まとめ
- 中国の海軍力増強とトランプの危機感:中国の造船業が世界シェア7割を占め、2030年までに艦船460隻を目指す中、米海軍は260隻に減少し、東シナ海・南シナ海での中国の優位性にトランプが危機感を抱いている。
- トランプの造船業復活策:MAGA戦略に基づき、造船局新設や中国製船舶への高額入港料(1回100万ドル)を提案し、アメリカの製造業・国防基盤の強化を目指す。
- ウクライナ戦争と米国防力の衰退:西側がロシアを抑えきれず、バイデン政権下で国防予算が実質削減され、アメリカはウクライナ支援と中国抑止の両立能力を失いつつある。
- コルビーのリアリスト戦略:トランプ政権はエルブリッジ・コルビーを起用し、ウクライナ支援を欧州に委ね、中国の台湾侵略阻止を優先。日本には対中強化を求める。
- ロシアの疲弊と停戦可能性:ロシアは戦争で経済・軍事的に疲弊し、トランプは「マッドマン戦略」で停戦を誘導しつつ、国力を中国対応に集中させる狙い。
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トランプはマッドマンなのか? |
近年、中国の海軍力が急速に増強される中、トランプ前大統領はその軍事戦略において、独特の「マッドマン戦略」を展開している。この戦略は一見狂気を装うような大胆な動きに見えるが、その裏には中国との軍事バランスが崩れつつある現状への強い危機感がある。とりわけ、米中の製造業や造船業における力の差が、トランプの懸念の中心にある。
この危機感から、トランプはMAGA(Make America Great Again)戦略の一環として、アメリカの製造業復活を強く掲げ、特に国防を支える造船業の強化に注力している。例えば、ホワイトハウス内に造船局を新設する計画を発表し、民間と軍用の造船能力を再構築する方針を示した。さらに驚くべきことに、米通商代表部(USTR)は中国製の船舶がアメリカの港を利用する際に、1回あたり100万ドル(約1.5億円)の入港料を課す案を公表した。
一方、ウクライナ戦争の状況も、トランプの戦略に影響を与えている。西側諸国はロシアの軍事侵攻を阻止できず、核の脅しに怯えながらウクライナへの支援を中途半端に留めた結果、戦争を長引かせ、ウクライナを疲弊させるだけに終わった。さらにバイデン政権下では、アメリカの国防力が大幅に削減された。
トランプ政権の国防戦略を理論的に支えるのは、リアリストとして知られる戦略家エルブリッジ・コルビーだ。彼は、アメリカの現在の国防力では中国の台湾侵略を抑止するのも困難だと見ており、台湾にGDPの10%、日本に3%の国防費を求めるなど、現実的な危機意識を示している。コルビーは、ウクライナ支援に注力するよりも、中国への対抗を優先すべきだと主張し、「アメリカはすでにウクライナに1700億ドルと大量の武器を提供した。今後は欧州が負担すべきだ」と述べている。また、日本に対しては、ウクライナ支援に集中するのではなく、中国の長期的な脅威に備えるべきだと批判的な見解を示す。
朝香 豊(経済評論家)
これが米海軍の今だ。台湾有事を騒ぐ識者が多いが、私は数年はないと見ている。米海軍が圧倒的で、台湾は天然の要塞だ。ルトワックの語る軍事的なパラドックス「大国は小国に勝てない」も効いている。ルトワックは、台湾有事には米国は強力な攻撃型原潜を2、3隻派遣すれば対処できると断言している。が、5年後はどうだ。米国の最も代表的といえるイージス艦、アーレイ・バーク級は起工から進水まで2~3年、進水から就役まで1~2年、合計3~5年だ。これも米国の潜水艦として最も代表的といえる攻撃型原潜のバージニア級は起工から進水まで3~4年、進水から就役まで2~3年、合計5~7年だ。今すぐ作り始めても、就役は5年後だ。造船所や予算でブレるが、これが現実だ。アーレイ・バーク級はバス鉄工所やインガルス造船所で効率よく進む。だが、バージニア級は原子炉のせいで時間がかかる。ジェネラル・ダイナミクス社でも5年未満は無理だ。無論バイデン時代の計画も続行されているが、十分ではない。
日米メディアはトランプは「女性軽視だ」と騒ぐが、トランプはサラ・サンダースやニッキー・ヘイリーを初代政権で使い、2025年政権でも複数の女性を閣僚に据えている。日本は大東亜戦争、日米安保、ベトナム戦争で米国を見誤ってきた。今、またトランプを見誤っている。ウクライナやロシアに気を取られる連中は、米国の現実とトランプの焦りを見ていない。
