2021年2月28日日曜日

バイデン政権、中国融和の兆し―【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

 バイデン政権、中国融和の兆し




【まとめ】

バイデン政権が「中国ウイルス」「武漢ウイルス」の呼称禁止。
・米大学が「孔子学院」との接触を報告する義務づけも撤回。
・バイデン大統領の実際の行動はすでに習近平政権への融和路線。

アメリカのバイデン政権が中国への融和を示すような動きをあいついでとった。

アメリカ新政権の中国への姿勢や態度は日本でもきわめて関心度が高い。その新政権は登場から5週間ほど、新任の高官たちは議会の公聴会などでみな中国をアメリカの競合相手と呼び、中国側の軍事拡張や不公正な経済慣行、さらには人権弾圧への批判的な言辞を述べる。

その発言を集めると、バイデン政権も中国にはなかなか強硬な態度をとるかのようにもみえる。日本の識者たちももっぱらバイデン政権の対中政策は強硬になるとの見方が多いようだ。だがその判断の根拠となるのはみな言葉だけのようである。

ところがバイデン政権が実際の公式の行動として中国発の新型コロナウイルスを「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」と呼ぶことを公式に禁止した事実は日本では意外と知られていないようだ。 

それだけではない。
 
バイデン政権は同時にアメリカの各大学が中国共産党の対外宣伝教育機関の「孔子学院」との接触を米側公的機関に報告することを義務づけたトランプ前政権の行政命令をも撤回した。

両方とも中国への融和や忖度を思わせる措置である。単なる言葉ではなく、実際の行政措置という行動なのである。

「バイデン政権はトランプ前政権と同様の対中強硬策をとる」と断言する向きは直視すべき現実だろう。

この二つの措置はいずれもトランプ政権の政策の逆転だった。しかもその逆転に対してアメリカ国内ではすでに激しい反対論も生まれてきたのである。

バイデン大統領は2021年1月26日、新型コロナウイルスのアメリカ国内での大感染の結果、アジア系米人への差別や憎悪が生まれているとして、その種の差別を取り締まる大統領令を出した。

その行政令に付随した覚書でバイデン大統領は「このウイルスの起源の地理的な場所への政治指導者の言及がこの種の外国人嫌悪を生んだのだ」と述べ、連邦政府としては「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」という呼称を使うことを禁ずることを宣言した。政府関連の文書でのその種の用語の禁止だった。

同覚書の「政治指導者」とは明らかにトランプ前大統領やその閣僚らを指していた。トランプ氏は2020年春から率先して「中国ウイルス」という呼称を使っていたからだ。

トランプ政権の方針を逆転させたこの措置には保守系の政治学者ベン・ワインガルテン氏が大手雑誌ニュースウィーク最新号への寄稿で「国際的な感染症を発生地名で呼ぶことはごく普通であり、その禁止は隠蔽の責任を隠す中国政府を喜ばし、米国の国家安全保障への脅威となる」と激しく反対した。

さらに注目されるのはアメリカ国内での孔子学院に関するバイデン政権の動きである。バイデン政権が孔子学院に関するトランプ前政権の規制の行政令を撤回したのだった。

その措置も「中国ウイルス」という用語の禁止令が出たのと同じ1月26日だった。

トランプ政権は孔子学院がアメリカの多数の大学で講座を開くのは中国共産党の独裁思想の拡散やスパイ活動のためだとして刑事事件捜査の対象としてきた。

トランプ政権はその政策の一環としてアメリカ国内の各大学に対して、もし孔子学院との接触や契約があれば政府当局に報告することを行政命令で義務づけてきた。



孔子学院が中国共産党の直轄機関として対外的に中国政府の共産主義独裁の思想や人権抑圧の統治の正当化の理論を広げる政治プロパガンダの拡散だけでなく、アメリカ側へのスパイ活動、ロビー工作、アメリカ国内の中国人留学生の監視など違法活動にもかかわっている、というのがトランプ政権の認識だった。だからその活動を最大限に規制するという方針を打ち出していたのだがバイデン政権はそのトランプ政権の行政命令をなくす措置をとったのだった。

この措置もコロナウイルスの呼称の措置も同政権は当初はあえて公表しなかっためアメリカ国内一般に情報が広がるのが遅れていた。

その結果、2月中旬になってまず議会の共和党側ではバイデン政権の孔子学院に関する措置への強い反対が表明された。

  マルコ・ルビオ上院議員やマイケル・マコール下院議員が以下の趣旨の声明を出したのだ。

 「孔子学院のアメリカ国内での活動はアメリカの高等教育機関や学生への危険な洗脳、影響力行使の工作だと証明されているのにバイデン政権の規制撤回の措置はそんな工作の黙認につながる

マルコ・ルビオ上院議員

 ルビオ議員はとくに「バイデン大統領は言葉では中国を『戦略的競争相手』などと批判するが、実際の行動ではすでに習近平政権への融和の道を歩み始めた」と厳しく論評した。

 こうした展開はバイデン政権の中国に関する言葉ではなく実際の行動として注視すべきだろう。

 バイデン政権の対中態度はちょうど日本の古い表現の「衣の下から鎧がみえる」の反対だともいえそうだ。「鎧の下から衣がみえる」という感じなのだ。 

表面だけは共和党の抗議や一般国民からの反発を懸念して中国に対しては強硬な批判や糾弾の言葉を述べる。だがその強固にみえる鎧の下からはソフトな衣がちらつく。そして本音はどうも鎧よりも衣、中国への融和や協調のようなのである。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

昨年の、大統領選を振り返ってみると、政策の争点は突き詰めれば、新型コロナウイルス対策と経済回復のどちらを重視するかというものでした。コロナに感染し入院してもすぐに退院して、大規模集会で経済回復を訴えたトランプ氏と、マスク着用を呼び掛けて遊説でも「密」を徹底的に避けたバイデン氏の水と油のような違いをそのまま反映しまし。

米メディアが発表した投票所での出口調査によると、経済よりもコロナ対策を重視すると答えたのは51%、経済重視は42%であり、24万人が死亡したコロナの方が当然ながら米国民の喫緊の課題でした。

そのコロナ対策ではバイデン氏の方が良いと判断したのは53%であり、トランプ氏の43%に差を付けました。こうした数字から明らかになるのは、新型コロナウイルスの感染症が米国を襲ったことで票がバイデン氏に集まり当選したという事情が浮かびます。このため、コロナがなければ、米国の地合いは「トランプ再選」だったのだろう、との思いが生じます。

驚くべきことは、トランプ氏が、7300万超という共和党候補としては過去最高の票を獲得したことです。これは前回2016年の大統領選より約1千万票多いです。リベラル・メディアでは、コロナ対策の失敗だけではなく国際協調を無視した外交・通商や人種・民族を差別するような言動、自らを批判する報道機関を「フェイクニュース」と決めつける手法として、取り上げられ、徹底的に糾弾されたトランプ氏ですが、それを膨大な数の米国民が拒否していないのです。

昨年CPACで演説したトランプ氏、今年も予定されている

バイデン氏は約8000万票という大統領選史上最高の票を得たされていますが、トランプ氏との票差は総投票数と比べて僅差です。現職だから本来は勝って当然だと言えばそうなのですが、トランプ氏が集めた票は、膨大な数のトランプ支持者の存在を証明しています。

今回トランプ氏は郊外票や高齢者票をコロナ対策の失政を理由に失い、バイデン氏に敗れたのかもしれません。しかし、米メディアによると、トランプ氏は前回2016年に比べて、白人女性で2%、黒人男性、黒人女性で4%、中南米系で3%票を上積みしたと報告されています。白人男性票を5%減らしたことでそうした上積みは帳消しとなったようです。それにしても、女性、黒人、中南米系で票を本当に増やしたとすれば、「女性蔑視、人種・民族差別主義者」というトランプ氏のイメージは崩れます。

トランプ氏へのこうした評価は経済政策の実績が背景にあります。実際コロナが始まる前の米国は、オバマ政権時代の景気刺激策とトランプ政権の大型減税策で成長率は先進国の中でトップでした。日本や欧州が1%前後で推移していたのに対して、米国は2%を超え18年には3%の成長を記録した。これは国際通貨基金(IMF)が発表した米国経済の成長見通しを上回りました。

失業率も50年ぶりの低い水準で、富裕層のみならず中間層の所得も着実に増えていました。昨年1月にコロナ禍が始まる前まで、大方の予想はトランプ氏の再選であり、その理由は好調な経済だったことが思い起こされます。

米国の選挙では大きなインパクトを持たないものの、外交での成果もありました。中国への強硬姿勢や北米自由貿易協定(NAFTA)の改定、そしてイスラエルとアラブ諸国の正常化合意などは、トランプ嫌いの民主党も評価していました。

今回の大統領選では、誰に投票するかを投票日の前1カ月以内に決めた人は13%で、1週間前以内は5%だ。そして1カ月前以内に決めた51%、1週間前以内の54%がトランプ氏に投票したという。これはコロナにもかかわらずトランプ氏が展開した遊説の勢い、さらにトランプ陣営の戸別訪問の威力を示したものといえます。

仮定の話になりますが、この猛烈なトランプ氏の追い上げを考えると、あと1週間、あるいは3日間の時間があれば、トランプ氏は再選をもぎ取っていた可能性があると思います。

そしてメディアがあれだけ非難したトランプ氏の人格も大きな影響を与えていないようです。出口調査では大統領に求めるのは「強い指導力」が33%、「良い判断力」24%に続いて「国民統合」は19%です。人格よりも強さが大統領の資質と判断しているようです。

こうした事実から読み取るべきは、バイデン氏は支持基盤が限定された弱い大統領になるという見通しです。だからこそ、トランプ氏は敗北を認めずに抵抗を徹底し、今後の共和党を率いるリーダーとして影響力を行使し続けるつもりでしょう。

バイデン氏の弱さを象徴するのが、有権者は何を目的に投票したのかという調査です。投票者の中で相手候補を倒すために投票したという人は24%いるのですが、そのうちバイデン氏への投票者が68%を占めています。

つまり、バイデン氏への投票のうちのかなりが「トランプ憎し」の票であってバイデン氏本人を支持したものではないということです。この傾向はペンシルべニアなど激戦州はさらに強いようです。

ということは、バイデン氏へ票を投じた人々の間で、トランプ氏という「敵」がホワイトハウスから退場するとともに、バイデン氏に対し、急速に関心をなくし、その支持もしぼんでしまう可能性があります。「悪役」の後に登場した大統領としては、ニクソン大統領の後のフォード氏やカーター氏を思い起こすのですが、彼らも役割を終えた段階で、ホワイトハウスから1期だけで消えていきました。

