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樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)
内閣改造でも「ロシア経済分野協力担当相」ポストが存続した |
10日に行われた内閣改造で、「ロシア経済分野協力担当相」ポストの存続が明らかになった。日本はロシアのウクライナ侵入を受けて強い制裁を課し、共同経済活動も見合わせている。その一方で、「協力」を推進するというのだから、矛盾はなはだしいというほかはない。
ロシアからは足元を見られ、 連携してきた主要7カ国(G7)からは疑念の目を向けられるだろう。 懸念されていた対露制裁からの日本の落伍が現実になるのだろうか。
ロシアを刺激したくなかった?
松野博一官房長官が10日午後、新しい閣僚名簿を読み上げた。西村康稔経済産業相のくだりで、他の兼任ポストとともに、「ロシア経済分野協力担当」と明確に述べた。過去の資料でも誤って読み上げたのかとも思ったが、訂正されることはなかった。
同日午後にアップされた時事ドットコムは、サハリン2からの日本向け天然ガス供給をめぐって、「ロシアが日本に揺さぶりをかけており、先方を刺激するのは得策ではないと判断した」と報じた。
この方針について、同日夕に記者会見した岸田文雄首相の口から何の説明もなく、メディア側から質問もでなかった。官邸詰めの記者は不思議に感じなかったようだ。
同日夜、就任会見した西村新経産相は、冒頭発言でこのポストに触れ「ウクライナ情勢を踏まえた日露経済分野における協力プランに参加した企業への対応」と述べたにとどまった。
経済協力見合わせなのに何を担当?
ロシア経済分野協力担当相は2016年9月に新設された。この年5月、安倍晋三首相(当時)がプーチン大統領に、エネルギー開発、医療・など8項目の経済協力を提案、合意した経緯があり、これら事業を促進することが目的だった。
同年12月には、安倍首相の地元、山口・長門で行われた日露首脳会談で、北方領土での風力発電、養殖漁業など5項目の共同経済活動開始でも合意した。安倍政権が、ロシアとの経済協力に前のめりになった年であり、北方領土交渉を促進するという思惑からだった。
しかし、ロシアとの経済協力に慎重な意見が国内にあり、北方領土での共同事業にしても、日本固有の領土であるにもかかわらず、いずれの法律を適用すべきかなどで対立、進展を見ていなかった。そうした中で、ことし2月、ロシアのウクライナ侵略が始まった。
その直後、の3月2日、岸田首相が参院予算委で「ロシアとの経済分野の協力に関する政府事業は当面見合わせることを基本とする」と表明。松野官房長官も同月11日の衆院内閣委で、「幅広い分野で関係全体を発展させるよう粘り強く平和条約交渉を進めてきたが、ウクライナ情勢を踏まえれば、これまで通りはできない。8項目を含む協力事業は当面見合わせる」と説明した。
見合わせている事業のために担当相を存続させて何をさせようというのだろう。兼任とはいえ理解不能だ。「見合わせ」は一時的であり、時機を見て復活させようという思惑なのか。
これまでは、強い制裁を課してきたが
今回のロシアによるウクライナ侵略を受けて日本は当初から、対露制裁、ウクライナ支援でG7各国とよく協調してきた。
ウクライナに対して、食糧、シェルターなど2億ドルにのぼる人道支援、3億ドルの円借款に加え、防衛装備品の供与を断行。防弾チョッキ、ドローン 防衛装備品にヘルメット、双眼鏡など攻撃用武器との境界が微妙な物品も含まれた。
ロシアに対しては、最恵国待遇除外、プーチン大統領らロシア要人の資産凍結など矢継ぎ早に行い、もっとも強い手段として、東京のロシア大使館員8人を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物」として追放した。ロシア外交官を日本政府が一挙に8人もの多数を、しかも、制裁の一環として追放するのははじめてだった。
ロシアの侵略直後、日本はどの程度の制裁を打ち出せるか懸念する向きが少なくなかった。
というのも、2014年、ロシアがクリミアを併合したときの日本の制裁は、ビザ発給緩和の停止、関係者23人へのビザ停止など軽微な内容だったからだ。しかし、日本がとった措置は、こうした懸念を払しょくするに十分だった。
それだけに、今回の「ロシア経済分野協力担当相」の存続は、「やはり」という疑念を再び呼ぶことになるだろう。
サハリン1、2の権益維持も念頭か?
