2022年8月31日水曜日

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」―【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

〝中国経済失速〟でウォン急落の韓国と共倒れ!? 日本企業はサプライチェーン見直しの動き 石平氏「もはや留まる理由は見当たらない」


秋の中国共産党大会で3選される見通しの習近平国家主席だが、中国経済は厳しさを増している。中国への依存度が高い韓国経済は巻き添えを食い、ウォンも急落するなど共倒れの危機に直面する。一方、日本は経済安全保障の観点から対中姿勢を見直す構えだが、サプライチェーン(供給網)の面でも「脱中国依存」を進める企業が相次いでいる。

中国の4~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比0・4%増だった。日米などと同じ前期比年率換算すると10%程度の大幅なマイナス成長となる。「ゼロコロナ」政策による上海などの封鎖措置や、習指導部の格差解消政策「共同富裕」で、不動産業界やIT企業など規制強化を進めたことが背景にある。

不動産市況も深刻で、開発業者の資金難で建設工事が中断するマンションが全土に広がっている。購入者が、抗議のためにローン返済を拒否する動きが拡大するなど社会問題化し、金融機関の不良債権拡大につながる恐れもある。

7月の鉱工業生産や小売売上高も低調で、雇用も16~24歳の失業率は19・9%。熱波による電力不足で、生産停止する工場も相次いだ。

こうした不安な状況を受けて、今年上半期の家計部門の銀行預金残高は10兆3000億元(約205兆円)と前年同期から13%増えた。一方、7月の個人向け融資は前年同月比63%減と落ち込んでいる。

第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきたが、現状は雇用環境が厳しさを増すなかで家計の財布のひもが固くなっている。青年層の失業率の高さは、1000万人強の新卒者が社会に出るタイミングで就職の難しさを意味する。統計は景気の頭打ちを示唆している」と解説する。

中国経済不振の直撃を受けるのが韓国だ。韓国にとって、中国は最大の貿易相手だが、くしくも尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足した5月以降、対中貿易赤字が続いている。朝鮮日報は、1992年の国交正常化以来、初めて対中貿易収支が4カ月連続赤字となる見通しだと報じた。

西濱氏は「中国の生産が伸び悩むと韓国は玉突き的に弱くなる。物価高で輸入が減らない一方、輸出だけ悪化する構図だ。『工業化が進んだ経常黒字国』とみられてきた韓国だが、黒字幅はかなり圧縮されている」と分析した。

ウォン安と物価高が進むなか、韓国銀行(中央銀行)は25日、4会合連続の利上げを実施。2022年のGDP成長率見通しを2・7%から2・6%に下方修正した。

日本も「チャイナ・リスク」への対応を迫られる。自動車大手マツダは取引先の部品メーカーに、中国製部品に関して、中国以外の並行生産や在庫積み増しや、日本での在庫保有を要請した。同社メディアリレーション部は「ロックダウンで影響が出て、業績にもかなりインパクトがあった。中国を経由する部品が他社と比べて比較的多いと認識しており、できるだけ早く手元に引き寄せることが必要」と説明している。

産経新聞は、ホンダがサプライチェーンを再編し、中国とその他地域をデカップリング(切り離し)する検討に入ったと報じた。ホンダの生産拠点は二輪、四輪、エンジン工場などが中国や日本のほか、米国、カナダ、メキシコ、タイなど24カ国に及ぶ。中国からの部品供給を東南アジアやインド、北米などにシフトできるか検討する方向とみられる。

政府は今月、経済安全保障推進法の一部を施行した。中国を念頭に置いた経済リスクへの認識も高まっているが、岸田文雄政権はどう動くのか。

評論家の石平氏は「中国経済は構造的に停滞しており、台湾有事の懸念もある。専制国家では海外企業が市場を一夜にして失うリスクがあることは、ロシアの前例が示した。日本企業は産業スパイの危険が指摘されながらも中国依存を続けてきたが、もはや留まる理由は見当たらない」と強調した。

【私の論評】中国では金融緩和が効かない状況にあり、変動相場制に移行する等の大胆な改革が無い限り停滞し続ける(゚д゚)!