もう一つバイデン氏の悩みの種は民主党内の足並みの乱れでい。オカシオコルテス下院議員を中心とした左派グループです。

左派グループは今回の大統領選で顕著となった若者の民主党への投票を自らの功績として「政策や人事で左派の主張を取り入れなければ、次回選挙で若者は背を向ける」と警告しています。

こうした難局の中で誕生したバイデン大統領は、大統領権限でかなりの行動の自由がある外交に活路を見いだすのかもしれません。バイデン氏は長く上院外交委員長を務め外交を得意とし、優秀な専門家が側近として多数ついています。同盟を重視し、中国との対決は「管理された競争」に移行し、経済制裁・金融制裁も含めて経済安全保障政策を軍事圧力や外交とコーディネートして履行すると期待されています。トランプ時代の予測不能外交との決別は国際社会が望むものではあります。

ところが、内政という足場が弱ければ、外交力も衰えます。中国、ロシア、イランなどの地政学パワーが基盤の弱いバイデン政権を揺さぶってくるでしょう。弱い大統領の誕生とは、国際社会の混乱の深まりに直結してしまうものです。

最後に今回も的確性で話題となった世論調査による事前予測について考えてみます。

確かに事前の世論調査が示したバイデン氏がトランプ氏に対して全米で10ポイント、激戦州で5~7ポイントもリードしているという予測は、選挙結果と異なりました。ただ、これらの数字は調査時点での有権者の判断を示したもので、終盤の猛烈なトランプ氏の追い上げは当然反映していません。

こうした世論調査の数字を基にさらに精緻に各州の動向を分析した政治専門サイトなどは、10月下旬の段階でバイデン氏とトランプ氏の獲得州をほぼ完全に当てました。激戦州の動向もこれらのサイトの予想通りとなりました。こうしたことから、2016年のような当落が予想と反対の結果が出るという屈辱的な失敗は回避できたようです。

しかし、世論調査が白人ブルーカラーや中南米系の意向をとらえきれていないという問題は依然残ったままです。世論調査で正直に思いを答えないという心理の背景には、メディアや世論調査機関などいわゆるエリート体制に対する怒りというものが存在するのからかもしれません。これはトランプ支持者の全容が隠れたままである現状をあらためて見せつけました。

トランプ氏が2024年の大統領選に再出馬するかどうかは分からないです。しかし、7300万票という過去の共和党政治家が得たことがない支持者を握り、トランプ氏は得意のメディアを駆使する戦術で米政治・社会で影響力を持ち続けるでしょう。ホワイトハウスという桎梏から逃れて、より奔放にまた効果的にバイデン氏や民主党を攻撃するはずです。

大統領選挙直前に、保守系のタブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」ジョー・バイデンの家族に関するスキャンダル記事を掲載しました。




ポスト紙は独自に入手したEメールやテキストを引用し、バイデンの長男のハンター・バイデンが、父親の影響力を利用し、ウクライナと中国で事業を行っていたと指摘した。同紙はさらに、バイデン候補がそこから利益を得たと主張しました。

これに関する真偽は、現在もはっきりとはしていませんが、以前から各方面で噂されていたのは事実です。これが解明され、明らかにこれが事実ということになれば、バイデン政権が大きく揺らぐのは間違いありません。

また、不正選挙疑惑もありました。これに関しては、州レベルの訴訟では、トランプ陣営が勝訴しているものも多数あります。米国連邦最高裁では受理して審議中の大統領選挙不正の訴訟が20件以上あります。これは、日本では全く報道されていません。

バイデン大統領は、「トランプ」という巨大な敵に阻まれ「短命」に終わるでしょう。それどころか、年内に終わる可能性すらあると思います。

不正選挙の裁判に関しては、州レベルのものでは、トランプ陣営が勝利しているものも多数あります。さらに、米国連邦最高裁では受理して審議中の大統領選挙不正の訴訟が20件以上あります。これらについては、日本では全く報道されていません。

ただし、いずれの裁判で、不正疑惑が認定されたとしても、それでバイデン政権が終焉することはありません。なぜなら、1月6日に議会で正式な手続きを経て大統領になったバイデンを司法がやめさせることはできません。米国の三権分立においては、司法は議会の決定したことを覆すことはできません。

ただし、バイデンを弾劾裁判にかけるということは、共和党の発議でできます。そうして、その発議の有力な根拠にはなりえます。これに加えて、共和党側の独自の調査で、弾劾に値する何らかの証拠をあげることができて、民主党側に多数の造反者がでれば、バイデンの弾劾は成り立つ可能性はあります。

そうして、これはあながちあり得ないことではありません。なぜなら、民主党はペロシ下院議員の提案により、最初から無理筋のトランプ弾劾裁判を実行したからです。

すでに、退任した大統領を弾劾裁判にかけるという、前代未聞の出来事は、着せずして、弾劾裁判のハードルを下げたといえます。共和党としては、バイデンの弾劾裁判がやりやすくなったともいえます。

ただし、バイデンが大統領を辞任すれば、左翼のカマラ・ハリスが大統領になります。そうなると、共和党側もかえってやっかいなことになります。共和党としては、バイデンと、カマラ・ハリスの両方を同時に辞任に追い込むことが課題となるでしょう。

今後の状況を見極めて、共和党側はこれも視野にいれているでしょう。特に、次回の中間選挙で共和党が多数派に返り咲けば、実行する可能性は十分あると思います。条件が整えば、それ以前にも弾劾手続きに入る可能性は十分あると思います。

弾劾されるかどうかは、別にしても、米国共和党そうして、日本をはじめとする同盟国は、様々な方法を駆使して、バイデン政権が中国に対して宥和的な政策をとらないように、牽制していくべきです。

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2021年2月27日土曜日

米英と中国の間で加熱するメディア戦争―【私の論評】先進国が中国とのメディア戦争に勝利するには、北京冬季オリンピックに不参加を早めに明確に意思表示すること(゚д゚)!

 米英と中国の間で加熱するメディア戦争

岡崎研究所

 2月4日、英国の放送規制当局であるオフコム(Ofcom:Office of Communications情報通信庁)は、中国の海外向けテレビ放送(CGTN:China Global Television Network)の英国国内での放送免許を取り消した。


 もともと中国は、極めて活発に対外宣伝活動を展開しており、CNNやアルジャジーラを真似して、テレビでの発信も強化していた。中国国営テレビ(CCTV)の英語ニュースは2000年から活動を開始し、英国でも18年間放送していた。中国は2016年12月、海外向け放送事業を整理統合してCGTNという名称にし、海外24時間テレビ放送を更に拡充させた。

 CGTNは、北京の本部以外に、海外拠点をロンドン(欧州統括)、米国ワシントン、ケニア・ナイロビ(アフリカ統括)に設置し、更に全世界に70以上の支局を有する。英語以外に、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語放送もしており、現在100カ国以上で8500万人の視聴者がいる。インターネットでも見ることができる。そして近年、習近平政権の下で共産党の指導が強められていた。

 英国の放送規制当局オフコムは、テレビに公正性、正確性、プライバシー保護などを厳しく求めてきた。英国国内で、中国、イラン、ロシアのテレビが放送免許を得ていたが、様々な処分を受けてきた。2012年には、イランのテレビ局「プレスTV」が英国国内の放送免許を取り消され、2019年には、ロシアのテレビ局「RT(ロシア・トゥデイ)」が、公平性に違反したとして、数十万ポンドの罰金を課された。

 昨年5月、オフコムは、香港の民主化運動についてのCGTNの放送が、中国共産党以外の見解を伝えなかったため、公平性ルールに違反したと指摘した。また昨年7月には、CGTNが、その番組の素材取得に関連してルールに違反したと指摘した。英国の元ジャーナリスト等が中国で逮捕され、強制自白させられ、それがCGTNで放映されたことも問題視されていた。

 今回のオフコムによるCGTNの放送免許取消し決定は、中国にとり大きな痛手だ。人権擁護NGOが、CGTNの放送倫理違反と党派的性格を英放送規制当局に訴えていたことが功を奏した。

 このオフコムの決定に対し、2月5日、北京のCGTN(CCTV)本部に加え、中国外交部王文斌報道官も強く反発した。CGTN本部は、オフコムの決定に遺憾と反対を表明し、CGTN放送は、「客観性、理性、バランスの原則に基づき全世界でニュース報道を展開」との声明文を出した。外交部の王報道官は、「CGTNが中国共産党の支配を受けているというオフコムの指摘は正しいのではないか」との記者の質問に対して、「中国は共産党が指導する社会主義国家である、中国のメディアの属性は、英国側にとっても一貫して明確だ」、「英国側が今になって中国メディアの属性について語り、CGTNの英国での活動を妨害するのは、完全に政治的策動だ」と答えた。王報道官は事実を述べたのだが、これではCGTNの放送内容の「公正性」等を西側の人々に説得することはできない。

 約1年前、中国の活発な対外宣伝活動は、米国でも警戒され、国務省は規制を強化した。昨年3月2日、ポンペオ国務長官(当時)は、中国の公的な5つのメディア機関―ー新華社、CGTN、中国国際ラジオ、『チャイナ・デイリー』(英字新聞)、『人民日報』―ーを「外国ミッション」(大使館、総領事館と同様、スパイ活動も行う機関)と指定し、米国駐在人数を計100人に限定すると発表した。もともと彼らは中国の公用旅券をもって海外赴任していると言われるほど、中国共産党の保護を受けているらしい。

 NGO「セーフガード・ディフェンダーズ」の働きかけが、今回のオフコムの決定に大きな影響を与えているといわれているが、当NGOは、米国、カナダの放送規制当局にもCGTNの問題を同様に訴え、調査結果を待っており、今後の展開が注目される。

 欧米諸国や日本では、中国の宣伝活動はある程度警戒され、CGTNの成果にも一定の限界があるだろうが、途上国ではかなり成果を挙げているとの見方もある。各国が連携して、中国の宣伝活動を観察・分析し、然るべく対応していく必要があるだろう。

 中国国内(一般の家庭や事業所)では、中国当局が許可しないため、米CNN、英BBC、仏TV5、日本のNHKなどの視聴はできない。外国人向け高級ホテル、外国人駐在員向け高級アパートでは視聴できるが、あくまでも例外である。中国国内で外国のテレビに認めない権利を、中国のテレビは外国で享受し、それを失うと声高に文句を言い、対抗措置をほのめかす。実際、今回、中国当局は、2月12日、英BBCの国際放送「ワールドニュース」の中国国内での放映を許可しないことを発表した。実質的に、対抗措置とみて良いだろう。

【私の論評】先進国が中国とのメディア戦争に勝利するには、北京冬季オリンピックに不参加を早めに明確に意思表示すること(゚д゚)!

