2022年8月31日水曜日

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」―【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」


秋の中国共産党大会で3選される見通しの習近平国家主席だが、中国経済は厳しさを増している。中国への依存度が高い韓国経済は巻き添えを食い、ウォンも急落するなど共倒れの危機に直面する。一方、日本は経済安全保障の観点から対中姿勢を見直す構えだが、サプライチェーン(供給網)の面でも「脱中国依存」を進める企業が相次いでいる。

中国の4~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比0・4%増だった。日米などと同じ前期比年率換算すると10%程度の大幅なマイナス成長となる。「ゼロコロナ」政策による上海などの封鎖措置や、習指導部の格差解消政策「共同富裕」で、不動産業界やIT企業など規制強化を進めたことが背景にある。

不動産市況も深刻で、開発業者の資金難で建設工事が中断するマンションが全土に広がっている。購入者が、抗議のためにローン返済を拒否する動きが拡大するなど社会問題化し、金融機関の不良債権拡大につながる恐れもある。

7月の鉱工業生産や小売売上高も低調で、雇用も16~24歳の失業率は19・9%。熱波による電力不足で、生産停止する工場も相次いだ。

こうした不安な状況を受けて、今年上半期の家計部門の銀行預金残高は10兆3000億元(約205兆円)と前年同期から13%増えた。一方、7月の個人向け融資は前年同月比63%減と落ち込んでいる。

第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきたが、現状は雇用環境が厳しさを増すなかで家計の財布のひもが固くなっている。青年層の失業率の高さは、1000万人強の新卒者が社会に出るタイミングで就職の難しさを意味する。統計は景気の頭打ちを示唆している」と解説する。

中国経済不振の直撃を受けるのが韓国だ。韓国にとって、中国は最大の貿易相手だが、くしくも尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足した5月以降、対中貿易赤字が続いている。朝鮮日報は、1992年の国交正常化以来、初めて対中貿易収支が4カ月連続赤字となる見通しだと報じた。

西濱氏は「中国の生産が伸び悩むと韓国は玉突き的に弱くなる。物価高で輸入が減らない一方、輸出だけ悪化する構図だ。『工業化が進んだ経常黒字国』とみられてきた韓国だが、黒字幅はかなり圧縮されている」と分析した。

ウォン安と物価高が進むなか、韓国銀行(中央銀行)は25日、4会合連続の利上げを実施。2022年のGDP成長率見通しを2・7%から2・6%に下方修正した。

日本も「チャイナ・リスク」への対応を迫られる。自動車大手マツダは取引先の部品メーカーに、中国製部品に関して、中国以外の並行生産や在庫積み増しや、日本での在庫保有を要請した。同社メディアリレーション部は「ロックダウンで影響が出て、業績にもかなりインパクトがあった。中国を経由する部品が他社と比べて比較的多いと認識しており、できるだけ早く手元に引き寄せることが必要」と説明している。

産経新聞は、ホンダがサプライチェーンを再編し、中国とその他地域をデカップリング(切り離し)する検討に入ったと報じた。ホンダの生産拠点は二輪、四輪、エンジン工場などが中国や日本のほか、米国、カナダ、メキシコ、タイなど24カ国に及ぶ。中国からの部品供給を東南アジアやインド、北米などにシフトできるか検討する方向とみられる。

政府は今月、経済安全保障推進法の一部を施行した。中国を念頭に置いた経済リスクへの認識も高まっているが、岸田文雄政権はどう動くのか。

評論家の石平氏は「中国経済は構造的に停滞しており、台湾有事の懸念もある。専制国家では海外企業が市場を一夜にして失うリスクがあることは、ロシアの前例が示した。日本企業は産業スパイの危険が指摘されながらも中国依存を続けてきたが、もはや留まる理由は見当たらない」と強調した。

【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

上の記事で、ミクロ経済に関する描写などはある程度正しいですが、マクロ経済的な見方は間違いだと思います。

140万円相当の純金嫁入り道具セット

 上の記事で、「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきた」としていますが、見栄で経済が良くなるというのなら、中国人民銀行(中国の中央銀行) が金融緩和をすれば、中国人民にもお金がまわり、中国経済はまた繁栄するはずです。

しかし、現実はそのような、生易しい状況ではないのです。それについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを掲載します。
中国共産党中央政治局、当面の経済情勢と経済活動を分析研究する会議を開催―【私の論評】「流動性の罠」と「国際金融のトリレンマ」で構造的に落ち込む中国経済!(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、簡単にいうと中国はすでに「流動性の罠」にはまっていて、中国人民銀行が、金融緩和政策を打ち出しても、効き目がない状態に陥っています。

流動性のワナ(Liquidity Trap)とは、金融緩和により金利が一定水準以下に低下した場合、投機的動機による貨幣需要が無限大となり、通常の金融政策が効力を失うことを指します。金利水準が異常に低いと、いくら金融緩和を行っても景気刺激策にならない状況に陥ります。

実際、この記事にも掲載した通り、中国では以下のような状態になっています。
中国が何もしていないということはなく、現在金融緩和を実施しています。ところが、中国の銀行システムには十分過ぎるほどの流動性があるものの、借り入れ需要が低調なままで、銀行間の翌日物レポ金利は昨年1月以来の水準まで低下しています。
現在中国では過剰な資金が実体経済に行き渡るのではなく、金融システムに積み上がっているようです。金融緩和で需要を押し上げることができない「流動性のわな」のリスクが高まりつつあり、 コロナ感染が各地で見つかる中、7月の借り入れ需要は前月から鈍化したもようです。

この状況は、その後も改善された兆候はなく、すでに中国経済は、「流動性の罠」にはまっていたと見られます。 

では、何かこの状況を打開する方法があるかといえば、あるにはあります。国際金融には、国際金融のトリレンマという、昔から知られている原則があり、その原則に従って、大規模な改革を行えば、中国経済はまた発展する可能性があります。

最近の中国は、すでに数年前から、国内の金融政策が大幅に制限されることになっていました。現状の中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。さらに、資本の海外逃避も加速されることになります。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。

為替制度を選択する際、中国も他の国々と同様、為替の安定と独立した金融政策、更には自由な資本移動、この三つを同時に達成することはあり得ないという国際金融のトリレンマに制約されているのです(図)。

つまり、その3つの選択肢からどの2つを選ぶのか、言い換えればどれを放棄するのかという選択に直面しているのです。中国は自由な資本移動を放棄する形で独立した金融政策と為替の安定(固定レート)を選んでいるのですが、今後政策的に資本移動が自由化されてくると、独立した金融政策を維持するためには為替レートの安定をある程度犠牲にしなければならなくります。



図 国際金融のトリレンマ


香港は少し前までは、上の表の状態だったのですが、現在では中国と同じ状況であり、今後香港が世界の金融センターではなくなります。

10年ほど前、中国では人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったのですが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできませんでした。そのつけが回って、現在金融緩和しても効き目がない状況担っているのです。

このブログの購読者ならご理解いただけるでしょうが、金融緩和政策ができないということは、雇用が悪化することを意味します。

中国の若者の就職難

中国が独立した金融緩和政策を取り戻すには、固定相場制をやめるか、一昔前の中国のように、自由な資本移動をやめるかいずれかを選ばなければならないのです。ただ、独立した金融政策をしたいがために、自由な資本移動を完璧にやめてしまえば、中国に対する海外からの投資を自ら、絶つことになります。

やはり実用的なのは、固定相場制をやめることです。中途半端をしている限り、中国経済は良くならず、金融緩和したくても効き目がなくなるか、そもそも最初からできなかのいずれかの状態が続きます。

この状況は構造的なものであり、何か抜本的な対策を打たなければ、中国経済が再び発展することはありません。

冒頭の記事で、様々な中国のミクロ経済の停滞が、描写されていますが、その根本原因はやはり国際金融のトリレンマにあるのです。

この状況は、たとえ習近平が失脚して、新たな人物がトップになったとしても、固定相場制をやめるなどの大胆な改革をしなけば、継続することになります。

いまのところ、そのような動きは全く見られません。いまのままなら、中国の経済の停滞はますます深刻化していくばかりです。

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2022年8月30日火曜日

中国軍は張り子の虎 米台日で連合を―【私の論評】中国海軍最大の弱点、黄海を既に2017年から監視活動を続け中国を牽制していた日本(゚д゚)!

中国軍は張り子の虎 米台日で連合を

上岡 龍次  

●ペロシ氏訪台に反発

訪台したペロシ氏(左)と蔡英文台湾総統

 中国は太平洋に進出したいが、そのためには台湾の獲得が必須。アメリカは台湾との関係を強化しており、中国は台湾に対する覇権拡大を阻止されている。中国としては台湾獲得は悲願なのだが夢は遠のくばかり。

 アメリカのペロシ氏が台湾を訪問すると知った中国は反発。メディアを使い威勢良く威嚇したがペロシ氏は台湾を訪問。しかもペロシ氏が台湾を出てから中国は威勢良く軍事演習を開始する。

■米軍艦2隻、台湾海峡通過 ペロシ氏の訪問後初

https://www.afpbb.com/articles/-/3421007?cx_part=top_topstory&cx_position=2

 アメリカは継続的に軍事行動を行い中国に存在感を見せつける。さらに軍艦2隻を台湾海峡を通過させた。これに中国も反発するが、人民解放軍を使った具体的な対応も見えないし、政治と経済で報復を見せていない。

●面子を潰された習近平

 アメリカ海軍の軍艦2隻が台湾海峡を通過すると中国は反発した。覇権とは言葉による指導力だから、中国が脅すことで相手国が従うことが望ましい。脅して従うなら中国の覇権が有効であることを示す。では拒否すればどうなるのか。それは中国の覇権が存在しないことになる。

■中国軍「挑発を挫折させる」 米イージス艦の台湾海峡通過に反発

https://www.sankei.com/article/20220828-6QHYJOZI2JLYNJUKSY5GN32IPU/

 中国としては、目の前を仮想敵国の軍艦が航行することが不満。国際海峡だとしても中国としては自国の庭と見なしている。そこで脅してアメリカを引かせようとした。だがアメリカ海軍は継続的に台湾海峡を航行している。これはアメリカの覇権が台湾海峡に置かれており、中国の覇権を拒否するという意思表示。

