2022年6月17日金曜日

「一帯一路」に〝亀裂〟参加国が続々反旗 スリランカが債務不履行、各国が借金漬けに 親ロシア、東欧地域も戦略失敗で高まる反中感情―【私の論評】自国民一人ひとりを豊かにできない中国が「一帯一路」を成功させる見込みはない(゚д゚)!

「一帯一路」に〝亀裂〟参加国が続々反旗 スリランカが債務不履行、各国が借金漬けに 親ロシア、東欧地域も戦略失敗で高まる反中感情

4月にスリランカで起きた反政府デモ

 中国外交が敗北を重ねている。南太平洋の島嶼(とうしょ)国との安全保障協力で合意に失敗したほか、巨大経済圏構想「一帯一路」でも、スリランカが事実上の債務不履行(デフォルト)となるなど各国が借金漬けだ。さらにロシアのウクライナ侵攻で欧州でも反中感情が高まる。習近平国家主席は「中華帝国の偉大な夢」を抱くが、「脱中国」が加速しているのが現実のようだ。

 「強固だった関係が壊れている」と語ったのは、スリランカで先月、新首相に就任したウィクラマシンハ氏だ。

 同国ではラジャパクサ大統領らが港湾開発などを中国企業と進める方針を示すなど、親中外交を進めてきたが、4月に対外債務の支払い停止を発表した。一帯一路の拠点として実施してきたインフラ整備のために背負った借金がふくらみ、財政難に陥ったことも一因とみられる。

 これまでも一帯一路の参加国がインフラ開発費用の返済に窮すと、中国が戦略的施設の長期使用権などの要求を突き付ける「債務の罠」が警戒されてきた。

 中国からユーラシア大陸を経由して欧州へと続く一帯一路構想のほぼ中央に位置するパキスタンでは、中露関係を重視したカーン前政権が高インフレや通貨安による経済危機で4月に失脚した。シャリフ新首相も親中姿勢だが、経済再建をめぐる政情不安が続く。

 米シンクタンク、世界開発センター(CGD)は18年の時点で、一帯一路のインフラ投資計画があったパキスタンやモルディブ、ジブチ、ラオス、モンゴル、モンテネグロ、タジキスタン、キルギスの8カ国について債務問題に懸念があるとのリポートを公表していたが、すでに現実のものとなっている。

 中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「中国はパキスタンの政情不安を背景に一帯一路の要衝だったグワダル港を諦め、最大都市カラチに港湾整備を移した。モルディブも親中派大統領の失脚でインドが勢力下に収めた。次にスリランカで大統領打倒の動きになれば、中国には大きなショックだ」とみる。

 こうした状況を受けて、中国の王毅国務委員兼外相が今月8日、カザフスタンで開かれた中央アジア5カ国との外相会議に出席し、一帯一路への協力強化で一致するなど関係維持に躍起だ。

 アジア圏だけでなく、欧州でも一帯一路に危機が生じている。きっかけの一つがロシアのウクライナ侵攻だ。

 そもそもウクライナは中国と関係が良好で、一帯一路の拠点でもあった。しかし、ロシアの侵攻後、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」もウクライナを経由する便は運航停止となった。欧州の貨物輸送大手企業も相次いで中欧班列関連の受け付けを停止している。

 モスクワを経由する便は運行が続いており、中国国営のラジオ放送局「中国国際放送」(日本語電子版)は、中欧班列は4月に1170本運行し、3月と比べて36本増加したと伝えた。中国外務省の汪文斌報道官が「中国の強靱(きょうじん)性と責任を負う姿勢が示され、世界に力や自信を伝えた」と自信をみせたという。

 しかし、鉄道網の主要な拠点で、中国IT大手ファーウェイ(華為技術)の地域本部もあるポーランドでは、「プーチン大統領を支持した中国を非難するウクライナ難民であふれかえっている」とロイター通信は指摘。「東欧地域における中国の戦略はさらに傷ついている」と報じた。

 評論家の石平氏は「中国が一帯一路を守りたいのならば欧州と足並みをそろえるべきだった。ロシアの肩を持ったことで自ら拠点を破壊するに等しい矛盾した外交となった。アジアの取り込みにも失敗し、欧州からも反感を買うなど、習氏の外交上の失敗がまた一つ加わることになった」と語った。

【私の論評】自国民一人ひとりを豊かにできない中国が「一帯一路」を成功させる見込みはない(゚д゚)!

一帯一路構想を手短にふりかえっておきます。2013年、習近平国家主席は「シルクロード経済ベルト」構想を打ち上げ、2014年にそれを海洋方面と合体して「一帯一路」構想としました。これは、当時中国の広げた大風呂敷であると感じられたものです。

しかし当時中国は08年のリーマン危機を乗り切って自信満々。しかも、合計4兆元(約60兆円)の内需拡大が一段落し、閑古鳥の鳴いていた中国国内の素材・建設企業は「一帯一路での国外の事業」に活路を見いだしました。政府各省は一帯一路の美名の下、予算・資金枠獲得競争に狂奔しました。