上の記事では、中国では外国人向け高級ホテル、外国人駐在員向け高級アパートでは海外放送の視聴できるが、あくまでも例外であるとしていますが、これでさえ当局に規制を受けています。

2019年12月に中国の武漢で原因不明の肺炎が広がっているとSNSでいち早く警鐘を鳴らしていた武漢の医師・李文亮さんが去くなってから2月7日で1年を迎えました。中国のSNSでは哀悼と称賛の声が広がっていましたが、中国国内では李さんの功績を伝える報道はほとんど見られませんでした。

故・李文亮医師と妊娠5ヵ月の妻・付雪潔、5歳の息子

李さんは、世界でいちばん最初に気が付いた人でした。そのタイミングでは新型コロナではなくて、SARSっていう、前に流行ったものがもう1回流行ったのではという疑いを持たれていて、その後亡くなられました。

サイト上の李さんについて書かれた内容は削除されていませんでしたが、1年経過した現在では、中国国内では李さんの功績を伝えるテレビ・新聞報道は全くみられません。たとえば、中国では、先程述べたように、外国人向け高級ホテル、外国人駐在員向け高級アパートでは海外放送の視聴でき、NHKの国際放送も視聴することができます。そのため、中国の在留邦人や観光・ビジネスで訪れた日本人は、これを視聴することが多いです。

そのNHKの国際放送のなかで、この李さんに関してのニュースを伝えたところ、中国国内ではその部分だけ突然画面が消えて、何も見えず、画面が真っ黒になったということが、視聴した複数の日本人から伝えられているのです。これは、当然のことながら、中国内の国内メディアでは全く報じられていないことを示しているといえます。

中国内ホテルでNHK国際放送が見れなくなり画面が真っ黒になったテレビ

なぜそのようなことができるかといえば、中国内の独特のシステムによるとされています。中国内の海外の放送は、世界の各国がリアルタイムでそのまま家庭に届けているのですが、中国では検閲官がその海外番組を見ていて、例えば日本からNHK国際放送を送信する際に意図的に10秒とか15秒とか中国内での放送を遅らせていて、これを放送用語では「ディレイ」といいます。

そのため検閲官が中国内で放送される、10秒から15秒くらい先に見て、これはまずいと思ったらスイッチを押すと、そこから先は見られなくなるのです。中国ではそういうシステムができているのです。

中国では、このようなことを平然とするのですから、中国の海外向けテレビに公正性、正確性、プライバシー保護など求めるのは最初から間違いなのかもしれません。私は、中国の報道はすべて、そのように見なしています。

中国の報道は、最初からフェイクもしくは、何らかの意図があるものと捉えており、ほとんど信用していません。

このブログでも以前掲載したように、米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が昨年10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、歴代最悪を記録しました。

同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本(86%)、スウェーデン(85%)、豪州(81%)、デンマーク・韓国(75%)、英国(74%)、米国・カナダ・オランダ(73%)、ドイツ・ベルギー(71%)、フランス(70%)、スペイン(63%)、イタリア(62%)となっています。また、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、韓国、豪州、カナダの9か国の反中感情は、同機関が調査を始めてからの15年間で、過去最悪となっています。

この調査は、先進国対象であり、先進国では中国への風当たりは厳しいものがあるようです。心配なのはやはり発展途上国です。発展途上国においては、先進国の海外向け放送で、中国の悪辣さの報道を強化すべきです。無論、わざわざ悪辣さを強調する必要はないのてすが、中国が実際に海外で行っている行動をそのまま報道すれば良いのです。

一番周知できるのは、やはり冬季オリンピック不参加でしょう。もう、EUや米国は参加しないようです。冬季オリンピックでは、EUと米国を除くと、ほとんど参加国がないという状況になります。

そうなると、いくら中国が冬季オリンピックを開催しようにも、事実上開催不能ということになります。

日本としては、間近に東京五輪が迫っているので、あまり中国を荒立てなくないという気遣いからでしょうか、未だに北京オリンピック不参加を表明していません。

しかし、米国にもジェノサイド認定され、ウイグル人を弾圧は明確な事実と世界から非難されている中国でのオリンピックには日本は参加できません。参加すれば、米英をはじめとする世界中の国々に誤ったメッセージを与えてしまいます。そのようなことを避けるためにも、もうそろそろ、日本も不参加を表明すべきです。というより、いずれ表明せざるを得なくなるでしょう。であれば、遅延することなく早めにそうすべきです。

22日、オタワにある議会外で、ウイグル族などイスラム教徒への中国の行動を非難する人々

そうして、先進国等は北京五輪の代替大会として、2022年に世界の各地で分散してでも、大会を開催すれば良いと思います。個人的には、その中に、日本の札幌等も含まれていると良いと思います。

いずれにしても、北米、英国、EUや日本などの先進国が、北京冬季五輪に参加しないということなれば、世界中のいかなる国でも、その理由や背景が報道されることになります。

そうなれば、中国は報復のため、東京オリンピックに不参加ということになるかもしれませんが、不参加国は中国、北朝鮮等と、限定されたものになるでしょう。

であれば、たとえ限定的でも開催して、コロナ後最初の開催国として、国際世界で存在感を枡にすることこそ、日本の国益に資するものと考えます。

多くの国が早い時期に、北京五輪不参加を決めれば、これに勝る中国に対するネガティブキャンペーンはありません。

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2021年2月26日金曜日

各国で激化する宇宙開発競争、軍事予算と表裏一体の側面も 日本は豪印との協力が現実的 韓国も候補だが… ―【私の論評】日本では、宇宙開発を「研究開発」主体から、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが必要不可欠(゚д゚)!

 各国で激化する宇宙開発競争、軍事予算と表裏一体の側面も 日本は豪印との協力が現実的 韓国も候補だが… 

高橋洋一 日本の解き方

母船からつり下げられ火星に着陸する探査車パーシビアランスの想像図)

 米航空宇宙局(NASA)の探査車が火星に着陸した。中国やアラブ首長国連邦(UAE)も火星に探査機を投入しているが、各国が宇宙開発を積極的に進める背景と、日本の技術力や資金力の現状はどうか。

 火星には、これまでにも、米国、欧州宇宙機関(ESA)、ロシア、インドが探査してきた。今回、中国とUAEがこれらの国に加わることになる。中国は、今年5月に搭載している探査車を火星に着陸させることを目指しており、成功すれば、米国に次いで2番目となる。

 なぜ、宇宙開発をするのかという素朴な問いに答えるのは案外と難しい。なぜ山に登るのかと聞かれて、そこに山があるからだと答えた人がいるが、それに似ている。意味がないようにみえるが、フロンティアスピリット(開拓者精神)が答えだ。もちろん宇宙開発には目先の利益は考えられないが、開発の過程でさまざまな技術が生み出されて、日常生活に応用される。どのような応用が出てくるのか分からないから、基本的にはフロンティアスピリットに委ねつつ研究開発をするのだが、実務上いろいろな名目も考えられている。その一つが、軍事だ。

 正直にいえば、世界の大国は、軍事を隠すために宇宙開発をしているのか、宇宙開発のスピルオーバー(余剰)分野として軍事が主力なのか、判然としないのが実情で、軍事予算と宇宙開発予算はかなり連動している。実際、軍事開発は国力を上げるし、その逆に国力があれば軍事もついてくる。

 宇宙開発をリードしている米国、中国、ロシア、インドはいずれも軍事大国だが、欧州のESAも主要メンバー国は北大西洋条約機構(NATO)の欧州国とかなり重複している。

 それぞれの軍事支出を、ストックホルム国際平和研究所の2019年データから見ると、米国が7318億ドル(約77兆円)で国内総生産(GDP)比3・4%、中国が2611億ドル(約28兆円)で同1・9%、ロシアが651億ドル(約7兆円)で同3・9%、インドが711億ドル(約8兆円)で同2・4%、ESAメンバー国が2503億ドル(約26兆円)で同1・4%だ。ちなみに日本は476億ドル(約5兆円)で同0・9%だ。

 宇宙開発当局の予算をみても、軍事費の格差ほどではないものの日本は貧弱だ。ちなみにNASAとESAの予算は、それぞれ日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)予算の10倍、2・5倍になっている。

 欧州諸国は、軍事同盟をベースとしつつ、宇宙開発で協力して、ESAを運営している。ESAは有人飛行をやらないので、日本と似ている。

 日本も単独で宇宙開発予算を確保するのが大変なので、そろそろ国際協力も視野に入れたほうがいい。その場合、クアッドで連携をとっているインドがパートナーとなるのが一番現実的だろう。それに、昨年7月オーストラリア宇宙庁とJAXAは協力覚書を結んだので、オーストラリアもいい。本来であれば、韓国も候補であるが、日韓間では軍事情報包括保護協定(GSOMIA)でも問題になったので絶望的だ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本では、宇宙開発を「研究開発」主体から、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが必要不可欠(゚д゚)!


