烈になっても影響は受けませんが、また間抜け官僚の誤謬で国民全体が大打撃を受けるという脅威は捨てきれません。

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2018年8月27日月曜日

平和ボケと批判された人民解放軍のビジネス活動が全面禁止へ―【私の論評】統治の正当性が不確かな中共がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びる(゚д゚)!

平和ボケと批判された人民解放軍のビジネス活動が全面禁止へ

人民解放軍を視察した習近平

中国の習近平国家主席は7月末、中国共産党の最高意思決定機関である党政治局常務委員会を開催し、現在、中国人民解放軍が行っているビジネス活動を年内いっぱいで全面的禁止することを決めた。

 習氏は「軍の本分は戦うことであり、商売ではない。商売をする時間があれば、軍事演習を行うべきだ」などと檄を飛ばした。軍機関紙「解放軍報」は7月初め、社説で「中国軍は平和ボケ」などと指摘し、軍の怠惰な雰囲気に強い警戒感を示していた。

 中国国営新華社電によると、軍による「有償服務(ビジネス)」は10万6000件以上に上っており、この決定を受けて、年内にすべて禁止する措置を軍内の各部門に通達。「これに抵触すれば、重大な処分を受けることになる」としている。

 軍のビジネスとしては、軍傘下の病院での政府関係者を中心とする診察や治療、軍の学校での研修、軍所属研究機関での委託研究、倉庫や埠頭の使用のほか、軍の出版、映像、音響などの事業の代行など。

 習氏は2015年3月の中央軍事委工作会議で、軍のビジネス活動を全面的に禁止する考えを明らかにしたほか、2016年3月には具体的に「3年以内」との期限を提示している。今回の党政治局常務委での決定は、この3年以内の禁止期限を3カ月間前倒しすることになる。

 日本人の感覚からすれば、軍が内職ともいえる10万件以上ものビジネスを行っていること自体が驚きだが、中国人民解放軍はもともと野戦軍で、しっかりとした軍規や組織があったわけではない。志願兵中心の自然発生的な軍隊であり、食糧や武器なども「自給自足」する風潮が強かった。このため、軍本体が野菜を作ったり、鶏や豚や牛を育てるほか、副業で資金を得るという伝統が残っていた。

 1980年代に改革・開放路線が導入されると、このような軍内に残る伝統の影響もあって、軍本体がビジネスに手を染めるケースが増え、それとともに、腐敗問題が深刻になってきた。

 軍内の地位を得るために、汚職が蔓延。軍内に保管されていた戦闘機、戦車、装甲車、小銃、戦略用燃料、大量の野戦ベッド、軍靴などの軍需物資が、忽然と「消えて」転売されていた事実も明るみになっている。

 『習近平の正体』(小学館刊)などの著作もあり、中国問題に詳しいジャーナリストの相馬勝氏は習氏の実質的な『内職禁止令』について、次のように指摘している。

 「習氏が最高指導者に就任するや、『反腐敗運動』が本格化し、多数の党・政府・軍の幹部が逮捕されているが、解放軍報は最近、「軍は『平和病』にかかっている」などとして軍の体質を鋭く批判している。これは習氏が米国との対立激化や悲願である台湾統一などを控え、軍の戦闘力に大きな不安を抱いていることも影響しているだろう。そして、今回の軍のビジネス全面禁止命令は習氏の焦りを如実に現しているといえよう」

【私の論評】統治の正当性が不確かな中共がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びる(゚д゚)!

中国共産党は経済政策ですら権力闘争の道具にしてしまう恐ろしい集団です。それは激しい利権の奪い合いであり、日本で例えるなら、反社会的勢力や裏社会における仁義なき戦いそのものでする。

中国においては、あらゆる法律、規制が派閥闘争の妥協の産物であり、実際にその法律、規制が守られるかどうかさえ、現場を仕切るさまざまな暴力装置(軍、警察)の気分次第で決められてしまいます。

中国の城管


たとえば、中国では「城管(じようかん)」と呼ばれる、都市管理局に相当する部局の公務員が路上秩序を維持するという名目で露天商を次々に暴行しています。

日本では違法駐車の取締員のような立場の「城管」がなぜそんなことをするか理由はよくわかりません。一説によれば露天商がいわゆる「ショバ代(賄賂)」を払わなかったからとか、たんに威張り散らして街をわが物顔で支配しているなどといわれています。