上の記事で、ミクロ経済に関する描写などはある程度正しいですが、マクロ経済的な見方は間違いだと思います。

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 上の記事で、「かつての中国の消費は『見栄』が左右し、家計による借り入れ拡大が消費の牽引(けんいん)役になってきた」としていますが、見栄で経済が良くなるというのなら、中国人民銀行(中国の中央銀行) が金融緩和をすれば、中国人民にもお金がまわり、中国経済はまた繁栄するはずです。

しかし、現実はそのような、生易しい状況ではないのです。それについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを掲載します。
中国共産党中央政治局、当面の経済情勢と経済活動を分析研究する会議を開催―【私の論評】「流動性の罠」と「国際金融のトリレンマ」で構造的に落ち込む中国経済!(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、簡単にいうと中国はすでに「流動性の罠」にはまっていて、中国人民銀行が、金融緩和政策を打ち出しても、効き目がない状態に陥っています。

流動性のワナ(Liquidity Trap)とは、金融緩和により金利が一定水準以下に低下した場合、投機的動機による貨幣需要が無限大となり、通常の金融政策が効力を失うことを指します。金利水準が異常に低いと、いくら金融緩和を行っても景気刺激策にならない状況に陥ります。

実際、この記事にも掲載した通り、中国では以下のような状態になっています。
中国が何もしていないということはなく、現在金融緩和を実施しています。ところが、中国の銀行システムには十分過ぎるほどの流動性があるものの、借り入れ需要が低調なままで、銀行間の翌日物レポ金利は昨年1月以来の水準まで低下しています。
現在中国では過剰な資金が実体経済に行き渡るのではなく、金融システムに積み上がっているようです。金融緩和で需要を押し上げることができない「流動性のわな」のリスクが高まりつつあり、 コロナ感染が各地で見つかる中、7月の借り入れ需要は前月から鈍化したもようです。

この状況は、その後も改善された兆候はなく、すでに中国経済は、「流動性の罠」にはまっていたと見られます。 

では、何かこの状況を打開する方法があるかといえば、あるにはあります。国際金融には、国際金融のトリレンマという、昔から知られている原則があり、その原則に従って、大規模な改革を行えば、中国経済はまた発展する可能性があります。

最近の中国は、すでに数年前から、国内の金融政策が大幅に制限されることになっていました。現状の中国では金融緩和を実施すれば、投資効率の低下、資産負債比率の上昇という構造問題が深刻化することが見込まれているからです。さらに、資本の海外逃避も加速されることになります。債務の株式化も低調であるため、政府はリスクに配慮した慎重な金融政策をせざるを得ないのです。

為替制度を選択する際、中国も他の国々と同様、為替の安定と独立した金融政策、更には自由な資本移動、この三つを同時に達成することはあり得ないという国際金融のトリレンマに制約されているのです(図)。

つまり、その3つの選択肢からどの2つを選ぶのか、言い換えればどれを放棄するのかという選択に直面しているのです。中国は自由な資本移動を放棄する形で独立した金融政策と為替の安定(固定レート)を選んでいるのですが、今後政策的に資本移動が自由化されてくると、独立した金融政策を維持するためには為替レートの安定をある程度犠牲にしなければならなくります。



図 国際金融のトリレンマ


香港は少し前までは、上の表の状態だったのですが、現在では中国と同じ状況であり、今後香港が世界の金融センターではなくなります。

10年ほど前、中国では人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったのですが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできませんでした。そのつけが回って、現在金融緩和しても効き目がない状況担っているのです。

このブログの購読者ならご理解いただけるでしょうが、金融緩和政策ができないということは、雇用が悪化することを意味します。

中国の若者の就職難

中国が独立した金融緩和政策を取り戻すには、固定相場制をやめるか、一昔前の中国のように、自由な資本移動をやめるかいずれかを選ばなければならないのです。ただ、独立した金融政策をしたいがために、自由な資本移動を完璧にやめてしまえば、中国に対する海外からの投資を自ら、絶つことになります。

やはり実用的なのは、固定相場制をやめることです。中途半端をしている限り、中国経済は良くならず、金融緩和したくても効き目がなくなるか、そもそも最初からできなかのいずれかの状態が続きます。

この状況は構造的なものであり、何か抜本的な対策を打たなければ、中国経済が再び発展することはありません。

冒頭の記事で、様々な中国のミクロ経済の停滞が、描写されていますが、その根本原因はやはり国際金融のトリレンマにあるのです。

この状況は、たとえ習近平が失脚して、新たな人物がトップになったとしても、固定相場制をやめるなどの大胆な改革をしなけば、継続することになります。

いまのところ、そのような動きは全く見られません。いまのままなら、中国の経済の停滞はますます深刻化していくばかりです。

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