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2018年8月29日水曜日

金融緩和政策を止めるな! 平成の30年はデフレの時代…原因は不要な「バブル潰し」―【私の論評】「世界的貯蓄過剰2.0」に気づかなければ、日本は平成の終わりとともに「失われた100年」を迎える(゚д゚)!


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2019年4月30日をもって、「平成」の世は終わりを迎える。一体、平成時代とは日本にとってどんな時代だったのだろうか。新しい時代を迎えるにあたって、一体何が変わり、何が変わらないのだろうか。

 思えば平成は「バブル経済」で始まった。現在、一般的にバブルは“浮かれたカネの亡者による狂宴”のように思われている。しかし、果たして本当にそうなのだろうか。その功罪は、きちんと検証されているのだろうか。

 一向に景気が上向かなかった時期を経て、日本経済はITバブルや、筆者も期せずして当事者となった小泉改革、そして民主党政権、東日本大震災、アベノミクスへと移り変わっていった。この“失われた20年”、厳しくいえば、“失われた30年”から学ぶべきことは少なくない。

 あるテレビ番組で、デフレはいつから始まったのかという質問があった。

 デフレの国際的な定義は「2期連続での物価下落」と定められている。ここでいう物価とは、一国経済の話なので、消費者物価と企業物価を合わせたGDPデフレーターでみるのが普通だ。それによると、デフレは1995(平成7)年からと判断できる。となると、平成のかなりの期間はデフレだったといえるだろう。

 その原因は、「バブル」ではなく、「バブル潰し」だった。バブルには原因がある。当時、価格が高騰していたのは株と土地だけだった。筆者のみたところでは、これは株式に関する税制上の抜け穴が主要因で、それを利用した証券会社や金融機関の「財テク」商品が開発され、株と土地のバブルを形成していた。

 株と土地だけの話なので、証券会社の「財テク商品」(当時「営業特金」といわれた)と金融機関の不動産融資を規制すればよかった。当時、役人であった筆者は証券会社の規制を担当した。その規制は89年12月に出され、金融機関規制も90年3月に出た。それで終わりのはずだった。

 ところが、「平成の鬼平」と持ち上げられた日銀の三重野康総裁は、バブル潰しのために金融引き締めを行った。当時のインフレ率は3%以下だったので、もしいまのインフレ目標(2%)が導入されていたとしても、過度な引き締めは不必要と判断されるべき状況だった。

 この件について、筆者は経済学者のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)元議長に聞いたことがある。彼の答えは、「株などの資産価格だけが上昇しているときに必要なのは資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価に影響のある金融政策の出番ではない」というものだった。そもそも一般物価に資産価格は含まれていないので、バブル退治に金融政策を使うのはお門違いだった。

 しかも、日銀官僚の「無謬(むびゅう)性」(間違いはないとの過信)から、バブル後の金融引き締めが正しいと思い込んだので、その後もデフレ不況が継続した。

 アベノミクスの金融緩和で、ようやく平成のデフレから脱出しかけている。あと一歩のところだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「世界的貯蓄過剰2.0」に気づかなければ、日本は平成の世の終わりとともに「失われた100年」を迎えることになる(゚д゚)!

論評の前に、まずは上の記事にもでてきたGDPデフレーターの解説をします。GDPといっても、「名目」と「実質」があります。簡単にいってしまえば、「名目GDP」は物価変動の影響を受けた表面上の値、「実質GDP」は物価変動の影響を除いて計算された内情的な値です。

例えば第一次大戦後のドイツにおけるインフレはよく知られていますが、あのインフレ(インフレーション:物価上昇、通貨価値の下落)で上昇した同国の名目GDPをそのまま経年比較に用いると、「あの時のドイツは物凄い経済成長を果たした」となってしまいます(もっとも為替レートもそれに伴い急変しているので、他国との比較ではそこまで酷い話にはならない)。かといつて、実質GDPを用いれば、そのような奇妙な結果は出てこないです。

見方を変えると、名目GDPと実質GDPが均衡していれば物価も均衡、名目GDPが実質GDPを上回れば物価は上昇、下回れば物価は下落となります。

これを分かりやすくするために設けられた指標が「GDPデフレーター」という指標です。これは「名目GDP÷実質GDP」で算出されるものです。

実際には名目GDPから実質GDPを算出するための指標であり、実質GDPが最初から計上されているわけではありません。名目GDPが物価の影響を受けているもの、実質GDPが受けていないものであることから、GDPデフレーターは物価変動の度合いを示す物価指数でもあります。

