2022年6月22日水曜日

「原潜保有」提起 国民・玉木代表、中露北の脅威にディーゼル型潜水艦では不十分 「相当なコストが…必要か疑問」世良氏が指摘―【私の論評】日本の最新鋭潜水艦と原潜は別物、用途で使い分けるべき(゚д゚)!

「原潜保有」提起 国民・玉木代表、中露北の脅威にディーゼル型潜水艦では不十分 「相当なコストが…必要か疑問」世良氏が指摘

国民・玉木代表

 日本周辺で、中国やロシア、北朝鮮の軍事活動が活発化して安全保障上の脅威が高まるなか、国民民主党の玉木雄一郎代表が「原子力潜水艦保有の検討」を提起した。日本を標的とする潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載の原潜に対応するには、自衛隊のディーゼル型潜水艦では不十分だと主張している。日本が原潜を保有する実現性はあるのか。

 「原子力潜水艦を保有するなど、適度な抑止力を働かせていくことを具体的に検討すべきだ」「(日本が)攻撃を受ける可能性があるのは、発射地点が分からないSLBMだ」

 玉木氏は14日、国会内で取材に応じ、こう指摘した。原潜保有は安全保障リスクに対処するうえで有効だという。

 日本の抑止力強化では、米国の核兵器を共同運用する「核共有」も議論されるが、玉木氏は「抑止力を強めることに貢献しない」と否定した。ロシアのウクライナ侵攻でドローン攻撃が多用されている現状を挙げ、長射程ミサイルに限定せず、抑止力と反撃力を強化する手段を議論すべきだと主張した。

 原潜保有については、昨年9月の自民党総裁選でも4候補が激論を交わした。

 高市早苗政調会長は「国際環境や最悪のリスクなどを考えると、長距離に対応はできるものはあっていい」と前向きな見解を示し、河野太郎広報本部長も「日本が持つのは非常に大事」と、コストなども含めて検討を進めるべきと強調した。

 一方、岸田文雄首相は「原子力技術は大事だが、日本の安全保障の体制を考えた場合、どこまで必要なのか」と疑問を呈し、野田聖子こども政策担当相も「非核三原則を堅持する国だということを明確にしたい」と述べていた。

 日本の原潜保有を、識者をどう分析するか。

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「日本の防衛戦略から考えれば、必ずしも原潜保有が必要かは疑問だ。原潜は高速で長距離を長期間、潜水航行できる。一方、日本の通常動力潜水艦は静粛性で勝る。日本は有事では海峡などで静かに敵潜水艦を待ち受けて迎撃する戦略で、長距離航行の能力はさほど必要ない。原潜保有には相当なコストもかかる。原潜に対抗するには原潜という発想は疑問がある」と指摘した。

【私の論評】日本の最新鋭潜水艦と原潜は別物、用途で使い分けるべき(゚д゚)!

日本の通常型潜水艦の強みはなんといっても静寂性(ステルス性)です。この静寂性は世界一であり、ほとんど無音と言っても良いくらいです。この静寂性という強みがあるため、上の記事では世良光弘氏が、日本の原潜保有に疑問を呈しているのだと思います。

進水式直前の「はくげい」

防衛省は2021年10月14日(木)、川崎重工神戸工場(神戸市中央区)において、新規建造された潜水艦の命名式および進水式を実施しました。「はくげい」と命名されたこの艦は、たいげい型潜水艦の2番艦にあたります。

「はくげい」は全長84.0m、幅9.1m、深さ10.4m、基準排水量3000t、乗員は約70名、主機関はディーゼル電気推進で、軸出力は6000馬力です。起工は2019年1月25日で、今後、艤装や各種試験を実施したのち、2023年3月に引き渡しの予定です。

たいげい型潜水艦は、ディーゼル推進の通常動力型潜水艦としては世界最大級であり、なおかつ建造時から女性自衛官の勤務を想定して相応の設備を有しているのが特徴です。

防衛省・海上自衛隊の説明によると、従来のそうりゅう型潜水艦と比べて探知能力が大幅に向上しているほか、静粛性も増しているとのこと。外観形状はそうりゅう型とほぼ変わらないものの、主機関にはディーゼルエンジンとリチウムイオン電池を組み合わせたディーゼル電気推進が採用されています。

