台湾の陸軍は、8月9日と11日に台湾の南部沿岸周辺で「重砲射撃訓練」を行うと発表しました。
中国軍による台湾周辺での大規模な軍事演習が行われたことを受け、部隊の戦闘能力をテストする予定だということです。
また、台湾の海軍からは対艦ミサイルの写真が公開され、台湾海峡の状況を24時間体制で監視しているとする声明が発表されました。
台湾当局は、中国政府に対して「理性的に自制をするように」と呼び掛け、日本を含めた周辺諸国に台湾への理解と支援を求めています。
【私の論評】大国は小国に勝てないというパラドックスに気づいていない、愚かな中国(゚д゚)!
中国はこれを無視して、一方的にペロシ氏を非難しています。これに対して台湾が反発するのは当然で、これは中国も織り込み済みなのでしょうが、中国は、国際政治のパラドックスに関しては、過去の反省も、現状の分析もしていないようであり、今回の台湾を脅す軍事演習は、中国にとってさらに悪い結果を招くであろうことを理解していないようです。
米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも昔から大国は、小国に勝てないということを主張しています。確かに、そういわれてみればそうです。米国もベトナムには勝てませんでした。ロシアに侵攻されたジョージアは一部取られたとはいえ、独立を保っています。アフガニスタンからは、過去には英国、ソ連が、昨年は米国が撤退を余儀なくされました。ウクライナ侵攻でロシアは苦戦しています。
米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していないと前から主張していました。
ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。
周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからです。
米国はベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。
しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けています。たとえば英国は朝鮮戦争で米国側を支援したのですが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。
米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまいました。
『戦争の恐怖』1972年6月8日、AP通信ベトナム人カメラマンだった、ニック・ウット氏撮影。 南ベトナム軍のナパーム弾で、火傷を負った子供らが逃げてくる場面を捉えたもの |
つまり国というものは、強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。
こうした事例は、最近でもありました。それは、リトアニアです。
リトアニアと中国の関係が急速に悪化したのは、2021年7月にリトアニアが「台湾」の名称で台湾当局の代表処を設置することを認めた以降です。中国外交部はこれを強く批判、駐リトアニア大使を召還する決定を行っています。
リトアニアは、同年8月23日に国防省の調査報告として国内の5G関連移動通信体(モバイルデバイス)のサイバーセキュリティ上の評価を公表している。その中で、中国企業であるHuawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)及びOnePlus(ワンプラス)について、併せて10のサイバーセキュリティ上のリスクがあるとし、その内4つは製造時に実装されたものであると結論付けています。
2021年9月16日、EUは「インド太平洋戦略」を公表しました。経済の相互依存状況、地球規模の課題解決等を考えると、EUとインド太平洋の未来は密接に結びついているとし、中国の軍事力増強が南シナ海や台湾海峡を緊張状態にしているとの認識のもと、EUが積極的にインド太平洋地域に係るという方針を示しています。
その戦略として、「同じ志を持つパートナー」との協力を強化するとしている。戦略文書では、「同じ志を持つパートナー」として、日本、インド、オーストラリア、米国、韓国と並んで台湾を挙げています。同戦略には、インド太平洋における海洋安全保障のため、EU諸国が同地域に海洋プレゼンスを示すことに加え、「デジタルパートナーシップ」の作成にも言及されています。
EUはインフラ接続に関し、中国の「一帯一路イニシアチブ」の代案となる「グローバルゲートウェイ」を公表している。デジタルガバナンスに関し、インド太平洋方面の諸国と連携を深め、これを足掛かりに、すでにガバナンスが定着しているオーストラリア、韓国、米国、カナダ等との連携を強化することを目指しています。
海洋プレゼンスの強化に関しては、英仏の空母機動部隊やドイツ海軍艦艇のインド太平洋方面行動は、EUの戦略文書を先取りした行動でした。同年11月5日に、ドイツ海軍艦艇が約20年ぶりに日本に寄港したが、ドイツ外務省報道官によれば、ドイツ政府が申し入れていた同艦の上海寄港は中国が受け入れを拒否したとしています。