よって、GDPデフレーターの動きを見て、増加しているようならばインフレーションが、減少しているならばデフレーションが生じていると判断できます。

次に示すのは日米中3か国のGDPデフレーターの前年比です。この値がプラスならばインフレーション、マイナスならばデフレーションが生じていることになります。また、この値をインフレ率とも呼んでいます(マイナス値ならばマイナスのインフレ、つまりデフレが生じています)。



アメリカ合衆国はきれいな形でインフレーションが生じており、1980年代後半以降は年2-3%程度のインフレが確認できます。他方中国は(統計上の精度の問題もあるのでしょうが)大きな上下を繰り返しており、20%を超えるインフレが生じた年もありますが、大よそはインフレを継続。2012年以降はアメリカ合衆国同様に年数%のインフレに留まっています。

日本はといえば元々インフレ率は低迷していて、1990年代後半に至ると失速し、以後は大よそマイナス圏、つまりデフレーションが生じる形となっています。2014年にようやく出れフーションから脱したものの、インフレ率は米中と比べるとまだ低迷状態にあることは否めないです。

GDPデフレーターの前年比推移のうち日本のみを抽出したのが次のグラフです。


バブル経済が崩壊して間もなくのタイミングの1997年あたりで、GDPデフレーター前年比はマイナスに落ち込み、デフレーション状態となっています。プラスに復帰するのは2014年に入ってからなので、言葉通り「失われた20年間」が生じたことになります。いわゆる「ロスジェネ」が発生したのもこの時期に一致しており、「ロスジェネ」が発生したのは、このデフレによるものであることは言うまでもありません。

デフレーション状態が続くと「政府の債務実質負担が増加する」「企業債務の実質的な負担が一層重たくなるので、債務を有する企業の活動が鈍くなる」「物価は下落するが名目賃金、名目金利がさほど下がらないと、実質賃金、実質金利が上昇するため、企業収益を圧迫」することになります。

「消費者は手持ち資産の購入力が増すために消費が増大する」ように見えますが、「実質的な効果はさほど大きくない」です。「住宅ローンを抱えている世帯が多く、その世帯の家計への負担が大きくなる」「物価下落に対する先行き不透明感や『待ちのお得さ』心理から買い控えが起きる」などの弊害が生じます。

多かれ少なかれ、これは多くの人々経験したことがあり、なるほど感を覚えるものがあります。バブル崩壊後から続く日本の長期景気低迷感は、デフレ状態が原因なのです。

デフレーションにもよい面はあり「デフレ期は名目賃金は下がるがそれ以上に物価も下がっているので実質的な賃金は上昇し、国民の生活は豊かになる」どと主張する人もいますが、それは大きな勘違いです。

実際は私達が実際に過去に見てきたとおり、デフレ期には実質賃金が下がっており、逆にインフレ期にこそ実質賃金が上昇しています。デフレで良い事など一つもありません。だからこそ、デフレは経済の癌などといわれて恐れられてきたてのです。

金融政策などによる明確なインフレへのかじ取りは、色々な意味でこの先数十年の日本の流れかを変えていくことになるでしょう。今後の動向にも大いに注目したいところです。

ブログ冒頭の高橋洋一氏記事では、平成におけるデフレのきっかけは、「株などの資産価格だけが上昇しているときに必要なのは資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価に影響のある金融政策の出番ではない」にもかかわらず、バブル退治に金融引き締めをしてしまったことにあるとしています。

まさに、その通りです。確かにあの時に、金融引締めをしないでいれば、デフレは生じていなかったはずてす。官僚の誤謬は本当に恐ろしいです。

さて、平成の世があと少しで終わり、元号が何になるのか今はわかりませんが、元号が新しくなるとともに、日本はデフレからきっぱりと決別して、緩やかなインフレの時代に移行していただきたいものです。

ただし、新しい元号になってからも、官僚の誤謬による間違った金融政策が実施され、とんでもないことになり、失われた30年どころか、失われた40年を迎える可能性は否定しきれません。

そのもっともありそうなシナリオは、ここしばらく日本がデフレスパラルの底に沈んていた間に、世界は完璧に変わってしまったことを官僚が認識できずに、再び金融引締めをするというものです。

これについては、このブログでも以前紹介した野口旭氏の記事が参考になります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!