なお、「はくげい」は漢字では「白鯨」と書き、白いマッコウクジラを意味するとのこと。この名称を海上自衛隊で用いるのは初めてです。

米アナリストや元哨戒機乗員によると、かつて最高の静粛性を誇った米原潜が、今は一番雑音がうるさい」そうです。2月12日、オホーツク海においてロシア海軍艦艇が、アメリカ海軍最新型バージニア級原潜を探知し、米海軍当局もそれを認めたことからも、この発言は裏付けらています。

深海を航行する潜水艦を探知するには、潜水艦が発する雑音を探知するしかないです。

最近オホーツク海に配備されたロシア海軍原潜の、弾道ミサイル搭載ボレイ級、巡航ミサイル搭載ヤ―セン級原潜は、アメリカ原潜ロサンゼルス級よりも静粛だと言われています。

ロシアはかなりの予算をかけることで潜水艦の高度な研究が可能になり、原子炉、蒸気タービン、モーター、プロペラに接続する動力伝達などの静粛性を高めました。

中国原潜も多額の予算と米国でのスパイ戦の成果などで、凄まじい速度で進化し静粛性が高まっているとされてます。

潜水艦を推進させるスクリューや船体の建造には、多くのデジタル技術が使用されます。

そこまで静かになった中露潜水艦を発見するには、海自の最新鋭潜水艦「たいげい」型レベルのソナーが必要になります。

海中の潜水艦が発する音には、原子炉、蒸気エンジン、スクリューなどの作動音があり、それが海中を伝播します。「たいげい」型の最新ソナー「ZQQ-8」高性能ソナーシステムは、艦首アレイのコンフォーマル化でこれまでの球形ソナー以上に正確性が向上します。

さらに、その他に2カ所ある側面アレイの開口拡大により、艦側面の探知能力が向上、曳航アレイの指向性も向上しています。この計4か所の異なるソナーの探知情報を自動統合化することで、探知能力は凄まじく強力になっています。

なので、「たいげい」は新型ソナーの性能を試すために、実際に中露の新鋭潜水艦を待ち伏せしプロペラ音などを収音する活動を行うでしょう。

また、潜水艦の装備としてまず潜望鏡を思い浮かべる人も多いでしょう。潜水艦がソナーで水上航行中の敵艦を発見すると、そこから潜望鏡の出番となります。

ソナーで敵艦を発見した場合、その艦艇は本当に敵なのか、艦番号や艦影を目視して確認しないと攻撃に移れません。その時に潜望鏡を海面に出して敵艦を目視します。しかし、その潜望鏡が敵水上艦から発見される可能性があるので、出来る限り短時間で目視確認をしないといけません。

そうなると、潜望鏡の光学レンズで敵艦を見ている艦長の目だけが頼りとなってしまいます。

そのため、「おやしお型」までは潜望鏡にフィルムカメラ装着して撮影し、艦内で現像して写真に焼いて確認をしていましたが、それでは時間がかかり過ぎです。今はビデオカメラで撮影可能になり、デジタル画像ですぐに確認できるようになりました。

「たいげい」の新しい潜望鏡は外観から見た感じでは、カラー、高感度モノクロ、赤外線の撮像、レーザー測距、ESM装置が備わっているようです。

さらに、「たいげい」型にはリチウムイオン電池が搭載されています。防衛省は「たいげい」型を『リチウムイオン電池を新たに搭載することにより、従来型潜水艦に比べ水中の持続力や速力性能などを大幅に向上した潜水艦』と発表してます。リチウムイオン電池は鉛蓄電池と比べ蓄える電気容量が数倍多く、充電時間が短いからです。

