まとめ
- 世界銀行は、貿易摩擦による経済成長鈍化で、商品価格が2025年に12%、2026年に5%下落し、コロナ禍前の水準に戻ると予測。
- エネルギー価格は2025年に17%、2026年に6%下落し、インフレ率を2022年に2%ポイント以上押し上げたが、2023・2024年はインフレ鈍化に寄与。
- 商品価格下落はインフレリスクを緩和するが、商品輸出依存の途上国に悪影響を及ぼす可能性があり、自由貿易や財政規律の強化が推奨される。
世界銀行の報告によると、貿易摩擦による世界経済の成長鈍化で、商品価格は2025年に12%、2026年に5%下落し、コロナ禍前の水準に戻る見込み。2022年のエネルギー価格高騰は世界のインフレ率を2%ポイント以上押し上げたが、2023・2024年はインフレ鈍化に寄与。
価格下落はインフレリスクを緩和する一方、商品輸出依存の途上国に悪影響を及ぼす可能性がある。エネルギー価格は2025年に17%、2026年に6%下落し、北海ブレント原油は2025年に1バレル64ドル、2026年に60ドルに。石炭価格も2025年に27%、2026年に5%下落。金価格は2025年に最高値を更新後、2026年に落ち着く見込み。自由貿易の推進や財政規律の強化が途上国に推奨される。
まとめ
- 世界経済の危機と日本の影響:世界銀行の2025年予測によると、商品価格下落でインフレは抑えられるが、貿易利益は商品輸出国で縮小し、日本も鉄鋼輸出(2023年4兆円)の価格10%下落などで影響を受ける。
- 内需拡大策の不十分さ:2025年の所得税減税(1兆円規模)や賃上げ(5%予測)は、需給ギャップ20兆円を埋められず、円安による家計圧迫や中小企業の利益圧迫で効果が限定的である。
- 過去の成功例:安倍・菅政権のコロナ対策100兆円補正予算は、需給ギャップ100兆円を対象に雇用調整助成金で失業率2.8~3.0%を維持し、日銀の金融緩和が雇用を支えた。
- 2025年補正予算の遅れ:2024年度補正予算(13.9兆円)は成立したが、2025年度補正予算は与党調整不足や金利懸念で審議が進まず、需給ギャップ対応が不透明である。
- 必要な対策:需給ギャップを埋める大胆な財政出動(消費税減税や直接給付)、日銀の金融緩和継続、円安抑制の為替介入で内需を強化し、GDP成長率1.1%を死守すべきである。
世界経済の嵐と日本の試練
2023~2024年のエネルギー価格下落がインフレを抑え、2023年中東紛争での原油価格低下(90ドルから83ドル)がそれを証明する。IMFの2025年予測も、関税のインフレ圧力を価格下落が打ち消すと断言する。
だが、貿易の利益は確実に削られる。途上国の3分の2が商品輸出に依存し、2023年の金属価格12%下落がザンビアやコンゴの財政を直撃した。インドの2023年米輸出制限はバングラデシュの食料危機を悪化させた。中国の2025年経済成長率4.5%への鈍化予測も、商品需要の低迷を物語る。
日本も無傷ではいられない。2023年の鉄鋼輸出額4兆円が、グローバル金属価格12%下落で圧迫された。2024年第2四半期、中国の鉄鋼需要低迷で日本の鉄鋼輸出価格は10%下落、東南アジアでの競争激化が追い打ちをかけた。2025年の経済成長率1.1%予測は、貿易依存の日本の弱さを浮き彫りにする。
この危機を前に、日本はどう動くべきか。答えは一つ。内需を燃え上がらせることだ。
内需拡大の失敗と過去の教訓
2025年の内需拡大策は、はっきり言って力不足だ。2024年度補正予算(13.9兆円)は2024年12月17日に成立し、物価高対策や能登半島地震復興、AI・半導体振興を盛り込んだが、2025年度は動きが鈍い。3月31日、2025年度本予算(115.2兆円)が成立したが、補正予算の審議は進んでいない。4月上旬、政府が物価高やトランプ関税対応の補正予算を検討したが、与党内の調整不足や金利上昇懸念で現国会での提出は見送られた。需給ギャップ約20兆円(日本経済研究センター推計)への対応が議論されるが、審議日程や金額は未定だ。
現行策も弱い。2024年補正予算の所得税減税(1兆円規模)は低所得層に届かず(みずほリサーチ&テクノロジーズ)、日銀のゼロ金利政策は円安(2024年1ドル150円台、野村證券予測)を招き、輸入物価上昇で家計を締め上げる。2025年春闘の賃上げ率5%予測も、中小企業の6割が利益圧迫に苦しむ(帝国データバンク2024年調査)現実では空手形だ。
過去の成功に光を当てる。安倍政権の2020年、60兆円のコロナ対策補正予算、菅政権の2020~2021年、40兆円の補正予算は、計100兆円を投じ、当時の需給ギャップ100兆円(内閣府推計)を埋めるべく設計された。国債発行と日銀の買い取りで資金を確保し、雇用調整助成金で休業手当の最大90%を補助。日本の失業率は2.8~3.0%で踏みとどまり、米国の7.8%(2020年)の雇用崩壊を回避した。日銀の金融緩和がなければ、企業の資金繰りは破綻し、雇用は守れなかった。だが、2025年の需給ギャップ20兆円に対し、1兆円減税は焼け石に水だ。コロナ期の給付金は低所得世帯の消費を5%押し上げたが、財政赤字懸念(財務省)で同様の給付は期待薄である。
真の道と日本の未来
輸出多角化や自由貿易は未来を切り開く。2024年の半導体輸出10%増、TPPによる2023年アジア輸出回復は希望の光だ。だが、技術開発や通商交渉に時間が必要で、トランプ関税リスク(世界経済成長率0.7%下押し)への即応性はない。
2025年の内需策が弱い理由は、家計への直接給付や中小企業への補助金が乏しいからだ。需給ギャップ20兆円を埋めるには、コロナ期のような大胆な財政出動が不可欠だ。日銀の金融緩和は雇用維持に欠かせないが、消費税減税のような強力な一手がなければ、消費は火を噴かない。
安倍・菅政権の100兆円補正予算は、需給ギャップを的確に捉え、日本が危機を乗り切れる国であることを示した。あの果断な支援を再現し、2025年の実質GDP成長率1.1%を死守する。それが日本の使命だ。地政学的リスクが迫る今、ちまちました策を捨て、内需を一気に燃え上がらせる。日本の未来は、その決断にかかっている。
出典:世界銀行「Commodity Markets Outlook」2025年4月29日、IMF、日本貿易振興機構、日本鉄鋼連盟、内閣府、みずほリサーチ&テクノロジーズ、日本経済研究センター、ジェトロ、野村證券、帝国データバンク、財務省、厚生労働省、総務省、米国労働統計局、NHK、朝日新聞、読売新聞、過去事例。
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