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中国は現在、世界の造船業のシェアの約7割を握り、その圧倒的な生産能力を背景に、中国海軍の艦船数を2030年までに460隻にまで増強する計画が予測されている。一方、アメリカ海軍は現状のままでは艦船数が260隻にまで減少する見込みであり、しかも米軍の艦船が世界各地に分散しているのに対し、中国は東シナ海や南シナ海にほぼ集中的に展開している。この限られた地域での優位性が中国に傾きつつあり、その傾向は今後もさらに強まると考えられる。老朽化した米軍艦船が退役する一方で、中国の艦船が充実していくのは想像に難くない現実だ。
この危機感から、トランプはMAGA(Make America Great Again)戦略の一環として、アメリカの製造業復活を強く掲げ、特に国防を支える造船業の強化に注力している。例えば、ホワイトハウス内に造船局を新設する計画を発表し、民間と軍用の造船能力を再構築する方針を示した。さらに驚くべきことに、米通商代表部(USTR)は中国製の船舶がアメリカの港を利用する際に、1回あたり100万ドル(約1.5億円)の入港料を課す案を公表した。
ここで注目すべきは、対象が「中国籍の船」ではなく「中国製の船」である点だ。これは極めて異例かつ大胆な政策で、船舶が長期間使用される性質を考えると、中国製船舶の所有者にとって事実上の入港禁止とも言える打撃となる。中国製船舶は世界中に所有者が存在するため、この政策は国際的な反発を招く可能性が高い。それでもトランプ政権は、中国に造船業が集中する現状を打破する必要性を真剣に捉えているのだ。
一方、ウクライナ戦争の状況も、トランプの戦略に影響を与えている。西側諸国はロシアの軍事侵攻を阻止できず、核の脅しに怯えながらウクライナへの支援を中途半端に留めた結果、戦争を長引かせ、ウクライナを疲弊させるだけに終わった。さらにバイデン政権下では、アメリカの国防力が大幅に削減された。
ウォール・ストリート・ジャーナルの2024年3月13日の社説によれば、バイデン大統領が2025会計年度に提案した国防予算8500億ドルは、前年度比わずか1%増に過ぎず、インフレ調整後では実質マイナスとなる。これが4年連続で続き、軍事予算の縮小と武器在庫の枯渇が進んだ。この結果、アメリカはウクライナ支援を続ける一方で、中国の台湾侵略を抑止する力を失いつつある。
トランプ政権の国防戦略を理論的に支えるのは、リアリストとして知られる戦略家エルブリッジ・コルビーだ。彼は、アメリカの現在の国防力では中国の台湾侵略を抑止するのも困難だと見ており、台湾にGDPの10%、日本に3%の国防費を求めるなど、現実的な危機意識を示している。コルビーは、ウクライナ支援に注力するよりも、中国への対抗を優先すべきだと主張し、「アメリカはすでにウクライナに1700億ドルと大量の武器を提供した。今後は欧州が負担すべきだ」と述べている。また、日本に対しては、ウクライナ支援に集中するのではなく、中国の長期的な脅威に備えるべきだと批判的な見解を示す。
ロシア側もウクライナ戦争で疲弊しており、装甲車両の損失や経済的な歪みから、停戦に応じる可能性がある。トランプはこれを見越し、停戦を最優先事項に掲げ、ロシアを交渉のテーブルに引き込むための「ロシア寄り」の発言を戦略的に用いたとされる。しかし、ウクライナが求める主権と独立を守る条件と、ロシアの要求が一致する保証はない。
それでもトランプの最終目標は、アメリカの国力を中国対応に集中させることであり、そのためには欧州がウクライナ支援の負担を引き受ける意識変革が必要だ。こうした状況下で、トランプのマッドマン戦略は、欧州を揺さぶりつつ現実的な力の再配分を目指すものだ。
【私の論評】トランプの危機感と日本の誤読:5年後の台湾有事を米海軍の現実から考える
上の浅香氏の見解に近い話を、このブログで既にぶち上げている。そのリンクを以下に掲載する。
詳しい話はこの記事を読んでいただくものとして、結論部分だけをここに掲載する。
現在のアメリカ海軍の戦闘艦艇数は中国の半分以下だ。トランプはこれを変えようとしたが、バイデンでは動かなかった。でも、単純に数だけ比べても意味はない。中国は小型艦艇を大量に抱え、アメリカは持たない。それに海戦の主役は潜水艦だ。水上艦はミサイルや魚雷の的でしかない。対潜戦の力が勝負を決める。中国の対潜戦能力はアメリカに遠く及ばない。アメリカは攻撃型原潜を50隻、中国は6~7隻だ。さらに、攻撃能力でも米国には及ばない。