 中華思想を持つ中国は強国アメリカが気に入らない。何故なら、理想では中国こそが世界の頂点にいるはずが、現実ではアメリカが世界の頂点にいる。中国は伝統と歴史を否定して共産主義を選んだ。だが中華思想を捨てることはなかった。中国共産党と称しても歴代王朝として君臨することを捨てられないのだ。

 平和とは強国に都合がいいルールだから、今の強国であるアメリカに都合がいいルール。だから今の平和はアメリカの物であり、世界は従うだけ。これが現実なのだが、中国は気に入らない。中国としては、中華思想を土台としたルールの平和にしたいのだ。だから中国は、アメリカの平和が気に入らず現状変更を求めている。

 現実を見ると、人民解放軍ではアメリカ軍との正面戦闘に勝てない。だから軍事力を見せて脅すことで譲歩させたいのだ。中国は戦争を売りつけて譲歩させようとした。だがアメリカは無視して逆に軍事力で対応する。こうなると中国は人民解放軍を引かせて戦争回避を選ぶ。簡単に言えば、アメリカ海軍は習近平の面子を潰したのだ。

●性能低い兵器

行進する中国人民解放軍の三軍(陸・海・空)儀仗隊

 人民解放軍は国家の軍隊ではなく共産党の私兵。しかも外国軍との戦闘が目的ではなく人民の反乱対策が目的。中国共産党を維持するための人民解放軍であり、国家のために人民を守る軍隊ではない。

 解放の裏の言葉は征服。紀元前333年のイッソスの戦いでペルシャのダリウス三世はアレキサンダー大王に対して講和を求めた。アレキサンダー大王は拒絶してペルシャを解放すると宣言。この時から「解放とは征服するための口実用語」が欧米の常識となった。

 これを人民解放軍に適用すると“人民征服軍”が真の意味になる。これは中国共産党の私兵であり人民の反乱対策が目的だから意味と合致する。しかも人民解放軍は国内での運用が基本だから国外で活動することが困難。

 致命的なのは基地の配置。中国共産党から見れば地方の省は仮想敵国。だから地方の省に有力な基地を置けない。仮に有力な基地を置くと乗っ取られて反乱の拠点にされる。だから中国共産党は、生産・整備ができる基地を北京周辺に限定している。このため南シナ海海岸には補給はできても整備できる基地がないのだ。

 人民解放軍海軍は外国が驚く建艦を行うが、水上艦・原子力潜水艦は全て北京付近の基地でなければ大規模整備ができない。しかも必ず黄海を中継しなければ出撃・帰還ができない致命的な欠点を持つ。これが原因で、日米が黄海に機雷散布を行うと人民解放軍海軍は黄海に閉じ込められる。

 中国共産党は、人民解放軍を強化して外国軍と戦闘できる軍隊に変えようとした。原子力潜水艦を保有し戦車・戦闘機を強化した。だがロシアのウクライナ侵攻でロシア製兵器の弱さが明らかになる。人民解放軍が運用する兵器の多くがロシア製。ロシアが外国に売る兵器は性能を低下させたモンキーモデルだから、人民解放軍の兵器の多くがロシア製よりも劣る。しかもロシア製戦車は砲塔が吹き飛ぶビックリ箱。つまり本家ロシア製もモンキーモデルだった。これでは人民解放軍が運用する兵器の多くはアメリカ軍とは戦えない。

 人民解放軍の基地は北京周辺だけであり国境付近の基地は飾り。しかも兵器の多くがモンキーモデル。アメリカと戦争すれば国境付近の基地は損害を回復できない。修理しようとすれば黄海を中継しなければ戻れない。しかも中国共産党は地方の省を仮想敵国と見なしているから、仮にアメリカと戦争すれば地方の省が寝返る可能性がある。

 中国共産党とすればアメリカとの戦争は敗北を意味する。だから原子力潜水艦・弾道ミサイルで武威を示す。飛び道具なら使い捨てだし中国共産党が直接運用できる。これが中国共産党の信用の行き着く先。中国共産党は人民の反乱を恐れ、インフラ整備すら容易には行えない。インフラ整備をすれば中国共産党に挑む財力を生み出してしまう。だから中国共産党は人民を豊かにできないのだ。

●中国の弱点は黄海

 人民解放軍は強化されたが有力な基地は北京周辺にしか存在しない。国境付近の基地は中央から直接配備された人民解放軍しか存在しない。しかも人民解放軍海軍は黄海を中継しなければ出撃・帰還ができない。つまり日米で黄海を封鎖すれば国防として日本を守れることを意味する。

 黄海を封鎖するなら機雷が簡単で確実。さらに射程2000kmの巡航ミサイルを保有すれば、北京周辺の有力な基地を攻撃可能。仮に損害を与えれば、人民解放軍の損害回復能力を低下させられる。成功すれば、人民解放軍が日本に侵攻する能力を奪える。これは同時に台湾侵攻能力を奪うことになる。だからアメリカ・台湾・日本で連合すれば、人民解放軍を封じ込めることができる。人民解放軍の数に惑わされるな。人民解放軍の致命的な弱点を突くべきだ。

【私の論評】中国海軍最大の弱点、黄海を既に2017年から監視し続け中国を牽制していた日本(゚д゚)!

冒頭の記事では、中国の弱点は黄海ということがいわれています。私もそう思います。そうして、なぜ私がそう思うのかといえば、上の記事では述べられていない、もう一つの要因があります。

それは、何かといえば、黄海の深度です。黄海の最大水深は、152 mに過ぎないのです。これが何を意味するかといえば、この程度の推進だと、せっかく中国の潜水艦は300mから400mくらいまで潜れるのですが、黄海内では150m くらいしか潜れないということです。


ちなみに、海上自衛隊が保有する潜水艦の潜航深度は公表されていませんが、潜水艦のトラブル対処などのため海上自衛隊に配備されている潜水艦救難艦「ちはや」には、深度1000m程度においても救助活動が可能なDSRV(深海救難艇)が搭載されているほか、同艦の水中作業員が過去、水圧に体をさらしつつ深く潜っていく飽和潜水という技術で、水深450mへ到達という記録を打ち立てています。

米国のシーウルフ級原子力潜水艦の潜航深度が約500mといわれるため、海上自衛隊の潜水艦も同程度の潜航深度を有している可能性は否定できません。最新鋭艦だと600mという説もあるくらいです。

ちなみに、潜水艦が潜れる深さについては、最重要機密なので、これはあくまで推定すぎません。

しかし、潜水艦が潜れる深度などとは関わりなしに、黄海内においてはいずれの国の潜水艦も最大で150mしか潜れないということになります。

そうして、黄海においては中国のすべての潜水艦の行動が、対潜哨戒能力に優れた日米に知られてしまうことを意味します。そうして、ASW(対潜水艦戦争)能力で中国をはるかに凌駕する日米は、有事にはこれをすぐに撃沈することができます。

潜水艦が深く潜航した後に、スクリューなどの動きを止めて海底に着底するか、あるいは潮流に乗るようすれば、構造上どうしも騒音がでてしまう原潜であっても、これを発見するのは困難です。しかし、150mの深度であれば、すぐに発見できます。

これは、確かに中国にとって致命的な欠陥といわざるをえません。水上艦・原子力潜水艦は全て北京付近の基地でなければ大規模整備ができず、しかも必ず黄海を中継しなければ出撃・帰還ができないという致命的な欠点があるということです。

中国の海南島には潜水艦の基地があるといわれていますが、これはミサイル、魚雷などの装備や食料 (原潜は水や電気は自前で調達でき)等の補給、並びに従業員の交替などに用いられるのであって、大規模なメンテナンスなどはできないのでしょう。

人民解放軍海軍は外国が驚く建艦を行うが、水上艦・原子力潜水艦は全て北京付近の基地でなければ大規模整備ができないとされていますが、正確には基地の近くにある海軍工廠が北京にしかないことを意味しているのだと思います。

そうなると、中国が台湾を軍事侵攻しようとしたときには、多くの艦艇はメンテのために北京付近の工廠に寄港することになります。そうなると、艦艇の集まり具合から、日米に近く中国は大きな軍事作戦を実行するであろうと判断することになります。下手をすると、工廠から出てきて台湾に向かう艦艇・潜水艦はすべて察知され、台湾に行く前に撃沈ということになりかねません。

米国においても、オバマ時代の緊縮で、航空母艦等の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるといわれています。そうして、稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだアメリカ国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあり、これはすぐに改善されるものではありません。これこそ米海軍の深刻な問題といわれています。

ただ、大規模な工廠が一箇所しかないというようなことはないです。そうして、世界中に米国に協力する工廠もあります。日本の佐世保ベースもその一つです。中国の場合は、そのような協力ができるのはロシアくらいしかありません。

さらに、黄海というと、日本ではすっかり見過ごされた出来事がありました。それについては、このブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

トランプ政権のアジア担当要職に反中のベテラン―【私の論評】米国で「強い日本」を志向する勢力が主流になった(゚д゚)!

