2025年2月14日金曜日

【速報】政府の備蓄米21万トン放出 江藤農水相が正式発表―【私の論評】食糧は戦略物資という観点から農業政策は見直されるべき

【速報】政府の備蓄米21万トン放出 江藤農水相が正式発表

まとめ
  • 江藤農林水産大臣は、政府が備蓄米21万トンを市場に放出する方針を発表し、来月半ばから引き渡しを開始する予定。
  • 農林水産省は、コメの流通を円滑にするために指針を見直し、価格高騰に対処するための備蓄米放出を決定。
  • 初回は15万トンを入札で販売し、売り渡した業者からは1年以内に同量を買い戻す条件が設定されている。

江藤農林水産大臣は、政府が備蓄米21万トンを市場に放出する方針を正式に発表しました。これは、コメの流通を円滑にし、価格高騰に対処するための措置です。来月半ばには備蓄米の引き渡しを開始する予定で、必要に応じてさらに放出量を拡大する考えも示されています。

農林水産省は、これまで備蓄米の放出を深刻な不作や災害時に限っていましたが、最近のコメ価格の高騰を受けて、流通に支障が生じた場合でも放出できるように指針を見直しました。具体的には、約100万トンの備蓄米の中から21万トンを放出し、初回は15万トンを入札で販売する方針です。2回目以降の放出量は、コメの流通状況を調査した上で決定されます。

さらに、売り渡した集荷業者からは1年以内に同じ量を政府が買い戻すことが条件となっています。この政策がコメの流通と価格の安定につながるかどうかが、今後の注目点となっています。

【私の論評】食糧は戦略物資という観点から農業政策は見直されるべき

まとめ
  • 江藤農林水産大臣が発表した備蓄米の放出は、米価格の高騰を短期的に解消するための措置であり、初回は15万トンを入札で市場に放出予定である。
  • しかし、政府は放出した米を1年以内に買い戻す方針を示しており、これが市場の不安定要因となり、投機的な業者による価格上昇を招く恐れがある。
  • 日本の農業政策は固定的であり、特に米やバターなどの農産物において同様の問題が見られる。特に、バターの価格は政府の価格調整策によって不安定であり、結果としてバターが店頭から消えるとい事態を招いたこともあった。
  • 日本でも、アメリカのような柔軟で透明性の高い農業政策が求められており、具体的には需給バランスに応じた柔軟な対応やデータ公開が重要である。
  • 日本では食糧は戦略物資であるとの認識が低く、この点が食糧安全保障上の観点から見直されるべきである。

コメが消えたスーパー AI生成画像

江藤農林水産大臣が発表した備蓄米の放出量は21万トンで、初回は15万トンを入札で市場に放出する予定である。この決定は、昨年の米の生産量と集荷業者が集めた米の量の差を埋めるためのもので、投機的な業者による買い占めや売り渋りに対抗するための措置である。流通量が正常化することで、米価の高騰を短期的に解消できる可能性はある。

放出される米は主に2024年産米であり、23年産米も追加される予定である。21万トンという量は、流通で滞っているコメの量と一致しており、業界関係者にとっては予想を上回る数字となっている。ただし、焦点は放出のタイミングであり、入札によってどれくらいの期間で市場に出回るかが重要である。

しかし、政府は放出した備蓄米を1年以内に買い戻す方針を示しており、これが市場に出回る米の量を減少させることが予想される。これによって、投機的な業者が価格上昇を予想し、再び買い占めや売り渋りを引き起こす恐れもある。米の先物取引では投機目的の業者による売りが活発化しており、今後の動向を見守る必要がある。

日本の備蓄米は通常、放出されて市場に供給され、消費者や業者に販売されることで食用として消費される。特に、災害時には備蓄米が支援物資として活用されることもある。政府が放出した米を一定期間内に買い戻す条件は、放出後に市場から再度米を集めて備蓄に戻すという流れを生むが、備蓄米が古くなったり品質が劣化した場合は廃棄されることもある。