また、全国各地で大暴れする「城管」は、時として人民解放軍と「戦闘状態」に陥ることもあるといいます。

たとえば、2013年9月4日午後5時、山東省青島市石老人村で、城管(都市管理官)と、解放軍の大乱闘が発生しました。軍の高級幹部用マンションに付属する邸宅管理棟がその敷地をはみ出て建てられた違法建築物であることから、現地の城管が自治体の指示で管理棟を取り壊しに行ったところ、これに反対する解放軍兵士が解体を妨害、乱闘となりました。

人数的に勝ち目もなくボコボコにされた軍兵士は銃を持ち出そうとしたそうですが、事前の申し入れから経済格差で豪華なマンションがこれ以上注目を引くことを恐れた軍幹部が青年兵士たちを押しとどめ、なんとか殺傷沙汰にはならなかったとのことでした。

さて、この記事を読んで多くの人が疑問に思ったことでしょう。なぜ、人民解放軍の高級幹部は豪華な邸宅に住んでいるのか。それは、日本のために日夜活躍する自衛官たちが一般の公営住宅と同程度の官舎で暮らしているのとは対照的です。

そもそも、人民解放軍がアメリカ軍や日本の自衛隊と同じく軍隊だと思ったらトンデモない勘違いです。人民解放軍とは「武装する総合商社」であって、われわれ日本人が考えるところの軍隊ではありません。

しかも、人民解放軍は、共産党の配下であり、言ってしまえば共産党の私兵です。国民の生命と財産を守ることら主要任務とする国民国家の軍隊とは全く異なる組織です。

人民解放軍は国境地帯で故意緊張を誘発しては中央政府に予算を要求し、不動産開発、ホテルやバーの経営、資源貿易などさまざまなビジネスに投資する立派な「産業」なのです。

よって高級幹部が豪華なマンションに住んでいたり、軍の経営するホテルで毎晩幹部たちが宴会をしていたり、直営バーにロシア人の売春婦がたくさんいたりすることに驚いてはいけないのです。

解放軍の腐敗は、幹部だけのことではありません。一般の兵士からその親まで巻き込んだ、腐敗の嵐が吹き荒れているといっても過言ではありません。

中国では現実はどうかは別にして、軍隊は、安定した就職先と捉えられています。実際、ある程度上級の階級になれれば、そうだったのでしょう。軍隊への入隊は『待遇、福利がよく一生を保障される』という意味で、鉄で作ったおわんのように割れずに安定している『鉄飯碗』になぞらえられています。多くの親たちはわが子を入隊させるために軍幹部にこぞって賄賂を贈るのです。

賄賂の相場は、2万元(約34万6000円)から30万元(約519万円)といいます。軍隊内では、官位を“商品”として売買する「売官買官」なる行為も横行しています。

こうした腐敗によって解放軍全体の質は史上最低レベルにまで低下しています。遊び好きな将校の中には、自分の部下をお抱えのコンピューターゲームのアップグレード係にする傍若無人な『配属』までやっている始末です。

党指導部は、以前からこうした兵士たちの劣化に危機感を抱き、綱紀粛正に躍起でした。2013年11月に行われた第18期中央委員会第3回総会(3中総会)では、「反腐運動」と銘打った軍部の腐敗撲滅運動を展開しました。これに先立つ、同3月には前代未聞の軍紀も発布していました。

『軍人違反職責罪案件立案標準規定』では、主に防衛戦における将校・兵士の逃亡・投降行為について規定しています。党指導部は、外国と戦争が起きたとき、解放軍の将校・兵士が敵前逃亡してしまうことを恐れているのでしょう。しかし、党指導部が軍紀で定めるのも無理はないです。敵前逃亡の例が実際にあるからです。

「東京を爆撃する」とほざいた羅援少将

中越戦争開戦直前の1979年、解放軍少将で中国戦略文化促進会の常務副会長を務める羅援氏、つまり冒頭で「日本は火の海」と挑発したその本人が、党高級幹部だった父親の口利きで前線勤務を免れています。彼はあちこちで『日本、米国と戦争する』と息巻く解放軍きってのタカ派です。しかし、そう吹聴する本人が戦争逃亡兵だったのだから笑えないです。

口先だけの見かけ倒しは、まだあります。2009年1月にはこんなことも起きました。中国の大型貨物船がソマリアの海域で海賊に襲われ、船員が人質として拿捕(だほ)されました。中国世論は「貨物船を武力で救出すべきだ」と沸き立ち、これを受け、中国艦隊がソマリア海域に派遣されました。とこめが、武力奪還はならなかったのです。