この記事は、2018年1月21日のものです。

米国保守派は、ソ連に変わって共産主義帝国構築を目指すようになった中国に対しても、ブログ冒頭の記事にも掲載されているように、警戒心をもちこれに対抗しようとしています。

この動きは前から共和党保守派の中では顕著なものでした。そうして、今回のランディ・シュライバー氏の起用は、ブログ冒頭の記事にもあるように、トランプ政権の対アジア政策、対中政策が保守本流の方向へ確実に舵を切る動きであり、これによって日本の安全保障もかなりやりやすくなるのは目にみえています。

たとえば、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を履行するため、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機が昨年(ブログ管理人注:2017年)12月から日本海や朝鮮半島西側の黄海で、外国船から北朝鮮船舶への石油などの移し替えがないか警戒監視活動に当たっています。
黄海・東シナ海などを常時警戒監視しているP3C哨戒機が不審船を発見した場合、護衛艦を現場に派遣します。政府関係者は「監視活動を顕示することで北朝鮮への石油製品の密輸を抑止することにつながる」としています。

ここで、黄海という言葉がでてきますが、黄海での海自による警戒監視活動は戦後はじめのことです。これは、中国側からすれば脅威だと思います。自分たちは尖閣付近の海域で船舶を航行させたり、最近では潜水艦を航行させたりしていたのが、日本の海自が黄海で監視活動を始めたのですから、彼らにとってみれば、驚天動地の日本の振る舞いと写ったかもしれません。

しかし、黄海初の日本の海自による監視活動に関して、日本のマスコミは当たり前のように報道しています。中国側も非難はしていないようです。中国としては、米国側から北への制裁をするようにと圧力をかけている最中に、監視活動にあたる日本を批判すると、さらに米国からの圧力が大きくなることを恐れているのでしょう。

このようなこと、少し前までのオバマ政権あたりであれば、「弱い日本」を志向する人々が多かったので、批判されたかもしれません。というより、そのようなことを日本に最初からさせなかったかもしれません。そうして、中国は無論のこと、大批判をしたかもしれません。そうして、日本国内では野党やマスコミが大批判をしていたかもしれません。

この監視活動は、北朝鮮への制裁が終わらない限りは、現在もそうして将来も継続されることでしょう。この監視活動には、無論米国等も協力しています。それどころか、米国のインド太平洋軍(INDOPACOM)は3月10日、北朝鮮のミサイル実験が「大幅に増加」したことを受け、黄海で情報収集や偵察活動を増やし、弾道ミサイル防衛体制を強化していると明らかにしています。

そうして、これは、北朝鮮監視だけではなく、中国のすべての艦艇・潜水艦の監視もしていることでしょう。日米は、すでに中国の潜水艦の音紋をすべて採取し終わっているでしょう。なにしろ、黄海で待ち受けていれば、どの艦艇もいずはここを通るからです。

自衛隊には瀬取りを取り締まる法的権限はなく、可能な活動は艦艇や艦載ヘリコプターによる監視にとどまります。ただ、政府関係者は「護衛艦やヘリの姿を見せるだけでも抑止効果が見込めるし、現場の写真を撮影して国際社会に公開することもできる」としていました。

一方、防衛省は「自衛隊はさまざまな警戒監視活動を行っているが、その一つ一つについては公表しない」と表向きは警戒監視活動を明らかにしていないとしていました。

日米はすでに、この頃から中国の最大の弱点である黄海を、北朝鮮問題を理由に、監視活動を行い、中国を牽制していたといえます。

中国側としては、これを表沙汰にして、日米を非難すれば、先にあげたように、米国の北朝鮮制裁に反対することになることと、中国の最大の弱点を公にするようなものであり、公表したり非難したりできないのでしょう。




2022年8月29日月曜日

人心掌握から武力統一へ 中国の台湾政策の変化―【私の論評】ペロシ訪台で露呈した、弥縫策を繰り返す中国の不安定化に日本は備えよ(゚д゚)!

人心掌握から武力統一へ 中国の台湾政策の変化

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙(WP)コラムニストのジョシュ・ロウギンが8月11日のWPに「ペロシの台湾訪問への中国の過剰反応はわれわれに何を教えているのか」との論説を書いている。
 ペロシ下院議長の訪問後の台湾に対する過剰反応と報復措置は、平和統一ではなく、武力によって台湾をとることに北京が焦点を合わせていることを示している。習近平の戦略は台湾の人心を掌握することから、台湾に恐怖と憎悪を起こさせることに変わった。

 中国の激烈な反応は危険な新しい時代の始まりを示している。中国は米国に対し、軍間の対話をやめ、気候変動と麻薬対策に至る諸問題での2国間協力計画を停止した。

 中国の行動の大部分は台湾の政府、経済、人々に向けられたものであった。中国は初めて台湾の都市を超えてミサイルを撃った。台湾周辺での前例のない軍事演習は封鎖または侵攻の予行演習でありうる。

 経済的には中国は100の台湾商品の輸入を制限した。8月3日、中国当局は中国のビジネスマンを「台湾独立論者」として拘束したが、中国でビジネスをしている台湾の会社への明確な脅しである。

 台湾での中国の過剰反応と、新しい危険な現状を作ろうとする努力は世界にとっての警鐘である。台湾支援を増やし、中国が侵攻は成功しないと考えるようにするための時間はなくなってきているが、そうすることが紛争を避ける最善で多分最後の手段であろう。

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 この論説は説得力がある論説である。

 習近平は中華民族の復権を唱え、強国路線を突き進んでおり、台湾政策においても、平和的な両岸間の話し合いを通じた再統一路線は投げ捨ててしまった感がある。

 鄧小平は香港について「一国二制度」を提唱し、香港の中国返還を成し遂げ、台湾に対しても同様のことを考えていたと思われるが、習近平は香港の「一国二制度」を英中共同声明に反して期限前に壊し、中国の愛国者による統治を実現した。西側民主主義諸国は、香港問題について、中国に対してもっと強硬に対応すべきであったが、そうしなかったので、習近平にとって香港の体制転換は成功体験になっているのではないかと考えられる。

 そして、これが台湾問題についての対応にも反映されている気がする。台湾に対する強硬政策で、台湾独立分子を孤立させることが可能であると考えている怖れがある。

必要となる日本と米国の覚悟

 台湾有事の発生を防ぐ為には、米国も日本も相当覚悟を決めてかかる必要がある。脅威は意図と能力の掛け算で決まるが、こちら側も軍事能力で抑止する必要がある。日本は防衛力を強化する必要があるし、米国も台湾支援を強化すべきであろう。

 ここ2年は中国の台湾侵攻はないとの予想や、2026年、27年までに中国は台湾攻撃の準備はできないとの推定で安心するわけにはいかない。これらの期限はすぐにくる期限である。

 日米が協力して中国に対し抑止力を備えること、そのためには何が必要かを具体的に図上演習もして、はっきりさせていくことが必要ではないか。ロウギンが言うように残された時間は少ない。また、日本としては、中国の考え方に影響を与えるために、台湾をめぐり紛争になることは許容できないことをこれまでも表明してきたが、これからも対中外交の中でさらに強調すべきことであろう。

【私の論評】ペロシ訪台で露呈した、弥縫策を繰り返す中国の不安定化に日本は備えよ(゚д゚)!

ロウギン氏の「中国の激烈な反応は危険な新しい時代の始まりを示している」という論説は、説得力のあるものなのでしょうか。

ペロシ氏の訪台での発言では、良く知られているものの他に以下のようなものもあります。

「この地域と世界の民主主義に対する民主主義の防衛を支援し続けているため、米国の台湾国民との連帯はこれまで以上に重要になっている」としているのです。

要するに、米国は民主主義陣営のために闘うというわけです。

米国は、世界各地で民主主義のタネを蒔いてきました。ところが、民主主義国になって経済発展したのは、極東アジアの日本、韓国、台湾くらいです。

ただ、以前もこのブログにも掲載した高橋洋一氏のグラフによれば、民主主義と経済発展とは、ある別の特徴とともに、相関関係があるの事実です。

ある別な特徴とは、いわゆる中進国の罠というものです。途上国が、政府が音頭をとり、投資をすれば、どのような国でも経済発展します。しかし、一人あたりのGDPが1万ドル前後になると、民主化している国はそこからさらに発展するのですが、そうでない国はそこから足踏みして、1万ドル近辺からなかなか成長しなくなるのです。

これは、中進国の罠と呼ばれるものです。1万ドルを超えたあたりから、民主化と経済発展には明確な相関関係があります。

中国は、国全体ではGDPは世界第二位とされていますが、一人当たりの名目GDPでは12,359ドルにすぎません。これは、日本はもとより、韓国や、台湾よりもかなり低いです。

日本、韓国、台湾は、アジアの中にあっては例外的な存在で、戦後に急速に経済発展しました。これは米国の成功例ともいえます。これらの国々を見捨てたなら、米国の存在意義にも関わることにもなります。もちろん防衛は、まず自国が防衛努力することが前提ですが、その上で米国は台湾を助けるつもりであることを明らかにしたのです。

これに対し、中国は猛反発しました。台湾を「海上封鎖」するのかと見間違うくらいの6ヵ所での軍事演習は、ペロシ氏訪台が中国の痛いところをついたことの裏返しでもあります。日本のEEZ(排他的経済水域)に弾道ミサイルを落とすなど暴挙ですが、中国はこうした国際秩序無視を平気で行う国です。中国は、日本のEEZはあり得ないと暴言を吐きました。

中国の弾道ミサイルが日本のEEZ内着弾という中国の暴挙は世界中に知れることとなったので、中国は重大なヘマをしたといっても良いです。実際、日米豪はこれで結束しました。

中国は台湾統一という名目で、民主主義国の台湾への侵攻を野望を隠しません。中国が民主主義を専制主義で蹂躙するのは、香港の例を見てもわかります。民主主義の雄である米国がかなり本気になってきたともいえます。

台湾は戦後共産主義国の中国と別の道で、豊かな民主主義国となりました。しかし、中国は自国の民主主義を潰した上、台湾を自国の一部だと主張しています。この主張に世界のどれだけの人が賛同するでしょうか。

ところが、中国ではペロシ訪台直前に信じられないようなことが起こっていました。これは、以前このブログも述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾と香港の「心をつかめ」、習近平氏が中国共産党に要求―【私の論評】米中の真の戦争は「地政学的戦争」、表のドタバタに惑わされるな(゚д゚)!
中国共産党中央統一戦線工作部についての会合で演説する習近平氏(中央)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、元記事より一部を引用します。
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は2日までに、中国共産党に対して香港、マカオ、台湾の人々の「心をつかむ」ことを強く求めた。それこそが「国家を再生する」取り組みの一環だとの認識を示した。

 習氏の要求は、週末にかけて開かれた高位の当局者が集まる会合でのもの。中国共産党中央統一戦線工作部(統戦部)に向けて提示された多くの重要任務の一つだった。この組織は中国内外で影響力を獲得する任務を担う。

 国営新華社通信によると、習氏は北京での会合で統戦部について、中共が敵を打ち破るための重要な保証になると指摘。国の統治と再生のほか、国内外の全中国人を結集させ、国家再生を実感させることも請け合う組織だと強調した。

 具体的な取り組みとしては、国内において「共通性と多様性の適切なバランスを取り」「香港、マカオ、台湾、さらに海外の中国人の心をつかむ」ことを含むべきだとの見方を示した。

