2025年3月9日日曜日

林佳竜外相、中国を非難 アルバニア決議を再び曲解 「台湾に対する法律戦」―【私の論評】台湾vs中国:理念のぶつかり合いと現実の違い!林外相の正しさと核の影

林佳竜外相、中国を非難 アルバニア決議を再び曲解 「台湾に対する法律戦」

まとめ
  • 中国の王毅外相は国連総会アルバニア決議が台湾を含む中国の代表権を解決したと主張し、台湾を「中国台湾省」と呼ぶとしたが、台湾の林佳竜外相は同決議が台湾に言及していないと反論。中国が法律戦で解釈を歪めていると非難。
  • 林外相は、中国が台湾問題を内政化し国際支持を阻む「ハイブリッド戦争」を仕掛けていると指摘。米国や欧州などが同様の見解を示す中、台湾が中国の一部と見なされれば国際介入が困難になると警告。
1971年10月25日、中華民国の劉鍇国連常駐代表(中央)や楊西崑外交部次長(劉氏の後方)らは、国連総会でアルバニア決議の表決が行われる前に議場を去った

 中国の王毅外相は、国連総会2758号決議(アルバニア決議)が「台湾を含む中国全体の国連での代表権問題を解決した」と主張し、台湾の国連での呼称は「中国台湾省」だと述べた。これに対し、台湾の林佳竜外相は、同決議が台湾に言及していないと反論し、中国が法律戦で決議を歪め、台湾問題を内政化して国際社会の支持を妨げようとしていると非難。

 米国や欧州などの民主主義国も決議が台湾に触れていないと指摘しており、中国がこれに危機感を抱き解釈をねじ曲げていると説明。台湾が中国の一部と見なされれば、台湾海峡が内海化され、中国の併合を国際社会が阻止できなくなる「ハイブリッド戦争」だと警告した。台湾外交部は王氏の発言を事実の歪曲とし、強く非難した。

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【私の論評】台湾vs中国:理念のぶつかり合いと現実の違い!林外相の正しさと核の影