日本の宇宙開発は予算も少なく、他国と比較して遅れているようにも報道されることがありますが、それは「はやぶさ2」のことを全く無視しているのではないかと思います。

日本の「はやぶさ2」をはじめとする宇宙航空技術は世界有数の水準にあると言って良いと思います。これだけの技術水準を軍事は無論宇宙ビジネスに転用すれば、かなりの水準のものになるのは確かです。

小惑星でのクレーター作製に世界で初めて成功した「はやぶさ2」

「はやぶさ2」は2014年13月に打ち上げられ、4年という時間をかけて果てしなく遠くに存在する小惑星リュウグウに到着し、その後は1年半にわたってリュウグウの探査を行い、2度にわたるサンプル採取にも成功しました。はやぶさ2の功績によって太陽系の誕生の秘密が解き明かされるかもしれないです。

「はやぶさ2」の難易度の高いミッションを遂行することで、日本の宇宙機が持つ高い信頼性を世界中に示したと同時に、はやぶさ2が無事に地球にサンプルを持ち帰ったことで、日本の小惑星探査は世界をリードしていることを示したと言えます。

将来的には、はやぶさ2が採用したサンプル採取の手法は宇宙資源の開発における「スタンダード」な手法になるかもしれないです。つまりは日本の宇宙開発技術の潜在価値は予測できないほど大きく、前途も途方もなく大きいといえます。

「はやぶさ2」が成し遂げたことは消えることのない偉業であり、将来的には世界中で小惑星探査ブームが起きるかもしれないです。

「はやぶさ2」のような小惑星の地下物質を持ち帰るプロジェクトは、難易度が高く、これと同じようなことをするには米国などは20年はかかるともいわれています。

従来のように小惑星の地面にドリルで穴を掘る方法は、重力が非常に小さいため、反動で探査機が浮いたり動いたりします。

一方、人工クレーターで地下物質を地表に噴出させれば、①観測で地表・地下物質の性質の違いがある程度分かり、②採取・帰還して地球で詳細分析できます。

さらには、③人工クレーター形成時やその後の状況の観測によって、小惑星の固さ、岩石の大きさ、内部構造など、小惑星の様々な情報が得られます。

「はやぶさ2」のブロジェクトでは、世界初の画期的なこの一連の探査手法を確立できたのです。

ただし、今後日本も宇宙開発に取り組むためは、様々な改革が必要になるでしょう。

日本の宇宙機器産業に携わっている従業員数をご存知でしょうか。実は、日本では1万人を下回る規模で、日本の自動車産業就業人口が534万人ということと比較すると著しく少ないと感じます。


関係者数が非常に少ない背景のひとつには、日本の宇宙分野の実に9割が官需により成り立っているという事実があります。宇宙用の製品は、一度打ち上げたら修理が難しいことから非常に高い信頼性が求められる一方で、需要自体が少なく一品モノが多いです。

まさに、超高品質な製品の少量生産が求められることから、対応できる企業が限られ、参入障壁が非常に高くなっており、宇宙分野へ新規参入する企業は少ないのです。日本では、三菱電機/重工、NEC、IHIエアロスペースが有名どころでしょう。

そのため、宇宙関係が集まる場に出席してもすでに見知った顔が多く、定期的に開催される親戚の集まりのような空気感になることから「宇宙村」という自虐的な単語が関係者から発せられることがしばしばあるのです。

もちろん日本の宇宙ビジネスも海外の発展を指をくわえて傍観しているというわけではなく、日本から新たな宇宙ビジネスの種も続々と生まれてきています。そもそも「宇宙村」を生んだ背景には、日本だけではどうしようもなかった国際政治的な要因が少なからずあります。

日本は1970年に初めての人工衛星「おおすみ」を打ち上げて以降、米国からの技術供与も受けながら、衛星開発能力を高めてきました。日本は日本の衛星開発能力を高めるために、日本の企業に限定して衛星製造を発注してきていました。

日本初の人工衛星「おおすみ」の組立作業

しかし、日本が着実に経験を積み、商用化できるレベルまであと少しと迫った1989年、米国は、商用に資する衛星の調達先を国内に限ることは不当な貿易制限であり、人工衛星の調達は国際調達であるべきだと迫ったのです。

これはすなわち、商用衛星を政府が調達する場合、その時点で日本よりも力のある米国の衛星メーカーも入札に含めなければならず、日本の衛星メーカーが受注することが困難になることを示していました。事実、その後しばらく、気象衛星「ひまわり」はアメリカの衛星メーカーが受注することになりました。

この事態を危惧した日本政府は、日本の衛星メーカーに衛星受注の機会を与えるために、”商用”ではない”研究開発”のための人工衛星を企画し、国内メーカーに限定した入札を行えるように配慮しました。これが、日本の宇宙産業が”商用”すなわちビジネスよりも、”研究開発”に注力せざるを得なかった事情の顛末です。

2001年にこの制約は解除されたものの、この一件で日本は世界に対し大きな後れを取りました。1990年以降、2009年までに行われた国際競争入札15機のうち、日本は落札できたのはわずか3機のみでした。

この約10年の間に、欧米諸国の衛星メーカーでは商用衛星のための競争力(設計の共通化によるコスト低減、納期短縮など)を着々と高めて来ました。他方日本の衛星メーカーは政府から守られる形で、”研究開発”の名を冠するために、コストや納期を後回しにしました、オンリーワンの衛星を作り続けていたのです。

他業種への展開に向けては、徐々に潮目が変わる予兆もありますが、「宇宙村」の村人は村から飛び出し、自ら市場を開拓しなければならないのです。もちろん、金額の大きいビジネスであるため、民間企業単独での脱却は難しく、政府の関与は不可避ですが、政府の資金援助の仕方は十分に考慮される必要があります。(各国政府の宇宙施策についてはこちら)。

また、宇宙ビジネスの発展のためには宇宙産業界隈の変化だけでは不足です。なぜならば、宇宙を利用しようと他産業が思わなければ話が前に進まないからです。

宇宙ビジネスが他産業の既存の課題を解決する種を持っている可能性があるにもかかわらず、
宇宙ビジネス≒ロケット、宇宙ビジネス≒ロマンと言ったイメージはなかなか払拭できず、距離を置かれてしまうことが多いようです。

そのイメージを払拭するためには何か衝撃的な宇宙ビジネスのインパクトを生み出すか、宇宙ビジネスがどのようなものかということを他産業の人にとって親しみやすい言葉で丁寧に届けていくしかないでしょう。

一般に知られていない、すでに実用化されている宇宙ビジネスを以下にあげておきます。

農業×宇宙

たとえばデータを用いた農業が進んでいるオランダでは、例えばDacomという会社が衛星データを使って、顧客の畑情報の「見える化」を行っている。衛星データだけでなく、地上で取れるデータや気象データを組み合わせて、効率的に農業が行えるように支援しています。

これは、テレビドラマ「下町ロケット」でも、その内容が知られるようになりました。

  ドラマ『下町ロケット』(TBS、2018年10月~2019年1月放送)の撮影から。
  クボタの農業機械がドラマ内で使用された。

私の親戚の人でも、こうした宇宙ビジネスに携わっている人もいますが、衛星データ+ドローンによるデータ+気象データできめ細かいデーターの取得により、効率的に農業が行えるような支援事業をしています。

漁業×宇宙

漁業においては、衛星から得られる海の情報をサービス提供している会社もあります。Raymarineは衛星データを用いて、海面温度の情報などを提供します。漁師はそれをみて効率的に漁場にたどり着きます。

貿易(船)×宇宙

宇宙から察知が出来て嬉しいのは魚の動きだけではなく、船の動きもまた同じです。国際海事機関(IMO)のデータによれば、世界における貿易の約90%は海上輸送で行われています。そこでSpireは特定の地域における船の位置を宇宙から網羅的に把握することで、どこかで海難事故が発生したことを早い段階で察知したり、危険物を運んでいる船の情報提供、違法漁船の検知などといったトラッキングデータを提供しています。Spireが提供する船舶トラッキング情報Credit : Spire

さらに、船の燃費代は40日間の航海で1億円を超えることはざらであり、今後もしも効率的な船の航路を算出することができれば、大幅なコストダウンにつなげられるというメリットがあります。

現在は実用化されていませんが、今後航空機のトラッキングシステムの登場が期待されています。

エネルギー(金融)x宇宙

上から俯瞰的に見るということは、視点を変えれば他国の領空を衛星が周回することもあるということです。つまり、各国が本来であれば自国しか把握し得ないであろうことも宇宙から見れば分かることがこれから増えてくるでしょう。

その代表例として、石油の貯蔵量があげられます。世界中の石油の貯蔵量が分かることで、投資家は生産量を正確に把握し、今後の石油価格を予想する目安にできるのだ。データを提供する企業としては「Orbital insight」「Ursa Space Systems」「BlackSky」などが上げられます。

今後様々な産業が宇宙ビジネスと結びつく可能性が大です。政府が宇宙開発をすることも大切なことですが、まずは宇宙開発を「研究開発」の分野に留めるのではなく、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが、日本の宇宙開発を発展させるためには必要不可欠です。

そうして、日本は宇宙ビジネスで成功する可能性は大きいです。なぜなら、ほとんどすべての産業技術を蓄積しているのが日本だからです。たとえば、工作機械や素材産業は、世界のトップ水準にあります。

あらゆる技術の結晶ともいえる潜水艦でも、日本は通常型潜水艦で、その静寂性は世界一です。米国は、原潜を作る能力はありますが、それに特化し、もはや通常型潜水艦は製造できない状況です。

中国は、おもいっきり背伸びをしていますが、様々な技術分野で未だに遅れているところがあり、技術水準が日本のようにすべての産業が一定レベル以上にはなっておらず、優れているところがあると思えば、極端に劣っているところもあり、極端に凸凹であるというのが実情です。

その象徴が、現代の海洋戦で雌雄を決するといわれている、現在最先端をいっている日米の対潜哨戒能力です。現状では、中国のそれは著しく劣っています。

日本では、あるりとあるゆる産業が宇宙産業と提携し、新たな宇宙ビジネスを生み出せる可能性は非常に高いです。

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2021年2月25日木曜日

悪質「組織ぐるみ」の総務省接待 なぜ全額自腹にしなかったか悔やむだろう―【私の論評】民間と比較すると、あまりに杜撰な官庁の利害関係者接待に対する備え(゚д゚)!

