2022年7月7日木曜日

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請―【私の論評】スリランカ危機の背景にある、一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカが「破産」宣言“燃料輸入”プーチン氏に支援要請

スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領

 ウクライナで侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対して、スリランカの大統領が支援を要請しました。国家の破産を表明したスリランカで一体、何が起きているのでしょうか。

 国家の「破産」。人々は怒っています。

 治安部隊は放水銃で応戦。催涙弾も使われています。

 国が破産するとは、一体、どういうことなのか。

 ウィクラマシンハ首相:「今までは発展途上国として(IMF(国際通貨基金)と)交渉してきた。今は破産国家として交渉に臨んでいる」

 通貨の下落と、極端な物価の上昇。

 1日に何時間も停電になり、米はこの1年で4倍に値上がりしています。

 給油待ちの人:「3日前から並んでいます。いつガソリンが手に入るか分かりません」

 怒りの矛先はラジャパクサ大統領ら、政治指導者に向かっています。

 運転手:「人々が何日も列に並んでいるのは、支配者たちの近視眼的な政策のせいです。これは大きな犯罪だと思います」

 外貨不足により、輸入に頼る医薬品も不足。弁護士の団体もデモに参加するなど、あらゆる階層が声を上げています。

 弁護士:「私たちは、この腐敗した政治家たちと戦います。彼らは何十年もかけて私たちの国を台無しにしてきました」

 祖国の窮状を憂いている男性。都内でスリランカ料理店を営むカピラさんです。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「もともと多分、破産していた。これはきのう、きょうの話じゃなくて、今の大統領は政治家として何も知らない人」

 大統領の一族による政治支配が今の状況を招いたとカピラさんはみています。

 タップロボーンオーナー、カピラバンダラさん:「(政治家を)選んだ国民が今お返しをもらっている。日本の国民に言いたいんですが、やっぱり選挙は大事なもの。日本の皆様も他人事じゃないと思います」

 国家の破産。ラジャパクサ大統領は燃料輸入のため、ロシアのプーチン大統領に支援を要請しました。

テレビ朝日

【私の論評】スリランカは始まりに過ぎない!一帯一路の終焉が世界にもたらす危機(゚д゚)!

スリランカは、中国から融資を受けて、南部ハンバントタ港や同国最大の都市コロンボの港湾開発事業など、次々と発展プロジェクトを展開しました。同国が過去10年間にわたり、インフラ投資の名目で中国から受けた融資は総額50億ドル (約5,693億6,497万円)を上回りました。

スリランカはたちまち返済に窮し、2018 年には「借金のカタ」に、ハンバントタ港を中国の国有企業に引き渡す羽目に陥りました。同港の運営権は今後99年間にわたり、中国が握りました。

スリランカのラジャパクサ大統領(左側)と中国の王毅外相(右側)が1月9日、中国の投資で建設したコロンボ国際金融都市を見学

追い詰められた同国のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2022年1月9日、同国を訪問していた中国の王毅国務委員兼外相に、対中債務返済計画の再考と2021年の輸出品目35億ドル(約3,985億7,819万円)に対する関税条件の緩和を要請しました。

王外相はこれに対し、「両国は地域包括的経済連携、中国を含むアジア太平洋の自由貿易協定、および中国市場の広大さから利益を得るよう努めるべきだ」と述べ、中国とスリランカの間の自由貿易協定についての協議を再開するよう求めました。

さらに、スリランカが一帯一路イニシアチブの恩恵を受けている点を強調し、今後もスリランカが「一時的な困難」を乗り越えるために支援を継続する意向を明らかにしました。しかし、肝心の債務返済についてはノーコメントでしたた。「債務のワナ」については、事実無根と反発しました。

こういう状況だったスリランカにさらに追い打ちをかけるようなことがありました。まずは、パンデミックによって観光客が来なくなり観光業が壊滅しました。そうして今年2月からのウクライナ紛争によって食料や燃料の輸入が困難になり、それが危機に拍車をかけました。

物資不足のため国内ではインフレが進行し、庶民は食料や燃料を手に入れることが難しくなりました。生活苦を理由として3月頃から国内でデモ・暴動が頻発し、2019年から務めていたマヒンダ・ラジャパクサ首相(ゴタバヤ・ラジャパクサ現大統領の兄)は国内の混乱の責任を取る形で5月9日に辞任しました。