中国政府はソマリアの海賊におとなしく400万米ドル(当時で約3億6000万円)の身代金を差し出して、商船と船員を取り戻したのです。単なる威嚇のために艦隊を派遣したに過ぎなかったのです。

アデン湾で警備に当たる中国人民解放軍海軍の艦艇

これは、人民解放軍の常套(じょうとう)手段である『孫子兵法』の『戦わずして屈服させる兵法』です。日本に対しても同じハッタリ戦術を使っているに過ぎません。心理戦を仕掛けているだけで、実戦となれば、解放軍は何もできないでしょう。1894年の日清戦争の結末を再演することになるだけです。すなわち、敗北です。

ましてや、いずれの先進国の軍隊にも同じような条件で戦えば、勝つことはないでしょう。勝つのは、一般市民を弾圧したり、自分たちより圧倒的に不利な状況で戦う弱小国の軍隊を相手にしたときだけでしょう。

このような、腐敗まみれの人民解放軍は実際に米軍は無論のこと日本の自衛隊にでさえ対峙したときに、全く勝ち目はないでしょう。解放軍の腐敗は、幹部から下士官まで浸透しています。賄賂の実体をみれば、それは誰の目にも明らかです。誰が腐敗まみれの上官のために本気で戦うことができるでしょうか。

だからこそ、習近平は人民解放軍のビジネス活動を全面禁止しようとしているのでしょうが、それくらいのことで、人民解放軍がまともになるとは考えられません。

本来ならば、ある程度時間をかけて、人民解放軍とは全く別の軍隊組織をつくり、それこそヒトラーが突撃隊幹部を暗殺して、有名無実にしてしまったように、人民解放軍の幹部を情け容赦なく粛清するなどの過激なことをしない限り、習近平はまともな軍隊すら手にすることはできないでしょう。

突撃隊地用エルンスト・レーム(左)とヒトラー
ヒトラーは、レームを粛清した

このような手段を避け、先進国からみてまともな方法で、新たなに軍隊を創設するということになれば、それこそ国民国家の軍隊を創設しなければならず、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめる必要があり、そうなれば中国共産党による統治を根本から改めなければならず、その時は現体制は崩れることになります。

人民解放軍の腐敗などといいますが、統治の正当性が不確かな中国共産党中央政府がまともな軍隊を持つことを強引に進めれば、自身が滅びることになります。

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2018年8月26日日曜日

中国通信機器2社を入札から除外 日本政府方針 安全保障で米豪などと足並み―【私の論評】中国は体制を変えるか、内に篭もるしか生き残る術はなくなった(゚д゚)!

中国通信機器2社を入札から除外 日本政府方針 安全保障で米豪などと足並み


 政府が、安全保障上の観点から米国やオーストラリアが問題視する中国通信機器大手2社について、情報システム導入時の入札から除外する方針を固めたことが25日、分かった。機密情報漏洩(ろうえい)やサイバー攻撃への対策に関し、各国と足並みをそろえる狙いがある。

 対象となるのは、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)。両社に対しては、米政府が全政府機関での製品使用を禁じているほか、オーストラリア政府が第5世代(5G)移動通信整備事業への参入を禁止するなど、除外する動きが広がっている。

華為技術(ファーウェイ=上)と中興通訊(ZTE)のロゴ
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 背景にあるのは安全保障上の根深い危機感だ。米下院情報特別委員会は2012年の報告書で、両社が中国共産党や人民解放軍と密接につながり、スパイ工作にもかかわると指摘した。

 実際、米国防総省は今年5月、両社の携帯電話などを米軍基地内で販売することを禁止すると発表している。中国当局が携帯電話を盗聴器として使ったり機器を通じて情報を盗み出したりすることを防ぐためだ。

 こうした状況を踏まえ、日本政府は、各国と共同歩調をとって対処すべきだと判断し、具体的な方策の検討に入った。情報セキュリティーを担当する政府関係者は「規制は絶対にやるべきだ。公的調達からの除外の方針は、民間部門の指針にもなる」と強調する。

 政府内では、入札参加資格に情報セキュリティーの厳格な基準を設け、条件を満たさない企業の参加を認めないようにする案などが検討されている。政府の統一基準にあるセキュリティー機能確保規定を適用するなどし、入札時に両社を除外する案も浮上している。

 一方で、10月に予定される安倍晋三首相の訪中に向け、日中関係の改善ムードに悪影響が及ぶことを危ぶむ声もある。除外の方針が、世界貿易機関(WTO)の内外無差別原則に抵触すると解釈される余地も否定できない。

 日本政府関係者は「統一基準の中に『中国』の国名や企業名を盛り込むところまでは踏み込めないだろう」と話した。

【私の論評】中国は体制を変えるか、内に篭もるしか生き残る術はなくなった(゚д゚)!