野口旭氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に従来とは明らかに変わった世界について関連する部分を引用します。
1960年代末から始まったアメリカの高インフレや、1970年代初頭の日本の「狂乱物価」が示すように、金融緩和や財政拡張の行き過ぎによる経済的混乱は、少なくとも1980年代前半までは、先進諸国においても決して珍しいものではなかった。つまり、その時代には確かに「財政と金融の健全な運営」がマクロ経済政策における正しい指針だったのである。 
ところが、近年の世界経済においては、状況はまったく異なる。「景気過熱による高インフレ」なるものは、少なくとも先進諸国の間では、1990年代以降はほぼ存在していない。リマーン・ショック以降は逆に、日本のようなデフレにはならないにしても、多くの国が「低すぎるインフレ率」に悩まされるようになった。また、異例の金融緩和を実行しても景気が過熱する徴候はまったく現れず、逆に早まった財政緊縮は必ず深刻な経済低迷というしっぺ返しをもたらした。世界経済にはこの間、いったい何が起こったのであろうか。 
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。 
この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
学問的にはそのようなことは明確にはいえませんが、それを裏付ける現象は多数存在しており、もう世界は、すでに「世界的貯蓄過剰2.0」の時代に入ったとみるべきなのです。この世界では、積極財政や金融緩和の支えがない限り、十分な経済成長を維持することすらできないのです。

ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥るのです。それが、需要が旺盛で、供給がそれになかなか追いつかなかった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなるようになり、現在では経済を維持するために金融緩和、積極財政を継続して行うことこそ、正しい選択なのです。

古い時代と現在とでは何が違うかといえば、その最たるものは、大きな戦争がなくなったということかもしれません。世界各地て、大きな戦争があれば、供給能力が大幅に削減され、すぐに需要を満たすことができなくなり、貯蓄が積み上がることもなくなって、しまうことなどが起こっていたのです。

しかし、今の世界には大きな戦争はないし、これからも起きそうにありません。実際、世界の唯一の超大国も、中国に武力を直接行使することなく、貿易戦争、経済戦争を挑んでいます。それは、現在では多数の核兵器が存在していて、大規模な武力行使をすれば、それはやがて核戦争に発展し、敵国を滅ぼすにとどまらず、自らも含む全世界を滅ぼすことにつながりかねないからです。

さらに、良い悪いは別にして、近代の西欧のライフスタイルは、世界中に広まりましたが。その後の世界は、科学技術は發展しましたが、これを変えるような動きはあまりありません。ポストモダニズムも、思ったほどには影響力がありませんでした。これまでにない、全く新たなライフスタイルやものの考え方がでてきて、これが世界を席巻するようなことでもあれば経済はたちまち供給不足となるのでしょうが、そのような動きは今のところみられません。

世界がこのように変わってしまったことに、気付かず日銀官僚が、金融緩和をしても、なかなか物価が上がらないから緩和をやめてしまうとか、財務官僚もこれに気付かず、もっともらしい理由をつけて、緊縮財政ばかり続けるようなことがあれば、日本はすぐにもデフレに舞い戻ることになるでしょう。そうして、今度は「失われた30年」などという生易しいものではなく、「失われた100年」を迎えることになるでしょう。

そのような官僚に、だまされることなく、政治家がまともな政策を打ち出せば良いのですが、自民党のポスト安倍の面子をみてもあまり期待できそうにもありません。野党は、問題外です。マスコミは圏外です。

このようなことになるか、それとも、「世界的貯蓄過剰2.0」に気づき、当面積極財政、金融緩和を続けるかにより、ここ数十年先の日本の趨勢が決まることでしょう。

日本が、これから再び深刻なデフレスパイラルに落ち込むことなく、まともに成長していくには、まずは私達が、世界が変わったことを理解しなければなりません。

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2016年8月2日火曜日

日銀の資金供給 8か月連続で過去最高を更新―【私の論評】金融緩和政策は限界でなく、まだまだ不十分なだけ(゚д゚)!