 悪質「組織ぐるみ」の総務省接待 なぜ全額自腹にしなかったか悔やむだろう


 どうしても飲食したいなら、自腹で割り勘なら接待にならないのでいい

率直にいえば、20年以上前には、どこの省庁でもよく見られた許認可官庁と対象業者間の関係だ。なお、1998年に発覚した大蔵省スキャンダルでは、大蔵省官僚4名が収賄の疑いで逮捕されたほか、内部調査の結果、112人が処分を受けた。

1998年に発覚した大蔵省スキャンダルでは官僚がノーパンしゃぶしゃぶで
接待をうけていたことが発覚した。写真はブログ管理人挿入(以下同じ)



この大蔵省スキャンダルを契機として、1999年に国家公務員倫理法が公布、2000年に施行された。

ざっくり公務員の感覚をいえば、それ以前の接待は収賄の対象で、その相場はおおむね100万円。100万円を超えると、収賄で逮捕されるが、それ以下ならまあ許されるという感覚だった。実際、大蔵省スキャンダルでは公務員も何人か逮捕されているが、それらは100万円以上の接待を受けていた。もっとも、100万円という当時の相場は、官僚側が勝手に思っていた数字であり、何も根拠もない。実際には、社会通念で変わりうるので、今なら50万円とかもっと低いかもしれない。

100万円未満はいいとなると、社会通念とずれるので、国家公務員倫理法が作られ、5000円以上の利益供与があれば届け出ること、特に飲食では1万円以上を届け出るとされた。ということは、100万円未満の接待でも、1万円以上は事実上禁止だ。どうしても飲食したいなら、自腹で割り勘なら接待にならないのでいいとなった。

 今回の接待問題、組織ぐるみという点ではかなり悪質

筆者は、国家公務員倫理法の施行時に海外にいたので、帰国したら浦島太郎になると思い、国家公務員倫理法・倫理規定の資料を何度も読み返した記憶がある。

国家公務員倫理法の施行により、かつての接待はなくなったとされていたが、今回の総務省接待問題は、それに反し組織ぐるみという点ではかなり悪質だ。

しかも、自腹を切らないという点でセコい。今回総務省の処分を退職後ということで免れた人もいるが、飲み会の誘いは断らないということで有名だという。毎回自腹で断らないなら立派だが、おごってもらう接待を断らないというなら、何を言っているのかわけわからない。

かつて「飲み会を断らない」と豪語していた今回処分を受けた山田真貴子内閣広報官(60)

ある人は、本件は贈収賄の可能性があるので、菅首相の息子にも責任があるといっていた。総務省内部調査では、一人当たりの接待額は10万円程度なので、100万円というかつての相場ではないといっても、これで贈収賄の立件は難しいだろう。

ある人は、首相の息子に誘われたら官僚は断れないと批判したが、利害関係者であっても会食がいけないのではない。おごってもらう接待がいけないのであって、自腹で割り勘であれば事後に会食事実を役所に報告しておけばいい。

処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世は難しいだろう。ただ飯が高くついた。今回処分を受けた者の中には、一部自腹を切っていたが、なぜ全額自腹にしなかったのかを悔やむだろう。そして、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しい。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職できるだろう。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

【私の論評】民間と比較すると、あまりに杜撰な官庁の利害関係者接待に対する備え(゚д゚)!

接待は、企業対企業、企業対監督官庁の間でも、つきものとも言って良いくらいのものです。この接待に関しては、かなり厳しいところもあります。

私の会社でも、これはかなり厳しい方だったと思います。入社したばかりの頃、新入社員研修で教えられたことの一つに、接待に関する対応の仕方がありました。

それは、取引先などから接待の誘いがあった場合どう対処すべきかというものでした。社員の場合は、自分で判断しないで、GM(ゼネラルマネジャー、一般の会社だと部長にあたる)に必ず報告せよというものでした。

その新人教育の内容は今でもなんとなく、一部は覚えいます。それはスイカを売るたとえ話です。講師が一般的なスーパーなどで売られているスイカの原価率等を示したうえで、「あなた方がスイカを100個売るとして、99個スイカを売ったとして、それで良しとしますか?」と質問しました。

ほとんどの人は「良くない」と答えました。講師は「そのとおりです。スーパーなどでは、利益率が少ないので、最後の一個を売りきらないと利益は出ないのです」、そうして講師はこう続けました「利益率が少ないのに、さらに取引先の接待を受け、仕入れのときに判断が鈍ればそれだけで損をしてしまうこともあり得るのです」、「だからこそ、先程述べたように取引先からの接待を受けたときに、GMに報告しないと教えているのです」。

私自身は、新人教育で教えられた通りに、接待に誘われた場合は、必ずGMに報告しました。ある職位以上になると、接待の誘いはかなりありましたが、必ず報告しました。

最近はQRコードで割り勘もできるのだが、総務省の役人は知らない?

それでも、接待になりそうな場合も時折ありました。たとえば、何かのイベントがあって、イベント会場でも酒を含む飲食があり、その後取引先から一緒に飲みに行こうととの誘いがあり、流れで取引先と一緒に飲みにいかざるをえない時もありました。

その場合には、取引先と自分の分を含めて、飲食店に取引先には悟られないようにして、飲食店に飲食代を現金で払う旨を伝えて、飲食が終了する前に自腹で払うようにしていました。

このようなことが何回もあったので、それが習性になり、取引気ではない人、たとえば大学の先生等と飲むときも、自腹ではらってしまうことが何度かありました。

取引先ではない、利害関係のない人と飲む機会もありましたが、そのようなときに、聞いていると、なかにはこのようなことに酷い緩い会社もあって、たとえば、取引先の企業の人間が病気で入院したときにわざわざ入院したことを知らせる人間がいたそうです。それは、暗に見舞いを請求しているということです。

企業によっては、在職中には社内の人間に年賀状を出すことすら禁止している会社もあるそうです。年賀状を出せるということは、その人間の住所を知っているということですから、当然のことながら、お中元やお歳暮等を送ることができるわけで、そうなると人事のときなどに情実が入るため禁止しているそうです。

こんな話も聞いたことがあります。ある大手スーバーの店のGM(店長)が、取引先の園芸店に行って、その店に青々とした竹が植えてあったので、その竹をポンと叩いて「この竹青々としていて、いい竹ですね」と取引先に話したそうです。

その日、家に帰ってくると、自宅の庭にその竹が植わっていたので、驚いて、その竹の代金を自腹で払ったそうです。その取引先は、竹をよこせと、店長が言ったと、忖度したようです。

そのときには、いずれの会社でもこのようなことはあるのだと、改めて再認識しました。

その自分からみると、今回の役人どもの態度は、自腹を切らないという点でセコすぎると思います。

高橋洋一氏は、冒頭の記事の最後で「処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世は難しいだろう。ただ飯が高くついた。今回処分を受けた者の中には、一部自腹を切っていたが、なぜ全額自腹にしなかったのかを悔やむだろう。そして、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しい。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職できるだろう」としていますが、そのとおりです。

人事の原理原則からみても、処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世が難しいのも当然のことです。

経営学の大家ドラッカーは人事について以下のように語っています。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる」(『創造する経営者』)
ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

「強みによる人事」チャート クリックすると拡大します

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ています。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。この組織では、気に入られることが大事なのでしょうか。

“業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”の決定において、真摯さとともに、経済的な業績を上げる能力を重視しなければならないのです。

致命的になりかねない“重要な昇進”とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団への昇進のことです。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への昇進の決定です。

そこから先の人事は状況が決定していきます。しかし、そこへの人事は、もっぱら組織としての価値観に基づいて行なわれます。
重要な地位を補充するにあたっては、目標と成果に対する貢献の実績、証明済みの能力、全体のために働く意欲を重視し、報いなければならない。(『創造する経営者』)
今回処分された、官僚は高橋洋一氏が述べているように、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しいでしょう。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職でしょう。しかし、本来このような不祥事をしなかった場合のランクの高いところは無理でしょう。それでも、再就職できるだけましと思うべきでしょう。

それにしても、このようなことをみるにつけ、ドラッカー氏が主張していたように、統治の部分を除いてそれ以外の部分は政府の外に出すべきと言う考えは妥当だと思います。

そうでないと、このような問題はときがたてばまたぶり返すこになります。どのような組織でも、統治と実行を同じ組織が担うと、今回のような不祥事はもとより様々な腐敗が生じるのです。

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2021年2月24日水曜日

孔子廟に敷地無償提供は違憲 最高裁―【私の論評】この判決は、今後沖縄が進むべき道を示した(゚д゚)!

 孔子廟に敷地無償提供は違憲 最高裁


 儒教の祖、孔子を祭る「孔子廟(びょう)」を設けるため、那覇市が公園内の敷地を無償で提供していることが憲法の「政教分離の原則」に違反するかが争われた住民訴訟の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は24日、違憲と判断した。那覇の孔子廟は宗教性が軽微とはいえず、無償提供は特定の宗教に便宜を提供していると評価されてもやむを得ないと認定した。

 政教分離に関し最高裁が違憲と判断したのは3例目。差し戻し後の1、2審判決はいずれも無償提供を違憲と指摘していた。

 最高裁は平成22年、違憲と判断した空知太(そらちぶと)神社訴訟の判決で、宗教的施設に公有地を無償提供する是非について「施設の性格や無償提供の経過と態様、一般人の評価などを考慮し、社会通念に照らし判断すべきだ」との判断枠組みを示していた。

【私の論評】今回の最高裁判決、沖縄の治外法権状況を是正する方向に舵をきるべき(゚д゚)!

孔子廟

孔子廟というと、あまりご存知の方は多くは無いかと思いますが、中国春秋時代の思想家で論語で有名な儒教の創始者、孔子を祀っている霊廟のことです。

中国などの外国から琉球に帰化した人たちの多くは、那覇の久米村に住んで久米三十六姓と呼ばれていました。 そして1676年にこの孔子廟を完成させお参りをしていましたが、第二次大戦で消失。

旧霊廟があった場所も国道が通り同じ場所での再建もかなわず、改めて波之上に1975年再建されました。 そして2013年、那覇市久米の松山公園の隣に新しく建設されたのがこの孔子廟です。

日本では最南端の孔子廟でもあり、当事の琉球が中国と密な交流関係が有ったことを忍ばせてくれる場所でも有ります。

普段は正門が閉まっていますが、両側の入口は開いているので自由に入って参観することができます。

儒教の祖・孔子を祭る「孔子廟(びょう)」のため、那覇市が公園内の土地を久米崇聖会に無償で提供していることが憲法の政教分離の原則に違反するかが争われた住民訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は2018年4月18日に、一審那覇地裁に続いて違憲との判断を示し、市が使用料を請求しないことは違法だとしていました。

大久保正道裁判長は、廟の管理団体について、営んでいる祭礼行事の内容を踏まえ宗教団体だと認定。土地の無償使用は「特定の宗教に便宜を提供し、援助していると評価されてもやむを得ない」と述べました。

その上で、原告の市民(91)が監査請求した2014年4~7月の使用料を請求すべきだと指摘しました。2017年4月の一審判決は使用料を約180万円と算定しましたが、高裁支部は額を示しませんでした。

判決によると、故翁長雄志氏が市長だった11年、市内の松山公園に廟の設置を許可して土地使用料の全額免除を決め、14年に更新した。

判決を受け城間幹子市長は「主張が認められず残念だ。判決内容を確認し対応する」とコメントしました。土地は当時から現在まで、無償で提供され続けています。

那覇市の孔子廟の公園使用料を那覇市が無料としていたことが違法であるとして市民団体が裁判に訴えていました。孔子廟をめぐる訴訟においての主な主張は以下のようなものです。


今回の最高裁の判決は、原告の市民側の主張をみとめたわけです。今回この判決が出たことは良かったと思います。

この問題の本質を簡単にいうと、首里士族由来の出自を持つ那覇市長・翁長雄志氏(当時)が、久米士族由来の出自を持つ仲井眞弘多県知事(当時)などといった有力者が属する宗教的血縁団体に対して公有地を無償で提供した構図です。

