2022年6月30日木曜日

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で―【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で


 先日、参院選を控えて、各党党首による政治討論が放映された(フジテレビ)。その中で、原子力潜水艦の保有の是非について、議論があり、筆者がかねて主張しているところから、興味深く視聴した。短い時間制限の中、深い掘り下げた議論には至らなかったが、結論は、維新・国民・NHKの3党が導入・装備に賛成し、自民・公明・立民・共産・社民・れいわの6党が反対した。若干の所見を披露したい。

誤解招く「1隻1兆円」

 岸田文雄首相(自民党総裁)の発言の要旨は、「防衛力強化は行わねばならぬが、いきなり原潜はどうかと思う」「我が国は原子力基本法による平和利用の方針がある」「運用コストが高い」「(中国を念頭に)対応はしっかり整備されている」といったところであるが、現状肯定を金科玉条とする体制側の悪い側面が出た主張で、将来を見越した英明さに欠ける。原子力基本法は、何と70年前の法律である。

 中国は原潜体制を着実に拡大し、その拠点を南太平洋、インド洋に設けようとしている。隣国韓国・北朝鮮も原潜装備を計画中である。QUAD(クアッド)態勢を重視する我が国であるが、インドは原潜(アクラ級2隻)を保有し、今年、豪州も米国からの原潜導入に踏み切った(バージニア級8隻)。このような情勢をどう判断しているのだろうか。新しい技術、国際政治情勢にも拘(かか)わらず、憲法と同様、過去の柵(しがらみ)から脱皮できないようでは、あまりにも情けないと言わざるを得ない。

 経費について、野党党首から「1隻1兆円」の発言があり、調べたところ、調達費・30年間のライフサイクルコストを合計すると1兆円という数値がインターネットで、読み取れる。30年間であるので年割330億円であり、如何(いか)に論戦とはいえ一般国民に誤解を与える数値を政治家たるもの、大いに慎んでほしいものである。因(ちな)みに豪州がフランスと進めていた先進通常潜水艦を米原潜に変更した陰には、性能・価格の高騰問題があるとされており、浅薄な懐勘定はすべきではない。

 ここで、原潜と通常型潜水艦の差異について述べたい。通常型潜水艦は、動力源はディーゼルエンジンであり、これにより搭載電池を充電する。潜航中は電池により、運航・機動・作戦行動に必要な動力すべてを賄う。従って潜航中は、必然的に電池容量を睨(にら)みながらの行動となり、高速での運航は、極端に制限される。ある程度の潜水行動後は、シュノーケル潜度まで浮上し、エンジンによる電池充電が必要である。電池性能は大きく進歩し、最近の潜水艦はリチウム電池の採用(海自たいげい型)に見られる如(ごと)く、かなりの期間、潜水運航が可能である。

海上自衛隊の「はくりゅう」(Wikipediaより)

 他方、原潜は、搭載する原子炉で全ての動力を時間に制限なく自給できることから、大型化(多機能化)、高速、深深度、長期間無寄港運航が可能であり、通常型とは性能のレベルが異なる存在である。先述のテレビ放送で、通常型が比肩できる性能を有し、瞬発力で原潜が勝る程度の解説字幕表示があったが、真に恥ずかしい真偽を問われる内容であると考えている。

 岸田首相の「対応力は整備されている」発言も問題である。現状での潜水艦警戒監視システム、日米共同の情報共有網、探知に有利な我が地勢等の総合力を踏まえての発言であろうが、軽率な発言である。静粛化技術の進歩、欺瞞(ぎまん)装置、無音状態で曳航(えいこう)、大洋適地で自力運航を開始する方法等、平時は「奥の手は見せない」のが、この世界での常識である。甘く見てはならない。

 全般に見て、与党の主張は、現在進めている通常型潜水艦体制の充実・発展に向けた態度が顕著であり、原潜はその次といった方針が見え見えである。新型電池搭載の「たいげい」以下の整備を進めることは大いに結構で反対するものではない。特異な列島地形、緊要な水峡を多数抱える我が国は、他国に無い通常潜の所要があることは十分理解する。

政治家に高い見識期待

 しかし周辺国の情勢は、間違いなく早晩、原潜体制に移行する。こと原潜整備に限れば、我が国の取り組みが最も遅れている現状にあることを承知し、原潜・通常潜の二刀流に取り組むべき時期に来ているのである。原潜保有をテレビ局が取り上げること自体、時代の変化を感じ、結構なことと感じているが、将来を見越した長期的観点と政治家の一層の高い見識を期待する。

(すぎやま・しげる)

【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

上の記事で補足させていただくとすれば、まずは日本の通常型潜水艦は、ステル性(静寂性)に優れていることだと思います。特に最新鋭艦の場合は、無音に近いです。潜水艦の性能の細部などについては各国ともあまり表に出さないので、実際はどうなのかはわかりませんが、おそらく日本の最新鋭の通常型潜水艦のステルス性は世界一だろうとされています。