日銀の資金供給 8か月連続で過去最高を更新



日銀が市場に供給しているお金の量を示す「マネタリーベース」は、大規模な金融緩和を続けていることから先月末時点で403兆円余りとなり、8か月連続で過去最高を更新しました。

マネタリーベースは、世の中に出回る紙幣と硬貨、それに、民間の金融機関が日銀に預けている資金「当座預金」の残高を合わせたもので、日銀が市場に供給している資金の量を示します。

日銀の発表によりますと、先月末時点のマネタリーベースは403兆9463億円で、前の月と比べて91億円増え、8か月連続で過去最高を更新しました。これは、日銀が、目標としている2%の物価上昇率の実現に向けて、国債などを買い入れて市場に資金を供給する大規模な金融緩和を続けているためです。

ただ、大規模な緩和にもかかわらず物価上昇率は先月下旬に発表された最新の統計で4か月連続のマイナスとなっていて、目標の達成は遠い状況です。このため、日銀は、来月開く次の金融政策決定会合で今の金融緩和策の効果を総括的に検証することにしています。

【私の論評】金融緩和政策は限界でなく、まだまだ不十分なだけ(゚д゚)!

先月の29日から、31日まで、私は札幌から函館、仙台まで行っていましたので、その間の出来事などこのブログに掲載できませんでした。知事選関連はいろいろと掲載していましたが、日銀関連は掲載していませんでした。そのため、この間の重要な出来事であった、先月日銀の金融政策決定会合について掲載することにしました。

先月29日開催された日銀金融政策決定会合 中央奥は黒田日銀総裁
ブログ冒頭の記事では、マネタリーベースは8か月連続で過去最高を更新したことを伝えており、これだけだと、金融緩和は十分であるかの印象を受けます。しかし、そんなことはありません。実は、日銀の金融緩和政策は、まだまだ不十分です。

このような報道の仕方は、2012年のWBSという報道番組が報道したように、かなりのミスリーディングなものです。その報道番組についてはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日銀総裁、インフレ目標に否定的 「現実的でない」―【私の論評】インフレ目標を否定する、白川総裁本音炸裂!!マスコミはその協力者!!
この記事は、2012年11月13日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、WBSの紛らわしい報道に関する部分のみ以下に抜粋します。
たとえば、昨日のWBSでは、以下のような画像が流されました。 
この画像驚くべきことに、日本のマネタリーベース(市場に出回っているお金)が世界一であるかの印象を植え付けるようなものです。これをみると、大方の人は、あたかも日銀がかなりの金融緩和をやっているように曲解すると思います。これは、実額を示しているものなのでしょうか、それとも・・・・・・。とにかく、実額にしても、対比にしてもあり得ないことです。WBSは、このような誤解を招くような報道をしたことを謝罪するべきです。
わかりやすくするには、どこかを基準として、そこからどのように伸び率が変わったかを複数の国で比較すべきで。たとえば、2000年を100とすると、以下のようになります。このような表示の仕方が一番わかりやすいです。こうしてみると、いかに、日銀が金融緩和をしていないか、一目瞭然です。こういう表示をすべきです。

それにしても、WBSの表示、なぜあのようになるのか、理解に苦しみます。そうして、WBSでは日本は、流動性の罠にはまっているので、財政出動をしても効き目はなく、規制緩和や金利の引き上げをしろと報道しています。需要がないので、現状では金利が下がっているのに、無理やり金利を引き上げれば、需要はますます冷え込むだけです。WBSは、リチャード・クー氏などがでているときは、本当に良い番組だったのですが、最近は日銀御用メディに成り下がってしまったようです。

ブログ冒頭の記事は、このWBSの報道のように酷くはないですが、それにしても誤解を招くような報道です。まるで、現在の日本が金融緩和は十分にすぎるほどに実施されているかのような印象を与えます。それは全く違います。本日は、それについて掲載します。

日銀は先月29日、金融政策決定会合を開き、追加金融緩和を賛成多数で決めました。緩和は1月のマイナス金利政策の導入決定以来、6カ月ぶり。株価指数連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れを現在の年3.3兆円から6兆円に増額します。企業や金融機関の外貨調達の支援強化も決めました。金融機関が預ける日銀当座預金の一部に適用するマイナス金利は現行水準のマイナス0.1%に据え置きました。

日銀は政府が8月2日閣議決定する総合的な経済対策と「相乗効果を発揮する」と表明。政府と日銀が連携し、デフレ脱却へ向け、2%の物価上昇目標の実現を目指す強い決意を示しました。