2日というと、ペロシ訪台の3日の前日です。前日に会議で習近平がこのような発言をするその意図はなんなのでしょうか。

それについては、この記事の「私の論評」で述べました。 これも一部を引用します。

習近平が、もし本気でペロシが訪台すれば、軍事的報復に打って出ると考えていれば、いずれの会議においても台湾の人々の「心をつかめ」などと言う必要性など全くありません。

習近平として、恫喝は恫喝、本心は本心と使い分けているのかもしれませんが、これは本当に不自然です。それに、中国外務省の華春瑩報道官は2日、予想されるペロシ米下院議長の台湾訪問について、米国と連絡を取り合っていると述べました。

これは、結局米国のペロシ訪問を受けて、中国はこれに対して反対したり恫喝したりするものの、恫喝は恫喝であり、中国も本気ではないし、米国もそれを重々承知しているとみるのが妥当だと思います。

このうよな事実を見聞きしても、私自身はあまり不思議には感じませんが、これを不思議に感じる人も多いかもしれません。そうい人には、ある情報が欠けているのかもしれません。それは、中国は当然のことながら、米国でもあまり報道されませんので、仕方ないことなのかもしれません。

さらに一部を引用します。

ASW(Anti Submarine Warfarea:対潜戦)においては日米に著しく劣る中国海軍には、これに対抗する術はほとんどありません。中国軍は、米攻撃型原潜が台湾沖に恒常的に潜むことになり、米軍がそれを公表する事態になれば、第三次台湾海峡危機(1995年-1996年)において、米軍の空母に対応できず、軍事恫喝を継続することができなかったときのように、再度米国の攻撃型原潜に屈服することになります。 

中国海軍は現在でも、世界トップ水準の能力を有する日米に対潜哨戒能力でかなり劣っており、台湾を巡って日米などに真っ向から海戦を挑めば、中国海軍は瓦解します。

このあたりは、ここでは詳細に説明していると長くなるので、この記事をご覧になってください。

中国は、米国等と本気で武力で正面衝突するつもりなどないのです。そうして、米中の真の戦いのフィールドは武器を使用しない「地政学的戦争」であり、表のドタバタに惑わされるべきではないのです。

米国としても、中国と武力で真正面から衝突すれば、米国は間違いなく一方的に勝利するでしょうが、それにしても、中国により、台湾や日本も攻撃されるでしょうし、最悪米国本土も核攻撃されかねません。だから、米国も中国との軍事衝突は避けたいのです。

この記事では、解説しませんでしたが、ではなぜペロシ訪問に対して、中国があのような苛烈ともいえるような軍事演習をしたかというと、それは米国や日本などに向けたものではなく、国内向けと考えるのが妥当です。

ペロシ訪台でも、習近平政権が何もしなければ、共産党内の他派閥から糾弾され、国民からも非難され、そうなると、習近平の統治の正当性が毀損されかねません。だからこそ、大演習をして、牽制したのです。中国という国は、元々、対外関係などより、自国の都合で動く国です。

しかし、これは一方では、日米などとの対立の激化をまねきかねません。だからこそ、わざわざ、訪台前日に習近平がわざわざ"台湾と香港の「心をつかめ」"と発言したり、ペロシが台湾を去ってから軍事演習を始めたり、米国の神経を逆撫でしかねない対潜水艦訓練は、演習の最終日に行うなどして、対立をの激化を招かないように配慮しているのです。

これと似たようなことは、経済面でもみられます。ここ数年、習近平が資本主義行き過ぎ一掃のキャンペーンを行っていますが、これも矛盾に満ちています。それについては、以前このブログで解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。

習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!

詳細は、この記事をごらんいただくものとして、以下に一部を元記事より引用します。

 習近平が展開している反資本主義キャンペーンは習政権の将来を左右するものだが、危険に満ちている、と10月2日付の英Economist誌の社説が論じている。

 習近平が資本主義行き過ぎ一掃のキャンペーンを行っているが、その範囲と野心は壮大だ。2020年、当局がアリババ傘下のアント・グループの新規株式公開を阻んだのが最初で、以来、タクシー配車サービスDiDiは米国で株式を上場して罰せられ、巨額の負債を抱える恒大集団は債務不履行に追いやられつつある。暗号通貨による為替取引も、学習塾も、事実上禁じられた。

どうしてこのようなことを習近平政権がするのかといえば、一番大きいのは、資本の海外逃避を防ぐのが目的でしょう。ただ、そのようなことをしても中国の流動性の罠や、国際金融のトリレンマによる構造的な問題を解決しなければ、抜本的な解決にはなりません。

この構造的な問題を解決するには、変動相場制に移行するとか、市場を閉鎖し、中国と諸外国の資本のやりとりを原則禁じて、政府の管理下におく( 昔の中国に戻る)かどちらかしかありません。中途半端をしていては、 構造的な問題はいつまでも解決しません。

この構造的な問題を簡単に考えていて、かつて日本がやったように不良債権処理をすれば、何とかなると考えている人もいるようですが、中国の構造的な問題は、それだけでは解決しません。

この記事で、以下のような結論を述べました。

中国の路線変更は大きな問題であり、「毛沢東主義への回帰」とか「鄧小平路線の変更」というよりも、もっと細かく見ていく必要があります。ただ、習近平の今のやり方は中国経済にとってはよい結果をもたらさないということと、中国はますます独裁的な国になることは確かです。共産党と独裁には元々強い親和性があります。

しかし、国民の不満は爆発寸前です。私自身は、習近平の一連の行動は、結局のところさらに独裁体制を強め、国民の不満を弾圧して、制度疲労を起こした中国共産党を生きながらえさせるための弥縫策と見るのが正しい見方だと思います。実際は本当は、単純なことなのでしょうが、それを見透かされないように、習近平があがいているだけだと思います。

習近平に戦略や、主義主張、思想などがあり、それに基づいて動いていると思うから、矛盾に満ちていると思えるのですが、習近平が弥縫策を繰り返していると捉えれば単純です。2〜3年前までくらいは、戦略などもあったのでしょうが、現在は弥縫策とみるべきと思います。

今や習近平の戦略や、主義主張、思想などは、弥縫策であることを見破られないようにするためのツールに過ぎないのです。
一つだけ確かなのは、習近平は様々な弥縫策を打ち出し、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせようとしているということです。
習近平は、様々な弥縫策を繰り出し、自ら築いた体制、自分の地位の温存をするために、日々邁進しているともいえます。

これは、経済面だけではなく、軍事・外交面でも、顕著になってきたといえます。それが、ペロシ訪台による対応で露わになったともいえます。

日本は、かつて構造改革にばかり着目して、官僚の誤謬により、基本的なマクロ経済政策である、金融・財政政策を間違い続け、「失われた30年」に突入しました。

しかし、中国は違います、国際金融のトリレンマにより、資本の海外逃避が続き、金融・財政政策そのものが有効性を失いつつあり、構造改革をしないと、「失われた100年」を迎えることになるかもしれません。

中国が弥縫策を継続するというのなら、中国は経済・外交・軍事の面で、これから引き続きかなり不安定になります。習近平は、これからも弥縫策を繰り返すでしょう。我が国は、こうした中国の不安定化に備える必要があります。


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安倍元首相暗殺とFBIトランプ氏捜査の共通点 既得権益層の不都合、偏向メディアによるプロパガンダも 大原浩氏が緊急寄稿―【私の論評】暗殺事件の真相は、これからの裁判の過程の中で見えてくるかもしれない。予断を持つべきではない(゚д゚)!

安倍元首相暗殺とFBIトランプ氏捜査の共通点 既得権益層の不都合、偏向メディアによるプロパガンダも 大原浩氏が緊急寄稿

強固な日米関係を築いた安倍氏(右)とトランプ氏

 日米の政界で激震が続いている。7月8日に安倍晋三元首相が暗殺され、米時間8月8日(日本時間9日)にはドナルド・トランプ前米大統領のフロリダ州の邸宅に米連邦捜査局(FBI)の家宅捜索が入った。国際投資アナリストの大原浩氏は緊急寄稿で、親密だった元首脳が狙われた2つの事件について、「共通点」や「つながり」があると指摘する。

 FBIの家宅捜索についてジョー・バイデン大統領は、「事前にFBIから説明を受けておらず、司法省独自の考えだ」と強調したが、良識ある米国民のほとんどはそのような「言い訳」を信じていないであろう。

 実際、FBIは民主党政権に絡んだ多数の「疑惑」はスルーしてきたといえる。アフガン撤退の大失敗、ロシアとの駆け引きでやられっぱなし、さらにはインフレ対策も効果を現さず、景気後退の足音も聞こえるなど、追い詰められたバイデン政権の「中間選挙における救済」を目指した捜査だといわれても仕方がないであろう。

 2020年にバイデン氏が大統領就任し「政権政党」となったにもかかわらず、前大統領のトランプ氏をなぜこれほど恐れるのか。民主党と結託したかのような偏向メディアやビッグテック(巨大IT)がどんな情報を流そうとも、「国民の支持」がトランプ氏に集まっているからだろう。

 トランプ氏はクリーンな政治家だといえる。本業の不動産ビジネスでのやんちゃなイメージが災いしているが、大統領職では年間40万ドル(約5500万円)の給料を四半期ごとに連邦政府の機関へ直接寄付することによって、「実質的に全てを返納」していたという。

 「金で動かない」大統領が、米国の巨大な既得権益層にとって極めて不都合であることは言うまでもない。大統領になるまで政治経験が全くなかったトランプ氏は、政治家としての過去のスキャンダルも皆無に等しい。だから、議事堂襲撃事件で騒ぎたてたわけだ。

 安倍氏も「政治で稼ぐ」必要など全くなかった。それゆえ、既得権益層の思い通りにならずに憎まれるというのもトランプ氏と似ている。

 安倍氏暗殺事件は、いつの間にか「政治と宗教」の問題にすり替えられたが、偏向メディアを中心としたプロパガンダは真実を覆い隠すための煙幕だとも思える。山上徹也容疑者の個人的恨みによる単独犯であるとの話が流布しているが、本当にそうであろうか。

 1865年のエイブラハム・リンカーン大統領暗殺事件は、熱烈な民主党支持者の犯行との印象が強いが、実際には同時に要人を複数暗殺することで政権転覆を狙ったクーデターだった。暗殺犯が大統領の背後に近づけたのは、警備担当者が酒場にしけこんでいたからだという。

 1963年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺もリー・ハーベイ・オズワルドの単独犯だと発表された。しかし、ビルの屋上にいたはずの彼が撃てるはずがない、車列前方からの銃弾がケネディの額に当たる瞬間がフィルムに残されている。

 安倍氏の暗殺でも、銃弾2発のうち1発が消え去っている。

 JFK暗殺の捜査資料はトランプ氏が2017年に公開を指示したが、関係者の抵抗があったようで一部にとどまった。バイデン政権下で21年に全ての機密情報が公開される予定だったが、22年末、つまり「中間選挙の後」に延期された。

 安倍氏暗殺事件も、「単独犯説」一辺倒でいいのか。安倍氏の存在が邪魔だったのは「アベノセイダーズ」だけではない。外国政府などにも動機がある。われわれは暗殺事件の「背景」をもっと真剣に考えるべきではないだろうか。

■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】暗殺事件の真相は、これからの裁判の過程の中で見えてくるかもしれない。予断を持つべきではない(゚д゚)!