日本の備蓄米

さらに、日本の備蓄米は海外支援にも活用される。特に自然災害や人道的危機に直面している国々への食糧援助として備蓄米が提供される。このような支援は国際的な協力や人道的観点から重要であり、食糧不足に悩む地域に対して役立つ。

しかし、このやり方には非合理的な側面がある。放出した米を1年以内に買い戻すという条件は、市場に安定をもたらすどころか、逆に短期的な価格変動を引き起こす可能性が高い。過去には、米の供給が不安定な時期に放出された備蓄米が一時的に価格を下げたものの、その後に買い戻しの影響で価格が急上昇したケースもあった。このような状況は、投機的な業者が政府の動きを利用して利益を上げる格好の材料となり、結果的に消費者が大きな影響を受けることになる。

放出された米が市場に出回るタイミングや量が不透明であるため、業者や消費者の信頼を損なう恐れもある。過去には備蓄米の放出情報が漏れた際に、業者が先回りして米を買い占める動きが見られ、市場が混乱した事例もある。このように、流通の安定を図るための施策が逆に市場の混乱を招く結果になることも考えられる。

このため、より透明性の高い長期的な視点に立った政策が求められている。備蓄米の放出量やタイミングを事前に明確に公表し、業界関係者や消費者が安心して取引できる環境を整えることが重要である。加えて、備蓄米の管理や運用に関するデータを公開し、透明性を高めることで信頼性のある市場を構築できる。

また、海外の成功事例が示すように、定期的な市場調査を行い、需給バランスに応じた柔軟な政策を採用することも効果的である。アメリカでは、農務省が農産物の需給状況を定期的に評価し、必要に応じて備蓄米の放出や買い戻しを行う体制が整っている。このようなアプローチにより、農業経済の安定を図りつつ、消費者の利益を守ることができる。

日本がアメリカのようにならない理由は、政策の柔軟性や透明性の欠如に起因している。日本では農業政策が固定的で、米だけでなく様々な農産物において同様の問題が見られる。特にバターについては、価格が安定せず、2022年には前年比で約20%も上昇した。この背景には、国内生産の減少や輸入価格の上昇があるが、政府の価格調整策や供給調整が追いついていないことが大きな要因である。

日本では過去に度々バター不足に陥っている 写真は2008年

具体的には、日本のバター市場は政府が設定した価格上限と配分制度によって厳しく管理されている。このため、需要が急増した際に供給を迅速に調整できず、結果的に品不足が発生することがある。2021年には、原材料費の高騰や生産者の減少により、バターが一時的に店頭から姿を消す事態が起きた。このような価格調整策は、本来起こり得ない品不足を引き起こす要因となっている。

このような固定的な政策が続く限り、日本はアメリカのような柔軟で透明性の高い農業政策を実現することは難しい。食糧は戦略物資であるという認識が低く、これが食糧安全保障上の観点から見直される必要がある。具体的には、国の食糧自給率の低さや、外部に依存した供給体制が危険な状態であることを忘れてはならない。例えば、2020年の日本の食糧自給率は約37%に過ぎず、この数字は先進国の中でも低い部類に入る。これでは、国民の食糧確保が危うい状況にあると言わざるを得ない。

したがって、食糧は単なる消費財ではなく、国家の安全保障に直結する戦略物資であるという認識を持つべきである。この認識が低い限り、政府の食糧政策は根本的に見直されることないだろう。


0 件のコメント:

<見えてきた再エネの限界>ドイツ総選挙の争点から見える電力供給と電気料金の窮状―【私の論評】ドイツ経済危機と日本の選択:エネ政策・内需拡大、そして求められるリーダー交代

<見えてきた再エネの限界>ドイツ総選挙の争点から見える電力供給と電気料金の窮状 ■ 山本隆三( 常葉大学名誉教授) まとめ 原発の停止 :  2年前、ドイツは大多数の国民の意見に反して最後の3基の原発を停止。 世論と政策のずれ :  世論調査では原発の継続利用を望む声が強かったが...