米ホワイトハウスは23日、米国で22日から行っていた事務レベルの米中貿易協議が終了したと明らかにしました。

米側は2日間の協議で「公正で均衡が取れた互恵的な経済関係の実現方法について意見を交換した」と説明しました。中国による米先端企業の技術移転強要といった「構造的な問題」も含まれたといい、米中間の隔たりは依然大きいです。

米国による制裁関税の対象額は第2弾発動で計500億ドル(約5兆5000億円)となり、第3弾も合わせれば中国からのモノの輸入額のほぼ半分となる2500億ドル(約27兆5000億円)となります。

米国が第3弾制裁を発動しても、中国の対抗措置は600億ドル分の米製品への報復関税にとどまるなど弾切れ状態です。さらにトランプ大統領は全輸入品への制裁も辞さない構えをみせています。

攻勢の手を緩めないトランプ大統領に、習近平主席((写真)、AP)はなすすべもないのか
トランプ大統領としては、米国製品の購入を拡大させるなど、雇用増につながる譲歩を中国側から引き出すことができれば、11月の中間選挙に向けた支持層へのアピールになるのは事実です。

一方で、米国が中国を敵視する背景には、ハイテク技術や知的財産、安全保障も絡む覇権争いが存在しています。

米中貿易戦争は、このブログでも掲載してきたように、ビジネスだけの問題ではありません。米国は腰をすえて中国を追い詰め、経済の骨抜きを図ろうとしています。

中国封じ込めの動きも具体化してきました。ブログ冒頭の記事にもあるように、米豪英が問題視する中国通信機器大手2社について、日本も情報システム導入時の入札から除外する方針を固めました。

世界最大の市場を抱える中国ではありますが、見切りを付けようとする企業も出てきました。自動車大手のスズキは、中国での自動車生産について、撤退も視野に現地の合弁相手と協議を進めていることが分かりました。中国企業との合弁解消で合意し、中国事業から撤退するとの報道もあります。


スズキの子会社、マルチ・スズキはインドの乗用車市場で約50%と圧倒的なシェアを握っています。中国を追う巨大市場に成長しつつあるインド市場を軸に海外展開を拡大することになりそうです。

ロイター通信は、米国の医療機器や農業用具などのメーカーが、中国から米国への生産移転比率を高めたり、中国以外の国からの調達に切り替えたり、雇用を米国に再移転するなどの動きを検討していると報じました。

このような動きは企業レベルにとどまるものではありません。マレーシアのマハティール首相は21日、訪問中の北京で記者団に、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関連する鉄道建設などの大型事業を中止すると述べました。

マハティール氏は20日に中国の習近平(シージンピン)国家主席、李克強(リークォーチャン)首相とそれぞれ会談した際にも中止の意思を伝え、中国側も「理解し受け入れた」といいます。

マハティール氏は将来的な事業再開の可能性は否定しなかったものの、「マレーシアの現在の焦点は債務削減にある」と述べました。中止により補償金が発生すれば支払う意思も示しました。

中国外務省の陸慷(ルーカン)報道局長は21日の定例記者会見で、「どんな2国間でも協力を進める上であれこれ問題が出るのは避けられない。友好的な話し合いで適切に解決すべきだ」と交渉を続ける考えを示しました。

中国の習近平国家主席(右側手前)と会談する
マハティール・マレーシア首相(左側手前から2人目)=20日

中国では人件費が上昇し、電気代や土地代が米国を上回っているうえ、外資系企業に共産党組織の設置を義務付けられるという問題もあります。外資系企業が中国を捨てる時期は、今回の米中貿易戦争によって早まることになるでしょう。

追い詰められつつある中国。米中貿易協議での展望が開けないどころか、中国が人民元を割安に保っている為替操作問題が指摘される恐れもあり、かえってヤブ蛇になりかねないです。

米国向け輸出品の関税が引き上げられるうえ、人民元高が進めば、輸出品の競争力はダブルで打撃を受けることなってしまうでしょう。

この貿易戦争は、米中間の覇権争いの次元になっています。この覇権争いは、19世紀末からのドイツの台頭を大英帝国が退けた覇権争いや17世紀に英国がオランダの経済的繁栄に嫉妬して英蘭戦争でオランダを蹴落とした際に見られた典型的な覇権国と挑戦国との間の争いの場合と本質は同じです。