大原氏は、『安倍氏暗殺事件も、「単独犯説」一辺倒でいいのか』と疑問を呈していますが、私もそう思います。

一色正春氏は、すでに7月10日に自らの体験をもとに、これに関する疑問を呈していました。これについては、この美ログにも掲載しました。
一色正春氏「捜査当局がリークする情報への注意点」をFBで公表―【私の論評】不可解な安倍元首相暗殺報道(゚д゚)!

 

一色正春氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一色正春氏が自身のFBで公表した「捜査当局がリークする情報への注意点」の内容を以下に再掲させていただきます。

一色 正春
7月10日 ·

暗殺事件の動機が「特定の宗教団体の恨み」というような情報を捜査当局がリークしているようですが、ある意味「政府転覆を狙ったテロ」と非難され、おそらく今回の容疑者と同じような取り調べを受けた私の経験から、この情報に対する注意点を述べておきます。

捜査当局は筋読み(ストーリー作り)を行い、それに沿って取り調べ、その中から自身に都合の良い部分のみをリークする。そしてメディアがそれに色を付けて報道します。私の時も特定の政治団体や宗教団体、外国政府などの関与を疑わせる記事が出ていたそうです(私自身は見る事が出来る環境になかった)また、素直に供述していたにもかかわらず「動機が不明」などと報道され、現場の捜査官は事実に基づいて取り調べを行っていましたが何としても政府転覆の意思があったかのような話に持って行きたい人たちが背後にいたようで、再三、捜査に横やりが入っていたようでした。

つまり、現段階で、この情報を鵜呑みにするのは危険だという事です。加えて言うならば、そのストーリーを作っているであろう組織が、世紀の大失態を犯した奈良県警である可能性が高い事も問題です。警察も人間ですから、警護の失態と捜査に何らかの影響が出る可能性は否定できません。

とにかく私が自由に報道に接することができるようになってから目にした報道は、一言で言えば出鱈目。これを多くの人が(いまだに)信じるのかと恐怖を覚えたほどです。捜査当局は都合の良い犯人像、都合の良い動機をつくることが可能であること、身柄を拘束されている被疑者はそれに対して一切の弁明ができないという客観的事実を無視して報道を信じるのは危険なのです。

今回どの様な取り調べが行われて(弁護士が誰なのか等)いるのか、どのようなリークが行われているのかを私には知る由もありませんので、私の時と同じであるとは言いませんが、生前の安倍元総理に対する出鱈目な報道に鑑みても、メディア発表を鵜呑みにするのが危険であることを喚起しておきます。

※本当に宗教団体への恨みである可能性もあり、現段階の発表を100%否定するものではありません。
現時点で変わったことといえば、警察庁は襲撃を防げなかったとして奈良県警察本部の鬼塚友章本部長の減給3か月の懲戒処分を発表し、59歳の警備部長についても減給1か月の懲戒処分としたや、鬼塚本部長と警備部長は辞職する意向を示したということくらいです。

内閣改造で新たに就任した谷公一国家公安委員長は22日、奈良市・近鉄大和西大寺駅北口前の銃撃現場で黙禱をささげました。

 山上容疑者が供述で、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への恨みを挙げたことで、一部メディアは「宗教と政治」の関係ばかり強調しており、動機や背後関係への深掘りは少ないです。

「消えた弾丸」の問題もある。 安倍氏には銃弾2発が命中したとみられ、約1センチの弾丸1つが見つかったのですが、捜査関係者によると、もう1発が見つかっていません。 救命処置中に行方が分からなくなった可能性があり、奈良県警は事件5日後、現場検証で弾の捜索も行ったのですが発見できませんでした。

事件を立証する重要な物証が欠けてしまったかたちです。 警察庁は、演説する安倍氏の背後を警戒する警護員がおらず、現場の連携も不十分で、山上容疑者に2発の発射を許した問題点などを検証しています。ずさんな警備と不可解すぎる経緯が相まって、ネット上では共犯の存在を示唆する見解もあります。真相解明が急務です。

警護の問題点を検証していた警察庁は25日、「奈良県警の現場対応や警護計画に問題があった。適切な対応があれば結果を阻止できた可能性が高い」とする報告書をまとめました。再発防止策として「警護要則」を見直し、都道府県警の計画を事前に審査するなど同庁の関与を強化します。警護体制も増強するとしています。


報告書は、山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検、鑑定留置中=が安倍氏に接近した際、後方(南側)を主に警戒する警護員がいないという「空白」が生じたことが、現場で銃撃を阻止できなかった主な要因と認定しました。

その上で、現場指揮官である奈良県警警備課長らの対応を問題視。後方警戒担当の県警警護員は演説直前、別の警護員の指示で警戒方向を安倍氏の右(東側)に変更したことを目視で確認しながら、後方警戒を補強する指示をしませんでした。

背景には、奈良県警による警護計画に問題があったと分析しました。安倍氏の後方には県道があり、車両や歩行者が通行するなど「明らかな警護上の危険」がありながら、計画の起案や決裁過程では見落とされ、警護員や制服の警察官が適切に配置されませんでした。

ただ以上は、警備体制についての報告であり、これだけでは事件の全容のうちの数%に過ぎないです。

 メディアの論点は旧統一教会と政治の問題に完全に傾いています。

「宗教と政治」という論点とテロ行為は分けて考えるべきです。旧統一教会ばかりに焦点が当たると問題が矮小(わいしょう)化され、山上容疑者の思惑通りになってしまいます。

政治家が街頭に立って演説し、国民の声を国会に届けてきた日本の民主主義に対する挑戦と捉えるべきです。政治家の街頭活動が萎縮するリスクもありますが、こうしたテロ事件に屈するべきではありません。

そうして、そもそもマスコミも野党もあまりにも単純なミスをおかしていると思います。そもそも、奈良県警が容疑者を尋問して、尋問した内容を事実であるとみなすようでは、とてもまともな尋問をしているとはいえません。

それは、普通に考えればわかることだと思います。警察が容疑者を尋問するときに、容疑者の供述は正しいと予断を持っていれば、まともな捜査などできません。しかし、最初の段階から容疑者の供述のリークがなされることには、ある一定の意思が働いているとしか思えません。

山上容疑者が旧統一教会の話を持ち出したのは、後付けの可能性もあります。もしかしたら本当に安倍晋三氏という政治家の政治信条に反対して襲撃した可能性も否定できません。民主主義を壊す挑戦という意味で襲撃したのが本当で、供述は後付けの動機という可能性も十分あるはずです。

そこには、共犯者あるいは、共犯までいかなくても、それをたきつける人物がいたかもしれない可能性は否定できません。事件によって一番利益を得る人物、組織のことも考えるべきです。

警察庁

警察組織にとっては「宗教が原因」のほうが言い訳しやすいです。なぜなら、政治目的のテロと個人の経済的な恨みでは、事件の構図が全く変わってくるからです。今回の警護、警備を完全に失敗した警察の立場からすると、個人的な経済面での恨みに基づく犯行ではなく、政治目的のテロを防げなかったということになれば、かなりの落ち度、不手際になり、非難のされ方が随分違い、警察の威信は地に落ちることになります。

警察としては、それだけは避けたかったので、「宗教が原因」という山上容疑者の供述を意図的に漏らし、マスコミや政治家がそれに乗ってしまったというが本当のところかもしれません。

そのようなことでは、真実は解明されません。やはり、これから始まる裁判に期待したいです。

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2022年8月27日土曜日

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日テレ「24時間テレビ」に旧統一教会信徒が募金、ボランティア 連日追求『ミヤネ屋』MCの宮根誠司は〝反省〟「われわれも自己点検していかなければいけない」


 今年も27、28日に放送される日本テレビ系の名物番組「24時間テレビ」をめぐり、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が、教団のサイト上で、「信徒がボランティアスタッフとして7年間参加していた」と発表。変更前の正式名称「世界基督教統一神霊協会」の名前が番組のテロップに映っているとしたテレビ画面の画像も掲示した。日本テレビは、画像は系列局のものだとしたうえで、「ボランティアの思想・信条は確認しない」とした。

■きょうから放送

 教団は25日、24時間テレビで女性信徒がボランティアスタッフとして7年間、番組ボランティアをまとめる中心的な立場で活躍していたと公表。「七尾市/世界基督教統一神霊協会能登教会」とテロップに映し出された2014年の放送分とされるテレビ画面の画像も添付した。


 教団広報部は「能登教会の名義で24時間テレビに募金させていただいている経緯があって、個人の信者様もボランティアスタッフとして貢献したいという旨で参加していた」と説明。女性信徒については「長年やっておられて、番組側としても信頼がおけるからこういった役割を任せられるようになっていた」と話した。

 21日には「過熱報道」によって被害を受けているとして、各報道機関との関わりを調査し、公表すると発表していた。

 日本テレビは26日、リリースを公表、教団名のテロップについて《この画像は、弊社系列のテレビ金沢が2014年7月27日にローカルエリアで放送したものと、テレビ金沢から報告を受けています。2014年の弊社「24時間テレビ」の中で放送されたものではなく、全国放送はされていません》とした。

 《「24時間テレビ」では、番組の趣旨に賛同していただける方にボランティアとして参加していただいております。一般的に、参加される方の個人的な思想・信条について確認することはいたしません》ともしている。

■CM一部で10回

 テレビ金沢は、テロップはボランティア団体の紹介ではなくCMの一部で、14年7月26日から31日に計10回放送したと明らかにした。

 旧統一教会問題を連日報じている日テレ系情報番組「情報ライブ ミヤネ屋」の26日の放送で、MCの宮根誠司(59)が、個人の考えと前置きし、「われわれも関係がひょっとしたら分からないうちに、あったのかなかったのか」「政治家の方ばかり責め立てるのではなく、われわれも自己点検をしていかなければいけないなとは思いますね」と語った。

【私の論評】現在の日本の宗教問題の本質は、宗教法人に対する寄付は控除の対象ではなく、寄付金額の縛りすらもないこと(゚д゚)!

