2022年8月19日金曜日

破産宣言のスリランカ 債務再編主導を日本に依頼へ―【私の論評】スリランカは、日本に開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させ、その開発・利用への支援を再開して欲しいと願っている(゚д゚)!

破産宣言のスリランカ 債務再編主導を日本に依頼へ

2015年10月 スリランカのウィクラマシンハ首相(当時)と首脳会談をした安倍首相(当時)

 深刻な経済危機に陥り、破産を宣言しているスリランカのウィクラマシンハ大統領は18日、ロイター通信の取材に対し、債務再編の協議の主導を日本に依頼する考えを示した上で、来月、日本を訪れ、岸田総理大臣と会談する意向を表明しました。  スリランカ・ウィクラマシンハ大統領「誰かが主要債権国を集める必要があり、我々は日本に依頼する」  ウィクラマシンハ大統領は、このように述べ、債務再編に関する協議の主導を日本に要請する考えを示しました。その上で、来月に日本を訪れ、岸田総理と会談する意向を表明しました。  スリランカの2国間債務は約62億ドルに上ると推定され、日本や中国、インドが主な債権国です。16日には、中国の調査船がスリランカ南部の港に入港し、インド側が「スパイ船」と批判するなど、中国とインドは、スリランカへの影響力拡大をめぐり対立しています。  ウィクラマシンハ大統領としては、経済危機からの脱却のため、日本の主導で、債務再編の交渉を円滑に進めたい狙いがあるとみられます。

【私の論評】スリランカは、日本に開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させ、開発・利用への支援を再開して欲しいと願っている(゚д゚)!

スリランカの議会は先月20日、ラニル・ウィクラマシンハ首相を新たな大統領に任命しました。同国では政府に対する大規模な抗議行動を受け、先週にゴタバヤ・ラジャパクサ前大統領が国外に逃亡。その後、辞任していました。

ウィクラマシンハ氏は議会では対立候補のドゥルス・アラハッペルマ氏を134対82と大差で下したものの、国民の人気は低いといいます。

新大統領は今後、経済危機と、数カ月にわたる抗議運動による混乱を収める必要があります。

スリランカの経済が破綻し大規模デモがおきて政権が転覆したのは、数々の失政が重なった結果ですが、とどめの一撃となったのは燃料費の高騰でガソリンが輸入できなくなったことでした。

スリランカの最大都市コロンボで最近みられる、ガソリンスタンドでたくさんの車やバイクが行列ぎょうれつをつくる光景

いまの開発途上国でのエネルギー危機は、単にウクライナの戦争のせいではありません。近年になって、欧米の圧力によって化石燃料事業への投資が停滞していたことが積み重なって、今日の破滅的な状態を招いているのです。

インド人の研究者である米国ブレークスルー研究所のビジャヤ・ラマチャンドランは科学雑誌Natureに書いています。
「近代的なインフラを最も必要とし、世界の気候変動問題への責任が最も軽い国々に制限を課すことは、気候変動の不公正の極みである」。
ラマチャンドランは、国際援助において、気候変動緩和をすべての融資の中心に据えるという近年の方針について、偽善であり、二枚舌だとして、猛烈に抗議しています。
「それは、経済開発に使える資源を必然的に減らすことになり、しかも地球環境にはほとんど貢献しない。・・なぜそのような努力をするのか。世界銀行とIMFの主要株主である富裕国は、これまでのところ、エビデンスや合理的なトレードオフに基づく気候変動政策の策定にはほとんど関心を示していない。 
それどころか、天然ガスを含む化石燃料への融資を制限し、自国では思いもよらないような制限を世界の最貧国に対して課すことを、自画自賛しているのである。その規制の中には、化石燃料への開発金融をほぼ全面的に禁止することも含まれている。 
世界銀行は、気候変動緩和政策と貧困削減の間の急激なトレードオフを最もよく理解しているはずである。しかし、国内の環境保護団体を喜ばせたい資金提供者が課した条件には従うしかなかったようだ。・・欧州連合は、自分たちはクリーンエネルギーの原子力発電所を停止し、天然ガスの輸出入を増やし、国内の石炭発電所を新たに稼働させる一方で、開発金融機関に対しては、貧困国でのすべての化石燃料プロジェクトを直ちに排除するよう主張している。」
「さらに悪いことに、EUの官僚たちは現在、『何がクリーンエネルギーか』をめぐって一進一退の攻防を繰り広げている。燃料不足に直面する加盟国から、原子力や天然ガスまで定義(タクソノミー)を拡大するよう圧力がかかっている。その一方でEUの広報担当者は、“EUの柔軟な分類法は、開発政策に反映されることはない”と明言した。つまり天然ガスはヨーロッパ人にとってはグリーンだが、アジアやアフリカの人々にとっては事実上禁止されるということだ。」
何十億人の人々が、先進国のエリートたちによって、化石燃料のない、貧困に満ちた未来へと組織的に強制されているのです。気候危機説を信奉する指導者たちが、開発途上国の化石燃料使用を抑圧しているからです。哲学者のオルフェミ・O・タイウォは、この現象を「気候植民地主義」と呼んでいます。

