2020年12月1日火曜日

中国が輸出管理法を施行 梶山経産相「企業はしっかり備えを」―【私の論評】先進国が中国から唯一学べることは、統治と実行を分離しない政権はいずれ崩壊すること(゚д゚)!

  中国が輸出管理法を施行 梶山経産相「企業はしっかり備えを」

梶山弘志経済産業相=1日午前、首相官邸


 中国が、国家安全に関わる戦略物資や技術の輸出を規制する「輸出管理法」を1日に施行した。中国の安全保障に害を及ぼすとみなした企業をリスト化して禁輸措置をとることが可能となり、対中圧力を強めている米国に対抗する狙いがある。施行までに管理対象となる品目を公表していないなど、運用をめぐる不透明さに海外で懸念が強まっている。

 同法は、安全保障に関わると判断した物資や技術などを当局がリスト化して輸出を制限する。対象品目を輸出する際には、事前に輸出先や使い道を中国当局に申請し、許可を得ることが必要になる。特定の外国企業をリスト化して輸出を禁止できるようにするなど、米国などに対する報復措置を整える狙いが鮮明だ。




 管理対象品目には、中国が世界の生産シェアの6割強を占めるレアアースが入るとの見方があり日本企業も警戒している。

 梶山弘志経済産業相は1日の閣議後記者会見で、同法については「どのように運用され、どんな品目が対象になるのか依然として明らかでない」と指摘。日本企業に「米中それぞれの市場における事業が阻害されないよう、しっかりと備えてほしい」と求めた。問題が起きれば政府が支援する意向も示した。

【私の論評】先進国が中共から唯一学べることは、統治と実行を分離しない政権はいずれ崩壊すること(゚д゚)!

安全保障上の問題を理由とする輸出規制のための法律は多くの国がすでに制定しています。輸出品が核兵器などの武器開発に使われた結果、自国の安全保障が危うくなることを防ぐためで、日本にも「外国為替及び外国貿易法」などがあります。中国が同様の法律を整備することも当然です

ところがその内容を詳しく見ると、伝統的な安全保障に関する世界の常識とはかけ離れた中国の異様な考え方が見えてきます。


この法律はまず、戦略物資など管理品目を決めて輸出を許可制にするとともに、自国の安全保障などを理由に禁輸企業のリストを作り、これら企業への輸出を禁止するとしています。管理品目や禁輸対象企業のリストは年内にも策定すると伝えられています。

米国が大統領選と政権移行期というタイミングでのこうした動きは、中国に対する米国のさまざまな輸出規制への対抗措置手段を法的に整備し、次の大統領がトランプになろうがバイデンになろうが、新政権の出方次第では厳しい措置を発動するという構えを見せる意図があるのでしょう。

しかし、この法律にはそれ以外に注目すべき点があります。法案作成の最終段階でこの法律には「域外適用規定」が追加されました。その内容は「中国国外の組織と個人が、本法の規定に違反し、拡散防止などの国際義務の履行を妨害し、中国の国家安全と利益に危害を及ぼした場合は、法に基づいて処理し、その法的責任を追及する」となっています。こうした条文は主要国の法律にはありません。

この条文が何を意味しているのか、実はよくわかりません。「中国国外の組織と個人」「中国の国家安全と利益」「危害」などのキーワードの定義が書かれていないからです。「中国の国家安全」は漠然とながら想像できますが、その次に出てくる「利益」や「危害」は幅広い意味を持つ言葉です。

「利益」は軍事にとどまらず、政治、経済、社会などあらゆる分野に拡大解釈できます。その判断は中国共産党しかできないでしょうし、特定国の特定企業を意図的に排除しようと思えばいくらでも恣意的に法律を執行できます。一方、企業にとってはリスクを回避しようのない規定です。

さらに続く部分で「法に基づいて処理」と書かれているが、ここでいう「法」はその前に出てくる「本法」とは明らかに区別されており、輸出管理法以外の法が適用されそうです。ただ、どの法律が適用されるのか不明です。そうして最後の「法的責任の追及」も何を意味しているのかわかりません。

意図的に抽象的な言葉を並べることで、中国当局が好きなように解釈し、幅広く適用できるようにしているとしか考えられないです。日米欧の主要産業団体は法律の草案が公表された段階で危機感を持ち、中国政府に対して「外国企業を著しく不安にさせる」などとして同条項の削除を求めたのですが、要求は受け入れらませんでした。

中国の習近平国家主席が昨年5月20日、江西省内のレアアース企業を視察した


さらに、この条項とともに注意深く分析しなければならないのが、中国の安全保障についての考え方です。

中国の国家安全についての考え方は習近平国家主席が2014年に打ち出した「総体国家安全観」によく示されています。その内容は日米欧など主要国の伝統的安全保障の概念とはかなり異なっています。

まず、国家安全の対象に「国土の安全」「軍事の安全」など10余りの領域を列挙していますが、その冒頭に挙げているのは「政治の安定」です。さらに習氏は「対外的安全保障と対内的安定維持を同時に重視する」とも語っています。

中国憲法の前文には「中国の各民族人民」が「中国共産党の指導の下」にあることが明記されています。さらに習氏は2017年の党大会で、「党政軍民学、東西南北中、一切の活動を党は領導する」と発言しています。

これは共産党はもとより、政府、人民解放軍、民間部門、学術部門などすべての分野において、また地理的にも中央を含め中国全土で共産党指導部が主導権を持つという権力集中を意味しています。つまり、中国における政治の安定とは、中国共産党の一党支配の維持・継続を意味しているのです。