日本政府は石油などロシア極東の資源開発事業「サハリン1」、天然ガス開発事業「サハリン2」について、従来通り堅持したい方針を示している。これに対し、プーチン大統領は制裁への報復として、サハリン1の株式取引を禁じ、サハリン2をロシアの新会社に譲渡するよう命じた。
萩生田光一経産相(当時)は8月8日、サハリン1について、「われわれはいままでの方針を維持する」と述べ、サハリン2については、日本の商社に対して、ロシアが設立したあらたな運営会社に出資継続を求めた。
担当相ポストの継続は、こうした方針とも関係があるのかもしれない。西村経産相は就任会見で、同様に権益維持の方針を表明したが、冒頭に「参加した企業への対応」と述べたのは、商社への働きかけを指しているとみられる。
しかし、日本が事業を継続した場合、各国からの非難は免れないだろう。ロシアのウクライナ侵略直後、米国のエクソンモービル、英国石油大手のシェルがそれぞれ「サハリン1」、「サハリン2」からの撤退を決めている経緯からだ。
日本国内でも侵略開始の翌日の2月25日、自民党の佐藤正久外交部会長が党内の会合で「片方で制裁と言いながら、片方で共同経済活動を続けたら、各国は日本をもう信用しない」と強い調子で中止を主張、与党内で同調が広がっていた。
再び制裁の「弱い部分」になるのか
1989年の中国の天安門事件をめぐって各国は強い制裁を課した。日本も同調したが、日中国交正常化20年の1992年、天皇(現上皇)の訪中を契機に制裁解除の先鞭をつけた。中国とは地政学的に各国と異なる立場にある日本独自の判断だった。
当時、中国外相だった銭其琛氏は回想録の中で、西側の制裁の輪の中でもっとも弱かったのは日本であり、そこに狙いをつけたと告白。結果的に利用された日本側は悔しさを隠せなかった。
日本は今度は対露制裁で「もっとも弱い部分」になるのだろうか。銭其琛氏の回想をよもや忘れまい。
【私の論評】岸田政権が派閥力学と財務省との関係性だけで動けば来年秋ころには、自民党内で「岸田バッシング」の声が沸き起こる(゚д゚)!
高市早苗氏が、経済安全保障担当大臣になったこと、 第2次岸田改造内閣の閣僚応接室での席次が10日、決まり「ナンバー2」とされる岸田首相の左隣には、首相と昨年の総裁選で争った高市経済安全保障相が座ることになったことをもって、日本のロシアや中国、北朝鮮、韓国などに対する制裁等が厳しくなると考える人もいるようですが、どうもそうとはいえないようです。
岸田総理大臣は昨日の内閣改造・党役員人事で、浜田靖一元防衛大臣を再起用する方針を固めました。
正式決定は昨日の午後のはずなのですが、午前中にすでにこれはもう公表されていました。 従来は、「本当にくるのかこないのか」ということで、閣僚候補者は電話の前で待機し、スーツを用意するかしないかと大騒ぎでした。実際、サプライズがあったり、番狂わせのようなことがありました。これは小泉政権の2001年くらいからそのような感じでした。
なにやら、今回の組閣の公表は、20年以上前の組閣のようです。しかし今回は派閥均衡により、随分前から決まっていたのでしょう。
高市早苗氏 |
高市早苗政調会長を経済安全保障担当大臣に、河野太郎広報本部長をデジタル大臣に充てました。また、寺田稔総理補佐官を総務大臣として初入閣させています。加藤勝信前官房長官は厚生労働大臣に、西村康稔前経済再生担当大臣は経済産業大臣として再入閣しました。 留任は松野博一官房長官、鈴木俊一財務大臣、林芳正外務大臣、斉藤鉄夫国土交通大臣、山際大志郎経済再生担当大臣です。
経済安全保障担当大臣や、デジタル大臣は、内閣府大臣というものです。少子化や経済安保、地方創生など。内閣府大臣は通常の大臣とは少し違うと考えるべきです。名称は、同じ大臣なのですが、実内閣府大臣には人事権がないのです。だから 内閣府特命担当などとも呼ばれるのです。 特命担当の大臣には人事権はなく、それを誰が持っているかと言うと、官房長官なのです。