ドイツと大英帝国の覇権争いは、別の複雑な要因も絡みあい第一次世界大戦になってしまいました。

第一次世界大戦の発端は、ドイツと大英帝国の覇権争いだった

ただし、米中間の覇権争いは基本的に地域経済的なもので、軍事的なものに至る可能性は当面は極めて低いです。

英国は、ロシアと仏と手を結ぶことによりドイツの挑戦を退けました。なぜもともと英国の一番のライバルだったフランスと思想的に相いれないロシアが対ドイツ戦で英国に協力したかといえば、仏ロ含め周囲の国はドイツの急激な台頭に警戒心を募らせていたからです。

その意図に関わらず、ある国が急激に経済的、軍事的に台頭してくれば、その「事実」が周辺国の警戒心を招くものです。ジャパン・アズ・ナンバーワンなどと言われていた時の日本(同盟国なのに!)がいかに米国の警戒感を呼んだか思い出してみればわかることです。

中国の経済的、軍事的台頭は、これらの過去の歴史の例の比にならないぐらい急激で大きく、単に、GDPで2030年までに米国を凌駕するかもしれないといわれただけでなく、米国からの知財盗用も踏み台にしてAI、ビッグデータ時代のテクノロジーにおいて米国を凌駕しかねないところまで来ました。

しかも、胡錦涛政権以前までは、上手く強大化しながらも国際社会の警戒心を呼び起こさないように韜光養晦(とうこうようかい)で上手くやってきたのに何と、習近平国家主席は昨年の共産党大会において、中国型統治モデルは(欧米型民主主義より)優れているとした上で、科学技術テクノロジーに精力を傾注しつつ、2049年までに米国を凌駕する世界覇権国になるという意図を宣言してしまいました。

だから、中国とのテクノロジー競争において米国が負けない状況を作り出すまで中国をやり込めなければならないという1点については、トランプ大統領は、米国の支配層に相当のコンセンサスがあります。

だからそう簡単に収束しないのです。そして、過去の歴史でもそうだったように、自分も損をするが相手の方がより大きなダメージを被るならそれで構わないのです。目的は相手を倒すことであり、自分が利益を得ることではないのです。

習近平が共産党大会で強国化宣言をしたのは、もはや、米国が中国の意図に気づいたとしても中国の優勢を変えることはできないぐらい中国は強大になったと過信したからなのでしょうか。

あるいは、国内ばかり見ていてChina2049宣言が国際社会にどういう反応を引き起こすか無関心だったのでしようか、両方でしょうが、おそらく国内ばかりみていたというほうが大きいでしょう。

そもそも、中国は巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによってかなり信頼を失っています。

そうして、その後の展開を見れば、この宣言は中国にとっては得策ではなかったことは明らかです。

現状では、まだ米国の方がはるかに強いです。習近平は明らかに、やりすぎました。米国との間で平穏な状況を続けることができれば、時間は中国に味方したかもしれないのに、自ら、最大のライバルからの攻撃を招き、中国の天下への道を険しく困難にしてしまいました。習近平は、軌道修正を図ってはいるようですが、今更、どの程度修正できるのか、疑問です。

そうして、トランプ大統領はブログ冒頭の記事にもあるように、米英豪で協調して、中国に対抗しようとしています。

そうして、この動きはさらに大きなものになりそうです。以前このブログでは、最近トランプ大統領はロシアのプーチン大統領と首脳会談を開催したりして、ロシアと接近し、いずれは、日米英露と他の国々が協調して中国に対抗しようという動きを見せています。

これに関しては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプ氏、ハイテク分野から中国を締め出し…国防権限法で中国製品の政府機関での使用禁止 島田教授「日本でも対応が必要」―【私の論評】世界は日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあり(゚д゚)!
国防権限法に署名したトランプ大統領
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
今年の7月を皮切りに、国際関係において明らかに構造的変化が起こりました。7月6日米国は支那(中国のこと、以下同じ)に対して貿易戦争を発動しました。これにより、本格的な米中対立の時代が幕開けしました。 
ブログ冒頭の記事の国防権限法関連による支那への対応もその一環です。 
日本の政財界人のほとんどはこのことをほとんど理解していないようですが、米トランプ政権は、世界の経済ルールを公然と破ってきた支那を徹底的に叩く腹です。
今後は、支那に対して味方をするような経済活動は、米国から反米行動とみなされることになります。 
そうして、7月に起きたもう一つの大きな出来事は、米露協調時代が始まったことです。7月16日にはフィランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談が開催され、その路線が確定しました。
フィランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談で握手するトランプとプーチン