日テレが、24時間テレビを放映すること自体には特に問題はないと思います。先日もこのブログで示したように、そもそも日本国憲法では、憲法 20 条で「信教の自由」は認められています。ただ、一方で日テレが統一教会問題で自民党や議員を批判する報道をするのは、二重基準といわれても致し方ないとも思います。

以前このブログでも述べたように、伝統的な法学の世界で使われる「政教分離」という用語は、英語では「Separation of Church and State」と表現され、文字どおり「教会と国家の分離」を意味します。「政」は「政治」や「政党」ではなく「国家」なのです。国家が国教などを定めることや、国家が特定の宗教を支持したり、保護したりすることを禁じるものです。

国家に対して〝宗教への国家の中立性〟を求めるものであって、国民に対して〝宗教者の政治参加〟を禁じたものではありません。詳細は当該記事をご覧いただものとして、結果として、創価学会のような、宗教団体が政治に関与することも、ましてや、旧統一教会のような宗教団体が選挙運動の応援をすることも違憲ではありません。

国およびその機関が宗教に介入・関与するのがいけないのであって、政治家が宗教と関係を持つことまで禁止していないのです。

違憲ではないのですから、無論それを取り締まる法律など存在しませんし、存在すれば大変なことです。なぜなら、特定の宗教の信者を、信者であるからという理由だけで、排除すれば、それは明確な憲法違反になるからです。

とはいうものの、その関係性について、懸念を持たれることは政治家として避けたほうが良いでしょう。ただし、選挙運動員を募集するときに、「統一教会」などの所属するかを聞くわけもいかないわけですから、これは仕方ないとしか言いようがありません。

これは、政治の世界だけではなく、民間企業などの民間組織でも同じことです。特定の宗教の信者だからといって、面接等でこれを排除すれば、これは人権侵害であって、違憲です。

とはいいながら、なにやら上記のことだけでは、もやもや感が拭い去ることはできません。なぜなのでしょう。やはり、この問題の本質が見えないからでしょう。

以下をご覧になれば、もやもや感は幾分なりとも解消すると思います。ぜひ最後までご覧になってください。

最近テレヒなどで報道される旧統一教会は、50年以上昔のことですが、旧統一教会系の政治団体「国際勝共連合」が創設され、反共産主義団体として知られていました。

その後、1980年代には旧統一教会の霊感商法が社会問題化した、むしろ問題はこれでした。

ただ、霊感商法に関してはここ数年でかなりの前進がありました。安倍政権だった頃の、2016年10月から、いわゆる「消費者裁判手続特例法」が施行されました。それまで、消費者が企業(事業者)から何らかの財産的被害を受けた場合、自らその被害回復を図るためには、自力で事業者を相手に交渉するか、訴訟を提起する必要がありました。

しかし、消費者契約に関する共通の原因により相当多数の消費者に生じた財産的被害の集団的な回復を図ることを目的として、本法が制定されました。いわゆる日本版クラスアクションです。これには、霊感商法の被害も含まれます。

さらに、19年6月から、消費者契約法改正が施行されました。その結果、霊感等による知見を用いた告知により締結された消費者契約の取り消しができるようになったのです。

このような消費者被害の救済について、それまでは公序良俗違反による無効(民法90条)や不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)といった一般的な規定に委ねられていたのですが、これらの規定は要件が抽象的でしたので、どのような場合に適用されるかが、消費者にとって必ずしも明確ではない部分がありました。

消費者契約法改正により、霊感商法は取り消せるとなったので、かなり対応は楽になりました。消費者裁判手続特例法も消費者契約法改正もともに第2次安倍晋三政権での成果です。消費者契約法を厳格に適用すれば、霊感商法は成り立たなくなります。

今や残る問題は霊感商法ではなく、宗教団体が受け入れる多額の寄付金だといえます。

寄付金には様々な課題があります。

宗教団体の中には「宗教法人」として法人格をもつものがあります。宗教法人が受け取ったお布施やお賽銭には税金がかかりません。

宗教法人とは、宗教法人法により法人となった宗教団体をいいます。宗教団体のすべてが法人格をもつわけではありません。宗教活動自体は、個人でも可能です。ただし、同じ信仰を持つ個人があつまり、集団が形成されると個人の物とは区別された共有財産が発生し、管理・運営しなくてはならなくなります。そこで、個人とは別個の法人格が必要となります。この維持管理を目的としたのが宗教法人です。

そうして、宗教法人というと、どのくらいの数があるかということも知っておくべきです。

すごい数です。これでは、政治家が敵に回したくない相手であることも良く理解できます。信者数も日本の総人口を上回っています(図表2)。

個人のより集まりに過ぎない宗教団体が受け取ったお布施などについては、宗教法人法の適用がないのて、税法的には、PTAや同窓会と同じく「人格のない社団等」として、株式会社や合同会社といった普通法人と同様の存在とみなされ、お布施などの寄附についても「受贈益」として法人税が課税されます。

ただし、宗教法人を設立する場合、以下の要件をクリアしなくてはならないのです。
1.礼拝の施設その他の財産を有していること
2.布教活動をしていること
3.日頃から儀式行事を行っていること
4.信者を教化育成すること
一見単純ですが、各要件の現実的な運用は厳格です。1.は自宅でやっていればいいというものではなく、境内建物などのように公開性を有していなくてはならなりません。2から4については、宗教法人の実態の証明が必要です。

そのため、設立申請時には、設立以前からの活動実績報告(3年が目安)や所轄庁認証された規則、信者名簿などといった、宗教法人の健全な実態を証する書類を提出しなくてはならなのです。そうして認可そのものは実際3年程度かかることが多いです。宗教法人になるためには、このようなハードルを乗り越えなければならないのです。

設立・維持に関する義務への労力がクリアし、税金は免れたとしても、日常の維持管理費は避けらません。つまり、宗教法人であれ、支出がある以上、収入は不可欠です。

しかし宗教法人は、普通法人よりもお金を稼ぐための活動が制限されます。普通法人は営利活動、つまり稼ぐ行為それ自体が目的ですが、宗教法人はあくまで宗教が目的だからです。

そのため、宗教法人が収益事業を行えば、その部分には課税されます。収益事業とは以下の業種です。


そのため、宗教法人の主な収入は檀家や氏子からのお布施や寄附など、多くが他人依存的なものに限定されます。今の宗教法人の大変さのひとつは、この限定的な本来事業による収入が年々減少してきていることです。理由は、檀家や氏子といった支援組織の衰退・解散にあります。

この大変さは、「世界基督教統一神霊協会」も例外ではありません。このことが、宗教法人が高額の寄付金を信者に求める原因の一つなっていることは否めないです。霊感商法も、現在では根拠法ができ、取締が厳しくなってきたので、できなくなりましたが、根拠法がなかったときに横行していた背景にはこのようなことがあったと考えられます。

この問題を解決するには、まずは寄付金控除を宗教法人にも適用すべきです。現在の日本では、寄付金控除という制度はあるものの、それはNPO 法人などに寄付した場合寄付者に適用されるものです。残念ながら宗教法人には適用されていません。

お寺などの宗教法人への寄付の場合、その寄付が財務大臣の指定を受けたものであり、「特定寄付金」に該当する場合は、寄付金控除の対象になりますが、それ以外の場合は寄付金控除の対象となりません。ですから、ほとんどの宗教法人に寄付したとしても控除の対象にはならないのです。

この制度が宗教法人にも適用されれば、お金持ちなど自発的に、寄付する人が増えるでしょう。寄付といえば、私の叔父は住職と友人関係にあった寺に多額の寄付をしていました。寺の改修を賄えるくらいの金額だったと記憶しています。当時は税制上の優遇措置もあまりなかったと記憶しています。

なぜそのようなことをしたのか、子供の頃は理解できませんでしたが、いまになって思えば、叔父はいわゆる町の名士と呼ばれるような人で、かなり裕福でしたので、きっと町や町民に利益を還元するという意味合いで多額の寄付をしたのだと思います。もし、税制上の優遇措置があれば、叔父以外にももっと多くの人が寄付していたと思います。

宗教法人に寄付して、税制上の優遇措置があれば、今よりも自発的に寄付する人も増えると思います。米国では、慈善行為を尊重する歴史的、文化的な背景により、拭き金に対する税控除の範囲が広く設定され、控除限度額も日本より高いです。公益目的の寄付金は、法人の種類によって所得の30%もしくは50%を限度として認められます。

米国では古くから寄付金文化が根付いてきたこともあって、寄付に関しても様々なブログラムがあります。

米国における寄付の相当部分は個人(87%)により賄われており、寄付金の配分先としては宗教団体が31%で最も多く、次が教育機関(15.5%)、社会福祉団体(12.4%)、財団(10.6%)の順でした。

米国の寄付文化の特徴としては、計画寄付(planned giving)が普遍的に実施されていることや多様な寄付プログラムが存在していることが挙げられます。

計画寄付には、寄付者助言基金、遺贈、寄付年金、合同所得基金、慈善残余信託、慈善先行信託、個人財団などのプログラムがあります。

寄付年金は、寄付者が現金や資産を社会団体などに寄付すると、寄付した現金や資産の所有権は社会団体や財団に移転されるのですが、寄付された社会団体や財団から、寄付者あるいは寄付者が指定した受給者に対して、生存中は一定額の年金が受け取れます。寄付と引きかえに終身年金を受け取る権利が得られる仕組みです。

