2020年11月9日月曜日

中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか―【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!

 中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか

岡崎研究所

 英フィナンシャル・タイムズ紙のコメンテーター、ギデオン・ラックマンが、10月19日付の同紙に「気が散った米国は台湾にとり危険である。ワシントンでの政治的混乱は北京に機会の窓を開くかもしれない」と題する論説を寄せ、米中衝突の危険性を指摘している。


 最近、中国の軍用機は、より頻繁に台湾と中国との中間線を越え、台湾の領空を侵犯し、台湾側はスクランブル発進をかけている。11月3日の米国大統領選挙後の混乱の時期を狙って、北京が台湾に何かしかけてこないとも限らない。

 台湾への中国の侵攻は、長年、米国により抑えられてきた。米国は、台湾関係法により、台湾に武器を売り、米国が台湾防衛のために戦う可能性をオープンにしてきた。1996年、中国が台湾周辺海域にミサイルを発射した時には、米国は地域に空母を送り、警告した。その時以来、中国は大規模軍拡を行ってきた。

 現在の危機の背景には、習近平が2012年に指導者になった後の北京の台湾政策の急進化がある。習近平は、台湾に対する言辞を強めるとともに、中国は百万以上のウイグル人を収容所に入れ、香港の民主化運動を粉砕し、南シナ海で軍事基地を作り、ヒマラヤでインド兵を殺した。

 台湾への中国の全面攻撃は巨大なリスクである。台湾海峡を越え、兵力を台湾に上陸させる試みは多くの死傷者を出す。よって、北京は、より小規模な軍事、経済、心理的介入で、台湾人の士気と自治を侵食することを狙うことがもっとありうる。

 このラックマンの論説は頭の体操としてはよく書けているものである。台湾問題は、日本の安全保障に極めて重要なので、紹介すべきであると思い、取り上げた。

 台湾が米中覇権競争の中で一番発火しやすい問題であり、日本の安全の脅威になる可能性が一番高い問題であると考えている。北朝鮮の核の脅威などより、もっと心配すべき問題であり、我々は台湾問題に大きな注意を払っていくべきであると考えている。

 ラックマンの言う米中衝突の危険はもちろんゼロではないだろうが、その可能性はそれほど大きくないとも考えられる。それは、台湾に中国が武力侵攻しても、米国が介入に躊躇する事態は想像しがたく、米国の出方を中国が読み間違う怖れは小さいと考えられるからである。

 現在の中国の国家主席である習近平は、鄧小平とは考え方が外交姿勢に関して違うように思えるが、孫子の兵法、すなわち戦わずして勝つことを最善の策とみなしており、台湾人の士気を崩すなど、サラミ戦術をとってくる可能性が高い。ラックマンも同じ考えであるように思える。

 日本としては、台湾の民主主義を助け、台湾ナショナリズムがしっかりと台湾に根を下ろすことを、これまで同様に支援していくということだろう。中国が両岸関係の平和的解決という日米の要請を無視した場合には、日本もそれなりの覚悟をして対応するということだろう。

【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!

台湾に中国が武力侵攻した場合、米国が何の躊躇もなくすぐにこれに介入することになるでしょう。

そうして、米軍としてはすでに台湾、尖閣諸島では中国軍を迎え撃つ準備を、南シナ海では中国の軍事基地を攻撃する準備を整えているでしょう。

そうして、その準備とは、これらの海域に多数の米軍の原潜艦隊を配置し終わっているということです。

東シナ海や、南シナ海、台湾海峡などに、米軍が原潜を定期的に派遣しているのは、間違いないでしょう。水中の「航行の自由作戦」は、ずっと前から定期的に行われ、中国海軍の動向は、すでに米軍によってしっかりと把握されていることでしょう。通常潜水艦の行動は、いずれの国も表には出さないのですが、米軍はすでに5月下旬に潜水艦の行動に関して公表しています。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて今年5月下旬に報道されました。米海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていません。とこが、この時は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

私自身は、米国はコロナに関係なく、原潜を南シナ海や東シナ海に常時派遣しているのでしょうが、今回はコロナ感染により、米軍の力が弱っていると中国にみられ、この地域で中国の行動を活発化することが予想され、それを抑止すためあえて公表したものとみています。米軍は潜水艦のみでも、中国軍を抑止ができるとみているということです。

そうして、この公表は米軍としては、普段から定期的に西太平洋に派遣している潜水艦隊に加えて、さらに7隻程度派遣しているということを示唆しているのだと思います。

そうすると、この地域におそらく少なくとも14隻、あるいはもっと多く20隻あまりもの米軍原潜艦隊が潜んでいるとみて間違いないと思います。

米国ではコロナ禍は今でも続いていますから、この体制は今も崩していないでしょう。潜水艦というと、その破壊力はあまり知られていませんが、現代の米軍の原潜の破壊力は相当なものです。

かつてトランプ大統領が、朝鮮有事を懸念して空母とともに、原潜を派遣したときに、自慢げに「米軍の原潜は空母に匹敵する破壊力を持つ、水中の空母のようなものだ」と語っていたことがあります。

米空母ロナルド・レーガン(CVN-76)