旧支配階級内部での馴れ合い行政の産物であり、王朝時代(封建時代)の支配構造を引きずった沖縄の時代錯誤を象徴するものでした。

それは政治的保守派による行政の「私物化」でもなければ、政治的左派の支持を得た翁長雄志氏による中国派に対する優遇策でもありません。久米崇聖会には仲井眞弘多元知事だけでなく、各界の人士が会員となっており政治的にはむしろ中立です。中国とのパイプもありますが、会としての姿勢はどちらかといえば台湾寄りです。

今回の案件で政治的イデオロギーを問題とすべきではないかもしれません。最大の問題は沖縄に残る封建制の残滓が、県民や国民の諸権利・諸権益を踏みにじるかたちで露出したところにあります。

したがって、歴史的な観点からすると、那覇市の対応は、孔子廟設置に用地を無償で提供することにより、封建制下における久米人の特権的立場を復活させたことになります。

そうして、このようなことは、中国の沖縄工作をやりやすくするものでもあります。

今回の判決においては、「政教分離」という日本国憲法の条文に照らしてその違法性を明らかにした裁判所の判断並びに原告・弁護団の弁論は、沖縄社会に今も根強く残る非近代的要素をあぶり出すと同時に、今後沖縄が進むべき方向性を示したものであるといえます。

沖縄では、沖縄以外の人からみると、信じがたいことが平気でまかり通っているところがあります。たとえば、基地反対派が道路でまるで検問のような交通妨害してみたり、防衛省の役人や、警察などに乱暴狼藉を働いてみたりと、枚挙に暇がありません。


この判決の延長線上に、基地反対派の横暴による治外法権を是正する方向に進んでいただきたいものです。

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2021年2月23日火曜日

【主張】天皇誕生日 令和の「行幸」国民の力に―【私の論評】全体主義とは対局にある日本の天皇、天皇弥栄(゚д゚)!

 【主張】天皇誕生日 令和の「行幸」国民の力に


 
 天皇陛下は61歳の誕生日を迎えられた。令和の時代を国民とともに歩まれる陛下に心よりお祝いを申し上げたい。

 新型コロナウイルス感染防止のため、誕生日の一般参賀は2年連続で中止となったが、陛下は先立つ記者会見で、広く国民に寄り添う思いを語られた。

 コロナ禍に関し、命を落とした人々を悼み、医療関係者や困難な状況にある人々を支援する関係者の尽力に感謝の気持ちを話された。そして「忍耐強く乗り越える先に、明るい将来が開けることを心待ちにしております」と述べられた。国民も心を一つに取り組みを新たにしたい。

 陛下は、まもなく発生10年を迎える東日本大震災の被災地にも思いを寄せられた。そうしたお言葉、お気持ちに力づけられる人々は少なくないだろう。

 コロナ禍で皇室の活動が制限される中、皇室活動の基本に言及され、「国民の幸せを常に願って、国民と苦楽を共にすることだと思います」と述べられた。

 それを実践される姿は、昭和天皇から上皇陛下へと引き継がれ、今上陛下が間近で学ばれてきた皇室の伝統である。

 陛下は、そうした歴史、伝統を踏まえ、時代や社会の変化に応じた行動の大切さも話された。

 コロナ禍にあって天皇陛下がお出かけになる行幸(ぎょうこう)の機会など、国民と触れ合う場はたしかに限られている。会見でも、触れ合うことが難しい状況を残念に思うお気持ちを率直に語られた。

 そうした中で、天皇、皇后両陛下が、コロナ対応にあたる病院とお住まいをオンラインで結び、医療関係者をねぎらうなど、交流・活動を工夫されている。

 元日には、ビデオメッセージを発表し、国民を案じる気持ちを込められた。

 延期された新年の歌会始の儀を例にしても国民が楽しみにしている伝統の行事は多い。宮内庁は皇室と国民の交流を深めるため、さらに知恵を絞ってほしい。

 天皇陛下が数多くの宮中祭祀(さいし)を通し、日本と国民の安寧や豊穣(ほうじょう)を祈られていることにも、一層の理解を深めたい。

 天皇が国民のために祈り、国民は天皇に限りない敬意と感謝の念を抱いてきた。それが日本の国柄であり、皇位が安定して続いていくことは国民の願いである。

【私の論評】全体主義とは対局にある日本の天皇、天皇弥栄(゚д゚)!

天皇陛下の誕生日を祝う「茶会の儀」で乾杯される天皇、皇后両陛下(2020年2月23日)

日本の皇室は、ほかに類を見ない、2000年以上続く『世界最古の王朝』です。ただし、これは海外の王朝と比較の上で言っているだけであり、日本の天皇と朝廷は、他国の王朝とは違い、日本独自のものです。

歴史が長い国はほかにもありますが、国名が変わらずひとつの国として突出した歴史を持つ国は日本以外にはありません。そうした貴重な歴史の中心にいたのが、天皇と皇室なのです。

世俗の権力から一定の距離を置き、ひたすら国民の安寧を祈り続ける天皇という存在は、世界に唯一無二の奇跡的な存在です。そのことに、世界の国々が敬意と憧れを持っているのです。

事実、ギネスブックにも、日本の皇室は「世界最古の王朝」と記録されています。

上皇陛下から天皇陛下への譲位は、第119代光格天皇以来、約200年ぶりだったことが注目されました。日本人にとっては“たった200年前か”という感覚の人もいるかもしれませんが、世界の歴史を振り返ってみるとたとえば、太平洋の向こうの米合衆国は建国そのものから250年も経っていないのです。

世界の外交の常識で言えば、総理大臣よりも、大統領よりも、国王よりも、エンペラー(天皇、皇帝)が最も“格式”が高いのです。首相や大統領はその時代の国民に選ばれた代表であり、国王は王家を継いできた人ですが、エンペラーは国の文化や宗教などを含めたもの、つまり“文明の代表”という位置づけになります。

20世紀まではドイツやオーストリア、エチオピアなどの国でエンペラーを名乗ることがありましたが、長い歴史の中でずっとエンペラーであり続けたのは日本の天皇だけです。今の世界の主要国の中で、エンペラーはたった1人、日本にしか存在しないのです。

皇室がこれほど長い歴史を保てたこと自体が国民から敬愛されてきたことの証です。

海外では、フランスやロシア、イランなど国民による革命によって王室が廃絶に追い込まれたケースも少なくありません。日本も終戦後に皇室廃絶運動やクーデターが起きても不思議ではありませんでした。しかし、昭和天皇は戦争で焼け野原になった全国各地をすすんで巡幸され、国民はそれを大歓待しました。

戦争で苦しみ、指導者に対する恨みや憎悪が高まる国も多いですが、日本人は“普通の国”とはまったく違う反応をしたのです。

「普通ではない」反応を引き出したのは、昭和天皇の人柄だったといいます。

昭和天皇は巡幸に際し、質素な庶民的な洋服をお召しでした。「国民は着るものに不自由しているのに、自分だけがいい服を着て国民の前に立てない」と配慮されたのです。

1947年広島に行幸された昭和天皇 奥に広島ドームが見える

そうした天皇の存在を、古来、日本人が敬愛し続けていること、そうした天皇と国民の関係が、世界の多くの国で敬意を持って受け入れられているのです。

諸外国にとって、天皇という存在は比較対象のない非常に特殊な存在です。しかし、その異質な存在を中心に日本の人々は精神的に充実した生活を送っています。

あらゆる組織、無論企業や国であっても、変えてはいけないものと、変えるべきものがあります。これが明確でない組織は安定しません。その点日本は、安定しています。これは、日本に住んでいる私達にはあまりに当たり前すぎて意外と気づきにくいかもしれません。

たとえば、世界中が惨禍に見舞われ、多くの国が消滅したとして、ある国が国を再興したとして、その国が従来存在した国の正当な後継国であるのか、それによって統治の正当性が国民に認められるかどうかを判定するのは意外と難しいかもしれません。

再興されたとされるその国が、統治者や為政者の政敵からすれば、正当な後継国とは認められないかもしれません。旧国民の間でも価値観や文化によって、認められないかもしれません。

しかし、日本国の場合はそれは簡単です。皇統を引き継ぐ方が、天皇となり、日本の要となれば、それ以外の統治者、為政者は誰がなっても構いません。それで、すぐに正当な後継国であると多くの国民に認められ、天皇が認めた政府であれば、すべての国民が統治の正当性を認めることになるでしょう。

このような国は世界で唯一なのです。そのため、日本は政局が混乱しようと、世界中が混乱したとしても、安定を保っていられるのです。

あらゆる組織には、変わるもの、変えられないものがあります。グローバル化した今日でも、変えてはならないものがあるのです。
今日では企業のマネジメントはグローバルに行われる。世界は、たとえ政治的には分かれていようとも、需要、欲求、価値の観点から見たとき、一つのショッピングセンターになった。そのため企業にとっては、国境を越え、生産資源、市場機会、人的資源を最適化すべく、自らをグローバル化することが、経済の実体に対する正常かつ必然的な対応となった。(ドラッカー名著集(13)『マネジメント─課題、責任、実践』[上])

市場がグローバルになったために、あらゆる経済活動がグローバルに行なわれるようになり、かつ、企業そのものがグローバルな存在になりました。一国の文化、慣習、法律にとらわれることなく、グローバル経済において成果を上げるべき存在となりました。

もちろん、今日は行き過ぎたグローバル化に反対の声もあがっています。しかし、自由貿易の優位性に気がついた人類は、完璧にグローバリズムを捨て去ることは困難です。これからも、自由貿易は継続していくことでしょう。

ところが、そのために、事態がおそろしく複雑になりました。じつは、マネジメントは、それ自体が文化的な存在たるべきものです。しかもそのマネジメントが、それぞれの文化を生産的なものにするという役割を持ちます。つまり、自らが文化でありつつ、文化の道具とならなければならないのです。

マネジメントは、個人、コミュニティ、社会の価値、願望、伝統を生産的なものとしなければならないです。もしマネジメントが、それぞれの国に特有の文化を生かすことに成功しなければ、世界の真の発展は望みえないのです。

ここでドラッカーは、世界は日本に学ばなければならないといいます。ドラッカーに言わせれば、今世界は、世界的な規模において、明治維新の必要に直面しているといいます。

コミュニティの伝統と天皇制を含む独自の価値観を近代社会の成立に生かしたことこそ、他の非西欧諸国が近代化に失敗したなかにあって、日本だけが成功した原因だといいます。

