2025年8月9日土曜日

サイバー戦は第四の戦場──G7広島から最新DDoS攻撃まで、日本を狙う地政学的脅威


まとめ

  • 2025年版IPA「情報セキュリティ10大脅威」に初めて「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」が明記され、国家や準国家組織が日本を狙う時代に突入したことが明らかに。
  • 攻撃は政策転換、国際的地位の弱体化、国民分断を狙い、官公庁や金融、エネルギー、交通など国家中枢を標的に、情報操作や世論誘導と並行して行われる。
  • 具体例として、2023年G7広島サミットでの広島市公式サイトへのDDoS攻撃、2024年10月の日米防衛協力強化発表直後の協調型DDoS攻撃があり、いずれも親ロシア系ハクティビストによるもの。
  • 日本は外交イベントや制裁発表前後を「高警戒日」として防御態勢を強化し、犯行予告の即時共有、重要インフラの冗長化、国際的な脅威情報共有体制の構築が必要。
  • 専門家はサイバー攻撃を「破壊・諜報・工作の進化形」かつ「戦争の第四の領域」と位置付け、日本は外交・防衛・法制度・民間を総動員した総合戦略で対抗すべき。
 
 🔳国家戦略としてのサイバー攻撃の現実

 
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近年、日本は地政学的背景を持つサイバー攻撃の新たな波に直面している。2025年版のIPA「情報セキュリティ10大脅威」では、初めて「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」が明記された。(上の表の7位)

これは、国家や準国家組織が外交や軍事の文脈で日本を狙う時代が現実化したことを意味する。従来の金銭目的や愉快犯型とは異なり、狙いは政策転換、国際的地位の弱体化、国民分断と混乱の誘発だ。攻撃主体は国家やその傘下組織、あるいは「ハクティビスト」を装う国家支援集団など多様で、情報操作や世論誘導と並行して攻撃を行う。

重要法案の審議、防衛政策の発表、国際会議の開催といった政治的に意味を持つ瞬間に、官公庁、メディア、金融、エネルギー、交通など国家中枢が標的となる。特にロシアの侵攻以降、親ロシア系ハクティビストの活動が目立ち、NoName057(16)などがTelegramで攻撃予告を行い、その直後にDDoSを実行する手口を繰り返している。
 
🔳日本を揺るがした具体的事例
 

象徴的なのが2023年G7広島サミットでの攻撃だ。広島市や関連機関の公式サイトが親ロシア系ハクティビストによる大規模DDoS攻撃を受け、一時的に閲覧不能となった。世界中の感染端末からのアクセス集中でサーバーを麻痺させ、日本のウクライナ支援とG7の結束に冷や水を浴びせる狙いがあった。

さらに2024年10月、日米防衛協力強化の発表直後にも協調型DDoS攻撃が発生。複数の親ロシア系グループが同時に犯行声明を出し、政府機関や大手金融機関、通信事業者のポータルが断続的に停止。攻撃は数時間から半日続き、日米同盟強化への露骨な報復だった。被害は短期間にとどまったが、日本の重要インフラが政治的メッセージの標的となる現実を突きつけた。
 
🔳日本が取るべき戦略と専門家の警鐘

自衛隊のサイバー対応の中核部隊に初めてテレビカメラ

日本は外交イベントや制裁発表の前後を「高警戒日」として防御態勢を強化し、犯行予告を即座に脅威情報として共有する体制を構築すべきだ。重要インフラは攻撃を前提に冗長化や縮退運用を備え、被害を最小限に抑える。政府はサイバー安全保障を防衛戦略の柱に据え、NISC、防衛省、警察庁の常設連携を実現し、国家関与が疑われる場合は迅速に公表と制裁を行う必要がある。国際協力も強化し、米国や英国、豪州とAPTやハクティビストの動向をリアルタイムで共有する枠組みを整備すべきだ。

ジョンズ・ホプキンス大学SAIS教授のトーマス・リードは、サイバー戦争を「戦争ではなく、破壊・諜報・工作の進化形」と位置付け、物理的被害以上に政治や社会の認識を揺さぶる行為だと指摘する。

また、大西洋評議会Cyber Statecraft Initiative創設ディレクターで現コロンビア大学SIPA研究学者のジェイソン・ヒーリーは、サイバー紛争を「戦争の第四の領域」とし、外交・防衛戦略に組み込む必要を訴えている。

地政学的リスクに起因するサイバー攻撃は、技術だけの問題ではない。これは国家の意思と国民の心を狙う戦いである。日本は外交、防衛、法制度、民間の力を総動員し、総合戦略で立ち向かわねばならない。

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