その直後に現職のウィクラマシンハ首相が就任したのですが、首相が交替しても経済危機は全く収まりませんでした。4月18日には約7,800万ドル(約105億円)分の米ドル建て債の利払い期限を迎えたが支払えず、その後1ヶ月の猶予期間を経ても支払えなかったために、スリランカは5月18日にはデフォルトとなりました。

通貨であるスリランカルピーも今年になって暴落。1~2月は1ドル=200ルピー付近で推移していたレートですが、3月以降はルピーが暴落して6月には1ドル=360ルピーと年初の半分近くの価値になりました。

5月のデフォルト以降は政府による借り入れが難しくなり、国内の経済事情はさらに悪化しました。ガソリンがほとんど手に入らないため、ガソリンがあるスタンドには常に大行列ができています。また食料品が手に入らず1日3食食べられない国民も増えています。

そのような状況が続き、今週5日にウィクラマシンハ首相は議会演説でスリランカの「破産」を宣言しました。この宣言をもってすぐに状況が一段と悪化するわけではないですが、スリランカ経済が極めて厳しい状況にあることが改めて確認されました。現在スリランカのインフレ率は年間50%程度と言われており、ウィクラマシンハ首相は「年末までに60%になる見通し」と述べていました。


しかし本当の問題はスリランカだけではありません。パンデミックによるサプライチェーンの混乱やウクライナ紛争によって、世界的に食料や燃料が手に入りにくくなっている。日本でも食料品の値上げが毎日のように発表されているものの、日本はそれほど深刻ではありません。

中東やアフリカの途上国ではスリランカのように食料や燃料が手に入らず、経済危機に陥る可能性のある国が増えています。サプライチェーンの混乱やウクライナ紛争が続く限り、世界的なインフレや途上国の危機は終わりが見えないです。

セバスチャン・ホーン、カーメン・ラインハート、クリストフ・トレベシュは、Centre for Economic Policy Researchのオピニオンサイト、VoxEU.orgに寄稿した論考で、一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろうと述べています。

その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさです。ホーンらによれば、中国の国有銀行は2000年以降、ロシアに対しエネルギー関連の国有企業を中心に累積1250億ドル以上、融資してきました。

中国はまた、ウクライナに対しても主に農業とインフラストラクチャー分野のプロジェクトを中心に70億ドル程度、さらに、ベラルーシに対しても80億ドル程度、融資してきました。この3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占めるといいます。

もともと、近年急激に増加しつつある中国の対新興国への資金貸付は、どのような基準に基づいて行われているのかが明確ではなく、債務不履行などのリスクを生じやすいものであることが指摘されてきました。スリランカはまさにその一つの例です。ホーンらは、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は10年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘しています。

世界銀行のデータによれば、中国から新興国の政府部門への資金の純移転は、16年をピークに減少し、19年と20年にはマイナスに転じています。ホーンらはこのデータをもって、中国の国有銀行はすでに成長のための資金提供者から債務の回収者へと転じている可能性があるとしています。ウクライナ危機およびその後の経済制裁によってロシアおよびその同盟国の経済が直面することになったリスクは、その傾向をさらに増幅させることになるでしょう。

中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれないです。このことが持つインパクトは、おそらくこれまで西側諸国によって喧伝されてきた「一帯一路が『債務の罠』をもたらす」という問題よりもはるかに大きなものになると考えられます。

ただ、国土面積も大きく、人口も比較的多く、基盤産業もある程度整っているウクライナはEUに入ることができて、戦争によってロシアの一部領土を掠め取られたにしても、大部分がウクライナの版図として残りますから、これから経済発展することが望めますし、中国からの債務も返していくことができるでしょう。

しかし、スリランカやベラルーシのような中国からの返済が危うい国は他にも多数あります。


中国が新興国に対する気前のよい資金供給者の役割から撤退するならば、そのあとにどのようにしてそれらの国々の持続的な経済成長を支えていけばよいのでしょうか。長期化が懸念されるウクライナ危機は、国際社会に対してこのような問いを突き付けていることを忘れるべきではありません。

そうして、スリランカの危機は、こうした危機の始まりに過ぎないことを認識すべきと思います。

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