明治天皇

インドは、インドの西洋化を試みて失敗しました。ペルシャはペルシャの西洋化を試み、ブルガリアはブルガリアの西洋化を試みて失敗しました。現在においても、発展途上国から先進国に転身した国は、日本のみです。ところが、その日本は、日本の西洋化を試みもしせんでした。日本は、「和魂洋才」という言葉に象徴されるように、西洋の日本化を行なったために成功しました。それが明治維新でした。

つまるところマネジメントは、急激にグローバル化しつつある文明と、伝統、価値、信条、遺産となって現れる多様な文化との懸け橋にならなければならない。文化的な多様性が人類の繁栄の実現に資する上での道具とならなければならない。(『マネジメント』[上])

「変わるもの」つまり「change」はドラッカーによるとイノベーションを生み出し、進化、発展をもたらします。

一方「変わらないもの」はドラッカーの言う文化と言われるものです。より大きな括りでいえば、文明です。

「変わるもの」と「変わらないもの」を見極めるのは簡単なようで実は難しいです。多くの人が、変わらなければいけないのに、変わらないものにこだわって、新しい時代から取り残される例は歴史に枚挙のいとまがありません。

一方、変えてはいけないものを変えてしまう失敗も人類は多く犯してきました。上でも述べたように、文化そのものを変えようとして、本質からずれて衰退していった例もたくさんあります。

それでは、どうすればこの両者の違いを間違えることなく、正しい判断ができるのでしょうか。

そのためには謙虚な心が必要です。両者の判別がつかない人の心には「常に自分が正しい」という強い自己中心性が存在しています。最近の極端なポリティカル・コレクトネスにも、それがみられるようです。

謙虚な心こそドラッカーの言う「真摯さ(integrity)」なのです。この真摯さを忘れた、統治者が「変えてはならないもの」まで変えて全体主義に走るのです。一方日本では変えてはならないものの守護者が天皇なのです。

日本が、どのような政局の争いがあっても、戦争で敗北しても、今日のようにコロナ禍に見舞われても、比較的安定しているのは、日本は他国と異なり、「変わないもの」の具現者である天皇を日本国民の要として仰いでいるからに他ならないのです。

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2021年2月22日月曜日

文系マスコミが叩く「株価3万円」がまったく不思議なことではないワケ―【私の論評】株高も円高も、明快に説明できないマスコミには、日本経済への提言などできない(゚д゚)!

 文系マスコミが叩く「株価3万円」がまったく不思議なことではないワケ

数字を見れば一目瞭然だった! マスコミは「経済が悪かった」と…

先週15日(月)、東京株式市場で日経平均株価が3万円を超える高値を記録した。3万円台の大台に乗ったのはバブル期以来、約30年ぶりで、週末19日(金)の終値は3万0017.92円だった。

これに対して、マスコミの報道は、2020年は、新型コロナの影響で、完全失業者数は前年に比べ29万人、休業者数は80万人増加と、経済が悪かったことを指摘する。実態経済と株価が乖離していて、この株高はバブルではないのか、株高の要因は、日銀が低金利を続けていることと、日銀が株へ投資しているからだという。

つまるところ、単純な論調でマスコミは冷ややかに株高を見ているようだ。

筆者は、株式投資を実際に「職業柄」やらない。筆者はもともと財務省で公務員だったので、インサイダー情報に触れることも少なくなかった。そのため、財務省の内規で株式投資をやらないように言われていたため、公務員時代はまったくやっていない。

公務員を辞めてからも、発言が自己のポートフォリオに有利になるようにといわれないように、株式投資をやっていない。

ただし、標準的なファイナンス論は米国留学の時に勉強したので知っている。このファイナンス論は、日本ではあまり大学でやっていない。率直に言えば、ファイナンス論はほぼ数学と同じなので、日本の文系経済学部ではちょっと荷が重いのだろう。

もちろん、日本にもファイナンス学会はあり、筆者も会員であるが、その研究は欧米に見劣らない。

ちなみに、日本の数学者の故伊藤清氏は東大数学科の大先輩であり、筆者は現役学生時に同氏の講義を聴いたことがあるが、同氏が開発した確率微分方程式など確率解析はファイナンス論では必須で、世界中のファイナンス学者が使っており、同氏を尊敬している。

 株高を説明できないマスコミ

余談だが、伊藤氏は実は戦前1938年に大蔵省に入省され、筆者はそれ以来4人目の東大数学科卒の大蔵省官僚だと聞いた。伊藤氏は戦時中内閣統計局で勤務しているときに、確率解析の基礎理論を生み出されたらしく、今でも信じられないほどの世界的な業績だった。

いずれにしても、標準的なフィアナンス論では、確率解析以前の話であるが、株価は将来収益の現在価値の総和で決まるとされている。もちろん、この単純な定式化をベースとして、実戦的で様々な応用バージョンがあり、それぞれで優劣を競っている。

しかし、単純な基本形でも、今の株価について、マスコミが言っている解説が的外れであることくらいは言える。

株価が将来収益の現在価値の総和になるということは、将来収益/金利が大きな要素になる。これを定性的にいえば、将来収益予想が高まったり、金利が低くなると、株価が上がるわけだ。

まず、日銀が低金利を継続しているというのはその通りだが、金利はイールドカーブコントロールなので、ここ1年くらいあまり変動していない。今の株高は昨年10月あたりから始まっているので、金利引き下げによるものではない。

株価をきちんと式で理解していれば、金利が変わらないので、金利要因は排除できるはずだが、文系マスコミの悲しいところで、式が理解できないから、ロジカルな議論ができない。

それでは、日銀が株式を購入しているという話はどうだろうか。根拠となるのは、昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大したことだ。しかし、3月と10月の間はどうだったのか、説明できない。

しかも、購入枠は6兆円増である。株式市場全体の時価総額は700兆円もあるが、その1%にも満たない額なので、それが大きな影響を与えているとも思えない。定量的な議論が苦手な文系マスコミは大げさに話しがちだ。

  まったく驚く株高ではない

基本に返って、株価が将来収益/金利で決まるとして、金利要因でないとすれば、将来収益予想の高まりがしっくりくる。

将来収益といっても、半年から1年以内の将来予想を取り込んで、株価は決まることが多い。「桐一葉、落ちて天下の秋を知る」という諺があるが、一枚の葉が落ちるのを見て、秋の訪れを察することで、わずかな前兆から将来を予知することだ。

筆者は、この言葉が好きだったので、現役官僚のころ、匿名コラムのペンネームに使っていたくらいだ。

予兆は、昨年4,5月に行ったコロナ対策であった。もちろん、新型コロナにより経済は落ち込むが、それでも落ち込みがどれだけ少なくできるか、特に世界と比べてどうかという視点が重要だ。

マスコミはいろいろな論調を述べるときに、何と比較しているのかさっぱりわからないことが多いが、それは評価する座標軸が定まっていないからだ。そのため、ただ単に政権批判をしたいために、都合のいい数字を取り上げたりするので、マスコミ記事を読んでも参考にならない。

これを、これまでの株価を踏まえてみると、株価3万円はそれほど不思議ではない。

まず、これまでの日米の株価の推移を見ておこう。


この図を見れば、日本の株価は、バブル崩壊後、10年余の長い調整局面が続き、2000年代はじめから、やっとアメリカと同じ歩調で上がりだした。こうした中、他の先進国よりコロナの落ち込みが少なければ、それなりに株高になるのは不思議な現象ではない。

経済を2019年10-12月第四四半期と昨2020年10-12月第四四半期で比較してみてみよう。この期間が、新型コロナ対応により大きく影響を受けるからだ。

 「経済と乖離」は本当ではない

OECD諸国で比較可能な国をすべて選ぶと、この間、日本の財政支出の高さと行動制限の緩さは世界でトップクラスだった。ここで、財政支出はIMFデータ、行動制限指数はオックスフォード大学が公表している厳格度指数のデータを用いている。引用先は、資料を参考にしてほしい。


実は、財政支出の多寡と行動制限の強弱で、経済落ち込みがほとんど説明できる。つまり、財政支出が大きいほど、行動制限が緩いほど、経済落ち込みが少ないのだ。


日本は、先進国中で、経済落ち込みがトップクラスで少なかった国だ。これから、株価に悪いはずないだろう。今年の後半の経済を見通すと、世界中で新型コロナワクチンが徐々に行き渡り、行動制限は緩くなる。

となると、スタートダッシュで、財政支出の多さで有利になった日本とその他の先進国も同じように、経済拡大のメリットが出てくる。

ということを、昨年10月前に読んでいた投資家が、半年から1年先の将来を「買って」、その読みが当たって、今の株高になっているのだろう。

以上が、筆者の今の株高の説明である。もちろん、この説明はこれまでの株高を説明するだけで、今後の株価については何もいっていないのも同然だ。これからの株価となると、来年、再来年がどうなるかを当てるに等しい難作業、というか、これからの政策対応でいかにでも変わりうるので、言わないのが無難だろう。

こうした説明からみると、マスコミはよくいう今の株価が実態から乖離しているというのは、陳腐で意味のない表現であることがわかるだろう。単に、9ヶ月前にあった1,2次補正予算によるその後の出来事を予想できなかった人の戯言だ。

あの時、1、2次補正予算が大きすぎると批判したのはマスコミである。今考えてみると、いかに勘違いだったのかがわかる。株価は将来を少し映し出す鏡なのだ。

【私の論評】株高も円高も、明快に説明できないマスコミには、日本経済への提言などできない(゚д゚)!

