高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ コロナ追加経済対策、批判的な報道は「まともだという証明」
追加経済対策が決まった |
マクロ経済学では「まず規模」
日本経済新聞は、社説で「経済対策の規模が膨らみすぎてないか」という見解だ。
政府内にはいろいろな立場があるが、筆者から見れば、以下で理由を書くが、皮肉をこめていえばこれはありがたい見方だ。
日経新聞は、「無駄やばらまきを排除できたとは言い難い」といい、防災・減災事業(国土強靱化)をやり玉にあげ、「本当に必要な事業を選別したようにはみえない」としている。
公共事業が、コストベネフィット分析による費用便益費で採択されることを日経新聞は知っているのか。知らないのだろう。もし知っていれば、これまで割引率が4%と高すぎて、必要な公共事業が採択されなかったこともわかるはずだ。マスコミはこうした専門的な知見がないので、雰囲気でいい加減なことを書いている。この割引率は見直しが検討されており、今後の公共事業採択の可否を左右するものなので、日経新聞は取材して是非記事にすべきだろう。
日経新聞は社説の最後を「競うべきは『賢い支出』であって、経済対策の規模ではない」と締めくくっている。これでは、マクロ経済政策の基本がわかっていないと言わざるを得ない。
まず潜在GDPと実際のGDPの差であるGDPギャップは、内閣府の推計でも30兆円超もある。これを放置すると、半年後以降の失業率が上昇する。おそらく失業率2%程度上昇、失業者で見れば120万人程度が増えるだろう。それに伴う自殺者は6000人程度増えるだろう。それはコロナによる死者2400人の2倍以上だ。
マクロ経済政策の究極の目標は雇用の確保だ。それができれば自殺者の増加を抑えることもできる。
以上のことから、GDPギャップを経済対策の有効需要で埋めないと後で失業が増え、結果として命が失われるので、経済対策はまず規模というのが、マクロ経済学からは正解になる。日経社説を書いた人は経済学のイロハを学びなおしたほうがいい。
こうしたことから、日経社説で「大きすぎる」と批判されたのは、筆者から見れば、今回の経済対策が妥当だと評価されたようなものになる。
大量の国債発行をどう見るか
また、朝日新聞の記事では、今回の経済対策によりと大量の国債発行となることについて、「新型コロナ前から先進国で最悪レベルだった財政状況は一層の悪化が避けられない」と書かれていた。
これは間違いだ。これまでのコロナ対策では大量の国債発行がなされたが、ほとんど日銀が買い入れている。日銀買い入れ国債について利払いがされるが、それは日銀の収益になって日銀から政府への納付金になる。このため政府にとって財政負担はない。
これはやり過ぎればインフレ率が高くなるが、今のところ、コロナのためにインフレ目標には程遠い。こうした政府と中央銀行とのコラボは、日本だけではなく欧州でも行われている。
日経新聞や朝日新聞が批判的に取り上げたのは、今回の経済対策がまともだという証明だろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「FACTを基に日本を正しく読み解く方法」(扶桑社新書)、「国家の怠慢」(新潮新書、共著)など。
【私の論評】ノーベル経済学賞受賞サミュエルソンが理論で示し、トランプが実証してみせた
「財政赤字=将来世代へのつけ」の大嘘(゚д゚)!