まとめ
  • 林台湾外相の主張とその正しさ: 台湾の林佳竜外相は、アルバニア決議が台湾に触れず中国の代表権だけを扱ったと主張し、その文言と歴史的背景から正しい。中国が「一つの中国」を押し付けるのは歪曲だ。
  • 中国の解釈と現実: 王毅外相は決議が台湾を含む中国全体を解決したと言うが、原文に根拠はない。中国はナウルの事例のように決議を道具に使うが、かつては限界を認めていた。
  • 国際社会の支持: 米国、欧州議会、IPACが林台湾外相を支持し、中国の解釈に法的裏付けがないと示す。だが、中国の拒否権で台湾の国連参加は難しい。
  • 理念と現実のギャップ: 両外相の主張は理念に過ぎず、現実は力でしか変わらない。歴史上、理念で領土は動かず、戦争で動くのが現実だ。台湾は軍事力で抑止し、中国はそれを超える力が必要。
  • 台湾の戦略と核の可能性: 台湾への侵攻は難しいが、その価値は大きい。アメリカは潜水艦で優位だが分散が弱点。中国が押せば、台湾は核を持つしかなくなるかもしれない。トランプが他国の防衛増を主張する背景にはそれなりの根拠がある。
台湾の林佳竜外相
台湾の林佳竜外相が吠えた。国連総会決議2758号、通称アルバニア決議は、台湾のことなど一言も触れていない。ただ中国の代表権を決めただけだ、と。中国がこの決議を「一つの中国」なる旗印に結びつけ、台湾を締め上げるために歪めている、と息巻く。この言葉が正しいのか、決議の文言から歴史、国際社会の動きまで、じっくりみてみよう。
決議2758号の原文を見れば、「台湾」の文字は影も形もない。1971年10月25日、国連は中華人民共和国に席を譲り、蒋介石を追い出した。それだけだ。台湾の主権や領土など話題にすら上がっていない。林外相の「台湾には触れていない」は、紙に書かれた字面そのままの事実だ。国連の記録にも台湾の影はない。当時の議論は「中国の代表権」が全てで、サウジアラビアが台湾の自己決定を叫んだが、誰も相手にしなかった。決議は台湾の運命を決めるものではない。それが事実だ。
対する中国の王毅外相は胸を張る。「この決議は台湾を含む中国全体の問題を解決した。台湾は中国台湾省だ」と。だが、決議にそんな言葉はない。中国の言い分は原文を飛び越えた作り話だ。林外相が「法律戦でねじ曲げている」と怒るのも無理はない。面白いことに、1971年当時、中国自身がこの決議の限界を知っていた。キッシンジャーと周恩来が会ったとき、周は「決議が通っても台湾の地位は決まらない」と漏らしている。それが中国の本音だった。なのに今、2024年にナウルが決議を盾に台湾と縁を切り、中国にすり寄った。中国は決議を「一つの中国」の道具に仕立て上げているのだ。
世界はどう見ているか。米国は2024年5月、「決議は中国の台湾支配を認めていない」とズバリ言い切った。欧州議会も同年10月、中国の曲解と軍事的挑発をぶった斬る決議を出した。対中政策議員連盟(IPAC)は2024年7月、誤解を正す動きを見せた。林外相の叫びは民主主義国で響き合っている証拠だ。
林外相の言い分は法的に正しい。決議文と記録を見れば、台湾に触れていないのは明白だ。中国の解釈に法の裏付けはない。国際社会も味方につけ、「一つの中国」が皆の同意でないことを示している。だが、中国はカイロ宣言やポツダム宣言を振りかざし、「台湾は中国に戻った」と言い張る。法的力のない過去の紙切れにすがる姿は弱いが、歴史を無視していると突っ込まれる余地はある。そして、台湾が国連に入りたくても、中国の拒否権が壁だ。2007年、台湾の申請が跳ね返された事実がその現実を突きつける。
林佳竜外相の言葉は、決議の文と意図を真っ直ぐ見れば正しい。決議文、国際声明、ナウルの動きがそれを裏付ける。中国が決議を法律戦の武器にし、台湾を締め上げる姿は、WHOからの排除でもはっきりしている。だが、現実は甘くない。もっと国際的な後押しが要る。それでも、民主主義国の支持が広がる今、法的にも道義的にも林外相の正しさは揺るがない。
さて、ここで林外相と王毅外相の言葉をもう一度見直す。真っ向からぶつかり合っているようだが、実は同じようなところがある。どちらも理念を振りかざしているに過ぎない。国際関係では、理念など弱いものだ。いくら叫んでも現実は動かない。台湾側から見れば、中国がどんな理念を掲げようが、台湾は台湾が握っている。それが変わるには、中国が実力で奪うしかない。
中国側も同じだ。台湾を力で取らない限り、理念はただの空念仏だ。現実ではない。さらに、理念を叫んでも、奪われた土地が戻った例はない。取り戻すなら戦争しかない。ウクライナのロシアに奪われた土地が、ロシアが引かない限り戻らないように。逆に、理念で他国の土地を手に入れるなど夢物語に過ぎない。現実の支配を動かす力は理念にはない。
現実の力で見れば、台湾は強い。開戦前のウクライナ軍より近代的で、対艦対地ミサイル、長距離ミサイルを自前で持ち、空軍も海軍も一級品だ。ウクライナと違って、台湾政府の号令一つで中国の奥まで叩ける。ただし、核はない。この力は理念を超えた盾だ。中国が台湾を飲み込むには、この現実をぶち破らねばならない。
第二次世界大戦で、米軍は沖縄に侵攻したのに台湾には手を出さなかった事実がある。台湾への侵攻はこのブログでも過去に述べてきたように、現実には地理的な障壁があり、かなり難しいのだ。だが、見方を変えれば、台湾の価値は計り知れない。中国がここを握れば、地政学的にも軍事的も圧倒的に有利になる。現実の力関係は侮れない。
それに、現在のアメリカ海軍の戦闘艦艇数は中国の半分以下だ。トランプはこれを変えようとしたが、バイデンでは動かなかった。でも、単純に数だけ比べても意味はない。中国は小型艦艇を大量に抱え、アメリカは持たない。それに海戦の主役は潜水艦だ。水上艦はミサイルや魚雷の的でしかない。対潜戦の力が勝負を決める。中国の対潜戦能力はアメリカに遠く及ばない。アメリカは攻撃型原潜を50隻、中国は6~7隻だ。さらに、攻撃能力でも米国には及ばない。
オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真 人との対比でみるとその巨大さがわかる

だが、アメリカには弱点もある。太平洋と大西洋に戦力を割かねばならない。2023年10月、ハマスとイスラエルの衝突で、USSジェラルド・R・フォードが東地中海へ飛び、2024年初頭にUSSアイゼンハワーが紅海へ、2025年2月にはUSSトルーマンがフーシー派を睨んでジェッダ沖に現れた。中国が世界中で動けば、アメリカは全てに対応できない。中国が台湾を「ハイブリッド戦争」と武力で押し潰そうとするなら、台湾は核を持つしかなくなる。核がない今、中国の物量と核戦力に最後の切り札がないからだ。
結局、台湾問題は理念では動かない。現実の力が動かす。アメリカ以外の国が軍事力を強化し、中国が世界で暴れても対抗できるようにしないと、台湾は飲み込まれ、世界は中国の都合に塗り替えられるかもしれない。

だからトランプは各国に軍事費を増やせと叫ぶ。ウクライナはEUに任せろと言うのも同じだ。アメリカの現実を見れば、これは単なる「アメリカ第一主義」ではない。しかし、現状では中国が今すぐ台湾に侵攻するのは難しい。だから両者とも理念を振りかざす。理念が薄れ、力が静かに動き出す時が真の危機だ。
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