残念ながら、日本もこれに加担しています。

6月22日に、日本の外務省はバングラデシュとインドネシアに対する政府開発援助(ODA)による石炭火力発電事業支援の中止を発表しました。CO2の排出が理由であり、G7の意向に沿った形です。


ちょうどその同日、この夏の電力不足に対応するため、停止していた火力発電所の再稼働を急いでいる、とのニュースが流れました。千葉県の姉崎火力発電所5号機、愛知県の知多火力発電所5号機などです。

自分の国で電力不足になると火力発電に頼る一方で、途上国の火力発電所は見捨ててしまうというのは道義にもとります。日本がいま電力不足なのは事実だですが、バングラデシュほど慢性的に電力が不足し停電が頻発し経済に甚大な悪影響を及ぼしている訳ではありません。

開発途上国の化石燃料利用を禁止する一方で、今後は経済開発を再生可能エネルギーで実現しろと命じるのは、発電の物理的現実と何十億人もの貧困を否定する傲慢さを示すもの以外の何ものでもありません。

これに対して、叛逆する指導者たちも出てきています。6月、ニジェールのモハメド・バズーム大統領は、次のように述べた。
「アフリカは、2022年末までに外国の化石燃料プロジェクトに対する公的融資を打ち切るという西側諸国の決定によって罰せられている…我々は戦い続けるつもりだ。アフリカ大陸が天然資源を開発することを許可すべきだ。100年以上にわたって石油とその派生物を搾取してきた者たちが、アフリカ諸国が資源の価値を享受するのを妨げているのは、率直に言って信じがたいことだ。」
他方で、能力を有する諸国は、エネルギー増産に励んでいます。国際価格が暴騰したのだから、当然の行動です。

中でも、すでに世界最大の石炭消費国である中国は、エネルギー不足を食い止めるため、生産量の増加に躍起になっています。昨年は世界最多の41億トンの石炭を生産していたのですが、2022年には更に3億トンの生産を追加する計画です。

2021年7月から10月にかけては、年間2億7000万トンの生産能力を追加しており、これは南アフリカの全年間生産量(年間約2億4000万トン)を上回ります。

また、中国には新たな炭鉱計画があり、今後数年間でさらに年間5億5900万トンの生産能力を追加する予定である。これは、世界第3位の石炭生産国であるインドネシアの年間生産量(年間5億6400万トン)よりも多いです。

中国は資金も技術もあるので増産できます。ところが殆どの開発途上国は資金も技術も欠いていて、たとえ資源を有していても、エネルギー不足と価格高騰の窮状にあえいでいまう。これを助けないならば、一体何のための国際支援なのでしょうか。

来年2023年は日本はG7議長国となります。開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えるべきです。