すると役人は、「この大臣は人事を行う人ではない」という対処するのです。だから、そこに骨を埋めるつもりの人はまずいません。
人事はまったく別系統なので、高市さんと、自分の人事には直接関係ないのです。役人は、自分が出世するのかどうか、自分の人事を中心に、それを目標にする人が多いのです。 ですから、この大臣にいくら言っても人事は関係ないと思うと、それなりの扱いをするのです。
もともと総務大臣などの省庁の大臣をしていた、高市氏や河野氏のよう人が、内閣府担当大臣になるのは実質的な格下げと言って良いです。省庁大臣というのは、総務省や防衛省など、人事ができる大臣なのです。
このブログでも述べてきたように、組織において最大のコントロール手段は人事なのです。人事ができるから、組織の人間をコントロールできるのです。そういう大臣を務めていた人に内閣府大臣を担当させるということは、閣内に入れたとは言っても、手足を取ってしまったということです。
そのまま一議員としてではなく、閣内で反旗を翻すわけにはいかなくなります。 おまけに周りに手下がいません。いない状態にさせるには内閣府大臣が適当なのです。はっきり言ってしまえば、飼い殺しの状態です。この難局に高市氏や河野氏をこうした状態に追いやっておいてよいのでしょうか。
現在日本を取り巻く環境が厳しいなかで、外交安全保障が気になるところですが。外務・防衛閣僚協議(2プラス2)などにおいて、外務大臣と防衛大臣は重要なのですが、外務大臣は生え抜きの親中派の林外務大臣でそのままです。
岸首相自身は、台湾派であり、第一次岸田内閣においては、親中派の林外務大臣と親台湾の岸防衛大臣とでバランスが取れていたとも言えるのですが、今回はそれが崩れて防衛大臣は浜田靖一氏です。
浜田靖一防衛大臣 |
浜田氏は、浜田幸一さんの息子さんですが、浜田幸一さんのようなイメージはまったくなく、温厚で穏やかな方です。どちらかと言うと、この方は石破茂さんに近いです。
参院選自民党の公約です、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ防衛費は北大西洋条約機構(NATO)諸国が掲げる国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に置くと明記しましたが、これに財源論の話が出てきていて、「何らかの税金で手当てしない限りはできない」ということが骨太の方針にも載せるべきという議論がありました。
また、国債にすべきという議論もありましたが、財源については秋に議論を深めるということになりました。
国債ということになると、現在の枠組みでは、海上保安庁の船は建設国債が使えます。しかし、海上自衛隊には使えないのです。どうして使えないのか意味不明です。 耐用年数が海上保安庁の方は長いから、耐用年数があって資産としてあるからということで、海上保安庁の船は建設国債を使ってもいいというロジックのようです。
しかし、有事になった場合、海上自衛隊と海上保安庁の艦艇のどちらが先に攻撃を受ける可能性が高いかといえば、最初に攻撃を受けるのは、前線に出ている海上保安庁なのです。
尖閣諸島などで、最前線の現場に出ているのが海上保安庁の艦艇であり、背後にいるのが海上自衛隊の艦艇です。有事になったとき、海上保安庁の船が速やかにどこかへ退出できるとは思えません。
既に、来年度予算をどうするのかという概算要求の話も出ていますが、自民党国防部会によれば、防衛費の予算要求5.5兆円などと従来とほとんど変わっていないではない数字が出ています。
それでは防衛費をGDP比2%まで増やすことはできないでしょう。防衛費2%の議論においては、財務省が怪しげな手を使ってきているのですが、これは北大西洋条約機構(NATO)基準というもので、入れるときに海上保安庁の予算を一緒に加えて計算するのです。