空母と原潜の破壊力を単純に比較することはできないですが、現在の米軍の原潜の破壊力はたしかに空母に匹敵します。原潜のなかには、魚雷はもちろん、各種のミサイル、戦術核や戦略核を搭載するものもあります。しかも、それが海中深くに潜んでいて、なかなか発見しにくいのです。

ただし、原潜は構造上どうしてもある程度騒音がでるので、発見しやすいです。ただし、中国の対潜哨戒能力はかなり低いですが、米軍は世界一ですので、潜水艦隊の運用では米軍のほうが、中国軍より圧倒的に優れています。

深海に潜んで動かなければ、中国が発見するのはかなり困難です。米軍要所要所に原潜を配置しておき、中国軍が不穏な動きを見せれば、水中からミサイルを発射して、攻撃するという戦法をとれば、米軍は圧倒的に有利です。

この原潜が潜むだけではなく動き回れば、中国軍もこれを発見できるチャンスもありますが、米軍のほうが哨戒能力に優れていますから、動き回る前に中国の対潜哨戒機、哨戒艦艇、潜水艦等を破壊してしまえば、中国側が米潜水艦を発見できなくなります。

これに対して、中国の原潜はかなりの騒音を出すので、米軍はこれをすぐに発見できます。そうなると、中国が台湾を奪取しようとして、航空機や艦艇を派遣すれば、これらはことごとく撃墜、撃沈されてしまうことになります。

仮に、中国軍が台湾に上陸して、橋頭堡を築いたにしても、それを維持することはできません。米潜水艦隊が台湾を包囲すれば、中国軍は補給ができずお手上げになるからです。

さらに、西太平洋には中国にとって別の手強い伏兵がいます。それは、日本の潜水艦隊です。日本も今年の3月に最新鋭艦「たいげい」が進水しましたが、これを加えると日本が保有する潜水艦は22隻となりました。

今年進水した「たいげい」

日本の潜水艦は、このブログにも掲載したように、原潜ではない通常型のものですが静寂性は世界一です。その静寂性を利用すれば、あらゆる海域で中国に発見されず哨戒活動等にあたることができます。無論、これによって得られた情報は米軍と共有することができます。

これでは、中国に勝ち目は全くありません。そのため、中国は台湾に侵攻しても、意味がありません。中国ができるのは、せいぜい台湾海峡等で大規模な軍事演習をして台湾を脅すことくらいでしょう。そのことを理解しているからこそ、中国は三戦に力をいれているのでしょう。

それでも敢えて中国が台湾に侵攻した場合、ますば米国潜水艦隊によりほとんどの中国の艦艇、航空機が破壊されることになります。無論上陸用舟艇なども破壊され、上陸部隊は殲滅されるかもしれません。

それでも、中国軍が無理やり上陸した場合は、米軍は場合によっては、中国本土のミサイル基地等も潜水艦によって破壊するでしょう。そうして、中国の脅威を取り除いた後に、さらに台湾を包囲して、補給を断ち弱らせた後に空母打撃群を派遣して中国陸上部隊を攻撃してさらに弱らせ、最終的に強襲揚陸艦等で米軍を台湾に上陸させ、上陸した中国軍部隊を武装解除して無力化することになるでしょう。

今年4月11日、上海にある造船所の桟橋に係留艤装中だった中国海軍初の
大型強襲揚陸艦「075型」1番艦から出火、未だに中国は公表していない

よく軍事評論家の中にも、空母を派遣しても中国の超音速ミサイルに攻撃されて、米国は負けるなどとする人もいますが、こういう人たちに限って、なぜか潜水艦隊のことをいいません。

今年の5月に、太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋派遣されたことをもって、米軍は有事の時には、特に海洋での有事の時には最初に潜水艦隊を用いる戦術に変えたと認識すべきです。私自身は、ずっと前から変えていると思います。海洋で、わざわざ初戦で空母打撃群を派遣して、敵に格好の的を提供する必要性などありません。

ただ、手の内をわざわざバラす必要もないので、黙っていただけだと思います。ただ、コロナ禍に中国につけこまれることを防ぐため、わざわさ公表したということです。この公表の裏には、以上で述べたことを、それとなく中国に伝える目的もあったと思います。

そうして、それは日本も同じことでしょう。だからこそ、潜水艦22隻体制をはやばやと築いたのでしょう。

中国は台湾に侵攻しません。いや、できません。尖閣にも侵攻できません。南シナ海は何十年にもわたって、サラミ戦術で確保できたのですが、もはやその戦術も通用しません。

【関連記事】

中国が侵攻なら台湾「戦う」 世論調査8割が回答 米国、ミサイルなど新たに武器売却へ ―【私の論評】日米が台湾に加勢すれば、中国は永遠に台湾を奪取できない(゚д゚)!

台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」―【私の論評】米国のサラミ戦術のサラミは、中華サラミよりもぶ厚い(゚д゚)!

台湾問題だけでない中国の南太平洋進出―【私の論評】海洋国家を目指す大陸国家中国は、最初から滅びの道を歩んでいる(゚д゚)!

「台湾国産潜水艦」工場の着工迫り反発強める中国―【私の論評】日本は台湾がシーパワー国になれるよう支援すべき(゚д゚)!

0 件のコメント:

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

高橋洋一「日本の解き方」 ■ 経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき まとめ 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。 20...