2022年6月6日月曜日

財務省の「猿芝居」に騙されてはいけない 「骨太の方針」を巡って「財政再建派」がやっていること―【私の論評】「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりつつある(゚д゚)!

財務省の「猿芝居」に騙されてはいけない 「骨太の方針」を巡って「財政再建派」がやっていること
財務省の別働隊

 5月23日付の本コラム「財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか? 逮捕劇までに財務省で起こっていたこと」で、6月7日に閣議決定される予定の政府の「骨太の方針」を巡る自民党積極財政派と自民党財政再建派(これは事実上財務省の別働隊)との争いが背景になっていることを書いた。

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 逮捕された財務省高官は、世間から見ればとんだお門違いをしていた可能性があるが、財務省はまだ懲りないらしい。


 先日の本コラムで紹介した自民党の若手の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表:中村裕之農林水産副大臣)は、財務省の言い分もきちんと勉強して、しっかりした反論を行っている。自民党であっても、若手は財務省に騙されていない。

(1) 国債はすべて将来の税金で返済されなければいけない
(2) 日本国債残高が大きく将来世代にツケを残す
(3) 日本は財政破綻する

 といった財務省のプロパガンダに対しては、的確に反論できる。本コラムの読者であれば、以下の反論は簡単なものだろう。

(1) 安倍元首相も言うように、半分以上の日銀保有国債では税金償還の必要はない
(2) 債務のツケでなく立派な資産を残せばいい
(3) バランスシートから見れば日本の財政破綻の確率は5年間で1%程度


 自民党内でもベテラン議員ほど財務省に丸め込まれが、積極財政議連など若手では自分の頭で考え財務省の説明に疑問を持つ人が多くなっている。

 筆者は、財務省の説明に30年前から疑問をもち、政府のバランスシートを作って周囲の政治家に説明してきたが、ここ数年、理解者が急増しているのを感じる。

「PB黒字化」を消えたように見せかけて

 さて、骨太の方針はどうなっているのか。5月31日、骨太の方針の「原案」が出た。

 前回の「骨太の方針」で明記していた財政健全化の「堅持」や、「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」といった文言が消えている。

 これを、財政再建への姿勢が弱まったように報道するマスコミもあった。

 しかし、これは財務省の「猿芝居」だった。たしかに「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」の文言は消えているが、その他の箇所で「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と書かれている。「骨太2021」ではしっかりと「PB黒字化」が書かれている以上、何も変わりはないのだ。


 かつてであれば、これで自民党もマスコミも騙されて終わる。今回、マスコミは相変わらず節穴だったが、自民党は違った。財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)や責任ある積極財政を推進する議員連盟は、何も変更がないのをめざとく見つけている。

 もっとも、財務省も「猿芝居」がバレたところで、必死に抵抗するだろう。というのは、親族に財務官僚が大勢いる岸田氏が総理だからだ。6月7日の閣議決定はどうなるのだろうか。

 菅政権のときには、だんまりを決め込んでいた矢野康治財務次官が、岸田政権になった途端に月刊『文藝春秋』で持論を展開したことを記憶している読者も多いだろう。昨年10月11日付の本コラム「財務事務次官「異例の論考」に思わず失笑…もはや隠蔽工作レベルの「財政再建論」」で書いたが、あれほどの無知をさらけ出したのに、岸田総理は不問に付している。

弛みきった財務省

 今の世界情勢では、安全保障に手を抜けない。財政再建路線を堅持した来年度予算案では、世界に太刀打ちできない。

 1月17日付の本コラムで述べたように、今の財務省のいうPBは基本的に間違っている。一部の政府部門だけでPBを算出しており、すべての政府部門のPBを計算しないと、本当の財政の姿はわからない。

 だが筆者のような包括的なPBによれば、既に問題のない「財政再建終了」の状態になっている。財務省のような間違った財政の見方で財政運営したら、国を滅ぼしてしまうだろう。

 はっきり言って、最近の財務省は弛みきっている。先日の財務省高官の逮捕、国税庁職員による補助金詐取など、考えられない事態が次々に起きている。

 財務省改革には、主計局の分離などいろいろなものがあるが、筆者がもっとも効果的と思うのは、国税庁を分離し、年金機構の徴収部門と合体させる「歳入庁」の新設だ。この考え方は、世界標準でもある。税と社会保険料は法的には同じであり、一緒に徴収するのが世界では当たり前だ。国税庁の財務省からの支配を取り除き、税の徴収のプロとしての人材有効活用にもなる。

 この案は、かつて民主党政権で公約にもなっていた。ところが、財務省の巻き返しにより消えていった。これをどの党が実行できるかどうか、日本の今後を占うものといってもいいだろう。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりつつある(゚д゚)!