中国が、ドイツ海軍艦艇のインド太平洋展開を自国に対する圧力と認識し、不快感を示したものでしょう。同年10月21日に、EU議会でEUと台湾の関係を強化すべきという法案が580対26という大差で可決された背景には、EUのインド太平洋戦略の影響があります。
同年10月30日、中国外務省報道官は、リトアニアとEUに対中関係を悪化させるべきではないと警告を発している。中国がリトアニアとEUの動きを結託したものとみている証左です。
それにもかかわらず、同年11月3日、EU議会の代表者は台湾を訪問、蔡英文総統と会談し「あなた方は孤立無援ではない」とのメッセージを伝えたと報道されています。小国リトアニアと大国中国の対立はEU対中国の対立に変化しました。
同年11月3日付のGlobal Times紙(中国環球時報英語版)は、台湾を訪問した代表団は一部の反中国派議員であり、騒ぎ立てることにより自らの存在感を示そうとしているだけであり、相手にするのは時間と資源の無駄であるとの論評を掲載しています。
同紙は、中国政府の方針を代弁することが多く、中国としては、EUとの対立を、控えめに扱うことにより沈静化を図っていく方針であることを示すものでしょう。小国リトアニアに、台湾という名前を冠した連絡事務所を設置させないという中国の目的は果たすことができず、結果的には中国は勝つことができなかったのです。
リトアニアが中国からの圧力に屈しなかった理由は、EUがリトアニア側についたという事が大きいが、中国への経済依存度も低く、距離的にも中国から遠いという背景があることも事実です。
しかしながら、台湾が中国と対峙する場合、教訓とすべき事項も多いです。その一つは、「同じ志を持つパートナーとの連携」強化です。もちろん米台関係が基軸であることは確かですが、EUがインド太平洋戦略において台湾を米国や英国、日本、オーストラリアと並んでEUの「同志」と位置付けていることを重視すべきです。
アフガニスタンからの米軍の撤退に見られるように、最終的な価値基準は国益です。米台、日台のみに依存する安全保障は心もとないです。価値観を共有する国々との関係を強化することはもちろんのこと、軍事だけではなく、経済、外交、科学技術あらゆる分野で安全保障を担保する方策を講じる必要があります。
そうして、台湾はその方向に進みつつあるようです。すでに、中米の島嶼国セントビンセント・グレナディーンのラルフ・ゴンザルベス首相が7日朝、台湾に到着しました。桃園国際空港で談話を発表し、中国に対し台湾周辺での軍事演習をやめるよう呼び掛けました。
ラルフ・ゴンザルベス首相 |
中華民国(台湾)と外交関係を結ぶセントビンセント・グレナディーン。ゴンザルベス氏は政府の招待を受けて来訪し、12日まで滞在します。談話では、台湾が厳しい状況に直面する中、訪台できたことを喜び、攻撃や暴力による圧力は受け入れられないとの立場を示しました。ゴンザルベス氏の訪台は具体的な行動によって台湾との関係の強固さを示すだけでなく、台湾への支持を示す意義もあるとした。
また、リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣らで構成される代表団も7日、台湾入りした。
また、リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣らで構成される代表団も7日、台湾入りした。
リトアニア運輸通信省のバイシウケビチウテ副大臣 |
英下院外交委員会の代表団が、おそらく今年11月か12月初旬に台湾を訪問する計画だと、英紙ガーディアンが1日に報じていました。 報道によると、同委は今年の早い段階で訪台を計画していたのですが、代表団の1人が新型コロナウイルスに感染して延期していました。 報道によると、訪台は当初計画段階で、英国が台湾を支持していることを示す目的があったといいます。
今後、様々な国々の代表が台湾を訪れることになるでしょう。
今後、様々な国々の代表が台湾を訪れることになるでしょう。
外務省は6日、中国による台湾周辺での大規模軍事演習を巡り、林外相と米国のブリンケン国務長官、オーストラリアのペニー・ウォン外相が「即刻中止」を求める声明を発表しました。
声明では、中国の軍事演習について、「国際的な平和と安定に深刻な影響を与える」と懸念を表明。中国の弾道ミサイル5発が初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことに関しては、「緊張を高め、地域を不安定化している」と非難しました。
私は、この日米豪を含む多数の国が、いずれ近いうちに、中国の演習に対抗して、台湾防衛を目的とした、かなり大規模な軍事演習をすると思います。
中国の今回の暴挙に反応して、多くの国々がこれを脅威に感じ、これに備えようとするでしょう。
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