ただ、当初からこの一大事業が成功するのかどうかは、疑いを目をもってみられていました。そもそも、一帯一路構想は、中国内ではインフラ投資が一巡し、国内には当面優良案件が期待的図、このままだと中国経済は先細りになることが予想されたため、今度は海外を標的にして投資をしようというものとしか受け取れませんでしたが、特にユーラシアには、採算性がとれるような案件はありませんでした。

そもそも巨大な海外投資の経験がない中国にこのような大事業ができるのかどうか疑問でした。そもそも、海外投資において成功するには、自国より経済成長をしている国や地域に投資するのが基本中の基本です。

そのような案件は、滅多におめにかかれるものではないし、私は当初からこれは失敗すると踏んでいました。

ところが一帯一路上にある途上諸国は、イタリアやギリシャに至るまでもろ手を挙げて大歓迎しました。かつての日本のような、「見境なく貸してくれる金持ちのアジア人」がまた現れたのです。ただ、かつての日本は採算性を重視した手堅い投資を行いました。見境なく見えたにしても、たとえ貧困国であっても経済成長率が著しいところに投資しました。

そうして中国のカネ、そしてヒトはアフリカ、中南米にまで入り込み、融資総額は13~18年の5年間で900億ドルを超えました。受益国の政治家・役人たちは、この資金で港湾施設やハイウエーを建設してもらって大威張りし、一部は自分のポケットにも入れたことでしょう。

ところが、中国の投資は案件の採算性や住民の利益を考えていないですから、返済は滞るし、受益国の政権が交代すると前政権の手掛けた中国との案件はひっくり返されたりしました。

それに、中国国内の状況も変わりました。4兆元の内需拡大策は諸方で不良債権を膨らませたため、債権回収が大きな関心事になったのです。

そういうわけで、「中央アジア経由で中国と欧州を結ぶ鉄道新線」「新疆からパキスタンを南下してインド洋と結ぶハイウエー」など、多くの構想は掛け声だけで進みません。ロシア経由の東西の鉄道での物流も、安価な海上輸送に歯が立ちません。

あれだけ騒がれたアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、19年末の融資残高はわずか22億ドルで日米主導のアジア開発銀行(ADB)の年間平均60億ドルの融資に及ひません。こうして「一帯一路」の呪文の威力は薄れてきました。

2月9日、習は中欧・東欧17カ国の首脳とテレビ会議を行ったのですが、バルト3国、ルーマニア、ブルガリアは首脳が欠席。閣僚で済ませたのです。国連などで中国が、外交において途上国の支持を取り付けるのも難しくなるでしょう。友人に金を貸せば、友情は失われるのです。

中東欧といえば、このブログでも中国の影響力が薄れつつあることを掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくもとして以下に一部を引用します。 

米ソ冷戦終結後の民主主義指数(Index of Democracy)と一人当たりGDPの伸びの関係を見ると(下図)、旧東側陣営で一人当たりGDPの伸びが最も高かったのは、共産党による一党独裁の政治体制の下で1986年に「ドイモイ(刷新)路線」を宣言し、市場経済を導入したベトナムでした。

ソ連崩壊とほぼ同時に共産党政権が崩壊し民主化を進めた中東欧諸国の一人当たりGDPを見ると、水準という観点では民主化が後退したロシアやCIS諸国を上回っている国が多いものの、伸び率という観点では大きな差異が見られません。

そして、CISを中途脱退し民主化を進めたウクライナ(2004年にオレンジ革命、2018年にCIS脱退)やジョージア(2003年にバラ革命、2009年にCIS脱退)の伸びは低迷しています。

ただ、一般にいえるのは、民主化が進んでいる国のほうが、一人当たりGDPが高いというのは事実です。これは高橋洋一氏がグラフにまとめており、これは当ブログにも掲載したことがあります。下に再掲します。
一人あたりGDP 1万ドル超と民主主義指数の相関係数は0.71 。これは社会現象の統計としてはかななり相関関係が強い
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。 

バルト三国よりも、一人当たりGDPでは、中国のほうが低いのです。ルーマニアは一人あたりGDPでは1万ドル台と、中国と大差はありません。ブルガリアですら、中国よりは低いですが、それでも9千ドル台であり、中国と大差はありません。

そこに国際投資のノウハウがない中国が投資したからといって、バルト三国や、ルーマニア、ブルガリアが 栄えて国民一人ひとりが豊かになるということは考えられません。

スリランカのような貧困国の港をとったにしても、軍事的にはある程度意味があるかもしれませんが、経済的には無意味です。目立った産業もないスリランカの港を得たとしても、そこでどれほどの交易が行われるかといえば、微々たるものでしょう。わざわざ、スリランカに荷物をおろしたり、スリランカから大量に物品を運ぶ船もないでしょう。やはり近くのシンガポールを使うでしょう。

ところが、これで中国の外交そのものが退潮するわけではないでしょう。米国への当て馬としての「中国」への需要はなくならないからです。

バイデン米政権も、政治・軍事・先端技術面での中国への圧力は強めていますが、通常の貿易は妨げていません。今年1~2月も中国の対米輸出は対前年同期で伸び続け、貿易黒字も1月だけで390億ドルになっています。中国は対米黒字を元手に、また小切手外交を強化できます。

しかし、それでも一帯一路が、習近平が思い描いた元の姿で復活することはないでしょう。

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