トランプ氏もプーチン氏も、公式にそのような発言はしていませんが、ロシアは米国に協調して世界秩序を再構築する方向に大きく舵をきったものとみられます。

7月には、この大きな2つの出来事が起こったのです。この2つの出来事が、今後の世界情勢を大きく方向づけることになるのです。
・・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・
いずれにせよ、今後日米英露が協調して中国を叩く体制に入りつつあるとみるべきです。日米の経済力、米露の軍事力、それに加えて英国など有力な他国の協力があれば、支那を叩きのめすことは十分可能です。

こうした動きは、安倍総理が全方位外交で、その動きをトランプ大統領に先んじてみせていました。安倍総理は、その意図をトランプ大統領に伝えたでしょうし、政治家としての外交権の乏しいトランプ大統領も、これをかなり参考にしたと思います。

ブログ冒頭の、米英豪の動き、さらには米露の動きなどもあわせて、いずれ世界は多くの国々が中国の覇権に協調して対抗する時代に入るでしょう。

世界の先進国のほとんどは、中国の「内向き」思考、漢民族の「戦略の知恵」を「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することにも耐えられなくなっています。

現在の中国は、体制を変えるか、内に篭もるしか生き残る術はなくなりました。

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2018年8月25日土曜日

アヘン戦争ふたたび 中国製の合成薬物が米社会を破壊=米専門家―【私の論評】日本にも新たな危機はひたひたと忍び寄っている(゚д゚)!



4月、ニューハンプシャー州でヘロイン摂取により意識を失った男性を救護する消防士たち

「戦争の一種だ」「中国では大手の製薬会社がゴミを作り、人々を殺している」ー。米国のトランプ大統領は8月16日の閣僚会議で、依存性の高い鎮痛剤の合成薬物の被害について語った。専門家は、中国からの危険な合成薬物は米国社会を崩壊させていると分析する。

米国が、中国産の薬物輸出を戦争の一形態とみなしたのは、今回が初めてではない。2014年の米軍国防白書には、中国から「薬物戦」や「文化戦」など従来の攻撃方法でない戦略があると記している。

8月に米国の疾病管理予防センターの公表資料によると、2017年に7万人以上が薬物の過剰摂取(オーバードース)で死亡した。そのうち68%が麻薬性・合成鎮痛剤であるオピオイドに関連する。

米国では一般的に、このオピオイドはフェンタニルと呼ばれる成分から合成される。フェンタニルはヘロインの50倍、モルヒネの100倍の鎮静作用がある。

近年、米国では処方箋によるフェンタニルの過剰摂取で中毒死するという問題が表ざたになった。2017年10月、大統領は薬物需要とオピオイド危機について公衆衛生の非常事態宣言の検討を保健福祉長官に指示した。

トランプ大統領は最近の閣僚会議で、ジェフ・セッションズ検事総長に「中国とメキシコから出てくるフェンタニルを調べて欲しい、いかなる法的処置を取ってしても(流入を)止めて欲しい」と述べた。

米国におけるフェンタニルの輸入元は大半が中国だ。ロサンゼルスの保健当局者は、中毒性薬物が街でより常態化しており、他のオピオイドよりも多くはフェンタニルに起因する事故で死亡しているという。

専門家は、悪質なフェンタニルの蔓延(まんえん)は、米国に向けられた「アヘン戦争」であると表現する。フェンタニルは死に至る高い中毒性により、軍事目的の化学兵器とみなされている。

米軍特殊作戦司令部は、2014年9月26日に戦略白書「非慣習的戦争への対応」を発表した。そこには「薬物戦」も一種の戦闘形態であると記されている。

白書は、中国軍少将で国家安全政策研究委員会副秘書長・喬良氏が自ら提唱する「超限戦」について、「まさにルールがない戦争だ」と主張していることを明記し、「いかなる手段を用いてでも戦争に勝つという姿勢を意味する」と分析している。

国家安全政策研究委員会副秘書長・喬良少将
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

「宣言されない戦争」
英文の大紀元コメンテーターで共産主義に詳しいトレヴォー・ルドン(Trevor Loudon)氏は5月10日のインタビューで、米国での中国発の薬物の蔓延(まんえん)は、中国共産党政府による戦略の一つと見ている。「専制体制の国なら、この薬物中毒問題を知っているはずだ。政府が裏で手を引き、資金も支えていると考えられる」

