2025年2月23日日曜日

能動的サイバー防御、台湾有事も念頭に「官民連携」など3本柱 首相命令で自衛隊が対処も―【私の論評】安倍政権のサイバー防衛戦略は継承したが、アベノミックス・憲法改正推進の継承できない石破政権

能動的サイバー防御、台湾有事も念頭に「官民連携」など3本柱 首相命令で自衛隊が対処も

まとめ
  • サイバー攻撃への危機感: 日本を標的としたサイバー攻撃が多発しており、欧米に比べて対策が遅れていることから、政府は「能動的サイバー防御」の導入を急いでいる。特に、台湾有事を考慮した国家安全保障戦略に基づく防御態勢の整備が求められている。
  • 三本柱の体制: 能動的サイバー防御は、官民連携の強化、通信情報の利用、攻撃元への侵入・無害化措置の三本柱から成る。新設される「国家サイバー統括室」がこれらの施策を統括し、事務次官級の「内閣サイバー官」を設置する。
  • 透明性の確保と連携強化: 官民連携により基幹インフラ事業者に情報提供を義務付け、通信情報の取得・分析で攻撃者特定を目指す。また、警察と自衛隊が協力して無害化措置を実施し、独立機関がその運用を監督することで透明性を確保する。

政府が「能動的サイバー防御」の導入を急ぐ背景には、日本を標的としたサイバー攻撃の増加と、欧米に比べた対策の遅れに対する危機感がある。現代の戦争は、サイバー攻撃や偽情報を組み合わせた「ハイブリッド戦」に移行しており、電力、情報通信、金融といった基幹インフラが狙われる可能性が高まっている。これを受けて、政府は台湾有事を考慮し、令和4年末に策定した国家安全保障戦略に基づき、サイバー空間の防御態勢を整えることを閣議決定した。

具体的には、能動的サイバー防御は三つの柱から成り立っている。第一に、官民連携の強化があり、国民生活の基盤となる電気、ガス、鉄道などの15業種を「基幹インフラ事業者」として指定し、ネットワーク機器の情報を政府に報告することを義務付ける。これにより、サイバー攻撃を受けた際の迅速な対応が可能になる。

第二に、通信情報の取得と分析が行われる。政府は、憲法が保障する「通信の秘密」を尊重しつつ、IPアドレスや通信量などの情報を取得し、外国間や国内外の通信に限定して分析する。この情報を元に攻撃者を特定することが期待されている。

第三に、攻撃元への侵入と無害化措置が実施される。これは、警察と自衛隊が連携して行い、サイバー攻撃による重大な危害が発生するおそれがある場合に、警察庁長官が指名した「サイバー危害防止措置執行官」が主導する。自衛隊は、特に高度に組織的な攻撃に対して首相の命令で対応する。

さらに、これらの措置を監督する独立機関「サイバー通信情報監理委員会」が設置され、攻撃者のサーバーへの無害化措置については事前承認が必要とされる。運用状況は毎年国会に報告され、透明性の確保が図られる予定である。これにより、日本はサイバー攻撃に対する防御力を強化し、国民生活を守る体制を整えることを目指している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】安倍のサイバー防衛戦略は継承したが、アベノミックス・憲法改正推進は継承できない石破政権

まとめ
  • 政府は台湾有事を背景に、2025年2月7日に令和4年末の国家安全保障戦略に基づき、サイバー空間の防御強化を閣議決定し、「国家サイバー統括室」や「サイバー通信情報監理委員会」を新設。
  • 安倍政権(2013~2020年)はサイバーセキュリティを国家課題とし、2013年の戦略本部設置や2014年の基本法成立、2019年の日米2プラス2でサイバー防衛を強化。
  • 2024~2025年のトランプ・石破会談(11月電話、2月対面)が今回の閣議決定に影響を与え、日米同盟強化やサイバー防衛の約束が背景に。
  • 今回の決定は、トランプ政権の意向や国内・国際のサイバー脅威に対応し、官民連携でサイバーセキュリティを向上させる狙い。
  • 石破政権は短期的に安倍路線の安全保障・日米関係強化を継承する可能性が高いが、経済政策(アベノミクス)や憲法改正は継承できないだろう。次の政権に期待したい。

石破政権閣僚

政府は台湾有事を考慮し、令和4年末に策定した国家安全保障戦略に基づき、サイバー空間の防御態勢を整えることを閣議決定した。この決定は、安倍政権下でも検討されていた重要なテーマに関連している。安倍政権は2013年に「サイバーセキュリティ戦略本部」を設置し、サイバーセキュリティを国家の重大な課題として位置づけた。この戦略本部は、サイバー攻撃への包括的な対策を講じるために、政府、民間企業、学術機関との連携を強化することを目的としていたのだ。