ETF買い入れの増額は政策委員9人のうち、賛成7人、反対2人でした。通貨供給量を増やすため実施している現在の年間80兆円の国債購入は増額を見送りました。

今回の会合でまとめた日銀の最新予測である「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、2%の物価上昇目標の実現時期について、従来通りに「2017年度中」としながらも「海外経済の不透明感から不確実性が大きい」との文言を加えました。

しかし、二年ほど(2015年終わり)でインフレ目標2%を達成するはずが、いまや2017年真ん中を見込むという一年半も後倒しになっている状況があります。




これは日本銀行の政策への信頼性・やる気を毀損していることは疑いありません。その原因は、消費税増税と国際環境の不確実性にあります。政府は消費増税の悪影響を回避するために、今回再延期に踏み切りました。当然にその認識を日銀が共有しているのなら、早期に追加緩和により積極的な対応を準備すべきでした。ところが、それをしていませんでした。

その認識の甘さが、今回のようなほとんど政策効果がないような、「追加緩和」に帰結しまった主な原因です。これは、やらないよりはましな、まさに政府の圧力への官僚的回答に過ぎません。

日銀は追加緩和の理由に関し、英国の欧州連合(EU)離脱問題や新興国経済の減速など海外経済の不透明感が高まり、金融市場は不安定な動きが続いていることから「企業や家計のコンフィデンス(心理)悪化につながるのを防止する」のが狙いだと説明しました。

展望リポートでは、16年度の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率見通しを前年度比0.1%(従来0.5%)に下方修正。17年度は1.7%と従来見通しを維持しました。

今後の金融政策に関しては「必要な場合は追加的な金融緩和措置を講じる」と改めて強調。次回9月の決定会合で、現行の大規模緩和政策の効果などについて、総括的検証を行うことを明らかにしました。

しかし、この追加金融緩和策は、市場の期待を裏切る内容でした。黒田東彦(はるひこ)総裁は9月にも一段の緩和を示唆していますが、後がありません。専門家は、黒田総裁が対応を誤れば次期総裁人事に影響が出てくるほか、日銀内での「クーデター」の可能性についても言及しています。

日銀は上記のように、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年3・3兆円から6兆円に増やした一方で、市場に供給するお金を年間80兆円のペースで増やす「量的緩和」は拡大せず、出し渋りの感は否めません。

上武大学教授 田中秀臣氏
日銀の金融政策をウオッチし続けてきた上武大教授の田中秀臣氏は、「批判の矢面に立たないようにETFを増額するが、量は増やさないというやり方は、昔の日銀の発想に戻ってしまったようだ」と批判しています。

黒田総裁は、2013年以降の金融緩和について「総括的な検証」をしたうえで、9月にもさらなる緩和を実施する可能性があるとしました。サプライズ狙いから、市場との対話路線に転じる構えですが、効果は不透明です。

しかし、この「総括な検証」の指示でも、いまのインフレ目標2%達成の遅れが、消費増税などの悪影響という国内要因ではなく、あくまで国外要因の責任にしています。これではいつまでたっても国内の経済低迷の原因について真摯な「総括的な検証」は行われないのではないでしょうか。

このまま黒田日銀が政府とのポリシーミックスに適応不全を続けるようであるならば、日銀法の改正やまたそれに伴う幹部の一掃が要される事態になるのではないでしょうか。 いまの日本では財務省出身や日本銀行プロパーにこだわる人材選択、または悪しきエリート主義への信奉こそ、政策の実現を遅らせるものはないと思います。黒田日銀にはその病理がいま集中して現れているように思えてなりません。

本田悦朗スイス大使
前出の田中氏は「日銀の組織防衛的なスタンスが続けば、安倍政権自体も追い込まれかねない。次の決定会合に政府側の委員として位の高い人物を送り込むほか、日銀法改正をちらつかせるなど政治的なプレッシャーをかけることがありうる。18年の次期総裁人事では、積極的な緩和論者である本田悦朗スイス大使を起用する可能性も高まったのではないか」と指摘します。