3日の自民党政務調査会の会合では、2023年度予算案をどうするのかということが話題になりました。現在、骨太の方針という、予算案の最初にやらなければならない議論をスタートさせているのですが、「積極財政派」と「財政再建派」の間で怒声があがるほど大バトルになりました。

財政慎重派の方は、やはり財務省の意向に忖度して、緊縮財政の方向に持って行こうとしています。それに対して、積極財政派の本部を率いている西田政調会長代理が激怒して、「これでは政調会を開いている意味がないではないか」と言ったのです。

西田政調会長代理

 財務省は、2023年度予算について上限をはめようとして躍起になっています。当初予算で非社会保障費、年金、介護、医療を除いた分に関しては、年間3百数十億円しかプラスにならないのです。財務省にこのようなキャップをはめられてしまうと。

防衛予算のGDP比2%などは夢のまた夢となります。安倍元総理は、防衛費増額のための5兆円の財源は、政府日銀連合軍で調達できるとしていましたが、2%どころか、0.01%とかそのようなことになってしまいかねません。

そうしてこような上限に関する質問が3日の政調会で出たのです。それに対して、内閣府を代表して出た委員がそれを認めてしまったのです。それで自民党政務会が紛糾したのですです。

西田政調会長代理はこの会議の席で「私は(党内)政局にしたくないから、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。それに対する答えがこれか。裏切られた」という趣旨のことを語ったとされています。

骨太の方針が、その先の予算編成に影響し、本予算が決まっていくから、方針案(財務省)の内容が島嶼の想定ともかなり違うというのです。方針案に関しては、積極財政派の安倍氏と、規律派と言われる麻生さんの間でかなり詰めたされますが、火種はまだ残っているのです。

 安倍、麻生氏で落としどころをつくったにも関わらず、それに焦った財務省が霞が関文学を用いて、毒を忍び込ませたのです。それにみんなが気付いてしまったのです。

骨太の文言としては、経済あっての財政だというような書き方をして、プライマリーバランスの黒字化に関しても25年という年限にこだわらないというような、2025年度プライマリーバランス黒字化の文言は落ちたので安心したら、他のところでごまかしの文言が入ってきたのです。

それが、上の髙橋洋一氏も指摘していた「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と言う文言なのです。「骨太2021」ではしっかりと「PB黒字化」が書かれている以上、何も変わりはないのです。

さらに内容をよく分析してみたら、過去と同様に「3年間で1000億円」というキャップをはめるのだということでした。積極財政派の議員が「これは本当か」と質問したところ、内閣府サイドは、それを認めてしまったのです。 内閣府のなかの陣容を見ても、決して財政規律派一辺倒というわけではありません。 

なかには本当に財政出動をやりたいし、やるべきだと思っているけれども、立場上は言えないという人もいると考えらます。 その辺りの思惑が働いたでしょうし、それで3日に決着がつかず、きょう(6日)へ持ち越しになりました。

ただ、防衛費に関しては、バイデン大統領との間で日米首脳会談を行い、そこで出た話です。実施しないとさすがにまずいです。ある意味では国際公約ですから、政治の意志なのです。それを政治的に責任を負わない財務官僚が、勝手に書き換えて良いはずがありません。完璧に役人の矩(のり)をこえています。

そうして、財務省は防衛費を増やすけれども、その代わりに「ここを減らす」、「ここを増税する」などというところで担保しようしていると考えられます。財務省が「増税した分は防衛費のプラスアルファを認める」ということになると、国民生活にとってどうなのかということになります。 

ふりかえってみると消費増税も、当時の菅(直人)政権が言い出した国際公約だという話から始まっていました。財務省のやり方は、どんどん巧妙になっているように見えます。 

岸田総理は、その辺りに意識がないものですから、主計局長の説明で首を縦に振ってしまったらしいです。それを盾に財務省はいろいろなところへ話を持ち込んでいるようです。 財務省としては「総理のご意向ですから」ということになります。

しかも、先週の経済財政諮問会議でこの内容は総理の発言で出ていたそうです。なぜその辺りをきちんとメディアは報道しないのかという問題があります。 

しかも、そのうち議事録が出るでしょうし、議事要旨はもうある程度出ています。この先の5年~10年を決めるような話が、いまされているわけです。 そうなのです。このまま進んだら、それこそ自民党内から内閣不信任案を出しても良いのではという事象です。無論、100%出ないでしょうが。ただ、この出来事はそれくらいのことだと思います。

ことしの「骨太の方針」をめぐり自民党政務調査会の会合が本日開かれ、防衛費について、NATOの加盟国がGDPの2%以上を目標としていることを例示し、防衛力を5年以内に抜本的に強化するなどとした政府の案を大筋で了承しました。