だが、アメリカには弱点もある。太平洋と大西洋に戦力を割かねばならない。2023年10月、ハマスとイスラエルの衝突で、USSジェラルド・R・フォードが東地中海へ飛び、2024年初頭にUSSアイゼンハワーが紅海へ、2025年2月にはUSSトルーマンがフーシー派を睨んでジェッダ沖に現れた。中国が世界中で動けば、アメリカは全てに対応できない。中国が台湾を「ハイブリッド戦争」と武力で押し潰そうとするなら、台湾は核を持つしかなくなる。核がない今、中国の物量と核戦力に最後の切り札がないからだ。
結局、台湾問題は理念では動かない。現実の力が動かす。アメリカ以外の国が軍事力を強化し、中国が世界で暴れても対抗できるようにしないと、台湾は飲み込まれ、世界は中国の都合に塗り替えられるかもしれない。
だからトランプは各国に軍事費を増やせと叫ぶ。ウクライナはEUに任せろと言うのも同理屈だ。アメリカの現実を見れば、これは単なる「アメリカ第一主義」ではない。しかし、現状では中国が今すぐ台湾に侵攻するのは難しい。だから両者とも理念を振りかざす。理念が薄れ、力が静かに動き出す時が真の危機だ。
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フィリピン東方海域での日米仏共同訓練「パシフィック・ステラー」 |
米海軍は今でも二正面作戦はキツい。5年後、中露北イランがどこかで大暴れし、中国がアジアで大規模に動いたら、おそらく米国海軍の強さ自体は継続されているだろうが、それでもこれにすべて対応するのは困難で、アメリカの圧倒的優位は怪しい。おそらく、どこかで手を抜いたり、無視せざるを得ない場合もでてくる。
日本ではトランプ叩きがうるさいが、2024年11月の選挙で米国民がトランプを選んだ事実を無視している。激戦州を制した勝利を「予想外」と片付ける。要するに支持者を舐めているのだ。
朝日新聞やNHKは「過激」と連呼し、イメージで殴りつける。アメリカのメディアは民主党寄りだ。CNNやニューヨーク・タイムズはトランプの関税を「保護主義」と叩く。2024年の世論調査は保守派の声が埋もれる構造だ。それでも日本は丸呑み。トランプ支持者の声は届かない。読売とギャラップの2024年11月調査で、日本人の63%が「不安」と言った。だが、アメリカでは55%が「期待」だ。このズレを誰も突かない。テレビでは外国人タレントがトランプを叩く。TBSで米国人コメンテーターが「時代遅れ」と吐いたが、根拠はゼロだ。
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トランプ批判で、批判されたバックン(右の人物) |
日本メディアや識者はトランプの主要なブレインともいわれるアメリカ第一主義研究所(AFPI)を無視だ。取材もしない。2025年1月、AFPIは「貿易不均衡是正と産業保護」を掲げたが、日本では、「暴走」としか報じない。トランプ政策の誤読は、文脈を捨て、反トランプ派の声を大きくくし、CNNやワシントン・ポストにすがるからだ。日本では、特に2025年2月のワシントン・ポスト記事がそのまま引用されている。
日本では、トランプの関税を無根拠に叩くが、日本の米(コメ)の関税は778%だ。アメリカの25%案など可愛いものだ。AFPIは対中不正、歳入、外交の狙いを明示している。2025年2月の首脳会談でトランプは「日米同盟は揺るぎない」とぶち上げた。なのに朝日は「圧力」と歪める。世界各地で大規模紛争が同時的に起こって、それに対処するためには各国は戦争経済に移行しなけれならなくなるかもしれない、そうなれば、米国の関税がどうのこうのという次元ではなくなる。各国は、それを想定しているのか。
日米メディアはトランプは「女性軽視だ」と騒ぐが、トランプはサラ・サンダースやニッキー・ヘイリーを初代政権で使い、2025年政権でも複数の女性を閣僚に据えている。日本は大東亜戦争、日米安保、ベトナム戦争で米国を見誤ってきた。今、またトランプを見誤っている。ウクライナやロシアに気を取られる連中は、米国の現実とトランプの焦りを見ていない。
浅香氏は「マッドマン戦略」と言うが、私は本音で動いていると見る。5年後の危機に備え、各国が軍事力を強化しないと、台湾も世界も中国に蹂躙される危険はリアルだ。トランプへの見方を正し、国際情勢をしっかり掴む。それが日本の急務だ。
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