田中氏は、黒田総裁や日銀事務方のスタンスが変わらない場合、理論上は、決定会合で「クーデター」を起こせるという大胆な仮説を立てています。

「リフレ政策に理解のある委員は(9人中)5人いる。1回限りであれば、総裁らが反対しても大胆な量的緩和を可決することは可能だ」

黒田総裁にとっては、9月が信頼を取り戻すラストチャンスなのかもしれません。

田中氏は、本日以下のようなツイートをしています。
本当に、マスコミも識者でも、日銀の政策決定に関する批判について勘違いしている人が大勢います。特に田中氏のツイートの中の"1)政策手段や手段が尽きたから批判する"不思議な人が大勢いて困ります。そういう人の中には「アベノミクスは限界」などという、頓珍漢、奇妙奇天烈な批判をする人がいるので困ります。私は、こういう人々の仲間ではありません。

"8月3日 訂正:上のツイートで、ヘッドダイン寄生は「ヘッドライン寄生」の間違いでした。田中氏自身も間違えていたのでそのまま掲載しました。田中氏も本日ご自身で訂正されています"

あくまで、田中氏もそうですが、私も"2)政策手段や手段はあるのにやらないことを批判"しているのです。

そうして、その根拠は以前にもこのブログに掲載しました。それを以下に再掲します。その記事のリンクを以下に掲載します。
日銀 大規模な金融緩和策 維持を決定―【私の論評】日銀は批判を恐れずなるべくはやく追加金融緩和を実行せよ(゚д゚)!
この記事は、今年の6月のものです。やはり、6月の金融政策決定会合が開催され、この時も追加金融緩和が見送られました。今回の追加見送りも、結局このときの見送りと同じような理由によるものと考えられます。以下に一部引用します。
結論からいうと、日銀は追加金融緩和を行うべきでした。以前このブログにも掲載したように、いくら金融緩和しても下げられない失業率を「構造的失業率」といい、実際の失業率が構造的失業率まで下がらないと、物価や実質賃金は本格的に上昇せず、インフレ目標の達成もおぼつかないことになります。
構造的失業率などについて以下に簡単に解説しておきます。 
総務省では、失業を発生原因によって、「需要不足失業」、「構造的失業」、「摩擦的失業」の3つに分類しています。 
  • 需要不足失業―景気後退期に労働需要(雇用の受け皿)が減少することにより生じる失業 
  • 構造的失業―企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる失業 
  • 摩擦的失業―企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間がかかることによる失業(一時的に発生する失業)
日銀は、構造失業率が3%台前半で、直近の完全失業率(4月時点で3・2%)から下がらないので、これ以上金融緩和の必要がないという考えが主流のようです。 
過去の失業率をみてみると、以下のような状況です。
過去20年近くは、デフレなどの影響があったので、あまり参考にならないと思ういます。それより前の過去の失業率をみると、最低では2%程度のときもありました。過去の日本では、3%を超えると失業率が高くなったとみられていました。
このことを考えると、日本の構造失業率は3%を切る2.7%程度ではないかと考えられます。 
であるとすれば、現在の完全失業率3.2%ですから、まだ失業率は下げられると考えます。だとすれば、さらに金融緩和をすべきでした。

しかし、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は、すでに実際の失業率が構造失業率に近い水準まで下がっているのに、なぜ賃金が上昇しないのか、疑問を持っていたようです。にもかかわらず、今回は追加金融緩和を見送ってしまいました。
構造的失業率が2.7%程度あろうことは、高橋洋一氏も述べていますし、他のまともな経済学者もそう考えている人が多いです。無論、マスコミや日本の主流の経済学者や民間エコノミストたちはそう考えていないようですが、彼らは8%増税の影響は軽微などとしていたくらいですから、全く信用できません。

本来は、この時期に追加金融緩和を実施すべきでした。大規模な追加金融緩和を行えば失業率は2.7%程度にまで下がり、そこからほとんど下がらなくなり、賃金が本格的に上昇することになります。そうなると、物価上昇が始まることになります。

「アベノミクス」の特に金融緩和政策は、限界に来たのではなく、8%増税などを実行してしまっため、まだやり足りないのです。もし、8%増税をしていなければ、物価上昇2%はもうすでに達成できていたかもしれません。とにかく、失業率が2.7%まで下がらないようでは、十分とはいえないのです。

この認識ができない、黒田総裁にはやめていただく以外に道はないのかもしれません。あるいは、日銀法を改正して、日本国の金融政策の目標は政府が定めて、その目標を実現するための手段を日銀が専門家的立場から自由に選ぶことができるという具合に改めるしかないかもしれません。

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