以上については、以下のリンクに詳細が記されています。興味のある方は、こちらを参照願います。
米国における501(C)(3)団体に係る寄付金税制の概要
公益法人制度の国際比較概略
アメリカにおける寄付や寄付年金の現状―どうしてアメリカ人は巨額の寄付をするのか?―

このような仕組みがあれば、資産を持っていても、収入が少ないとかか年金以外の収入がない寄付者が多額の寄付をしたとしても、寄付後にも生活などが成り立つわけです。

日本でもすみやかにこのような制度をとりいれるべきです。無論寄付金文化が根付いていない日本で、これをすべてすぐに実行するのは無理だとは思いますが、それにしても、宗教法人に寄付をすれば、寄付者が税金の控除されるとか、あるいは計画年金ブログラムが根付くまでの間の経過措置として、寄付金額の上限を年収の 10%以内にするなどの措置はすぐにできると思います。

こうすれば、資産は持っているものの、収入のない宗教法人の信者が法外な寄付金を寄付するというようなことを防ぐことができると思います。

私は、これを実行するのに最大の障害となっているのはおそらく財務省だと思います。

日本の場合欧米に比較すると、NPOをはじめとする、公共政策はお粗末です。そもそも、日本には寄付金の文化がなく、それを阻止しているのは、財政民主主義を建前とする財務省でしょう。

財政民主主義の立場から、なぜか宗教法人への寄付に税制上の優遇措置を設けず、さらに寄付金の縛りもつけないがために、ブラック宗教法人が信者に法外な寄付金を収めさせることを放置しているとすれば、これは全く本末転倒と言わざるを得ません。

彼らは、大勢の金持ちが多額の寄付をすることは、財政民主主義の立場からすれば良くないと考えているようで。宗教法人に対する寄付を解禁すれば、宗教法人の数の多さから、税収が減ることを嫌がっているのかもしれません。

ただ、宗教法人とはいっても大きい法人の数はわずかであり、他のほとんどは小規模な法人です。しかも、そこに寄付金額の縛りのある個人が寄付したからといって、いくら寄付者が多くなったとしても、国の財政を脅かすような深刻な事態になることにはなりません。

それに、日本の法人税法上、実は昭和25(1950)年まで公益法人( 税制上の分類では宗教法人も含まれる)はまったく非課税だったのです。その中心的理由としてよくいわれてきたのが、①公益法人は専ら公益を目的として設立され、営利を目的としないというその公益性と、②たとえ収益事業を行ったとしても、それから生じる利益は特定の個人に帰属する性格のものでない、ということでした。

①は、換言すると、公益法人が本来国や自治体が行うべき教育や福祉などの公益的活動を行い、そのことによって国等は本来支出すべき歳出を軽減できる、ということです。公益法人の活動によって、国や自治体が十分にまかなえない公益サービスが提供され、本来国等が負担すべき財政支出が軽減されるのなら、そのような団体に課税せずに、むしろ公益的活動の増進と歳出の軽減を図る方がいい、ということです。

 特に、地域に密着した公益法人は、国や地方自治体にはにはできない地域に密着した公益サービスができます。実際、欧米ではNPOや宗教法人などが、様々な社会貢献活動を行っています。ここでは、詳細は説明しませんが、日本ではとうてい考えられはないような巨大なブロジェクト、たとえば低所得者層の住宅と雇用のための包括プログラムを実行したりしています。

そうして、このような仕組みが古くから根付いている欧米では、優秀な大学や大学院を卒業した将来有望な学生が、宗教法人を含む公益法人に就職することは珍しいことではありません。あるいは、優秀な民間営利企業の経営者が、公益法人の経営者に転身することも珍しくはありません。日本では、考えられないことです。

日本では、宗教法人の衰退に象徴されるように、公益法人が社会に貢献する力は大きくありません。江戸時代には、寺子屋などが、大きな役割を担ってきたことをもう一度思い起こすべきです。それに、道徳とか公共の利益に関わることなど、宗教法人を含む公益法人のほうが、国や地方自治体よりはるかにやりやすいはずです。

私など、子どもの頃お寺で、「地獄図絵」を見せられ、悪いことするとこういうところに堕ちると言われたことは今でも鮮明に覚えています。なぜか、ミッション系の幼稚園に入学し、そこで聴いた、イエス・キリストの自己犠牲の極地ともいえるシスターの話も鮮明に覚えています。

今の日本社会では、勉強して良い大学にいき、良い会社に行くことばかりが強調され、このような道徳心などの教育がおざなりにされ過ぎていると思います。また、政府や自治体の支援など、帯に短し襷に長しであり、公益法人の活動があまり活発ではないため、放置されている社会問題も数多く存在します。そのためでしょうか、なにやら社会が殺伐とした雰囲気になっているところはあることは否めないと思います。

しかし、現在の日本では、良い傾向もみられます。最近ではクラウドファンディングなどで、寄付金文化が根付きつつあります。

一部の富裕層が寄付するだけではなく、多くの人が寄付するようになれば、まともな公益法人には寄付金が集まりやすくなり、より社会貢献がしやすくなり、ブラックな法人には寄付金が集まらず、それでも無理をして寄付金を集めようとすれば、法律違反となりいずれ淘汰されることになります。

宗教法人の扱いは、微妙なところがあります。特定の宗教を排除するということになれば、明らかな憲法違反です。以上のようなやり方で、社会に貢献する宗教法人は栄え、ブラックな公益法人は衰退し淘汰されるというような方法が最善だと思います。

宗教の問題ということになると、日本では上記のようなことが議論されず、全く不毛な論議で時間が無駄になるばかりです。政治家も、マスコミもそうして私達もまともな論議をすべきです。そのためには、少なくとも上記のような知識が必要不可欠です。

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2022年8月26日金曜日

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 25日に安倍晋三元首相の四十九日を迎えた。安倍氏が暗殺されて以降、政界の動きに変化は生じているのか。

 自民党議員なら、表立って聞かれれば、ほとんどの人が「安倍さんの遺志を継いでいきたい」と答えるだろう。ただし、安倍さんの不在はあまりに大きく、まさに余人をもって代えがたかったことが改めて痛感された。

 もっとも、時は動いており、現実はかなり複雑になっている。その典型は安倍派の後継だ。当面は集団運営体制しかありえないが、裏を返せば、誰もが認める後継者がいないということだ。

 安倍さんの葬儀を仕切っていた安倍派幹部に対してさまざまな批判が出ていたが、これは水面下でさまざまな動きが渦巻いているということで、事態がただならないことを示していた。

 岸田文雄政権は事前の予想に反し、四十九日の前に党人事・内閣改造を急いだ。そして、党幹部・閣僚として、萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、松野博一官房長官を指名した。安倍派のパワーバランスを効率した人事だろう。

 だが、内閣改造は岸田政権にとって逆風になっている。これまで内閣改造では、サプライズやご祝儀もあり、内閣支持率が上昇するのが常であったが、今回は各種世論調査で支持率が低下した。

 筆者の見るところ、以前の本コラムで書いたように改造人事がひどかったのが主因であるが、世界平和統一家庭連合(旧統一協会)との関係も足を引っ張っている。

 あらかじめ断っておくが、マスコミが政治家と旧統一教会との接点を問題視するというアジェンダ設定はまったくばかげている。宗教との関係は、あくまで憲法で規定された政教分離にとどまるべきだ。

 宗教からみれば、その政党を支持しようと自由だ。政治の方からみても、内面の自由である宗教の自由があるので、事前に相手に宗教を聞くのは不適切だ。なので、結果として接点を持っても構わないだろう。政教分離は、国(政府)が特定宗教をサポートすることを禁じているだけだ。ただし、接点を持った相手が法令違反をしていれば別だ。

 旧統一協会との接点に関するマスコミの追及では、特定の政治家だけが叩かれるというイメージ操作が行われているように感じる。その背後には、「ポスト安倍」についての政治家の主導権争いも見え隠れして、各種の謀略的なリークが横行しているのかもしれない。

 ポスト安倍は混沌(こんとん)としているが、これから安全保障と財政について、安倍さんの先見の明が見えてくる。そのときに真の後継者が政策論の中で浮かび上がってくるだろう。ただちに、世界のリーダーからも認められることはないだろうが、国内での政策論争によりずぬけた人が出てこないと日本にとっても困ってしまう。

 誰なのかはいまの段階では分からないが、しっかり政策を継承し、国民からの支持もあり、政界内でも実力を発揮できる人を期待したい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍元総理の真の後継者は、岸信夫氏と菅義偉氏か(゚д゚)!

自民党の安倍晋三元首相の「四十九日」を迎えた25日、安倍派(清和政策研究会、97人)は党本部で総会を開き、約60人が出席して安倍氏を追悼しました。

出席者は冒頭、安倍氏の写真を前に黙禱(もくとう)をささげ、会長代理の塩谷立元文部科学相は「安倍会長の遺志を継いで、心を一つにして政治を進めていくことを誓いたい」とあいさつしました。山口県下関市で10月15日に予定される安倍氏の県民葬について「基本的には全員で出席したい」と述べました。

7月21日に自民党本部で集会を開催した安倍派

総会に先立つ幹事会で、先の内閣改造・党役員人事を受けた派内の人事を決めました。安倍氏の実弟である岸信夫首相補佐官らを副会長、萩生田光一政調会長を常任幹事、西村康稔経済産業相の入閣に伴い高木毅国対委員長を事務総長に充てました。

事務総長代理ポストが新設され、柴山昌彦元文科相、福田達夫前総務会長、野上浩太郎参院国対委員長が就きました。塩谷氏は記者団に「結束を固めるため事務的にもう少しきめ細かくする」と狙いを説明しました。

9月27日の安倍氏の国葬(国葬儀)後、同派は新体制への移行が必要か否かも含め、派の在り方について検討する予定です。

岸氏は股関節を患われているとされていますが、私自身股関節の手術をしたことがあるので、その大変さはよくわかります。ただ、私自身も含めて、骨密度が低くない限り、手術するなどして、療養すれば、ほぼ元の状態に戻ります。私自身も現在では、松葉杖も杖もつかず、歩いて、普通の生活をしています。

ただ、リハビリなども含めて完治するには3ヶ月程度はかかります。病状が悪い場合には、人工股関節を入れるのですが、現在では医療も相当進んでいて、この場合でも骨密度が低くない限り、普通に歩き生活できるまでに回復する例が多いです。実際、そのような方を何人か知っています。