株価については、上記の高橋洋一氏の解説は過去の推移により、現在の株価を十分に説明できると思います。現在の株高は、なるべくしてそうなったのです。マスコミは現在の株高を、説明できず、現在の株価が実態から乖離しているようなことを語るのみです。

これと、同じようなことが、為替についてもいえます。マスコミは、円高や円安になる理由を説明できません。

昨年7月に、外国為替市場の円相場で一時1ドル=104円台と約4カ月半ぶりの円高水準をつける場面がありました。日本と米国の金融緩和の状況を受けて、中長期的に為替はどのように動くと考えられるのでしょうか。

当時の新型コロナウイルス感染拡大の状況を見ると、欧州では落ち着きが見られるのに対し、米国では拡大が収まっていませんでした。このため、欧州より米国のほうが景気回復が遅れそうだという見方になっていました。

日本はコロナ「第2波」になっていましたが、感染者数や死亡者数は欧州の落ち着いたときの水準程度かそれを下回る。やはり日本より米国のほうが景気回復が遅れそうでした。

そうなると、米国は日欧に比べて、失業がより多く出てくるので、雇用対策である金融政策をより長く、さらに強力に実施せざるを得なくなりました。

為替の説明にはいろいろありますが、経済学的には、2国間の金融政策の差で決まるというのが一番しっくりきます。為替が2国間の通貨の交換レートであることから、2国の通貨量の比率で決めるというのが最も自然であるからです。

であれば、当時日欧に比べて米国の金融政策がより強力になるという見方から、ドルが相対的に円・ユーロに比べて多くなり、相対的に多いものの価値は安くなります。つまりドル安になると説明できます。この現象を、円からみれば、円高です。

このような見方を、マスコミはできないようです。長期的にみれば、ドルが円に比較して多くなれば、ドルの価値は下がりドル安になり、円の価値は上がり、円高になります。無論短期的には為替は様々な要因があり、明快に説明できない場合もあります。

しかし、中長期的には米国が金融緩和政策をとりドルが円に比較して多くなれば、間違いなくドル安、円高傾向になります。

これは、誰でも理解できるでしょう。ドルが多くなり、相対的に円が少なくなれば、ドルの価値は下がり、円の価値は上がるので、ドル安、円高になります。この当たり前のことを知らない人がマスコミ関係者には結構多いです。

それどころか、金融関係者にも知らないのではないかと考えてしまうような人が、多いです。いわゆる金融アナリストとわれる人々が、金融緩和なと無視して、「米国では○○が起きていて、■■だから、円高になる」などの不可解な解説ばかりする人がいます。

このようなことは、中短期であたることはあっても、中長期的にみれば、為替は各国の金融政策によって、決まりまるのでは、長期的にはあたることはありません。

以上が経済的な見方ですが、これに米中対立の激化という政治的な側面も為替動向に大きく影響していました。米政府がテキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖したのに対し、中国政府は中国の四川省成都にある米国の総領事館を閉鎖するという対抗措置に出ました。

また、米司法当局は、サンフランシスコの中国総領事館でかくまわれていた中国人研究者を拘束しました。こうした有事にも通じるようなとき、とりあえずドルを売っておくという連想になりがちでした。

ただし、短期的にはドル売りという動きがあったにしても、中長期的には、米国および関係国のの金融政策がドルの価値を決めることになります。他国に比較して、緩和の度合いが高ければ、当然のこといずれドル安になります。

ともあれ、世界経済はコロナショックで大変で、世界各国で一定程度の金融緩和が行われています。リーマン・ショックの時のように、日本だけが金融緩和しないというのはありえないでしょう。となれば、為替は、一時的な変動はあるものの、長い目で見れば大きく変動しないのと考えるのが無難なようです。

マクロ経済を理解するための基本中基本

それにしても、株高も円高も、明快に説明できないマスコミには、当然のことながら、日本経済への提言など全くできないと考えるべきでしょう。

この大きな2つの項目ですら、明快に説明できないですから、当然のことながら、雇用も、財政も、金融政策も駄目でしょう。雇用というと、欧米では社会人の常識でもある、金融政策=雇用政策であることを理解できていない人が多いです。

これは、マスコミも理解していないのはもとより、多くの日本人が理解していないようです。そのためか、金融政策=雇用政策という話てもしようものなら、目を丸くして、信じられないという人も多いです。それどころか、胡散臭いやつと思われてしまうことすらあります。内容としては、高校の政治経済程度の話なのですが・・・・・・。

雇用が激減していた、平成年間の真ん中あたりのときに、ハローワークで働いていた女性が上司の課長が「自分は雇用というものを理解していない」と語ったので驚いたという話を聞いたことがありましたが、この課長さんは正直だといえます。

厚生労働省は、雇用の主管官庁ではありません。厚生労働省は、あくまで労務とか、雇用統計の主管場所であって、厚生労働省がいくら頑張っても、雇用を増やすことなどできません。できるのは、せいぜい雇用のミスマッチをある程度是正するくらいです。雇用を創出することはできません。それができるのは、日銀です。中央銀行こそ、雇用に責任があるというのが、欧米の社会常識です。

さらにマスコミは、財政赤字、経常収支の赤字もまるで家計のように赤字自体が悪い事のように報道します。このようなマスコミに日常的に接している、多くの日本人がマクロ経済音痴になってしまうのも無理からぬところがあります。

日本でも、高校や大学あたりで、一般教養として実践的なマクロ経済学を教えたほうが良いと思います。

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2021年2月21日日曜日

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30年前の水準に戻った日本株、アベノミクスでバブルの後遺症を脱却 コロナ収束と景気回復反映か 

高橋洋一 日本の解き方



 日経平均株価が約30年半ぶりに3万円を回復したが、なぜこの水準に戻るのに30年もかかったのか。経済的な背景はどうだろうか。

 株価は、半年後の経済を映し出すといわれる。世界経済の落ち込みは、新型コロナ禍に伴う経済活動の抑制によるところが大きい。昨年末からワクチン接種が世界各国で行われた始めたのとともに、既存の薬も効果の高いものが判明しつつある。

 感染症の一般論であるが、季節が暖かくなると流行らなくなる。となると新型コロナ禍は今年後半には、かなり波が静かになるだろう。そして景気回復が予想されることが今の株価に反映しているとみていいだろう。

 たしかに今の株価については金融緩和が後押ししている側面があるものの、将来の先行きが悪いのであれば、そもそも株価が上がるはずないだろう。

 ここ30年間の日本の株価を米国と比較してみると、1990年代は日本が下がり続けたが、米国は堅調に上昇した。この時期の日本の金融政策は猛烈に引き締めを継続したので、当然ながら株価は上がらなかった。

 2000年代になると、日本でもデフレが意識され始め、金融政策は若干緩和基調だったが、インフレ目標が導入されていなかったので、金融政策は不徹底だった。その結果、日本の株価は徐々に上がりだしたが、08年のリーマン・ショックで日米ともに沈んだ。

 10年代は、日米ともに上昇し、特に、インフレ目標が導入されたアベノミクスの13年以降、日本のほうが値上がりスピードが若干速くなった。

 こうしてみると、金融政策がインフレ目標で運営されていると為替が大きく変動しづらくなり、日本の株価は米国とほぼ連動してくる。

 アベノミクスは、マクロ経済からみれば、金融政策についてはインフレ目標を中央銀行に課し、財政政策と金融政策を協調させ、GDPギャップ(完全雇用を達成する潜在GDP水準と現実のGDP水準の差)を少なくするように運営するものだ。これは、失業率を最小化させる効果を持ち、そうした意味では世界標準である。

     マクロ経済政策を理解するにはこのグラフを理解していないと困難
     だがこれ理解していれば、直感的に理解できる

 これが、良好なマクロ経済環境を招き、実体経済を回復させ、13年以降、株価は日本で2・5倍程度になっている。なお、同期間の米国の株価は2・2倍程度だった。

 以上をまとめると、30年間のはじめの10年間、次の10年間、最後の10年間で、だんだんとマクロ経済政策、特に金融政策が世界標準に近づいてきたので、株価も先進国並みになってきた。こうした意味において、日本でのバブルの後遺症は、13年以降のアベノミクスでやっと脱却できたともいえる。その象徴が30年半ぶりの3万円台だ。

 米国の株価は、00年ごろのITバブルの崩壊、08年のリーマン・ショックなどで一時落ち込むことはあっても、その後は回復して、結果として右肩上がりになっている。おそらくきちんとしたマクロ経済政策をとれば、長期にわたる落ち込みはなく、それは日本でも同じであろう。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

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米国の株価について、きちんとしたマクロ経済政策をとれば、長期にわたる落ち込みはないとしていますが、それには裏付けがあります。

バイデン氏の大統領選における経済政策の公約は、増税によって様々な政策を賄うというものであり、コロナ禍の現在それは明らかに間違いであり、私自身はバイデン政権になれば、米国の景気は低迷し、日本も悪影響を受けることになるのではないかと危惧していました。

しかし、それは杞憂に終わりました。なぜなら、バイデン氏はイエレン氏を財務長官に任命したからです。彼女であれば、きちんとしたマクロ経済政策をとることは明らかだからです。

それを裏付けるように、イエレン米財務長官は12日、オンライン形式で開いた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で、新型コロナウイルス危機からの脱却へ「今こそ大胆な財政出動に踏み切るときだ」などと主張しました。バイデン米政権は1.9兆ドル(約200兆円)の追加対策を検討するとしています。米国と同様世界屈指の財政出動をしている日本は別にして、特に欧州は景気回復がもたついており、各国にも協調的な追加策を促しました。

イエレン米財務長官

米連邦準備理事会(FRB)前議長のイエレン氏は中銀トップとして繰り返しG7会議に出席してきましたが、今回は財務長官としては初めて参加しました。欧州は新型コロナで再び経済活動の制限を余儀なくされ、景気に停滞感があります。イエレン氏は米国が大型の追加財政出動に踏み切る考えを強調し、各国にも「G7として、現時点でできうる追加的な経済支援策に注力すべきだ」などと訴えました。

イエレン氏は間違いなく、きちんとした財政政策をこれからも展開してくことでしょう。その意味では、日本国内でも、きちんとしたマクロ経済政策を実行すべきと考えている人達の中には、イエレン氏の提言に勇気をもらった人も多いでしょう。

 物価目標に達するには、日銀はさらに金融緩和を実行し政府は積極財政を
 継続すれば良いだけ、そうすれば日本はデフレから完全脱却できる

そうした中で、もし日本が今後景気が低迷することになれば、イエレン氏の提言を実行せずに、異様な経済政策をした場合のみです。たとえば、復興税制のような、コロナ税制を導入し、緊縮財政を実施し、日銀が金融引締政策をするという、まともではない政策を実行した場合です。

ちなみに、もしコロナ税制を導入することになれば、市場は将来を悲観して、日本の株価は確実に下がることになるでしょう。

そのようなことをせずに、物価目標が2%を超えるまで、政府は積極財政を行い、日銀はさらなる金融緩和を実行すれば良いのです。そうすれば、日本は確実にデフレから脱却できます。これを続けるとインフレになりますが、2%を超えてさらにインフレになり、特に物価が上がっても、失業率が下がるようなことがなくなれば、政府は緊縮財政に転じ、日銀は金融引締に転ずれば良いのです。

これ以外のことをすれば、確実に日本はデフレに舞い戻り、デフレスパイラルと円高に悩まされることになります。

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