そうなると、日米海軍と比較すると、格段に劣る中露の対潜哨戒能力ではこれを発見するのはかなり難しいです。

一方、原潜については、補足することはほとんどありませんが、大型化(多機能化)ということでは、米軍の攻撃型原潜の例をださせていただくと理解しやすいと思います。

日本の通常型潜水艦も最近は大型化しています。最新艦の「はくげい」の基準排水量は、3,000トンであり、乗組員数は70名です。

一方米国の攻撃型原潜(核を搭載してない戦略型原潜ではない原潜)のオハイオ級の基準排水量は16,764 トンです。排水量だけて5倍です。乗員は155名です。日本の最新鋭イージス艦「はぐろ」の基準排水量が 8,200 トンですから、オハイオ級は2倍近いです。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とする。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。 

海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

 オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

この他にも、魚雷、対空ミサイル、対艦ミサイルを備えているわけですから、これは艦艇というよりは、水中の武器庫、水中のミサイル基地と言っても良いくらいです。

かつてトランプ氏が大統領だったときに、米国の攻撃型原潜のことを「水中の空母と評しましたが」このことを言いたかったのでしょう。

フランスの空母シャルル・ド・ゴールと並走する英国のコリンズ級原潜

こうした攻撃型原潜ですが、欠点もあります。それは、原子力潜水艦の構造上どうしてもある一体程度の騒音が出て、日本の通常型潜水艦のように無音にすることはできないのです。ただ、日本の技術をもってすれば、かなり静寂性に優れた潜水艦を建造できるだろうとはいわれいるようですが、それでも無音に近くすることは不可能とされています。

ただ、米国の巨大な攻撃型原潜にはこれを補ってあまりあるほどの利点があります。それは、やはり群を抜いた攻撃力と無限ともいえる航続距離を有していることでしょう。

それに、騒音という欠点は、日米であれば、対潜哨戒能力が高いので、十分補うことができます。そのせいもあって、日米は対潜水艦戦争(ASW:Anti Submarine Warefare)では両国とも世界のトップクラスといわれ、中露をはるかに凌駕しています。

こうしてみていくと、日本のステルス性の高い潜水艦は、あくまで艦艇であり、米国の大型攻撃型原潜のように水中のミサイル基地というわけではありませんが、ステルス性を生かして、敵に脅威を与えたり、情報収集活動には向いていることがわかります。

両者は同じ潜水艦というよりは、別ものと捉えたほうが良いです。日本が、専守防衛だけすると割り切るのであれば、現在の通常型潜水艦でも十分だと思います。ただ、専守防衛とはウクライナの事例でもわかるとおり、ロシア領内からミサイルを打ち込まれれば、国土が破壊され放題になります。

これに対抗するため敵基地攻撃能力も持とうとすれば、米国の大型攻撃型潜水艦のようなもののほうが、有効です。

それに、日本が専守防衛だけではなく、日本のシーレーンの防衛や、インド太平洋地域の安全保障にも関わるつもりであれば、攻撃型原潜は必須です。

両方を持ってれば、これらを有効に使うこともできます。まずは、ステルス性の高い通常型潜水艦で、情報収集活動をしたり、攻撃型原潜を脅かす艦艇・航空機・潜水艦などを攻撃して、これを守り、攻撃型原潜は、通常型潜水艦の情報に基づき、効果的な攻撃をすることができます。

敵基地攻撃は無論のこと、敵レーダー基地や、監視衛星の地上施設などを破壊することができます。

ちなみに、米軍は数十年前から通常型潜水艦の建造をやめ原潜の建造に集中したため、現在その建造能力は失われています。

一方日本は、原潜を建造したことはないものの、原子力産業が存在し、潜水艦建造能力もあることから、原潜の建造はやる気になれぱできます。

日本が、米国並の攻撃型原潜と、ステルス性に優れた潜水艦の両方をある程度以上持って運用することができるようになれば、海戦能力としては世界一になるかもしれません。

なぜなら、日本の最新鋭の通常型潜水艦は、米海軍てもこれを発見するのは難しいからです。そのステルス性に優れた、潜水艦と、攻撃型原潜が協同できるようにし、さらに世界トップクラスの対潜哨戒能力が加われば、これは海軍としてはも向かうところ敵なしということになります。

そうなれば、米国と並び世界トップクラスの海軍になるでしょう。

それは、中露が最も恐れているところだと思います。


横須賀に停泊中の米海軍の攻撃型原潜「イリノイ」を視察する元IEA(国際エネルギー機関)事務局長田中氏

元IEAの事務局長だった田中伸男氏は、以下のように主張しています。
日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れるが、毎日浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題がある。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄された。

敵国領内での基地攻撃の可否が議論されているが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御だ。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきであろう。

まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要だ。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきだが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると考える。

私もこの意見には賛成です。米国からまず1隻を購入するなり、リースするなりすれば、良いと思います。潜水艦建造能力や原子力産業がある日本が、まず一隻を購入するなりリースするなりした上で原潜建造に取り組めば、オーストラリアより先に原潜を建造できるようになる可能性もあります。

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