安倍政権時代の、2014年には「サイバーセキュリティ基本法」が成立し、これにより国家レベルでのサイバー防御体制の強化が法的に裏付けられた。この法律に基づき、各省庁は具体的な防御策を策定し、実施する義務を負うことになった。特に安倍政権はオリンピックを控え、サイバーセキュリティの強化を急務とし、国内外からのサイバー攻撃に対する警戒を強化したのである。

安倍政権時代には、サイバー攻撃の脅威を強調するエピソードが数多く報告された。2015年には外務省や防衛省がサイバー攻撃を受ける事件が発生し、その後も日本の企業やインフラに対する攻撃が増加した。これに対して安倍政権は、「サイバー空間での防御力を高める必要がある」との認識を示し、さまざまな施策を講じたのである。

また、日米安全保障協議委員会(2プラス2)の開催においても、安倍政権はサイバー空間の重要性を認識した。2019年4月の共同発表では、サイバー攻撃が日米安保条約第5条の適用対象となる可能性が示され、サイバー防衛が国家の安全保障に直結することが確認された。このことは、日米同盟の枠組みの中でサイバー攻撃を武力攻撃と同視する可能性を明確にしたものであり、安倍政権の取り組みを強化する要因となった。日本側の出席者は、当時外務大臣の河野太郎と防衛大臣の岩屋毅が参加していた。

岩屋氏と河野氏 この写真でご気分を悪くされたかた、申し訳ありません・・・・😁

今回の閣議決定には、2024年に行われたトランプ・石破会談の影響も見られる。この会談は、2024年11月と2025年2月にわたり、電話や対面での首脳会談として実施され、日米同盟の強化と経済的協力が再確認されたエピソードがある。特に、2025年2月7日のワシントンでの初対面会談では、石破茂首相がトランプ大統領と会談し、日米安保条約第5条が尖閣諸島にも適用されることを改めて確認した。この確認は、サイバー攻撃を含む広範な安全保障課題に対する日米の協力体制を強化する基盤となったと言える。

また、トランプ大統領が日本に対して防衛費の増強や対米投資の拡大(1兆ドル規模)を求める中、石破首相はサイバー防衛を含む国家安全保障の強化を約束し、これが今回の閣議決定の背景に影響を与えたとみられる。さらに、2024年11月の電話会談では、トランプ次期大統領との早期対話を通じて日米関係の安定を優先する姿勢が示され、これがサイバー空間の防御態勢強化を急ぐ契機となったと考えられる。

トランプ大統領は、日本政府に安倍路線を継承せよとの意向を表明したことは明らかであり、今回の閣議決定はそれに呼応したもので、大きなものとしてはその第一弾目にあたるといえる。トランプ大統領が日米同盟の抑止力と対処力を強化する重要性を強調し、石破首相がこれに応える形でサイバー防衛の強化を約束したことが、今回の閣議決定の背景にあると考えられる。

今回の出来事は、岸田政権が米バイデン政権に影響を受けたのと同じく、石破政権も米トランプ政権に影響を受けることを示しているといえる。


今回の閣議決定は、こうした安倍政権での取り組みを踏まえた上で、さらに具体的な防御体制の構築を目指すものである。新たに設置される「国家サイバー統括室」や「サイバー通信情報監理委員会」などの機関は、安倍政権時代の基盤を引き継ぎつつ、より強化された体制を整えることを目的としている。

これにより、日本はサイバー攻撃に対してより強固な防御体制を築くことを目指し、国民生活や国家の安全を守るための取り組みを強化している。政府は官民連携を促進し、情報共有を活性化することで、サイバーセキュリティのさらなる向上を図る方針である。

石破茂政権が今後安倍晋三政権の路線を継承する可能性は、現在の国際環境と安全保障の必要性から短期的に高いと考えられる。石破政権は、トランプ政権との関係強化や台湾有事への対応を重視し、日米同盟の深化を継承するだろう。特に、2025年2月の日米首脳会談で合意された1兆ドル規模の対米投資や液化天然ガスの輸入拡大は、安倍政権が築いた経済外交を踏襲する動きである。

ただし、経済政策(アベノミクスの金融緩和と財政出動の枠組み)は財務省等の関係から継承する見込みはない。また、憲法改正も少数与党になったことから、進められない。石破政権は少なくとも岸田政権よりは短期となるだろう。特に、現状のままだと参院選での敗北は目に見えており、自民党にとっては参院選前の石破政権の崩壊が望ましいが、参院選後まで石破政権が持続する可能性はほとんどないだろう。その後、安倍政権の経済政策、憲法改正の推進も継承する政権が成立することを願いたいものである。

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