ルドン氏は「これは、宣言されていない西側諸国に対する戦争の一種だ」と指摘した。
米国を襲う薬物乱用の影響の1つには、過剰摂取のほか、労働力の衰退がある。プリンストン大学の経済学者アラン・クルーガー氏によれば、米国では労働力人口が近年低下している。また、労働人口から離脱した20%はオピオイド中毒によるもので、主に25〜54歳の青年~壮年期といった働く人口の中核をなす層だ。

元中央情報局副局長ジョセフ・ドグラス氏の1990年の著書『赤いコカイン』には中国共産党がいかにヘロインとアヘンを貿易で推し進めてきたかを記している。「世界の麻薬物流の裏に共産主義国がいる」「この政権は薬物を武器に西側諸国を攻撃している」。

かつて毛沢東は、軍を増強し、必要な兵器や資金を調達するために、アヘンを育てて販売していたことが知られている。

司法省は2017年、中国のフェンタニルとアヘン類の違法な製造業者2人を起訴した。ロッド・ローゼンスタイン副検事総長は、米国から中国への薬物輸入はインターネットを通じた個人輸入だと述べた。

ミシシッピ州の厳小兵容疑者は、中国で2つ以上のフェンタニルと類似化合成薬物を製造する化学工場を運営しており、少なくとも6年間、専用販売サイトで米国の複数の都市の顧客に送っていた。

ノース・ダコタでは、4つの工場でフェンタニルを製造した張健容疑者は、闇サイトと暗号通貨ビットコインを使って、薬物の取引をしていた。

2016年10月のBBCの報道によると、多くの中国企業がフェンタニルよりも100倍強力で、米国や日本で指定薬物扱いのカルフェンタニルを輸出していることが明らかになった。米国は早期に中国に規制を求めていたが、2017年2月に規制されるまで、公然とインターネットなどで販売され、大量に流通していたといわれる。

大紀元コメンテーターのルドン氏は、フェンタニルで中国は荒稼ぎしていると批判する。「薬物では罪や混乱を引き起こし、社会のモラル基盤、公務員、ビジネスマンたちの腐敗堕落を生み出す」と述べた。

「年に何千人ものアメリカ人を殺している。それは戦争だとは思わないか?直ちに制裁が与えられ、中止されるべきではないのか?」ルドン氏は、今までの政権は中国のリーダーを怒らせまいと、及び腰だったとみている。「彼らは中国政府に働きかけることを避けていた。アメリカ人が死ぬこととさえも容認してきた」と述べた。

【私の論評】日本にも新たな危機はひたひたと忍び寄っている(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもあるように、トランプ米大統領は、近年爆発的に拡大しているオピオイド系鎮痛剤の乱用について「国家の非常事態だ」と発言しました。オピオイドは麻薬性鎮痛薬の一種でいくつかの種類がありますが、なかでも毒性と依存性が極めて強いものが合成麻薬「フェンタニル」。このフェンタニルの過剰摂取により、全米で“薬物死”が続出しているのです。

特に深刻なのが、没落した工業地帯「ラストベルト」に住む貧困白人層です。まともな医療を受けるための経済力を持たない人々にとっては、とりあえず痛みを和らげる鎮痛薬が必要でした。そこを狙った製薬会社がロビー活動を仕掛けて規制緩和を実現し、フェンタニルを市場に大量供給。

医師も安易に処方し続けたため、中毒患者が急増してしまったのです。問題が表面化した後は処方に関するガイドラインが導入されたものの、すでに依存症となった人々は不正にフェンタニルを入手するようになってしまっています。

フェンタニル汚染問題には複合的な要素が絡み合っており、簡単なソリューションはありません。以前からアメリカには嗜好のためのドラッグ文化があったことも蔓延(まんえん)にひと役買ったでしょうし、医療保険制度の問題も大いに影響しています。

さらに、「最強の麻薬」「死のオピオイド」といわれるカルフェンタニルが、2016年あたりから、米国の乱用市場に出回り、オーバードーズ(過剰摂取)による死亡事故が多発しています。米麻薬取締局(DEA)は、2016年9月22日に全米に向けて警戒情報を出し、注意を呼びかけています。

