2020年11月29日日曜日

「未来投資会議」の廃止で、いよいよ菅総理が「経済政策」に本腰を入れ始めた…!―【私の論評】人事を駆使し、トップダウン方式の政策決定過程を日本でも定着させる菅総理(゚д゚)!

「未来投資会議」の廃止で、いよいよ菅総理が「経済政策」に本腰を入れ始めた…!

発足から2ヵ月…



「成長戦略会議」を新設

菅義偉内閣が発足して、約2ヵ月が経った。この間、「ハンコ行政」の廃止や、デジタル庁新設の決定など、霞が関周りでいくつもの変化があった。

中でも大きかったのが、前政権において経済政策の旗振り役だった「未来投資会議」を廃止し、「成長戦略会議」を新設したことだろう。そもそも、未来投資会議は2016年9月、安倍晋三前首相を本部長とする「日本経済再生本部」の下に設置されたものだ。

元来、経済財政運営を議論してきたのは、'01年に創設された経済財政諮問会議だった。

ところが、同会議は財務省や内閣府の影響力が大きかった。そこで、政策決定の主導権を握ろうと考えた経済産業省が音頭を取って'13年に立ち上げたのが、産業競争力会議で、その発展形が未来投資会議だった。

産業競争力会議も未来投資会議も、閣僚のほか民間議員により構成され、消費増税対策や社会保障改革、最近では新型コロナ後の社会像の設計など、幅広い分野の議題に取り組んできた。

そして、その会議運営には、総理大臣補佐官だった今井尚哉氏を筆頭に、経産官僚の意向が色濃く反映されてきた。

ところが、菅内閣が発足すると、同会議は「成長戦略会議」と名前を変えて機能を縮小され、議長も首相から官房長官に格下げされた。これは今後、首相が議長を務め財務省が主導する財政諮問会議よりも格下の会議として位置づけられることを意味する。

財務省の手練手管には乗らない菅総理

官邸周りの人事からも言えることだが、経産省の影響力が、菅政権において大幅に縮小されるのは明らかだろう。そのうえ、菅首相は官房長官時代に自らの秘書官だった財務省の矢野康治主計局長と親密であるとされる。

財務省の主流である東大法学部ではなく、一橋大学出身の矢野氏が入省同期でトップの主計局長に抜擢されたのは、菅政権の成立を見越した「布石」だったというのが、大方の霞が関ウォッチャーの見立てだ。

財務省矢野康治主計局長

こうして見ると、すっかり財務省優位のように思われるが、事はそう簡単ではない。

菅首相は、官房長官時代に内閣人事局を通じて霞が関官僚を掌握しているため、財務省といえども、かつてのように政策を完全にコントロールするのは難しいからだ。

さらに、菅首相は政治の師として故・梶山静六氏を挙げている。梶山氏は、官房長官時代の1996年、旧大蔵官僚の振り付けの下で、消費増税を決断した。ところが、後に梶山氏が「俺は大蔵省に騙された」と深く悔いていたというのは、よく知られたエピソードだ。

その姿を間近で見てきた菅首相が、財務省の手練手管にそう簡単に乗せられるとは思えない。

実際、政権発足以来、菅首相は学者やマスコミ、経済人など官僚以外の様々な人々を広く呼び込み、じっくりと話を聞いて判断を下している。こうした菅首相の人柄やスタイルから見れば、いずれかの省庁が主導権を握るとはどうしても思えないのだ。

課題によっては、省庁の判断を待たず、菅首相が自らで決断するという、これまでの日本にはなかったトップダウン方式の政策決定過程が生まれることになるかもしれない。

『週刊現代』2020年11月28日号より

【私の論評】人事を駆使し、トップダウン方式の政策決定過程を日本でも定着させる菅総理(゚д゚)!

財務省優位の組織の筆頭というか、実質財務省の隠れ蓑の組織としては、財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会」が筆頭にあげられるでしょう。その財政制度審議会は25日来年度予算案の編成に向けた意見書をとりまとめ、麻生財務大臣に提出しました。

財政制度等審議会=財政審は大学教授や経営者らがメンバーで、毎年11月頃に予算編成の在り方について提言する意見書=建議を取りまとめています。

財政制度等審議会 財政制度分科会 委員名簿

< 委員 > 赤井 伸郎大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
 遠藤 典子慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授 
  大槻 奈那マネックス証券(株)執行役員チーフアナリスト・名古屋商科大学大学院教授
  黒川 行治千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科教授
  神津 里季生日本労働組合総連合会会長
 榊原 定征東レ(株)社友 元社長・会長
櫻田 謙悟SOMPOホールディングス(株)グループCEO 取締役 代表執行役社長
佐藤 主光一橋大学国際・公共政策大学院教授
  角   和夫阪急電鉄(株)代表取締役会長
  

十河 ひろ美 

(株)ハースト婦人画報社ラグジュアリーメディアグループ編集局長
兼リシェス編集長 
  

武田 洋子

(株)三菱総合研究所シンクタンク部門副部門長兼政策・経済センター長
  中空 麻奈BNPパリバ証券(株)グローバルマーケット統括本部 副会長 
  南場 智子 (株)ディー・エヌ・エー代表取締役会長 
  藤谷 武史東京大学社会科学研究所教授
 増田 寛也東京大学公共政策大学院客員教授
宮島 香澄日本テレビ放送網(株)報道局解説委員
    