もしこれに失敗すれば、開発途上国は本当に欲しいものを供給し支援してくれる国々を頼るようになるでしょう。それはロシアであり、中国になるでしょう。

開発途上国は先進国が呼びかけた対ロシア経済制裁に殆ど参加しませんでした。つまりいつまでも先進国の言いなりにはならないということです。

そうした中での、スリランカによる債務再編主導の日本への依頼です。スリランカは、開発途上国から化石燃料を奪う事の非を欧米に理解させて、化石燃料の開発・利用への支援の再開を訴えて欲しいのだと思います。

日本の化石燃料を用いた発電など、かなり技術が進んでいます。石炭火力発電というと、皆さんのイメージの中には、もくもくと真っ黒な煙をあげるものというイメージがあるかもしれません。

しかし、最近の石炭火力発電は、環境にかける負荷がずいぶんと減ってきています。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。

特に日本は世界でも最高効率の発電技術を持っています。発電効率が向上すれば、少量の燃料でたくさんの電気をつくることができるようになり、そのぶん、火力発電から排出されるCO2の量も削減されます。また、大気汚染物質の排出も大幅に削減しています。今後もさらなる技術開発をおこない、効率化とCO2削減を進んでいくでしょう。

世界には、どうしても石炭をエネルギー源のひとつとして選択せざるを得ない国が存在しています。その理由は、安定した供給をおこなうことができるという「エネルギー安全保障」、そして「経済性」にあります。

国際エネルギー機関(IEA)の分析では、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに、今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通しとなっています。新興国にとって、安く、安定的に採れる石炭は、引き続き、重要なエネルギーなのです。

2017年11月に開催された「東アジアサミット」、2017年9月に開催された「ASEAN+3エネルギー大臣会合」においても、ASEAN諸国からは、エネルギー安全保障と同時にCO2削減にも貢献するクリーンな石炭火力発電技術について、積極的に活用していきたいとの言及がありました。また、その導入のため、金融面・技術面で支援を求める声もありました。

2017年11月に開催された「東アジアサミット」中央は安倍総理(当時)

日本は、海外に対して、再生可能エネルギーや水素、排出したCO2を貯める「CCS」や貯めて使う「CCUS」などを含んだ、さまざまなエネルギーの選択肢を提案し、支援しています。日本は、石炭火力発電を選ばざるを得ない国々に対しては、日本ができる貢献として、日本が持つ高効率発電技術の輸出をおこなっているのです。これは、途上国の発展に対する貢献になることはもちろん、アジア地域全体の温暖化対策、大気汚染物質の削減への貢献にもなります。

こうした事実があるからこそ、スリランカは日本に期待しているのでしょう。ロシアのウクライナ侵攻にともない、欧米諸国はロシアに対する制裁を強化しました。それに反発したロシアはエネルギーによって、西欧諸国を脅かしはじめました。

現在世界の多くの国々がエネルギー問題に直面しています。日本は、スリランカの債務再編を主導するだけではなく、エネルギー分野まで踏み入ってスリランカを支援すべきでしょう。

そうして、スリランカにとどまらず、日本の技術力によって、化石燃料を使いつつも環境を保全できるように、世界中の国々対して支援ができるように様々な努力を重ねていくべきでしょう。

その過程で、日本自身もエネルギー安全保障と、CO2 の削減に取り組んでいくべきです。原発なども視野に入れて取り組むべきです。この必要性は、ロシアのウクライナ進行によって多くの国が認識するに至りました。

石油などのエネルギー資源に昔から悩まされてきた日本だからこそ、エネルギー問題に敏感で、省エネ等様々な技術開発に取り組んできたのです。今こそ、日本が世界に貢献し、存在感を増す絶好の機会だと思います。

将来的には、小型原発や核融合炉にも挑戦し、世界のエネルギー問題を解決し、世界をエネルギー問題からの軛から解き放つべきです。これに向けて道筋をつければ、岸田総理は安倍総理と並んで、日本の傑出した宰相として高く評価されることになるでしょう。

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