カルフェンタニル(4-カルボメトキシフェンタニル)は、強力な作用を持つ合成麻酔薬フェンタニルの構造類似体(アナログ)で、その作用の強さはモルヒネの1万倍、フェンタニルと比べても100倍といわれます。

強い効き目から大型動物の全身麻酔用に使われることもありますが、人への使用は想定されていないので、正確な1回使用量は分かりません。もしも、人に使うとすれば、1回の使用量はマイクログラム(1グラムの100万分の1)単位になるでしょう。DEAによれば、わずか2ミリグラムが致死量になりうるということです。


左から、ヘロイン、フェンタニル、かるフェンタニルの致死量
そうして、この薬物汚染の背景にはこの記事の冒頭の記事にもあるように、中国の存在があります。フェンタニルのようないわゆる「合成麻薬」の原料は、中国から密輸されたものが圧倒的に多いからです。

それなのに、ラストベルトのフェンタニル漬けの人々が中国に怒りの矛先を向けることはほとんどありません。今後は新たな鎮痛剤としての医療大麻の普及がオピオイド問題解決の一助になるかもしれませんが、実は中国はそちらの市場にも先手を打っています。

報道によると、中国ではすでに民間企業と人民解放軍が合同で医療大麻の研究・開発を行ない、関連パテント(特許権)の取得も進めているとのこと。欧米をはじめ各国で医療大麻の合法化が進めば進むほど、中国はかなりの優位性を持つことになります。

民主主義国家にはまねできないトップダウン体制の強みを生かし、「キレイな薬」と「ヤバい薬」を同時に世界へ“出荷”するのです。したたかとしか言いようがありません。

また最近では、「カンナビノイド」と呼ばれる大麻そっくりの効果をもたらす合成薬物も、中国からひそかに“出荷”されているようです。スプレー状にして、食用の葉ものにかけて食べるとぶっ飛ぶという“食べるドラッグ”なのですが、ナチュラルな大麻とは違って毒性が高く死亡例もあります。

このカンナビノイドも、いずれフェンタニルのように社会問題化するのかもしれません。

そうして、この合成麻薬は他ならぬ中国でもかなり問題になっています。共産党政権下で撲滅されたはずの薬物犯罪は、市場経済の中で復活。

薬物中毒は昨年5月時点で222万人にのぼる。東南アジアの「黄金の三角地帯」や北朝鮮などからの密輸品のほか、広東省などでの密造品が流れています。

中国の裁判所は昨年だけで、薬物犯罪で10万人近くに死刑を含む有罪判決を下しました。50グラム以上の所持で死刑が適用され、日本人も中国で処刑されています。

中国では麻薬のことを“毒品”といいます。青少年への麻薬汚染の広がりは、もう10年以上も前から中国社会に重くのしかかる課題となっています。なかでも、地方における麻薬汚染の浸透は深刻の一言に尽きるようです。

注意 ! 毒品新包裝 中国ででまわるお菓子のような包装の麻薬

麻薬に溺れる者には二種類あるとされ、一つは金持ちの道楽として麻薬に手を伸ばすパターンであり、もう一つは貧困者が溺れるパターンです。いずれも若年化が心配されてきたのですが、昨今の問題は、販売と製造に若年化の波が押し寄せ、同時にアンダーグラウンドの傾向が消えつつあります。

分かりやすく言い換えれば、普通の人々が簡単に製造や販売に関わる時代が訪れているということです。昨年末、それを象徴するニュースが中国を騒がせました。

発信元は『中国新聞ネット』です。タイトルは、〈1990年以降に生まれた女子、SNSグループで覚せい剤のつくり方を学ぶ グループのなかにはミャンマーへ行って研修を受けた者まで〉です。

まさに世も末です。山西省呂梁市の公安が昨夏に摘発したグループを取り調べる中で明らかになってきた事実だといいます。

この犯罪グループは麻薬の製造・販売のほか、公文書や印章の偽造、わいせつ物の違法販売、ニセ薬の製造・販売、ネット賭博犯罪、個人情報への不正アクセス、密入国の手引きまでありとあらゆる犯罪に関与していたことがわかっています。

グループには資金提供者がいて、その援助の下で麻薬製造を学んでいたといいます。アンダーグラウンドの世界にも留学制度ができつつあるのでしょうか。

強調しておきたいのは、中国が“出荷元”である以上、距離的に近く人もモノも大量に中国と行き来する日本にとって、これは「今そこにある問題」だということです。まだ日本のドラッグ市場は決して大きくありませんが、新たな危機はひたひたと忍び寄っています。

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