岸氏、股関節の本格的治療には、相当期間を要するため、一旦療養に入ると長期間入院することになるため、今までは治療を避けてきたのではないかと思います。股関節を患っていたにしても、たとえば骨の癌などではなく、ヒビが入ったとか、削れたなどの場合は、命に全く別状はないので、無理をすれば、仕事は続けられますが、それにしても、人によっては相当の痛みを伴う場合あります。

私の時も、手術の順番待ちがあったので、それまでの間は会社に松葉杖を突いて行って、業務をこなしました。一ヶ月くらいしてからようやっと手術が受けられるようになりました。

手術後の痛みも特になく、ただ長期間ベッドに股に三角形の形の枕のようなものを挟み、寝ていなくてはならず、しかも寝返りをうつときもそれを股に挟んだままで寝返りをうたなければならず、これは大変でした。

岸氏の股関節の状況は、細かなことは報道されませんが、今回防衛相を退いたといことで、今が根治のチャンスなのではないかと思います。

病院に長期入院というと、マイナスのイメージばかり思い浮かべる人もいると思いますが、そうとばかりもいえません。私自身は、比較的若い頃に入院しましたので、病室に書籍を持ち込み、かなり読書をしました。そうして、その時に読んだ書籍などその後の人生に随分役に立っています。

さて話しは変わりますが、菅氏が首相になったときに、岸氏を防衛大臣に抜擢した理由は何だったのでしょうか。 

それは、安倍前首相に気を遣うと同時に、同盟国アメリカの当時のトランプ政権に、「安倍政権の継承」を示すためだったと考えられます。その頃の、トランプ政権は、「台湾シフト」を鮮明にしており、今後は日本にも役割を求めてくるとみられていた次期でした。そうした日米台の連携に、最もふさわしいのが台湾にパイプを持つ岸氏の起用だったと考えれます。

当の岸防衛大臣(当時)は、2020年9月16日の就任会見で、官僚が用意したペーパーを読み上げて、こう述べました。

「今月11日に発表された(安倍)総理大臣の談話や菅総理大臣の指示を踏まえ、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の考えのもとで厳しい判然保障環境において、平和と安全を抜く方策を検討していきたいと思います」

11日の総理談話」とは、次のようなものです。

<迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました。今年末までに、あるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします>

いわば安倍前首相の「遺訓」とも言うべき「敵基地攻撃能力の保有」です。「敵」とは表向きは北朝鮮ですが、実際には中国です。


当時から、日本の目の前には大きな地政学的リスクが横たわっていました。このことをしっかり認識していなければ、まともな「政策論」もできず、安保や経済政策について、何を話しても、何を考えても、浮いたような浅薄な内容になってしまいます。

そのようなことを考えると、岸氏こそ、高橋洋一氏の言う「しっかり政策を継承し、国民からの支持もあり、政界内でも実力を発揮できる人」なのではないかと思います。

ただ、高橋洋一は、政界にも一定の影響力があり、岸氏こそ安倍元総理の真の後継者であるなどと言ってしまえば、岸氏の芽を摘むことにもなりかねないので、敢えて言わなかったのだと思います。

菅前首相は、仕事師であり、安倍元総理の政策を着実に進めることはできると思いますが、新たな政策をつくり提唱するということになれば、やはり今では、岸氏に並ぶ人はいないのではないかと思います。

私は、菅氏も立派な安倍元総理の後継者ではあるとは思いますが、将来のことを考えれば、岸氏が一番だと思います。

菅総理(当時)と岸防衛大臣(当時)

菅氏と岸氏との良い協力関係ができ、それによって、安倍元総理の政策が確実に継承されることを期待したいです。

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2022年8月25日木曜日

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与党、防衛費概算要求を了承 抜本強化へ過去最大額

防衛費の概算要求について自民党会合であいさつする浜田防衛相

 自民、公明両党は25日、党安全保障調査会などの会合をそれぞれ開き、いずれも防衛省の2023年度予算概算要求を了承した。同省は岸田内閣が掲げる防衛力の抜本的強化に向け、過去最大の5兆5947億円を計上。さらに具体的な金額を示さない「事項要求」を多数盛り込み、最終的な予算額は22年度より1兆円以上多い6兆円台半ばを視野に入れている。

 自民会合やそれに先立つ幹部会では、増額に必要な財源について、国債発行で確保すべきだとの意見や、財務省に議論の主導権を握られると増額幅が圧縮されかねないと懸念する声が上がった。

【私の論評】中露北という核兵器を持った専制国家のすぐ隣にある日本が、防衛費を増やさなければ岸田政権は国内外から不興を買う(゚д゚)!

さて、日本の防衛費の概算要求は了承されましたが、台湾では行政院院会(閣議)は25日、2023年度の中央政府予算案を決定しました。歲出は2兆7191億台湾元(約12兆2932億円)、歲入は2兆5565億元(約11兆5580億円)で過去最大規模。国防費には過去最高の5863億元(約2兆6503億円)を計上しました。22年度比13.9%増となります。

台湾空軍のF16V戦闘機

戦闘機などの装備のための1083億台湾ドルの追加支出や国防部(国防省)向けの特別予算を盛り込んだ。詳細な内訳は公表していません。

防衛予算の増加率は17年以降4%未満に抑えられていましたが、一気に2桁の大幅増となりました。

特別予算を除く防衛予算の伸び率は12.9%。全体の予算案は20.8%増でした。防衛予算が歳出全体に占める割合は14.6%と、項目別では社会保障、教育・科学・文化、経済発展に続き4番目に大きくなりました。

国防部は声明で、予算は「敵の脅威」を全面的に考慮したもので、来年の域内総生産(GDP)予想の2.4%相当と説明。「近年の中国共産党による継続的な標的を定めた軍事行動や、台湾周辺の空海域への侵入の常態化に直面し、軍は戦争を求めず力で国家の安全を守る戦争準備の原則を順守する」としました。

蔡英文総統は軍の近代化を優先事項としています。


こうしてみると、日本の防衛費も結構なものと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、そうともいえないです。

日本と台湾のGDPを以下に掲載します。( 単位:百万US$)
日本 4,912,147
台湾 841,209
日本のGDPは台湾の5.8倍であるにもかかわらず、防衛費は2.3倍に過ぎません。それも6兆円で計算してこの程度です。少なくとも3倍くらいにはすべきです。現状の世界情勢を考えれば、もっと増やしても良いくらいです。

防衛費を増やすと大変だと思われるかたもいらっしゃしゃるかもしれませんが、現在の日本の防衛産業は、防衛省の出す条件が悪すぎで青い気吐息であり、防衛省が競争入札をしても、これを引き受ける企業が少ないと有様です。

もっと良い条件にして、長期にわたって取引をし、国内防衛産業が繁栄するようにすれば、そのお金は国内にも循環して、日本経済も潤うことになります。

そのためにも防衛費を増やすべきです。そうして、増額の財源としては、安倍元総理が主張していたように、日銀政府の連合軍で、調達すべきです。政府が国債を大量発行して、日銀がそれを買い取る形にすべきです。

政府が防衛費を支出すると、そのお金がこの世から消えるなどということはありません。

防衛産業に従事する人たちが、賃金などとして受け取り、経済活動を活発化させ、そのお金はまた税金として政府に戻ってくるのです。

ここが、一度支出するとお金がなくってしまう家計とは大違いです。さらに、政府の下部組織である日銀は、お金を増やすこともできるのです。これらを家計と同じように考えれば、安保、福祉も、教育も何もできなくなります。

これを実行したとししても、以前からこのブログでも、主張したように、現状の日本経済の状況でインフレになることも、将来世代へのつけになることもありません。むしろ、未だ需給ギャプが30 兆円も存在する日本では、防衛費を増やし、国内の防衛産業に様々な仕事をしてもらったほうが、経済にも良い影響を及ぼすのです。

しかし、緊縮命、増税命の、財務省は、こうしたことにことごとく反対するでしょう。それも、様々な手段を駆使して、防衛費の増額を阻止するように行動するでしょう。


例えば、防衛費2%の議論においては、財務省が怪しげな手を使ってきているのですが、これは北大西洋条約機構(NATO)基準というもので、入れるときに海上保安庁の予算を一緒に加えて計算するのです。

こういうときに海上保安庁に関しては、適当に数字をかさ上げして入れたりするのです。本来海上保安庁の予算と、防衛省の予算は別の扱いでしたが、財務省はこのような操作を平気でやってのけるのです。

ただ、 海保の予算が優遇するということではなく、「海上保安庁は国交省のなかだから、国交省の予算でやってくださいね」ということにしそうです。そうすると旧建設、旧運輸の予算の取り合いのなかで、「そこまでは海保予算を削れませんよ」というようなことで、海保に十分な予算が割かれず、数字上のマジックで、海保の予算を一部防衛費に入れて、防衛費を大きくみせるというトリック使う可能性があります。

財務省からはこれから、そのような紛らわしい数字が多数出てくることが予想されますので、惑わされないようにすべきです。

ただ、今回のような閣僚人事だと、防衛省の方からもそういうものが出てきそうで、本当に困ったものです。

これは、一つの事例で、財務省は他にも様々なトリックをつかって、防衛費の嵩上げを計る可能性が高いです。

自民党そうして、岸田総理はこのようなトリックに騙されることなく、そうして、防衛費の増額は国債によって賄うことを貫いていただきたいものです。

それにしても、財務省が様々なトリックを行使して、財務省の嵩上げに成功したにしても、これはいずれ、明るみに出され、自民党内でも不興を買うことになるでしょう。

台湾は軍事費を増やしていますが、これは世界情勢がそうさせているのです。日本も財務省の意向に沿って、数字のトリックで増えたようにみせかけただけで、実際に増やさいないということになれば、国内だけではなく、米、英、豪、印のようなQuad諸国からも不興を買うことになるでしょう。それは、下のグラフをみても明らかです。


日本は、今のままだと、GDP比で防衛費は主要国の中で最低なのです。中国、ロシア、北朝鮮という核兵器を持った専制国家のすぐ隣にある日本が、今のままの防衛費でやり過ごすというなら、国内外から不興を買うのは当然です。

岸田首相は、このことを肝に銘じて、実質的な防衛費の増額を実現していただきたものです。

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