近年、安全保障という言葉は軍事に限定されず、経済や地球環境など幅広く使われることが増えてきました。伝統的には軍事的な面が中心で、外国軍の侵略などから領土、主権、国民を守ることなどを意味しています。そのため各国は自国の軍事力を整備するとともに、貿易面では武器に転用されかねない製品や技術の輸出を規制しています。

ところが中国共産党の安全保障の考え方は、習近平主席が強調しているように政治の安定が最優先であり、また「外からの脅威」とともに「国内の安定」も安全保障政策上、重要な課題になっているのです。

対内的安定がなぜ重要なのでしょうか。中国共産党は、新疆ウイグルやチベット、内モンゴルなど各自治区での少数民族の独立運動や香港の民主化運動、さらに台湾問題など中国は国内に深刻な問題を抱えています。また、人民が政府や企業を相手に集団で諸要求の実現を求めてデモや暴動を起こす「群体性事件」も深刻な問題となっています。正確な数は公表されていないが1年間に10万件以上起きていると言われています。

群体性事件は、中国社会が抱える地域格差、所得格差などさまざまな矛盾が解決できないため、人民に不満がたまっていることを示しています。そうして、これらの運動が政府批判、反体制運動に広がっていくと、共産党一党支配の正統性を揺るがしかねません。中国共産党にとってこうした運動を抑え込むことが対内安定維持であって、最も重要な安全保障上の課題となっているのです。

問題は中国流の安全保障観では、中国国内の安定と対外的安全保障が不可分となっていることです。少数民族の独立運動や香港の民主化運動について、中国政府は中国共産党の統治の正統性に傷をつけないため自らの非を一切認めず、一貫して「外国勢力が国内勢力と裏で連携、結託している」として暴動などを取り締まっています。そうして米国などが人権問題であると非難すると、「内政干渉である」と激しく反発しています。

こうした観点から輸出管理法の域外適用規定を読めば、そこに込められた政治的意図が透けて見えます。つまり、中国政府は国内の民主化運動などに関与した国があれば、本来の輸出管理の目的を外れてこの規定を自由に使い、その国の企業などを制裁対象にすることができるのです。

同じような内容は6月に成立した香港国家安全維持法の条文にも盛り込まれています。同法には「国家安全保障を脅かす外国または域外勢力との共謀罪」が規定され、香港に住んでいない外国人もこの法律によって処罰すると書かれています。

つまり、中国の安全保障の最大の目的は共産党支配を安定させることであり、それは国外の脅威への対処だけでなく国内の反政府運動などを抑え込むことも意味しているのです。そうして、国内政策の矛盾に対する批判の矛先が共産党に向かわないようするため、「内政干渉」などを理由に国外に批判の対象を作って制裁措置をとるのです。それを正当化するための法律の一つが今回の輸出管理法なのでしょう。

よく言われることですが、日本や欧米諸国は、法によって権力を拘束する「法の支配」(Rule of Law)が定着しています。これに対し中国のシステムは法が権力者である中国共産党に奉仕する「法による統治」(Rule by Law)となっています。今回の輸出管理法も明らかにこの規則が当てはまっています。

ドラッカー氏は、政府の役割である統治について、以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。「統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い」というのです。

しかし、ここで企業の経験が役に立ちます。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知りました。現在の上場企業等は、両者が分離されているのが普通です。

たとえば、最近は「○○ホールディングス」等という持株会社の名前を聞くことがありますが、これら持株会社は株を所有して管理するだけの会社ではありません。様々な事業会社グループの中で、この持株会社が本部として、グループ全体の統治の役割を担っているです。

セブン・アンド・アイ ホールディングスの取締役会

企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものではありませんでした。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。実際、統治と実行を厳密に区分した企業は、大企業となっても成長しています。

憲法や人民解放軍を中国共産党の下に位置づけ、経済運営にまで直接介入し、さらに法律に「域外適用規定」の規定を設けて海外にまで直接介入しようとする中国共産党は、会社の規模が大きくなっても、統治と実行の両方を無理やり実行しようとする、企業の経営者のようです。そのような試みは必ず失敗することが、過去の歴史が示しています。

そうして、中国共産党とて例外とはならないでしょう。早晩、統治不能となり崩壊します。中国が例外のように見えるのは、その図体があまりにも大きいからです。大きな会社が、無理をして統治と実行を分離せずに、旧態依然の経営をしていれば、しばらくの間は小さな企業よりは持つでしょうが、いずれ崩壊します。今の中国もそうなります。

ただし、中国以外の国々、それも先進国といわれる国々や国連などの国際組織も、統治と実行の分離がしかりなされていないところがあります。それが、今日政府や国際組織の機能不全を招いています。

日本でも、そのために財務省があたかも大きな政治グループのように振る舞い政治に関与し、「政治主導」というあたりまえのことが未だに実現されていません。

今後数十年で、中国共産党は崩壊するでしょうが、統治と実行が分離されていなければ、何が起こるのかを、我々も中国共産党の崩壊の過程から学ぶべきです。

ちなみに、ドラッカー氏は、政府は統治をすべきであって、それ以外は政府の外に出すべきと主張しています。先進国の政府もいずれ段階的にでも、そのようにすべきです。そうでないと、いずれ現在の中国のように、機能不全を起こし、政府が崩壊するということにもなりかねません。

先進国が中国から学べるとすれば、これだけかもしれません。

未だ米国大統領選挙の結果がでていませんが、トランプ政権は輸出管理法に対抗する措置を実施するでしょう。それもかなり厳しい措置になると思います。たとえ、バイデンが大統領になったとしても、就任前に取り返しがつかなくなるくらいの、厳しい措置を実行するのではないかと思います。

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