政府案では、防衛費について、NATO=北大西洋条約機構の加盟国がGDP=国内総生産の2%以上を目標としていることを例示したうえで、防衛力を抜本的に強化する期限を「5年以内」と明記しています。

また、台湾をめぐる問題に関連して「ことし5月の日米首脳会談で両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と本文の注釈に加えられました。

このほか、来年度の予算編成をめぐって、前回の会合で、歳出改革の内容を盛り込んだ「骨太方針2021に基づき」という文言を削除すべきだという意見が出されましたが、この表現は維持する一方「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という一文が追加されました。

政府は、自民党内の手続きを経て、7日にも「骨太の方針」を閣議決定することにしています。

自民党政務調査会の木原稔副会長は記者団から「基礎的財政収支」の黒字化目標について見解を問われたのに対し「岸田総理大臣も『財政健全化の旗は降ろさない』と述べており、それに尽きる。経済あっての財政で、順番を間違えてはならないが、健全化の旗は立っていると認識している」と述べました。

自民党政務調査会会合

結局、財務省は岸田総理の発言なども利用しつつ、思い通りに財政政策を実施していくのでしょう。ただ、これは完璧に財務官僚の矩をこえています。「骨太の方針」については、閣議決定の後にその内容が公表されるでしょう。そのときにまた改めて、論評を加えたいと思います。

ただ、過去20年以上にわたって、髙橋洋一氏をはじめ様々な人達が、財務官僚のおかしさ、全く理にかなわない財務省理論の間違いを暴き続けきたので、最近は風向きが変わって来たと思います。

そもそも10年以上前なら、積極財政派は数が少く、自民党政務調査会の会合では積極財政派はガス抜き程度に意見を述べる機会が与えられるだけで終わっていたことでしょう。しかし、今は違います、会合で怒号が飛び交ったり、西田政調会長代理が「私は(党内)政局にしたくないから、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。それに対する答えがこれか。裏切られた」と発言するなど随分と変わってきています。それも、まともな積極財政派が増えてきたからでしょう。

上の記事で、「はっきり言って、最近の財務省は弛みきっている。先日の財務省高官の逮捕、国税庁職員による補助金詐取など、考えられない事態が次々に起きている」としていますが、その他にも事件が起こっています。

昨日は、車内で妻を殴り鼻の骨を折るけがを負わせたとして、警視庁小金井署は傷害の疑いで東京都小金井市の東京国税局税務相談官、武藤静城(しずき)容疑者(59)を逮捕した。どやら日常的に暴力をふるっていたようです。

矢野謙次財務次官

さらに、4月27の文春電子版には『矢野財務次官「娘の夫DV」で異例捜査』という記事が掲載されています。週刊誌の記事なので、真偽の程はわかりませんが、それにしても時代の流れを感じます。

従来だと、マスコミも国税局を有する財務省に対しては、余程はっきりとした「犯罪」の証拠でも無い限り、このような記事はなかなか掲載しなかったものです。それは、やはり財務省は国税局を使い脱税の嫌疑をかける得る恐ろしい役所という認識があったからでしょう。

そのような危険は今でもないとはいえませんが、今では財務省の権威も落ち、週刊誌もそこを突いた記事を掲載すれば、世間の耳目を捉えることができると考えるようになってきたのでしょう。

そもそも、財務省の財政破綻論にはかなり無理があります。そもそも、デフレとは正常な経済循環からは逸脱した状況であり、異常な状況であるという認識が彼らにはありません。議員をはじめ大勢の人がそのことに気づきつつあります。例外は、情報源がテレビのワイドショーである高齢の「ワイドショー民」くらいになってきました。

理論武装をした積極財政派が増えてきた現在、絶対的に自分が正しいと信じていると思います。それをこのような形で役人が平気で矩をこえ、理解不能な理論で、とにかく増税、とにかく緊縮をしようとし、実際にそのようにしていくわけですが、積極財政派の遺恨は、嫌がおうでも高まります。いずれ大爆発して、財務官僚は多くの人の憤怒のマグマに焼き尽くされると思います。

ただ、積極財政派という言葉も本来異様なのです。なぜなら、経済対策とはその時々の実体経済に即して行われるべきものであり、緊縮か積極かなどと派閥の対立によって議論されるべき筋のものではないからです。しかし、財務省がいかなる場合でも、緊縮財政をしようとするから、このような言葉が生まれてしまったのでしょう。

多くの人は、財務官僚など尊敬していないでしょう。テレビで数年前までは、「財務官僚をリスベクトする」と語っていた弁護士の八代英輝氏は現在はそのようなことは一切いわなくなりました。もう、そのような空気ではないのでしょう。

高橋洋一氏は財務省に警戒していますし、私も警戒を緩めるべきときではないとは思いますが、それにしても、「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりかけているような気がしてなりません。

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