このブログでは、政府の経済対策については厳しいことも掲載してきましたが、それは菅政権による事業費総額73兆円(財政支出40兆円)のコロナ経済対策がまとまる前の話であり、さらに第二次補正予算の予備費10兆円が、つい最近まで使われず、7兆円積まれたままであることを批判したものです。
最新の報道では、政府は15日、追加経済対策を受けた2020年度第3次補正予算案を閣議決定しました。一般会計の歳出の追加額は21.8兆円で、税収減の穴埋めを含め新規国債22.4兆円を追加発行するとしています。
そうなると、真水の経済対策は約22.4兆円ということになります。高橋洋一氏は、コロナ対策には100兆円必要と語っていたことがあります。安倍政権でコロナ対策の約60兆使っていますから、菅政権ではこれに加えて、40兆使う必要があるわけです。今後来年の補正予算で、20兆くらいの真水の予算を計上すれば、経済対策としては満点になります。
これを考えると、日本の経済対策は金額的には、高橋洋一氏が語るように、まともといえます。
このため、政府にとって財政負担はありません。国債発行をし過ぎればインフレ率が高くなるるでしょうが、今のところ、コロナのためにインフレ目標には程遠いです。
現状は、コロナショックで需要喪失なので、インフレの心配がなく、しかも通貨発行益を活用するので財政悪化もなく将来世代への心配もありません。こうした政府と中央銀行とのコラボは、日本だけではなく欧州でも行われています。
この期に及んでも、まだ「将来世代への付け回し」というのは、呆れてしまいます。日銀以外が保有する国債についてはいずれ税金で返済するのですが、日銀が保有する国債はそうではなく、利払い負担も償還負担もありません。
強烈なインフレにならない範囲で、国債発行という手法が使えるのです。不勉強なテレビのコメンテーターも似たような発言をしていますが、今や単なる無知をさらけ出しているだけです。
なぜかといえば、戦争のためには大砲や弾薬が必要なのですが、それを将来世代に生産させてタイムマシーンで現在に持ってくることはできないからです。その大砲や弾薬を得るためには、現世代が消費を削減し、消費財の生産に用いられていた資源を大砲や弾薬の生産に転用する以外にはありません。
将来世代への負担転嫁が可能なのは、大砲や弾薬の生産が消費の削減によってではなく「資本ストックの食い潰し」によって可能な場合に限られるのです。
このサミュエルソンの議論は、感染拡大防止にかかわる政府の支援策に関しても、まったく同様に当てはまります。政府が休業補償や定額給付のすべてを赤字財政のみによって行ったとしても、それが資本市場を逼迫させ、金利を上昇させ、民間投資をクラウド・アウトさせない限り、赤字財政そのものによって将来負担が生じることはありません。
このサミュエルソンの議論は、感染拡大防止にかかわる政府の支援策に関しても、まったく同様に当てはまります。政府が休業補償や定額給付のすべてを赤字財政のみによって行ったとしても、それが資本市場を逼迫させ、金利を上昇させ、民間投資をクラウド・アウトさせない限り、赤字財政そのものによって将来負担が生じることはありません。
ノーベル賞を受賞した経済学者ポール・サミュエルソン氏 |
そして、世界的な金利の低下が進む現状は、資本市場の逼迫や金利の高騰といった経済状況のまさに対極にあるといってもよいです。それは、政府が感染拡大防止のために実施した経済的規制措置によって生じている負担の多くは、将来の世代ではなく、今それによって大きく所得を減らしている人々が背負っていることを意味します。そうした人々に対する政府の支援は、まさしくその負担を社会全体で分かち合うための方策なのです。
こうしたノーベル賞を受賞した経済学者であるサミュエルが、赤字財政そのものによって将来負担が生じることはないと述べ、事実米国のトランプ大統領が大規模な赤字財政を実行して、米国人の赤字財政に関する考えを変えてしまいました。
トランプ氏は企業や富裕層に対して大幅減税を行う一方で、軍事支出を拡大し、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」をはじめとする社会保障支出のカットも阻止し、財政赤字を数兆ドルと過去最悪の規模に膨らませました。新型コロナの緊急対策も、財政悪化に拍車をかけています。
これまでの常識に従うなら、このような巨額の財政赤字は金利と物価の急騰を引き起こし、民間投資に悪影響を及ぼすはずでした。しかし、現実にそのようなことは起こっていません。トランプ氏は財政赤字を正当化する上で、きわめて大きな役割を果たしたといえます。
ましてや、日本の場合は、デフレ傾向にあるのですから、インフレには程遠く、この状況を改善するには、国債を大量に発行して、感染対策にどんどん使うべきなのです。物価目標2%を超えるまで実行すべきなのです。そうして、日本は負債だけをみるのではなく、政府資産もみれば、トータルではさほど酷い財政赤字ではないのですから、なおさらです。統合政府(政府に日銀も含めた場合の政府)ベースでは、2018年くらいから、財政赤字どころか、黒字になっているくらいです。この状況は、米国や英国などよりも良い状況です。
大量の国債発行が将来世代への付け回しと主張する方々は、是非ともその内容を論文にでも書いて発表していただきたいです。これがノーベル賞委員会に受理されれば、サミュエルソンをはじめとする多くの経済学者の過ちを覆し、ノーベル経済学賞を受賞できます。日本では、未だ経済学賞の受賞者が出ていないので、日本からそれを出すという意味あいでも是非とも実行してみてください。無論これは、皮肉ですが・・・・・・
このブログでも何度か主張してきましたが、今回の戦後最大の危機のときに、今こそ大規模な積極財政と金融緩和をしなければ、大量の失業者や自殺者を出すことになり、その悪影響は長期にわたって続くことになり、それこそ将来世代に対してつけを回すことになります。
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