こういうときに海上保安庁に関しては、適当に数字をかさ上げして入れたりするのです。本来海上保安庁の予算と、防衛省の予算は別の扱いでしたが、財務省はこのような操作を平気でやってのけるのです。
財務省からはこれから、そのような紛らわしい数字が多数出てくることが予想されますので、惑わされないようにすべきです。
ただ、今回のような閣僚人事だと、防衛省の方からもそういうものが出てきそうで、本当に困ったものです。今回防衛大臣人が変わったことで事務次官も変わりました。
事務次官については防衛省側は、今年(2022年)は安保3文書(「国家安全保障戦略(国家安保戦略)」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」<国家安全保障会議(NSC)・閣議決定文書)の改訂があるから、「それまでは同じ人でやりたいのです」と言っていたのを、内閣人事局が変えたとされています。
海上保安庁も菅政権までは、3代続けて制服組が長官だったのですが。 今回は国交省の事務キャリアである背広組です。
先の今回の組閣の公表は、20年以上前の組閣のようだと述べましたが、それだけではなくまるですべてが一昔に戻ったようです。
先の、話のなかで海保の予算が優遇されているかというと、まったくそんなことはなく、「海上保安庁は国交省のなかだから、国交省の予算でやってくださいね」ということになりそうです。そうすると旧建設、旧運輸の予算の取り合いのなかで、「そこまでは予算を削れませんよ」というようなことで、海保に十分な予算が割かれないということにもなりかねません。
財務省は、国内総生産(GDP)を計算するときに上乗せしたり、様々な操作をするでしょう。都合よく数字を変えるのが財務省のテクニックなのです。
財務省においては、ダブルスタンダード、トリプルスタンダードが平気でまかり通っています。 それをマスコミの人がわからずに騙され、それをそのままオウム返しのように報道します。
財務省は「防衛費は、5.5兆円ですが、海保の分を入れると実は6兆円に近いです」とか、「GDPの数字上からすれば、防衛費2%に向けて順調にいっています」などというようなトリックを用いることになるでしょう。
米国の定評あるビューリサーチセンターの調査では、9割近くの日本国民が中国の印象について好ましくない答えており、岸田政権があくまで親中路線を貫くというのなら、多くの有権者が離反することになるでしょう。
それに、米国は超党派で中国に対峙する体制になっていますから、米国も良い顔はしないでしよう。あまりに、岸田政権が親中派的な行動をすれば、日本の個人や組織にセカンダリー・サンクション(二次制裁)を課すことになるかもしれません。そうなれば、せっかく安倍元総理が築いた、世界における日本の存在感を毀損することになります。
さらに、昨日も述べたように、今後現状のまま、まともな経済対策をせず、しかも来年4月の黒田総裁の辞任にともない日銀総裁に、いわゆる反リフレ派の人間を据え、日銀が再度金融引締路線に戻れば、秋には失業率が本格的にあがりはじめますし、経済も本格的に悪くなります。そうなれば、内閣指示率はかなり低下するでしょう。
この内閣の陣容をみていると、あらためて昨日この記事に書いた結論である「マクロ経済の原則を理解せず、派閥の力学と財務省との関係性だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊することになる」ことになりそうです。来年の秋ころには、自民党内に「岸田バッシング」の声が沸き起こりそうてす。
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