従来の潜水艦は頻繁に浮上してディーゼル機関を回し充電していた。浮上航行中の潜水艦は一番脆弱です。その点、リチウムイオン電池なら数日から数週間は潜水可能といわれ、さらに充電時間が短く、浮上航行充電時間が短くてすみます。

ロシア海軍のヤーセン型原子力潜水艦

中露の原子力潜水艦は、原子力潜水艦の構造上どうしてもある程度は騒音が出るため、日米はこれを発見しやすいです。一方日本の「たいげい」のような最新鋭潜水艦の場合は、ほとんど無音に近いです。これを発見するのは相当難しいです。

この「静寂性」を活用して、日本の潜水艦は中露に発見されることなく、偵察や情報収集活動ができます。また、海戦になった場合は、日本の潜水艦は敵に発見されることなく、多くの官邸を撃沈できるでしょう。

ただ、日本の潜水艦にも欠点はあります。それは、原潜は理論上は無限に航行できますし、駆動力も大きく、水中の武器庫といわれるくらい、多数の多様な兵器を搭載できます。通常型潜水艦の場合は、そうはいきません。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とします。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。

米海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

         トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子。
         オハイオ級巡航ミサイル潜水艦はトマホーク154基を搭載できる

トマホーク1基では、爆発力の高い弾頭を最大1000ポンド(約450キロ)搭載可能です。SSGNなら多くの火力を迅速に運搬できます。154基のトマホークは甚大な打撃を正確に与えることができる。いかなる米国の敵もその脅威を無視できません。

日本の最新鋭潜水艦は、ステル性に優れているため、日本近海に潜み敵が日本を攻撃しようと企てた場合、その状況を偵察したり、あるいは艦艇を攻撃することができます。いわゆる専守防衛にはうってつけです。そもそも、日本近海には日本の潜水艦が無音で潜んでいるので、日本を攻撃しようとした場合これらに阻まれることになります。

一方、日本の潜水艦は武装には限りがあり、米国の攻撃型原潜のように水中の武器庫と呼ばるほどの大きな攻撃力はないですし、原潜ほど長時間の単独航行もできません。

日本の潜水艦は海洋上の重要水路、さらには中国や北朝鮮の海軍基地や港の外側に長期間にわたって居続けることができます。また、関心を寄せている他の場所でも何週間も海上交通を監視することができます。議論の中心となるべきは、海自がより広範囲の地域をカバーするためにさらに多くの攻撃型原潜を持つべきかどうかでしょう。

日本の潜水艦と攻撃型原潜などの原潜は別物と考えたほうが良いでしょう。それぞれの利点をいかしつつ、日本の防衛にあたらせるというのがベストでしょう。

日本が原潜を持つとすれば、当面は核を搭載した戦略型の潜水艦ではなく、戦術型の攻撃型原潜になるでしょう。

攻撃型原潜に米国と同様にトマホークなどを多数搭載できれば、戦略型原潜に近いことができます。いわゆる敵基地攻撃ができますし、たとえば、日本が核で攻撃されて、壊滅状態になったとしても、攻撃型原潜は水中に潜み、敵に攻撃を加えることができます。

日本が専守防衛だけではなくインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合は、攻撃型原潜が必要になります。

日本にはすでに優れた通常型の22隻の潜水艦があります。これらによっても、専守防衛的な防衛などは十分にできます。海戦においては、中露に十分対応できます。中露を艦艇や潜水艦の日本の海域への侵入を防ぐことができます。

日本は、これらの国々の侵攻を阻止し、日本国の独立を維持することができます。ただし、専守防防衛だけでは、ウクライナのようになってしまいます。

日本の国土に多数のミサイルを打ち込まれれば、国土は破壊され、多くの国民の人命、財産が失われます。それを防ぐためにも、攻撃型原潜も必要になる場合もあり得ます。

日本が攻撃型原潜を持つかどうかの判断は、日本の潜水艦と原潜は別物であるという観点は外せないです。

日本が攻撃型原潜を持つか否かの議論は、専守防衛に傾いた日本の海軍力の是正つながる可能性もあると思います。

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