<臨時委員>

 秋池 玲子ボストン・コンサルティング・グループ
マネージング・ディレクター&シニア・パートナー 
雨宮 正佳日本銀行副総裁
  上村 敏之関西学院大学学長補佐・経済学部教授
  宇南山 卓京都大学経済研究所教授
葛西 敬之東海旅客鉄道(株)名誉会長
  河村 小百合(株)日本総合研究所調査部主席研究員
喜多 恒雄(株)日本経済新聞社代表取締役会長
  木村 旬(株)毎日新聞社論説委員
  権丈 英子亜細亜大学副学長・経済学部教授
  小林 慶一郎東京財団政策研究所研究主幹・慶應義塾大学経済学部客員教授
小林 毅(株)フジテレビジョン取締役
進藤 孝生日本製鉄(株)代表取締役会長
末澤 豪謙SMBC日興証券(株)金融経済調査部部長金融財政アナリスト
  竹中 ナミ(社福)プロップ・ステーション理事長
  田近 栄治一橋大学名誉教授
  伊達 美和子森トラスト(株)代表取締役社長
  田中 里沙事業構想大学院大学学長・(株)宣伝会議取締役
土居 丈朗慶應義塾大学経済学部教授 
  冨田 俊基(株)野村資本市場研究所客員研究員
  冨山 和彦(株)経営共創基盤IGPIグループ会長
  平野 信行(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役執行役会長
  広瀬 道明東京ガス(株)取締役会長 
別所 俊一郎東京大学大学院経済学研究科准教授
  堀   真奈美東海大学健康学部長・健康学部健康マネジメント学科教授
神子田 章博日本放送協会解説主幹
村岡 彰敏(株)読売新聞東京本社代表取締役副社長
横田 響子(株)コラボラボ代表取締役・お茶の水女子大学客員准教授 
吉川 洋立正大学長
 

 (注)◎は分科会長、○は会長代理


東レ会長 榊原 定征氏

今年の建議ではまず、日本は危機的な財政状況にあり、新型コロナウイルスの感染拡大防止、経済回復、それに財政健全化という“三兎”を追う厳しい戦いを強いられるとしました。

その上で、新型コロナ対策で行った持続化給付金など、非常時の支援を常態化させれば「モラルハザードを通じて、今後の成長の足かせとなりかねない」と懸念を表明しました。「単なる給付金」ではなく、コロナ後を見据え経済構造の変化への対応などに支援の軸足を移し、成長力の強化につなげるよう求めました。

また、社会保障制度については、受益と負担のアンバランスを正す取り組みを着実に進め、「将来に不安を感じている現役世代が希望を持てるようにしていくことで、消費の促進にもつながる」としました。

言うに事を欠いて『新型コロナ対策で行った持続化給付金など、非常時の支援を常態化させれば「モラルハザードを通じて、今後の成長の足かせとなりかねない」』とは、なんという非情で傲慢な言葉でしょうか。財務省の隠れ蓑となっている財政制度等審議会こそが日本の未来をぶち壊すといっても過言ではありません。

そもそも「財政制度等審議会」は国民生活を無視し財政カットだけしか考えない財務省の隠れ蓑組織です。今やインフラ関連公共事業も1998年をピークに右肩下がりで減らされる一方です。政府には赤字であっても維持しなければならないものがあります。インフラは赤字であっても必要なのです。

しかも、このブログでも何度か掲載してきたように、日本政府の貸借対照表(BS)では、膨大な政府負債があるのは事実ですが、一方では政府債権もあり、正味(ネット)でみると、日本政府の負債は大したことはなく、英米よりも低い水準です。

それどころか、日本政府に中央銀行(日銀)も含める見方でみても、英米より良いどころか、2018年あたりには、財政赤字はなくなった状況です。

このような状況で、緊縮財政や増税などする必要性など全くありません。一日も早く、大幅な減税と、数十兆円規模の積極財政を行うべきです。積極財政として、実行しなければならないことは、コロナ禍の現在いくらでもあります。効果のある方式ですぐにも実行すべきです。

菅総理もそのことは、熟知していることでしょう。

さて、上にあるように菅総理は、官房長官時代に内閣人事局を通じて霞が関官僚を掌握しているため、財務省といえども、かつてのように政策を完全にコントロールするのは難しいというのは事実だと思います。

上の記事では、課題によっては、省庁の判断を待たず、菅首相が自らで決断するという、これまでの日本にはなかったトップダウン方式の政策決定過程が生まれることになるかもしれないとしていますが、本当にそうなるかもしれません。

菅総理は、すでに人事の魔術師ともいうべき面を垣間見せています。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載ます。
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人事の魔術師菅総理

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では菅総理は、「人事が最大のコントロール」手段であることを熟知していると評価しました。まさに、人事こそは、他のどのようなコントロール手段にも増して最大のコントロール手段なのです。

この記事より一部を引用します。
"
経営学の大家ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
まさに、真に力のあるコントロール手段は、人事なのです。他にも様々なコントロール手段もありますが、しかし人事にまさるものはありません。単純な人事なら、AIにもできますが、政府の仕事に関わる重要な人事はやはり、総合的な観点から人間が行わなければなりません。
"
人事というと、報復人事などネガティブなものを思い浮かべがちですが、ドラッカーの言うように、特に昇進の決定、どのような人たちを昇進せるかによつて、菅政権の精神を示すことなのです。このことも、菅総理は熟知しているでしょう。無論、普通の会社で行われるような、マイナスの人事も当然行うことでしょう。これができて、はじめて政治主導が可能になります。

民主党が掲げた「政治主導」はまさに絵に描いた餅に過ぎませんでしたが、菅総理は、様々な人事手段を駆使して、トップダウン方式の政策決定過程を日本でも定着させ政治主導を実現するかもしれません。

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